(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】車体構造
(51)【国際特許分類】
B60H 1/00 20060101AFI20250212BHJP
B62D 25/08 20060101ALI20250212BHJP
B62D 25/04 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
B60H1/00 102R
B62D25/08 F
B62D25/08 J
B62D25/04 A
B60H1/00 102L
(21)【出願番号】P 2021055403
(22)【出願日】2021-03-29
【審査請求日】2024-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 隆之
(72)【発明者】
【氏名】亀井 丈広
(72)【発明者】
【氏名】任田 功
(72)【発明者】
【氏名】大江 晴夫
(72)【発明者】
【氏名】橋口 拓允
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋
(72)【発明者】
【氏名】平松 大弥
(72)【発明者】
【氏名】福島 正信
(72)【発明者】
【氏名】福田 貴生
【審査官】町田 豊隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-067165(JP,A)
【文献】特開2009-292280(JP,A)
【文献】米国特許第05564515(US,A)
【文献】中国実用新案第208530213(CN,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00
B62D 25/08
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記車室の前部に設けられた空調装置とを備えた車両の車体構造であって、
前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が形成され、
前記空調装置は、前記膨出部の側方に配置され、空調風を生成する空調ユニット本体部と、該空調ユニット本体部に接続され、該空調ユニット本体部で生成された空調風を車室の所望の部位へ送る通路を構成する通路構成部材とを備え、
平面視で該通路構成部材と前記膨出部とが互いに重複するとともに、該通路構成部材の下面の少なくとも一部が前記膨出部の上面または該膨出部の上面よりも上方に配置されている車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の車体構造において、
前記空調ユニット本体部は、ブロワファンと、該ブロワファンによって送風された空気の温度調節を行う加熱器及び冷却器の少なくとも一方とを備え、
前記通路構成部材は、ダクトである車体構造。
【請求項3】
請求項1に記載の車体構造において、
前記空調ユニット本体部は、ブロワファンと、該ブロワファンによって送風された空気の温度調節を行う加熱器及び冷却器の少なくとも一方とを備え、
前記通路構成部材は、空調風を車室の複数箇所へ分配する風配装置である車体構造。
【請求項4】
請求項3に記載の車体構造において、
前記ダッシュパネルの車幅方向両端部において上下方向に延びるように配設される左右一対のヒンジピラーと、該ヒンジピラーに固定されるとともに車幅方向に延び、内部が中空のインパネメンバとを備え、
前記風配装置に設けられた複数の吹出口のうち、任意の吹出口が前記インパネメンバの内部空間と接続され、
前記インパネメンバにおける前記吹出口との接続部位から車幅方向に離れた部位には、空調風が吹き出す開口部が形成されている車体構造。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1つに記載の車体構造において、
前記ダッシュパネルの車幅方向両端部において上下方向に延びるように配設される左右一対のヒンジピラーと、該ヒンジピラーに固定されるとともに車幅方向に延びるインパネメンバとを備え、
前記通路構成部材の少なくとも一部は、前記インパネメンバの車両前方に配置されている車体構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の車体構造において、
前記空調ユニット本体部は、前記車室の助手席の車両前方に配置され、
前記通路構成部材は、前記膨出部の上面の上方を、助手席側から運転席側へ延びるように配置されている車体構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の車体構造に関し、特にダッシュパネルを備えた構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
自動車の前部には、エンジンが格納されるエンジンルームが設けられており、このエンジンルームと車室とは上下方向及び車幅方向に延びるダッシュパネルによって仕切られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1のダッシュパネルの車幅方向中間部には、車室内側(車両後方)へ向かって膨出した膨出部が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前方衝突時には、エンジンルームに格納されているパワートレインに対して後向きの荷重が加わることになるが、衝撃荷重を有効に吸収するためには、パワートレインの後退ストロークを十分に確保したいという要求がある。
【0005】
しかしながら、車両のレイアウトやデザイン、運動性能上の要求から、車両のボンネットの全長を短くしたい場合がある。ボンネットの全長が短くなるということは、エンジンルームの前後方向の寸法が短くなるということであり、このことは前方衝突時におけるパワートレインの後退ストローク量を確保する上でマイナスの要因となる。
【0006】
また、一般的に、車両の空調装置は車室の前部に設けられたインストルメントパネルの内部に配設されている。一方、車室内空間をできるだけ広く確保したいという要求があり、この要求に応えるためには空調装置の更なる小型化が望まれる。しかし、乗員の快適性を向上させるべく、最大風量の増加、冷房能力、暖房能力の増大が空調装置には求められており、これら要求に応えながら、空調装置、特に熱交換器やブロワファンを収容している空調ユニット本体部の小型化を実現するのは容易ではない。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、前方衝突時にパワートレインの後退ストローク量を十分に確保して乗員の安全性を向上させながら、空調ユニット本体部の大型化を回避して車室内空間を広くすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本開示の第1の側面では、車室と、該車室の車両前方に設けられ、パワートレインを格納する動力室とを車両前後方向に仕切るダッシュパネルと、前記車室の前部に設けられた空調装置とを備えた車両の車体構造を前提とすることができる。前記ダッシュパネルには、車幅方向中央部が車両後方へ向かって膨出する膨出部が形成され、前記空調装置は、前記膨出部の側方に配置され、空調風を生成する空調ユニット本体部と、該空調ユニット本体部に接続され、該空調ユニット本体部で生成された空調風を車室の所望の部位へ送る通路を構成する通路構成部材とを備え、平面視で該通路構成部材と前記膨出部とが互いに重複するとともに、該通路構成部材の下面の少なくとも一部が前記膨出部の上面または該膨出部の上面よりも上方に配置されている。
【0009】
この構成によれば、ダッシュパネルに膨出部が設けられているので、前方衝突時にパワートレインを膨出部の内方へ向けて後退させることで、パワートレインの後退ストローク量を多く確保することが可能になる。この膨出部の上方空間はデッドスペースとなってしまうことがあるが、本構成では、平面視で通路構成部材と膨出部とが互いに重複しているので、膨出部の上方空間を、空調装置の一部である通路構成部材の少なくとも一部を配置するためのスペースとして有効に活用できる。これにより、空調ユニット本体部の大型化が回避されるとともに、車室内空間が広く確保される。
【0010】
本開示の第2の側面では、前記空調ユニット本体部は、ブロワファンと、該ブロワファンによって送風された空気の温度調節を行う加熱器及び冷却器の少なくとも一方とを備え、前記通路構成部材は、ダクトである。
【0011】
この構成によれば、ブロワファンによって送風された空気の温度調節が行われて空調風となり、この空調風が通路構成部材、即ちダクトを流通して車室の所望箇所まで送られる。この場合、ダクトの少なくとも一部が膨出部の上面よりも上方に配置されることになるので、車室内空間が広く確保される。
【0012】
本開示の第3の側面では、前記空調ユニット本体部は、ブロワファンと、該ブロワファンによって送風された空気の温度調節を行う加熱器及び冷却器の少なくとも一方とを備え、前記通路構成部材は、空調風を車室の複数箇所へ分配する風配装置である。
【0013】
この構成によれば、ブロワファンによって送風された空気の温度調節が行われて空調風となり、この空調風が通路構成部材、即ち風配装置に導入される。風配装置に導入された空調風は車室の所望の箇所へ送られ、例えば車室の1箇所または2箇所以上に送ることができる。この風配装置の少なくとも一部が膨出部の上面よりも上方に配置されることになるので、空調ユニット本体部の小型化が可能になる。
【0014】
本開示の第4の側面では、前記ダッシュパネルの車幅方向両端部において上下方向に延びるように配設される左右一対のヒンジピラーと、該ヒンジピラーに固定されるとともに車幅方向に延び、内部が中空のインパネメンバとを備え、前記風配装置に設けられた複数の吹出口のうち、任意の吹出口が前記インパネメンバの内部空間と接続され、前記インパネメンバにおける前記吹出口との接続部位から車幅方向に離れた部位には、空調風が吹き出す開口部が形成されている。
【0015】
この構成によれば、風配装置の吹出口から吹き出した空調風がインパネメンバの内部空間を車幅方向に流通して該インパネメンバの開口部から吹き出すので、インパネメンバを利用して空調風を車室の所望箇所に供給することができる。
【0016】
本開示の第5の側面では、前記ダッシュパネルの車幅方向両端部において上下方向に延びるように配設される左右一対のヒンジピラーと、該ヒンジピラーに固定されるとともに車幅方向に延びるインパネメンバとを備え、前記通路構成部材の少なくとも一部は、前記インパネメンバの車両前方に配置されている。
【0017】
この構成によれば、インパネメンバの車両前方の空間を有効に活用して通路構成部材を配置することができる。
【0018】
本開示の第6の側面では、前記空調ユニット本体部は、前記車室の助手席の車両前方に配置され、前記通路構成部材は、前記膨出部の上面の上方を、助手席側から運転席側へ延びるように配置されている。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、ダッシュパネルが車両後方へ向かって膨出する膨出部を備えているので、前方衝突時にパワートレインの後退ストローク量を十分に確保して乗員の安全性を向上させることができる。そして、空調ユニット本体部に接続される通路構成部材の下面の少なくとも一部が膨出部の上面またはその上方に配置されているので、膨出部の上方空間を有効に活用して車室内空間を広く確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の実施形態に係る車体構造を上方から見た斜視図である。
【
図2】インパネメンバを省略した車体構造の
図1相当図である。
【
図3】上記車体構造のダッシュパネルとフロアパネルの斜視図である。
【
図5】インパネメンバを省略した車体構造を車室内側から前へ向かって見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0022】
図1及び
図2は、本発明の実施形態に係る車体構造1の斜視図である。車体構造1は、例えば乗用自動車等の自動車に適用可能な車体構造である。自動車は、車体の前部に搭載されたエンジンや走行用モータ等で後輪を駆動するフロントエンジンリヤドライブ車(以下、FR車という)であってもよいし、車体の前部に搭載されたエンジンや走行用モータ等で前輪を駆動するフロントエンジンフロントドライブ車(以下、FF車という)であってもよい。自動車は、FR車とFF車以外にも、車体の前部に搭載されたエンジンで4輪を駆動する4輪駆動車であってもよい。尚、この実施形態の説明では、車両前側を単に「前」といい、車両後側を単に「後」といい、車両右側を単に「右」といい、車両左側を単に「左」というものとする。車両の左右方向が車幅方向である。
【0023】
車体構造1は、フロアパネル2と、ダッシュパネル3と、右側サイドシル4と、左側サイドシル5(
図4及び
図5にのみ示す)とを備えている。フロアパネル2は、車室の底板部を構成する部材であり、例えば鋼板等で構成されていて、前後方向に延びている。フロアパネル2の上方空間が車室Rである。車室Rの上部にはルーフ(図示せず)が設けられている。また、車室Rの右側部及び左側部には、乗降用のドア(図示せず)が設けられている。右側サイドシル4及び左側サイドシル5は、本発明の車体構造1を構成する部材としなくてもよく、必要に応じて設ければよい。
【0024】
図4に仮想線で示すように、車室Rの右側(車幅方向一方側)に運転席Drが設けられ、車室Rの左側(車幅方向他方側)に助手席Psが設けられている。尚、これとは反対に、運転席Drが左側、助手席Psが右側に設けられていてもよく、この場合には、本実施形態を左右反転させて適用することができる。また、運転席Dr及び助手席Psの後方には後席が設けられていてもよいし、後席は無くてもよい。車室Rには、荷物等を積載する荷室が含まれていてもよい。
【0025】
右側サイドシル4は、フロアパネル2の右縁部に沿って前後方向に延びている。左側サイドシル5は、フロアパネル2の左縁部に沿って前後方向に延びている。車室Rは、右側サイドシル4と左側サイドシル5との間に位置している。フロアパネル2の左右方向中央部には、フロアトンネル部2aが上方へ膨出するように形成されている。フロアトンネル部2aは、フロアパネル2の前縁部から後縁部まで連続して前後方向に延びている。
【0026】
車室Rの前方には、パワートレインPT(
図4、
図6に仮想線で概略形状を示す)を格納する動力室Sが設けられている。動力室Sは、例えばパワートレイン格納室、エンジンルーム、モータルーム等と呼ぶこともできる。車室Rと動力室Sとを前後方向に仕切っている部材がダッシュパネル3である。ダッシュパネル3は、左右方向に延びるとともに上下方向にも延びている。
図6に示すように、ダッシュパネル3の下側部分は、下端部へ近づくほど後に位置するように傾斜ないし湾曲しており、ダッシュパネル3の下端部がフロアパネル2の前端部に接続されている。したがって、フロアパネル2は、ダッシュパネル3の下端部から後方へ延びるように設けられる。
【0027】
パワートレインPTは、内燃機関、いわゆるロータリーエンジンやレシプロエンジンであってもよいし、走行用モータであってもよいし、上記エンジンと走行用モータの両方を備えたものであってもよい。走行用モータを備えている場合、発電用のエンジン(パワートレインPTの一部)が動力室Sに格納されていてもよい。パワートレインPTがエンジンの場合、クランクシャフトが前後方向に延びる姿勢で動力室Sに格納されていてもよいし、クランクシャフトが左右方向に延びる姿勢で動力室Sに格納されていてもよい。エンジンは、複数のシリンダがクランクシャフトの軸方向に直列に並んだ直列多気筒エンジンであってもよいし、クランクシャフトの軸方向に沿って見たとき、複数のシリンダがV字をなすように配列されたV型多気筒エンジンであってもよい。また、エンジンは、複数のシリンダがクランクシャフトを挟んで水平方向に対向するように配列された水平対向エンジンであってもよい。
【0028】
パワートレインPTには、トランスミッション(図示せず)が含まれていてもよい。トランスミッションは、車両に搭載された制御装置によってギヤ比を自動的に変更するオートマチックトランスミッションやCVT式トランスミッションであってもよいし、車室Rに設けられた操作レバー(図示せず)によって乗員がギヤ比を変更するマニュアルトランスミッションであってもよい。
【0029】
動力室Sの上部には、ボンネットフード(図示せず)が設けられている。また、
図1及び
図2に示すように、動力室Sの右側部には、右側フロントサイドフレーム6が設けられ、動力室Sの左側部には、左側フロントサイドフレーム7が設けられている。右側フロントサイドフレーム6及び左側フロントサイドフレーム7は、共に前後方向に延びており、右側フロントサイドフレーム6及び左側フロントサイドフレーム7の前端部には、左右方向に延びるバンパーレインフォースメントBが取り付けられている。右側フロントサイドフレーム6、左側フロントサイドフレーム7及びバンパーレインフォースメントBは、車体構造1を構成する部材とすることができるが、車体構造1に含まれない部材とすることもできる。
【0030】
右側フロントサイドフレーム6の後端部は、ダッシュパネル3の左右方向中央部よりも右寄りの部分に接続されている。また、左側フロントサイドフレーム7の後端部は、ダッシュパネル3の左右方向中央部よりも左寄りの部分に接続されている。
【0031】
図6に示すように、ダッシュパネル3の上方には、車体構造1の一部を構成するカウルパネル8が設けられている。カウルパネル8は、板材で構成されていて、左右方向に延びている。カウルパネル8は、左右方向に延びるとともに前後方向にも延びる底板部8aと、底板部8aの前端部から上方へ延びる前板部8bと、底板部8aの後端部から上方へ延びる後板部8cとを備えている。底板部8aの前部にダッシュパネル3の上端部が接続されている。
【0032】
図4に示すように、カウルパネル8の底板部8aの後端部は、左右方向中央部が最も前に位置し、右端へ行くほど及び左端へ行くほど後に位置するように、平面視で大きく湾曲している。この底板部8aの後端部から後板部8cが上方へ延びているので、後板部8cも平面視で左右方向中央部が最も前に位置し、右端へ行くほど及び左端へ行くほど後に位置するように大きく湾曲している。尚、図示しないが、フロントウインドガラスの下端部がカウルパネル8の後板部8cの直上方に位置するようになっている。よって、カウルパネル8の大部分は車室外に配置されることになる。
【0033】
図5に示すように、車体構造1は、ダッシュパネル3の右端部において上下方向に延びるように配設される右側ヒンジピラー9と、ダッシュパネル3の左端部において上下方向に延びるように配設される左側ヒンジピラー10とをさらに備えている。すなわち、
図1に示すように、右側ヒンジピラー9の下端部は、右側サイドシル4の前端部近傍に接続されており、右側ヒンジピラー9は右側サイドシル4の前端部近傍からダッシュパネル3の右端部に沿ってカウルパネル8と略同じ高さ近傍まで延びている。右側ヒンジピラー9は、自動車の右側部に配設される右ドアを開閉可能に支持するヒンジが固定されるようになっている。右側ヒンジピラー9の上端部には、右側フロントピラー11の下端部が接続されている。また、左側ヒンジピラー10の下端部は、左側サイドシル5の前端部近傍に接続されており、左側ヒンジピラー10は左側サイドシル5の前端部近傍からダッシュパネル3の左端部に沿ってカウルパネル8と略同じ高さ近傍まで延びている。左側ヒンジピラー10は、自動車の左側部に配設される左ドアを開閉可能に支持するヒンジが固定されるようになっている。
図5に示すように、左側ヒンジピラー10の上端部には、左側フロントピラー12の下端部が接続されている。
【0034】
(インパネメンバ)
図1や
図2に示すように、車体構造1は、インパネメンバ20を備えている。インパネメンバ20は、右側ヒンジピラー9の上端部から左側ヒンジピラー10の上端部まで左右方向に延び、内部が中空の筒状部材で構成されている。インパネメンバ20は、図示しないが車室Rの前端部に設けられているインストルメントパネルの内部に収容された状態になっている。本実施形態では、後述する空調装置60で生成された空調風を、インパネメンバ20によって車室Rの所望の部位まで流通させることができる。
【0035】
インパネメンバ20の右端部は、右側ヒンジピラー9の上端部の車室内側に固定されている。また、インパネメンバ20の左端部は、左側ヒンジピラー10の上端部の車室内側に固定されている。
【0036】
図4に仮想線で示すように、インパネメンバ20の運転席Dr側には、ステアリングコラムSTが支持されている。ステアリングコラムSTは、ステアリングシャフト(図示せず)を回転可能に軸支するための部材である。
【0037】
(ダッシュパネルの膨出部)
図3に示すように、ダッシュパネル3は、該ダッシュパネル3の左右方向中央部から後方へ向かって膨出する膨出部30を備えている。膨出部30は、上壁部31、後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34で構成されている。膨出部30は、複数の板材が組み合わされて構成されており、具体的には、後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34が1枚の板材で一体成形されているが、上壁部31は、後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34と別体の板材で構成されている。上壁部31は、成形後に後端壁部32、右側壁部33及び左側壁部34の上部に接合することによって一体化できる。膨出部30は、1枚の板材で全てが構成されていてもよいが、後述するように後方への膨出量を大きくしているので、複数枚の板材を組み合わせて構成することが成形上、望ましい場合がある。
【0038】
膨出部30の上壁部31は、前後方向及び左右方向に延びており、この実施形態では略水平であるが、例えば後端部に近づくほど下に位置するように傾斜ないし湾曲していてもよい。後端壁部32は、上壁部31の後端部から下方へ延びるとともに左右方向に延びている。後端壁部32は、この実施形態では略鉛直であるが、例えば下へ行くほど後に位置するように傾斜ないし湾曲していてもよい。右側壁部33は、上壁部31の右端部から下方へ延びるとともに前後方向に延びている。左側壁部34は、上壁部31の左端部から下方へ延びるとともに前後方向に延びている。右側壁部33と左側壁部34との左右方向の間隔は、後へ行くほど狭くなるように設定することができる。
【0039】
膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34の下部の間は下方に開放されている。また、膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34の前部の間は前方に開放されている。前方衝突の際に後退したパワートレインPTは、前方への開放部分から膨出部30内に入るようになっている。また、膨出部30が下方に開放されているので、パワートレインPTの上下方向の寸法が膨出部30の上下方向の寸法よりも長くても、パワートレインPTの上側部分が膨出部30内へ入り、パワートレインPTの下側部分が膨出部30から下方へ突出した状態となる。これにより、膨出部30がパワートレインPTの後退を阻害することはない。
【0040】
図3に示すように、膨出部30の上壁部31は、ダッシュパネル3の上端部近傍に位置しており、従って膨出部30は、ダッシュパネル3の上端部から上下方向中間部までの部分を後方へ膨出させることによって形成されている。このように、膨出部30の上壁部31を上に位置付けることで、前方衝突の際にパワートレインPTが後退した時、パワートレインPTの後側上部を膨出部30内へ入れることができ、パワートレインPTの後退ストローク量を多く確保できる。
【0041】
尚、本明細書における「前方衝突」とは、自動車が前進走行中に障害物等に衝突した場合の他、停車中の自動車に障害物が前方から衝突した場合も含まれる。また、本明細書の「前方衝突」とは、パワートレインPTが後退する程の大きな衝撃荷重が前方から加わる衝突であり、いわゆる軽衝突とは区別することができる。
【0042】
図6に示すように、膨出部30の上壁部31は、インパネメンバ20の下端部よりも下に位置付けられていて、膨出部30の上壁部31の直上方にインパネメンバ20が配置されている。膨出部30の上壁部31と、インパネメンバ20の下端部とは、上下方向に所定の隙間をあけて対向するように配置されていてもよいし、インパネメンバ20の下端部が膨出部30の上壁部31に固定されていてもよい。後者の場合、インパネメンバ20における左右のヒンジピラー9、10から離れた部分が膨出部30に固定されることになる。
【0043】
ダッシュパネル3は車室Rと動力室Sとを仕切るためのものであることから高強度な部材で構成されている。この高強度なダッシュパネル3に膨出部30を形成しているので、膨出部30の強度も高まっており、膨出部30は、少なくとも従来一般的に用いられている上下方向に長いインパネメンバステーよりも変形し難い部分となる。インパネメンバ20が膨出部30に固定されているので、従来のインパネメンバステーは不要になって車両の軽量化が可能になるとともに、従来のインパネメンバステーによる固定構造に比べてインパネメンバ20の車体への取付剛性が向上し、走行中に各種外力を受けた際のインパネメンバ20の変形量が減少する。
【0044】
インパネメンバ20を膨出部30に固定する構造としては、例えばボルトやナット、ビス、ネジ、リベット等の締結部材を利用した締結構造を用いることができる。この場合、インパネメンバ20を膨出部30の上壁部31に直接固定してもよいし、インパネメンバ20と上壁部31との間にブラケットを介在させて固定してもよい。ブラケットを介在させる場合、インパネメンバ20と上壁部31との距離は短いので、従来のインパネメンバステーのような長い部材を用いなくて済む。また、ブラケットをインパネメンバ20と膨出部30との一方に予め溶接しておき、このブラケットを他方に締結固定するようにしてもよい。
【0045】
また、インパネメンバ20を膨出部30の後端壁部32に固定してもよいし、右側壁部33に固定してもよいし、左側壁部34に固定してもよい。インパネメンバ20を膨出部30の1箇所に固定してもよいし、複数箇所に固定してもよい。インパネメンバ20を膨出部30に固定しなくてもよい。
【0046】
また、
図1に示すように、膨出部30の車両後端部に位置する後端壁部32は、カウルパネル8の後端部における左右方向中央部よりも後方に位置付けられている。すなわち、カウルパネル8の後端部は後板部8cで構成されているが、後板部8cは、上述したように、左右方向中央部が最も前に位置し、右端へ行くほど及び左端へ行くほど後に位置するように平面視で大きく湾曲している。平面視では、膨出部30の後端壁部32が後板部8cの左右方向中央部よりも後方に位置している。膨出部30の後端壁部32の位置が後板部8cの左右方向中央部よりも後方に位置しているということは、車体構造1の全体として、膨出部30の後端壁部32が大きく後退した位置にあるということである。膨出部30の膨出量が大きくなればなるほど、即ち、膨出部30の前後方向の寸法が長くなればなるほど、後端壁部32は後方に位置することになり、本実施形態のようにカウルパネル8の後板部8cの左右方向中央部を比較の基準とし、その後板部8cの左右方向中央部よりも後端壁部32を後方に位置付けることで、膨出部30の膨出量を大きくすることができる。膨出部30の膨出量を大きくすることで、上述した前方衝突時にパワートレインPTの後退ストローク量を多く確保できる。
【0047】
尚、この実施形態では、カウルパネル8の後板部8cの右端部及び左端部を比較対象としたときには、後端壁部32が後板部8cの右端部及び左端部よりも前方に位置することになるが、これに限らず、後端壁部32が後板部8cの右端部及び左端部よりも後方に位置付けられていてもよい。
【0048】
図3に示すように、膨出部30の後端壁部32は、上下方向に延びるとともに左右方向にも延びており、インパネメンバ20の前端部よりも後方に位置付けられている。これにより、膨出部30がインパネメンバ20の下方に達するまで大きく膨出した形態になる。ここで、インパネメンバ20の前端部は、該インパネメンバ20の前面部と定義することができ、円筒状のインパネメンバ20の場合、該インパネメンバ20の外周面のうちで最も前に位置する部分、前に向いている部分である。この実施形態では、膨出部30の後端壁部32は、インパネメンバ20の後端部よりも前方に位置付けられているが、これに限らず、膨出部30の後端壁部32がインパネメンバ20の後端部よりも後方に位置付けられていてもよい。インパネメンバ20の後端部は、該インパネメンバ20の後面部と定義することができ、円筒状のインパネメンバ20の場合、該インパネメンバ20の外周面のうちで最も後に位置する部分、後に向いている部分である。
【0049】
図3に示すように、膨出部30の下部は、フロアトンネル部2aの上部に接続されている。すなわち、膨出部30の後端壁部32の下部は、フロアトンネル部2aの上壁部に接続されて一体化されている。また、膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34の下部は、フロアトンネル部2aの右側壁部及び左側壁部の上部に接続されて一体化されている。
【0050】
上述したように、膨出部30をダッシュパネル3の上端部から上下方向の中間部までの広い範囲に形成するとともに、後方への膨出量を大きくし、さらに、前方衝突時にパワートレインPTの上側部分が膨出部30に入るように、膨出部30の幅を広げている。このように大きな膨出部30をダッシュパネル3に設けると、ダッシュパネル3の剛性が低下してしまい、走行時の外力によってダッシュパネル3における膨出部30よりも右側部分と左側部分とが開くように変形し易くなり、ひいては車両の操縦安定性及び運動性能の低下を引き起こす場合がある。特に、FR車の場合は、フロントウインドウの下端部からボンネットの前端までの寸法が長くなるので、前部車体剛性を確保する点では不利になる。このダッシュパネル3の剛性低下を補うべく、
図3等に示すように、本実施形態では補強部材40を設けている。
【0051】
(補強部材の構成)
本実施形態のダッシュパネル3は上記補強部材40を備えており、この補強部材40も車体構造1の一部を構成する部材である。補強部材40は、膨出部30の後端壁部32から前方へ離れて設けられ、該膨出部30の内面に固定されている。補強部材40は、パワートレインPTの後側上部の真後に位置付けられている。つまり、前方衝突時にパワートレインPTが後退すると、パワートレインPTの後側上部が補強部材40に確実に当接するように、補強部材40の高さ及び左右方向の位置が設定されている。
【0052】
図7に示すように、補強部材40単体を正面(前方)から見ると、全体として左右方向及び上下方向に延びる板状をなしている。補強部材40は、左右方向及び上下方向に延びる板状の本体部41と、上側固定部42と、右側固定部43と、左側固定部44と、下側固定部45とを備えている。
【0053】
上側固定部42は、本体部41の上端部に設けられており、前方へ向けて突出するとともに、左右方向に延びる板状をなしている。この上側固定部42は、例えばカウルパネル8の底板部8aまたは膨出部30の上壁部31に固定することができる。また、右側固定部43は、本体部41の右端部に設けられており、前方へ向けて突出するとともに、上下方向に延びる板状をなしている。この右側固定部43は、膨出部30の右側壁部33の内面に固定することができる。また、左側固定部44は、本体部41の左端部に設けられており、前方へ向けて突出するとともに、上下方向に延びる板状をなしている。この左側固定部44は、膨出部30の左側壁部34の内面に固定することができる。さらに、下側固定部45は、本体部41の下端部に設けられており、後方へ向けて突出するとともに、左右方向に延びる板状をなしている。この下側固定部45は、フロアトンネル部2aの上壁部に固定することができる。
【0054】
右側固定部43及び左側固定部44を膨出部30の右側壁部33及び左側壁部34に固定することで、右側壁部33と左側壁部34とが補強部材40によって連結された状態になる。これにより、ダッシュパネル3の剛性が向上する。さらに、上側固定部42をカウルパネル8の底板部8aまたは膨出部30の上壁部31に固定することで、膨出部30の剛性が高まり、その結果、ダッシュパネル3の剛性がより一層向上する。加えて、下側固定部45をフロアトンネル部2aの上壁部に固定することで、補強部材40とフロアトンネル部2aとを接続することができ、ダッシュパネル3の剛性がさらに向上する。尚、補強部材40の上側固定部42及び下側固定部45のいずれか一方または両方を省略してもよい。
【0055】
上側固定部42、右側固定部43、左側固定部44及び下側固定部45の固定方法としては、例えばスポット溶接等の溶接による固定方法を適用することができる。溶接による固定方法の場合、通常走行時に加わる外力によっては各固定部42~45が離脱しないようにしながら、前方衝突時にパワートレインPTが後退して補強部材40の本体部41に当接した時、その後方へ向けての荷重によって各固定部42~45が離脱するように設定されている。各固定部42~45の固定力は、例えば走行試験、衝突試験、シミュレーション等の結果によって予め設定することができる。その設定した固定力となるように、溶接条件や、溶接面積、溶接箇所の数を調整すればよい。
【0056】
(補強部材の別形態)
上述した形態では、補強部材40が上下方向及び左右方向に延びる板状であるが、これに限らず、図示しないが、補強部材は左右方向に延びる板状、棒状、軸状等の形状としてもよく、膨出部30の右側壁部33と左側壁部34とを連結可能な部材であればよい。
【0057】
また、補強部材40は複数設けることもできる。補強部材40を複数設ける場合には、上下方向に並ぶように設けてもよいし、前後方向に並ぶように設けてもよい。
【0058】
(空調装置)
本実施形態に係る自動車には、
図8に示すような空調装置60が搭載されている。空調装置60は、車室Rの前部に設けられており、図示しないがインストルメントパネルの内部に収容されている。従って、車体構造1は、空調装置60を備えている。尚、図示している空調装置60は、いわゆる室内ユニットであり、図示しない室外ユニットである圧縮機、凝縮器、受液器及びこれらを接続する冷媒配管等は動力室S等に配設されている。室外ユニットも含めて空調装置60とすることもできるが、本明細書では、室内ユニットを空調装置60というものとする。上記圧縮機は、エンジンの動力で駆動されるものであってもよいし、電動モータで駆動されるものであってもよい。
【0059】
空調装置60は、空調風を生成する空調ユニット本体部61と、通路構成部材62とを備えている。空調ユニット本体部61は、ブロワファン61aと、冷却用熱交換器(冷却器)61bと、加熱用熱交換器(加熱器)61cと、これらを収容するケーシング61dとを備えている。ブロワファン61aは、図示しないモータで回転駆動され、ケーシング61dに形成された内気導入口または外気導入口から空気をケーシング61d内に取り入れるように構成されている。内気導入口と外気導入口の切替は内外気切替用ダンパ(図示せず)によって可能である。尚、空調装置60は、冷却用熱交換器61b及び加熱用熱交換器61cの一方のみを備えていてもよい。
【0060】
冷却用熱交換器61b及び加熱用熱交換器61cはブロワファン61aによって送風された空気の温度調節を行うためのものである。具体的には、冷却用熱交換器61bには、膨張弁を介して減圧された冷媒が流入するようになっており、この冷却用熱交換器61bは蒸発器で構成することができる。一方、加熱用熱交換器61cには、エンジンや走行用モータ等を冷却するための冷却水が流入するようになっており、この加熱用熱交換器61cはヒータコアで構成することができる。尚、加熱用熱交換器61cを冷媒凝縮器で構成してもよい。また、PTCヒータ等の電気式ヒータを空調ユニット本体部61に設けてもよい。
【0061】
ブロワファン61aによってケーシング61d内に取り入れられた空気は、冷却用熱交換器61bを通過して冷却され、冷風が生成される。また、冷却用熱交換器61bを通過した空気は、エアミックスダンパ(図示せず)によって加熱用熱交換器61cへ送られる量が設定される。加熱用熱交換器61cを通過した空気は加熱されて温風となり、ケーシング61dの下流側へ流れる。ケーシング61dの下流側では、冷風と温風とが混合して所望温度の空調風が生成される。
【0062】
図5に示すように、空調ユニット本体部61は膨出部30の左側方(車幅方向一方の側方)に配置されるとともに、
図4に示すように、助手席Psの前方に配置されている。空調ユニット本体部61のケーシング61dをダッシュパネル3に固定することで、空調ユニット本体部61をフロアパネル2から浮いた状態で固定できる。
図5に示すように、ケーシング61dの上部は、膨出部30の上壁部31よりも上へ突出しており、このケーシング61dの上部には、上記通路構成部材62が接続されている。
【0063】
通路構成部材62は、空調ユニット本体部61で生成された空調風を車室Rの所望の部位へ流通させる通路を構成するための部材である。この実施形態では、通路構成部材62は、空調風を車室Rの複数箇所へ分配する風配装置である。通路構成部材62が風配装置である場合、通路構成部材62は、左右方向に延びるダクト状部62A(
図6に示す)を有する構造となる。このダクト状部62Aの左端部がケーシング61dの上部における右側に接続され、ダクト状部62Aの左端部とケーシング61dの上部とが連通している。
【0064】
ダクト状部62Aは、ケーシング61dの上部から右へ延びる姿勢となり、その大部分が膨出部30の上面の上方(直上方)に配置されている。これにより、通路構成部材60は、膨出部30の上面の上方を、助手席Ps側から運転席Dr側へ延びるように配置されることになる。ただし、通路構成部材60の右端部は、膨出部30の右側壁部33の直上方に位置しており、車室Rの右端部には達していない。
【0065】
このように、膨出部30の上方空間を、空調装置60の一部である通路構成部材62の少なくとも一部を配置するためのスペースとして有効に活用できる。具体的には、通路構成部材62の下面の少なくとも一部が膨出部30の上面または該膨出部30の上面よりも上方に配置されている。通路構成部材62の下面の少なくとも一部が膨出部30の上面に配置されていてもよいし、膨出部30の上面から上方へ離れて配置されていてもよい。これにより、空調ユニット本体部61の大型化が回避されるとともに、車室内空間が広く確保される。また、通路構成部材60は、インパネメンバ20の前方に配置されている。
【0066】
図6に示すように、ダクト状部62Aの下壁部には、デフロスタ吹出口62aとヒート吹出口62bとが形成されており、また、ダクト状部62Aの後壁部には、ベント吹出口62cが形成されている。デフロスタ吹出口62aには、図示しないがデフロスタダクトが接続されている。デフロスタダクトは、フロントウインドガラスの内面へ向けて空調風を供給するためのものであり、フロントウインドガラスの下部近傍に達するように形成されている。ヒート吹出口62bには、図示しないがヒートダクトが接続されている。ヒートダクトは、乗員の足元近傍に空調風を供給するためのものであり、下方へ向けて延びている。尚、この実施形態では、デフロスタ吹出口62aとヒート吹出口62bが膨出部30の内部に連通するように形成することができる。この場合、デフロスタダクト及びヒートダクトの上流側は、膨出部30の内部においてそれぞれデフロスタ吹出口62a及びヒート吹出口62bと接続することができる。
【0067】
ベント吹出口62cは、インパネメンバ20の内部空間と接続されている。具体的には、インパネメンバ20の左右方向中央部の前面部には、空気導入口20aが形成されており、この空気導入口20aとベント吹出口62cとが連通している。
【0068】
ダクト状部62Aには、デフロスタ吹出口62aを開閉するデフロスタダンパ63と、ヒート吹出口62bを開閉するヒートダンパ64と、ベント吹出口62cを開閉するベントダンパ65とが設けられている。デフロスタダンパ63、ヒートダンパ64及びベントダンパ65は、それぞれアクチュエータや乗員によるレバー操作等によって開閉動作可能になっている。例えば、デフロスタダンパ63及びヒートダンパ64を閉じて、ベントダンパ65を開けば吹出モードがベントモードになり、ベントモードでは、空調風がダクト状部62Aからベント吹出口62c、空気導入口20aを経てインパネメンバ20の内部空間に流入する。尚、従来から周知の方法によって他の吹出モードに切り替えることもできる。
【0069】
図1に示すように、インパネメンバ20の左右方向中央部の後面部には、センタベント用開口部20bが形成されている。センタベント用開口部20bは、図示しないインストルメントパネルのセンタベントノズルに接続されている。また、インパネメンバ20の右端部近傍(ベント吹出口62cから車幅方向に離れた部位)の後面部には、右ベント用開口部20cが形成されている。右ベント用開口部20cは、図示しないインストルメントパネルの右ベントノズルに接続されている。さらに、インパネメンバ20の左端部近傍(ベント吹出口62cから車幅方向に離れた部位)の後面部には、左ベント用開口部20dが形成されている。左ベント用開口部20dは、図示しないインストルメントパネルの左ベントノズルに接続されている。各ベントノズルは乗員の上半身に向けて空調風を供給するためのものである。
【0070】
上述した形態では通路構成部材60が風配装置であるため、デフロスタダンパ63、ヒートダンパ64及びベントダンパ65を空調ユニット本体部61に設けずに済み、空調ユニット本体部61を小型化することができる。この形態とは別の形態として、通路構成部材60をダクトとすることもできる。
【0071】
通路構成部材60をダクトとする場合には、デフロスタダンパ63、ヒートダンパ64及びベントダンパ65を空調ユニット本体部61に設け、通路構成部材60をベントダクトまたはデフロスタダクトとして利用することができる。ベントダクトとする場合、通路構成部材60は、車室Rの右端部近傍から左端部近傍まで延びる筒状部材で構成することができる。デフロスタダクトとする場合、通路構成部材60は、車室Rの右端部近傍から左端部近傍まで延びていてもよいし、
図5等に示すように、左右方向中間部にのみ配置されるものであってもよい。ベントダクトまたはデフロスタダクトとする場合であっても、空調ユニット本体部61にベントダクトまたはデフロスタダクトを設けずに済むので、空調ユニット本体部61を小型化することができる。尚、通路構成部材60をダクトとする場合には、インパネメンバ20をダクトとして機能させる必要はないので、一般的なインパネメンバ20とすることができる。
【0072】
また、空調ユニット本体部61の下部から空調風が吹き出す構造とすることもできる。この場合、通路構成部材60の上流側が空調ユニット本体部61の下部に接続されて膨出部30の左側壁部34に沿って上方へ延びる形状になる。そして、通路構成部材60の下流側(上側部分)は、右方向へ屈曲して膨出部30の上壁部31に沿って右側へ向けて延びる形状になる。つまり、この場合、通路構成部材60の一部(下流側部分)のみが膨出部30の上面の上方に配置されることになるが、膨出部30の上方空間を有効利用できる点では上述した形態と共通している。
【0073】
尚、運転席Drが左側にある場合には、空調ユニット本体部61を膨出部30の右側方に配置すればよい。
【0074】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、ダッシュパネル3が後方へ向かって膨出する膨出部30を備えているので、前方衝突時にパワートレインPTの後退ストローク量を十分に確保して乗員の安全性を向上させることができる。そして、空調ユニット本体部61に接続される通路構成部材62の少なくとも一部が膨出部30の上面の上方に配置されているので、膨出部30の上方空間を有効に活用して車室内空間を広く確保できる。
【0075】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0076】
以上説明したように、本発明に係る車体構造は、車室と動力室とを仕切るダッシュパネルを備えた車両に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1 車体構造
2 フロアパネル
3 ダッシュパネル
8 カウルパネル
9、10 ヒンジピラー
20 インパネメンバ
20c 右ベント用開口部
20d 左ベント用開口部
30 膨出部
60 空調装置
61 空調ユニット本体部
61a ブロワファン
61b 冷却用熱交換器(冷却器)
61c 加熱用熱交換器(加熱器)
62 通路構成部材(風配装置)
62a デフロスタ吹出口
62b ヒート吹出口
62c ベント吹出口
Dr 運転席
Ps 助手席
PT パワートレイン
R 車室
S 動力室