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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】樹脂組成物、成形品およびフィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 25/06 20060101AFI20250212BHJP
   C08L 77/06 20060101ALI20250212BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20250212BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20250212BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08L25/06
C08L77/06
C08L101/02
C08G69/26
C08J5/18 CET
C08J5/18 CFC
C08J5/18 CFG
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021086029
(22)【出願日】2021-05-21
(65)【公開番号】P2022008105
(43)【公開日】2022-01-13
【審査請求日】2024-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2020109388
(32)【優先日】2020-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山下 桃子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和哉
(72)【発明者】
【氏名】小田 尚史
【審査官】横山 法緒
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-001782(JP,A)
【文献】特開2011-025237(JP,A)
【文献】特開2019-019264(JP,A)
【文献】特許第6741190(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08G 69/00-69/50
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリスチレン樹脂15~85質量部に対し、ポリアミド樹脂を85~15質量部含み、
前記ポリスチレン樹脂およびポリアミド樹脂の合計100質量部に対し、相溶化剤を0.5~15質量部を含み、
前記ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸およびイソフタル酸に由来し、
前記ポリアミド樹脂を構成する全構成単位のうち、1~10モル%がイソフタル酸由来の構成単位であり、
前記相溶化剤は、スチレン由来の構成単位を2つ以上含み、かつ、アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造を有する、樹脂組成物。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の85~95モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、15~5モル%がイソフタル酸に由来する(但し、合計が100モル%を超えることはない)ポリアミド樹脂を含む、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の、40~60モル%が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、60~40モル%がイソフタル酸に由来する(但し、合計が100モル%を超えることはない)ポリアミド樹脂と、
ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の95モル%超が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂とを含む、請求項1または2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸がアジピン酸である、請求項1~3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造は、エポキシ基、無水マレイン酸基およびオキサゾリン基から選択される少なくとも1種を含む、請求項に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成された成形品。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の樹脂組成物から形成されたフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂組成物、成形品およびフィルムに関する。特に、ポリスチレン樹脂とポリアミド樹脂を用いた樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スチレンを原料モノマーとするポリスチレン(PS)樹脂は、透明性に優れ、カセットケースや食品容器、家庭用品などに広く用いられている。その物性を改良するために、あるいは、製造適性を高めるために、他の樹脂とブレンドすることが検討されている。
例えば、特許文献1では、ポリスチレン系樹脂A10~98質量%、および、ポリアミド系樹脂B2~90質量%からなる熱可塑性樹脂組成物延伸体であって、該ポリアミド系樹脂の脱偏光強度法により測定した半結晶化時間を特定の範囲に規定したものが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-001782号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリスチレン樹脂に別の樹脂をブレンドして、さらなる機能を付与することが検討されている。しかしながら、ポリスチレン樹脂に他の樹脂をブレンドすると、透明性が劣ってしまう場合がある。
特に、本発明者は、ポリスチレン樹脂に、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂をブレンドすることを検討した。しかしながら、得られる成形品において十分な透明性を確保することは容易ではなかった。そこで、本願出願人は、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂をイソフタル酸変性することによって、透明性を確保することに成功した。しかしながら、用途によっては、さらに、高い引張最大強さおよび高い鉛筆硬度が求められる場合がある。
本発明は、かかる課題を解決することを目的とするものであって、ポリスチレン樹脂にキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂をブレンドした樹脂組成物であって、ポリスチレン樹脂が本来的に有する優れた透明性を維持しつつ、高い引張最大強さおよび高い鉛筆硬度を有する樹脂組成物、成形品およびフィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、ポリスチレン樹脂と所定の割合でイソフタル酸由来の構成単位を含むキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含む樹脂組成物に相溶化剤を所定量配合することにより、上記課題を解決しうることを見出した。
具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ポリスチレン樹脂15~85質量部に対し、ポリアミド樹脂を85~15質量部含み、前記ポリスチレン樹脂およびポリアミド樹脂の合計100質量部に対し、相溶化剤を0.5~15質量部を含み、前記ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸およびイソフタル酸に由来し、前記ポリアミド樹脂を構成する全構成単位のうち、1~10モル%がイソフタル酸由来の構成単位である、樹脂組成物。
<2>前記ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の85~95モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、15~5モル%がイソフタル酸に由来する(但し、合計が100モル%を超えることはない)ポリアミド樹脂を含む、<1>に記載の樹脂組成物。
<3>前記ポリアミド樹脂が、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の、40~60モル%が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、60~40モル%がイソフタル酸に由来する(但し、合計が100モル%を超えることはない)ポリアミド樹脂と、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、前記ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、前記ジカルボン酸由来の構成単位の95モル%超が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来するポリアミド樹脂とを含む、<1>または<2>に記載の樹脂組成物。
<4>前記炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸がアジピン酸である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<5>前記相溶化剤は、スチレン由来の構成単位を2つ以上含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<6>前記相溶化剤は、アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造を有する、<1>~<5>のいずれか1つに記載の樹脂組成物。
<7>前記アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する基は、エポキシ基、無水マレイン酸基およびオキサゾリン基から選択される少なくとも1種である、<6>に記載の樹脂組成物。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成された成形品。
<9><1>~<7>のいずれか1つに記載の樹脂組成物から形成されたフィルム。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、ポリスチレン樹脂にキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂をブレンドした樹脂組成物であって、ポリスチレン樹脂が本来的に有する優れた透明性を維持しつつ、高い引張最大強さおよび高い鉛筆硬度を有する樹脂組成物、成形品およびフィルムを提供可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という)について詳細に説明する。なお、以下の本実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明は本実施形態のみに限定されない。
なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における「フィルム」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいい、シートを含む趣旨である。
【0008】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂15~85質量部に対し、ポリアミド樹脂を85~15質量部含み、ポリスチレン樹脂およびポリアミド樹脂の合計100質量部に対し、相溶化剤を0.5~15質量部を含み、ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸およびイソフタル酸に由来し、ポリアミド樹脂を構成する全構成単位のうち、1~10モル%がイソフタル酸由来の構成単位であることを特徴とする。
このような構成とすることにより、ポリスチレン樹脂が本来的に有する優れた透明性を維持しつつ、高い引張最大強さおよび高い鉛筆硬度を有する樹脂組成物が得られる。さらに、耐薬品性に優れた樹脂組成物が得られる。
【0009】
本実施形態においては、相溶化剤を配合することにより、高い引張最大強さが付与され、例えば、樹脂組成物をフィルムに成形し、引張り試験をしたときに、MD(machine direction、樹脂の流れ方向)に裂けてしまうことを効果的に抑制できる。これは、以下のメカニズムによると推測される。すなわち、ポリスチレン樹脂とキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の混合物には、混合量の多い成分によって形成される海の中に混合量の少ない成分によって形成される島ができてしまうことが推測された。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の混合比が少ない場合、この島はキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂由来となる。この島は、用途によっては何ら問題ないものであるが、例えば、ポリスチレン樹脂とキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の混合物を押出機で押出してフィルム化すると、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の島がMDに延伸されるため筋状になり、これが、フィルムの裂けの原因となってしまうと推測された。本実施形態においては、ポリスチレン樹脂とキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の混合物に相溶化剤を配合することにより、ポリスチレン樹脂とキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂の相溶性を高め、あるいは、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂をスチレン樹脂中に微分散させることにより、上記筋状の島が減少し、引張試験時の裂けを効果的に抑制できたと推測される。また、ポリスチレン樹脂の混合比が少ない、あるいはキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂と同量の場合においても、上記の理由より引張試験時の裂けを効果的に抑制できたと推測される。
【0010】
<ポリスチレン樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂を含む。ポリスチレン樹脂を含むことにより、透明性の高い樹脂組成物が得られる。
本実施形態の樹脂組成物に用いられるポリスチレン樹脂は、この種の樹脂として一般に用いられるものを広く採用することができる。ポリスチレン樹脂としては、スチレン系モノマーのホモポリマーおよびスチレン系モノマーとそれらと共重合可能な他のモノマーとの共重合体を挙げることができ、スチレン系モノマーのホモポリマーであることが好ましい。本実施形態におけるスチレン系モノマーのホモポリマーとは、ポリスチレン樹脂を構成するモノマーの80質量%以上(好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上)がスチレン系モノマー(好ましくはスチレン)であることをいう。
また、本実施形態の樹脂組成物に用いられるポリスチレン樹脂は、官能基を含まないことが好ましい。
【0011】
スチレン系モノマーとしては、スチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-エチルスチレン、4-t-ブチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン等のアルキル置換スチレン(好ましくは炭素数1~3のアルキル基で置換されたスチレン)、α-メチルスチレン、α-メチル-4-メチルスチレン等のα-アルキル置換スチレン、クロロスチレン、ブロモスチレン等のハロゲン化スチレン、ハロゲン置換アルキルスチレン、ポリアルコキシスチレン、ポリカルボキシアルキルスチレン、ポリアルキルエーテルスチレン、ポリアルキルシリルスチレンを挙げることができ、スチレンが好ましい。
【0012】
スチレン系モノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、(メタ)アクリル系モノマーが例示される。(メタ)アクリル系モノマーとしては、アクリル酸またはメタクリル酸、アクリル酸メチルまたはメタクリル酸メチル、アクリル酸エチルまたはメタクリル酸エチル、アクリル酸ブチルまたはメタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシルまたはメタクリル酸-2-エチルヘキシル等のアクリル酸またはメタクリル酸エステル等を挙げることができる。
【0013】
また、ポリスチレン樹脂には、耐衝撃性ポリスチレン、スチレン-共役ジエンブロック共重合体、スチレン-共役ジエンブロック共重合体の水素添加物、ABS(ゴムグラフトスチレン-アクリロニトリル共重合体)、MBS(ゴムグラフトスチレン-メタクリル酸メチル共重合体)、ゴムグラフトスチレン-(メタ)アクリル酸エステル共重合体などを用いることもできる。しかしながら、本実施形態で用いるポリスチレン樹脂はいわゆるエラストマー(耐衝撃改良剤)ではないことが好ましい。
【0014】
また、本実施形態で用いるポリスチレン樹脂は、後述する相溶化剤に相当するものは除く趣旨である。
【0015】
ポリスチレン樹脂の合成方法は特に限定されず、一般的な方法を採用することができる。例えば、過酸化ベンゾイルをイニシエーター(ラジカル開始剤)としてスチレンをラジカル重合して得ることができる。このときに得られるポリスチレンは、通常アタクチック構造を持つ。アタクチックポリスチレンは熱可塑性樹脂で安価であり、射出成形が容易などの利点から好適に採用することができる。あるいは、環境面に配慮し、ポリスチレン樹脂のリサイクル材を用いてもよい。
【0016】
本実施形態で用いるポリスチレン樹脂は、屈折率が1.55以上であることが好ましく、1.56以上であることがより好ましく、1.57以上であることがさらに好ましく、1.58以上であることが一層好ましい。また、前記屈折率の上限は、1.60以下であることが好ましい。
【0017】
ポリスチレン樹脂の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値の重量平均分子量が、80,000超であることが好ましく、100,000超であることがより好ましく、150,000以上であることがさらに好ましく、180,000以上であることがより好ましく、200,000以上であることが一層好ましい。上限値としては、1,000,000以下であることが好ましく、800,000以下であることがより好ましく、500,000以下であることがさらに好ましい。
【0018】
本実施形態の樹脂組成物におけるポリスチレン樹脂の含有量は適宜定めればよいが、樹脂組成物中で、15質量%以上であることが好ましく、また、85質量%以下であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、ポリスチレンを1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0019】
<ポリアミド樹脂>
本実施形態の樹脂組成物は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸およびイソフタル酸に由来するポリアミド樹脂であって、ポリアミド樹脂を構成する全構成単位のうち、1~10モル%がイソフタル酸由来の構成単位であるポリアミド樹脂(本明細書では、「本実施形態で用いるポリアミド樹脂」ということがある)を含む。このようにイソフタル酸由来の構成単位を一定割合で含むキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いることにより、高い鉛筆硬度を有する樹脂組成物が得られる。また、優れた耐薬品性を有する樹脂組成物が得られる。
【0020】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上が、好ましくは80モル%以上が、より好ましくは90モル%以上が、さらに好ましくは95モル%以上が、一層好ましくは99モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。上限は、100モル%である。上記キシリレンジアミンは、その好ましくは80モル%以上が、より好ましくは90モル%以上が、さらに好ましくは95モル%以上が、一層好ましくは99モル%以上がメタキシリレンジアミンおよび/またはパラキシリレンジアミンであることが好ましく、メタキシリレンジアミンであることがより好ましい。
【0021】
キシリレンジアミン以外のジアミンは、パラフェニレンジアミン等の芳香族ジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン等の脂肪族ジアミンが例示される。これらの他のジアミンは、1種のみでも2種以上であってもよい。
【0022】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、好ましくは80モル%以上が、より好ましくは90モル%以上が、さらに好ましくは95モル%以上が、一層好ましくは99モル%以上が、炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸およびイソフタル酸に由来する。上限は100モル%である。すなわち、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位とイソフタル酸由来の構成単位によって構成される。
【0023】
炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、コハク酸、グルタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸が例示され、アジピン酸およびセバシン酸が好ましく、アジピン酸がより好ましい。炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0024】
ジカルボン酸由来の構成単位は、イソフタル酸と炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸以外の他のジカルボン酸を含んでいてもよい。他のジカルボン酸としては、テレフタル酸、オルソフタル酸等のフタル酸化合物、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸化合物を例示することができ、1種または2種以上を混合して使用できる。
【0025】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂を構成する全構成単位のうち、1~10モル%がイソフタル酸由来の構成単位である。イソフタル酸由来の構成単位を前記下限値以上、上限値以下とすることにより、ポリアミド樹脂の屈折率がスチレン樹脂の屈折率と近くなり、スチレン樹脂が本来的に有する高い光線透過率を高いレベルで維持することができる。さらに、透明性に優れ、ヘイズが低い樹脂組成物が得られる。
ここで、ポリアミド樹脂を構成する全構成単位とは、ジアミン由来の構成単位、ジカルボン酸由来の構成単位の他、末端基や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で他の構成単位を含みうる。他の構成単位としては、ε-カプロラクタム、バレロラクタム、ラウロラクタム、ウンデカラクタム等のラクタム、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等由来の構成単位が例示できる。さらに、本実施形態で用いられるポリアミド樹脂は、末端基を除く構成単位の通常95質量%以上、好ましくは98質量%以上、より好ましくは99質量%以上がジカルボン酸由来の構成単位とジアミン由来の構成単位とで構成される。
本実施形態で用いるポリアミド樹脂を構成する全構成単位のうちイソフタル酸由来の構成単位の割合は、1.5モル%以上であることが好ましく、2.0モル%以上であることがより好ましく、2.3モル%以上であることがさらに好ましい。また、前記イソフタル酸由来の構成単位の割合の上限値は、9.5モル%以下であることが好ましく、9.0モル%以下であることがより好ましく、8.5モル%以下であることがさらに好ましく、8.0モル%以下であることが一層好ましく、7.7モル%以下であることがより一層好ましい。
【0026】
本実施形態で用いるポリアミド樹脂は、1種のポリアミド樹脂から構成されていてもよいし、2種以上のポリアミド樹脂から構成されていてもよい。すなわち、イソフタル酸変性率がポリアミド樹脂を構成する全構成単位のうち1~10モル%となるようなポリアミド樹脂を1種のみ用いてもよいし(以下、「ポリアミド樹脂形態(B)」という)、イソフタル酸変性率が高いポリアミド樹脂と、イソフタル酸変性率が低いあるいはイソフタル酸変性されていないポリアミド樹脂とをブレンドすることによって、ポリアミド樹脂中のイソフタル酸変性率を1~10モル%となるように調整してもよい(以下、「ポリアミド樹脂形態(C)という」。さらには、ポリアミド樹脂形態(B)とポリアミド樹脂形態(C)をブレンドしてもよい。
以下、ポリアミド樹脂形態(B)とポリアミド樹脂形態(C)の詳細を説明するが、以下で特に述べない事項については、上記で述べた内容等から、適宜、定められ、好ましい範囲も同様である。
【0027】
次に、ポリアミド樹脂形態(B)について説明する。
ポリアミド樹脂形態(B)においては、ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の85~95モル%以上が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸)に由来し、15~5モル%がイソフタル酸に由来する(但し、合計が100モル%を超えることはない)ことが好ましい。
【0028】
ポリアミド樹脂形態(B)において、ジカルボン酸由来の構成単位中の炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する構成単位の割合は、87モル%以上が好ましく、89モル%以上がより好ましく、また、93モル%以下が好ましく、91モル%以下がより好ましい。
【0029】
ポリアミド樹脂形態(B)において、ジカルボン酸由来の構成単位中のイソフタル酸に由来する構成単位の割合は、7モル%以上が好ましく、また、13モル%以下が好ましく、11モル%以下がより好ましい。
【0030】
次に、ポリアミド樹脂形態(C)について説明する。
ポリアミド樹脂形態(C)においては、ポリアミド樹脂は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、40~60モル%が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸)に由来し、60~40モル%がイソフタル酸に由来する(但し、合計が100モル%を超えることはない)ポリアミド樹脂(以下、「高イソフタル酸変性ポリアミド樹脂(C-1)」ということがある)と、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、95モル%超が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸)に由来するポリアミド樹脂(以下、「低・無イソフタル酸変性ポリアミド樹脂(C-2)」ということがある)を含むことが好ましい。
【0031】
高イソフタル酸変性ポリアミド樹脂(C-1)は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、40~60モル%が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来し、60~40モル%がイソフタル酸に由来する(但し、合計が100モル%を超えることはない)。
高イソフタル酸変性ポリアミド樹脂(C-1)においては、ジカルボン酸由来の構成単位中の炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸由来の構成単位の割合は、40~60モル%であり、45モル%以上であることが好ましく、また、55モル%以下であることが好ましい。
高イソフタル酸変性ポリアミド樹脂(C-1)においては、ジカルボン酸由来の構成単位中のイソフタル酸由来の構成単位の割合は、60~40モル%であり、45モル%以上であることが好ましく、また、55モル%以下であることが好ましい。
【0032】
低・無イソフタル酸変性ポリアミド樹脂(C-2)は、ジアミン由来の構成単位と、ジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の、95モル%超が炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
低・無イソフタル酸変性ポリアミド樹脂(C-2)においては、ジカルボン酸由来の構成単位中の炭素数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸の割合は、97モル%以上であることが好ましく、99モル%以上であることがさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0033】
本実施形態の樹脂組成物における本実施形態で用いるポリアミド樹脂の含有量は適宜定めればよいが、樹脂組成物中で、15質量%以上であることが好ましく、また、85質量%以下であることが好ましい。
本実施形態の樹脂組成物は、本実施形態で用いるポリアミド樹脂を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0034】
<ポリスチレン樹脂とポリアミド樹脂のブレンド形態>
次に、ポリスチレン樹脂とポリアミド樹脂のブレンド形態について説明する。
本実施形態の樹脂組成物においては、ポリスチレン樹脂15~85質量部(好ましくは18~82質量部)に対し、本実施形態で用いるポリアミド樹脂を85~15質量部(好ましくは82~18質量部)を含む。ポリスチレン樹脂とポリアミド樹脂の合計は、100質量部である。
特に、本実施形態の樹脂組成物は、例えば、ポリスチレン樹脂15~25質量部に対し、本実施形態で用いるポリアミド樹脂85~75質量部含む場合など、本実施形態で用いるポリアミド樹脂の割合が高くても、高い光線透過率を達成できる。
また、本実施形態の樹脂組成物はポリスチレン樹脂85~75質量部に対し、本実施形態で用いるポリアミド樹脂15~25質量部含む場合に、各種性能にバランスよく優れた樹脂組成物が得られる。
【0035】
<相溶化剤>
本実施形態の樹脂組成物は、相溶化剤を含む。相溶化剤を含むことにより、ポリスチレン樹脂と本実施形態で用いるポリアミド樹脂の相溶性を向上させ、ポリスチレン樹脂が本来的に有する高い透明性を維持しつつ、引張最大強さに優れた樹脂組成物が得られる。
相溶化剤は、ポリスチレン樹脂と本実施形態で用いるポリアミド樹脂の相溶性を向上させ、混合しやすくさせるものであれば、その種類は特に定めるものではなく、低分子化合物、オリゴマー、ポリマーのいずれであってもよい。具体的には、ポリスチレン樹脂と相互作用する構造と、本実施形態で用いるポリアミド樹脂と相互作用する構造の両方を有する相溶化剤が例示される。ここでの「相互作用」とは、樹脂と相溶する構造や、樹脂と反応する構造が挙げられる。
【0036】
本実施形態で用いる相溶化剤は、スチレン由来の構成単位を2つ以上含むことが好ましい。スチレン由来の構成単位を含むことにより、ポリスチレン樹脂との相溶性がより向上する傾向にある。本実施形態で用いる相溶化剤は、スチレン由来の構成単位を2つ以上(好ましくは2以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは1250以下、より好ましくは800以下、さらには680以下、120以下であってもよい)含むポリマーであることが好ましい。
【0037】
本実施形態で用いる相溶化剤は、また、アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造を有するものであることが好ましい。このような構造は、本実施形態で用いるポリアミド樹脂の末端カルボキシル基または末端アミノ基と反応する。すなわち、相溶化剤はポリアミド樹脂と作用する構造として適している。アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造としては、エポキシ基、無水マレイン酸基およびオキサゾリン基から選択される少なくとも1種が例示され、無水マレイン酸基および/またはオキサゾリン基が好ましい。
また、本実施形態で用いる相溶化剤は、本実施形態で用いるポリアミド樹脂と相溶化する構造を有するものであってもよい。ポリアミド樹脂と相溶化する構造としては、樹脂の一部をポリアミド変性したものなど、ポリアミド構造を一部に含む相溶化剤が例示される。
【0038】
本実施形態で用いる相溶化剤は、ポリマーであることが好ましく、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)法により測定したポリスチレン換算値の重量平均分子量が5000~180,000のポリマー(好ましくは5,000~80,000)がより好ましい。また、本実施形態で用いる相溶化剤は、示差走査熱量測定(DSC)によるガラス転移温度が45~180℃であることが好ましい。
【0039】
本実施形態で用いる相溶化剤の具体例としては、以下(1)および(2)が挙げられ、(1)が好ましい。
(1)スチレン由来の構成単位を2つ以上含み、アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造を有する相溶化剤。
(2)スチレン由来の構成単位を2つ以上含み、ポリアミド樹脂と相溶化する構造を有する相溶化剤。
【0040】
上記相溶化剤(1)のさらなる具体例としては、以下のものが挙げられ、(1-1)が好ましい。
(1-1)ポリスチレンを主骨格とし、アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造(好ましくはエポキシ基、無水マレイン酸基およびオキサゾリン基から選択される少なくとも1種、より好ましくは無水マレイン酸基および/またはオキサゾリン基種)を有する相溶化剤
(1-2)スチレン-アクリル共重合体であって、アミノ基およびカルボキシル基の少なくとも一方と反応する構造(好ましくはエポキシ基、無水マレイン酸基およびオキサゾリン基から選択される少なくとも1種、より好ましくは無水マレイン酸基および/またはオキサゾリン基)を有する相溶化剤
【0041】
上記相溶化剤(2)のさらなる具体例としては、以下のものが挙げられる。
(2-1)ポリアミド変性されたポリスチレン重合体である相溶化剤
(2-2)ポリアミド変性されたスチレン-アクリル共重合体である相溶化剤
【0042】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂およびポリアミド樹脂の合計100質量部に対し、相溶化剤を0.5質量部以上含み、0.7質量部以上であることが好ましく、0.9質量部以上であることがより好ましく、1.1質量部以上であることがさらに好ましく、3質量部以上であることが一層好ましく、4質量部以上であることがより一層好ましい。前記下限値以上とすることにより、相溶化剤としての効果が効果的に発揮される。また、前記相溶化剤の含有量は、15質量部以下であり、12質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましく、9質量部以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、鉛筆硬度や耐薬品性をより高い水準に保つことが可能になる。
本実施形態の樹脂組成物は、相溶化剤を1種のみ含んでいてもよいし、2種以上含んでいてもよい。2種以上含む場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0043】
<他の成分>
本実施形態の樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂、本実施形態で用いるポリアミド樹脂および相溶化剤のみからなっていてもよいし、他の成分を含んでいてもよい。
本実施形態の樹脂組成物における、ポリスチレン樹脂、本実施形態で用いるポリアミド樹脂および相溶化剤以外の他の成分としては、上記した本実施形態で用いるポリアミド樹脂以外の他のポリアミド樹脂、ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂、滑剤、充填剤、艶消剤、耐熱安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、可塑剤、難燃剤、帯電防止剤、着色防止剤、結晶化核剤、ゲル化防止剤等の添加剤が挙げられ、これらを必要に応じて添加することができる。これらの添加剤等は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
他のポリアミド樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド46、ポリアミド6/66(ポリアミド6成分およびポリアミド66成分からなる共重合体)、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6I、ポリアミド6T、ポリアミド9I、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド6I/6T、ポリアミド9I/9T等が例示される。これらの他のポリアミド樹脂は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0045】
ポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂等を例示することができる。これらのポリアミド樹脂以外の熱可塑性樹脂は、それぞれ、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0046】
本実施形態の樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂と本実施形態で用いるポリアミド樹脂と相溶化剤の合計含有量が、樹脂組成物の85質量%以上であることが好ましく、より好ましくは90質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、一層好ましくは97質量%以上であり、99質量%以上であってもよい。上限値は、100質量%以下であってもよい。
【0047】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、公知の方法で製造することができる。例えば、ポリスチレン樹脂とポリアミド樹脂と相溶化剤とを溶融混練することによって得られる。特に、本実施形態の製造方法においては、ポリアミド樹脂を2種以上用いる場合、2種以上のポリアミド樹脂を溶融混練した後、ポリスチレン樹脂と相溶化剤を添加して溶融混練することが好ましい。
また、ポリスチレン樹脂とポリアミド樹脂と相溶化剤は、押出機に投入する場合、一括して投入してもよく、また、逐次投入してもよいが、一括投入の方が好ましい。
【0048】
<樹脂組成物の物性>
本実施形態の樹脂組成物は、光線透過率が高いことが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を2mmの厚さの成形片に成形したときの光線透過率が、80%以上であることが好ましく、83%以上であることがより好ましく、85%以上であることがさらに好ましい。前記光線透過率の上限は、100%が理想であるが、99%以下が実際的である。
本実施形態の樹脂組成物は、相溶化剤を配合してもポリスチレン系樹脂が本来的に有する高い透明性が維持されることが好ましい。具体的には、本実施形態の樹脂組成物を厚さ2mmの成形片に成形したときのヘイズが15%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましい。前記ヘイズの下限値は、低ければ低いほど望ましいが、例えば、本実施形態の樹脂組成物から相溶化剤を除いた樹脂組成物を厚さ2mmの成形片に成形したときのヘイズの値より0.1%以上高い値が実際的である。また、具体的な数値としては、例えば、3.0%以上が例示される。
本実施形態の樹脂組成物は、長さ11cm、幅15mm、厚み100μmのフィルムとしたときに、チャック間距離5cm、20mm/secの速度の条件で測定した引張最大強さが高いことが好ましい。具体的には、前記引張最大強さが15MPa以上であることが好ましく、21MPa以上であることがより好ましく、25MPa以上であることがさらに好ましい。前記引張最大強さの上限値については特に定めるものではないが、50MPa以下であることが実際的である。
本実施形態の樹脂組成物は、厚さ100μmのフィルムとしたときのISO 15184に従った鉛筆硬度が、F以上であることが好ましく、H以上であることがより好ましく、2H以上であることがさらに好ましい。前記鉛筆硬度の上限値は、特に定めるものではないが、3H以下が実際的であり、2H以下であってもよい。
前記光線透過率、ヘイズ、引張最大強さおよび鉛筆硬度は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0049】
<成形品>
本実施形態の成形品は、本実施形態の樹脂組成物から形成される。
本実施形態の樹脂組成物を用いた成形品の具体的な製造方法は、特に制限されず、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形方法を採用することができる。具体的には、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形などの成形方法を適用することができる。
【0050】
成形品としては、フィルム(単層フィルム(単層シートを含む)、多層フィルム(多層シートを含む))、繊維、糸、モノフィラメント、マルチフィラメント、ロープ、チューブ、ホース、各種成形材料、容器、各種部品、完成品、筐体等が例示される。さらに成形品(特に、フィルム、モノフィラメント、マルチフィラメント)は、延伸されたものであってもよい。前記成形品は、薄肉成形品や中空成形品等であってもよい。
なかでも、本実施形態においては、高い透明性の利点が活かされる観点から、フィルム(シートを含む)であることが好ましい。フィルムの厚さは、1000μm以下であることが好ましく、また、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。
成形品の具体例としては、特に限定されるものではないが、ラップ、シュリンクフィルム等の食品包装用フィルム等の日用品、各種形状のパウチ、容器の蓋材、ボトル、カップ、トレイ、チューブ、電子機器等の表示画面の透明部材、照明機器の透明部材、記録媒体の表面部材、医薬品の包装部材、自動車等輸送機部品、一般機械部品、精密機械部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品等として好適に用いられる。
【0051】
成形品の利用分野としては、特に限定されるものではないが、自動車等輸送機部品、自動車内装品、一般機械部品、精密機械部品、電子・電気機器部品、OA機器部品、建材・住設関連部品、医療装置、レジャースポーツ用品、遊戯具、医療品、食品包装用フィルム、装飾品、塗料やオイルの容器、防衛および航空宇宙製品等が挙げられる。
【実施例
【0052】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
実施例で用いた測定機器等が廃番等により入手困難な場合、他の同等の性能を有する機器を用いて測定することができる。
【0053】
1.原料
ポリスチレン(A):日本ポリスチレン製、ポリスチレンペレット、ポリスチレンホモポリマー、GPPS SGP10
ポリアミド(B):下記合成例1によって得られたポリアミドペレット(MXD6I(10))
ポリアミド(d):下記合成例2によって得られたポリアミドペレット(MXD6)
ポリアミド(e):下記合成例3によって得られたポリアミドペレット(MXD6I(50))
ポリアミド(C)-1:ポリアミド(d):ポリアミド(e)=90:10(質量比)
ポリアミド(C)-2:ポリアミド(d):ポリアミド(e)=80:20(質量比)
ポリアミド(C)-3:ポリアミド(d):ポリアミド(e)=70:30(質量比)
相溶化剤(G):エポキシ変性ポリスチレン、東亞合成社製、ARUFON UG-4070、スチレン・アクリル樹脂
相溶化剤(H):無水マレイン酸変性ポリスチレン、POLYSCOPE POLYMERS社製、XIBOND 220
相溶化剤(I):オキサゾリン変性ポリスチレン、日本触媒社製、エポクロス RPS-1005
【0054】
<合成例1 MXD6I(10)の合成>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下槽、窒素ガス導入管を備えたジャケット付きの50L反応缶に、精秤したアジピン酸6,000g(41.1mol)、イソフタル酸758g(4.6mol)(合計45.7mol、アジピン酸とイソフタル酸のモル比が90:10)、次亜リン酸ナトリウム一水和物1.9g(NaH2PO2・H2O)(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度換算で100質量ppm)および酢酸ナトリウム0.8gを仕込み、十分に窒素置換した後、窒素を内圧0.4MPaまで充填し、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら190℃まで加熱した。
これにメタキシリレンジアミン6225g(45.6mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を上昇させ、255℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて260℃で10分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出し、水冷後ペレット化して、ポリアミド(MXD6I(10))を得た。
【0055】
<合成例2(MXD6の合成)>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付きの50L反応缶に、精秤したアジピン酸9000g(61.6mol)、次亜リン酸ナトリウム一水和物2.6g(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度換算で100質量ppm)および酢酸ナトリウム0.8gを仕込み、十分窒素置換し、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら180℃に加熱した。
これにメタキシリレンジアミン8600g(63.2mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を上昇させ、255℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて260℃で10分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出し、水冷後ペレット化して、ポリアミド(MXD6)を得た。
【0056】
<合成例3(MXD6I(50)の合成>
撹拌機、分縮器、全縮器、温度計、滴下槽および窒素ガス導入管を備えたジャケット付きの50L反応缶に、精秤したアジピン酸6,000g(41.1mol)、イソフタル酸6,820g(41.1mol)、次亜リン酸ナトリウム一水和物3.6g(NaH2PO2・H2O)(ポリアミド樹脂中のリン原子濃度換算で100質量ppm)および酢酸ナトリウム1.4gを配合し、十分に窒素置換した後、窒素を内圧0.4MPaまで充填し、さらに少量の窒素気流下で系内を撹拌しながら190℃まで加熱した。
これにメタキシリレンジアミン11,205g(82.11mol)を撹拌下に滴下し、生成する縮合水を系外へ除きながら系内を連続的に昇温した。メタキシリレンジアミンの滴下終了後、内温を上昇させ、255℃に達した時点で反応容器内を減圧にし、さらに内温を上昇させて260℃で10分間、溶融重縮合反応を継続した。その後、系内を窒素で加圧し、得られた重合物をストランドダイから取り出して、水冷後ペレット化して、ポリアミド(MXD6I(50))を得た。
【0057】
実施例1~22、比較例1~3
ポリアミドペレットを130℃で4時間乾燥させた後、ポリスチレンと表1~5に示す質量比率となるようにドライブレンドし、さらに、相溶化剤を表1~5に示す質量比率となるように配合し、射出成形機(住友重機械工業(株)製、SE130DU-HP)に導入し、厚さ2mmおよび厚さ4mmの成形片を作製した。成形に際し、シリンダー温度は280℃、金型表面温度は90℃にて実施した。
また、同様にポリスチレン、ポリアミド、相溶化剤を表1~5に示す質量比率になるようにドライブレンドしたサンプルを、単軸押出機(プラスチック工学研究所製、PTM-30)の根元から投入し、溶融して押し出し、厚さ100μmのフィルムを作製した。押出機の温度は、260℃に設定した。
以下の評価を行い、結果を表1~5に示した。
【0058】
<光線透過率>
上記で得られた厚さ2mmの成形片について、JIS K7361-1:1997に準拠し、全光線透過率を測定した。
色彩・濁度同時測定器としては、日本電色工業(株)製「COH400」を用いた。
単位は、%で示した。
【0059】
<ヘイズ(HAZE)>
上記で得られた厚さ2mmの成形片について、色彩・濁度同時測定器を用いてヘイズを測定した。単位は、%で示した。
色彩・濁度同時測定器としては、日本電色工業(株)製「COH400」を用いた。
【0060】
<引張最大強さ>
上記で得られたフィルムを用いて、引っ張り強さを測定した。
引張試験機(ストログラフIIB)を用い、長さ11cm、幅15mm、厚み100μmにカットした上記フィルムを、チャック間距離5cm、引張り速度20mm/secで測定した。5回測定し、引張最大強さの平均値より以下のとおり、評価した。
S:25MPa以上
A:20MPa以上25MPa未満
B:15MPa以上20MPa未満
C:15MPa未満
【0061】
<耐薬品性>
上記で得られた厚さ4mmの成形片を温度23℃のトルエンに浸漬し、5日間静置し、その外観を評価した。印刷物上に上記で浸漬後の成形片を置いた。その際に背景に見える印刷画像の視認性を目視にて評価した。5人の専門家が評価を行い、多数決とした。結果は以下のように区分して対比した。
(評価)
A:成形片形状に変化はなく、その透明性への影響はなかった。
B:成形片形状に変化はなかったが、透明性は悪化した(視認は可能)。
C:成形片形状に変化はなかったが、透明性は悪化した(視認は不可能)。
D:成形片形状は変化し、透明性も悪化した。
また、視認の可否については、浸漬前の時点での白濁しており、視認性のない成形片であって、成形片形状に変化のないものにおいては、耐薬品性試験の前後での視認に変化はなくても評価Cとした。
【0062】
<鉛筆硬度>
上記で得られたフィルムについて、ISO 15184に従って鉛筆硬度を測定した。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
【表5】
【0068】
上記表1~5において、イソフタル酸変性率とは、ポリアミド樹脂を構成する全構成単位におけるイソフタル酸由来の構成単位の割合(モル%)を意味する。
上記結果から明らかなとおり、本発明の配合構成とすることにより、ポリスチレン樹脂が本来的に有する透明性を維持しつつ、引張最大強さと鉛筆硬度に優れた樹脂組成物が得られた。さらに、耐薬品性にも優れた樹脂組成物が得られた。
これに対し、キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を含まない場合(比較例1)、鉛筆硬度が低くなってしまった。さらに、耐薬品性も劣っていた。また、相溶化剤を含まない場合(比較例2)、引張最大強さが劣ってしまった。
また、イソフタル酸変性していないキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂を用いた場合(比較例3)、強度、鉛筆硬度は高いものの、光線透過率が格段に低かった。また、ヘイズも高かった。