(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】両面研磨装置
(51)【国際特許分類】
B24B 37/005 20120101AFI20250212BHJP
B24B 37/015 20120101ALI20250212BHJP
B24B 37/08 20120101ALI20250212BHJP
B24B 49/14 20060101ALI20250212BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
B24B37/005 B
B24B37/015
B24B37/08
B24B49/14
H01L21/304 621A
(21)【出願番号】P 2021202707
(22)【出願日】2021-12-14
【審査請求日】2023-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 優
【審査官】山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-057131(JP,A)
【文献】特開2002-166357(JP,A)
【文献】特開2008-229828(JP,A)
【文献】特開2004-314192(JP,A)
【文献】特開平09-193003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00 - 37/34
B24B 49/14
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上定盤と、
下定盤と、
前記上定盤を回転させる回転軸と、
前記上定盤を変形させる形状変形機構部と、
を備え、
前記形状変形機構部は、
前記回転軸の下端に接続され、かつ、前記上定盤の上面に固定されている上定盤用フランジと、前記上定盤用フランジに熱を加えて変形させる熱変形機構を有
し、
前記熱変形機構は、
前記上定盤用フランジの上面に前記回転軸の軸線を中心軸とする周方向の略全周にわたって形成された環状溝と、
前記環状溝を塞ぐとともに前記上定盤用フランジに固定され、前記環状溝との間に温度調整用水路を形成するフタと、を有し、
前記環状溝は、前記上定盤の直径をD1、前記環状溝の中心直径をD2としたとき、以下の数式を満たすような位置に形成されている両面研磨装置。
1/7 < D2/D1 < 1/3
【請求項2】
請求項
1に記載の両面研磨装置において、
前記環状溝は、前記周方向に沿って蛇行している両面研磨装置。
【請求項3】
請求項
1または請求項
2に記載の両面研磨装置において、
前記環状溝が分割されている両面研磨装置。
【請求項4】
請求項
1から請求項
3のいずれか一項に記載の両面研磨装置において、
前記フタを形成する金属の熱膨張係数は、前記上定盤用フランジを形成する金属の熱膨張係数と異なる両面研磨装置。
【請求項5】
請求項1から請求項
4のいずれか一項に記載の両面研磨装置において、
前記上定盤は、上定盤本体と、前記上定盤本体と前記上定盤用フランジとを接続し、中央部に孔が形成されて前記上定盤用フランジに塞がれた空間が形成された上定盤固定ブラケットとを有し、
前記上定盤用フランジおよび前記上定盤固定ブラケットは、前記空間に空気を取り込む複数の空気循環孔を有する両面研磨装置。
【請求項6】
上定盤と、
下定盤と、
前記上定盤を回転させる回転軸と、
前記上定盤を変形させる形状変形機構部と、を備え、
前記形状変形機構部は、
前記回転軸の下端に接続され、かつ、前記上定盤の上面に固定されている上定盤用フランジと、前記上定盤用フランジに熱を加えて変形させる熱変形機構を有し、
前記上定盤は、上定盤本体と、前記上定盤本体と前記上定盤用フランジとを接続し、中央部に孔が形成されて前記上定盤用フランジに塞がれた空間が形成された上定盤固定ブラケットとを有し、
前記上定盤用フランジおよび前記上定盤固定ブラケットは、前記空間に空気を取り込む複数の空気循環孔を有する両面研磨装置。
【請求項7】
上定盤と、
下定盤と、
前記上定盤を回転させる回転軸と、
前記上定盤を変形させる形状変形機構部と、を備え、
前記形状変形機構部は、
前記回転軸の下端に接続され、かつ、前記上定盤の上面に固定されている上定盤用フランジと、前記上定盤用フランジに熱を加えて変形させる熱変形機構を有し、
前記熱変形機構は、
前記上定盤用フランジの上面および下面に前記回転軸の軸線を中心軸とする周方向の略全周にわたって配置されたヒーターを有し、
前記ヒーターは、前記上定盤の直径をD1、前記ヒーターの中心直径をD3としたとき、以下の数式を満たすような位置に形成されている両面研磨装置。
1/7 < D3/D1 < 1/3
【請求項8】
請求項7に記載の両面研磨装置において、
前記上定盤は、上定盤本体と、前記上定盤本体と前記上定盤用フランジとを接続する上定盤固定ブラケットとを有し、
前記上定盤用フランジ上の前記ヒーターよりも径方向外側に形成された複数の貫通孔を
有する両面研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェーハの両面を同時に研磨する両面研磨装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、半導体ウェーハなどの円盤状のウェーハの加工工程においては、研磨パッドが貼り付けられた上定盤と下定盤でウェーハを挟みつつ研磨液(スラリー)を供給して、その両面を同時に研磨する両面研磨が行われている。
【0003】
両面研磨を行う両面研磨装置においては、上定盤と下定盤とが互いに平行となるように、研磨作業時に定盤の形状や角度などを変更させる手法が知られている。これにより、上下定盤の面圧分布が均一化され、ウェーハの平坦度を向上させることができる。
【0004】
特許文献1には、定盤の形状を変化させる機構として、定盤の研磨パッドが貼り付けられている面とは反対側の底部側の定盤径を変形させる形状制御機構を有する両面研磨装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の機構は、熱で定盤の一部を伸縮させて変形させる機構であるため、この熱が研磨熱などの研磨条件に影響して理想とする研磨が行えないという課題がある。この影響を加味した制御も可能であるが、非常に複雑な制御が必要となる。
【0007】
本発明は、熱により研磨条件に影響を与えることなく定盤を変形させ、上定盤と下定盤との間の面圧分布を均一に近づけることができる両面研磨装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の両面研磨装置は、上定盤と、下定盤と、前記上定盤を回転させる回転軸と、前記上定盤を変形させる形状変形機構部と、備え、前記形状変形機構部は、前記回転軸の下端に接続され、かつ、前記上定盤の上面に固定されている上定盤用フランジと、前記上定盤用フランジに熱を加えて変形させる熱変形機構を有することを特徴とする。
【0009】
上記両面研磨装置において、前記熱変形機構は、前記上定盤用フランジの上面に前記回転軸の軸線を中心軸とする周方向の略全周にわたって形成された環状溝と、前記環状溝を塞ぐとともに前記上定盤用フランジに固定され、前記環状溝との間に温度調整用水路を形成するフタと、を有し、前記環状溝は、前記上定盤の直径をD1、前記環状溝の中心直径をD2としたとき、以下の数式を満たすような位置に形成されていることが望ましい。
1/7 < D2/D1 < 1/3
【0010】
上記両面研磨装置において、前記環状溝は、前記周方向に沿って蛇行していることが望ましい。
【0011】
上記両面研磨装置において、前記環状溝が分割されていることが望ましい。
【0012】
上記両面研磨装置において、前記フタを形成する金属の熱膨張係数は、前記上定盤用フランジを形成する金属の熱膨張係数と異なることが望ましい。
【0013】
上記両面研磨装置において、前記上定盤は、上定盤本体と、前記上定盤本体と前記上定盤用フランジとを接続し、中央部に孔が形成されて前記上定盤用フランジに塞がれた空間が形成された上定盤固定ブラケットとを有し、前記上定盤用フランジおよび前記上定盤固定ブラケットは、前記空間に空気を取り込む複数の空気循環孔を有することが望ましい。
【0014】
上記両面研磨装置において、前記熱変形機構は、前記上定盤用フランジの上面および下面に前記回転軸の軸線を中心軸とする周方向の略全周にわたって配置されたヒーターを有し、前記ヒーターは、前記上定盤の直径をD1、前記ヒーターの中心直径をD3としたとき、以下の数式を満たすような位置に形成されていることが望ましい。
1/7 < D3/D1 < 1/3
【0015】
上記両面研磨装置において、前記上定盤は、上定盤本体と、前記上定盤本体と前記上定盤用フランジとを接続する上定盤固定ブラケットとを有し、前記上定盤用フランジ上の前記ヒーターよりも径方向外側に形成された複数の貫通孔を有することが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、熱により研磨条件に影響を与えることなく定盤を変形させ、上定盤と下定盤との間の面圧分布を均一に近づけることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る両面研磨装置の第一実施形態の分解斜視図である。
【
図2】本発明に係る両面研磨装置の第一実施形態の断面図である。
【
図3】本発明に係る両面研磨装置の上定盤用フランジの平面図である。
【
図4】本発明に係る両面研磨装置の形状変形機構部の詳細断面図である。
【
図5】形状変形機構部の作用を説明する図であり、上定盤の外周側が下方に下がるように変形する様子を示す図である。
【
図6】形状変形機構部の作用を説明する図であり、上定盤の外周側が上方に上がるように変形する様子を示す図である。
【
図7】本発明に係る両面研磨装置の第二実施形態の分解斜視図である。
【
図8】本発明に係る両面研磨装置の第三実施形態の分解斜視図である。
【
図9】恒温水の温度と上定盤の変形量との関係を示すグラフである。
【
図10】上定盤の変形量の測定位置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔第一実施形態〕
以下、図面を参照して本発明を実施するための実施形態について説明する。
両面研磨装置は、ウェーハの両面を同時に研磨してウェーハの平坦度を高める装置である。
図1および
図2に示すように、両面研磨装置1は、上下に対向して配置された上定盤2および下定盤3と、上定盤2を回転させる回転軸4と、下定盤3を回転させる回転軸5と、を備えている。上定盤2の下面および下定盤3の上面には、研磨パッド23,33が設けられている。
以下の説明において、周方向とは回転軸4,5の軸線Aを中心軸とする周方向を意味し、径方向とは回転軸4,5の軸線Aを中心軸とする径方向を意味する。
【0019】
上定盤2と下定盤3の間には、ウェーハWを保持する複数のキャリアプレート6が配置されている。キャリアプレート6にはウェーハWを保持する保持孔61が形成されている。キャリアプレート6は外周ギア(図示せず)が形成された歯車であり、サンギア7とインターナルギア8に噛合して遊星回転する。なお、
図2においては、キャリアプレート6、サンギア7、およびインターナルギア8などの図示を省略している。
【0020】
上定盤2および下定盤3は、保持孔61に保持されたウェーハWを所望の荷重で挟み込むことができる。回転軸4,5は、上定盤2および下定盤3を逆方向に回転させる。
両面研磨装置1は、挟み込んだキャリアプレート6を遊星回転させながら、研磨パッド23,33による加圧と滴下スラリー(図示せず)とにより、ウェーハWの表裏面を同時に化学機械研磨する。
【0021】
本実施形態の上定盤2は、上定盤本体21と、上定盤本体21の上面に接続された上定盤固定ブラケット22とを有する。
回転軸4と上定盤2とは、上定盤用フランジ10を介して接続されている。具体的には、回転軸4の下端に上定盤用フランジ10が接続され、上定盤用フランジ10が上定盤2の上定盤固定ブラケット22と接続されている。
【0022】
上定盤用フランジ10は金属によって形成され、円板状をなしている。
上定盤固定ブラケット22は、中央部に円形の孔22aが形成された円板状をなしている。孔22aは、上定盤用フランジ10に塞がれる大きさとなるように形成されている。孔22aの内部であって、上定盤用フランジ10の下方に空間Vが形成される。なお、孔22aは円形に限ることはなく、例えば多角形状としてもよい。
上定盤用フランジ10と上定盤固定ブラケット22とは複数の固定ボルトB1によって固定されている。上定盤固定ブラケット22と上定盤本体21とは複数の固定ボルトB2によって固定されている。
【0023】
上定盤本体21および下定盤3は、周方向に連続して形成されている恒温室24,34を有している。恒温室24,34には、定盤温度を一定に維持するための定盤用恒温水が供給されている。
【0024】
両面研磨装置1は、上定盤2の形状を変形させて、上定盤2の下面と下定盤3の上面とを平行にするための形状変形機構部9を備えている。形状変形機構部9は、上定盤用フランジ10と、上定盤用フランジ10に熱を加えて変形させる熱変形機構20と、を有している。
本実施形態の熱変形機構20は、上定盤用フランジ10に形成された環状溝11と、環状溝11を塞ぐとともに上定盤用フランジ10に固定されたフタ16と、を有し、熱により上定盤用フランジ10を変形させることで、上定盤2を変形させる。
【0025】
図3に示されるように、環状溝11は、周方向に略全周にわたって形成されている。環状溝11は、上定盤用フランジ10の上面に形成されている。
図4に示すように、形状変形機構部9の環状溝11は、回転軸4に近い位置に形成されている。具体的には、上定盤2の直径をD1(
図1参照)、環状溝11の中心直径をD2(
図1参照)とすると、以下の数式(1)を満たすような位置に形成されている。
1/7 < D2/D1 < 1/3・・・ (1)
【0026】
環状溝11は、軸方向から見て略円形となるように形成されている。環状溝11は、断面矩形状をなし、底面11aと一対の側面11b,11cとを有している。
図3に示すように、環状溝11の内側の側面11bには、複数の第一突出壁12が形成されている。複数の突出壁12は、周方向に等間隔となるように形成されている。
同様に、環状溝11の外側の側面11cには、複数の第二突出壁13が形成されている。複数の突出壁13は、周方向に等間隔となるように形成されている。
第一突出壁12と第二突出壁13とは、周方向に互い違いとなるように配置されている。
【0027】
本実施形態の環状溝11は、第一環状溝111と第二環状溝112とに分割されている。第一環状溝111と第二環状溝112は、周方向の長さが略同じとなるように形成されている。環状溝11は、必ずしも分割されている必要はなく、周方向全周にわたって連続して形成されてよい。また、環状溝11の分割数は、二分割に限らず、三分割以上に分割されてよい。
【0028】
上定盤用フランジ10および上定盤固定ブラケット22は、空間Vに空気を取り込む複数の空気循環孔14,15を有している。
上定盤用フランジ10には、軸方向に貫通し、上定盤用フランジ10の上面と空間Vとを連通させる複数の第一空気循環孔14が形成されている。複数の第一空気循環孔14は、環状溝11の径方向外側に形成されている。複数の第一空気循環孔14は、周方向に等間隔で形成されていることが好ましい。
【0029】
図2に示すように、上定盤固定ブラケット22には、径方向に貫通し、上定盤固定ブラケット22の側面と空間Vとを連通させる複数の第二空気循環孔15が形成されている。複数の第二空気循環孔15は、周方向に等間隔で形成されていることが好ましい。
【0030】
フタ16は、環状溝11を塞ぐように軸方向から見て円環状に形成されている。
フタ16は、固定ボルトB3によって上定盤用フランジ10に固定されている。環状溝11がフタ16によって塞がれることによって、環状溝11とフタ16との間に温度調整用水路17が形成される。本実施形態の環状溝11は、二分割されているため、温度調整用水路17は、第一温度調整用水路171と第二温度調整用水路172とに分割される。
【0031】
両面研磨装置1は、水路入口(図示せず)を介して温度調整用水路17に恒温水を供給する水供給装置(図示せず)を備えている。水供給装置は、ボイラーやチラーなどの熱源によって供給する水を加熱したり冷却したりする機能を有している。水供給装置から供給された水は、水路出口(図示せず)を介して排出される。水供給装置によって、温度調整用水路17に水が供給されることで、水は温度調整用水路17の一端から他端に向かって流れる。
温度調整用水路17を構成する環状溝11に複数の突出壁12,13が互い違いに配置されていることによって、温度調整用水路17は周方向に対して蛇行する形状となる。
【0032】
フタ16と上定盤用フランジ10とは、熱膨張係数が異なる金属によって形成されている。フタ16を構成する金属としては、例えば、インバーのような熱膨張係数が小さい合金を採用することができる。上定盤用フランジ10を構成する金属としては、ステンレス鋼を採用することができる。
本実施形態のフタ16を形成する金属の熱膨張係数は、上定盤用フランジ10を形成する金属の熱膨張係数よりも小さい。フタ16を形成する金属の熱膨張係数は、上定盤用フランジ10を形成する金属の熱膨張係数の1/20以上1/3以下とすることが好ましい。
【0033】
次に、形状変形機構部9の作用について説明する。
本発明の両面研磨装置1では、形状変形機構部9の温度調整用水路17に恒温水を流すことによって、上定盤用フランジ10に熱を加えて変形させる。
ここで、上定盤用フランジ10の体積に対して恒温水が供給する熱量は小さい。よって、温度調整用水路17に恒温水を流すと、上定盤用フランジ10上面の温度調整用水路17周辺の温度が変化する一方、上定盤用フランジ10および上定盤固定ブラケット22に形成される空気循環孔14,15と空間Vにより、温度調整用水路17周辺以外の上定盤用フランジ10は所定の基準温度に保たれる。このような上定盤用フランジ10に生じる温度分布によって、上定盤用フランジ10が変形する。この変形は、フタ16の熱膨張係数を変更することによって調節することができる。また、フタ16や上定盤用フランジ10の厚みをかえて構造的な剛性を変更することによっても変形を調節することが可能である。
【0034】
例えば、温度調整用水路17に所定の基準温度よりも高い温度(例えば基準温度+5℃)の恒温水を通水させると、上定盤用フランジ10の上面の温度調整用水路17周辺が温度調整用水路17周辺以外の部位よりも膨張することによって、
図5に示すように、外周側が下方に下がるように上定盤用フランジ10が変形する。
本実施形態の上定盤2は上定盤本体21と上定盤固定ブラケット22から構成されているため、上定盤用フランジ10の変形により上定盤用フランジ10に接続されている上定盤固定ブラケット22が変形し、これに伴い、上定盤本体21を外周側が下方に下がるように変形させることができる。
【0035】
一方で、温度調整用水路17に基準温度より低い温度(例えば基準温度-5℃)の恒温水を通水させると、上定盤用フランジ10の温度調整用水路17周辺が温度調整用水路17周辺以外の部位よりも収縮することによって、
図6に示すように、外周側が上方に上がるように上定盤用フランジ10が変形する。
上定盤用フランジ10の変形により上定盤用フランジ10に接続されている上定盤固定ブラケット22が変形し、これに伴い、外周側が上方に上がるように上定盤本体21を変形させることができる。
【0036】
本実施形態では、フタ16に熱膨張係数の小さなインバーを用いたので、変形が小さくなる方向に働いているが、フタ16に用いる金属として適切な熱膨張係数を持つものを適宜選択することにより、変形の大きさを調整することができる。
【0037】
次に、本実施形態の両面研磨装置1の運用方法について説明する。
両面研磨装置1の定盤は、定盤の構成部品のそれぞれが一定の寸法公差を満足するように製造されているが、機械加工精度の限界や構成部品の公差の積み上げにより、個体差が生じ、装置間で面圧分布に差異が生じる。
両面研磨装置の運用方法では、両面研磨装置1を用いてウェーハの研磨を行うのに先立つ両面研磨装置1の導入時に上定盤2と下定盤3との間の面圧分布を把握した後、面圧分布が均一となるように(上定盤2の下面と下定盤3の上面とが平行となるように)上定盤2を変形させる。
【0038】
本実施形態の両面研磨装置の運用方法は、面圧分布測定工程と、温度設定工程と、確認調整工程と、を有する。
【0039】
面圧分布測定工程は、両面研磨装置1の導入時に、面圧分布測定装置を用いて上定盤2と下定盤3との間の面圧分布を測定する工程である。
面圧分布測定装置は、格子状に電極を配置したセンサシートを有しており、圧力による電気抵抗値の変化により面圧分布を測定する。面圧分布測定装置としては、例えば大面積用圧力分布測定システムBIG-MAT(ニッタ株式会社製)を採用することができる。
面圧分布測定工程では、研磨パッド23,33が上定盤2と下定盤3とに取り付けられた状態で、複数のセンサシートを周方向に等間隔に配置し、上定盤2を所定の荷重となるまで下降させて面圧分布を測定する。
【0040】
温度設定工程は、導入された両面研磨装置1の面圧分布が一定となる理想とする面圧分布となるように、温度調整用水路17に通水する恒温水の温度を設定する工程である。恒温水の温度は、事前の試験結果に基づいて設定する。例えば、事前の試験によって、恒温水の温度に対する上定盤2の変形量や、恒温水の温度変化1℃当たりの上定盤2の変形量を把握し、この結果に基づいて恒温水の温度を設定する。
例えば、面圧分布測定工程によって、上定盤2の外周側を下方に下げた方が良いと判断された場合は、温度の恒温水を上定盤2の外周側が下方に下がるような温度に設定する。
【0041】
通水工程では、温度調整用水路17に温度設定工程で設定した温度の恒温水を通水する。
確認調整工程では、上定盤2の形状変化が落ち着いた状態で、面圧分布測定装置を用いて面圧分布の確認を行う。面圧分布が均一となっていなければ、上定盤2の下面が下定盤3の上面と平行となるように恒温水の温度を調整する。上定盤2の下面と下定盤3の上面とを平行とすることによって面圧分布が均一に近づく。
両面研磨装置1の面圧分布が一定となる理想とする面圧分布となったら、確認調整工程を終了する。なお、恒温水の温度の調整のみで調整できない場合には、フタ16の厚み(剛性)や、上定盤用フランジ10の厚みを変更することによる対応も可能であるが、形状が単純で安価であるフタ16の厚みを変更することが好ましい。
【0042】
上記実施形態によれば、形状変形機構部9を用いて上定盤2の形状を変形させることによって、上定盤2の下面と下定盤3の上面とを平行に近づけ、面圧分布を均一に近づけることができる。
また、熱で上定盤2の一部を変形させるのではなく、熱により上定盤用フランジ10を変形させて上定盤2を変形させる構造としたことによって、熱の影響が上定盤2に及びにくくなる。これにより、研磨条件に影響を与えることなく上定盤2と下定盤3との間の面圧分布を均一に近づけることができる。
また、上定盤2を直接変形される構造ではないため、小さい熱源による変形が可能となり、また、温度変更に追随する変形速さも向上させることができる。
【0043】
また、熱変形機構20が、上定盤用フランジ10に形成された環状溝11と、環状溝11を塞ぐフタ16とを有し、上定盤用フランジ10とフタ16とが熱膨張係数が異なる金属で形成されていることによって、上定盤用フランジ10の変形量を調整することができる。例えば、熱により金属単体を伸縮させることと比較して、変形の大きさを小さくすることができる。
【0044】
また、熱変形機構20の環状溝11が、回転軸4に近い位置に形成されていることによって、上定盤用フランジ10の微小な変形に対して、上定盤2の外周位置における変化量を大きくすることができる。
また、環状溝11に突出壁12,13が形成されて、温度調整用水路17が蛇行していることによって、恒温水の熱をより多く上定盤用フランジ10に伝達することができる。
【0045】
また、温度調整用水路17の長さが長いと水路出口に近づくにしたがって恒温水の温度が低下するが、本実施形態の温度調整用水路17は二分割されていることによって、周方向の恒温水の温度差をより小さくすることができる。
【0046】
また、上定盤用フランジ10および上定盤固定ブラケット22に空気循環孔14,15が形成されていることによって、上定盤2の回転運動に伴い、空気循環孔14,15を介して空気が循環し、上定盤用フランジ10と上定盤固定ブラケット22の接触部周辺を冷却することができ、熱変形機構20の熱が上定盤本体21に伝わることを防止できる。さらに、上定盤用フランジ10の下面温度を下げる効果もある。
【0047】
また、上定盤2が、上定盤本体21と、空間Vが形成されている上定盤固定ブラケット22とから構成されていることによって、定盤面側から伝わる研磨熱と温度調整用水路17から伝わる恒温水の熱を遮断することができる。これにより、温度調整用水路17に研磨熱が影響を及び変形量が変化するのを抑制することができる。また、温度調整用水路17に通水された恒温水の熱が定盤面に伝わって研磨条件が変化するのを抑制することができる。
【0048】
なお、上記実施形態では、環状溝11に突出壁12,13を配置したが、恒温水による温度分布差が十分に作用していれば、突出壁12,13を設ける必要はない。
【0049】
〔第二実施形態〕
次に、本発明に係る第二実施形態の両面研磨装置1Bについて説明する。
上記各実施形態の両面研磨装置1の熱変形機構20は、温度分布差と熱変形量差により上定盤用フランジ10を変形させていたが、これに限ることはない。
図7に示すように、本実施形態の両面研磨装置1Bの上定盤用フランジ10Bは、熱変形機構20B(形状変形機構部9B)として上定盤用フランジ10Bの上面に取り付けられた温度調整用パイプ30を有している。温度調整用パイプ30は、上定盤用フランジ10Bの上面に螺旋状または同心円状に配されている。
本実施形態の熱変形機構20Bは、温度調整用パイプ30に恒温水を供給することによって、上定盤用フランジ10Bを変形させ、上定盤2を変形させることができる。
【0050】
なお、上記第一及び第二実施形態では、環状溝11に突出壁12,13を配置したが、恒温水による温度分布差が十分に作用していれば、突出壁12,13を設ける必要はない。
【0051】
〔第三実施形態〕
次に、本発明に係る第三実施形態の両面研磨装置1Cについて説明する。
図8に示すように、本実施形態の両面研磨装置1Cの上定盤用フランジ10Cは、熱変形機構20C(形状変形機構部9C)として上定盤用フランジ10Cの上面に取り付けられた上面ヒーター31Aと、上定盤用フランジ10Cの下面に取り付けられた下面ヒーター31Bとを有している。
ヒーター31A,31Bは、上定盤用フランジ10Cの中心近傍を加熱する加熱装置であり、例えば金属の抵抗発熱を利用したフィルム状のヒーターである。ヒーター31A,31Bは、周方向の略全周にわたって配置されている。
ヒーター31A,31Bは、回転軸4に近い位置に形成されている。具体的には、ヒーター31A,31Bは、上定盤2の直径をD1、ヒーター31A,31Bの中心直径をD3(
図8参照)とすると、以下の数式(2)を満たすような位置に形成されている。
1/7 < D3/D1 < 1/3・・・ (2)
第一実施形態および第二実施形態の両面研磨装置と同様に、本実施形態の両面研磨装置1Cの上定盤用フランジ10Cおよび上定盤固定ブラケット22は、複数の空気循環孔14,15を有している。
上定盤用フランジ10Cには、軸方向に貫通し、上定盤用フランジ10Cの上面と空間Vとを連通させる複数の第一空気循環孔14(貫通孔)が形成されている。複数の第一空気循環孔14は、ヒーター31A,31Bの径方向外側に形成されている。複数の第一空気循環孔14は、周方向に等間隔で形成されていることが好ましい。
【0052】
本実施形態の熱変形機構20Cは、ヒーター31A,31Bに電力を供給することによって、上定盤用フランジ10Cを変形させ、上定盤2を変形させることができる。
【0053】
例えば、上面ヒーター31Aのみに通電すると、上定盤用フランジ10Cの上面が下面よりも膨張することによって、外周側が下方に下がるように上定盤用フランジ10Cが変形する。上定盤用フランジ10Cの変形により上定盤用フランジ10Cに接続されている上定盤固定ブラケット22が変形し、これに伴い、上定盤本体21を外周側が下方に下がるように変形する。
また、下面ヒーター31Bのみに通電すると、上定盤用フランジ10Cの下面が上面よりも膨張することによって、外周側が上方に上がるように上定盤用フランジ10Cが変形する。上定盤用フランジ10Cの変形により上定盤用フランジ10Cに接続されている上定盤固定ブラケット22が変形し、これに伴い、上定盤本体21を外周側が上方に上がるように変形する。
【0054】
さらに、ヒーター31A,31Bの温度を微調整することによって、変形量を調整することが可能となる。
【0055】
上記実施形態によれば、温度調整に液体を使用することがないため、防水構造などが不要となり、構造の簡素化を図ることができる。
また、上定盤用フランジ10Cおよび上定盤固定ブラケット22に空気循環孔14,15が形成されていることによって、上定盤2の回転運動に伴い、空気循環孔14,15を介して空気が循環し、上定盤用フランジ10Cと上定盤固定ブラケット22の接触部周辺を冷却することができ、ヒーター31A、31Bの熱が上定盤本体21に伝わることを防止できる。
これにより、ヒーター31A,31Bの熱が定盤面に伝わって研磨条件が変化するのを抑制することができる。
【0056】
なお、上記第三実施形態の両面研磨装置1Cでは、上定盤用フランジ10の下方に形成される空間Vは省略してもよく、その場合、空気循環孔15も省略してよい。
【0057】
また、上記各実施形態では、定盤2,3は恒温室24,34を有しているが、定盤用恒温水が必要なければ、恒温室24,34を省略してもよい。
【実施例】
【0058】
本発明の両面研磨装置1の形状変形機構部9の作用を確認した実施例について説明する。
<実施例1>
実施例1では、両面研磨装置1の形状変形機構部9の作用を確認すべく、形状変形機構部9の温度調整用水路17に恒温水を通水して、上定盤2の変形量を測定した。
【0059】
上定盤2の変形量は、上定盤2と下定盤3が両面研磨装置1に取り付けられた状態で上定盤2の直下に真直度形状測定機(日立造船株式会社製)を設置し、直径方向に等ピッチで測定を行った。
【0060】
図9は、恒温水の温度と上定盤2の変形量との関係を示すグラフである。
図9に示すグラフの横軸は定盤直径方向の測定位置であり、縦軸は変形量である。測定位置は、
図10に一点鎖線で示す直線L上に設定し、上定盤2の外周点P1,P2の間で1000ポイントを測定した。
図9のグラフには100ポイント間隔で変形量をプロットした。変形量は、上定盤2の最外周の下端を通る水平面から上定盤2の底面までの上下方向の距離である。
【0061】
図9のグラフからわかるように、形状変形機構部9の温度調整用水路17に所定の基準温度の恒温水を通水した場合は、上定盤2の中心付近で測定された最大の変形量が+23μmとなった。
また、形状変形機構部9の温度調整用水路17に所定の基準温度-5℃の恒温水を通水した場合は、上定盤2の中心付近で測定された最大の変形量が-68μmとなった。
一方、形状変形機構部9の温度調整用水路17に所定の基準温度+5℃の恒温水を通水した場合は、上定盤2の中心付近で測定された最大の変形量が+111μmとなった。
すなわち、変形幅は、179μm/10℃となり、1℃当たりの変形量は、17.9μmとなった。変形量は温度に対してほぼ比例した変形となった。
【0062】
<実施例2>
実施例2では、上定盤2を変形させた状態で、上定盤2と下定盤3との間の面圧分布を測定した。測定には既述の面圧分布測定装置を用いた。また、測定条件は
図9で示した3条件とした。
【0063】
測定の結果、基準温度-5℃の恒温水を通水した場合は定盤内周側が高い面圧分布、基準温度+5℃の恒温水を通水した場合は定盤外周側が高い面圧分布となり変形量の測定から想定される結果と合致した。
【符号の説明】
【0064】
1…両面研磨装置、2…上定盤、3…下定盤、4,5…回転軸、6…キャリアプレート、7…サンギア、8…インターナルギア、9…形状変形機構部、10…上定盤用フランジ、11…環状溝、12…第一突出壁、13…第二突出壁、14…第一空気循環孔、15…第二空気循環孔、16…フタ、17…温度調整用水路、20…熱変形機構、21…上定盤本体、22…上定盤固定ブラケット、23,33…研磨パッド、24,34…恒温室、30…温度調整用パイプ、31A,31B…ヒーター、111…第一溝、112…第二溝、V…空間、W…ウェーハ。