(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】雑音評価装置、音響特性測定装置、雑音評価方法、音響特性測定方法、および雑音評価プログラム
(51)【国際特許分類】
G01H 3/00 20060101AFI20250212BHJP
G01M 99/00 20110101ALI20250212BHJP
【FI】
G01H3/00 A
G01M99/00 Z
(21)【出願番号】P 2020186948
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109313
【氏名又は名称】机 昌彦
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】植野 義則
(72)【発明者】
【氏名】西村 望
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153935(JP,A)
【文献】特開平01-214720(JP,A)
【文献】特開2017-153270(JP,A)
【文献】特開平10-174373(JP,A)
【文献】特開平03-103725(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106996801(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 3/00
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象が出力する測定対象音を集音して生成された集音信号を取得する集音信号取得手段と、
前記測定対象の前記測定対象音の出力を繰り返しオン/オフする制御を行う測定対象音オン/オフ制御手段と、
前記制御に基づいて、前記測定対象音の出力がオンしている時の集音信号を第1の集音信号とし、前記測定対象音の出力がオフしている時の集音信号を第2の集音信号とし、ある期間における前記第2の集音信号の強度あるいは周波数スペクトルの時間変化を算出し、
前記時間変化が予め設定したしきい値未満である場合に当該期間において前記第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルが推定可能であると判定し、前記時間変化が前記しきい値以上である場合に当該期間において前記第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルが推定不可能であると判定する判定手段と、
を有することを特徴とする雑音評価装置。
【請求項2】
前記判定手段が、
前記第2の集音信号を、それぞれのオフ期間においてFFT処理するFFT処理部を有し、
前記第2の集音信号をFFT処理して得られた第2の集音スペクトルを用いて前記第2の集音信号の前記時間変化を算出する
ことを特徴とする請求項1に記載の雑音評価装置。
【請求項3】
請求項1または2の雑音評価装置と、
前記雑音評価装置が、前記雑音の周波数スペクトルを推定可能と判定した期間の前記第1の集音信号と前記第2の集音信号とを用いて、前記測定対象音の音響特性を算出する音響特性算出部と、
を有することを特徴とする音響特性測定装置。
【請求項4】
前記音響特性算出部が、
ある期間の前記第1の集音信号をFFT処理して得られた第1の集音スペクトルと
前記ある期間に隣接する期間の第2の集音信号をFFT処理して得られた第2の集音スペクトルと、に基づいて、
前記音響特性の周波数成分を算出する
ことを特徴とする請求項3に記載の音響特性測定装置。
【請求項5】
測定対象が出力する測定対象音を集音して生成された集音信号を取得し、
前記測定対象の前記測定対象音の出力を繰り返しオン/オフする制御を行い、
前記制御に基づいて、前記集音信号を、前記測定対象音の出力がオンしている時の集音信号を第1の集音信号とし、前記測定対象音の出力がオフしている時の集音信号を第2の集音信号とし、
ある期間における前記第2の集音信号の強度あるいは周波数スペクトルの時間変化を算出し、
前記時間変化が予め設定したしきい値未満である場合に当該期間において前記第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルが推定可能であると判定し、前記時間変化が前記しきい値以上である場合に当該期間において前記第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルが推定不可能であると判定する、
ことを特徴とする雑音評価方法。
【請求項6】
前記第2の集音信号を、それぞれのオフ期間においてFFT処理し、
前記第2の集音信号を前記FFT処理して得られた第2の集音スペクトルを用いて前記第2の集音信号の前記時間変化を算出する
ことを特徴とする請求項5に記載の雑音評価方法。
【請求項7】
請求項5または6の雑音評価方法で前記雑音を評価し、
前記雑音の周波数スペクトルを推定可能と判定した期間の前記第1の集音信号と前記第2の集音信号とを用いて、前記測定対象音の音響特性を算出する
ことを特徴とする音響特性測定方法。
【請求項8】
ある期間の前記第1の集音信号をFFT処理して第1の集音スペクトルを算出し、
前記ある期間に隣接する期間の第2の集音信号をFFT処理して得られた第2の集音スペクトルを算出し、
前記第1の集音スペクトルと前記第2の集音スペクトルとに基づいて、前記音響特性の周波数成分を算出する
ことを特徴とする請求項7に記載の音響特性測定方法。
【請求項9】
測定対象が出力する測定対象音を集音して生成された集音信号を取得する処理と、
前記測定対象の前記測定対象音の出力を周期的にオン/オフする制御を行う処理と、
前記制御に基づいて、前記集音信号を、前記測定対象音の出力がオンしている時の集音信号を第1の集音信号とし、前記測定対象音の出力がオフしている時の集音信号を第2の集音信号とする処理と、
ある期間における前記第2の集音信号の強度あるいは周波数スペクトルの時間変化を算出し、
前記時間変化が予め設定したしきい値未満である場合に当該期間において前記第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルが推定可能であると判定し、前記時間変化が前記しきい値以上である場合に当該期間において前記第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルが推定不可能であると判定する処理と、
をコンピュータに実行させることを特徴とする雑音評価プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雑音評価装置、音響特性測定装置、雑音評価方法、音響特性測定方法、および雑音評価プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、電気製品は電子部品や機構部品・筐体など複数のモジュールによって構成されている。このような電気製品の製造では、モジュールを順に組み立てた後、機能検査及び外観検査によって問題ないことを確認して組立完了となる。
【0003】
前記機能検査の1つに、音の検査がある。これは、例えば、機器の操作音や警告音が正しく鳴るか・音声の品質に問題がないか等を確認するものである。このような音の検査では、周辺環境から雑音が混入して誤判定が起こる場合がある。このため、製品を遮音箱と呼ばれる防音性の高い箱に収納するなどの防音対策を施した状態で検査を行うことが一般的である。
【0004】
しかし、上記の遮音箱を用いる方法では、検査のたびに、検査を終了した製品を遮音箱から取り出し、次に検査する製品を遮音箱へ収納するといった作業が必要となり、生産性が低下する。そこで、遮音箱などの防音対策を施さずに集音し、信号処理によって雑音を除去して検査しようとする取組が行われている。この場合、集音した音が対象物からの音か、周辺環境からの雑音かを区別し、雑音を除去する技術が必要になる。
【0005】
例えば、特許文献1には、周辺環境からの雑音を除去して、音声認識を行う音声認識装置の発明が開示されている。この音声認識装置では、まず、音声(測定対象音)無しの雑音をサンプリングし、雑音の時間成分の分布をFFT(Fast Fourier Transform:高速フーリエ変換)により周波数成分の分布に変換する。次に、雑音を含む、ユーザの音声をサンプリングし、ユーザの音声の時間成分の分布をFFTにより周波数成分の分布に変換する。そして、音声の周波数成分から、雑音の周波数成分を差し引くことにより、音声のみの周波数成分を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1では、雑音が時間的に変化しないことを前提としている。つまり、周辺環境音のサンプリング時と、音声のサンプリング時で、雑音が同じ場合には、正確に音声のみの周波数成分を抽出することができる。しかしながら、雑音が2つのサンプリング期間の間に変化している場合には、実際とは異なる雑音の周波数成分を、音声の周波数成分から差し引いてしまうという問題がある。この原因は、雑音が変化している場合には、雑音成分を正確に推定することができないにも関わらず、変化しない前提でサンプリングした雑音成分を用いていることにある。
【0008】
本発明は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、集音信号に含まれる測定対象音以外の雑音の周波数スペクトルが推定可能か否かを判定する雑音評価装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の雑音評価装置は、集音信号取得手段と、測定対象音オン/オフ制御手段と、判定手段とを有する。集音信号取得手段は、測定対象が出力する測定対象音および周辺環境からの音を集音して生成された集音信号を取得する。測定対象音オン/オフ制御手段は、測定対象が発生する測定対象音の出力を繰り返しオン/オフするオン/オフ制御を行う。判定手段は、測定対象音の出力がオンしている時の集音信号を第1の集音信号とし、測定対象音の出力がオフしている時の第2の集音信号とする。そして、所定期間における複数の第2の集音信号の強度あるいは周波数スペクトルの時間変化を算出し、この時間変化に基づいて、集音信号に含まれる測定対象音以外の雑音の周波数スペクトルが推定可能か否かを判定する。
【0010】
また本発明の音響特性測定装置は、上記の雑音評価装置と、音響特性算出部と、を有する。音響特性算出部は、雑音評価装置が、集音信号に含まれる測定対象音以外の雑音の周波数スペクトルが推定可能と判定した期間の、第1の集音信号と第2の集音信号とを用いて、測定対象音の音響特性を算出する。
【0011】
また本発明の雑音評価方法は、測定対象が出力する測定対象音を、繰り返しオン/オフする制御を行い、測定対象音を集音して生成された集音信号を取得する。さらに、この制御に基づいて、測定対象音の出力がオンしている時の集音信号を第1の集音信号とし、測定対象音の出力がオフしている時の集音信号を第2の集音信号とし、第2の集音信号の強度あるいは周波数スペクトルの時間変化を算出する。そして、この時間変化に基づいて、集音信号に含まれる測定対象音以外の雑音の周波数スペクトルが推定可能か否かを判定する。
【0012】
また本発明の雑音評価プログラムは、測定対象が出力する測定対象音を集音し生成された集音信号を取得する処理と、測定対象の前記測定対象音の出力を繰り返しオン/オフする制御を行う処理と、をコンピュータに実行させる。さらに、この制御に基づいて、測定対象音の出力がオンしている時の集音信号を第1の集音信号とする処理と、測定対象音の出力がオフしている時の集音信号を第2の集音信号とする処理と、をコンピュータに実行させる。そして、第2の集音スペクトルの強度あるいは周波数スペクトルの時間変化を算出し、この時間変化に基づいて、集音信号に含まれる測定対象音以外の雑音の周波数スペクトルが推定可能か否かを判定する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の効果は、集音信号に含まれる測定対象音以外の雑音の周波数スペクトルが推定可能か否かを判定する雑音評価装置を提供できることである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1の実施形態の雑音評価装置を示すブロック図である。
【
図2】第1の実施形態の雑音評価装置の動作を示すフローチャートである。
【
図3】第2の実施形態の音響特性測定装置を示すブロック図である。
【
図4】第3の実施形態の音響特性測定装置を示すブロック図である。
【
図5】第3の実施形態の測定対象音オン/オフ制御信号と集音信号との関係を示すタイミングチャートである。
【
図6】第3の実施形態の第2の集音信号の差分算出の一例を示すグラフである。
【
図7】第3の実施形態の第2の集音信号の差分算出の別の一例を示すグラフである。
【
図8】第3の実施形態の音響特性測定装置の動作を示すフローチャートである。
【
図9】
図8のフローチャートのS104の詳細を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を詳細に説明する。但し、以下に述べる実施形態には、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がされているが、発明の範囲を以下に限定するものではない。なお各図面の同様の構成要素には同じ番号を付し、説明を省略する場合がある。
【0016】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の雑音評価装置10を示すブロック図である。雑音評価装置10は、集音信号取得手段1と、測定対象音オン/オフ制御手段2と、判定手段3とを有する。
【0017】
集音信号取得手段1は、測定対象が出力する測定対象音および周辺環境からの音を集音して生成された集音信号を取得する。ここで、周辺環境からの音は、雑音である。
【0018】
測定対象音オン/オフ制御手段2は、測定対象が発生する測定対象音の出力を繰り返しオン/オフするオン/オフ制御を行う。
【0019】
判定手段3は、測定対象音の出力がオンしている時の集音信号を第1の集音信号とし、測定対象音の出力がオフしている時の第2の集音信号とする。そして、所定期間における複数の第2の集音信号の強度あるいは周波数スペクトルの時間変化を算出し、この時間変化に基づいて、前記第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルが推定可能であるか否かを判定する。この処理の詳細については後述する。
【0020】
図2は、雑音評価装置10の動作を示すフローチャートである。雑音評価装置10は、測定対象を制御して、測定対象が発する測定対象音を繰り返しオン/オフする(S1)。判定手段3は、測定対象音がオンの時に集音信号取得手段1が取得した集音信号を第1の集音信号とし、測定対象音がオフの時に集音信号取得手段1が取得した集音信号を第2の集音信号とする。そして、オン/オフの切り替え回数に対応する番号を付与する(S2)。例えば、2回目のオフであれば第2の集音信号(2)、5回目の第1の集音信号(5)などとすることができる。次に、測定対象音出力のオン/オフ切り替えの、あるオフの回における第2の集音信号と、当該回から所定回数後のオフの回における第2の集音信号との差分を算出する(S3)。差分の算出は、例えば、同じ時間幅の中の信号強度の時間変化を用いて行うことができる。この信号強度は、例えば二乗平均平方根(実効値)で算出することができる。そして二乗平均平方根の差分が、所定の閾値以下であれば、雑音のレベルが変化していないと判断することができる。あるいは、差分の算出に当たって、第2の集音信号強度の時間変化を回ごとにフーリエ変換して、周波数スペクトルに変換し、各周波数における音圧の差として算出しても良い。この場合、例えば、まず、ある回の第2の集音信号の周波数スペクトルを算出し、同様に、ある回から所定回後の第2の集音信号の周波数スペクトルを算出する。次いで、成分ごとに引き算を行って、差分スペクトルを算出する。そして、例えば、差分スペクトルの各周波数成分の絶対値を算出し、この絶対値に所定の閾値以上の成分が無ければ、第2の集音信号(雑音)が変化していないと判断し、閾値以上の成分があれば第2の集音信号(雑音)が変化したと判断することができる。なお、差分スペクトルの算出に当たっては、例えば、第2の集音信号の周波数スペクトルに閾値を設けておき、閾値以上の周波数成分についてだけ、差分を算出するようにしても良い。次に、上記のようにして求めた差分、例えば、差分スペクトルの成分の最大値が、予め定めた閾値未満であるか判定する(S4)。ここで、差分が閾値未満だったら(S4_Yes)、上記の差分を算出した期間における、雑音の周波数スペクトルが推定可能であると判定する(S5)。これは、上記の期間において雑音が変化していないと判定できるためである。雑音が変化していなければ、第1の集音信号に含まれる雑音成分が、対象とする第1の集音信号に隣接する回の第2の集音信号と同じであると考えられる。このため、第1の集音信号に含まれる雑音の集音スペクトルを、当該回の第2の集音信号の周波数スペクトルを算出することで推定することができる。一方、上記の差分が閾値以上であった場合は(S4_No)、上記の差分を算出した期間における、雑音の周波数スペクトルの推定が不可能であると判定する(S6)。これは、当該期間における雑音が変化しており、第1の集音信号に含まれる雑音の周波数スペクトルを正確に推定できないと判断されるためである。
【0021】
以上の動作をすることにより、本実施形態の雑音評価装置によれば、集音信号に含まれる測定対象音以外の雑音の周波数スペクトルが推定可能か否かを判定することができる。
【0022】
(第2の実施形態)
図3は、第1の実施形態の雑音評価装置10を利用した音響特性測定装置20を示すブロック図である。音響特性測定装置20は、雑音評価装置10に加えて音響特性算出手段4を備えている。音響特性算出手段4は、判定手段3から第1の集音信号と第2の集音信号と、判定結果とを受信する。この判定結果とは、雑音の周波数スペクトルが推定可能な期間と、雑音の周波数スペクトルが推定できない期間を示すものである。
【0023】
上記の構成で、音響特性算出手段4は、第1の集音信号と第2の集音信号をそれぞれフーリエ変換して、第1の集音スペクトルと第2の集音スペクトルを算出する。そして、判定手段3が、雑音の周波数スペクトルを推定可能と判定した期間において、ある回の第1の集音スペクトルから、これに隣接する回の第2の集音スペクトルを差し引くことにより雑音を除去し、測定対象音のスペクトルを抽出する。こうして、測定対象音の音響特性を、測定対象音のスペクトルとして求めることができる。
【0024】
以上説明したように、本実施形態の音響特性測定装置によれば、雑音の周波数スペクトルを推定することが可能な期間だけで音響特性を算出するため、精度の良い音響特性測定を行うことができる。
【0025】
(第3の実施形態)
本実施形態では、第2の実施形態の音響特性測定装置の具体的な構成例について説明する。
図4は、第3の実施形態の音響特性測定装置100を示すブロック図である。音響特性測定装置100は、測定対象音オン/オフ制御部110と、集音信号取得部120と、集音信号分割部130と、FFT処理部140と、雑音スペクトル推定可否判定部150と、音響特性算出部160とを有している。ここでFFTとは、Fast Fourier Transform(高速フーリエ変換)の略である。音響特性測定装置100のハードウェアには、例えば、プロセッサ、メモリ、ストレージを備えたコンピュータを用いることができる。
【0026】
測定対象音オン/オフ制御部110は、測定対象300に対して、音を出力(オン)するか、音を停止(オフ)するかの指令を出力して、測定対象300の測定対象音の出力を所定の周期でオン/オフする制御を行う。測定対象音オン/オフ制御部110は、制御信号を集音信号分割部130およびFFT処理部140にも出力する。
【0027】
集音信号取得部120は、集音マイク200が、測定対象から発生する音と周辺環境音とを集音し、音を電気信号に変換して生成した集音信号を取得する。集音マイク200は、測定対象から出力された測定対象音の他に、周辺環境から到来する雑音も集音するので、集音信号も雑音を含んだものとなる。
【0028】
集音信号分割部130は、受信した集音信号を、測定対象音の出力がオンしている時の第1の集音信号と、オフしている時の第2の集音信号とに分割する。また、集音信号分割部130は、測定対象音のオン/オフの切り替えの回数をカウントし、第1の集音信号と、第2の集音信号には、オン/オフの切り替えの回数に応じた番号を付加する。そして、第1の集音信号と、第2の集音信号とをFFT処理部140へ出力する。
【0029】
FFT処理部140は、それぞれのオンの期間、オフの期間ごとに、第1の集音信号と、第2の集音信号とをFFT処理する。
【0030】
雑音スペクトル推定可否判定部150は、ある回の第2の集音信号と、その回の所定回数後の回の第2の集音信号の差分を求め、この差分に基づいて、差分を求めた期間で、雑音の周波数スペクトルを推定できるか否かを判定する。詳細は後述する。
【0031】
音響特性算出部160は、雑音スペクトル推定可否判定部150が、雑音の周波数スペクトルを推定可能と判定した期間の第1の集音信号、第2の集音信号を用いて、音響特性を算出する。音響特性の算出についても後述する。
【0032】
次に具体例を用いて、雑音の周波数スペクトルの推定可否判定と音響特性の算出について説明する。まず集音信号について説明する。
図5は、集音信号取得部120が取得した集音信号の信号強度と、測定対象音オン/オフ制御部110が出力するオン/オフ制御信号の出力例を示すタイミングチャートである。測定対象音オン/オフ制御部110から測定対象300に、オン/オフ制御信号が送信されると、測定対象300は、それに応じて、測定対象音出力のオン/オフを行う。なお、オン/オフの切り替え回数は、例えば、集音信号分割部130がカウントし、
図5に示すように、それぞれのオン期間、オフ期間には、i回目のオン、i回目のオフ、i+1回目のオン、・・・といったように番号が付与される。
【0033】
次に雑音の周波数スペクトルの推定可否判定について説明する。まず、それぞれのオン期間、オフ期間ごとにFFT処理を行い、集音信号の時間変化を周波数スペクトルに変換する。ここで、測定対象音オフ時の第2の集音信号をFFT処理した第2の集音スペクトルにおける周波数f1の音圧をPOFF(集音順)とする。また測定対象音オン時の第1の集音信号をFFT処理した第1の集音スペクトルにおける周波数f1の音圧をPON(集音順)で表すものとする。例えば、オフの場合は、i-1回目の集音であればPOFF(i-1)、i回目の集音であればPOFF(i)となる。雑音の周波数スペクトルの推定が可能であるか否かは、ある回のPOFFと、所定回後のPOFFとの差分の絶対値が閾値Pth未満であるか否かで判定する。
【0034】
図6は、i-1回目のオフと、i回目のオフの周波数f
1における音圧を示すグラフである。
図6の場合、差分ΔP
OFF(i)=P
OFF(i)-P
OFF(i-1)<P
thである。このため、i-1回目のオフとi回目のオフの間の雑音の変化は小さく、一定とみなすことができる。したがって、i回目のオンにおける第1の集音スペクトルの周波数f
1の音圧P
ON(i)から、P
OFF(i)またはP
OFF(i-1)、あるいはこれらの平均値を差し引くことにより、測定対象音の周波数f
1の成分を求めることができる。この成分取得を所定の周波数範囲で行うことにより、測定対象音の音圧スペクトル、すなわち音響特性を求めることができる。
【0035】
図7は、オフ時の音圧の差が大きい場合の、i―1回目のオフと、i回目のオフの周波数f
1における音圧を示すグラフである。この場合、ΔP
OFF(i)=P
OFF(i)-P
OFF(i-1)≧P
thである。このような場合、2つのオフ期間の間に、雑音成分が大きく変化していることから、両者の間のオン期間における雑音成分を正確に推定することが困難である。このため、例えば、P
OFF(i)とP
OFF(i-1)の平均値を雑音成分として差し引いて測定対象音成分を算出すると、誤差が大きいものになると考えられる。そこで、本実施形態では、差分の絶対値が閾値以上である期間の集音スペクトルは、音響特性測定には用いずに破棄するものとする。
【0036】
上記のようにして、雑音成分を精度よく推定できる期間の集音信号だけを用いて、雑音を除去して音響測定を行うため、本実施形態によれば、誤った雑音除去を行うことを回避し、精度の良い音響測定を行うことができる。
【0037】
なお上記、
図6、
図7の説明では、i回目と、それより1つ前のi-1回目のオフ時の集音信号を用いて雑音除去可否判定を行ったが、例えば、2回前、3回前など、別の所定の期間で差分を計算して、判定を行っても良い。また、判定は全ての周波数で実施しても良いが、あるしきい値C
1を設定し、音圧がC
1以上の周波数でのみ実施するようにしても良い。また、音圧変化を差分ではなく、比P
OFF(i)/P
OFF(i-1)で判定しても良い。
【0038】
図8は、以上に説明した音響特性測定装置100の動作を示すフローチャートである。まず、集音信号を、測定対象音の出力がオンの時の第1の集音信号と、オフの時の第2の集音信号に分割する(S101)。次に、それぞれのオン期間、オフ期間ごとにFFT処理を行い周波数分布に変換する(S102)。
【0039】
次にS103からS106のループ処理Lを行う。ループ処理の中では、i回目のオンにおけるPON(i)から雑音の周波数スペクトルの推定が可能であるか判定する(S104)。そして雑音の周波数スペクトルの推定が可能であると判定された場合は、測定対象音の周波数fにおける音圧P(i)を、P(i)=PON(i)-POFF(i)によって求める(S105)。一方、雑音の周波数スペクトルの推定が不可能であると判定した場合は、その期間の集音信号を破棄する。このループ処理では、S104、S105の処理を、所定範囲として定めたN回行い、さらに所定の周波数範囲について完了するまで繰り返す(L)。以上のようにして、雑音変動の影響を小さくして、音響特性を算出することができる。
【0040】
図9は、
図8のフローチャートの雑音除去判定S104の詳細を示すフローチャートである。まず、i回目のオフ時と所定回数a回前のオフ時の音圧の差分ΔP
OFF(i)を、式、ΔP
OFF(i)=P
OFF(i)-P
OFF(i-a)により算出する(S1041)。次に差分ΔP
OFF(i)の絶対値が閾値未満であるか判定する(S1042)。ΔP
OFF(i)の絶対値が閾値未満であった場合は(S1042_Yes)、i回目の第1の集音信号における雑音の周波数スペクトルの推定が可能であると判定し(S1043)、P
ON(i)を音響特性算出用に保持する(S1044)。
【0041】
一方、S1042で差分ΔPOFF(i)の絶対値が閾値Pth以上であった場合は(S1042_No)、i回目の第1の集音信号における雑音の周波数スペクトルの推定が不可能であると判定し(S1045)、PON(i)を音響特性算出の対象から除外する(S1046)。
【0042】
以上説明したように、本実施形態によれば、誤った雑音除去を行うことを回避できるため、雑音変動の影響を受けにくい音響特性測定を行うことができる。
【0043】
上述した第1乃至第3の実施形態の処理を、コンピュータに実行させるプログラムおよび該プログラムを格納した記録媒体も本発明の範囲に含む。記録媒体としては、例えば、磁気ディスク、磁気テープ、光ディスク、光磁気ディスク、半導体メモリ、などを用いることができる。
【0044】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上記実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1 集音信号取得手段
2 測定対象音オン/オフ制御手段
3 判定手段
4 音響特性算出手段
10 雑音評価装置
20、100 音響特性測定装置
110 測定対象音オン/オフ制御部
120 集音信号取得部
130 集音信号分割部
140 FFT処理部
150 雑音スペクトル推定可否判定部
160 音響特性算出部
200 集音マイク
300 測定対象