(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】インバータ制御装置、プログラム
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20250212BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20250212BHJP
B60L 7/14 20060101ALN20250212BHJP
B60L 9/18 20060101ALN20250212BHJP
B60L 50/60 20190101ALN20250212BHJP
B60L 58/12 20190101ALN20250212BHJP
【FI】
H02P27/06
H02M7/48 E
B60L7/14
B60L9/18 J
B60L50/60
B60L58/12
(21)【出願番号】P 2020187330
(22)【出願日】2020-11-10
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】堀畑 晴美
【審査官】谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-141862(JP,A)
【文献】特開2009-017694(JP,A)
【文献】特開2009-247077(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063287(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
H02M 7/48
B60L 7/14
B60L 9/18
B60L 50/60
B60L 58/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
を備えるシステムに適用されるインバータ制御装置(50)において、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定部(57)と、
前記要否判定部により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行部(58)と、を備え
、
前記要否判定部は、前記減磁実行部により前記短絡制御及び前記遮断制御が実行された後に減磁が再度必要であるか否かを判定し、
前記減磁実行部は、前記要否判定部により減磁が不要であると判定されるまで、前記短絡制御及び前記遮断制御の実行を繰り返す、インバータ制御装置。
【請求項2】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
を備えるシステムに適用されるインバータ制御装置(50)において、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定部(57)と、
前記要否判定部により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行部(58)と、を備え
、
前記減磁実行部は、前記短絡制御を開始した後、弱め界磁用のd軸電流(Idr)がd軸電流閾値(Idth)を上回ったと判定した場合に前記遮断制御を開始する、インバータ制御装置。
【請求項3】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
を備えるシステムに適用されるインバータ制御装置(50)において、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定部(57)と、
前記要否判定部により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行部(58)と、を備え
、
前記減磁実行部は、前記短絡制御を開始した後、前記回転電機が発電状態から力行状態に切り替わったと判定した場合に前記遮断制御を開始する、インバータ制御装置。
【請求項4】
前記減磁実行部は、前記短絡制御の継続時間(Lth)を、前回の前記短絡制御の継続時間よりも短くする、請求項
1~3のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項5】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
を備えるシステムに適用されるインバータ制御装置(50)において、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定部(57)と、
前記要否判定部により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行部(58)と、を備え
、
前記減磁実行部は、前記永久磁石の温度(Tmag)が低いほど、前記短絡制御の継続時間(Lth)を長くする、インバータ制御装置。
【請求項6】
前記要否判定部は、前記蓄電部の電圧(Vb)が、前記蓄電部の耐圧よりも低い電圧閾値(Vth)を超えたと判定した場合に減磁が必要であると判定する、請求項1~
5のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項7】
前記要否判定部は、前記蓄電部が充電状態であると判定したことを条件に減磁が必要であると判定する、請求項1~
6のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項8】
前記要否判定部は、前記蓄電部及び前記インバータの間に流れる直流電流(Ip)、前記コイルから前記インバータを介して出力される逆起電圧(Vm)、前記ロータの回転速度(ωe)、又は前記永久磁石の温度(Tmag)に基づいて、前記蓄電部が充電状態であるか否かを判定する、請求項
7に記載のインバータ制御装置。
【請求項9】
前記要否判定部は、前記ダイオード、前記上アームスイッチ又は前記下アームスイッチの温度(Tdr)が温度閾値(Tdth)よりも高い場合に減磁が必要であると判定する、請求項1~
8のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項10】
前記要否判定部は、前記インバータ制御装置の外部に設けられる上位制御装置(80)から前記永久磁石の減磁判定を指示されたことを条件として、減磁が必要であるか否かを判定する、請求項1~
9のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項11】
前記減磁実行部は、前記短絡制御を開始してからの経過時間(Ltr)が判定時間(Lth)に到達したと判定した場合に前記遮断制御を開始する、請求項1
又は5に記載のインバータ制御装置。
【請求項12】
前記遮断制御は、全相の前記上,下アームスイッチをOFFにする制御である、請求項1~
11のいずれか1項に記載のインバータ制御装置。
【請求項13】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
インバータ制御装置(50)と、
を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記インバータ制御装置に、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定処理と、
前記要否判定処理により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行処理と、を実行させ、
前記要否判定処理において、前記減磁実行処理により前記短絡制御及び前記遮断制御が実行された後に減磁が再度必要であるか否かを判定し、
前記減磁実行処理において、前記要否判定処理により減磁が不要であると判定されるまで、前記短絡制御及び前記遮断制御の実行を繰り返す、プログラム。
【請求項14】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
インバータ制御装置(50)と、
を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記インバータ制御装置に、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定処理と、
前記要否判定処理により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行処理と、を実行させ、
前記減磁実行処理において、前記短絡制御を開始した後、弱め界磁用のd軸電流(Idr)がd軸電流閾値(Idth)を上回ったと判定した場合に前記遮断制御を開始する、プログラム。
【請求項15】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
インバータ制御装置(50)と、
を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記インバータ制御装置に、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定処理と、
前記要否判定処理により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行処理と、を実行させ、
前記減磁実行処理において、前記短絡制御を開始した後、前記回転電機が発電状態から力行状態に切り替わったと判定した場合に前記遮断制御を開始する、プログラム。
【請求項16】
蓄電部(20,41)と、
永久磁石(34)を有するロータ(33)、及び複数相のコイル(31)を有するステータ(32)を備え、移動体(10)の移動動力源となる回転電機(30)と、
ダイオード(Dp,Dn)が逆並列接続された上,下アームスイッチ(SWp,SWn)を有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータ(40)と、
インバータ制御装置(50)と、
を備えるシステムに適用されるプログラムにおいて、
前記インバータ制御装置に、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定処理と、
前記要否判定処理により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチ(SWn)を全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチ(SWp)を全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う減磁実行処理と、を実行させ、
前記減磁実行処理において、前記永久磁石の温度(Tmag)が低いほど、前記短絡制御の継続時間(Lth)を長くする、プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ制御装置及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に記載されているように、回転電機及びインバータを備えるシステムが知られている。回転電機は、永久磁石を有するロータと、複数相のコイルを有するステータとを備え、車両の走行動力源となる。インバータは、各相毎に上,下アームスイッチを備え、蓄電部及びコイルを電気的に接続する。上,下アームスイッチは、外付けダイオードが逆並列接続されたスイッチ、又は寄生ダイオードが内蔵されたスイッチである。このシステムに適用されるインバータ制御装置は、上,下アームスイッチをスイッチング制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両の移動に伴い車両の駆動輪が回転すると、ロータが回転し、永久磁石の磁束によってコイルに逆起電圧が発生する。ロータの回転速度が高くなると、逆起電圧が高くなる。その結果、例えば上,下アームスイッチが全てOFFされている場合であっても、コイルからダイオードを介して蓄電部へと電流が流れ、蓄電部の電圧が過度に高くなり得る。この場合、蓄電部が故障するといった問題が生じ得る。また、例えば、システムメインリレー(SMR)をOFFに切り替えることにより蓄電部への充電は回避することができる。しかしながら、この場合、逆起電圧がそのままインバータや、インバータと並列接続される他の機器へ印加される。この場合において、逆起電圧がそれら構成部品の耐圧以上になると、それら構成部品が故障する可能性がある。
【0005】
この問題は、例えば、自車両が他車両に牽引される場合に発生し得る。牽引される自車両の走行速度が高くなると、ロータの回転速度も高くなり、逆起電圧が高くなる。その結果、蓄電部の電圧が過度に高くなり得る。
【0006】
特許文献1には、d軸電流の正負を交互に切り替えることにより永久磁石を加熱した後、d軸電流を負方向に流すことにより永久磁石を不可逆減磁させる方法が記載されている。これにより、逆起電圧を低減させる。しかしながら、この方法では、d軸電流の複雑な制御が必要となる。
【0007】
なお、車両に限らず、移動動力源となる回転電機を備える移動体であれば、上述した問題は同様に生じ得る。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、簡易な方法で永久磁石を減磁できるインバータ制御装置及びプログラムを提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、蓄電部と、
永久磁石を有するロータ、及び複数相のコイルを有するステータを備え、移動体の移動動力源となる回転電機と、
ダイオードが逆並列接続された上,下アームスイッチを有し、前記蓄電部及び前記コイルを電気的に接続するインバータと、
を備えるシステムに適用されるインバータ制御装置において、
前記永久磁石の減磁が必要であるか否かを判定する要否判定部と、
前記要否判定部により減磁が必要であると判定された場合、前記上,下アームスイッチのうち、一方のアームスイッチを全相ONにし、かつ、他方のアームスイッチを全相OFFにすることにより、ONにした前記アームスイッチ及び前記コイルを含む閉回路に還流電流を流す短絡制御を実行し、前記短絡制御の実行後に、前記還流電流が流れない状態にする遮断制御を行う遮断制御部と、を備える。
【0010】
本発明では、要否判定部により永久磁石の減磁が必要であると判定された場合、遮断制御部により短絡制御が実行される。これにより、ONにしたアームスイッチ及びコイルを含む閉回路に還流電流が流れるようになる。
【0011】
ここで、短絡制御が実行される場合、dq座標系においてd,q軸電流値で特定される動作点は、最終的には、q軸電流値が0であって、かつ、d軸電流値が負の所定値になる最終到達位置に収束する。この場合、動作点は、短絡制御の開始時における動作点から最終到達位置に直線的に向かうのではなく、最終到達位置を中心に渦を巻く軌跡を描いて最終到達位置に向かう。最終到達位置に向かう過程において、d軸電流は、負方向に断続的に大きくなる。このd軸電流を利用することにより、永久磁石を減磁させることができる。
【0012】
しかしながら、短絡制御が実行され続けると、還流電流が流れ続ける。この場合、d軸電流が流れ続けることとなり、永久磁石が減磁され過ぎるおそれがある。また、短絡制御によりONされているアームスイッチに電流が流れ続け、電流が流れ続けたアームスイッチが故障するおそれもある。
【0013】
そこで、本発明では、減磁用の還流電流を流す短絡制御の実行後に、還流電流が流れない状態にする遮断制御が実行される。このため、永久磁石が減磁され過ぎたり、ONされるアームスイッチが故障したりする事態の発生を抑制できる。
【0014】
以上説明した本発明によれば、短絡制御及び遮断制御といった簡易な制御により、インバータ等の故障の発生を抑制しつつ、永久磁石を減磁させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態に係る車載制御システムの全体構成図。
【
図2】インバータ、回転電機及びそれらの周辺構成を示す図。
【
図4】3相短絡制御が継続された場合のd,q軸電流値の推移を示す図。
【
図5】要否判定部、減磁実行部及びそれらの周辺構成を示す図。
【
図7】減磁制御が実行された場合のd,q軸電流値の推移を示す図。
【
図8】3相短絡制御及びシャットダウン制御の継続時間の推移を示すタイムチャート。
【
図9】第2実施形態に係る磁石温度及び3相短絡制御の継続時間の関係を示す図。
【
図10】第3実施形態に係る減磁制御の手順を示すフローチャート。
【
図11】第4実施形態に係る減磁制御の手順を示すフローチャート。
【
図12】第5実施形態に係る減磁制御の手順を示すフローチャート。
【
図13】第6実施形態に係る減磁制御の手順を示すフローチャート。
【
図14】その他の実施形態に係るインバータ、回転電機及びそれらの周辺構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る制御装置を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態に係る制御装置は、走行動力源としての回転電機とともに制御システムを構成し、制御システムは車両に搭載されている。
【0017】
図1に示すように、車両10は、左右の前輪11a、左右の後輪11b及び高圧バッテリ20を備えている。高圧バッテリ20は、例えばリチウムイオン蓄電池又はニッケル水素蓄電池である。なお、以下では、前輪11a及び後輪11bを単に駆動輪11と称すこともある。
【0018】
車両10に搭載される制御システムは、回転電機30と、高圧バッテリ20及び回転電機30とを電気的に接続するインバータ40と、インバータ40を制御するインバータ制御装置50と、上位制御装置80(
図2参照)とを備えている。本実施形態において、回転電機30は、オンボード用のモータである。また、制御システムは、回転電機30及びインバータ40を2組備えている。2組の回転電機30及びインバータ40のうち、一方の組は、前輪11aに駆動力を付与するための動力システムを構成し、他方の組は、後輪11bに駆動力を付与するための動力システムを構成する。本実施形態において、回転電機30は、同期機であり、より具体的には永久磁石同期機である。本実施形態では、2組の回転電機30及びインバータ40それぞれの構成は基本的には同様である。このため、以下では、2組のうち一方の組について主に説明する。
【0019】
図2は、回転電機30及びインバータ40の電気的な構成を示す図である。
【0020】
回転電機30は、ステータ32及びロータ33を備えている。ロータ33の回転軸は、図示しない変速機及びシャフト12等を介して、駆動輪11に接続されている。ステータ32には、3相のコイル31が設けられている。ロータ33には、永久磁石34が設けられている。
【0021】
インバータ40は、上アームスイッチSWpと下アームスイッチSWnとの直列接続体を3相分備えている。本実施形態において、各スイッチSWp,SWnは、電圧制御形の半導体スイッチング素子であり、より具体的にはIGBTである。上,下アームスイッチSWp,SWpには、フリーホイールダイオードである上,下アームダイオードDp,Dnが逆並列に接続されている。
【0022】
各相において、上アームスイッチSWpの低電位側端子であるエミッタと、下アームスイッチSWnの高電位側端子であるコレクタとには、バスバー等の導電部材Lmを介して、コイル31の第1端が接続されている。各相のコイル31の第2端は、中性点で接続されている。すなわち、各相のコイル31は、スター結線されている。各相のコイル31は、電気角で互いに120°ずらされて配置されている。
【0023】
各相の上アームスイッチSWpのコレクタには、高電位側経路Lpを介して、第1遮断スイッチSWRpの第1端が接続されている。各相の下アームスイッチSWnのエミッタには、低電位側経路Lnを介して、第2遮断スイッチSWRnの第1端が接続されている。第1遮断スイッチSWRpの第2端には、高圧バッテリ20の正極端子が接続され、第2遮断スイッチSWRnの第2端には、高圧バッテリ20の負極端子が接続されている。本実施形態において、各遮断スイッチSWRp,SWRnは、リレー(具体的には例えば、システムメインリレー)である。各遮断スイッチSWRp,SWRnは、インバータ制御装置50又は上位制御装置80により操作される。
【0024】
制御システムは、平滑コンデンサ41及び車載電気機器42を備えている。平滑コンデンサ41は、高電位側経路Lpと低電位側経路Lnとを接続している。電気機器42は、高電位側経路Lp及び低電位側経路Lnに接続されている。電気機器42は、例えば、電動コンプレッサ及びDCDCコンバータのうち少なくとも一方を含む。電動コンプレッサは、車室内空調装置を構成し、車載冷凍サイクルの冷媒を循環させるべく、高圧バッテリ20から給電されて駆動される。DCDCコンバータは、高圧バッテリ20の出力電圧を降圧して車載低圧負荷に供給する。低圧負荷は、図示しない低圧バッテリを含む。低圧バッテリは、出力電圧(例えば定格電圧)が高圧バッテリ20の出力電圧(定格電圧)よりも低い2次電池であり、例えば鉛蓄電池である。
【0025】
各遮断スイッチSMRp,SMRnがONされている場合、高圧バッテリ20及び平滑コンデンサ41が、インバータ40及び電気機器42に対する蓄電部となる。一方、各遮断スイッチSMRp,SMRnがOFFされている場合、高圧バッテリ20及び平滑コンデンサ41のうち平滑コンデンサ41が、インバータ40及び電気機器42に対する蓄電部となる。
【0026】
制御システムは、相電流検出部43、角度検出部44及び電圧検出部45を備えている。相電流検出部43は、回転電機30に流れる各相電流のうち、少なくとも2相分の電流を検出する。角度検出部44は、ロータ33の電気角を検出し、例えばレゾルバである。電圧検出部45は、平滑コンデンサ41の端子間電圧を検出する。
【0027】
制御システムは、第1温度検出部46及び第2温度検出部47を備えている。第1温度検出部46は、インバータ40を構成するダイオードDp,Dn及びスイッチSWp,SWnの温度を検出する。第2温度検出部47は、永久磁石34の温度を検出する。
【0028】
制御システムは、直流電流検出部48を備えている。直流電流検出部48は、高電位側経路Lpに流れる電流を検出する。各検出部43~48の検出値は、インバータ制御装置50に入力される。
【0029】
インバータ制御装置50は、CPU、RAM,ROM等を有するECU(電子制御ユニット)である。インバータ制御装置50は、力行駆動制御を行う。力行駆動制御は、高圧バッテリ20から出力される直流電力を交流電力に変換してコイル31に供給するための上,下アームスイッチSWp,SWnのスイッチング制御である。この制御が行われる場合、回転電機30は、電動機として機能し、力行トルク(>0)を発生する。また、インバータ制御装置50は、回生駆動制御を行う。回生駆動制御は、回転電機30で発電される交流電力を直流電力に変換して高圧バッテリ20に供給するための上,下アームスイッチSWp,SWnのスイッチング制御である。この制御が行われる場合、回転電機30は、発電機として機能し、回生トルク(<0)を発生する。
【0030】
図3は、インバータ制御装置50が実行する処理のブロック図である。インバータ制御装置50において、トルク指令部51は、上位制御装置80からの指令を受けることにより、トルク指令値Trq*を算出する。電流指令部52は、算出されたトルク指令値Trq*に基づいて、d軸電流指令値Id*及びq軸電流指令値Iq*を算出する。
【0031】
dq変換部53は、相電流検出部43により検出された相電流と、角度検出部44により検出された電気角θeとに基づいて、dq座標系におけるd軸電流値Idr及びq軸電流値Iqrを算出する。
【0032】
偏差演算部54は、d軸電流指令値Id*とd軸電流値Idrとの差であるd軸電流偏差ΔIdと、q軸電流指令値Iq*とq軸電流値Iqrとの差であるq軸電流偏差ΔIqとを算出する。
【0033】
フィードバック制御部55は、d軸電流偏差ΔIdを0にフィードバック制御するための操作量としてd軸電圧指令値Vd*を算出し、q軸電流偏差ΔIqを0にフィードバック制御するための操作量としてq軸電圧指令値Vq*を算出する。フィードバック制御は、例えば、比例積分制御である。
【0034】
変調器56は、d,q軸電圧指令値Vd*,Vq*、電気角θe、及び電圧検出部45により検出された平滑コンデンサ41の端子間電圧である電源電圧Vbに基づいて、U,V,W相電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出する。詳しくは、U相を例にして説明すると、変調器56は、U相電圧指令値Vu*を電源電圧Vbで規格化した信号と、三角波信号等のキャリア信号との大小比較に基づいて、U相の上,下アームスイッチSWp,SWnのゲートに供給するU相駆動信号を生成する。同様にして、変調器56は、V相の上,下アームスイッチSWp,SWnのゲートに供給するV相駆動信号と、W相の上,下アームスイッチSWp,SWnのゲートに供給するW相駆動信号とを生成する。各駆動信号は、スイッチのOFFを指示するOFF指令又はスイッチのONを指示するON指令である。各駆動信号が上,下アームスイッチSWp,SWnのゲートに供給されることにより、各相の上,下アームスイッチSWp,SWnがスイッチング制御される。
【0035】
インバータ制御装置50は、要否判定部57及び減磁実行部58を備えている。以下、要否判定部57及び減磁実行部58が備えられる理由について説明する。
【0036】
車両10が例えば故障等により自走できなくなることがある。この場合、前輪11a及び後輪11bの双方が路面に接した状態、又は前輪11a及び後輪11bのうち、一方が持ち上げられるとともに他方が路面に接した状態で、車両10が他車両(例えばレッカー車)に牽引されることがある。この場合、他車両の走行に伴い車両10の駆動輪11が回転する。その回転に伴い、ロータ33が回転し、永久磁石34の磁束によって3相のコイル31に逆起電圧が発生する。
【0037】
車両10の牽引時には、通常、各遮断スイッチSWRp,SMRnはOFFにされ、インバータ40では、全相の上,下アームスイッチSWp,SWnがOFFにされるシャットダウン制御が実行される。この場合、逆起電圧が平滑コンデンサ41の端子間電圧を上回ると、各コイル31からインバータ40を介して平滑コンデンサ41へと電流が流れ、平滑コンデンサ41の端子間電圧が高くなる。その結果、逆起電圧が、ダイオードDp,Dn、上,下アームスイッチSWp,SWn、平滑コンデンサ41及び電気機器42のうち少なくとも1つの機器の耐圧を上回ると、その機器が故障するおそれもある。
【0038】
特に、他車両の走行速度が高かったり、回転電機30の高トルク化を図るために、永久磁石34が高磁束密度を有するものであったりする場合、逆起電圧が高くなりやすく、上述した故障が発生しやすい。なお、高トルク化が図られた回転電機としては、具体的には例えば、特開2019-106866号公報に記載されているように、固有保磁力が400[kA/m]以上であり、かつ、残留磁束密度が1.0T以上の永久磁石を有するスロットレス構造のものがある。
【0039】
また、車両10の牽引時以外においても、2つの回転電機30のうち一方の力行駆動が実施できない場合において、他方の力行駆動により車両10の走行を継続させるときにも同様の問題が発生し得る。
【0040】
このような問題に対処すべく、減磁実行部58は、必要に応じて永久磁石34を不可逆減磁させて逆起電圧を低減する減磁制御を行う。以下では、不可逆減磁を単に減磁と称すこともある。減磁制御は、3相短絡制御、及び遮断制御に相当するシャットダウン制御を含む制御である。本実施形態の3相短絡制御は、全相の下アームスイッチSWnをONするとともに、全相の上アームスイッチSWpをOFFする制御である。なお、3相短絡制御は、ASC(Active Short Circuit)制御とも呼ばれる。
【0041】
減磁制御においては、3相短絡制御の実行後に、シャットダウン制御が実行される。以下、この理由について説明する。
【0042】
図4は、3相短絡制御を継続した場合におけるd,q軸電流値Id,Iqの推移を示すdq座標系の図である。以下では、電流値のdq座標系においてd,q軸電流値Id,Iqで特定される位置を動作点OPと称すこととする。また、本実施形態では、強め界磁を行う場合のd軸電流Idの符号を正とし、弱め界磁を行う場合のd軸電流Idの符号を負とする。また、力行駆動制御によりロータ33の第1回転方向に力行トルクを発生させる場合のq軸電流Iqの符号を正とし、回生駆動制御により第1回転方向とは逆方向の第2回転方向に回生トルクを発生させる場合におけるq軸電流Iqの符号を負とする。
【0043】
3相短絡制御が実行されると、インバータ40及びコイル31に還流電流が流れるようになる。この場合、
図4に示すように、動作点OPは、最終的には、q軸電流値Iqが0であって、かつ、d軸電流値Idが負の所定値になる最終到達位置Mに収束する。この所定値は、例えば、永久磁石34の磁石磁束と、d軸電流値Idによりコイル31に発生する磁束であって磁石磁束を打ち消す方向の磁束とが等しくなる場合の値である。
【0044】
動作点OPは、3相短絡制御が開始される開始位置Psから最終到達位置Mに直線的に向かうのではなく、最終到達位置Mを中心に時計回りに渦を巻くような軌跡を描いて最終到達位置Mに向かう。
図4に示す例では、開始位置Psから最終到達位置Mに向かうまでの動作点OPの軌跡が、電流値のdq座標系において第2,第3象限及び第2,第3象限に挟まれたd軸の領域に存在している。第2象限とは、q軸電流値Iqが正の値となり、d軸電流値Idが負の値となる領域であり、第3象限とは、d,q軸電流値Id,Iqがともに負の値となる領域である。
【0045】
動作点OPが最終到達位置Mに向かう過程において、d軸電流は、負方向に断続的に大きくなる。このd軸電流を利用することにより、永久磁石34を減磁させることができる。しかしながら、3相短絡制御が実行され続けると、還流電流が流れ続ける。この場合、d軸電流が流れ続けることとなり、永久磁石34が減磁され過ぎたり、3相短絡制御によりONされている下アームスイッチSWnに電流が流れて下アームスイッチSWnが故障したりするおそれがある。
【0046】
そこで、本実施形態では、3相短絡制御の実行後にシャットダウン制御が実行される。これにより、還流電流が流れない状態にする。
【0047】
図5は、要否判定部57、減磁実行部58及びそれらの周辺構成を示すブロック図である。
【0048】
上位制御装置80は、車両10に異常が発生したか否かを判定する。上位制御装置80は、例えば、以下(A1)~(A3)のいずれかの条件が成立したと判定した場合、車両10に異常が発生したと判定する。
【0049】
(A1)車両10が衝突してエアバックが作動したとの条件
(A2)車両10が他車両に牽引されているとの条件
(A3)制御システムに異常が発生したとの条件
制御システムの異常には、各回転電機30及び各インバータ40のうち少なくとも1つの異常、及び各検出部43~48のうち少なくとも1つの異常が含まれる。インバータ40の異常には、上,下アームスイッチSWp,SWnのショート故障又はオープン故障が含まれる。
【0050】
上位制御装置80により車両10に異常が発生したと判定された場合、インバータ制御装置50において、変調器56から出力される各相の駆動信号がOFF指令になるように構成されている。この構成は、例えば、上位制御装置80からトルク指令部51に対してトルク指令値Trq*の算出の停止を指示することにより実現できる。
【0051】
また、上位制御装置80は、車両10に異常が発生したと判定した場合、要否判定部57に対して異常通知信号を送信する。
【0052】
要否判定部57は、上位制御装置80から異常通知信号を受信した場合、インバータ40及びインバータ制御装置50のうち、3相短絡制御及びシャットダウン制御の実行に必要な構成に異常があるか否かを判定する。本実施形態において、この異常には、以下(B1)~(B4)の異常が含まれる。
【0053】
(B1)下アームスイッチSWnのスイッチング状態を切り替えられなくなる異常
(B2)上アームスイッチSWpのショート故障
(B3)インバータ制御装置50において3相短絡制御及びシャットダウン制御を実行するための各相の駆動信号を生成する機能、及び生成した駆動信号を各スイッチSWp,SWnのゲートまで伝達する機能の異常
(B4)後述するステップS12で用いられる値を検出する各検出部(具体的には、直流電流検出部48、電圧検出部45及び第1温度検出部46)のうち少なくとも1つの異常
要否判定部57は、3相短絡制御及びシャットダウン制御の実行に必要な構成に異常がないと判定した場合、永久磁石34の減磁が必要であるか否かを判定する。本実施形態において、要否判定部57は、第1~第3条件のいずれかが成立する場合、減磁が必要であると判定し、第1~第3条件のいずれも成立しない場合、減磁が不要であると判定する。
【0054】
ここで、第1条件は、直流電流検出部48により検出された直流電流値Ipが電流閾値Ithよりも小さいとの条件である。本実施形態では、高圧バッテリ20側からインバータ40側に向かって高電位側経路Lpを流れる場合の直流電流値Ipの符号を正とする。また、電流閾値Ithは、0又は0よりもやや小さい値に設定されている。
【0055】
第1条件は、平滑コンデンサ41が充電状態であるか否かを判定するための条件である。要否判定部57は、直流電流値Ipが電流閾値Ith以上であると判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態でないと判定し、減磁が不要であると判定する。一方、要否判定部57は、直流電流値Ipが電流閾値Ithよりも小さいと判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態でないと判定し、減磁が必要であると判定する。直流電流値Ipが0未満である場合、逆起電圧に起因した充電電流によって平滑コンデンサ41が充電され、平滑コンデンサ41の端子間電圧が上昇する。その結果、平滑コンデンサ41及び電気機器42等が故障するといった問題が発生し得る。この問題に対処すべく、第1条件が設定されている。
【0056】
第2条件は、電源電圧Vbが電圧閾値Vthよりも高いとの条件である。例えば、電圧閾値Vthは、各遮断スイッチSMRp,SMRnがONされている場合、高圧バッテリ20、平滑コンデンサ41及び電気機器42それぞれの耐圧のうち、最も低い耐圧と同じ値又は最も低い耐圧よりもやや低い値に設定される。また例えば、電圧閾値Vthは、各遮断スイッチSMRp,SMRnがOFFされている場合、平滑コンデンサ41及び電気機器42それぞれの耐圧のうち、最も低い耐圧と同じ値又は最も低い耐圧よりもやや低い値に設定される。
【0057】
要否判定部57は、電源電圧Vbが電圧閾値Vth以下であると判定した場合、減磁が不要であると判定する。一方、要否判定部57は、電源電圧Vbが電圧閾値Vthよりも高いと判定した場合、減磁が必要であると判定する。第2条件が設定されていることにより、電源電圧Vbが高圧バッテリ20、平滑コンデンサ41及び電気機器42のうち少なくとも1つの耐圧を超える前に、減磁が必要であると判定できる。
【0058】
第3条件は、第1温度検出部46により検出された温度である素子温度Tdrが温度閾値Tdthよりも高いとの条件である。素子温度Tdrは、例えば、第1温度検出部46の検出対象となる部品の温度のうち、最も高い温度(例えば、ダイオードDp,Dnの温度)である。第3条件は、インバータ40の構成部品が過熱されて故障する事態の発生を抑制するための条件である。要否判定部57は、素子温度Tdrが温度閾値Tdth以下であると判定した場合、減磁が不要であると判定する。一方、要否判定部57は、素子温度Tdrが温度閾値Tdthよりも高いと判定した場合、減磁が必要であると判定する。減磁させることによって逆起電圧を抑制し、インバータ40を構成する素子を介して流れる電流を低減することができる。
【0059】
要否判定部57は、減磁が不要であると判定した場合、減磁実行部58に出力する減磁指令の論理をLにし、減磁が必要であると判定した場合、減磁指令の論理をHにする。
【0060】
減磁実行部58は、シャットダウン判定部58a、NOT回路58b及びAND回路58cを備えている。シャットダウン判定部58aには、要否判定部57の減磁指令が入力される。シャットダウン判定部58aは、減磁指令の論理がHに切り替わってからの経過時間Ltrをカウントするタイマを備えている。シャットダウン判定部58aは、カウントした経過時間Ltrが判定時間Lthになるまではシャットダウン制御の実行が不要であると判定し、カウントした経過時間Ltrが判定時間Lthに到達したと判定した場合にシャットダウン制御の実行が必要であると判定する。シャットダウン判定部58aは、シャットダウン制御の実行が不要であると判定した場合、NOT回路58bに出力するシャットダウン指令の論理をLにする。この場合、NOT回路58bからAND回路58cへの出力信号の論理がHになる。一方、シャットダウン判定部58aは、シャットダウン制御の実行が必要であると判定した場合、NOT回路58bに出力するシャットダウン指令の論理をHにする。この場合、NOT回路58bからAND回路58cへの出力信号の論理がLになる。
【0061】
AND回路58cは、NOT回路58bの出力信号の論理がLの場合、減磁指令の論理にかかわらず、変調器56に出力する指示信号Sigの論理をLにする。この場合、変調器56からインバータ40を構成する各相の上,下アームスイッチSWp,SWnに対して出力される駆動信号が全てOFF指令とされる。その結果、シャットダウン制御が実行される。
【0062】
AND回路58cは、NOT回路58bの出力信号及び減磁指令それぞれの論理がHの場合、変調器56に出力する指示信号Sigの論理をHにする。この場合、変調器56から各相の下アームスイッチSWnに対して出力される駆動信号がON指令とされ、変調器56から各相の上アームスイッチSWpに対して出力される駆動信号がOFF指令とされる。その結果、3相短絡制御が実行される。
【0063】
図6は、減磁制御の手順を示すフローチャートである。
【0064】
ステップS10において、上位制御装置80は、車両10に異常が発生したか否かを判定する。
【0065】
上位制御装置80により車両10に異常が発生したと判定された場合、ステップS11において、要否判定部57は、3相短絡制御及びシャットダウン制御の実行に必要な構成に異常があるか否かを判定する。
【0066】
要否判定部57は、この構成に異常がないと判定した場合には、ステップS12に進み、永久磁石34の減磁が必要であるか否かを判定する。詳しくは、要否判定部57は、上述した第1~第3条件のいずれかが成立する場合、減磁が必要であると判定し、第1~第3条件のいずれも成立しない場合、減磁が不要であると判定する。
【0067】
要否判定部57は、第1~第3条件のいずれも成立していないと判定した場合、減磁が不要であると判定し、減磁指令の論理をLにする。そして、減磁制御を終了する。一方、要否判定部57は、第1~第3条件のいずれかが成立していると判定した場合、減磁が必要であると判定する。
【0068】
ステップS13では、要否判定部57は、減磁指令の論理をHにする。その後、シャットダウン判定部58aは、減磁指令の論理がHに切り替わってからの経過時間Ltrが判定時間Lthになるまでは、NOT回路58bに出力するシャットダウン指令の論理をLにする。これにより、NOT回路58bからAND回路58cへの出力信号の論理がHになり、AND回路58cから出力される指示信号Sigの論理がHになる。その結果、インバータ40において3相短絡制御が実行される。
【0069】
ステップS14において、シャットダウン判定部58aは、経過時間Ltrが判定時間Lthに到達したと判定した場合、ステップS15に進み、NOT回路58bに出力するシャットダウン指令の論理をHにする。これにより、NOT回路58bからAND回路58cへの出力信号の論理がLになり、AND回路58cから出力される指示信号Sigの論理がLになる。その結果、インバータ40においてシャットダウン制御が実行される。
【0070】
図6に示した処理において、例えば、上位制御装置80は、車両10が他車両に牽引されていると判定した場合、例えば角度検出部44の検出値に基づいて、前輪11a及び後輪11bのうちいずれの駆動輪11が回転しているかを判定する。ここで、2つの回転電機30のうち、回転している駆動輪11に駆動トルクを付与する回転電機を対象回転電機とする。インバータ制御装置50は、2つのインバータ40のうち、対象回転電機に接続されたインバータに対して、ステップS11~S15の処理を行う。
【0071】
また例えば、上位制御装置80は、各回転電機30及び各インバータ40のうち少なくとも1つの異常、及び各検出部43~48のうち少なくとも1つの異常のいずれかが発生したと判定した場合、2つの回転電機30のうち、駆動輪11に駆動トルクを付与可能な回転電機を選択する。インバータ制御装置50は、2つのインバータ40のうち、選択された回転電機に接続されたインバータに対しては、ステップS11~S15の処理を行い、残りのインバータに対しては、力行駆動制御又は回生駆動制御を行う。これにより、車両10の走行を極力継続させることができる。
【0072】
続いて、減磁制御の実行態様の一例について説明する。ここでは、車両10に異常が発生し、車両10が他車両に牽引される場合について説明する。
【0073】
まず、上位制御装置80により車両10に異常が発生したと判定される。これにより、上位制御装置80からトルク指令部51に対する指令が停止され、インバータ40においてシャットダウン制御が実行される。
【0074】
上位制御装置80は、異常通知信号を要否判定部57に送信する。これにより、要否判定部57は、減磁が必要であるか否かの判定を開始する。車両10が牽引される前においては、路面に接している駆動輪11が回転していないため、コイル31に逆起電圧が発生しない。このため、要否判定部57は、直流電流値Ipが電流閾値Ith以上であると判定し、減磁指令の論理をLにする。この場合、AND回路58cから出力される指示信号Sigの論理がLになる。その結果、シャットダウン制御の実行が維持される。
【0075】
その後、車両10が牽引され、路面に接している駆動輪11が回転する。これにより、コイル31に逆起電圧が発生し、逆起電圧が平滑コンデンサ41の端子間電圧を上回ると、インバータ40側から平滑コンデンサ41側に電流が流れるようになり、直流電流値Ipが負の値になる。直流電流値Ipが電流閾値Ithを下回ると、要否判定部57は、減磁指令の論理をHに切り替える。減磁指令の論理がHに切り替えられてからの経過時間Ltrが判定時間Lthに到達するまでは、指示信号Sigの論理がLに維持される。その後、経過時間Ltrが判定時間Lthに到達すると、指示信号Sigの論理がHに切り替えられる。その結果、3相短絡制御が開始される。これにより、
図7に示すように、動作点OPは、開始位置Psから、
図4の場合と同様に、渦を巻くように移動し始める。なお、開始位置Psを特定するq軸電流値Iqが負の値になっているのは、逆起電圧が平滑コンデンサ41の端子間電圧を上回ることにより、平滑コンデンサ41が充電状態になっているからである。また、
図7に示す例では、開始位置Psが、d,q軸電流値Id,Iqが負となる第3象限に存在しているが、開始位置Psは必ずしも第3象限に存在するとは限らない。
【0076】
その後、経過時間Ltrが判定時間Lthに到達するため、ステップS15の処理により、第1動作点P1においてシャットダウン制御が開始される。その後、ステップS10において肯定判定され、ステップS11において否定判定され、さらにステップS12において第1条件が成立していると判定される。このため、ステップS13の処理により、第2動作点P2において3相短絡制御が再度開始され、その後、第3動作点P3においてシャットダウン制御が再度開始される。
【0077】
その後、第4動作点P4において3相短絡制御が開始され、その後、第5動作点P5においてシャットダウン制御が開始される。そして、ステップS12において否定判定され、減磁制御は、第6動作点P6において終了する。
【0078】
図7に示す例では、3相短絡制御及びシャットダウン制御が繰り返される。これら制御の繰り替し回数が多くなるほど、3相短絡制御の終了タイミングにおける負のd軸電流Idの絶対値が小さくなっていく。
【0079】
なお、
図7に示す例では、減磁制御において描かれる動作点OPの軌跡が第3象限に収まっている。ただし、本実施形態では、経過時間Ltrに基づいて3相短絡制御からシャットダウン制御への切り替えが実施されるため、動作点OPの軌跡は、第3象限に収まらず、第2象限になることもあり得る。この場合であっても、負のd軸電流により、永久磁石34を減磁させることができる。
【0080】
また、減磁制御において、3相短絡制御及びシャットダウン制御が繰り返される場合、
図8に示すように、経過時間Ltrと比較される判定時間Lthが、前回の判定時間Lthよりも短く設定されてもよい。この場合、3相短絡制御の継続時間が、3相短絡制御の前回の継続時間よりも短くなる。3相短絡制御が実施されるたびに永久磁石34の磁束密度が低下する。このため、継続時間を徐々に短縮していくことにより、永久磁石34が減磁され過ぎることを好適に抑制できる。なお、
図8には、シャットダウン制御の継続時間Lsdnも徐々に短縮される例を示したが、各回の継続時間Lsdnは一定であってもよい。
【0081】
以上説明した本実施形態によれば、3相短絡制御及びシャットダウン制御といった簡易な制御により、インバータ40等の故障の発生を抑制しつつ、永久磁石34を不可逆減磁させることができる。
【0082】
直流電流値Ipが電流閾値Ithよりも小さいと判定された場合、永久磁石34の減磁が必要であると判定される。このため、平滑コンデンサ41の端子間電圧が過度に上昇したり、高圧バッテリ20が過充電になったりする前に永久磁石34を減磁させることができる。
【0083】
電源電圧Vbが電圧閾値Vthよりも高いと判定された場合、永久磁石34の減磁が必要であると判定される。このため、高圧バッテリ20、平滑コンデンサ41、電気機器42及びインバータ40のうち少なくとも1つの耐圧を超える前に、減磁が必要であることを把握できる。これにより、高圧バッテリ20、平滑コンデンサ41、電気機器42及びインバータ40を保護することができる。
【0084】
素子温度Tdrが温度閾値Tdthよりも高いと判定された場合、永久磁石34の減磁が必要であると判定される。このため、インバータ40の構成部品を保護することができる。
【0085】
3相短絡制御が開始されてからの経過時間Ltrが判定時間Lthに到達したと判定された場合、3相短絡制御からシャットダウン制御に切り替えられる。この構成によれば、シャットダウン制御の開始タイミングの判定に電気角θeを用いる判定方法とは異なり、角度検出部44の故障等により電気角θeを把握することができなくなる異常が発生した場合であっても、シャットダウン制御の開始タイミングを適正に判定できる。
【0086】
3相短絡制御とシャットダウン制御とが実行された後、永久磁石34の減磁が必要であるか否かが再度判定される。そして、減磁が不要であると判定されるまで、3相短絡制御及びシャットダウン制御が繰り返される。これにより、例えば、永久磁石34をどの程度減磁させる必要があるのか正確に把握することが困難な場合であっても、永久磁石34の磁束密度が所望の密度になるまで極力過不足なく減磁できる。
【0087】
なお、本実施形態によれば、減磁制御においてシャットダウン制御が実行されるため、永久磁石34が減磁され過ぎるのを防止できるのに加え、コイル31及びインバータ40の構成部品が過熱状態になるのを防止できる。このため、減磁された後の回転電機30やインバータ40を、比較的質の良い中古品としてアフターマーケットで販売することもできる。
【0088】
<第1実施形態の変形例>
・
図6のステップS12において、第1条件が、直流電流値Ipの符号が負であるとの条件であってもよい。詳しくは、要否判定部57は、直流電流値Ipの符号が正であると判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態でないと判定し、減磁が不要であると判定する。そして、要否判定部57は、減磁指令の論理をLにする。一方、要否判定部57は、直流電流値Ipの符号が負であると判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態であると判定し、減磁が必要であると判定する。そして、要否判定部57は、減磁指令の論理をHにする。直流電流値Ipの符号が負である場合、平滑コンデンサ41が充電される方向に高電位側経路Lpに電流が流れていると考えられる。
【0089】
・
図6のステップS12において、第1条件が、dq変換部53により算出されたq軸電流値Iqrがq軸電流閾値Iqthよりも小さいとの条件であってもよい。詳しくは、要否判定部57は、q軸電流値Iqrがq軸電流閾値Iqth以上であると判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態でないと判定し、減磁が不要であると判定する。一方、要否判定部57は、q軸電流値Iqrがq軸電流閾値Iqthよりも小さいと判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態であると判定し、減磁が必要であると判定する。
【0090】
q軸電流閾値Iqthは、0又は0よりもやや小さい値に設定されている。このため、q軸電流値Iqrがq軸電流閾値Iqthよりも小さい場合、平滑コンデンサ41が充電されていると考えられる。
【0091】
ちなみに、この場合、q軸電流値Iqrの算出に電気角θeを用いる必要がある。このため、ステップS11において、3相短絡制御及びシャットダウン制御の実行に必要な構成の異常に、電気角θe及び相電流検出値を取得できなくなる異常が含まれればよい。電気角θeを取得できなくなる異常には、角度検出部44の異常が含まれる。相電流検出値を取得できなくなる異常には、相電流検出部43の異常が含まれる。
【0092】
なお、q軸電流値Iqrのみならず、d,q軸電流値Idr,Iqrが用いられてもよい。この場合、要否判定部57は、例えば、d,q軸電流値Idr,Iqrから定まる回転電機30のトルクが回生トルク(<0)であると判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態であると判定すればよい。
【0093】
また、平滑コンデンサ41が充電状態であるか否かを判定するための電流値は、回転座標系(dq座標系)における電流値に限らず、固定座標系(UVW座標系)における電流値(例えば、相電流検出部43の検出値)であってもよい。また、電流値に代えて、コイル31の線間電圧又は相電圧が用いられてもよい。
【0094】
・
図6のステップS12において、第1条件が、コイル31で発生する逆起電圧Vmが起電圧閾値Vαよりも高いとの条件であってもよい。起電圧閾値Vαは、例えば、電源電圧Vbよりも低い値に設定されている。要否判定部57は、逆起電圧Vmが起電圧閾値Vα以下であると判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態でないと判定し、減磁が不要であると判定する。一方、要否判定部57は、逆起電圧Vmが起電圧閾値Vαよりも高いと判定した場合、平滑コンデンサ41が充電状態であると判定し、減磁が必要であると判定する。なお、要否判定部57は、例えば、ロータ33の電気角速度ωeに基づいて逆起電圧Vmを算出すればよい。この場合、要否判定部57は、電気角θeに基づいて電気角速度ωeを算出すればよい。
【0095】
このように、逆起電圧Vmが起電圧閾値Vαよりも高い場合、逆起電圧の方が平滑コンデンサ41の実際の端子間電圧よりも高くなり、平滑コンデンサ41が充電されている可能性が高い。
【0096】
・
図6のステップS12において、直流電流値Ipの絶対値が許容電流値(>0)よりも高いとの第4条件が加えられていてもよい。この場合、要否判定部57は、第1~第4条件のいずれかが成立する場合、減磁が必要であると判定し、第1~第4条件のいずれも成立しない場合、減磁が不要であると判定する。
【0097】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、インバータ制御装置50は、
図6のステップS14で用いる判定時間Lthを、
図9に示すように、第2温度検出部47により検出された磁石温度Tmagが低いほど長く設定する。この設定は、永久磁石34の温度が低いほど、永久磁石34の磁束密度が高くなり、減磁させる度合いを大きくする必要があることに基づくものである。
【0098】
なお、インバータ制御装置50は、判定時間Lthの設定に、第1温度検出部46の検出値に代えて、永久磁石34の温度推定値を用いてもよい。
【0099】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図10に示すように、第1条件が電気角速度ωeに関する条件に変更されている。なお、
図10において、先の
図6に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0100】
ステップS16において、第1条件は、電気角速度ωeが速度閾値ωthよりも高いとの条件である。この条件は、平滑コンデンサ41が充電状態であるか否かを判定するための条件である。速度閾値ωthは、例えば、永久磁石34の温度が、取り得る温度範囲の下限値(例えば-40℃)になる場合において、コイル31の逆起電圧が、正常な高圧バッテリ20が取り得る端子間電圧範囲の下限値よりも高くなる電気角速度に設定されていればよい。
【0101】
要否判定部57は、電気角速度ωeが速度閾値ωth以下であると判定した場合、減磁が不要であると判定する。一方、要否判定部57は、電気角速度ωeが速度閾値ωthよりも高いと判定した場合、減磁が必要であると判定する。なお、電気角速度ωeに代えて、例えば、ロータ33の機械角速度が用いられてもよい。
【0102】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図11に示すように、第1条件が磁石温度Tmagに関する条件に変更されている。なお、
図11において、先の
図6に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0103】
ステップS17において、第1条件は、磁石温度Tmagが磁石閾値Tgthよりも低いとの条件である。この条件は、平滑コンデンサ41が充電状態であるか否かを判定するための条件である。磁石閾値Tgthは、例えば、ロータ33の回転速度が、取り得る速度範囲の上限値(最高回転速度)になる場合において、コイル31の逆起電圧が、正常な高圧バッテリ20が取り得る端子間電圧範囲の下限値よりも高くなる永久磁石34の温度に設定されていればよい。
【0104】
要否判定部57は、磁石温度Tmagが磁石閾値Tgth以上であると判定した場合、減磁が不要であると判定する。一方、要否判定部57は、磁石温度Tmagが磁石閾値Tgthよりも低いと判定した場合、減磁が必要であると判定する。
【0105】
なお、インバータ制御装置50は、磁石閾値Tgthと比較する温度として、第1温度検出部46の検出値に代えて、永久磁石34の温度推定値を用いてもよい。
【0106】
<第5実施形態>
以下、第5実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図12に示すように、3相短絡制御からシャットダウン制御に切り替える条件が変更されている。なお、
図12において、先の
図6に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0107】
ステップS18では、要否判定部57は、減磁指令の論理をHにする。その後、シャットダウン判定部58aは、d軸電流値Idrを取得し、取得したd軸電流値Idrが負の値であって、かつ、d軸電流値Idrの絶対値がd軸電流閾値Idth(>0)を超えたか否かを判定する。シャットダウン判定部58aは、ステップS18において肯定判定した場合、NOT回路58bに出力するシャットダウン指令の論理をHからLに切り替える。これにより、ステップS15においてシャットダウン制御が実行される。
【0108】
以上説明した本実施形態によれば、永久磁石34の減磁に必要なd軸電流を把握することができるため、永久磁石34を適正に減磁させることができる。
【0109】
なお、減磁制御において3相短絡制御及びシャットダウン制御が繰り返されるたびに、d軸電流閾値Idthが小さくされてもよい。
【0110】
<第6実施形態>
以下、第6実施形態について、第5実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、
図13に示すように、3相短絡制御からシャットダウン制御に切り替える条件が変更されている。なお、
図13において、先の
図6に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0111】
ステップS19では、要否判定部57は、減磁指令の論理をHにする。その後、シャットダウン判定部58aは、q軸電流値Iqrを取得し、取得したq軸電流値Iqrが負の値から正の値に切り替わったか否かを判定する。シャットダウン判定部58aは、ステップS19において肯定判定した場合、回転電機30が発電状態から力行状態に切り替わったと判定し、NOT回路58bに出力するシャットダウン指令の論理をHからLに切り替える。これにより、ステップS15においてシャットダウン制御が実行される。
【0112】
以上説明した本実施形態によれば、平滑コンデンサ41の端子間電圧の上昇が想定される期間においてのみ、減磁制御を実行することができる。
【0113】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0114】
・3相短絡制御は、全相の上アームスイッチSWpをONするとともに、全相の下アームスイッチSWnをOFFする制御であってもよい。
【0115】
・
図14に示すように、各相において、上,下アームスイッチSWp,SWnの接続点とコイル31の第1端との間に接続スイッチSWφが設けられていてもよい。この場合、インバータ制御装置50は、
図6のステップS15において、シャットダウン制御に代えて、各相の接続スイッチSWφをOFFにする制御(「遮断制御」に相当)を実行してもよい。
【0116】
・減磁制御としては、永久磁石34を不可逆減磁させるものに限らない。例えば、減磁制御において、永久磁石34を可逆減磁できる程度の負のd軸電流が流されてもよい。
【0117】
・インバータを構成するスイッチとしては、IGBTに限らず、例えば、ボディダイオードを内蔵するNチャネルMOSFETであってもよい。
【0118】
・回転電機及びインバータとしては、3相のものに限らず、2相のもの、又は4相以上のものであってもよい。また、回転電機としては、オンボード用のモータに限らず、車輪に内蔵されるインホイールモータであってもよい。
【0119】
・車両としては、四輪駆動のものに限らず、例えば、前輪11a及び後輪11bのうちいずれかが駆動輪とされるものであってもよい。
【0120】
・制御システムが搭載される移動体としては、車両に限らず、例えば、航空機又は船舶であってもよい。例えば、移動体が航空機の場合、制御システムを構成する回転電機は航空機の飛行動力源となる。また、例えば、移動体が船舶の場合、制御システムを構成する回転電機は船舶の航行動力源となる。
【0121】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0122】
10…車両、20…高圧バッテリ、30…回転電機、40…インバータ、50…インバータ制御装置、57…要否判定部、58…減磁実行部、SWp,SWn…上,下アームスイッチ。