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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】絶縁電線およびワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/08 20060101AFI20250212BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H01B7/08
H01B7/00 301
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021054540
(22)【出願日】2021-03-29
(65)【公開番号】P2022151965
(43)【公開日】2022-10-12
【審査請求日】2023-07-25
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 亨
(72)【発明者】
【氏名】古川 豊貴
(72)【発明者】
【氏名】佐橋 響真
(72)【発明者】
【氏名】山田 芳隆
【審査官】中嶋 久雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/088419(WO,A1)
【文献】特開2017-224565(JP,A)
【文献】特開2010-282748(JP,A)
【文献】特開2011-014427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/08
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体と、
前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、
前記導体は、軸線方向に直交する断面が、幅方向の寸法が高さ方向の寸法よりも大きい扁平形状となった扁平部を有しており、
前記扁平部において、前記絶縁電線の前記幅方向への曲げ剛性が、前記高さ方向への曲げ剛性の3.0倍以上であり、
前記導体は、外径が0.30mm以下の素線を複数撚り合わせた撚線として構成されており、
導体断面積が100mm 以上である、絶縁電線。
【請求項2】
前記導体の前記断面において、前記幅方向の寸法が、前記高さ方向の寸法の3.0倍以上である、請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
前記幅方向への曲げ剛性は、0.5N・m以上である、請求項1または請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
前記高さ方向への曲げ剛性は、0.3N・m未満である、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項5】
前記導体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されている、請求項1から請求項のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項6】
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の絶縁電線を含む、ワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、絶縁電線およびワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
扁平状の導体を用いて構成したフラットケーブルが公知である。フラットケーブルを用いることで、断面略円形の導体を備えた一般的な電線を用いる場合と比較して、配策の際に占めるスペースを小さくすることができる。
【0003】
従来一般のフラットケーブルにおいては、特許文献1,2等に開示されるように、導体として、平角導体がしばしば用いられる。平角導体は、金属の単線を断面四角形に成形したものである。また、出願人らの出願による特許文献3,4には、柔軟性と省スペース性を両立する観点から、複数の素線を撚り合わせた撚線を扁平形状に成形した電線導体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-130739号公報
【文献】特開2019-149242号公報
【文献】国際公開第2019/093309号
【文献】国際公開第2019/093310号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
扁平形状の導体を備えた電線を、自動車内等、所定の空間に配策する際に、配策経路において、扁平形状の高さ方向(フラット方向)に曲げるようにすれば、曲げを容易に行うことができ、電線に印加される負荷も小さく済むうえ、扁平形状による省スペース性を有効に活用して、配策を行うことができる。しかし、電線の具体的な構成によっては、扁平形状の高さ方向のみならず、幅方向(エッジ方向)にも曲がってしまう場合がある。扁平形状の高さ方向に電線を曲げて配策することを想定して、電線の設計や配策経路の設定を行っている場合に、幅方向への曲げが起こってしまうと、配策作業の障害となり、所定の経路に電線を配策するのが難しくなる。高さ方向に選択的に電線を曲げることができれば、電線の配策性が向上する。
【0006】
そこで、導体の断面が扁平形状になった絶縁電線であって、扁平形状の高さ方向への曲げの選択性に優れた絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の絶縁電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記導体は、軸線方向に直交する断面が、幅方向の寸法が高さ方向の寸法よりも大きい扁平部を有しており、前記扁平部において、前記絶縁電線の前記幅方向への曲げ剛性が、前記高さ方向への曲げ剛性の2.6倍以上である。
【0008】
本開示のワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を含む。
【発明の効果】
【0009】
本開示にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスは、導体の断面が扁平形状になった絶縁電線であって、扁平形状の高さ方向への曲げの選択性に優れた絶縁電線、およびそのような絶縁電線を備えたワイヤーハーネスとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線を示す断面図である。
図2図2は、曲げ剛性の計測方法を説明する側面図である。
図3図3は、曲げ剛性の計測において、得られるたわみと曲げ荷重の関係を示す図である。
図4図4は、曲げ応力の計測方法を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示にかかる絶縁電線は、導体と、前記導体の外周を被覆する絶縁被覆と、を有する絶縁電線であって、前記導体は、軸線方向に直交する断面が、幅方向の寸法が高さ方向の寸法よりも大きい扁平部を有しており、前記扁平部において、前記絶縁電線の前記幅方向への曲げ剛性が、前記高さ方向への曲げ剛性の2.6倍以上である。
【0012】
上記絶縁電線においては、扁平形状の幅方向への曲げ剛性が、高さ方向への曲げ剛性の2.6倍以上となっていることにより、高さ方向への曲げとの比較において、幅方向への曲げを起こしにくくなっている。つまり、高さ方向への曲げの選択性が高くなっている。そのため、絶縁電線を配策する際に、意図しない幅方向への曲げを避けながら、高さ方向に曲げを加えて配策を行う作業が、行いやすくなる。
【0013】
ここで、前記導体は、複数の素線を撚り合わせた撚線として構成されているとよい。すると、導体の曲げ柔軟性が高くなり、扁平形状の高さ方向への曲げを伴って、絶縁電線の配策を行いやすくなる。導体が単線よりなる場合と比較して、扁平形状の幅方向への柔軟性も高くなるが、上記のように、幅方向への曲げ剛性を、高さ方向への曲げ剛性の2.6倍以上としておくことで、意図しない幅方向への曲げの発生を、十分に抑制することができる。
【0014】
この場合に、前記導体の前記断面において、前記幅方向の寸法が、前記高さ方向の寸法の3.0倍以上であるとよい。すると、導体の扁平形状の扁平性が高くなることにより、絶縁電線において、高さ方向への曲げ剛性に対する幅方向への曲げ剛性の比率を効果的に高めることができる。
【0015】
また、前記素線の外径は、0.32mm以下であるとよい。撚線を構成する素線が細くなると、導体が全体的に柔軟になる。そのため、扁平形状の高さ方向に絶縁電線を曲げやすくなる。一方で、幅方向には、素線間の摩擦力の影響により、高さ方向ほどには曲げやすさが向上しない。このため、絶縁電線において、高さ方向への曲げの選択性を高めやすくなる。
【0016】
また、導体断面積が100mm以上であるとよい。導体断面積が大きい絶縁電線は、柔軟に曲げながら配策することが困難な場合もあるが、本開示の絶縁電線においては、扁平形状の高さ方向への選択的な曲げやすさを利用して、簡便に配策を行うことができる。
【0017】
前記幅方向への曲げ剛性は、0.5N・m以上であるとよい。すると、意図しない幅方向への絶縁電線の曲がりを効果的に抑制することができる。
【0018】
前記高さ方向への曲げ剛性は、0.3N・m未満であるとよい。すると、高さ方向への絶縁電線の曲げを効果的に促進することができる。
【0019】
前記導体は、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成されているとよい。アルミニウムおよびアルミニウム合金は、銅および銅合金よりも導電率が低いために、導体断面積を大きくして絶縁電線が設計されることも多いが、本開示の絶縁電線においては、扁平形状の高さ方向への選択的な曲げやすさを利用して、導体断面積が大きくなる場合にも、簡便に配策を行うことができる。
【0020】
本開示にかかるワイヤーハーネスは、前記絶縁電線を含む。このワイヤーハーネスは、上記の絶縁電線を含むことにより、導体の扁平形状の高さ方向への曲げの選択性に優れる。よって、絶縁電線をワイヤーハーネスの形で所定の空間に配策する際に、幅方向への曲げによる影響を抑えながら、高さ方向への曲げを伴う配策を行いやすい。
【0021】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態にかかる絶縁電線およびワイヤーハーネスについて、図面を用いて詳細に説明する。本明細書において、絶縁被覆の各部の形状に関して、直線、平行、垂直等、部材の形状や配置を示す概念には、長さにして概ね±15%程度、また角度にして概ね±15°程度のずれ等、この種の絶縁電線において許容される範囲で、幾何的な概念からの誤差を含むものとする。本明細書において、導体や絶縁電線の断面とは、特記しない限り、軸線方向(長手方向)に垂直に切断した断面を示すものとする。また、各種特性は、室温、大気中にて評価される値とする。
【0022】
<絶縁電線の概略>
図1に、本開示の一実施形態にかかる絶縁電線1の断面図を示す。本実施形態にかかる絶縁電線1は、導体10と、絶縁被覆20とを有している。絶縁被覆20は、導体10の外周を、全周にわたって被覆している。
【0023】
導体10は、金属箔や金属板等、全体が一体に連続した金属材料よりなる単線構造を有していても、複数の素線15を相互に撚り合わせた撚線として構成されていてもよい。図示した形態においては、導体10は、撚線として構成されている。
【0024】
導体10は、軸線方向に沿った少なくとも一部において、扁平な外形を有している。つまり、導体10の軸線方向に垂直に交差する断面が扁平形状となった扁平部を有している。本実施形態においては、導体10の軸線方向全域が、そのような扁平部となっている。ここで、導体10の断面が扁平形状を有しているとは、断面を構成する辺と平行に断面を横切り、断面全体を範囲に含む直線のうち、最長の直線の寸法である幅wが、その直線に直交し、断面全体を範囲に含む直線の寸法である高さhよりも、大きい状態を指す。
【0025】
導体10の断面は扁平形状を有していれば、どのような具体的形状よりなってもよいが、本実施形態においては、導体10の断面は、長方形に近似されるものである。ここで、導体10の断面形状が長方形であるとは、図中に破線で示す導体10の外接図形が、各辺の相互関係において、概ね±15°程度の誤差範囲で、長方形に近似できる状態を指す。長方形以外の扁平形状としては、楕円形、長円形、小判形(長方形の両端に半円を有する形状)、平行四辺形、台形等を例示することができる。
【0026】
導体10が撚線として構成される場合に、導体10は、例えば、複数の素線15を断面略円形に撚り合わせた原料撚線を圧延することで、形成できる。扁平形状への成形に伴い、導体10を構成する各素線15の少なくとも一部は、断面形状が、円形から変形されていてもよい。ただし、導体10において高い柔軟性を確保する観点から、素線15の円形からの変形率は、導体10の断面の外周部において、内側の部位よりも小さくなっているとよい。また、導体10の断面において、各素線15の間には、素線15を1本以上、さらには2本以上収容可能な空隙が残されていることが好ましい。
【0027】
本実施形態にかかる絶縁電線1は、断面が扁平形状の導体10を有していることにより、導体断面積が同じである断面略円形の導体を有する電線よりも、配策に必要なスペースを小さくすることができる。つまり、ある電線の周囲に、他の電線や別の部材を配置することができないスペースを小さくすることができる。特に、高さ方向(y方向)に沿って電線が占めるスペースを小さくすることができ、省スペース化を達成しやすい。また、導体10が扁平形状を有しており、高さ方向の寸法が小さくなっていることにより、絶縁電線1は、高さ方向に、高い柔軟性を示す。特に、導体10が撚線より構成されている場合には、導体10が複数の細径の素線15の集合体として構成されることにより、特に高い柔軟性が得られる。このように、本実施形態にかかる絶縁電線1は、導体10が扁平形状を有することにより、高い省スペース性と柔軟性を両立するものとなる。
【0028】
導体10を構成する材料は、特に限定されるものではなく、種々の金属材料を適用することができる。導体10を構成する代表的な金属材料として、銅および銅合金、またアルミニウムおよびアルミニウム合金を挙げることができる。特に、アルミニウムおよびアルミニウム合金は、銅および銅合金よりも導電率が低いため、必要な電気伝導性を確保するために、導体断面積が大きくなりやすい。そのため、導体10を扁平化して、省スペース性と高さ方向への曲げ柔軟性を高めることの効果が大きくなる。その観点から、導体10をアルミニウムまたはアルミニウム合金より構成することが好ましい。また、同様の観点から、導体断面積を、100mm以上、さらには120mm以上とすることが好ましい。導体断面積に特に上限は設けられないが、曲げ柔軟性を確保する等の観点から、例えば300mm以下に抑えておくとよい。
【0029】
絶縁被覆20を構成する材料は、絶縁性材料であれば、特に限定されるものではないが、有機ポリマーをベース材料とするものであることが好ましい。有機ポリマーとしては、ポリオレフィンやオレフィン系共重合体等のオレフィン系ポリマー、ポリ塩化ビニル等のハロゲン系ポリマー、各種エラストマー、ゴム等を挙げることができる。有機ポリマーは架橋されていてもよく、また発泡されていてもよい。さらに、絶縁被覆20は、有機ポリマーに加えて、難燃剤等、各種添加剤を含有していてもよい。
【0030】
絶縁被覆20は、導体10と比較して、かなり高い柔軟性を有するため、絶縁電線1全体としての柔軟性の程度は、ほぼ導体10の柔軟性の程度によって規定される。しかし、絶縁被覆20も高い柔軟性を有している方が、絶縁電線1全体としての柔軟性を高めやすい。その観点で、絶縁被覆20の構成材料の曲げ弾性率が、30MPa以下、さらには20MPa以下であることが好ましい。
【0031】
本実施形態にかかる絶縁電線1は、単独の状態で使用しても、本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスの構成部材として用いてもよい。本開示の実施形態にかかるワイヤーハーネスは、上記実施形態にかかる絶縁電線1を含むものである。ワイヤーハーネスは、上記絶縁電線1を複数含むものとしてもよく、また、上記絶縁電線1に加えて、他種の絶縁電線を含むものとしてもよい。好ましくは、上記絶縁電線1を、幅方向(x方向)および/または高さ方向(y方向)に複数配列したものであるとよい。この際、複数の絶縁電線1の具体的な配列構造は、特に限定されるものではないが、好適な形態として、複数の絶縁電線1を、幅方向に並べ、共通のシート材に対して、融着等によって固定する形態を例示することができる。この場合に、並べた複数の絶縁電線1の高さが揃っていると、特に好ましい。
【0032】
<絶縁電線の構成の詳細>
以下、絶縁電線1の構造および特性の詳細について説明する。以下では、導体10が、アルミニウムまたはアルミニウム合金の撚線として構成される形態を主に想定して、説明を行う。しかし、上記のように、本開示の実施形態にかかる絶縁電線1においては、導体10が撚線と単線のいずれの形態をとってもよく、また導体10を構成する金属材料の種類も特に限定されないものであり、以下に示す各構成は、導体10の形態および金属種を問わずに当てはまる。各パラメータの具体的な上下限値は、導体10が撚線であるか単線であるか、また金属種によって異なる可能性はあるが、各パラメータがとる値の大小と、発生する現象や得られる効果との関係は、導体10の形態および金属種によらない。
【0033】
本実施形態にかかる絶縁電線1においては、導体10が扁平形状を有していることにより、幅方向(エッジ方向;x方向)への曲げ剛性が、高さ方向(フラット方向;y方向)への曲げ剛性よりも大きくなっている。特に、絶縁電線1の曲げ剛性について、下記の式(1)のように、高さ方向への曲げ剛性に対する幅方向への曲げ剛性の比率として定義される曲げ剛性比が、2.6以上となっていることが好ましい。つまり、幅方向への曲げ剛性が、高さ方向への曲げ剛性の2.6倍以上となっていることが好ましい。
[曲げ剛性比]=[幅方向への曲げ剛性]/[高さ方向への曲げ剛性] (1)
【0034】
絶縁電線1の曲げ剛性は、例えば、JIS K 7171に準拠した3点曲げ試験によって評価することができる。つまり、図2に示すように、2つの円柱T1,T1を支点として絶縁電線1を支持し、それらの円柱T1,T1の中間の箇所において、支持方向と逆の方向から、円柱T2を押し込み、絶縁電線1に曲げ荷重Fを印加する。この際、円柱T2の押し込み量が絶縁電線1のたわみとなる。この計測結果に基づいて、下記の式(2)によって、曲げ剛性を求めることができる。
[曲げ剛性]=([曲げ荷重F]×[支点間距離L])/(48×[たわみ]) (2)
上記の3点曲げ試験を、絶縁電線1の扁平形状の高さ方向への曲げと、幅方向への曲げについて行う。つまり、図2の縦方向にあたる荷重印加方向に、絶縁電線1の高さ方向を向けた計測と、幅方向を向けた計測をそれぞれ行う。そして、上の式(1)によって曲げ剛性比を求めればよい。
【0035】
絶縁電線1において、曲げ剛性比が2.6以上に大きくなっていることで、絶縁電線1が、高さ方向には柔軟に曲げやすいが、幅方向には曲がりにくくなる。つまり、絶縁電線1が、高さ方向への曲げの選択性に優れるものとなる。その結果、絶縁電線1を配策する際に、幅方向への意図しない曲げの発生を抑制しながら、高さ方向への曲げを利用して、所定の経路に配策することができる。絶縁電線1においては、導体10が扁平形状を有することにより、寸法の大きい幅方向に曲げる場合よりも、寸法の小さい高さ方向に曲げる方が、曲げに伴って導体10や絶縁被覆20に生じる負荷が小さくて済む。また、絶縁電線1は、導体10の扁平形状に由来して、高さ方向に高い省スペース性を有するものであり、高さ方向に曲げながら配策を行うことで、配策経路において、省スペース性を有効に利用することができる。それらの効果をさらに高める観点から、絶縁電線1の曲げ剛性比は、3.0以上、また3.5以上であると、さらに好ましい。曲げ剛性比に特に上限は設けられないが、幅方向への曲げの過度の制限を避ける等の観点から、おおむね20.0以下としておくとよい。
【0036】
絶縁電線1全体としての曲げ剛性においては、導体10の曲げ剛性が支配的に寄与する。よって、絶縁電線1の曲げ剛性比は、撚線を構成する素線15の径、導体10の扁平比等、導体10の具体的な構成により、調整することができる。後に説明するように、素線15の径が小さいほど、また扁平比が大きいほど、曲げ剛性比を大きくすることができる。絶縁被覆20は、絶縁電線1の各方向の曲げ剛性に、影響を与えない訳ではないが、電線導体10の寄与と比較すると、その寄与は限定的である。
【0037】
絶縁電線1において、曲げ剛性比が2.6以上となっていれば、高さ方向の曲げ剛性および幅方向の曲げ剛性のそれぞれの大きさは、特に限定されない。しかし、幅方向の曲げ剛性が大きいほど、また高さ方向の曲げ剛性が小さいほど、曲げ剛性比を大きくして、高さ方向への曲げの選択性を高めやすい。例えば、幅方向への曲げ剛性が、0.3N・m以上、さらには0.5N・m以上、0.8N・m以上であれば、幅方向への絶縁電線1の曲がりを、効果的に抑制することができる。一方、高さ方向への曲げ剛性が、0.3N・m未満、さらには0.25N・m未満であれば、高さ方向への絶縁電線1の曲げを、効果的に促進することができる。
【0038】
絶縁電線1において、導体10の扁平比、つまり導体10の高さに対する幅の比率(w/h)が、2.0以上であることが好ましい。絶縁電線1の断面形状の扁平比が大きくなると、高さ方向との比較において、幅方向に導体10が占める領域が大きくなり、導体10を幅方向に曲げにくくなる。つまり、絶縁電線1の曲げ剛性比が大きくなり、高さ方向への曲げの選択性を高めやすい。導体10の扁平比は、3.0以上であると特に好ましい。導体10の扁平比には特に上限は設けられないが、過度の扁平化を避ける等の観点から、例えば6.0以下としておけばよい。
【0039】
導体10が撚線として構成される場合に、撚線を構成する素線15の外径は、0.40mm以下であることが好ましい。導体断面積が同じ場合に、撚線を構成する素線15が細いほど、導体10の全体としての柔軟性が高くなる。扁平形状の高さ方向の曲げには、素線15の細径化による柔軟性向上の効果がよく反映され、曲げを行いやすくなる。しかし、扁平形状の幅方向には、集合される素線15の本数が多くなるため、曲げを加えた際に素線15の間に働く摩擦力の総和が大きくなる。よって、素線15を細くしても、幅方向には、柔軟性向上の効果がそれほど得られない。よって、素線15を細くすることで、扁平形状の高さ方向への柔軟性が優先的に向上し、曲げ剛性比が大きくなる。素線15の外径は、0.32mm以下、さらには0.30mm以下であると、より好ましい。素線15の外径の下限は特に指定されないが、素線15の強度を維持する等の観点から、例えば0.1mm以上であるとよい。
【0040】
上記のように、絶縁電線1の曲げ剛性比が大きくなっているほど、高さ方向への曲げの選択性が向上する。曲げの選択性は、例えば、絶縁電線1を曲げる際の曲げ応力によって評価することができる。絶縁電線1を高さ方向に曲げる際の曲げ応力との比において、幅方向に曲げる際の曲げ応力が大きいほど、高さ方向への曲げの選択性が高いと言える。後の実施例に示すように、曲げ剛性比を2.6以上としておけば、絶縁電線1を200mm離れた2箇所で把持して、曲げ半径(r)150mmで、60°まで電線を曲げた際に、把持部に生じる応力について、高さ方向に曲げる場合の応力に対する幅方向に曲げる場合の応力の比率を曲げ応力比として(下記の式(3))、その曲げ応力比が4.0以上となる。
[曲げ応力比]=[幅方向への曲げ応力]/[高さ方向への曲げ応力] (3)
【0041】
曲げ応力比が4.0以上であるということは、絶縁電線1を幅方向に曲げるためには、高さ方向に曲げる場合の4倍の力が必要になるということを意味しており、高さ方向に絶縁電線1を曲げようとして力を加えた際に、意図せず幅方向に曲がってしまうような事態は、かなり起こりにくくなる。絶縁電線1において、曲げ応力比が4.0以上となるように、導体10の具体的な形態や金属種に応じて、扁平比や素線15の径等のパラメータを設定すれば、高さ方向への曲げの選択性を、十分に高めることができる。曲げ応力比が、4.5以上、また5.0以上となれば、さらに好ましい。
【実施例
【0042】
以下に実施例を示す。なお、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。ここでは、扁平な導体を有する絶縁電線の曲げ剛性比と、高さ方向への曲げの選択性との関係について調べた。以下では、試料の作製および各評価は、室温、大気中にて行っている。
【0043】
(試料の作製)
最初に、アルミニウム合金素線を用いて、撚線よりなる導体を作製した。試料A1~A8について、用いた素線の外径および導体構成は、表1に示すとおりとした。導体構成は、「親撚本数/子撚本数/素線径(mm)」の形式で表記している。得られた撚線をローラによって扁平形状に圧延することで、導体を作製した。この際、圧延率を変更することで、扁平比w/hを、表1に記載のとおり設定した。また、別途、試料B1~B5として、アルミニウム合金を用いて、単線構造の導体も準備した。
【0044】
作製した各導体の外周に、押し出し成形によって、厚さ1.6mmの絶縁被覆を形成した。被覆材としては、以下の2種を用いた。
・被覆材1-有機ポリマー:シラン架橋ポリエチレン(100質量部)、添加剤:水酸化マグネシウム(70質量部)、曲げ弾性率:35MPa
・被覆材2-有機ポリマー:シラン架橋ポリエチレン(100質量部)、添加剤:臭素系難燃剤(30質量部)および三酸化アンチモン(10質量部)、曲げ弾性率:15MPa
【0045】
(曲げ剛性の評価)
上記で得た各絶縁電線に対して、JIS K 7171に準拠した3点曲げ試験によって、幅方向および高さ方向の曲げ剛性を計測した。つまり、図2に示すように、2つの円柱T1,T1を支点として絶縁電線1を支持し、それらの円柱T1,T1の中間の箇所において、支持方向と逆の方向から、円柱T2を押し込み、絶縁電線1に曲げ荷重Fを印加した。そして、円柱T2の押し込み量として示される絶縁電線1のたわみとの関係を記録した。支点間距離Lは100mmとし、試料として用いる絶縁電線1の長さは150mmとした。絶縁電線1の支持および曲げ荷重の印加に用いた円柱T1,T2は、直径5mmであった。曲げ荷重Fを印加する際の押し込みの速度は、100mm/分とした。
【0046】
計測は、扁平形状の高さ方向への曲げと、幅方向への曲げについて、それぞれ行った。計測により、図3に例示するように、たわみと曲げ荷重の関係が得られる。このうち、たわみの小さい領域の計測結果を、上記式(2)で近似することで、各方向の曲げにおける曲げ剛性を得た。そして、得られた値を用い、式(1)のように、高さ方向への曲げ剛性に対する幅方向への曲げ剛性の比率として、曲げ剛性比を求めた。なお、図3は、表1の試料A1に対して、幅方向への曲げを加えた際の測定結果である。
【0047】
(曲げ応力の評価)
上記で作製した、導体が撚線より構成された各絶縁電線について、図4に説明する方法で、曲げ応力を測定した。測定に際し、各絶縁電線1を長さ200mmに切り出し、両端をそれぞれ把持具T3,T3で把持して、絶縁電線1に曲げを加えた。所定の曲げ半径(r)で60°まで曲げた状態で、絶縁電線1の端部に印加される荷重F’を、把持具に取り付けたロードセルによって計測した。そして、その荷重F’のうち、絶縁電線1の軸線方向に直交する成分を求めて、曲げ応力fとした。曲げ半径(r)は、150mm、100mm、50mmの3とおりとした。曲げ応力の計測は、扁平形状の高さ方向への曲げと、幅方向への曲げのそれぞれについて行った。そして、上記式(3)のように、高さ方向への曲げ応力に対する幅方向への曲げ応力の比率として、曲げ応力比を求めた。
【0048】
(結果)
表1に、導体が撚線より構成された試料A1~A8について、絶縁電線の構成と、各評価結果をまとめる。
【0049】
【表1】
【0050】
表1において、絶縁電線の曲げ剛性比、およびr=150mmの時の曲げ応力比を太字で表示している。それらを対比すると、おおむね、曲げ剛性比が大きくなるほど、r=150mmでの曲げ応力比が大きくなっている。つまり、曲げ剛性比が大きくなるほど、扁平形状の高さ方向への曲げの選択性が高くなっていることが分かる。さらに、曲げ剛性比が2.6以上となっている試料A1~A6ではいずれも、曲げ応力比が4.0以上となっている。つまり、絶縁電線を幅方向に曲げるのに要する力が、高さ方向に曲げるのに要する力の4.0倍以上となっており、高さ方向の曲げの選択性が、顕著に高くなっている。一方で、試料A7,A8では、曲げ剛性比が2.6未満となっている。そして、曲げ応力比が4.0未満となっており、高さ方向への曲げの選択性が低くなってしまっている。以上の結果から、扁平形状の導体を有する絶縁電線において、曲げ剛性比が、曲げ方向の選択性を示す良い指標となることが分かる。そして、曲げ剛性比を2.6以上とすることで、高さ方向への曲げの選択性の高い絶縁電線となる。
【0051】
試料A1,A5,A7,A8は、導体の扁平比において相違している。扁平比は、大きい方から、試料A5、試料A1、試料A8、試料A7となっている。そして、曲げ剛性比が、大きい方から、試料A5、試料A1、試料A8、試料A7となっており、扁平比と大小関係が一致している。このことから、導体の扁平比を大きくすることで、絶縁被覆の曲げ剛性比を大きくし、高さ方向への曲げの選択性を高められることが分かる。
【0052】
試料A1,A2,A6は、素線径において相違している。素線径は、大きい方から、試料A6、試料A1、試料A2となっている。一方、曲げ剛性比は、大きい方から、試料A2、試料A1、試料A6となっており、素線径と大小関係が逆になっている。このことから、導体を構成する素線の外径を小さくすることで、絶縁被覆の曲げ剛性比を大きくし、高さ方向への曲げの選択性を高められることが分かる。
【0053】
試料A1,A3の組、および試料A2,A4の組はそれぞれ、被覆材の種類において異なっている。いずれの組においても、幅方向および高さ方向それぞれの曲げ剛性の値は、弾性率の高い被覆材1を用いている場合(試料A1,A2)の方が、弾性率の低い被覆材2を用いている場合(試料A3,A4)よりも大きくなっている。しかし、曲げ剛性比においては、被覆材の種類の違いによる差異は、小さくなっている。特に、試料A1,A3の組では、被覆材の種類によらず、曲げ剛性比の値が同じになっている。絶縁電線の曲げ剛性比において、絶縁被覆の種類による影響は限定的であり、導体の構成による影響が支配的であると言える。
【0054】
上記のように、r=150mmの大きな曲げ半径における曲げ応力比は、曲げ剛性比との間に良い相関を示し、曲げ剛性比が大きくなるほど、曲げ応力比が大きくなる傾向が見られている。r=100mmおよび50mmの場合にも、おおむね、曲げ剛性比が大きくなるほど、曲げ応力比が大きくなるという同様の傾向が見られるが、曲げ剛性比と曲げ応力比との間の相関性は、r=150mmの場合よりも低くなっている。例えば、試料A1と試料A2を比較すると、曲げ剛性比が試料A2の方で大きくなり、r=150mmにおける曲げ応力比も試料A2の方で大きくなっているが、r=100mmおよび50mmにおける曲げ応力比は、試料A1の方で大きくなっており、関係が逆転している。曲げ半径が小さい場合には、幅方向への曲げに大きな力を要するが、高さ方向への曲げにもある程度大きな力を要するため、曲げ剛性比が大きい場合、つまり幅方向と高さ方向の曲げ剛性に大きな差がある場合でも、曲げに要する力、つまり曲げ応力においては、曲げ方向による差が小さくなるものと解釈される。なお、絶縁電線の配策において、意図しない幅方向への曲げが生じやすいのは、曲げに要する力が小さくて済む、曲げの半径の大きい場合である。上記のとおり、絶縁電線の曲げ剛性比が、r=150mmのように大きな曲げ半径における曲げ応力比との間に、高い相関性を示すことから、特に曲げ半径が大きいゆるやかな曲げを行う際に、意図しない幅方向への曲げを避ける目的で、曲げ剛性比を良い指標として用いることができると言える。
【0055】
最後に、表2に、導体を単線構造で形成した試料B1~B5について、電線の構成と曲げ剛性の評価結果を示す。
【0056】
【表2】
【0057】
表2によると、導体を単線構造で形成した場合にも、撚線として構成した場合と同様に、試料B2~B5のように、導体を扁平形状とすることで、曲げ剛性比を2.6以上とすることができる。さらに、試料B2から試料B5へと、扁平比を大きくすると、それに伴って曲げ剛性比も上昇している。
【0058】
以上、本開示の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 絶縁電線
10 導体
15 素線
F 曲げ弾性の評価における曲げ荷重
F’ 曲げ応力の評価において測定される荷重
f 曲げ応力
L 支点間距離
r 曲げ半径
T1,T2 円柱
T3 把持具
x 幅方向
y 高さ方向
図1
図2
図3
図4