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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ドライバ状態推定装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/08 20120101AFI20250212BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20250212BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20250212BHJP
   A61B 5/18 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
B60W40/08
G08G1/16 F
A61B5/11 120
A61B5/18
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021017184
(22)【出願日】2021-02-05
(65)【公開番号】P2022120346
(43)【公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】幾久 健
(72)【発明者】
【氏名】岩下 洋平
(72)【発明者】
【氏名】吉田 誠
【審査官】平井 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-146356(JP,A)
【文献】特開2014-115859(JP,A)
【文献】特開2005-196567(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
A61B 5/06- 5/22
A61B 3/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体を運転するドライバの状態を推定するドライバ状態推定装置であって、
センサを用いて前記ドライバの頭部の挙動を検出する頭部挙動検出部と、
前記頭部挙動検出部によって検出された頭部挙動から、前記ドライバの異常予兆を検知する検知部と、を備え、
前記検知部は、
前記ドライバの頭部挙動を示す時系列データに対して、周期性特徴量を演算し、
演算によって得られた周期性特徴量に対して、時系列変動パターンを演算し、
演算によって得られた時系列変動パターンと予め演算された特定パターンとを比較して、前記ドライバの異常予兆の有無を検知する、
ように構成され、
前記特定パターンは、前記ドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンであり
前記特定パターンは、演算によって得られた前記特定期間の周期性特徴量の時系列データに対して、非線形次元圧縮手法を用いて次元削減を行って得られた2次元データであり、
前記検知部は、
演算によって得られた現在の周期性特徴量の時系列データに対して、非線形次元圧縮手法を用いて次元削減を行い、前記時系列変動パターンとして2次元データを求め、
現在の前記時系列変動パターンの2次元データに、前記特定パターンの2次元データと同様のパターンがあるか否かに基づいて前記ドライバの異常予兆の有無を検知する、ことを特徴とするドライバ状態推定装置。
【請求項2】
請求項に記載のドライバ状態推定装置において
前記検知部は、前記ドライバの異常予兆状態であるときを含む前記時系列変動パターンを蓄積し、該蓄積した前記時系列変動パターンに基づいて、前記特定パターンに関するデータを修正する、ことを特徴とするドライバ状態推定装置。
【請求項3】
移動体を運転するドライバの状態を推定するドライバ状態推定装置であって、
センサを用いて前記ドライバの頭部の挙動を検出する頭部挙動検出部と、
前記頭部挙動検出部によって検出された頭部挙動から、前記ドライバの異常予兆を検知する検知部と、を備え、
前記検知部は、
前記ドライバの頭部挙動を示す時系列データに対して、周期性特徴量を演算し、
演算によって得られた周期性特徴量に対して、時系列変動パターンを演算し、
演算によって得られた時系列変動パターンと予め演算された特定パターンとを比較して、前記ドライバの異常予兆の有無を検知する、
ように構成され、
前記特定パターンは、前記ドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンであり、
前記検知部は、前記ドライバの異常予兆状態であるときを含む前記時系列変動パターンを蓄積し、該蓄積した前記時系列変動パターンに基づいて、前記特定パターンに関するデータを修正する、ことを特徴とするドライバ状態推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、移動体を運転するドライバの状態を推定するドライバ状態推定装置に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
昨今、国家的に自動運転システムの開発が推進されている。本願出願人は、現時点において、自動運転システムには、大きく分けると2つの方向性があると考えている。
【0003】
第1の方向性は、自動車が主体となってドライバの操作を要することなく乗員を目的地まで運ぶシステムであり、いわゆる自動車の完全自動走行である。一方、第2の方向性は、自動車の運転を楽しみたい等、あくまで人間が運転をすることを前提とした自動運転システムである。
【0004】
第2の方向性の自動運転システムでは、例えば、ドライバに疾患等が発生し正常な運転が困難な状況が発生した場合等に、自動車が自動的に乗員に変わって自動運転を行うことが想定される。このため、ドライバに異常が発生したこと、特に、ドライバに機能障害や疾患が発生したことをいかに早期にかつ精度良く発見できるかが、ドライバの救命率の向上や周囲を含めた安全を確保する観点から極めて重要となる。
【0005】
特許文献1には、ドライバの頭部の揺れ幅に基づいてドライバの運転不能状態を検出したり、ドライバの目の白目度合いに基づいてドライバの運転不能状態を検出したりする状態検出装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6361312号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】T. Nakamura, et al., “Multiscale Analysis of Intensive Longitudinal Biomedical Signals and its Clinical Applications”, Proceedings of the IEEE, Institute of Electrical and Electronics Engineers, 2016, vol.104, pp.242-261
【文献】水田他、「重心動揺に対するフラクタル解析」、Equilibrium Research、日本めまい平衡医学会、2016,Vol.75(3), pp.154-161
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1,2に示されているように、ドライバの頭部の動きや眼球の状態に基づいてドライバの運転不能や異常を判定する技術は、すでに知られている。しかしながら、特許文献1では、集中力の低下や肉体的な疲労については検出できたとしても、運転者に生じている疾患については事前に予測できない。また、特許文献2は、ドライバに疾患が発現してから運転不能になった状態を検出するものである。ドライバの異常発生時において、より安全に緊急停車等を行うためには、ドライバが運転不能になってしまう前に、その予兆をいち早く捉えることが好ましい。
【0009】
ここに開示された技術は斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、移動体を運転するドライバが運転不能状態に陥る予兆を、出来る限り早期に検知することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術では、移動体を運転するドライバの状態を推定するドライバ状態推定装置を対象として、センサを用いて前記ドライバの頭部の挙動を検出する頭部挙動検出部と、前記頭部挙動検出部によって検出された頭部挙動から、前記ドライバの異常予兆を検知する検知部と、前記検知部は、前記ドライバの頭部挙動を示す時系列データに対して、周期性特徴量を演算し、演算によって得られた周期性特徴量に対して、時系列変動パターンを演算し、演算によって得られた時系列変動パターンと予め演算された特定パターンとを比較して、前記ドライバの異常予兆の有無を検知する、ように構成され、前記特定パターンは、前記ドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンである、という構成とした。
【0011】
本願発明者らは、人の恒常性維持機能に着目し、正常状態から異常状態に遷移する際の頭部の周期的挙動からドライバの異常予兆を推定するようにした。特に本願発明者らは、てんかんのように、急に意識を失うような疾患の場合であっても、異常予兆として頭部に周期的挙動が生じることを見出した。そこで、本開示に係る技術では、センサによりドライバの頭部挙動を取得するようにした。
【0012】
また、本願発明者らが鋭意研究を進めたところ、急に意識を失うような疾患の場合には、頭部挙動の周期性特徴量の時系列変動パターンに特徴的なパターンが生じることが分かった。そこで、本開示に係る技術では、センサにより取得された頭部挙動の周期性特徴量を演算し、該周期性特徴量に対して時系列変動パターンを演算し、該時系列変動パターンを特定パターンと比較するようにした。
【0013】
これにより、急に意識を失うような疾患についても、異常予兆を検出することができる。この結果、移動体を運転するドライバが運転不能状態に陥る予兆を、出来る限り早期に検知することができる。
【0014】
前記ドライバ状態推定装置において、前記特定パターンは、演算によって得られた前記特定期間の周期性特徴量の時系列データに対して、非線形次元圧縮手法を用いて次元削減を行って得られた2次元データであり、前記検知部は、演算によって得られた現在の周期性特徴量の時系列データに対して、非線形次元圧縮手法を用いて次元削減を行い、前記時系列変動パターンとして2次元データを求め、現在の前記時系列変動パターンの2次元データに、前記特定パターンの2次元データと同様のパターンがあるか否かに基づいて前記ドライバの異常予兆の有無を検知する、という構成でもよい。
【0015】
この構成によると、頭部挙動の周期性特徴量の時系列データから、ドライバの異常予兆の有無をより容易に判定することができる。
【0016】
前記ドライバ状態推定装置において、前記検知部は、前記ドライバの異常予兆状態であるときを含む前記時系列変動パターンを蓄積し、該蓄積した前記時系列変動パターンに基づいて、前記特定パターンに関するデータを修正する、という構成でもよい。
【0017】
この構成によると、ドライバに応じて特定パターンを設定することができ、ドライバの異常予兆を精度良くかつ早期に判定することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、ドライバが運転不能状態に陥る予兆を、出来る限り早期に検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、ドライバが疾患状態になる際の運転能力レベルの変動を例示するグラフである。
図2図2は、頭部挙動の恒常性と疾患との関係を示す図であり、(a)は正常状態を示し、(b)は臨界減速状態を示し、(c)は疾患状態を示す。
図3図3は、実験で用いたドライブシミュレータを示す図である。
図4図4は、実験により得られた頭部挙動を示す図である。
図5図5は、頭部挙動、頭部挙動の周期性特徴量、周期性特徴量の時系列変動パターンを示す図である。
図6図6は、時系列変動パターンの2次元データを示す図である。
図7図7は、ドライバ状態推定装置を含む車載システムの構成図である。
図8図8は、頭部挙動に基づくドライバ状態推定の処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は本開示に係る技術の位置づけを表す概念図である。ドライバが運転不能に陥る状態変容は3つのパターンに集約される。ケースAは、知覚、判断、運動のうち一部機能から低下するパターン、ケースBは、全般機能が徐々に低下するパターン、ケースCは急に意識を喪失するパターンである。このうち、ケースCの場合は、図1に示すように、疾患が発症してから運転能力が急激に低下する。したがって、疾患が生じる前に、ドライバの運転不能の予兆を検知することが特に重要となる。運転不能の予兆を検知することができたら、その後は例えばドライバの意思確認を行い、自動走行制御によって車両を路肩に退避させる等の緊急対応が可能になる。
【0022】
本開示に係る技術は、人の恒常性維持機能に着目し、ドライバの頭部挙動から運転不能の予兆(以下、異常予兆という)を検知するものである。
【0023】
図2は頭部挙動の恒常性と疾患との関係を示す(非特許文献1,2参照)。図2の各グラフは上方から見た頭部の動きを表している。図2の(a)は恒常性が維持された正常状態であり、図2の(b)は正常と疾患との間の臨界減速という状態であり、図2の(c)は疾患状態である。尚、図2(a),(c)のグラフは非特許文献1から引用したものである。
【0024】
人間は、外乱に対して状態を一定に保とうとする恒常性という機能を持っている。頭部挙動の恒常性とは、運転中に頭部姿勢を維持しようとする性質のことをいう。図2(a)に示すように、正常状態では、恒常性維持のために、頭部は不規則に変動する。一方、図2(c)に示すように、疾患時には、頭部の変動は小さくなり、挙動が安定する。そして図2(b)に示すように、正常状態から疾患状態に遷移する間の臨界減速状態では、頭部は、周期性(自己相関)を持って変動する、と考えられる(非特許文献2参照)。
【0025】
本願発明者らは、上述した知見に着目し、ドライバの頭部挙動から、臨界減速状態への状態遷移を捉えることができれば、異常の予兆を検知することができる、と考えた。そして、ドライバの異常予兆の検知のために、頭部挙動の周期性特徴量を利用できる、と考えた。
【0026】
〈ケースCの頭部挙動〉
本願発明者らは、ケースCの症状が生じる場合の頭部挙動を取得するために、実際にケースCの疾患を有する被験者(ここでは、てんかんの患者)に、図3に示すようなドライブシミュレータ80による運転をさせる実験を行った。実験では、被験者の頭部挙動を示すデータとして、センサにより頭部のピッチ角(前後方向の角度)とロール角(左右方向の角度)とを取得した。また、実験では、被験者の脳波を取得することで、実際にてんかんが生じたか否かを判定した。
【0027】
図4は、実際に頭部挙動を取得した結果である。図4に示す、正常区間、予兆区間、及び発作区間は、脳波の解析結果から判別している。図4の下図は、図4の上図の一部を拡大して示している。
【0028】
本願発明者らの行った実験により、図4に示すように、正常状態では、頭部がランダムに小さく移動し、予兆状態において微小な振動が生じ、発作状態では、ランダムに大きく移動することが分かった。更に、図4の下図に示すように、予兆状態では、時折大きな動きがありつつも、基本的にはかなり微少な振動が継続することが分かった。そこで、本願発明者らは、この周期的な変化を検出するために、頭部のピッチ角およびロール角の時系列データに対して、DFA(Detrended Fluctuation Analysis)により、自己相関指標(スケーリング指数α)を求めた。DFAは、非常にゆっくりと変化する成分、いわゆるトレンドを除去してスケーリングを調べる手法である。自己相関指標(スケーリング指数α)は、データの周期性を示す特徴量の一例である。
【0029】
図5の上図は、頭部のピッチ角及びロール角の時系列データの例である。図5の中図は頭部のピッチ角及びロール角の自己相関指標を示すグラフである。自己相関指標の値は、小さいほど自己相関が強く、大きいほど自己相関が弱いことを表す。図5の上図は、図4の結果の一部の切り取ったものである。
【0030】
図5に示すように、予兆区間では、自己相関指標が低下する傾向にあり、規則的な変化をすることが分かる。この実験結果は、正常状態では頭部は不規則に変動し、臨界減速状態では頭部は周期性を持って変動する、という上述した知見に合致している。しかしながら、図5に示すように、正常区間であっても予兆区間と同程度の自己相関指標となる場合がある。このため、自己相関指標の絶対値のみにより異常予兆を推定するのでは誤判定する可能性がある。
【0031】
そこで、本願発明者らは、自己相関指標の時系列変動パターンに着目した。本願発明者らは、自己相関指標の時系列データを時間順に切り出し、これを時系列変動パターンとして、パターン分類を行った。ここでは、パターン分類の手法として、非線形次元圧縮手法(UMAP:Uniform Manifold Approximation and Projection)を用いた。
【0032】
図5の下図は、自己相関指標の時系列変動パターンの分類結果を示す。図5の下図では、時系列変動パターンをUMAPによって次元削減し、それにより得られたパターン指数を示している。図5の下図に示すように、予兆区間において、パターン指数が大きく変動していることが分かる。
【0033】
図6は、図5の数に示すパターンを2次元マップにマッピングしたものである。縦軸及び横軸はいずれもパターン指数である。図6に矢印で示すように、異常予兆が生じるときには、自己相関指標から求めたパターン指数が大きく減少する部分が生じることが分かる。そこで、本願発明者らは、このようなパターン指数の減少が検出されたときに、ドライバが異常予兆状態であると推定するように定義した。すなわち、図6に示すようなドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンの2次元マップを特定パターンとして、ドライバの現在の時系列変動パターンの2次元データに、前記特定パターンの2次元データと同様の急激な減少パターンがあるか否かに基づいて前記ドライバの異常予兆の有無を検知するようにした。ドライバこれにより、ドライバの異常予兆をできる限り早期に検知することができる。
【0034】
尚、この減少パターンの有無については、例えば、パターン指数の減少量に基づいて定義してもよいし、特定パターンの2次元データにパターン指数が減少したときのプロットを含む特定領域を設定して、ドライバの現在の時系列変動パターンの2次元データに該特定領域に属するプロットが生じたか否かで定義してもよい。
【0035】
以上のことから、ドライバの頭部の挙動を表す時系列データに対して、周期性特徴量を演算し、演算によって得た周期性特徴量に対して、時系列変動パターンを演算し、演算によって得られた現在の時系列変動パターンと、ドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンである特定パターンとを比較して、ドライバの異常予兆の有無を検知することができる、と考えられる。
【0036】
〈ドライバ状態推定装置の構成〉
次に、前述の推定方法を実行するためのドライバ状態推定装置100について説明する。
【0037】
図7は本実施形態に係るドライバ状態推定装置を含む車載システムの構成例を示すブロック図である。図7の車載システムにおいて、カメラ10、スピーカ11、情報提示部12、スイッチ13、及びマイク14は、車室内に搭載されている。情報処理装置20は、例えば、プロセッサ及びメモリを備えた単一のICチップ、あるいは、プロセッサ及びメモリを備えた、複数のICチップ等によって構成される。車両停止制御部40は、情報処理装置20からの指示を受けて、車両を自動的に路肩退避させて停止させる制御を行う。
【0038】
カメラ10は、例えばフロントガラスの内側に設置されており、ドライバを含む車内の状況を撮影する。カメラ10によって撮影された画像は、例えば車載ネットワークを介して、情報処理装置20に送信される。カメラ10は、ドライバの微少な頭部の変動を計測可能な高性能のカメラである。尚、カメラ10に換えて、ドライバが装着する形式のセンサにより頭部挙動を計測するようにしてもよい。
【0039】
情報処理装置20において、頭部挙動検出部21は、カメラ10によって撮影された画像から、ドライバの頭部の挙動を検出する。例えば、画像からドライバの頭部を認識し、頭部の傾斜角、例えばピッチ角とロール角を求める。頭部挙動検出部21における処理は、既存の画像処理技術によって実現することができる。頭部挙動検出部21による処理によって、図4に示すような頭部挙動の時系列データを得ることができる。頭部挙動の時系列データは、ドライバの異常予兆を検知する検知部30に送られる。
【0040】
検知部30は、周期性特徴量演算部31、時系列変動パターン演算部32、異常判定部33、及び異常判定データベース34を備える。周期性特徴量演算部31は、頭部挙動検出部21によって得られた頭部挙動の時系列データから、周期性特徴量を演算する。具体的には例えば、DFA(Detrended Fluctuation Analysis)により、自己相関指標(スケーリング指数α)を周期性特徴量として求める。周期性特徴量演算部31によって、図5の中図に示すような周期性特徴量の時系列データを得ることができる。
【0041】
時系列変動パターン演算部32は、周期性特徴量演算部31によって得られた周期性特徴量の時系列データを、時間順に切り出し、切り出した時系列データから時系列変動パターンを演算し、パターン分類する。具体的には例えば、周期性特徴量の時系列データを、非線形次元圧縮手法の1つであるUMAPを用いて次元削減し、2次元データに変換する。
【0042】
異常判定部33は、時系列変動パターン演算部32によって得られたデータを、異常判定データベース34に格納された特定パターンと比較し、ドライバに異常予兆が発生したか否かを判定する。特定パターンは、前述したように、ドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンである。異常判定部33は、例えば、現在の時系列変動パターンの2次元マップに、前記特定パターンで見られるようなパターン指数の急低下があるか否かに基づいて、ドライバに異常予兆が発生したか否かを判定する。
【0043】
検知部30は、ドライバの異常予兆状態であるときを含む時系列変動パターンを蓄積し、該蓄積した前記時系列変動パターンに基づいて、異常判定データベース34に格納された特定パターンに関するデータを修正する。
【0044】
検知部30は、異常判定部33が、異常予兆が発生したと判定したときは、ドライバへの問いかけ要求を問いかけ部22に出力する。
【0045】
問いかけ部22は、検知部30からドライバへの問いかけ要求を受けたとき、ドライバに対して問いかけを行う。この問いかけは、車両を自動運転により緊急待避させてよいかどうか、ドライバの意思を確認するためのものである。問いかけは、例えば、スピーカ11を介して音声により行ったり、モニタ等の情報提示部12を介した表示により行ったりする。
【0046】
応答検出部23は、問いかけ部22による問いかけに対するドライバの応答を検出する。ドライバの応答は、例えば、スイッチ13の操作や、マイク14を介した発声によって行われる。ドライバの意思が確認できたとき、あるいは、ドライバの応答がないとき、情報処理装置20は、車両停止制御部40に、車両を自動的に路肩退避させて停止させるよう指示する。
【0047】
本実施形態に係るドライバ状態推定装置は、情報処理装置20内の、頭部挙動検出部21および検知部30を、少なくとも含む構成である。また、本開示に係るドライバ状態推定装置は、カメラ10を含む場合もある。
【0048】
図8は、頭部挙動に基づいて、ケースCの異常予兆を検知するための処理動作を示すフローチャートである。
【0049】
まず、ステップS1において、頭部挙動検出部21は、カメラ10によって撮影された画像から、ドライバの頭部を画像認識し、認識した頭部について、傾斜角、ここではピッチ角及びロール角を演算する。この演算は、例えば、100ms毎に行われる。
【0050】
次に、ステップS2において、検知部30は、頭部の傾斜角データが規定数以上蓄積されたか否かを判定する。検知部30は、頭部の傾斜角データが規定数以上蓄積されたYESのときには、ステップS3に進む。一方で、検知部30は、頭部の傾斜角データが規定数以上蓄積されていないNOのときには、ステップS1に戻る。
【0051】
前記ステップS3では、検知部30は、頭部の傾斜角の時系列データに対して、周期性特徴量を演算する。検知部30は、例えば、DFAにより、自己相関指標(スケーリング指数α)が、周期性特徴量として求められる。周期性特徴量の演算は、対象となる傾斜角データの時間範囲をずらしながら、例えば100ms毎に、例えば256個の傾斜角データを用いて、行われる。
【0052】
次に、ステップS4において、検知部30は、周期性特徴量のデータが規定数以上蓄積されたか否かを判定する。検知部30は、データが規定数以上蓄積されたYESのときにはステップS5に進む。一方で、検知部30は、データが規定数以上蓄積されていないNOのときにはステップS1に戻る。
【0053】
前記ステップS5では、検知部30は、周期性特徴量に対して、時系列変動パターンを演算する。検知部30は、例えば、非線形次元圧縮手法の1つであるUMAPを用いて、周期性特徴量の時系列変動データを次元削減し、2次元データに変換する。時系列変動パターンの演算は、対象となる周期性特徴量のデータの時間範囲をずらしながら、例えば100ms毎に、例えば256個の周期性特徴量のデータを用いて、行われる。
【0054】
次に、ステップS6において、検知部30は、異常判定データベース34に保持されていた特定パターンを取得する。特定パターンは、ドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンである。ここで異常判定データベース34から取得される特定パターンは、時系列変動パターンを2次元マップにした2次元データである。
【0055】
そして、ステップS7において、検知部30は、前記ステップS5で求めた現在の時系列変動パターンである2次元データと、ステップS6で取得した前記特定パターンとを比較して、現在の時系列変動パターンに特定パターンと同等のパターンがあるか否かについて判定する。検知部30は、現在の時系列変動パターンに特定パターンと同等のパターンがあるYESのときには、ドライバに異常予兆ありと判定してステップS8に進む。一方で、検知部30は、現在の時系列変動パターンに特定パターンと同等のパターンがないNOのときには、ドライバには異常予兆なしと判定してステップS1に戻る。
【0056】
前記ステップS8では、検知部30は、ドライバへの問いかけ要求を問いかけ部22に出力する。ステップS8の後は処理を終了する。
【0057】
したがって、本実施形態によると、カメラ10を用いてドライバの頭部の挙動を検出する頭部挙動検出部21と、頭部挙動検出部21によって検出された頭部挙動から、ドライバの異常予兆を検知する検知部30と、検知部30は、ドライバの頭部挙動を示す時系列データに対して、周期性特徴量を演算し、演算によって得られた周期性特徴量に対して、時系列変動パターンを演算し、演算によって得られた時系列変動パターンと予め演算された特定パターンとを比較して、前記ドライバの異常予兆の有無を検知する、ように構成され、特定パターンは、ドライバが異常予兆状態である時を含む特定期間における該ドライバの頭部挙動から演算された時系列変動パターンである。これにより、急に意識を失うような疾患についても、疾患前の周期的な頭部挙動に基づいて異常予兆を検出することができる。この結果、移動体を運転するドライバが運転不能状態に陥る予兆を、出来る限り早期に検知することができる。
【0058】
また、本実施形態では、特定パターンは、演算によって得られた特定期間の周期性特徴量の時系列データに対して、非線形次元圧縮手法を用いて次元削減を行って得られた2次元マップであり、検知部30は、演算によって得られた現在の周期性特徴量の時系列データに対して、非線形次元圧縮手法を用いて次元削減を行い、時系列変動パターンとして2次元マップを求め、現在の前記時系列変動パターンの2次元マップに、特定パターンの2次元マップと同様のパターンがあるか否かに基づいてドライバの異常予兆の有無を検知する。これにより、頭部挙動の周期性特徴量の時系列データから、ドライバの異常予兆の有無をより容易に判定することができる。
【0059】
また、本実施形態では、検知部30は、ドライバの異常予兆状態であるときを含む時系列変動パターンを蓄積し、該蓄積した時系列変動パターンに基づいて、特定パターンに関するデータを修正する。これにより、ドライバに応じて特定パターンを設定することができ、ドライバの異常予兆を精度良くかつ早期に判定することができる。
【0060】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0061】
例えば、前述の実施形態では、頭部挙動の時系列データに対して、DFAにより、自己相関指標(スケーリング指数α)を周期性特徴量として求めるものとしたが、DFA以外の手法により周期性特徴量を求めてもよい。
【0062】
また、前述の実施形態では、移動体として自動車を例示したが、自動車以外の、例えば電車等の移動体において、前述のドライバ状態推定装置100を採用してもよい。
【0063】
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0064】
ここに開示された技術は、移動体を運転するドライバの状態を推定するドライバ状態推定装置として有用である。
【符号の説明】
【0065】
10 カメラ(センサ)
21 頭部挙動検出部
30 検知部
100 ドライバ状態推定装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8