IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本製紙株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-07
(45)【発行日】2025-02-18
(54)【発明の名称】変性ポリオレフィン樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 23/26 20250101AFI20250210BHJP
   C08F 8/46 20060101ALI20250210BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20250210BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20250210BHJP
   C09D 11/10 20140101ALI20250210BHJP
   C09D 123/26 20060101ALI20250210BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20250210BHJP
   C09J 123/26 20060101ALI20250210BHJP
【FI】
C08L23/26
C08F8/46
C09D5/00 D
C09D7/65
C09D11/10
C09D123/26
C09J11/08
C09J123/26
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024543896
(86)(22)【出願日】2024-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2024010595
【審査請求日】2024-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2023053529
(32)【優先日】2023-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183484
【氏名又は名称】日本製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朴木 雅智
(72)【発明者】
【氏名】小野 勇
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 光
(72)【発明者】
【氏名】竹中 天斗
(72)【発明者】
【氏名】関口 俊司
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/057724(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/013085(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/090646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08F 6/00-246/00
C09D 1/00-201/10
C09J 1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された融点が100℃以下のポリオレフィン樹脂(A)がα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物により変性されてなる変性物、及び
JIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された補外融解開始温度(Tim)が120℃以上、かつJIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された補外融解終了温度(Tem)と前記補外融解開始温度(Tim)との差(Tem-Tim)が、5~20℃であり、かつJIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された融点が、140~200℃であるポリオレフィン樹脂(B)がα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物により変性されてなる変性物
を含む樹脂組成物であって、
樹脂(B)の変性物が、樹脂(A)の変性物の中に分散しており、
樹脂(B)の変性物の平均粒子径が、0.1~100μmである、樹脂組成物。
【請求項2】
α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物が、マレイン酸無水物を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物が、(メタ)アクリル酸エステルを含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
JIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された樹脂(A)の融点が、95℃以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
樹脂(A)の変性物及び樹脂(B)の変性物の質量比が、樹脂(A)の変性物:樹脂(B)の変性物=50:50~95:5である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
樹脂(A)が、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体又はこれらの混合物である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
疎水性溶剤をさらに含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~の何れか1項に記載の樹脂組成物を含むプライマー。
【請求項9】
請求項1~の何れか1項に記載の樹脂組成物を含む接着剤。
【請求項10】
請求項1~の何れか1項に記載の樹脂組成物を含む塗料。
【請求項11】
請求項1~の何れか1項に記載の樹脂組成物を含むインキ。
【請求項12】
請求項1~の何れか1項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(1)樹脂(A)及び樹脂(B)を混合物として同時にα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物で変性して前記樹脂組成物を得る工程を含むか、或いは
(2)樹脂(A)をα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物で変性して樹脂(A)の変性物を得る工程、樹脂(B)をα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物で変性して樹脂(B)の変性物を得る工程、及び得られた樹脂(A)の変性物と得られた樹脂(B)の変性物とを混合して前記樹脂組成物を得る工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性して得られる変性ポリオレフィンを含む樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン樹脂は、引張強さ、引裂強さ、衝撃強さ等の機械的性質や、耐水性、耐薬品性に優れている上、軽量かつ安価であり、成形し易いといった多くの優れた性質も有していることから、シート、フィルム、成形物等様々な用途に用いられている。しかし、ポリオレフィン樹脂は、ポリウレタン系樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂等の極性基材とは異なり非極性でかつ結晶性のため、塗装や接着が難しい場合がある。
【0003】
自動車産業においては、ポリオレフィン樹脂に対して難接着性の塗料を接着させるための付着性付与剤(自動車産業では、付着性付与剤を主成分として構成される、基材上に直接塗布される塗料のことを特にプライマー塗料という)等として、高い付着性を有するα,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性された変性ポリオレフィン樹脂が用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-279048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでに、比較的融点の高いポリオレフィン樹脂を変性させて得られる変性ポリオレフィン樹脂を用いた場合において、ポリオレフィン等の難付着性基材に対する優れた耐熱付着性を達成できることがわかっている。しかし、このような樹脂は、溶液安定性が悪く、取り扱い性に劣るという課題があった。
【0006】
本発明は、難付着性基材に対する耐熱付着性、及び溶液安定性に優れた樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を提供する。
[1] JIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された融点が100℃以下のポリオレフィン樹脂(A)がα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物により変性されてなる変性物、及び
JIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された補外融解開始温度(Tim)が120℃以上のポリオレフィン樹脂(B)がα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物により変性されてなる変性物
を含む樹脂組成物であって、
樹脂(B)の変性物が、樹脂(A)の変性物の中に分散しており、
樹脂(B)の変性物の平均粒子径が、0.1~100μmである、樹脂組成物。
[2] α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物が、マレイン酸無水物を含む、上記[1]に記載の樹脂組成物。
[3] α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物が、(メタ)アクリル酸エステルを含む、上記[1]又は[2]に記載の樹脂組成物。
[4] JIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された樹脂(B)の融点が、140~200℃である、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[5] 樹脂(A)の変性物及び樹脂(B)の変性物の質量比が、樹脂(A)の変性物:樹脂(B)の変性物=50:50~95:5である、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[6] JIS K7121-1987に準拠して、示差走査型熱量計により、10℃/分の昇温速度で測定された樹脂(B)の補外融解終了温度(Tem)と補外融解開始温度(Tim)との差(Tem-Tim)が、5~20℃である、上記[1]~[5]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[7] 疎水性溶剤をさらに含む、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
[8] 上記[1]~[7]の何れか一項に記載の樹脂組成物を含むプライマー。
[9] 上記[1]~[7]の何れか一項に記載の樹脂組成物を含む接着剤。
[10] 上記[1]~[7]の何れか一項に記載の樹脂組成物を含む塗料。
[11] 上記[1]~[7]の何れか一項に記載の樹脂組成物を含むインキ。
[12] 上記[1]~[7]の何れか一項に記載の樹脂組成物の製造方法であって、
(1)樹脂(A)及び樹脂(B)を混合物として同時にα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物で変性して前記樹脂組成物を得る工程を含むか、或いは
(2)樹脂(A)をα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物で変性して樹脂(A)の変性物を得る工程、樹脂(B)をα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物で変性して樹脂(B)の変性物を得る工程、及び得られた樹脂(A)の変性物と得られた樹脂(B)の変性物とを混合して前記樹脂組成物を得る工程を含む、樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、難付着性基材に対する優れた耐熱付着性と優れた溶液安定性とを発揮し得る樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の説明において、特に断りのない限り、「AA~BB」との記載は、「AA以上BB以下」を意味する。ここで、「AA」及び「BB」はそれぞれ数値を表し、AA<BBである。「AA」の単位は、特に断りのない限り、「BB」に付された単位と同じである。
【0010】
以下の説明において、特に断りのない限り、
用語「(メタ)アクリル酸」は、「アクリル酸」、「メタクリル酸」及びこれらの組み合わせを包含し、
用語「(メタ)アクリレート」は、「アクリレート」、「メタクリレート」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0011】
本発明は、融点が100℃以下のポリオレフィン樹脂(A)がα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性されてなる変性物、及び補外融解開始温度(Tim)が120℃以上のポリオレフィン樹脂(B)がα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性されてなる変性物を含む樹脂組成物であって、樹脂(B)の変性物が、樹脂(A)の変性物の中に分散しており、樹脂(B)の変性物の平均粒子径が、0.1~100μmである、樹脂組成物を提供する。このような樹脂組成物は、難付着性基材に対する優れた耐熱付着性と溶液安定性とを発揮し得る。
以下、樹脂(A)を、単に成分(A)ともいい、樹脂(B)を単に成分(B)ともいう。
【0012】
(1.ポリオレフィン樹脂)
本発明の樹脂組成物は、融点が100℃以下のポリオレフィン樹脂(A)がα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性されてなる変性物、及び補外融解開始温度(Tim)が120℃以上のポリオレフィン樹脂(B)がα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性されてなる変性物を含む。
【0013】
ポリオレフィン樹脂は、オレフィン(好ましくはα-オレフィン)重合体である。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテンが挙げられる。
【0014】
ポリオレフィン樹脂は、1種単独のオレフィン(好ましくはα-オレフィン)の重合体であってもよく、2種以上のオレフィン(好ましくはα-オレフィン)の共重合体であってもよい。ポリオレフィン樹脂が共重合体である場合、ポリオレフィン樹脂はランダム共重合体であってもよく、ブロック共重合体であってもよい。
【0015】
成分(A)の変性物及び成分(B)の変性物の質量比(成分(A)の変性物:成分(B)の変性物)は、好ましくは40:60~95:5であり、より好ましくは50:50~95:5であり、さらに好ましくは60:40~95:5であり、さらにより好ましくは70:30~95:5であり、特に好ましくは75:25~95:5である。
【0016】
(1-1.成分(A):融点が100℃以下のポリオレフィン樹脂)
成分(A)のポリオレフィン樹脂は、十分な付着性を発現させるという観点から、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体又はこれらの混合物が好ましい。
【0017】
ここで、「ポリプロピレン」とは、構成単位がプロピレン由来の構成単位である重合体を表す。「エチレン-プロピレン共重合体」とは、構成単位としてエチレン由来の構成単位及びプロピレン由来の構成単位を含む共重合体を表す。「プロピレン-1-ブテン共重合体」とは、構成単位としてプロピレン由来の構成単位及び1-ブテン由来の構成単位を含む共重合体を表す。「エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体」とは、構成単位としてエチレン由来の構成単位、プロピレン由来の構成単位及び1-ブテン由来の構成単位を含む共重合体を表す。樹脂本来の性能を著しく損なわない量である限り、これらの(共)重合体は、構成単位として他のオレフィン由来の構成単位を少量含有していてもよい。
【0018】
成分(A)のポリオレフィン樹脂は、全構成単位100mol%中、プロピレン由来の構成単位を15mol%以上含むことが好ましく、50mol%以上含むことがより好ましい。プロピレン由来の構成単位を上記範囲で含むと、良好な付着性を保持し得る。
【0019】
成分(A)のポリオレフィン樹脂がエチレン-プロピレン共重合体又はプロピレン-1-ブテン共重合体である場合、好ましくは、全構成単位100mol%中、エチレン由来の構成単位又は1-ブテン由来の構成単位が3~85mol%(より好ましくは3~50mol%)であり、プロピレン由来の構成単位が15~97mol%(より好ましくは50~97mol%)である。
【0020】
成分(A)のポリオレフィン樹脂の融点(Tm)の下限は、60℃以上が好ましく、80℃以上がより好ましく、90℃以上がさらに好ましく、95℃以上が特に好ましい。成分(A)のポリオレフィン樹脂の融点が上記の範囲であると、樹脂組成物をインキ、塗料等の用途に用いる際、十分な塗膜強度を発現し得る。そのため、基材との付着性が十分に発揮され得る。また、インキとして用いる際、印刷中のブロッキングを抑制し得る。成分(A)のポリオレフィン樹脂の融点(Tm)は、JIS K7121-1987に準拠して、10℃/分の昇温速度で示差走査型熱量計により測定することができる。
【0021】
成分(A)のポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは30,000以上、なお一層より好ましくは50,000以上、特に好ましくは100,000以上であり、上限は、好ましくは200,000以下、より好ましくは180,000以下、さらに好ましくは170,000以下、なお一層より好ましくは160,000以下、特に好ましくは150,000以下である。重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレンを標準物質として用いるゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定できる。
【0022】
(1-2.成分(B):補外融解開始温度が120℃以上のポリオレフィン樹脂)
成分(B)のポリオレフィン樹脂は、ポリプロピレン(プロピレン単独重合体)、エチレン-プロピレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体又はこれらの混合物が好ましい。
【0023】
成分(B)のポリオレフィン樹脂の融点(Tm)の下限は、140℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましく、155℃以上が特に好ましく、上限は、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましく、170℃以下が特に好ましい。成分(B)のポリオレフィン樹脂の融点(Tm)は、JIS K7121-1987に準拠して、10℃/分の昇温速度で示差走査型熱量計により測定することができる。
【0024】
成分(B)のポリオレフィン樹脂の補外融解開始温度(Tim)の下限は、120℃以上であり、125℃以上が好ましく、130℃以上がより好ましく、135℃以上がさらに好ましく、140℃以上が特に好ましく、上限は、200℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましく、180℃以下がさらに好ましく、170℃以下が特に好ましい。成分(B)のポリオレフィン樹脂の補外融解開始温度(Tim)は、JIS K7121-1987に準拠して、10℃/分の昇温速度で示差走査型熱量計により測定することができる。
【0025】
成分(B)のポリオレフィン樹脂の補外融解終了温度(Tem)の下限は、135℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、145℃以上がさらに好ましく、150℃以上が特に好ましく、上限は、210℃以下が好ましく、200℃以下がより好ましく、190℃以下がさらに好ましく、180℃以下が特に好ましい。成分(B)のポリオレフィン樹脂の補外融解終了温度(Tem)は、JIS K7121-1987に準拠して、10℃/分の昇温速度で示差走査型熱量計により測定することができる。
【0026】
成分(B)のポリオレフィン樹脂の補外融解終了温度(Tem)と補外融解開始温度(Tim)との差(Tem-Tim)は、5~20℃が好ましく、10~20℃がより好ましく、10~19℃がさらに好ましく、12~18℃が特に好ましい。
【0027】
成分(B)のポリオレフィン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは5,000以上、より好ましくは10,000以上、さらに好ましくは30,000以上、なお一層より好ましくは40,000以上、特に好ましくは50,000以上であり、上限は、好ましくは500,000以下、より好ましくは400,000以下、さらに好ましくは300,000以下、なお一層より好ましくは200,000以下、特に好ましくは180,000以下である。
【0028】
(2.α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性)
本発明の樹脂組成物は、例えば、
(1)成分(A)及び成分(B)を混合物として同時にα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性して本発明の樹脂組成物を得る工程を含む方法(以下「同時変性」という場合がある)、
(2)成分(A)をα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性して成分(A)の変性物を得る工程、成分(B)をα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体で変性して成分(B)の変性物を得る工程、及び得られた成分(A)の変性物と得られた成分(B)の変性物とを混合して本発明の樹脂組成物を得る工程を含む方法(以下「個別変性」という場合がある)
により製造することができる。
【0029】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性は、例えば、α,β-不飽和カルボン酸又はその誘導体を、原料となるポリオレフィン樹脂のポリオレフィン鎖に、グラフト共重合させることにより行うことができる。α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性は、溶融法を用いて行うことができる。
【0030】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性は、例えば、ポリオレフィン樹脂を加熱融解してα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体と反応させることにより実施することが好ましい。加熱融解の温度は、原料のポリオレフィン樹脂(同時変性の場合は成分(B))の融点以上であってよく、原料のポリオレフィン樹脂(同時変性の場合は成分(B))の融点以上300℃以下であることが好ましく、原料のポリオレフィン樹脂(同時変性の場合は成分(B))の融点以上250℃以下であることがより好ましく、原料のポリオレフィン樹脂(同時変性の場合は成分(B))の融点以上200℃以下であることが特に好ましい。
【0031】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性は、バンバリーミキサー、ニーダー、押出機などの機器を使用して行うことができ、押出機を用いて行うこと(押出変性で行うこと)が好ましい。
【0032】
同時変性の場合、押出変性の方法としては、例えば、原料として成分(A)及び成分(B)の混合物を押出機(例えば、同方向多軸押出機、二軸押出機)の供給部に供給し、押出機内でα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体と共に、例えば上記の加熱融解の温度にて、原料混合、溶融混練、反応、及び脱揮し、冷却し、さらに押出機の先端ダイスから出てくる樹脂を冷却(例えば水槽に浸漬)して、本発明の樹脂組成物を得る工程を含む方法であり得る。変性反応及び混練の進行は、押出機のバレルの各部位の温度、スクリュー回転数を調節することで調整できる。
【0033】
個別変性の場合、押出変性の方法としては、例えば、原料として成分(A)を押出機の供給部に供給し、押出機内でα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体と共に、例えば上記の加熱融解の温度にて、原料混合、溶融混練、反応、及び脱揮し、冷却し、さらに押出機の先端ダイスから出てくる樹脂を冷却して、成分(A)の変性物を得る工程、原料として成分(B)を押出機の供給部に供給し、押出機内でα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体と共に、例えば上記の加熱融解の温度にて、原料混合、溶融混練、反応、及び脱揮し、冷却し、さらに押出機の先端ダイスから出てくる樹脂を冷却して、成分(B)の変性物を得る工程、得られた成分(A)の変性物と得られた成分(B)の変性物とを押出機の供給部に供給し、押出機内で、例えば上記の加熱融解の温度と同様の温度にて、溶融混練し、冷却し、さらに押出機の先端ダイスから出てくる樹脂を冷却して、本発明の樹脂組成物を得る工程を含む方法であり得る。変性反応及び混練の進行は、同時変性の場合と同様、押出機のバレルの各部位の温度、スクリュー回転数を調節することで調整できる。
【0034】
α,β-不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、α,β-不飽和カルボン酸無水物、α,β-不飽和カルボン酸エステル、α,β-不飽和カルボン酸アミド、α,β-不飽和カルボン酸イミド等が挙げられる。個別変性の場合、成分(A)を変性するためのα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体と、成分(B)を変性するためのα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0035】
α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体としては、例えば、マレイン酸、無水マレイン酸(マレイン酸無水物)、フマル酸、シトラコン酸、無水シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、アコニット酸、無水アコニット酸、無水ハイミック酸、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。α,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体としては、無水マレイン酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選ばれる1種以上を含むことが好ましい。
【0036】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体は、一実施形態において、(メタ)アクリル酸エステルを含むことがより好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n-プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、2,4,6-トリメチルヘプチル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の、アルキル(メタ)アクリレートが好ましい。アルキル(メタ)アクリレートのアルキル基の炭素数は、一実施形態において、1~30が好ましく、4~20がより好ましく、8~16がさらに好ましく、10~14が特に好ましい。アルキル(メタ)アクリレートは、一実施形態において、ラウリル(メタ)アクリレートであることが最も好ましい。
【0037】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体は、一実施形態において、無水マレイン酸を含むことがより好ましい。α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体に、無水マレイン酸が含まれる場合、変性ポリオレフィン樹脂中に含まれる無水マレイン酸に由来する環状構造は、一部が加水分解されて、開環していてもよい。
【0038】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体中の無水マレイン酸の含有率は、α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の総量を100質量%とした場合、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上、特に好ましくは50質量%以上である。
【0039】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性のために使用されるα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の量は、原料のポリオレフィン樹脂100重量%に対して、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましく、10重量%以下であることが特に好ましく、その下限は、特に限定されるものではないが、0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましく、3重量%以上であることが特に好ましい。
【0040】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性は、ラジカル反応開始剤の存在下で行うことが好ましい。ラジカル反応開始剤としては、例えば、加熱時にフリーラジカルを発生させる熱重合反応開始剤であり得、例えば、有機過酸化物類及びアゾニトリル類が挙げられる。有機過酸化物類としては、例えば、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、tert-ブチルクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、ベンゾイルm-トリルパーオキサイド、ジ(m-トリル)ベンゾイル、ジラウリルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、クメンハイドロパーオキサイド、tert-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、tert-ブチルパーオキシベンゾエート、tert-ブチルパーオキシイソブチレート、tert-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、tert-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエートなどが挙げられる。アゾニトリル類としては、例えば、2,2-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)などが挙げられる。
【0041】
α,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体による変性に使用されるラジカル反応開始剤の量は、原料のポリオレフィン樹脂を100重量%として、好ましくは0.01重量%~3重量%、より好ましくは0.1重量%~2重量%である。
【0042】
本発明の樹脂組成物を得るために必要とされる原料の成分(A)の量と原料の成分(B)の量の質量比(成分(A):成分(B))は、好ましくは40:60~95:5であり、より好ましくは50:50~95:5であり、さらに好ましくは60:40~95:5であり、さらにより好ましくは70:30~95:5であり、特に好ましくは75:25~95:5である。同時変性の場合、上記の質量比で配合した成分(A)及び成分(B)の混合物を原料として使用して変性を実施し、樹脂組成物を得る。個別変性の場合、上記の質量比を、使用する原料の質量比として個別に成分(A)の変性と成分(B)の変性を実施し、得られた変性物を混合し、樹脂組成物を得る。
【0043】
本発明の樹脂組成物におけるα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体の総グラフト重量(変性度)は、成分(A)の変性物及び成分(B)の変性物の合計量を100重量%とした場合、50重量%以下であることが好ましく、30重量%以下であることがより好ましく、20重量%以下であることがさらに好ましく、10重量%以下であることが特に好ましく、その下限は、特に限定されるものではないが、0.01重量%以上であることが好ましく、0.1重量%以上であることがより好ましく、1重量%以上であることがさらに好ましい。グラフト重量(重量%)は、例えば、アルカリ滴定法、フーリエ変換赤外分光法、又はH-NMR等により求めることができる。
【0044】
(3.樹脂組成物)
本発明の樹脂組成物は、成分(B)の変性物が、成分(A)の変性物の中に分散している形態である。成分(B)の変性物は、粒子状であり得る。成分(B)の変性物は、成分(B)のポリオレフィン樹脂の未変性の樹脂と、成分(B)のポリオレフィン樹脂の変性した樹脂が、不均一に混在した粒子の形態であってもよい。
【0045】
本発明の樹脂組成物は、疎水性溶剤を含んでいていてもよい。本発明の樹脂組成物は、固体状の成分(A)の変性物の中に固体粒子状の成分(B)の変性物が分散している固体状の形態、成分(A)の変性物が溶解した溶液中に固体粒子状の成分(B)の変性物が分散している液状の形態等を包含する。
【0046】
押出変性の方法を使用して、本発明の樹脂組成物を得る場合、押出機の先端ダイスから出てくる樹脂を冷却して得られる樹脂組成物は、固体状の成分(A)の変性物の中に固体粒子状の成分(B)の変性物が分散している固体状の形態であり得る。こうして得られる固体状の樹脂組成物は、疎水性溶剤と混合することで、成分(A)の変性物が溶解した溶液中に固体粒子状の成分(B)の変性物が分散している液状の形態とすることができる。
【0047】
疎水性溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤;アセトン、メチルエチルケトン、メチルブチルケトン等のケトン系溶剤;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素系溶剤;ヘキサン、ノナン、デカン等の脂肪族炭化水素系溶剤が挙げられる。
【0048】
成分(B)の変性物の平均粒子径は、0.1~500μmであり、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1~200μm、より好ましくは0.1~100μm、さらに好ましくは0.3~50μm、さらにより好ましくは0.4~20μm、特に好ましくは0.5~10μmである。成分(B)の変性物の平均粒子径は、体積基準のメディアン径Dv50(試料体積の50%が下回る最大粒径)であり得る。成分(B)の変性物の平均粒子径は、例えば、下記試験例1のようにして測定及び算出することができる。
【0049】
本発明の樹脂組成物は、フィルム状に成形した場合に、水蒸気透過量が小さい。本発明の樹脂組成物は、厚さ30μmのフィルムとした場合の水蒸気透過率が、好ましくは15g/(m・24h)以下、より好ましくは12g/(m・24h)以下であり、通常0g/(m・24h)より大きく、0.5g/(m・24h)以上であってもよい。
水蒸気透過量は、JIS K 7129-1(感湿センサ法)に基づいて実施例の項目に記載の方法により測定しうる。
【0050】
本発明の樹脂組成物は、プライマー、接着剤、塗料又はインキに使用することができる。プライマー、接着剤、塗料又はインキは、本発明の樹脂組成物と共に、疎水性溶剤、親水性溶剤、硬化剤、接着成分、塩基性物質、乳化剤、架橋剤、希釈剤、光安定剤、紫外線吸収剤、顔料、染料、無機充填剤等の添加剤を含んでいてもよい。
【0051】
親水性溶剤としては、例えば、水;エチレングリコール等のグリコール系溶剤;メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチル-ヘキサノール等のアルコール系溶剤;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールモノエーテル系溶剤が挙げられる。溶剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
硬化剤としては、例えば、ポリイソシアネート化合物、エポキシ化合物、ポリアミン化合物、ポリオール化合物、又はそれらの官能基が保護基でブロックされた架橋剤、これらの2以上の組み合わせが挙げられる。硬化剤の含有量は、変性ポリオレフィン樹脂の含有量により適宜選択すればよい。硬化剤を用いる場合、目的に応じて有機スズ化合物、第三級アミン化合物等の触媒を併用してもよい。硬化剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
接着成分としては、例えば、ポリエステル系接着剤、ポリウレタン系接着剤、アクリル系接着剤等の公知の接着成分が挙げられる。接着成分は、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
溶剤として、例えば、水、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、ケトン系溶剤、又はエステル系溶剤を使用する場合には、樹脂組成物は塩基性物質を含むことが好ましい。これにより、pHを適切に調節し、溶剤への樹脂の分散性及び保存安定性をより高めることができる。塩基性物質としては例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、メチルアミン、プロピルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、エタノールアミン、プロパノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、2-ジメチルアミノ-2-メチル-1-プロパノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン、ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられ、好ましくはアンモニア、トリエチルアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール、モルホリン、ジメチルエタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。塩基性物質は、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
溶剤として疎水性溶剤を使用する場合、樹脂組成物は、希釈剤を含むことが好ましい。これにより、保存安定性が向上し得る。希釈剤としては、例えば、アルコール、プロピレン系グリコールエーテルが挙げられる。アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールが挙げられる。プロピレン系グリコールエーテルとしては、例えば、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコール-tert-ブチルエーテルが挙げられる。希釈剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
溶剤として疎水性溶剤を使用する場合、樹脂組成物は、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤は、樹脂組成物中に存在する、水酸基、カルボキシル基、アミノ基等の基と反応し、架橋構造を形成し得る化合物であってよく、例えば、水溶性の架橋剤、及び、架橋剤の水分散体(何らかの方法で水に分散されている状態の架橋剤)のいずれでもよい。架橋剤としては、例えば、ブロックイソシアネート化合物、脂肪族又は芳香族のエポキシ化合物、アミン系化合物、アミノ樹脂などが挙げられる。架橋剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0057】
溶剤として親水性溶剤を用いる場合には、樹脂組成物は乳化剤を含むことが好ましい。乳化剤としては例えば、ノニオン界面活性剤、アニオン界面活性剤等の界面活性剤が挙げられ、ノニオン界面活性剤が好ましい。
【0058】
ノニオン界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンポリオール、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン硬化ひまし油、ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノールアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンである。
【0059】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、メチルタウリル酸塩、スルホコハク酸塩、エーテルスルホン酸塩、エーテルカルボン酸塩、脂肪酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシドなどが挙げられる。好ましくは、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、スルホコハク酸塩である。乳化剤は、1種類単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【実施例
【0060】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において用いられる単位「部」は「重量部」を意味する。
また、特に断りのない場合、「%」は重量%を意味する。下記の説明における温度条件は、特に具体的な温度条件の指定が無い場合、常温(25℃)下であり、圧力条件は、特に具体的な圧力条件の指定が無い場合、常圧(760mmHg)下である。
【0061】
<実施例1>
成分(A)としてプロピレン-ブテン共重合体(Tm=97℃)90部、成分(B)としてポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)10部、無水マレイン酸4部、ラウリルメタクリレート4部、およびジ-tert-ブチルパーオキサイド1.5部を、反応温度170℃に設定した二軸押出機内で混練して反応を行った。押出機内にて減圧脱揮を行い、残留する未反応物を除去した。反応後に室温まで冷却し、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.0重量%であった。無水マレイン酸の総グラフト重量は、アルカリ滴定法により測定した。以下同様である。
【0062】
なお、成分(A)の融点(Tm)、並びに成分(B)の融点(Tm)、補外融解開始温度(Tim)及び補外融解終了温度(Tem)は、JIS K7121-1987に準拠して、10℃/分の昇温速度で示差走査型熱量計により測定した。
【0063】
<実施例2>
プロピレン-ブテン共重合体(Tm=97℃)の使用量を90部から80部に変更し、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)の使用量を10部から20部に変更した以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、2.9重量%であった。
【0064】
<実施例3>
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)10部の代わりに、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=164℃、Tim=153℃、Tem=170℃)10部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.4重量%であった。
【0065】
<実施例4>
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)10部の代わりに、プロピレン単独重合体(Tm=156℃、Tim=152℃、Tem=165℃)10部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.1重量%であった。
【0066】
<実施例5>
プロピレン-ブテン共重合体(Tm=97℃)の使用量を90部から100部に変更し、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物(1)を得た。プロピレン-ブテン共重合体(Tm=97℃)90部の代わりにプロピレン-エチレン共重合体(Tm=142℃、Tim=140℃、Tem=155℃)100部を使用し、ポリオレフィン系エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物(2)を得た。成分(A)の変性物として上記樹脂組成物(1)90部、成分(B)の変性物として上記樹脂組成物(2)10部を、反応温度170℃に設定した二軸押出機内で混練した。混練後に室温まで冷却し、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.0重量%であった。
【0067】
<実施例6>
ラウリルメタクリレートを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、2.9重量%であった。
【0068】
<比較例1>
プロピレン-ブテン共重合体(Tm=97℃)の使用量を90部から100部に変更し、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.1重量%であった。
【0069】
<比較例2>
プロピレン-ブテン共重合体(Tm=97℃)90部の代わりにプロピレン-エチレン共重合体(Tm=105℃)100部を使用し、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)を使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.0重量%であった。
【0070】
<比較例3>
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)10部の代わりに、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=143℃、Tim=120℃、Tem=154℃)10部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.0重量%であった。
【0071】
<比較例4>
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)10部の代わりに、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=135℃、Tim=112℃、Tem=153℃)10部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、2.9重量%であった。
【0072】
<比較例5>
ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=166℃、Tim=152℃、Tem=169℃)10部の代わりに、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー(Tm=132℃、Tim=118℃、Tem=139℃)10部を使用した以外は、実施例1と同様にして、変性ポリオレフィン樹脂組成物を得た。変性ポリオレフィン樹脂組成物における無水マレイン酸の総グラフト重量は、変性ポリオレフィン樹脂の合計量を100重量%として、3.2重量%であった。
【0073】
<試験例1:成分(B)の変性物の平均粒子径の測定及び算出>
Malvern社製 Mastersizer3000にて体積基準の粒子径分布を測定し、体積基準メディアン径Dv50(試料体積の50%が下回る最大粒径)として平均粒子径を算出した。測定サンプルとしては、分散用の溶媒(溶剤組成:メチルシクロヘキサン/メチルエチルケトン(MEK)=80/20(w/w))に、実施例及び比較例で得られた変性ポリオレフィン樹脂組成物の溶液試料(固形分:15重量%、溶剤組成:メチルシクロヘキサン/MEK=80/20(w/w))を、レーザーの散乱強度が約12%となるように加えたものを用いた。
【0074】
粒子径分布を測定するための測定サンプルにおいては、樹脂(A)の変性物は完全に溶解し、樹脂(B)の変性物が溶解せずに粒子として存在していることを、下記の手順により確認した。
遠心管(250cc)に実施例で得られた変性ポリオレフィン樹脂組成物の溶液試料(固形分:15重量%、溶剤組成:メチルシクロヘキサン/MEK=80/20(w/w))を、50g分取し、10,000rpm(遠心力15600×g)、15°Cで遠心分離を3時間行った。得られた上清と沈殿とを各々乾燥後に、示差走査熱量測定(DSC)を測定し、上清から得られた固形物からは樹脂(A)の融点ピークが、沈殿から得られた固形物(すなわち、溶解せずに粒子として存在したもの)からは樹脂(B)の融点ピークが観測された。また、同様に得られた上清と沈殿との各々についてフーリエ変換赤外分光(FT-IR)スペクトル(ATR法)を測定したところ、上清から得られた固形物および沈殿から得られた固形物のいずれにおいても、α,β-不飽和カルボン酸無水物のカルボニル基由来のピークを観測し、溶解した樹脂は樹脂(A)の変性物であること、溶解せず粒子として存在する樹脂は樹脂(B)の変性物であることを確認した。
なお、DSCによる融点の測定の詳細は、以下の通りである。
JIS K7121(1987)に準拠し、DSC測定装置(例えば、「DISCOVERY DSC2500」、ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製)を用い、約5mgの試料を150℃で10分間加熱融解状態を保持する。その後、10℃/分の速度で降温し、-50℃で5分間安定保持する。その後、10℃/分で150℃まで昇温して融解した時の融解ピーク温度を測定し、該温度を融点とする。
なお、FT-IR(ATR法)測定の詳細は、以下の通りである。FT-IR測定装置(例えば、「FT/IR-4100」、日本分光社製)にて、400~4000cm-1の赤外吸光スペクトルを観測した。解析は、付属ソフトウェア(「Spectro Manager」、日本分光社)によって行った。波数1700~1750cm-1に現れるピークを、開環したα,β-不飽和カルボン酸無水物のカルボニル基由来のピークに帰属し、波数1750~1820cm-1に現れるピークを、開環していないα,β-不飽和カルボン酸無水物のカルボニル基由来のピークに帰属した。
【0075】
<試験例2:テンシロン剥離試験による接着強度(耐熱付着性)の測定>
実施例及び比較例で得られた変性ポリオレフィン樹脂組成物の溶液試料(固形分:15%、溶剤組成:メチルシクロヘキサン/MEK=80/20(w/w))に、硬化剤としてHDIイソシアヌレート体(固形分100%、NCO含有率20%)0.52gを加えて混合し、これを接着剤としてアルミ箔上に樹脂乾燥膜厚3μmとなるように#16のマイヤーバーで塗布した。その後100℃に調温した恒温乾燥機にて塗膜を乾燥させ、塗布済みのアルミ箔を無延伸ポリプロピレン(CPP)シートと貼合し、200℃、0.1MPa、1秒の条件で熱圧着を行った後、60℃に調温した恒温乾燥機にて3日間エージングを行った。15mm幅に切り出して試験片を作製し、剥離角度180°、剥離速度100mm/min、120℃雰囲気下の条件でラミネート接着強度を測定した。
【0076】
<試験例3:溶液安定性の評価>
実施例及び比較例で得られた変性ポリオレフィン樹脂組成物の溶液試料(固形分:15%、溶剤組成:メチルシクロヘキサン/MEK=80/20(w/w))10gをスクリュー管にとり、23℃中に静置し、その溶液状態の変化を観察した。評価基準は、1日後静置後に流動性を保っているサンプルを「G」、流動性がなくゲル状又は固化しているサンプルを「NG」として評価した。
【0077】
以下の表1に、実施例1~6及び比較例1~5で使用した原料の融点、補外融解開始温度及び補外融解終了温度、並びに試験例1~3の評価結果及び測定結果をまとめる。
【0078】
<試験例4:水蒸気透過率の評価>
<評価用サンプルの作製方法>
厚さ12μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に、調製した樹脂組成物の溶液試料(固形分:15重量%、溶剤組成:メチルシクロヘキサン/MEK=80/20(w/w))をマイヤーバーで塗布し、室温で乾燥し評価用サンプルを作成した。
【0079】
<評価方法><数値の算出方法>
水蒸気透過量の測定装置にはLyssy社製L80-5000を用いた。測定条件は40℃・90%RHで塗工面が検出器側(低湿側)となるようにサンプルをセットし測定した。規格はJIS K 7129-1(感湿センサ法)に基づいて行い、水蒸気透過量測定結果を得た。
厚さ12μmのPETフィルム単膜と各評価サンプルの結果をもとに、各評価サンプル(厚さ12μmのPETフィルム/塗膜の層構成を有するサンプル)の水蒸気透過性がPETフィルムで厚さ何μmのフィルムに相当するのかを算出した。その後、算出された値と、塗工したPETフィルムの厚さ12μmとの差をとり、塗膜自体の水蒸気透過量を算出した。評価用サンプルの、実際に測定に用いた箇所の塗膜の膜厚を、CITIZEN時計株式会社製JIS式紙厚測定器MEI-10を用いて3点測定し、平均値をとり測定部の膜厚の平均を算出した。算出された塗膜自体の透過量と測定部の膜厚の平均とより、樹脂組成物が30μmのフィルムと仮定した際の水蒸気透過量(g/(m・24h))を算出した。以下の表2に試験例4の結果をまとめる。
【0080】
表1における略号は下記の意味を表す。
Tim:補外融解開始温度
Tem:補外融解終了温度
接着強度:テンシロン剥離試験接着強度
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
上記の結果より、融点が100℃以下のポリオレフィン樹脂(A)がα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性されてなる変性物、及び補外融解開始温度(Tim)が120℃以上のポリオレフィン樹脂(B)がα,β-不飽和カルボン酸及び/又はその誘導体により変性されてなる変性物を含む樹脂組成物であって、成分(B)の変性物が、成分(A)の変性物の中に分散しており、成分(B)の変性物の平均粒子径が、0.1~100μmである本発明の樹脂組成物は、難接着性基材であるポリプロピレンシート及び金属材料に対する優れた耐熱付着性と、優れた溶液安定性とを、発揮し得ることがわかる。
また、実施例に係る樹脂組成物は、水蒸気透過量が比較例1に係る樹脂組成物と比較して顕著に小さいことがわかる。
【要約】
融点が100℃以下のポリオレフィン樹脂(A)がα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される一種以上の化合物により変性されてなる変性物、及び補外融解開始温度(Tim)が120℃以上のポリオレフィン樹脂(B)がα,β-不飽和カルボン酸及びその誘導体からなる群より選択される選択される一種以上の化合物により変性されてなる変性物を含む樹脂組成物であって、樹脂(B)の変性物が、樹脂(A)の変性物の中に分散しており、樹脂(B)の変性物の平均粒子径が、0.1~100μmである、樹脂組成物。