(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】橈骨固定プレート固定ネジ用工具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/88 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
A61B17/88
(21)【出願番号】P 2021571204
(86)(22)【出願日】2021-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2021000830
(87)【国際公開番号】W WO2021145336
(87)【国際公開日】2021-07-22
【審査請求日】2023-12-12
(31)【優先権主張番号】P 2020004641
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020004642
(32)【優先日】2020-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】平田 仁
(72)【発明者】
【氏名】栗本 秀
(72)【発明者】
【氏名】神村 亮介
(72)【発明者】
【氏名】安村 直朗
(72)【発明者】
【氏名】横田 将史
(72)【発明者】
【氏名】大谷 優人
(72)【発明者】
【氏名】中村 数磨
(72)【発明者】
【氏名】大河内 竣介
【審査官】白川 敬寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-005559(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0368902(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0152746(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0275954(US,A1)
【文献】国際公開第2018/106507(WO,A2)
【文献】特表2012-519054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/88-17/90
B25B 23/14-23/159
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橈骨固定プレートを橈骨に固定する固定ネジを回転させる、橈骨固定プレート固定ネジ用工具であって、
前記固定ネジを回転させる回転力が入力される回転力入力部と、
前記回転力入力部の先端から軸方向に延在しかつ前記回転力入力部に対して相対的に回転可能な回転軸部と、
前記回転軸部の先端のネジ結合部が先端から突出し、かつ、回転位置と空転位置との間で軸方向に移動可能に前記回転軸部の外側に配置され、第1係合突起を外周面に有する中筒と、
軸方向には相対的に移動可能に前記中筒の外側に配置され、前記中筒が前記回転位置に位置するとき軸回りに前記第1係合突起と係合して前記中筒と一体的に回転可能である一方、前記中筒が前記空転位置に位置するとき前記軸回りの前記第1係合突起との係合が解除されて前記中筒に対して相対的に回転可能な第2係合突起を内周面に有する
とともに前記回転力入力部と一体的に回転可能な外筒と、
を備える、橈骨固定プレート固定ネジ用工具。
【請求項2】
前記回転軸部の周囲に配置されて、前記中筒が前記回転位置に位置するように前記中筒を軸方向に付勢する付勢部材をさらに備える、
請求項1に記載の橈骨固定プレート固定ネジ用工具。
【請求項3】
前記回転軸部の前記ネジ結合部は、前記ネジとしてのヘクサロビュラネジの頭部のヘクサロビュラ穴に係合可能なヘクサロビュラネジ回転部である、
請求項1又は2に記載の橈骨固定プレート固定ネジ用工具。
【請求項4】
前記回転軸部と前記回転力入力部とは別部材で構成されている、
請求項1~3のいずれか1つに記載の橈骨固定プレート固定ネジ用工具。
【請求項5】
橈骨固定プレートを橈骨に固定する固定ネジを回転させる、橈骨固定プレート固定ネジ用工具であって、
前記固定ネジを回転させる回転力が入力される回転力入力部と、
前記回転力入力部の先端から軸方向に延在しかつ前記回転力入力部と一体的に回転可能であるとともに先端にネジ結合部を有し、基端側に第1係合部を有する回転軸部と、
前記回転軸部を挿入して相対的に回転可能かつ相対的に軸方向に移動可能で、かつ、先端が前記橈骨固定プレートのネジ挿入穴又は前記橈骨固定プレート上に載置されたネジ案内用ガイドブロックのネジ挿入穴のガイド筒規制部に接触可能で、基端には、前記第1係合部と係合
する第2係合部を有し、前記回転軸部とは別部材のガイド筒と、
を備えるとともに、
前記橈骨固定プレート上に載置された前記ネジ案内用ガイドブロックの前記ネジ挿入穴の第1回転止め部と係止可能な第2回転止め部を前記ガイド筒の外周に有する
とともに、
前記回転軸部の基端側には、第3係合部を有し、
前記ガイド筒の基端側には、前記第3係合部に対して接触して係合し前記回転軸部のネジ込み方向への移動を規制する第4係合部を有して、
前記第1係合部と前記第2係合部とが係合するとともに前記第3係合部と前記第4係合部とが接触して係合することにより、前記ガイド筒と前記回転軸部との相対的な回転を規制して前記回転軸部のネジ込み方向への移動を規制する、
橈骨固定プレート固定ネジ用工具。
【請求項6】
前記第1係合部は、雄ネジであり、
前記第2係合部は、前記雄ネジがネジ込まれる雌ネジである、
請求項5に記載の橈骨固定プレート固定ネジ用工具。
【請求項7】
前記回転軸部の前記ネジ結合部は、前記ネジとしてのヘクサロビュラネジの頭部のヘクサロビュラ穴に係合可能なヘクサロビュラネジ回転部である、
請求項5~
6のいずれか1つに記載の橈骨固定プレート固定ネジ用工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橈骨固定プレートを橈骨に固定するとき、固定ネジを回転させる、橈骨固定プレート固定ネジ用工具に関する。
【背景技術】
【0002】
橈骨が骨折したとき、橈骨の骨折部分を固定するため、副木(すなわち副子)又は石膏製若しくはFRP製のギブスに代わって、骨折部分を跨いで橈骨を固定する橈骨固定プレートが知られている。
【0003】
橈骨固定プレートを橈骨に固定するとき、橈骨に対して複数本の固定ネジを橈骨にネジ止めして固定している。
【0004】
橈骨固定プレートは、従来は、強靱かつ軽量でかつ生体安全性の高いチタンもしくはその合金などの金属製の板が使用されている。
【0005】
しかしながら、金属製の板では、X線が透過せず、橈骨固定プレートで覆われた骨折部分の状態を把握できないといった問題がある。
【0006】
そこで、近年、金属製に代わり、樹脂製の橈骨固定プレートが開発されている(例えば、特許文献1参照。)。このような樹脂製の橈骨固定プレートを橈骨にネジで固定するとき、橈骨に対して固定ネジが過度にネジ込まれると、橈骨固定プレートが割れて破損してしまうか、又は、固定ネジが橈骨固定プレートを貫通してしまうことなる。そこで、橈骨に対して固定ネジが過度にネジ込まれないように、ネジの締め込み深さと過度な回転を規制する必要がある。
【0007】
金属製の板のときには、市販のトルクリミッタを使用してトルクを制御して、ネジの締め込み深さを規制することができた。
【0008】
【発明の開示】
【0009】
しかしながら、そのような市販のトルクリミッタを使用しても、以下のような課題があった。例えば、従来の金属製の橈骨固定プレートの場合には、固定ネジが必要トルクを越えて過度に締め付けられると、そのトルクに金属製の橈骨固定プレートが耐えることが可能であった。しかしながら、樹脂製の橈骨固定プレートの場合には、固定ネジが必要トルクを越えて過度に締め付けられると、樹脂製の橈骨固定プレートがそのトルクに耐えることができずに、破損又は貫通してしまう可能性がある。このように、従来のトルクリミッタでは、ネジの締め込み深さと回転とを規制することができなかった。
【0010】
従って、本発明の目的は、前記問題を解決することにあって、樹脂製の橈骨固定プレートの固定ネジの締め込み深さと回転とを容易にかつ確実に規制することができる、橈骨固定プレート固定ネジ用工具を提供することにある。
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0012】
本発明の第1態様によれば、橈骨固定プレートを橈骨に固定する固定ネジを回転させる、橈骨固定プレート固定ネジ用工具であって、
前記固定ネジを回転させる回転力が入力される回転力入力部と、
前記回転力入力部の先端から軸方向に延在しかつ前記回転力入力部に対して相対的に回転可能な回転軸部と、
前記回転軸部の先端のネジ結合部が先端から突出し、かつ、回転位置と空転位置との間で軸方向に移動可能に前記回転軸部の外側に配置され、第1係合突起を外周面に有する中筒と、
軸方向には相対的に移動可能に前記中筒の外側に配置され、前記中筒が前記回転位置に位置するとき軸回りに前記第1係合突起と係合して前記中筒と一体的に回転可能である一方、前記中筒が前記空転位置に位置するとき前記軸回りの前記第1係合突起との係合が解除されて前記中筒に対して相対的に回転可能な第2係合突起を内周面に有するとともに前記回転力入力部と一体的に回転可能な外筒と、
を備える、橈骨固定プレート固定ネジ用工具を提供する。
本発明の第2態様によれば、橈骨固定プレートを橈骨に固定する固定ネジを回転させる、橈骨固定プレート固定ネジ用工具であって、
前記固定ネジを回転させる回転力が入力される回転力入力部と、
前記回転力入力部の先端から軸方向に延在しかつ前記回転力入力部と一体的に回転可能であるとともに先端にネジ結合部を有し、基端側に第1係合部を有する回転軸部と、
前記回転軸部を挿入して相対的に回転可能かつ相対的に軸方向に移動可能で、かつ、先端が前記橈骨固定プレートのネジ挿入穴又は前記橈骨固定プレート上に載置されたネジ案内用ガイドブロックのネジ挿入穴のガイド筒規制部に接触可能で、基端には、前記第1係合部と係合する第2係合部を有し、前記回転軸部とは別部材のガイド筒と、
を備えるとともに、
前記橈骨固定プレート上に載置された前記ネジ案内用ガイドブロックの前記ネジ挿入穴の第1回転止め部と係止可能な第2回転止め部を前記ガイド筒の外周に有するとともに、
前記回転軸部の基端側には、第3係合部を有し、
前記ガイド筒の基端側には、前記第3係合部に対して接触して係合し前記回転軸部のネジ込み方向への移動を規制する第4係合部を有して、
前記第1係合部と前記第2係合部とが係合するとともに前記第3係合部と前記第4係合部とが接触して係合することにより、前記ガイド筒と前記回転軸部との相対的な回転を規制して前記回転軸部のネジ込み方向への移動を規制する、橈骨固定プレート固定ネジ用工具を提供する。
【0013】
本発明の前記第1態様によれば、第1係合突起と第2係合突起との係合時、回転力入力部を回転させたときの回転力が、外筒及び中筒を介して回転軸部に伝達され、回転軸部に係合した固定ネジが締め付け方向に回転される。一方、固定ネジが橈骨にネジ込まれて、固定ネジの締め込み深さが規制すべき寸法になると、中筒が橈骨固定プレート又は橈骨固定プレートに重ねて配置されたガイドブロックに接触し、中筒が軸部に対して相対的に回転力入力部側に後退させられて第1係合突起と第2係合突起との軸回りの係合が解除される。すると、回転力入力部を回転させて外筒が回転しても、外筒と中筒との間で空転して、外筒からの回転力が軸部に伝達せず、回転規制がなされるとともに、当該寸法以上に固定ネジがネジ込まれず、深度(すなわち、ネジの締め込み深さ)規制もすることができる。よって、樹脂製の橈骨固定プレートの固定ネジの締め込み深さと回転とを容易にかつ確実に規制することができる。
本発明の前記第2態様によれば、橈骨固定プレートまたはガイドブロックのネジ挿入穴に配置されたガイド筒に対して、回転力入力部を回転させて回転軸部が回転して第1係合部と第2係合部とが係合すれば、それ以上、回転軸部が回転できず、回転軸部とともに固定ネジを橈骨内にネジ込むことができず、深度(すなわち、ネジの締め込み深さ)規制及び回転規制を行うことができる。よって、樹脂製の橈骨固定プレートの固定ネジの締め込み深さと回転とを容易にかつ確実に規制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
本発明のこれらと他の目的と特徴は、添付された図面についての好ましい実施形態に関連した次の記述から明らかになる。この図面においては、
【
図1】本発明の第1の実施形態にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具を使用する固定ネジで橈骨固定プレートを橈骨に固定した状態を透視して示す透過斜視図
【
図2】橈骨固定プレートに載置するガイドブロックの斜視図
【
図4】本発明の第1の実施形態にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジをガイドブロック及び橈骨固定プレートに貫通させて締付けを開始した状態を一部透視した説明図
【
図5】橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジをガイドブロック及び橈骨固定プレートに貫通させて締付けるとき、締付完了間近の状態を一部透視した説明図
【
図6】橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジをガイドブロック及び橈骨固定プレートに貫通させて締付けるとき、中筒がガイドブロックに接触して空転位置に位置して締付完了した状態を一部透視した説明図
【
図16A】本発明の第1の実施形態の変形例にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジを橈骨固定プレートに貫通させて締付けるとき、中筒が橈骨固定プレートに接触して空転位置に位置して締付完了した状態を一部透視した模式的な説明図
【
図17】本発明の第2の実施形態にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具の本体部の斜視図
【
図18】本発明の第2の実施形態にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具のガイド筒の斜視図
【
図20】橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジをガイドブロック及び橈骨固定プレートに貫通させて締付けるとき、締付完了した状態の斜視図
【
図21】橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジをガイドブロック及び橈骨固定プレートに貫通させて締付ける状態を示す縦断面図
【
図22】橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジをガイドブロック及び橈骨固定プレートに貫通させて締付完了した状態を示す縦断面図
【
図23】ガイドブロック無しで、橈骨固定プレート固定ネジ用工具で固定ネジを橈骨固定プレートに貫通させて締付完了した状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の記述を続ける前に、添付図面において同じ部品については同じ参照符号を付している。
以下、図面を参照して本発明における第1実施形態を詳細に説明する。
【0016】
本発明の第1の実施形態にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具1は、
図1に示すように、橈骨固定プレート2を橈骨3に固定する固定ネジ4を回転させる工具である。橈骨固定プレート2を橈骨3の骨折部分3aをまたいで橈骨3に固定するとき、橈骨固定プレート固定ネジ用工具1で固定ネジ4を回転させる、ネジ締め作業を行いやすくするため、
図2及び
図3に示すようなガイドブロック5を橈骨固定プレート2に重ねて配置したのち、ガイドブロック5のネジ挿入穴5dを利用してネジ締め作業を行っている。橈骨固定プレート2を橈骨3に固定したのちは、ガイドブロック5は橈骨固定プレート2から除去される。ただし、変形例で後述するように、ガイドブロック5は使用しなくてもよい。
【0017】
橈骨3の骨折部分3aは、
図1に示すように、ここでは、骨折部分3aを境にして、橈骨本体3bと骨折片3cとに区分されている。橈骨本体3bと骨折片3cとに完全に分離されている場合もあるし、部分的につながっている場合もある。
【0018】
橈骨固定プレート2は、橈骨本体3bに対して骨折片3cが正常につながっている状態で固定されるように、橈骨3上に載置されている。
【0019】
橈骨固定プレート2は、一例として熱可塑性樹脂又はその複合材で構成されている。熱可塑性樹脂の例としては、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)又はポリエーテルイミドがある。
【0020】
一例として、橈骨固定プレート2は、幅広の遠位部2aと、遠位部2aから延びた近位部2bとでT字状板部材を構成している。ここで、本明細書において、「近位部」とは、橈骨固定プレート2のうち、心臓に対してより近い方の部分を意味し、「遠位部」とは、橈骨固定プレート2のうち、近位部と比較して、心臓に対してより遠い方の部分を意味する。
【0021】
遠位部2aは、骨折片3cに複数のネジ4で固定され、近位部2bは、橈骨本体3bに複数のネジ4で固定されて、骨折部分3aを橈骨固定プレート2がまたぐとともに橈骨本体3bに対して骨折片3cが正常につながっている状態となるように固定されている。
【0022】
遠位部2aと近位部2bとには、それぞれ、橈骨固定プレート2の厚み方向、又は、厚み方向に対して先端が外向きに傾斜した方向に、軸方向が延在する円形のネジ挿入穴2dが多数形成されている。必要に応じて、ネジ挿入穴2dには固定ネジ4が挿入され、固定ネジ4が橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dの一部と橈骨3との両方にネジ込まれて、橈骨固定プレート2を橈骨3に固定する。各ネジ挿入穴2dは、
図4~
図6に示すように、大径の頭部収納部2eと、頭部収納部2eの内径よりも小さい小径の雌ネジ部2fとで構成されている。
【0023】
図4~
図6に示すように、ネジ挿入穴2dに挿入される固定ネジ4は、硬質金属製であって、頭部4cと、頭部4cに接続された軸部4aとで構成されている。
【0024】
軸部4aは、ネジ挿入穴2dの雌ネジ部2fの内径より小径で、雌ネジ部2fを貫通可能となっている。軸部4aには、ネジ挿入穴2dを貫通したのち、橈骨3に対してセルフタッピング作用する主ネジ4bが形成されている。
【0025】
頭部4cは、一例として、雌ネジ部2fの内径と同じ外径であり、ネジ締め時に頭部収納部2e内に収納される。頭部4cの軸部側の外周面には、ネジ挿入穴2dの雌ネジ部2fに対してネジ込まれる副ネジ4dが形成されている。なお、雌ネジ部2fに副ネジ4dがネジ込まれる構成の代わりに、雌ネジ部2fに雌ネジを予め形成せずに、ネジ形成部とし、このネジ形成部に対して副ネジ4dでセルフタッピング作用を行わせてネジ込むようにしてもよい。
【0026】
頭部4cの上面には、ヘクサロビュラ穴4jが形成されており、後述する工具1の回転軸部12のネジ結合部12cが結合して、固定ネジ4を正逆回転させることができる。ヘクサロビュラ穴4jは、一例であるが、ヘクサロビュラ穴4jとヘクサロビュラレンチ形状のネジ結合部12cとは、山と谷との部分でそれぞれ接触し、両方なめきらないと、滑らないため、好適である。すなわち、ヘクサロビュラ穴4jとすることにより、締め付けトルクが効率良く伝わるとともに、応力の集中が無いことで工具又はネジ頭部の破損のリスクを軽減することができる、といった効果がある。
【0027】
図4~
図6に示すように、ガイドブロック5は、橈骨固定プレート2に重ねて載置されて、橈骨固定プレート固定ネジ用工具1で固定ネジ4を回転させるとき、ネジ締め作業を行いやすくするための部材である。
【0028】
一例として、
図2~
図3に示すように、ガイドブロック5の外形は、橈骨固定プレート2と同じ外形として、橈骨固定プレート2の全体を覆うとともに重ねやすくしている。具体的には、ガイドブロック5は、橈骨固定プレート2の幅広の遠位部2aと同形状の幅広の遠位部5aと、遠位部5aから延びかつ橈骨固定プレート2の近位部2bと同形状の近位部5bとを備えて、T字状部材を構成している。ガイドブロック5は、ガイドブロック無しの状態よりも、固定ネジ4を案内しやすくしている。
【0029】
ガイドブロック5の裏面の外周には、
図3に示すように、橈骨固定プレート2の外周縁に係止保持可能な保持爪5cを有している。保持爪5cで保持するのは一例であり、保持爪5c以外に、専用ネジ、又は、兼用ネジ等の固定方式で、橈骨固定プレート2にガイドブロック5が固定されるようにしてもよい。
【0030】
遠位部5aと近位部5bとには、それぞれ、ガイドブロック5の厚み方向、又は、厚み方向に対して先端が外向きに傾斜した方向に、言い換えれば、橈骨固定プレート2の厚み方向、又は、厚み方向に対して先端が傾斜した方向に、軸方向が延在する円形のネジ挿入穴5dが多数形成されている。各ネジ挿入穴5dは、各ネジ挿入穴2dに対応して形成配置されている。
【0031】
図4に示すように、各ネジ挿入穴5dは、大径の中筒案内部5eと、中筒案内部5eの内径よりも小さい小径の回転軸部貫通部5fとで構成されている。中筒案内部5eと回転軸部貫通部5fとの境界部分には、円環状の縁部で構成された中筒規制部5hが形成されている。中筒規制部5hには、後述する工具1の中筒13の先端が接触して、中筒13が中筒規制部5hよりも各ネジ挿入穴5d内の回転軸部貫通部5f内に入らないように位置規制している。
【0032】
図4~
図15とに示すように、橈骨固定プレート固定ネジ用工具1は、回転力入力部11と、回転軸部12と、中筒13と、外筒14とを少なくとも備えており、一例として、すべて金属で構成するか、又は、中筒13と外筒14とは合成樹脂で構成し残りの部分は金属で構成することができる。また、橈骨固定プレート固定ネジ用工具1は、さらに、付勢部材15を備えていてもよい。
図4~
図6は、工具1の概略を示すため図として示し、
図7~
図15は、工具1の具体的な構成を示すための図として示しているが、両者の機能はほぼ同じである。特に、大きく異なる点は、第1係合突起13cと第2係合突起14cとの形状が、後述する台形状断面の板状ではなく、簡略化して歯車形状で図示していることであるが、機能は同じである。
【0033】
回転力入力部(回転力入力部材)11は、軸周りの回転力を工具1に付与する部分であり、棒状の部材で構成されている。回転力入力部11は、一例として、手術工具などを連結して、手術工具から回転力を回転力入力部11に入力させて、工具1を軸周りに正逆回転可能にしてもよい。又は、他の例として、手で回すときは、軸方向に延在した平面部11aを有して、平面部11aと平面部11aの湾曲した裏面部分とを指でつまむことにより、工具1を軸周りに正逆回転可能としている。回転力入力部11は、軸周りに正逆回転させて固定ネジ4の締付及び締付解除ができればよいので、平面部11aは必ずしも必要ではない。回転力入力部11の先端には、円筒状のはめ込み凹部11bを有している。
【0034】
回転軸部(回転軸部材)12は、
図7~
図10に示すように、回転力入力部11と同軸に配置され、断面六角形の軸部本体12aと、軸部本体12aの先端に有する先すぼまり形状のネジ結合部12cと、軸部本体12aの基端に配置された円柱状のはめ込み突起12dと、軸部本体12aの基端近傍に軸部本体12aの外径よりも径方向に突出した円環状のばね係止突起12eとを備えている。
【0035】
はめ込み突起12dは、軸周りに相対的に回転自在に、回転力入力部11の先端の円筒状のはめ込み凹部11b内にはめ込まれて連結されている。よって、軸部本体12aは、はめ込み突起12dを介して、回転力入力部11の先端から軸方向に延在しかつ回転力入力部11に対して相対的に回転可能である。回転軸部12と回転力入力部11との連結の仕方は、突起と凹部との関係が逆であってもよい。
【0036】
ネジ結合部12cは、軸部本体12aの先端に配置され、固定ネジ4の頭部4cのヘクサロビュラ穴4jと相対的に回転不可に結合可能なヘクサロビュラネジ回転部であり、固定ネジ4の締付又は締付解除のため、固定ネジ4を正逆回転可能としている。ネジ結合部12cは、固定ネジ4としてのヘクサロビュラネジ4を使用するとき、その頭部4cのヘクサロビュラ穴4jに係合可能なヘクサロビュラレンチの形状のヘクサロビュラネジ回転部として構成されている。
【0037】
【0038】
中筒13は、中筒本体13aと、中筒本体13aの基端の外周面に径方向に突出した第1係合突起13cとを備えている。
【0039】
中筒本体13aは、回転軸部12の断面六角形の軸部本体12aの基端側の外側の外周面に配置され、断面六角形の軸部本体12aに対して軸回りには相対的に回転不可に、言い換えれば、一体的に回転可能に、かつ軸方向には回転位置Aと空転位置Bとの間で移動可能な一例として断面六角形の貫通穴13bを有する。
【0040】
中筒本体13aの先端からは、回転軸部12の先端のネジ結合部12cが常に突出している。
【0041】
軸部本体12aの基端近傍では、中筒本体13aの円環状の基端端面13dと円環状のばね係止突起12eとの間に、付勢部材15の一例としてのコイルバネ15が若干縮んだ状態で配置されており、コイルバネ15のばね力で、軸部本体12aに対して中筒本体13aを先端側に向けて常時付勢し、空転位置Bではなく回転位置Aに常時位置するようにしている。ただし、コイルバネ15は、必ずしも必須ではない。例えば、簡易構成の工具1ではコイルバネ15を省略して、固定ネジ4を締結する毎に、手で初期位置である回転位置Aに中筒13を戻し、かつ固定ネジ締結操作時に中筒13を移動させないように注意しながら使用することができる。このような場合でも、空転位置Bでは、前記した空転動作を行わせることはできる。
【0042】
第1係合突起13cは、一例として、周方向に1個又は複数個、径方向において湾曲した台形状断面の板状に形成されている。例えば、第1係合突起13cは、所定間隔例えば90度間隔毎に4個形成され、隣接する第1係合突起13c間の外周面の空間は、後述する第2係合突起14cが抜出可能に軸方向に入り込む第1係合凹部13eとして機能する。各第1係合突起13cの先端側には、軸方向において先端に向かうに従い径方向の中心に近づくように傾斜した傾斜面13gを有し、後述する第2係合突起14cとの係合及び係合解除が円滑に実施できるようにしている。
【0043】
外筒14は、中筒13より径の大きい、先すぼまり形状の円筒部材で構成されている。
【0044】
外筒14は、軸方向には相対的に移動可能に中筒13の外側に配置され、円形の貫通穴14bを有する外筒本体14aと、外筒本体14aの中間部の内周面に径方向中心向けに突出して形成されて第1係合突起13cと係合可能な第2係合突起14cとを備えている。
【0045】
貫通穴14bは、基端側が大きな内径で、先端に向かうに従い段階的に又は徐々に小径となり、中筒13が外筒14から先端に向けて軸方向には離脱できないようにしている。
【0046】
外筒14は、外筒14の先端から、中筒13の先端側の部分を露出させ、中筒13の基端側の部分と回転軸部12の基端部分と回転力入力部11の先端部分とを覆うように配置されている。さらに、固定ピン16を、回転力入力部11の先端部分と外筒14の基端部分とに直径方向に差し込んで、回転力入力部11の先端部分と外筒14の基端部分とを固定している。よって、回転力入力部11と外筒14とは、一体的に正逆回転するようになっている。
【0047】
外筒14の第2係合突起14cは、一例として、周方向に1個又は複数個、径方向において湾曲した台形状断面の板状に形成されている。例えば、第2係合突起14cは、所定間隔例えば90度間隔毎に4個形成され、隣接する第2係合突起14c間の外周面の空間は、第1係合突起13cが抜出可能に軸方向に入り込む第2係合凹部14eとして機能する。
【0048】
よって、第1係合突起13cは、第2係合凹部14eに対して回転位置Aと空転位置Bとの間で軸方向に進退可能となっている。回転位置Aでは、第1係合突起13cは第2係合凹部14e内に入り込み、第1係合突起13cと第2係合突起14cとが軸回りに係合して、軸回りには相対的に回転不可となっている。空転位置Bでは、第1係合突起13cは第2係合凹部14eから抜き出されて、第1係合突起13cと第2係合突起14cとの軸回りの係合が解除されて、軸回りには相対的に回転可能となっている。
【0049】
同時に、第1係合凹部13e内には、第2係合突起14cが回転位置Aと空転位置Bとの間で軸方向に進退可能となっている。回転位置Aでは、第2係合突起14cは第1係合凹部13e内に入り込み、第1係合突起13cと第2係合突起14cとが軸回りに係合して、軸回りには相対的に回転不可となっている。空転位置Bでは、第2係合突起14cが第1係合凹部13e内から抜き出されて、第1係合突起13cと第2係合突起14cとの軸回りの係合が解除されて、軸回りには相対的に回転可能となっている。
【0050】
各第2係合突起14cの基端側には、軸方向において先端に向かうに従い径方向の中心に近づくように傾斜した傾斜面14gを有し、傾斜面14gが第1係合突起13cの傾斜面13gと摺動可能として、軸回りの第1係合突起13cとの係合及び係合解除が円滑に実施できるようにしている。
【0051】
コイルバネ15は、回転軸部12の基端部の近傍に、回転軸部12との間で隙間を有して、回転軸部12の正逆回転を妨げないように配置されるとともに、中筒13が回転位置Aに位置するように中筒13を軸方向沿いの先端側に向けて常時付勢している。
【0052】
このような構成の工具1は以下のようにして使用することができる。
【0053】
まず、予め、ガイドブロック5を橈骨固定プレート2に重ねて保持爪5c又は専用ネジ又は兼用ネジ等の固定方式で保持したのち、
図4に示すように、ガイドブロック5と橈骨固定プレート2とを、一体的に、橈骨固定プレート2が橈骨3の骨折部分3aをまたぐように、橈骨3に載置する。
【0054】
次いで、
図4に示すように、ガイドブロック5の1つのネジ挿入穴5d及び橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2d内に固定ネジ4を挿入して、固定ネジ4の頭部4cのヘクサロビュラ穴4j内に、工具1の回転軸部12のネジ結合部12cを結合する。この状態では、ネジ挿入穴2dとネジ挿入穴5dと固定ネジ4と工具1とは、それぞれの中心軸が同軸に保持されている。
【0055】
次いで、工具1の回転力入力部11を、固定ネジ4の締め付け方向に回転させ始める。これにより、回転力入力部11からの回転力が、外筒14、回転位置Aにコイルバネ15で付勢された中筒13、回転軸部12、固定ネジ4と伝達されて、ガイドブロック5のネジ挿入穴5dで案内されつつ、固定ネジ4が橈骨3内にネジ込まれる。すなわち、中筒13が回転位置Aに位置するため、第1係合突起13cと第2係合突起14cとの軸回りの係合により、外筒14からの回転力が中筒13に確実に伝達される。また、このとき、ガイドブロック5のネジ挿入穴5dで、固定ネジ4がその軸方向に円滑に進むように案内しつつ、固定ネジ4の軸部4aが橈骨3内にネジ込まれ始める。この固定ネジ4のネジ込み時、固定ネジ4の軸部4aの主ネジ4bが橈骨3に対してセルフタッピング作用を行って、ネジ込まれる。
【0056】
次いで、
図5に示すように、固定ネジ4の締め付け方向の回転が進み、固定ネジ4が橈骨3内にネジ込まれると、中筒13がネジ挿入穴5dの中筒案内部5e内を進み、中筒13が中筒規制部5hに接触するようになる。接触したのちも、締め付け方向の回転が進むことにより、固定ネジ4が橈骨3内にさらにネジ込まれて軸方向に進むと、中筒13が回転軸部12に対して相対的に後退し始める。これは、中筒13が回転位置Aから空転位置Bに向けて移動し始めていることを意味する。このとき、一例として、固定ネジ4の頭部4cの副ネジ4dが橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dの雌ネジ部2fにネジ込まれて又はセルフタッピング作用を行って、橈骨固定プレート2が橈骨3に密着して固定される。
【0057】
この結果、
図6に示すように、橈骨固定プレート2に対して固定ネジ4が所定位置(言わば、固定ネジ締付位置)に位置する。ここで、所定位置とは、例えば、固定ネジ4の頭部4cが、橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dの座ぐり面(すなわち、頭部収納部2eと雌ネジ部2fとの境界)に接触する位置とする。このとき、固定ネジ4の頭部4cの下端が、ネジ挿入穴2dの座ぐり面から一定距離(例えば2mm)までの位置に位置している。ただし、これは一例であって、前記所定位置は、座ぐり面よりも頭部収納部2eの開口側にずれた位置でもよいし、逆に、座ぐり面よりも雌ネジ部2f側に入り込んだ位置でもよい。このような所定位置に固定ネジ4が位置したとき、工具1で中筒13が回転位置Aから空転位置Bまで移動してしまうと、第1係合突起13cと第2係合突起14cとの軸回りの係合が解除される。すると、中筒13に対して外筒14が空転することになり、それ以上、工具1から固定ネジ4に回転力を伝達することができなくなり、ネジ締め作業が行えなくなる。これにより、固定ネジ4が橈骨固定プレート2に対して所定位置に位置した状態に維持されて、固定ネジ4の深度規制及び回転規制が行われることになる。なお、前記一定距離は、橈骨固定プレート2の厚み又は固定ネジ4の頭部4cの厚みにより決定され、色々であるため、前記一定距離は、一律には規定することが困難であり、一例として例示している。
【0058】
なお、締め付け解除時には、ガイドブロック無しで、工具1又は一般のドライバで回転軸部12を逆回転させれば、固定ネジ4を緩めて取り外すことができる。
【0059】
前記第1の実施形態によれば、中筒13の回転位置Aでは第1係合突起13cと第2係合突起14cとが係合し、回転力入力部11を回転させたときの回転力が、外筒14及び中筒13を介して回転軸部12に伝達され、回転軸部12に連結された固定ネジ4が締め付け方向に回転される。一方、固定ネジ4が橈骨3に所定寸法だけネジ込まれると、中筒13が、橈骨固定プレート2に重ねて配置されたガイドブロック5に接触し、中筒13が回転軸部12に対して相対的に回転力入力部11側に後退させられる。これは、中筒13が回転位置Aから空転位置Bに軸方向に移動することを意味し、第1係合突起13cと第2係合突起14cとの軸回りの係合が解除される。すると、回転力入力部11を回転させて外筒14が回転しても、外筒14と中筒13との間で空転し、外筒14からの回転力が回転軸部12に伝達せず、回転規制がなされるとともに、前記所定寸法以上に固定ネジ4がネジ込まれず、深度規制もすることができる。よって、樹脂製の橈骨固定プレート2の固定ネジ4の締め込み深さ規制と回転規制とを容易にかつ確実に実施することができる。すなわち、中筒13を回転位置Aから空転位置Bに移動させて係合解除させることにより、深度規制と回転規制とが実施できるようにして、それ以上、過度な締め付け力が固定ネジ4及び橈骨固定プレート2にかからないようにしている。
【0060】
なお、本発明は前記第1の実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、
図16A~
図16Dに示すように、ガイドブロック5を使用しない場合には、中筒13が接触して中筒13が回転位置Aから空転位置Bに移動するための位置規制部として、橈骨固定プレート2に縁部として中筒規制部2hを設けてもよい。すなわち、橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dを、頭部収納部2eと雌ネジ部2fとで構成するのではなく、頭部収納部2eよりもネジ挿入穴2dの開口側の部分に、頭部収納部2eよりも大きな内径の、中筒案内部5eに対応する中筒案内部2jと、回転軸部貫通部5fに対応する回転軸部貫通部2kとを形成し、かつ、両者の境界部分に中筒規制部5hに対応する中筒規制部2hを有するようにしている。この結果、固定ネジ4の締め付け方向の回転が進み、固定ネジ4が橈骨3内にネジ込まれると、中筒13がネジ挿入穴2dの中筒案内部2j内を進み、中筒13が中筒規制部2hに接触するようになる。接触したのちも、締め付け方向の回転が進むことにより、固定ネジ4が橈骨3内にさらにネジ込まれて軸方向に進むと、中筒13が回転軸部12に対して相対的に後退し始める。これは、中筒13が回転位置Aから空転位置Bに向けて移動し始めていることを意味する。以降の動作は、第1の実施形態と同様である。
【0061】
この変形例によれば、ガイドブロック5を使用しなくても、前記工具1による深度位置規制と回転規制とを実施することができる。
【0062】
本発明の第2の実施形態にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具71は、
図1に示す橈骨固定プレート固定ネジ用工具1と同様に使用可能な工具である。
【0063】
橈骨固定プレート2の各ネジ挿入穴5dは、周方向の所定箇所、例えば軸回りに120度間隔毎に径方向に切り欠かれた回転止め切欠5gを第1回転止め部の一例として配置している。この回転止め切欠5gには、後述する、第2回転止め部の一例としての、工具71のガイド筒8の外周面の例えば120度間隔毎に径方向に突出した回転止め突起8gが入り込んで係止し、回転軸部12が回転しないように規制して、回転止めを行っている。
【0064】
図21などに示すように、第1の実施形態と同様に、ネジ挿入穴2dに挿入される固定ネジ4は、硬質金属製であって、頭部4cと、頭部4cに接続された軸部4aとで構成されている。
【0065】
図2~
図3及び
図21に示すように、各ネジ挿入穴5dの中筒案内部5eガイド筒案内部5eと読み替えることができる。よって、各ネジ挿入穴5dは、大径のガイド筒案内部5eと、ガイド筒案内部5eの内径よりも小さい小径の回転軸部貫通部5fとで構成されている。ガイド筒案内部5eと回転軸部貫通部5fとの境界部分には、円環状の縁部で構成されたガイド筒規制部5hが形成されている。ガイド筒規制部5hには、後述する工具71のガイド筒8の先端が接触して、ガイド筒8がガイド筒規制部5hよりも各ネジ挿入穴5d内の回転軸部貫通部5f内に入らないように位置規制している。
【0066】
図17~
図20に示すように、橈骨固定プレート固定ネジ用工具71は、本体部7と、本体部7とは別部材のガイド筒8とで構成されている。一例として、本体部7とガイド筒8とはステンレス鋼などの金属で構成することができる。
【0067】
本体部7は、回転力入力部(回転力入力部材)81と、回転軸部(回転軸部材)82とを備えている。
【0068】
回転力入力部81は、軸周りの回転力を工具71に付与する部分であり、棒状の部材で構成されている。回転力入力部81は、一例として、手術工具などを連結して、手術工具から回転力を回転力入力部81に入力させて、工具71を軸周りに正逆回転可能にしてもよい。又は、他の例として、手で回すときは、軸方向に延在した平面部81aを有して、平面部81aと平面部81aの湾曲した裏面部分とを指でつまむことにより、工具71を軸周りに正逆回転可能としている。回転力入力部81は、軸周りに正逆回転させて固定ネジ4の締付及び締付解除ができればよいので、平面部81aは必ずしも必要ではない。
【0069】
回転軸部82は、回転力入力部81と同軸に配置され、断面円形の軸部本体82aと、軸部本体82aの先端に有する先すぼまり形状のネジ結合部82cと、軸部本体82aの基端側すなわち基端又は基端近傍に配置された第1係合部とを備えている。軸部本体82aは、回転力入力部81と1つの部材で一体的に構成されてもよいし、回転力入力部81とは別々の部材で構成して連結するようにしてもよい。
【0070】
ネジ結合部82cは、軸部本体82aの先端に配置され、固定ネジ4の頭部4cのヘクサロビュラ穴4jと相対的に回転不可に結合可能なヘクサロビュラネジ回転部であり、固定ネジ4の締付又は締付解除のため、固定ネジ4を正逆回転可能としている。ネジ結合部82cは、固定ネジ4としてのヘクサロビュラネジを使用するとき、その頭部4cのヘクサロビュラ穴4jに係合可能なヘクサロビュラレンチの形状のヘクサロビュラネジ回転部として構成されている。
【0071】
軸部本体82aの基端で、径方向に突出した円環状の突起部82kで構成されている。この円環状の突起部82kは、後述する第3係合部の一例として機能する。
【0072】
軸部本体82aにおいて円環状の突起部82kの先端側には、円環状の突起部82kと隣接して、第1係合部82jが形成されている。第1係合部82jは、一例として、雄ネジで構成されている。第1係合部82jの雄ネジは、円環状の突起部82kの円環状の突起部の外径よりも径方向に小さく形成されている。
【0073】
ガイド筒8は、
図18~
図20に示すように、回転軸部82が挿入されて相対的に軸方向に移動可能でかつ相対的に軸回りに回転可能な円筒部材で構成されている。
【0074】
ガイド筒8は、ガイド筒本体8mと、ガイド筒本体8mの基端の外周面に径方向に突出しかつ第4係合部の一例としての基端端面8kを有する円環凸部8nとを備えている。ガイド筒本体8mと円環凸部8nとの内径は同一として、回転軸部82aが、軸方向に円滑に進退できかつ軸回りに正逆回転可能に挿入可能としている。基端端面8kは、後述するように、円環状の突起部82kと接触して、ガイド筒8に対して回転軸部82が先端側への相対的な軸方向の移動が規制できるようにしている。
【0075】
ガイド筒8の長さは、橈骨固定プレート2にガイドブロック5を載置して固定ネジ4の橈骨3へのネジ込みを行うとき、橈骨3内にネジ込まれる固定ネジ4のネジ込み深さ(すなわち、深度)が所定の寸法となるように、橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dの長さとガイドブロック5のネジ挿入穴5dの回転軸部貫通部5fの長さとを考慮して決めることができる。
【0076】
円環凸部8nの内周面には、第1係合部82jの雄ネジがネジ込まれる雌ネジが、第2係合部8jの一例として形成されている。第2係合部8jの雌ネジに第1係合部82jの雄ネジがすべてネジ込まれると、円環状の突起部82kが基端端面8kに接触し、それ以上に第1係合部82jは第2係合部8jにネジ込めなくなる。この結果、円環状の突起部82kと基端端面8kとの接触により、固定ネジ4の深度規制と回転規制とが行われることになる。
【0077】
なお、第2係合部8jの雌ネジと第1係合部82jの雄ネジとのネジのピッチは、固定ネジ4の頭部4cの副ネジ4dのネジのピッチと同じとすることができる。
【0078】
このようにピッチを同じとする理由は、以下のような問題の発生を避けるためである。
【0079】
まず、第2係合部8jの雌ネジと第1係合部82jの雄ネジとのネジのピッチが頭部4cの副ネジ4dのネジのピッチよりも大きいとき、ガイド筒8とガイドブロック5との間、若しくは、回転軸部82のネジ結合部82cの先端と固定ネジ4との間、若しくは、固定ネジ4と橈骨固定プレート2の雌ネジ部2fとの間に、ピッチ差に相当するだけの負荷が加わり、各構成品の早期磨耗若しくは破損又は橈骨固定プレート2の雌ネジ部2fの破損の可能性がある。
【0080】
また、第2係合部8jの雌ネジと第1係合部82jの雄ネジとのネジのピッチが頭部4cの副ネジ4dのネジのピッチよりも大きいとき、回転軸部82のネジ結合部82cの先端と固定ネジ4との間に隙間が生じ始める。つまり、回転軸部82のネジ結合部82cの先端が固定ネジ4に適切に噛合っていない状態を意味する。これは、回転軸部82のネジ結合部82cの先端の「なめ」を引き起こすことになる。
【0081】
これらの問題の発生を防止する必要がある場合には、前記したようにピッチを同じとする構成にすればよい。
【0082】
ガイド筒8のガイド筒本体8mの外周面には、周方向の所定箇所、例えば軸回りに120度間隔毎に、径方向の回転止めを行うための、回転止め突起8gを径方向に突出かつ軸方向沿いに延在するように形成している。よって、ガイドブロック5の1つのネジ挿入穴5dのガイド筒案内部5e内にガイド筒8の下側の一部を挿入するとき、ガイド筒8の3個の回転止め突起8g雄ネジ挿入穴5dの3個の回転止め切欠5gにはめ込んで軸回りに係止することにより、ネジ挿入穴5dに対してガイド筒8の回転止めを行うことができる。このように、120度間隔毎に、言い換えれば軸回りに均等に、第1回転止め部と第2回転止め部とが係止して回転止めを行うことにより、不均等に回転止め部を配置する場合と比較して、軸回りの回転規制を円滑にかつ確実に行うことができる。
【0083】
このような構成の工具71は以下のようにして使用することができる。
【0084】
まず、予め、ガイドブロック5を橈骨固定プレート2に重ねて保持爪5c又は専用ネジ又は兼用ネジ等の固定方式で保持したのち、
図21に示すように、ガイドブロック5と橈骨固定プレート2とを、一体的に、橈骨固定プレート2が橈骨3の骨折部分3aをまたぐように、橈骨3に載置する。
【0085】
次いで、ガイドブロック5の1つのネジ挿入穴5dのガイド筒案内部5e内にガイド筒8の下側の一部を挿入して、ガイド筒13の先端をガイド筒規制部5hに接触させるとともに、ガイド筒8の回転止め突起8g雄ネジ挿入穴5dの回転止め切欠5gにはめ込んで、ネジ挿入穴5dに対してガイド筒8の回転止めを行う。この状態で、固定ネジ4をガイド筒8内に挿入する。
【0086】
次いで、ガイド筒8内に本体部7の回転軸部82を差し込んで、固定ネジ4の頭部4cのヘクサロビュラ穴4j内に、工具71の回転軸部82のネジ結合部82cを結合する。この状態では、ネジ挿入穴2dとネジ挿入穴5dと固定ネジ4と工具71とは、それぞれの中心軸が同軸に保持されている。
【0087】
次いで、工具71の回転力入力部81を、固定ネジ4の締め付け方向に回転させ始める。これにより、回転力入力部81からの回転力が回転軸部82と固定ネジ4とに伝達されて、ガイドブロック5のネジ挿入穴5dで案内されつつ、固定ネジ4が橈骨3内にネジ込まれる。このとき、ガイドブロック5のネジ挿入穴5dで、固定ネジ4がその軸方向に円滑に進むように案内しつつ、固定ネジ4の軸部4aが橈骨3内にネジ込まれ始める。この固定ネジ4のネジ込み時、固定ネジ4の軸部4aの主ネジ4bが橈骨3に対してセルフタッピング作用を行って、ネジ込まれる。固定ネジ4の橈骨3へのネジ込みが、ある程度、進むと、回転軸部82の第1係合部82jの雄ネジが第2係合部8jの雌ネジへのネジ込みを開始する。このとき、一例として、固定ネジ4の頭部4cの副ネジ4dが橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dの雌ネジ部2fにネジ込まれて、橈骨固定プレート2が橈骨3に密着して固定されるようになる。
【0088】
この結果、
図22に示すように、橈骨固定プレート2に対して固定ネジ4が所定位置(言わば、固定ネジ締付位置)に位置する。ここで、所定位置とは、例えば、固定ネジ4の頭部4cが、橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dの座ぐり面(すなわち、頭部収納部2eと雌ネジ部2fとの境界)に接触する位置とする。このとき、固定ネジ4の頭部4cの下端が、ネジ挿入穴2dの座ぐり面から一定距離(例えば2mm)までの位置に位置している。ただし、これは一例であって、前記所定位置は、座ぐり面よりも頭部収納部2eの開口側にずれた位置でもよいし、逆に、座ぐり面よりも雌ネジ部2f側に入り込んだ位置でもよい。このような所定位置に固定ネジ4が位置したとき、工具71で円環状の突起部82kが基端端面8kに接触し、それ以上に第1係合部82jは第2係合部8jにネジ込めなくなる。この結果、円環状の突起部82kと基端端面8kとの接触により、それ以上、工具71から固定ネジ4に回転力を伝達することができなくなり、ネジ締め作業が行えなくなる。これにより、固定ネジ4が橈骨固定プレート2に対して所定位置に位置した状態に維持されて、固定ネジ4の深度規制及び回転規制が行われることになる。なお、前記一定距離は、橈骨固定プレート2の厚み又は固定ネジ4の頭部4cの厚みにより決定され、色々であるため、前記一定距離は、一律には規定することが困難であり、一例として例示している。
【0089】
なお、締め付け解除時には、ガイドブロック無しで、工具71又は一般のドライバで回転軸部82を逆回転させれば、固定ネジ4を緩めて取り外すことができる。
【0090】
前記第2の実施形態によれば、橈骨固定プレート2またはガイドブロック5のネジ挿入穴5dに差し込まれたガイド筒8に対して、回転力入力部81を回転させて回転軸部82を回転させて固定ネジ4を橈骨3にネジ込みを開始する。その後、固定ネジ4が橈骨3にネジ込まれて、固定ネジ4の締め込み深さが所定寸法になると、円環状の突起部82kと基端端面8kとが接触して係合する。このとき、それ以上、回転軸部82が回転して進むことができず、回転軸部82とともに固定ネジ4を橈骨3内にネジ込むことができず、深度規制を行うことができる。また、同時に、第1係合部82jの雄ネジと第2係合部8jの雌ネジとのネジ込まれて円環状の突起部82kと基端端面8kとが接触して係合することにより、回転軸部82が回転できず、過回転を抑止できて、回転規制も行うことができる。
【0091】
なお、本発明は前記第2の実施形態に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、
図23に示すように、ガイドブロック5を使用しない場合には、
図1に示すように、回転止め切欠5gと同様な回転止め切欠2g雄ネジ挿入穴2dに形成する。すなわち、橈骨固定プレート2の各ネジ挿入穴2dには、周方向の所定箇所、例えば軸回りに120度間隔毎に径方向に切り欠かれた回転止め切欠2gを第3回転止め部の一例として配置している。この回転止め切欠2gには、回転止め切欠5gと同様に、第2回転止め部の一例としての、工具71のガイド筒8の外周面の例えば120度間隔毎に径方向に突出した回転止め突起8gが入り込んで係止し、回転軸部82が回転しないように規制して、回転止めを行うことができる。このとき、ネジ挿入穴2dの内径はガイド筒本体8mの外径よりも大きくしてネジ挿入穴2dの少なくとも一部がガイド筒本体8mに入るようにする。
【0092】
よって、橈骨固定プレート2のネジ挿入穴2dの軸方向沿いにガイド筒8を一方の手で保持しつつネジ挿入穴2d内にガイド筒8を挿入して、回転止め切欠2gに回転止め突起8gが入り込んで係止し、回転軸部82が回転しないように規制して、回転止めを行う。続いて、他方の手で、ガイド筒8内に固定ネジ4を挿入するとともに回転軸部82を挿入し、先の第2の実施形態と同様に回転軸部82を回転させて、固定ネジ4のネジ込みを行うとともに、第1係合部82jを第2係合部8jにネジ込む。
【0093】
その後、固定ネジ4の締め込み深さが所定寸法になると、第1係合部82jは第2係合部8jにネジ込めなくなるとともに円環状の突起部82kと基端端面8kとが接触して係合し、それ以上、回転軸部82が回転して進むことができず、回転軸部82とともに固定ネジ4を橈骨3内にネジ込むことができず、回転規制及び深度規制を行うことができる。
【0094】
この変形例によれば、ガイドブロック5を使用しなくても、前記工具71による深度位置規制と回転規制とを実施することができる。
【0095】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の前記態様にかかる橈骨固定プレート固定ネジ用工具は、樹脂製の橈骨固定プレートの固定ネジの締め込み深さと回転とを容易にかつ確実に規制することができる。
【符号の説明】
【0097】
1 橈骨固定プレート固定ネジ用工具
2 橈骨固定プレート
2a 遠位部
2b 近位部
2d ネジ挿入穴
2e 頭部収納部
2f 雌ネジ部
2h 中筒規制部
2j 中筒案内部
2k 回転軸部貫通部
3 橈骨
3a 骨折部分
3b 橈骨本体
3c 骨折片
4 固定ネジ
4a 軸部
4b 主ネジ
4c 頭部
4d 副ネジ
4j ヘクサロビュラ穴
5 ガイドブロック
5a 遠位部
5b 近位部
5c 保持爪
5d ネジ挿入穴
5e 中筒案内部(ガイド筒案内部)
5f 回転軸部貫通部
5h 中筒規制部(ガイド筒規制部)
7 本体部
8 ガイド筒
8g 回転止め突起
8j 第2係合部
8k 基端端面
8m ガイド筒本体
8n 円環凸部
11 回転力入力部
11a 平面部
11b はめ込み凹部
12 回転軸部
12a 軸部本体
12c ネジ結合部
12d はめ込み突起
12e ばね係止突起
13 中筒
13a 中筒本体
13b 貫通穴
13c 第1係合突起
13d 基端端面
13e 第1係合凹部
13g 傾斜面
14 外筒
14a 外筒本体
14b 貫通穴
14c 第2係合突起
14e 第2係合凹部
14g 傾斜面
16 固定ピン
71 橈骨固定プレート固定ネジ用工具
81 回転力入力部
81a 平面部
82 回転軸部
82a 軸部本体
82c ネジ結合部
82j 第1係合部
82k 円環状の突起部
A 回転位置
B 空転位置