(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】光加熱方法、n型SiC半導体用の光加熱装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/26 20060101AFI20250210BHJP
【FI】
H01L21/26 J
H01L21/26 F
(21)【出願番号】P 2023155581
(22)【出願日】2023-09-21
【審査請求日】2023-10-03
【審判番号】
【審判請求日】2024-01-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 隆博
【合議体】
【審判長】河本 充雄
【審判官】綿引 隆
【審判官】大橋 達也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/049413(WO,A1)
【文献】特開2011-171548(JP,A)
【文献】特開2009-27001(JP,A)
【文献】特開平10-326754(JP,A)
【文献】特開2018-44915(JP,A)
【文献】特開2000-182980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n型SiC半導体
である被処理体に対し、赤外光ランプを備えた光源部から出射された色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有することを特徴とする、光加熱方法。
【請求項2】
前記加熱光は、色温度が2,400K~2,600Kの範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の光加熱方法。
【請求項3】
前記工程(a)の実行中に、2.5μm~14μmの範囲内に属する所定の波長域を感度波長域とする放射温度計が、前記被処理体から放射される光を受光することで、前記被処理体の温度を計測する工程(b)を有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光加熱方法。
【請求項4】
n型SiC半導体用の光加熱装置であって、
n型SiC半導体
である被処理体を収容するチャンバと、
前記チャンバ内で前記被処理体を支持する支持部材と、
色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光を発する赤外光ランプを有する光源部と、
前記光源部から出射された前記加熱光を通過させて前記被処理体に導く窓部材とを備えたことを特徴とする、n型SiC半導体用の光加熱装置。
【請求項5】
前記赤外光ランプがハロゲンランプであることを特徴とする、請求項4に記載のn型SiC半導体用の光加熱装置。
【請求項6】
前記赤外光ランプから発せられて、前記被処理体とは反対側に向かって進行する光を、前記被処理体側へと反射する反射部材とを備えることを特徴とする、請求項4又は5に記載のn型SiC半導体用の光加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光加熱方法に関し、特にn型SiC半導体を含む被処理体に対する光加熱方法に関する。また、本発明は、n型SiC半導体用の光加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造プロセスでは、半導体ウェハを初めとする被処理体に対して、成膜処理、酸化拡散処理、改質処理、又はアニール処理等の種々の熱処理が行われる。これらの熱処理の実行の際には、光が用いられることが多い。このように、光を用いて被処理体を加熱することを「光加熱」と称する。また、加熱に用いられる光を「加熱光」と称する。
【0003】
光加熱を利用した半導体加熱装置としては、例えば下記特許文献1の技術が知られている。特許文献1の装置では、810nm~980nmの波長の加熱光を発するLEDランプが光源として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】「フォトレジスト材料における高分子材料技術」 征矢野 晃雅 日本ゴム協会誌 第85巻 第2号(2012) p.33~p.39
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、従来のデバイスよりも高電圧、大電流に対応した、パワー半導体デバイスの開発が進められている。このため、従来のデバイスではSiが一般的に利用されていたが、最近のデバイスでは、小型で高耐圧特性を示すデバイスを実現するために、SiCの利用が検討されている。なお、SiCには、抵抗率が比較的低いn型SiCと、抵抗率が比較的高い半絶縁型SiC(「半絶縁性SiC」とも称される場合がある。)といった分類が存在しており、使用用途の幅広さから、特に、n型SiCが注目されている。
【0007】
なお、n型SiCとしては、窒素(N)がドーパントとしてドープされたSiC、半絶縁型SiCとしては、バナジウム(V)がドーパントとしてドープされた、又は意図的に格子欠陥が形成されたSiCが一般的に知られている。
【0008】
SiCは、従来のSiに比べてバンドギャップが大きく、高い絶縁破壊電界強度などを有し、低損失化、小型化、軽量化といった環境負荷軽減への期待がある。ところが、SiCは、上記特許文献1に記載されているようなLEDランプから発せられる光のほとんどを透過してしまい、効率よく加熱できないという課題があった。なお、上記特許文献1において、SiCウェハを加熱対象物とした場合の検討は特段なされていない。このため、上記特許文献1には、SiCウェハを加熱処理するために好適な光の波長範囲が存在すること等は、全く言及されていない。
【0009】
本発明は、上記の課題に鑑み、n型SiC半導体を含む被処理体を効率よく加熱することのできる光加熱方法を提供することを目的とする。また、本発明は、n型SiC半導体を含む被処理体の加熱に適した光加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る光加熱方法は、
n型SiC半導体を含む被処理体に対し、赤外光ランプを備えた光源部から出射された色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有することを特徴とする。
【0011】
上記光加熱方法において、
前記加熱光は、色温度が2,400K~2,600Kの範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明者は、SiCを含む被処理体の加熱方法について鋭意検討していたところ、以下のことを見い出した。SiCには結晶構造の違いで4H-SiC(バンドギャップ3.3eV)、6H-SiC(バンドギャップ3eV)、3C-SiC(バンドギャップ2.2eV)などがある。バンドギャップが3eVの6H-SiCの場合、波長420nm付近より長波長域において、徐々に光に対する透過率が高くなり、波長500nm以上より長波長域の光はほとんど透過してしまう。
【0013】
また、SiCは、上述したように、ドープされるドーパントに応じて、n型、半絶縁型といった分類が存在する。ドーパントがドープされるだけでもSiCの吸収率には変化が生じ得る。このため、SiCを光加熱処理することに適した光として認識されている波長範囲はない。
【0014】
本発明者は、以上のような背景から、実用化の期待が特に大きいn型SiCの波長ごとの吸収率を導き出し、n型SiCを光加熱するのに適した光の波長帯域を見出すことを検討した。ここで、本願の出願時において、n型SiCの吸収スペクトルを直接的に測定することが困難であったため、本発明者は、n型SiCの反射率Rと、透過率Sとを測定し、吸収率A(=1-R-S)を導き出す方法を採用して、n型SiCの波長ごとの吸収率を導き出した。
【0015】
具体的には、反射率Rは、n型SiCウェハ、出射する光の強度スペクトルが把握されている光源、及びn型SiCウェハから見て当該光源と同じ側に配置された分光光度計を用いて測定、及び導出される。そして、透過率Sは、n型SiCウェハ、出射する光の強度スペクトルが把握されている光源、及びn型SiCウェハから見て当該光源とは反対側に配置された分光光度計を用いて測定、及び導出される。
【0016】
図1は、n型SiCにおける波長と吸収率の関係を示すグラフである。
図1に示すグラフは、上述した方法で測定された、n型SiCの反射率特性データ、及び透過率特性データに基づいて算出したグラフである。
図1によれば、波長が800nmより長波長側の光に対しては、吸収率が45%以上を示しており、波長が600nm付近に存在する極大点を超えて吸収率が高くなることが分かる。つまり、被処理体が、n型SiCを含む場合においても、光源部から主たる発光波長が800nmより長波長側の光を照射して加熱することで、高い加熱効率が実現されることがわかる。
【0017】
図2は、電力を一定にした場合の色温度ごとの光の放射強度スペクトルを示すグラフである。
図2に示すグラフにおいて、縦軸は、色温度が2,600Kの場合のスペクトルのピーク強度に対する相対的な放射強度を示しており、横軸は、波長を示している。色温度T、波長λ、及び放射強度E(λ)の関係は、下記(1)式で表されるプランクの放射式によって導かれる。
【0018】
【数1】
(hはプランク定数、cは真空中の光速、kはボルツマン定数である。)
【0019】
図2に示すように、色温度が2,600K以下の光は、ピーク波長が1,100nm以上の波長帯域に存在する放射強度スペクトルとなる。このような放射強度スペクトルを示す光を加熱光として採用すれば、
図1を参照すればわかるように、n型SiCの比較的吸収率が高くなる波長帯の光に相当するため、n型SiCを効率的に加熱することができる。
【0020】
また、
図2に示すように、放射強度スペクトルは、色温度が小さくなるほど、強度ピークを示す波長が長波長側にシフトするとともに、光の放射強度(分光放射輝度)が低下する傾向がある。このため、色温度が2,200Kよりさらに低い光は、放射強度の急激な低下により、n型SiC基板を加熱するために必要なエネルギーを供給することが難しくなる。
【0021】
このため、
図1及び
図2に示すグラフ、及び上述した事情によれば、n型SiCを加熱するために採用される光の色温度は、2,200K~2,600Kであることが好ましく、2,400K~2,600Kであることがより好ましい。
【0022】
上記光加熱方法では、色温度が2,200K~2,600Kの範囲内である加熱光が利用されることで、被処理体がn型SiC半導体を含む場合であっても、加熱作用を奏することのできる程度に被処理体において加熱光が吸収され得る。これにより、被処理体を非接触で、かつ、効率的に加熱できる。
【0023】
上記光加熱方法は、
前記工程(a)の実行中に、2.5μm~14μmの範囲内に属する所定の波長域を感度波長域とする放射温度計が、前記被処理体から放射される光を受光することで、前記被処理体の温度を計測する工程(b)を有していても構わない。
【0024】
感度波長域が2.5μm~14μmであるような放射温度計によれば、加熱光において放射強度が比較的低い波長帯域の光を検知して、被処理体の温度を測定することができる。つまり、上記光加熱方法によれば、加熱光の影響を受けにくい放射温度計によって被処理体の温度を測定することができるため、精度よく加熱中の被処理体の温度をモニタリングすることができる。
【0025】
なお、放射温度計の感度波長域の上限は、被処理体に含まれるSiCの融点に応じて適宜設定されてもよい。ただし、このことは、前記融点より高い温度範囲が計測可能な放射温度計を用いて被処理体の温度を計測することを排除するものではない。
【0026】
本発明の光加熱装置は、
n型SiC半導体用の光加熱装置であって、
n型SiC半導体を含む被処理体を収容するチャンバと、
前記チャンバ内で前記被処理体を支持する支持部材と、
色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光を発する赤外光ランプを有する光源部と、
前記光源部から出射された前記加熱光を通過させて前記被処理体に導く窓部材とを備えたことを特徴とする。
【0027】
上記光加熱装置は、
前記赤外光ランプがハロゲンランプであっても構わない。
【0028】
上記光加熱装置によれば、パワー半導体デバイスに利用される、特に幅広い使用用途が期待されているn型SiC半導体の処理の際に、非接触でありながらも効率的に加熱を行うことができる。
【0029】
上記光加熱装置において、
前記赤外光ランプから発せられて、前記被処理体とは反対側に向かって進行する光を、前記被処理体側へと反射する反射部材とを備えていても構わない。
【0030】
上記構成の光加熱装置は、赤外光ランプから発せられて、被処理体とは反対側に向かって進行した加熱光を、被処理体の加熱に利用することができ、より効率的に被処理体を加熱することができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、n型SiC半導体を含む被処理体を効率よく加熱することのできる光加熱方法が実現される。また、本発明によれば、n型SiC半導体を含む被処理体の加熱に適した光加熱装置が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】n型SiCにおける波長と吸収率の関係を示すグラフである。
【
図2】色温度ごとの光の放射強度スペクトルを示すグラフである。
【
図3】光加熱装置の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
【
図4】半導体用フォトレジストに用いられる樹脂の光に対する吸光度特性の傾向を示すグラフである。
【
図5】光源部を-Z側から見たときの模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る光加熱方法は、n型SiC半導体を含む被処理体に対し、光源部から出射された色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有する。以下では、この光加熱方法に関し、同方法を実施する一形態である光加熱装置の図面を参照しながら説明する。
【0034】
なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。また、以下の説明において、被処理体は、窒素(N)がドーパントとしてドープされたn型4H-SiC半導体を含む被処理体を前提として説明されるが、上述したように、本発明が対象とする被処理体は、窒素(N)ドープのn型4H-SiC半導体を含む被処理体のみならず、半導体業界において一般的に「n型SiC」、又はn型SiCに分類されると認識され得る材料を含む被処理体が想定されている。このような考え方は、ドーパントの種類、結晶構造によって、光に対する吸収率が多少変化すると想定されるが、SiCを基礎として、同一カテゴリに分類される類似品として扱われる材料においては、極端なスペクトルの違いが現れるとは考えにくいということに基づいて推認される。
【0035】
図3は、光加熱装置1の一実施形態の構成を模式的に示す断面図である。
図3に示す光加熱装置1は、n型SiC半導体を含む被処理体W1が収容されるチャンバ10と、光源部2と、放射温度計14とを備える。光源部2は、複数の赤外光ランプ11と、反射部材12とを備える。
【0036】
以下の説明においては、
図3に示すように、被処理体W1の主面(W1a,W1b)と平行な面をX-Y平面とし、このX-Y平面の法線方向をZ方向とする、X-Y-Z座標系が適宜参照される。
図3に示すように、光源部2と被処理体W1とは、Z方向に対向している。
【0037】
なお、以下では、方向を表現する際に正負の向きを区別する場合には、「+Z方向」、「-Z方向」のように、正負の符号を付して記載され、正負の向きを区別せずに方向を表現する場合には、単に「Z方向」と記載される。
【0038】
光源部2は、色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光L1を発する。色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光L1の放射強度スペクトルについては、
図2において、いくつか例が図示されている。なお、
図2に示す放射強度スペクトルは、あくまで上記(1)に基づいて理論的に導き出された波形であって、実際の加熱光L1は、測定された色温度が上記範囲内であればよく、放射強度スペクトルが、
図2に示す放射強度スペクトルと同じである必要はない。
【0039】
光源部2が発する加熱光L1の色温度は、光源部2から放出される光が直接観測される位置に配置された色温度計(カラーメータ)を用いて計測される。
【0040】
図3に示すように、チャンバ10は、内側に支持部材13を備える。支持部材13は、被処理体W1の主面W1a及び主面W1bがX-Y平面上に配置されるように、被処理体W1を支持する。なお、
図3では、被処理体W1の主面W1bが、光源部2に対面するように配置される。すなわち、主面W1a又は主面W1bには、回路素子や配線等が形成されており、主面W1bは光源部2から出射される加熱光L1が照射される面である。ただし、本発明は、配線等が形成されていないベア状態の基板を被処理体W1とする場合、被処理体W1の主面W1aが、光源部2に対面するように配置される場合を排除するものではない。
【0041】
支持部材13による被処理体W1の支持態様は、その主面W1aがX-Y平面上に配置される限りにおいて任意である。例えば、支持部材13がピン状の突起を複数備え、その突起により被処理体W1を点で支持するものであっても構わない。
【0042】
図3に示すように、チャンバ10は、支持部材13で支持された状態の被処理体W1の主面W1aに対向する、第一窓10aと、主面W1bに対向する第二窓10bとを備える。
【0043】
第一窓10aは、放射温度計14が被処理体W1の主面W1aの温度を計測するために利用される窓である。放射温度計14は、測定対象物から放射される光を受光することで、当該測定対象物の表面温度を計測する温度計である。本実施形態において、放射温度計14の感度波長域は、2.5μm~14μmの範囲内に属する所定の波長域である。つまり、第一窓10aは、この放射温度計14の感度波長域に属する光を透過する部材で構成されている。一例として、第一窓10aは、一般的な石英ガラス、又はフッ化カルシウム等で構成される。
【0044】
第二窓10bは、光源部2から出射された加熱光L1を、被処理体W1の主面W1bに導くための窓部材である。上述したように、加熱光L1の色温度は、2,200K~2,600Kの範囲内である。第二窓10bは、この加熱光L1の少なくとも放射強度がピークに対して50%以上を示す波長帯域に対する透過率が50%以上である材料で構成される。一例として、第二窓10bは合成石英で構成される。ただし、第二窓10bの材料は、加熱光L1の色温度に応じて適宜選択されてもよい。
【0045】
図4は、上記非特許文献1において示されている、半導体用フォトレジストに用いられる樹脂の光に対する吸光度特性の傾向を示すグラフである。半導体用フォトレジスト用いられる樹脂としては、ノボラック樹脂(Novolac Resin)、メタクリル樹脂(Methtcryl Resin)、PHS樹脂(PHS Resin)等が用いられる。これらの樹脂は、
図2に示すように、波長が300nm以下の光に対して相対的に高い吸光度を示す特徴があり、特に、ノボラック樹脂、PHS樹脂は、波長が300nm以下の光に対して急に高い吸光度を示すようになる。
【0046】
半導体用フォトレジストは、例えば、被処理体がSiC基板であった場合に、SiC基板に対いてイオン注入を行う際のフォトレジストマスクとして用いられる。このため、半導体用フォトレジストに用いられる樹脂としては、光透過性、耐薬品性、現像液への溶解性等が重要な指標となるが、光透過性に関しては、光源から発せられる光のスペクトルに応じて調整される。
【0047】
しかしながら、上述したように、半導体用フォトレジストに用いられる樹脂の多くは、波長が300nm以下の光に対して高い吸光度を示す。これに対し、光源部2から出射される加熱光L1は、
図2に示すように、波長が300nm付近では放射強度が極めて小さい。つまり、色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の光を加熱光L1として利用することには、半導体用フォトレジストに吸収されるおそれが小さいというメリットがある。
【0048】
図5は、光源部2を-Z側から見たときの模式的な平面図である。
図3及び
図5に示すように、光源部2は、複数の赤外光ランプ11と、赤外光ランプ11から発せられて、+Z側に向かって進行する加熱光L1を、-Z側に向かうように反射する反射部材12とによって構成されている。
【0049】
複数の赤外光ランプ11は、いずれも色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光L1を発するランプである。これらの複数の赤外光ランプ11から発せられる加熱光L1の色温度は、実質的に同一であるのが好ましい。ここでいう「実質的に同一」とは、製造過程における素子ばらつきに起因した波長のズレを許容する趣旨である。典型的には、色温度のズレが±50K以内であるものとしても構わない。
【0050】
本実施形態における赤外光ランプ11は、具体的には、ハロゲンランプであるが、例えば、シーズヒータやカーボンヒータ等を採用し得る。なお、より高い光出力を実現する観点から、赤外光ランプ11は、ハロゲンランプであることが好ましい。また、赤外光ランプ11から発せられる色温度は、投入電力に依存することが知られており、例えば、ハロゲンランプであれば、印加電圧を調整することによって制御することができる。
【0051】
反射部材12は、
図3に示すように、赤外光ランプ11を覆うように配置される枠体からなり、内壁面に、赤外光ランプ11から発せられる加熱光L1を反射する反射面12aが形成されている。なお、反射部材12は、例えば、アルミニウム製の板を
【0052】
光加熱装置1によれば、光源部2から出射される加熱光L1の色温度が2,200K~2,600Kの範囲内であるため、被処理体W1がn型SiC半導体を含む場合であっても、この加熱光L1が被処理体W1において吸収される。これにより、被処理体W1に対して非接触による加熱を行うことができる。
【0053】
さらに、この光照射工程の実行時に、放射温度計14によって被処理体W1から放射される光を受光することで、被処理体W1の温度を検知できる。すなわち、放射温度計14による検知結果を、光源部2の光出力を制御する制御器(不図示)に対してフィードバックすることで、n型SiC半導体を含む被処理体W1に対して、高精度な加熱が可能となる。なお、
図1及び
図2に示すように、加熱光L1のピーク波長を含む主発光波長域は、明らかに放射温度計14の感度波長域から外れている。
【0054】
ここで、参考として、LED素子と、ハロゲンランプとで、加熱効率を比較するための検証実験を行ったので、その詳細について説明する。
【0055】
(実施例1)
色温度が2,600Kである光を発するハロゲンランプとした。なお、ハロゲンランプから発せられる色温度が2,600Kである光のピーク波長は、1,115nmである。
【0056】
(実施例2)
色温度が2,400Kである光を発するハロゲンランプとした。なお、ハロゲンランプから発せられる色温度が2,400Kである光のピーク波長は、1,207nmである。
【0057】
(実施例3)
色温度が2,200Kである光を発するハロゲンランプとした。なお、ハロゲンランプから発せられる色温度が2,200Kである光のピーク波長は、1,317nmである。
【0058】
(比較例1)
ピーク波長が395nmである光を発するLED素子とした。
【0059】
窒素(N)がドーパントとしてドープされた、n型4H-SiC基板に対して、同一照度となるように各光源から光を照射し、上述したように、n型SiCの反射率Rと、透過率Sとを測定し、吸収率A(=1-R-S)を算出した。そして、吸収率Aと、放射強度との積の波長積分値から導出される値(以下、「光吸収効率」という。)に基づいて、加熱効率を比較した。比較の方法は、ピーク波長が395nmのLED素子を光源とした場合の光吸収効率を1とした場合に、他の光源の場合の光吸収効率が1より大きければ、実質的に加熱効率が高いと判定した。
【0060】
結果は、下記表1のとおりであった。
【0061】
【0062】
上記表1の結果からわかるように、実施例1~3はいずれも、比較例1に比べて加熱効率がかなり高くなっていることが確認できる。
【0063】
以上より、色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光L1が、n型SiC半導体をより効率的に加熱できることがわかる。
【0064】
なお、加熱光L1の色温度は、加熱効率をより高くする観点からすれば、2,400K~2,600Kの範囲内とするのがより好適である。
【0065】
なお、上記表1によれば、ハロゲンランプは、色温度を2,200Kからさらに下げれば、加熱効率よりを高めることができる。しかしながら、色温度が2,200Kよりさらに低下すると、n型SiCを加熱するために十分な放射強度の加熱光L1を照射することが難しくなる。
【0066】
上述した実施形態においては、光源部2に反射部材12が搭載された構成が説明されているが、例えば、赤外光ランプ11から-Z側に放射される加熱光L1のみによって、被処理体W1を十分に加熱できるような場合には、光源部2は、反射部材12を備えていなくても構わない。
【0067】
また、反射部材12は、赤外光ランプ11の壁面上に設けられた反射膜であっても構わない。赤外光ランプ11の壁面上に設けられる反射膜は、例えば、アルミニウム(Al)で形成された金属膜や、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al2O3)等の金属酸化物を主たる成分とする粒子が凝集されて形成された反射膜等である。
【0068】
さらに、上述した実施形態においては、光源部2が備える赤外光ランプ11の形状は、
図5に示すように、直管形状を呈しているが、当該形状に限られない。赤外光ランプ11は、例えば、電球バルブ形状や、円環形状を呈するサークルヒータであっても構わない。
【符号の説明】
【0069】
1 :光加熱装置
2 :光源部
10 :チャンバ
10a :第一窓
10b :第二窓
11 :赤外光ランプ
12 :反射部材
12a :反射面
13 :支持部材
14 :放射温度計
L1 :加熱光
W1 :被処理体
W1a,W1b :被処理体の主面
【要約】
【課題】n型SiC半導体を含む被処理体を効率よく加熱することのできる光加熱方法を提供する。
【解決手段】n型SiC半導体を含む被処理体に対し、赤外光ランプを備えた光源部から出射された色温度が2,200K~2,600Kの範囲内の加熱光を、窓部材を介して照射して前記被処理体を加熱する工程(a)を有する。
【選択図】
図3