(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】光学素子および光照射装置
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
G02B5/18
(21)【出願番号】P 2020165890
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122529
【氏名又は名称】藤枡 裕実
(74)【代理人】
【識別番号】100135954
【氏名又は名称】深町 圭子
(74)【代理人】
【識別番号】100119057
【氏名又は名称】伊藤 英生
(74)【代理人】
【識別番号】100131369
【氏名又は名称】後藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100171859
【氏名又は名称】立石 英之
(72)【発明者】
【氏名】稲月 友一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 真史
【審査官】小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-528477(JP,A)
【文献】特開2018-189939(JP,A)
【文献】特開2000-056199(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0377200(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材の少なくとも一の面の上に位置し、前記基材に面する側と反対側の面に凹凸からなる光学領域を有する、光学機能層と、
前記凹凸の凹部に位置し、前記凹凸の凸部と連続した閉曲線を形成する、接着剤浸入抑制パターンと、を備え、
前記光学領域は、枠と、前記枠から内側に向かって0μmより大きく150μmより小さい距離の範囲を満たす領域である接着剤浸入抑制領域と、前記接着剤浸入抑制領域で囲まれる領域である中心領域と、を有し、
前記閉曲線は、前記中心領域を囲むように前記接着剤浸入抑制領域に形成される、
光学素子。
【請求項2】
一の面に凹凸からなる光学領域を有する、光学機能基材と、
前記凹凸の凹部に位置し、前記凹凸の凸部と連続した閉曲線を形成する、接着剤浸入抑制パターンと、を備え、
前記光学領域は、枠と、前記枠から内側に向かって0μmより大きく150μmより小さい距離の範囲を満たす領域である接着剤浸入抑制領域と、前記接着剤浸入抑制領域で囲まれる領域である中心領域と、を有し、
前記閉曲線は、前記中心領域を囲むように前記接着剤浸入抑制領域に形成される、
光学素子。
【請求項3】
前記接着剤浸入抑制パターンの上面は、前記凹凸の上面と同じ高さである、
請求項1または2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記閉曲線は、二重以上に形成される、
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項5】
請求項4に記載の光学素子において、
入射光の波長に対する、互いに平行に向き合う2つの前記接着剤浸入抑制パターンのピッチの比率は、0.2以上2.0以下である、
光学素子。
【請求項6】
請求項4に記載の光学素子において、
入射光の波長に対する、互いに平行に向き合う2つの前記接着剤浸入抑制パターンのピッチの比率は、0.4以上1.4以下である、
光学素子。
【請求項7】
前記閉曲線は、不規則な形状である、
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項8】
前記凹凸は、入射光の光軸から見て、前記凹部と前記凸部との境界が曲線を含むパターンを有する、
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項9】
前記光学領域は、入射光を回折する機能を有する、
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項10】
前記接着剤浸入抑制パターンは、紫外線硬化性樹脂により構成される、
請求項1乃至9のいずれか一項に記載の光学素子。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか一項に記載の光学素子を備えた、
光照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子および光照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光学素子は、光と物質との相互作用により、様々な機能を発現する素子である。光の照射領域を変換するための光学素子として、例えば回折光学素子がある。回折光学素子は、Diffractive Optical ElementまたはDOEと呼ばれることもある。DOEの上面は、屈折率の異なる物質が交互に配置された光学領域を有する。光学領域は、一方の物質が空気である場合、他方の物質による凹凸により構成される。DOEに光が入射すると、凹部への入射光と凸部への入射光との間で光路差が生じるため、光が回折する。光の回折を利用することにより、光の照射領域を変換できる。
【0003】
DOE等の光学素子は、光源等と組み合わせることにより、光照射装置として使用される。光照射装置において、光学素子はホルダ等により光源から離した状態で保持される。光学素子とホルダとは接着剤等により固定される。光学素子に接着剤を塗布すると、凹凸等からなる光学領域へ接着剤が浸入するおそれがある。光学領域への接着剤の浸入により、光学素子が機能を喪失するという問題が発生しうる。
【0004】
特許文献1において、ラインアンドスペース状のグレーティング・パターンの両端に接着剤溜め溝を形成することにより、グレーティング・パターンへの接着剤の浸入を抑制する光学素子が開示されている。特許文献1に記載の光学素子においては、接着剤溜め溝は単一の溝からなる。特許文献2において、レンズの外周に二重以上の液留め手段を設けることにより、レンズ側への接着剤の浸入を抑制する光学素子が開示されている。特許文献1および特許文献2いずれに記載の光学素子においても、接着剤の浸入を抑制するための構造は、グレーティング・パターンおよびレンズといった光学領域の外側に形成されている。
【0005】
光学素子が小さくなるにつれて、特許文献1および特許文献2に記載の光学素子では、光学領域と光源とのアライメントマージンが不十分となっていく。光学領域と光源とのアライメントマージンが不十分である場合、光学領域の外側からの光漏れのリスクが高くなる。したがって、光学素子の上面の面積に対する光学領域の面積の割合は、可能な限り大きいことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2002-182025号公報
【文献】特開2009-251249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、光学領域への接着剤の浸入を抑制でき、かつ、光学素子の上面の面積に対する光学領域の面積の割合を大きくできる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、基材と、前記基材の少なくとも一の面の上に位置し、前記基材に面する側と反対側の面に凹凸からなる光学領域を有する、光学機能層と、前記凹凸の凹部に位置し、前記凹凸の凸部と連続した閉曲線を形成する、接着剤浸入抑制パターンと、を備え、
前記光学領域は、枠と、前記枠から内側に向かって0μmより大きく150μmより小さい距離の範囲を満たす領域である接着剤浸入抑制領域と、前記接着剤浸入抑制領域で囲まれる領域である中心領域と、を有し、前記閉曲線は、前記中心領域を囲むように前記接着剤浸入抑制領域に形成される、光学素子である。
【0009】
第2の発明は、一の面に凹凸からなる光学領域を有する、光学機能基材と、前記凹凸の凹部に位置し、前記凹凸の凸部と連続した閉曲線を形成する、接着剤浸入抑制パターンと、を備え、前記光学領域は、枠と、前記枠から内側に向かって0μmより大きく150μmより小さい距離の範囲を満たす領域である接着剤浸入抑制領域と、前記接着剤浸入抑制領域で囲まれる領域である中心領域と、を有し、前記閉曲線は、前記中心領域を囲むように前記接着剤浸入抑制領域に形成される、光学素子である。
【0010】
第3の発明は、前記接着剤浸入抑制パターンの上面は、前記凹凸の上面と同じ高さである、第1の発明または第2の発明に記載の光学素子である。
【0011】
第4の発明は、前記閉曲線は、二重以上に形成される、第1の発明から第3の発明までのいずれかに記載の光学素子である。
【0012】
第5の発明は、第4の発明に記載の光学素子において、入射光の波長に対する、互いに平行に向き合う2つの前記接着剤浸入抑制パターンのピッチの比率は、0.2以上2.0以下である、光学素子である。
【0013】
第6の発明は、第4の発明に記載の光学素子において、入射光の波長に対する、互いに平行に向き合う2つの前記接着剤浸入抑制パターンのピッチの比率は、0.4以上1.4以下である、光学素子である。
【0014】
第7の発明は、前記閉曲線は、不規則な形状である、第1の発明から第6の発明までのいずれかに記載の光学素子である。
【0015】
第8の発明は、前記凹凸は、入射光の光軸から見て、前記凹部と前記凸部との境界が曲線を含むパターンを有する、第1の発明から第7の発明までのいずれかに記載の光学素子である。
【0016】
第9の発明は、前記光学領域は、入射光を回折する機能を有する、第1の発明から第8の発明までのいずれかに記載の光学素子である。
【0017】
第10の発明は、前記接着剤浸入抑制パターンは、紫外線硬化性樹脂により構成される、第1の発明から第9の発明までのいずれかに記載の光学素子である。
【0018】
第11の発明は、第1の発明から第10の発明までのいずれかに記載の光学素子を備えた、光照射装置である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように本発明によれば、光学領域への接着剤の浸入を抑制でき、かつ、光学素子の上面の面積に対する光学領域の面積の割合を大きくできる光学素子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、光照射装置1の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、光学素子10による光の照射領域の変換について示す図である。
【
図3】
図3は、光学素子10の構成を示す図である。
【
図4】
図4は、光学素子10の別形態の構成を示す図である。
【
図5】
図5は、nレベルの凹凸5Aからなる光学領域5のz方向における断面図である。
【
図6】
図6は、光学領域5における凹凸5Aの構成を示す概念図である。
【
図7】
図7は、GCA型の光学領域5の構成を示す概念図である。
【
図8】
図8は、接着剤浸入抑制パターン6の構成を示す図である。
【
図9】
図9は、規則的な形状の閉曲線Lの構成を示す図である。
【
図10】
図10は、二重に形成された閉曲線Lの構成を示す図である。
【
図11】
図11は、互いに平行に向き合う2つの接着剤浸入抑制パターン6のピッチPを示す図である。
【
図12】
図12は、インプリント法による光学素子10の作製方法を示す図である。
【
図13】
図13は、エッチングによる光学素子10の作製方法を示す図である。
【
図14】
図14は、光学領域5および接着剤浸入抑制パターン6の観察像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態について説明する。なお、本明細書に添付する図面においては、図示および理解のしやすさの便宜上、適宜縮尺および寸法比等を、実物のそれらから変更し誇張してある。
【0022】
また、本明細書において用いる、形状や幾何学的条件ならびにそれらの程度を特定する、例えば「平行」、「直交」、「同一」等の用語、長さおよび角度の値等については、厳密な意味に縛られることなく、同様の機能を期待し得る程度の範囲まで含めて解釈することとする。
【0023】
光照射装置1は、照射領域が変換された光を照射する装置である。
図1は、光照射装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、x軸、y軸およびz軸からなる三次元座標を定める。x軸、y軸およびz軸は、それぞれ互いに直交する。
図1(a)は、光照射装置1の上面図である。
図1(b)は、光照射装置1の底面図である。
図1(c)は、光照射装置1の側面図である。
図1(d)は、
図1(a)中の矢印A-A’の位置で切断した光照射装置1の断面図である。
図1に示すように、光照射装置1は、ホルダ2、光源3、接着剤4、光学素子10を備える。
【0024】
ホルダ2は、光学素子10を光源3から離した状態で保持するための部材である。ホルダ2は、特に限定はしないが、例えば
図1に示す形状であってもよい。ホルダ2の寸法について、例えば、上面および底面の外形は4×4mm、上面の開口は3×3mm、底面の開口は2×2mm、側面の外形は2×4mmであってもよい。ホルダ2を構成する材料は、例えば、アクリル系やエポキシ系の樹脂、ガラス、金属、等であってもよい。
【0025】
光源3は、光を発する装置である。光源3としては、特に限定はしないが、例えば、垂直共振器面発光レーザ等であってもよい。垂直共振器面発光レーザは、Vertical Cavity Surface Emitting LaserまたはVCSELと呼ばれることもある。VCSELは、温度変化に対する特性変化が小さいため、安定した光を発することができる。光源3からの光としては、例えば、ピーク波長が850nmや940nm等の近赤外光を用いてもよい。近赤外光は、人間の目に不可視であるため、人間の視界を妨害しない。また、近赤外光は、室内であれば使用する環境の外光に影響されにくい。
【0026】
接着剤4は、光学素子10をホルダ2に固定する部材である。例えば、光学素子10とホルダ2の界面に接着剤4を塗布することにより、両者を接着する。接着剤4としては、特に限定はしないが、例えば、紫外線硬化接着剤、熱硬化接着剤、等を用いることができる。接着剤4として紫外線硬化接着剤、熱硬化接着剤、等を用いることにより、光照射装置1が安定して機能するために十分な接着力を発揮できる。
【0027】
光学素子10は、光と物質との相互作用により、様々な機能を発現する素子である。
図2は、光学素子10による光の照射領域の変換について示す図である。
図2に示す変換前照射領域S1および変換後照射領域S2は、あくまで一例である。変換前照射領域S1は、例えば1つの円である。光30が光学領域5を通過することにより、光30の照射領域が変換される。変換後照射領域S2は、スクリーン7において、例えば9つの円とすることができる。光学領域5について光学設計を行うことにより、光の照射領域を自在に制御できる。
【0028】
光学素子10の構成について説明する。
図3は、光学素子10の構成を示す図である。
図3(a)は、光学素子10の斜視図である。
図3(b)は、
図3(a)中の矢印B-B’の位置で切断した光学素子10の断面図である。
図3(b)に示すように、光学素子10は、基材11と、光学機能層12と、接着剤浸入抑制パターン6と、を備える。
【0029】
基材11は、光学機能層12を支持するための部材である。基材11は、光透過性を有していてもよい。基材11としては、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、バリウムホウケイ酸ガラス、アミノホウケイ酸ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、メタクリル酸メチルブタジエンスチレン共重合体、メタクリル酸メチルスチレン共重合体、アクリルスチレン共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体等を用いてもよい。
【0030】
なお、反射型の光学素子として使用する場合、基材11は、必ずしも光透過性であることを要しない。
【0031】
基材11の形状としては、特に限定はしないが、例えば、直方体、等であってもよい。基材11の寸法は、例えば、3mm×3mm×0.5mmであってもよい。なお、基材11の端部は面取りされていてもよい。基材11の端部が面取りされていることにより、基材11を搬送等する際に、基材11の端部の欠損を抑制できる。
【0032】
光学機能層12は、光学領域5を形成するための層である。光学機能層12は、基材の少なくとも一の面の上に位置する。光学機能層12の膜厚は、例えば、20μmであってもよい。光学機能層12は、例えば、スピンコート法等により形成されてもよい。
【0033】
光学機能層12としては、特に限定はしないが、例えば、紫外線硬化性樹脂、等を用いてもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエーテルアクリレート、ポリチオール、ブタジエンアクリレート等を主材とした樹脂を用いてもよい。光学機能層12が紫外線硬化性樹脂により形成されることにより、インプリント法等により簡便に光学領域5を形成できる。
【0034】
なお、光学機能層12は、例えば、熱硬化性樹脂または電子線硬化性樹脂により形成されてもよい。また、光学機能層12は、熱硬化型または紫外線硬化型のスピンオングラスにより形成されてもよい。
【0035】
基材11と光学機能層12との間には、密着層を形成してもよい。密着層としては、例えば、シランカップリング剤、等を用いてもよい。密着層を形成することにより、基材11と光学機能層12との密着性を向上させることができる。密着性の向上により、インプリント法において、モールド8を光学機能層12から離型する際に、基材11と光学機能層12とが剥離することを防止できる。さらに、光学素子として長期間使用する場合、密着性が向上していることが有利に働くことが多い。
【0036】
基材11および光学機能層12は、光学機能基材13として1層にまとめられていてもよい。
図4は、光学素子10の別形態の構成を示す図である。
図4(a)は、光学素子10の斜視図である。
図4(b)は、
図4(a)中の矢印C-C’の位置で切断した光学素子10の断面図である。
図4(b)に示すように、光学素子10は、光学機能基材13と、接着剤浸入抑制パターン6と、を備える。
【0037】
光学機能基材13は、光学領域5を形成するための部材である。光学機能基材13は、独立して形状を維持できる部材である。光学機能基材13は、光透過性を有していてもよい。光学機能基材13としては、例えば、石英ガラス、ソーダガラス、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、バリウムホウケイ酸ガラス、アミノホウケイ酸ガラス、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、メタクリル酸メチルブタジエンスチレン共重合体、メタクリル酸メチルスチレン共重合体、アクリルスチレン共重合体、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体等を用いてもよい。光学機能基材13には、例えば、エッチング法や射出成型法、等により、光学領域5を形成することができる。
【0038】
なお、反射型の光学素子として使用する場合、光学機能基材13は、必ずしも光透過性であることを要しない。
【0039】
光学機能基材13の形状としては、特に限定はしないが、例えば、直方体等であってもよい。光学機能基材13の寸法は、例えば、3mm×3mm×0.5mmであってもよい。なお、光学機能基材13の端部は面取りされていてもよい。光学機能基材13の端部が面取りされていることにより、光学機能基材13を搬送等する際に、光学機能基材13の端部の欠損を抑制できる。
【0040】
光学機能層12は、基材11に面する側と反対側の面に凹凸5Aからなる光学領域5を有する。光学機能基材13の場合は、一の面に凹凸5Aからなる光学領域5を有する。光学領域5は、入射光に対して光学的な機能を発現する領域である。光学的な機能は、光の回折や屈折等による機能であってもよい。
【0041】
図3(a)および
図4(a)に示すように、光学領域5は、枠50と、接着剤浸入抑制領域51と、中心領域52と、を有する。枠50は、光学領域5の外形をかたどる線である。枠50の形状は、特に限定しないが、例えば、四角形や円形、等であってもよい。
【0042】
接着剤浸入抑制領域51は、接着剤浸入抑制パターン6を形成する領域である。接着剤浸入抑制領域51は、枠50から内側に向かって0μmより大きく150μmより小さい距離の範囲を満たす領域である。接着剤浸入抑制領域51を0μmより大きい距離の範囲とすることにより、接着剤浸入抑制パターン6を枠50の近傍に形成することができる。また、接着剤浸入抑制領域51を150μmより小さい距離の範囲とすることにより、後述する接着剤浸入抑制パターン6を設けるための十分な範囲を確保できる。また、光源3と光学領域5とのxy方向のアライメント誤差を考慮しても、光学領域の外側からの光漏れを十分抑制できる。接着剤浸入抑制領域51の形状は、枠50の形状に起因して定まる。
【0043】
中心領域52は、接着剤浸入抑制パターン6を形成しない領域である。中心領域52は、接着剤浸入抑制領域51で囲まれる領域である。中心領域52の形状は、枠50および接着剤浸入抑制領域51の形状に起因して定まる。
【0044】
図3(b)および
図4(b)に示すように、光学領域5は、z軸方向における断面において、凹凸5Aにより構成される。凹凸5Aは、凹部5Bと凸部5Cとを有する。凹部5Bは、空気により占められる部分である。凸部5Cは、光学機能層12または光学機能基材13を構成する材料により占められる部分である。凹部5Bと凸部5Cとは、屈折率が異なる物質により構成される。凹部5Bへの入射光と凸部5Cへの入射光との間で光路差が生じるため、光学的な機能を発現できる。
【0045】
凹凸5Aは、
図3(b)および
図4(b)に示す2レベルの例に限られず、3レベル以上であってもよい。
図5は、nレベルの凹凸5Aからなる光学領域5のz方向における断面図である。
図5において、接着剤浸入抑制パターン6は省略されている。nは2以上の自然数である。nレベルとは、凹凸5Aの最大の段数がnということである。
図8に示すように、n未満の段数の凹凸5Aが存在していてもよい。nの値が大きいほど、光の照射領域をより正確に制御できる。
【0046】
凹凸5Aは、入射光の光軸から見て、凹部5Bと凸部5Cとの境界が曲線を含むパターンを有していてもよい。
図6は、光学領域5における凹凸5Aの構成を示す概念図である。
図6において、接着剤浸入抑制パターン6は省略されている。入射光の光軸は、
図6におけるz軸である。凹部5Bと凸部5Cとの境界とは、凹部5Bを構成する空気と凸部5Cを構成する物質の界面である。曲線とは、例えば、波線や折れ線、またはこれらの組み合わせであってもよい。凹部5Bと凸部5Cとの境界が曲線を含むことにより、光の照射領域をより正確に制御できる。
【0047】
光学領域5は、同一の凹凸5Aからなる単位セル53が配列されたパターンであってもよい。単位セル53が配列されたパターンは、グレーティングセルアレイ型と呼ばれる。グレーティングセルアレイ型は、Grating Cell Array型またはGCA型と呼ばれることもある。
図7は、GCA型の光学領域5の構成を示す概念図である。
図7においては、9つの単位セル53が配列されたGCA型の光学領域5の例を示している。GCA型の光学領域5は、単位セル53ごとに異なる向きで配列されていてもよい。GCA型の光学領域5とすることにより、光の照射領域をより正確に制御できる。
【0048】
凹部5Bおよび凸部5Cの幅は、凹凸5Aの上面において、例えば、0.1μm以上20μm以下であってもよい。凹部5Bの深さ、すなわち凸部5Cの高さは、例えば、0.1μm以上3μm以下であってもよい。凹凸5Aのピッチは、例えば、0.2μm以上40μm以下であってもよい。
【0049】
接着剤浸入抑制パターン6は、接着剤4をせき止める機能を有するパターンである。
図8は、接着剤浸入抑制パターン6の構成を示す図である。接着剤浸入抑制パターン6は、凹部5Bに位置し、凸部5Cと連続した閉曲線Lを形成する。閉曲線とは、始点と終点とが一致する曲線のことである。連続とは、次々に繋がって続いている状態である。
図8に示すように、接着剤浸入抑制パターン6および接着剤浸入抑制パターン6と連続する凸部5Cを繋ぎ合わせると、閉曲線Lが形成されていることがわかる。
【0050】
図8(a)は、光学領域5および接着剤浸入抑制パターン6を示す図である。接着剤浸入抑制パターン6が凹部5Bに位置することにより、光学領域5の外側に接着剤浸入抑制パターン6を形成する必要がないため、光学素子10の上面の面積に対する光学領域5の面積の割合を大きくできる。さらに、接着剤浸入抑制パターン6が凹部5Bに位置することにより、凸部5Cの輪郭を部分的に残すことができ、光学領域5の光学機能の喪失を抑制できる。そして、接着剤浸入抑制パターン6が凸部5Cと連続した閉曲線Lを形成することにより、光学領域5への接着剤4の浸入を抑制できる。よって、光学領域5の光学機能の喪失を抑制できる。
【0051】
閉曲線Lは、中心領域52を囲むように接着剤浸入抑制領域51に形成される。
図8(b)は、
図8(a)から閉曲線Lを形成している部分のみを抽出し、かつ、接着剤浸入抑制領域51および中心領域52を重ね合わせた図である。閉曲線Lが中心領域52を囲むように接着剤浸入抑制領域51に形成されることにより、接着剤浸入抑制パターン6を枠50の近傍に形成することができる。よって、入射光が接着剤浸入抑制パターン6に照射されることを抑制できる。
【0052】
接着剤浸入抑制パターン6の幅は、例えば、0.1μm以上20μm以下であってもよい。接着剤浸入抑制パターン6の高さは、例えば、0.1μm以上3μm以下であってもよい。接着剤浸入抑制パターン6の上面は、凹凸5Aの上面と同じ高さであってもよい。接着剤浸入抑制パターン6の上面と凹凸5Aの上面とが同じ高さであることにより、光学領域5への接着剤4の浸入をより確実に抑制できる。
【0053】
閉曲線Lは、不規則な形状であってもよい。不規則とは、例えば、四角形や円形等の規則的な形状にならないことである。
図8(a)に示す例において、閉曲線Lは、不規則な形状である。閉曲線Lが不規則な形状であることにより、それぞれの接着剤浸入抑制パターン6に照射された光の回折方向が不規則になるため、接着剤浸入抑制パターン6を不可視化することができる。よって、接着剤浸入抑制パターン6の位置の特定を抑制できる。
【0054】
閉曲線Lは、四角形や円形等の規則的な形状であってもよい。
図9は、規則的な形状の閉曲線Lの構成を示す図である。
図9(a)は、四角形の閉曲線Lの構成を示す図である。
図9(b)は、円形の閉曲線Lの構成を示す図である。閉曲線Lが規則的な形状であることにより、接着剤浸入抑制パターン6の設計を簡便化できる。よって、接着剤浸入抑制パターン6の設計時間を短縮できる。
【0055】
閉曲線Lは、二重以上に形成されていてもよい。
図10は、二重に形成された閉曲線Lの構成を示す図である。
図10(a)は、二重に形成された不規則な形状の閉曲線Lの構成を示す図である。
図10(b)は、二重に形成された規則的な形状の閉曲線Lの構成を示す図である。閉曲線Lが二重以上に形成されていることにより、光学領域5への接着剤4の浸入をより確実に抑制できる。
【0056】
図11は、互いに平行に向き合う2つの接着剤浸入抑制パターン6のピッチPを示す図である。ピッチPとは、閉曲線Lが二重以上に形成されている場合において、互いに平行に向き合う2つの接着剤浸入抑制パターン6における対応する側面の間の距離である。
【0057】
回折の原理により、ピッチP、入射光の波長λ、および光の回折角θの間には以下の数式(1)が成立する。
【0058】
【数1】
また、2レベルの光学素子の空気界面において、パターン部と空気部との位相差が180°となる場合、以下の数式(2)が成立する。
【0059】
【数2】
ただし、
P:ピッチ
λ:入射光の波長
θ:光の回折角
h:パターン高さ
n:パターン材料の屈折率
である。
【0060】
ここで、回折光学素子は、0次光、つまり、変換前の光と同一軸上で同一形状となる光の制御が困難であることが広く知られている。そして、パターン部と空気部との位相差が180°となるとき、0次光の強度が最小値となり、さらに位相差が180°近辺において0次光の強度の制御が容易になることも広く知られている。
【0061】
例えば、屈折率が1.5のパターン材料において位相差を180°とする場合、数式(2)より、入射光の波長λとパターン高さhが一致する。ただし、0次光を一定レベルの強度に制御する、または、パターン材料が1.5でない回折光学素子においては、λとhの関係が変化することがあるため、本発明はλ=hに限定する必要はない
比率P/λは、0.2以上2.0以下、好ましくは0.4以上1.4以下、より好ましくは0.4以上1.0未満であってもよい。この理由を以下で説明する。
【0062】
接着剤浸入抑制パターン6のアスペクト比は、10以下であることが好ましい。例えば、接着剤浸入抑制パターン6の幅をdとすると、接着剤浸入抑制パターン6の高さは10d以下が好ましい。入射光の波長λは、接着剤浸入抑制パターン6の高さと一致することが好ましいため、10d以下である。ピッチPは、接着剤浸入抑制パターン6の幅の2倍であることが好ましいため、2dとなる。つまり、接着剤浸入抑制パターン6のアスペクト比が10以下とするためには、比率P/λは0.2以上である必要がある。比率P/λを0.2以上とすることにより、接着剤浸入抑制パターン6のアスペクト比が10以下であるため、接着剤浸入抑制パターン6の倒壊を抑制できる。
【0063】
接着剤浸入抑制パターン6のアスペクト比は、5.0以下であることがより好ましい。例えば、接着剤浸入抑制パターン6の幅をdとすると、接着剤浸入抑制パターン6の高さは5.0d以下が好ましい。入射光の波長λは、接着剤浸入抑制パターン6の高さと一致することが好ましいため、5.0d以下である。ピッチPは、接着剤浸入抑制パターン6の幅の2倍であることが好ましいため、2dとなる。つまり、接着剤浸入抑制パターン6のアスペクト比が5.0以下とするためには、比率P/λは0.4以上である必要がある。比率P/λを0.4以上とすることにより、接着剤浸入抑制パターン6のアスペクト比が5.0以下であるため、接着剤浸入抑制パターン6の倒壊をより確実に抑制できる。
【0064】
接着剤浸入抑制パターン6による光の回折角θは30°以上であることが好ましい。つまり、sinθは0.5以上であることが好ましい。数式(1)より、比率P/λは2.0以下であることが好ましい。比率P/λを2.0以下とすることにより、光の回折角θが30°以上とすることができる。例えば、光学領域5によってもたらされる有効照射領域が、一般的なカメラの画角程度である±30°の場合、接着剤浸入抑制パターン6により生じるノイズとなる回折光を、有効照射領域の外側へ逃がすことができる。
【0065】
接着剤浸入抑制パターン6による光の回折角θは45°以上であることがより好ましい。つまり、sinθは1/√2以上であることが好ましい。数式(1)より、比率P/λは1.4以下であることが好ましい。比率P/λを1.4以下とすることにより、光の回折角θが45°以上とすることができる。例えば、光学領域5によってもたらされる有効照射領域が、一般的なカメラの画角程度である±30°の場合、接着剤浸入抑制パターン6により生じるノイズとなる回折光を、より確実に有効照射領域の外側へ逃がすことができる。
【0066】
接着剤浸入抑制パターン6により、光が回折しないことがより一層好ましい。sinθは0以上1.0以下の値である。数式(1)においてsinθが1より大きい、つまり、比率P/λが1.0未満である場合、光は回折しない。よって、入射光が接着剤浸入抑制パターン6に照射されても、光の回折を抑制できる。よって、比率P/λを1.0未満とすることにより、接着剤浸入抑制パターン6により生じうるノイズとなる回折光を抑制できる。
【0067】
以上より、比率P/λは、0.2以上2.0以下、好ましくは0.4以上1.4以下、より好ましくは0.4以上1.0未満であってもよい。
【0068】
接着剤浸入抑制パターン6は、光学機能層12と同様に紫外線硬化性樹脂等により構成されていてもよい。接着剤浸入抑制パターン6が紫外線硬化性樹脂により構成されることにより、凹凸5Aおよび接着剤浸入抑制パターン6を同時に形成できる。よって、光学素子10を作製する時間を短縮できる。
【0069】
光学領域5および接着剤浸入抑制パターン6は、インプリント法により形成されてもよい。
図12は、インプリント法による光学素子10の作製方法を示す図である。
図12(a)に示すように、基材11を用意する。
図12(b)に示すように、基材11の一の面の上に紫外線硬化性樹脂を塗布することにより、未硬化の光学機能層12を形成する。
図12(c)に示すように、モールド8の凹凸面を、光学機能層12の基材11に面する側と反対側の面に押し付ける。モールド8の凹凸面は、凹凸5Aおよび接着剤浸入抑制パターン6を反転したパターンを有する。
図12(d)に示すように、モールド8の裏面側から、光学機能層12に紫外線UVを照射することにより、光学機能層12を硬化させる。
図12(e)に示すように、モールド8を光学機能層12から離型することにより、光学領域5および接着剤浸入抑制パターン6が光学機能層12に形成される。
図12に示す一連の工程により、光学素子10が完成する。
【0070】
モールド8は、紫外線UVを透過する材質等から構成されることが好ましい。モールド8としては、石英ガラス等からなるマスターモールドを用いてもよい。また、モールド8としては、マスターモールドから複製された樹脂レプリカモールドを用いてもよい。
【0071】
光学領域5および接着剤浸入抑制パターン6は、インプリント法に限定されず、例えば、フォトリソグラフィや電子線リソグラフィ等のリソグラフィ法等により形成されてもよい。
【0072】
図12(e)に示す光学素子10において、光学機能層12をマスクとして、基材11をエッチングしてもよい。基材11に、光学領域5および接着剤浸入抑制パターン6が形成されるため、基材11を光学機能基材13とした光学素子10を得ることができる。
【0073】
図13は、エッチングによる光学素子10の作製方法を示す図である。
図13(a)は、
図12(e)に示す光学素子10において、基材11を光学機能基材13とした図である。
図13(b)に示すように、エッチングガスを用いて、光学機能層12および光学機能基材13を異方的にエッチングする。エッチングガスとしては、アルゴン等を用いてもよい。エッチングガスとしてアルゴンを用いることにより、エッチングガスが光学機能層12および光学機能基材13と化学的に反応することを抑制できる。
図13(c)に示すように、光学機能層12の残膜を除去することにより、光学素子10が完成する。光学機能層12が紫外線硬化性樹脂である場合、酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチング等により、光学機能層12の残膜を除去してもよい。光学機能基材13が石英ガラスである場合、光学機能基材13は酸素プラズマを用いた反応性イオンエッチングによりエッチングされないため、光学機能層12の残膜のみを除去できる。
【0074】
なお、光学機能層12および光学機能基材13の間にハードマスクが形成されていてもよい。ハードマスクとしては、クロム等の金属を用いてもよい。光学機能層12および光学機能基材13の間にハードマスクが形成されていることにより、光学領域5および接着剤浸入抑制パターン6のラインエッジラフネスを小さくできる。
【実施例】
【0075】
以下に実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。
【0076】
光学領域および接着剤浸入抑制パターンからなるパターンを設計した。光学領域において、凹部の幅を1μm、凸部の幅を1μm、凸部の高さを1μmとした。接着剤浸入抑制パターンにおいて、幅を300nm、ピッチを600nmとした。
【0077】
設計したパターンを反転することにより、モールドパターンを設計した。リソグラフィ法により、モールドパターンを石英基板に形成した。モールドパターンを形成した石英基板をモールドとした。
【0078】
厚さ0.5mmのガラス基板を用意した。未硬化の紫外線硬化性樹脂を膜厚20μmでガラス基板の上に塗布した。モールドを紫外線硬化性樹脂へ押し付けた。モールドを介した紫外線の照射により、紫外線硬化性樹脂を硬化させた。モールドを紫外線硬化性樹脂から離型することにより、光学領域および接着剤浸入抑制パターンを紫外線硬化性樹脂に形成し、光学素子とした。
【0079】
光学領域および接着剤浸入抑制パターンを形成した紫外線硬化性樹脂に対して、白金パラジウムを膜厚2nmでスパッタリングすることにより、導電性を向上させた。走査型電子顕微鏡により、光学領域および接着剤浸入抑制パターンを観察した。走査型電子顕微鏡は、Scanning Electron MicroscopeまたはSEMと呼ばれることもある。SEMによる観察の条件は、加速電圧5kV、開口数30μm、作動距離3mmとした。
【0080】
図14は、光学領域および接着剤浸入抑制パターンの観察像を示す図である。
図14より、接着剤浸入抑制パターンが凹部に位置していることが確認された。これにより、光学素子の上面の面積に対する光学領域の面積の割合を大きくできた。
【0081】
本発明の光学素子は、例えば、スマートフォン等の電子機器におけるセキュリティ強化の用途として、3次元顔認証のための光照射装置等に利用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 光照射装置
10 光学素子
11 基材
12 光学機能層
13 光学機能基材
2 ホルダ
3 光源
4 接着剤
5 光学領域
50 枠
51 接着剤浸入抑制領域
52 中心領域
53 単位セル
5A 凹凸
5B 凹部
5C 凸部
6 接着剤浸入抑制パターン
7 スクリーン
8 モールド
8A パターン面
8B 裏面
S1 変換前照射領域
S2 変換後照射領域
L 閉曲線
P ピッチ
UV 紫外線