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  • 特許-エアバッグ装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/36 20110101AFI20250212BHJP
【FI】
B60R21/36 352
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022026364
(22)【出願日】2022-02-24
(65)【公開番号】P2023122711
(43)【公開日】2023-09-05
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002424
【氏名又は名称】ケー・ティー・アンド・エス弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 真也
【審査官】高瀬 智史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0133971(US,A1)
【文献】特開2020-196325(JP,A)
【文献】特開2020-142715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントウィンドの下部および側部に沿って展開するエアバッグであって、
前記下部から前記側部に向けて展開する第1室と、
前記第1室と壁を隔てて配置され、前記第1室よりも上方の前記側部に沿って展開する第2室と、
前記第1室および前記第2室にガスを噴出するガス発生装置と、
前記ガス発生装置と前記第2室とを接続する接続路と、
前記ガス発生装置から前記第1室に前記ガスを優先して供給する第1モードと、前記接続路に前記ガスを優先して供給する第2モードと、を選択する制御装置と、
を備えるエアバッグ装置。
【請求項2】
自転車との衝突、および歩行者との衝突のいずれか一方であると判断する判断装置とをさらに備え、
前記制御装置は、前記自転車との衝突が検知された場合、前記第2モードを選択する、
請求項に記載のエアバッグ装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記歩行者との衝突が検知された場合、前記第1モードを選択する、
請求項に記載のエアバッグ装置。
【請求項4】
前記ガス発生装置は、前記第1室に前記ガスを供給する第1供給口と、前記接続路に前記ガスを供給する第2供給口と、有し、
前記エアバッグ装置は、前記第1供給口および前記第2供給口の開口面積を可変させる可変装置をさらに備え、
前記制御装置は、前記第2モードが選択された場合、前記第2供給口が優先的に開口するように前記可変装置を制御する、
請求項1から3のいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記第1モードが選択された場合、前記第1供給口が優先的に開口するように前記可変装置を制御する、
請求項に記載のエアバッグ装置。
【請求項6】
前記壁に設けられ、前記第1室と、前記第2室と、を連通する連通路をさらに備える、
請求項1からのいずれか1項に記載のエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両のカウルトップからフロントウィンドの下部およびフロントウィンドの両側部にあるフロントピラーに向かって展開するエアバッグ装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1のエアバッグ装置は、車両が歩行者と衝突した場合に展開し、歩行者の頭部を保護する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-43635号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のエアバッグ装置は、歩行者の保護を対象としたエアバッグ装置である。しかし、歩行者との衝突のみならず自転車の乗員との衝突も考慮したエアバッグ装置が好ましい。
【0005】
本開示の課題は、歩行者との衝突と自転車の乗員との衝突の両方において非衝突者を保護できるエアバッグ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係るエアバッグ装置は、フロントウィンドの下部および側部に沿って展開するエアバッグであって、前記下部から前記側部に向けて展開する第1室と、前記第1室と壁を隔てて配置され、前記第1室よりも上方の前記側部に沿って展開する第2室と、前記第1および前記第2室にガスを噴出するガス発生装置と、前記ガス発生装置と前記第2室とを接続する接続路と、前記ガス発生装置から前記第1室に前記ガスを優先して供給する第1モードと、前記接続路に前記ガスを優先して供給する第2モードと、を選択する制御装置と、を備える。

【0007】
このエアバッグ装置によれば、接続路を介して第1室より上方にある第2室に速やかにガスが供給される。これによって、第2室が速やかに展開する。この結果、車両と衝突した場合に歩行者よりも高い位置に頭部が衝突する自転車の乗員を保護することができる。また、第1室も展開するため、車両に衝突した歩行者も保護することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、歩行者との衝突と自転車の乗員との衝突の両方において非衝突者を保護できるエアバッグ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の実施形態によるエアバッグ装置の展開時の全体図。
図2】本開示の実施形態によるエアバッグ装置の収納時および展開時の左側面図。
図3】本開示の実施形態によるエアバッグ装置のシステム図。
図4】本開示の実施形態によるエアバッグ装置の歩行者との衝突時の状態を示す図。
図5】本開示の実施形態によるエアバッグ装置の自転車との衝突時の状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下明細書において、車両の前後方向をQと図面に記し、前方をFと記す。また、車両の車幅方向をPと図面に記し、車両の後方からみて右側をRと記す。さらに、車両の上下方向をGと図面に記し、上方をUと記す。
【0011】
図1および図2に示すように、車両Cは、フロントウィンド2と、フロントウィンド2の車幅方向Pの両側部に配置されるフロントピラー4と、フード6と、フード6とフロントウィンド2の間に配置されるカウルトップ8(図2参照)と、を有する。エアバッグ装置1は、フロントウィンド2の下部および側部に沿って展開する。
【0012】
エアバッグ装置1は、第1室10と、一対の第2室12と、インフレータ(ガス発生装置の一例)14と、一対の第2室12のそれぞれに繋がる2つの接続路16と、ベンチレーションホール(連通路の一例)18と、を備える。図3に示すように、エアバッグ装置1は、さらに制御装置20と、バルブシステム(可変装置の一例)22と、判断装置24と、衝突検知センサ26と、を備える。
【0013】
図1および図2に示すように、第1室10は、フロントウィンド2の下部から側部に向けて展開する。具体的には、第1室10は、U字型に展開するエアバッグである。第1室10は、インフレータ14から膨張ガスが供給されると、カウルトップ8の上方に展開したのち、フロントピラー4に沿って上方に展開する。
【0014】
一対の第2室12は、第1室10と壁12aを隔てて配置され、第1室10よりも上方Gのフロントピラー4に沿って展開する。具体的には、第2室12は、左側部のフロントピラー4に沿った第2室12と、右側部のフロントピラー4に沿った第2室12と、二つある。本実施形態では、左側部の第2室12と、右側部の第2室12は、左右対称の形状である。また、本実施形態では、第1室10と第2室12とを隔てる壁12aにベンチレーションホール18が設けられる。ベンチレーションホール18は、第1室10と、第2室12と、を連通し、第1室10および第2室12が過度に膨張することを抑制する。
【0015】
本実施形態では、第1室10および第2室12は、折りたたまれてカウルトップ8の下方にインフレータ14とともに格納される。しかし、第1室10および第2室12は、第1室10および第2室12が、上記の場所に展開できれば、いずれの場所に格納してもよい。また、本実施形態では第1室10および第2室12は、ナイロン製の生地を袋状にして形成したものである。しかし、第1室10および第2室12は、通常のエアバッグで使用する素材であればいかなる材料によって形成してもよい。
【0016】
インフレータ14は、第1室10および第2室12に膨張ガス(ガスの一例)を噴出することによって、第1室10と第2室12とを、折りたたまれた状態から展開した状態まで膨張させる。
【0017】
図3に示すようにインフレータ14は、第1室10に膨張ガスを供給する第1供給口14aと、接続路16に膨張ガスを供給する第2供給口14bと、を有する。第1供給口14aは、第1室10と接続され、第1室10に直接膨張ガスを供給する。第2供給口14bは、接続路16と接続され、左右の第2室12に膨張ガスを供給する。
【0018】
図1および図2に示すように、接続路16は、インフレータ14と第2室12とを接続する。接続路16は、インフレータ14の出口で左右に分岐し、左右の第2室12まで延びる。本実施形態では接続路16は、袋状の第1室10の中に、第1室10と同素材の生地によって筒状の通路を形成したものである。接続路16は、壁12aを貫通し形成され、第2供給口14bから出た膨張ガスが直接第2室にのみに流入する。
【0019】
ベンチレーションホール18は、壁12aに設けられ、第1室10と、第2室12と、を連通する。本実施形態では、壁12aにあけられた孔がベンチレーションホール18である。ベンチレーションホール18は、第1室10に膨張ガスが過剰に流入した場合、第1室10から第2室12に膨張ガスを逃がすことによって第1室10の膨らみを調整する調整孔として機能する。また、ベンチレーションホール18は、第2室12に過剰に膨張ガスが流入した場合、第2室12から第1室10に膨張ガスを逃がすことによって第2室12の膨らみを調整する調整孔としても機能する。
【0020】
図3に示すように、制御装置20は、第1モードと、第2モードと、を選択する。第1モードは、インフレータ14から第1室10に膨張ガスを優先して供給するモードである。これによって、第1室10が第2室12よりも先に展開し膨張する。第2モードは、接続路16に膨張ガスを優先して供給するモードである。これによって、第2室12が第1室10よりも先に展開し膨張する。
【0021】
制御装置20は、実際にはエアバッグECU(Electrоnic Control Unit)であり、演算装置と、メモリと、入出力バッファ等と、を含むマイクロコンピュータによって構成される。制御装置20は、各センサおよび各種装置からの信号、ならびにメモリに格納されたマップおよびプログラムに基づいてエアバッグを展開する。
【0022】
バルブシステム22は、第1供給口14aおよび第2供給口14bの開口面積を可変させる。本実施形態では、バルブシステム22は、スライドバルブ22aと、スライドバルブ22aをスライドさせるアクチュエータ22bと、を有する。スライドバルブ22aは、第1供給口14aと第2供給口14bとの間をスライドしながら動く。アクチュエータ22bは、制御装置20に電気的に接続され、制御装置20からの制御信号に応じてスライドバルブ22aを動かす。
【0023】
判断装置24は、自転車との衝突、および歩行者との衝突のいずれか一方であると判断する。本実施形態では判断装置24は、カメラと、カメラもしくはエアバッグECUに含まれる画像処理のプログラムを含む。判断装置24は、カメラから取得した画像を画像処理によって自転車との衝突である場合と、および歩行者との衝突である場合のいずれか一方の衝突形態であると判断する。判断装置24は、自転車に衝突した場合、自転車との衝突を示す信号を生成する。一方、判断装置24は、歩行者に衝突した場合、歩行者との衝突を示す信号を生成する。判断装置24は、いずれか一方の信号を生成すると生成した信号を制御装置20に送る。
【0024】
衝突検知センサ26は、衝突を検知する装置である。衝突検知センサ26は例えば車両Cのバンパなどに取り付けられ、歩行者または自転車に衝突した場合に信号を生成し制御装置20に送信する。制御装置20は、衝突検知センサ26からの信号を受けて画像処理を開始してもよい。
【0025】
次に、制御装置20の制御手順について説明する。
【0026】
制御装置20は、車両Cが歩行者と衝突した場合、第1モードを選択する。具体的には、判断装置24によって歩行者との衝突が判断された場合、制御装置20は第1モードを選択する。制御装置20は、第1モードが選択されると、スライドバルブ22aを第1供給口14aの開口面積が最大となるようにスライドさせるとともに、第2供給口14bの開口面積が小さくなる。このように、制御装置20がスライドバルブ22aを作動させることによって、第1供給口14aに流入する膨張ガスの量が第2供給口14bに流入する膨張ガスの量よりも大きくなる。これによって、第1室10が第2室12よりも優先して展開し膨張する。
【0027】
制御装置20は、車両Cが自転車と衝突した場合、第2モードを選択する。具体的には、判断装置24によって自転車との衝突が判断された場合、制御装置20は第2モードを選択する。制御装置20は、第2モードが選択されると、スライドバルブ22aを第2供給口14bの開口面積が最大となるようにスライドさせるとともに、第1供給口14aの開口面積が小さくなる。このように、制御装置20がスライドバルブ22aを作動させることによって、第2供給口14bに流入する膨張ガスの量が第1供給口14aに流入する膨張ガスの量よりも大きくなる。これによって、第2室12が第1室10よりも優先して展開し膨張する。
【0028】
このように構成されたエアバッグ装置1は、図4に示すように車両Cが歩行者と衝突した場合、第1室10が第2室12よりも早く展開し膨張する。歩行者が衝突した場合、歩行者の頭部Mがカウルトップ8に近く、高さが低い位置のフロントピラー4に衝突しやすい。このため、第1室10が第2室12よりも早く展開し膨張することによって、歩行者の頭部Mを保護しやすい。
【0029】
一方、エアバッグ装置1は、図5に示すように車両Cが自転車と衝突した場合、第2室12が第1室10よりも早く展開し膨張する。車両Cが自転車に衝突した場合、自転車の乗員の頭部Mは、歩行者に比べ高い位置のフロントピラー4に衝突しやすい。例えば、第2室12の高さまで第1室10を伸ばした場合、容積が大きくなり、自転車の乗員がフロントピラー4に衝突するまでに第1室10が展開しきれない可能性がある。このため、本開示では、第1室10と壁12aで隔てた第2室12を設け、第2室12とインフレータ14を接続する接続路16を設けることによって、第2室12を素早く展開できる。
【0030】
さらに、バルブシステム22を用いてインフレータ14から出る膨張ガスの供給量を可変させることによって、歩行者との衝突、自転車との衝突といった衝突形態に応じて第1室10および第2室12のいずれいか一方を優先的に展開し膨張できる。これによって、衝突形態に応じたエアバッグが適切に展開し膨張する。この結果、歩行者、および自転車の乗員の頭部Mがフロントピラー4に衝突する前に、衝突形態に応じた適切なエアバッグが展開する。このため、歩行者との衝突と自転車の乗員との衝突の両方において非衝突者を保護できる。
【0031】
以上説明した通り、本開示によれば、歩行者との衝突と自転車の乗員との衝突の両方において非衝突者を保護できるエアバッグ装置1を提供できる。
【0032】
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。特に、本明細書に書かれた複数の変形例は必要に応じて任意に組合せ可能である。
【0033】
(a)上記実施形態では、判断装置24の一例としてカメラと画像処理プログラムを例に説明したが、本開示はこれに限定されるものではない。歩行者との衝突か、自転車との衝突かの判断は、例えばレーダなどを用いて判断してもよい。
【0034】
(b)上記実施形態では、スライドバルブ22aを有するバルブシステム22を用いて、第1供給口14aと第2供給口14bに流れる膨張ガスの量を調整したが、本開示はこれに限定されない。例えば、各供給口にバルブを設けるなどして、各供給口に流れる膨張ガスの量を調整してもよい。
【符号の説明】
【0035】
1 :エアバッグ装置
2 :フロントウィンド
10 :第1室
12 :第2室
12a :壁
14 :インフレータ(ガス膨張装置の一例)
14a :第1供給口
14b :第2供給口
16 :接続路
18 :ベンチレーションホール(連通路の一例)
20 :制御装置
22 :バルブシステム(可変装置の一例)
24 :判断装置
C :車両
図1
図2
図3
図4
図5