(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ウェーハ端面部の評価方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20250212BHJP
H01L 21/683 20060101ALI20250212BHJP
H01L 21/265 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H01L21/66 J
H01L21/68 N
H01L21/265 W
(21)【出願番号】P 2021199601
(22)【出願日】2021-12-08
【審査請求日】2023-12-11
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(72)【発明者】
【氏名】小林 弘治
(72)【発明者】
【氏名】門野 武
(72)【発明者】
【氏名】栗田 一成
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-032002(JP,A)
【文献】特開2020-170791(JP,A)
【文献】特開2010-181317(JP,A)
【文献】特開2013-162112(JP,A)
【文献】特開2009-188226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
H01L 21/683
H01L 21/265
G01N 21/88
G01B 11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェーハの端面部にイオンを注入する工程と、
次いで、前記ウェーハの平坦面から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させて、前記ウェーハの端面部に外部物との接触に起因する接触傷が存在する場合に、前記エピタキシャル層に、前記接触傷を起点とする積層欠陥を発生させるエピタキシャル成長工程と、
前記ウェーハの端面部における前記エピタキシャル層の表面を観察して、前記積層欠陥の有無及び程度の少なくとも一方を観察結果として把握する観察工程と、
前記観察結果に基づいて、前記ウェーハの端面部における前記接触傷の有無及び程度の少なくとも一方を評価する評価工程と、
を有するウェーハ端面部の評価方法。
【請求項2】
前記イオンは、B、P、As、C、及びSiから選択される一種からなるモノマーイオン、並びに、炭素及び水素を含むクラスターイオン、から選択される一種以上を含む、請求項
1に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【請求項3】
前記エピタキシャル成長工程において、前記ウェーハの前記端面部に隣接する前記平坦面における前記エピタキシャル層の厚さを5μm以上とする、請求項1
又は2に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【請求項4】
前記観察工程では、(I)撮像デバイスによる観察及び画像取得を行う、又は、(II)顕微鏡及び撮像デバイスを組み合わせた拡大観察及び画像取得を行う、請求項1~
3のいずれか一項に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【請求項5】
前記観察又は前記拡大観察、及び、前記画像取得は、前記ウェーハの端面部の全周を対象とする、請求項
4に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【請求項6】
前記ウェーハは、ウェーハ収容容器に収容された状態での搬送工程、及び、バッチ式洗浄装置による洗浄工程の少なくとも一方を経たポリッシュトシリコンウェーハである、請求項1~
5のいずれか一項に記載のウェーハの端面部の評価方法。
【請求項7】
ウェーハの平坦面から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させて、前記ウェーハの端面部に外部物との接触に起因する接触傷が存在する場合に、前記エピタキシャル層に、前記接触傷を起点とする積層欠陥を発生させるエピタキシャル成長工程と、
前記ウェーハの端面部における前記エピタキシャル層の表面を観察して、前記積層欠陥の有無及び程度の少なくとも一方を観察結果として把握する観察工程と、
前記観察結果に基づいて、前記ウェーハの端面部における前記接触傷の有無及び程度の少なくとも一方を評価する評価工程と、
を有し、
前記観察工程では、(I)撮像デバイスによる観察及び画像取得を行う、又は、(II)顕微鏡及び撮像デバイスを組み合わせた拡大観察及び画像取得を行い、
前記観察又は前記拡大観察、及び、前記画像取得は、前記ウェーハの端面部の全周を対象とする、ウェーハ端面部の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハ端面部の評価方法に関し、特に、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェーハの製造プロセスにおける工程間搬送、バッチ式洗浄など、種々の工程においては、ウェーハの外周の端面部が、各種処理設備のウェーハ保持部や、ウェーハ搬送用のロボットアームのウェーハ保持部など、種々の外部物と接触し、この外部物との接触に起因してウェーハ端面部に接触傷が導入されることがある。デバイス構造の微細化やウェーハ1枚あたりの取得チップ数の増加により、ウェーハ端面部に求められる品質は、ますます高まっている。また、デバイスプロセスにおいては、ウェーハの端面部の接触傷に起因して、膜剥がれや発塵などが生じる可能性が問題となっている。さらに、端面部の接触傷から熱処理時にクラック伸展またはウェーハ割れが発生する可能性も指摘されている。そこで、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷の有無及び程度を高精度に評価する方法が求められている。
【0003】
特許文献1には、ウェーハの端面部のうち上面部、側面部、及び下面部をそれぞれ観察する計3台のCCDカメラによって、ウェーハ端面部を観察及び撮像して、この撮像結果に基づいて、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷を評価する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、特許文献1の方法では、ウェーハ端面部における凹凸の小さい接触傷を視認することができないことが判明した。ウェーハ製造プロセスの進歩により、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷は、凹凸が小さくなる傾向にある。そのため、本発明者らは、特許文献1の方法では、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷を十分な精度で評価することができないとの課題を認識した。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷をより高精度に評価することが可能な、ウェーハ端面部の評価方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決すべく、本発明者らが鋭意検討したところ、
(A)ウェーハの平坦面から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させることによって、ウェーハの端面部に存在する、外部物との接触に起因する接触傷を起点として、エピタキシャル層に積層欠陥を発生させることができ、
(B)ウェーハの端面部の観察により上記接触傷を直接視認することができなくても、エピタキシャル層の表面の観察によって、前記積層欠陥を視認することができるため、凹凸の小さい接触傷を高精度に評価することができる
との知見を得た。
【0008】
また、
(C)ウェーハの端面部における接触傷領域と正常領域とでは、イオン注入により導入されるダメージ量が異なるため、エピタキシャル成長に先立ち、ウェーハの端面部にイオンを注入することによって、接触傷を強調することができ、その結果、凹凸のより小さい接触傷を高精度に評価することができる
との知見を得た。
【0009】
上記の知見に基づき完成された本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]ウェーハの平坦面から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させて、前記ウェーハの端面部に外部物との接触に起因する接触傷が存在する場合に、前記エピタキシャル層に、前記接触傷を起点とする積層欠陥を発生させるエピタキシャル成長工程と、
前記ウェーハの端面部における前記エピタキシャル層の表面を観察して、前記積層欠陥の有無及び程度の少なくとも一方を観察結果として把握する観察工程と、
前記観察結果に基づいて、前記ウェーハの端面部における前記接触傷の有無及び程度の少なくとも一方を評価する評価工程と、
を有するウェーハ端面部の評価方法。
【0010】
[2]前記エピタキシャル成長工程に先立ち、前記ウェーハの端面部にイオンを注入する工程を有する、上記[1]に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【0011】
[3]前記イオンは、B、P、As、C、及びSiから選択される一種からなるモノマーイオン、並びに、炭素及び水素を含むクラスターイオン、から選択される一種以上を含む、上記[2]に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【0012】
[4]前記エピタキシャル成長工程において、前記ウェーハの前記端面部に隣接する前記平坦面における前記エピタキシャル層の厚さを5μm以上とする、上記[1]~[3]のいずれか一項に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【0013】
[5]前記観察工程では、(I)撮像デバイスによる観察及び画像取得を行う、又は、(II)顕微鏡及び撮像デバイスを組み合わせた拡大観察及び画像取得を行う、上記[1]~[4]のいずれか一項に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【0014】
[6]前記観察又は前記拡大観察、及び、前記画像取得は、前記ウェーハの端面部の全周を対象とする、上記[5]に記載のウェーハ端面部の評価方法。
【0015】
[7]前記ウェーハは、ウェーハ収容容器に収容された状態での搬送工程、及び、バッチ式洗浄装置による洗浄工程の少なくとも一方を経たポリッシュトシリコンウェーハである、上記[1]~[6]のいずれか一項に記載のウェーハの端面部の評価方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のウェーハ端面部の評価方法によれば、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷をより高精度に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】従来及び本発明の一実施形態によるウェーハ端面部の評価方法における、ウェーハ端面部の観察方法を説明する図である。
【
図3】実施例1において、FOSBにウェーハを収容した状態を示す図であり、(a)は蓋を開けた状態を示し、(b)は蓋を閉めた状態を示す。
【
図4】実施例1において、FOSB内のウェーハ保持部とウェーハ端面部との接触状態を示す図である。
【
図5】実施例1の比較例によるウェーハ端面部の全周観察結果である。
【
図6】実施例1の発明例によるウェーハ端面部の全周観察結果である。
【
図7】実施例1の比較例及び発明例における、接触傷の評価結果である。
【
図8】実施例1における、エピタキシャル成長による接触傷の顕在化メカニズムを説明する図である。
【
図10】実施例2において、洗浄装置における、搬送ロボットアームと洗浄槽とが有するウェーハ保持部を示す図である。
【
図11】実施例2において、搬送ロボットアーム又は洗浄槽が有するウェーハ保持部と、ウェーハ端面部との接触状態を示す図である。
【
図12】実施例2の比較例によるウェーハ端面部の全周観察結果である。
【
図13】実施例2の発明例によるウェーハ端面部の全周観察結果である。
【
図14】実施例2の比較例及び発明例における、接触傷の評価結果である。
【
図15】実施例2における、イオン注入及びエピタキシャル成長による接触傷の顕在化メカニズムを説明する図である。
【
図16】実施例3の実験フローを説明する図である。
【
図17】実施例3における接触傷の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態によるウェーハ端面部の評価方法は、
ウェーハの平坦面から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させて、前記ウェーハの端面部に外部物との接触に起因する接触傷が存在する場合に、前記エピタキシャル層に、前記接触傷を起点とする積層欠陥を発生させるエピタキシャル成長工程と、
前記ウェーハの端面部における前記エピタキシャル層の表面を観察して、前記積層欠陥の有無及び程度の少なくとも一方を観察結果として把握する観察工程と、
前記観察結果に基づいて、前記ウェーハの端面部における前記接触傷の有無及び程度の少なくとも一方を評価する評価工程と、
を有する。
【0019】
また、本発明の他の実施形態によるウェーハ端面部の評価方法は、前記エピタキシャル成長工程に先立ち、前記ウェーハの端面部にイオンを注入する工程を有する。すなわち、当該イオン注入工程は、本発明において任意の工程であり、実施しない形態も本発明を構成するが、実施する形態におけるウェーハ端面部の評価方法は、
ウェーハの端面部にイオンを注入する工程と、
前記ウェーハの平坦面から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させて、前記ウェーハの端面部に外部物との接触に起因する接触傷が存在する場合に、前記エピタキシャル層に、前記接触傷を起点とする積層欠陥を発生させるエピタキシャル成長工程と、
前記ウェーハの端面部における前記エピタキシャル層の表面を観察して、前記積層欠陥の有無及び程度の少なくとも一方を観察結果として把握する観察工程と、
前記観察結果に基づいて、前記ウェーハの端面部における前記接触傷の有無及び程度の少なくとも一方を評価する評価工程と、
を有する。
【0020】
[ウェーハ]
本実施形態において、評価対象となるウェーハは、単結晶のインゴットから切断されたウェーハに対して、砥粒で研磨し、化学的方法により表面処理を施し、研磨砥粒液を使用してケミカル-メカニカルポリッシュを行って得たポリッシュトウェーハであってもよく、さらにアニール処理を行って得たアニールウェーハであってもよい。これらのウェーハは、単結晶シリコンウェーハであることが好ましい。
【0021】
外部物との接触に起因する接触傷は、ウェーハがウェーハ収容容器に収容された状態での搬送工程、及び、バッチ式洗浄装置によるウェーハ洗浄工程において、導入されやすい。
【0022】
前記搬送工程に関して、例えば、FOUP(Front Opening Unified Pod)と呼ばれる収容容器にウェーハが収容された状態で、ウェーハが保管されたり、工程間搬送されたりする際に、FOUPのウェーハ保持部とウェーハ端面部とが接触することによって、ウェーハ端面部に接触傷が導入されうる。また、前記搬送工程に関して、
図3及び
図4を参照して、例えば、FOSB(Front Opening Shipping Box)と呼ばれる収容容器にウェーハが収容された状態で、ウェーハが出荷、搬送される際に、FOSBのウェーハ保持部とウェーハ端面部とが接触することによって、ウェーハ端面部に接触傷が導入されうる。
【0023】
また、前記ウェーハ洗浄工程に関して、ウェーハが搬送ロボットアームによってバッチ式洗浄装置の洗浄槽内に搬送される際に、搬送ロボットアームのウェーハ保持部とウェーハ端面部とが接触することによって、ウェーハ端面部に接触傷が導入されうる。また、前記ウェーハ洗浄工程に関して、ウェーハが洗浄槽内に固定される際に、洗浄槽内のウェーハ保持部とウェーハ端面部とが接触することによって、ウェーハ端面部に接触傷が導入されうる。
【0024】
以上のことから、本実施形態において、評価対象となるウェーハは、ウェーハ収容容器に収容された状態での搬送工程、及び、バッチ式洗浄装置による洗浄工程の少なくとも一方を経たポリッシュトシリコンウェーハであることが好ましい。
【0025】
[イオン注入工程]
本実施形態では、後述するエピタキシャル成長工程に先立ち、ウェーハの端面部にイオンを注入する工程を実施することが好ましい。ウェーハの端面部における接触傷領域と正常領域とでは、イオン注入により導入されるダメージ量が異なる。このため、エピタキシャル成長工程に先立ち、ウェーハの端面部にイオンを注入することによって、接触傷を強調することができ、その結果、凹凸のより小さい接触傷を高精度に評価することができる。
【0026】
図15に示すように、イオン注入工程は、ウェーハの一対の平坦面(おもて面及び裏面)のうち、片面(おもて面)側からウェーハ表面に向けてイオンを照射することにより行う。ここで、ウェーハの「おもて面」とは、半導体デバイスを作製したり、異種基板を貼り付けたりする面であり、ウェーハの「裏面」とは、おもて面の反対側の平坦面である。ウェーハのおもて面又は裏面には、製品情報を記録した識別子(レーザーマーク)が刻印される。このため、ウェーハのおもて面と裏面とは、明確に区別される。ウェーハの端面部は、ウェーハのおもて面と裏面とを連結する外周面であり、ウェーハの最外周線を含む「端面側面」と、端面側面よりもおもて面側の「端面上面」と、端面側面よりも裏面側の「端面下面」と、からなる。ここで、ウェーハの最外周線は、ウェーハ平坦面の中心を含みウェーハ平坦面に垂直な断面において、ウェーハの厚み中心線とウェーハ端面部との交点に位置する。ウェーハの「端面側面」は、ウェーハ平坦面の中心を含みウェーハ平坦面に垂直な断面において、ウェーハの厚み中心線を中心として、ウェーハ厚みの±10%の範囲内に位置するウェーハ端面部であるものと定義する。
【0027】
イオン注入工程は、ウェーハの片面(おもて面)側からウェーハ表面に向けてイオンを照射することにより行う。このため、
図15に示すように、ウェーハ端面のうち「端面上面」に位置する接触傷を強調することができる。
【0028】
注入するイオンは、B、P、As、C、及びSiから選択される一種からなるモノマーイオン、並びに、炭素及び水素を含むクラスターイオン、から選択される一種以上を含むことが好ましい。
【0029】
モノマーイオンの加速電圧は、一般的に150~2000keV/atomとし、その範囲で適宜設定すればよい。また、モノマーイオンのドーズ量も特に限定されないが、例えば、1×1013atoms/cm2以上1×1016atoms/cm2以下の範囲内とすることができ、接触傷を強調する観点からは、5×1014atoms/cm2以上とすることが好ましく、1×1015atoms/cm2以上とすることがより好ましい。
【0030】
本明細書における「クラスターイオン」は、電子衝撃法により、ガス状分子に電子を衝突させてガス状分子の結合を解離させることで種々の原子数の原子集合体とし、フラグメントを起こさせて当該原子集合体をイオン化させ、イオン化された種々の原子数の原子集合体の質量分離を行って、特定の質量数のイオン化された原子集合体を抽出して得られる。すなわち、本明細書における「クラスターイオン」は、原子が複数集合して塊となったクラスターに正電荷または負電荷を与え、イオン化したものであり、炭素イオンなどの単原子イオンや、一酸化炭素イオンなどの単分子イオンとは明確に区別される。クラスターイオンの構成原子数は、通常5個~100個程度である。このような原理を用いたクラスターイオン注入装置として、例えば日新イオン機器株式会社製のCLARIS(登録商標)を用いることができる。
【0031】
クラスターイオンの照射条件としては、クラスターイオンの構成元素、クラスターイオンのドーズ量、クラスターサイズ、クラスターイオンの加速電圧、およびビーム電流値等が挙げられる。
【0032】
クラスターイオンの構成元素は、炭素及び水素を含むものとすることが好ましく、炭素及び水素からなるものとすることがより好ましい。
【0033】
クラスターイオンの原料となるガス状分子は、所望のクラスターサイズのクラスターイオンを得ることができるものであれば特に限定されない。例えば、シクロヘキサン(C6H12)を原料ガスとすれば、構成元素が炭素及び水素からなるクラスターイオンを生成・抽出することができる。また、特にピレン(C16H10)、ジベンジル(C14H14)などを原料として生成したクラスターCnHm(3≦n≦16、3≦m≦10、n及びmはともに整数)を用いることが好ましい。小サイズのクラスターイオンビームを制御し易いためである。
【0034】
クラスターサイズは2~100個、好ましくは60個以下、より好ましくは50個以下で適宜設定することができる。本明細書において「クラスターサイズ」とは、1つのクラスターイオンを構成する原子の個数を意味する。後述する実験例では、クラスターサイズ8個のC3H5を用いた。クラスターサイズの調整は、ノズルから噴出されるガスのガス圧力および真空容器の圧力、イオン化する際のフィラメントへ印加する電圧などを調整することにより行うことができる。なお、クラスターサイズは、四重極高周波電界による質量分析またはタイムオブフライト質量分析によりクラスター個数分布を求め、クラスター個数の平均値をとることにより求めることができる。
【0035】
クラスターイオンのドーズ量は、イオン照射時間を制御することにより調整することができる。クラスターイオンを構成する各元素のドーズ量は、クラスターイオン種と、クラスターイオンのドーズ量(ions/cm2)で定まる。本実施形態において、炭素のドーズ量は特に限定されず、概ね1×1014atoms/cm2以上1×1016atoms/cm2以下の範囲内とすることができ、接触傷を強調する観点からは、5×1014atoms/cm2以上とすることが好ましく、1×1015atoms/cm2以上とすることがより好ましい。
【0036】
クラスターイオンの加速電圧は、0keV/ion超え200keV/ion未満とすることができ、100keV/ion以下とすることが好ましく、80keV/ion以下とすることがさらに好ましい。また、クラスターイオンの加速電圧は、炭素1原子あたりで0keV/atom超え50keV/atom以下とし、好ましくは40keV/atom以下とすることができる。なお、加速電圧の調整には、(1)静電加速、(2)高周波加速の2方法が一般的に用いられる。前者の方法としては、複数の電極を等間隔に並べ、それらの間に等しい電圧を印加して、軸方向に等加速電界を作る方法がある。後者の方法としては、イオンを直線状に走らせながら高周波を用いて加速する線形ライナック法がある。
【0037】
クラスターイオンのビーム電流値は、特に限定されないが、例えば50~5000μAの範囲から適宜決定することができる。クラスターイオンのビーム電流値は、例えば、イオン源における原料ガスの分解条件を変更することにより調整することができる。
【0038】
[エピタキシャル成長工程]
本実施形態では、上記イオン注入工程を実施せずに(
図8参照)、又は、好ましくは上記イオン注入工程を実施した後に(
図15参照)、ウェーハの平坦面(おもて面)から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させるエピタキシャル成長工程を行うことが重要である。これにより、
図8及び
図15に示すように、ウェーハの端面部に外部物との接触に起因する接触傷が存在する場合に、前記エピタキシャル層に、前記接触傷を起点とする積層欠陥を発生させることができる。すなわち、ウェーハの端面部に存在する接触傷を、エピタキシャル層の表面に積層欠陥として顕在化させることができる。
【0039】
図8及び
図15に示すように、エピタキシャル成長工程では、ウェーハの平坦面(おもて面)から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させる。具体的には、ウェーハの端面部のうち、「端面上面」及び「端面側面」にエピタキシャル層が形成される。ウェーハの端面部のうち「端面下面」にはエピタキシャル層は形成されない。このため、例えば
図8に示すように、ウェーハ端面のうち「端面上面」及び「端面側面」の少なくとも一方に位置する接触傷を、積層欠陥として顕在化させることができる。
【0040】
また、
図15に示すように、イオン注入工程を行うことで、ウェーハ端面のうち「端面上面」に位置する接触傷を強調し、その後、エピタキシャル成長工程を行うことができる。この場合、当該接触傷が凹凸のより小さい接触傷であったとしても、当該接触傷を、積層欠陥として顕在化させることができる。
【0041】
エピタキシャル層は、シリコンエピタキシャル層であることが好ましい。シリコンエピタキシャル層は、一般的な条件により形成することができる。例えば、水素をキャリアガスとして、ジクロロシラン、トリクロロシランなどのソースガスをチャンバー内に導入し、使用するソースガスによっても成長温度は異なるが、概ね1000~1200℃の範囲の温度でCVD法により、ウェーハ上にエピタキシャル成長させることができる。
【0042】
ウェーハの端面部に存在する接触傷を、エピタキシャル層の表面に積層欠陥として顕在化させる観点から、エピタキシャル成長工程において、ウェーハの端面部に隣接する平坦面(おもて面)におけるエピタキシャル層の厚さを5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましい。他方で、積層欠陥の大きさはエピタキシャル層の厚みに比例し、エピタキシャル層が極端に厚い場合、積層欠陥の起点となった接触傷の程度を評価しにくくなるため、ウェーハの端面部に隣接する平坦面(おもて面)におけるエピタキシャル層の厚さを50μm以下とすることが好ましい。
【0043】
[観察工程]
観察工程では、ウェーハの端面部における前記エピタキシャル層の表面を観察して、前記積層欠陥の有無及び程度の少なくとも一方を観察結果として把握する。観察工程では、(I)撮像デバイスによる観察及び画像取得を行う、又は、(II)顕微鏡及び撮像デバイスを組み合わせた拡大観察及び画像取得を行うことが好ましい。撮像デバイスは特に限定されないが、CCDイメージセンサ、CMOSイメージセンサなどを挙げることができる。顕微鏡は特に限定されず、光学顕微鏡及び電子顕微鏡のいずれも用いることができるが、光学顕微鏡を用いることが好ましい。そして、撮像デバイスによる観察及び画像取得、並びに、撮像デバイスを組み込んだ光学顕微鏡による拡大観察及び画像取得は、ウェーハの端面部の全周を対象とすることが好ましい。すなわち、CCDイメージセンサ又は光学顕微鏡を用いて、ウェーハの端面部の全周の画像を取得することが好ましい。
【0044】
[評価工程]
評価工程では、前記観察結果に基づいて、ウェーハの端面部における接触傷の有無及び程度の少なくとも一方を評価する。例えば、エピタキシャル層の表面に積層欠陥が無い場合には、ウェーハの端面部に接触傷が無いと評価することができ、エピタキシャル層の表面に積層欠陥が存在する場合には、ウェーハの端面部に接触傷が存在すると評価することができる。また、エピタキシャル層の表面の特定領域又は全周領域における積層欠陥の数、密度、面積などを求め、これら積層欠陥の数、密度、面積などに基づいて、ウェーハの端面部における接触傷の程度を評価することができる。
【0045】
以上説明した本実施形態によるウェーハ端面部の評価方法によれば、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷をより高精度に評価することができる。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
実施例1の実験フローを
図2に示す。サンプルは、一般的なウェーハ加工を行ったポリッシュトシリコンウェーハ8枚とする。サンプルは、研磨直後であり、端面部には他装置との接触傷は形成されていないとする。まず、ノッチ位置を90°回転させて、サンプル8枚をFOSB(Front-Opening Shipping Box)に入れ、
図3(a),(b)のようにFOSBの蓋の開閉をくり返すことで、サンプルを複数回押し込み、FOSB内のウェーハ保持部と接触させて、サンプルの端面部に接触傷を導入した。FOSB内のウェーハ保持部との接触によって、
図4のようにサンプルの端面側面に接触傷が形成された。
【0047】
その後、比較例による評価として、CCDカメラによる端面部の検査を行った。端面部の検査は、
図1に示すようなウェーハ端面検査装置を用いた全周測定(端面全周の観察及び撮像)とした。
【0048】
その後、発明例による評価として、サンプルのおもて面から端面部にわたりエピタキシャル層を成長させて、再度、同検査装置を用いて、端面部の全周測定(端面全周の観察及び撮像)を実施した。エピタキシャル成長は、SiHCl3をソースガスとして、1120℃の温度で1.0μm/分の成長レートにて行った。エピタキシャル層は、平坦部における厚さ:10μm、ドーパント種:リン、抵抗率:10Ω・cmとした。
【0049】
[評価結果]
同一の接触傷を比較例による評価と発明例による評価により評価した結果を
図5,6に示す。比較例による評価では、接触傷は検出されなかったが、発明例による評価では、接触傷の長さや形状まで確認することができた。比較例による評価と発明例による評価により測定した全周の接触傷の発生位置を
図7に示す。
図7は、ノッチ位置を円周位置0°とした際のサンプル8枚の重ね合わせである。
図7より、比較例による評価では、接触傷は全周において検出されてなかったが、発明例による評価では、ノッチ位置を90°回転させて、FOSB内ウェーハ保持部と接触させた位置に接触傷が形成されていることが確認できた。FOSB内ウェーハ保持部との接触により、端面側面に形成された接触傷は、
図8のようにエピタキシャル成長時に積層欠陥となることで顕在化されたと考える。
【0050】
(実施例2)
実施例2の実験フローを
図9に示す。サンプルは、一般的なウェーハ加工を行ったポリッシュトシリコンウェーハ13枚とする。サンプルは、研磨直後であり、端面部には他装置との接触傷は形成されていないとする。まず、サンプル13枚のウェーハ端面部に接触傷を意図的に導入するために、
図10のように、搬送ロボットアームによってサンプルをバッチ式洗浄機の洗浄槽に載置し、その後、搬送ロボットアームによって洗浄槽から搬出する操作(強調移載)を3回くり返した。搬送ロボットアームのウェーハ保持部と洗浄槽のウェーハ保持部には、溝が刻まれており、ウェーハ端面部を溝に入れることによって保持している。そのため、移載をくり返すことにより、
図11に示すようにサンプルウェーハの端面上面及び端面下面に接触傷が形成された。
【0051】
その後、比較例による評価として、CCDカメラによる端面部の検査を行った。端面部の検査は、
図1に示すようなウェーハ端面検査装置を用いた全周測定(端面全周の観察及び撮像)とした。
【0052】
さらに、発明例による評価として、サンプルにイオン注入及びエピタキシャル成長を行い、再度、同検査装置を用いて、端面部の全周測定(端面全周の観察及び撮像)を実施した。イオン注入は、イオン注入種:C3H5、注入炭素ドーズ量:1.0×1015atoms/cm2、加速電圧:80keV、ビーム電流値:850μA、Tilt:0°、Twist:0°の条件にて実施した。エピタキシャル成長は、SiHCl3をソースガスとして、1120℃の温度で1.0μm/分の成長レートにて行った。エピタキシャル層は、平坦部における厚さ:10μm、ドーパント種:リン、抵抗率:10Ω・cmとした。
【0053】
[評価結果]
同一の接触傷を比較例による評価と発明例による評価により評価した結果を
図12,13に示す。比較例による評価では、接触傷はほとんど検出されなかったが、発明例による評価では、接触傷の長さや形状を確認することができた。比較例による評価と発明例による評価により測定した全周の接触傷の発生位置を
図14に示す。
図14は、ノッチ位置を円周位置0°とした際のサンプル13枚の重ね合わせである。
図14より、比較例による評価では、接触傷はほとんど検出することはできなかったが、発明例による評価では、搬送ロボットアーム部のウェーハ保持部と洗浄槽のウェーハ保持部に対応する位置に接触傷が形成されていることが確認できた。端面上面に形成された接触傷は、
図15のように、イオン注入の注入ダメージにより強調され、エピタキシャル成長時に積層欠陥となって顕在化したと考える。
【0054】
(実施例3)
実施例3の実験フローを
図16に示す。サンプルは、一般的なウェーハ加工を行ったポリッシュトシリコンウェーハ10枚とする。サンプルは、研磨直後であり、端面部には他装置との接触傷は形成されていないとする。実施例2と同様に、端面部に接触傷を意図的に導入するため、バッチ式洗浄機の搬送ロボットアームと洗浄槽を用いて、移載作業を複数回繰り返す。搬送ロボットアームによってサンプルをバッチ式洗浄機の洗浄槽に載置し、その後、搬送ロボットアームによって洗浄槽から搬出する操作(強調移載)を3回くり返した。
【0055】
その後、比較例による評価として、光学顕微鏡による端面部の全周測定(端面全周の観察及び撮像)を行った。
【0056】
さらに、発明例1,2による評価として、サンプルにイオン注入及びエピタキシャル成長を行い、再度、光学顕微鏡を用いて、端面部の全周測定(端面全周の観察及び撮像)を実施した。イオン注入は、イオン注入種:C3H5、注入炭素ドーズ量:発明例1では5.0×1014atoms/cm2、発明例2では1.0×1015atoms/cm2、加速電圧:80keV、ビーム電流値:850μA、Tilt:0°、Twist:0°の条件にて実施した。エピタキシャル成長は、SiHCl3をソースガスとして、1120℃の温度で1.0μm/分の成長レートにて行った。エピタキシャル層は、平坦部における厚さ:10μm、ドーパント種:リン、抵抗率:10Ω・cmとした。
【0057】
[評価結果]
図17に比較例及び発明例1,2において検出された接触傷の全周合計面積(1枚あたりの平均値)を示す。比較例では、接触傷は検出されなかったが、発明例1,2では、接触傷が検出された。また、発明例1,2を比較すると、より高ドーズ量注入条件である発明例2において、より高感度に接触傷を評価できたことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明のウェーハ端面部の評価方法によれば、ウェーハの端面部における外部物との接触に起因する接触傷をより高精度に評価することができる。