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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】多層シート
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20250210BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250210BHJP
   B65D 1/34 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B27/30 B
B65D1/34
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024193227
(22)【出願日】2024-11-01
【審査請求日】2024-11-01
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ・販売日 令和5年11月17日 販売した場所 中部ブリスター成形有限会社(愛知県一宮市馬見塚字西ノ山63) ・販売日 令和6年4月12日 販売した場所 サイデック株式会社(宮城県仙台市若林区卸町5丁目6番2号) ・販売日 令和6年4月18日 販売した場所 株式会社KSS(愛知県名古屋市西区木前町63) ・販売日 令和6年5月14日 販売した場所 サイデック株式会社 仙台工場(宮城県仙台市若林区卸町東3丁目3番27号)
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591178300
【氏名又は名称】日本プラスチック工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中原 栄一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮田 彰
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2024-91048(JP,A)
【文献】特許第7043678(JP,B1)
【文献】特開2007-261102(JP,A)
【文献】特開2003-26865(JP,A)
【文献】特開2010-47663(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 1/00-1/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、
オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマーと、を含む、耐摩耗層(A)を備え、
前記メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとの重量の和は、前記耐摩耗層(A)の重量を100重量%として50重量%以上であり、
前記メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとの重量比が、80~99:20~1である、多層シート。
【請求項2】
ポリプロピレンまたはポリスチレンを主成分として含む、基材層(B)をさらに備える、請求項1に記載の多層シート。
【請求項3】
前記基材層(B)がポリスチレンを主成分として含む場合、前記耐摩耗層(A)と前記基材層(B)とを接着する接着層(C)をさらに備え、
前記接着層(C)は、ポリエチレン、ポリスチレン、およびスチレン系熱可塑性エラストマーを含み、
前記接着層(C)の重量を100重量%として、前記ポリエチレンの含有量は5重量%以上70重量%以下であり、前記ポリスチレンの含有量は25重量%以上92重量%以下であり、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は3重量%以上40重量%以下である、
請求項2に記載の多層シート。
【請求項4】
前記耐摩耗層(A)は、JIS K 6253-3(2012)に準じて測定したデュロメータD硬さがD35~D65である、請求項1に記載の多層シート。
【請求項5】
前記耐摩耗層(A)は、JIS K 7210-1(2014)に準じて、試験温度230℃および荷重2.16kg(21.2N)の条件下で測定されるメルトマスフローレイト値が、0.5g/10min以上である、請求項1に記載の多層シート。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の多層シートを有する、トレイ成形用または搬送用のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多層シートに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば工場などの製造現場では、ワークを運搬するためのトレイ、箱、仕切り板、パレット等の搬送部材が広く用いられている。ワークは搬送中に搬送部材内で移動・振動するため、ワークが接触する搬送部材の面が剥されることにより粉塵が発生し、ワークを汚すことがある。そのため、搬送部材には耐摩耗性が求められており、従来、搬送部材の材料としては、耐摩耗性に優れたポリオレフィンが広く使用されてきた。
【0003】
特許文献1には、ポリオレフィンエラストマーなどの熱可塑性エラストマーまたはその組成物からなる表層が設けられた多層シートが記載されている。また、特許文献2および3には、表層にポリオレフィン系エラストマーを60重量%以上含む積層シートが記載されている。特許文献4には、低密度ポリエチレンと、0.90g/cc未満の密度を有するエチレン系エラストマーとのブレンドからなるスキン層を含み、前記低密度ポリエチレンの含有量が、前記スキン層の総重量に基づいて20重量%以下含まれている、多層フィルムが記載されている。なお、低密度ポリエチレンは、直鎖状低密度ポリエチレンを排除すると記載されている。特許文献5には、ポリプロピレン系樹脂で構成されるスキン層を備える、延伸ポリプロピレンフィルムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-276354号公報
【文献】特開2011-737号公報
【文献】特開2014-4838号公報
【文献】特表2019-501038号公報
【文献】特開2018-65267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のような従来技術は、耐摩耗性および成形性を両立させる観点から、さらなる改善の余地があった。
【0006】
本発明の一態様は、耐摩耗性が従来と同等以上であり、かつ、成形性に優れる多層シートを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマーとを、特定の配合比80~99:20~1で使用することにより、従来と同等以上の耐摩耗性を有し、かつ、成形性にも優れる多層シートを得られることを見出し、本発明に至った。また、これら2種類の成分を上記の配合比で使用することにより、どちらか一方の成分のみを単独で使用する場合と比較して、耐摩耗性が向上することも確認した。
【0008】
耐摩耗性を向上させる要因としては、(i)材料硬度を高くする、(ii)摩擦力が生じにくい表面を採用する、(iii)摩擦力を材料内部で応力緩和させる、等が挙げられる。耐摩耗性が求められる搬送部材には、上記特許文献にも記載されているように、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を使用することが知られている。TPOは、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(TPU)に比べて、深絞り形状等の成形が難しい形状の場合でも真空成形性に優れている。したがって、TPOを使用することにより、優れた成形性を有する搬送部材が得られる。さらに、TPOは界面活性剤および油性グリース等に侵されにくい。そのため、TPOを使用することにより、搬送部材の性能バランスが良くなり、汎用性も高くなると考えられる。
【0009】
一方、TPOは、添加することにより、材料硬度を低下させる。耐摩耗性が従来と同等以上であり、かつ、成形性に優れる多層シートを実現するためには改善の余地があった。そこで、本発明者らが検討した結果、耐摩耗性に優れることが知られているポリエチレン系樹脂の中でも、特にメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンが耐摩耗性に優れることを見いだした。更に、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、TPOとを、上記の特定の配合比で併用することにより、耐摩耗性が向上し、課題を解決できることを見出した。更にまた、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンとの相性(相溶性等)に鑑みて、特定の種類のTPOを使用することにより、課題を解決できることも見出した。本発明は以下の構成を含む。
【0010】
メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、
オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマーと、を含む、耐摩耗層(A)を備え、
前記メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとの重量の和は、前記耐摩耗層(A)の重量を100重量%として50重量%以上であり、
前記メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとの重量比が、80~99:20~1である、多層シート。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様によれば、耐摩耗性が従来と同等以上であり、かつ、成形性に優れる多層シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る多層シートの層構成を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る多層シートの層構成を模式的に示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る多層シートの層構成を模式的に示す断面図である。
図4】本発明の一実施形態に係る多層シートの層構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態について、以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0014】
〔1.多層シート〕
本発明の一実施形態に係る多層シートは、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、
オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマーとを含む、耐摩耗層(A)を備える。
【0015】
多層シートの構造は特に限定されないが、下記に詳述する基材層を備えてもよく、基材層(B)の一方の表面に、耐摩耗層(A)を有する、例えば図1に示す2層構成であってもよい。また、基材層(B)の両方の表面に、耐摩耗層(A)を有する、例えば、図2に示す3層構成であってもよい。多層シートは、下記に詳述する接着層(C)をさらに備えてもよく、基材層(B)の一方の表面に、接着層(C)を介して耐摩耗層(A)を有する、例えば図3に示す3層構成であってもよい。また、基材層(B)の両方の表面に、接着層(C)を介して耐摩耗層(A)を有する、例えば図4に示す5層構成であってもよい。
【0016】
多層シートを構成する各層の比率は、多層シートが接着層を備えない場合、シート全体の厚さを100%としたときに、耐摩耗層が5~30%であり、基材層が70~95%であることが好ましい。一方、多層シートが接着層を備える場合は、シート全体の厚さを100%としたときに、耐摩耗層が5~25%であり、基材層が70~85%であり、接着層が3~10%であることが好ましい。
【0017】
<1.1.耐摩耗層>
本願明細書において、耐摩耗層(A)は、多層シートを構成する層のうち、少なくとも一つの最外層をなす層である。例えば図1および図3に示す多層シートであれば、耐摩耗層は一つの最外層をなしており、図2および図4に示す多層シートであれば、耐摩耗層は二つの最外層をなしている。
【0018】
耐摩耗層(A)は、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレン(本明細書では、「m-LLDPE」とも称する)を含む。本明細書において、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンとは、メタロセン触媒を利用して重合した、直鎖状低密度ポリエチレンのことを指す。上述したように、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンは、数あるポリエチレン系樹脂のなかでも耐摩耗性が特に高い。したがって、メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンを使用することにより、得られるシートの耐摩耗性が向上する。
【0019】
m-LLDPEは、JIS K 7210-1(2014)に準じて、試験温度190℃および荷重2.16kg(21.2N)の条件下で測定されるメルトマスフローレイト(MFR)値が、0.1~20g/10minであることが好ましく、0.3~15g/10minであることがより好ましく、0.5~10/10minであることがさらに好ましい。m-LLDPEのMFR値が前記の範囲であれば、得られる多層シートの成形性および外観が優れる。一方で、m-LLDPEのMFR値が高すぎる場合には、押し出す工程における材料の流れ等の調整性に劣る。また、m-LLDPEのMFR値が低すぎる場合には、界面荒れ、および/またはスクリューマーク等が発生する。
【0020】
耐摩耗層(A)は、さらに、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含む、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)を含む。本明細書において、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むTPOを、「TPO(I)」とも称する。TPO(I)など特定の条件を有するTPOはポリプロピレン等のポリオレフィンよりも耐摩耗性に優れるため、得られる搬送部材の耐摩耗性が向上すると考えられる。
【0021】
「オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含む」とは、TPO(I)の重量を100重量%としたときに、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂の重量の和が50重量%超であることを指す。TPO(I)におけるオレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂の重量の和は、70重量%以上であることが好ましく、90重量%以上であることがより好ましく、99重量%以上であることが最も好ましい。また、前記主成分以外にTPO(I)に含まれる成分としては、例えば、スチレン系エラストマー、鉱油等の軟化剤等が挙げられる。
【0022】
TPO(I)は、前記オレフィン系ゴムを含む島相と、前記オレフィン系樹脂を含む海相と、を備える海島構造を有する。TPO(I)において、オレフィン系ゴムとオレフィン系樹脂との重量比は特に限定されない。なお、TPO(I)は、m-LLDPEとの相溶性を考慮すると、エチレン系熱可塑性エラストマーが好ましい。
【0023】
前記オレフィン系ゴムとしては、例えば、エチレン-プロピレン-ジエン共重合体(EPDM)、エチレン-プロピレンゴム(EPR)、エチレン-オクテン共重合体等からなる群より選ばれる1つ以上を用いることができる。
【0024】
前記オレフィン系樹脂としては、例えば、プロピレン系樹脂、エチレン系樹脂、その他のαオレフィン系樹脂等からなる群より選ばれる1つ以上を用いることができる。さらに、プロピレン・エチレンランダム共重合体のような多種のモノマー共重合体を、オレフィン系樹脂として用いることもできる。その他のαオレフィン系樹脂としては特に限定されないが、例えば、モノマーとしては1-ブテン、1-ヘキセン等が挙げられる。TPO(I)として、オレフィン系樹脂が異なる2種類のTPOを使用してもよい。例えば、オレフィン系樹脂がプロピレン系樹脂であるTPO(I)と、オレフィン系樹脂がエチレン系樹脂であるTPO(I)とを併用してもよい。
【0025】
TPO(I)は、JIS K 7210-1(2014)に準じて、試験温度230℃および荷重2.16kg(21.2N)の条件下で測定されるメルトマスフローレイト(MFR)値が、0.1g/10min以上であることが好ましい。前記MFR値は、0.5~20g/10minであることがより好ましく、0.5~17g/10minであることがさらに好ましい。また、TPO(I)としては、MFR値が上記の範囲内で値が異なる2種類のTPOを使用してもよい。MFR値が低いTPO(I)と、MFR値が高いTPO(I)とを併用することにより、押し出す工程において材料の流れ等の調整が容易になる。
【0026】
TPO(I)としてMFR値が異なる2種類のTPO(I)を使用する場合、MFR値が低いTPO(I):MFR値が高いTPO(I)の重量比は、30~100:70~0が好ましい。
【0027】
TPO(I)は、例えば、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂、ならびに必要に応じて配合される軟化剤、無機充填剤等、および/または添加剤を混合して混合物を得、得られた混合物を溶融状態で混練することで製造することができる。得られたTPO(I)には、必要に応じて、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂以外の他の成分を、本発明の効果を損なわない程度に含有させてもよい。
【0028】
TPO(I)としては、例えば、前述した方法によって得られたオレフィン系熱可塑性エラストマー、または市販品を用いることができる。
【0029】
m-LLDPEとTPO(I)との重量の和の下限値は、耐摩耗層(A)の重量を100重量%として50重量%以上であり、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましく、90重量%以上であることがよりさらに好ましく、99.5重量%以上であることが特に好ましい。m-LLDPEとTPO(I)との重量の和の上限値は、特に限定されず、前記耐摩耗層(A)の重量を100重量%として、例えば、100重量%であってもよく、99.5重量%であってもよく、99.0重量%であってもよい。すなわち、耐摩耗層(A)には、m-LLDPEおよびTPO(I)のみが含まれていてもよく、m-LLDPEおよびTPO(I)に加えて、さらに添加物が含まれていてもよい。m-LLDPEとTPO(I)との重量の和が上記の範囲であれば、耐摩耗性および成形性に優れる多層シートを得ることができる。
【0030】
耐摩耗層(A)にさらに添加物が含まれる場合、添加物としては、軟化剤(流動パラフィン)、改質剤、滑剤(ワックス)等が挙げられるが、これらに限定されない。前記添加物は、耐摩耗層の硬度の調整、成形性と外観とのバランスの調整などの目的に応じて、適宜用いることができる。また、タック防止のためシリコーン等の粘着防止剤を添加することができる。さらに、埃付着を生じさせる静電気の発生を防止する目的で帯電防止剤(低分子系帯電防止剤、高分子系帯電防止剤等)、導電性材料(カーボンブラック、カーボンナノチューブ等)を添加することができる。なお、これらの添加物は、耐摩耗性の低下を防ぐ観点から、添加量が少ないことが好ましい。従って、少量の添加で機能が発現する添加物を選定することが好ましい。例えば、帯電防止剤としてはシート表面にブリードし機能を発現する低分子系帯電防止剤が好ましい。導電性材料としては、カーボンナノチューブが好ましい。
【0031】
耐摩耗層(A)における、m-LLDPEとTPO(I)との重量比は、80~99:20~1であり、85~97:15~3がより好ましく、85~95:15~5がより好ましく、90~95:10~5がよりさらに好ましい。m-LLDPEとTPO(I)との重量比が上記の範囲であれば、得られる多層シートの耐摩耗性および成形性をより良好に両立できる。
【0032】
耐摩耗層(A)は、JIS K 6253-3(2012)に準じて測定したデュロメータD硬さが、耐摩耗性の観点からD35~D65であることが好ましい。前記デュロメータD硬さの上限は、D58以下であることがより好ましい。前記デュロメータD硬さの下限は、タック性を生じにくくする観点から、D48以上であることがより好まく、D54以上であることがさらに好ましい。なお、デュロメータD硬さは、GS 720N(テクロック製)を使用して測定することができる。
【0033】
耐摩耗層(A)は、JIS K 7210-1(2014)に準じて、試験温度230℃および荷重2.16kg(21.2N)の条件下で測定されるメルトマスフローレイト(MFR)値が、0.5g/10min以上であることが好ましく、1g/10min以上であることがより好ましい。前記MFR値の上限は、10g/10min以下であることが好ましく、6g/10min以下であることがより好ましい。なお、耐摩耗層(A)のMFR値は、例えばm-LLDPEと併用するTPO(I)のMFR値を調整すること、またはm-LLDPEとTPO(I)との重量比を調整することにより、所望の値に調整することができる。また、滑剤、軟化剤等を添加することにより、耐摩耗層(A)のMFR値を調整することもできる。さらに、MFR値のより低い添加剤を加えることにより、耐摩耗層(A)のMFR値を低下させても良い。ただし、添加剤を加えてMFR値を調整する場合、耐摩耗性等の性能が低下する場合があるため、注意しなければならない。
【0034】
耐摩耗層(A)のMFR値が前記の範囲であれば、得られる多層シートの成形性および外観が優れる。一方で、耐摩耗層(A)のMFR値が高すぎる場合には、押し出す工程における材料の流れ等の調整性に劣る。また、耐摩耗層(A)のMFR値が低すぎる場合には、界面荒れ、および/またはスクリューマーク等が発生する。本明細書中において「スクリューマーク」とは、スクリューを使用した場合に、得られた多層シートの表面に生じる、樹脂が流れた跡等の模様を指す。
【0035】
耐摩耗層(A)のMFR値を上記の範囲にすることで、シート表面の外観が良好で、巾方向に均一な押出が可能になり、また、過負荷状態での押し出しを回避し、ドローダウンをより効果的に防止することができる。
【0036】
<1.2.基材層>
本発明の一実施形態に係る多層シートは、ポリプロピレン(PP)またはポリスチレン(PS)を主成分として含む、基材層(B)をさらに備えてもよい。「ポリプロピレンまたはポリスチレンを主成分として含む」とは、基材層(B)の重量を100重量%としたときに、ポリプロピレンまたはポリスチレンの量が、50重量%超であることを指す。基材層(B)におけるポリプロピレンまたはポリスチレンの割合は、70重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましい。また、前記割合は90重量%以上であることが好ましく、100重量%であってもよい。
【0037】
基材層(B)が主成分としてPPを含む場合、該基材層(B)はさらにポリエチレン(PE)を含んでもよい。この場合、基材層(B)に含まれるPPおよびPEの重量比は、70~95:30~5であってもよい。基材層(B)にPEを配合することにより、m-LLDPEを含む、PE系の耐摩耗層(A)との密着性が良くなるため、耐摩耗層(A)と基材層(B)との層間強度が高まる。
【0038】
基材層(B)が主成分としてPSを含む場合、PSの全部または一部は、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)であることが好ましい。
【0039】
基材層(B)は、PPまたはPS以外にさらに、相溶化剤、タルク等のフィラー、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)等を含んでいてもよい。基材層(B)にTPSが含まれることにより、得られる多層シートが接着層(C)を備える場合、接着層(C)と基材層(B)との接着性がより向上する。TPSとしては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)が好ましい。なお、SBSの添加により耐衝撃性向上の効果がある。
【0040】
基材層(B)は、例えば、PPまたはPSと、前記相溶剤等とを混練造粒および混合することによって調製することができる。基材層(B)は、PPまたはPS以外に、無機フィラー、および/または強化材等を含んでいてもよい。これらを添加することにより、基材層(B)の剛性を向上させることができる。
【0041】
基材層(B)の剛性を向上させるために添加し得る強化材としては、繊維状強化材、板状強化材、粒状強化材等が挙げられる。繊維状強化材としては、ガラス繊維、炭素繊維等が挙げられる。板状強化材としては、マイカ、タルク、クレー、ガラスフレーク等が挙げられる。粒状強化材としては、シリカ、炭酸カルシウム、もしくは珪酸カルシウム等の金属の酸化物、炭酸塩、硫酸塩、もしくはガラスビーズ等の粉末、またはカーボンブラック等が挙げられる。また、基材層の樹脂としてリサイクル材を用いてもよい。
【0042】
また、基材層(B)は、他の非結晶性樹脂を含んでもよい。非結晶性樹脂としては、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリロニトリルスチレン(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリカーボネート(PC)等が挙げられる。
【0043】
<1.3.接着層>
上記基材層(B)がPSを主成分として含む場合、耐摩耗層(A)に含まれるm-LLDPE及びTPO(I)と、基材層(B)に含まれるPSとの接着性を向上させるため、多層シートは、耐摩耗層(A)と基材層(B)とを接着する接着層(C)をさらに備えてもよい。接着層(C)は、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、およびスチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)を含む。TPSは、耐摩耗層(A)に含まれるm-LLDPE、TPO(I)、および基材層(B)に含まれるPSの双方に相溶性が高い。TPSの他に、耐摩耗層(A)にm-LLDPEとして含まれるPE、および基材層(B)に含まれ得るPSを、接着層(C)に含めることにより、TPSを単独で含む場合と比較して、接着性が向上する。また、押出成形時に均一な層を得ることができる。すなわち、接着層(C)にPE、PS、およびTPSを含むことにより、より良好な接着性および成形性を得ることができる。
【0044】
前記ポリエチレンは、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、又は低密度ポリエチレン(LDPE)であることが好ましい。前記ポリスチレンの全部または一部は、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)であることが好ましい。TPSは、特に限定されず、例えば、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)等が挙げられる。さらに、TPSの全部または一部は、スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーであることが好ましく、水素添加スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーであることがより好ましい。水素添加スチレン・ブタジエン系熱可塑性エラストマーとしては、スチレン-ブタジエン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)等が挙げられる。PEおよびPSへの相溶性の観点から、TPSは、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)であることが好ましい。
【0045】
接着層(C)において、PEの含有量の下限は、接着層(C)の重量を100重量%として、5重量%以上が好ましく、15重量%以上がより好ましく、20重量%以上がさらに好ましい。接着層(C)において、PEの含有量の上限は、接着層(C)の重量を100重量%として、70重量%以下が好ましく、50重量%以下がより好ましく、40重量%以下がさらに好ましい。
【0046】
接着層(C)において、PSの含有量の下限は、接着層(C)の重量を100重量%として、25重量%以上が好ましく、40重量%以上がより好ましく、50重量%以上がさらに好ましい。接着層(C)において、PSの含有量の上限は、接着層(C)の重量を100重量%として、92重量%以下が好ましく、80重量%以下がより好ましく、70重量%以下がさらに好ましい。
【0047】
接着層(C)において、TPSの含有量の下限は、接着層(C)の重量を100重量%として、3重量%以上が好ましく、4重量%以上がより好ましく、6重量%以上がさらに好ましい。接着層(C)において、TPSの含有量の上限は、接着層(C)の重量を100重量%として、40重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましく、15重量%以下がさらに好ましい。
【0048】
接着層(C)を調製するための材料は、例えば、PE、PSおよびTPSを混練造粒および混合することによって調製することができる。接着層(C)は、本発明の効果を損なわない程度に、他の成分を含有していてもよい。
【0049】
〔2.多層シートの製造方法〕
本発明の一実施形態に係る多層シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、共押出多層Tダイとしては、フィードブロック方式、マルチマニホールド方式、マルチスロットルダイ方式等が挙げられる。フィードブロック方式は、安価であり金型の構造が比較的簡略でメンテナンスが容易であるため生産効率に優れてはいるが、フィードブロック内で各層の樹脂材料が合流するため、各層の厚さや巾方向の流れ等のコントロールに劣る。
【0050】
一方、本発明の一実施形態に係る多層シートは、既に説明した構成を備えており、前述したように、安価なフィードブロック法であっても十分に均一な多層共押出を容易に実現することができるという利点を有する。
【0051】
前記製造方法としては、例えば以下の方法を挙げることができる。すなわち、まず、必要な材料を混練造粒および混合することによって、耐摩耗層調製用の材料、および基材層調製用の材料、ならびに必要に応じて接着層調製用の材料をそれぞれ調製する。次に、調製した各材料を、それぞれ異なる押出機に供給し、各押出機の設定温度条件を、約130℃から金型先端へ向かって徐々に180℃~230℃程度まで上昇させた条件で混錬溶融させ均一にして各々押し出す。続いて、押し出された各層の材料を、190℃~220℃の温度条件にて、Tダイの直前に設けられたフィードブロック内で合流させてからTダイへ供給し、Tダイ内のシングルマニフォールドで拡幅して、基材層と耐摩耗層とが接着した多層シート、または基材層と耐摩耗層とが接着層によって接着された多層シートを得ることができる。
【0052】
〔3.用途〕
本発明の一実施形態に係る多層シートは、例えば、トレイ成形用、搬送ケースとその仕切り板、または搬送用のシートとして使用することができる。本発明の一実施形態には、上述した多層シートを有する、トレイ成形用または搬送用のシートも包含される。前記多層シートを有するトレイ成形用、搬送ケース、仕切り板、搬送ラックのフレームの被覆に用いる保護板、または搬送用のシートは、前記多層シートが既に説明した構成を備えるため、多層共押出性、成形性および接着性に優れ、かつ、優れた耐摩耗性を有する。そのため、真空成形方法、圧空成形方法、又は切削加工等により、所望の形状へ成形することが容易であり、かつ、金属等との接触に対しても優れた抵抗性を示すことができる。したがって、前記多層シートは、例えば工場などの製造現場で用いられる、製品および部品等の重量物を運搬するためのトレイ、箱、仕切り板、金属製またはプラスチック製ラック、パレット等の搬送部材の製造に好適に用いることができる。
【0053】
〔4.まとめ〕
本発明には、以下の態様が含まれる。
<1>
メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、
オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマーと、を含む、耐摩耗層(A)を備え、
前記メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとの重量の和は、前記耐摩耗層(A)の重量を100重量%として50重量%以上であり、
前記メタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、前記オレフィン系熱可塑性エラストマーとの重量比が、80~99:20~1である、多層シート。
<2>
ポリプロピレンまたはポリスチレンを主成分として含む、基材層(B)をさらに備える、<1>に記載の多層シート。
<3>
前記基材層(B)がポリスチレンを主成分として含む場合、前記耐摩耗層(A)と前記基材層(B)とを接着する接着層(C)をさらに備え、
前記接着層(C)は、ポリエチレン、ポリスチレン、およびスチレン系熱可塑性エラストマーを含み、
前記接着層(C)の重量を100重量%として、前記ポリエチレンの含有量は5重量%以上70重量%以下であり、前記ポリスチレンの含有量は25重量%以上92重量%以下であり、前記スチレン系熱可塑性エラストマーの含有量は3重量%以上40重量%以下である、
<2>に記載の多層シート。
<4>
前記耐摩耗層(A)は、JIS K 6253-3(2012)に準じて測定したデュロメータD硬さがD35~D65である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の多層シート。
<5>
前記耐摩耗層(A)は、JIS K 7210-1(2014)に準じて、試験温度230℃および荷重2.16kg(21.2N)の条件下で測定されるメルトマスフローレイト値が、0.5g/10min以上である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の多層シート。
<6>
<1>~<5>のいずれか1つに記載の多層シートを有する、トレイ成形用または搬送用のシート。
【実施例
【0054】
以下に、本発明の具体的な実施例を示す。ただし、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0055】
下記の構成材料を用いて、表1および2に示す組み合わせで、多層シートを作製し、以下の評価方法で評価した。
【0056】
〔実施例および比較例で用いた材料〕
(耐摩耗層)
<m-LLDPE>
・m-LLDPE(1)(MFR値0.8g/10min(190℃、21.2N)):住友化学製のスミカセンE、三井化学製のエボリュー、または日本ポリエチレン製のカーネル
・m-LLDPE(2)(MFR値1.9g/10min(190℃、21.2N)):住友化学製のスミカセンE、三井化学製のエボリュー、日本ポリエチレン製のカーネル、または宇部丸善ポリエチレン製のユメリット
・m-LLDPE(3)(MFR値2.3g/10min(190℃、21.2N)):住友化学製のスミカセンE、三井化学製のエボリュー、日本ポリエチレン製のカーネル、または宇部丸善ポリエチレン製のユメリット
なお、m-LLDPEは、K7112に準じて測定した密度が0.90kg/m~0.93kg/mのものを使用した。
<TPO(I)>
・オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO(1))(MFR値0.6g/10min(230℃、21.2N)):住友化学製のエスポレック、または三井化学製のミラストマー
・オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO(3))(MFR値17g/10min(230℃、21.2N)):住友化学製のエスポレック、または三井化学製のミラストマー
<TPO(I)以外のTPO>
・プロピレン-αオレフィン共重合体を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO(2))(MFR値30g/10min(230℃、21.2N)):住友化学製のタフセレン、三井化学製のタフマー、または三菱ケミカル製のテファブロック
(基材層)
・ポリプロピレン(PP):サンアロマー製のサンアロマー、住友化学製のノーブレン、日本ポリプロ製のノバテック、またはプライムポリマー製のプライムポリプロ
・ポリエチレン(PE):住友化学製のスミカセン、東ソー製のペトロセン、日本ポリエチレン製のノバテックLD、または宇部丸善ポリエチレン製のUBEポリエチレン
・ポリスチレン(PS):PSジャパン製のPSJ-HIPSもしくはPSJ-GPPS、またはデイ・アイ・シー製のディックスチレンHIPSもしくはディックスチレンGPPS
(接着層)
・ポリエチレン(PE):住友化学製のスミカセンもしくはスミカセンE、三井化学製のエボリュー、日本ポリエチレン製のノバテックLD、カーネル、または宇部丸善ポリエチレン製のUBEポリエチレンもしくはユメリット
・ポリスチレン(PS):PSジャパン製のPSJ-HIPSもしくはPSJ-GPPS、またはデイ・アイ・シー製のディックスチレンHIPSもしくはディックスチレンGPPS
・スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS):旭化成製のタフテックもしくはタフプレン、クラレ製のセプトンもしくはハイブラー、またはENEOSマテリアル製のTR
〔多層シートの製造方法〕
実施例および比較例において、まず、耐摩耗層調製用の材料、および基材層調製用の材料、ならびに必要に応じて接着層調製用の材料をそれぞれ以下の方法で調製した。次に、前記各材料を、それぞれ異なる押出機(日立造船製、スクリュー径φ100、およびIKG製スクリュー径φ65)に供給し、約130℃から徐々に昇温して各々押し出した。押し出された各層の材料は、Tダイの直前に設けられたフィードブロック内で合流させてからTダイへ供給し、約190℃~220℃の条件でTダイ内のシングルマニフォールドで拡幅して、多層シートを得た。
【0057】
実施例1では、m-LLDPE(1)と、TPO(1)とを、重量比99:1となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例1では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.7g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD55であった。次に、基材層の重量を100重量%として、PPを85重量%、およびPEを15重量%配合することにより、基材層調製用の材料を調製した。
【0058】
実施例2では、m-LLDPE(1)と、TPO(1)とを、重量比97:3となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例2では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.7g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD55であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0059】
実施例3では、m-LLDPE(1)と、TPO(1)とを、重量比95:5となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例3では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.6g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD55であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0060】
実施例4では、m-LLDPE(1)と、TPO(1)とを、重量比92:8となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例4では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.5g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD56であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0061】
実施例5ではm-LLDPE(1)と、TPO(1)とを、重量比90:10となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例5では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.4g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD55であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0062】
実施例6では、m-LLDPE(1)と、TPO(1)とを、重量比85:15となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例6では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.4g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD55であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0063】
実施例7では、m-LLDPE(1)と、TPO(1)とを、重量比80:20となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例7では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.3g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD54であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0064】
実施例8では、m-LLDPE(2)と、TPO(1)とを、重量比90:10となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例8では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は3.1g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD58であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0065】
実施例9では、m-LLDPE(1)、TPO(3)とを、重量比90:10となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例9では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は1.9g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD57であった。基材層については、実施例1と同じ方法で、基材層調製用の材料を調製した。
【0066】
実施例10では、m-LLDPE(3)と、TPO(3)とを、重量比92:8となるように配合し、さらに、その他添加剤として軟化剤、改質剤、滑剤、および粘着防止剤等を、耐摩耗層の重量を100重量%として、1重量%配合することにより、耐摩耗層調製用の材料を調製した。本実施例10では、m-LLDPEとTPOとの重量の和は、耐摩耗層の重量を100重量%として99重量%であった。このとき、耐摩耗層のMFR値は5.1g/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD58であった。基材層調製用の材料としてはPSを用いた。該実施例では、基材層の材料としてPSを用いたため、多層シートは、前記耐摩耗層と前記基材層との間に接着層を備える。接着層調製用の材料は、該接着層の重量を100重量%として、PEを30重量%、PSを60重量%、およびSEBSを10重量%配合することにより、調製した。
【0067】
比較例1では、耐摩耗層に配合されるm-LLDPE(1)と、TPO(1)との重量比を70:30に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。なお、耐摩耗層のMFR値は1.3/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD53であった。
【0068】
比較例2では、耐摩耗層に配合されるm-LLDPE(1)と、TPO(1)との重量比を50:50に変更したこと以外は、実施例1と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。なお、耐摩耗層のMFR値は1.1/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD50であった。
【0069】
比較例3では、耐摩耗層にオレフィン系熱可塑性エラストマーを配合しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。なお、耐摩耗層のMFR値は1.7/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD54であった。
【0070】
比較例4では、耐摩耗層にメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンを配合しなかったこと以外は、実施例1と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。なお、耐摩耗層のMFR値は0.6/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD47であった。
【0071】
比較例5では、耐摩耗層に配合されるオレフィン系熱可塑性エラストマーとして、TPO(2)を用いた。それ以外は、実施例5と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。
【0072】
比較例6では、耐摩耗層に配合されるm-LLDPE(1)と、TPO(2)との重量比を70:30に変更したこと以外は、比較例5と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。
【0073】
比較例7では、耐摩耗層に配合されるメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンとして、m-LLDPE(2)を用いたこと以外は、比較例3と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。すなわち、耐摩耗層調製用の材料にオレフィン系熱可塑性エラストマーは配合しなかった。耐摩耗層のMFR値は3.6/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD58であった。
【0074】
比較例8では、耐摩耗層に配合されるメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンとして、m-LLDPE(3)を用いたこと以外は、比較例3と同じ方法で、耐摩耗層調製用の材料および基材層調製用の材料を調製した。すなわち、耐摩耗層調製用の材料にオレフィン系熱可塑性エラストマーは配合しなかった。耐摩耗層のMFR値は4.5/10min(230℃)であり、デュロメータD硬さはD58であった。
【0075】
〔評価方法〕
(多層共押出性)
多層シートを製造する際の積層性、ロールへの貼り付き、押出機への負荷などを総合評価した。
【0076】
(評価基準)
a:巾方向、長さ方向、厚さ方向とも厚さ変動が無く、また各層の比率が全方向で均一に押出成形されており、合格である。
b:各方向の寸法変動が多い。各層の流れが不均一である。ドローダウンが発生する。等の不具合があり不合格である。
【0077】
(層間の接着性)
シート状態で切り込みを入れた後、切断端面から耐摩耗層をめくり、剥離が生じるかを確認した。
【0078】
(評価基準)
a:剥離無し
b:剥離有
(耐摩耗性)
耐摩耗性は、摩耗損失量の測定、および剥離状況の観察を行うことにより評価した。
【0079】
摩耗損失量の測定は、テスター産業(株)製のテーバー摩耗試験機(型式:AB-101)を用い、荷重:1000g、摩耗輪:CS-17、回転数:1000回転、試験片サイズ:100mm×100mmの条件で行い、摩耗量を測定した。また、耐摩耗層の剥離を目視で確認した。
【0080】
(摩耗量の評価基準)
a:摩耗損失量が15.0mg以下
b:摩耗損失量が15.0mg超
摩耗損失量が少ない程、耐摩耗性に優れており、摩耗損失量が15.0mg以下であれば、耐摩耗性が十分あると言える。また、耐摩耗層(A)の剥離(粉状の摩耗物では無く、外層が捲れあがった状態)の有無を目視で確認し、以下の評価基準で評価した。
【0081】
(評価基準)
a:剥離無し
b:剥離有り
(深絞り成形性)
真空成形性は、深絞り形状の成形にて成形性を確認することにより評価した。
【0082】
実施例および比較例の多層シートを深い絞り形状の金型を用いて真空成形し、その後、型の角部分の成形状態を確認した。金型の寸法は、入り口径×深さ=64mm×115mmであった。また、真空成形は以下の条件で行った。
【0083】
(成形条件)
加熱温度:320~350℃
加熱時間:65~70秒間
ヒータとシートとの距離:90mm
(評価基準)
a:成形品が金型表面の全域にわたり密着され、良好な形状に成形された。特に金型のコーナー部分で、シートが伸びて型に密着している。
b:金型のコーナー部分で、耐摩耗層の伸びが悪く、亀裂が発生、または密着が不十分である。
【0084】
【表1】
【0085】
【表2】
【0086】
表1および表2から、耐摩耗層におけるメタロセン系直鎖低密度ポリエチレンと、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマーとの重量比を特定の範囲とすることにより、得られる多層シートの耐摩耗層における摩耗損失量を抑えることができることが明らかになった。すなわち、本発明の一実施形態に係る多層シートであれば、耐摩耗性および成形性に優れる多層シートが得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明の一態様は、金属部品および/または重量物の運搬容器(トレイ等)等に使用されるシートの分野で好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0088】
A:耐摩耗層
B:基材層
C:接着層
【要約】
【課題】耐摩耗性が従来と同等以上であり、かつ、成形性に優れる多層シートを実現する。
【解決手段】メタロセン系直鎖低密度ポリエチレン(a)と、オレフィン系ゴムおよびオレフィン系樹脂を主成分として含むオレフィン系熱可塑性エラストマー(b)と、を含む、耐摩耗層(A)を備え、前記(a)と前記(b)との重量の和は、前記耐摩耗層(A)の重量を100重量%として50重量%以上であり、前記(a)と前記(b)との重量比は、80~99:20~1である、多層シート。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4