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  • 特許-ガスバリア性ポリアミドフィルム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ガスバリア性ポリアミドフィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20250212BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
B32B9/00 A
B65D65/40 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020562783
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029126
(87)【国際公開番号】W WO2021039259
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-07-14
(31)【優先権主張番号】P 2019155630
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019160425
(32)【優先日】2019-09-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020042960
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020042961
(32)【優先日】2020-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 考道
(72)【発明者】
【氏名】山崎 敦史
【審査官】松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/117884(WO,A1)
【文献】特開平08-047972(JP,A)
【文献】特開2019-064075(JP,A)
【文献】特開2009-119639(JP,A)
【文献】特開2004-098584(JP,A)
【文献】特開2003-181972(JP,A)
【文献】国際公開第2012/070598(WO,A1)
【文献】特開平08-198981(JP,A)
【文献】特開2015-150842(JP,A)
【文献】特開2012-107217(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の基材層(A層)の両面に下記の機能層(B層)が積層された二軸延伸ポリアミドフィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を有することを特徴とするガスバリア性ポリアミドフィルム。
基材層(A層)はポリアミド6樹脂99~70質量%と少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂1~30質量%を含み、前記少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂が、ポリアミド11、ポリアミド410、ポリアミド610、及びポリアミド1010からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミド樹脂であり、機能層(B層)はポリアミド6樹脂70質量%以上を含む。
【請求項2】
前記二軸延伸ポリアミドフィルム中の全炭素に対して、放射性炭素(C14)測定によるバイオマス由来の炭素の含有量が1~15%であることを特徴とする前記請求項1に記載のガスバリア性ポリアミドフィルム。
【請求項3】
下記の(a)及び(b)を満足することを特徴とする請求項1又は2に記載のガスバリア性ポリアミドフィルム。
(a)ゲルボフレックステスターを用いたひねり屈曲試験を温度1℃で1000回実施した時のゲルボピンホール欠点数が10個以下、
(b)耐摩擦ピンホールテストでピンホール発生までの距離が2900cm以上。
【請求項4】
前記無機薄膜層が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物からなる層であることを特徴とする請求項1~いずれかに記載のガスバリア性フィルム。
【請求項5】
請求項1~いずれかに記載のガスバリア性ポリアミドフィルムにシーラントフィルムを積層した積層フィルム。
【請求項6】
請求項に記載された積層フィルムを用いた包装袋。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐衝撃性及び耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性に優れ、かつガスバリア性に優れ、バイオマス由来の原料を用いたカーボンニュートラルなガスバリア性ポリアミドフィルムに関するものである。本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、食品包装用フィルムなどに好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
従来から、ポリアミド6に代表される脂肪族ポリアミドからなる二軸延伸フィルムは、耐衝撃性と耐屈曲ピンホール性に優れており、各種の包装材料フィルムとして広く使用されている。
【0003】
また、スープ、調味料等の液体充填包装向けに、耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性をさらに向上させるため、脂肪族ポリアミドに各種エラストマー(ゴム成分)を混合し、より柔軟化して耐屈曲ピンホール性を向上した二軸延伸ポリアミドフィルムが広く使用されている。
【0004】
上記の耐屈曲ピンホール性を向上させる手段として脂肪族ポリアミドにポリアミド系エラストマーを混合したフィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。このフィルムは、低温環境下での耐屈曲ピンホール性、耐衝撃性が良好であり、低温環境下でも屈曲疲労によるピンホールが発生にくい。
【0005】
しかし、ピンホールは、屈曲によって発生する他に摩擦(擦れ)によっても発生する。屈曲によるピンホールと摩擦によるピンホールの改善方法は相反する場合が多い。例えば、フィルムの柔軟性を高くすると、屈曲ピンホールは発生しにくくなるが、柔らかくなった分だけ摩擦によるピンホールが生じ易くなる傾向がある。これに対して二軸延伸ポリアミドフィルムの外面に表面コート剤を設けることによって、耐屈曲性や耐摩擦ピンホール性に優れた包装用の積層体が提案されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、この方法では摩擦ピンホールの発生防止効果が少ない。また、コーティング工程が必要となる。
更に、脂肪族ポリアミドにポリアミド系エラストマーを混合したフィルムの場合、フィルム製造時に添加したポリアミド系エラストマーが熱劣化するために、ダイスのリップ出口に目ヤニと呼ばれる劣化物を生成しやすい。そして、劣化物はフィルム厚みの精度を悪化させる原因になることがわかった。また、劣化物はそれ自体が落下することで不良製品を生み、フィルム連続生産時の生産効率を低下させる問題があった。
【0006】
一方、二軸延伸ポリアミドフィルムに無機酸化物薄膜を形成した透明なガスバリア性フィルムが、内容物が見えて、かつ酸素や水蒸気による内容物の劣化を抑える包装材料として、食品包装用、医薬包装用や電子デバイス包装用など、幅広い用途で使われるようになった(例えば、特許文献3参照)。ガスバリア性フィルムは無機薄膜によって高度のガスバリア性が付与されるが、屈曲や摩擦によってピンホールができてしまうと、著しくガスバリア性が悪くなってしまうという問題があった。
【0007】
一方、近年、循環型社会の構築のため、材料分野において化石燃料の原料に代わりバイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から光合成された有機化合物であり、それを利用することにより、再度二酸化炭素と水になる、いわゆるカーボンニュートラル(環境中での二酸化炭素の排出量と吸収量が同じであるので温室効果ガスである二酸化炭素の増加を抑制できる)な原料である。昨今、これらバイオマスを原料としたバイオマスプラスチックの実用化が急速に進んでおり、汎用高分子材料であるポリエステルをこれらバイオマス原料から製造する試みも行われている。
【0008】
例えば、特許文献4では、ポリエステルフィルムの分野において、ジオール単位とジカルボン酸単位とからなるポリエステルを含んでなる樹脂組成物であって、ジオール成分単位がバイオマス由来のエチレングリコールであり、ジカルボン酸成分単位が石油由来のジカルボン酸であるポリエステルを、樹脂組成物全体に対して、50~95質量%含んでなることを特徴とする樹脂組成物及びフィルムが開示されている。
かかる技術によれば、従来の化石燃料から得られるエチレングリコールに代えて、バイオマス由来のエチレングリコールを用いて製造されたポリエステルであっても、従来の化石燃料由来のエチレングリコールを用いた場合と同等の機械的特性が得られるというものである。
このような背景の中、ポリアミドフィルムにおいても、バイオマス由来の原料を用いたカーボンニュートラルな素材が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平11-254615号公報
【文献】特開2001-205761号公報
【文献】特開平10-29264号公報
【文献】特開2012―097163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、かかる従来技術の耐屈曲ピンホール性を向上させた二軸延伸ポリアミドフィルムの有する問題点に鑑み創案されたものである。本発明の目的は、耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性が同時に優れ、かつガスバリア性に優れたバイオマス由来の原料を用いたカーボンニュートラルな二軸延伸ポリアミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
即ち、本発明は、以下の構成よりなる。
[1] ポリアミド6樹脂99~70質量%と少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂1~30質量%を含む二軸延伸ポリアミドフィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を有することを特徴とするガスバリア性ポリアミドフィルム。
[2] 下記の基材層(A層)の少なくとも片面に下記の機能層(B層)が積層された二軸延伸ポリアミドフィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を有することを特徴とするガスバリア性ポリアミドフィルム。
基材層(A層)はポリアミド6樹脂99~70質量%と少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂1~30質量%を含み、機能層(B層)はポリアミド6樹脂70質量%以上を含む。
[3] 前記二軸延伸ポリアミドフィルム中の全炭素に対して、放射性炭素(C14)測定によるバイオマス由来の炭素の含有量が1~15%であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のガスバリア性ポリアミドフィルム。
[4] 少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂が、ポリアミド11、ポリアミド410、ポリアミド610、及びポリアミド1010からなる群から選ばれる少なくとも1種のポリアミド樹脂であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のガスバリア性ポリアミドフィルム。
[5] 下記の(a)及び(b)を満足することを特徴とする[1]又は[2]に記載のガスバリア性ポリアミドフィルム。
(a)ゲルボフレックステスターを用いたひねり屈曲試験を温度1℃で1000回実施した時のゲルボピンホール欠点数が10個以下、
(b)耐摩擦ピンホールテストでピンホール発生までの距離が2900cm以上。
〔6〕 前記無機薄膜層が酸化アルミニウム又は酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物からなる層であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のガスバリア性積層フィルム。
[7] [1]又は[2]に記載のガスバリア性ポリアミドフィルムにシーラントフィルムを積層した積層フィルム。
[8] [7]に記載された積層フィルムを用いた包装袋。
【発明の効果】
【0012】
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、ポリアミド6樹脂を主成分として原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂をブレンドすることと特定の製膜条件を採用することで得られた二軸延伸ポリアミドフィルムの少なくとも片方の面に無機薄膜層を積層することで、耐屈曲ピンホールと耐摩擦ピンホール性が同時に優れ、かつガスバリア性の優れたポリアミドフィルムを提供することができる。
また、本発明ではさらに、従来の耐屈曲ピンホール性を向上のために添加したポリアミド系エラストマーと異なり、ダイス内部でポリアミド系エラストマーが劣化することがないので、長時間にわたり、ダイス内面への劣化物の付着やダイスリップ出口への目ヤニの付着を抑制できる。それによって、フィルムの厚み斑の悪化を防止できる。
また、ダイス内面やダイスリップ出口へ劣化物が付着すると厚み斑が悪化するので、生産を止めてダイスのリップを掃除する必要がある。本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、長時間の連続生産を可能にすることができる。
更に、原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂を使用するので、元来地上にある植物を原料とするため、地上の二酸化炭素の増減に影響を与えない点で環境負荷を低減できる。また、ガスバリア層としてポリ塩化ビニリデンを塗布したフィルムに比べて環境負荷を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】耐摩擦ピンホール性評価装置の概略図
【符号の説明】
【0014】
1:堅牢度試験機のヘッド部
2:段ボール板
3:サンプル保持用の台紙
4:4つ折りしたフィルムサンプル
5:擦る振幅方向
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムを詳細に説明する。
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、ポリアミド6樹脂99~70質量%と少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂1~30質量%からなる二軸延伸ポリアミドフィルム又はポリアミド6樹脂99~70質量%と少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂1~30質量%からなる基材層(A層)の少なくとも片面に下記の機能層(B層)が積層された二軸延伸ポリアミドフィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を有することを特徴とするガスバリア性ポリアミドフィルムである。
【0016】
[二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)]
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)は、ポリアミド6樹脂を70質量%以上含むことで、ポリアミド6樹脂からなる二軸延伸ポリアミドフィルムが本来持つ、優れた衝撃強度などの機械的強度や酸素などのガスバリア性が得られる。
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)は、少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂を1~30質量%含むことで、耐屈曲ピンホール性が向上する。従来使用されている耐屈曲ピンホール性の改良剤であるポリアミド系エラストマーやポリオレフィン系エラストマーの場合、耐屈曲ピンホール性は向上するが、耐摩擦ピンホール性が悪くなる。少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂を1~30質量%含むことで、耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性が同時に優れた二軸延伸ポリアミドフィルムが得られる。また、カーボンニュートラルな地上の二酸化炭素の増減に影響が少ないフィルムが得られる。
【0017】
[ポリアミド6樹脂]
本発明に使用するポリアミド6樹脂は、通常、ε-カプロラクタムの開環重合によって製造される。開環重合で得られたポリアミド6樹脂は、通常、熱水でラクタムモノマーを除去した後、乾燥してから押出し機で溶融押出しされる。
通常、原料のε-カプロラクタム又はアミノカプロン酸は、化石燃料由来の原料が使用される。
ポリアミド6樹脂の相対粘度は、1.8~4.5であることが好ましく、より好ましくは、2.6~3.2である。相対粘度が1.8より小さい場合は、フィルムの衝撃強度が不足する。4.5より大きい場合は、押出機の負荷が大きくなり延伸前の未延伸フィルムを得るのが困難になる。
【0018】
[少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂]
本発明に使用する、少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂としては、例えば、ポリアミド11、ポリアミド410、ポリアミド610、及びポリアミド1010、ポリアミドMXD10樹脂、ポリアミド11・6T共重合樹脂などが挙げられる。
【0019】
ポリアミド11は、炭素原子数11である単量体がアミド結合を介して結合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、ポリアミド11は、アミノウンデカン酸又はウンデカンラクタムを単量体として用いて得られる。とりわけアミノウンデカン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、カーボンニュートラルの観点から望ましい。これらの炭素原子数が11である単量体に由来する構成単位は、ポリアミド11内において全構成単位のうちの50%以上が好ましく、80%以上が更に好ましく、100%であってもよい。
【0020】
上記ポリアミド11としては、通常、前述したアミノウンデカン酸の重合によって製造される。重合で得られたポリアミド11は、場合によって熱水でラクタムを除去した後、乾燥してから押出し機で溶融押出しされる。
ポリアミド11の相対粘度は、1.8~4.5であることが好ましく、より好ましくは、2.4~3.2である。相対粘度が1.8より小さい場合は、フィルムの衝撃強度が不足する。4.5より大きい場合は、押出機の負荷が大きくなり延伸前の未延伸フィルムを得るのが困難になる。
【0021】
上記ポリアミド610は、炭素原子数6であるジアミンと炭素原子数10であるジカルボン酸とが重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸が利用される。このうちセバシン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、カーボンニュートラルの観点から望ましい。これらの炭素原子数6である単量体に由来する構成単位と、炭素原子数10である単量体に由来する構成単位とは、PA610内においてその合計が、全構成単位のうちの50%以上が好ましく、80%以上が更に好ましく、100%であってもよい。
【0022】
上記ポリアミド1010は、炭素原子数10であるジアミンと炭素原子数10であるジカルボン酸とが重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、ポリアミド1010には、1,10-デカンジアミン(デカメチレンジアミン)とセバシン酸とが利用される。デカメチレンジアミン及びセバシン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、カーボンニュートラルの観点から望ましい。これらの炭素原子数10であるジアミンに由来する構成単位と、炭素原子数10であるジカルボン酸に由来する構成単位とは、PA1010内においてその合計が、全構成単位のうちの50%以上が好ましく、80%以上が更に好ましく、100%であってもよい。
【0023】
上記ポリアミド410は、炭素数4である単量体と炭素原子数10であるジアミンとが共重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常ポリアミド410には、セバシン酸とテトラメチレンジアミンとが利用される。セバシン酸としては、環境面から植物油のヒマシ油を原料とするものが好ましい。ここで用いるセバシン酸としては、ヒマシ油から得られるものが環境保護の観点(特にカーボンニュートラルの観点)から望ましい。
【0024】
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)における、少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂の含有量の上限は30質量%であり、20質量%がより好ましい。少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂の含有量が30質量%を超えると、溶融フィルムをキャスティングする時に溶融フィルムが安定しなくなり均質な未延伸フィルムを得るのが難しくなる。
【0025】
[副材料、添加剤]
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)には、他の熱可塑性樹脂、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤や防曇剤、紫外線吸収剤、染料、顔料等の各種の添加剤を必要に応じて含有させることができる。
【0026】
<他の熱可塑性樹脂>
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記のポリアミド6と少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂の他に熱可塑性樹脂を含むことができる。例えば、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6・12共重合樹脂、ポリアミド6・66共重合樹脂、ポリアミドMXD6樹脂、などのポリアミド系樹脂が挙げられる。
必要に応じてポリアミド系以外の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート等のポリエステル系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系重合体等を含有させてもよい。
これらの熱可塑性樹脂の原料はバイオマス由来であると、地上の二酸化炭素の増減に影響を与えないので、環境負荷を低減できるので好ましい。
【0027】
<滑剤>
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)には、滑り性を良くして取扱い易くするために、滑剤として微粒子や脂肪酸アミドなどの有機潤滑剤を含有させることが好ましい。
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムは、滑り性を良くすることで、摩擦による包装袋の破袋を減少させる効果もある。
【0028】
前記微粒子としては、シリカ、カオリン、ゼオライト等の無機微粒子、アクリル系、ポリスチレン系等の高分子系有機微粒子等の中から適宜選択して使用することができる。なお、透明性と滑り性の面から、シリカ微粒子を用いることが好ましい。
前記微粒子の好ましい平均粒子径は0.5~5.0μmであり、より好ましくは1.0~3.0μmである。平均粒子径が0.5μm未満であると、良好な滑り性を得るのに多量の添加量が要求される。一方、5.0μmを超えると、フィルムの表面粗さが大きくなりすぎて外観が悪くなる傾向がある。
【0029】
前記シリカ微粒子を使用する場合、シリカの細孔容積の範囲は、0.5~2.0ml/gであると好ましく、0.8~1.6ml/gであるとより好ましい。細孔容積が0.5ml/g未満であると、ボイドが発生し易くなりフィルムの透明性が悪化し、細孔容積が2.0ml/gを超えると、微粒子による表面の突起ができにくくなる傾向がある。
【0030】
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)には、滑り性を良くする目的で脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドを含有させることができる。脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドとしては、エルカ酸アマイド、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイドなどが挙げられる。
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムの脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドの含有量は、好ましくは0.01~0.40質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.30質量%である。脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドの含有量が上記範囲未満となると、滑り性が悪くなる傾向がある。一方、上記範囲を越えると、濡れ性が悪くなる傾向がある。
【0031】
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)には、滑り性を良くする目的でポリアミドMXD6樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6・12共重合樹脂、ポリアミド6・66共重合樹脂などのポリアミド樹脂を添加することができる。特にポリアミドMXD6樹脂が好ましく、1~10質量%添加することが好ましい。
【0032】
<酸化防止剤>
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)には、酸化防止剤を含有させることができる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤が好ましい。フェノール系酸化防止剤は、完全ヒンダードフェノール系化合物又は部分ヒンダードフェノール系化合物が好ましい。例えば、テトラキス-〔メチレン-3-(3′,5′-ジ-t-ブチル-4′-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、ステアリル-β-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-〔β-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕エチル〕2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン等が挙げられる。
上記フェノール系酸化防止剤を含有させることにより、二軸延伸ポリアミドフィルムの製膜操業性が向上する。特に、原料にリサイクルしたフィルムを用いる場合、樹脂の熱劣化が起こりやすく、これに起因する製膜操業不良が発生し、生産コスト上昇を招く傾向にある。これに対して、酸化防止剤を含有させることで、樹脂の熱劣化が抑制され操業性が向上する。
【0033】
[機能層(B層)]
本発明における一つの実施態様として、基材層(A層)の少なくとも片面に機能層(B層)を積層して、表面の特性を改善することができる。
B層は、ポリアミド6樹脂を70質量%以上含む層である。
B層は、ポリアミド6樹脂を70質量%以上含むことで優れた衝撃強度などの機械的強度や酸素などのガスバリア性を持った二軸延伸ポリアミドフィルム得られる。
ポリアミド6樹脂としては、前記のA層で使用するポリアミド6樹脂と同様のものを使用できる。
【0034】
B層には、他の熱可塑性樹脂、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、帯電防止剤や防曇剤、紫外線吸収剤、染料、顔料等の各種の添加剤をB層の表面に持たせる機能に応じて含有させることができる。
B層を包装袋の外側に用いる場合は、耐摩擦ピンホール性が必要なので、ポリアミド系エラストマーやポリオレフィン系エラストマーのような軟らかい樹脂やボイドを多量に発生させる物質を含有させることは好ましくない。
【0035】
B層には、本発明の目的を損なわない範囲で、上記のポリアミド6の他に熱可塑性樹脂を含むことができる。例えば、ポリアミドMXD6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6・12共重合樹脂、ポリアミド6・66共重合樹脂などのポリアミド系樹脂が挙げられる。
必要に応じてポリアミド系以外の熱可塑性樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート等のポリエステル系重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系重合体等を含有させてもよい。
【0036】
B層には、フィルムの滑り性を良くするために、滑剤として微粒子や有機潤滑剤などを含有させることが好ましい。
滑り性を良くすることで、フィルムの取扱い性が向上するとともに、擦れによる包装袋の破袋が減少する。
【0037】
前記の微粒子としては、シリカ、カオリン、ゼオライト等の無機微粒子、アクリル系、ポリスチレン系等の高分子系有機微粒子等の中から適宜選択して使用することができる。なお、透明性と滑り性の面から、シリカ微粒子を用いることが好ましい。
【0038】
前記の微粒子の好ましい平均粒子径は0.5~5.0μmであり、より好ましくは1.0~3.0μmである。平均粒子径が0.5μm未満であると、良好な滑り性を得るのに多量の添加量が要求される。一方、5.0μmを超えると、フィルムの表面粗さが大きくなりすぎて外観が悪くなる傾向がある。
【0039】
前記のシリカ微粒子を使用する場合、シリカの細孔容積の範囲は、0.5~2.0ml/gであると好ましく、0.8~1.6ml/gであるとより好ましい。細孔容積が0.5ml/g未満であると、ボイドが発生し易くなりフィルムの透明性が悪化する。細孔容積が2.0ml/gを超えると、微粒子による表面の突起ができにくくなる傾向がある。
【0040】
前記の有機潤滑剤としては、脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドを含有させることができる。脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドとしては、エルカ酸アマイド、ステアリン酸アマイド、エチレンビスステアリン酸アマイド、エチレンビスベヘン酸アマイド、エチレンビスオレイン酸アマイドなどが挙げられる。
B層に添加する脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドの含有量は、好ましくは0.01~0.40質量%であり、さらに好ましくは0.05~0.30質量%である。脂肪酸アマイド及び/又は脂肪酸ビスアマイドの含有量が上記範囲未満となると、滑り性が悪くなる傾向がある。一方、上記範囲を越えると、濡れ性が悪くなる傾向がある。
【0041】
B層には、フィルムの滑り性を良くする目的でポリアミド6以外のポリアミド系樹脂、例えば、ポリアミドMXD6樹脂、ポリアミド11、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6・12共重合樹脂、ポリアミド6・66共重合樹脂などを添加することができる。特にポリアミドMXD6樹脂が好ましく、1~10質量%添加することが好ましい。1質量%未満ではフィルムの滑り性改善効果が少ない。10質量%より多い場合は、フィルムの滑り性改善効果が飽和する。
ポリアミドMXD6樹脂はメタキシリレンジアミンとアジピン酸の重縮合で製造される。
ポリアミドMXD6の相対粘度は、1.8~4.5であることが好ましく、より好ましくは、2.0~3.2である。相対粘度が1.8より小さい場合や4.5より大きい場合は、押出機でポリアミド樹脂との混練がしにくい場合がある。
【0042】
B層にフィルムの滑り性を良くする目的で、微粒子、有機潤滑剤、又はポリアミドMXD6樹脂などのポリアミド系樹脂を添加する場合、基材層(A層)へのこれらの添加量を少なくすると、透明性に優れ、かつ滑り性も優れるフィルムが得られるので、好ましい。
【0043】
また、B層には接着性を良くする目的でポリアミド6以外のポリアミド系樹脂を添加することもできる。この場合、ポリアミド6・12共重合樹脂、ポリアミド6・66共重合樹脂などの共重合ポリアミド樹脂が好ましい。
【0044】
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムのB層には、前記のA層と同様に酸化防止剤を含有させることができる。
【0045】
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルム又は基材層(A層)及び機能層(B層)に、滑剤や酸化防止剤などの副材料や添加剤を添加する方法としては、樹脂重合時や押出し機での溶融押出し時に添加できる。高濃度のマスターバッチを作製してマスターバッチをフィルム生産時にポリアミド樹脂に添加してもよい。こうした公知の方法により行うことができる。
【0046】
[二軸延伸ポリアミドフィルムの厚み構成]
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムの厚みは、特に制限されるものではないが、包装材料として使用する場合、通常100μm以下であり、一般には5~50μmの厚みのものが使用され、特に8~30μmのものが使用される。
【0047】
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムの各層の厚み構成において、B層の厚みがフィルム総厚みの大部分を占めた場合、耐屈曲ピンホール性が低下する。従って、本発明において、A層の厚みを、A層とB層の合計厚みの50~93%、特に70~93%とすることが好ましい。
【0048】
[ガスバリア性ポリアミドフィルムの製造方法]
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムに後述の方法で無機薄膜層を形成することで製造する。
【0049】
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムは、公知の製造方法により製造することができる。例えば、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法が挙げられる。逐次二軸延伸法は、製膜速度が上げられるので、製造コスト的に有利であるので好ましい。
本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムの作製方法についてさらに説明する。
まず、押出機を用いて原料樹脂を溶融押出しし、Tダイからフィルム状に押出し、冷却ロール上にキャストして冷却し、未延伸フィルムを得る。
樹脂の溶融温度は好ましくは200~300℃である。上記未満であると未溶融物などが発生し、欠点などの外観不良が発生することがあり、上記を超えると樹脂の劣化などが観察され、分子量低下、外観低下が発生することがある。
【0050】
冷却ロール温度は、-30~80℃が好ましく、更に好ましくは0~50℃である。
Tダイから押出されたフィルム状溶融物を回転冷却ドラムにキャストし冷却して未延伸フィルムを得るには、例えば、エアナイフを使用する方法や静電荷を印荷する静電密着法等が好ましく適用できる。特に後者が好ましく使用される。
【0051】
また、キャストした未延伸フィルムの冷却ロールの反対面も冷却することが好ましい。例えば、未延伸フィルムの冷却ロールの反対面に、槽内の冷却用液体を接触させる方法、スプレーノズルで蒸散する液体を塗布する方法、高速流体を吹き付けて冷却する方法等を併用することが好ましい。このようにして得られた未延伸フィルムを二軸方向に延伸して二軸延伸ポリアミドフィルムを得る。
【0052】
MD方向の延伸方法としては、一段延伸又は二段延伸等の多段延伸が使用できる。後述するように、一段での延伸ではなく、二段延伸などの多段のMD方向の延伸が物性面およびMD方向及びTD方向の物性の均一さ(等方性)の面で好ましい。
逐次二軸延伸法におけるMD方向の延伸は、ロール延伸が好ましい。
【0053】
MD方向の延伸温度の下限は好ましくは50℃であり、より好ましくは55℃であり、さらに好ましくは60℃である。50℃未満であると樹脂が軟化せず、延伸が困難となることがある。
MD方向の延伸温度の上限は好ましくは120℃であり、より好ましくは115℃であり、さらに好ましくは110℃である。120℃を超えると樹脂が軟らかくなりすぎ安定した延伸ができないことがある。
【0054】
MD方向の延伸倍率(多段で延伸する場合は、それぞれの倍率を乗じた全延伸倍率)の下限は好ましくは2.2倍であり、より好ましくは2.5倍であり、さらに好ましくは2.8倍である。2.2倍未満であるとMD方向の厚み精度が低下するほか、結晶化度が低くなりすぎて衝撃強度が低下することがある。
MD方向の延伸倍率の上限は好ましくは5.0倍であり、より好ましくは4.5倍であり、最も好ましくは4.0倍である。5.0倍を超えると後続の延伸が困難となることがある。
【0055】
また、MD方向の延伸を多段で行う場合には、それぞれの延伸で上述のような延伸が可能であるが、倍率については、全MD方向の延伸倍率の積は5.0以下となるよう、延伸倍率を調整することが必要である。例えば、二段延伸の場合であれば、一段目の延伸を1.5~2.1倍、二段目の延伸を1.5~1.8倍が好ましい。
【0056】
MD方向に延伸したフィルムは、テンターでTD方向に延伸し、熱固定し、リラックス処理(緩和処理ともいう)する。
TD方向の延伸温度の下限は好ましくは50℃であり、より好ましくは55℃であり、さらに好ましくは60℃である。50℃未満であると樹脂が軟化せず、延伸が困難となることがある。
TD方向の延伸温度の上限は好ましくは190℃であり、より好ましくは185℃であり、さらに好ましくは180℃である。190℃を超えると結晶化してしまい、延伸が困難となることがある。
【0057】
TD方向の延伸倍率(多段で延伸する場合は、それぞれの倍率を乗じた全延伸倍率)の下限は好ましくは2.8であり、より好ましくは3.2倍であり、さらに好ましくは3.5倍であり、特に好ましくは3.8倍である。2.8未満であるとTD方向の厚み精度が低下するほか、結晶化度が低くなりすぎて衝撃強度が低下することがある。
TD方向の延伸倍率の上限は好ましくは5.5倍であり、より好ましくは5.0倍であり、さらに好ましくは4.7であり、特に好ましくは4.5であり、最も好ましくは4.3倍である。5.5倍を超えると著しく生産性が低下することがある。
【0058】
熱固定温度の選択は本発明において重要な要素である、熱固定温度を高くするに従い、フィルムの結晶化および配向緩和が進み、熱収縮率を低減させることができる。一方、熱固定温度が低い場合には結晶化および配向緩和が不十分で熱収縮率を十分に低減させることができない。)また、熱固定温度が高くなりすぎると、樹脂の劣化が進み、急速に衝撃強度などフィルムの強靱性が失われる。
【0059】
熱固定温度の下限は好ましくは180℃であり、より好ましくは200℃である。熱固定温度が低いと熱収縮率が大きくなりすぎてラミネート後の外観が低下する、ラミネート強度が低下する傾向がある。
熱固定温度の上限は好ましくは230℃であり、より好ましくは220℃である。熱固定温度が高すぎると、衝撃強度が低下する傾向がある。
【0060】
熱固定の時間は0.5~20秒であることが好ましい。さらには1~15秒である。熱固定時間は熱固定温度や熱固定ゾーンでの風速とのかね合いで適正時間とすることができる。熱固定条件が弱すぎると、結晶化及び配向緩和が不十分となり上記問題が起こる。熱固定条件が強すぎるとフィルム強靱性が低下する。
【0061】
熱固定処理した後にリラックス処理をすることは熱収縮率の制御に有効である。リラックス処理する温度は熱固定処理温度から樹脂のガラス転移温度(Tg)までの範囲で選べるが、好ましくは熱固定処理温度-10℃~Tg+10℃が好ましい。リラックス温度が高すぎると、収縮速度が速すぎて歪みなどの原因となるため好ましくない。逆にリラックス温度が低すぎるとリラックス処理とならず、単に弛むだけとなり熱収縮率が下がらず、寸法安定性が悪くなる。
【0062】
リラックス処理のリラックス率の下限は、好ましくは0.5%であり、より好ましくは1%である。0.5%未満であると熱収縮率が十分に下がらないことがある。
リラックス率の上限は好ましくは20%であり、より好ましくは15%であり、さらに好ましくは10%である。20%を超えるとテンター内でたるみが発生し、生産が困難になることがある。
【0063】
シーラントフィルムや印刷層との接着強度を上げるため、積層延伸ポリアミドフィルム表面にコロナ処理や火炎処理等を施してもよい。
【0064】
[無機薄膜層及びその形成方法]
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、本発明における二軸延伸ポリアミドフィルムの少なくとも片面に無機薄膜層を設けることによって、優れたガスバリア性を付与することができる。
本発明のガスバリア性フィルムにおける無機薄膜層及びその形成方法を説明する。
無機薄膜層は金属または無機酸化物からなる薄膜である。無機薄膜層を形成する材料は、薄膜にできるものなら特に制限はないが、透明性とガスバリア性の観点から、酸化ケイ素(シリカ)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの混合物等の無機酸化物が好ましく挙げられる。特に、無機薄膜層の柔軟性と緻密性を両立できる点からは、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの複合酸化物が好ましい。この複合酸化物において、酸化ケイ素と酸化アルミニウムとの混合比は、金属分の質量比でAlが20~70質量%の範囲であることが好ましい。Al濃度が20質量%未満であると、水蒸気バリア性が低くなる場合がある。一方、70質量%を超えると、無機薄膜層が硬くなる傾向があり、印刷やラミネートといった二次加工の際に膜が破壊されてガスバリア性が低下することがある。なお、ここでいう酸化ケイ素とはSiOやSiO等の各種珪素酸化物又はそれらの混合物であり、酸化アルミニウムとは、AlOやA1等の各種アルミニウム酸化物又はそれらの混合物である。
【0065】
無機薄膜層の膜厚は、通常1~100nm、好ましくは5~50nmである。無機薄膜層の膜厚が1nm未満であると、満足のいくガスバリア性が得られ難くなる場合があり、一方、100nmを超えて過度に厚くしても、それに相当するガスバリア性の向上効果は得られず、耐屈曲性や製造コストの点でかえって不利となる。
【0066】
無機薄膜層を形成する方法としては、特に制限はなく、例えば真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理蒸着法(PVD法)、あるいは化学蒸着法(CVD法)等、公知の蒸着法を適宜採用すればよい。以下、無機薄膜層を形成する典型的な方法を、酸化ケイ素・酸化アルミニウム系薄膜を例に説明する。例えば、真空蒸着法を採用する場合は、蒸着原料としてSiO2とA12O3の混合物、あるいはSiO2とAlの混合物等が好ましく用いられる。これら蒸着原料としては通常粒子が用いられるが、その際、各粒子の大きさは蒸着時の圧力が変化しない程度の大きさであることが望ましく、好ましい粒子径は1mm~5mmである。加熱には、抵抗加熱、高周波誘導加熱、電子ビーム加熱、レーザー加熱などの方式を採用することができる。また、反応ガスとして酸素、窒素、水素、アルゴン、炭酸ガス、水蒸気等を導入したり、オゾン添加、イオンアシスト等の手段を用いた反応性蒸着を採用することも可能である。さらに、被蒸着体(蒸着に供する積層フィルム)にバイアスを印加したり、被蒸着体を加熱もしくは冷却するなど、成膜条件も任意に変更することができる。このような蒸着材料、反応ガス、被蒸着体のバイアス、加熱・冷却等は、スパッタリング法やCVD法を採用する場合にも同様に変更可能である。
【0067】
[ガスバリア性ポリアミドフィルムの特性など]
本発明の無機薄膜を積層したガスバリア性ポリアミドフィルムは、実施例に記載した測定方法によるゲルボフレックステスターを用いたひねり屈曲試験を温度1℃で1000回実施した時のピンホール欠点数が10個以下であることが好ましい。より好ましくは5個以下である。屈曲試験後のピンホール欠点数が少ないほど耐屈曲ピンホール性が優れており、ピンホール数が10個以下であれば、輸送時などに包装袋に負荷がかかってもピンホールが発生しにくい包装袋が得られる。
【0068】
更に、本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、耐摩擦ピンホールテストでピンホール発生までの距離が2900cm以上であることが好ましい。より好ましくは3100cm以上、更に好ましくは3300cm以上である。ピンホールが発生する距離が長いほど耐摩擦ピンホール性に優れており、ピンホールが発生する距離が2900cm以上であれば、輸送時などに包装袋が段ボール箱などと擦れてもピンホールが発生しにくい包装袋が得られる。
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、上記の耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性の両方の特性が優れていることに特徴がある。これらの特性を持った本発明の実施形態に係るガスバリア性ポリアミドフィルムは、輸送時にピンホールが発生しにくいので包装用フィルムとして極めて有用である。
【0069】
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、160℃、10分での熱収縮率が流れ方向(以下MD方向と略記する)及び幅方向(以下TD方向と略記する)ともに0.6~3.0%の範囲であり、好ましくは、0.6~2.5%である。熱収縮率が、3.0%を超える場合には、ラミネートや印刷など、次工程で熱がかかる場合にカールや収縮が発生する場合がある。また、シーラントフィルムとのラミネート強度が弱くなる場合がある。熱収縮率を0.6%未満とすることは可能ではあるが、力学的に脆くなる場合がある。また、生産性が悪化するので好ましくない。
【0070】
耐衝撃性に優れることが二軸延伸ポリアミドフィルムの特長であるので、本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムの衝撃強度は、0.7J/15μm以上が好ましく、0.9J/15μm以上がより好ましい。
【0071】
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムのヘイズ値は、10%以下であることが好ましい。より好ましくは7%以下、更に好ましくは5%以下である。
ヘイズ値が小さいと透明性や光沢が良いので、包装袋に使用した場合、きれいな印刷ができ商品価値を高める。
フィルムの滑り性を良くするために微粒子を添加するとヘイズ値が大きくなるので、微粒子は機能層のB層のみに入れる方が、ヘイズ値を小さくできる。
【0072】
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、ASTM D6866-16の放射性炭素(C14)測定によるバイオマス由来の炭素の含有量(バイオマス度ともいう)が、ポリアミドフィルム中の全炭素に対して1~15%含まれることが好ましい。
大気中の二酸化炭素には、C14が一定割合(105.5pMC)で含まれているため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物、例えばトウモロコシ中のC14含有量も105.5pMC程度であることが知られている。また、化石燃料中にはC14が殆ど含まれていないことも知られている。したがって、ポリアミド中の全炭素原子中に含まれるC14の割合を測定することにより、バイオマス由来の炭素の割合を算出することができる。
【0073】
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、実施例に記載したポリエチレン系シーラントと貼り合わせた後のラミネート強度は、3.0N/15mm以上である。
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、通常シーラントフィルムとラミネートしてから包装袋に加工される。上記のラミネート強度が3.0N/15mm以上であれば、各種の積層構成で本発明の易接着性ポリアミドフィルムを使用して包装袋を作製した場合に、シール部の強度が十分に得られ、破れにくい強い包装袋が得られる。
ラミネート強度を3.0N/15mm以上にするために、本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムには、コロナ処理、コーティング処理、火炎処理等を施すことができる。
【0074】
さらに、本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、用途に応じて寸法安定性を良くするために熱処理や調湿処理を施すことも可能である。加えて、フィルム表面の接着性を良好にするためにコロナ処理、コーティング処理や火炎処理等を施したり、印刷加工等を施したりすることも可能である。
【0075】
[シーラントフィルムとの積層フィルム]
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、シーラントフィルムなどを積層した積層フィルムにしてから、ボトムシール袋、サイドシール袋、三方シール袋、ピロー袋、スタンディングパウチ、ガゼット袋、角底袋などの包装袋に加工される。
シーラントフィルムとしては、未延伸線状低密度ポリエチレンフィルム、未延伸ポリプロピレンフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂フィルムなどが挙げられる。
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムを使用した積層フィルムの層構成としては、本発明の実施形態に係るガスバリア性ポリアミドフィルムを積層フィルム中に有するものであれば特に限定されない。また、積層フィルムに使用するフィルムは、石化由来原料でもバイオマス由来原料でも良いが、バイオマス由来の原料を用いて重合されたポリ乳酸、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレン、ポリエチレンフラノエートなどの方が環境負荷の低減という点で好ましい。
【0076】
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムを使用した積層フィルムの層構成の例としては、/で層の境界を表わすと、例えば、ONY/無機薄膜層/接/CPP、PET/接/ONY/無機薄膜層/接/LLDPE、PET/接/ONY/無機薄膜層/PE/LLDPE、PET/接/ONY/無機薄膜層/接/CPP、ONY/無機薄膜層/接/PET/接/LLDPE、ONY/無機薄膜層/接/PET/PE/LLDPE、ONY/無機薄膜層/接/PET/接/CPP、ONY/無機薄膜層/PE/LLDPE、ONY/無機薄膜層/PE/CPP、OPP/接/ONY/無機薄膜層/接/LLDPE、ONY/無機薄膜層/接/EVOH/接/LLDPE、ONY/無機薄膜層/接/EVOH/接/CPP、CPP/接/ONY/無機薄膜層/接/LLDPE、などが挙げられる。
なお上記層構成に用いた各略称は以下の通りである。
ONY/無機薄膜:本発明のガスバリア性ポリアミドフィルム、PET:延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、LLDPE:未延伸線状低密度ポリエチレンフィルム、CPP:未延伸ポリプロピレンフィルム、OPP:延伸ポリプロピレンフィルム、PE:押出しラミネート又は未延伸の低密度ポリエチレンフィルム、EVOH:エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂、接:フィルム同士を接着させる接着剤層、を表わす。
【実施例
【0077】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、フィルムの評価は次の測定法によって行った。特に記載しない場合は、測定は23℃、相対湿度65%の環境の測定室で行った。
(1)フィルムのヘイズ値
(株)東洋精機製作所社製の直読ヘイズメーターを使用し、JIS-K-7105に準拠し測定した。
(2)フィルムの厚み
フィルムのTD方向に10等分して(幅が狭いフィルムについては厚みを測定できる幅が確保できる幅になるよう当分する)、MD方向に100mmのフィルムを10枚重ねで切り出し、温度23℃、相対湿度65%の環境下で2時間以上コンディショニングする。テスター産業製厚み測定器で、それぞれのサンプルの中央の厚み測定し、その平均値を厚みとした。
【0078】
(3)フィルムのバイオマス度
得られたフィルムバイオマス度は、ASTM D6866-16 Method B (AMS)に示された放射性炭素(C14)測定により行った。
(4)フィルムの熱収縮率
試験温度160℃、加熱時間10分間とした以外は、JIS C2318に記載の寸法変化試験法に準じて下記式によって熱収縮率を測定した。
熱収縮率=[(処理前の長さ-処理後の長さ)/処理前の長さ]×100(%)
(5)フィルムの衝撃強度
(株)東洋精機製作所製のフィルムインパクトテスターを使用し測定した。測定値は、厚み15μm当たりに換算してJ(ジュール)/15μmで表した。
(6)フィルムの動摩擦係数
JIS-C2151に準拠し、下記条件によりフィルム巻外面同士の動摩擦係数を評価した。なお、試験片の大きさは、幅130mm、長さ250mm、試験速度は150mm/分で行った。
【0079】
(7)フィルムの耐屈曲ピンホール性
理学工業社製のゲルボフレックステスターを使用し、下記の方法により屈曲疲労ピンホール数を測定した。
実施例で作製したガスバリア性フィルムの無機薄膜層側にポリエステル系接着剤を塗布後、厚み40μmの線状低密度ポリエチレンフィルム(L-LDPEフィルム:東洋紡社製、L4102)をドライラミネートし、40℃の環境下で3日間エージングを行いラミネートフィルムとした。得られたラミネートフィルムを12インチ×8インチに裁断し、L-LDPEフィルム側を内側にして直径3.5インチの円筒状にし、円筒状フィルムの一方の端をゲルボフレックステスターの固定ヘッド側に、他方の端を可動ヘッド側に固定し、初期の把持間隔を7インチとした。ストロークの最初の3.5インチで440度のひねりを与え、その後2.5インチは直線水平運動で全ストロークを終えるような屈曲疲労を、40回/分の速さで1000回行い、ラミネートフィルムに発生したピンホール数を数えた。なお、測定は1℃の環境下で行った。テストフィルムのL-LDPEフィルム側を下面にしてろ紙(アドバンテック、No.50)の上に置き、4隅をセロテープ(登録商標)で固定した。インク(パイロット製インキ(品番INK-350-ブルー)を純水で5倍希釈したもの)をテストフィルム上に塗布し、ゴムローラーを用いて一面に延展させた。不要なインクをふき取った後、テストフィルムを取り除き、ろ紙に付いたインクの点の数を屈曲テストで発生したピンホールの数として計測した。ピンホールの数が少ない方が耐屈曲ピンホール性が優れている。
【0080】
(8)フィルムの耐摩擦ピンホール性
堅牢度試験機(東洋精機製作所)を使用し、下記の方法により摩擦試験を行い、ピンホール発生距離を測定した。
上記耐屈曲ピンホール性評価で作製したものと同様のラミネートフィルムを、四つ折りにして角を尖らせたテストサンプルを作製し、堅牢度試験機にて、振幅:25cm、振幅速度:30回/分、加重:100g重で、段ボール内面に擦りつけた。段ボールは、K280×P180×K210(AF)=(表材ライナー×中芯材×裏材ライナー(フルートの種類))を使用した。
ピンホール発生距離は、以下の手順に従い算出した。ピンホール発生距離が長いほど、耐摩擦ピンホール性が優れている。
まず、振幅100回距離2500cmで摩擦テストを行った。ピンホールが開かなかった場合は振幅回数20回距離500cm増やして摩擦テストを行った。またピンホールが開かなかった場合は更に振幅回数20回距離500cm増やして摩擦テストを行った。これを繰り返しピンホールが開いた距離に×をつけて水準1とした。振幅100回距離2500cmでピンホールが開いた場合は振幅回数20回距離500cm減らして摩擦テストを行った。またピンホールが開いた場合は更に振幅回数20回距離500cm減らして摩擦テストを行った。これを繰り返しピンホールが開かなかった距離に○をつけて水準1とした。
次に水準2として、水準1で最後が○だった場合は、振幅回数を20回増やして摩擦テストを行い、ピンホールが開かなかったら○、ピンホールが開いたら×を付けた。水準1で最後が×だった場合は、振幅回数を20回減らして摩擦テストを行い、ピンホールが開かなかったら○、ピンホールが開いたら×を付けた。
更に水準3~20として、前の水準で○だった場合は、振幅回数を20回増やして摩擦テストを行い、ピンホールが開かなかったら○、ピンホールが開いたら×を付ける。前の水準で×だった場合は、振幅回数を20回減らして摩擦テストを行い、ピンホールが開かなかったら○、ピンホールが開いたら×を付ける。これを繰り返し、水準3~20に○又は×をつける。
例えば、表1のような結果が得られた。表1を例にしてピンホール発生距離の求め方を説明する。
各距離の○と×の試験数を数える。
最もテスト回数の多かった距離を中央値とし、係数をゼロとする。それより距離が長い場合は、500cmごとに係数を+1、+2、+3・・・、距離が短い場合は、500cmごとに係数を-1、-2、-3・・・とした。
水準1~20までの全ての試験で、穴が開かなかった試験数と穴が開いた試験数を比較して、次のA及びBの場合についてそれぞれの式で摩擦ピンホール発生距離を算出した。
A;全ての試験で、穴が開かなかった試験数が、穴が開いた試験数以上の場合
摩擦ピンホール発生距離=中央値+500×(Σ(係数×穴が開かなかった試験数)/穴が開かなかった試験数)+1/2)
B:全ての試験で、穴が開かなかった試験数が、穴が開いた試験数未満の場合
摩擦ピンホール発生距離=中央値+500×(Σ(係数×穴が開いた試験数)/穴が開いた試験数)-1/2)
【0081】
【表1】
【0082】
(9)ポリエチレン系シーラントとのラミネート強度
耐屈曲ピンホール性評価の説明に記載した方法と同様にして作製したラミネートフィルムを幅15mm×長さ200mmの短冊状に切断し、ラミネートフィルムの一端を二軸延伸ポリアミドフィルムと線状低密度ポリエチレンフィルムとの界面で剥離し、(株式会社島津製作所製、オートグラフ)を用い、温度23℃、相対湿度50%、引張り速度200mm/分、剥離角度90°の条件下でラミネート強度をMD方向とTD方向にそれぞれ3回測定しその平均値で評価した。
【0083】
(9)酸素透過度
蒸着したガスバリアフィルムについて、JIS K7126-2 A法に準じて、酸素透過率測定装置(MOCON社製「OX-TRAN 2/21」)を用い、23℃、相対湿度65%RHの条件下で測定した。なお測定に際しては、無機薄膜面を酸素ガス側とした。
【0084】
(13)原料ポリアミドの相対粘度
0.25gのポリアミドを25mlのメスフラスコ中で1.0g/dlの濃度になるように96%硫酸で溶解したポリアミド溶液を20℃にて相対粘度を測定した。
(14)原料ポリアミドの融点
JIS K7121に準じてセイコーインスルメンツ社製、SSC5200型示差走査熱量測定器を用いて、窒素雰囲気中で、試料重量:10mg、昇温開始温度:30℃、昇温速度:20℃/分で測定し、吸熱ピーク温度(Tmp)を融点として求めた。
【0085】
(実施例1-1)
押出機と380mm巾のTダイよりなる装置を使用し、Tダイから溶融した下記の樹脂組成物をフィルム状に押出し、20℃に温調した冷却ロールにキャストし静電密着させて厚み200μmの未延伸フィルムを得た。
樹脂組成物:ポリアミド6(東洋紡株式会社製、相対粘度2.8、融点220℃)97質量部、及びポリアミド11(アルケマ社製、相対粘度2.5、融点186℃)3.0質量部、多孔質シリカ微粒子(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径2.0μm、細孔容積1.6ml/g)0.45質量部及び脂肪酸ビスアマイド(共栄社化学株式会社製エチエンビスステアリン酸アミド)0.15質量部からなる樹脂組成物。
得られた未延伸フィルムを、ロール式延伸機に導き、ロールの周速差を利用して、80℃でMD方向に1.73倍延伸した後、70℃でさらに1.85倍延伸した。引き続き、この一軸延伸フィルムを連続的にテンター式延伸機に導き、110℃で予熱した後、TD方向に120℃で1.2倍、130℃で1.7倍、160℃で2.0倍延伸して、215℃で熱固定処理した後、215℃で7%緩和処理をした後に片方の面にコロナ処理を行いつつ巻き取って二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。
得られた二軸延伸ポリアミドフィルムの評価結果を表2に示した。
【0086】
次に得られた二軸延伸ポリアミドフィルムのコロナ処理を行った面に以下の方法で二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物薄膜層を形成した。
<二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物(SiO/A1)無機薄膜層の形成>
得られた二軸延伸ポリアミドフィルムのコロナ処理を行った面に二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物の無機薄膜層を電子ビーム蒸着法で形成した。蒸着する方法は、フィルムを連続式真空蒸着機の巻出し側にセットし、冷却金属ドラムを介して走行させフィルムを巻き取る。この時、連続式真空蒸着機を10-4Torr以下に減圧し、冷却ドラムの下部よりアルミナ製るつぼに蒸着源として、3mm~5mm程度の粒子状SiO(純度99.9%)とA1(純度99.9%)とを用いた。得られた無機薄膜層(SiO/A1複合酸化物層)の膜厚は13nmであった。またこの複合酸化物層の組成は、SiO/A1(質量比)=60/40であった。
得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表2に示した。
【0087】
(実施例1-2~実施例1-5)
原料の樹脂組成物を表2のように変更した以外は、実施例1-1と同様の方法で二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表2に示した。
【0088】
ただし、実施例1-6及び実施例1-7においては、無機薄膜層として以下の方法で酸化アルミニウムの無機薄膜層を形成した。
<酸化アルミニウム(A1)無機薄膜層の形成>
得られた二軸延伸ポリアミドフィルムのコロナ処理を行った面に酸化アルミニウムの無機薄膜層を電子ビーム蒸着法で形成した。酸化アルミニウムを蒸着する方法は、フィルムを連続式真空蒸着機の巻出し側にセットし、冷却金属ドラムを介して走行させフィルムを巻き取る。この時、連続式真空蒸着機を10-4Torr以下に減圧し、冷却ドラムの下部よりアルミナ製るつぼに純度99.99%の金属アルミニウムを装填し、金属アルミニウムを加熱蒸発させ、その蒸気中に酸素を供給し酸化反応させながらフィルム上に付着堆積させ、厚さ30nmの酸化アルミニウム膜を形成した。
【0089】
(比較例1-1~比較例1-5)
表2に示した原料の配合組成で実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表2に示した。
ただし、比較例1-3においてはTダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができず、均質な未延伸フィルムが得られなかったため二軸延伸ができなかった。
比較例1-4においては、耐屈曲ピンホール性の改質材として従来使用されているポリアミドエラストマーを配合した。
比較例1-5においては、無機薄膜層の形成をしなかった。
【0090】
【表2】
【0091】
表2に示したとおり、実施例のガスバリア性ポリアミドフィルムは耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性の良好なフィルムが得られた。また、ヘイズが低く透明性が良好で、衝撃強度も強く、シーラントフィルムとのラミネート強度も高く、包装用フィルムとして優れていた。
比較例1-1及び比較例1-2の耐屈曲ピンホール性を改質する材料を含まない二軸延伸ポリアミドフィルムとポリアミド11の含有量が少なすぎる二軸延伸ポリアミドフィルムに無機薄膜を形成したガスバリアフィルムは、耐屈曲ピンホール性が劣っていた。
比較例1-3は、ポリアミド11の含有量が多すぎるため、Tダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができないため均質な未延伸フィルムが得られず、二軸延伸ポリアミドフィルムが得られなかった。
比較例1-4では、耐屈曲ピンホール性を改質する材料として従来使用されているポリアミドエラストマーを使用した。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの耐屈曲ピンホール性は良好であったが耐摩擦ピンホール性が劣っていた。
比較例1-5においては無機薄膜層を形成しなかったので、酸素透過度が高くガスバリア性包装に適さなかった。
【0092】
(実施例2-1~実施例2-9)
原料の樹脂組成物及び無機薄膜層を表3のように変更した以外は、実施例1-1と同様の方法で二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表3に示した。
ただし、実施例2-6においては実施例1-6同様に無機薄膜層として酸化アルミニウムの無機薄膜層を形成した。
【0093】
(比較例2-1~比較例2-5)
表3に示した原料の配合組成で実施例1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表3に示した。
ただし、比較例2-2では、無機薄膜層の形成をしなかった。
また、比較例2-4においては少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂としてのポリアミド11の含有量を35質量%にしたところ、Tダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができず、均質な未延伸フィルムが得られなかった。そのため二軸延伸フィルムが得られなかった。
また、比較例2-5においては、耐屈曲ピンホール性の改質材として従来使用されているポリアミドエラストマーを配合した。
【0094】
【表3】
【0095】
表3に示したとおり、実施例のガスバリア性ポリアミドフィルムは耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性の良好なフィルムが得られた。また、ヘイズが低く透明性が良好で、衝撃強度も強く、シーラントフィルムとのラミネート強度も高く、包装用フィルムとして優れていた。
比較例2-1の耐屈曲ピンホール性を改質する材料を含まない二軸延伸ポリアミドフィルムと比較例2-3の少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂であるポリアミド11の含有量が少なすぎる二軸延伸ポリアミドフィルムに無機薄膜を形成したガスバリアフィルムは、耐屈曲ピンホール性が劣っていた。
比較例2-2では無機薄膜を形成しないため、酸素透過度が高くガスバリア性が著しく劣っていた。
比較例2-4は、ポリアミド11の含有量が多すぎるため、Tダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができないため均質な未延伸フィルムが得られず、二軸延伸ポリアミドフィルムが得られなかった。
比較例2-5では、耐屈曲ピンホール性を改質する材料として従来使用されているポリアミドエラストマーを使用した。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムは耐屈曲ピンホール性は良好であったが耐摩擦ピンホール性が劣っていた。
【0096】
(実施例3-1)
押出機2台と380mm巾の共押出Tダイよりなる装置を使用し、フィードブロック法でB層/A層/B層の構成で積層してTダイから溶融樹脂をフィルム状に押出し、20℃に温調した冷却ロールにキャストし静電密着させて厚み200μmの未延伸フィルムを得た。
A層とB層の樹脂組成物は以下のとおりである。
・A層を構成する樹脂組成物:ポリアミド6(東洋紡株式会社製、相対粘度2.8、融点220℃)97質量部、及びポリアミド11(アルケマ社製、相対粘度2.5、融点186℃)3.0質量部からなるポリアミド樹脂組成物。
・B層を構成する樹脂組成物:ポリアミド6(東洋紡株式会社製、相対粘度2.8、融点220℃)95質量部、及びポリアミドMXD6(三菱瓦斯化学株式会社製、相対粘度2.1、融点237℃)5.0質量部、多孔質シリカ微粒子(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径2.0μm、細孔容積1.6ml/g)0.54質量部及び脂肪酸ビスアマイド(共栄社化学株式会社製エチエンビスステアリン酸アミド)0.15質量部からなる樹脂組成物。
なお、二軸延伸ポリアミドフィルムの厚みは、合計厚みが15μm、基材層(A層)の厚みが12μm、表裏の表層(B層)の厚みがそれぞれ1.5μmずつになるように、フィードブロックの構成と押出し機の吐出量を調整した。
得られた未延伸フィルムを、ロール式延伸機に導き、ロールの周速差を利用して、80℃でMD方向に1.73倍延伸した後、70℃でさらに1.85倍延伸した。引き続き、この一軸延伸フィルムを連続的にテンター式延伸機に導き、110℃で予熱した後、TD方向に120℃で1.2倍、130℃で1.7倍、160℃で2.0倍延伸して、215℃で熱固定処理した後、215℃で7%緩和処理をした後に片方の面にコロナ処理を行いつつ巻き取って二軸延伸ポリアミドフィルムを得た。
次に得られた二軸延伸ポリアミドフィルムのコロナ処理を行った面に実施例1-1と同様の方法で二酸化ケイ素と酸化アルミニウムの複合酸化物薄膜層を形成した。
【0097】
(実施例3-2~実施例3-9)
原料の樹脂組成物を表4のように変更した以外は、実施例3-1と同様の方法で二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表4に示した。
ただし、実施例3-6及び実施例3-7においては、実施例1-6同様に無機薄膜層として酸化アルミニウムの無機薄膜層を形成した。
【0098】
(比較例3-1~比較例3-5)
表4に示した原料の配合組成で実施例3-1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表4に示した。
ただし、比較例3-3においてはTダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができず、均質な未延伸フィルムが得られなかったため、二軸延伸ポリアミドフィルムが得られなかった。
比較例3-4においては、耐屈曲ピンホール性の改質材として従来使用されているポリアミドエラストマーを配合した。
比較例3-5においては、無機薄膜層の形成をしなかった。
【0099】
【表4】
【0100】
表4に示したとおり、実施例の無機薄膜層を有するガスバリア性フィルムは、耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性の良好であった。また、ヘイズが低く透明性が良好で、かつ滑り性も良好であった。衝撃強度も強く、シーラントフィルムとのラミネート強度も高く、包装用フィルムとして優れていた。
比較例3-1のポリアミド11を含まない二軸延伸ポリアミドフィルム及び比較例3-2のポリアミド11の含有量が少ない二軸延伸ポリアミドフィルムから得られたガスバリア性フィルムは、耐屈曲ピンホール性が劣っていた。
比較例3-3は、ポリアミド11の含有量が多すぎるため、Tダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができないため、均質な未延伸フィルムが得られず、二軸延伸ポリアミドフィルムが得られなかった。
比較例3-4では、耐屈曲ピンホール性を改質する材料として、従来使用されているポリアミドエラストマーを使用した場合、耐屈曲ピンホール性は良好であるが耐摩擦ピンホール性が劣っていた。また、長時間の生産をした時にダイスに劣化物が付着しやすく、長時間の連続生産ができないという欠点があった。
比較例3-5においては無機薄膜層を形成しなかったので、酸素透過度が高くガスバリア性包装に適さなかった。
【0101】
(実施例4-1~実施例4-10)
原料の樹脂組成物及び無機薄膜層を表5のように変更した以外は、実施例3-1と同様の方法で二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表5に示した。
ただし、実施例4-8においては実施例1-6同様に無機薄膜層として酸化アルミニウムの無機薄膜層を形成した。
【0102】
(比較例1~6)
表5に示した原料の配合組成で実施例4-1と同様にして二軸延伸ポリアミドフィルム及びガスバリア性ポリアミドフィルムを得た。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの評価結果を表2に示した。
比較例4-2では、比較例4-1において無機薄膜層を形成させなかった。
比較例4-4においてはTダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができず、均質な未延伸フィルムが得られなかったため二軸延伸ができなかった。
比較例4-5では、フィルムの合計厚みが15μm、基材層(A層)の厚みが4μm、表裏の表層(B層)の厚みがそれぞれ5.5μmずつになるように、フィードブロックの構成と押出し機の吐出量を調整し、基材層の厚みの割合を全体の20%にした。
比較例4-6においては、耐屈曲ピンホール性の改質材として従来使用されているポリアミド系エラストマー(アルケマ社製、PEBAX4033SA02)を配合した。
【0103】
【表5】
【0104】
表5に示したとおり、実施例のガスバリア性ポリアミドフィルムは、酸素透過度が低く優れたガスバリア性を有するとともに、耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性の両方が優れていた。また、ヘイズが低く透明性が良好で、シーラントフィルムとのラミネート強度も高く、包装用フィルムとして優れていた。
比較例4-1及び比較例4-2の基材層に少なくとも原料の一部がバイオマス由来であるポリアミド樹脂を含まない場合と比較例4-3のポリアミド11の含有量が少なすぎる場合は、耐屈曲ピンホール性が劣っていた。比較例2では無機薄膜層を形成していないので、酸素透過度が高かった。
比較例4-4は、ポリアミド11の含有量が多すぎるため、Tダイから溶融樹脂をフィルム状に安定して押出すことができないため均質な未延伸フィルムが得られず、二軸延伸ポリアミドフィルムが得られなかった。
比較例4-5では、基材層(A層)の厚みの割合が小さいため、耐屈曲ピンホール性が悪かった。
比較例4-6では、耐屈曲ピンホール性を改質する材料として従来使用されているポリアミドエラストマーを使用した。得られたガスバリア性ポリアミドフィルムの耐屈曲ピンホール性は良好であったが耐摩擦ピンホール性が劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明のガスバリア性ポリアミドフィルムは、耐屈曲ピンホール性と耐摩擦ピンホール性が同時に優れたガスバリア性フィルムであることから、食品包装等のガスバリア性が要求される包装材料の用途に好適に用いることができる。更に、元来地上にあるバイオマス由来の原料から重合された樹脂を用いているので、カーボンニュートラルなフィルムであり、地上の二酸化炭素の増減に影響を少ない点で環境負荷を低減できる。
図1