(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】水中油型乳化調味料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 27/60 20160101AFI20250212BHJP
【FI】
A23L27/60 A
(21)【出願番号】P 2021029205
(22)【出願日】2021-02-25
【審査請求日】2023-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000066
【氏名又は名称】味の素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080791
【氏名又は名称】高島 一
(74)【代理人】
【識別番号】100136629
【氏名又は名称】鎌田 光宜
(74)【代理人】
【識別番号】100125070
【氏名又は名称】土井 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100121212
【氏名又は名称】田村 弥栄子
(74)【代理人】
【識別番号】100174296
【氏名又は名称】當麻 博文
(74)【代理人】
【識別番号】100137729
【氏名又は名称】赤井 厚子
(74)【代理人】
【識別番号】100151301
【氏名又は名称】戸崎 富哉
(74)【代理人】
【識別番号】100152308
【氏名又は名称】中 正道
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 大樹
(72)【発明者】
【氏名】河北 雄一郎
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0125251(KR,A)
【文献】特開2018-50584(JP,A)
【文献】特開2021-101636(JP,A)
【文献】Pol. J. Food Nutr. Sci.,2020年,vol.70, no.4,pp.347-360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 27/00-27/60
FSTA/CAplus/REGISTRY/AGRICOLA/
BIOSIS/MEDLINE/EMBASE(STN)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを含有する水中油型乳化調味料であって、
ラウリン酸又はその塩の含有量が、前記乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmであり、かつ
酢酸イソアミルの含有量が、前記乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbである、乳化調味料。
【請求項2】
前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、請求項1記載の乳化調味料。
【請求項3】
前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、請求項1又は2記載の乳化調味料。
【請求項4】
ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを添加することを含み、
ラウリン酸又はその塩の添加は、水中油型乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量が、当該乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmとなるように行われ、かつ、
酢酸イソアミルの添加は、水中油型乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量が、当該乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbとなるように行われる、水中油型乳化調味料の製造方法。
【請求項5】
前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを水中油型乳化調味料に添加することを含み、
ラウリン酸又はその塩の添加は、前記乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量が、前記乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmとなるように行われ、かつ、
酢酸イソアミルの添加は、前記乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量が、前記乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbとなるように行われる、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング方法。
【請求項8】
前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、請求項7記載の酸化臭マスキング方法。
【請求項9】
前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、請求項7又は8記載の酸化臭マスキング方法。
【請求項10】
ラウリン酸又はその塩と、酢酸イソアミルとが組み合わせられている、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング剤であって、
前記乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量を、前記乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmとし、かつ
前記乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量を、前記乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbとするために用いられる、剤。
【請求項11】
前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、請求項10記載の剤。
【請求項12】
前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、請求項10又は11記載の剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中油型乳化調味料及びその製造方法に関する。詳細には、保存期間中等に生じる酸化臭がマスキングされ得る水中油型乳化調味料及びその製造方法に関する。また、本発明は、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング方法、及び水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレッシング、マヨネーズ等の水中油型乳化調味料は、保存期間中に、含有する油脂が酸化し、酸化臭が生じる場合がある。海外諸国においては、酸化防止剤としてエチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウムが使用されているが、我が国の食品添加物の使用基準では缶詰又は瓶詰食品以外の食品への使用は認められていない。また、日本農林規格(JAS規格)に適合するマヨネーズの場合、使用可能な原料が制限され、酸化防止剤等を使用することはできない。そのため、水中油型乳化調味料について、酸化臭による品質低下を防いで、品質を維持することは容易な課題ではなかった。
【0003】
一方、酢酸含有飲食品の酢酸臭及び/又は刺激臭を抑制するために酢酸イソアミル等を用いること(特許文献1)、果汁含有製品の熱劣化臭をマスキングするためにラウリン酸等を用いること(特許文献2)等が従来、提案されている。しかし、ラウリン酸又はその塩、並びに酢酸イソアミルを組み合わせることは、特許文献1及び2のいずれにも記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第6792252号公報
【文献】特開2019-170374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みてなされたものであり、その解決しようとする課題は、官能品質(風味、香り等)が損なわれることなく、保存期間中等に生じる酸化臭がマスキングされ得る水中油型乳化調味料及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上述の課題を解決するべく鋭意検討し、ラウリン酸又はその塩が、水中油型乳化調味料の酸化臭のマスキングに有効であることを新たに見出した。しかし、ラウリン酸又はその塩を単独で水中油型乳化調味料に添加して、その酸化臭を十分にマスキングするには、相当量の添加が必要となり、水中油型乳化調味料の酸化臭を単独で充分にマスキングし得る量のラウリン酸又はその塩を添加すると、ラウリン酸又はその塩に由来の異風味(後に残る臭み)が生じ、水中油型乳化調味料の官能品質に影響を及ぼすことが判明した。更に、本発明者らは、酢酸イソアミルが、水中油型乳化調味料の酸化臭のマスキングに有効であることも新たに見出したが、ラウリン酸又はその塩と同様に、水中油型乳化調味料の酸化臭を十分にマスキングするには相当量の添加が必要となり、水中油型乳化調味料の酸化臭を単独で十分にマスキングし得る量の酢酸イソアミルを添加すると、酢酸イソアミル由来の異風味(バナナ臭)が生じ、水中油型乳化調味料の官能品質に影響を及ぼすことが分かった。
本発明者らは、更に検討を重ね、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを所定量で組み合わせることで、水中油型乳化調味料の官能品質を異風味により損なうことなく、保存期間中等に生じる酸化臭を効果的にマスキングし得ることを見出した。本発明者らは、これらの知見に基づき、更に検討を重ねることによって、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の通りである。
【0007】
[1]ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを含有する水中油型乳化調味料であって、
ラウリン酸又はその塩の含有量が、前記乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmであり、かつ
酢酸イソアミルの含有量が、前記乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbである、乳化調味料。
[2]前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、[1]記載の乳化調味料。
[3]前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、[1]又は[2]記載の乳化調味料。
[4]ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを添加することを含み、
ラウリン酸又はその塩の添加は、水中油型乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量が、当該乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmとなるように行われ、かつ、
酢酸イソアミルの添加は、水中油型乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量が、当該乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbとなるように行われる、水中油型乳化調味料の製造方法。
[5]前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、[4]記載の製造方法。
[6]前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、[4]又は[5]記載の製造方法。
[7]ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを水中油型乳化調味料に添加することを含み、
ラウリン酸又はその塩の添加は、前記乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量が、前記乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmとなるように行われ、かつ、
酢酸イソアミルの添加は、前記乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量が、前記乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbとなるように行われる、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング方法。
[8]前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、[7]記載の酸化臭マスキング方法。
[9]前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、[7]又は[8]記載の酸化臭マスキング方法。
[10]ラウリン酸又はその塩と、酢酸イソアミルとが組み合わせられている、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング剤であって、
前記乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量を、前記乳化調味料に対して5重量ppb~40重量ppmとし、かつ
前記乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量を、前記乳化調味料に対して0.005重量ppb~500重量ppbとするために用いられる、剤。
[11]前記乳化調味料における卵黄の含有量が、前記乳化調味料に対して20重量%以下である、[10]記載の剤。
[12]前記乳化調味料が、日本農林規格に適合するマヨネーズ、又はマヨネーズタイプ調味料である、[10]又は[11]記載の剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、官能品質(風味、香り等)が損なわれることなく、保存期間中等に生じる酸化臭がマスキングされ得る水中油型乳化調味料及びその製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、水中油型乳化調味料の官能品質を損なうことなく、保存期間中等に生じる酸化臭をマスキングし得る、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング方法、及び水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング剤も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の水中油型乳化調味料(以下、「本発明の乳化調味料」とも称する)は、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを含有することを特徴の一つとする。
【0010】
本発明において「乳化調味料」とは、乳化構造を有する調味料を意味し、「水中油型乳化調味料」とは、水相を外相(連続相)とし、油相を内相(分散相)とする水中油型の乳化構造(水相中に油滴粒子が均一分散した乳化構造)を有する調味料を意味する。また、乳化調味料等における「調味料」とは、食品に対して、調味(味つけ)の目的で使用される食品をいう。ここでいう「食品」とは、経口的に摂取され得るものを広く包含する概念であり、特に断りのない限り、いわゆる食べ物の他、飲料、食品添加物等も包含される。本発明の乳化調味料は、例えば、日本農林規格(JAS規格)で定義される半固体状ドレッシング(例、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング、マヨネーズタイプ調味料等)、乳化液状ドレッシング等のドレッシング等として提供され得るが、これらに制限されず、ドレッシングのJAS規格に適合しないドレッシング(例、ドレッシングタイプ調味料、サラダ用調味料等のドレッシング類)、ソース、たれ等であってもよい。
【0011】
ラウリン酸(一般に、ドデカン酸とも称される)は、下記式で表される炭素原子数12の飽和脂肪酸である(CAS登録番号:143-07-7)。
【0012】
【0013】
本発明において用いられ得るラウリン酸の塩は、食品原料として許容され得るものであれば特に制限されないが、例えば、アルカリ金属(例、ナトリウム、カリウム等)との塩;周期表第2族元素(例、カルシウム、マグネシウム等)との塩等が挙げられる。
【0014】
本発明において用いられるラウリン酸又はその塩は特に制限されないが、例えば、ラウリン酸又はその塩を含有する素材からラウリン酸又はその塩を単離せずに、当該素材をそのまま用いてよい。ラウリン酸又はその塩を含有する素材は特に制限されないが、例えば、ヤシ油、パーム核油等の食用植物油脂等が挙げられる。あるいは、本発明において用いられるラウリン酸又はその塩は、ラウリン酸又はその塩を含有する素材(例、ヤシ油、パーム核油等)から、自体公知の方法又はそれに準ずる方法によって、抽出、精製されたものであってもよい。また、本発明において用いられるラウリン酸又はその塩は、自体公知の方法(例えば、酵素法等)又はこれに準ずる方法によって製造したものであってもよく、市販品を用いてもよい。
【0015】
酢酸イソアミル(一般に、酢酸3-メチルブチル、酢酸イソペンチルとも称される)は、下記式で表されるカルボン酸エステルである(CAS登録番号:123-92-2)。
【0016】
【0017】
本発明において用いられる酢酸イソアミルは特に制限されないが、例えば、酢酸イソアミルを含有する素材から酢酸イソアミルを単離せずに、当該素材をそのまま用いてよい。酢酸イソアミルを含有する素材は特に制限されないが、例えば、日本酒、醸造酢、バナナ等が挙げられる。あるいは、本発明において用いられる酢酸イソアミルは、酢酸イソアミルを含有する素材(例、日本酒、醸造酢、バナナ等)から、自体公知の方法又はそれに準ずる方法で、抽出、精製されたものであってもよい。また、本発明において用いられる酢酸イソアミルは、自体公知の方法(例えば、化学合成法等)又はこれに準ずる方法によって製造したものであってもよく、市販品を用いてもよい。
【0018】
本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量は、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは5重量ppb以上であり、より好ましくは8重量ppb以上であり、特に好ましくは50重量ppb以上である。また、本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量は、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは40重量ppm以下であり、より好ましくは30重量ppm以下であり、特に好ましくは20重量ppm以下である。例えば、本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量は、本発明の乳化調味料に対して、5重量ppb~40重量ppmであり、好ましくは8重量ppb~30重量ppmであり、より好ましくは50重量ppb~20重量ppmである。本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量が、上述の範囲内であることにより、異風味の発生を抑えて、効果的に酸化臭をマスキングできる。
本発明において、ラウリン酸の塩が用いられる場合、その量には、ラウリン酸に換算したものが用いられる。
【0019】
本発明の乳化調味料の原材料には、ラウリン酸又はその塩を含有するもの(例、ヤシ油、パーム核油等の食用植物油脂等)が用いられ得る。そのような原材料を本発明の乳化調味料が含有する場合、当該原材料に由来するラウリン酸又はその塩の量も、本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量に算入される。
本発明において、乳化調味料の原材料(例、ヤシ油、パーム核油等)に含まれるラウリン酸又はその塩の量は、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)により測定される。
【0020】
本発明の乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量は、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは0.005重量ppb以上であり、より好ましくは0.008重量ppb以上であり、特に好ましくは0.03重量ppb以上である。また、本発明の乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量は、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは500重量ppb以下であり、より好ましくは300重量ppb以下であり、特に好ましくは200重量ppb以下である。例えば、本発明の乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量は、本発明の乳化調味料に対して、0.005重量ppb~500重量ppbであり、好ましくは0.008重量ppb~300重量ppbであり、より好ましくは0.03重量ppb~200重量ppbである。本発明の乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量が、上述の範囲内であることにより、異風味の発生を抑えて、効果的に酸化臭をマスキングできる。
【0021】
本発明の乳化調味料の原材料には、酢酸イソアミルを含有するもの(例、日本酒、醸造酢、バナナ等)が用いられ得る。そのような原材料を本発明の乳化調味料が含有する場合、当該原材料に由来する酢酸イソアミルの量も、本発明の乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量に算入される。
本発明において、乳化調味料の原材料(例、日本酒、醸造酢、バナナ等)に含まれる酢酸イソアミルの量は、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)により測定される。
【0022】
本発明の乳化調味料の原材料には、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを含有するものを用いてよい。
【0023】
本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量と酢酸イソアミルの含有量との重量比(ラウリン酸又はその塩の含有量:酢酸イソアミルの含有量)は、異風味の発生を抑えて、効果的に酸化臭をマスキングできることから、好ましくは1:0.0000001~100であり、より好ましくは1:0.0000005~50であり、特に好ましくは1:0.0000008~15である。
【0024】
本発明の乳化調味料は、卵黄を含有するものであってよいが、本発明の乳化調味料における卵黄の含有量は生換算で、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは20重量%以下であり、より好ましくは15重量%以下であり、特に好ましくは12重量%以下である。いかなる理論に拘泥するものでもないが、本発明の乳化調味料が卵黄を含有する場合、当該卵黄中の鉄が酸性下で遊離し、油脂の酸化を引き起こす場合がある。本発明の乳化調味料における卵黄の含有量が、上述の所定の量であることにより、油脂の酸化進行を抑えて、酸化臭の発生を抑制し得る。本発明の乳化調味料が卵黄を含有する場合、十分な乳化作用を得る観点から、本発明の乳化調味料における卵黄の含有量は生換算で、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは1重量%以上であり、より好ましくは1.5重量%以上である。
本発明において、卵黄の「生換算」の含有量は、当該含有量を算出するための卵黄の重量として、卵黄の水分含量を48.2重量%としたときの当該卵黄の総重量を用いることにより算出される。
【0025】
本発明において用いられる卵黄は、食品に一般的に用いられ得るものであれば特に制限されず、例えば、家禽類の殻付卵(例、鶏卵等)を割卵して卵殻を取り除いた卵内容物(全卵)から、卵白を分離して得られる生卵黄、当該生卵黄に自体公知の加工処理(例、殺菌処理、冷凍処理、濾過処理、乾燥処理、酵素処理、脱糖処理、脱コレステロール処理、加糖処理、加塩処理等)又はそれに準ずる処理を施して得られる加工卵黄等が挙げられる。また、卵黄として、卵白を分離していない全卵や、全卵に上述の自体公知の加工処理又はそれに準ずる処理を施して得られる加工全卵等を用いてもよい。本発明の乳化調味料が、全卵、加工全卵等を含有する場合、その卵黄部分の量を、本発明の乳化調味料における卵黄の含有量に算入する。
【0026】
本発明の乳化調味料において、油相を構成する成分(以下、「油相成分」とも称する)は、食品に添加可能な親油性の物質であれば特に制限されず、例えば、食用油脂、親油性のある着香料、香味油等が挙げられる。
【0027】
食用油脂としては、例えば、キャノーラ油、菜種油、コーン油、大豆油、ごま油、米油、米糠油、米胚芽油、べに花油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、ひまわり油、えごま油、アマニ油、オリーブ油、グレープシード油等の食用植物油脂;牛脂、豚脂、鶏脂、羊脂、鯨油等の食用動物油脂等が挙げられるが、好ましくは食用植物油脂である。また、上述の食用油脂をエステル交換したエステル交換油、上述の食用油脂に水素添加した硬化油等も用いることができる。食用油脂は精製されたもの(例、サラダ油等)であってよい。これらの食用油脂は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0028】
本発明の乳化調味料において、水相を構成する成分(以下、「水相成分」とも称する)は、乳化調味料の種類等に応じて適宜決定すればよく、特に制限されないが、例えば、水、食酢、かんきつ類の果汁、食塩、砂糖類、醤油、味噌、卵白、調味料、酸味料、乳化剤、増粘剤、澱粉、香料、着色料、香辛料、香辛料抽出物等が挙げられる。
【0029】
水としては、例えば、蒸留水、イオン交換水等の精製水、水道水等が挙げられるが、これらに制限されず、食品製造用水として適合するものを用い得る。
【0030】
食酢としては、醸造酢を用いてもよいし、合成酢を用いてもよい。醸造酢としては、例えば、米酢(純米酢、玄米酢等)、米黒酢、麦芽酢、ハトムギ酢等の穀物酢等、ぶどう酢、りんご酢、柿酢等の果実酢が用いられる。また、合成酢としては、例えば、蒸留酢、濃縮酢等が挙げられる。これらの食酢は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0031】
かんきつ類の果汁としては、例えば、レモン果汁、ユズ果汁、ベニユ果汁、ハナユ果汁、無核ユズ果汁、ユコウ果汁、スダチ果汁、カボス果汁、ダイダイ果汁、ライム果汁、シークワーサー果汁等が挙げられる。これらのかんきつ類の果汁は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0032】
砂糖類としては、例えば、砂糖(上白糖、グラニュー糖)、ぶどう糖、果糖、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、高果糖液糖、砂糖混合ぶどう糖果糖液糖、砂糖混合果糖ぶどう糖液糖、砂糖混合高果糖液糖、水あめ等が挙げられる。これらの砂糖類は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0033】
調味料としては、例えば、グルタミン酸ナトリウム等のアミノ酸系調味料;イノシン酸ナトリウム、グアニル酸ナトリウム等の核酸系調味料;たんぱく加水分解物等が挙げられる。これらの調味料は、単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0034】
本発明の乳化調味料を構成する水相の量は特に制限されないが、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは10~50重量%であり、より好ましくは15~35重量%であり、特に好ましくは20~30重量%である。
【0035】
本発明の乳化調味料を構成する油相の量は特に制限されないが、本発明の乳化調味料に対して、好ましくは50~90重量%であり、より好ましくは65~85重量%であり、特に好ましくは70~80重量%である。
【0036】
本発明の乳化調味料のpHは、通常3以上であり、好ましくは、3.5以上であり、より好ましくは、3.8以上である。本発明の乳化調味料のpHは、通常5以下である。
【0037】
一態様として、本発明の乳化調味料は、日本農林規格(JAS規格)に適合するマヨネーズであってよい。本発明は、上述する通り、食用植物油脂(例、ヤシ油、パーム核等)等のラウリン酸又はその塩を含有する素材を、そのまま用いてよく、また、醸造酢等の酢酸イソアミルを含有する素材を、そのまま用いてよい。JAS規格に適合するマヨネーズは、使用できる原材料が限定されるが、食用植物油脂(例、ヤシ油、パーム核等)及び醸造酢は、いずれもJAS規格に適合するマヨネーズの原材料として使用できる。したがって、ラウリン酸又はその塩として、例えば、食用植物油脂(例、ヤシ油、パーム核等)等を、酢酸イソアミルとして、例えば、醸造酢等をそれぞれ使用し、JAS規格のマヨネーズの規格に従って製造することにより、本発明の乳化調味料は、JAS規格に適合するマヨネーズとして提供され得る。
【0038】
他の一態様として、本発明の乳化調味料は、日本農林規格(JAS規格)のマヨネーズの規格に適合しない調味料であってよい。JAS規格のマヨネーズの規格に適合しない調味料は特に制限されないが、例えば、マヨネーズタイプ調味料等が挙げられる。本発明において「マヨネーズタイプ調味料」とは、JAS規格に適合するマヨネーズと同様又は類似の食味、食感、性状を有するが、成分組成(例、原材料、油脂含有率等)は、JAS規格のマヨネーズの規格に適合していない調味料(例、サラダクリーミードレッシング、半固体状ドレッシング等のドレッシング等)をいう。JAS規格のマヨネーズの規格に適合しない調味料として提供される本発明の乳化調味料は、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルとして、これらを含有する素材の他、単離されたラウリン酸又はその塩、単離された酢酸イソアミル、ラウリン酸又はその塩の市販品、酢酸イソアミルの市販品等を使用できる。
【0039】
本発明の乳化調味料の製造方法は、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを添加することを含むこと以外は特に制限されず、本発明の乳化調味料は、自体公知の手法又はそれに準ずる手法を、適宜組み合わせて製造し得る。例えば、水相成分の混合物を、ホモミキサー等の一般的な乳化機で撹拌しつつ、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルが添加された食用油脂を注加して乳化させること等によって製造し得る。
【0040】
本発明の乳化調味料の製造には、乳化食品の製造に使用され得る装置を制限なく用いることができる。当該装置は、特に限定されないが、回転式の乳化機が好ましく、例えば、上述のホモミキサー及びコロイドミルの他、スティックミキサー、ディスパーミキサー、ホモジナイザー、マイクロフルイダイザー等が挙げられる。
【0041】
本発明の乳化調味料は、官能品質(風味、香り等)が異風味により損なわれることなく、保存期間中等に生じる酸化臭がマスキングされ得る。
本発明における「酸化臭」は、水中油型乳化調味料の酸化が進行するにつれて強くなる不快な臭いであり、具体的には、一般にもどり臭と言われるような油脂劣化特有の酸化した不快な臭いである。酸化臭の有無や程度は、後述の実施例に示されるように、専門パネルによる官能評価によって評価できる。本発明において、酸化臭の「マスキング」とは、酸化臭を部分的又は完全に感知されなくすることをいう。また、本発明における「異風味」は、水中油型乳化調味料がラウリン酸又はその塩、酢酸イソアミルを含有することに起因して発生する不快な風味(臭い、味)であり、具体的には、バナナ臭(バナナ様の青みのある甘い臭い)、後に残る臭み(獣様の口に残るムレた臭い)等が挙げられる。異風味の有無や程度は、後述の実施例に示されるように、専門パネルによる官能評価によって評価できる。
【0042】
本発明は、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング方法も提供する(以下、単に「本発明の酸化臭マスキング方法」とも称する)。本発明の酸化臭マスキング方法は、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを、水中油型乳化調味料に添加することを含む。
【0043】
本発明の酸化臭マスキング方法において用いられるラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルは、いずれも上述の本発明の乳化調味料に関して説明したものと同様であり、好適な態様も同様である。
【0044】
本発明の酸化臭マスキング方法において、ラウリン酸又はその塩の添加は、水中油型乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量が、上述の本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量と同様の量となるように行われ、好適な量も同様である。
【0045】
本発明の酸化臭マスキング方法において、酢酸イソアミルの添加は、水中油型乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量が、上述の本発明の乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量と同様の量となるように行われ、好適な量も同様である。
【0046】
本発明の酸化臭マスキング方法において、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルの添加は、水中油型乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量と酢酸イソアミルの含有量との重量比が、上述の本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量と酢酸イソアミルの含有量との重量比と同様の範囲となるように行われ、好適な範囲も同様である。
【0047】
本発明の酸化臭マスキング方法において、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを水中油型乳化調味料に添加する時期は特に限定されないが、例えば、水中油型乳化調味料の製造中等が挙げられる。水中油型乳化調味料を製造する前の原材料に対し、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを添加してもよい。
【0048】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料は、例えば、日本農林規格(JAS規格)で定義される半固体状ドレッシング(例、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング、マヨネーズタイプ調味料等)、乳化液状ドレッシング等のドレッシング等であってよいが、これらに制限されず、ドレッシングのJAS規格に適合しないドレッシング(例、ドレッシングタイプ調味料、サラダ用調味料等のドレッシング類)、ソース、たれ等であってもよい。
【0049】
一態様として、本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料は、日本農林規格に適合するマヨネーズであってよい。
【0050】
他の一態様として、本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料は、日本農林規格のマヨネーズの規格に適合しない調味料(例、マヨネーズタイプ調味料等)であってよい。
【0051】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料は、元から(すなわち本発明の酸化臭マスキング方法におけるラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルの添加前から)ラウリン酸又はその塩、並びに/あるいは、酢酸イソアミルを含有するものであってよいが、当該水中油型乳化調味料が、元からラウリン酸又はその塩を含有する場合、元から含有されるラウリン酸又はその塩の含有量は、40重量ppm未満であることが好ましく、5重量ppb未満であることがより好ましい。また、当該水中油型乳化調味料が、元から酢酸イソアミルを含有する場合、元から含有される酢酸イソアミルの含有量は、500重量ppb未満であることが好ましく、0.005重量ppb未満であることがより好ましい。尚、当該水中油型乳化調味料が、元からラウリン酸又はその塩、酢酸イソアミルを含有する場合、本発明の酸化臭マスキング方法におけるラウリン酸又はその塩、酢酸イソアミルの添加量が、元から含有されるラウリン酸又はその塩、酢酸イソアミルの含有量に応じて適宜調整してよい。
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料に元から含有されるラウリン酸又はその塩、酢酸イソアミルの含有量は、当該水中油型乳化調味料の原材料の配合割合から算出され得る。また、当該含有量は、ガスクロマトグラフ-質量分析計(GC-MS)によっても測定され得る。
【0052】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料は、卵黄を含有するものであってよい。
【0053】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料が卵黄を含有する場合、当該乳化調味料における卵黄の含有量(生換算)は、上述の本発明の乳化調味料が卵黄を含有する場合の卵黄の含有量(生換算)と同様であり、好適な範囲も同様である。
【0054】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料の油相成分、水相成分は、上述の本発明の乳化調味料における油相成分、水相成分と同様である。
【0055】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料を構成する水相の量、油相の量は、それぞれ上述の本発明の乳化調味料を構成する水相の量、油相の量と同様であり、好適な量も同様である。
【0056】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料のpHは、上述の本発明の乳化調味料のpHと同様であり、好適な範囲も同様である。
【0057】
本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料の製造方法は特に制限されず、自体公知の手法又はそれに準ずる手法を、適宜組み合わせて製造し得る。また、本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料は、市販品であってもよい。
【0058】
本発明の酸化臭マスキング方法によれば、水中油型乳化調味料の官能品質(風味、香り等)を異風味(例、バナナ臭、後に残る臭み等)により損なうことなく、保存期間中等に生じる酸化臭をマスキングし得る。
【0059】
本発明は、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング剤(本明細書において「本発明の剤」と称する場合がある)も提供する。本発明の剤は、ラウリン酸又はその塩と、酢酸イソアミルとが組み合わせられていることを、特徴の一つとする。
【0060】
本発明の剤において用いられるラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルは、いずれも上述の本発明の乳化調味料に関して説明したものと同様であり、好適な態様も同様である。
【0061】
本発明の剤は、一態様として、ラウリン酸又はその塩を含有する製剤と、酢酸イソアミルを含有する製剤とが、別々の容器、包材、袋等に収容された上で、これらを組み合わせて提供(例、流通、販売等)され得る。ラウリン酸又はその塩を含有する製剤、並びに、酢酸イソアミルを含有する製剤は、それぞれラウリン酸又はその塩のみからなるもの、並びに、酢酸イソアミルのみからなるものであってよいが、これらに加えて、ラウリン酸又はその塩、酢酸イソアミル以外の成分(例、賦形剤、水、調味料等)を含有してもよい。ラウリン酸又はその塩を含有する製剤、並びに、酢酸イソアミルを含有する製剤の形態は特に制限されず、例えば、固体状(粉末状、顆粒状等を含む)、液体状(スラリー状等を含む)、ゲル状、ペースト状等が挙げられる。
【0062】
本発明の剤は、一態様として、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを含有する単一の組成物であってもよい。当該組成物は、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルのみからなるものであってよいが、これらに加えて、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミル以外の成分(例、賦形剤、水、調味料等)を含有してもよい。当該組成物の形態は特に制限されず、例えば、固体状(粉末状、顆粒状等を含む)、液体状(スラリー状等を含む)、ゲル状、ペースト状等が挙げられる。
【0063】
本発明の剤の製造は、自体公知の方法又はそれに準ずる方法により行い得る。
【0064】
本発明の剤は、水中油型乳化調味料に添加されて用いられ得る。
【0065】
本発明の剤が添加される水中油型乳化調味料は、上述の本発明の酸化臭マスキング方法が用いられる水中油型乳化調味料と同様であり、好適な態様も同様である。
【0066】
本発明の剤は、本発明の剤が添加された水中油型乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量を、上述の本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量と同様の量とするために用いられ得る。
【0067】
本発明の剤は、本発明の剤が添加された水中油型乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量を、上述の本発明の乳化調味料における酢酸イソアミルの含有量と同様の量とするために用いられ得る。
【0068】
本発明の剤は、本発明の剤が添加された水中油型乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量と酢酸イソアミルの含有量との重量比を、上述の本発明の乳化調味料におけるラウリン酸又はその塩の含有量と酢酸イソアミルの含有量との重量比と同様の範囲とするために用いられ得る。
【0069】
本発明の剤を水中油型乳化調味料に添加する方法は特に限定されず、本発明の剤の形態や、本発明の剤を添加する水中油型乳化調味料の種類等に応じて自体公知の方法又はそれに準ずる方法で行い得る。本発明の剤を水中油型乳化調味料に添加する時期は特に限定されないが、例えば、水中油型乳化調味料の製造中等が挙げられる。水中油型乳化調味料を製造する前の原材料に対し、本発明の剤を添加してもよい。
【0070】
本発明の剤によれば、水中油型乳化調味料の官能品質(風味、香り等)を異風味(例、バナナ臭、後に残る臭み等)により損なうことなく、保存期間中等に生じる酸化臭をマスキングし得る。
【0071】
以下の実施例において本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。尚、本明細書において「%」、「ppm」、「ppb」と記載されている場合は、特に断りのない限り、それぞれ「重量%」、「重量ppm」、「重量ppb」を意味する。
【実施例】
【0072】
<試験例1>
[試験区1~9の水中油型乳化調味料(マヨネーズ)の作製]
下表1、2に示す水相の原材料のうち、醸造酢以外の原材料(卵黄、卵白、精製塩、水あめ、グルタミン酸ナトリウム、水)を、下表1、2に示す配合割合(ラウリン酸及び酢酸イソアミル以外の成分の単位:重量%)で混合した。また、下表1、2に示す油相の原材料(サラダ油、ラウリン酸、酢酸イソアミル)を、下表1、2に示す配合割合で混合した。醸造酢以外の水相の原材料の混合物をポリビーカーに投入した後、乳化の直前に醸造酢(穀物酢)を混合し、得られた混合物をTKホモミキサー(プライミクス株式会社製)を使用して撹拌しつつ、油相の原材料の混合物をゆっくりと注加して乳化させ(撹拌速度:10000rpm、撹拌時間:2分間)、試験区1~9の水中油型乳化調味料(マヨネーズ)をそれぞれ作製した。各水中油型乳化調味料のpHは、4.0~4.1であった。
【0073】
下表1、2に示す原材料のうち、ラウリン酸及び酢酸イソアミルは、それぞれシグマアルドリッチ社製のものを使用した。卵黄、卵白、精製塩、醸造酢、水あめ、グルタミン酸ナトリウム及びサラダ油は、いずれも食品用として市販されているものを使用した。これらの市販の原材料からは、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルは検出されなかった。水は、水道水を浄水器に通したものを用いた。
【0074】
【0075】
【0076】
[異風味の確認試験]
試験区1~9の水中油型乳化調味料の調製当日に、異風味(バナナ臭、後に残る臭み)の有無、程度について官能評価を実施した。
官能評価は、4名の専門パネルが各水中油型乳化調味料を食し、異風味(バナナ臭、後に残る臭み)の有無、程度について、下記の基準に基づいて0.5点刻みで評点付けし、4名の評点の平均点を算出することにより行った。当該平均点が、3点未満である場合を合格、3点以上である場合を不合格とした。4名の専門パネルは、異風味(バナナ臭、後に残る臭み)の評価基準について、評点が0.5点変動するには、異風味(バナナ臭、後に残る臭み)がどの程度変動すればよいのか等がパネル間で共通となるよう、予め訓練された。
【0077】
[異風味(バナナ臭、後に残る臭み)の評価基準]
0点:異風味が感じられない
1点:異風味がほとんど感じられない
2点:異風味がわずかに感じられる
3点:異風味がやや感じられる
4点:異風味が感じられる
5点:異風味がかなり感じられる
【0078】
結果を下表3、4に示す。
【0079】
【0080】
【0081】
表3、4に示される結果から明らかなように、ラウリン酸の含有量が100重量ppmである試験区4の水中油型乳化調味料は、ラウリン酸由来の異風味(後に残る臭み)が感じられ、また、酢酸イソアミルの含有量が1重量ppmである試験区9の水中油型乳化調味料は、酢酸イソアミル由来の異風味(バナナ臭)が感じられた。これらの結果から、ラウリン酸は、その含有量が100重量ppm以上である場合に、酢酸イソアミルは、その含有量が1重量ppm以上である場合に、水中油型乳化調味料の官能品質(風味、香り等)に影響を及ぼすことが確認された。
【0082】
<試験例2>
[実施例1~6、比較例1~6の水中油型乳化調味料(マヨネーズ)の作製]
下表5、6に示す水相の原材料のうち、醸造酢以外の原材料(卵黄、卵白、精製塩、水あめ、グルタミン酸ナトリウム、水)を、下表5、6に示す配合割合(ラウリン酸及び酢酸イソアミル以外の成分の単位:重量%)で混合した。また、下表5、6に示す油相の原材料(サラダ油、ラウリン酸、酢酸イソアミル)を、下表5、6に示す配合割合で混合した。醸造酢以外の水相の原材料の混合物をポリビーカーに投入した後、乳化の直前に醸造酢(穀物酢)を混合し、得られた混合物をTKホモミキサー(プライミクス株式会社製)を使用して撹拌しつつ、油相の原材料の混合物をゆっくりと注加して乳化させ(撹拌速度:10000rpm、撹拌時間:2分間)、実施例1~6、比較例1~6の水中油型乳化調味料(マヨネーズ)をそれぞれ作製した。各水中油型乳化調味料のpHは、4.0~4.1であった。
【0083】
下表5、6に示す原材料は、それぞれ試験例1と同様のものを用いた。
【0084】
【0085】
【0086】
[酸化臭の確認試験]
実施例1~6、比較例1~6の水中油型乳化調味料を、それぞれ200gずつ500mLポリパウチに真空充填して密封し、44℃にて5日間保存した。当該保存の後、各水中油型乳化調味料を常温(25℃)に戻し、酸化臭の有無、程度について官能評価を実施した。
官能評価は、4名の専門パネルが各水中油型乳化調味料を食し、酸化臭の有無、程度について、下記の基準に基づいて0.5点刻みで評点付けし、4名の評点の平均点を算出することにより行った。当該平均点が、3点未満である場合を合格、3点以上である場合を不合格とした。4名の専門パネルは、酸化臭の評価基準について、評点が0.5点変動するには、酸化臭がどの程度変動すればよいのか等がパネル間で共通となるよう、予め訓練された。
【0087】
[酸化臭の評価基準]
0点:酸化臭が感じられない
1点:酸化臭がほとんど感じられない
2点:酸化臭がわずかに感じられる
3点:酸化臭がやや感じられる
4点:酸化臭が感じられる
5点:酸化臭がかなり感じられる
【0088】
結果を下表7に示す。
【0089】
【0090】
表7に示される結果から明らかなように、ラウリン酸及び酢酸イソアミルをいずれも添加しなかった比較例1の水中油型乳化調味料は、酸化臭がかなり感じられるものであった。
ラウリン酸を100重量ppm含有する比較例2の水中油型乳化調味料、及び酢酸イソアミルを1重量ppm含有する比較例3の水中油型乳化調味料は、酸化臭はマスキングされていたが、試験例1でも確認されたように、これらの水中油型乳化調味料には、ラウリン酸又は酢酸イソアミル由来の異風味(バナナ臭、後に残る臭み)が感じられた。
一方、ラウリン酸の含有量が10重量ppb又は10重量ppmであり、かつ酢酸イソアミルの含有量が、0.01重量ppb、1重量ppb又は100重量ppbである実施例1~6の水中油型乳化調味料は、いずれも酸化臭が十分にマスキングされ、また、異風味(バナナ臭、後に残る臭み)は感じられなかった。
ラウリン酸及び酢酸イソアミルのいずれか一方又は両方の含有量が少ない比較例4(ラウリン酸の含有量:1重量ppb、酢酸イソアミルの含有量:0.001重量ppb)、比較例5の水中油型乳化調味料(ラウリン酸の含有量:10重量ppm、酢酸イソアミルの含有量:0.001重量ppb)及び比較例6の水中油型乳化調味料(ラウリン酸の含有量:1重量ppb、酢酸イソアミルの含有量:100重量ppb)は、酸化臭が十分にマスキングされていなかった。
これらの結果から、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを所定量で組み合わせることで、水中油型乳化調味料の官能品質(風味、香り等)を異風味により損なうことなく、保存による酸化臭をマスキングし得ることが確認された。
【0091】
<試験例3>
[実施例7~9の水中油型乳化調味料(マヨネーズ)の作製]
下表8に示す水相の原材料のうち、醸造酢以外の原材料(卵黄、卵白、精製塩、水あめ、グルタミン酸ナトリウム、水)を、下表8に示す配合割合(ラウリン酸及び酢酸イソアミル以外の成分の単位:重量%)で混合した。また、下表8に示す油相の原材料(サラダ油、ラウリン酸、酢酸イソアミル)を、下表8に示す配合割合で混合した。醸造酢以外の水相の原材料の混合物をポリビーカーに投入した後、乳化の直前に醸造酢(穀物酢)を混合し、得られた混合物をTKホモミキサー(プライミクス株式会社製)を使用して撹拌しつつ、油相の原材料の混合物をゆっくりと注加して乳化させ(撹拌速度:10000rpm、撹拌時間:約2分間)、実施例7~9の水中油型乳化調味料(マヨネーズ)をそれぞれ作製した。各水中油型乳化調味料のpHは、4.0~4.1であった。
【0092】
下表8に示す原材料は、それぞれ試験例1と同様のものを用いた。
【0093】
【0094】
[酸化臭の確認試験]
実施例7~9の水中油型乳化調味料を、それぞれ200gずつ500mLポリパウチに真空充填して密封し、44℃にて5日間保存した。当該保存の後、各水中油型乳化調味料を常温(25℃)に戻し、酸化臭の有無、程度について、試験例2と同様の方法で官能評価を実施した。
結果を下表9に示す。尚、表9には、試験例2の実施例2及び4の水中油型乳化調味料の評価結果も併記した。
【0095】
【0096】
表9に示される結果から明らかなように、実施例7及び8の水中油型乳化調味料は、それぞれ実施例2及び4の水中油型乳化調味料に比べ、卵黄の含有量が多いが、いずれも酸化臭が十分にマスキングされ、また、異風味(バナナ臭、後に残る臭み)は感じられなかった。また、卵黄の含有量が実施例4の水中油型乳化調味料に比べて少ない実施例9の水中油型乳化調味料も、酸化臭が十分にマスキングされ、また、異風味(バナナ臭、後に残る臭み)は感じられなかった。
これらの結果から、卵黄の含有量にかかわらず、ラウリン酸又はその塩、並びに、酢酸イソアミルを所定量で組み合わせることで、水中油型乳化調味料の官能品質(風味、香り等)を異風味により損なうことなく、保存による酸化臭をマスキングし得ることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明によれば、官能品質(風味、香り等)が損なわれることなく、保存期間中等に生じる酸化臭がマスキングされ得る水中油型乳化調味料及びその製造方法を提供できる。
また、本発明によれば、水中油型乳化調味料の官能品質(風味、香り等)を損なうことなく、保存期間中等に生じる酸化臭をマスキングし得る、水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング方法、及び水中油型乳化調味料の酸化臭マスキング剤も提供できる。