(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】車両のカウルグリル構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
B62D25/08 H
(21)【出願番号】P 2021034254
(22)【出願日】2021-03-04
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】茂木 芳成
(72)【発明者】
【氏名】藤田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】花田 知子
(72)【発明者】
【氏名】水口 浩爾
(72)【発明者】
【氏名】山本 直人
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-091436(JP,A)
【文献】特開2014-156243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウインドシールドの下端に位置し車幅方向に延びてエンジンルームと車室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、
上記フロントウインドシールドの下方で、かつ、上記ダッシュパネルの車両前方において車体に固定されるカウルグリルと、を備え、
上記カウルグリルは、
車幅方向および車両前後方向に延びる上壁部と、
上記上壁部の前端および後端から角部を介して下方に延びる前側および後側の縦壁部と、を備え、
上記上壁部は、衝突時にボンネットから下向き荷重が入力される荷重入力部と、
上記荷重入力部よりも車両前方側の前辺部と、
上記荷重入力部よりも車両後方側の後辺部と、を備え、
上記前辺部と上記後辺部とは、車両側面視でそれぞれ直線状に形成され、
上記荷重入力部は上記ボンネット側に向けて上方へ突出するように形成され
、
上記カウルグリルは、
上記フロントウインドシールドの下方において車幅方向に延びるメンバ部と、
上記メンバ部の前方に位置して補機類の上方を覆うカバー部と、
上記カバー部から下方に延びて上記エンジンルームと補機類側の空間とを仕切る仕切部と、を備え、
上記メンバ部は、上記上壁部と上記縦壁部とを有し、
上記前側の縦壁部は上記カバー部によって下側から支持されたことを特徴とする
車両のカウルグリル構造。
【請求項2】
上記メンバ部の前方の縦壁部の下端部にはフランジ部が形成されており、
上記カバー部の後部は上記メンバ部の上記フランジ部を挟み込んで支持している
請求項
1に記載の車両のカウルグリル構造。
【請求項3】
上記カバー部は上記メンバ部に対して高剛性に形成された
請求項
1または2に記載の車両のカウルグリル構造。
【請求項4】
車体に固定されエンジンユニットの後方上面を覆うインシュレータを備え、
上記メンバ部の車幅方向両端部は車体に支持され、上記メンバ部の車幅方向中間部は上記インシュレータに支持された
請求項
1~3の何れか一項に記載の車両のカウルグリル構造。
【請求項5】
上記前辺部と上記後辺部とは一体で構成されており、
上記後辺部に外気導入孔が設けられる
請求項1~
4の何れか一項に記載の車両のカウルグリル構造。
【請求項6】
上記荷重入力部には、当該荷重入力部から上方に延びてカウルシールを取付けるカウルシール取付け部が形成されており、
上記荷重入力部と上記カウルシール取付け部との間の上下寸法は、車両平面視で上記外気導入孔が設けられる車幅方向の領域内において、略一定の上下寸法に形成された
請求項
5に記載の車両のカウルグリル構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、フロントウインドシールドの下端に位置し車幅方向に延びてエンジンルームと車室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、上記フロントウインドシールドの下方で、かつ、上記ダッシュパネルの車両前方において車体に固定されるカウルグリルと、を備えたような車両のカウルグリル構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述例の車両のカウルグリル構造としては、特許文献1に開示されたものがある。
すなわち、フロントウインドシールド(いわゆる、フロントウインドガラス)の下方で、かつ、ダッシュロアパネルの車両前方において車体に固定されるカウルグリルを設け、該カウルグリルは、フロントウインドシールドの下方において車幅方向に延びる上面部と、この上面部とカウルクロスレインとの間を上下方向に連結する前面部と、を備えている。
【0003】
また、上記前面部は、荷重入力時に当該前面部を蛇腹状に折り畳んで衝撃エネルギを吸収する目的で、車両側面視でジグザグ(zigzag)形状に形成されると共に、変形切っ掛けとなる角部にノッチ(notch、刻み目)が設けられている。
【0004】
上述のカウルグリルは耐熱性を確保するために、上記上面部および上記前面部が繊維強化樹脂で構成されており、剛性が高いので、歩行者衝突時に、上述の前面部の角部に荷重を伝達して、角部を支点として当該前面部を蛇腹状に折り畳んで変形させて、衝撃エネルギ吸収のストロークを確保している。
【0005】
一方、近年において、エンジンルームをインシュレータ等の遮熱材で覆うエンジンルームカプセル化構造が開発されており、この場合、上述のカウルグリルを剛性の低いPP(polypropylene、ポリプロピレン)などの強化剤を添加しない樹脂材料に置換すると、コストダウンを図ることができる。
【0006】
しかしながら、カウルグリルの上記上面部および前面部を剛性が低いPPS等の材料で構成した場合、特に、前面部が荷重入力時に面外変形してしまい、所期の折り畳み変形が達成できず、衝撃エネルギ吸収用の充分なストロークが確保できないという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、この発明は、材料の剛性を下げても角部に荷重を伝達して、当該角部を支点とする折り畳み変形により衝撃エネルギ吸収用の充分なストロークを確保することができる車両のカウルグリル構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明による車両のカウルグリル構造は、フロントウインドシールドの下端に位置し車幅方向に延びてエンジンルームと車室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、上記フロントウインドシールドの下方で、かつ、上記ダッシュパネルの車両前方において車体に固定されるカウルグリルと、を備え、上記カウルグリルは、車幅方向および車両前後方向に延びる上壁部と、上記上壁部の前端および後端から角部を介して下方に延びる前側および後側の縦壁部と、を備え、上記上壁部は、衝突時にボンネットから下向き荷重が入力される荷重入力部と、上記荷重入力部よりも車両前方側の前辺部と、上記荷重入力部よりも車両後方側の後辺部と、を備え、上記前辺部と上記後辺部とは、車両側面視でそれぞれ直線状に形成され、上記荷重入力部は上記ボンネット側に向けて上方へ突出するように形成され、上記カウルグリルは、上記フロントウインドシールドの下方において車幅方向に延びるメンバ部と、上記メンバ部の前方に位置して補機類の上方を覆うカバー部と、上記カバー部から下方に延びて上記エンジンルームと補機類側の空間とを仕切る仕切部と、を備え、上記メンバ部は、上記上壁部と上記縦壁部とを有し、上記前側の縦壁部は上記カバー部によって下側から支持されたものである。
上述のカウルグリルが固定される車体は、エプロンレインフォースメントであってもよい。
【0010】
上記構成によれば、衝突時に、ボンネットから上記荷重入力部に下向き荷重が入力されると、当該荷重入力部を下方へ回動させる力(モーメント)が生じるが、荷重入力部はボンネット側に向けて上方に突出して設けられているため、前辺部側の角部と後辺部側の角部とに荷重を伝達する成分(すなわち、面内方向の荷重成分)と、前辺部側の角部と後辺部側の角部とから面内方向へ作用する反力と、が生じ、上壁部の面外変形が抑制される。
【0011】
したがって、上壁部の沈み込みが抑制でき、特に、荷重入力部から前側の角部へ荷重伝達することができて、当該角部を支点とする曲げ変形が促進される。
このため、材料の剛性を下げても角部に荷重を伝達して、当該角部を支点とする折り畳み変形により、衝撃エネルギ吸収用の充分なストロークを確保することができる。
【0012】
また上述したように、上記カウルグリルは、上記フロントウインドシールドの下方において車幅方向に延びるメンバ部と、上記メンバ部の前方に位置して補機類の上方を覆うカバー部と、上記カバー部から下方に延びて上記エンジンルームと補機類側の空間とを仕切る仕切部と、を備え、上記メンバ部は、上記上壁部と上記縦壁部とを有し、上記前側の縦壁部は上記カバー部によって下側から支持されたものであるため、前側の縦壁部をカバー部により下側から支持しているので、当該縦壁部の沈み込みが抑制でき、これにより荷重入力時には、荷重入力部から前辺部を介して角部に荷重を伝達することができ、当該角部を支点とする折り畳み変形により、歩行者保護性能を確保することができる。
上述の補機類は、バッテリに設定してもよい。
【0013】
この発明の一実施態様においては、上記メンバ部の前方の縦壁部の下端部にはフランジ部が形成されており、上記カバー部の後部は上記メンバ部の上記フランジ部を挟み込んで支持しているものである。
上記構成によれば、カバー部の後部によるフランジ部の挟み込み構造により、メンバ部のフランジ部の変形を防止することができる。
それにより、荷重入力時には狙いの折り畳み変形を安定して発現できる。
【0014】
この発明の一実施態様においては、上記カバー部は上記メンバ部に対して高剛性に形成されたものである。
上述のメンバ部は、PP(polypropylene、ポリプロピレン)で形成してもよく、上述のカバー部はPPSに対して剛性が高いタルク強化樹脂やGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics ガラス繊維強化プラスチック)で形成してもよい。
【0015】
上記構成によれば、上述のカバー部はメンバ部に対して剛性が高いので、カバー部でメンバ部を支持している部分が局所変形しない。この結果、上記縦壁部の変形挙動を安定させることができる。
【0016】
この発明の一実施態様においては、車体に固定されエンジンユニットの後方上面を覆うインシュレータを備え、上記メンバ部の車幅方向両端部は車体に支持され、上記メンバ部の車幅方向中間部は上記インシュレータに支持されたものである。
上述の車体は、エプロンレインフォースメントであってもよい。
【0017】
上記構成によれば、メンバ部の車幅方向中間部を上述のインシュレータにより支持しているので、荷重入力部からの荷重をインシュレータにて支えることができ、上述の縦壁部の変形挙動を安定させることができる。
【0018】
この発明の一実施態様においては、上記前辺部と上記後辺部とは一体で構成されており、上記後辺部に外気導入孔が設けられるものである。
上記構成によれば、後辺部に外気導入孔が設けられても、上述の荷重入力部をボンネット側に向けて上方へ突出させているので、上述したように角部への荷重伝達を図ることができる。すなわち、外気導入孔の開口面積の確保と、歩行者保護との両立を図ることができるものである。
【0019】
この発明の一実施態様においては、上記荷重入力部には、当該荷重入力部から上方に延びてカウルシールを取付けるカウルシール取付け部が形成されており、上記荷重入力部と上記カウルシール取付け部との間の上下寸法は、車両平面視で上記外気導入孔が設けられる車幅方向の領域内において、略一定の上下寸法に形成されたものである。
上述のカウルシール(シール部材)は、ウエザストリップにより形成してもよい。
【0020】
上記構成によれば、次の如き効果がある。
すなわち、歩行者がボンネットに乗り上げて、その荷重を吸収する時、荷重入力部とカウルシール取付け部との間の上下寸法に車幅方向の位置において、ばらつきがある場合には、エネルギ吸収量のばらつきに起因して、障害値が高くなるが、上記領域内での上下寸法を略一定にすることで、当該領域内において、荷重入力部の剛性が一定となり、これにより、メンバ部の変形挙動を安定させることができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、材料の剛性を下げても角部に荷重を伝達して、当該角部を支点とする折り畳み変形により衝撃エネルギ吸収用の充分なストロークを確保することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明のカウルグリル構造を備えた車両の要部平面図。
【
図2】
図1からフロントウインドシールドおよびカウルグリルを取外した状態で示す車両の要部平面図。
【
図5】
図4で示すカウルグリルのメンバ部の拡大断面図。
【
図7】カバー部を車幅方向内方かつ上方から見た状態で示す斜視図。
【
図8】カバー部を車幅方向内方かつ後上方向から見た状態で示す斜視図。
【
図10】
図9よりもさらに上方から見た状態で示すカウルグリル構造の要部斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
材料の剛性を下げても角部に荷重を伝達して、当該角部を支点とする折り畳み変形により衝撃エネルギ吸収用の充分なストロークを確保するという目的を、フロントウインドシールドの下端に位置し車幅方向に延びてエンジンルームと車室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、上記フロントウインドシールドの下方で、かつ、上記ダッシュパネルの車両前方において車体に固定されるカウルグリルと、を備え、上記カウルグリルは、車幅方向および車両前後方向に延びる上壁部と、上記上壁部の前端および後端から角部を介して下方に延びる前側および後側の縦壁部と、を備え、上記上壁部は、衝突時にボンネットから下向き荷重が入力される荷重入力部と、上記荷重入力部よりも車両前方側の前辺部と、上記荷重入力部よりも車両後方側の後辺部と、を備え、上記前辺部と上記後辺部とは、車両側面視でそれぞれ直線状に形成され、上記荷重入力部は上記ボンネット側に向けて上方へ突出するように形成されるという構成にて実現した。
【実施例】
【0024】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図面は車両のカウルグリル構造を示し、
図1は当該カウルグリル構造を備えた車両の要部平面図、
図2は
図1からフロントウインドシールドおよびカウルグリルを取外した状態で示す車両の要部平面図、
図3は
図1のA-A線に沿う要部の矢視断面図、
図4は
図1のB-B線に沿う要部の矢視断面図である。
【0025】
また、
図5は
図4で示すカウルグリルのメンバ部の拡大断面図、
図6は
図1のC-C線に沿う要部の矢視断面図、
図7はカバー部を車幅方向内方かつ上方から見た状態で示す斜視図、
図8はカバー部を車幅方向内方かつ後上方向から見た状態で示す斜視図である。
【0026】
さらに、
図9は
図6の斜視図、
図10は
図9よりもさらに上方から見た状態で示すカウルグリル構造の要部斜視図である。なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印INは車幅方向の内方を示し、矢印OUTは車幅方向の外方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
<前部車体構造について>
車両のカウルグリル構造の説明に先立って、まず、前部車体構造について説明する。
図3、
図4、
図9に示すように、エンジンルーム1と車室2とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルとしてのダッシュロアパネル3を設けている。このダッシュロアパネル3は車幅方向に延びており、当該ダッシュロアパネル3の車幅方向左右両端部は、図示しないヒンジピラーに連結されている。
【0027】
図2に示すように、上述のダッシュロアパネル3の車幅方向中央下部には、フロントフロアパネル4のフロアトンネル5と連続するトンネル部3aが形成されている。
図2に示すように、フロントフロアパネル4におけるフロアトンネル5と後述するサイドシル8との間の車幅方向中間上面にはフロアフレーム6を接合固定し、当該フロアフレーム6とフロントフロアパネル4との間に、車両前後方向に延びるフロアフレーム閉断面を形成して、下部車体剛性の向上を図っている。
【0028】
また、
図2に示すように、フロアトンネル5の上面部にはトンネルレインフォースメント7を接合固定し、該トンネルレインフォースメント7とフロアトンネル5との間に、車両前後方向に延びる閉断面を形成して、フロアトンネル5の剛性向上を図っている。
【0029】
上述のダッシュロアパネル3の車幅方向左右両側部には、車両の上下方向に延びる左右のヒンジピラー(図示せず)が立設固定されている。このヒンジピラーは、ヒンジピラーインナとヒンジピラーアウタとを接合固定して、車両の上下方向に延びるヒンジピラー閉断面を有する車体強度部材である。
【0030】
上述のヒンジピラーの下端部には、
図1、
図2に示すように、当該下端部から車両後方に延びるサイドシル8が設けられている。このサイドシル8はサイドシルインナとサイドシルアウタとを接合固定して、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面を備えた車体強度部材である。
【0031】
また、
図1、
図2に示すように、上述のヒンジピラーの上端部には、当該上端部から後方かつ上方へ斜め方向に延びるフロントピラー9が設けられている。このフロントピラー9はフロントピラーインナとフロントピラーアウタとを接合固定して、車両の後上方向に斜めに延びるフロントピラー閉断面を備えた車体強度部材である。
【0032】
図1に示すように、左右一対のフロントピラー9,9と、車両上部前側に位置するフロントヘッダと、後述するカウルパネル23(
図3、
図4参照)とで囲繞形成されたフロントウインドシールド配置用の開口部10には、フロントウインドシールド11(いわゆる、フロントウインドガラス)が設けられている。
【0033】
ここで、上述のダッシュロアパネル3は、フロントウインドシールド11の下端部に位置し、車幅方向に延びてエンジンルーム1と車室2とを車両前後方向に仕切るパネル部材である。
【0034】
一方、
図1、
図2、
図9に示すように、上述のヒンジピラーの上端前部には、当該上端前部から車両前方に延びるエプロンレインフォースメント12が設けられている。
図1、
図2、
図9に示すように、ダッシュロアパネル3の車幅方向両端側から車両前方に延びる左右一対のフロントサイドフレーム13を設けている。このフロントサイドフレーム13は上述のエプロンレインフォースメント12に対して車幅方向内側で、かつ車両上下方向の下側に位置している。
【0035】
また、上述のフロントサイドフレーム13は、フロントサイドフレームインナとフロントサイドフレームアウタとを接合固定して、車両の前後方向に延びるフロントサイドフレーム閉断面を備えた車体強度部材である。
【0036】
図9に示すように、上述のフロントサイドフレーム13に固定されて上方に突出し、図示しないフロントサスペンション装置のダンパ上部を支持するサスペンションタワー部14を設けている。同図に示すように、このサスペンションタワー部14は、エプロンレインフォースメント12の内側面を構成するサイドパネル15と、上述のフロントサイドフレーム13との間に跨がって取付けられている。ここで、上述のサスペンションタワー部14としてはストラットタワー部を採用してもよい。
【0037】
図1、
図2に示すように、上述のフロントサイドフレーム13の前端部において、当該前端部とエプロンレインフォースメント12の前部とを車両上下方向に連結する連結部材16を設けている。
【0038】
一方、
図1、
図2に示すように、上述のエンジンルーム1の車幅方向左右両側部は、フロントフェンダパネル17により覆われている。また、
図3、
図4に示すように、上述のエンジンルーム1の上方は、ボンネット18により開閉可能に覆われている。
【0039】
上述のボンネット18は、ボンネットアウタパネル19とボンネットインナパネル20とを備え、ボンネットアウタパネル19の周縁部をヘミング加工して、ボンネットアウタパネル19とボンネットインナパネル20とを一体化したものである。
【0040】
このボンネット18は、当該ボンネット18の閉時にその前端車幅方向中央部がストライカおよびラッチにより車体に支持されると共に、ボンネット後端の車幅方向左右両側が、
図1に示すボンネットヒンジブラケット21に設けられたボンネットヒンジにより支持されるものである。
<カウル部の構成>
図3、
図4、
図9に示すように、上述のダッシュロアパネル3の上端折曲げ部3bには、ダッシュアッパパネル22を介して断面略ハット形状のカウルパネル23を設けている。当該カウルパネル23と上述のダッシュアッパパネル22との間には、車幅方向に延びるカウル閉断面24を形成して、カウル部の剛性向上を図るように形成している。
【0041】
図3、
図4に示すように、上述のカウルパネル23の前低後高状に傾斜する上壁部23aには、接着剤25を介して上述のフロントウインドシールド11が取付けられている。
また、
図3、
図4に示すように、上述のカウルパネル23の前壁部23bには、当該前壁部23bから車両前方に延びる雨樋部材としてのカウルセンタ26が設けられている。
<補機類の配置構造>
図2、
図3、
図4に示すように、車両前後方向において、上述のサスペンションタワー部14とダッシュロアパネル3との間には、補機類としてのバッテリ27が設けられている。換言すれば、これら各要素14,3,27の位置関係は、車両前方からサスペンションタワー部14、補機類であるバッテリ27、ダッシュロアパネル3の順に配置されている。
なお、
図3、
図4において、28は上記バッテリ27を受けるバッテリトレーであり、29はバッテリステイブラケットである。
<カウルグリル構造>
次にカウルグリル構造について詳述する。
図1、
図3、
図4に示すように、フロントウインドシールド11の下方(この実施例では、フロントウインドシールド11の傾斜下方)には、ダッシュロアパネル3の上方かつ車両前方に位置するカウルグリル30を備えている。
【0042】
このカウルグリル30は、フロントウインドシールド11の下方において車幅方向に延びて当該フロントウインドシールド11を滴下する水を受けるメンバ部31と、該メンバ部31の前方に位置して補機類の上方を覆う左右のカバー部32,33と、を備えている。
【0043】
ここで、車両左側のカバー部32は、その下方に配置された補機類としてのリザーバタンク(図示せず)の上方を覆っており、車両右側のカバー部33は、その下方に配置された補機類としてのバッテリ27の上方を覆っている。
【0044】
この実施例の車両のカウルグリル構造は、左右略対称に形成されているが、以下の説明においては、主として、車両右側のカバー部33に関連する構造、すなわち、車両右側のカウルグリル構造について述べる。
【0045】
上述のカウルグリル30は、
図4、
図9に示すように、上記メンバ部31と、上記カバー部33と、該カバー部33から下方に延びてエンジン側の空間であるエンジンルーム1と、補機類側の空間であるバッテリ配置空間34とを仕切る前方仕切部35および側方仕切部36と、車幅方向に延びてボンネット18(詳しくは、ボンネットインナパネル20)に接触し、車外空間とエンジンルーム1との間をシールするカウルシール37と、を備えている。
【0046】
上述のメンバ部31における後述する後辺部31hには、
図1に平面図で示すように、車幅方向の中間部位に複数のメッシュ構造の外気導入孔38が開口形成される。この外気導入孔38が形成される車幅方向の領域を、外気導入孔形成領域αとする。
<外気導入孔非形成領域のメンバ部の構造>
図5は外気導入孔形成領域α以外の車幅方向右端部寄りにおけるメンバ部31の断面構造を示している。
すなわち、外気導入孔非形成領域において、上述のメンバ部31は、
図5に示すように、車幅方向および車両前後方向に延びる上壁部31aと、この上壁部31aの前端および後端から前角部31bおよび後角部31cを介して下方に延びる前側縦壁部31dおよび後側縦壁部31eと、を備えている。
【0047】
さらに、上述のメンバ部31は、上壁部31aの中間段差部31fよりも車両前方の前辺部31gと、中間段差部31fよりも車両後方の後辺部31hと、を備えている。
また、上述のメンバ部31は、前側縦壁部31dの下端から車両前方に延びるフランジ部31iと、中間段差部31fからボンネット18側に延びてカウルシール37を取付ける取付け座31jと、後側縦壁部31eからさらに後方に延びてフロントウインドシールド11の傾斜下端上面に当接する当接辺部31kと、を備えている。
【0048】
つまり、上述のメンバ部31は、外気導入孔非形成領域において、各要素31a~31kを合成樹脂により一体形成したものである。
図5に示すように、前辺部31gと後辺部31hとから成る上壁部31a、および、当接辺部31kは、車両前方が低く、車両後方が高くなる前低後高状に傾斜しており、一方で、前側縦壁部31dおよび後側縦壁部31eは、車両前方が高く、車両後方が低くなる前高後低状に傾斜している。
<外気導入孔形成領域のメンバ部の構造>
一方、
図6、
図9、
図10は外気導入孔形成領域α内におけるメンバ部31の断面構造を示している。
すなわち、外気導入孔形成領域α内において、上述のメンバ部31は、特に、
図6、
図10に示すように、車幅方向および車両前後方向に延びる上壁部31aと、この上壁部31aの前端および後端から前角部31bおよび後角部31cを介して下方に延びる前側縦壁部31dおよび後側縦壁部31eと、を備えている。
【0049】
上述の上壁部31aは、衝突時にボンネット18から下向き荷重が入力される荷重入力部31Fと、荷重入力部31Fよりも車両前方の前辺部31gと、荷重入力部31Fよりも車両後方の後辺部31hと、を備えている。
【0050】
また、上述のメンバ部31は、前側縦壁部31dの下端から車両前方に延びるフランジ部31iと、荷重入力部31Fからボンネット18側に延びてカウルシール37を取付ける取付け座31jと、後側縦壁部31eからさらに後方に延びてフロントウインドシールド11の傾斜下端上面に当接する当接辺部31kと、を備えている。
つまり、上述のメンバ部31は、外気導入孔形成領域αにおいて、各要素31a~31e,31F,31g~31kを合成樹脂により一体形成したものである。
【0051】
しかも、上述の前辺部31gと後辺部31hとは、車両側面視でそれぞれ直線状に形成されると共に、上述の荷重入力部31Fはボンネット18(詳しくは、ボンネットインナパネル20)側に向けて上方へ突出するように形成されている。
【0052】
この実施例においては、
図6、
図10に示すように、前辺部31gと後辺部31hとの成す角度を、約165度に設定することで、荷重入力部31Fをボンネット18側に向けて上方へ突出させているが、この角度に限定されるものではない。換言すれば、荷重入力部31Fは前角部31bと後角部31cとを直線状に結ぶ仮想直線に対して、上方へ突出させたものである。また、荷重入力部31Fは前辺部31gの後端と後辺部31hの前端とが交わる部位に形成されている。
【0053】
これにより、
図6に示すように、衝突時に、ボンネット18から荷重入力部31Fに下向き荷重f1が入力された場合、荷重入力部31Fを下方へ回動させる力(モーメント)が生じる。当該荷重入力部31Fはボンネット18側に向けて上方に突出して設けられていることで、前角部31bと、後角部31cとに荷重を伝達する成分(つまり、面内方向の荷重成分)f2,f3と、これらの各角部31b,31cから面内方向へ作用する反力f4,f5と、が生じ、上壁部31aの面外変形を抑制すべく構成している。
ここに、面外変形とは、面外曲げ(out of plane bending)ともいい、部材を、その平面と垂直な方向へ曲げる変形のことである。
【0054】
この結果、上壁部31aの沈み込みを抑制し、特に、荷重入力部31Fから前角部31bへ荷重伝達して、当該前角部31bを支点とする曲げ変形を促進し、よって、メンバ部31を形成する材料の剛性を下げても、前角部31bに荷重を伝達して、当該前角部31bを支点とする折り畳み変形により、衝撃エネルギ吸収用の充分なストロークを確保すべく構成したものである。
【0055】
図6に示すように、前辺部31gと後辺部31hとから成る上壁部31a、および、当接辺部31kは、車両前方が低く、車両後方が高くなる前低後高状に傾斜しており、一方で、前側縦壁部31dおよび後側縦壁部31eは、車両前方が高く、車両後方が低くなる前高後低状に傾斜している。
上述したように、上記上壁部31aにおける後辺部31hには、複数のメッシュ構造の外気導入孔38が開口形成されている(
図1、
図9、
図10参照)。
<カウルシールおよびカバー部の配置構造>
ところで、
図3、
図4に示すように、上述のカウルシール37はメンバ部31の車両前部、詳しくは、メンバ部31の前部に位置する取付け座31jに配置されている。また、上述のカバー部33は、板状部材で構成されており、該カバー部33により、当該カバー部33の上方空間39と当該カバー部33の下方空間であるバッテリ配置空間34とを仕切るように設けられている。
【0056】
このように、メンバ部31の前部に、車外空間とエンジンルーム1との間をシールするカウルシール37を配設することで、メンバ部31の前方に位置するカバー部33が被水しないように構成し、これにより、カバー部33の複雑化を抑制すべく構成している。
【0057】
上述のカウルシール37は、ウエザストリップにより形成されており、該カウルシール37は、
図9に示すように、その車幅方向端部が端部部材40を介してエプロンレインフォースメント12に取付けられている。この端部部材40はカウルシール37と一体であってもよく、または、別体であってもよい。
【0058】
図1に示すように、上述のカウルシール37の車幅方向端部は、ボンネット18を支持するボンネットヒンジ(ボンネットヒンジブラケット21参照)の近傍に位置している。これにより、上記カウルシール37にてボンネット18の支持剛性の向上を図るように構成している。
【0059】
詳しくは、カウルシールがボンネットヒンジに対して大きく前方に離間して位置すると、カウルシールによるボンネット18の支持剛性が低下し、車両走行時にボンネット18後端が浮き振れするが、上述の如くカウルシール37の車幅方向端部をボンネットヒンジの近傍位置に設けることで、当該カウルシール37にてボンネット18の支持剛性向上を図っている。
【0060】
また、
図1に示すように、カウルシール37の車幅方向中央部は、上述のカバー部32,33の車両前後方向中央部に対して車両後方に位置するように配設されている。これにより、カウルシール37の車幅方向中央部においてもボンネット支持効果を確保するように構成している。
【0061】
詳しくは、上記カバー部33を取外してメンテナンスを行なう際には、広いメンテナンス用の開口面積が要求され、一方で、メンバ部31に形成される外気導入孔38も広い面積が要求される。そこで、カウルシール37の車幅方向中央部の前後位置を上述の如く特定することで、メンテナンス用の開口面積の確保と、外気導入孔38の面積確保とを両立させつつ、カウルシール37の車幅方向中央部にて、ボンネット支持効果の向上を図るように構成したものである。
<カバー部の構造>
図7、
図8に示すように、上述のカバー部33は、車幅方向外側に位置する外辺部33aと、車両前方に位置する前辺部33bと、この前辺部33bの車幅方向内端から車幅方向内側かつ車両後方に傾斜して延びる前側傾斜辺部33cと、車幅方向内側に位置する内辺部33dと、車両後方に位置する後辺部33eと、を備えている。
【0062】
また、上述のカバー部33は、上記各辺部33a~33eに連続形成されて、バッテリ配置空間34の上方を覆うカバー本体33fを備えている。
上述の前辺部33bに対応するカバー本体33fの前部には、スカート部33gを介してフランジ部33hが一体形成されており、上述の前側傾斜辺部33cに対応するカバー本体33fの前部にも、スカート部33iを介してフランジ部33jが一体形成されている。
【0063】
さらに、
図8、
図3、
図4に示すように、上述のカバー部33における後辺部33eには、カバー本体33fの後側下面から後方に延びる複数の支持片33k,33m,33nが、車幅方向に間隔を隔てて一体形成されている。
【0064】
図3、
図4、
図7、
図8に示すように、上述のカバー部33におけるカバー本体33fは孔が存在しない無孔構造で、かつカバー本体33fの上面は滑らかな略平坦形状に構成されている。これにより、孔が存在する有孔構造のカバー部に対して、当該カバー部33の剛性を確保するように構成している。
【0065】
また、
図3、
図4に示すように、上述のカバー部33におけるカバー本体33fの下面には、複数のリブ33pが一体形成されており、これにより、カバー部33の剛性向上を図るように構成している。
【0066】
さらに、
図3、
図4、
図8に示すように、上述のカバー部33における後辺部33eには、カバー本体33fの後側下面から後方に延びる上述の支持片33k,33m,33nが一体形成されており、
図3、
図4に示すように、この支持片33k,33mとカバー本体33f後端部との間に、メンバ部31のフランジ部31iを挟み込んで支持している。
【0067】
このフランジ部31iの挟み込み位置において、カバー部33のカバー本体33f後端部下面とフランジ部31i上面との間には遮熱シール材41が介設されている。
上述のカバー部33の後部によるフランジ部31iの挟み込み構造により、メンバ部31のフランジ部31iの変形を防止すべく構成している。
【0068】
さらに、上述のカバー部33はメンバ部31に対して高剛性に形成されている。
すなわち、上述のメンバ部31は相対的に剛性が低い樹脂、例えば、PP(polypropylene、ポリプロピレン)により形成される一方で、カバー部33はPPに対して剛性が高いタルク強化樹脂または繊維強化樹脂により構成されている。
【0069】
上述の繊維強化樹脂としてはGFRP(Glass Fiber Reinforced Plastics ガラス繊維強化プラスチック)が好ましい。
このように、メンバ部31に対してカバー部33の剛性を高く設定することで、カバー部33でメンバ部31を支持している部分(支持片33k,33m,33n参照)の局所変形を防止し、荷重入力時におけるメンバ部31の縦壁部、特に、前側縦壁部31dの変形挙動の安定化を図るように構成している。
【0070】
さらに、
図3、
図4に示すように、上述のカバー部33は、カウルシール取付け部としての取付け座31jの上下方向位置(高さ位置)に対して下方に位置している。
これにより、取付け座31jに設けられるカウルシール37とカバー部33との間、換言すれば、ボンネット18のボンネットインナパネル20下面とカバー部33上面との間には、上下方向の空間(上方空間39参照)が形成され、歩行者保護に対して有利となる。
<仕切部の構成>
図4、
図9に示すように、上述の前方仕切部35はカバー部33のフランジ部33h,33jから下方に延びてエンジンルーム1とバッテリ配置空間34との間を仕切ると共に、カバー部33を下方から支持している。
【0071】
図4に示すように、この前方仕切部35の上下には上部フランジ35aと下部フランジ35bとが一体形成されている。前方仕切部35の上部フランジ35aとカバー部33のフランジ部33h,33jとの間には遮熱シール材42が介設されている。
また、
図4に示すように、前方仕切部35の下部フランジ35bとサスペンションタワー部14との間にも、遮熱シール材43が介設されている。
【0072】
図9に示す側方仕切部36は、カバー部33のフランジ部33jから下方に延びてエンジンルーム1とバッテリ配置空間34との間を仕切ると共に、カバー部33を下方から支持するものである。当該側方仕切部36の垂下前部36aは、遮熱シール材(図示せず)を介して、サスペンションハウジング44に当接している。
また側方仕切部36の下方への垂下エンド部36bは、遮熱シール材(図示せず)を介して、フロントサイドフレーム13の上部に当接している。
【0073】
さらに、この実施例においては、
図9に示すように、カウルグリル30のメンバ部31の下面全体を覆って車両前後方向かつ車幅方向に延びる上端仕切部45と、ダッシュロアパネル3から前方に離間して当該ダッシュロアパネル3の前方を覆う後方仕切部46と、上述の上端仕切部45の前部下面と後方仕切部46の上端折曲げ部46aの前部上面との間を、車幅方向に延びて覆う上方仕切部47と、を備えている。
【0074】
上述の前方仕切部35、側方仕切部36および上端仕切部45としては、ポリプロピレン材に強化材としてのガラス繊維を30%含有させたインシュレータが用いられ、上述の後方仕切部46および上方仕切部47としては、グラスウール(glass wool)製のインシュレータが用いられる。
ここで、上述の上端仕切部45および上方仕切部47は、車体に固定されたエンジンユニットの後方上面を覆うインシュレータである。
【0075】
グラスウールは遮熱性に優れることに加えて、吸音性にも優れているので、後方仕切部46、上方仕切部47としてグラスウールを採用することで、エンジン騒音が車室2内に伝播することを抑制し、吸音効果をも確保できる。
【0076】
要するに、上述のカウルグリル30は、
図4、
図6、
図9、
図10に示すように、上記フロントウインドシールド11の下方において車幅方向に延びるメンバ部31と、上記メンバ部31の前方に位置してバッテリ27の上方を覆うカバー部33と、上記カバー部33から下方に延びて上記エンジンルーム1とバッテリ配置空間34とを仕切る仕切部(前方仕切部35、側方仕切部36)と、を備え、メンバ部31の前側縦壁部31dは上記カバー部33によって下側から支持されたものである。
【0077】
これにより、メンバ部31の前側縦壁部31dをカバー部33により下側から支持し、当該前側縦壁部31dの沈み込みを抑制すべく構成している。この結果、荷重入力時に、荷重入力部31Fから前辺部31gを介して前角部31bに荷重を伝達し、当該前角部31bを支点とする折り畳み変形により、歩行者保護性能を確保するように構成したものである。
【0078】
図1に示すように、上述のメンバ部31の車幅方向の左右両端部は、締結部材48を用いて、車体としてのエプロンレインフォースメント12に締結支持されており、当該メンバ部31の車幅方向中間部は、
図6、
図10に示すように、インシュレータとしての上端仕切部45と上方仕切部47とにより下側から支持されている。
【0079】
このように、メンバ部31の車幅方向中間部を上述の各仕切部45,47により支持することで、荷重入力部31Fからの荷重を、これらの各仕切部45,47にて支え、メンバ部31における縦壁部31d,31e、特に、前側縦壁部31dの変形挙動を安定させるように構成している。
【0080】
図6、
図10に示すように、上述のメンバ部31において、上記前辺部31gと上記後辺部31hとは一体で構成されており、これら前辺部31gと後辺部31hとのうちの後辺部31hにはメッシュ構造の外気導入孔38が開口形成されている。
【0081】
このように、上述の後辺部31hに外気導入孔38が設けられていても、上記荷重入力部31Fをボンネット18側に向けて上方へ突出させているので、上述したように前角部31b、後角部31cへの荷重伝達を図るように構成している。すなわち、外気導入孔38の開口面積の確保と、歩行者保護との両立を図るように構成したものである。
【0082】
図6、
図10に示すように、上述の荷重入力部31Fには、当該荷重入力部31Fから上方に延びてカウルシール37を取付けるカウルシール取付け部としての取付け座31jが一体形成されている。そして、荷重入力部31Fと取付け座31jとの間の上下寸法L(
図6参照)は、車両平面視で上述の外気導入孔38が設けられる車幅方向の領域、すなわち、外気導入孔形成領域α(
図1参照)において、略一定の上下寸法に形成されている。
これにより、外気導入孔形成領域α内において、荷重入力部31Fの剛性を一定と成し、荷重入力時におけるメンバ部31の変形挙動を安定させるように構成している。
【0083】
すなわち、歩行者がボンネット18に乗り上げて、その荷重を吸収する際、荷重入力部31Fとカウルシール37の取付け座31jとの間の上下寸法に、車幅方向の位置において、ばらつきがある場合には、エネルギ吸収量のばらつきに起因して、障害値が高くなるが、上下寸法Lを略一定とすることで、エネルギ吸収量のばらつきをなくしたものである。
【0084】
ここで、上述の外気導入孔形成領域αは、
図1に示すように、その車幅方向の左端が車両左側のカバー部32の車幅方向内端よりも若干車幅方向右側に位置しており、外気導入孔形成領域αの車幅方向の右端がフロントサイドフレーム13の車幅方向内端面の延長戦上に相当する位置に位置しているが、これに限定されるものではない。
【0085】
なお、
図6、
図9、
図10において、49はダッシュアッパパネル22から車両前方に延びるカウルレインである。また、
図1において車両左側のカバー部32には、車両右側のカバー部33と同一箇所に同一符号を付している。
【0086】
このように、上記実施例の車両のカウルグリル構造は、フロントウインドシールド11の下端に位置し車幅方向に延びてエンジンルーム1と車室2とを車両前後方向に仕切るダッシュパネル(ダッシュロアパネル3)と、上記フロントウインドシールド11の下方で、かつ、上記ダッシュパネル(ダッシュロアパネル3)の車両前方において車体(エプロンレインフォースメント12)に固定されるカウルグリル30と、を備え、上記カウルグリル30は、車幅方向および車両前後方向に延びる上壁部31aと、上記上壁部31aの前端および後端から角部(前角部31b、後角部31c)を介して下方に延びる前側および後側の縦壁部31d,31eと、を備え、上記上壁部31aは、衝突時にボンネット18から下向き荷重が入力される荷重入力部31Fと、上記荷重入力部31Fよりも車両前方側の前辺部31gと、上記荷重入力部31Fよりも車両後方側の後辺部31hと、を備え、上記前辺部31gと上記後辺部31hとは、車両側面視でそれぞれ直線状に形成され、上記荷重入力部31Fは上記ボンネット18側に向けて上方へ突出するように形成されたものである(
図1、
図6、
図10参照)。
【0087】
この構成によれば、衝突時に、ボンネット18から上記荷重入力部31Fに下向き荷重f1が入力されると、当該荷重入力部31Fを下方へ回動させる力(モーメント)が生じるが、荷重入力部31Fはボンネット18側に向けて上方に突出して設けられているため、前辺部31g側の前角部31bと後辺部31h側の後角部31cとに荷重を伝達する成分f2,f3(すなわち、面内方向の荷重成分)と、前辺部31g側の前角部31bと後辺部31h側の後角部31cとから面内方向へ作用する反力f4,f5と、が生じ、上壁部31aの面外変形が抑制される。
【0088】
したがって、上壁部31aの沈み込みが抑制でき、特に、荷重入力部31Fから前側の角部(前角部31b)へ荷重伝達することができて、当該角部31bを支点とする曲げ変形が促進される。
このため、材料の剛性を下げても前角部31bに荷重を伝達して、当該前角部31bを支点とする折り畳み変形により、衝撃エネルギ吸収用の充分なストロークを確保することができる。
【0089】
また、この発明の一実施形態においては、上記カウルグリル30は、上記フロントウインドシールド11の下方において車幅方向に延びるメンバ部31と、上記メンバ部31の前方に位置して補機類(バッテリ27)の上方を覆うカバー部33と、上記カバー部33から下方に延びて上記エンジンルーム1と補機類側の空間(バッテリ配置空間34)とを仕切る仕切部(前方仕切部35、側方仕切部36)と、を備え、上記メンバ部31は、上記上壁部31aと、上記縦壁部31d,31eとを有し、上記前側の縦壁部(前側縦壁部31d)は上記カバー部33によって下側から支持されたものである(
図3、
図4、
図9参照)。
【0090】
この構成によれば、前側の縦壁部(前側縦壁部31d)をカバー部33により下側から支持しているので、当該縦壁部31dの沈み込みが抑制でき、これにより荷重入力時には、荷重入力部31Fから前辺部31gを介して前角部31bに荷重を伝達することができ、当該前角部31bを支点とする折り畳み変形により、歩行者保護性能を確保することができる。
【0091】
さらに、この発明の一実施形態においては、上記メンバ部31の前方の縦壁部31dにはフランジ部31iが形成されており、上記カバー部33の後部は上記メンバ部31の上記フランジ部31iを挟み込んで支持しているものである(
図3、
図4参照)。
この構成によれば、カバー部33の後部によるフランジ部31iの挟み込み構造により、メンバ部31のフランジ部31iの変形を防止することができる。
【0092】
さらにまた、この発明の一実施形態においては、上記カバー部33は上記メンバ部31に対して高剛性に形成されたものである(
図3、
図4参照)。
この構成によれば、上述のカバー部33はメンバ部31に対して剛性が高いので、カバー部33でメンバ部31を支持している部分が局所変形しない。この結果、上記縦壁部(前側縦壁部31d)の変形挙動を安定させることができる。
【0093】
加えて、この発明の一実施形態においては、車体に固定されエンジンユニットの後方上面を覆うインシュレータ(上端仕切部45、上方仕切部47)を備え、上記メンバ部31の車幅方向両端部は車体(エプロンレインフォースメント12)に支持され、上記メンバ部31の車幅方向中間部は上記インシュレータ(上端仕切部45、上方仕切部47)に支持されたものである(
図6、
図10参照)。
【0094】
この構成によれば、メンバ部31の車幅方向中間部を上述のインシュレータ(上端仕切部45、上方仕切部47)により支持しているので、荷重入力部31Fからの荷重をインシュレータ(上端仕切部45、上方仕切部47)にて支えることができ、上述のメンバ部31における縦壁部(前側縦壁部31d)の変形挙動を安定させることができる。
【0095】
また、この発明の一実施形態においては、上記前辺部31gと上記後辺部31hとは一体で構成されており、上記後辺部31hに外気導入孔38が設けられるものである(
図10参照)。
【0096】
この構成によれば、後辺部31hに外気導入孔38が設けられても、上述の荷重入力部31Fをボンネット18側に向けて上方へ突出させているので、上述したように角部(特に、前角部31b)への荷重伝達を図ることができる。すなわち、外気導入孔38の開口面積の確保と、歩行者保護との両立を図ることができるものである。
【0097】
さらに、この発明の一実施形態においては、上記荷重入力部31Fには、当該荷重入力部31Fから上方に延びてカウルシール37を取付けるカウルシール取付け部(取付け座31j)が形成されており、上記荷重入力部31Fと上記カウルシール取付け部(取付け座31j)との間の上下寸法L(
図6参照)は、車両平面視で上記外気導入孔38が設けられる車幅方向の領域(外気導入孔形成領域α)内において、略一定の上下寸法に形成されたものである(
図1、
図6、
図10参照)。
【0098】
この構成によれば、次の如き効果がある。
すなわち、歩行者がボンネット18に乗り上げて、その荷重を吸収する時、荷重入力部31Fとカウルシール取付け部(取付け座31j)との間の上下寸法Lに車幅方向の位置において、ばらつきがある場合には、エネルギ吸収量のばらつきに起因して、障害値が高くなるが、上記領域(外気導入孔形成領域α)内での上下寸法Lを略一定にすることで、当該領域(外気導入孔形成領域α)内において、荷重入力部31Fの剛性が一定となり、これにより、メンバ部31の変形挙動を安定させることができる。
【0099】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、
この発明のダッシュパネルは、実施例のダッシュロアパネル3に対応し、
以下同様に、
車体は、エプロンレインフォースメント12に対応し、
補機類は、バッテリ27に対応し、
角部は、前角部31b、後角部31cに対応し、
縦壁部は、前側縦壁部31d、後側縦壁部31eに対応し、
カウルシール取付け部は、取付け座31jに対応し、
補機類側の空間は、バッテリ配置空間34に対応し、
仕切部は、前方仕切部35、側方仕切部36に対応し、
インシュレータは、上端仕切部45、上方仕切部47に対応し、
外気導入孔が設けられる車幅方向の領域は、外気導入孔形成領域αに対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明は、フロントウインドシールドの下端に位置し車幅方向に延びてエンジンルームと車室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、上記フロントウインドシールドの下方で、かつ、上記ダッシュパネルの車両前方において車体に固定されるカウルグリルと、を備えたような車両のカウルグリル構造について有用である。
【符号の説明】
【0101】
1…エンジンルーム
2…車室
3…ダッシュロアパネル(ダッシュパネル)
11…フロントウインドシールド
12…エプロンレインフォースメント(車体)
18…ボンネット
27…バッテリ(補機類)
30…カウルグリル
31…メンバ部
31a…上壁部
31b…前角部(角部)
31c…後角部(角部)
31d…前側縦壁部(縦壁部)
31e…後側縦壁部(縦壁部)
31F…荷重入力部
31g…前辺部
31h…後辺部
31i…フランジ部
31j…取付け座(カウルシール取付け部)
33…カバー部
34…バッテリ配置空間(補機類側の空間)
35…前方仕切部(仕切部)
36…側方仕切部(仕切部)
37…カウルシール
38…外気導入孔
45…上端仕切部(インシュレータ)
47…上方仕切部(インシュレータ)
α…外気導入孔形成領域(外気導入孔が設けられる車幅方向の領域)