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特許7631573太陽電池モジュールおよび太陽電池モジュールの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】太陽電池モジュールおよび太陽電池モジュールの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H10K 30/57 20230101AFI20250210BHJP
   H10K 30/40 20230101ALI20250210BHJP
   H10K 30/88 20230101ALI20250210BHJP
   H10K 85/50 20230101ALI20250210BHJP
   H10K 85/10 20230101ALI20250210BHJP
【FI】
H10K30/57
H10K30/40
H10K30/88
H10K85/50
H10K85/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024012048
(22)【出願日】2024-01-30
【審査請求日】2024-05-08
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】塩川 美雪
(72)【発明者】
【氏名】五反田 武志
(72)【発明者】
【氏名】平野 樹
(72)【発明者】
【氏名】山下 勝也
(72)【発明者】
【氏名】戸張 智博
【審査官】丸橋 凌
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0248061(US,A1)
【文献】特表2023-508244(JP,A)
【文献】国際公開第2022/102128(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/059016(WO,A1)
【文献】特開2012-089663(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0295387(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0088802(US,A1)
【文献】中国実用新案第208985997(CN,U)
【文献】国際公開第2023/132134(WO,A1)
【文献】特開2006-100069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 31/04-31/078
H10K 30/00-30/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、第1光活性層、中間導電層、ペロブスカイト型結晶構造を有する光活性材料からなる第2光活性層、および第2電極が積層されてなる積層体と、
少なくとも前記第2光活性層の端面を被覆する保護層と、
前記保護層を介して前記積層体を封止する封止材と、を備え、
前記保護層の水蒸気透過係数は、前記封止材の水蒸気透過係数よりも小さく、かつ、0.1g・mm/m /day以下であり、
前記保護層の材料は、パラキシリレン系ポリマーまたはアモルファスフッ素ポリマーである、太陽電池モジュール。
【請求項2】
前記第2光活性層と前記保護層の間に、バッファ層および反射防止層の少なくとも一方が設けられる、請求項1に記載の太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記保護層を2層以上備え、前記保護層の少なくとも1層の材料がパラキシリレン系ポリマーであり、前記パラキシリレン系ポリマーの保護層よりも外側の前記保護層の少なくとも1層がアモルファスフッ素ポリマーである、請求項に記載の太陽電池モジュール。
【請求項4】
第1電極、第1光活性層、中間導電層、ペロブスカイト型結晶構造を有する光活性材料からなる第2光活性層、および第2電極が積層されてなる積層体と、少なくとも前記第2光活性層の端面を被覆する保護層と、前記保護層を介して前記積層体を封止する封止材と、を備える太陽電池モジュールの製造方法であって、
少なくとも前記第2光活性層の端面に保護層を形成する保護層形成工程と、
真空ラミネートにより、前記保護層を介して前記積層体を封止材で封止する封止工程と、を有し、
前記保護層の水蒸気透過係数は、前記封止材の水蒸気透過係数よりも小さく、かつ、0.1g・mm/m/day以下であり、
前記保護層の材料は、パラキシリレン系ポリマーまたはアモルファスフッ素ポリマーである、太陽電池モジュールの製造方法。
【請求項5】
前記保護層形成工程を、前記封止工程の前に行う、請求項に記載の太陽電池モジュールの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、太陽電池モジュールおよび太陽電池モジュールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子として、光活性層として、ペロブスカイト型結晶構造の材料からなる光活性層(以下、ペロブスカイト層という)を持つものが知られている。
【0003】
ペロブスカイト層を持つ多層接合型光電変換素子では、構造上、その端面にペロブスカイト層が露出している。このため、ペロブスカイト層は、封止時に封止材から発生する水分や、真空かつ過熱状態でダメージを受ける。そこで、一般的に、真空ラミネートは、ペロブスカイト層にダメージを与えないように、低温かつ短時間で実施される。しかしながら、封止材に推奨されているラミネート条件から外れた場合、架橋率やゲル化率が十分でなく、封止材本来の性能が発揮できない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/158838号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、外気や水分からペロブスカイト層を保護し、耐久性を高めた太陽電池モジュールおよび太陽電池モジュールの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の太陽電池モジュールは、積層体と、保護層と、封止材と、を持つ。
積層体は、第1電極、第1光活性層、中間導電層、ペロブスカイト型結晶構造を有する光活性材料からなる第2光活性層、および第2電極が積層されてなる。
保護層は、少なくとも第2光活性層の端面を被覆する。
封止材は、保護層を介して積層体を封止する。
保護層の水蒸気透過係数は、封止材の水蒸気透過係数よりも小さい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1の実施形態の太陽電池モジュールを示す断面模式図。
図2図2は、第2の実施形態の太陽電池モジュールを示す断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、実施形態の太陽電池モジュールおよび太陽電池モジュールの製造方法を、図面を参照して説明する。
【0009】
[太陽電池モジュール]
(第1の実施形態)
図1に第1の実施形態の太陽電池モジュール1を示す。図1に示す太陽電池モジュール1は、第1電極2、第1光活性層3、中間導電層4、ペロブスカイト型結晶構造を有する光活性材料からなる第2光活性層5、および第2電極6が積層されてなる積層体7と、積層体7を被覆する保護層8と、保護層8を介して積層体7を封止する封止材9とから構成される。第2電極6は、透明電極層10と金属電極層11とから構成される。封止材9における第1電極2側の表面9aには第1基材12が設けられている。封止材9における第2電極6側の表面9bには第2基材13が設けられている。第1電極2には第1取出電極14が接続されている。第2電極6の金属電極層11には第2取出電極15が接続されている。図1に示す太陽電池モジュール1において、第2電極6側から光を取り込み、第1光活性層3と第2光活性層5でそれぞれ発電し、発生した電流を第1取出電極14および第2取出電極15から取り出す。
【0010】
積層体7の端面7aには、第1光活性層3の端面3a、中間導電層4の端面4a、第2光活性層5の端面5a、および透明電極層10の端面10aが位置している。
【0011】
図1に示す太陽電池モジュール1では、第2光活性層5と保護層8の間、詳細には、中間導電層4と第2光活性層5の間に第1バッファ層16が設けられていてもよい。
【0012】
図1に示す太陽電池モジュール1では、第2光活性層5と保護層8の間、詳細には、第2電極6と第2光活性層5の間に第2バッファ層17が設けられていてもよい。
【0013】
図1に示す太陽電池モジュール1では、第2光活性層5と保護層8の間、詳細には、金属電極層11と透明電極層10の間に反射防止層18が設けられていてもよい。
【0014】
積層体7の端面7aには、第1バッファ層16の端面16a、第2バッファ層17の端面17a、および反射防止層18の端面18aが位置している。
【0015】
第1電極2は、導電性を有するものであれば、従来知られている任意の材料から選択することができる。第1電極2の材料は、金、銀、銅、白金、アルミニウム、チタン、鉄、パラジウム等が用いられるが、アルミニウムまたは銀が好ましい。
【0016】
第1光活性層3は、第一導電型の結晶シリコン層から構成される。第1光活性層3を構成する結晶シリコンは、一般的に光電池に用いられるシリコンと同様の構成を採用することができる。具体的には、単結晶シリコン、多結晶シリコン、ヘテロ接合型シリコンなどの結晶シリコンを含む結晶シリコンなどが挙げられる。また、結晶シリコンは、シリコンウェハーから切り出した薄膜であってもよい。シリコンウェハーとしては、リンやヒ素などをドープしたn型シリコン結晶、ホウ素やガリウムなどをドーピングしたp型シリコン結晶も使用できる。p型シリコン結晶中の電子は長い拡散長を有しているので、第一導電型の結晶シリコンとしてはp型の結晶シリコンが好ましい。
【0017】
第1光活性層3の厚さは、50μm~500μmであることが好ましく、100~300μmであることがより好ましい。
【0018】
中間導電層4は、第1光活性層3に接するように配置される。中間導電層4は、第1光活性層3を主体とするボトムセルと、第2光活性層5を主体とするトップセルとを隔絶しながら電気的に連結し、かつ第2光活性層5で吸収されなかった光を第1光活性層3に導く機能を有する。
【0019】
中間導電層4の材質は、透明または半透明の導電性を有する材料から選択することができる。このような材料としては、導電性の金属酸化物膜が挙げられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド(IZO)等が用いられる。このような金属酸化物からなる透明導電層204bは、一般に知られている方法で形成させることができる。具体的には、スパッタリングにより形成できる。
【0020】
中間導電層4の全厚は、5nm~70nmであることが好ましい。5nmよりも薄いと膜欠損が多く、中間導電層4に隣接する層の隔絶が不十分になる。70nmよりも厚いと、回折効果により光透過性が低下し、第1光活性層3側での発電量の低下を招くことがある。
【0021】
第2光活性層5は、ペロブスカイト型結晶構造を有する光活性材料からなる。ペロブスカイト型結晶構造とは、ペロブスカイトと同じ結晶構造をいう。典型的には、ペロブスカイト構造はイオンA、B、およびXからなり、イオンBがイオンAに比べて小さい場合にペロブスカイト構造をとる場合がある。この結晶構造の化学組成は、下記一般式(1)で表すことができる。
【0022】
ABX (1)
【0023】
ここで、Aは、1級アンモニウムイオンを利用できる。具体的にはCHNH (以下、MAということがある)、CNH 、CNH 、CNH 、およびHC(NH (以下、FAということがある)などが挙げられ、CHNH が好ましいがこれに限定されるものではない。また、Aは、Cs、1,1,1-トリフルオロ-エチルアンモニウムアイオダイド(FEAI)も好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0024】
また、Bは、2価の金属イオンであり、Pb2+またはSn2+が好ましいがこれに限定されるものではない。また、Xは、ハロゲンイオンが好ましい。例えばF、Cl、Br、I、およびAtから選択され、Cl、Br、Iが好ましいがこれに限定されるものではない。
【0025】
イオンA、BまたはXを構成する材料は、それぞれ単一であっても混合であってもよい。構成するイオンはABXの化学量論比と必ずしも一致しなくても機能できる。
【0026】
第2光活性層5のペロブスカイトを構成するイオンAは、原子量または、イオンを構成する原子量の合計(分子量)が45以上から構成されることが好ましい。更に好ましくは133以下のイオンを含むことが好ましい。これらの条件のイオンAは単体では安定性が低いため、一般的なMA(分子量32)を混合する場合があるが、MAを混合するとシリコンのバンドギャップ1.1eVに近づいて、波長分割して効率を向上させるタンデムとしては、全体の特性が低下してしまうので好ましくない。また、イオンAが複数のイオンの組み合わせであり、Csを含む場合、イオンAの全体個数に対してCsの個数の割合が0.1から0.9であることがより好ましい。
【0027】
この結晶構造は、立方晶、正方晶、直方晶等の単位格子をもち、各頂点にAが、体心にB、これを中心として立方晶の各面心にXが配置している。この結晶構造において、単位格子に包含される、1つのBと6つのXとからなる八面体は、Aとの相互作用により容易にひずみ、対称性の結晶に相転移する。この相転移が結晶の物性を劇的に変化させ、電子または正孔が結晶外に放出され、発電が起こるものと推定されている。
【0028】
第2光活性層5の厚さを厚くすると光吸収量が増えて短絡電流密度(Jsc)が増えるが、キャリア輸送距離が増える分、失活によるロスが増える傾向にある。このため最大効率を得るためには最適な厚さがある。具体的には、第2光活性層5の厚さは30~1000nmが好ましく、60~600nmがさらに好ましい。
【0029】
透明電極層10は、透明または半透明の導電性層である。透明電極層10は、複数の材料が積層された構造を有していてもよい。また、透明電極は光を透過するので、積層体の全面に形成することができる。
【0030】
透明電極層10の材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。具体的には、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、およびそれらの複合体であるインジウム・スズ・オキサイド(ITO)、インジウム・亜鉛・オキサイド(IZO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、インジウム・亜鉛・オキサイド等からなる導電性ガラスを用いて作製された膜(NESA等)や、アルミニウム、金、白金、銀、銅等が用いられる。特に、ITOまたはIZOなどの金属酸化物が好ましい。このような金属酸化物からなる透明電極層10は、一般に知られている方法で形成させることができる。具体的には、スパッタリングにより形成される。
【0031】
透明電極層10の厚さは、30~300nmであることが好ましい。透明電極層10の厚さが30nmより薄いと導電性が低下して抵抗が高くなる傾向にある。抵抗が高くなると光電変換効率低下の原因となることがある。一方、透明電極層10の厚さが300nmよりも厚いと、電極の可撓性が低くなる傾向にある。この結果、厚さが厚い場合には応力が作用するとひび割れてしまうことがある。透明電極層10は単層構造であっても、異なる仕事関数の材料で構成される層を積層した複層構造であってもよい。
【0032】
金属電極層11は、導電性を有するものであればよく、具体的には、金、銀、銅、白金、アルミニウム、チタン、鉄、パラジウムなどの導電性材料を用いることができる。
【0033】
金属電極層11は、複数の金属線が実質的に平行に配置された形状を有している。金属電極層11の厚さは例えば30~300nmであることが好ましい。金属電極層11の厚さが30nmより薄いと導電性が低下して抵抗が高くなる傾向にある。抵抗が高くなると光電変換効率低下の原因となることがある。金属電極層11の厚さが100nm以下であれば、光透過性を有するので、発電効率や発光効率を向上できるために好ましい。金属電極層11は単層構造であっても、異なる材料で構成される層を積層した複層構造であってもよい。
【0034】
図1に示す太陽電池モジュール1では、保護層8の水蒸気透過係数は、封止材9の水蒸気透過係数よりも小さい。
【0035】
保護層8の水蒸気透過係数は、一般的な封止材よりも小さく、0.1g・mm/m/day以下であることが好ましく、0.08g・mm/m/day以下であることがより好ましく、0.02g・mm/m/day以下であることがさらに好ましい。保護層8の水蒸気透過係数が前記上限値を超えると、外気や水分から第2光活性層5を保護することができない。
【0036】
保護層8の材料は、水蒸気透過係数が上記の範囲となるものであれば、特に限定されないが、水蒸気透過係数が低い点、光透過性に優れる点、および第2光活性層5に対する密着性に優れる点から、パラキシリレン系ポリマーまたはアモルファスフッ素ポリマーが好ましい。なお、パラキシリレン系ポリマーの水蒸気透過係数は0.08g・mm/m/day、アモルファスフッ素ポリマーの水蒸気透過係数は0.02g・mm/m/dayである。さらに、水蒸気透過係数はフィルム材料としての透過を定量化したものであるが、それと共に表面エネルギーの高いものを用いることで、外部から水分等の低分子成分、内部からはペロブスカイトの構成成分の流出を防止することができる。表面エネルギーは接触角で測定できる。一般的な封止材であるEVAの接触角は88.1°に対して、パラキシリレン系ポリマーの接触角は114~149°、アモルファスフッ素ポリマーの接触角は112~114°である。
【0037】
パラキシリレン系ポリマーは、下記の式(1)で表され、Cは炭素、Xは水素またはハロゲンから選択される。ハロゲンは、塩素、フッ素等から1つまたは複数種が選択される。六員環を構成する炭素に結合する水素の一部は、ハロゲンに置換できる。ハロゲンは、塩素、フッ素等から1つまたは複数種が選択される。nは繰り返し構造を意味する。下記の式(2)は、Xを水素とし、六員環を構成する炭素に結合する水素の一部を塩素に置換した構造であり、パラキシリレン系ポリマーのより好ましい構造を示す。nは繰り返し構造を意味する。
【0038】
【化1】
【0039】
【化2】
【0040】
アモルファスフッ素ポリマーは、特に限定されるものではないが、主鎖に下記の式(3)に示した構造を有することが好ましい。Xは末端基を意味し、炭素、酸素、水素、窒素、シリコン元素を含み、特に-CF、-COOH、-CONH-C-Si(OC、-CONH-C-N(C-NH等が好ましい。nは繰り返し構造を意味する。
【0041】
【化3】
【0042】
保護層8の材料の水蒸気透過係数の測定方法は、例えば、フィルム状にした対象サンプルの片面に水蒸気を導入し、フィルムを通過して、フィルムの反対面に検出された水蒸気量から計算することができる。
【0043】
保護層8の厚さは、0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、0.05μm以上4μm以下であることがより好ましく、0.4μm以上0.9μm以下であることがさらに好ましい。保護層8の厚さが前記下限値未満であると、保護層8の厚みの低下によりガスの透過量が増加するだけでなく、ピンホールの発生が顕著となり、十分な水蒸気透過係数が得られない。さらに、真空ラミネート時やその後の発電時に発生する水分等の低分子成分の侵入を防止する効果の低下を招く。また、真空ラミネート時やその後の発電時にペロブスカイトを構成する成分の流出を防止する効果の低下を招く。これらにより封止直後に太陽電池特性の低下を招いたり、発電時間が短命になる。保護層8の厚さが前記上限値を超えると、保護層8の厚みが高い分、ガスの透過量が減少すると共に、ピンホールの発生も少なくなるため、十分な水蒸気透過係数となる一方で、光透過量が減少し、太陽電池の発電量低下を招く。
【0044】
なお、図1に示す太陽電池モジュール1では、積層体7の全体を保護層8が被覆する場合を例示しているが、実施形態の太陽電池モジュールはこれに限定されない。実施形態の太陽電池モジュールでは、保護層が少なくとも第2光活性層の端面を被覆していればよい。
【0045】
封止材9としては、特に限定されないが、例えば、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)、ポリオレフィンエラストマー(POE)、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、ポリエチレン、アイオノマー、シリコーン等が挙げられる。
【0046】
封止材9の水蒸気透過係数は、10g・mm/m/day以下であることが好ましく、1g・mm/m/day以下であることがより好ましく、0.9g・mm/m/day以下であることがさらに好ましい。封止材9の水蒸気透過係数が前記上限値以下であると、封止材9として安価な材料を用いることができる。封止材9は、モジュール全体に使われる材料であるため、モジュールを安価に製造できる。
【0047】
封止材9の水蒸気透過係数は、保護層8の材料の水蒸気透過係数の測定方法と同様の方法で測定することができる。
【0048】
封止材9の厚さは、20μm以上1000μm以下であることが好ましく、200μm以上500μm以下であることがより好ましく、300μm以上500μm以下であることがさらに好ましい。封止材9の厚さが前記下限値以上であると、質量が増加すると共に、モジュールは剛直なものになる。封止材9の厚さが前記上限値以下であると、質量が減少すると共に、モジュールのフレキシブル性が向上する。
【0049】
第1バッファ層16は、電子またはホールを輸送する優先的に取り出す層であり、正孔輸送層または電子輸送層として機能する。
【0050】
第2バッファ層17は、電子またはホールを輸送する優先的に取り出す層であり、正孔輸送層または電子輸送層として機能する。
【0051】
第2バッファ層17を、正孔輸送層または電子輸送層として機能させる場合、第2バッファ層17を無機酸化物で構成するとよい。第2バッファ層17を正孔輸送層とする場合は、第2バッファ層17を酸化チタンで構成するとよい。また、第2バッファ層17を電子輸送層とする場合は、第2バッファ層17を酸化スズで構成するとよい。
【0052】
第2バッファ層17を正孔注入層とする場合、その厚さは30nm以下であることが好ましく、15~25nmでもよい。これは正孔注入層としての膜抵抗を低くし、変換効率を高めることができるからである。一方で、正孔注入層としての厚さは5nm以上とすることができる。
【0053】
第2バッファ層17を電子輸送層とする場合、その厚さは30nm以下であることが好ましく、15~25nmでもよい。これは電子輸送層としての膜抵抗を低くし、変換効率を高めることができるからである。一方で、電子輸送層としての厚さは5nm以上とすることができる。
【0054】
反射防止層18は、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム等のハロゲン化合物、窒化シリコン等から1種または複数から構成される。反射防止層18を設けることにより、太陽電池モジュール1の受光面側における太陽光の反射を抑制することができる。
【0055】
第1基材12と第2基材13は、保護層8および封止材9で被覆された積層体7を挟持し、積層体7を保護する。第1基材12としては、ガラス基材、太陽電池用のバックシートが挙げられる。第2基材13としては、ガラス基材が挙げられる。
【0056】
第1取出電極14、第2取出電極15は、アルミニウム、銀、銅、炭素等の導電性材料から1種または複数から構成される。
【0057】
図1に示す太陽電池モジュール1では、第2光活性層5の端面5aを、一般的な封止材よりも水蒸気透過係数が小さい保護層8で被覆している。これにより、外気や水分から第2光活性層5を保護することができる。また、封止材9よりも内側に保護層8を形成し、保護層8の水蒸気透過係数が封止材9の水蒸気透過係数よりも小さいため、封止時に封止材9から発生する水分に第2光活性層5が曝されていない。従って、第2光活性層5が水分によるダメージを受けていない。
【0058】
(第2の実施形態)
図2に第2の実施形態の太陽電池モジュール100を示す。図2において、図1に示す太陽電池モジュール1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。図2に示す太陽電池モジュール100は、図1に示す太陽電池モジュール1に加えて、保護層(第1保護層)8を被覆する第2保護層101が設けられている。
【0059】
第2保護層101の材料としては、第1保護層8の材料と同様のものが挙げられる。第1保護層8の材料と第2保護層101の材料は、同一であってもよく、異なっていてもよい。第1保護層8の材料と第2保護層101の材料が異なる場合、第1保護層8の材料の水蒸気透過係数が、第2保護層101の材料の水蒸気透過係数が小さいことが好ましい。例えば、第1保護層8の材料はパラキシリレン系ポリマー、第2保護層101の材料はアモルファスフッ素ポリマーが好ましい。この場合、第1保護層8は水蒸気の透過を抑制し、第2保護層101は第2光活性層5や積層体7を物理的に保護する。すなわち、第1保護層8に発生したピンホールを第2保護層101で覆い隠し構造的に工夫でガスバリア性を高めることができる。
【0060】
第2保護層101の厚さは、0.01μm以上10μm以下であることが好ましく、0.05μm以上4μm以下であることがより好ましく、0.4μm以上0.9μm以下であることがさらに好ましい。第2保護層101の厚さが前記下限値未満であると、保護層8の厚みの低下によりガスの透過量が増加するだけでなく、ピンホールの発生が顕著となり、十分な水蒸気透過係数が得られない。さらに、真空ラミネート時やその後の発電時に発生する水分等の低分子成分の侵入を防止する効果の低下を招く。また、真空ラミネート時やその後の発電時にペロブスカイトを構成する成分の流出を防止する効果の低下を招く。これらにより封止直後に太陽電池特性の低下を招いたり、発電時間が短命になる。第2保護層101の厚さが前記上限値以下であると、保護層8の厚みが高い分、ガスの透過量が減少すると共に、ピンホールの発生も少なくなるため、十分な水蒸気透過係数が得られる一方で、光透過量が減少し、太陽電池の発電量低下を招く。
【0061】
図2に示す太陽電池モジュール100において、保護層を3層以上備えていてもよい。保護層を3層以上備える場合、全ての保護層の材料が同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0062】
図2に示す太陽電池モジュール100では、第1保護層8と第2保護層101を設けることにより、第1保護層8のピンホールをカバーすることができ、耐久性をより高めることができる。
【0063】
なお、実施形態の太陽電池モジュールは、光活性層が1つのみの場合にも適用できる。
【0064】
[太陽電池モジュールの製造方法]
実施形態の太陽電池モジュールの製造方法は、実施形態の太陽電池モジュールを製造する方法であって、少なくとも前記第2光活性層の端面に保護層を形成する保護層形成工程と、真空ラミネートにより、前記保護層を介して前記積層体を封止材で封止する封止工程と、を有する。
【0065】
図1を参照して、実施形態の太陽電池モジュールの製造方法を説明する。
保護層形成工程では、積層体7の端面7aに保護層8の材料を塗布し、その材料を硬化させて、保護層8を形成する。
【0066】
保護層8の材料の塗布量は、特に限定されないが、保護層8の厚さが所定の範囲内となるようにする。
【0067】
保護層8の材料の塗布方法としては、例えば、原料の熱分解ガスから合成する方法、ディッピング、スピンコーティング、ダイコーティングを用いることができる。
【0068】
封止工程では、真空ラミネートにより、保護層8を介して積層体7を封止材9で封止する。
【0069】
実施形態の太陽電池モジュールの製造方法では、保護層形成工程を、封止工程の前に行うことが好ましい。第2光活性層5や積層体7を水蒸気透過係数が小さい保護層8で覆った状態で、真空ラミネートにより、保護層8を介して積層体7を封止材9で封止することにより、封止工程で封止材9から発生する水分が第2光活性層5にダメージを与えることを軽減できる。また、第2光活性層5や積層体7を保護層8で覆った状態で、封止工程で第2光活性層5が直接減圧状態に曝されることを防ぎ、真空かつ過熱状態で起こる第2光活性層5へのダメージを軽減することができる。通常、低温、かつ短時間で真空ラミネートされるが、実施形態の太陽電池モジュールの製造方法では、第2光活性層5や積層体7を水蒸気透過係数が小さい保護層8で覆って、水分によるダメージを低減した状態で封止工程を行うため、従来のシリコン太陽電池と同じラミネート条件を使用することができる。また、封止材のラミネート工程に関する制限がなくなり、架橋率やゲル化率が十分でなく、封止材本来の性能を発揮することができる。
【0070】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0071】
1…太陽電池モジュール、2…第1電極、3…第1光活性層、4…中間導電層、5…第2光活性層、6…第2電極、7…積層体、8…保護層、9…封止材、10…透明電極層、11…金属電極層、12…第1基材、13…第2基材、14…第1取出電極、15…第2取出電極、16…第1バッファ層、17…第2バッファ層、18…反射防止層。
【要約】
【課題】外気や水分からペロブスカイト層を保護し、耐久性を高めた太陽電池モジュールおよび太陽電池モジュールの製造方法を提供することである。
【解決手段】実施形態の太陽電池モジュールは、積層体と、保護層と、封止材と、を持つ。積層体は、第1電極、第1光活性層、中間導電層、ペロブスカイト型結晶構造を有する光活性材料からなる第2光活性層、および第2電極が積層されてなる。保護層は、少なくとも第2光活性層の端面を被覆する。封止材は、保護層を介して積層体を封止する。保護層の水蒸気透過係数は、封止材の水蒸気透過係数よりも小さい。
【選択図】図1
図1
図2