(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム及び燃料電池システムの発電方法
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04 20160101AFI20250212BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250212BHJP
【FI】
H01M8/04 N
H01M8/04 J
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2021039230
(22)【出願日】2021-03-11
【審査請求日】2024-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石田 英伸
【審査官】大内 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-108436(JP,A)
【文献】特開2005-129494(JP,A)
【文献】特開2005-216708(JP,A)
【文献】特開2005-11563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/2495
B60L 50/00-58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有ガスに燃料ガスを反応させて発電させる燃料電池スタックと、
前記燃料電池スタックの発電で生じる排ガスを系外に排出させる排出路と、
前記排ガスに含まれる生成水を回収する生成水通路と、
前記生成水通路に設けられて前記生成水を適時冷却可能な水冷却器と、
前記水冷却器の下流側で前記生成水通路に接続されて前記生成水を用いて前記燃料電池スタックへ流入しようとする前記酸素含有ガスから水溶性被毒物質を除去するフィルタ部と、
前記フィルタ部に接続されて前記フィルタ部で使用されて前記水溶性被毒物質を含む前記生成水を系外へ排出する排液管と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項2】
前記酸素含有ガスの供給路において前記フィルタ部の上流側に設けられる圧縮機と、
前記フィルタ部が内設される加湿器と、
前記加湿器に内設されるとともに前記生成水通路に接続されて前記フィルタ部よりも高い温度の前記生成水が供給される加湿部と、を備える請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記生成水通路に設けられて前記フィルタ
部に貯水した前記生成水を供給する貯水部と、を備える請求項1または請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記生成水通路に設けられて前記フィルタ部および前記加湿部の少なくとも一方に貯水した前記生成水を供給する貯水部と、を備える請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記排出路において前記生成水通路との接続部より下流側に設けられて前記生成水通路への前記生成水の取り出し時に閉止されるアウトレット弁を備える請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記フィルタ部の反応空気通路の口径は、50μm~500μmである請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
酸素含有ガスに燃料ガスを反応させて発電させるステップと、
燃料電池スタックの発電で生じる排ガスを系外に排出させるステップと、
前記排ガスに含まれる生成水を回収するステップと、
回収した前記生成水を適時冷却するステップと、
冷却した後の前記生成水を被毒物質フィルタ
に供給して前記燃料電池スタックへ流入しようとする前記酸素含有ガスから水溶性被毒物質を
前記被毒物質フィルタで除去するステップと、
前記被毒物質フィルタで使用されて前記水溶性被毒物質を含む前記生成水を系外へ排出するステップと、を含むことを特徴とする燃料電池システムの発電方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応空気の浄化機能を有する燃料電池システム及びその発電方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、大気中などから燃料電池システムに侵入する硫化水素、二酸化硫黄などのSOX系分子及び二酸化窒素などのNOX系分子(以下、これらをまとめて「水溶性被毒物質」という)は、燃料電池スタックでの化学反応を阻害するいわゆる被毒物質である。よって、被毒物質が蓄積されるとガス拡散性の低下、不純物カチオンに起因する固体高分子膜の電導性の低下又は出力特性の劣化が生じる。
そこで、従来から、燃料電池スタックの空気供給路に被毒物質フィルタを設置して、これらの不純物を除去してクリーンになった空気を燃料電池スタックに供給することがある。
なお、これらの水溶性被毒物質が水に溶けやすいことに着目して、フィルタが湿潤状態に維持された被毒物質フィルタを被毒物質フィルタとして用いることもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の技術では、燃料電池システムに侵入する水溶性被毒物質を効率的に除去することができずに被毒物質フィルタの寿命が短く、また大型になるという課題があった。
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、コンパクトで長寿命な被毒物質フィルタを有する燃料電池システム及びその発電方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態に係る燃料電池システムは、酸素含有ガスに燃料ガスを反応させて発電させる燃料電池と、前記燃料電池の発電で生じる排ガスを系外に排出させる排出路と、前記排ガスに含まれる生成水を回収する生成水通路と、前記生成水通路に設けられて前記生成水を適時冷却可能な水冷却器と、前記水冷却器の下流側で前記生成水通路に接続されて前記生成水を用いて前記燃料電池へ流入しようとする前記酸素含有ガスから水溶性被毒物質を除去するフィルタ部と、前記フィルタ部に接続されて前記フィルタ部で使用されて前記水溶性被毒物質を含む前記生成水を系外へ排出する排液管と、を備えるものである。
【0006】
また、本実施形態に係る発電方法は、酸素含有ガスに燃料ガスを反応させて発電させるステップと、前記燃料電池の発電で生じる排ガスを系外に排出させるステップと、前記排ガスに含まれる生成水を回収するステップと、前記生成水通路を流動する前記生成水を適時冷却するステップと、前記水冷却器の下流側で前記生成水通路に接続される被毒物質フィルタに前記生成水を供給して前記燃料電池へ流入しようとする前記酸素含有ガスから水溶性被毒物質を除去するステップと、前記被毒物質フィルタで使用されて前記水溶性被毒物質を含む前記生成水を系外へ排出するステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、コンパクトで長寿命な被毒物質フィルタを有する燃料電池システム及びその発電方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図。
【
図2】硫化水素の温度と水への溶解度の関係を示すグラフ。
【
図3】第1実施形態における被毒物質フィルタの概略斜視図。
【
図4】第2実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図。
【
図5】第2実施形態における加湿機能付きフィルタを反応空気の流方向に沿って切断した拡大概略断面図。
【
図6】(A)~(C)実施例で用いた円筒形の空気流路のモデルを示す図。
【
図7】空気流路内の硫化水素濃度分布の解析結果を示す等高線図。
【
図8】入口から1mmの地点の断面内の硫化水素の濃度の分布を示すグラフ。
【
図9】空気流路の流路半径Rを変化させて、被毒物質フィルタの奥行と硫化水素の透過率を解析した結果を示すグラフ。
【
図10】硫化水素の透過率が5%となるときの被毒物質フィルタの奥行を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
【0010】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係る燃料電池システム100の概略構成図である。
燃料電池システム100は、主に、燃料電池スタック11に複数の流路(12~14)が直接的又は間接的に接続され、さらにこれらの流路(12~14)上に周辺機器(16~23,25,26)が設けられて構成される。
燃料電池スタック11は、例えば固体高分子型燃料電池であり、大気中の空気に代表される酸素含有ガスに、水素などの燃料ガスを反応させて発電させる。
【0011】
以下、酸素含有ガスとして大気中の空気(以下、「反応空気」という)αを供給する例で、また、燃料ガスとして水素を供給する例で説明する。また、燃料電池スタック11が固体高分子型燃料電池である例で説明する。この例では、燃料電池スタック11の燃料極において、水素が水素イオンと電子とに分解される。水素イオンは固体高分子膜を通って空気極に移動し、電子は外部回路を通って空気極に流れ込み、これらが空気極に供給された空気中の酸素と反応して水が生成される。
【0012】
この空気極には、反応空気αを供給する供給路12と、発電により生成された水(生成水)及び未反応だった空気を排ガスとして系外に排出する排出路13と、が接続される。
供給路12には、上流側から順に被毒物質フィルタ16、圧縮機17、空気冷却器18、加湿器19、及びインレット弁20が設けられる。
つまり、圧縮機17からみると、反応空気αの流方向の上流側に被毒物質フィルタ16が設けられ、下流側に空気冷却器18、加湿器19、及びインレット弁20が設けられる。
【0013】
圧縮機17は、燃料電池スタック11での発電効率を上げるため、大気中の反応空気αを圧縮して燃料電池スタック11に送り込む。この圧縮機17には、求められる空気圧縮率に応じて例えばコンプレッサやブロワなどが用いられる。
空気冷却器18は、圧縮機17により断熱圧縮されることで昇温した反応空気αを冷却する。
【0014】
加湿器19は、燃料電池スタック11に流入する反応空気αの湿度を上げることで固体高分子膜を湿潤状態に維持する。固体高分子型燃料電池では固体高分子膜の湿度が導電性に影響するため、電導性が低下することを防止するためである。なお、加湿器19は、例えば透湿膜、中空糸膜を使用した気化式が好ましいが、特に加湿方式は限定されない。気化方式以外にも、蒸気供給方式や水噴霧方式など適宜加湿器19に採用することができる。
【0015】
また、排出路13には、アウトレット弁21が設けられ、燃料電池スタック11からの排ガスの排出量や燃料電池スタック11の圧力を調整したり、システム停止時に外部から燃料電池スタック11への酸素流入を防止したりする。
また、この排出路13には、アウトレット弁21の下流側に生成水通路14が接続される。燃料電池スタック11の排出路13側の圧力は変動するため、圧力が一定となりアウトレット弁21を通過した後の大気圧の状態に安定した生成水Wを利用するためである。
【0016】
この生成水通路14は、供給路12上で圧縮機17の上流側に設置された被毒物質フィルタ16に接続される。発電で生成されて排ガスに含まれる生成水Wを回収して被毒物質フィルタ16に供給する。
被毒物質フィルタ16に供給された生成水W1は、被毒物質フィルタ16を湿潤にして圧縮機17に流入しようとする反応空気αから前述の硫化水素、SOX系分子及びNOX系分子等の水溶性被毒物質を溶解吸収する。よって、被毒物質フィルタ16により、大気中から水溶性被毒物質が燃料電池スタック11に侵入することが防止され、燃料電池システム100の反応を阻害する要因が低減される。
【0017】
また、生成水通路14には水冷却器23が設けられており、生成水通路14を流動する生成水W1を冷却する。水冷却器23は、例えば、大気と生成水W1との間で熱交換をさせる熱交換機つまりインタークーラーのような空冷機構である。
水冷却器23には、この水冷却器23を迂回するバイパス菅24及び例えば三方弁型の電磁弁であるバイパス弁25が設けられている。生成水W1の冷却が必要なときには、バイパス弁25のバイパス側の弁を閉止して水冷却器23に生成水W1を流通させる。一方、発電開始直後など、生成水Wが大気の温度程度である場合には大気との熱交換は不要なため、生成水W1はバイパス菅24に通され水冷却器23を迂回する。つまり、冷却が必要な場合にのみ生成水W1を水冷却器23に通して冷却することが可能な構造である。
【0018】
水冷却器23により、排出路13への排出時には60~90℃程度であった生成水Wは、40℃以下にまで冷却される。
ここで、
図2は理科年表のデータに基づく硫化水素の温度と水への溶解度の関係を示すグラフである。
【0019】
硫化水素の溶解度は、
図2に示されるように、温度が上昇すると水への溶解度が減少する単調減少関数で表される。換言すると、温度が低下すると硫化水素の気体は水へ溶けやすくなるということである。このグラフは、40℃付近でグラフの傾きが大きくなり、40℃以下での溶解度が大幅に増加している。また、図示を省略するが、SO
X系分子及びNO
X系分子もまた40℃付近でグラフの傾きが強くなる温度の単調減少関数である。例えば、硫化水素が1気圧の下で1cm
3の水に溶け込む量は、40℃のときに1.66[cm
3]であるのに対して20℃では2.58[cm
3]と約3倍溶け込む。
よって、生成水W
1を水冷却器23において40℃以下にまで冷却することで、効率的に水溶性被毒物質を吸着除去させることができる。
【0020】
なお、生成水Wは0℃以下では凍結することを考慮すると、水冷却器23で実現する温度範囲は0~40℃である。また、
図2のグラフからわかるように、0℃以上の条件下で温度が低いほど硫化水素の溶解度が高まるため、より好ましくは、生成水W
1の温度範囲は3~30℃の範囲であることが望ましい。さらには、生成水W
1の温度範囲は、5~20℃であることが望ましい。
【0021】
被毒物質フィルタ(フィルタ部)16で水溶性被毒物質を含んで汚濁水となった生成水W
2は、排液管35から被毒物質フィルタ16のハウジング37(
図3)から系外に排出される。
【0022】
なお、生成水通路14には、貯水部22及び例えば三方弁の水分岐弁26が設けられている。
水分岐弁26を調整することで、生成水通路14を流れる生成水Wの一部が水分岐管36に分岐されて加湿器19に供給される。
【0023】
なお、加湿器19に接続される生成水W3を排出する排水管33には、圧縮機17による加圧中に閉止される背圧弁44が設けられている。また、図示を省略するが、排水管33には生成水通路14に接続される還元管が設けられていてもよい。加湿器19で使用される生成水W3は冷却水としてまたは湿潤材として再利用可能であるからである。一方、被毒物質フィルタ16で汚濁水となった生成水W2を加湿器19に利用すると、水溶性被毒物質が燃料電池スタック11内に流入してしまい燃料電池スタック11が被毒するため好ましくない。
【0024】
貯水部22は、被毒物質フィルタ16または加湿器19に流入する生成水Wの流量を一定に維持するバッファタンクの機能を有する。例えば、発電開始直後には、燃料電池スタック11では被毒物質フィルタ16及び加湿器19に供給するのに十分な水は生成されていない。そこで、前回の発電で生成した水を貯水部22に貯水することで発電再開直後から被毒物質フィルタ16及び加湿器19に生成水Wを供給することができる。また、予め貯水部22に水を供給しておくことで、生産工場内での発電試験時に、発電開始直後から被毒物質フィルタ16及び加湿器19に水を供給することができる。
【0025】
次に、
図3の被毒物質フィルタ16の概略斜視図を用いて、被毒物質フィルタ16について説明する。
被毒物質フィルタ16は、例えば
図3に示されるような吸水性または親水性を有する糸状多孔性材料で構成されて、ハウジング37内に直立状態で保持されている。例えば
図3に示されるように、前述多孔性材料に円筒形の空隙を間隔をおいて設けることで、各円筒内を反応空気が流れる構成である。
【0026】
ハウジング37は、被毒物質フィルタ16の長手方向に沿って反応空気αが流れるように空気導入管38及び空気排出管(不図示)が接続される。空気排出管は圧縮機17に接続されている。このような構造により、ハウジング37内に導入された反応空気αは、被毒物質フィルタ16を通過した後に圧縮機17に供給される。
【0027】
また、被毒物質フィルタ16の長手方向に沿うハウジング37の側面には、水導入路39及び排液管35(
図1)が接続される。水導入路39は、生成水通路14(
図1)に接続される。
また、被毒物質フィルタ16から流下した不純物溶解水は排液管35(
図1)からハウジング37外に一定割合で排出される。
【0028】
以上のように、第1実施形態に係る燃料電池システム100によれば、被毒物質フィルタ16に供給する生成水W1を冷却することで、水溶性被毒物質を効率よく溶解することができる。また、生成水W1に被毒物質を溶解させて系外に排出し、被毒物質フィルタ16には順次水溶性被毒物質が含有されていない水が供給され続ける。よって、同一の被毒物質フィルタ16を長期間使用することができる。また、被毒物質フィルタ16に供給する生成水W1を冷却するため、コンパクトでも大量の水溶性被毒物質を溶解することができる。つまり、第1実施形態によれば、被毒物質フィルタ16をコンパクトで長寿命にすることができる。
【0029】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係る燃料電池システム100の概略構成図である。
図4においては、加湿機能付きフィルタ16aの説明図も示されている。
また、
図5は、第2実施形態における加湿機能付きフィルタ16aを反応空気αの流方向に沿って切断した拡大概略断面図である。
【0030】
第2実施形態に係る燃料電池システム100は、
図4及び
図5に示されるように、フィルタ部16が
図1に示した加湿器19に内設された加湿機能付きフィルタ16aを備える。
また、供給路12において加湿機能付きフィルタ16aの上流側に圧縮機17が設けられる。
加湿器19の加湿部32は、生成水W
3を水蒸気にして放出することで反応空気αを加湿する。そして、フィルタ部16と加湿部32を交互に並行に複数並べられる。加湿部32には例えば中空糸膜材が充填され、フィルタ部16には例えば不織布が充填される。そして反応空気パス34は、これら加湿部32及びフィルタ部16の間隙として形成される。
【0031】
なお、
図4及び
図5の一例では、
図3で示した第1実施形態の被毒物質フィルタ16とは生成水W
1及び反応空気αの流れる位置が反転している。ただし、生成水W
1の流れる経路に例えば円筒状の充填物が充填されており反応空気αがこの経路の隙間を流通しても、反応空気αの経路に例えば円筒形状の充填物が充填されており生成水W
1がこの経路の隙間を流通してもよい。
また、
図4においては加湿部32、フィルタ部16は円柱状となっているが、それら各円柱は、例えば金属支柱の周囲を巻き込むように形成されてもよい。
【0032】
ところで、被毒物質フィルタ16には、第1実施形態で説明したように低温の生成水W1が付与されることが求められる。一方、加湿部32には、水蒸気発生のためより高温の生成水W3が付与されることが求められる。
【0033】
そこで、加湿機能付きフィルタ16aは、
図4及び
図5に示されるように、加湿部32及びフィルタ部16を例えばマニフォールドのように隔離して備える。加湿部32は、水分岐管36に接続されてフィルタ部16よりも高い温度の加湿用生成水W
3が供給される。
また、フィルタ部16には、生成水通路14aが接続され、フィルタ用生成水W
1が供給される。また、空気導入管38は圧縮機17に接続され、圧縮機17により送風された反応空気αが空気導入管38を介してハウジング37内に流入する。
【0034】
このように加湿用生成水W3及びフィルタ用生成水W1が互いに混入しないように入口で隔離することで、加湿部32及びフィルタ部16に、温度の異なる生成水W1,W3を通流させることができる。よって、加湿機能付きフィルタ16aの内部機器16,32の各々に最適温度の生成水W1,W3を付与することで効率よく加湿および被毒物質の除去ができる。
【0035】
また、上述のように、フィルタ部16と加湿部32とは交互に複数並べられ、その間を反応空気αが流れる。よって、加湿器19と一体型で冷却された生成水W1をフィルタ部16に供給するため、反応空気αの温度を下げることができる。フィルタ部16と加湿部32と異なる温度の水を供給するため、圧縮されて送風される燃料電池システム100の反応空気αの温度上昇を抑えるようにすることで燃料電池システム100の発電効率を上げることができる。
【0036】
また、加湿器19にフィルタ部16を設けることで、圧縮機17の空気の流れとは別箇所の圧力の低い箇所から圧力の高いフィルタ部16内へ生成水W1を供給することができる。この結果、フィルタ部16に生成水W1を加圧せずに染み込ませることができる。
【0037】
また、第2実施形態では、圧縮機17が加湿機能付きフィルタ16aの上流側に配置するため、加湿機能付きフィルタ16aには圧縮機17による圧力がかかる。よって、フィルタ部16に生成水W1を供給するには、ある程度の加圧が必要になる。そこで、排出路13において、生成水通路14はアウトレット弁21の上流側に設けられることが望ましい。そして、生成水Wの取り出し時にアウトレット弁21を閉止して、系外に排気される前の大気圧より高い圧力の生成水Wを生成水通路14に流入させる。なお、気体の溶解度は圧力に比例するため、圧力の高い反応空気αがフィルタ部16を通ることで、効率よく水溶性被毒物質を溶解することができ、加湿機能付きフィルタ16aのフィルタ長を短くすることができる。また、生成水W1を送るための機構が不要であり、加湿機能付きフィルタ16aをコンパクトにすることができる。
【0038】
なお、上述した加湿機能付きフィルタ16aを備えること、加湿機能付きフィルタ16aの上流側に圧縮機17が設けられること、及び生成水通路14がアウトレット弁21の上流側に設けられること以外は第2実施形態は実施形態と同様の構成を備えるため、説明を省略する。
また、図面においても同一の構造には同一の符号、対応する構造にはアルファベットのみが異なる符号を付して説明を省略する。
【0039】
以上のように、第2実施形態によれば、加湿機能付きフィルタ16aをコンパクトにできるとともに、温度調整により発電性能を向上させることができる。
【実施例】
【0040】
図6(A)~
図6(C)は、実施例で用いた円筒形の空気流路41のモデルを示す図である。
実施例では、
図6(A)に示される複数の幾層にも整列積層された円筒形の空気流路41で、水分が存在する部位の付近に硫化水素を含む空気が通過する場合の硫化水素の吸収量を解析により評価した。このとき、各空気流路41間の距離を
図6(B)に示されるように、空気流路41の直径と同一の2Rにした。
【0041】
このモデルでは、円筒内に空気が浸入する場合、硫化水素分子が拡散により円筒の内側面に達したときに水分に吸収されることを仮定した。
円筒内に浸入する空気の硫化水素の濃度が満たす方程式は、次式(1)の拡散方程式で定式化される。
【数1】
ここで、各変数は以下の表(1)及び
図6(A)~
図6(C)のとおりである。
【0042】
【表1】
また、式(1)を数値解析する際に用いた境界条件は以下の表(2)のとおりである。
【0043】
【0044】
そして、式(1)の偏微分方程式を数値的に解くために各辺を差分化し、オイラー法を用いて数値計算を実施した。この際、次式(2)のフォンノイマンの安定性条件を満たすように離散化した。具体的には、式(2)を満たすために、差分化した式(1)において、Nr=50,Δz=10μm、Δt=0.02μsとした。
【数2】
【0045】
また、各方向の位置及び時間の離散化値を次式(3)~(5)のように規定した。
【数3】
【0046】
そして、空気流路41の半径R=300μm、反応空気αの流量=200NL/minと仮定して、被毒物質フィルタの内部の硫化水素濃度の分布を計算した。
図7は、このようなモデルにおける空気流路41内の硫化水素濃度分布の解析結果を示す等高線図である。
図7において、横軸は中心軸Cからの距離r[μm]を表し、縦軸は入口からの距離z[μm]を表す(
図6(C)参照)。
【0047】
図7では、被毒物質フィルタの入口z=0mmにおいては、濃度Cは初期濃度4.1[mmol/m
3]であるが、深度が深くなるにつれ濃度が薄くなり、z=5mmの出口付近では、硫化水素の濃度がほぼ0であることがわかる。また、水分と接する円筒の内面位置r=300μmの近傍では、中央付近より早期に濃度の減少が確認された。
【0048】
次に、入口から1mmの地点の断面内の硫化水素の濃度の分布を
図8に示されるグラフにした。
図8の横軸は中心軸Cからの距離r[μm]を表し、縦軸は硫化水素濃度C[mmol/m
3]を表している。
図8により、円筒の空気流路41の内面から硫化水素が吸収されるため、中心軸Cからの距離rに対して濃度勾配ができて硫化水素が吸収されていくことが確認できた。
【0049】
つまり、
図8から被毒物質フィルタ16の口径は、50μm~500μmであることが望ましいといえる。また、奥行をできるだけ短くすることも加味すると、被毒物質フィルタ16の口径は、100μm~400μmで、さらには200μm~300μmであることがより望ましい。
【0050】
なお、この1mmの地点ではまだ十分に硫化水素が水へ吸収できていないことも確認された。そこで、入口からどの程度の距離まで浸入すれば硫化水素が十分に吸収されて、出口の硫化水素濃度が十分低下するか否かを、空気流路41の半径Rをパラメータとして解析した。
【0051】
図9は、空気流路41の流路半径Rを変化させて、被毒物質フィルタの奥行と硫化水素の透過率を解析した結果を示すグラフである。
図9において、空気流路41の流路半径Rは100μm、200μm、300μm、400μmと変化させている。
また、
図9において、横軸は被毒物質フィルタの奥行すなわち反応空気の流れ方向の厚みL[mm]を表し、縦軸は硫化水素の透過率[%]を表している。なお、ここで透過率は出口分布を積算し入口値に対する割合と定義した。
【0052】
図9から、流路半径R=100μmのときは、被毒物質フィルタの厚みとして1mmとれば十分硫化水素を吸収することがわかる。
また、1つの基準として硫化水素の透過率が5%となるときの被毒物質フィルタの奥行を計算し
図10に示した。
なお、図中の曲線はプロットを最小二乗法で2次フィットした結果である。
【0053】
以上より、被毒物質フィルタにより硫化水素を十分にブロックするには、
図10に示されるような最低のフィルタ奥行の長さが必要であり、条件の1つに算入することが必要であることがわかった。
解析から算出された数値的に流路半径Rと必要なフィルタ奥行長さは以下の表(3)のようにまとめられた。ただし、空気速度vが大きい場合には、表(3)で示される奥行Lは独度に比例して長くとる必要がある。
【0054】
【表3】
以上のように、実施例により水溶性被毒物質を除去するのに必要な最小の形状(被毒物質フィルタ16の孔のサイズに対しての被毒物質フィルタ16の長さと半径R)を決めることができた。よって、被毒物質フィルタ16をコンパクト化できる。
【0055】
また、被毒物質フィルタ16は、硫化水素を吸収すると同時に、空気乾燥時には加湿の機能も有する。よって、加湿器19の容量を縮小することができるため、圧縮機17で昇圧した後の圧損を抑制して、エネルギー損失を低減させることができる。
【0056】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0057】
例えば、円筒が整列して構成されるフィルタを被毒物質フィルタとした例で説明したが、反応空気を水中に泡として放出するバブリングの手法を用いてもよい。また、水中へ反応空気をバブリングするのとは反対に、反応空気へ生成水を噴霧してもよい。
また、上流側の被毒物質フィルタと下流側の圧縮機との間に反応空気に含まれる水滴を除去する機構を設けて圧縮機を水分から保護してもよい。
さらに、各実施形態で示した水溶性被毒物質の除去技術は、水素に適用することもできる。
【符号の説明】
【0058】
100…燃料電池システム、11…燃料電池スタック、12…供給路、13…排出路、14…生成水通路、16…被毒物質フィルタ(フィルタ部)、16a(16)…加湿機能付きフィルタ、17…圧縮機、18…空気冷却器、19…加湿器、20…インレット弁、21…アウトレット弁、22…貯水部、23…水冷却器、24…バイパス菅、25…バイパス弁、26…水分岐弁、32…加湿部、33…排水管、34…反応空気パス、35…排液管、36…加湿器接続管、37…ハウジング、38…空気導入管、39…水導入路、41…空気流路、44…背圧弁、C…中心軸、W(W1~W3)…生成水、α…反応空気。