(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】定着装置、画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20250212BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
G03G15/20 555
G03G15/20 515
G03G21/00 370
(21)【出願番号】P 2020072171
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥野 仁樹
【審査官】内藤 万紀子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-286929(JP,A)
【文献】特開2011-123274(JP,A)
【文献】特開2019-152790(JP,A)
【文献】特開2019-105797(JP,A)
【文献】特開2018-106089(JP,A)
【文献】特開2019-184951(JP,A)
【文献】特開2019-159093(JP,A)
【文献】特開2015-069092(JP,A)
【文献】特開2019-159242(JP,A)
【文献】特開2015-018286(JP,A)
【文献】特開2010-210837(JP,A)
【文献】特開2013-024893(JP,A)
【文献】特開2018-018024(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、
パッドの表面を摺動することでベルトに作用する摺動抵抗を指標する指標値を検出する検出手段と、
検出された指標値が所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組合せを、前記摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づき決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段とを備え、
前記摺動抵抗の速度依存性及び温度依存性は、ベルトの内周面に塗布された潤滑剤の潤滑性能が、速度上昇及び温度上昇に伴い低下するとの性質である
ことを特徴とする定着装置。
【請求項2】
加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、
パッドの表面を摺動することでベルトに作用する摺動抵抗を指標する指標値を検出する検出手段と、
検出された指標値が所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組合せを、前記摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づき決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段とを備え、
摺動抵抗の速度依存性は、定着温度を一定に保ち、周回速度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、
摺動抵抗の温度依存性は、周回速度を一定に保ち、定着温度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、
前記制御手段は、前記低下率に基づき、検出手段が検出した指標値を前記所定の閾値以下にまで低下させることができる、周回速度、及び/又は、定着温度の低下量を決定して、当該温度又は速度の低下量だけ、周回速度又は定着温度を低下させることで前記周回速度及び定着温度の組み合わせを決定する
ことを特徴とする記載の定着装置。
【請求項3】
前記制御手段は、第1軸を周回速度又は定着温度とし、第2軸を指標値とした直交座標系において、前記低下率を傾きとする関数をプロットして、当該関数の値が、前記所定の閾値以下となる、前記第1軸上の座標を求めることで、周回速度又は定着温度の低下量を得る
ことを特徴とする請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記検出手段は、
定着温度、及び、周回速度の組み合わせを変えて指標値の検出を複数回行って、互いに値が異なる複数の指標値を得て、
前記制御手段は、
周回速度を一定に保ち、定着温度を低下させるとの条件下で検出された指標値の差分から、摺動抵抗の温度依存性を示す低下率を算出し、
定着温度を一定に保ち、周回速度を低下させるとの条件下で検出された指標値の差分から、摺動抵抗の速度依存性を示す低下率を算出する
ことを特徴とする請求項2又は3に記載の定着装置。
【請求項5】
加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、
パッドの表面を摺動することでベルトに作用する摺動抵抗を指標する指標値を検出する検出手段と、
検出された指標値が所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組合せを、前記摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づき決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段とを備え、
摺動抵抗の速度依存性は、定着温度を一定に保ち、周回速度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、
摺動抵抗の温度依存性は、周回速度を一定に保ち、定着温度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、
前記依存性データは、前記低下率に基づき決定された、周回速度の複数の低下量、及び/又は、定着温度の複数の低下量を示すテーブルであり、
前記制御手段は、テーブルに示される低下量に基づき、周回速度又は定着温度を減少させることで前記組合せを生成する
ことを特徴とする定着装置。
【請求項6】
前記テーブルは、摺動抵抗が上昇した複数段階のそれぞれを指標する閾値を示す閾値テーブルと、各段階にまで上昇した摺動抵抗を抑制するのに必要な、周回速度及び/又は定着温度の低下量を示す低下量テーブルとで構成され、
前記制御手段は、検出手段が検出した指標値が、閾値テーブルに示される複数段階の何れに該当するかで、周回速度及び/又は定着温度の低下量を決める
ことを特徴とする請求項5に記載の定着装置。
【請求項7】
前記テーブルにおける複数段階の閾値は、温度の低下量に対応付けられた第1閾値と、速度の低下量に対応付けられた第2閾値とを含み、
第2閾値は、第1閾値よりも高い
ことを特徴とする請求項6に記載の定着装置
【請求項8】
前記テーブルにおける複数段階の閾値は、温度の低下量及び速度の低下量に対応付けられた第3閾値を含み、
第3閾値は、第2閾値よりも高い
ことを特徴とする請求項7に記載の定着装置。
【請求項9】
前記定着ニップには、定型の最大サイズのシートと、最大サイズよりも幅広の拡張サイズのシートの何れもが通紙可能であり、
前記閾値テーブルには、定型の最大サイズに対応した第1テーブルと、拡張サイズに対応した第2テーブルとがあり、
前記定着ニップを通過するシートのサイズに応じて、検出された指標値との比較に用いるべき閾値を、第1テーブル、及び、第2テーブルの何れかから選ぶ
ことを特徴とする請求項6~8の何れかに記載の定着装置。
【請求項10】
速度を優先するか品質を優先するかのユーザーの方針を記憶する記憶手段を備え、
ユーザーによりなされた方針に従い、周回速度及び定着温度のうち、一方を固定し、他方を低下させた組み合わせを生成する
ことを特徴とする請求項1~9の何れかに記載の定着装置。
【請求項11】
前記定着ニップにシートが通紙されておらず、前記ベルトが周回運動をしていない非通紙状態における検出タイミングを、指標値の検出タイミングとした検出条件を記憶する記憶手段を備え、
前記検出手段は、前記定着ニップ及び前記ベルトが非通紙状態になると、前記検出条件に示される検出タイミングが到来したかどうかの監視を行い、到来すると、前記指標値を検出する
ことを特徴とする請求項1~10の何れかに記載の定着装置。
【請求項12】
前記検出タイミングは、電源が投入され、前記加熱手段による加熱及び前記ベルトの周回によりウォームアップが終了してから所定の時間が経過した時点である
ことを特徴とする請求項11に記載の定着装置。
【請求項13】
前記検出タイミングは、加熱手段を起動してベルトの温度を目標温度まで昇温させた時点である
ことを特徴とする請求項11に記載の定着装置。
【請求項14】
前記シートの幅、前記シートの坪量、前記シートに転写される未定着画像の画像内容の何れか、又は、これらの組み合わせに応じて未定着画像をシートに定着させるための基準速度及び基準温度の設定を更に行い、
前記指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組み合わせは、前記基準速度及び基準温度を低下させることで得られる
ことを特徴とする請求項9に記載の定着装置
【請求項15】
前記定着ニップに搬送されてくるシートは、印刷ジョブに基づき未定着のトナー像が転写されたシートであり、
前記シートの幅、前記坪量、前記シートに転写される未定着画像の画像内容のうちの何れか、又は、これらの組み合わせにより、前記印刷ジョブによるシートの類型を示すテーブルを記憶する記憶手段を備え、
前記検出手段は、前記類型に該当するシートが定着ニップを通過する際、前記指標値を検出する
ことを特徴とする請求項14に記載の定着装置。
【請求項16】
前記テーブルに示される類型に該当するシートが定着ニップを通過する度に、前記テーブルにおける類型のうち、前記定着ニップを通過したものの利用頻度を更新する更新手段を備え、
前記検出手段は、前記定着ニップが、利用頻度が最も高い類型に該当するシートが搬送された際、前記
印刷ジョブの実行中、及び/又は、前記
印刷ジョブの実行後に指標値を検出する
ことを特徴とする請求項15に記載の定着装置。
【請求項17】
前記駆動手段は駆動モーターであり、
前記指標値は、前記ベルトに駆動力を印加する際、駆動モーターの回転軸に作用するトルクであり、
前記検出手段は、前記駆動モーターに流れるモーター電流の電流量を変換して、変換したトルクの大きさを前記指標値とする
ことを特徴とする請求項1~16の何れかに記載の定着装置。
【請求項18】
前記加圧部材は、ローラー部材であり、
前記ベルトの周回は、前記駆動モーターがローラー部材を回転させることによる従動運動であり、
前記制御手段は、ローラー部材を回転させる際にモーター電流の電流量を用いて、ベルトの周回速度を一定に保つフィードバック制御を行う
ことを特徴とする請求項17に記載の定着装置。
【請求項19】
加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、
パッドの表面を摺動することでベルトに作用する摺動抵抗を指標する指標値を検出する検出手段と、
検出された指標値が所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組合せを、前記摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づき決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段と、
前記定着ニップを通過したシートの先端を検出してから当該シートの後端を検出するまでの1枚のシートの通過時間をカウントするカウンターとを備え、
前記指標値は、前記カウンターによりカウントされるシート通過時間である
ことを特徴とする定着装置。
【請求項20】
加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、
前記定着ニップを通過したシート枚数をカウントするカウンターと、
前記カウンターによりカウントされるシート枚数に換算係数を乗ずることで
トルクを検出する検出手段と、
検出されたトルクが所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、
前記パッドの摺動によりベルトに作用する摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づいて、
前記摺動抵抗を指標するトルクが閾値以下となるまでベルトの周回速度及び定着温度の何れか一方又は双方を低下させた周回速度及び定着温度の組合せを決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする定着装置。
【請求項21】
加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、
前記ベルトの走行距離をカウントする距離カウンターと、
前記距離カウンターによりカウントされる走行距離に換算係数を乗ずることで
トルクを検出する検出手段と、
検出されたトルクが所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、
前記パッドの摺動によりベルトに作用する摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づいて、
前記摺動抵抗を指標するトルクが閾値以下となるまでベルトの周回速度及び定着温度の何れか一方又は双方を低下させた周回速度及び定着温度の組合せを決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段と
を備えることを特徴とする定着装置。
【請求項22】
加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、
パッドの表面を摺動することでベルトに作用する摺動抵抗を指標する指標値を検出する検出手段と、
検出された指標値が所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組合せを、前記摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づき決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段と
前記定着ニップに向かって搬送されるシートの搬送路近傍に配され、ニップを通過するシートの定着ニップよりも搬送方向上流側のシート部分に生じる撓み量を検出する撓み量センサーとを備え、前記指標値は、検出された撓み量である
ことを特徴とする定着装置。
【請求項23】
前記ベルトの内周面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材
を備えることを特徴とする請求項1~22の何れかに記載の定着装置。
【請求項24】
請求項1~23の何れかに記載された定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項25】
速度を優先するか品質を優先するかの設定を受け付ける受付手段を備え、
前記制御手段は、ユーザーによりなされた設定に従い、周回速度及び定着温度のうち、一方を固定し、他方を低下させた組み合わせを生成する
ことを特徴とする請求項24に記載の画像形成装置。
【請求項26】
前記受付手段は更に、速度及び品質を両立するとの設定を受け付け、
前記制御手段は、速度及び品質を両立するとの設定を受付手段が受け付けた場合、周回速度及び定着温度の双方を低下させた組み合わせを生成する
ことを特徴とする請求項25に記載の画像形成装置。
【請求項27】
前記所定の閾値を増減する操作を受け付ける受付手段を備える
ことを特徴とする請求項24に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
シートに転写されたトナー像を加熱、加圧により定着する定着装置、及び、そのような定着装置を備えた画像形成装置に関し、特に、シートの加圧に、パッドを用いた構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
シートの加圧に、パッドを用いた構成の定着装置は、小型低熱容量でありながら、搬送方向におけるニップの長さを大きく確保でき、エネルギー効率が高いという長所を有する。パッドを用いた構成の従来の定着装置は、加熱手段により加熱される定着ベルト、定着ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、定着ベルトを介してパッドを押圧する加圧部材、定着ベルトの内周面に潤滑剤を供給する潤滑剤供給部材を含む。潤滑剤供給部材を用いる構成例の他、定着装置の製造段階で定着ベルトの内周面に潤滑剤を塗布して定期的に注油する構成の定着装置も、従来から存在する。
【0003】
潤滑剤には、液体のもの、半固体のもの、個体のものがある。これらのうち、液体の潤滑剤は潤滑油であり、半固体の潤滑剤は、グリース(原料基油と増長剤とから組成される)を液体に溶かした溶液である。個体の潤滑剤は、二硫化モリブデン、グラファイト等からなる添加剤である。これらにより、定着ベルトがパッドを摺動する際の摺動抵抗が低減して、定着ベルトは安定した周回運動を行うようになり、ニップを通過するシートの搬送速度が安定して定着性が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-214456号公報
【文献】特開2008-298935号公報
【文献】特開2005-202174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
潤滑剤供給部材を設けた構成の定着装置、定着ベルトの内面に潤滑剤を塗布して注油を行う構成の定着装置の何れについても、潤滑性能を維持するには、相応の周期で潤滑剤を交換する必要がある。潤滑油や溶媒の枯渇等を定期的に補えば、潤滑剤は安定した潤滑性能を維持するからである。しかし、画像形成装置が長く使用されると、潤滑性能の低下速度が早まり、交換周期が徐々に短くなってゆく。使用が長期にわたると、定着ベルトの摩耗により生じた基材の微粒子が潤滑剤に混入し、その他、潤滑剤の蒸発や成分劣化が生じて潤滑剤劣化が急速に進行するからである。以上のように従来の定着装置は、画像形成装置が長く使用された際の潤滑剤の交換周期の短期化が、メンテナンス担当者の負担を増大させるという問題がある。
【0006】
本開示の目的は、画像形成装置が長期にわたり使用された場合でも、潤滑剤の交換周期を長くすることができる定着装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、パッドの表面を摺動することでベルトに作用する摺動抵抗を指標する指標値を検出する検出手段と、検出され
た指標値が所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組合せを、前記摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づき決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段とを備え、前記摺動抵抗の速度依存性及び温度依存性は、ベルトの内周面に塗布された潤滑剤の潤滑性能が、速度上昇及び温度上昇に伴い低下するとの性質であることを特徴とする定着装置により解決される。
【0008】
ここで摺動抵抗の速度依存性は、定着温度を一定に保ち、周回速度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、摺動抵抗の温度依存性は、周回速度を一定に保ち、定着温度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、前記制御手段は、前記低下率に基づき、検出手段が検出した指標値を前記所定の閾値以下にまで低下させることができる、周回速度、及び/又は、定着温度の低下量を決定して、当該温度又は速度の低下量だけ、周回速度又は定着温度を低下させることで前記周回速度及び定着温度の組み合わせを決定してもよい。
【0009】
前記制御手段は、第1軸を周回速度又は定着温度とし、第2軸を指標値とした直交座標系において、前記低下率を傾きとする関数をプロットして、当該関数の値が、前記所定の閾値以下となる、前記第1軸上の座標を求めることで、周回速度又は定着温度の低下量を得てもよい。
【0010】
前記検出手段は、定着温度、及び、周回速度の組み合わせを変えて指標値の検出を複数回行って、互いに値が異なる複数の指標値を得て、前記制御手段は、周回速度を一定に保ち、定着温度を低下させるとの条件下で検出された指標値の差分から、摺動抵抗の温度依存性を示す低下率を算出し、定着温度を一定に保ち、周回速度を低下させるとの条件下で検出された指標値の差分から、摺動抵抗の速度依存性を示す低下率を算出してもよい。
【0011】
摺動抵抗の速度依存性は、定着温度を一定に保ち、周回速度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、摺動抵抗の温度依存性は、周回速度を一定に保ち、定着温度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率であり、前記依存性データは、前記低下率に基づき決定された、周回速度の複数の低下量、及び/又は、定着温度の複数の低下量を示すテーブルであり、前記制御手段は、テーブルに示される低下量に基づき、周回速度又は定着温度を減少させることで前記組み合わせを生成してもよい。
【0012】
前記テーブルは、摺動抵抗が上昇した複数段階のそれぞれを指標する閾値を示す閾値テーブルと、各段階にまで上昇した摺動抵抗を抑制するのに必要な、周回速度及び/又は定着温度の低下量を示す低下量テーブルとで構成され、
前記制御手段は、検出手段が検出した指標値が、閾値テーブルに示される複数段階の何れに該当するかで、周回速度及び/又は定着温度の低下量を決めてもよい。
【0013】
前記テーブルにおける複数段階の閾値は、温度の低下量に対応付けられた第1閾値と、速度の低下量に対応付けられた第2閾値とを含み、第2閾値は、第1閾値よりも高くしてもよい。
【0014】
前記テーブルにおける複数段階の閾値は、温度の低下量及び速度の低下量に対応付けられた第3閾値を含み、第3閾値は、第2閾値よりも高くしてもよい。
【0015】
前記定着ニップには、定型の最大サイズのシートと、最大サイズよりも幅広の拡張サイズのシートの何れもが通紙可能であり、
前記閾値テーブルには、定型の最大サイズに対応した第1テーブルと、拡張サイズに対応した第2テーブルとがあり、前記定着ニップを通過するシートのサイズに応じて、検出された指標値との比較に用いるべき閾値を、第1テーブル、及び、第2テーブルの何れかからえらんでもよい。
【0016】
速度を優先するか品質を優先するかのユーザーの方針を記憶する記憶手段を備え、ユーザーによりなされた方針に従い、周回速度及び定着温度のうち、一方を固定し、他方を低下させた組み合わせを生成してもよい。
【0017】
前記定着ニップにシートが通紙されておらず、前記ベルトが周回運動をしていない非通紙状態における検出タイミングを、指標値の検出タイミングとした検出条件を記憶する記憶手段を備え、前記検出手段は、前記定着ニップ及び前記ベルトが非通紙状態になると、前記検出条件に示される検出タイミングが到来したかどうかの監視を行い、到来すると、前記指標値を検出してもよい。
【0018】
前記検出タイミングは、電源が投入され、前記加熱手段による加熱及び前記ベルトの周回によりウォームアップが終了してから所定の時間が経過した時点としてもよい。
【0019】
前記検出タイミングは、加熱手段を起動してベルトの温度を目標温度まで昇温させた時点としてもよい。
【0020】
前記シートの幅、前記シートの坪量、前記シートに転写される未定着画像の画像内容の何れか、又は、これらの組み合わせに応じて未定着画像をシートに定着させるための基準速度及び基準温度の設定を更に行い、前記指標値が閾値以下となる周回速度及び定着温度の組み合わせは、前記基準速度及び基準温度を低下させることで得てもよい。
【0021】
前記ニップに搬送されてくるシートは、印刷ジョブに基づき未定着のトナー像が転写されたシートであり、前記シートの幅、前記坪量、前記シートに転写される未定着画像の画像内容のうちの何れか、又は、これらの組み合わせにより、前記印刷ジョブによるシートの類型を示すテーブルを記憶する記憶手段を備え、前記検出手段は、前記類型に該当するシートが定着ニップを通過する際、前記指標値を検出してもよい。
【0022】
前記テーブルに示される類型に該当するシートが定着ニップを通過する度に、前記テーブルにおける類型のうち、前記定着ニップを通過したものの利用頻度を更新する更新手段を備え、前記検出手段は、前記定着ニップが、利用頻度が最も高い類型に該当するシートが搬送された際、前記当該ジョブの実行中、及び/又は、当該ジョブの実行後に指標値を検出してもよい。
【0023】
前記駆動手段は駆動モーターであり、前記指標値は、前記ベルトに駆動力を印加する際、駆動モーターの回転軸に作用するトルクであり、前記検出手段は、前記駆動モーターに流れるモーター電流の電流量を変換して、変換したトルクの大きさを前記指標値としてもよい。
【0024】
前記加圧部材は、ローラー部材であり、前記ベルトの周回は、前記駆動モーターがローラー部材を回転させることによる従動運動であり、前記制御手段は、ローラー部材を回転させる際にモーター電流の電流量を用いて、ベルトの周回速度を一定に保つフィードバック制御を行ってもよい。
【0025】
前記定着ニップを通過したシートの先端を検出してから当該シートの後端を検出するまでの1枚のシートの通過時間をカウントするカウンターを備え、前記指標値は、前記カウンターによりカウントされるシート通過時間としてもよい。
【0026】
上記課題は、加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、前記定着ニップを通過したシート枚数をカウントするカウンターと、
前記カウンターによりカウントされるシート枚数に換算係数を乗ずることでトルクを検出する検出手段と、検出されたトルクが所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、前記パッドの摺動によりベルトに作用する摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づいて、前記摺動抵抗を指標するトルクが閾値以下となるまでベルトの周回速度及び定着温度の何れか一方又は双方を低下させた周回速度及び定着温度の組合せを決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする定着装置により解決してもよい。
【0027】
上記課題は、加熱手段により加熱されるベルト、ベルトの周回経路の内側に配されたパッド、周回経路の外側に配され、ベルトを挟んで、パッドを押圧する加圧部材を含み、ベルトと、加圧部材との間に定着ニップを形成した定着装置であって、前記ベルトの走行距離をカウントする距離カウンターと、前記距離カウンターによりカウントされる走行距離に換算係数を乗ずることでトルクを検出する検出手段と、検出されたトルクが所定の閾値を上回るかどうかを判定して上回る場合、前記パッドの摺動によりベルトに作用する摺動抵抗が速度依存性及び温度依存性を有することを示す依存性データに基づいて、前記摺動抵抗を指標するトルクが閾値以下となるまでベルトの周回速度及び定着温度の何れか一方又は双方を低下させた周回速度及び定着温度の組合せを決定し、決定した組合せを用いてベルトの駆動手段及び加熱手段を制御する制御手段とを備えることを特徴とする定着装置により解決してもよい。
【0028】
前記ニップに向かって搬送されるシートの搬送路近傍に配され、ニップを通過するシートの定着ニップよりも搬送方向上流側のシート部分に生じる撓み量を検出する撓み量センサーを備え、前記指標値は、検出された撓み量としてもよい。
【0030】
ベルト内周面に潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布部材を備えていてもよい。
【0031】
また、これらの定着装置を備えることを特徴とする画像形成装置により上記課題を解決してもよい。
【0032】
速度を優先するか品質を優先するかの設定を受け付ける受付手段を備え、前記制御手段は、ユーザーによりなされた設定に従い、周回速度及び定着温度のうち、一方を固定し、他方を低下させた組み合わせを生成してもよい。
【0033】
前記受付手段は更に、速度及び品質を両立するとの設定を受け付け、前記制御手段は、速度及び品質を両立するとの設定を受付手段が受け付けた場合、周回速度及び定着温度の双方を低下させた組み合わせを生成してもよい。
【0034】
前記所定の閾値を増減する操作を受け付ける受付手段を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0035】
ベルト内周面に塗布された潤滑剤の劣化が進行した場合でも、摺動抵抗の速度依存性及び温度依存性を有していることを示す依存性データに基づき周回速度、定着温度の組み合わせを決定する。こうした組み合わせの定着温度を用いて制御手段が加熱手段を制御することで潤滑剤の粘性等を回復させ、また、当該組み合わせの周回速度を用いてベルトの駆動手段を制御することでベルト内周面に形成された潤滑剤の膜切れを解消する。これら粘性回復、膜切れ解消を通じて潤滑性能を向上させることができる。これにより、定着性を維持しつつも、潤滑剤の交換周期を長くして、メンテナンス担当者による来訪回数を少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】電子写真方式の画像形成を行うための複数の機構部を示す。
【
図3】
図3(a)は、定着器制御ブロック210の構成を示す。
図3(b)は、モーター回路ブロック301の構成を示し、
図3(c)は、ヒーター回路ブロック302の構成を示す。
【
図4】
図4(a)は、測定条件テーブル305を示し、
図4(b)は、閾値テーブルを示す。
【
図5】定着器制御ブロック210による処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】定着温度の変化を優先させて、周回速度、定着温度の低下量を決定する場合の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】
図7(a)~(d)は、定着温度の変化を優先させて、周回速度、定着温度の低下量を決定する場合の処理過程を示す。
【
図8】
図8(a)は、使用期間の経過に伴う摺動抵抗の増加を示し、
図8(b)は、摺動抵抗の温度依存性を示す。
【
図9】
図9(a)~(c)は、定着温度を固定し、周回速度を下降させる場合の組み合わせ決定の過程を示す。
【
図10】選択項目の1つとして速度/光沢を設定するためのタブ700を含む設定画面を示す。
【
図11】
図11(a)は、A3用紙を通紙した状態の定着ベルト141、加圧ローラー142、加熱ローラー143、パッド部材146の上面図、
図11(b)は、SRA3用紙を通紙した状態の定着ベルト141、加圧ローラー142、加熱ローラー143、パッド部材146の上面図である。
【
図12】閾値テーブル801~803、低下量テーブル811~813の一例を示す。
【
図13】第2実施形態にかかる定着器制御ブロック210の処理手順のメインルーチンである。
【
図14】閾値テーブル801~803、低下量テーブル811~813を用いた周回速度、定着温度の低下量決定手順を表すフローチャートである。
【
図15】画像形成装置1000の本体側の制御系統を示す。
【
図16】使用状態記録テーブル900の一例を示す。
【
図17】第3実施形態にかかる定着器制御ブロック210の処理手順のメインルーチンである。
【
図18】使用状態記録テーブル900を対象とした、利用頻度更新手順を表したフローチャートである。
【
図19】摺動抵抗を測定すべき使用状態の指定を受け付けるための設定画面を示す。
【
図20】レベル調整のため、タッチパネルディスプレイ1001に表示される設定画面を示す。
【
図21】周回速度と、定着温度との関係を表したグラフを示す。
【
図22】画像形成装置1000の本体側に設けられた排出センサー251、アクチェエーター241を示す。
【発明を実施するための形態】
【0037】
[1]第1実施形態
以下、図面を参照しながら、本開示にかかる画像形成装置の第1実施形態について説明する。
【0038】
(1-1)画像形成装置の外観
図1は、画像形成装置1000の外観を示す。
図1に示す画像形成装置1000は、多機能複合機 (Multifunction Peripheral)であり、タッチパネルディスプレイ1001によりジョブの設定を受け付けた上、スキャナー1004により原稿画像を光学的に読み取り、給紙カセット1002a、b、c、dから繰り出された用紙に、上記設定に従った画像を形成して排出トレイ1003に排出する。
【0039】
(1-2)画像形成装置1000の構成
画像形成装置1000は、電子写真方式の画像形成を行うための複数の機構部として、
図2に示すように、スキャナー1004が読み取った画像に基づき感光体ドラム109Y、M、C、Kを露光して静電潜像を得る露光器110Y、M、C、K、感光体ドラム109Y、M、C、Kに得られた静電潜像を現像してトナー像を得る現像器111Y、M、C、K、給紙カセット1002a、b、c、d(
図2では給紙カセット1002b、c、dを省略し、給紙カセット1002aのみを示す)から用紙を繰り出して搬送する搬送部113、現像で得られたトナー像を中間転写ベルト112Nに転写して2次転写位置112Pに搬送し、2次転写位置112Pにおいて用紙に転写する転写器112、用紙に転写されたトナー像を熱圧着した後、排出口119から排出する定着器114を含む。
図2において、感光体ドラム109Y、M、C、K、露光器110Y、M、C、K、現像器111Y、M、C、K、転写器112、搬送部113が画像形成装置1000の本体となる画像形成部を構成する。
【0040】
定着器114は、定着ベルト141、加圧ローラー142、加熱ローラー143、潤滑剤供給部材144により構成される。
【0041】
定着ベルト141は、加熱ローラー143、ガイド部材145及びパッド部材146に巻きかけられている、
加圧ローラー142は、定着ベルト141越しにパッド部材146を加圧することで幅広の定着ニップ142Nを構成する。定着ニップ142Nを構成した状態で、定着モーター114Mから回転駆動力が印加されることで、加圧ローラー142は矢印C回りに回転する。加圧ローラー142の回転に伴い、定着ベルト141は、矢印Bの方向に周回移動する。
【0042】
加熱ローラー143は、定着ベルト141を通じて加圧ローラー142から回転駆動力を受けることで従動回転する。加熱ローラー143には、熱源となるハロゲンヒーター114Hが内挿されている。ハロゲンヒーター114Hが加熱を開始すると、定着ベルト141による熱伝導により、加熱ローラー143が加熱される。ハロゲンヒーター114Hによる発熱と、加熱ローラー143の従動回転とを繰り返すと、ハロゲンヒーター114Hが発した熱量は加圧ローラー142の周面に行き渡るようになり、加圧ローラー142の周面の温度は上昇してゆく。
【0043】
潤滑剤供給部材144は、潤滑剤を含有した多孔質材料であり、ガイド部材145の背面に形成された溝部145Hに挿入されている。潤滑剤供給部材144が定着ベルト141のベルト内面と接すると、潤滑剤供給部材144が弾性変形して、潤滑剤供給部材144に含有されている潤滑剤が染み出て、定着ベルト141の内周面には潤滑剤が塗布される。定着ベルト141のベルト内面に潤滑剤が潤沢に塗布され、相応の厚みを持った潤滑剤の膜がベルト内面に形成されていると定着ベルト141が、ガイド部材145、パッド部材146から受ける摺動抵抗が少なくなって、定着ベルト141は、スムーズに周回する。
【0044】
[2]定着器制御ブロック210の制御系統
定着器114の制御系統である定着器制御ブロックの構成を説明する。
図3(a)に示す定着器制御ブロック210は、モーター回路ブロック301、ヒーター回路ブロック302、マイコンシステム303を含む。この定着器制御ブロック210と、定着器114とが、定着装置を構成する。
【0045】
(2-1)モーター回路ブロック301
モーター回路ブロック301は、2次転写位置112Pを通過して定着ニップ142Nに送り込まれる用紙の搬送速度と同じ速度で周回するよう、定着モーター114Mによる回転を制御する。定着ベルト141を周回させるにあたって、定着モーター114Mの回転軸には、回転を静止させようとする力(一般に負荷トルクと呼ばれる。以下、トルクと略す)が作用する。
【0046】
モーター回路ブロック301は、
図3(b)に示すPWM波形回路311、モーター制御回路312、モーター駆動回路313、電流量検出回路314を含み、トルクの変動に拘わらず、定着ベルト141の周回速度が、上記用紙の搬送速度と同じ速度を保つためのフィードバック制御を行う。
【0047】
具体的にいうと、電流量検出回路314が、3相ブラシレスモーターである定着モーター114MのU相、V相、W相に流れる電流(モーター電流)の電流量を検出してモーター制御回路312に帰還し、モーター制御回路312が、かかるモーター電流の電流量に応じた通電幅を示すパラメーターをPWM波形回路311に出力する。PWM波形回路311が、出力されたパラメーターに応じたデューティ比のPMM波形を生成してモーター駆動回路313に出力する。モーター駆動回路313は、PWM波形に従い、定着モーター114Mの巻き線を通電する。回転軸を静止させようとする力としては、加圧ローラー142の周面に作用する摩擦力や定着ニップ142Nを通過しようとする用紙の摩擦力、パッド部材146から定着ベルト141に作用する摺動抵抗がある。
【0048】
定着モーター114Mの回転軸に作用するトルクと、摺動抵抗とには線形的な関係があり、摺動抵抗が増加すれば、それに伴ってトルクも増加する。そうした関係が認められるので、定着器制御ブロック210は、電流量検出回路314が検出した電流量をマイコンシステム303に出力する。
【0049】
一方、モーター電流の電流量を、トルク値に換算するための換算係数は、定着モーター114Mのメーカーから供給される。マイコンシステム303が、電流量検出回路314によって検出された電流量に、当該換算係数を乗ずるという換算演算を行えば、マイコンシステム303は、定着モーター114Mの回転軸に作用するトルクを算出することができる。こうしたトルクの算出により、パッド部材146の摺動時に定着ベルト141に作用する摺動抵抗を指標させる。
【0050】
(2-2)ヒーター回路ブロック302
ヒーター回路ブロック302は、2次転写位置112Pから送り込まれた用紙が、定着ニップ142Nを通過する際、2次転写位置112Pで転写されたトナー像を構成するトナー粒子を溶融させ、トナー像が用紙に定着するよう、加熱ローラー143に内挿されたハロゲンヒーター114Hの加熱を制御する。トナー粒子の溶融に必要となる熱量は、用紙の単位面積当たりの重さ(坪量)や用紙の搬送速度に応じて変わってくる。また、用紙が定着ニップ142Nを通過する度に、それまで定着ベルト141に蓄積されていた熱量が一部奪われるので、用紙通過により奪われた熱量を補う必要がある。
【0051】
そこでヒーター回路ブロック302は、
図3(c)に示すPWM波形回路321、ヒーター制御回路322、ヒーター駆動回路323、温度センサー114Sを含み、通紙により奪われた熱量を補い、トナー像の定着に必要な温度(定着温度)を保つためのフィードバック制御を行う。具体的にいうと、温度センサー114Sが定着ベルト141の周辺位置における温度を検出してヒーター制御回路322に帰還し、ヒーター制御回路322が、検出温度に応じた通電幅を示すパラメーターをPWM波形回路321に出力する。PWM波形回路321は、出力されたパラメーターに応じたPMM波形を生成して、ハロゲンヒーター114Hを通電する。
【0052】
(2-3)マイコンシステム303
マイコンシステム303は、CPU303C、不揮発メモリ303F、コードROM303I、RAM303Rによって構成され、電流量検出回路314が検出した電流量に基づき算出されたトルクに基づき、定着ベルト141の周回速度を低下させるかどうか、ハロゲンヒーター114Hが加熱を行うための定着温度を低下させるかどうかを決定する。
【0053】
トルクによって指標される摺動抵抗は、日々の使用によって増大してゆく。マイコンシステム303のCPU303Cは、命令ROM303IからRAM303Rにプログラムを読み出し、実行することで、周回速度及び定着温度の組み合わせを変えた複数の条件下でトルクの算出を行う。
【0054】
複数条件下で算出されたトルクが閾値を上回る場合、複数条件下で算出されたトルクにもとづき、周回速度及び定着温度の新たな組み合わせを決定して、そうした組合せにおける周回速度、定着温度をモーター回路ブロック301、ヒーター回路ブロック302に指示することで、加熱ローラー143による加熱、定着モーター114Mによる回転を制御する。
【0055】
マイコンシステム303の不揮発メモリ303Fには、摺動抵抗の測定条件を定める測定条件テーブル305と、定着モーター114Mのモーター電流から算出されるトルクと比較されるべき閾値を示す閾値テーブル306とが記録されている。
【0056】
(2-4)測定条件テーブル305
測定条件テーブル305は、
図4(a)に示すようにタイミング条件305T、組合せ条件305Cを含む。
【0057】
タイミング条件305Tは、始業から終業までの画像形成装置1000の一日の稼働サイクルにおいて、定着モーター114Mに作用するトルクをいつ測定するかを示す。
図4(a)においては、画像形成装置1000の主電源が投入されて最初のジョブの実行が終了した後、一定の時間(
図4(a)では、一例として300秒を示す。)が経過した時点を定着器114の定着モーター114Mの回転軸に作用するトルクの測定タイミングとして示す。
【0058】
組合せ条件305Cは、モーター回路ブロック301に設定すべき定着ベルト141の周回速度と、ヒーター回路ブロック302に設定すべき定着温度との複数の組み合わせを示す。
図4(a)の組合せ条件305Cは、こうした複数の組み合わせとして、全速である330mm/sの周回速度と、普通紙の定着温度である160℃との組合せ331、同じ330mm/sの周回速度と、当該定着温度よりも15℃だけ低い145℃との組合せ332、半速である165mm/sの周回速度と、160℃との組合せ333、同じ165mm/sの周回速度と、当該定着温度よりも15℃低い145℃との組合せ334を含む。この330mm/sという周回速度は、画像形成装置1000における普通紙の搬送速度である。また160℃は、この普通紙を対象とした定着温度である。周回速度、定着温度が異なる4つの組み合わせについてトルクを算出することで、周回速度を半速から全速まで上昇させた場合、定着温度を145℃から160℃まで上昇させた場合におけるトルクと温度との関係、トルクと速度との関係が明らかになる。かかる関係から、トルクの速度依存性、温度依存性を示す依存性データを生成する。
【0059】
組合せ条件305Cに示される4つの組合せ331~334は、周回速度、定着温度の組み合わせが異なるから、4つの組合せ331~334に従い算出されるトルクは、互いに異なった値となる。
図4(b)に示す閾値テーブル306は、定着ベルト141の耐久が末期(ライフエンド)になった際、定着モーター114Mの回転軸に作用するトルク(1.1N・m)よりも、やや低目の値を閾値として示す。具体的にいうと、かかるライフエンド時のトルクから0.1N・mを差し引いた1.0N・mというトルクの値を示す。トルクの値と、測定条件テーブル305の組合せ条件305Cに従い、摺動抵抗の4回の測定で算出されたトルクの値とを比較することで、周回速度の低下、定着温度の低下により、潤滑剤の潤滑性能を回復させる余地があるか、サービスマンによる潤滑剤の交換が必要かどうかの判定が可能となる。
【0060】
[3]定着器114による制御内容
コードROM303Iには、
図5、
図6のフローチャートに示される一連の手順をCPU303Cに実行させるプログラムが格納される。以下、
図5、
図6を参照しながら、定着器制御ブロック210が実行する制御内容を説明する。
【0061】
(3-1)メインルーチン
図5のメインルーチンが起動されると、ステップS101、及び、ステップS102からなるループに移行する。ステップS101は、測定条件テーブル305に示される摺動抵抗のタイミング条件305Tに示される時期が到来したかどうか、ステップS102は、画像形成装置1000の本体側の待ち行列メモリ(
図15参照)にジョブデータが蓄積されたかどうかを判定である。
【0062】
(3-2)測定条件に従ったトルクの測定
測定条件テーブル305に示される摺動抵抗のタイミング条件305Tは、主電源が投入された後、最初のジョブデータが実行され、当該ジョブデータによって選択された用紙に転写されたトナー像の定着が全て完了して、定着ベルト141の周回が停止し、定着ニップ142Nに用紙が通紙されていない非通紙状態になってから300秒が経過したというものである。測定タイミングが到来した場合(ステップS101でYes)、測定条件テーブル305に記載された組合せ条件305Cに従い、定着モーター114Mに作用するトルクを算出する。具体的にいうと、半速及び145℃の組み合わせ、及び、全速及び145℃の組み合わせでハロゲンヒーター114Hの加熱、定着モーター114Mの回転を行わせる。その後、全速及び160℃の組み合わせ、及び、半速及び160℃の組み合わせでハロゲンヒーター114Hの加熱、定着モーター114Mの回転を行わせる。この際、周回速度のPID制御のためモーター回路ブロック301のモーター駆動回路313からモーター制御回路312にフィードバックされるモーター電流の電流量にローラー・モーターの換算係数を乗ずることで、定着モーター114Mの回転軸に作用するトルクを測定する。
【0063】
(3-3)測定されたトルクと、閾値との比較
続いて、半速及び145℃の定着温度の組み合わせで測定されたトルクは、閾値テーブル306に記載された閾値(1.0N・m)を上回ったかどうかを判定する(ステップS104)。半速及び145℃で測定されたトルクが当該閾値を上回った場合(ステップS104でYes)、もはや周回速度、定着温度を改善する余地はない。この状態を放置すると、定着ベルト141の周回速度が、加圧ローラーの回転速度よりも大きく遅れるようになり、加圧ローラー142のみが回転するという空回りが起きる。こうした加圧ローラー142の空回りで、定着ニップ142Nに送り込まれた用紙がスリップすると用紙が大きく撓み、紙詰まりを招く。また、スリップした用紙に転写された未定着のトナー像がガイド板に接触することでトナーずれが生じ、画像不良を招く。そこで、定着ベルト141に関するトラブルコードをタッチパネルディスプレイ1001に表示させ、サービスマンコールを行う(ステップS110)。
【0064】
半速及び145℃で測定されたトルクが閾値テーブル306に記載された閾値以下となる場合(ステップS104でNo)、全速及び160℃の組み合わせで測定されたトルクが、上記閾値を上回ったかを判定する(ステップS105)。全速及び160℃の組み合わせで測定されたトルクが、閾値テーブル306に示される閾値以下となった場合(ステップS105でNo)、ステップS101、S102のループに戻る。
【0065】
全速及び160℃の組み合わせで測定されたトルクが、閾値テーブル306に示される閾値を上回る場合(ステップS105でYes)、定着モーター114Mの回転軸に作用するトルク以下となるような周回速度、及び/又は、定着温度の低下量を算出する(ステップS106)。
【0066】
(3-4)測定点を補間するための補間演算
ステップS106の処理を詳細に示したのが、
図6のフローチャートである。
図6のフローチャートにおける変数Pは、温度の下げ幅を示す変数であり、0から10までの範囲で増減する。変数Aは、補間直線の傾きであり定着温度の低下に対する摺動抵抗の低下率(温度依存性)を示す。先ず、測定条件テーブル305に従い測定された4つの測定点を、横軸を温度、縦軸をトルク値としたグラフにプロットして、n次関数の補間演算から当該グラフにプロットされた測定点を結ぶn次関数の補間式を求める(ステップS200)。こうしたn次関数の補間式を示すデータが、摺動抵抗の温度依存性を示す依存性データであり、周回速度を一定に保ち、定着温度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率を示す。なおこの説明では、n次補間の次数を1とし、測定点におけるトルク値から、全速時、半速時、2/3速時における一次関数の補間式N
[T]=A
[全速
]・T+C
[全速
]を得る。補間式の傾きAを、2つのトルクデータ間のトルク値N2、N1のトルク差(N2-N1)を、2つのトルクデータの温度T2、T1の差(T2-T1)で割ることにより算出する。切片Cは、1のトルクデータのトルク値N2から、温度T2に傾きAを乗じた値T2・Aを差し引くことで算出される。
つまり、A
[全速
]=(N
[全速
160℃
]―N
[全速
145℃
])/(160℃―145℃)
C
[全速
]は切片であるから、以下の計算により算出することができる。
【0067】
C[全速]=N[全速145℃]―A[全速]×145℃
半速時における一次関数の補間式N[T]=A[半速]・T+C[半速]を求める。A[半速]は傾きであるから、トルク差と、温度差とから算出することができる。つまり、
A[半速]=(N[半速160℃]―N[半速145℃])/(160℃―145℃)
C[半速]は切片であるから、以下の計算により算出することができる。
【0068】
C[半速]=N[半速145℃]―A[半速]×145℃
2/3速の測定点については、半速160℃の条件で測定されたトルク値と、
全速160℃の条件で測定されたトルク値との比例配分により、2/3速160℃の条件のトルク値、2/3速145℃のトルク値を求める。
式で表すと、以下のようになる。
【0069】
N[2/3速160℃]=N[半速160℃]+(N[全速160℃]-N[半速160℃])*1/3
N[2/3速145℃]=N[半速145℃]+(N[全速145℃]-N[半速145℃])*1/3
以下、全速、半速と同様、傾きA[2/3速]、切片A[2/3速]を求める。
【0070】
A
[2/3速
]=(N
[2/3速
160℃
]―N
[2/3速
145℃
])/(160℃―145℃)
C
[2/3速
]=N
[2/3速
145℃
]―A
[2/3速
]×145℃
測定条件に従った測定により
図7(a)の測定点501~504が得られたとする。かかる測定点に対し、上記補間演算を行うと、これらの測定点は、n次関数の補間線511、512で結ばれる。また、測定点に示されたトルク値の比例配分により、
図7(b)における測定点501、502と、測定点503、504との間の中間点505、506のトルク値を求め、かかる中間点を通る補間式を求める。これにより、中間点505、506を通過するn次関数の補間線513を併せて生成する。これらの補間線511、512、513はそれぞれ、全速、半速、2/3速に対応する。
【0071】
こうして、全速、半速、2/3速時の周回速度が算出されれば、周回速度を全速に固定して温度の低下量を決める処理(S201~S207)、周回速度を2/3速に固定して温度の低下量を決める処理(S211~S217)、周回速度を半速に固定して温度の低下量を決める処理(S221~S227)を順次実行する。ステップS201~S207、ステップS211~S217、ステップS221~S227は何れも共通の手順である。
【0072】
生産性重視されるオフィス用途で利用される場合、用紙の搬送速度を最大限に維持することが求められる。とはいえ、定着温度を下げ過ぎると、定着性が損なわれる。そこで補間演算プログラムでは、定着温度を変化させる範囲を、160℃から150℃までに限定し、定着温度を150℃に設定したとしても、トルク値が閾値を上回らない場合に、周回速度を下げることにしている。
【0073】
固定された周回速度に基づく補間式をセットし(ステップS201)、カウント値Pをリセットし(ステップS202)、カウント値Pをインクリメントして(ステップS203)、定着温度からカウント値Pを差し引いた値(定着温度-カウント値P)に傾きAを乗じ、切片Cを足し合わせるとの演算を行い(A×(定着温度-カウント値P)+C)、トルクの推定値T(P)を得る(ステップS204)。
【0074】
ステップS205は、トルクの推定値T(P)が閾値を下回るかどうかの判定であり、ステップS206は、カウント値Pが10になったかどうかの判定である。ステップS205がNo、S206がNoであれば、ステップS203に戻り、カウント値Pをインクリメントする。ステップS205、ステップS206が何れもNoである限り、ステップS203~S206のループを繰り返す。
【0075】
図7(b)に示した直線511に対応するn次関数の補間式に、単位温度幅ΔT刻みの温度を代入することで、
図7(c)に示すように、単位温度幅ΔT刻みのトルク推定値521、522、523、524、525、526、527が順次算出される。
【0076】
推定値が閾値を下回ることなくカウント値が10に達すると、ステップS206がYesになってステップS211に移行し、2/3速の補間式を設定して、生成された2/3速の補間式から導かれるトルク推定値が閾値を下回るまでステップS212~S217を繰り返す。推定値が閾値を下回ることなくカウント値が10に達すると、ステップS216がYesになってステップS221に移行し、半速の補間式を設定して、生成された半速の補間式から導かれるトルク推定値が閾値を下回るまでステップS222~S227を繰り返す。
【0077】
図7(b)に示した直線513に対応するn次関数の補間式に、単位温度幅刻みの温度を代入することで、
図7(d)に示すようにΔT刻みのトルク推定値531、532、533、534、535、536、537が順次算出される。
図7(c)に示すトルク推定値521~527は何れも、閾値である1N・mを上回る。しかし、
図7(d)に示すトルク推定値531~537のうち、測定点538は閾値以下となる。そこで、補間線512に対応する2/3速の周回速度と、トルク推定値538に対応する定着温度との組み合わせを選び、2/3速という周回速度の低下量と-8℃という定着温度の低下量とをメインルーチンにリターンする。メインルーチンでは、ステップS106の直後のステップ、即ち、ステップS101、ステップS102のループから処理を再開する。
【0078】
(3-5)補間演算で得られた低下量を用いた定着の実行
画像形成装置1000の本体側の待ち行列メモリにジョブデータに蓄積されると(ステップS102でYes)、周回速度、定着温度の低下量が存在するかどうかを判定し(ステップS107)、存在する場合(ステップS107でYes)、低下量に従い、周回速度、定着温度を低下させる(ステップS108)。
【0079】
続いてトナー像の定着を実行する(ステップS109)。ステップS108により周回速度、定着温度の低下量が決定された場合、低下した周回速度、定着温度に従いトナー像の定着を実行する。一方、ステップS108が実行されず、周回速度、定着温度の低下量が決定されていない場合(ステップS107がNo)、元の周回速度、定着温度に従いトナー像の定着を実行する。
【0080】
こうした定着ベルト141の周回速度、加熱ローラー143による定着温度の調整により、摺動抵抗を低減して、潤滑性能を向上させることができる。この結果を表したのが
図8(a)のグラフである。
図8(a)のグラフは、定着ベルト141の周回速度と、定着モーター114Mが加圧ローラー142に印加した駆動力を示すトルク値との関係を示す。このグラフにおける測定点401、402、403、404は、画像形成装置1000が耐久初期の段階で、定着温度を160℃に定め、周回速度を4段階(165mm/s、250mm/s、290mm/s、330mm/s)に変化させて測定された4つのトルクを示す。測定点411、412、413、414は、画像形成装置1000が耐久後期の段階で、定着温度を160℃に定め、周回速度を同じ4段階に変化させて測定された4つのトルクを示す。同じ周回速度で測定を行ったにも拘わらず、各測定点ではトルクが上昇している。この耐久前後のトルクの増分405、406が摺動抵抗であり、溶液の蒸発や基材の混入を原因として発生する。全速(330mm/s)の測定点411、412では摺動抵抗の変化が大きく表れたが、低い周回速度による測定点413、414では摺動抵抗の変化が少ない。これは摺動抵抗に速度依存性があり、低い周回速度において摺動抵抗が大きくならないことを示す。
図4(d)の例において、周回速度を全速から2/3速に低下させたことで、摺動抵抗は大きく低下することになる。
【0081】
図8(b)のグラフは、
図8(a)に示した測定点411、412、413、414を含む。測定点411、412、413、414の他、
図8(b)は、定着温度を高く設定した場合(170℃)に測定された4つの測定点421、422、423、424、更に低く設定した場合(150℃)の測定点431、432、433、434を含む。これら測定点のトルク値を比較すると、周回速度が同じであっても定着温度を低く設定する程、トルクは低くなることがわかる。加圧ローラー142のトルク値が高温下で高くなるのは以下の理由による。潤滑剤供給部材144により供給される潤滑剤は、パッド部材146と、定着ベルト141との間に介在して、グリスの膜を形成することで本来の機能を確保する。定着器114が高温になると、グリスの膜が軟化する。そうした状態で、定着ベルト141の動きが早くなると、潤滑剤界面に貼り付く力が弱まり、膜切れが多い状態になり、定着ベルト141の内周面がパッド部材146に直接接触するようになって、摩擦係数が高くなる。しかし、温度が低下すると潤滑剤の粘性が回復し膜切れが少ない状態になって潤滑性能が向上する。
図7(d)の例において、定着温度を160℃から152℃まで低下させたので、摺動抵抗は低下し、潤滑剤による潤滑性能は耐久初期の段階まで回復したことがわかる。
【0082】
(3-6)定着温度を固定し、周回速度を下降させる場合
尚、定着温度を固定し、周回速度を下降させることでトルク推定値が閾値以下となる周回速度と、定着温度との組み合わせを決定することもできる。周回速度を低下させると、定着ベルト141と、パッド部材146とに介在する潤滑剤の単位時間当たりの搬送量が少なくなって上記膜切れが少ない状態になり、潤滑性能が向上するからである。この組み合わせ決定の過程は
図9(a)~(c)に示す通りである。測定条件テーブル305に従いトルク値を4回測定すると、4つの測定を
図9(a)のグラフにプロットする。本グラフはX軸方向を周回速度とし、Y軸方向をトルク値としたグラフであり、周回速度に対するトルク値の変化を示す。かかるグラフに測定点601、602、603、604がプロットされると、第1実施形態で述べたように、測定点を結ぶn次関数の補間式を生成する。また、
図9(b)に示すように測定点の中間点605、606を求めて、中間点605、606を通過する補間式を生成する。これにより、
図9(b)に示すように、160℃の定着温度に対応する補間線611、145℃の定着温度に対応する補間線612、中間値である152.5℃の定着温度に対応する補間線613が得られる。こうして生成された補間式を示すデータが、摺動抵抗の速度依存性を示す依存性データであり、定着温度を一定に保ち、周回速度を低下させた場合の摺動抵抗の低下率を示す。以降、単位速度ΔV刻みの周回速度をこれらの補間線のn次関数の補間式に代入する。単位速度ΔV刻みの周回速度が、160℃の定着温度に対応する補間式に代入されることで、トルク推定値621、622、623、624、625、626、627、628、629が得られる。こうして得られたトルク推定値が、閾値以下の範囲において、周回速度と、定着温度との低下を可能な限り抑制した最適な組み合わせで用紙の定着を行う。
【0083】
[4]まとめ
以上のように本実施形態によれば、周回速度及び定着温度の組み合わせのうち、一方である定着温度を漸次減少させてゆき、その後、他方である周回速度を単位幅だけ減少させるという段階的な調整を実行するので、定着モーター114Mの回転軸に作用する負荷が閾値以下の範囲において、周回速度及び定着温度の低下をできるだけ抑えた最適な組み合わせを決定することができる。
【0084】
[5]第2実施形態
第1実施形態では、毎朝、最初にジョブを実行した後、周回速度と、定着温度との複数の組み合わせについてトルク値を算出し周回速度、定着温度の低下を実現する。これに対して第2実施形態は、用紙の違いや印刷に関し各ユーザーが抱いている方針に従い、定着条件の動的な変更を実行する。
【0085】
(5-1)SRA3用紙の利用
こうした動的な変更を実行するのは、近年、画像形成装置の用途が拡大しているという背景がある。つまり、高い生産性が求められるオフィスプリントに留まらず、ポスター、パンフレットの作成やカラー冊子の作成等のデザインプリントに利用される機会も増えている。デザインプリントのうちポスター作成にはSRA3という専用の用紙が利用されるので、特殊な対応が必要になる。
【0086】
パンフレットやカラー冊子を印刷する場合、A3サイズの用紙による印刷では縁部が印刷されず白抜きなって、見た目が良くない。一方、SRA3用紙を利用した場合、縁なし印刷を行うことができる。SRA3用紙は、A3用紙よりも大きいので(320mm×450mm)、印刷後の光沢さえ確保されれば、プロダクションプリントで印刷されたポスター等と比較しても遜色がない、印刷画像を実現することができる。
【0087】
SRA3用紙を利用するため、第2実施形態にかかる給紙カセット1002a、b、c、dは、A3サイズ以下の定型用紙の他、SRA3用紙を収容する。また、タッチパネルディスプレイ1001はユーザーにより画像/濃度の設定が選択された際、
図10に示す設定画面を表示する。
図10の設定画面は、選択項目の1つとして速度/光沢を設定するためのタブ700を含む。定着設定のタブは、生産性を優先する旨の指定を受け付けるボタン701、光沢を優先する旨の指定を受け付けるボタン702、生産性、光沢の自動調整を希望する旨のボタン703を含む。SRA3用紙を利用したポスター印刷等では画像の光沢が優先されることが多く、ユーザーの意思の確認が必要になるためである。
【0088】
図10のタブ700に対して操作がなされると、不揮発メモリ303Fには、方針情報が書き込まれる。方針情報は、速度(生産性)を優先するか品質(定着性)を優先するか速度、品質を両立するかというユーザーの方針を示す。
【0089】
一方、SRA3用紙の利用は、A3以下の定型用紙よりも定着ベルト141の周回動作を阻害し得る点に注意が必要である。以下、
図11(a)、(b)を参照してその理由を述べる。
図11(a)、(b)は、定着ベルト141、加圧ローラー142、加熱ローラー143、パッド部材146の上面図である。
【0090】
加圧ローラー142は、金属の芯材にゴム等からなる弾性層を積層し、更に、弾性層の表面に軸方向の両端部142E、142Fを除いて離型層を積層して、用紙がローラー表面から離間し易くしている。なお、加圧ローラー142の両端部142E、Fに離形層を設けないのは、定型用紙以外のSRA3用紙の使用頻度が一般的にはかなり低いからである。
【0091】
両端部142E、142Fは離形層を有する中央部より摩擦係数が高く、加圧ローラー142による駆動力が、定着ベルト141に伝達され易い。
図11(a)のようにA3サイズの用紙が通紙されても、両端部142E、142Fで定着ベルト141に圧接した状態になる。このため
図11(a)に示すA3以下の定型用紙1020Aの通紙時には、両端部142E、Fでの接触を通じて、定着ベルト141に駆動力が印加される。
【0092】
ところが、
図11(b)に示すようにSRA3用紙は定型用紙よりも幅が広いので、
図11(b)に示すようにSRA3用紙1020Bが定着ニップ142Nを通過した際、加圧ローラー142の両端部142E、Fにかかって大きくへこみ(142S参照)、定着ベルト141と、加圧ローラー142との接触部分142Tの面積が小さくなって定着ベルト141に直に伝わる駆動力がA3以下の用紙に比べて少なくなる。
【0093】
一般に摩擦係数は用紙よりも加圧ローラー142表面のほうが高い。そのため、SRA3用紙を通紙するときは定着ベルト141と、加圧ローラー142とが直に接する面積が少なくなり、定着ベルト141と、パッド部材146との間の摺動抵抗となる定着ベルト141への負荷が作用し易くなる。こうした事情により、SRA3サイズの用紙については、A3サイズ以下の用紙に対する閾値よりも少し小さい閾値を用意し、上記の定着温度と、周回速度の調整が、A3以下の用紙の定型サイズの用紙の通紙時よりも行われ易くしている。
【0094】
(5-2)定着器制御ブロック210の改良点
第2実施形態における定着器制御ブロック210の改良点は、以下の通りである。
【0095】
第2実施形態では、閾値テーブル306に代えて、
図12に示すような、閾値テーブル801及び低下量テーブル811の組、閾値テーブル802及び低下量テーブル812の組、閾値テーブル803及び低下量テーブル813の組が、不揮発メモリ303Fに設けられている。これらのテーブルの組は、第1実施形態に示した補間式の低下率に基づき決定された、周回速度の複数の低下量、定着温度の複数の低下量を示す参照テーブルである。
【0096】
閾値テーブル801、802、803は、摺動抵抗が上昇した複数段階のそれぞれを指標する複数の閾値(第1閾値から第3閾値までがある。)を示す。
【0097】
低下量テーブル811、812、813は、各段階にまで上昇した摺動抵抗を抑制するのに必要な、周回速度及び/又は定着温度の低下量を示す。
【0098】
閾値テーブル801は、
図10の設定画面における生産性優先の設定に対応するテーブルであり、A3以下の用紙、及び、SRA3以下の用紙のそれぞれが定着ニップ142Nを通過する際に参照されるべき、3段階の閾値を示す。A3以下の用紙を対象とした3段階の閾値は、1.1N・mである第1閾値、1.2N・mである第2閾値、1.4N・mである第3閾値から構成される。一方、SRA3用紙を対象とした3段階の閾値については、両端部142E、Fにおける接触面積が少なくなり、定着ベルト141の周回が阻害される関係上、低めの値に設定された第1~第3閾値(1.0N・mである第1閾値、1.05N・mである第2閾値、1.1N・mである第3閾値)から構成される。
【0099】
閾値テーブル802は、
図10の設定画面における品質優先の設定に対応するテーブルであり、A3以下の用紙、及び、SRA3以下の用紙のそれぞれが定着ニップ142Nを通過する際に参照されるべき、2段階の閾値を示す。A3以下の用紙を対象とした2段階の閾値は、1.1N・mである第1閾値、1.2N・mである第2閾値から構成される。一方、SRA3用紙を対象とした2段階の閾値については、1.0N・mである第1閾値、1.05N・mである第2閾値から構成される。
【0100】
閾値テーブル803は、
図10の設定画面における生産性・品質両立型の設定に対応するテーブルであり、A3以下の用紙、及び、SRA3以下の用紙が定着ニップ142Nを通過する際に参照されるべき、3段階の閾値を示す。A3用紙を対象とした3段階の閾値については、1.1N・mである第1閾値、1.15N・mである第2閾値、1.2N・mである第3閾値から構成される。一方、SRA3以下の用紙を対象とした3段階の閾値は、1N・mである第1閾値、1.02N・mである第2閾値、1.01N・mである第3閾値から構成される。
【0101】
低下量テーブル811、812、813は、閾値テーブル801、802、803の第1、第2、第3閾値に示される各段階にまで上昇した摺動抵抗を抑制するのに必要な、周回速度及び/又は定着温度の低下量を示す。以下、それぞれの低下量テーブルを説明する。低下量テーブル811は、第1閾値を上回り第2閾値以下となるトルク範囲に対応付けて、第1実施形態で述べた定着温度の低下量(-8℃)が予め記載されている。また、第2閾値を上回り、第3閾値以下となるトルク範囲に対応付けて、第1実施形態で述べた周回速度の低下量(2/3速)が予め記載されている。更に、第3閾値を上回るトルク範囲に対応付けて、第1実施形態で述べた定着温度の低下量(-8℃)と、周回速度の低下量(2/3速)とが予め記載されている。
図10の設定画面において、生産性を優先するとの方針をユーザーが選んだ場合、測定条件に従い測定されたトルクが低下量テーブル811の何れのトルク範囲に属するかで、-8℃->2/3速―>-8℃及び2/3速の順に、周回速度及び定着温度を徐々に減少させてゆくことができる。
【0102】
低下量テーブル812は、第1閾値を上回り、第2閾値以下となるトルク範囲に対応付けて、第1実施形態で述べた周回速度の低下量(2/3速)が予め記載されている。また、第2閾値を上回るトルク範囲に対応付けて、第1実施形態で述べた周回速度の低下量(半速)が予め記載されている。
図10の設定画面において、光沢を優先するとの方針をユーザーが選んだ場合、測定条件に従い測定されたトルクが低下量テーブル812の何れのトルク範囲に属するかで、全速―>2/3速―>半速の順に、周回速度を徐々に減少させてゆくことができる。
【0103】
低下量テーブル813は、第1閾値を上回り第2閾値以下となるトルク範囲に対応付けて、第1実施形態で述べた定着温度の低下量(-5℃)が予め記載されている。また、第2閾値を上回り、第3閾値以下となるトルク範囲に対応付けて、定着温度の低下量(-5℃)と、周回速度の低下量(2/3速)とが予め記載されている。更に、第3閾値を上回るトルク範囲に対応付けて、定着温度の低下量(-10℃)と、周回速度の低下量(1/2速)とが予め記載されている。
図10の設定画面において、生産性・光沢を両立するとの方針をユーザーが選んだ場合、測定条件に従い測定されたトルクが低下量テーブル813の何れのトルク範囲に属するかで、-5℃―>-5℃及び2/3速―>-10℃及び半速の順に、周回速度及び定着温度を徐々に減少させてゆくことができる。
【0104】
(5-3)第2実施形態で実行されるプログラムの内容
図13は、第2実施形態にかかる定着器制御ブロック210の処理手順のメインルーチンである。本図のフローチャートは、
図5のフローチャートを基礎としていて、
図5と同じステップについては、
図5と同じ参照符号を付している。本フローチャートを参照して、第2実施形態にかかる画像形成装置1000の動作を説明する。
【0105】
図13において、待ち行列メモリにジョブデータが蓄積されたかどうかの判定(ステップS102)、画質/光沢設定を希望する操作がユーザーによってなされたかどうかの判定(ステップS112)を行う。画質/光沢タブ700がタッチパネルディスプレイ1001に表示されて、生産性優先、光沢優先、生産性/光沢両立の何れかを希望する操作がユーザーによってなされた場合、ステップS112がYesになり、ステップS113に移行してその旨をマイコンシステム303の不揮発メモリ303Fに書き込む。
【0106】
待ち行列メモリにジョブデータが蓄積されれば(ステップS102でYes)、蓄積されたジョブデータは、A3以下の用紙を選択したジョブデータであり、主電源が投入されて最初に実行されるものかどうかを判定する(ステップS114)。そうでない場合(ステップS114でNo)、蓄積されたジョブデータは、SRA3用紙を選択したジョブデータであり、主電源が投入されて最初に実行されるものかどうかを判定する(ステップS115)。これらの何れかに該当する場合、ステップS116に移行する。ステップS116では、周回速度及び定着温度に従いトナー像の定着を実行するのと共に、この定着の際、定着モーター114Mに流れるモーター電流を変換することで、定着ニップ142Nに定着がなされている状態でのトルクを測定する(ステップS116)。その後、閾値テーブル801、802、803、低下量テーブル811、812、813を用いて、測定されたトルクに対応する低下量を決定する(ステップS117)。
【0107】
ステップS117における周回速度、定着温度の低下量決定手順を詳細に表したのが、
図14のフローチャートである。以下、
図14のフローチャートを参照して、周回速度、定着温度の調整手順を説明する。閾値テーブル801 、802、803のうち、生産性優先、定着品質優先、生産性・定着品質両立の選択に対応する閾値テーブルから、用紙幅に対応する第1、第2、第3閾値を読み出す(ステップS303)。
【0108】
そして、ステップS304、S305、S306、S307、S308の判定ステップ列に移行する。ステップS304は、トルク値が第1閾値を上回り、第2閾値以下のトルク範囲に属するかどうかの判定であり、ステップS305は、選択された閾値テーブルに第3閾値があるかどうかの判定、ステップS306は、選択された閾値テーブルに第3閾値がある場合、トルク値が第2閾値を上回り、第3閾値以下のトルク範囲に属するかどうかの判定である。ステップS307はトルク値が第3閾値を上回るかどうかの判定である。ステップS308は、選択された閾値テーブルに第3閾値がない場合の、トルク値が第2閾値を上回るかどうかの判定である。
【0109】
トルク値が、第1閾値を上回り、第2閾値以下のトルク範囲に属する場合(ステップS304でYes)、第1閾値を上回り、第2閾値以下のトルク範囲に対応する低下量を選択された閾値テーブルの低下量テーブルから読み出す(ステップS311)。
【0110】
選択された閾値テーブルに第3閾値があり、トルク値が第2閾値を上回り、第3閾値以下のトルク範囲に属する場合(ステップS305でYes、ステップS306でYes)、第2閾値を上回り、第3閾値以下のトルク範囲に対応する低下量を選択された閾値テーブルの低下量テーブルから読み出す(ステップS313)。
【0111】
選択された閾値テーブルに第3閾値があり、トルク値が第3閾値を上回るトルク範囲に属する場合(ステップS305でYes、ステップS307でYes)、第3閾値を上回るトルク範囲に対応する低下量を選択された閾値テーブルの低下量テーブルから読み出す(ステップS314)。
【0112】
第1閾値以下のトルク範囲に属し、第2閾値が閾値テーブルに存在する場合、ステップS304がNo、ステップS305がYes、ステップS306、S307がNoになり、メインルーチンにリターンする。
【0113】
選択された閾値テーブルに第3閾値がなく、トルク値が第2閾値を上回るトルク範囲に属する場合(ステップS305でNo、ステップS308でYes)、第2閾値を上回るトルク範囲に対応する低下量を選択された閾値テーブルの低下量テーブルから読み出す(ステップS315)。
【0114】
第1閾値以下のトルク範囲に属し、第2閾値が閾値テーブルに存在しない場合、ステップS304がNo、ステップS305がNo、ステップS308がNoになり、メインルーチンにリターンする。メインルーチンにリターンした後は、ステップS102のループに戻る。
【0115】
ステップS114、ステップS115の何れもがNoである場合、摺動抵抗の測定は行わず、摺動抵抗を測定した際、既に得られた低下量に従い、周回速度、定着温度を低下させ、低下がなされた周回速度、定着温度に従い、トナー像の定着を実行する(ステップS107~S109)。周回速度、定着温度の低下量が決定されていない場合(ステップS107がNo)、元の周回速度、定着温度に従いトナー像の定着を実行する(ステップS109)。
【0116】
[6]まとめ
以上のように本実施形態によれば、定着モーター114Mに流れるモーター電流の換算によるトルク値と、閾値テーブルに記載された第1、第2、第3閾値との比較を行い、算出されたトルク値がどのトルク範囲に属するかで、低下量テーブルに記載された低下量を用いて周回速度、定着温度を低下させる。第1実施形態よりも簡略化された処理で、周回速度、定着温度を調整することができ、画像形成装置1000の低価格化に寄与することができる。
【0117】
[7]第3実施形態
第2実施形態では、用紙の違いや印刷に関し各ユーザーが抱いている方針に従い、周回速度、定着温度を変更した。これに対し第3実施形態は、ジョブによってなされる使用状態の集計をとり、それらの使用状態の中で利用頻度が高いジョブが実行され、搬送される用紙が定着ニップ142Nを通過している間(通紙中)に摺動抵抗を測定する。
【0118】
(7-1)画像形成装置1000の本体側の制御系統
画像形成装置1000の本体側の制御系統の構成を
図15に示す。本図に示すように、画像形成装置1000の制御系統は、タッチパネルディスプレイ1001に設定画面を表示するのと共に、ユーザーによる操作に従い、スキャナー1004によって読み込まれた画像データを含むジョブデータを生成する画面制御LSI201、端末1011が発したジョブデータを受信する通信制御LSI202、ジョブデータが蓄積される待ち行列メモリ203、ジョブデータを解釈し、実行するCPU204、画像処理LSI205、露光器110を制御する露光器制御ブロック206、現像器111を制御する現像器制御ブロック207、転写器112を制御する転写器制御ブロック208、搬送部113を制御する搬送部制御ブロック209、定着器制御ブロック210を含む。
【0119】
画像処理LSI205は、ジョブデータに含まれ、画像形成の対象となる画像データが、テキスト主体であるか、ベタ画像主体であるかの判別を行い、判別結果を定着器制御ブロック210に通知する。
【0120】
用紙幅センサー209Wは搬送部制御ブロック209の構成要素であり、給紙カセット1002aにおける整合板1021の幅方向の移動量から、給紙カセット1002aに載置された用紙幅を検出する。検出される用紙幅には、A3縦置き(A3T)、A3横置き(A3Y)、A4縦置き(A4T)、A4横置き(A4Y)がある。
【0121】
坪量センサー209Lは、タイミングローラー123の手前において、
図2に示す搬送路113Pを挟んで両側に配された発光部231R、G、Bと、一方側に配された受光部231Pとを有し、搬送路113Pを搬送している用紙に向けて発光部から光を照射し、用紙を通過した光を受光する。その受光量の大きさに基づき、坪量を検出する。なお、用紙の坪量はユーザーがタッチパネルディスプレイ1001から手動で入力してもよい。
【0122】
(7-2)定着器制御ブロック210の改良
第3実施形態における定着器制御ブロック210の構成を説明する。第3実施形態にかかる定着器制御ブロック210は、第2実施形態にない新規な構成要素として、
図16に示す使用状態記録テーブル900を備える。
【0123】
印刷状態テーブル900は、
図16に示すように、共通フォーマットのレコード単位911、912、913、914、915、916、917、918、919を任意個数並べた可変長フォーマットのデータであり、レコード単位は、用紙幅901、坪量902、画像内容903、総枚数904からなる。用紙幅901は、定型サイズの区分と、縦置き/横置きとから定まる用紙幅(A4T、A4Y)を示し、坪量902は60~70g/m
2、70~90g/m
2、90~105g/m
2といった坪量区分の何れかを示す。画像内容903は、印刷される画像がテキスト主体かベタ塗り部を含むかを示す。
【0124】
第3実施形態では、
図17、
図18のフローチャートに従い、定着動作を実行する。
図17、
図18のフローチャートを参照しながら、第3実施形態にかかる定着器制御ブロック210の処理を説明する。定着器制御ブロック210が起動されると、
図17のフローチャートは、
図13のフローチャートを基礎としており、
図13と共通の処理には同一の参照符号を付している。本フローチャートが起動されると、待ち行列メモリ203にジョブデータが蓄積されたかどうかの判定を行う。ジョブデータが蓄積されると(ステップS102でYes)、用紙幅センサー209Wが検出した用紙幅、坪量センサー209Lが検出した坪量、画像処理LSI205から通知された画像内容に基づき、周回速度、定着温度を設定する(ステップS121)。具体的にいうと、普通紙を対象とした定着条件である330mm/sの周回速度及び160℃の定着温度に、用紙幅センサー209Wが検出した用紙幅、坪量センサー209Lが検出した坪量、画像処理LSI205から通知された画像内容に応じた調整を加える。
【0125】
続いて、使用状態記録テーブル900に示される使用状態のうち、利用頻度が最も高いものを選び(ステップS122)、待ち行列メモリ203に蓄積されたジョブデータは、選ばれた印刷状態に合致していて、定着ニップ142Nが、利用頻度が最も高い類型に該当するシートを通紙したかどうかを判定する(ステップS123)。合致する場合、定着条件でトナー像の定着を実行し、当該ジョブデータで選択された用紙が定着器114の定着ニップ142Nを通過するタイミングでトルクを算出する(ステップS115)。算出されたトルクに合致する低下量を得て(ステップS116)。ステップS102のループに戻る。
【0126】
待ち行列メモリ203に蓄積されたジョブデータの使用状態が、利用頻度が高いと判定された使用状態に合致しない場合(ステップS123でNo)、決定された低下量に従い、周回速度、定着温度を低下させ(ステップS107、S108)、低下した周回速度、定着温度に従い、トナー像の定着を実行する(ステップS109)。一方、ステップS108が実行されず、周回速度、定着温度の低下量が決定されていない場合(ステップS107がNo)、元の周回速度、定着温度に従いトナー像の定着を実行する。
【0127】
使用状態記録テーブル900に示される印刷状態に該当する用紙が定着ニップ142Nを通過した後、使用状態記録テーブル900における印刷状態のうち、定着ニップ142Nを通過したものの利用頻度を更新する(ステップS125)。
【0128】
使用状態記録テーブルを対象とした、利用頻度更新手順を表したのが、
図18のフローチャートである。本図におけるNは、使用状態記録テーブルにおける個々のレコード単位を指示する状態番号を格納するための変数である。まず、変数Nを1で初期化した後(ステップS401)、ステップS402、S403の判定ステップの列に移行する。
【0129】
ステップS402はA4横置きかどうかの判定、ステップS403はA4縦置きかどうか、ステップS405は用紙坪量が60~70g/m2の範囲かどうかの判定、ステップS406は用紙坪量が70~90g/m2の範囲かどうかの判定、ステップS407は用紙坪量が90~105g/m2の範囲かどうかの判定である。ステップS411は画像内容がテキストかどうかの判定である。
【0130】
A4縦置きで坪量が60~70g/m2の範囲であり、画像内容がテキスト主体であれば、ステップS402がNo、ステップS403がYesになって、Nに6が加算される(ステップS404)。その後、ステップS405がYesになって状態番号を示すNに1を加算する(ステップS408)。Nが7になるので使用状態テーブル332の7行目のレコード917の総印刷枚数を、ジョブデータにより印刷が命じられた印刷枚数だけ増やす(ステップS413)。
【0131】
A4横置きで坪量が60~70g/m
2の範囲であり、画像内容がベタ画像主体であれば、ステップS402がYes、ステップS405がYesになって状態番号を示す変数Nを1増加する(ステップS408)。画像内容がベタ画像主体であれば、ステップS411がNoになって変数Nをインクリメントする(ステップS412)。これにより状態番号が2になる。状態番号が2になったので、使用状態テーブル332において、2行目のレコード912の総印刷枚数を、ジョブデータにより命じられた印刷枚数だけ増やす(ステップS413)。その後、ステップS102から
図17の処理を再開する。
【0132】
[8]まとめ
以上のように本実施形態によれば、様々なユーザーにより、どういった印刷内容が高頻度に利用されているかの集計をとり、利用頻度が高い印刷内容のジョブデータが実行された際、摺動抵抗を測定するので、ユーザーの使用傾向に応じて定着条件を調整することができる。これにより、画像形成装置が長く使用された場合でも、安定した定着を用紙に施すことができ、印刷品位を高めることができる。
【0133】
[9]変形例
以上、本発明を実施の形態に基づいて説明してきたが本発明は上述の実施の形態に限定されないのは勿論であり以下の変形例が考えられる。
【0134】
(1)第1~第3実施形態において、
図19に示すような摺動抵抗を測定すべき使用状態の設定画面を表示して、摺動抵抗を測定すべき印刷状態の設定を受け付けてもよい。当該設定画面は、給紙カセット1002a、b、c、dに収容される用紙の指定711、712、713、714と、画像内容であるテキスト/ベタ画像の違いの指定715、716とを受け付ける。これらの指定に従い、給紙カセット1002a、b、c、dに収容されている用紙の用紙幅及び坪量と、画像内容とから印刷内容を特定する。以降、待ち行列メモリ203に格納されるジョブデータが、こうして特定された印刷内容に該当するかどうかどうかを判定して、該当する場合、当該ジョブデータで選択された用紙が定着器114の定着ニップ142Nを通過するタイミングで摺動抵抗を測定する。
【0135】
(2)タッチパネルディスプレイ1001と連動した閾値のレベル調整を行ってもよい。レベル調整のため、タッチパネルディスプレイ1001に表示される設定画面を
図20に示す。本図の設定画面は、光沢性の低下を示す画像こすれの有無を問い合わせるメッセージ720、速度及び温度を調整するためのレベル調整ゲージ721とを含む。レベル調整ゲージ721のプラスボタン722、マイナスボタン723のタッチに応じて、0.1N・m刻みに、閾値テーブル306に記載される閾値を増減する。画像こすれの有無を問い合わせるメッセージに代えて、用紙搬送状態の確認を求めるメッセージを、メニュー画面に表示させてもよい。
【0136】
(3)第1実施形態では、周回速度、定着温度からトルク推定値を算出して、このトルク推定値が閾値以下になるよう周回速度、定着温度の調整を行ったがこれに限られない。
図21のグラフに示すような周回速度と、定着温度との関係を表したデータを記憶しておき、当該グラフに従い、定着ベルト141の周回速度やハロゲンヒーター114Hの定着温度を調整してもよい。具体的にいうと、定着温度のみを低下させたい場合は、垂線551に沿って定着温度を下降させる。周回速度のみを低下させたい場合は、平行線552に沿って周回速度を下降させる。周回速度及び定着温度の双方を低下させたい場合は、斜線553に沿って定着温度、周回速度の双方を低下させる。
【0137】
(4)第1実施形態においてn次関数の次数は1としたが、2以上とし、2次関数、3次関数による測定点の補間を行ってもよい。また、2個の測定点を用いて直線で2つの測定点を結ぶとしたがこれに限らない。一次関数の傾きAを予め算出して保持しておき、当該傾きを用いて1つの測定点か一次関数を算出してもよい。
【0138】
(5)第3実施形態では、用紙幅、坪量、テキスト主体かベタ画像主体かの画像内容を使用状態としたがこれに限られない。用紙幅、坪量、画像内容の何れかを使用状態として利用頻度を集計してもよいし、これらの任意の組み合わせを使用状態として利用頻度を集計してもよい。
【0139】
(6)第1実施形態では、定着モーター114Mに流れるモーター電流の換算によりトルクを測定したがこれに限られない。
図22の画像形成装置1000の排出口119付近に設けられた排出センサー251のカウント値に基づき、トルクを測定してもよい。排出センサー251は、通紙中の用紙先端を検出してから、用紙後端を検出するまでの時間計測に用いられる。計測時間は、一枚の用紙の通過時間を示し、定着ベルト141の摺動抵抗が大きくなって、定着ベルトに対して用紙がスリップし始めると、通常のスリップしていない場合に比べて、スリップの量に応じた分、通過時間が長くなる。よって摺動抵抗と通過時間との間には一定の相関関係がある。この相関関係を予め実験等で求めておくことで、摺動抵抗の大小を判定してもよい。
【0140】
(7)第1実施形態では、定着モーター114Mに流れるモーター電流の換算によりトルクを測定したがこれに限られない。定着ニップ142Nを通過した用紙枚数をカウントするカウンターのカウント値を変換することで定着モーター114Mに作用する負荷を示すトルクを得てもよい。定着ニップ142Nを通過した用紙枚数が多くなるにつれ、定着ベルト141の摺動抵抗は増大する。こうした用紙枚数と、トルクとの関係を規定する換算係数を予め算出しておき、定着ニップ142Nを通過した用紙枚数に、換算係数を乗ずることでトルクを算出してもよい。また、通過した用紙枚数の値が摺動抵抗を指標する指標値となるので、トルクの閾値に代えて、用紙枚数を閾値として設定することができる。
【0141】
(8)第1実施形態では、定着モーター114Mに流れるモーター電流の換算によりトルクを測定したがこれに限られない。定着ベルトの走行距離をカウントする距離カウンターを定着器114に設けて、距離カウンターのカウント値である総走行距離を変換することで前記トルクを得てもよい。定着ベルト141の走行距離が長くなるにつれ、定着ベルト141の摺動抵抗は増大する。こうした走行距離と、トルクとの関係を規定する換算係数を予め算出しておき、定着ニップ142Nを通過した用紙枚数に、換算係数を乗ずることでトルクを算出してもよい。また、総走行距離を摺動抵抗の指標値として用い、トルクの閾値に代えて総走行距離の閾値を設定してもよい。
【0142】
(9)第1実施形態では、定着モーター114Mに流れるモーター電流の換算によりトルクを測定したがこれに限られない。定着ニップ142Nを通過中の用紙にニップよりも搬送方向上流側の用紙端に生ずる用紙の撓みを検出する撓みセンサーの検出値を変換することでトルクを得てもよい。撓みセンサーは、用紙にトナー像を転写する転写位置112Pと、定着ニップ142Nとの間の搬送路113Pの近傍に設けられアクチェエーター241を含む。用紙の撓み量が小さい場合、アクチェエーター241の先端が用紙に接触するが、撓み量が大きくなると、用紙がアクチェエーター241の先端から離れる方向に大きく膨れてアクチェエーター241の先端と接触しなくなる。用紙とアクチェエーター241との接触回数は撓み量が大きくなるほど少なくなる関係がある。そして撓みは摺動抵抗が大きくなると、用紙と定着ベルト141との間に生ずるスリップにより大きくなるという関係もある。そこで、用紙が定着ニップ142Nを通過する際に用紙が接触する接触回数をカウントするカウンターを用いて一次関数の変換式を用いて単位時間当たりに撓みセンサーのカウンターがカウントした接触回数を変換することでトルクを得てもよい。また、撓み量を摺動抵抗の指標値として用い、トルクの閾値に代えて撓み量を設定することもできる。
【0143】
(10)定着器114は誘導加熱式定着装置であってもよい。誘導加熱式定着装置において定着ベルトは発熱体としての役割を兼ねる。誘導加熱式定着装置における定着ベルトはポリイミドなどからなるベース層、ニッケルや銀などの金属からなる発熱層、シリコーンゴムなどからなる弾性層、および、フッ素化合物などからなる離型層などを含む多層構造のエンドレスベルトであり、定着ベルトの離型層によってトナー画像に対する離型性が保たれ、2つのローラー(加熱ローラー、定着ローラー)に支持されている。定着ベルトの外周側には距離を開けて電磁誘導加熱装置が配される。励磁コイル、コア、コイルガイドを含み、電磁誘導式の加熱を行うことで定着ベルトと加熱ローラーとを発熱させる。この熱は定着ベルトを介して、定着ローラーに伝熱する。
【0144】
(11)第2実施形態において閾値テーブル801~803、低下量テーブル811~813は、速度優先、品質優先、速度・品質両立といった3つの方針に対応した3種のテーブルとしたがこれに限らない。1種類、2種類であってもよいし、4種類以上の任意の種類について、閾値テーブル、テーブルを設けてもよい。例えば、画像形成装置1000が使用された経過年数毎に閾値テーブル、調量テーブルを設けてもよい。閾値テーブル、低下量テーブルを1つにまとめ、トルクである閾値と、周回速度又は定着温度とを対応付けた形式にしてもよい。
【0145】
また閾値テーブル801~803は、A3用紙以下、SRA3用紙のそれぞれについて閾値を設けたがこれに限らない。1種類の用紙を示してもよいし、3種類以上の用紙について、閾値を示してもよい。更に閾値テーブル801~803は、第1~第3閾値という3段階の閾値を示すとしたが限られない。第1閾値のみ、第1、第2閾値のみを記載するとしてもよいし、3種以上の閾値を明示するとしてもよい。
【0146】
(12)状態記録テーブル900に記載された印刷状態のうち、利用頻度が高いものに該当するジョブの実行中にトルク測定を行ったがこれに限られない。印刷状態記録テーブル900に記載された印刷状態のうち、使用頻度が高いものに該当するジョブが実行された後、300秒が経過した後にトルク測定を行ってもよい。
【0147】
(13)第1実施形態において主電源が投入されて最初の印刷がなされてから300秒の経過をまってトルク測定を行ったのは、測定される定着器114の暖気状態を一定として、毎日、トルクを測定する場合にあたっての測定のばらつきを小さくするためである。このように暖気状態を一定とするのであれば、上記に限らず、他の測定タイミングを測定条件テーブル305のタイミング条件305Tに明示させ、このタイミング条件305Tに従い、摺動抵抗を測定してもよい。例えば、主電源が投入されてウォームアップがなされてから300秒の経過をまってトルク測定を行ってもよいし、また、最初の印刷動作がなされてスリープ動作に入る前に測定を行ってもよい。更に、最初の印刷ではなく2回目以降の印刷時に測定を行ってもよいし、また、待ち時間は300秒に限らず、増減させてよいことはいうまでもない。
【0148】
(14)上記実施形態では半固体潤滑剤を対象として説明を行なったがこれに限られない。潤滑剤供給部材144は、液体潤滑剤を定着ベルト141の内周面に塗布してもよい。また、液体潤滑剤における温度依存性、速度依存性に基づく周回速度、定着温度の低下量を決定して、決定した低下量で低下した周回速度、定着温度を用いてトナー像の定着を実行してもよい。更に個体の潤滑剤であったとしても、半固体の潤滑剤と同様の温度依存性、速度依存性をもつものを用いてもよい。
【0149】
(15)上記実施形態において、定着器114はMFPである画像形成装置に設けるとしたがこれに限らない。プロダクションプリント装置に設けてもよい。また単機能のコピー機、パーソナルコンピュータの単機能の周辺機器(プリンター)に設ける構成としてもよい。その他、ラベル印刷機、はがき印刷機、発券機に設ける構成としてもよい。また、定着モーター114Mは3相ブラシレスモーターとしたが、これに限らない。ステッピングモーター等の他のモーターを用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0150】
本発明は、定着器114における潤滑剤の交換周期を長くして、メンテナンス担当者の負担を減らすことができるので、OA機器、情報機器の産業分野を始め、小売業、賃貸業、不動産業、広告業、運輸業、出版業等、様々な業種の産業分野で利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0151】
141 定着ベルト
142 加圧ローラー
143 加熱ローラー
144 潤滑剤供給部材
145 ガイド部材
146 パッド部材
210 定着器制御ブロック
301 モーター回路ブロック
302 ヒーター回路ブロック
303 マイコンシステム
305 測定条件テーブル
306 閾値テーブル
900 印刷状態記録テーブル
1000 画像形成装置
1001 タッチパネルディスプレイ
1002a、b、c、d 給紙カセット
1004 スキャナー
1011 端末