(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】吸着器、および、吸着式多段ヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
F25B 17/08 20060101AFI20250212BHJP
F25B 37/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
F25B17/08 A
F25B37/00
(21)【出願番号】P 2021191657
(22)【出願日】2021-11-26
【審査請求日】2024-03-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100160691
【氏名又は名称】田邊 淳也
(74)【代理人】
【識別番号】100167232
【氏名又は名称】川上 みな
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴規
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
【審査官】笹木 俊男
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-011822(JP,A)
【文献】特開2021-152438(JP,A)
【文献】特表2020-521940(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 15/00 ~ 17/12
F25B 35/04
F25B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発器に対して複数の吸着器が直列に接続された吸着式多段ヒートポンプにおいて、前記蒸発器に接続して設けられる第1段目の吸着器であって、
筒状に形成されて、内部に熱媒体が流れる伝熱管と、
吸着質を吸着および脱着する吸着材を含んで線状に形成された線状部材が一定方向に配列されている層である線材層が、前記伝熱管の外壁上に複数積層されており、積層方向に隣接する前記線材層の間では、前記線状部材が配列される角度が異なって、互いに交差している吸着材層と、
を備え
、
前記吸着材は、アルミニウムを含む金属有機構造体(Al-MOF)であり、
前記線状部材の線径wは、0.05mmよりも大きく、0.6mm未満であり、
前記吸着材層の厚みHは、0.5mmよりも大きく、4.0mm未満である
吸着器。
【請求項2】
請求項
1に記載の吸着器であって、
前記線状部材の線径wは、0.1mmよりも大きく、0.4mm未満である
吸着器。
【請求項3】
請求項
1または
2に記載の吸着器であって、
前記吸着材層の厚みHは、0.8mmよりも大きく、3.0mm未満である
吸着器。
【請求項4】
蒸発器に対して複数の吸着器が直列に接続された吸着式多段ヒートポンプであって、
前記蒸発器に接続して設けられる第1段目の吸着器として、請求項1から
3までのいずれか一項に記載の吸着器を備える
吸着式多段ヒートポンプ。
【請求項5】
請求項
4に記載の吸着式多段ヒートポンプであって、
前記第1段目の吸着器において吸着質を脱着させる際の温度が、10~15℃である
吸着式多段ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、吸着器、および、吸着式多段ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、吸着式ヒートポンプとして、吸着質を蒸発させる蒸発器と、この蒸発器に対して直列に接続された複数の吸着器と、を備える吸着式多段ヒートポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。このような吸着式多段式ヒートポンプでは、蒸発器において冷熱が生成される他、蒸発器に接続された第1段目の吸着器が第2段目の吸着器と連通されて減圧されると、第1段目の吸着器において吸着質が脱着されると共に冷熱が生成されるため、ヒートポンプにおける冷熱生成の効率を高めることが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、例えば、第1段目の吸着器で吸着質が脱着されて、第2段目の吸着器で吸着質が吸着されるときの動作圧力が比較的低い場合には、第1段目の吸着器において吸着質の蒸気の拡散が遅くなり、吸着質の脱着および冷熱の生成が抑えられる可能性がある。第1段目の吸着器において吸着質の蒸気の拡散性を高めるために、第1段目の吸着器の吸着材の表面積を増加させようとしても、その結果、吸着材における伝熱が抑えられると、吸着質の脱着が抑えられて、冷熱の生成効率が十分に向上しない可能性がある。そのため、第1段目の吸着器における吸着材の脱着および冷熱生成の効率を高めるために、第1段目の吸着器の構成のさらなる改善が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
(1)本開示の一形態によれば、蒸発器に対して複数の吸着器が直列に接続された吸着式多段ヒートポンプにおいて、前記蒸発器に接続して設けられる第1段目の吸着器が提供される。この吸着器は、筒状に形成されて、内部に熱媒体が流れる伝熱管と、吸着質を吸着および脱着する吸着材を含んで線状に形成された線状部材が一定方向に配列されている層である線材層が、前記伝熱管の外壁上に複数積層されており、積層方向に隣接する前記線材層の間では、前記線状部材が配列される角度が異なって、互いに交差している吸着材層と、を備える。
この形態の吸着器によれば、吸着材層全体が網目状に形成されているため、吸着材層が備える吸着材内における吸着質の拡散距離を短くして吸着質の拡散速度を高めることができると共に、吸着材層における吸着材の利用効率を高めることができる。また、筒状に形成される伝熱管の外壁上に吸着材層を層状に配置しているため、伝熱管から吸着材層への伝熱効率を高めることができる。そのため、吸着式多段ヒートポンプの第1段目の吸着器として吸着器を用いたときに、吸着器において吸着質の脱着を行わせる際に、冷熱生成の効率を高めることができる。
(2)上記形態の吸着器において、前記吸着材は、アルミニウムを含む金属有機構造体(Al-MOF)であることとしてもよい。このような構成とすれば、吸着式多段ヒートポンプの第1段目の吸着器が備える吸着材としてAl-MOFを用いることで、この吸着器を備える多段式ヒートポンプにおいて、冷熱生成の効率を高めることが、より容易になる。
(3)上記形態の吸着器において、前記線状部材の線径wは、0.05mmよりも大きく、0.6mm未満であり、前記吸着材層の厚みHは、0.5mmよりも大きく、4.0mm未満であることとしてもよい。このような構成とすれば、この吸着器を多段ヒートポンプの第1段目の吸着器として用いたときに、第1段目の吸着器において吸着質の脱着を行う際の冷熱生成の効率を高めることができる。すなわち、吸着材における吸着質の蒸気の拡散速度と、吸着材における伝熱とを両立して、吸着材における脱着の効率を高めることができる。
(4)上記形態の吸着器において、前記線状部材の線径wは、0.1mmよりも大きく、0.4mm未満であることとしてもよい。このような構成とすれば、この吸着器を多段ヒートポンプの第1段目の吸着器として用いたときに、第1段目の吸着器において吸着質の脱着を行う際の冷熱生成の効率を、より高めることができる。
(5)上記形態の吸着器において、前記吸着材層の厚みHは、0.8mmよりも大きく、3.0mm未満であることとしてもよい。このような構成とすれば、この吸着器を多段ヒートポンプの第1段目の吸着器として用いたときに、第1段目の吸着器において吸着質の脱着を行う際の冷熱生成の効率を、より高めることができる。
(6)本開示の他の一形態によれば、蒸発器に対して複数の吸着器が直列に接続された吸着式多段ヒートポンプが提供される。この吸着式多段ヒートポンプは、前記蒸発器に接続して設けられる第1段目の吸着器として、(1)から(5)までのいずれか一項に記載の吸着器を備える。この形態の吸着式多段ヒートポンプによれば、ヒートポンプを用いた冷熱生成の効率を高めることができる。
本開示は、上記以外の種々の形態で実現可能であり、例えば、吸着器の製造方法、吸着器を備える吸着式多段ヒートポンプの製造方法、あるいは、吸着式多段ヒートポンプにおける吸脱着の制御方法などの形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図5】管状モジュールの一部を拡大して示す説明図。
【
図8】線径wおよび厚みHに対する出力VCPの等高線図を示す説明図。
【
図9】条件aにおける脱着開始後10秒の吸着量分布を表す説明図。
【
図10】条件bにおける脱着開始後10秒経過時の吸着量分布を表す説明図。
【
図11】条件cにおける脱着開始後10秒経過時の吸着量分布を表す説明図。
【
図12】条件aにおける脱着開始後10秒経過時の温度分布を表す説明図。
【
図13】条件bにおける脱着開始後10秒経過時の温度分布を表す説明図。
【
図14】条件cにおける脱着開始後10秒経過時の温度分布を表す説明図。
【
図15】線径wおよび厚みHに対する出力VCPの等高線図を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
A.ヒートポンプの構成:
図1は、本実施形態のヒートポンプ10の概略構成を表す説明図である。ヒートポンプ10は、蒸発器12と、凝縮器18と、蒸発器12と凝縮器18との間において並列に接続される2つの吸着部である第1吸着部14および第2吸着部16と、を備える。ヒートポンプ10は、吸着式多段ヒートポンプであり、第1吸着部14および第2吸着部16の各々は、複数段(本実施形態では2段)の吸着器を備える。
【0008】
第1吸着部14は、蒸発器12と凝縮器18との間において直列に接続される2つの吸着器を備える。具体的には、第1吸着部14は、蒸発器12に接続される第1段目の吸着器である第1吸着器20と、第1吸着器20および凝縮器18に接続される第2段目の吸着器である第2吸着器22と、を備える。第1吸着器20は、反応容器20aと、反応容器20a内に収容される吸着体と、反応容器20aの内部において熱媒体を流通させる熱媒流路20bとを備え、第2吸着器22は、反応容器22aと、反応容器22a内に収容される吸着体と、反応容器22aの内部において熱媒体を流通させる熱媒流路22bとを備える。第1吸着器20および第2吸着器22は、互いに異なる種類の吸着材を備える。第1吸着器20は、単に「吸着器」とも呼ぶ。また、第1吸着器20が備える吸着材を「第1吸着材」、あるいは単に「吸着材」とも呼び、第2吸着器22が備える吸着材を「第2吸着材」とも呼ぶ。第1吸着材は、ヒートポンプ10における動作圧力の範囲(吸脱着相対圧範囲)において、平衡吸着量差が、より大きいことが望ましい。
【0009】
第1吸着材と第2吸着材の組み合わせとしては、例えば、第1吸着材としてアルミニウムを含む金属有機構造体(Al-MOF)を用い、第2吸着材としてゼオライト13Xを用いる組み合わせが挙げられる。また、第1吸着剤としてAQSOA-Z01、AQSOA-Z02、AQSOA-Z05(「AQSOA」は三菱樹脂の登録商標)等のゼオライト系吸着材を用い、第2吸着材としてY型ゼオライトを用いる組み合わせが挙げられる。あるいは、第1吸着材としてゼオライトBを用い、第2吸着材としてゼオライトDを用いる組み合わせとしてもよい。特に、第1吸着材としてAl-MOF(Metal-Organic Framework)を用い、第2吸着材としてゼオライト13Xを用いる構成が好ましい。Al-MOFは、一般に、相対圧0.2~0.4以下という比較的低い圧力条件下で脱着するため、第1段目の吸着器である第1吸着器20が備える第1吸着材として望ましい。Al-MOFについては後述する。なお、「相対圧」とは、吸着器内の吸着材が吸着平衡状態にあるときの吸着質の蒸気の圧力と、吸着質の飽和蒸気圧との比をいう。
【0010】
ただし、第1吸着材と第2吸着材との組み合わせは、ヒートポンプ10において設定可能な温度条件下および相対圧条件下において、第1吸着材が脱着可能となる相対圧の方が、第2吸着材が脱着可能となる相対圧よりも大きくなる組み合わせであれば、第1吸着材から第2吸着材への吸着質の移動が可能になるため、上記した組み合わせに限定されない。例えば、Al-MOFやAQSOA-Z01、AQSOA-Z02、AQSOA-Z05のように、特定の相対圧において吸着量が立ち上がる(狭い分圧幅で吸着量が大きく変化する)特性を持つ吸着材を第1吸着材として用いることが望ましく、このような場合には、第2吸着材は、上記特定の相対圧よりも低い相対圧において、第1吸着材が脱着した吸着質を吸着可能となる吸着量を示す吸着材であればよい。
【0011】
第1吸着材として好適に用いられるAl-MOF(Metal-Organic Framework)は、アルミニウムイオンと有機架橋配位子の自己組織化を利用して得られる錯体結晶であり、金属と有機リガンドとが相互作用することで、高表面積を持つ多孔質の配位ネットワーク構造を形成している。以下では、Al-MOFを具体的に例示するが、第1吸着材として利用可能なAl-MOFは、これらに限定されない。
【0012】
第1吸着材として利用可能なAl-MOFの一例として、Al3+と、このAl3+に配位している、下記式(I):
【0013】
【0014】
〔式中、Rはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基またはアルコキシ基を表す。〕
で表されるイソフタル酸およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸に由来する第一の配位子および下記式(II):
【0015】
【0016】
〔式中、Xは、窒素原子、硫黄原子または酸素原子を表し、nは2または3である。〕
で表される少なくとも1種の複素環式ジカルボン酸に由来する第二の配位子とからなるものを挙げることができる。
【0017】
また、第1吸着材として利用可能なAl-MOFの他の例として、Al3+と、このAl3+に配位している、既述した式(I)で表されるイソフタル酸およびその誘導体からなる群から選択される少なくとも1種の芳香族ジカルボン酸に由来する第一の配位子および下記式(III):
【0018】
【0019】
〔式中、Xはそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、ヒドロキシル基またはアルコキシ基を表し、nは2または4である。〕
で表される少なくとも1種の脂肪族ジカルボン酸に由来する第二の配位子とからなるものを挙げることができる。
【0020】
また、第1吸着材として利用可能なAl-MOFのさらに他の例として、Al3+と、このAl3+に配位している、下記式(IV):
【0021】
【0022】
[式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、ヒドロキシ基、または置換基を有していてもよいアルコキシ基を示す。]
で表されるフマル酸及びフマル酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1種のフマル酸系化合物に由来する第一の配位子、並びに、下記式(V):
【化5】
【0023】
[式中、R2は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、または置換基を有していてもよい炭素数1~3のアルコキシ基を示し、R3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~3のアルキル基、ヒドロキシ基、または炭素数1~3のアルコキシ基を示す。]
で表されるアスパラギン酸およびアスパラギン酸誘導体、並びに、それらのアルカリ金属塩からなる群から選択される少なくとも1種のアスパラギン酸系化合物に由来する第二の配位子と、からなるものを挙げることができる。
【0024】
第1吸着材および第2吸着材において吸脱着させる吸着質としては、たとえば、水、アンモニア、メタノール、あるいはエタノール等を用いることができる。水およびアンモニアは、ヒートポンプ10で設定される動作条件(温度および圧力)で吸着材に対し吸着および脱着し、比較的安価であるため、望ましく、水が特に望ましい。
【0025】
本実施形態の第1吸着器20は、特に、吸着質の脱着の効率を高めることができる構成を有している。第1吸着器20の詳しい構成については後述する。
【0026】
ヒートポンプ10は、蒸発器12と第1吸着器20とを接続する配管21を備えており、配管21には開閉弁21aが設けられている。開閉弁21aが開弁されると、蒸発器12から第1吸着器20への吸着質の移動が可能になる。また、ヒートポンプ10は、第1吸着器20と第2吸着器22とを接続する配管23を備えており、配管23には開閉弁23aが設けられている。開閉弁23aが開弁されると、第1吸着器20から第2吸着器22への吸着質の移動が可能になる。また、ヒートポンプ10は、第2吸着器22と凝縮器18とを接続する配管24を備えており、配管24には開閉弁24aが設けられている。開閉弁24aが開弁されると、第2吸着器22から凝縮器18への吸着質の移動が可能になる。
【0027】
第2吸着部16は、第1吸着部14と同様の構成を備えており、共通する部分には同じ参照番号を付している。
【0028】
蒸発器12は、貯留容器12aと、貯留容器12a内に貯留される吸着質と、吸着質と熱交換する熱媒体が流れる熱媒流路12bと、を備える。蒸発器12では、貯留容器12aに貯留される吸着質が蒸発し、蒸発潜熱によって冷熱が生成されて、生成された冷熱が熱媒体を介して蒸発器12から取り出される。
【0029】
凝縮器18は、第2吸着器22から吸着質の蒸気が供給されて、吸着質を凝縮させる。ヒートポンプ10は、さらに、凝縮器18と蒸発器12とを接続する配管25を備えており、配管25には開閉弁25aが設けられている。開閉弁25aが開弁されると、凝縮器18で凝縮した吸着質が、蒸発器12へと移動可能になる。
【0030】
ヒートポンプ10は、さらに、図示しない制御部を備える。この制御部は、既述した各開閉弁の制御を含む、ヒートポンプ10の運転モード(後述する第1段吸着工程、吸脱着工程、および第2段脱着工程を含む工程)の切り替えに係る制御を行う。
【0031】
B.ヒートポンプの運転制御:
ヒートポンプ10においては、冷熱生成に係る運転制御において、第1段吸着工程と、吸脱着工程と、第2段脱着工程と、を含む工程を繰り返し実行する運転制御が行われる。上記した工程のうち、第1段吸着工程と吸脱着工程とが、冷熱を生成する工程である。以下では、これらの各工程における動作を順に説明する。
図1では、一例として、第1吸着部14の第1吸着器20が第1段吸着工程を実行しており、第2吸着部16が吸脱着工程を実行しており、第1吸着部14の第2吸着器22が第2段脱着工程を実行している様子を示している。
図1では、白抜きの開閉弁は開弁状態を表しており、以下の説明では、特に開弁状態であると明記した開閉弁以外の開閉弁は、閉弁されている。
【0032】
第1段吸着工程では、
図1の第1吸着部14の第1吸着器20に示すように、開閉弁21aが開弁されて、配管21を介して蒸発器12と第1吸着器20とが連通される。このとき、蒸発器12では、熱媒流路12b内において、図示しない低温熱源から供給される熱媒体(例えば、10~15℃)が流通される。そして、第1吸着器20では、熱媒流路20b内において、図示しない中温熱源から供給される熱媒体(例えば30℃)が流通する。また、開閉弁23aは閉弁されて、第1吸着器20と第2吸着器22との間の接続が遮断される。これにより、蒸発器12では吸着質が蒸発し、蒸発した吸着質は、第1吸着器20の第1吸着材に吸着される。そして、吸着質の蒸発に伴って、蒸発器12では冷熱が生成されて、生成された冷熱は熱媒流路12b内の熱媒体を介して取り出される。
【0033】
吸脱着工程では、
図1の第2吸着部16に示すように、配管21の開閉弁21a、および、配管24の開閉弁24aが閉弁されて、蒸発器12と第1吸着器20との間の接続、および、第2吸着器22と凝縮器18との間の接続が遮断される。また、配管23の開閉弁23aが開弁されて、第1吸着器20と第2吸着器22とが連通される。このとき、第1吸着器20では、熱媒流路20b内において、図示しない低温熱源から供給される熱媒体(例えば、10~15℃)が流通される。また、第2吸着器22では、熱媒流路22b内において、図示しない中温熱源から供給される熱媒体(例えば30℃)が流通される。このようにして実現される圧力条件下(相対圧)において、第1吸着材および第2吸着材の吸脱着特性に基づいて、第1吸着器20の第1吸着材で吸着質が脱着すると共に、脱着した吸着質は、第2吸着器22の第2吸着材に吸着される。そして、第1吸着材における吸着質の脱着に伴って、第1吸着器20では冷熱が生成されて、生成された冷熱は熱媒流路20b内の熱媒体を介して取り出される。
【0034】
第2段脱着工程では、
図1の第1吸着部14の第2吸着器22に示すように、配管23の開閉弁23aが閉弁されて、第1吸着器20と第2吸着器22との間の接続が遮断される。また、配管24の開閉弁24aが開弁されて、配管24を介して第2吸着器22と凝縮器18とが連通される。このとき、第2吸着器22では、熱媒流路22b内において、図示しない高温熱源から供給される熱媒体(例えば、40~55℃)が流通する。このようにして実現される圧力条件下(相対圧)において、第2吸着材の吸脱着特性に基づいて、第2吸着器22の第2吸着材で吸着質が脱着すると共に、脱着した吸着質は、凝縮器18で凝縮される。そして、凝縮器18で凝縮した吸着質は、開閉弁21aを開弁することにより、配管25を介して蒸発器12に供給される。
【0035】
C.第1段目の吸着器:
(C-1)第1吸着器の構造:
図2は、第1吸着器20の構成を模式的に表す説明図であり、
図3は、第1吸着器20の反応容器20a内に収納される管状モジュール30(より具体的には、管状モジュール30の集合体としての、後述する伝熱管単位セル50)の概略構成を表す斜視図である。なお、
図2、
図3、および後述する
図4~
図7は、各部の寸法の比率を正確に表すものではない。
【0036】
第1吸着器20は、複数(N本)の管状モジュール30を備える多管式熱交換型吸着器である。管状モジュール30は、筒状に形成されて、内部に熱媒体が流れる伝熱管32と、吸着質を吸着および脱着する第1吸着材を含む吸着材層34と、を備える。
図3では、第1吸着器20が備える複数の管状モジュール30のうちの、近接して配置された3本の管状モジュール30の様子を示している。また、
図3では、管状モジュール30の端部において、吸着材層34が形成された部位の断面が露出する様子を示している。伝熱管32は、銅や銅合金などの金属製の筒状部材であり、伝熱管32の内部は、熱媒体が流れる管内流路を構成している。伝熱管32の管壁の厚さは、例えば、0.5~2.0mmとすることができる。伝熱管32内に形成される管内流路は、既述した熱媒流路20bの一部を構成している。既述した第1段吸着工程においては、配管21を介して第1吸着器20に供給された吸着質の蒸気は、管状モジュール30の外表面に沿って流れつつ、吸着材層34の第1吸着質に吸着される。
【0037】
図4は、管状モジュール30の外観の概要を表す斜視図であり、
図5は、
図3において破線αで囲んだ管状モジュール30の一部を拡大して示す説明図である。吸着材層34は、伝熱管32の外周面を覆うように形成されており、
図5は、伝熱管32および吸着層34の積層方向に、伝熱管32および吸着層34を貫通するように、管状モジュール30の一部を切り出した構造を示している。
図5では、各部の断面にはハッチングを付している。吸着材層34は、
図5に示すように、第1吸着材を含んで線状に形成された線状部材35が一定方向に配列されている線材層36が、伝熱管32の外壁上に複数積層されており、積層方向に隣接する線材層36の間では、線状部材35が配列される角度が異なって、互いに交差している。すなわち、各線材層36では、線状部材35が伝熱管32上で螺旋状に巻回されるように形成されている(
図4参照)。本実施形態では、線状部材35が配列される角度は、同じ線材層36を構成する線状部材35同士、および、1つ置きに積層される線材層36同士では同じとなっており、線状部材35は、吸着材層34全体で網目状に形成されている。
図5では、一例として、線材層36を5段設けた様子を示している。なお、伝熱管32上で線状部材35が配列される角度は、特に限定されないが、例えば、伝熱管32の中心軸C(
図4参照)に対して、10°~170°とすることができ、積層方向に隣接する線材層36によって網目構造が形成されていればよい。
【0038】
図5では、吸着材層34の厚みはH(mm)として示されており、線状部材35の線径はw(mm)として示されている。吸着材層34の厚みHは、0.5mmよりも大きく、4.0mm未満とすればよい。また、線状部材35の線径wは、0.05mmよりも大きく、0.6mm未満とすればよい。本実施形態では、線状部材35の横断面の形状は、縦横の辺の長さがほぼ同じである矩形となっており、線径wは、上記横断面における矩形の外周形状の1辺の長さである。吸着材層34の厚みHおよび線状部材35の線径wについては、後に詳しく説明する。線材層36の段数をn段とすると、吸着材層34の厚みHは、以下の式(1)で表される。
【0039】
H=w×n … (1)
【0040】
また、同じ線材層36を構成しつつ、隣接して配置される線状部材35間の隙間は一定となっており、
図4および
図5では、上記隙間は、線材間隙間w
gap(mm)として示されている。伝熱管32の外壁上において一定の角度で配置される線状部材35間において形成されるこのような隙間は、気化した吸着質、すなわち、第1吸着材に吸着する吸着質や、第1吸着材から脱着した吸着質が流れる流路となる。線材間隙間w
gapは、例えば、50μm以上2mm以下の範囲で適宜設定することができる。
【0041】
図6および
図7は、管状モジュール30における吸着材層34の製造方法の説明図である。この製造方法では、第1吸着材と熱伝導助剤(カーボンファイバー等)とが混合された材料にバインダおよび溶媒を添加してペースト状にした材料(以下、「吸着材形成材料」とも呼ぶ)を用いて、例えば、3Dプリンタにより、吸着材層34の形状を形成する。
【0042】
具体的には、まず、
図6に示すように、伝熱管32を、伝熱管32の中心軸Cを回転中心として回転させながら(
図6の白抜き矢印F32)、ノズル40を伝熱管32の一方の端部32aから他方の端部32bに向けて移動させる(
図6の白抜き矢印F41)。移動するノズル40の吐出口から押し出される吸着材形成材料が伝熱管32の外壁面に接着することで、
図6に示すような中心軸Cに対して斜めに配置される成形体が形成される。このような成形体を、線状部材中間体35prとも呼ぶ。1本の線状部材中間体35prを成形したのち、線材間隙間w
gapに対応する隙間をあけて別の線状部材中間体35prを同じ方法で成形する。このような動作を繰り返すことにより、1段目の線材層36となる層が形成される。
【0043】
次に、
図7に示すように、伝熱管32を、伝熱管32の中心軸Cを回転中心として回転させながら(
図7の白抜き矢印F32)、ノズル40を伝熱管32の他方の端部32bから一方の端部32aに向けて移動させる(
図7の白抜き矢印F42)。移動するノズル40の吐出口から押し出される吸着材形成材料が、既述した1段目の線材層36となる層の外側面に接着することで、
図7に示すような中心軸Cに対して斜めに配置される線状部材中間体35prが形成される。1本の線状部材中間体35prを成形したのち、線材間隙間w
gapに対応する隙間をあけて別の線状部材中間体35prを同じ方法で成形する。このような動作を繰り返すことにより、2段目の線材層36となる層が形成される。2段目の線材層36となる層を構成する各線状部材中間体35prは、1段目の線材層36となる層を構成する各線状部材中間体35prと比べて、既述したように、配列される角度が異なって、互いに交差している。
【0044】
上記のように線材層36となる層を形成する動作を、設けるべき線材層36の段数に応じて繰り返した後、乾燥および焼成の工程を行うことで、吸着材層34が完成される。なお、個々の線材層36は、上記のように互いに離間するように配置された複数の線状部材中間体35prにより形成する他、1本の線状部材中間体35prを伝熱管32上で位置をずらしながら巻回することにより形成してもよい。
【0045】
(C-2)線状部材の線径wと吸着材層の厚みH:
本実施形態では、線状部材35の線径wと吸着材層34の厚みHとの関係を特定の関係にすることにより、第1吸着器20から吸着質が脱着するとき(吸脱着工程)における、第1吸着器20の単位体積当たりの出力VCPを高めている。「出力VCP」とは、第1吸着器20の単位体積(1L)あたりに取り出される冷熱量(冷熱出力密度)であり、単位はkW/Lである。既述したように、本実施形態の第1吸着器20は、線状部材35の線径w(mm)が以下の式(2)を満たし、吸着材層34の厚みH(mm)が以下の式(3)を満たすように形成している。
【0046】
0.05<w< 0.6 …(2)
0.5<H<4.0 …(3)
【0047】
図8は、線状部材35の線径wおよび吸着材層34の厚みHに対する、第1吸着器20の出力VCPの等高線図を示す説明図である。
図8に示す出力VCPは、第1吸着材としてAl-MOFの1種を用いた複数の管状モジュール30を備えた多管構造を有する第1吸着器20を、伝熱管単位セル50に分割すると共に、吸着材層34を、網目構造単位セル52に分割した有限要素法モデルを用いて数値解析することにより求めた。「伝熱管単位セル50」とは、第1吸着器20の多管構造を構成する繰り返し単位であり、
図3に示すように、3本の管状モジュール30により構成される。
図3では、管状モジュール30間の距離を、伝熱管同士隙間W
gapとして示している。伝熱管同士隙間W
gapの大きさは、特に限定されないが、組み付け精度の確保の容易性の観点から、例えば1mm以上とすればよい。また、ヒートポンプの大型化を抑える観点から、伝熱管同士隙間W
gapの大きさは、例えば10mm以下とすればよい。さらに、
図3では、管状モジュール30の直径の長さを、直径Dとして示している。直径Dは、例えば、10~40mmとすることができる。また、「網目構造単位セル52」とは、吸着材層34の網目構造を構成する繰り返し単位であり、
図5に示す構造を有している。具体的には、網目構造単位セル52は、管状モジュール30の一部を、その厚み方向に貫通するように取り出した構造を有しており、隣接する線材層36を構成する線状部材35同士が積層方向に交差する箇所を含む構造である。
【0048】
図8に示す出力VCPの算出時には、管状モジュール30の長さLを1800mm、伝熱管同士隙間W
gapを2mm、線材間隙間w
gapを0.3mm、管状モジュール30の直径Dを26mmとし、第1吸着器20の圧力を1500Paから100Paへ変化させることとし、伝熱管32の内側の温度を15℃とした。そして、網目構造単位セル52について、吸着質の蒸気拡散、吸脱着反応、伝熱を考慮して、第1吸着器20の第1吸着材が再生される吸脱着工程における出力VCPを、有限要素法を用いて算出した。
図8では、出力VCPの探索範囲においてVCPが最大となった条件(条件b)と、吸着材層34の厚みHが条件bよりも大きい条件(条件a)と、線状部材35の線径wが条件bよりも大きい条件(条件c)として、(w、H)=b(0.2,1.0)、a(0.2,4.0)、c(0.6,1.0)の3つの条件を示している。
【0049】
図9は、条件aを満たす網目構造単位セル52における、脱着開始後10秒経過時の吸着量分布を表す説明図であり、
図10は、条件bを満たす網目構造単位セル52における、脱着開始後10秒経過時の吸着量分布を表す説明図であり、
図11は、条件cを満たす網目構造単位セル52における、脱着開始後10秒経過時の吸着量分布を表す説明図である。
図9に記載した(a)、
図10に記載した(a)、および
図11に記載した(a)は、吸着量が0.2~0.3(g/g)となる範囲を表し、
図9に記載した(b)、
図10に記載した(b)、
図11に記載した(b)は、吸着量が0.1~0.2(g/g)となる範囲を表し、
図9に記載した(c)、
図10に記載した(c)、
図11に記載した(c)は、吸着量が0.0~0.1(g/g)となる範囲を表す。
【0050】
図12は、条件aを満たす網目構造単位セル52における、脱着開始後10秒経過時の温度分布を表す説明図であり、
図13は、条件bを満たす網目構造単位セル52における、脱着開始後10秒経過時の温度分布を表す説明図であり、
図14は、条件cを満たす網目構造単位セル52における、脱着開始後10秒経過時の温度分布を表す説明図である。
図12に記載した(a)、
図13に記載した(a)、および
図14に記載した(a)は、温度が10~15(℃)となる範囲を表し、
図12に記載した(b)、
図13に記載した(b)、
図14に記載した(b)は、温度が5.0~10(℃)となる範囲を表し、
図12に記載した(c)、
図13に記載した(c)、
図14に記載した(c)は、温度が0.0~5.0(℃)となる範囲を表す。
【0051】
図8における条件aおよび条件bに示すように、線状部材35の線径wが同じである条件同士を比較すると、出力VCPが最大となる吸着材層34の厚みHが存在する。このように、線径wが同じであるときに出力VCPが最大となる厚みHが定まるのは、厚みHが増加して、第1吸着器20に占める第1吸着材の体積が大きくなることにより、出力VCPが大きくなる効果と、厚みHが増加して、伝熱管32から第1吸着材への伝熱距離が大きくなって脱着速度が低下することにより、出力VCPが小さくなる影響と、がバランスすることによると考えられる。これを、
図9、
図10に示した吸着質の吸着量と、
図12、
図13に示した温度分布と、から確認すると、例えば、条件bよりも条件aの方が、吸着材層34の上端部での吸着量が多く(
図9および
図10参照)、吸着質の脱離が遅いことが確認される。これは、条件bよりも条件aの方が、伝熱管32から第1吸着材への伝熱距離が長く、吸着材層34の上端部の温度が低いためと考えられる(
図12および
図13参照)。
【0052】
また、
図8における条件bおよび条件cに示すように、吸着材層34の厚みHが同じである条件同士を比較すると、出力VCPが最大となる線状部材35の線径wが存在する。このように、厚みHが同じであるときに出力VCPが最大となる線径wが定まるのは、線径wが増加して、第1吸着器20に占める第1吸着材の体積が大きくなることにより出力VCPが大きくなる効果と、線径wが増加して、線状部材35内における吸着質の拡散距離が大きくなって線状部材35内部の脱着が遅れることにより、出力VCPが小さくなる影響と、がバランスすることによると考えられる。これを、
図10、
図11に示した吸着質の吸着量と、
図13、
図14に示した温度分布と、から確認すると、例えば、条件bよりも条件cの方が、吸着材層34の温度が高く(
図13および
図14参照)、脱着反応に有利であった。それにも関わらず、条件bよりも条件cの方が、線状部材35内部の吸着量が多く(
図10および
図11参照)、脱離が遅いことが確認された。このことから、条件bに比べて条件cでは、線状部材35内における吸着質の拡散が律速となって、脱着が抑えられたと考えられる。
【0053】
上記のように出力VCPが厚みHおよび線径wの影響を受けることから、より高い出力VCPを得るためには、式(2)に示したように、吸着材層34の厚みHは、0.5mmよりも大きく、4.0mm未満とすればよく、式(3)に示したように、線状部材35の線径wは、0.05mmよりも大きく、0.6mm未満とすればよい。ここで、
図8では、伝熱管同士隙間W
gapを2mm、線材間隙間w
gapを0.3mm、 管状モジュール30の直径Dを26mmとしているが、これらの条件が異なっていても、出力VCPを高めるための望ましい厚みHおよび線径wの既述した数値範囲は、同様に適用可能である。以下では、これについて説明する。
【0054】
出力VCPは、以下の式(4)により表すことができる。式(4)において、Qは、伝熱管単位セル50の冷熱出力を表し、Vは、伝熱管単位セル50の体積を表し、Dは、管状モジュール30の直径を表し、Lは、管状モジュール30の長さを表し、qは、網目構造単位セル52の冷熱出力を表し、W
gapは、隣り合う管状モジュール30間の距離である伝熱管同士隙間を表し、w
gapは、隣接して配置される線状部材35間の距離である線材間隙間を表す(
図3および
図5参照)。なお、下記の式(4)の2段目の部分の分子は、網目構造単位セル52の冷熱出力qに、網目構造単位セル52の個数を乗算することにより、伝熱管単位セル50の冷熱出力が求められることを表している。
【0055】
【0056】
上記した式(4)は、さらに、以下の式(5)のように書き換えることができる。
【0057】
【0058】
ここで、qは、既述したように網目構造単位セル52の冷熱出力であり、吸着材層34の厚み方向の拡散、および、厚み方向の伝熱によって律速されるため、吸着材層34の構造に係るパラメータである線状部材35の線径wと吸着材層34の厚みHの関数となり、式(5)ではq(w、H)として示している。式(5)において、Fは、その他の項をまとめた関数である。式(5)において、線材間隙間wgap、管状モジュール30の直径D、および伝熱管同士隙間Wgapによって変更される関数Fの値は、VCPの係数とも考えられる。そのため、線材間隙間wgap、管状モジュール30の直径、および伝熱管同士隙間Wgapが変化しても、線径wと吸着材層34の厚みHに対する出力VCPのマップは、ピークの高さは変わる(等高線図の高さ方向にシフトする)ものの、VCPが変化する全体の傾向は変わらないと考えられる。すなわち、線材間隙間wgap、管状モジュール30の直径、および伝熱管同士隙間Wgapが変化しても、線径wおよび厚みHにおける、出力VCPを確保するための好適な数値範囲は変更されないと考えられる。
【0059】
図15は、一例として、
図8に係る条件のうちの線状部材35の線径wを0.5mmに変更して得られる、線径wおよび吸着材層34の厚みHに対する出力VCPの等高線図を示す説明図である。式(5)、
図8、および
図15に示すように、伝熱管同士隙間W
gap、線材間隙間w
gap、 管状モジュール30の直径Dが変更されても、より高い出力VCPを得るためには、線状部材35の線径wは、0.05mmよりも大きければよく、0.1よりも大きいことがより望ましい。また、線径wは、0.6mm未満とすればよく、0.5mm未満とすることがより望ましく、0.4mm未満とすることがさらに望ましい。同様に、吸着材層34の厚みHは、0.5mmよりも大きければよく、0.8mmよりも大きいことがより望ましい。また、厚みHは、4.0mm未満とすればよく、3.0mm未満とすることがより望ましい。
【0060】
以上のように構成された本実施形態の第1吸着器20によれば、吸着材を含んで線状に形成された線状部材35が一定方向に配列されている線材層36が、伝熱管32の外壁上に複数積層されており、積層方向に隣接する線材層36の間では、線状部材35が配列される角度が異なって、互いに交差している吸着材層34を備えている。このように、吸着材層34全体が網目状に形成されているため、吸着材層34が備える第1吸着材内における吸着質の拡散距離を短くして吸着質の拡散速度を高めることができると共に、吸着材層34における第1吸着材の利用効率を高めることができる。また、第1吸着器20において、筒状に形成される伝熱管32の外壁上に、周方向に沿って吸着材層34を配置しているため、伝熱管32から吸着材層34への伝熱効率を高めることができる。そのため、吸着式多段ヒートポンプの第1段目の吸着器として第1吸着器20を用いたときに、第1吸着器20において吸着質の脱着を行わせる際に、冷熱生成の効率を高めることができる。
【0061】
さらに、本実施形態によれば、線状部材35の線径wおよび吸着材層34の厚みHを、式(2)および式(3)を満たす値とすることにより、出力VCPをより大きくして、吸脱着工程において第1吸着器20における冷熱生成の効率を高めることができる。すなわち、線状部材35の線径wおよび吸着材層34の厚みHを、式(2)および式(3)を満たす値とすることにより、第1吸着材における吸着質の蒸気の拡散速度と、第1吸着材における伝熱とを確保して、第1吸着材における脱着の効率を高めることができる。
【0062】
上記のような第1吸着器20は、多段ヒートポンプであるヒートポンプ10において、蒸発器12に接続して設けられる第1段目の吸着器とすることで、特に、冷熱生成の効率を高める効果を顕著に得ることができる。多段ヒートポンプの第1段目の吸着器において、例えばヒートポンプ全体のエネルギ効率を高めるために、比較的低温の熱源を用いて吸着質の脱着を行う場合には、吸着材層34における伝熱の程度が、脱着の律速となり得る。また、第1吸着器20と第2吸着器22とを連通させる吸脱着工程における相対圧が0.2~0.4以下程度のように比較的小さい値となる場合には、吸着材層34における吸着質の蒸気の拡散速度が、脱着の律速となり得る。本実施形態の第1吸着器20は、線状部材35の線径wおよび吸着材層34の厚みHを既述した数値範囲にすることにより、第1吸着材における吸着質の蒸気の拡散速度と、第1吸着材における伝熱との両方を、より十分に確保可能となるため、第1段目の吸着器として用いたときに、ヒートポンプ10全体での冷熱生成の効率をさらに高めることができる。
【0063】
特に、Al-MOFのように、比較的低温の熱源を利用して脱着を行うことが可能となる吸着材は、第1段目の吸着器で用いる吸着材として望ましいが、脱着時に用いる熱源の温度が低いと、吸着材層における吸着質の蒸気の拡散速度が抑えられて、冷熱生成の効率が抑えられる可能性がある。本実施形態の第1吸着器20であれば、線状部材35の線径wおよび吸着材層34の厚みHを規定することにより、吸着質の蒸気の拡散速度が高められるため、Al-MOFのように比較的低温の熱源を利用可能な吸着材を用いて、低温熱源を利用して脱着工程を行う際に、冷熱生成の効率を高めることができる。
【0064】
D.他の実施形態:
上記した実施形態では、第1吸着器20の吸着材層34を構成する線状部材35は、矩形の横断面形状を有することとしたが、異なる形状としてもよい。例えば、円形状、楕円形状、多角形状など、異なる形状の横断面を有することとしてもよい。
【0065】
上記した実施形態では、第1吸着器20は、多管式熱交換型吸着器としており、3本の管状モジュール30からなる伝熱管単位セル50を構成単位として、3本以上の管状モジュール30を有することとしたが、異なる構成としてもよい。第1吸着器20が備える管状モジュール30の数は、3以外の複数であってもよく、1本であってもよい。
【0066】
上記した実施形態では、ヒートポンプ10は、蒸発器12と凝縮器18との間において並列に接続される2つの吸着部である第1吸着部14および第2吸着部16を備えることとしたが、異なる構成としてもよい。吸着部の数は、3以上の複数であってもよく、1つであってもよい。ヒートポンプが備える吸着部における第1段目の吸着器において、実施形態で説明した第1吸着器20の構成が適用されるならば、実施形態と同様の効果が得られる。
【0067】
本開示は、上述の実施形態等に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0068】
10…ヒートポンプ
12…蒸発器
12a…貯留容器
12b…熱媒流路
14…第1吸着部
16…第2吸着部
18…凝縮器
20…第1吸着器
20a…反応容器
20b…熱媒流路
21,23,24,25…配管
21a,23a,24a,25a…開閉弁
22…第2吸着器
22a…反応容器
22b…熱媒流路
30…管状モジュール
32…伝熱管
32a,32b…端部
34…吸着材層
35…線状部材
35pr…線状部材中間体
36…線材層
40…ノズル
50…伝熱管単位セル
52…網目構造単位セル