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特許7632005伝送線路と該伝送線路を用いたパルス形成回路及びパルス電源装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】伝送線路と該伝送線路を用いたパルス形成回路及びパルス電源装置
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/00 20060101AFI20250212BHJP
   H02M 9/04 20060101ALI20250212BHJP
   H03K 3/53 20060101ALI20250212BHJP
   H01P 3/06 20060101ALI20250212BHJP
   H01P 3/08 20060101ALI20250212BHJP
   H01P 5/02 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H01P1/00 A
H02M9/04 C
H03K3/53
H01P3/06
H01P3/08 200
H01P5/02 605D
H01P5/02 603D
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2021063447
(22)【出願日】2021-04-02
(65)【公開番号】P2022158498
(43)【公開日】2022-10-17
【審査請求日】2024-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080816
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 朝道
(74)【代理人】
【識別番号】100098648
【弁理士】
【氏名又は名称】内田 潔人
(72)【発明者】
【氏名】服部 渉
【審査官】麻生 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-350338(JP,A)
【文献】実開平04-027630(JP,U)
【文献】特開2000-152666(JP,A)
【文献】特開2004-159198(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 1/00
H02M 9/04
H03K 3/53
H01P 3/06
H01P 3/08
H01P 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同軸円筒線路又は平行平板線路を構成する第1及び第2の導体を有しパルス波形成型に用いられる伝送線路であって、
前記第2の導体の管内に、前記第1の導体が配設されるとともに絶縁性流体が充填され、前記伝送線路の端部以外の前記管の内側及び前記第1の導体は単一の前記絶縁性流体で覆われており、
前記伝送線路の端部のインピーダンスを前記端部以外と整合しつつ、端部断面を拡開することで高電圧パルスを印加した際に絶縁破壊を防止し前記伝送線路の前記端部以外を細径化してなる、伝送線路。
【請求項2】
前記第1及び第2の導体は、前記伝送線路の長手方向一端から他端まで互いに離間して延在されており、
前記第1及び第2の導体の少なくとも一つについて、前記伝送線路の長手方向に直交する方向の幅又は断面を、前記伝送線路の長手方向の両側の前記端部の端面において、前記端部の前記端面以外の箇所と前記両側の前記端部間の中間部での幅又は断面よりも大とし、且つ、前記伝送線路は、長手方向の前記両側の前記端部と前記中間部とでインピーダンスが整合されている、請求項1記載の伝送線路。
【請求項3】
前記第2の導体が、前記同軸円筒線路の外部導体を構成し、
前記第1の導体が、前記外部導体の円筒管内に前記外部導体と同軸に配置された内部導体を構成し、
前記外部導体は、前記端部において、前記端部の端面に対向する側から前記端面に向かって漸次拡径したテーパー管を構成し、
前記内部導体は、前記端部において、前記外部導体の形状に対応して、前記端部の前記端面に対向する側から前記端面に向かって漸次拡径してなる、請求項1又は2に記載の伝送線路。
【請求項4】
前記内部導体の半径と前記外部導体の内径との比を、前記端部及び前記伝送線路の前記端部以外の箇所で同一としてなる、請求項3に記載の伝送線路。
【請求項5】
前記端部において、前記内部導体は、前記端部の端面に対向する側から前記端面に向かって漸次拡径される中空の円筒形状とされ、円筒側面に予め定められた所定のサイズの貫通孔を一つ又は複数有する、請求項3又は4に記載の伝送線路。
【請求項6】
前記第1の導体と前記第2の導体が、前記平行平板線路を構成し、
前記端部において、前記第1の導体は、前記端部の端面に対向する側から前記端面に向かってその幅が漸次拡大したテーパー形状とされ、
前記端部において、前記第1の導体と前記第2の導体との間の間隔が、前記端部の端面に対向する側から前記端面に向かって漸次大とされる、請求項1又は2に記載の伝送線路。
【請求項7】
前記第1の導体の前記幅と、前記第1の導体と前記第2の導体との間の間隔との比を、前記端部及び前記伝送線路の前記端部以外の箇所で同一としてなる、請求項6に記載の伝送線路。
【請求項8】
前記第1の導体は、前記伝送線路の長手方向に直交する断面形状が板状であり、両側の縁が、放電防止対策として、角を落と丸く加工されている、請求項6又は7に記載の伝送線路。
【請求項9】
前記第1の導体は、前記伝送線路の長手方向に直交する断面形状が円形である、請求項6又は7に記載の伝送線路。
【請求項10】
前記第2の導体は、前記伝送線路の長手方向に直交する断面が中空矩形型の管からなり、前記管の断面の四隅の内壁角部が、放電防止対策として、角が丸く加工されている、請求項6乃至9のいずれか1項に記載の伝送線路。
【請求項11】
前記第1の導体が、差動平衡線路を構成する2本の導体からなる、請求項6乃至10のいずれか1項に記載の伝送線路。
【請求項12】
前記絶縁性流体として封入時に液体状とした熱可塑性樹脂を充填してなる、請求項1乃至11のいずれか1項に記載の伝送線路。
【請求項13】
前記高電圧パルスは100kV(kilovolt)以上である請求項1乃至12のいずれか1項に記載の伝送線路。
【請求項14】
充電器で充電されたコンデンサからスイッチのオン制御で発生したパルスを一次側に受けるトランスの二次側に一端が接続され、他端に負荷が接続され、前記トランスの二次側からのパルス出力を受け他端から負荷に供給するパルスを出力するパルス形成線路として、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の伝送線路を備えたパルス形成回路。
【請求項15】
充電器で充電されたコンデンサからスイッチのオン制御で発生したパルスをトランスの一次側に印加する初段パルス発生回路と、
一端が前記トランスの二次側に接続され、他端に負荷が接続され、前記トランスの二次側からのパルス出力を受け前記負荷に供給するパルスを形成するパルス形成線路と、
を備え、
前記パルス形成線路として、請求項1乃至13のいずれか1項に記載の伝送線路を備えたパルス電源装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス形成用の伝送線路と該伝送線路を用いたパルス形成回路及びパルス電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、パルス時間幅がピコ秒(pico second:ps)やナノ秒(nano second:ns)オーダーと短い高出力高電圧パルスを発生し、様々な用途に利用する技術(「パルスパワー技術」とも称呼される)が開発、活用されている。パルス時間幅の短い高出力高電圧パルスを発生させるために、パルス波形成型回路あるいはパルス形成回路等と呼ばれる回路が多用されている。このうち、特に高出力高電圧のパルスを発生させる場合には、高耐電圧で大電流を扱える伝送線路構造を用いたものが用いられることが多い。例えば特許文献1には、分布定数線路になるブルームライン伝送線路を用いてパルス形成を行うパルス電源が開示されている。
【0003】
特許文献2には、充電電源に接続されたブルームライン線路とスイッチング素子を備え、ブルームライン線路に接続された負荷に対して矩形波パルスを発生させるパルス発生回路(パルス形成回路)に関して、導体円筒内に配置した多重スパイラル線路によって前記ブルームライン線路を構成しスパイラル線路の端部を構成する導体の太さをスパイラル線路の中央部の導体の太さよりも太くしたパルス発生装置が開示されている。特許文献2には、ブルームライン線路を用いたパルス形成線路では例えば数100nsのパルス幅を得るには数10mの線路長が必要とされ、また、高インピーダンスの負荷とインピーダンスを整合するにはブルームライン線路の空洞部分の幅を非常に大きくする必要があるという問題を解決するためにブルームライン線路を導体円筒と2重スパイラル線路によって構成した場合、円筒導体内に充填される絶縁媒体の絶縁破壊を起こしやすいという課題が記載されており、特許文献2で提案されるパルス発生回路はこの課題を解決するものであることが記載されている。
【0004】
特許文献3には、図7(B)に示すように、ブルームラインBLを利用したパルス電源では、ブルームラインBLには、高圧パルスが印加される端子a-b、a-cの2層を積層したコンデンサ構成になり、大電流パルス出力のために大容量化を図るにはブルームラインの長さおよび径が非常に大きくなるという課題があることが記載されている。この課題等に対して、特許文献3には、例えば図7(A)に示すようなパルス電源が開示されている。このパルス電源は、高電圧充電器(H.V Charger)で初期充電されるコンデンサCから可飽和リアクトルSIと半導体スイッチSWを通して可飽和トランスSTの一次側に高圧パルスを印加し、可飽和トランスSTの降圧動作により大電流IでパルスフォーミングラインPFL(パルス形成用の分布定数線路)を充電し、可飽和トランスSTの磁気スイッチ動作でダイオードDを通して負荷LOADに電流パルスI(大電流・超短パルス)を供給する。パルスフォーミングラインPFLは、内側の円筒電極P1と、これと同軸にされた外側の円筒電極P2を有し、電極P1、P2間の磁性材として脱イオン水または絶縁油もしくは高誘電率の媒質で満たした構成とし、等価的には、単位長当たりで、半径方向に容量成分C1が形成され、長手方向にインダクタンス成分L1が形成された分布定数線路になり、比較的短いパルス幅(数10~数100ns)をもつ急峻波形への整形が可能な構造とされる。特許文献3には、パルスフォーミングラインPFLの電極形状として、電極P1、P2が互いに対向した平行平板構成にして分布定数線路を構成することもできることが記載されている。さらに特許文献3には、パルスフォーミングラインPFLに代えて、コンデンサC1-1~C1-NとインダクタLをはしご状に多段接続したLC集中定数回路構成のパルスフォーミングネットワークPFNを設ける構成も開示され、パルスフォーミングラインPFLと同様に等価的には分布定数線路になり、比較的短いパルス幅をもつ急峻波形への整形が可能となることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-130443号公報
【文献】特開平4-326809号公報
【文献】特開2004-350338号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】山本修・濱田昌司共編、「OHM大学テキスト 高電圧工学」、株式会社オーム社、2013年、128-135頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、特許文献3においては、LC集中定数回路構成のパルスフォーミングネットワーク(PFN)を使用することも記載されている。しかしながら、概ね100kV(kilovolts)以上の高電圧を扱う場合、高耐電圧の集中定数素子が入手できず、事実上、LC集中定数回路からなるパルスフォーミングネットワークを採用することはできなかった。そして、特許文献3に開示された技術に対して、さらなる装置の小型化が必要とされている。
【0008】
したがって、本発明は上述した課題を鑑み創案されたものであって、その目的は、高出力高電圧のパルスを発生させる装置の小型化をさらに推し進めることを可能とするパルス形成用の伝送線路と、該伝送線路を用いたパルス形成回路及びパルス電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、同軸円筒線路又は平行平板線路を構成する第1及び第2の導体を有しパルス波形成型に用いられる伝送線路であって、前記第2の導体の管内に、前記第1の導体が配設されるとともに絶縁性流体が充填され、前記伝送線路の端部以外の前記管の内側及び前記第1の導体は単一の前記絶縁性流体で覆われており、前記伝送線路の端部のインピーダンスを前記端部以外と整合しつつ、端部断面を拡開することで高電圧パルスを印加した際に前記端部での沿面放電を抑止して絶縁破壊を防止し前記伝送線路の前記端部以外を細径化して小型化してなる伝送線路が提供される。また、本発明によれば、上記伝送線路を用いたパルス形成回路及びパルス電源装置が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、伝送線路の小型化、及び、該伝送線路を用いたパルス形成回路とパルス電源装置の小型化をさらに推し進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の例示的な実施形態を説明する図である。
図2】(A)、(B)は本発明の例示的な実施形態のシミュレーション結果を示す図である。
図3】(A)乃至(C)は本発明の例示的な実施形態を説明する図である。
図4】(A)、(B)は本発明の例示的な実施形態を説明する図である。
図5】(A)乃至(C)は本発明の例示的な実施形態を説明する図である。
図6】(A)、(B)は本発明の例示的な実施形態を説明する図である。
図7】(A)、(B)は関連技術の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の例示的な実施形態について説明する。本発明の実施形態によれば、高出力高電圧のパルスを発生させる場合に用いられる伝送線路を用いたパルス形成回路(パルス波形成型回路)において、パルス形成(パルス波形成型)用の伝送線路(例えば図1の100、図3の300等)は、長手方向一端から他端まで互いに離間して延在されてなる第1及び第2の導体(例えば図1の102及び101、図3の301及び302等)を含み、伝送線路の長手方向の端部(例えば図1の114、115、図3の306、307等)と、前記伝送線路の前記端部以外の箇所(例えば図1の細径管107、図3の中間部308等)とでインピ―ダンスを整合しつつ、前記端部(図1の114、115、図3の306、307等)において、前記第1及び第2の導体の少なくとも一方により画定される前記端部の端面の大きさを、前記伝送線路の前記端部以外の箇所の断面よりも大とした構成とされている。本発明によれば、第2の導体(例えば図1の101、図3の302等)の管内に、前記第1の導体(例えば図1の102、図3の301等)が収容されるとともに絶縁性流体(図3の303)が充填され、伝送線路の端部以外の第2の導体の管の内側(内壁)と第1の導体は単一の前記絶縁性流体(例えば図3の303)で覆われており、伝送線路の端部以外において三重点(2種類の誘電体の界面が電極(導体)と交わる点)は存在せず、端部以外を細径化可能としている。すなわち、伝送線路の端部断面を拡開することで、LC集中定数回路になるパルスフォーミングネットワーク(PFN)では扱えない高電圧パルス(例えば概ね100kV(kilovolts)程度またはそれ以上)を印加した際に前記端部での沿面放電を抑止して絶縁破壊を防止し前記伝送線路の前記端部以外を細径化して小型化している。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態の伝送線路を模式的に例示する図である。本実施の形態の伝送線路100は、伝送線路100の一端から他端まで長手方向に延在され外側の円筒電極を構成する外部導体101(第2の導体)を備え、外部導体101の内側に外部導体101と同軸に配置されて伝送線路100の一端から他端まで長手方向に延在され、内側の円筒電極を構成する内部導体102(第1の導体)を備えた同軸円筒線路として構成されている。
【0014】
伝送線路100(同軸円筒線路)の長手方向の両側の端部114、115において、外部導体101はテーパー管105、106として構成されている。
【0015】
両側の端部114、115の間の中間部の外部導体101は、口径が、テーパー管105、106の端面の口径よりも小さい細径管107として構成される。
【0016】
すなわち、同軸円筒線路の端部114の外部導体101は、端部114の一側の端面(開口)に対向する端部114の他側の細径管107との接続部から,前記端部114の一側の端面(開口)に向かって漸次拡開(拡径)された逆円錐台状のテーパー管105として構成されている。
【0017】
端部114の端面において、テーパー管105の開口部には絶縁蓋110と入力ポート103が配設されている。
【0018】
絶縁蓋110は、外部導体101と内部導体102の間隙に封入(充填)された絶縁性流体(液体、又はガス等)を封止する。入力ポート103は、パルス電源のトランス二次側(例えば図7(A)の可飽和トランスSTの二次側)に接続される。
【0019】
同軸円筒線路の端部115の外部導体101は、端部115の一側の端面(開口)と対向する端部115の他側の細径管107との接続部から、端部115の一側の端面(開口)に向かって漸次拡開(拡径)された逆円錐台状のテーパー管106として構成されている。
【0020】
テーパー管106の開口部には絶縁蓋111と出力ポート104が配設されている。
【0021】
絶縁蓋111は、絶縁蓋110と同様、外部導体101と内部導体102の間隙に封入(充填)された絶縁性流体(液体又はガス)等を封止する。出力ポート104は負荷(例えば図7(A)の負荷LOAD)に接続される。
【0022】
図1では、細径管107の外部導体101は、180度の折り曲げ部116、117を有するが、折り曲げ部の数は2に制限されるものでないことは勿論である。伝送線路100を180度折り曲げることで、直管で伝送線路100を構成した場合と比べて、伝送線路両端間の寸法を縮減している。細径管107において、外部導体101を構成する折り曲げ部116、117は所定の半径を有し両端で直管の外部導体101に接続する。折り曲げ部116、117は、例えば折り曲げ継手を直管円筒導体(外部導体101)にインピーダンス整合して接続器具等で接続するか、ろう付け等で接続してもよい。あるいは、曲げ加工等により直管円筒導体と一体で成型してもよい。内部導体102は、折り曲げ部116、117において外部導体101と同軸に円弧状に折曲される。端部114、115において、テーパー管105、106は、細径管107の直管円筒導体に接続器具等でインピーダンス整合して接続するか、ろう付け等で接続してもよいし、あるいは一体成型してもよい。
【0023】
端部114の内部導体108の口径は、細径管107の内部導体102に接続する側において、細径管107内の内部導体102の口径と一致し、端部114の一側の端面に設けられた入力ポート103に向けて、外部導体101のテーパー管105の形状に合わせて、インピーダンス整合を維持して変形している。すなわち、端部114の内部導体108は、端部114の一側の端面に対向する他側から端部114の一側の端面の入力ポート103に向けて、漸次拡径した逆円錐台形状とされる。
【0024】
同様に、端部115の内部導体109は、細径管107の内部導体102に接続する側において、細径管107内の内部導体102の口径と一致し、端部115の一側の端面に設けられた出力ポート104に向けて、外部導体101のテーパー管106の形状に合わせて、インピーダンス整合を維持して変形している。すなわち、端部115の内部導体109は、端部115の一側の端面に対向する他側からの端部115の一側の端面の出力ポート104に向けて漸次拡径した逆円錐台形状とされる。なお、テーパー管105、106、内部導体108、109は、逆円錐台の底面の中心と上面の中心を結ぶ線が底面と上面と傾斜して交わる構成とされているが、傾斜角は、図1に示した例に制限されるものでなく、また逆円錐台の底面の中心と上面の中心を結ぶ線が底面及び上面と直交する構成としてもよい。
【0025】
なお、端部114、115において拡径される内部導体108と内部導体109は、中空の導体、即ち、パイプ状の導体としてもよい。パイプ状の導体とすることにより、切削加工のみではなく、絞り加工等で形状を加工できるようになる。また、パイプ状とすることで、導体の重量を軽減できる。その際、パイプ内部に絶縁性流体が侵入できるように、パイプ側面に、伝送線路100が伝送するパルスの周波数に対応する波長よりも十分小さな(例えば、1/5波長以下)サイズの貫通孔を開けてもよい。なお、貫通孔は一つとは限らない。パイプ側面の複数の箇所を穴開けすることにより、パイプ内部に空気等が残留することを少なくすることができる。例えば、パイプは、その側面に、上記サイズの貫通孔を多数設けたメッシュのような材料とすることもできる。これにより、さらに内部に空気等が残留することを少なくできる。細径管107(外部導体)に収容される内部導体102についても、中空円筒導体(パイプ状)とし、パイプ側面に上記サイズの貫通孔を備えた構成としてもよい。
【0026】
インピーダンス整合の方法としては、同軸円筒線路であれば、例えば、外部導体の内径と内部導体の外径の比を一定にするといった方法がある。同軸円筒線路の内部導体102の外径をa、外部導体101の内径をbとすると、同軸線路の単位長さあたりの特性インピーダンスZは、
1/(2π)√(μ/ε)ln(b/a)[Ω]
で与えられる。εは同軸円筒線路内の誘電体の誘電率、μは導体の透磁率である。
【0027】
したがって、細径管107の外部導体101の内径(内半径)をb1、細径管107(外部導体)に収容される内部導体102の外径(外半径)をa1、端部114、115の一側端と他側端の間におけるテーパー管105、106の内径(内半径)をbx、内部導体108、109の外径(外半径)をax、端部114、115の他側の開放端でのテーパー管105、106の最大内径(内半径)をb2、内部導体108、109の最大外径(外半径)をa2とすると、
b1/a1=bx/ax=b2/a2
であれば、伝送線路100の端部114、115のテーパー管105、106とその間の細径管107の特性インピーダンスZは変わらず、伝送線路100の端部114、115と端部以外でインピーダンス整合する。
【0028】
なお、インピーダンス整合の方法は、上記に限定されるものではないことは勿論である。例えば、1/4波長線路を用いてインピーダンス整合する場合、ステップ形状(段差)としてもよい。1/4波長の伝送線路は負荷インピーダンスを逆数に変換する性質をもつ。ただし、パルスを形成する広い周波数帯でインピーダンス整合をとる場合には、図1のように、テーパー管105、106を用いることが望ましい。
【0029】
特に制限されないが、本実施形態では、インピーダンス整合されているとは、例えば、電圧定在波比が1.3以下となる状態を指し、好ましくは、1.2以下、更に好ましくは、1.05以下の状態を指すものとする。
【0030】
同軸円筒線路中を伝搬する波は、基本モードであるTEM(Transverse Electromagnetic)波(電界と磁界の伝搬方向の成分が0)であるが、周波数が高くなると、高次モードが発生する。そこで、テーパー管105、106の口径(例えば端面の内半径R)は、高次モードの発生を抑制できる範囲とすることが望ましい。
【0031】
すなわち、伝送波の周波数が高くなると、同軸円筒線路中に例えばTE11(Transverse Electric)モード等の高次モードが発生する。ここで、同軸円筒線路長手方向をz軸としてz方向に進行する電磁波の電界、磁界を、
E=E(x,y)exp(iωt-γz)、
H=H(x,y)exp(iωt-γz)
と表すと(ωは角周波数)、中空円筒管(半径R)のTEmnモードは、m次のBessel関数の微係数j’のn番目の零点jmn’(m=0,1,2,…, n=1,2,…)について、
k=jmn’/R=kmn
ただし、k=ωεμ+γ(εは誘電率、μは透磁率、γ<0、すなわち、γが虚数の場合、波としてz方向に進行する。)
したがって、k11 =(j11’/R)≧ωεμ
であれば、γ≧0となり、TE11モードの発生(進行)は抑制される。この場合、テーパー管105、106の口径の範囲として、
R≦j11’/{ω√(εμ)}
と求まる。1/√(εμ)は進行波(電磁波)の速度であり、真空中の速度c=1/√(ε0μ0)(=3×10[m])で近似する。周波数fを例えば100MHz(Mega Herz)とする。1/ω√(εμ)はc/(2πf)であり、c/fは波長である。j11’=1.841であることから、R≦1.841×3×10/(6.28×10)=0.879[m]。よって、高次モードTE11の発生を抑制するテーパー管105、106の口径の端部端面での内半径b2は約88cm以下と算出されるが、実際は誘電体の比誘電率等に応じて小さくなる。例えば水の比誘電率εrは温度20℃、静電場で約80である(温度、周波数によって変化する)。この場合、テーパー管105、106の端部端面での内半径b2の最大値は、88[cm]/√εrから、約10乃至15cm程度(口径:約20乃至30cm程度)となる。ただし、上記数値は、あくまで発明の理解容易化のために概算した一例であって、本発明を限定するものでないことは勿論である。
【0032】
テーパー管105、106と細径管107から構成される外部導体101の内側と内部導体102表面との間の間隙には、誘電体が封入され、伝送線路100の両端の絶縁蓋110、111で封止される。誘電体としては、例えば、高絶縁耐圧であるSF(sulfur hexafluoride:六フッ化硫黄)等の絶縁性ガス、純水、純水に有機高分子を混ぜたもの、絶縁油やシリコンオイル等の絶縁性液体といった絶縁性流体を用いることができる。純水に有機高分子を混入させることで壁からイオンが溶け込むことによる絶縁耐圧の経時劣化を抑制することができる。また、純水に有機高分子を混入させることで、絶縁性液体の絶縁耐圧を劣化させることなく、絶縁性液体の粘度を高めることができる。これにより、伝送線路の端部以外の、単一の絶縁性流体で覆われている導体の支持がより強固になり、振動や衝撃への耐性が高くなる。同様に様々な粘度を選択できるシリコンオイルも同様の利点を有している。なお、これらの絶縁性流体からなる誘電体は、複雑な同軸円筒管内をボイド等の欠陥なく封入し易い。なお、封入時に液体状とした熱可塑性樹脂(例えば高密度ポリエチレンやポリスチレン、フッ素樹脂など)も誘電体として用いることができる。
【0033】
絶縁蓋110、111は、封入される絶縁性流体(液体、ガス)を封止する気密性、密封性等の点から樹脂やセラミック等で形成するようにしてもよい。
【0034】
なお、絶縁性流体と絶縁蓋110、111との比誘電率が異なるため、入力ポート103と出力ポート104の形状は複雑となる。入力ポート103、出力ポート104の外部には不図示のパルストランスやギャップスイッチ等が接続されるか、あるいは意図的に開放端としてパルス形成線路が構成される。コンデンサによるパルス放電には電極ギャップ間隔により動作電圧を調整するギャップスイッチが用いられる。ギャップスイッチの基本原理は対向した電極間の絶縁物(例えば気体)の絶縁破壊を利用して高速な通電を実現する。
【0035】
テーパー管105、106の端面(開放端)と反対側は細径管107に接続され、テーパー管105、106の端面(開放端)は、樹脂やセラミック等の固体絶縁材料から構成される絶縁蓋110、111でそれぞれ気密封止される。
【0036】
絶縁蓋110、111の縁112、113は、テーパー管105、106(外部導体101)、絶縁性流体である誘電体、及び、絶縁蓋110、111を構成する絶縁材料の3種類の材料が接触する三重点(triple junction:導体と誘電率の異なる二つの絶縁体が一点で交わる点)を形成する。この三重点は、絶縁破壊を生じやすい(絶縁破壊の起点となる)とされている(非特許文献1参照)。
【0037】
また、固体絶縁材料から構成される絶縁蓋110、111の各表面では、沿面放電を生じやすいとされている。沿面放電は、固体絶縁体と気体絶縁体等の複合絶縁体で絶縁体の境界面に沿って生じる放電である。沿面放電によって絶縁破壊が生じた場合には、内部導体108とテーパー管(外部導体)105、内部導体109とテーパー管106(外部導体)が導通し、伝送線路として機能しなくなる。
【0038】
したがって、関連技術では、端部における入力ポート、出力ポートに接続する内部導体と外部導体の離隔距離で所望の絶縁耐圧を設計し、その間を同口径の同軸直管(図7(A)参照)で接続するといった手法がとられてきた。このような特徴は、例えばLC集中定数回路になるパルスフォーミングネットワーク(PFN)では扱えない、例えば概ね100kV(kilovolt)程度またはそれ以上の高電圧パルスを扱う伝送線路特有の特徴であり、一般的に市販されている低電圧信号向けの伝送線路、例えば、絶縁耐圧が1kV程度で充分であって、マイクロ波の信号を伝送するような同軸ケーブル等では考慮されない事項である。
【0039】
本実施の形態によれば、伝送線路100の端部114、115において、外部導体101をテーパー管105、106とし、それに応じてインピーダンス整合を保って内部導体108、109を形成することにより、絶縁破壊を生じやすい端部開口面を大口径として、外部導体と内部導体の離隔距離をとり、絶縁耐圧を確保している。
【0040】
一方で、テーパー管105、106の間の中間部は三重点を生じない構造とし、細径管107として絶縁耐圧を維持しつつ小型化することができる。
【0041】
さらに、例えば高電圧パルス(例えば100kv(kilovolt)又はそれ以上)を伝送させた際には、テーパー管105、106と細径管107とのインピーダンス整合をとっているため、意図しない反射波を生じず、パルスを伝送する伝送線路として機能する。
【0042】
図2は、図1に類似した構成の伝送線路において、電磁界シミュレーションを実行した結果を示す。なお、誘電体としては、純水を想定した。図2(A)は、電磁界シミュレーションにおける、伝送線路への入力パルス(図1の入力ポート103へ入力されるパルス)と伝送線路からの出力パルス(図1の出力ポート104に出力されるパルス)を示している。図2(A)の横軸は時間、縦軸は電圧(ただし単位は任意)である。パルスの時間幅は略110nsとされる。図2(B)はSパラメータを示している。S11は入力側の反射特性、S21は入力側からの通過特性を表している。図2(B)の横軸は周波数(単位:Giga Herz:GHz)、縦軸はデシベル(dB)である。テーパー管105、106部分と細径管107部分とでインピーダンス整合が取れているため、大きな反射も見られない良好な結果を得た。すなわち、出力パルスの立ち上がりと立ち下りに大きなオーバシュートやアンダーシュートはみられない。
【0043】
上記実施形態の伝送線路100を用いたパルス形成回路の一例として、充電器で充電されるコンデンサ(例えば図7(A)のC)からスイッチ(例えば図7(A)の半導体スイッチSW)のオン制御で発生したパルスを一次側に受けるトランス(例えば図7(A)の可飽和トランスST)の二次側に一端が接続され、該トランスの二次側からの高圧パルスを受け、他端から負荷(例えば図7(A)のLOAD)に供給するパルスを出力するパルス形成線路として、図1の伝送線路100を備えた構成としてもよい。またパルス電源装置の一例として、充電器で充電されるコンデンサ(例えば図7(A)のC)からスイッチ(例えば図7(A)の半導体スイッチSW)のオン制御で発生したパルスをトランス(例えば図7(A)の可飽和トランスST)の一次側に印加する初段パルス発生回路と、一端が前記トランスの二次側に接続され他端に負荷(例えば図7(A)のLOAD)が接続され、前記トランスの二次側からの高圧パルス出力を受け前記負荷に供給するパルスを形成するパルス形成線路(伝送線路100)を備えた構成としてもよい。なお、パルス形成回路及びパルス電源装置の一例として、説明の容易化のため、関連技術の図7(A)を参照したが、図7(A)等の構成に制限されるものでないことは勿論である。
【0044】
上記実施形態では、パルス形成回路に同軸円筒線路を用いた例を説明したが、図1を参照して説明した本発明の基本原理が適用される構成は同軸円筒線路に限られるものではないことは勿論である。
【0045】
図3は、パルス電源のパルス形成回路を構成する平行平板線路としてストリップ線路300を用いた例を説明する図である。図3(A)は、ストリップ線路300を上からみた模式的平面図であり、図3(B)は、図3(A)のB-B’線の模式的断面図、図3(C)は、図3(A)のA-A’線の模式的端面図である。
【0046】
図3(A)を参照すると、導体301(第1の導体)は、ストリップ線路300の両側の端部306、307において、幅を、中間部308側から開放端側に、漸次拡開したテーパー部304、305を形成している。
【0047】
ストリップ線路は、グランド導体(「導体(GND)」と記す)に挟まれるように信号導体を配置した構成とされるが、本実施形態では、誘電体として、前述した絶縁性流体を使用することから、断面が例えば矩形形状の直管からなる導体(GND)302(第2の導体)内に絶縁性流体を充填し封止する。すなわち、対向する導体(GND)302の底面と上面の間の側面を導体(GND)302A、302Bで覆い絶縁性流体を封止するとともに安全性を確保している。なお、側面の導体(GND)302A、302Bは底面と上面の導体(GND)302と一体の管であってもよいが、図3では説明のため、側面の導体(GND)302には別の符号302A、302Bを付している。
【0048】
図3(B)及び図3(C)に示すように、導体301は、導体(GND)302の上面よりも底面側に近い位置に配置されている。すなわち、導体301は導体(GND)302の上面の間の中央の高さに配置しなくてもよい(ただし、インピーダンス整合は確保す)。導体301は、長手方向の直交する断面の両側の縁が、放電防止のため、好ましくは角を落とし丸く加工(ラウンドエッジ加工)されている。また、中空矩形型の管からなる導体(GND)302の四隅の内壁角部も、放電防止のため、好ましくは、角が丸く加工(アール加工)されている。このような特徴も、放電を防止する必要のある高電圧パルスを扱う伝送線路として必要とされる固有の特徴であり、一般的に市販されている低電圧信号向けの伝送線路では全く考慮されていない、あるいは考慮の必要のない事項として扱われていた。
【0049】
図3(A)において、端部306、307の開放端は、図1と同様、絶縁蓋等で気密を保って覆うようにしてもよい。この場合、テーパー部304、305の開放端側は、図1と同様、絶縁蓋に設けられたいずれも不図示の入力ポート、出力ポートを介して、図7(B)等に示したパルス発生回路の可飽和トランスの二次側と負荷にそれぞれ接続するようにしてもよい。
【0050】
図3(B)を参照すると、図3(A)のB-B’線の中間部308での断面では、ストリップ線路300の導体301の幅はw1、導体301の厚さはt1、誘電体303の厚さ(導体(GND)302の底面と上面との間隔)はh1とされている。
【0051】
図3(C)を参照すると、図3(A)のA-A’線の端面(端部306、307の端面)では、ストリップ線路の導体301の厚さはt2(t2>t1)、誘電体303の厚さ(導体(GND)302の底面と上面との間隔)はh2(h2>h1)、導体301の幅はw2(w2>w1)とされている。
【0052】
導体301の厚さtを無視すると、導体301の幅wと誘電体の厚さhに関して(w/h)に依存した近似式により、ストリップ線路の単位長さあたりの特性インピーダンスZを算出することが一般に行われる。この場合、図3(A)のA-A’線の端面での導体301の幅w2、誘電体303の厚さh2を、端部306、307の間の中間部308の幅w1、厚さh1よりも大とした場合、
w2/h2=w1/h1
とすることで、ストリップ線路300の特性インピーダンスZは、両側の端部306、307と、その間の中間部308の線路でほぼ同一に保たれ、インピーダンス整合する。すなわち、端部306、307において導体301の幅をw1からw2にテーパー状に拡げる場合、誘電体の厚さ(導体(GND)302の底面と上面の間隔)も同じ比率でh1からh2に設定する。
【0053】
あるいは、ストリップ線路の誘電体の厚さによる特性インピーダンスZの数値計算結果(電磁界シミュレーション結果)あるいは実測値に基づき、厚さh2の誘電体303に対して、厚さh1、導体301の幅w1の特性インピーダンスに一致する導体301の端面の幅w2を求めるようにしてもよい。この場合、断面が矩形形状の直管からなる導体(GND)302とその中に配置した導体301、及び導体(GND)302に充填される誘電体(絶縁性流体)の誘電率等を考慮した電磁界シミュレーションを行うようにしてもよい。
【0054】
また、ストリップ線路の特性インピーダンスZがw/h、及びt/hに依存する近似式を用いる場合、
w1/h1=w2/h2、t1/h1=t2/h2 (w2>w1、h2>h1,t2>t1)としてもよい。
【0055】
ストリップ線路300の端部306、307の端面の誘電体303の厚さh2と導体301(信号パタン)の幅w2(図3(C))は、いずれも、ストリップ線路300の中間部308の厚さh1と導体301(信号パタン)の幅w1(図3(B))よりも大であり、導体301と導体(GND)302によって画定される端部306、307の端面の面積は、中間部308の断面よりも大となっている。
【0056】
図4(A)は、本実施形態のストリップ線路の別の例を示す図である。この例では、ストリップ線路400は、端部407、408の間の中間部409において、導体401のパタンを所定角度(図4(A)では180度)折り曲げる折り曲げ部410及び411を有している。図4(B)は、図4(A)のa-a’線の断面を示す模式断面図である。なお、折り曲げ部410、411は2個に制限されるものでないことは勿論である。導体401の折り曲げは、インピーダンス整合に影響するが、使用する周波数を考慮して、図4(A)に示すように、かなり急峻に曲げられる(例えば、折り曲げ部410、411の最小半径は導体401の配線間隔sの半分程度)。図4(A)のa-a’方向の幅は、導体401の幅w1に3(=折り曲げ回数(2)+1)を乗じた値に、平行する導体401の配線間隔sに2(=折り曲げ回数)を乗じた値を加算した幅がさらに必要とされる。
【0057】
折り曲げられた導体401は、矩形形状の直管からなる導体(GND)402内に配置される。対向する導体(GND)402の底面と上面の間の側面を導体(GND)402A、402Bで覆い絶縁性流体(誘電体403)を封止するとともに安全性を確保している。なお、側面の導体(GND)402A、402Bは底面と上面の導体(GND)302と一体の管であってもよいが、図4では説明のため、側面の導体(GND)402には別の符号402A、302Bを付してある。図3(A)、(B)のストリップ線路300と同様、端部407、408において、開放端側に向けて漸次拡大開されたテーバー部405、406を有し、端部407、408の導体(GND)402の底面と上面の間隔は中間部409よりも大とされている。
【0058】
マイクロストリップ線路は、一方にグランド面を配置し誘電体基板を挟んで反対側の面に信号線を配置した構成とされるが、本実施形態では、誘電体として絶縁性流体を使用することから、図3に示したストリップ線路300と同様の構成とされる。すなわち、導体(GND)302の底面と上面の間の側面を導体(GND)302A、302Bで覆い絶縁性流体を封止する構成とされ、導体301は、端部において、ストリップ線路300と同様に、開放端側に向けて漸次拡大開されたテーバー部を有し、端部の導体(GND)302の底面と上面の間隔は中間部よりも大とされている。
【0059】
図5は、パルス電源のパルス形成回路を構成する平行平板線路としてコプレーナ線路500を用いた例を説明する図である。図5(A)は、コプレーナ線路を上から見た模式的平面図である。図5(B)、図5(C)は、図5(A)のコプレーナ線路について、端部以外の断面(図5(A)のB-B’線断面)と、端部の端面(図5(A)のA-A’線断面)とを模式的に示す図である。
【0060】
コプレーナ線路は、信号パタンとグランド導体が同一平面上にある伝送線路構造であるが、本実施形態では、誘電体に絶縁性流体を使用することから、断面が矩形形状の直管からなる導体(GND)505内に絶縁性流体を充填する。導体(GND)505の底面と上面の間の両側側面を導体(GND)506A、506Bで覆い絶縁性流体を封止するとともに安全性を確保している。
【0061】
コプレーナ線路において同一平面上にある信号導体とグランド導体を、導体(信号)501と、両側の側面の導体(GND)506A、506Bの内壁から内側にそれぞれ突設された導体502、503で構成している。なお、導体(GND)505、506A、506Bは一体成型された管で構成してもよい。導体502、503は、導体(GND)506A、506Bの内壁にろう付け等で接続してもよい。図5(B)及び図5(C)に示すように、導体501の長手方向の直交する両側の縁、及び、導体(信号)501に対向配位される導体(GND)502、503の縁は、放電防止のため、好ましく角を落とし丸く加工されている。また、中空矩形型の管からなる導体(GND)505と導体(GND)506A、506Bの四隅の内壁角部も、放電防止のため、角丸加工されている。
【0062】
図5(A)、(B)に示すように、導体(信号)501の幅をw1、導体(信号)501と導体(GND)502、503間の間隙507、508の幅をs1とする。図5(A)、(C)に示すように、端部513、514のテーパー部511、512の端面の幅をw2、テーパー部511、512と導体(GND)502、503間の間隙509、510の幅をs2とする。
【0063】
コプレーナ線路500の特性インピーダンスZは、導体幅wと2つの間隙2sに関して、w/(w+2s)及びその2乗に依存したモデル(近似式)を用いることができる。なお、コプレーナ線路500の特性インピーダンスZは、比誘電率の平方根の逆数に比例し、比誘電率は、w/(w+2s)のほか、誘電体504の厚さhにも依存するが、簡単のため無視する。この場合、コプレーナ線路500の端部513、514の端面と、端部513、514以外の中間部515の導体(信号)501の幅wと間隙2sに関して、
w/(w+2s)=r (rは一定値、ただし0<r<1)
であれば、コプレーナ線路500の両側の端部513、514と中間部515で、特性インピーダンスZは同一値に保たれることになる。この場合、
s=(1-r)×w/(2r)
となる。
【0064】
図5(A)に例示したように、コプレーナ線路500の両側の端部513、514において、導体(信号)501は、その幅を開放端側に向けて漸次拡開したテーパー部511、512を構成している。すなわち、テーパー部511、512の幅は端部513、514の一側(中間部515側)のw1から他側(開放端側)のw2に拡大している、導体(GND)502、503との間隙509、510も、導体(信号)501の幅に比例して、端部513、514の一側(中間部515側)のs1から他側(開放端側)のs2に拡げられている。図5(B)、(C)を参照すると、端部513、514の開放端における導体(信号)501の端面のサイズ(幅×高さ)は、中間部の導体(信号)501の断面よりも大とされている。
【0065】
図5(A)において、端部513、514の開放端は、図1と同様、絶縁蓋等で気密を保って覆うようにしてもよい。この場合、テーパー部511、512の開放端側は、図1と同様、絶縁蓋に設けられたいずれも不図示の入力ポート、出力ポートを介して、図7(B)等に示したパルス発生回路の可飽和トランスの二次側と負荷にそれぞれ接続するようにしてもよい。
【0066】
図6は、図5に示したコプレーナ線路の別の例として、差動の伝送線路とした例を説明する図である。図6(A)は、模式的平面図、図6(B)は図6(A)のa-a'線の模式的断面図である。差動ペアを構成する導体(+線路)601と導体(-線路)602は、端部609、610の間の中間部611でw1、端部609、610のテーパー部605-608の開放端でw2(w2>w1)とされる。導体(+線路)601と導体(-線路)602の間隔sは、中間部611で一定とされ、端部609、610において拡開されている。導体(+線路)601と導体(―線路)602の折り曲げ部613と折り曲げ部614の半径Rが、折り曲げ部613による折り曲げ前後で対向する導体(-線路)602間の間隔と、折り曲げ部614による折り曲げ前後で対向する導体(+線路)601の間隔が、導体(+線路)601と導体(-線路)602の間隔sとほぼ同程度となるように設定されているが、折り曲げ部613と折り曲げ部614の半径Rは、使用周波数等に応じて適宜設定される。なお、導体(+線路)601と導体(-線路)602の差動ペアの間隔sに対して、導体603の側壁603Aの内壁と対向する導体(+線路)601と該内壁との間隔、導体(-線路)602と該内壁との間隔を所定距離(例えば2s以上)離すようにしてもよい。なお、図6(B)では、導体601と導体602は扁平な形状を描いたが、これに限られるものではない。ストリップラインと同軸円筒線路の関係のように、図6(B)の導体601と導体602は、断面が概ね円形の円柱状でもよい。例えば、フィーダー線を導体(GND)603中に埋め込んだ形状でもよい。円柱状の導体601と導体602は、それぞれの端部において開放端側に向かって拡径される。
【0067】
図3乃至図6を参照して説明した伝送線路300、400、500、600についても、図1の伝送線路100と同様、パルス形成回路及びパルス電源装置において、パルス波形を整形(成型)するパルス形成線路として用いることができる。
【0068】
以上説明したとおり、本実施形態によれば、同軸円筒線路または平行平板線路を構成する一対の電極(導体)を有した伝送線路構造において、前記一対の電極(導体)を有した伝送線路構造において、主として端部のインピーダンスを端部以外と整合しつつ、端部以外と比較して開口を大きく取った構成とすることにより、特許文献3等の関連技術と比べて、さらに装置を小型化することが可能な伝送線路を提供することができる。
【0069】
また、上記した本実施形態の伝送線路構造を用いた回路とすることにより、さらに装置を小型化することが可能な回路を提供することができる。
【0070】
同軸円筒線路または平行平板線路を構成する一対の電極(導体)を有した伝送線路構造を例に説明したが、これに限られるものではない。例えば、両極性のパルスを伝送する正極性導体、負極性導体および接地導体を一式とする導体からなる伝送線路構造についても、本発明の効果を奏することができる。あるいは、図7(B)に示したようなパルス電源の重同軸線路(ブルームライン線路)に本発明を適用することにより、伝送線路構造を小型化でき、さらに、該伝送線路構造を備えたパルス形成回路及びパルス電源装置を小型化することが可能となることは勿論である。
【0071】
上記の特許文献1-3、非特許文献1の各開示を、本書に引用をもって繰り込むものとする。本発明の全開示(請求の範囲を含む)の枠内において、さらにその基本的技術思想に基づいて、実施の形態ないし実施例の変更・調整が可能である。また、本発明の請求の範囲の枠内において種々の開示要素(各請求項の各要素、各実施例の各要素、各図面の各要素等を含む)の多様な組み合わせ乃至選択が可能である。すなわち、本発明は、請求の範囲を含む全開示、技術的思想にしたがって当業者であればなし得るであろう各種変形、修正を含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0072】
100 伝送線路
101 外部導体(第2の導体)
102 内部導体(第1の導体)
103 細径管
103 入力ポート
104 出力ポート
105、106 テーパー管
107 細径管
108、109 内部導体
110、111 絶縁蓋
112、113 縁(三重点)
114、115 端部
116、117 折り曲げ部
300 ストリップ線路(伝送線路)
301 導体(信号線)
302、302A、302B 導体(GND)
303 誘電体(絶縁性流体)
304、305 テーパー部
306、307端部
308 中間部
400 ストリップ線路(伝送線路)
401 導体(信号線)
402、402A、402B 導体(GND)
403 誘電体(絶縁性流体)
405、406 テーパー部
407、408 端部
409 中間部
410、411 折り曲げ部
500 コプレーナ線路(伝送線路)
501 導体(信号)
502、503、506A、506B 導体(GND)
504 誘電体(絶縁性流体)
507、508、509、510 間隙
511、512 テーパー部
513、514 端部
515 中間部
601 導体(+線路)
602 導体(-線路)
603、603A、603B 導体(GND)
604 誘電体(絶縁性流体)
605、606、607、608 テーパー部
609、610 端部
611 中間部
612、613、614、615 折り曲げ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7