(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】セルロースナノクリスタル含有コーティング液
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20250212BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250212BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20250212BHJP
C09D 129/04 20060101ALI20250212BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250212BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
C09D129/04
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2021002902
(22)【出願日】2021-01-12
【審査請求日】2023-12-19
(31)【優先権主張番号】P 2020005116
(32)【優先日】2020-01-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003768
【氏名又は名称】東洋製罐グループホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(72)【発明者】
【氏名】長▲浜▼ 英昭
(72)【発明者】
【氏名】木下 友貴
(72)【発明者】
【氏名】前田 慎一郎
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/212044(WO,A1)
【文献】特表2019-521015(JP,A)
【文献】国際公開第2018/209435(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/085090(WO,A1)
【文献】特開2019-031696(JP,A)
【文献】特開2013-253200(JP,A)
【文献】特開2017-071783(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108359017(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109593408(CN,A)
【文献】韓国登録特許第10-1924867(KR,B1)
【文献】特開2019-026695(JP,A)
【文献】国際公開第99/028350(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/208656(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00、101/00-201/10
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロースナノクリスタル分散液、水溶性高分子、無機層状化合物及び多価カルボン酸を含有するコーティング液であって、前記セルロースナノクリスタル分散液のセルロースナノクリスタル含有量を1質量%にしたときのレーザ回折式粒度分布測定装置によるセルロースナノクリスタルの平均粒径が12.2μm以下且つメディアン径が12.6μm以下且つモード径が17.0μm以下であることを特徴とするセルロースナノクリスタル含有コーティング液。
【請求項2】
前記水溶性高分子がポリビニルアルコールであり、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で含有する請求項1記載のセルロースナノクリスタル含有コーティング液。
【請求項3】
前記無機層状化合物がマイカであり、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で含有する請求項1又は2記載のセルロースナノクリスタル含有コーティング液。
【請求項4】
前記多価カルボン酸がクエン酸であり、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で含有する請求項1~3の何れかに記載のセルロースナノクリスタル含有コーティング液。
【請求項5】
前記セルロースナノクリスタル分散液が、セルロースナノクリスタルの固形分量が2質量%の水分散のときの600nmでの可視光線透過率が2.1%T以上である請求項1~4の何れかに記載のセルロースナノクリスタル含有コーティング液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロースナノクリスタル含有コーティング液に関するものであり、より詳細には、塗工時の取扱い性に優れていると共に、優れたガスバリア性を発現可能なセルロースナノクリスタル含有コーティング液に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノセルロースは、高度バイオマス原料として、機能性添加剤、フィルム複合材料等として種々の用途に使用することが提案されている。特に、セルロースナノファイバー(CNF)から成る膜やセルロースナノファイバーを含有する積層体等の材料は、セルロース繊維間の水素結合や架橋的な強い相互作用から、ガスの溶解、拡散を抑制できるため酸素バリア性等のガスバリア性に優れていることが知られており、セルロースナノファイバーを利用したバリア材料が提案されている。
セルロース繊維の微細化のため、機械的処理と共に、カルボキシル基やリン酸基等の親水性の官能基を、セルロースの水酸基に導入する化学的処理を行うことが行われており、これにより微細化処理に要するエネルギーを低減可能であると共に、バリア性や水系溶媒への分散性が向上する。
【0003】
このようなセルロースナノファイバーを用いた分散液も知られており、例えば、下記特許文献1には、結晶化度が70%以上、銅エチレンジアミン溶液を用いた粘度法による重合度が160以下、且つ繊維径が50nm以下であるセルロースナノファイバーが分散媒に分散している分散液が提案されている。
また下記特許文献2には、数平均繊維長250nm以下、かつ数平均繊維径2~5nmのセルロースナノファイバーが分散媒に分散している分散液が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-256546号公報
【文献】国際公開2014/061485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載されたセルロースナノファイバー分散液においては、分散媒に分散させるセルロースナノファイバーを調製する工程として、TEMPO触媒を用いて化学処理されたセルロースナノファイバーを低粘度化する工程や、或いはナノファイバー化させる微粒化工程が必要であり、生産性や経済性の点で十分満足するものではない。またセルロースナノファイバーは繊維長が長いことからガスバリア性の点で満足するものではなく、繊維長を短くすれば高いガスバリア性を得ることも可能であるが、そのためには更なる処理が必要であり、経済性に劣る。
また上記特許文献2では、分散液の分散性を向上するために低粘度化が可能な繊維長の短いセルロースナノファイバーを調製しているが、繊維長の短いセルロースナノファイバーを調製するために特別な原料を使用する必要があり、やはり生産性や経済性に劣る。
【0006】
セルロースナノファイバーに比して繊維長の短いナノセルロースとして、セルロース繊維を強酸で加水分解処理して成るセルロールナノクリスタル(CNC)が知られている。セルロースナノクリスタルは繊維長が短いことから、塗工時の取扱い性に優れていると共に、塗工面の平滑性にも優れている。しかしながら、一般にセルロースナノクリスタルは、上述したようなカルボキシル基等が導入されたセルロースナノファイバーに比してガスバリア性に劣っている。
本発明者等は、セルロースナノクリスタルがアニオン性官能基を多く含有することにより、優れたガスバリア性を発現できることを見出した(特願2018-177610)。
しかしながら、かかるセルロースナノクリスタルは、保存性や搬送性等の観点から一般にパウダー状に固形化されており、分散液を得るには、パウダー化されたセルロースナノクリスタルを分散媒に凝集を抑制しながら分散させることが必要であり、やはり生産性や経済性の点で満足するものではない。また本発明者等の研究により、このような固形化(パウダー状)されたセルロースナノクリスタルを分散させた分散液は、アニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルのガスバリア性を低下させてしまうことが分かった。
【0007】
従って本発明の目的は、ガスバリア性及び取扱い性に優れたセルロースナノクリスタル分散液を使用し、セルロースナノクリスタルが均一に分散された架橋構造を効率よく形成可能なセルロースナノクリスタル含有コーティング液を提供することである。
本発明の他の目的は、優れたガスバリア性及び層間接着性を有するセルロースナノクリスタル含有層を有する成形体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、セルロースナノクリスタル分散液、水溶性高分子、無機層状化合物及び多価カルボン酸を含有するコーティング液であって、前記セルロースナノクリスタル分散液のレーザ回折式粒度分布測定装置によるセルロースナノクリスタルの平均粒径が12.2μm以下且つメディアン径が12.6μm以下且つモード径が17.0μm以下であることを特徴とするセルロースナノクリスタル含有コーティング液が提供される。
本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液においては、
1.前記水溶性高分子がポリビニルアルコールであり、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で含有すること、
2.前記無機層状化合物がマイカであり、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で含有すること、
3.前記多価カルボン酸がクエン酸であり、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で含有すること、
4.前記セルロースナノクリスタル分散液が、セルロースナノクリスタルの固形分量が2質量%、の水分散のときの600nmでの可視光線透過率が2.1%T以上であること、
が好適である。
【0009】
本発明によればまた、基材上に、多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体であって、前記セルロースナノクリスタル(固形分)を1.0g/m2の量で含有するときの酸素透過度(23℃50%RH)が3.8cc/m2・day・atm未満であることを特徴とする成形体が提供される。
本発明の成形体においては、上記多価カチオン樹脂が、ポリエチレンイミンであることが好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液においては、セルロースナノクリスタルとしてガスバリア性及び取扱い性に優れた分散液を使用することにより、生産性及び経済性良く、ガスバリア性に優れた塗膜を形成可能なコーティング液を調製することができる。
本発明で使用するセルロースナノクリスタル含有コーティング液では、セルロースナノクリスタル分散液のレーザ回折式粒度分布測定装置によるセルロースナノクリスタルの平均粒径が12.2μm以下且つメディアン径が12.6μm以下且つモード径が17.0μm以下であり、繊維長が短いセルロースナノクリスタルが凝集することなく、均一に分散している。これにより塗工時のハンドリング性に優れ、塗工表面の平滑性にも優れている。また、得られる塗膜はガスバリア性にも優れている。
また本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液においては、セルロースナノクリスタルの水酸基と多価カルボン酸が緻密な架橋膜を構成することによる優れたガスバリア性と、水溶性高分子及び無機層状化合物が含有されていることに基づくガスバリア性の向上とが相俟って、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を発現することが可能になる。
更にまた、本発明の多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体においては、セルロースナノクリスタル間の緻密な自己組織化構造を維持しながら、セルロースナノクリスタル間に多価カチオン樹脂が自然拡散して介在した混合状態になっており、ナノセルロースの自己組織化構造が多価カチオンによって更に強化されていることから、ナノセルロースだけで発現されるガスバリア性よりも優れたガスバリア性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】粒度分布データにおける任意%の粒子径の計算方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(セルロースナノクリスタル含有コーティング液)
本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液においては、セルロースナノクリスタル分散液と共に、水溶性高分子及び無機層状化合物を含有することにより、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を発現することができる。すなわち、水酸基含有高分子は、セルロースナノクリスタルと共に緻密な架橋構造を形成することができ、得られる塗膜のガスバリア性が顕著に向上される。また層状無機化合物は、膨潤性及び劈開性を有することから、セルロースナノクリスタルが無機層状化合物の層間を広げるように入り込んで複合化し、層状無機化合物により得られる透過ガスの迂回効果と、セルロースナノクリスタルによる架橋構造とが相俟って、高湿度条件下でも優れたガスバリア性を発現することが可能になる。
【0013】
また本発明のコーティング液では、セルロースナノクリスタル分散液のレーザ回折式粒度分布測定装置によるセルロースナノクリスタルの平均粒径が12.2μm以下且つメディアン径が12.6μm以下且つモード径が17.0μm以下であるという特徴を有している。このことは、本発明のコーティング液が、繊維長が短いセルロースナノクリスタルが、凝集することなく均一に分散している状態であることを示している。
粒度分布とは、測定対象となる分散液のサンプル粒子群の中に、どのような大きさ(粒子径)の粒子が、どのような割合(全体を100%とする相対粒子量)で含まれているかを示す指標である。レーザ回折式粒度分布装置によってレーザ回折・散乱法での光強度分布データパターンから粒子径を特定し、計算によって体積基準の粒度分布を求める。また体積基準の粒度分布に基づいて個数基準の粒度分布を計算することもできる。
レーザ回折式粒度分布測定装置は、測定対象となる粒子群にレーザ光を照射すると、空間的に回折・散乱光の光強度分布パターンが生じ、このうち前方散乱光の光強度分布パターンは、レンズによって集光され、焦点距離の位置にある検出面に、リング状の回折・散乱像を結ぶ。これを同心円状に検出素子を配置したリングセンサで検出する。また、側方散乱光および後方散乱光は、側方散乱光センサおよび後方散乱光センサでそれぞれ検出する。このように各種検出素子を用いて光強度分布パターンを検出し、光強度分布データを得る。
分散液中のセルロースナノクリスタルが希薄な濃度で存在する状態において、レーザ回折式粒度分布装置の測定結果を解析することにより、セルロースナノクリスタルの平均粒径およびメディアン径およびモード径を求めることができる。分散液中のセルロースナノクリスタルの平均粒径及びメディアン径及びモード径が上記範囲にある分散液においては、繊維分散性が良く、ガスバリア性及び塗工時のハンドリング性に優れていると共に、塗工表面の平滑性に優れるという利点もある。
【0014】
粒度分布は、通常、粒子径スケールに対する粒子量(積算または頻度)として表現される。また、レーザ回折式粒度分布測定装置の測定原理であるレーザ回折・散乱法では、粒子が球形であると仮定して計算された回折・散乱光の光強度分布パターンに基づいて粒度分布を求められる。したがって、粒度分布測定では、常に粒子が球形であるという前提や仮定に基づいて測定が行われる。
セルロースナノクリスタルのような繊維状粒子の場合、得られる粒度分布は、繊維状粒子の短径が分布下限に、長径が分布上限にほぼ相当するような比較的広い分布が得られる。これは、セル内部では、繊維状粒子の方向がランダムであると考えられること、また、ある程度粒子の方向が一定であったとしても、回折・散乱光を検出するセンサの形状が1/4円となっているため、結果的に一定方向のみの回折・散乱光を検出することにはならないからである。
さまざまな形状・サイズの繊維状粒子が含まれている場合、測定結果の分布範囲は、その中で最も小さな短径から、最も大きな長径へと広がり、繊維状粒子の場合でも、測定対象の粒子群に含まれる粒子の形状・サイズのばらつきが大きくなれば分布範囲は広がり、ばらつきが小さくなれば分布範囲は狭くなり、形状やサイズが大きくなれば、粒度分布は全体として大きいほうに移動し、形状・サイズが小さくなれば、粒度分布は全体として小さいほうに移動する。繊維状粒子が凝集していれば、粒度分布は全体として大きいほうに移動し、分散していれば、粒度分布は全体として小さいほうに移動する。このように、レーザ回折式粒度分布測定装置によってセルロースナノクリスタルの繊維特性を定量的に評価できる。
【0015】
平均粒径については対数スケールに基いて計算し、各粒子径の値に相対粒子量(差分%)を掛けて、相対粒子量の合計(100%)で割ることによって計算する。具体的には、まず測定対象となる粒子径範囲(最大粒子径:x1、最小粒子径:xn+1)をn分割し、それぞれの粒子径区間を、[xj、xj+1](j=1,2,・・・・n)とする。この場合の分割は対数スケール上での等分割となる。また、対数スケールに基いてそれぞれの粒子径区間での代表粒子径は下記式(1)で計算する。代表粒子径といっても対数をとっているのでこの時点で粒子径の単位ではなくなる。
【0016】
【0017】
さらにqj(j=1,2,・・・・n)を、粒子径区間[xj、xj+1]に対応する相対粒子量(差分%)とし、全区間の合計を100%とすると。対数スケール上での平均値μは下記式(2)で計算できる。
【0018】
【0019】
このμは、対数スケール上の数値であり、粒子径としての単位を持たないので、粒子径の単位に戻すために10μすなわち10のμ乗を計算している。この10μが平均粒子径となる。
【0020】
粒度分布データは粒子径スケールに対する積算%や頻度%として表現されるが、積算%のスケールに対する粒子径として表現することができる。例えば、積算%の分布曲線が10%の横軸と交差するポイントの粒子径を10%径、50%の横軸と交差するポイントの粒子径を50%径、90%の横軸と交差するポイントの粒子径を90%径と言うことができ、必要に応じて任意の積算%が用いられる。任意%粒子径の計算方法を
図1および式(3)、(4)に示す。
【0021】
【0022】
積算%Qaにおける任意%粒子径xaを求め、このxaの両側の2つの粒子径xj+1およびxjにおける積算%Qj+1およびQjが既知であるとき、積算%Qaにおける任意%粒子径xaは、上記式(3)及び(4)を用いて計算することができる。50%粒子径がメディアン径となり、Qaを50%として計算することでメディアン径を求めることができる。また出現される頻度(%)の比率が最も大きい粒径によってモード径を求めることができる。
【0023】
本発明に用いるセルロースナノクリスタル分散液におけるセルロースナノクリスタルのレーザ回折式粒度分布測定装置による平均粒径、メディアン径、モード径の上限は前述したとおりであるが、これらの値が小さくなることにより、透明性やガスバリア性、或いは塗工時のハンドリング性、塗工表面の平滑性が向上するため、これらの値は可及的に小さいことが望ましいことから、これらの値の下限は特に限定されない。またこれらの値の上限も前述した値以下であれば、要求される透明性やガスバリア性等に応じて適宜設定でき、特に限定されないが、平均粒径は12.2μm以下、特に4.0μm以下であることが好適であり、及びメディアン径は12.6μm以下、特に5.0μm以下であることが好適であり、並びにモード径は17.0μm以下、特に5.0μm以下であることが好適である。
【0024】
[セルロースナノクリスタル分散液]
本発明のコーティング液に含有されるセルロースナノクリスタル分散液としては、セルロース原料を塩酸や硫酸等により酸加水分解して成るセルロースナノクリスタルを分散質とし、水等を分散媒とするすべて分散液が対象であるが、好適には、前記セルロースナノクリスタル分散液が、セルロースナノクリスタルの固形分量が2質量%のときの600nmでの可視光線透過率が2.1%T以上であるセルロースナノクリスタル分散液であることが望ましい。
このような分散液としては、後述するように、分散液の調製に際して固形化を経ていない(ネバードライ処理)セルロースナノクリスタル分散液、すなわち、噴霧乾燥処理等によりパウダー状等に固形化された後、再分散させて成る分散液でないことが重要である。すなわち、乾燥処理に付され固形化されたセルロースナノクリスタルは分散液中で繊維の配向が整いにくく、緻密な自己組織化構造を形成することが困難であり、固形化を経ていない分散液に比してガスバリア性が劣っている。このことは後述する実施例の結果からも明らかであり、固形化されたセルロースナノクリスタルを再分散させてなる分散液を用いた以外は、実施例1及び2と同一の組成を有する比較例1のコーティング液では、動的光散乱測定によるセルロースナノクリスタルの平均粒径、メディアン径及びモード径が、本発明で規定する範囲を外れており、セルロースナノクリスタルの固形分量が2重量%の時の600nmでの可視光線透過率が2.0%Tと透明性に劣っていると共に、ガスバリア性も劣っている。
【0025】
また本発明のコーティング液に含有されるセルロースナノクリスタル分散液においては、セルロースナノクリスタルは、塩酸処理による加水分解処理されたものを含むすべてのセルロースナノクリスタルを使用することができるが、硫酸処理により加水分解されたセルロースナノクリスタルであることが好ましい。すなわち、セルロースナノクリスタルには、セルロース繊維を硫酸処理或いは塩酸処理により酸加水分解するものがあるが、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルは、自己組織化構造の形成に寄与可能な硫酸基及び/又はスルホ基を既に有していることから、硫酸処理によるセルロースナノクリスタルが有利に使用される。
セルロースナノクリスタルは、硫酸基及び/又はスルホ基、及びカルボキシル基等のアニオン性官能基の総量が0.01mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下の範囲で含有していることが特に好適である。アニオン性官能基の総量が上記範囲にあることにより、セルロースナノクリスタルの結晶構造を維持しながら、十分な自己組織化構造を形成することが可能であり、優れたガスバリア性を発現することが可能になる。尚、本明細書において、硫酸基は、硫酸エステル基を含む概念である。
またセルロースナノクリスタルは、繊維径が50nm以下、特に2~50nmの範囲にあり、繊維長が100~500nmの範囲にあり、アスペクト比が5~50の範囲にあり、結晶化度が60%以上、特に70%以上であるものを好適に用いることができる。
【0026】
本発明のセルロースナノクリスタルが有するアニオン性官能基は、後述するセルロースナノクリスタルの親水化処理の方法によって決まり、特にカルボキシル基、リン酸基、硫酸基、スルホ基であることが好適である。これにより前述した自己組織化構造が効率よく形成され、ガスバリア性が向上する。
【0027】
<親水化処理>
本発明のコーティング液が含有するセルロースナノクリスタル分散液は、前述したとおり、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルの親水化処理を行うことにより、硫酸基及び/又はスルホ基量を調整、或いは、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基をセルロースの6位の水酸基に導入し、硫酸基、スルホ基、カルボキシル基、リン酸基等のアニオン性官能基の総量が0.01mmol/gより多く且つ4.0mmol/g以下、特に0.17~2.0mmol/gの範囲にあるセルロースナノクリスタル分散液として調製されていることが好ましい。
親水化処理としては、ネバードライ処理、又はネバードライ処理と、水溶性カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、リン酸-尿素、TEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理とを組み合わせて行う。カルボジイミド、硫酸、三酸化硫黄-ピリジン錯体、の何れかを用いた処理により、セルロースナノクリスタルの硫酸基及び/又はスルホ基量が調整されると共に、更にナノセルロースが更に短繊維化される。またリン酸-尿素又はTEMPO触媒、酸化剤の何れかを用いた処理により、リン酸基又はカルボキシル基のアニオン性官能基が導入されて、セルロースナノクリスタルの総アニオン性官能基量が上記範囲に調整される。
尚、親水化処理は、アニオン性官能基の総量が上記範囲となる限り、いずれか一つの処理を行えばよいが、同一の処理を複数回、或いは他の処理と組み合わせて複数回行ってもよい。
【0028】
<<ネバードライ処理による親水化処理>>
セルロースナノクリスタルはスプレードライ、加熱、減圧などによる乾燥処理を行ってパウダー等の固形化を経るが、乾燥処理による固形化の際にセルロースナノクリスタルが含有するアニオン性官能基の一部が脱離して親水性が低下する。すなわち、アニオン性官能基を含有するセルロースナノクリスタルについてパウダー等の固形化を経ないネバードライ処理は親水化処理として挙げられる。アニオン性官能基は、硫酸基及び/又はスルホ基、リン酸基、カルボキシル基などが挙げられる。
【0029】
<<カルボジイミド用いた親水化処理>>
カルボジイミドを用いた処理においては、ジメチルホルムアミド等の溶媒中でセルロースナノクリスタルとカルボジイミドを撹拌し、これに硫酸を添加した後、0~80℃の温度で5~300分反応させて硫酸エステルとする。カルボジイミド及び硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して5~30mmol及び5~30mmolの量で使用することが好ましい。
次いで水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入されたスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
カルボジイミドとしては、分子内にカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する水溶性化合物である1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド等を例示できる。また有機溶媒に溶解するジシクロヘキシルカルボジイミド等を使用することもできる。
【0030】
<<硫酸を用いた親水化処理>>
本発明で使用するセルロースナノクリスタルは、セルロース繊維を硫酸で加水分解処理して成るものであるが、このセルロースナノクリスタルを更に硫酸を用いて親水化処理する。硫酸は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して40~60質量%で使用することが好ましい。40~60℃の温度で5~300分反応させ、その後、透析膜等を用いた濾過処理に付して不純物等を除去することにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0031】
<<三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた親水化処理>>
三酸化硫黄-ピリジン錯体を用いた処理においては、ジメチルスルホキシド中でセルロースナノクリスタルと三酸化硫黄-ピリジン錯体を、0~60℃の温度で5~240分反応させることにより、セルロースグルコールユニットの6位の水酸基に硫酸基及び/又はスルホ基を導入する。
三酸化硫黄-ピリジン錯体は、セルロースナノクリスタル1g(固形分)に対して0.5~4gの質量で配合することが好ましい。
反応後、水酸化ナトリウム等のアルカリ性化合物を添加して、セルロースナノクリスタルに導入された硫酸基及び/又はスルホ基をH型からNa型に変換することが、収率を向上する上で好ましい。その後、ジメチルホルムアミド又はイソプロピルアルコールを添加して、遠心分離等によって洗浄した後、透析膜等を用いた濾過処理によって不純物等を除去し、得られた濃縮液を水に分散させることにより、硫酸基及び/又はスルホ基変性セルロースナノクリスタルが調製される。
【0032】
<<リン酸-尿素を用いた親水化処理>>
リン酸-尿素を用いた親水化処理は、リン酸-尿素を用いてリン酸基を導入する従来公知の処理と同様に行うことができる。具体的には、尿素含有化合物の存在下で、セルロースナノクリスタルとリン酸基含有化合物を、135~180℃の温度で5~120分反応させることによって、セルロースグルコースユニットの水酸基にリン酸基を導入する。
リン酸基含有化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩等を例示できる。中でもリン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸等を好適に単独または混合して使用できる。リン酸基含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して10~100mmolの量で添加することが好ましい。
また尿素含有化合物としては、尿素、チオ尿素、ビュウレット、フェニル尿素、ベンジル尿素、ジメチル尿素などを例示できる。中でも尿素を好適に使用できる。尿素含有化合物は、セルロースナノクリスタル10g(固形分)に対して150~200mmolの量で使用することが好ましい。
【0033】
<<TEMPO触媒を用いた親水化処理>>
TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を用いた親水化処理は、TEMPO触媒を用いた従来公知の酸化方法と同様に行うことができる。具体的には、硫酸基及び/又はスルホ基を有するセルロースナノクリスタルを、TEMPO触媒(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル)を介した水系、常温、常圧の条件下で、セルロースグルコースユニットの6位の水酸基をカルボキシル基に酸化する親水化反応を生じさせる。
TEMPO触媒としては、上記2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシルの他、4-アセトアミド-TEMPO、4-カルボキシ-TEMPO、4-フォスフォノキシ-TEMPO等のTEMPOの誘導体を用いることもできる。
TEMPO触媒の使用量は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.01~100mmol、好ましくは0.01~5mmolの量である。
【0034】
また親水化処理時には、単独又はTEMPO触媒と共に、酸化剤、臭化物又はヨウ化物等の共酸化剤を併用することが好適である。
酸化剤としては、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸又はそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物等公知の酸化剤を例示することができ、特に次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウムを好適に使用できる。酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.5~500mmol、好ましくは5~50mmolの量である。酸化剤を添加して一定時間が経過した後、更に酸化剤を加えることで追酸化処理することもできる。
また共酸化剤としては、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属、ヨウ化ナトリウム等のヨウ化物アルカリ金属を好適に使用できる。共酸化剤は、セルロースナノクリスタル(固形分)1gに対して0.1~100mmol、好ましくは0.5~5mmolの量である。
また反応液は、水やアルコール溶媒を反応媒体とすることが好ましい。
【0035】
親水化処理の反応温度は1~50℃、特に10~50℃の範囲であり、室温であってもよい。また反応時間は1~360分、特に60~240分であることが好ましい。
反応の進行に伴い、セルロース中にカルボキシル基が生成するため、スラリーのpHの低下が認められるが、酸化反応を効率よく進行させるため、水酸化ナトリウム等のpH調整剤を用いてpH9~12の範囲に維持することが望ましい。
【0036】
<洗浄・解繊処理>
親水化処理前又は後のセルロースナノクリスタルは、水洗、或いは水を加えながら遠心分離することによって、親水化処理に用いた酸や触媒等を洗浄する。次いで、解繊処理を行うことが好ましいが、セルロースナノクリスタルは繊維長が短いことから必ずしも解繊処理を行わなくてもよい。
尚、微細化装置として超高圧ホモジナイザー、ミキサー、グラインダー等を用い、水等を分散媒として解繊処理を行うことにより、解繊と同時に分散液の調製を行ってもよい。
【0037】
<セルロースナノクリスタル分散液の調製>
親水化処理されたセルロースナノクリスタルは、水洗、或いは水を加えながら遠心分離することによって、親水化処理に用いた酸や触媒等を洗浄する。
次いで、解繊処理を行うことが好ましいが、セルロースナノクリスタルは繊維長が短いことから必ずしも解繊処理を行わなくてもよいが、微細化装置として超高圧ホモジナイザー、ミキサー、グラインダー等を用い、水等を分散媒として解繊処理を行うことにより、解繊と同時に分散液の調製を行うこともできる。
【0038】
親水化処理、或いは必要により解繊処理に付されたセルロースナノクリスタルは、固形化(パウダー状になるように噴霧乾燥)されることなく(ネバードライ処理)、分散処理に付される。固形化されていないことにより再分散の必要がなく、生産性及び経済性に優れている。また固形化されていないことにより、前述した緻密な自己組織化構造を形成することが可能となり、優れたガスバリア性を発現することが可能になる。
分散処理は超音波分散機、ホモジナイザー、ミキサー等の分散機を好適に使用することができ、また、攪拌棒、攪拌石等による攪拌方法を用いても良い。
分散液の分散媒は、水だけでもよいが、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン、アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤と水との混合溶媒であってもよい。
セルロースナノクリスタル分散液は、セルロースナノクリスタル(固形分)が0.1~90質量%の範囲で含有されていることが好適であり、固形分2質量%の水分散で、粘度が5.5~40mPa・s(回転式粘度計、温度30℃、スピンドル回転速度100rpm)、ゼータ電位が-50~-55mVの範囲にあり、取扱い性、塗工性に優れている。また固形分2質量%の水分散で、600nmでの可視光線透過率が2.1%T以上と透明性に優れている。
【0039】
[水溶性高分子]
本発明のコーティング液に含有される水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、酢酸ビニルアルコール共重合体、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、カルボキシルメチルセルロース、澱粉等を例示できるが、ポリビニルアルコールを好適に使用することができる。ポリビニルアルコールは、完全ケン化型で100~10000の重合度を有することが好適である。
水酸基含有高分子は、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で配合されていることが好ましい。
【0040】
[無機層状化合物]
無機層状化合物としては、天然又は合成したもの、親水性又は疎水性を示し、溶媒により膨潤して劈開性を示す従来公知のものを使用でき、これに限定されないが、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、マイカ、テトラシリックマイカ、ナトリウムテニオライト、白雲母、マーガライト、タルク、バーミキュライト、金雲母、ザンソフィライト、緑泥石等を例示することができ、合成マイカ(親水性膨潤性)を好適に使用することができる。
無機層状化合物は、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で配合されていることが好ましい。
【0041】
[反応性架橋剤]
本発明のコーティング液においては、反応性架橋剤として、反応効率の良い多価カルボン酸を使用する。多価カルボン酸としては、クエン酸、シュウ酸、マロン酸等のアルキルジカルボン酸、テレフタル酸、マレイン酸等の芳香族ジカルボン酸、或いはこれらの無水物等を例示することができ、特に無水クエン酸を好適に使用することができる。
本発明のコーティング液においては、セルロースナノクリスタルがアニオン性官能基を含有することにより、酸性条件下でも凝集することなく安定して分散可能なものであることから、上記多価カルボン酸を好適に使用することができる。
多価カルボン酸は、セルロースナノクリスタル(固形分)100質量部に対して0.1~50質量部の量で配合されていることが好ましい。
【0042】
[その他]
本発明のコーティング液においては、上記多価カルボン酸から成る架橋剤と共に酸触媒を含有することが好ましい。このような酸触媒としては、硫酸、酢酸、塩酸等を例示できるが、特に硫酸を好適に用いることができる。酸触媒は、セルロースナノクリスタル100質量部(固形分)に対して0.01~10質量部の範囲で配合されていることが好ましい。
またセルロースナノクリスタル含有コーティング液には、必要に応じて、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0043】
(成形体)
本発明の成形体は、本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液に含有されていたセルロースナノクリスタルと多価カチオン樹脂とを含有する層が基材上に形成されて成る成形体であり、セルロースナノクリスタルを固形分として1m2当たり1.0g含有する場合の23℃50%RHにおける酸素透過度が3.8(cc/m2・day・atm)未満と、優れた酸素バリア性を発現可能であると共に、基材上にセルロースナノクリスタルと多価カチオン樹脂とを含有する層を形成した場合に、該層と基材層との密着性を顕著に向上可能な成形体である。
また本発明の成形体においては、多価カチオン樹脂の存在により疎水性の樹脂から成る層との界面剥離強度が向上されていることから、基材、特に熱可塑性樹脂から成る基材とセルロースナノクリスタル及び多価カチオン樹脂含有層の界面剥離強度が2.3(N/15mm)以上であり、層間剥離の発生が有効に防止されている。
【0044】
本発明の成形体においては、多価カチオン樹脂から成る層上に前述したセルロースナノクリスタル含有コーティング液から成る層を形成することによって、優れたガスバリア性及び基材への密着性を発現可能な混合状態を有する層を形成できる。すなわち、本発明のコーティング液及び多価カチオン樹脂により形成される層の混合状態を定量的に表現することは困難であるが、前述したセルロースナノクリスタルが有する自己組織化構造が維持された状態で多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルが混合されることによって初めて形成される。本発明のコーティング液及び多価カチオン樹脂により形成される層の内部は最外部の表面付近から基材方向までセルロースナノクリスタルと多価カチオン樹脂が存在している特徴を有している。
【0045】
[多価カチオン樹脂]
本発明の成形体に使用する多価カチオン樹脂としては、水溶性あるいは水性分散性の多価カチオン性官能基を含有する樹脂である。このような多価カチオン樹脂としては、ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンエピクロロヒドリン等の水溶性アミンポリマー、ポリアクリルアミド、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウム塩)、ジシアンジアミドホルマリン、ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化澱粉、カチオン化ガム、ゼラチン、キチン、キトサン等を挙げることができるが、中でも水溶性アミンポリマー、特にポリエチレンイミンを好適に使用することができる。
【0046】
[基材]
基材としては、これに限定されないが、熱可塑性樹脂から成る基材や紙製基材を挙げることができる。
熱可塑性樹脂から成る基材としては、熱可塑性樹脂を用い、押出成形、射出成形、ブロー成形、延伸ブロー成形或いはプレス成形等の手段で製造された、フィルム、シート、或いはボトル状、カップ状、トレイ状、パウチ状等の成形体を例示できる。
熱可塑性樹脂から成る基材の厚みは、積層体の形状や用途等によって一概に規定できないが、フィルムの場合で5~50μmの範囲にあることが好適である。
【0047】
熱可塑性樹脂としては、低-、中-或いは高-密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-共重合体、アイオノマー、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-ビニルアルコール共重合体等のオレフィン系共重合体;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート/イソフタレート、ポリエチレンナフタレート等の芳香族ポリエステル;ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート等の脂肪族ポリエステル;ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10、メタキシリレンアジパミド等のポリアミド;ポリスチレン、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-ブタジエン-アクリロニトリル共重合体(ABS樹脂)等のスチレン系共重合体;ポリ塩化ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体等の塩化ビニル系共重合体;ポリメチルメタクリレート、メチルメタクリレート・エチルアクリレート共重合体等のアクリル系共重合体;ポリカーボネート、カゼインプラスティック、パラミロン等の多糖類系樹脂、澱粉系樹脂、セルロース系樹脂;アセチルセルロース、セルロースアセチルプロピーネート、セルロースアセテートブチレート、セロファン等の再生セルロース等を例示できるが、ポリエチレンテレフタレートを好適に用いることができる。
熱可塑性樹脂には、所望に応じて顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、滑剤等の添加剤の1種或いは2種類以上を配合することができる。
【0048】
紙製基材としては、所望の剛性等に応じて任意の紙を使用することができる。例えば、上質紙、模造紙、アート紙、コート紙、純白ロール紙、クラフト紙、耐水性を高めたラベル用紙、コップ原紙、カード紙、アイボリー紙、マニラボールなどの板紙、ミルクカートン原紙、カップ原紙、合成紙、クレイコート紙、耐水紙、耐酸紙等の公知の紙を使用することができる。
紙製基材の厚みは、150~400μm以下の範囲にあることが好ましく、また紙製基材の坪量は、150~350g/m2の範囲にあることが好ましい。
紙製基材としては、抄紙成形、コーティング成形、打ち抜き成形、スリット成形、ラミネート成形、接合成形、シール成形、カーリング成形、プレス成形等の手段で製造された、抄紙状、シート状、カップ状、トレイ状、カートン状、パウチ状、箱状等の成形体を例示できる。
【0049】
本発明の成形体を含む積層体においては、上記基材及び成形体から成る層以外に、必要により他の層を形成することもできる。
セルロースナノクリスタル及び多価カチオン樹脂の混合物から成る層は、高湿度条件下でのガスバリア性の低下が抑制されているが、オレフィン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂とポリアミン樹脂の硬化反応物等の従来公知の耐湿性樹脂から成る層を更に形成することが望ましい。
【0050】
(成形体の製造方法)
本発明の成形体は、基材上に、多価カチオン樹脂含有溶液を塗工・乾燥し、多価カチオン樹脂から成る層を形成する工程、該多価カチオン樹脂から成る層上に、本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液を塗工・乾燥することにより、多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルが特有の混合状態で混合された混合物から成る層を有する成形体として製造することができる。
【0051】
[多価カチオン樹脂含有溶液の塗工・乾燥]
多価カチオン樹脂含有溶液は、多価カチオン樹脂を固形分基準で0.01~30質量%、特に0.1~10質量%の量で含有する溶液であることが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ガスバリア性及び界面剥離強度の向上を図ることができず、一方上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多くてもガスバリア性及び界面剥離強度の更なる向上は得られず経済性に劣ると共に、塗工性や製膜性にも劣るおそれがある。
また多価カチオン樹脂含有溶液に用いる溶媒としては、水、メタノール,エタノール,イソプロパノール等のアルコール、2-ブタノン,アセトン等のケトン、トルエン等の芳香族系溶剤、及びこれらと水との混合溶媒であってもよい。
また多価カチオン樹脂含有溶液には、必要に応じて、充填剤、着色剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、耐水化剤、粘土鉱物、架橋剤、金属塩、コロイダルシリカ、アルミナゾル、酸化チタン等、公知の添加剤を配合することができる。
【0052】
多価カチオン樹脂含有溶液は、セルロースナノクリスタル含有コーティング液から形成される層中のセルロースナノクリスタル量(固形分)を基準に、多価カチオン樹脂含有溶液の濃度によって塗工量が決定される。すなわち、前述したとおり、セルロースナノクリスタル(固形分)を1m2当たり1.0gの量で含有する場合に、多価カチオン樹脂が1m2当たり0.01~2.0gの量で含有されるように、塗工することが好ましい。上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が少ない場合には、上記範囲にある場合に比して、ポリエステル樹脂などの疎水性の基材に対する界面剥離強度の向上を図ることができず、その一方、上記範囲よりも多価カチオン樹脂の量が多い場合には、上記範囲にある場合に比して、成形体のガスバリア性の向上が得られないおそれがある。
塗布方法としては、これに限定されないが、例えばスプレー塗装、浸漬、或いはバーコーター、ロールコーター、グラビアコーター等により塗布することが可能である。また塗膜の乾燥方法としては、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。また乾燥処理は、オーブン乾燥、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができるが、自然乾燥であってもよい。
【0053】
[セルロースナノクリスタル含有コーティング液の塗工・乾燥]
前述した本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液は、セルロースナノクリスタル(固形分)が1m2当たり0.1~3.0gとなるように塗工することが好ましい。
セルロースナノクリスタル含有コーティング液の塗布方法及び乾燥方法は、多価カチオン含有溶液の塗布方法及び乾燥方法と同様に行うことができるが、温度5~200℃で0.1秒~24時間の条件で乾燥することが好ましい。
【実施例】
【0054】
以下に本発明の実施例を説明する。なお、以下の実施例は本発明の一例であり、本発明はこれらの実施例には限定されない。各項目の測定方法は、次の通りである。
【0055】
<可視光線透過率>
分光光度計(UV-3100PC、島津製作所)を用い、固形分2質量%のセルロースナノクリスタル分散液の600nmにおける可視光線透過率(%T)を求めた。
【0056】
<粒度分布>
レーザ回折式粒度分布測定装置(SALD-3100、島津製作所)を用い、セルロースナノクリスタルが固形分2質量%の水分散液を使って希釈分散していきながら平均粒径、メディアン径、モード径を求めた。装置の光源は半導体レーザ、波長は690nmである。吸光度は0.015以下で屈折率は1.55での測定結果を解析に用いた。
【0057】
<酸素透過度>
酸素透過率量測定装置(OX-TRAN2/22、MOCON社製)を用いて、23℃、湿度50%RHの条件で成形物の酸素透過度(cc/m2・day・atm)を測定した。
【0058】
<実施例1>
<セルロースナノクリスタル含有分散液の調製>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理することによってセルロースナノクリスタルを調製した。前記セルロースナノクリスタルは乾燥固化させず超遠心分離機にて濃縮と洗浄を行うことでネバードライ処理したセルロースナノクリスタルを調製し、最終的にセルロースナノクリスタルが固形分2質量%になるようにイオン交換水に加え、超音波分散機にて10分処理することでセルロースナノクリスタル含有分散液を調製した。
【0059】
<セルロースナノクリスタル含有コーティング液の調製>
前記セルロースナノクリスタル含有分散液についてセルロースナノクリスタルの固形量が1質量%になるようにイオン交換水で希釈し、無水クエン酸、硫酸、合成マイカ(親水性膨潤性雲母、片倉コープアグリ社製)、ポリビニルアルコール(完全ケン化型、クラレ社製)をセルロースナノクリスタル100質量部(固形分)に対して10質量部、2質量部、30質量部及び30質量部を添加して攪拌を行い、pHが3のセルロースナノクリスタル含有コーティング液を調製した。
【0060】
<多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体>
以下の手順により多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体を作製した。
コロナ処理された2軸延伸PETフィルム(ルミラーP60,12μm,東レ株式会社製)基材にバーコーターを用いてポリエチレンイミン(PEI)(エポミン,P-1000,株式会社日本触媒製)を塗工量が固形量として0.6g/m2になるように塗工した。熱風乾燥器(MSO-TP,ADVANTEC社製)により50℃で10分乾燥して固形化した後、バーコーターを用いて前記方法で製造された1質量%のセルロースナノクリスタル含有コーティング液を固形分として1.0g/m2の塗工量で塗工し、室温で一晩風乾することにより、2軸延伸PETフィルム上に多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体を調製した。
【0061】
<実施例2>
実施例1と同様にネバードライ処理したセルロースナノクリスタル含有コーティング液を調製し、最終的にセルロースナノクリスタルが固形分2質量%になるようにイオン交換水に加え、超高圧ホモジナイザーにて10分間処理することでセルロースナノクリスタル含有分散液を調製した。
前記セルロースナノクリスタル含有分散液について実施例1と同様に行い、セルロースナノクリスタル含有コーティング液、次いで、多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体を調製した。
【0062】
<比較例1>
パルプを64質量%の硫酸で分解処理後に洗浄し、乾燥固化させることで乾燥固化したセルロースナノクリスタルを調製した。前記セルロースナノクリスタル1g(固形量)をイオン交換水に加え、超音波分散機にて10分間分散処理を行うことで、セルロースナノクリスタルの固形量が2質量%のセルロースナノクリスタル含有分散液を調製した。
前記セルロースナノクリスタル含有分散液について実施例1と同様に行い、セルロースナノクリスタル含有コーティング液、次いで、多価カチオン樹脂及びセルロースナノクリスタルを含有する層が形成されて成る成形体を調製した。
【0063】
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液は、セルロースナノクリスタルが均一に分散した緻密な架橋構造を形成でき、高湿度条件下においても優れたガスバリア性を有することから、ガスバリア性能を付与可能なコーティング剤として使用できる。また本発明のセルロースナノクリスタル含有コーティング液と多価カチオン樹脂との混合物から成る層を有する成形体とすることで、より優れたガスバリア性を発現可能であり、熱可塑性樹脂等から成る疎水性の基材との界面剥離強度も向上されていることから、ガスバリア性積層体として好適に使用される。