(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/185 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
B62D1/185
(21)【出願番号】P 2021133950
(22)【出願日】2021-08-19
【審査請求日】2024-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】石丸 桂介
(72)【発明者】
【氏名】野寄 宏
(72)【発明者】
【氏名】村松 佳樹
【審査官】瀬戸 康平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-081508(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100931(WO,A1)
【文献】特開2021-041878(JP,A)
【文献】国際公開第2017/069186(WO,A1)
【文献】特開2011-105122(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0204610(US,A1)
【文献】独国特許出願公開第102010026691(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングシャフトを回転可能に支持する円筒状のロアーチューブと、
前記ロアーチューブに対してその軸方向に沿って摺動可能に外嵌される挿入孔を有するとともに前記挿入孔が弾性的に縮径されることにより前記ロアーチューブに固定されるアッパージャケットと、を備え、
前記アッパージャケットは、前記挿入孔を介して互いに反対側に位置する第1の側壁および第2の側壁を有し、
前記第1の側壁および前記第2の側壁の少なくとも一方は、ロックレバーの操作を通じて前記第1の側壁および前記第2の側壁が互いに近接する方向に締め付けられるとき、前記第1の側壁および前記第2の側壁の少なくとも一方の一部分を、前記挿入孔を縮径させるべく内側へ向けて弾性変形させるためのスリットを有し
、
前記スリットは、前記アッパージャケットの軸方向に沿って延びる第1のスリット部と、
前記第1のスリット部の端部に連結されて前記第1のスリット部に対して交わる方向に沿って延びる第2のスリット部と、を有するステアリング装置であって、
前記ロックレバーの操作を通じて前記第1の側壁および前記第2の側壁を互いに近接する方向に締め付けるための締付け軸を有し、
前記第1の側壁および前記第2の側壁は、前記締付け軸が挿通されるとともに前記第1のスリット部に沿って延びる長孔を有し、
前記長孔は、前記第1のスリット部と前記第2のスリット部との内角側の部分に設けられるとともに、前記長孔の前記第2のスリット部とは反対側の端部と前記アッパージャケットの前記長孔を基準とする前記第2のスリット部とは反対側の端部との間の距離は、前記第1のスリット部または前記第2のスリット部の幅よりも狭いステアリング装置。
【請求項2】
前記挿入孔の内周面は複数の凹部を有し、
前記凹部は、前記挿入孔の円周方向に沿って間隔をあけて、かつ前記挿入孔の軸方向における全長にわたって設けられている請求項
1に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールの位置を調節可能としたステアリング装置が存在する。このステアリング装置は、たとえばチルト機構およびテレスコピック機構を有している。チルト機構は、ステアリングホイールの上下方向の傾き位置を調節するための機構である。テレスコピック機構は、ステアリングホイールの軸方向位置を調節するための機構である。運転者は、ステアリングホイールを上下方向あるいは軸方向へ移動させることによって、ステアリングホイールの位置を好みの位置に調節することができる。
【0003】
たとえば特許文献1のステアリング装置は、ステアリングホイールが取り付けられるステアリングシャフトと、ステアリングシャフトを回転自在に支持するステアリングコラムとを有している。ステアリングシャフトは、ホイールシャフトと伸縮シャフトとがユニバーサルジョイントを介して互いに連結されてなる。伸縮シャフトは、二重管構造を有し、その軸方向に伸縮可能である。ステアリングコラムは、ステアリングホイールの位置調節方向の移動が許容された状態で車体に支持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のステアリング装置では、つぎのことが懸念される。すなわち、ステアリングホイールの軸方向位置を調節する際、伸縮シャフトの伸縮に伴い、ステアリングコラム、ホイールシャフトおよびユニバーサルジョイントが一体的に軸方向へ移動する。このことは、ステアリングホイールの位置を調節する際の操作性を低下させる一因となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し得るステアリング装置は、ステアリングホイールが連結されるとともに軸方向に伸縮可能に設けられたステアリングシャフトと、前記ステアリングシャフトを回転可能に支持する円筒状のロアーチューブと、前記ロアーチューブに対してその軸方向に沿って摺動可能に外嵌される挿入孔を有するとともに前記挿入孔が弾性的に縮径されることにより前記ロアーチューブに固定されるアッパージャケットと、を備えている。前記アッパージャケットは、前記挿入孔を介して互いに反対側に位置する第1の側壁および第2の側壁を有している。前記第1の側壁および前記第2の側壁の少なくとも一方は、ロックレバーの操作を通じて前記第1の側壁および前記第2の側壁が互いに近接する方向に締め付けられるとき、前記第1の側壁および前記第2の側壁の少なくとも一方の一部分を、前記挿入孔を縮径させるべく内側へ向けて弾性変形させるためのスリットを有している。
【0007】
この構成によれば、ロックレバーの操作を通じて第1の側壁および第2の側壁の互いに近接する方向への締め付けが解除されることによって、挿入孔が弾性的に拡径する。このため、アッパージャケットは、ロアーチューブに対して軸方向に相対移動可能となる。ステアリングホイールを介してアッパージャケットをロアーチューブに対して軸方向に摺動させるだけで、ステアリングホイールの軸方向の位置を調節することが可能となる。したがって、ステアリングホイールの位置を調節する際、特にステアリングホイールの軸方向の位置を調節する際の操作性を向上させることができる。
【0008】
上記のステアリング装置において、前記スリットは、前記アッパージャケットの軸方向に沿って延びる第1のスリット部と、前記第1のスリット部の端部に連結されて前記第1のスリット部に対して交わる方向に沿って延びる第2のスリット部と、を有していてもよい。
【0009】
この構成によれば、ロックレバーの操作を通じて第1の側壁および第2の側壁が互いに近接する方向に締め付けられるとき、第1の側壁および第2の側壁の少なくとも一方のスリットで分断された部分が内側へ弾性変形しやすくなる。このため、ロアーチューブを好適に保持することができる。
【0010】
上記のステアリング装置において、前記ロックレバーの操作を通じて前記第1の側壁および前記第2の側壁を互いに近接する方向に締め付けるための締付け軸を有していてもよい。また、前記第1の側壁および前記第2の側壁は、前記締付け軸が挿通されるとともに前記第1のスリット部に沿って延びる長孔を有していてもよい。前記長孔は、前記第1のスリット部と前記第2のスリット部との内角側の部分に設けられるとともに、前記長孔の前記第2のスリット部とは反対側の端部と前記アッパージャケットの前記長孔を基準とする前記第2のスリット部とは反対側の端部との間の距離は、前記第1のスリット部または前記第2のスリット部の幅よりも狭い距離に設定されていてもよい。
【0011】
この構成によるように、製品仕様などによっては、長孔の第2のスリット部とは反対側の端部とアッパージャケットの長孔を基準とする第2のスリット部とは反対側の端部との間の距離が、第1のスリット部または第2のスリット部の幅よりも狭い距離に設定されることがある。この場合、第1のスリット部および第2のスリット部を有するスリットは好適である。
【0019】
上記のステアリング装置において、前記挿入孔の内周面は複数の凹部を有し、前記凹部は、前記挿入孔の円周方向に沿って間隔をあけて、かつ前記挿入孔の軸方向における全長にわたって設けられていてもよい。
【0020】
この構成によれば、挿入孔の内周面とロアーチューブの外周面に対する接触面積を確保しつつ、ステアリングホイールの軸方向の位置調節を行う際における挿入孔の内周面とロアーチューブの外周面との間の接触抵抗を低減することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のステアリング装置によれば、ステアリングホイールの位置を調節する際の操作性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】ステアリング装置の第1の実施の形態の構成を示す模式図である。
【
図2】
図1のII-II線に沿って切断した断面模式図である。
【
図3】第1の実施の形態のステアリングコラムの斜視図である。
【
図4】第1の実施の形態のステアリングコラムの分解斜視図である。
【
図5】第1の実施の形態のアッパージャケットを第1のジャケット部側からみた斜視図である。
【
図6】第1の実施の形態のアッパージャケットを軸方向かつ第1のジャケット部側からみた側面図である。
【
図7】第1の実施の形態のアッパージャケットの第2の側壁側からみた側面図である。
【
図8】第2の実施の形態のアッパージャケットを第1のジャケット部側からみた斜視図である。
【
図9】第3の実施の形態のアッパージャケットを第2の側壁側からみた側面図である。
【
図10】第4の実施の形態のアッパージャケットを第2の側壁側からみた側面図である。
【
図11】第5の実施の形態のアッパージャケットを第2の側壁側からみた側面図である。
【
図12】第6の実施の形態のアッパージャケットを第2の側壁側からみた側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<第1の実施の形態>
以下、ステアリング装置の第1の実施の形態を説明する。
図1に示すように、ステアリング装置1は、ステアリングシャフト2、中間軸3、ピニオン軸4、およびラック軸5を有している。ステアリングシャフト2の第1の端部には、ステアリングホイール6が連結されている。ステアリングシャフト2の第2の端部には、自在継手7を介して中間軸3の第1の端部が連結されている。中間軸3の第2の端部には自在継手8を介してピニオン軸4の第1の端部が連結されている。ピニオン軸4の第2の端部には、ピニオン4aが設けられている。ピニオン4aは、ラック軸5に設けられたラック5aに噛み合っている。ラック軸5は、車体のフレーム9に固定されるハウジング10の内部に支持されている。ラック軸5は、車両の進行方向に対する左方向または右方向へ移動可能である。ラック軸5の両端部はタイロッド(図示略)を介して左右の転舵輪(図示略)に連結される。
【0024】
ステアリングシャフト2は、アウタシャフト11およびインナシャフト12を有している。アウタシャフト11およびインナシャフト12は、たとえばスプライン結合によって互いに連結されている。アウタシャフト11およびインナシャフト12は、一体回転可能かつ軸方向に沿って相対移動可能である。ステアリングシャフト2は、ステアリングホイール6を上にして車両の前後方向X1に対して斜めに設けられる。
【0025】
ステアリング装置1は、ステアリングコラム15を有している。ステアリングコラム15には、ステアリングシャフト2が挿通されている。ステアリングシャフト2は、軸受(図示略)を介してステアリングコラム15に対して回転可能に支持される。
【0026】
ステアリングコラム15は、アッパージャケット16、ロアーチューブ17およびハウジング18を有している。アッパージャケット16は、車体のフレーム13に取り付けられる。アッパージャケット16は、円筒状の部分を有している。アッパージャケット16はアウタシャフト11を回転可能に支持する。ロアーチューブ17は、円筒状である。ロアーチューブ17は、インナシャフト12を回転可能に支持する。アッパージャケット16およびロアーチューブ17は、互いに嵌め合わされている。一例として、ロアーチューブ17の第1の端部は、アッパージャケット16の第2の端部に挿入されている。第2の端部は、ステアリングホイール6により近い第1の端部と反対側の端部である。アッパージャケット16およびロアーチューブ17は、ステアリングシャフト2の軸方向に互いに相対移動可能である。
【0027】
ハウジング18は、ロアーチューブ17の第2の端部に連結されている。ハウジング18の外部には、操舵補助用のモータ19が設けられている。ハウジング18の内部には、減速機20が収容されている。減速機20は、モータ19の回転を減速し、この減速される回転をインナシャフト12に伝達する。減速機20は、ウォーム21およびウォームホイール22を有するウォーム減速機である。ウォーム21は、モータ19の出力軸(図示略)に対して一体回転可能に連結される。ウォーム21の軸線およびモータ19の出力軸の軸線は、同一の直線上に位置している。ウォームホイール22は、ウォーム21と噛み合っている。ウォームホイール22は、インナシャフト12と一体回転可能に設けられている。ウォームホイール22の軸線およびインナシャフト12の軸線は、同一の直線上に位置している。
【0028】
<ステアリングコラムの支持構造>
つぎに、ステアリングコラム15の支持構造について詳細に説明する。
図1に示すように、アッパージャケット16は、コラムブラケット30を有している。アッパージャケット16は、コラムブラケット30を介して車体のフレーム13に取り付けられる。コラムブラケット30は、ステアリングシャフト2の軸方向に沿って延びている。コラムブラケット30の第1の端部は、車体のフレーム13に固定される。
【0029】
コラムブラケット30は、2つの支持部31(
図1では1つのみ図示)および支持軸32を有している。2つの支持部31は、コラムブラケット30の第2の端部に設けられている。2つの支持部31は、車体の幅方向において互いに対向している。支持軸32は、2つの支持部31の間を延びている。支持軸32は、
図1に二点鎖線で示される支持ブラケット33に対して回転可能に連結される。支持ブラケット33は、車体に固定される。
【0030】
図2に示すように、コラムブラケット30は、アッパーブラケット34、およびチルトブラケット35を有している。アッパーブラケット34は、車体の左右方向(
図2中の左右方向)に沿って延びる平板状である。アッパーブラケット34の両端には、それぞれ取付座34Aが設けられている。アッパーブラケット34は、これら取付座34A,34Aを介して車体のフレーム13に固定される。具体的には、つぎの通りである。
【0031】
すなわち、フレーム13には、2つのボルト41が突出して設けられている。これらボルト41は、その軸方向Z1が鉛直方向に対して交わるように延びている。これらボルト41は、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、ステアリングシャフト2を基準とする車体の左側および右側に一つずつ設けられている。ボルト41は、その両端に雄ねじが設けられたスタッドボルトである。ボルト41の第1の端部は、フレーム13に螺合されている。ボルト41の第2の端部は、取付座34Aを貫通している。ボルト41の第2の端部にナット42を締め付けることにより、取付座34Aがフレーム13に固定される。ナット42と取付座34Aとの間には、座金43が介在されている。
【0032】
チルトブラケット35は、アッパーブラケット34に固定されている。チルトブラケット35は、ステアリングシャフト2の軸方向からみて角型U字状である。チルトブラケット35は、所定形状に打ち抜かれた金属の平板が屈曲されてなる。チルトブラケット35は、アッパーブラケット34と反対側に開放している。
【0033】
チルトブラケット35は、連結部35A、第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cを有している。連結部35Aは、アッパーブラケット34のフレーム13と反対側の面(
図2中の下面)に固定されている。第1のクランプ部35Bは、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、連結部35Aの車体の左右方向における第1の側縁部に連結されている。第2のクランプ部35Cは、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、連結部35Aの車体の左右方向における第2の側縁部に連結されている。第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cは、車体のフレーム13と反対側(
図2中の下方)へ向けて延びている。
【0034】
図3に示すように、第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cは、それぞれボルト41の軸方向Z1に沿って延びるチルト調節用の長孔35Dを有している。
図2に示すように、第1のクランプ部35Bと第2のクランプ部35Cとの間には、アッパージャケット16が位置している。アッパージャケット16は、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bを有している。第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bは、車体の左右方向において互いに反対側に位置している。第1の側壁16Aの外側面は、第2のクランプ部35Cの内側面に接触した状態に維持される。第2の側壁16Bの外側面は、第1のクランプ部35Bの内側面に接触した状態に維持される。
【0035】
アッパージャケット16は、挿入孔16Cおよびスリット16Dを有している。挿入孔16Cとスリット16Dとは互いに連通している。挿入孔16Cは、ステアリングシャフト2の軸方向においてアッパージャケット16を貫通している。挿入孔16Cには、ロアーチューブ17が挿入されている。スリット16Dは、第2の側壁16Bに設けられている。スリット16Dは、第2の側壁16Bにおける連結部35Aに寄った位置に設けられている。スリット16Dは、車体の左右方向において第2の側壁16Bを貫通している。スリット16Dは、ステアリングシャフト2の軸方向に沿って延びる部分を有している。スリット16Dは、アッパージャケット16のロアーチューブ17が挿入される側の端面に開放されている。アッパージャケット16の内外は、スリット16Dを介して連通している。スリット16Dは、第2の側壁16Bに対して第1の側壁16Aへ向かう方向の外力が印加されたとき、第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された一部分を、内側、すなわち第1の側壁16Aへ向けて弾性変形させるためのものである。
【0036】
アッパージャケット16は、テレスコピック調節用の2つの長孔16E,16Fを有している。2つの長孔16E,16Fは、ステアリングシャフト2の軸方向からみて、挿入孔16Cとスリット16Dとの間に位置している。一方の長孔16Eは第1の側壁16Aに、他方の長孔16Fは第2の側壁16Bに設けられている。一方の長孔16Eは車体の幅方向において第1の側壁16Aを貫通する一方、他方の長孔16Fは車体の幅方向において第2の側壁16Bを貫通している。2つの長孔16E,16Fは、ステアリングシャフト2の軸方向に沿って延びている。2つの長孔16E,16Fは、車体の幅方向において互いに対向している。
【0037】
チルトブラケット35とアッパージャケット16とは、ボルトからなる締付け軸51を介して連結されている。アッパージャケット16は、締付け軸51によってチルトブラケット35に対して相対的に位置調整可能に支持されている。締付け軸51は、車体の幅方向(
図2中の左右方向)に沿って延びている。締付け軸51は、チルトブラケット35の2つの長孔35D,35Dおよびアッパージャケット16の2つの長孔16E,16Fを貫通している。この貫通した締付け軸51の頭部52と反対側の端部には、ナット53が螺合されている。締付け軸51において、頭部52と第2の側壁16Bとの間には、ロックレバー54が回転自在に支持されている。
【0038】
ロックレバー54の基端部には、第1のカム55が一体的に設けられている。また、第1のカム55と第2の側壁16Bとの間には、第2のカム56が設けられている。第2のカム56は、第1のクランプ部35Bに対して相対的な回転が規制された状態に設けられる。第1のカム55における第2のカム56に面する側面の周縁部には、複数の突部が間隔をあけて設けられている。第2のカム56における第1のカム55に面する側面の周縁部にも、複数の突部が間隔をあけて設けられている。第1のカム55の回転位置は、ロックレバー54の回転操作を通じて第1の回転位置と第2の回転位置との間で切り替わる。第1の回転位置は、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部と突部との間に噛み合うかたちで係合する位置をいう。第2の回転位置は、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げる位置をいう。
【0039】
ロックレバー54の回転操作(ロック操作)を通じて、第1のカム55の回転位置が第1の回転位置から第2の回転位置へ切り替えられたとき、第1のカム55は第2のカム56に対して相対的に回転するとともに、この回転に伴い第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げる。ロックレバー54の締付け軸51に沿った方向への移動が規制されているため、第1のカム55の突部が第2のカム56の突部に乗り上げた分だけ、第2のカム56はナット53に近づく方向へ移動しようとする。これに伴い、第2のカム56とナット53との間において、チルトブラケット35の第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cは、互いに近接する方向へ向けて弾性変形する。その結果、第1のクランプ部35Bの内側面は第2の側壁16Bの外側面に押し付けられる一方、第2のクランプ部35Cの内側面は第1の側壁16Aの外側面に押し付けられる。すなわち、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bは、第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cによって互いに近接する方向に挟み込まれる。これにより、アッパージャケット16がチルトブラケット35に対して相対的に移動することが規制される。
【0040】
また、アッパージャケット16の第2の側壁16Bには、スリット16Dが設けられている。このため、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bが第1のクランプ部35Bと第2のクランプ部35Cとによって互いに近接する方向に挟み込まれることにより、第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された一部分は、第1の側壁16Aに近づく方向へ弾性変形する。この第2の側壁16Bの弾性変形に伴い、第1の側壁16Aと第2の側壁16Bとの間隔が狭まるとともに、挿入孔16Cの内径が弾性的に縮径する。挿入孔16Cの内周面によってロアーチューブ17の外周面が締め付けられることによって、アッパージャケット16のロアーチューブ17に対する軸方向に沿った相対的な移動が規制される。
【0041】
ステアリングホイール6の位置を変更する際には、ロックレバー54の回転操作(アンロック操作)を通じて、第1のカム55の回転位置を第2の回転位置から第1の回転位置へ切り替える。第1のカム55の突部が第2のカム56の突部と突部との間に嵌ることにより、チルトブラケット35における第1のクランプ部35Bと第2のクランプ部35Cとの互いに近接する方向における締付け、およびアッパージャケット16における第1の側壁16Aと第2の側壁16Bとの互いに近接する方向における締付けが解除される。第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35C、ならびに第2の側壁16Bが、それぞれ原位置へ弾性復帰することによって、第1のクランプ部35Bと第2のクランプ部35Cとの間隔、ならびに第1の側壁16Aと第2の側壁16Bとの間隔が広がる。これに伴い、挿入孔16Cは弾性的に拡径する。
【0042】
これにより、第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cが第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bを挟み込む力が弱まる。また、アッパージャケット16がロアーチューブ17の外周面を締め付ける力も弱まる。このため、アッパージャケット16は、チルトブラケット35の第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cに対して上下方向へ相対的に移動することが可能となる。ステアリングホイール6を上下方向へ移動させることにより、ステアリングホイール6の上下方向の位置を調節することが可能である。また、アッパージャケット16によるロアーチューブ17の締め付けが解除されることにより、アッパージャケット16がロアーチューブ17に対して軸方向に沿って相対的に移動することが可能となる。ステアリングホイール6を軸方向に沿って移動させることにより、ステアリングホイール6の軸方向における位置を調節することが可能である。
【0043】
<アッパージャケットの詳細構成>
つぎに、アッパージャケットの構成を詳細に説明する。
図4および
図5に示すように、アッパージャケット16は、直方体状の第1のジャケット部61、および円筒状の第2のジャケット部62を有している。先の挿入孔16Cは、第1のジャケット部61における第2のジャケット部62と反対側の端面から、第1のジャケット部61と第2のジャケット部62との境界部分までの範囲にわたって設けられている。挿入孔16Cには、第1のジャケット部61における第2のジャケット部62と反対側からロアーチューブ17が挿入される。先のテレスコピック調節用の2つの長孔16E,16Fおよびスリット16Dは、いずれも第1のジャケット部61に設けられている。
【0044】
図6に示すように、挿入孔16Cの内径φ1は、第2のジャケット部62の内径φ2よりも長い。また、挿入孔16Cの内径φ1は、基本的にはロアーチューブ17の外径と同程度の長さに設定される。挿入孔16Cの内周面には、3つの凹部61A,61B,61Cが設けられている。3つの凹部61A,61B,61Cは、挿入孔16Cの軸方向の全長にわたって延びている。3つの凹部61A,61B,61Cは、挿入孔16Cの円周方向に沿って間隔をあけて設けられている。3つの凹部61A,61B,61Cは、挿入孔16Cの軸方向からみて、9時位置、3時位置および6時位置に設けられている。
図6に二点鎖線で示されるように、ロアーチューブ17を挿入孔16Cに挿入した状態において、ロアーチューブ17の外周面と3つの凹部61A,61B,61Cとの間には隙間が形成される。
【0045】
図7に示すように、スリット16Dは、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、全体としてL字状である。スリット16Dは、第1のスリット部16D1および第2のスリット部16D2を有している。第1のスリット部16D1および第2のスリット部16D2は互いに連続している。
【0046】
第1のスリット部16D1は、アッパージャケット16の軸方向に沿って延びている。第1のスリット部16D1の第1の端部は、第2のジャケット部62と反対側に開放されている。第1のスリット部16D1の第2の端部は、アッパージャケット16の軸方向において、テレスコピック調節用の長孔16Fよりも第2のジャケット部62に近い位置にある。
【0047】
第2のスリット部16D2は、第1のスリット部16D1に対して直交する方向に沿って延びている。第2のスリット部16D2の第1の端部は、第1のスリット部16D1の第2の端部に連結されている。第2のスリット部16D2の第2の端部は、アッパージャケット16の軸線を境界として第1のスリット部16D1と反対側の領域に位置している。
【0048】
なお、テレスコピック調節用の長孔16Fの第1の端部(
図7中の左端部)は、アッパージャケット16の第2のジャケット部62と反対側の端部に近接している。アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、長孔16Fの第1の端部とアッパージャケット16の第2のジャケット部62と反対側の端部との間の距離W3は、第1のスリット部16D1の幅W1あるいは第2のスリット部16D2の幅W2と同程度または狭い距離に設定されている。
【0049】
<第1の実施の形態の作用>
つぎに、第1の実施の形態の作用を説明する。
ステアリングホイール6の位置の調節が完了した後、ロックレバー54の回転操作を通じて第1のカム55の回転位置が第1の回転位置から第2の回転位置へ切り替えられる。この操作に伴い、チルトブラケット35の第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cが互いに近接する方向へ向けて締め付けられることによって、アッパージャケット16の第1のクランプ部35Bおよび第2のクランプ部35Cに対する相対的な移動が規制される。また、アッパージャケット16における第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された部分が第1の側壁16Aに近づく方向に弾性変形することに伴い、挿入孔16Cが弾性的に縮径してロアーチューブ17の外周面を締め付ける。これにより、アッパージャケット16のロアーチューブ17に対する軸方向に沿った相対的な移動が規制される。
【0050】
ここで、スリット16Dは、アッパージャケット16の軸方向に沿って延びる第1のスリット部16D1のみならず、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向に沿って延びる第2のスリット部16D2を有している。このため、第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された部分、すなわち第2の側壁16Bにおける第1のスリット部16D1と第2のスリット部16D2との内角側の部分の剛性が他の部分の剛性に対して、より低下する。ここでの剛性は、第1の側壁16Aに近づく方向へ向けた変形に対する剛性である。第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された部分は、第1の側壁16Aに対して近接する方向へ向けてより弾性変形しやすくなる。このため、第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された部分を第1の側壁16Aに近接する方向へ弾性変形させるため、ひいては挿入孔16Cを縮径させるために必要とされるロックレバー54の操作力がより小さくなる。したがって、ロックレバー54の操作性が向上する。
【0051】
また、第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された部分が第1の側壁16Aに近づく方向へ向けて弾性変形することに伴い、挿入孔16Cが縮径しつつロアーチューブ17が挿入孔16Cの内周面における第1の側壁16Aに設けられた部分に押し付けられる。これにより、ロアーチューブ17は第1の側壁16Aに対して位置決めされる。この状態で、挿入孔16Cの内周面における第2の側壁16Bに設けられた部分がロアーチューブ17の外周面に押し付けられることにより、ロアーチューブ17はアッパージャケット16に固定される。ロアーチューブ17が第1の側壁16Aに対して位置決めされた状態でロアーチューブ17の外周面が締め付けられることにより、ロアーチューブ17とアッパージャケット16との軸ずれが抑制される。
【0052】
ちなみに、挿入孔16Cの内周面には複数の凹部61A,61B,61Cが設けられている。これら凹部61A,61B,61Cのサイズおよび配置は、挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面に対する接触面積を確保しつつ、挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面との間の接触抵抗を低減する観点に基づき設定されている。このため、ロアーチューブ17の外周面が締め付けられた状態において、挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面との間にがたつきが発生するもなく、ロアーチューブ17はアッパージャケット16によって好適に保持される。また、挿入孔16Cの内周面に複数の凹部61A,61B,61Cが設けられている分だけ、挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面との接触面積が減少する。このため、ステアリングホイール6の軸方向の位置調節を行う際における挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面との間の接触抵抗が低減される。
【0053】
<第1の実施の形態の効果>
したがって、第1の実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1-1)ロアーチューブ17は、モータ19および減速機20が設けられるハウジング18に連結されている。アッパージャケット16は、ロアーチューブ17に対して軸方向に相対移動可能である。ステアリングホイール6の軸方向の位置を調節する際、ステアリングホイール6を介してアッパージャケット16をロアーチューブ17に対して軸方向に摺動させるだけでよい。すなわち、ステアリングホイール6の軸方向の位置を調節する際、アウタシャフト11よりも下流に位置する構成、たとえばインナシャフト12、ハウジング18、モータ19、減速機20および自在継手7を移動させる必要がない。したがって、ステアリングホイール6の位置を調節する際、特にステアリングホイール6の軸方向の位置を調節する際の操作性を向上させることができる。
【0054】
(1-2)アッパージャケット16は、互いに対向する第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bを有している。第2の側壁16Bには、スリット16Dが設けられている。このため、第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された部分は、第1の側壁16Aに向かう方向へ向けて、よりたわみやすくなる。また、アッパージャケット16の挿入孔16Cは、より縮径しやすくなる。このため、ロックレバー54のロック操作が行われた際、挿入孔16Cの内周面によってロアーチューブ17の外周面が好適に締め付けられる。したがって、アッパージャケット16によってロアーチューブ17を好適に保持することができる。
【0055】
(1-3)スリット16Dは、アッパージャケット16の第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのうち、第2の側壁16Bのみに設けられている。このため、ロックレバー54のロック操作が行われた際、第2の側壁16Bのスリット16Dで分断された部分が第1の側壁16Aへ向けて弾性変形することにより、ロアーチューブ17が挿入孔16Cの内周面における第1の側壁16Aに設けられた部分に押し付けられる。これにより、ロアーチューブ17は第1の側壁16Aに対して位置決めされる。したがって、ロアーチューブ17とアッパージャケット16との軸ずれを抑制することができる。
【0056】
(1-4)挿入孔16Cの内周面には、複数の凹部61A,61B,61Cが設けられている。このため、挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面に対する接触面積を確保しつつ、ステアリングホイール6の軸方向の位置調節を行う際における挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面との間の接触抵抗を低減することができる。また、挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面に対する接触面積が確保されるため、つぎの効果も得られる。すなわち、アッパージャケット16とロアーチューブ17との軸方向における相対移動が規制された状態において、挿入孔16Cの内周面とロアーチューブ17の外周面との間にがたつきが発生することが抑制される。このため、アッパージャケット16によってロアーチューブ17を好適に保持することができる。
【0057】
(1-5)製品仕様などによっては、テレスコピック調節用の長孔16Fの第1の端部(
図7中の左端部)が、アッパージャケット16の第2のジャケット部62と反対側の端部に近接して設けられることもある。この場合、第2の側壁16Bにおいて、長孔16Fの第1の端部と、アッパージャケット16の第2のジャケット部62と反対側の端部との間の部分に、第1のスリット部16D1または第2のスリット部16D2と同程度の幅を有するスリットを設けることは困難である。このような長孔16Fの構成が採用される場合、第1のスリット部16D1および第2のスリット部16D2を有するL字状のスリット16Dは好適である。
【0058】
<第2の実施の形態>
つぎに、ステアリング装置の第2の実施の形態を説明する。本実施の形態は、基本的には先の
図1~
図6に示される第1の実施の形態と同様の構成を有している。ただし、本実施の形態は、アッパージャケット16の構成の一部分が第1の実施の形態と異なる。したがって、第1の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0059】
図8に示すように、アッパージャケット16は、直方体状の第1のジャケット部61、および円筒状の第2のジャケット部62を有している。第1のジャケット部61は、互いに反対側に位置する第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bを有している。第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bには、それぞれスリット16Gが設けられている。
【0060】
スリット16Gは、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、全体としてU字状である。スリット16Gは、先の第1のスリット部16D1および第2のスリット部16D2に加え、第3のスリット部16D3を有している。第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3は互いに連続している。
【0061】
第1のスリット部16D1の第1の端部、すなわち第2のスリット部16D2が接続される端部と反対側の端部は開放されていない。第1のスリット部16D1の第1の端部には、第3のスリット部16D3が連結されている。第3のスリット部16D3は、第2のスリット部16D2に対して平行である。第1のスリット部16D1は、テレスコピック調節用の長孔としての機能を兼ねる。第1のスリット部16D1には締付け軸51が挿通される。先の
図4および
図5に示される第1の実施の形態の2つの長孔16E,16Fは割愛されている。
【0062】
第1の側壁16Aのスリット16Gで分断された部分、および第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分は、互いに近接する方向へ向けて弾性変形することが可能である。スリット16Gで分断された部分とは、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bにおいて、第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3により囲まれた内側の部分をいう。
【0063】
さて、ロックレバー54のロック操作が行われた際、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分が第1のクランプ部35Bと第2のクランプ部35Cとによって互いに近接する方向に挟み込まれることにより、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分は、互いに近接する方向へ弾性変形する。この弾性変形に伴い、挿入孔16Cが縮径してロアーチューブ17の外周面が締め付けられる。これにより、アッパージャケット16のロアーチューブ17に対する軸方向に沿った相対的な移動が規制される。
【0064】
<第2の実施の形態の効果>
したがって、第2の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1-1),(1-4)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0065】
(2-1)ロックレバー54のロック操作が行われた際、ロアーチューブ17は、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分によって両側から抱え込まれるかたちで保持される。ロアーチューブ17の外周面は、挿入孔16Cの内周面によって両側から抱え込まれるようにして締め付けられる。したがって、アッパージャケット16によってロアーチューブ17を好適に保持することができる。
【0066】
(2-2)第1のスリット部16D1がテレスコピック調節用の長孔としての機能を兼ねる。このため、スリット16Gとは別個にテレスコピック調節用の長孔を設ける必要がない。
【0067】
<第3の実施の形態>
つぎに、ステアリング装置の第3の実施の形態を説明する。本実施の形態は、スリット16Gの形状が先の第2の実施の形態と異なる。したがって、第2の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0068】
図9に示すように、第2の側壁16Bのスリット16Gは、先の第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3に加え、応力緩和部としての第4のスリット部16D4を有している。第4のスリット部16D4は、第2のスリット部16D2の第2の端部、すなわち第1のスリット部16D1に接続される端部とは反対側の端部に連結されている。第4のスリット部16D4は、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、第3のスリット部16D3に対して近接する方向へ延びている。第4のスリット部16D4は、第1のスリット部16D1に対して平行である。
【0069】
第2の側壁16Bは、開口部16Hを有している。開口部16Hは、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、第2の側壁16Bにおける第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3によって囲まれた領域に設けられている。開口部16Hは、第2の側壁16Bを貫通している。開口部16Hは、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、たとえば平行四辺形状である。
【0070】
第1の側壁16Aも、第2の側壁16Bと同様のスリット16Gおよび開口部16Hを有している。
<第3の実施の形態の効果>
したがって、第3の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1-1),(1-4)の効果、および先の第2の実施の形態の(2-1),(2-2)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0071】
(3-1)ロックレバー54のロック操作が行われた際、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分が互いに近接する方向へ向けて弾性変形することに伴い、第2のスリット部16D2の先端部に応力が集中することが懸念される。この点、第2のスリット部16D2の先端部には、第2のスリット部16D2に対して直交する方向に延びる応力緩和部としての第4のスリット部16D4が設けられている。このため、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分が互いに近接する方向へ向けて弾性変形する際、応力緩和部としての第4のスリット部16D4を含む第2のスリット部16D2の先端部に応力が集中しにくくなる。第2のスリット部16D2の先端部は、第2のスリット部16D2における第1のスリット部16D1と反対側の端部である。
【0072】
ちなみに、第3のスリット部16D3の先端部に第4のスリット部16D4と同様の第5のスリット部(図示略)を設けてもよい。この場合、第5のスリット部は、アッパージャケット16の軸方向において第4のスリット部16D4に近接する方向に延設する。
【0073】
(3-2)第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bは、それぞれ開口部16Hを有している。開口部16Hを設けた分だけ第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bの剛性が低下する。このため、ロックレバー54のロック操作が行われた際、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bは、互いに近接する方向へ向けてより弾性変形しやすくなる。
【0074】
<第4の実施の形態>
つぎに、ステアリング装置の第4の実施の形態を説明する。本実施の形態は、スリット16Gの形状が先の第3の実施の形態と異なる。したがって、第3の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0075】
図10に示すように、第2の側壁16Bのスリット16Gは、先の第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3を有している。第2のスリット部16D2の先端部には、応力緩和部としての拡幅孔部16D5が設けられている。拡幅孔部16D5は、いわゆる涙形の輪郭形状を有している。拡幅孔部16D5の幅は、第2のスリット部16D2の先端部に向かうにつれて徐々に広くなる。拡幅孔部16D5と第2のスリット部16D2との間は滑らかな曲面を介して連続している。また、拡幅孔部16D5の先端は、滑らかな円弧面あるいは曲面である。拡幅孔部16D5は、アッパージャケット16の軸方向において、第3のスリット部16D3に近接する方向へ向けて拡幅されている。すなわち、拡幅孔部16D5は、第2のスリット部16D2の第3のスリット部16D3と反対側(
図10中の右側)の側縁からはみださないように拡幅されている。
【0076】
ちなみに、第3のスリット部16D3の先端部に拡幅孔部16D5と同様の拡幅孔部を設けてもよい。この場合、第3のスリット部16D3の拡幅孔部は、第3のスリット部16D3の第2のスリット部16D2と反対側(
図10中の左側)の側縁からはみださないように拡幅される。
【0077】
なお、第1の側壁16Aも、第2の側壁16Bと同様のスリット16Gおよび開口部16Hを有している。
<第4の実施の形態の効果>
したがって、第4の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1-1),(1-4)の効果、先の第2の実施の形態の(2-1),(2-2)の効果、および先の第3の実施の形態の(3-1),(3-2)と同様の効果を得ることができる。
【0078】
<第5の実施の形態>
つぎに、ステアリング装置の第5の実施の形態を説明する。本実施の形態は、アッパージャケット16の構成が先の第2の実施の形態と異なる。したがって、第2の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0079】
図11に示すように、第2の側壁16Bには、それぞれスリット16Gが設けられている。スリット16Gは、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、全体としてU字状である。スリット16Gは、第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2、および第3のスリット部16D3を有している。
【0080】
第2の側壁16Bは、第1の開口部16H1を有している。第1の開口部16H1は、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、第2の側壁16Bにおける第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3によって囲まれた領域に設けられている。第1の開口部16H1は、第2の側壁16Bを貫通している。第1の開口部16H1は、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、たとえば平行四辺形状である。
【0081】
第2の側壁16Bは、第2の開口部16H2を有している。第2の開口部16H2は、アッパージャケット16の軸方向に沿って直線状に延びている。第2の開口部16H2は、第2のスリット部16D2の先端部と第3のスリット部16D3の先端部との間に位置している。第2の開口部16H2と第1のスリット部16D1との間には、第1の開口部16H1が位置している。
【0082】
第1の側壁16Aには、第2の側壁16Bと同様のスリット16G、第1の開口部16H1および第2の開口部16H2が設けられている。
<第5の実施の形態の効果>
したがって、第5の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1-1),(1-4)の効果、先の第2の実施の形態の(2-1),(2-2)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0083】
(5-1)第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bは、それぞれ第1の開口部16H1および第2の開口部16H2を有している。第1の開口部16H1および第2の開口部16H2を設けた分だけ、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分の剛性が低下する。第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分の先端(第1のスリット部16D1に近い側の端部)の剛性は、第1の開口部16H1を設けることにより低下する。第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分の基端(第1のスリット部16D1から遠い側の端部)の剛性は、第2の開口部16H2を設けることにより低下する。すなわち、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分は、その基端から先端にわたって全体的に剛性が低下する。このため、ロックレバー54のロック操作が行われた際、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分は、互いに近接する方向へ向けてより弾性変形しやすくなる。
【0084】
<第6の実施の形態>
つぎに、ステアリング装置の第6の実施の形態を説明する。本実施の形態は、アッパージャケット16の構成が先の第2の実施の形態と異なる。したがって、第2の実施の形態と同一の部材および構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を割愛する。
【0085】
図12に示すように、第2の側壁16Bのスリット16Gは、第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3を有している。ただし、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3は、先の第2の実施の形態に比べて、第1のスリット部16D1と反対側へ延長されている。
【0086】
第2の側壁16Bは、開口部16H3を有している。開口部16H3は、アッパージャケット16の軸方向に対して直交する方向からみて、第2の側壁16Bにおける第1のスリット部16D1、第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3によって囲まれた領域に設けられている。開口部16H3は、第2の側壁16Bを貫通している。開口部16H3は、アッパージャケット16の軸方向に沿って直線状に延びている。開口部16H3の両端は、丸みを有している。開口部16H3の第1の端部は第2のスリット部16D2に近接している。開口部16H3の第2の端部は第3のスリット部16D3に近接している。
【0087】
第1の側壁16Aには、第2の側壁16Bと同様のスリット16Gおよび開口部16H3が設けられている。
<第6の実施の形態の効果>
したがって、第6の実施の形態によれば、先の第1の実施の形態の(1-1),(1-4)の効果、先の第2の実施の形態の(2-1),(2-2)の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。
【0088】
(6-1)第2のスリット部16D2および第3のスリット部16D3は、第1のスリット部16D1と反対側へ向けて延長されている。このため、ロックレバー54のロック操作が行われた際、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分は、互いに近接する方向へ向けてより弾性変形しやすくなる。
【0089】
(6-2)第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bは、それぞれ開口部16H3を有している。第1の開口部16H1および第2の開口部16H2を設けた分だけ、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分の剛性が低下する。このため、ロックレバー54のロック操作が行われた際、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのスリット16Gで分断された部分は、互いに近接する方向へ向けてより弾性変形しやすくなる。
【0090】
<他の実施の形態>
なお、第1~第6の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態において、スリット16Dは、第2の側壁16Bではなく、第1の側壁16Aにのみ設けてもよい。また、スリット16Dは、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bの両方に設けてもよい。
【0091】
・第2~第6の実施の形態において、スリット16Gは、第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bのうちいずれか一方のみに設けてもよい。第3おいよび第4の実施の形態の開口部16H、第5の実施の形態の第1の開口部16H1および第2の開口部16H2、ならびに第6の実施の形態の開口部16H3は、スリット16Gが設けられる第1の側壁16Aまたは第2の側壁16Bにのみ設けられる。
【0092】
・第2~第6の実施の形態において、アッパージャケット16の第1の側壁16Aおよび第2の側壁16Bにテレスコピック調節用の長孔をスリット16Gとは別個に設けてもよい。
【0093】
・第3~第6の実施の形態において、開口部(16H、16H1、16H2、16H3)がテレスコピック調整用の長孔としての機能を兼ねてもよい。
・第1~第6の実施の形態では、挿入孔16Cの内周面に3つの凹部61A,61B,61Cを設けたが、この凹部の個数は適宜変更してもよい。たとえば、凹部は2つであってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0094】
・第1~第6の実施の形態において、ステアリングホイール6の上下方向の位置を調節するための構成を割愛してもよい。
・ステアリング装置1が搭載される車両は、キャブオーバ型などのトラックであってもよいし、乗用車あるいは軽自動車であってもよい。
【符号の説明】
【0095】
1…ステアリング装置
2…ステアリングシャフト
6…ステアリングホイール
16…アッパージャケット
16A…第1の側壁
16B…第2の側壁
16C…挿入孔
17…ロアーチューブ
54…ロックレバー
16D,16G…スリット
16D1…第1のスリット部
16D2…第2のスリット部
16D3…第3のスリット部
16D4…第4のスリット部(応力緩和部)
16D5…拡幅孔部(応力緩和部)
16E,16F…長孔
16H…開口部
16H1…第1の開口部
16H2…第2の開口部
16H3…開口部
54…締付け軸
61A,61B,61C…凹部