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特許7631804非水電解質蓄電素子の極板、非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の極板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】非水電解質蓄電素子の極板、非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の極板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20250212BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20250212BHJP
   H01G 11/26 20130101ALI20250212BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20250212BHJP
   H01M 4/134 20100101ALI20250212BHJP
   H01M 4/1391 20100101ALI20250212BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20250212BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H01M4/131
H01G11/06
H01G11/26
H01G11/86
H01M4/134
H01M4/1391
H01M4/1395
H01M4/62 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020219388
(22)【出願日】2020-12-28
(65)【公開番号】P2022104282
(43)【公開日】2022-07-08
【審査請求日】2023-09-08
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100159499
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 義典
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(74)【代理人】
【識別番号】100159581
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 勝誠
(74)【代理人】
【識別番号】100106264
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 耕治
(74)【代理人】
【識別番号】100139354
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 昌子
(72)【発明者】
【氏名】大山 純
(72)【発明者】
【氏名】川口 和輝
(72)【発明者】
【氏名】加古 智典
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-203514(JP,A)
【文献】特開2008-311164(JP,A)
【文献】特開2012-028006(JP,A)
【文献】特表2020-501328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/131
H01G 11/06
H01G 11/26
H01G 11/86
H01M 4/134
H01M 4/1391
H01M 4/1395
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有し、上記基材に積層される合剤層と
を備え、
上記合剤層を厚み方向に表面側領域と基材側領域に分割した場合に、基材側領域に対する表面側領域の炭素元素の平均濃度比が1超1.50以下であり、
上記合剤層を幅方向一端側の第一端部領域と、幅方向他端側の第二端部領域と、上記第一端部領域と上記第二端部領域との間に配置される中央領域とにさらに分割した場合に、第一端部領域の基材側領域(E1)に対する第一端部領域の表面側領域(E2)の炭素元素の平均濃度比(E2/E1)が、中央領域の基材側領域(C1)に対する中央領域の表面側領域(C2)の炭素元素の平均濃度比(C2/C1)の1.20倍超2.00倍以下であり、
上記活物質がLi MO (Mは少なくとも一種の遷移金属を表し、上記活物質中の元素は、他の元素で一部が置換されていてもよい)で表される複合酸化物、Li Me (XO (Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、XはP、Si、B又はVを表し、上記活物質中の元素は、他の元素で一部が置換されていてもよい)で表されるポリアニオン化合物、金属、半金属、金属酸化物、半金属酸化物及びポリリン酸化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種である非水電解質蓄電素子の極板。
【請求項2】
上記活物質の粒子のメジアン径が7μm以下である請求項1の非水電解質蓄電素子の極板。
【請求項3】
第二端部領域の基材側領域(E3)に対する第二端部領域の表面側領域(E4)の炭素元素の平均濃度比(E4/E3)が、上記平均濃度比(C2/C1)の1.20倍超2.00倍以下である請求項1又は請求項2の非水電解質蓄電素子の極板。
【請求項4】
請求項1、請求項2又は請求項3の極板を備える非水電解質蓄電素子。
【請求項5】
請求項1、請求項2又は請求項3の極板の製造方法であって、
基材と、炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有し、上記基材に積層される合剤層とを備える非水電解質蓄電素子の極板の製造方法であって、
上記基材に、上記導電剤及び上記活物質を含有する合剤ペーストを塗工することと、
上記合剤ペーストの塗工層を乾燥することと
を備え、
上記塗工層の幅方向の端部領域の乾燥温度が上記塗工層の幅方向の中央領域の乾燥温度よりも高い非水電解質蓄電素子の極板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質蓄電素子の極板、非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の極板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池は、エネルギー密度の高さから、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等に多用されている。上記非水電解質二次電池は、一般的には、セパレータで電気的に隔離された一対の極板と、この極板間に介在する非水電解質とを有し、両極板間でイオンの受け渡しを行うことで充放電するよう構成される。また、非水電解質二次電池以外の非水電解質蓄電素子として、リチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタも広く普及している。
【0003】
上記非水電解質蓄電素子の極板としては、金属箔等の導電性を有する基材の表面に、活物質を含む合剤層が形成された構造を有するものが一般的である。この合剤層は、活物質を含むスラリー状の合剤を塗工し、乾燥させることにより形成される。例えば特許文献1には、負極活物質としての層間距離が0.340~0.370nmである炭素材料(非晶質の炭素材料)、バインダーとしての重合体粒子、及び特定の重合度を有する増粘剤等を含むリチウムイオン二次電池負極用スラリー組成物、及びこれから得られるリチウムイオン二次電池負極が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2011/096463号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、非水電解質蓄電素子においては、充放電を繰り返すと、電極体の一端部及び他端部に含まれる非水電解質の電荷移動媒体(例えばLiイオン)濃度と、電極体の中央部に含まれる非水電解質の電荷移動媒体の濃度との間に偏りが生じ、非水電解質蓄電素子の内部抵抗が上昇してしまうことがあった。このように非水電解質蓄電素子の内部抵抗が上昇してしまうと、非水電解質蓄電素子の出力が大きく低下するおそれがある。
【0006】
本発明は、以上のような事情に基づいてなされたものであり、その目的は、充放電を繰り返しても出力保持率の低下が抑制された非水電解質蓄電素子の極板、非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の極板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた本発明の一態様は、基材と、炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有し、上記基材に積層される合剤層とを備え、上記合剤層を厚み方向に表面側領域と基材側領域に分割した場合に、基材側領域に対する表面側領域の炭素元素の平均濃度比が1より大きく、上記合剤層を幅方向一端側の第一端部領域と、幅方向他端側の第二端部領域と、上記第一端部領域と上記第二端部領域との間に配置される中央領域とにさらに分割した場合に、第一端部領域の基材側領域(E1)に対する第一端部領域の表面側領域(E2)の炭素元素の平均濃度比(E2/E1)が、中央領域の基材側領域(C1)に対する中央領域の表面側領域(C2)の炭素元素の平均濃度比(C2/C1)の1.20倍よりも大きい非水電解質蓄電素子の極板である。
【0008】
本発明の他の一態様は、当該極板を備える非水電解質蓄電素子である。
【0009】
本発明の他の一態様は、基材と、炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有し、上記基材に積層される合剤層とを備える非水電解質蓄電素子の極板の製造方法であって、上記基材に、上記導電剤及び上記活物質を含有する合剤ペーストを塗工することと、上記合剤ペーストの塗工層を乾燥することとを備え、上記塗工層の幅方向の端部領域の乾燥温度が上記塗工層の幅方向の中央領域の乾燥温度よりも高い非水電解質蓄電素子の極板の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充放電を繰り返しても出力保持率の低下が抑制された非水電解質蓄電素子の極板、非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の極板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の電極体及び収容体を示す模式的分解斜視図である。
図2】本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の極板を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子(以下、単に「蓄電素子」ともいう。)用の極板は、基材と、炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有し、上記基材に積層される合剤層とを備え、上記合剤層を厚み方向に表面側領域と基材側領域に分割した場合に、基材側領域に対する表面側領域の炭素元素の平均濃度比が1より大きく、上記合剤層を幅方向一端側の第一端部領域と、幅方向他端側の第二端部領域と、上記第一端部領域と上記第二端部領域との間に配置される中央領域とにさらに分割した場合に、第一端部領域の基材側領域(E1)に対する第一端部領域の表面側領域(E2)の炭素元素の平均濃度比(E2/E1)が、中央領域の基材側領域(C1)に対する中央領域の表面側領域(C2)の炭素元素の平均濃度比(C2/C1)の1.20倍よりも大きい。
【0013】
当該極板を有する非水電解質蓄電素子は、充放電を繰り返しても出力保持率の低下が抑制される。この理由は定かでは無いが、以下の理由が推測される。
例えば電極体の合剤層は、幅方向中央領域よりも幅方向端部領域の方が非水電解質の供給量が多くなり、幅方向中央領域では非水電解質が枯渇しやすくなる。また、基材側領域は表面側領域と比べて非水電解質が浸透しにくく、特に、合剤層の幅方向中央領域の基材側領域が最も非水電解質が浸透しにくい。そこで、基材側領域に対する表面側領域の炭素元素の平均濃度比が1より大きく、上記基材側領域(E1)に対する上記表面側領域(E2)の炭素元素の平均濃度比(E2/E1)が、上記基材側領域(C1)に対する上記表面側領域(C2)の炭素元素の平均濃度比(C2/C1)の比の1.20倍よりも大きくなるように幅方向端部領域の導電剤を幅方向中央領域よりも多く偏在させることで、幅方向端部領域から幅方向中央領域への非水電解質の電荷移動媒体(例えばLiイオン)の移動が促進され、電荷移動媒体の拡散性が向上する。より具体的には、おもに導電剤としての炭素質材料に由来する炭素元素の濃度が相対的に低い第一端部領域の基材側領域(E1)を介した中央領域の基材側領域(C1)への電荷移動媒体の拡散性が向上すると推測される。その結果、非水電解質の電荷移動媒体の濃度の偏りを抑制できるので、当該極板を有する非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しにおける出力保持率の低下を抑制することができる。本願発明は、巻回型の電極体においてより効果を発揮することができる。
【0014】
ここで、上記端部領域とは、合剤層を幅方向に分割したときにそれぞれの両端となる第1端部及び第2端部から内部に向かって合剤層の全体積に対する体積の割合が20%以内の領域をいう。上記中央領域とは、両端側の第1端部領域及び第2端部領域以外の領域をいう。また、上記表面側領域とは、合剤層を厚み方向に分割したときに表面側から基材に向かって合剤層の全体積に対する体積の割合が50%以内の領域をいい、上記基材側領域とは、基材上面側から表面に向かって合剤層の全体積に対する体積の割合が50%以内の領域をいう。
【0015】
上記活物質の粒子のメジアン径としては、7μm以下が好ましい。上記活物質の粒子のメジアン径が7μm以下であることにより、合剤層の非水電解質の拡散性がより向上するので当該極板を有する非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しにおける出力保持率の低下をより抑制することができる。
【0016】
第二端部領域の基材側領域(E3)に対する第二端部領域の表面側領域(E4)の炭素元素の平均濃度比(E4/E3)が、上記平均濃度比(C2/C1)の1.20倍より大きいことが好ましい。第一端部領域に加え第二端部領域において、上記基材側領域(E3)に対する表面側領域(E4)の平均濃度比(E4/E3)を1.20倍より大きくすることで、中央領域へ幅方向両端から電荷移動媒体の拡散性が向上し、当該極板を有する非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しにおける出力保持率の低下をより抑制することができる。
【0017】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、当該極板を備える。当該非水電解質蓄電素子が当該極板を備えることで、充放電の繰り返しにおける出力保持率の低下を抑制することができる。
【0018】
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の極板の製造方法は、基材と、炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有し、上記基材に積層される合剤層とを備える非水電解質蓄電素子の極板の製造方法であって、上記基材に、上記導電剤及び上記活物質を含有する合剤ペーストを塗工することと、上記合剤ペーストの塗工層を乾燥することとを備え、上記塗工層の幅方向の端部領域の乾燥温度が上記塗工層の幅方向の中央領域の乾燥温度よりも高い。
【0019】
当該非水電解質蓄電素子の極板の製造方法によれば、上記塗工層の幅方向の端部領域の乾燥温度が上記塗工層の幅方向の中央領域の乾燥温度よりも高いことにより、端部領域の上記炭素元素の平均濃度比(E2/E1)が大きくなるので、当該極板を簡便に製造することができる。
【0020】
以下、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の極板、非水電解質蓄電素子及び非水電解質蓄電素子の極板の製造方法について図面を参照しつつ詳説する。
【0021】
<非水電解質蓄電素子>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子は、正極、負極及び非水電解質を有する。また、当該非水電解質蓄電素子の正極、負極又はこれらの組み合わせは、本発明の一実施形態に係る極板から構成される。以下、当該非水電解質蓄電素子の一例である非水電解質二次電池について説明する。上記正極及び負極は、通常、セパレータを介して積層又は巻回により交互に重畳された電極体を形成する。この電極体は外装体(ケース)に収納され、この外装体(ケース)内に非水電解質が充填される。上記非水電解質は、正極と負極との間に介在する。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態の非水電解質蓄電素子の電極体及び収容体を示す模式的分解斜視図である。非水電解質蓄電素子1は、電極体2と、電極体2の両端部にそれぞれ接続される正極集電体4’及び負極集電体5’と、これらを収納する外装体3とを備える。非水電解質蓄電素子1は、電極体2が外装体3に収納され、外装体3内に非水電解質が配置されている。電極体2は、正極活物質を備える正極と、負極活物質を備える負極とが、セパレータを介して扁平状に巻回されることにより形成されている。正極は、正極集電体4’を介して正極端子4と電気的に接続され、負極は、負極集電体5’を介して負極端子5と電気的に接続されている。
【0023】
外装体3は、電極体2、正極集電体4’及び負極集電体5’を収容し、収容される正極集電体4’の長手方向であるX方向に垂直な一面(上面)が開放された直方体状の筐体である。具体的には、外装体3は、底面と、電極体2の厚み方向であるY方向に対向する一対の長側面と、電極体2の幅方向であるZ方向に対向する一対の短側面とを有する。また、上面は蓋6によって塞がれる。外装体3及び蓋6は、金属板から構成される。この金属板の材質としては、例えばアルミニウムが使用できる。
【0024】
また、蓋6には、外部と通電する正極端子4及び負極端子5が設けられている。正極端子4は、正極集電体4’と接続され、負極端子5は、負極集電体5’と接続される。さらに、外装体3内には、蓋6に設けた図示しない注入孔から非水電解質が注入される。
【0025】
電極体2は、正極と負極とこれらを絶縁するセパレータとを有し、正極と負極とがセパレータを介して交互に積層されたものである。電極体2は、正極、負極、及びセパレータを備えるシート体を扁平状に巻回した巻回型の電極体である。すなわち、電極体2は、巻回軸方向視で、短軸及び長軸を有する楕円形状を有する。
【0026】
<極板>
当該極板は、基材と、炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有し、上記基材に積層される合剤層とを備える。上記合剤層は、上記基材に直接又は中間層を介して積層されていてもよい。図2は、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の極板を示す概略断面図である。図2に示すように、極板10は、基材12と、基材12に積層される合剤層13とを備える。図1と同様、図2中、Y方向が電極体2(合剤層13)の厚み方向であり、Z方向が電極体2(合剤層13)の幅方向である。
【0027】
[基材]
基材は、導電性を有する。
【0028】
正極基材の材質としては、アルミニウム、チタン、タンタル、ステンレス鋼等の金属又はそれらの合金が用いられる。これらの中でも、耐電位性、導電性の高さ及びコストのバランスからアルミニウム及びアルミニウム合金が好ましい。また、正極基材の形成形態としては、箔、蒸着膜等が挙げられ、コストの面から箔が好ましい。つまり、正極基材としてはアルミニウム箔が好ましい。なお、アルミニウム又はアルミニウム合金としては、JIS-H-4000(2014年)又はJIS-H-4160(2006年)に規定されるA1085、A3003等が例示できる。
【0029】
また、負極基材は、正極基材と同様の形成形態とすることができるが、材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属又はそれらの合金が用いられ、銅又は銅合金が好ましい。つまり、負極基材としては銅箔が好ましい。銅箔としては、圧延銅箔、電解銅箔等が例示される。
【0030】
[合剤層]
合剤層は、炭素質材料を含む導電剤及び活物質を含有する。合剤層は、活物質を含むいわゆる合剤から形成される。合剤層を形成する合剤は、炭素質材料を含む導電剤及び活物質以外に、必要に応じてバインダー(結着剤)、増粘剤、フィラー等の任意成分を含む。
【0031】
(導電剤)
導電剤としては、炭素質材料を含んでいれば特に限定されない。このような導電剤としては、天然又は人造の黒鉛、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等が挙げられる。導電剤の形状としては、粉状、繊維状等が挙げられる。導電剤の粒径の上限としては、100nmが好ましく、80nmがより好ましい。一般に、導電剤は、後述の活物質よりも相対的に粒径が小さいため活物質間に入り込みやすく、そのため、合剤層の導電剤の含有量が相対的に高い領域(例えば後述の表面領域)では、導電剤の含有量が相対的に低い領域(例えば後述の基材側領域)よりも、合剤層の空隙が小さくなる。よって、導電剤の含有量が相対的に低い領域では、導電剤の含有量が相対的に高い領域に比べ、空隙に含まれる非水電解質の電荷移動媒体の拡散性が相対的によいと推測される。炭素質材料を含む導電剤の粒径の上限が上記値である場合、その傾向が特に顕著となる。導電剤の粒径の下限としては、10nmが好ましく、20nmがより好ましい。導電剤の粒径とは、走査電子顕微鏡(SEM)により測定した粒径である。具体的には、導電剤の粒径は、下記の方法で測定する。放電末期状態まで放電した蓄電素子を、露点-20℃以下の環境下にて解体する。極板に付着している電解質を、ジメチルカーボネート(DMC)を用いて洗い流した後、極板から溶媒を乾燥除去する。クロスセクションポリッシャーにより断面加工した極板の断面部を走査電子顕微鏡(SEM)により観察する。ランダムに選択した少なくとも20個の導電剤のそれぞれの最大径の平均値を算出し、導電剤の粒径とする。
【0032】
合剤層13は、図2に示すように、合剤層13中の炭素元素の平均濃度比が異なる領域として、幅方向一端側の第一端部領域であるE1及びE2と、幅方向他端側の第二端部領域E3及びE4と、第一端部領域と第二端部領域との間に配置される中央領域であるC1及びC2に分割することができる。より詳細には、合剤層13は、第一端部領域の基材側領域E1、第一端部領域の表面側領域E2、第二端部領域の基材側領域E3、第二端部領域の表面側領域E4、中央領域の基材側領域C1及び中央領域の表面側領域C2の6つに分割できる。
【0033】
合剤層を厚み方向に表面側領域と基材側領域に分割した場合に、基材側領域(E1、C1、E3)に対する表面側領域(E2、C2、E4)の炭素元素の平均濃度比の下限としては、1超であり、1.10が好ましく、1.20以上がより好ましく、1.30以上がさらに好ましい。上記基材側領域に対する表面側領域の炭素元素の平均濃度比の下限が上記値であることで、充放電の繰り返しにおける出力保持率の低下を抑制することができる。また、上記基材側領域に対する表面側領域の炭素元素の平均濃度比の上限としては、集電性の低下を抑制する観点から、1.50が好ましい。
【0034】
上記基材側領域(E1)に対する表面側領域(E2)の炭素元素の平均濃度比(E2/E1)の上記基材側領域(C1)に対する表面側領域(C2)の炭素元素の平均濃度比(C2/C1)に対する倍率の下限としては、1.20超であり、1.30が好ましく、1.40がより好ましい。上記平均濃度比(E2/E1)の上記平均濃度比(C2/C1)に対する倍率の下限が上記値であることで、充放電サイクルにおける出力保持率を高めることができる。また、上記平均濃度比(E2/E1)の上記平均濃度比(C2/C1)に対する倍率の上限としては、集電性の低下を抑制する観点から、2.00が好ましい。
【0035】
上記基材側領域(E3)に対する表面側領域(E4)の平均濃度比(E4/E3)の上記平均濃度比(C2/C1)に対する倍率の下限としては、1.20超であり、1.30が好ましく、1.40がより好ましい。さらに、上記平均濃度比(E4/E3)の上記平均濃度比(C2/C1)に対する倍率の下限が上記値であることで、充放電サイクルにおける出力保持率を高めることができる。また、上記平均濃度比(E4/E3)の上記平均濃度比(C2/C1)に対する倍率の上限としては、集電性の低下を抑制する観点から、2.00が好ましい。
合剤層13の各領域における炭素元素の平均濃度は、電子線マイクロアナライザー(EPMA)により、極板の幅方向に平行任意の断面の炭素元素の濃度をライン分析測定することにより決定する。端部領域については、合剤層を幅方向に分割したときにそれぞれの両端となる第1端部及び第2端部から内部に向かって合剤層の全体積に対する体積の割合が10%となる幅方向の位置において、極板の厚み方向全域に渡って炭素元素の濃度を測定する。また、中央領域については、合剤層を幅方向に分割したときにそれぞれの両端となる第1端部及び第2端部から内部に向かって合剤層の全体積に対する体積の割合が50%となる位置において、極板の厚み方向全域に渡って炭素元素の濃度を測定する。各領域とも、厚み方向の平均値を、当該領域の炭素元素の濃度とする。基材側領域の炭素元素の平均濃度は、上述の通り算出したE1、C1及びE3の各領域の炭素元素の濃度の平均値とし、表面側領域の炭素元素の平均濃度は、上述の通り算出したE2、C2及びE4の各領域の炭素元素の濃度の平均値とする。
【0036】
(活物質)
正極活物質としては、例えばLiMO(Mは少なくとも一種の遷移金属を表す)で表される複合酸化物(層状のα-NaFeO型結晶構造を有するLiCoO2、LiNiO2、LiMnO3、LiNiαCo(1-α)2、LiNiαMnβCo(1-α-β)等、スピネル型結晶構造を有するLiMn4、LiNiαMn(2-α)等)、LiMe(XO(Meは少なくとも一種の遷移金属を表し、Xは例えばP、Si、B、V等を表す)で表されるポリアニオン化合物(LiFePO4、LiMnPO4、LiNiPO4、LiCoPO4、Li(PO3、LiMnSiO4、LiCoPOF等)が挙げられる。これらの化合物中の元素又はポリアニオンは、他の元素又はアニオン種で一部が置換されていてもよい。正極合剤層においては、これら化合物の1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0037】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵及び放出することができる材質が用いられる。具体的な負極活物質としては、例えばSi、Sn等の金属又は半金属;Si酸化物、Sn酸化物等の金属酸化物又は半金属酸化物;ポリリン酸化合物;黒鉛(グラファイト)、非黒鉛質炭素(易黒鉛化性炭素又は難黒鉛化性炭素)等の炭素材料等が挙げられる。
【0038】
さらに、負極合剤は、B、N、P、F、Cl、Br、I等の典型非金属元素、Li、Na、Mg、Al、K、Ca、Zn、Ga、Ge等の典型金属元素、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Zr、Ta、Hf、Nb、W等の遷移金属元素を含有してもよい。
【0039】
活物質の粒子のメジアン径の上限としては、4μmが好ましく、7μmがより好ましい。活物質の粒子のメジアン径の上限が上記値であることで、合剤層の非水電解質の拡散性がより向上するので充放電の繰り返しにおける出力保持率の低下を抑制することができる。また、活物質の粒子のメジアン径の下限としては、2μmが好ましい。活物質の粒子のメジアン径が2μm以上であることにより、後述する合剤ペーストの流動が適度に生じる。
【0040】
なお、上記「メジアン径」とは、JIS-Z-8819-2(2001年)に準拠し計算される体積基準積算分布が50%となる値(D50)を意味する。具体的には以下の方法による測定値とすることができる。測定装置としてレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社の「SALD-2200」)、測定制御ソフトとしてWing SALD-2200を用いて測定する。散乱式の測定モードを採用し、測定試料が分散溶媒中に分散する分散液が循環する湿式セルにレーザー光を照射し、測定試料から散乱光分布を得る。そして、散乱光分布を対数正規分布により近似し、累積度50%にあたる粒子径をメジアン径(D50)とする。なお、上記測定に基づくメジアン径は、SEM画像から、極端に大きい粒子及び極端に小さい粒子を避けて100個の粒子を抽出して測定するメジアン径とほぼ一致することが確認されている。なお、このSEM画像からの測定における各粒子の径はフェレー径とし、各粒子の体積はフェレー径を直径とする球として算出する。
【0041】
(その他の任意成分)
上記バインダー(結着剤)としては、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミド等の熱可塑性樹脂;エチレン-プロピレン-ジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のエラストマー;多糖類高分子等が挙げられる。
【0042】
上記増粘剤としては、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース等の多糖類高分子が挙げられる。また、増粘剤がリチウムと反応する官能基を有する場合、予めメチル化等によりこの官能基を失活させておくことが好ましい。
【0043】
上記フィラーとしては、特に限定されない。フィラーの主成分としては、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン、シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス等が挙げられる。
【0044】
合剤層の多孔度の下限としては、25%が好ましく、30%がより好ましい。また、上記多孔度の上限としては、50%が好ましく、45%がより好ましい。上記多孔度が上記範囲であることで、合剤層の基材側当該負極活物質を用いた非水電解質蓄電素子の容量維持率をより高めることができる。
【0045】
合剤層の「多孔度」とは、合剤層を構成する各成分の真密度から算出される合剤の真密度と充填密度とから、下記式により求められる値を言う。
多孔度(%)=100-(充填密度/真密度)×100
ここで、「充填密度」は、合剤の質量を合剤の見かけの体積で除した値をいう。見かけの体積とは、空隙部分を含む体積をいい、合剤が層状である場合、合剤の厚さと面積との積として求めることができる。
【0046】
[中間層]
上記中間層は、基材の表面の被覆層であり、炭素質材料粒子等の導電剤を含むことで基材と合剤層との接触抵抗を低減する。中間層の構成は特に限定されず、例えばバインダー及び導電剤を含有する組成物により形成できる。なお、「導電性」を有するとは、JIS-H-0505(1975年)に準拠して測定される体積抵抗率が10Ω・cm以下であることを意味し、「非導電性」とは、上記体積抵抗率が10Ω・cm超であることを意味する。
【0047】
<非水電解質蓄電素子の極板の製造方法>
本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の極板の製造方法は、上記基材に、上記導電剤及び上記活物質を含有する合剤ペーストを塗工することと、上記合剤ペーストの塗工層を乾燥することとを備える。
【0048】
上記合剤ペーストには、通常、分散媒として、有機溶媒が用いられる。この有機溶媒としては、例えばN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、アセトン、エタノール等の極性溶媒や、キシレン、トルエン、シクロヘキサン等の無極性溶媒を挙げることができ、極性溶媒が好ましく、NMPがより好ましい。合剤ペーストには、これらの他、上述した正極合剤に含まれていてもよい各任意成分を含有させることができる。
【0049】
合剤ペーストの混錬手段としては、例えばプライミクス社製フィルミックス(登録商標)を用いる方法が挙げられる。
【0050】
上記合剤ペーストの塗工方法としては特に限定されず、ローラーコーティング、スクリーンコーティング、スピンコーティング等の公知の方法により行うことができる。
【0051】
塗工層の乾燥手段としては、例えば熱風乾燥やIRヒーターが挙げられ、乾燥方法としては、例えば連続式やバッジ式が挙げられる。また、乾燥温度としては、100℃以上150℃以下が好ましい。連続式による乾燥速度としては、1m/分以上20m/分以下が好ましい。
【0052】
また、本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の極板の製造方法は、上記塗工層の幅方向の端部領域の乾燥温度が上記塗工層の幅方向の中央領域の乾燥温度よりも高い。塗工層を乾燥させる過程では、分散媒の蒸発に伴って合剤ペーストが流動する。合剤ペーストが流動すると、合剤ペーストの構成要素のうち粒径が小さい構成要素が、粒径の大きい構成要素よりも塗工層の表面側(基材とは逆側)に移動してくる傾向がある。当該傾向は、乾燥温度が高い場合に、大きくなる。上記したとおり、一般に、炭素質材料を含む導電剤は活物質に比べ、粒径が小さい。したがって、上記塗工層の幅方向の端部領域の乾燥温度が上記塗工層の幅方向の中央領域の乾燥温度よりも高いことにより、端部領域の上記炭素元素の平均濃度比(E2/E1)を大きくすることができる。端部領域の乾燥手段としては、例えばIRヒーターが挙げられる。また、端部領域の乾燥温度としては、150℃以上250℃以下が好ましい。
【0053】
[セパレータ]
上記セパレータとしては、例えば織布、不織布、多孔質樹脂フィルム等が用いられる。これらの中でも、強度の観点から多孔質樹脂フィルムが好ましく、非水電解質の保液性の観点から不織布が好ましい。上記セパレータの主成分としては、強度の観点から例えばポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましく、耐酸化分解性の観点から例えばポリイミドやアラミド等が好ましい。また、これらの樹脂を複合してもよい。
【0054】
なお、セパレータと極板(通常、正極)との間に、無機層が配設されていても良い。この無機層は、耐熱層等とも呼ばれる多孔質の層である。また、多孔質樹脂フィルムの一方の面に無機層が形成されたセパレータを用いることもできる。上記無機層は、通常、無機粒子及びバインダーとで構成され、その他の成分が含有されていてもよい。
【0055】
[非水電解質]
上記非水電解質としては、一般的な非水電解質蓄電素子に通常用いられる公知の非水電解質が使用できる。上記非水電解質は、非水溶媒と、この非水溶媒に溶解されている電解質塩を含む。
【0056】
上記非水溶媒としては、一般的な蓄電素子用非水電解質の非水溶媒として通常用いられる公知の非水溶媒を用いることができる。上記非水溶媒としては、環状カーボネート、鎖状カーボネート、エステル、エーテル、アミド、スルホン、ラクトン、ニトリル等を挙げることができる。これらの中でも、環状カーボネート又は鎖状カーボネートを少なくとも用いることが好ましく、環状カーボネートと鎖状カーボネートとを併用することがより好ましい。
【0057】
上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、クロロエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)、スチレンカーボネート、カテコールカーボネート、1-フェニルビニレンカーボネート、1,2-ジフェニルビニレンカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもECが好ましい。
【0058】
上記鎖状カーボネートとしては、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジフェニルカーボネート等を挙げることができ、これらの中でもEMCが好ましい。
【0059】
電解質塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、オニウム塩等を挙げることができるが、リチウム塩が好ましい。上記リチウム塩としては、LiPF、LiPO、LiBF、LiPF(C、LiClO、LiN(SOF)等の無機リチウム塩、LiSOCF、LiN(SOCF、LiN(SO、LiN(SOCF)(SO)、LiC(SOCF、LiC(SO等のフッ化炭化水素基を有するリチウム塩などを挙げることができる。
【0060】
上記非水電解質には、その他の添加剤が添加されていてもよい。また、上記非水電解質として、イオン液体などを用いることもできる。
【0061】
<非水電解質蓄電素子の製造方法>
当該非水電解質蓄電素子は、公知の製造方法を組み合わせて製造することができるが、以下の方法により製造することが好ましい。本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、上述した当該非水電解質蓄電素子の極板の製造方法を含む。本発明の一実施形態に係る非水電解質蓄電素子の製造方法は、例えば、当該非水電解質蓄電素子の極板の製造方法により正極を作製する工程を備える。また、非水電解質蓄電素子の製造方法は、上記正極を作製する工程の他、以下の工程等を有していてもよい。すなわち、非水電解質蓄電素子の製造方法は、例えば、負極を作製する工程、非水電解質を調製する工程、正極及び負極を、セパレータを介して積層又は巻回することにより交互に重畳された電極体を形成する工程、正極及び負極(電極体)を外装体(ケース)に収容する工程、並びに上記外装体内に上記非水電解質を注入する工程を備えることができる。上記注入は、公知の方法により行うことができる。注入後、注入口を封止することにより非水電解質蓄電素子を得ることができる。
【0062】
[その他の実施形態]
本発明の非水電解質蓄電素子は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0063】
上記実施形態においては、非水電解質蓄電素子が二次電池である形態を中心に説明したが、その他の非水電解質蓄電素子であってもよい。その他の非水電解質蓄電素子としては、キャパシタ(電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ)等が挙げられる。
【0064】
本発明は、上記の非水電解質蓄電素子を複数備える蓄電装置としても実現することができる。また、本発明の非水電解質蓄電素子(セル)を単数又は複数個用いることにより組電池を構成することができ、さらにこの組電池を用いて蓄電装置を構成することができる。上記蓄電装置は、電気自動車(EV)、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)等の自動車用電源として用いることができる。
【実施例
【0065】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
[実施例1]
(正極の作製)
正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3を用いた。分散媒として、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いた。導電剤として、アセチレンブラックを用いた。バインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)を用いた。正極活物質、導電剤及びバインダーを固形分換算で90:5:5の質量比で混合して混錬し、正極合剤ペーストを得た。この正極合剤ペーストを、正極基材であるアルミニウム箔の片面に塗工し、正極合剤ペーストの塗工層を形成した。
塗工層の幅方向の中央領域の乾燥手段として、連続式乾燥炉を用い、乾燥温度として第1乾燥炉では120℃、第2乾燥炉では130℃とし、乾燥速度として2m/分とした。塗工層の幅方向の端部領域の乾燥手段として、IRヒーターを用い、乾燥温度として180℃とした。このようにして、塗工層を乾燥し、正極基材上に正極合剤を形成した。正極合剤ペーストの塗工量は、固形分で10mg/cmとした。このようにして、正極を得た。正極合剤層の基材側領域に対する表面側領域の炭素元素の平均濃度比は1.36であり、中央領域の平均濃度比(C2/C1)は、1.17であり、第一端部の平均濃度比(E2/E1)は1.65であり、平均濃度比(C2/C1)に対する平均濃度比(E2/E1)の倍率は1.41であった。また、正極活物質の粒子のメジアン径は、4.3μmであった。
【0067】
(負極の作製)
負極活物質には、難黒鉛化炭素を用いた。
【0068】
(非水電解質の調製)
プロプレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを体積比30:40:30の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/dmの濃度で溶解させ、非水電解質を調製した。
【0069】
(非水電解質蓄電素子の作製)
セパレータとして、ポリエチレン製のセパレータを用いた。このセパレータを介して、上記正極と上記負極とを積層することにより電極体を作製した。この電極体を金属樹脂複合フィルム製の外装体(ケース)に収納し、内部に上記非水電解質を注入した後、熱溶着により封口し、非水電解質蓄電素子を得た。
【0070】
[実施例2及び比較例1から比較例2]
塗工層の幅方向の端部領域の乾燥条件及び正極活物質のメジアン径を表1に示すとおりとしたこと以外は、実施例1と同様にして実施例2及び比較例1から比較例2の非水電解質蓄電素子を得た。
【0071】
[評価]
(高温下での充放電サイクル試験:出力保持率)
次に、各実施例及び比較例の各非水電解質蓄電素子について、以下の55℃サイクル試験を行った。すなわち、温度55℃にて、SOC(State of Charge)が15%から85%の範囲で、電流値5Cでの充放電を1000時間繰り返した。その前後において、25℃における出力値を算出し、出力保持率(%)を算出した。出力値及び出力保持率は以下のように算出した。SOC50%の非水電解質蓄電素子を電流値1C、2C、3C、4C、5Cで放電をおこない放電開始後1秒目の電圧を用いてI-Vプロットを描く。その後下限電圧2.5Vにおける電流値を外挿により求め、電流値と電圧を乗じた値により出力値を算出した。出力保持率として、充放電サイクル試験前の出力値に対する充放電サイクル試験後の出力値の比率を求めた。出力保持率の算出結果を表1に示す。なお、表1においては、比較例1の出力保持率に対する実施例1の出力保持率の比率及び比較例2の出力保持率に対する実施例2の出力保持率の比率を、それぞれ百分率で示す。
【0072】
【表1】
【0073】
上記表1に示されるように、上記基材側領域に対する上記表面側領域の上記炭素元素の平均濃度比が1より大きく、上記第一端部領域における上記平均濃度比(E2/E1)の上記中央領域における上記平均濃度比(C2/C1)に対する倍率が1.20よりも大きい実施例1は上記倍率が1.20以下である比較例1と比べて充放電を繰り返しても25℃の出力保持率が良好であった。同様に、上記平均濃度比(E2/E1)の上記平均濃度比(C2/C1)に対する倍率が1.20より大きい実施例2は上記倍率が1.20以下である比較例2と比べて上記出力保持率が良好であった。
また、実施例1及び実施例2の結果から、活物質の粒子のメジアン径が7μm以下であることにより、非水電解質蓄電素子の充放電の繰り返しにおける出力保持率の低下をより抑制することができることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、パーソナルコンピュータ、通信端末等の電子機器、自動車等の電源として使用される非水電解質蓄電素子等に適用できる。
【符号の説明】
【0075】
1 非水電解質蓄電素子
2 電極体
3 外装体
4 正極端子
4’ 正極集電体
5 負極端子
5’ 負極集電体
6 蓋
10 極板
12 基材
13 合剤層
E1 第一端部領域の基材側領域
E2 第一端部領域の表面側領域
C1 中央領域の基材側領域
C2 中央領域の表面側領域
E3 第二端部領域の基材側領域
E4 第二端部領域の表面側領域
図1
図2