(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】遠心管、キット及び微粒子ゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
B04B 5/02 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
B04B5/02 A
(21)【出願番号】P 2021080596
(22)【出願日】2021-05-11
【審査請求日】2024-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100141830
【氏名又は名称】村田 卓久
(72)【発明者】
【氏名】藤枝 良至
(72)【発明者】
【氏名】菖蒲 弘人
(72)【発明者】
【氏名】長谷 政彦
【審査官】奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/030399(WO,A1)
【文献】特開平9-285740(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B04B 1/00-15/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一底部と、第一胴部と、第一開口部とを有する第一容器と、
前記第一容器の前記第一開口部に取り外し可能に設けられた蓋材と、
第二胴部と、第二開口部とを有する第二容器と、を備え、
前記第二容器の前記第二開口部の幅が、0.2μm以上2000μm以下であり、
前記第二容器が前記蓋材によって保持され、
前記第二容器の前記第二開口部は、前記第一底部側を向き、
前記第二開口部は、前記第一容器の内部に連通し
、
前記第一容器と前記蓋材との間、又は、前記第二容器と前記蓋材との間に、前記第一容器と前記第二容器との間に存在する空間と、外気とを互いに連通する連通部が設けられている、遠心管。
【請求項2】
第一底部と、第一胴部と、第一開口部とを有する第一容器と、
前記第一容器の前記第一開口部に取り外し可能に設けられた蓋材と、
第二胴部と、第二開口部とを有する第二容器と、を備え、
前記第二容器の前記第二開口部の幅が、0.2μm以上2000μm以下であり、
前記第二容器が前記蓋材によって保持され、
前記第二容器の前記第二開口部は、前記第一底部側を向き、
前記第二開口部は、前記第一容器の内部に連通し、
前記第一容器内に、前記第二容器の前記第二開口部からの液滴を誘導する液滴誘導部が設けられている、遠心管。
【請求項3】
第一底部と、第一胴部と、第一開口部とを有する第一容器と、
前記第一容器の前記第一開口部に取り外し可能に設けられた蓋材と、
第二胴部と、第二開口部とを有する第二容器と、を備え、
前記第二容器の前記第二開口部の幅が、0.2μm以上2000μm以下であり、
前記第二容器が前記蓋材によって保持され、
前記第二容器の前記第二開口部は、前記第一底部側を向き、
前記第二開口部は、前記第一容器の内部に連通し、
前記第二容器が複数設けられている、遠心管。
【請求項4】
前記第一胴部と前記蓋材とが互いに嵌合又はねじ係合する、請求項1
乃至3のいずれか一項に記載の遠心管。
【請求項5】
前記蓋材は、前記第一容器の前記第一開口部を覆う蓋天面部を有し、前記蓋天面部には、蓋開口部が形成され、前記蓋開口部内に前記第二容器が位置している、請求項1
乃至4のいずれか一項に記載の遠心管。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の遠心管を作製するためのキットであって、
第一底部と、第一胴部と、第一開口部とを有する第一容器と、
前記第一容器の前記第一開口部に取り外し可能に設けられる蓋材と、
第二胴部と、第二開口部とを有する第二容器と、を備えた、キット。
【請求項7】
遠心管を準備する工程
であって、
前記遠心管は、
第一底部と、第一胴部と、第一開口部とを有する第一容器と、
前記第一容器の前記第一開口部に取り外し可能に設けられた蓋材と、
第二胴部と、第二開口部とを有する第二容器と、を備え、
前記第二容器の前記第二開口部の幅が、0.2μm以上2000μm以下であり、
前記第二容器が前記蓋材によって保持され、
前記第二容器の前記第二開口部は、前記第一底部側を向き、
前記第二開口部は、前記第一容器の内部に連通している、遠心管を準備する工程と、
前記第一容器に第一ゲル化溶液を収容するとともに、前記第二容器に第二ゲル化溶液を収容する工程と、
前記遠心管に対して遠心力を付与することにより、前記第二ゲル化溶液の液滴を、前記第二容器から前記第一容器に収容された前記第一ゲル化溶液に滴下する工程と、を備えた、微粒子ゲルの製造方法。
【請求項8】
請求項
3に記載の遠心管を準備する工程と、
複数の前記第二容器のうち、いずれかの第二容器に第一ゲル化溶液を収容するとともに、他の第二容器に第二ゲル化溶液を収容する工程と、
前記遠心管に対して遠心力を付与することにより、前記第一ゲル化溶液を収容した第二容器から前記第一ゲル化溶液の液滴を前記第一容器に滴下し、前記第二ゲル化溶液を収容した第二容器から前記第二ゲル化溶液の液滴を前記第一容器に滴下する工程と、を備えた、微粒子ゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、遠心管、キット及び微粒子ゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1のように、遠心力によりゲル化溶液を滴下させ、微粒子ゲルを作製する技術が知られている。
【0003】
しかしながら、特許文献1に記載された装置は、滴下のための管状部がゲル化容器内に保持されている。このため、作製した微粒子ゲルを回収する際には管状部が妨げとなり、微粒子ゲルを回収しにくいおそれがある。また、滅菌されたピンセットなどで注意深く管状部を取り除いてから微粒子ゲルを回収する必要があり、コンタミネーションの発生なく微粒子ゲルを回収するには煩雑な操作が必要となるおそれがある。またゲル化容器内で管状部を保持しているため、管状部を保持する部位で摩擦が生じ、これによりゲル化容器内で異物が発生する可能性があり、このこともコンタミネーションが発生するリスクとなりうる。
【0004】
また、例えば特許文献2には、遠心力によりゲル化溶液を液滴状に噴出し微粒子ゲルを作製する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献2に記載された装置は、ゲル化溶液を収容する容器と微粒子ゲルを収容する容器とが一体となっていない。このため、容器に遠心力を付与する際にゲル化溶液を収容する容器だけを回転運動させている。この場合、ゲル化溶液が周囲に飛散し、そのために装置が大がかりになったり、コンタミネーションのリスクが高くなったりするおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-176374号公報
【文献】特開2013-158753号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、微粒子ゲルを回収する際のコンタミネーションの発生を抑えることが可能な、遠心管、キット及び微粒子ゲルの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本実施の形態による遠心管は、第一底部と、第一胴部と、第一開口部とを有する第一容器と、前記第一容器の前記第一開口部に取り外し可能に設けられた蓋材と、第二胴部と、第二開口部とを有する第二容器と、を備え、前記第二容器の前記第二開口部の幅が、0.2μm以上2000μm以下であり、前記第二容器が前記蓋材によって保持され、前記第二容器の前記第二開口部は、前記第一底部側を向き、前記第二開口部は、前記第一容器の内部に連通している。
【0009】
本実施の形態による遠心管において、前記第一胴部と前記蓋材とが互いに嵌合又はねじ係合してもよい。
【0010】
本実施の形態による遠心管において、前記蓋材は、前記第一容器の前記第一開口部を覆う蓋天面部を有し、前記蓋天面部には、蓋開口部が形成され、前記蓋開口部内に前記第二容器が位置していてもよい。
【0011】
本実施の形態による遠心管において、前記第一容器と前記蓋材との間、又は、前記第二容器と前記蓋材との間に、前記第一容器と前記第二容器との間に存在する空間と、外気とを互いに連通する連通部が設けられていてもよい。
【0012】
本実施の形態による遠心管において、前記第一容器内に、前記第二容器の前記第二開口部からの液滴を誘導する液滴誘導部が設けられていてもよい。
【0013】
本実施の形態による遠心管において、前記第二容器が複数設けられていてもよい。
【0014】
本実施の形態によるキットは、本実施の形態による遠心管を作製するためのキットであって、第一底部と、第一胴部と、第一開口部とを有する第一容器と、前記第一容器の前記第一開口部に取り外し可能に設けられる蓋材と、第二胴部と、第二開口部とを有する第二容器と、を備えている。
【0015】
本実施の形態による微粒子ゲルの製造方法は、本実施の形態による遠心管を準備する工程と、前記第一容器に第一ゲル化溶液を収容するとともに、前記第二容器に第二ゲル化溶液を収容する工程と、前記遠心管に対して遠心力を付与することにより、前記第二ゲル化溶液の液滴を、前記第二容器から前記第一容器に収容された前記第一ゲル化溶液に滴下する工程と、を備えている。
【0016】
本実施の形態による微粒子ゲルの製造方法は、本実施の形態による遠心管を準備する工程と、複数の前記第二容器のうち、いずれかの第二容器に第一ゲル化溶液を収容するとともに、他の第二容器に第二ゲル化溶液を収容する工程と、前記遠心管に対して遠心力を付与することにより、前記第一ゲル化溶液を収容した第二容器から前記第一ゲル化溶液の液滴を前記第一容器に滴下し、前記第二ゲル化溶液を収容した第二容器から前記第二ゲル化溶液の液滴を前記第一容器に滴下する工程と、を備えている。
【発明の効果】
【0017】
本実施の形態によれば、微粒子ゲルを回収する際のコンタミネーションの発生を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】
図1は、一実施の形態による遠心管を示す垂直断面図である。
【
図2】
図2は、一変形例による遠心管を示す垂直断面図である。
【
図3】
図3(a)-(d)は、一実施の形態による遠心管の使用方法を示す図である。
【
図4】
図4は、第1の変形例による遠心管を示す垂直断面図である。
【
図5】
図5は、第2の変形例による遠心管を示す垂直断面図である。
【
図6】
図6は、第2の変形例による遠心管の他の構成を示す垂直断面図である。
【
図7】
図7は、実施例1による遠心管を用いて作製された微粒子ゲルを示す光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら一実施の形態について具体的に説明する。以下に示す各図は、模式的に示したものである。そのため、各部の大きさ、形状は理解を容易にするために、適宜誇張している。また、技術思想を逸脱しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。なお、以下に示す各図において、同一部分には同一の符号を付しており、一部詳細な説明を省略する場合がある。また、本明細書中に記載する各部材の寸法等の数値及び材料名は、実施の形態としての一例であり、これに限定されるものではなく、適宜選択して使用することができる。本明細書において、形状や幾何学的条件を特定する用語、例えば平行や直交、垂直等の用語については、厳密に意味するところに加え、実質的に同じ状態も含むものとする。また、説明の便宜上、上方又は下方という語句を用いて説明する場合があるが、上下方向が逆転してもよい。
【0020】
本明細書において、「上方」とは、遠心管の中心軸方向であって、第一容器の第一底部の反対側を向く方向をいう。また、「下方」とは、遠心管の中心軸方向であって、第一容器の第一底部側を向く方向をいう。
【0021】
以下、本実施の形態について説明する。本実施の形態は以下に記載されるものに限定されるものではない。
【0022】
[遠心管]
まず
図1を参照して、本実施の形態による遠心管の構成について説明する。
図1は、本実施の形態による遠心管10を示す断面図である。
【0023】
図1に示すように、遠心管10は、遠心力により溶液を滴下し、サイズ均一性が高い微粒子ゲルを作製するための器具である。この遠心管10は、細胞を表面及び内部で培養する細胞培養担体としての微粒子ゲルや、ドラッグデリバリーシステムに用いる微粒子ゲルの作製など、外部環境からのコンタミネーションのリスクを低減し、無菌性が求められる分野での微粒子の作製に好適に用いられる。また、例えばアルギン酸ナトリウム溶液の液滴を塩化カルシウム溶液と反応させ、アルギン酸カルシウムの微粒子ゲルを作製する場合に特に好適に用いられる。
【0024】
本実施の形態による遠心管10は、第一容器20と、蓋材30と、第二容器40と、を備えている。このうち第一容器20は、第一底部21と、第一胴部22と、第一開口部23とを有する。蓋材30は、第一容器20の第一開口部23に取り外し可能に設けられている。第二容器40は、第二胴部41と、第二開口部42とを有し、第二容器40は、蓋材30によって保持されている。また、第二容器40の第二開口部42の幅W1は、0.2μm以上2000μm以下となっている。第二容器40の第二開口部42は、第一底部21側を向き、第二開口部42は、第一容器20の内部に連通している。この場合、遠心管10は、中心軸CLを有する。
【0025】
[第一容器]
第一容器20は、例えば第一ゲル化溶液等の溶液を収容する容器であり、下方に位置する第一底部21と、第一底部21に連接された第一胴部22と、第一胴部22の上方に位置する第一開口部23とを有する。このうち第一底部21と第一胴部22とは、溶液を収容する空間を構成する。また第一開口部23は、第一容器20内に溶液を充填したり、第一容器20内から溶液を取り出したりするための開口を構成する。
【0026】
第一胴部22のうち第一開口部23の周辺の構成は、蓋材30を取り付け及び取り外し可能となっていれば特に限定されない。例えば第一胴部22と蓋材30とが互いに嵌合するような形状であっても良く、あるいは、第一胴部22と蓋材30とが互いにねじ係合する構造となっていても良い。
【0027】
また第一底部21の構造についても特に限定されるものではなく、例えば平底、傾斜底、V字底、U字底等となっていてもよい。とりわけ、第一容器20内に形成した微粒子ゲルを回収しやすいように、微粒子ゲルが所定位置に集積するような傾斜部24を有していることが好ましい。また微粒子ゲルが集積する最下点位置は特に限定されるものではなく、第一底部21の中心位置(中心軸CLを通る位置)であっても良く、第一底部21の中心位置からずれた端部であってもよい。また、上記最下点位置は第二容器40の第二開口部42の真下からずれているとより好ましい。この理由としては、以下の通りである。作製された微粒子ゲルは最下点位置から上方向に集積していくが、微粒子ゲルが第一ゲル化溶液の液面近くにまで達すると、その微粒子ゲルが障害となって第一ゲル化溶液が第二ゲル化溶液に適切に滴下されにくくなり均一な微粒子ゲルを作製しにくくなることがある。このため、最下点位置が第二開口部42の真下からよりずれているほど微粒子ゲルが滴下の妨げになりにくくなり均一な微粒子ゲルを作製しやすくなるためである。
【0028】
また第一胴部22は、溶液の液量を外部から目視しやすくするために、透明な素材であることが望ましい。また第一胴部22に目盛が印字されていることがより望ましい。
【0029】
第一容器20の材料は、外部からのコンタミネーションのリスクが低くなるように溶液を収容できれば特に限定されるものではなく、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、C-FLEX、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ガラス、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アルクリル樹脂、ウレタン樹脂などが好適に用いられる。また、第一容器20の材料は、第一容器20に加わる遠心力によって変形しないように硬い素材であることが望ましい。
【0030】
[蓋材]
蓋材30は、上述したように、第一容器20の第一開口部23に取り外し可能に設けられている。蓋材30は、第一容器20の第一開口部23を覆う蓋天面部31と、蓋天面部31の周縁に設けられ、第一底部21側に延びる蓋周縁部32とを有する。蓋天面部31には、蓋開口部33が形成され、蓋開口部33内に第二容器40が位置している。蓋材30は、第一容器20の第一開口部23を覆っていない部分があってもよいが、覆っていない部分がより少ないほど好ましい。また、蓋材30や、蓋材30に保持された第二容器40は、その一部分が第一容器20の内部に存在していてもよいが、少なくともその一部分が第一容器20の第一開口部23よりも上方向に位置していることが好ましい。このことにより、微粒子ゲルを回収する際に前記上方向に位置している蓋材30や第二容器40の部分を掴んで蓋材30や第二容器40を第一容器20から取り除くことができる。このため、滅菌したピンセットなどを第一容器20の内部に注意深く入れる操作が必要なくなり、コンタミリスクがより少なく微粒子ゲルを回収することができる。
【0031】
蓋材30の材料は特に限定されるものではなく、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、C-FLEX、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ガラス、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アルクリル樹脂、ウレタン樹脂、などが好適に用いられる。また蓋材30の材料は、第一容器20及び/又は第二容器40の材料と同一であっても良く、異なっていても良い。
【0032】
[第二容器]
第二容器40は、例えば第二ゲル化溶液等の溶液を収容する容器であり、第二胴部41と、第二胴部41の下方に位置する第二開口部42と、を有する。このうち第二胴部41は、略円筒状の部材からなる。第二開口部42は、第一底部21側を向き、第二開口部42側から見たとき、第一容器20の内部の一部が確認できるようになっている。また第二開口部42は、第一容器20の内部に向けて開放されており、第一容器20の内部空間に連通している。第二開口部42は、蓋材30よりも第一容器20の第一底部21側に位置するとともに第一底部21側を向いている。なお、第二開口部42側から見たとき、第一容器20の内部の一部が確認できるようになっていれば良く、第二開口部42は、蓋材30に対して第一底部21の反対側に位置していても良い。第二開口部42の幅W1は、狭められており、具体的には、0.2μm以上2000μm以下となっている。このため、通常時(遠心力等の力が加わらないとき)、第二胴部41内に収容された溶液は、第二開口部42から滴下されることはない。一方、第二容器40内の溶液に遠心力が加わると、溶液は第二開口部42から第一容器20側に滴下される。第二開口部42は、第二容器40の底部に形成された孔であってもよく、また溶液が滴下されやすいように第二容器40の底部から下方向に突出したノズル状の構造であることがより望ましい。
【0033】
第二胴部41の下部には、テーパー部43が設けられていることが好ましい。これにより、第二開口部42から第二ゲル化溶液等の溶液をできるだけ無駄なく排出することができる。第二開口部42の形状やサイズは、適宜選択することができ、これにより第二開口部42から滴下する溶液の液滴のサイズを調整することができる。例えば第二開口部42の形状は円や正多角形であることが望ましい。第二開口部42の幅W1は、0.2μm以上2000μm以下であり、1μm以上1000μm以下とすることが望ましく、さらに10μm以上200μm以下とすることがより望ましい。特に、作製した微粒子ゲルに細胞を担持させる場合には、第二開口部42の幅W1が大きいほど細胞を担持させやすい。望ましくは、第二開口部42の幅W1が10μmより大きいと、細胞のおおよそのサイズである10μmより大きな微粒子ゲルを作製することができ、細胞をより担持させやすいといった利点がある。また細胞を担持させた微粒子ゲルを旋回培養などで浮遊させて培養する場合には、第二開口部42の幅W1が小さいほど、作製した微粒子ゲルも小さく浮遊させやすいといった利点がある。ここで、第二開口部42の幅W1とは、遠心管10の中心軸CLに対して垂直な平面上で測定した第二開口部42の距離であり、当該平面上で最も長い部分における長さをいう。例えば、第二開口部42の形状が円形である場合、第二開口部42の幅W1とは、第二開口部42の直径に対応する。また例えば、第二開口部42の形状が正方形である場合、第二開口部42の幅W1とは、第二開口部42の対角線の長さに対応する。
【0034】
第二開口部42は複数存在してもよい。第二開口部42が複数存在することで、一定時間の間に滴下できる液滴の量を多くすることができ、スループットの観点でより望ましい。またその場合は、第二開口部42同士の間隔が狭いと滴下溶液が第二開口部42付近で融合しやすくなり、それにより滴下する溶液が想定以上に大きくなる。このため、遠心しなくても溶液が滴下されやすくなり、滴下の制御が難しくなったり、均一な微粒子ゲル作製が難しくなったりするおそれがある。また、それぞれの第二開口部42から滴下した溶液同士が融合することでゲル化する場合は第二開口部42に微粒子ゲルが付着し、滴下を妨げたりするため、第二開口部42同士の間隔は離れているほど好ましい。具体的には、第二開口部42同士の間隔は、第二開口部42の幅W1に対して1倍以上の間隔があるのが好ましく、10倍以上の間隔がより好ましく、100倍以上の間隔がさらに好ましい。また3つ以上の第二開口部42が設けられている場合、全ての第二開口部42に対して他の全ての第二開口部42との間隔が上記範囲であることが好ましい。また第二開口部42同士の間隔が第二開口部42の幅W1に対して1倍より小さい場合、滴下溶液が第二開口部42付近で必ず融合してから滴下することを前提にしてもよい。この場合、前記のように狭い間隔で隣接する複数の第二開口部42の幅W1の和が0.2μm以上2000μm以下であれば望ましく、1μm以上1000μm以下とすることが望ましく、さらに10μm以上200μm以下とすることがより望ましい。このことにより、滴下した溶液が融合しない場合と同様に、遠心しないときに溶液が滴下されにくくするとともに、作製した微粒子ゲルに細胞を担持させやすく、また旋回培養をしやすくできる。
【0035】
第二容器40を蓋材30に保持する手段については、限定されない。すなわち、遠心管10に遠心力を付与する際に、第二容器40が蓋材30から外れないようになっていればよい。
図1においては、第二容器40が蓋材30の蓋開口部33に貫通されており、第二容器40の上部が蓋材30に引っかかる構造となっている。あるいは、第二容器40と蓋材30とが接着剤等で固定されていても良い。また第二容器40と蓋材30とが一体の構造であっても良い。あるいは、第一容器20と蓋材30の接続部において、第二容器40の一部が第一容器20と蓋材30とに挟んで固定されていてもよい。さらに滴下条件を制御するために第二容器40の位置を上下左右に調整できるように、第二容器40と蓋材30とを完全に固定せず、第二容器40と蓋材30とが移動可能に接続されていてもよい。第二容器40を保持する位置は特に限定されず、蓋材30の中心部であってもよく、蓋材30の端部であってもよい。
【0036】
第二容器40は、第二胴部41の上方に位置する第三開口部44を更に有している。第三開口部44は、第二開口部42の反対側を向いており、第二容器40内に溶液を添加するための開口である。第三開口部44の周囲には、第二容器40を蓋材30に保持するフランジ部45が形成されている。なお、第三開口部44からのコンタミネーションを防ぐために、第三開口部44を覆う図示しない蓋材をさらに設けることが望ましい。
【0037】
第二容器40の材料としては、第二容器40内の液量が外部から目視しやすくするために、透明であることが好ましい。また第二胴部41に目盛が印字されているとより望ましい。第二容器40の材料は、例えばポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂、ポリ塩化ビニル、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂、C-FLEX、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、ガラス、シリコン樹脂、フッ素樹脂、アルクリル樹脂、ウレタン樹脂、などが好適に用いられる。また、第二容器40の材料は、第二容器40に加わる遠心力によって変形しないように硬い素材であることが望ましい。
【0038】
また
図2に示すように、第二容器40は複数設けられていてもよい。この場合、複数の第二容器40の全てに同一種類の溶液が収容されていても良く、複数の第二容器40に互いに異なる種類の溶液が収容されていてもよい。複数の第二容器40に同一種類の溶液が収容されている場合は、複数の第二容器40から溶液が同時に滴下されることで一定時間の間に滴下できる液滴の量を多くすることができ、スループットの観点でより望ましい。またこの場合は、第二容器40の第二開口部42と、それとは異なる第二容器40の第二開口部42との間の間隔が、第二開口部42の幅W1に対して1倍以上の間隔があるのが好ましく、10倍以上の間隔がより好ましく、100倍以上の間隔がさらに好ましい。第二開口部42同士の間隔を上記範囲とすることにより、滴下溶液が第二開口部42付近で融合しやすくなることを抑制し、滴下する溶液が想定以上に大きくならないようにすることができる。このため、遠心しなくても溶液が滴下することを抑え、滴下の制御が難しくなったり、均一な微粒子ゲル作製が難しくなったりすることを抑制できる。また、それぞれの第二開口部42から滴下した溶液同士が融合することでゲル化する場合は、第二開口部42に微粒子ゲルが付着したり、滴下を妨げたりすることを抑えることができる。複数の第二容器40に互いに異なる種類の溶液が収容されている場合は、少なくとも1つの第二容器40に第二ゲル化溶液を収容し、他の第二容器40に細胞懸濁液、薬物又は第一ゲル化溶液等が収容されていてもよい。
【0039】
[遠心管全体]
遠心管10は、遠心強度に優れていることが好ましい。遠心強度に優れているとは、例えば、1500rpmの遠心試験において割れ及びクラックが発生しない程度の強度を有することをいう。より好ましくは、3000rpmの遠心試験、さらに好ましくは4000rpmの遠心試験において、遠心管10に割れ及びクラックが発生しないことが好ましい。遠心試験の評価条件の一例としては、下記条件が挙げられる。遠心分離機:HITACH CF16RX、使用ローター:スイングローター、50mL遠沈管に適合したアダプター、設定遠心強度:1500rpm以上、設定温度:20℃、時間:10分、内容量:10mL以上の純水。
【0040】
[ゲル化溶液]
第一容器20に収容される第一ゲル化溶液と、第二容器40に収容される第一ゲル化溶液とは、互いに混合してゲル化するものであれば特に限定はない。例えば第一ゲル化溶液としては塩化カルシウムなどの高価陽イオン塩の水溶液、第二ゲル化溶液としてはアルギン酸ナトリウム溶液がそれぞれ好適に用いられる。細胞や薬物など何らかの物質を含有する微粒子ゲルを作製する際は、第一ゲル化溶液又は第二ゲル化溶液に前記物質を含有させておくことが望ましい。第二容器40に収容される第二ゲル化溶液には、滴下を制御するために界面活性物質などの表面張力を調整できる物質や増粘剤など粘度を調整できる物質がさらに含まれていてもよい。
【0041】
[本実施の形態の作用]
次に、このような構成からなる本実施の形態の作用について説明する。具体的には、上述した遠心管10を用いて微粒子ゲルを製造する微粒子ゲルの製造方法について説明する。
【0042】
まず、
図3(a)に示すように、上述した遠心管10を準備する。なお、遠心管10は、各部材(例えば第一容器20、蓋材30及び第二容器40)が別々に構成されていて、必要なときに遠心管10の構造になるように組み立てることができるキットになっていてもよく、その場合は遠心管10を組み立ててから使用する。本実施の形態において、このような遠心管作製用のキットについても提供する。
【0043】
次に、
図3(b)に示すように、遠心管10の第一容器20に第一ゲル化溶液L1を収容するとともに、第二容器40に第二ゲル化溶液L2を収容する。
【0044】
続いて、
図3(c)に示すように、遠心管10に対して遠心力を付与する(
図3(c)の矢印参照)。この遠心力により、第二ゲル化溶液L2は押し出されて、幅W1が狭い第二開口部42を通過する。これにより、第二ゲル化溶液L2の液滴を、第二開口部42から第一容器20に収容された第一ゲル化溶液L1に滴下することができる。この第二ゲル化溶液L2の液滴は、第一容器20内の第一ゲル化溶液L1とゲル化反応して、微粒子ゲルを生成する。この場合、生成した微粒子ゲルを第一容器20の第一底部21に集積させることができる。
【0045】
遠心管10に遠心力を付与する際は、遠心管10を図示しない遠心機に設置して遠心することが望ましい。遠心機のローターは、アングルローターであってもスイングローターでもあっても良い。例えば遠心管10の真下方向へ遠心力を付与するためにはスイングローターを用いることが望ましく、遠心管10の斜め下方向へ遠心力を付与するためにはアングルローターを用いることが望ましい。遠心力を付与する方向については、上述したローターを選択する以外にも、遠心管10の設置角度や重心位置のバランスなどを調整することによっても制御することが可能である。
【0046】
次に、
図3(d)に示すように、第二ゲル化溶液L2の液滴の滴下を終了した後、第二容器40を蓋材30ごと第一容器20から取り外す。その後、図示しないピペットなどを用いて、第一容器20から微粒子ゲルを含む溶液を取り出す。
【0047】
本実施の形態において、蓋材30によって第二容器40が保持されている。これにより、微粒子ゲルを作製した後、蓋材30を取り外すことで、容易に第二容器40を第一容器20から取り外すことができる。また、第二容器40を第一容器20に取り付けるための蓋材30が、第一容器20の内部には存在しない。このため、第一容器20内で蓋材30が第一容器20とこすれることによる異物の発生が抑えられ、コンタミネーションのリスクを低減することができる。この結果、ピペットなどを用いて、第一容器20から微粒子ゲルを含む溶液を容易かつコンタミネーションのリスクが少なく回収することができる。また、蓋材30によって第二容器40と第一容器20が連結されるので、遠心管10を簡単に構成することができる。
【0048】
なお、
図2に示すように第二容器40が複数設けられている場合には、複数の第二容器40のうち、いずれかの第二容器40に第一ゲル化溶液L1を収容するとともに、他の第二容器40に第二ゲル化溶液L2を収容しても良い。この場合、遠心管10に対して遠心力を付与することにより、第一ゲル化溶液L1を収容した第二容器40から第一ゲル化溶液L1の液滴を第一容器20に滴下する。また、第二ゲル化溶液L2を収容した第二容器40から第二ゲル化溶液L2の液滴を第一容器20に滴下する。このように、複数の第二容器40からそれぞれ滴下させた第一ゲル化溶液L1の液滴と第二ゲル化溶液L2の液滴を、第一容器20内で融合させ、微粒子ゲルを作製してもよい。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態によれば、第二容器40の第二開口部42の幅W1が、0.2μm以上2000μm以下であり、第二容器40が蓋材30によって保持されている。これにより、遠心管10に遠心力を付与することにより、第二容器40から第二ゲル化溶液L2の液滴が滴下され、サイズの均一性の高い微粒子ゲルを第一容器20内で生成することができる。また取り外し可能な蓋材30を第一容器20から取り除くことにより、蓋材30によって保持されている第二容器40も容易に除去することができる。これにより、簡便かつコンタミネーションのリスクを少なくした状態で、第一容器20から微粒子ゲルを回収することができる。
【0050】
[変形例]
次に、
図4乃至
図6を参照して、本開示の各変形例について説明する。
図4乃至
図6は、それぞれ本開示の変形例による遠心管を示す図である。
図4乃至
図6において、
図1乃至
図3に示す形態と同一部分には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
【0051】
(第1の変形例)
図4は、第1の変形例による遠心管10の垂直断面を示している。
図4において、第一容器20と蓋材30との間に第一連通部25が形成されている。また、第二容器40と蓋材30との間に第二連通部34が形成されている。第一連通部25と第二連通部34とは、それぞれ第一容器20と第二容器40との間に存在する空間Sと、外気とを互いに連通する。第一連通部25と第二連通部34とは、いずれか一方のみが設けられていても良く、両方設けられていても良い。
【0052】
第一連通部25は、第一容器20と蓋材30との接続部であって、第一容器20側に設けられている。すなわち第一容器20は、第一連通部25を有している。しかしながら、これに限らず、第一連通部25は、蓋材30側に設けられていても良い。すなわち蓋材30が第一連通部25を有していても良い。あるいは、第一連通部25は、第一容器20と蓋材30とが嵌合したときに第一容器20と蓋材30との間に生じる隙間であっても良い。第一連通部25は、突起物などによって第一容器20と蓋材30との接続部を完全に塞がずに隙間ができる構造となっていても良い。あるいは、第一連通部25は、第一容器20及び蓋材30のうち、溶液の収容に問題ない位置に貫通孔を設けることにより形成してもよい。
【0053】
第二連通部34は、第二容器40と蓋材30との接続部であって、蓋材30側に設けられている。すなわち蓋材30は、第二連通部34を有している。しかしながら、これに限らず、第二連通部34は、第二容器40側に設けられていても良い。すなわち第二容器40が第二連通部34を有していても良い。あるいは、第二連通部34は、第二容器40と蓋材30とが嵌合したときに第二容器40と蓋材30との間に生じる隙間であっても良い。第二連通部34は、突起物などによって第二容器40と蓋材30との接続部を完全に塞がずに隙間ができる構造となっていても良い。あるいは、第二連通部34は、第二容器40及び蓋材30のうち、溶液の収容に問題ない位置に貫通孔を設けることにより形成してもよい。
【0054】
本変形例によれば、第二容器40から第一容器20に第二ゲル化溶液を滴下することによって、第一容器20と第二容器40との間の空間Sが陽圧となった場合でも、この陽圧が第二ゲル化溶液の滴下の妨げにならないようにすることができる。このため、第一連通部25及び第二連通部34は、空間Sの内外の気体が互いに連通し、陽圧を解放できる構成となっている。
【0055】
第一連通部25及び/又は第二連通部34は、第二容器40から第二ゲル化溶液を滴下しないときには連通せず、遠心加重によって第二ゲル化溶液を滴下し、空間Sが陽圧となった際に連通する弁構造となっていてもよい。また、遠心力を付与する直前に第一連通部25及び/又は第二連通部34を形成可能な構造となっていてもよい。例えば、蓋材30と第一容器20及び/又は第二容器40がねじ式で接続されている場合、第一連通部25及び/又は第二連通部34は、遠心管10に遠心力を付与する直前に当該ねじを緩めることによって形成されても良い。また第一連通部25及び/又は第二連通部34は、図示しないキャップで塞がれ、遠心管10に遠心力を付与する直前にこのキャップを外して開通しても良い。このように、不必要なときには第一連通部25及び/又は第二連通部34を閉じておくことで、異物が第一連通部25及び/又は第二連通部34を通って第一容器20の内部に侵入するリスクを下げることができる。
【0056】
また第一連通部25及び/又は第二連通部34は複数設けられていてもよい。第一連通部25及び/又は第二連通部34の断面積は、陽圧になった気体を排出しやすくするために第二容器40の第二開口部42の断面積よりも大きいことが望ましい。ここで第一連通部25及び/又は第二連通部34が複数設けられている場合は、これら全ての総断面積を断面積とする。
【0057】
また、浮遊微粒子などの異物が第一連通部25及び/又は第二連通部34を通って第一容器20の内部で沈降することを抑制するために、第一連通部25及び/又は第二連通部34の外部への出口が、遠心管10の側面方向や下方向等、上方向以外を向いていることが望ましい。これにより第一連通部25及び/又は第二連通部34を通って第一容器20の内部で異物が沈降することを抑制できる。例えば、
図4において、第一連通部25の出口と第二連通部34の出口は、それぞれ上方向以外(側面方向)を向いている。なお、第一連通部25及び/又は第二連通部34の出口が上方向を向いている場合であっても、第一連通部25及び/又は第二連通部34の経路の途中が曲がっていることが好ましい。すなわち第一連通部25及び/又は第二連通部34の経路のいずれかの断面が上方を向いていなければ、第一連通部25及び/又は第二連通部34に異物が侵入しても、第一容器20の内部で沈降することを抑制できる。
【0058】
(第2の変形例)
図5は、第2の変形例による遠心管10を示している。
図5において、第一容器20内に、第二容器40の第二開口部42からの液滴を誘導する液滴誘導部50が設けられている。この場合、液滴誘導部50は、遠心管10の中心軸CLに対して傾斜する傾斜板であっても良い。液滴誘導部50の少なくとも一部は、第二開口部42よりも第一底部21側であって、第二開口部42から離間した位置に設けられている。
【0059】
ところで、第二開口部42が第一容器20内の第一ゲル化溶液に触れた場合、第二開口部42が詰まって液滴が滴下されなくなるおそれがある。また、第二開口部42が第一容器20内の第一ゲル化溶液に完全に浸かると、第二開口部42から液滴状ではなく紐状に第二ゲル化溶液が排出されるなど、適切な滴下の妨げになるおそれがある。このため、第二開口部42と第一ゲル化溶液の液面との距離を離すことが望ましいと考えられる。一方、第二開口部42と第一ゲル化溶液の液面との距離が離れ過ぎると、第二開口部42から滴下された液滴が第一ゲル化溶液に落下する際の衝撃が大きくなり、液滴が変形又は崩壊してしまうおそれもある。
【0060】
これに対して本変形例においては、第一容器20内に、第二容器40の第二開口部42からの液滴を誘導する液滴誘導部50が設けられている。液滴誘導部50は、遠心力方向(
図5の矢印方向)に対して斜めに配置されている。これにより、第二開口部42から滴下された液滴を、液滴誘導部50を介して第一ゲル化溶液に落下させ、液滴が第一ゲル化溶液に落下する衝撃を和らげることができる。また、第二容器40の第二開口部42が第一ゲル化溶液に接触するリスクを軽減することかできる。
【0061】
なお、液滴誘導部50の位置や向きはこれに限定されるものではない。また液滴誘導部50は、第一容器20に対して固定されていてもよく、固定されていなくてもよい。液滴誘導部50は、遠心力付与時には遠心力方向に対して斜めに液滴が移動するような構造となっていることが好ましい。また第二開口部42から滴下された液滴が液滴誘導部50に落下する際の衝撃を和らげるために、液滴誘導部50と第二開口部42との距離は近いことが望ましく、液滴誘導部50と第二開口部42とが互いに接触しているとより望ましい。
【0062】
液滴誘導部50の幅方向断面形状(液滴誘導部50の長さ方向(
図5の矢印A方向)に対して垂直な平面Pで切断した断面形状)は、液滴を適切に第一ゲル化溶液に誘導できる形状であることが望ましい。例えば、液滴誘導部50は、滑り台状になっており、幅方向中央部が幅方向端部より低い構造になっていることが望ましい。具体的には、液滴誘導部50の幅方向断面形状は、例えばU字形状やV字形状であることが望ましい。これにより、液滴が液滴誘導部50の幅方向中央を通って第一ゲル化溶液に落下するので、液滴の液滴誘導部50からの飛び出しを防止し、微粒子ゲルを作製する際の再現性を向上することができる。また、液滴誘導部50の幅方向中央部が幅方向端部より低い構造になっていることは、第二容器40が複数設けられ、それぞれの第二容器40から滴下した液滴を融合させる際にも望ましい(
図2参照)。この場合、液滴誘導部50の幅方向中央部に液滴が集まるため、液滴同士を融合させやすくすることができる。
【0063】
液滴誘導部50の表面は、液滴が滑りやすくするために高い疎水性を有することが望ましい。水に対する液滴誘導部50の表面の接触角は、60度以上が望ましく、90度以上がより望ましく、さらに120度以上がより望ましい。
【0064】
液滴誘導部50の材料は、第一容器20の内部との摩擦によって異物が発生するリスクを低減するために、第一容器20と同一の材料であるか、あるいは第一容器20の材料よりも軟らかい材料であることが望ましい。また、第一容器20内の微粒子ゲルを回収する際に液滴誘導部50が妨げになることを避けるために、液滴誘導部50を取り除かなくても微粒子ゲルをピペットなどで回収できるようになっていることが望ましい。具体的には、液滴誘導部50の形状や配置は、ピペットの先端が液滴誘導部50を避けて第一容器20の第一底部21に近づけることができるようになっていることが望ましい。
【0065】
図6に示すように、液滴誘導部50は、第一容器20の第一胴部22の内側面から構成されていても良い。この場合、遠心管10の中心軸CLに対して斜め下方向(
図6の矢印方向)に遠心力を付与することにより、第二開口部42から滴下された液滴を、まず第一容器20の第一胴部22の内側面に落下させる。その後、液滴を、第一胴部22の内側面を介して第一ゲル化溶液に落下させることができる。この場合、第二開口部42の位置は、遠心管10の中心軸CLからずれており、第一胴部22の内側面いずれかの部分の近くに配置されることが望ましい。具体的には、第二容器40を蓋材30の中心からずらした位置で保持したり、第二容器40を蓋材30の端部で保持したり、あるいは第二容器40が蓋材30に対して斜めになるように保持されても良い。これにより、第二開口部42を第一胴部22の内側面に近づけてもよい。また、遠心管10の中心軸CLに対して斜め下方向に遠心力を付与する場合、遠心力を取り除くと、重力によって遠心力の方向と反対方向へ第一ゲル化溶液の流れが発生し、その衝撃で第一ゲル化溶液が第二開口部42に触れるおそれがある。このようなリスクを減少させるために、第二開口部42の位置は、遠心管10の中心軸CLからずれて第一胴部22の内側面のいずれかの部分の近くに配置されていることが望ましい。
【0066】
[実施例]
次に、本実施の形態における具体的実施例について説明する。
【0067】
(実施例1)
図1に示す遠心管を作製した。この場合、まず第一容器及び蓋材として、FALCON社製50mlコニカルチューブ(製品番号352070)を準備した。また、第二容器として、テルモ社製2.5mlシリンジ(製品番号SS-02LZ)を準備した。次に、蓋材の中央に貫通孔をあけ、この貫通孔に第二容器を貫通させ、第二容器のフランジ部が蓋材に引っかかり保持されるように取り付けた。この時に第二容器のプランジャーを押して空気を第一容器内に送り込んでも、第一容器内の陽圧が直ぐに解放されることを確認した。第二容器には、武蔵エンジニアリング製金属ニードル(32G、製品番号SNA-32G-B)を取り付け、第二開口部(内径100μm)とした。第一容器に1w%塩化カルシウム水溶液を12.5ml注入し、第二容器のプランジャーを外して、第二容器内に1w%アルギン酸ナトリウム水溶液を1ml注入した。ここで、第二容器の第二開口部と1w%塩化カルシウム水溶液の液面との距離は約5mmであった。次に、遠心管を日立製遠心機(RXII)に装着し、410Gの遠心力を遠心管の真下方向に15分間付与した。これにより、アルギン酸ナトリウム溶液がほぼ全て滴下された。光学顕微鏡観察により測定したところ、第一容器の第一底部に直径約200μmのサイズ均一性の高い微粒子ゲルが形成された(
図7参照)。またその後に、蓋材と第二容器を素手で取り外し、ピペットで微粒子ゲルを回収することができた。また、蓋材として、貫通孔をあけることなく、予め中央に貫通孔が設けられた蓋材を3Dプリンターで作製し、上記と同じ試験を行ったところ、同様の結果を得ることができた。
【0068】
(実施例2)
図5に示す、液滴誘導部を有する遠心管を作製した。この場合、まず実施例1と略同様にして遠心管を作製した。一方、液滴誘導部として、ポリプロピレン製の縦65mm×横5mmの長方形の板を準備し、この板を第一容器内に斜めに立てかけて設置した。この時に第二開口部と液滴誘導部との距離は約5mmであった。次いで、第一容器に1w%塩化カルシウム水溶液を5ml注入し、第二容器のプランジャーを外して、第二容器内に1w%アルギン酸ナトリウム水溶液を1ml注入した。この状態で、実施例1の場合と同様に、遠心機を用いて410Gの遠心力を遠心管の真下方向に15分間付与した。この結果、アルギン酸ナトリウム溶液がほぼ全て滴下され、第一容器の第一底部に直径約200μmのサイズ均一性の高い微粒子ゲルが形成されていた。このとき、微粒子ゲルが崩壊したような繊維状の物質の分散も見られなかった。さらに、微粒子ゲルを回収する際に、液滴誘導部を取り除くことなく、第一容器内の溶液をピペットでほぼ全て回収することができた。
【0069】
上記実施の形態及び変形例に開示されている複数の構成要素を必要に応じて適宜組合せることも可能である。あるいは、上記実施の形態及び変形例に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 遠心管
20 第一容器
21 第一底部
22 第一胴部
23 第一開口部
24 傾斜部
25 第一連通部
30 蓋材
31 蓋天面部
32 蓋周縁部
33 蓋開口部
34 第二連通部
40 第二容器
41 第二胴部
42 第二開口部
43 テーパー部
44 第三開口部
45 フランジ部
50 液滴誘導部