(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04858 20160101AFI20250212BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20250212BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20250212BHJP
H01M 8/04313 20160101ALI20250212BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20250212BHJP
【FI】
H01M8/04858
H01M8/04537
H01M8/04746
H01M8/04313
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2022028300
(22)【出願日】2022-02-25
【審査請求日】2024-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下村 哲也
(72)【発明者】
【氏名】若山 直矢
【審査官】柳幸 憲子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-62785(JP,A)
【文献】特表2020-518114(JP,A)
【文献】特開2010-21072(JP,A)
【文献】特開2010-67531(JP,A)
【文献】特開2021-190306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/04858
H01M 8/04537
H01M 8/04746
H01M 8/04313
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムであって、
複数のセル(10a)が積層して構成される燃料電池スタック(10)と、
負荷装置(LD)から要求される要求出力が所定出力を超える際に負荷運転を実施し、前記所定出力以下である場合に前記燃料電池スタックへの空気供給を間欠的に行う間欠運転を実施する運転制御部(50a)と、
前記間欠運転中における前記燃料電池スタックの上下限電圧値を電圧制限範囲として設定する電圧設定部(50b)と、を備え、
前記電圧設定部は、前記負荷運転から前記間欠運転に切り替わる直前の前記燃料電池スタックの電圧を直前電圧として記憶部(51)に記憶し、少なくとも前記直前電圧が含まれるように前記間欠運転中における前記電圧制限範囲を設定する、燃料電池システム。
【請求項2】
前記電圧設定部は、
前記間欠運転に切り替わる前に実施されていた前記負荷運転時の前記燃料電池スタックの電圧を負荷運転電圧として前記記憶部に逐次記憶し、
前記記憶部に記憶された前記負荷運転電圧に基づいて前記間欠運転中における前記電圧制限範囲を設定する、請求項1に記載の燃料電池システム。
【請求項3】
前記電圧設定部は、前記記憶部に記憶された前記負荷運転電圧の平均値が含まれるように前記間欠運転中における前記電圧制限範囲を設定する、請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記電圧設定部は、前記負荷運転電圧を前記負荷運転電圧の検出時の前記要求出力と関連付けて前記記憶部に記憶し、
前記記憶部に記憶された前記負荷運転電圧のうち、前記負荷装置からの要求頻度が所定値以上となる前記要求出力に対応する前記負荷運転電圧に基づいて前記間欠運転中における前記電圧制限範囲を設定する、請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池スタックの全体の電圧を前記セルの数で除したものをFC電圧としたとき、
前記電圧設定部は、前記負荷運転から前記間欠運転に切り替わる直前の前記FC電圧が0.7ボルト以下である場合に、前記電圧制限範囲の下限電圧値が前記燃料電池スタックを構成する前記セルの数に0.7を乗じた値以下となるように前記間欠運転中における前記電圧制限範囲を設定する、請求項1ないし4のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記間欠運転から前記負荷運転への切り替え後の前記要求出力を予測出力として予測するとともに、前記予測出力に対応する前記燃料電池スタックの電圧を予測電圧として算出する出力予測部(50c)を備え、
前記電圧設定部は、前記間欠運転中に所定条件が成立すると、前記間欠運転から前記負荷運転に切り替える前の前記電圧制限範囲を少なくとも前記予測電圧が含まれる範囲に変更する、請求項1ないし5のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池システムであって、
複数のセル(10a)が積層された燃料電池スタック(10)と、
負荷装置(LD)から要求される要求出力が所定出力を超える際に負荷運転を実施し、前記所定出力以下である場合に前記燃料電池スタックへの空気供給を間欠的に行う間欠運転を実施する運転制御部(50a)と、
前記間欠運転中における前記燃料電池スタックの上下限電圧値を電圧制限範囲として設定する電圧設定部(50b)と、
前記間欠運転から前記負荷運転への切り替え後の前記要求出力を予測出力として予測するとともに、前記予測出力に対応する前記燃料電池スタックの電圧を予測電圧として算出する出力予測部(50c)と、を備え、
前記電圧設定部は、前記間欠運転中に所定条件が成立すると、前記間欠運転から前記負荷運転に切り替える前の前記電圧制限範囲を少なくとも前記予測電圧が含まれる範囲に設定する、燃料電池システム。
【請求項8】
燃料電池システムであって、
複数のセル(10a)が積層された燃料電池スタック(10)と、
負荷装置(LD)から要求される要求出力が所定出力を超える際に負荷運転を実施し、前記所定出力以下である場合に前記燃料電池スタックへの空気供給を間欠的に行う間欠運転を実施する運転制御部(50a)と、
前記間欠運転中における前記燃料電池スタックの上下限電圧値を電圧制限範囲として設定する電圧設定部(50b)と、
前記負荷運転から前記間欠運転への切り替え後の前記要求出力を予測出力として予測するとともに、前記予測出力に対応する前記燃料電池スタックの電圧を予測電圧として算出する出力予測部(50c)と、を備え、
前記電圧設定部は、前記負荷運転中に所定条件が成立すると、前記負荷運転から前記間欠運転に切り替えた後の前記電圧制限範囲を少なくとも前記予測電圧が含まれる範囲に設定する、燃料電池システム。
【請求項9】
前記出力予測部は、前記間欠運転から前記負荷運転への切り替え後の前記要求出力を負荷予測出力として予測するとともに、前記負荷予測出力に対応する前記燃料電池スタックの電圧を負荷予測電圧として算出し、
前記電圧設定部は、前記間欠運転中に前記所定条件が成立すると、前記間欠運転から前記負荷運転に切り替える前の前記電圧制限範囲を少なくとも前記負荷予測電圧が含まれる範囲に設定する、請求項8に記載の燃料電池システム。
【請求項10】
移動体に適用されるものであって、
前記出力予測部は、前記移動体の位置と前記予測出力との対応関係を規定した制御マップを参照し、前記移動体の現在位置から前記予測出力を求めるように構成されている、請求項6ないし9のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【請求項11】
前記所定条件は、前記現在位置が前記出力予測部で前記予測出力を求めることが可能な予測可能区間にある場合に成立する、請求項10に記載の燃料電池システム。
【請求項12】
前記燃料電池スタックの全体の電圧を前記セルの数で除したものをFC電圧としたとき、
前記電圧設定部は、前記予測電圧が0.7ボルト以下である場合に、前記電圧制限範囲の下限電圧値が前記燃料電池スタックを構成する前記セルの数に0.7を乗じた値以下となるように前記間欠運転中における前記電圧制限範囲を設定する、請求項7ないし11のいずれか1つに記載の燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、間欠運転中における燃料電池の電圧変動回数や間欠運転中における燃料電池の電圧変動量に対応する電極触媒劣化量を考慮して、電極触媒の劣化を効果的に抑制する燃料電池システムが知られている(例えば、特許文献1参照)。この特許文献1の燃料電池システムは、間欠運転の継続時間と電極触媒の劣化量との関係を規定した劣化特性マップを用いて、電極触媒劣化量が最小になるように間欠運転継続時間に応じて、間欠運転中における燃料電池の電圧変動の上下限電圧値を変化させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、通常の運転モードである負荷運転から間欠運転への切り替え時や間欠運転から負荷運転への切り替え時に、燃料電池の電圧変動が生ずる。このような電圧変動は電極触媒の劣化を招く要因となることから好ましくない。
【0005】
しかしながら、特許文献1では、間欠運転中における燃料電池の上下限電圧値を間欠運転の継続時間に応じて設定しており、通常の運転モード時の燃料電池の電圧が全く考慮されていない。このため、間欠運転および負荷運転の切り替えに起因した燃料電池の電圧変動が発生する。
【0006】
本開示は、間欠運転および負荷運転の切り替えに起因する燃料電池の電圧変動を抑制可能な燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、
燃料電池システムであって、
複数のセル(10a)が積層して構成される燃料電池スタック(10)と、
負荷装置(LD)から要求される要求出力が所定出力を超える際に負荷運転を実施し、所定出力以下である場合に燃料電池スタックへの空気供給を間欠的に行う間欠運転を実施する運転制御部(50a)と、
間欠運転中における燃料電池スタックの上下限電圧値を電圧制限範囲として設定する電圧設定部(50b)と、を備え、
電圧設定部は、負荷運転から間欠運転に切り替わる直前の燃料電池スタックの電圧を直前電圧として記憶部(51)に記憶し、少なくとも直前電圧が含まれるように間欠運転中における電圧制限範囲を設定する。
【0008】
このように、間欠運転中における電圧制限範囲を、間欠運転に切り替わる直前の直前電圧を含むように設定すれば、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタックの電圧変動を抑制することができる。したがって、間欠運転および負荷運転の切り替えに起因する燃料電池の電圧変動を抑制することができる。
【0009】
請求項6に記載の発明は、
燃料電池システムであって、
複数のセル(10a)が積層された燃料電池スタック(10)と、
負荷装置(LD)から要求される要求出力が所定出力を超える際に負荷運転を実施し、所定出力以下である場合に燃料電池スタックへの空気供給を間欠的に行う間欠運転を実施する運転制御部(50a)と、
間欠運転中における燃料電池スタックの上下限電圧値を電圧制限範囲として設定する電圧設定部(50b)と、
間欠運転から負荷運転への切り替え後の要求出力を予測出力として予測するとともに、予測出力に対応する燃料電池スタックの電圧を予測電圧として算出する出力予測部(50c)と、を備え、
電圧設定部は、間欠運転中に所定条件が成立すると、間欠運転から負荷運転に切り替える前の電圧制限範囲を少なくとも予測電圧が含まれる範囲に設定する。
【0010】
このように、間欠運転中に所定条件が成立した場合に、間欠運転中の電圧制限範囲を負荷運転に切り替わった後の予測電圧を含むように設定すれば、間欠運転から負荷運転へ切り替わる際の燃料電池スタックの電圧変動を抑制することができる。したがって、間欠運転および負荷運転の切り替えに起因する燃料電池の電圧変動を抑制することができる。
【0011】
請求項7に記載の発明は、
燃料電池システムであって、
複数のセル(10a)が積層された燃料電池スタック(10)と、
負荷装置(LD)から要求される要求出力が所定出力を超える際に負荷運転を実施し、所定出力以下である場合に燃料電池スタックへの空気供給を間欠的に行う間欠運転を実施する運転制御部(50a)と、
間欠運転中における燃料電池スタックの上下限電圧値を電圧制限範囲として設定する電圧設定部(50b)と、
負荷運転から間欠運転への切り替え後の要求出力を予測出力として予測するとともに、予測出力に対応する燃料電池スタックの電圧を予測電圧として算出する出力予測部(50c)と、を備え、
電圧設定部は、負荷運転中に所定条件が成立すると、負荷運転から間欠運転に切り替えた後の電圧制限範囲を少なくとも予測電圧が含まれる範囲に設定する。
【0012】
このように、負荷運転中に所定条件が成立した場合に、間欠運転に切り替わった後の電圧制限範囲を、予測電圧を含む範囲に設定すれば、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタックの電圧変動を抑制することができる。したがって、間欠運転および負荷運転の切り替えに起因する燃料電池の電圧変動を抑制することができる。
【0013】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】第1実施形態に係る燃料電池システムが搭載される移動体を説明するための説明図である。
【
図2】第1実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【
図3】FC電圧とFC出力との関係を説明するための説明図である。
【
図4】間欠運転時のFC電圧の平均値と間欠運転後の負荷運転時のスタック電圧との関係を説明するための説明図である。
【
図5】第1実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図6】第1実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する制御処理を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】第2実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図8】第3実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図である。
【
図9】第3実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図10】第3実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する出力予測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】予測電圧取得区間を説明するための説明図である。
【
図12】第3実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する制御処理を説明するためのタイミングチャートである。
【
図13】第4実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する制御処理の流れを示すフローチャートである。
【
図14】第4実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する出力予測処理の流れを示すフローチャートである。
【
図15】第4実施形態に係る燃料電池システムの制御装置が実行する制御処理を説明するためのタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の実施形態において、先行する実施形態で説明した事項と同一もしくは均等である部分には、同一の参照符号を付し、その説明を省略する場合がある。また、実施形態において、構成要素の一部だけを説明している場合、構成要素の他の部分に関しては、先行する実施形態において説明した構成要素を適用することができる。以下の実施形態は、特に組み合わせに支障が生じない範囲であれば、特に明示していない場合であっても、各実施形態同士を部分的に組み合わせることができる。
【0016】
(第1実施形態)
本実施形態について、
図1~
図6を参照して説明する。本開示の燃料電池システム1は、
図1に示すように、移動体であるバスBSに適用され、当該バスBSに搭載される燃料電池スタック10の発電状態を制御する。燃料電池システム1は、バスBS以外の移動体にも適用することができる。
【0017】
図2に示すように、燃料電池スタック10は、複数のセル10aが積層して構成されている。セル10aは、酸素を含む酸化剤ガスおよび水素を含む燃料ガスといった反応ガスの電気化学反応によって電気エネルギを出力する。図示しないが、セル10aは、電解質膜を含む膜電極接合体MEAを備える固体高分子型燃料電池で構成されている。MEAは、Membrane Electrode Assembly 略称である。
【0018】
各セル10aは、以下に示す水素および酸素の電気化学反応により、電気エネルギを出力する。
【0019】
(燃料極側):H2→2H++2e-
【0020】
(空気極側):2H++1/2O2+2e-→H2O
燃料電池スタック10は、各セル10aそれぞれが出力する電圧の積算電圧を図示しない外部回路を通じてDC-DCコンバータCNVに出力する。なお、燃料電池スタック10には、冷却水を流通させる流通経路を含み、当該流通経路を流れる冷却水によって燃料電池スタック10の温度が適正範囲内に維持される。
【0021】
ここで、本開示では、各セル10aそれぞれが出力する電圧をセル電圧とし、燃料電池スタック10の端子間電圧をスタック電圧とし、スタック電圧をセル10aの数で除したものをFC電圧[V/cell]とする。なお、FC電圧は、各セル10aのセル電圧の平均電圧である。
【0022】
燃料電池スタック10は、燃料電池スタック10の出力電力(直流電力)であるFC出力をDC-DCコンバータCNVを介してバッテリBTおよび車両走行用の電動モータや補機を含む負荷装置LDに供給する。DC-DCコンバータCNVは、負荷装置LDからの要求出力に応じて、FC出力およびバッテリBTに蓄積された電力の少なくとも一方を負荷装置LDに供給する。なお、DC-DCコンバータCNVは、FC出力に負荷装置LD側で余剰となる電力が含まれる場合に当該余剰電力をバッテリBTに供給する。バッテリBTは充放電可能な二次電池である。
【0023】
燃料電池スタック10には、燃料電池スタック10への燃料の供給経路である燃料供給管21および燃料電池スタック10から排出されるオフ燃料の排出経路である燃料排出管22が接続されている。
【0024】
燃料供給管21の最上流部には、水素タンク23が設けられている。燃料供給管21における水素タンク23の下流側には、水素供給弁24が設けられている。水素供給弁24は、水素タンク23から燃料電池スタック10への水素の供給量を調整する調整弁である。
【0025】
燃料排出管22には、オフ燃料の気液を分離する気液分離器25が設けられるとともに、気液分離器25の下流に水素排出弁26が設けられている。気液分離器25は、オフ燃料に含まれる水等とオフ燃料に含まれる未反応燃料を含むガスとを分離する。気液分離器25は、気液分離器25で分離した未反応燃料を含むガスを燃料供給管21に戻すための循環管27が接続されている。循環管27は、一端が気液分離器25の液出口に接続され、他端が燃料供給管21における水素供給弁24と燃料電池スタック10との間に接続されている。循環管27には、燃料供給管21へ未反応燃料を含むガスを圧送するための循環ポンプ28が設けられている。なお、燃料電池システム1は、循環ポンプ28の代わりに、循環管27と燃料供給管21との間にエジェクタが配置されていてもよい。
【0026】
燃料電池スタック10には、燃料電池スタック10への空気の供給経路である空気供給管31および燃料電池スタック10から排出されるオフ空気の排出経路である空気排出管32が接続されている。
【0027】
空気供給管31には、燃料電池スタック10に向けて空気を圧送する空気ポンプ33が設けられている。空気供給管31は、空気ポンプ33から供給される空気の一部を、燃料電池スタック10をバイパスして空気排出管32に流すためのバイパス管34が設けられている。バイパス管34は、一端が空気供給管31における空気ポンプ33と燃料電池スタック10との間に接続され、他端が空気排出管32に接続されている。
【0028】
空気供給管31とバイパス管34と接続部分には、分流弁35が設けられている。分流弁35は、空気ポンプ33から燃料電池スタック10に向かう空気流量と空気ポンプ33からバイパス管34に向かう空気流量とを調整する流量調整弁である。なお、分流弁35は、空気排出管32とバイパス管34と接続部分に設けられていてもよい。
【0029】
次に、燃料電池システム1の電子制御部について説明する。燃料電池システム1は、電子制御部として制御装置50を備える。制御装置50は、プロセッサ、記憶部51、I/O機器、その他の周辺機器を含むECUで構成されている。なお、記憶部51は、非遷移的実体的記憶媒体で構成される。
【0030】
制御装置50の入力側には、DC-DCコンバータCNV、バッテリBT、電圧センサ52、電流センサ53が接続されている。制御装置50は、DC-DCコンバータCNVおよびバッテリBTに接続されていることで、バッテリBTの蓄電容量SOCに関する情報を取得可能になっている。
【0031】
制御装置50は、電圧センサ52に接続されていることで、電圧センサ52から燃料電池スタック10の端子間電圧であるスタック電圧を含む情報を取得可能になっている。また、制御装置50は、電流センサ53に接続されていることで、電流センサ53から燃料電池スタック10から掃引されるFC電流を含む情報を取得可能になっている。
【0032】
また、制御装置50には、スタートスイッチSWを含む操作部54およびアクセル開度センサ55が接続されている。スタートスイッチSWは、ユーザによって操作されるスイッチである。
【0033】
スタートスイッチSWは、ユーザによってオンされると、燃料電池スタック10の始動を指示する制御信号を制御装置50に送信する。スタートスイッチSWは、ユーザによってオフされると、燃料電池スタック10の停止を指示する制御信号を制御装置50に送信する。
【0034】
アクセル開度センサ55は、ユーザによるアクセルペダルのペダル操作量を検出するセンサである。アクセル開度センサ55は、周期的または不定期にペダル操作量を示す信号を制御装置50に出力する。なお、アクセル開度センサ55は、制御装置50に直接的に接続されている必要はなく、他のECUを介して間接的に接続されていてもよい。
【0035】
制御装置50の出力側には、水素供給弁24、水素排出弁26、循環ポンプ28、空気ポンプ33、分流弁35が接続されている。制御装置50は、スタートスイッチSWがオンされると、負荷装置LDからの要求出力に応じて制御装置50の出力側に接続された各種機器の動作を制御する。
【0036】
制御装置50は、負荷装置LDからの要求出力に応じて運転モードを切り替える。具体的には、制御装置50は、負荷装置LDからの要求出力が所定出力を超える際に負荷運転を実施し、所定出力以下である場合に燃料電池スタック10への空気供給を間欠的に行う間欠運転を実施する。なお、本実施形態では、制御装置50における運転モードを切り替える機能が“運転制御部50a”を構成している。
【0037】
負荷運転は、燃料電池スタック10によって発電(すなわち、電力の出力)を行い、その電力を用いて負荷装置LDを駆動させる通常の運転モードである。なお、負荷運転は、燃料電池スタック10の電力だけでなく、バッテリBTの電力を併用するようになっていてもよい。
【0038】
また、間欠運転は、燃料電池スタック10による発電を停止し、バッテリBTの電力を用いて負荷装置LDを駆動させる運転モードである。なお、間欠運転は、燃料電池スタック10による発電を完全に停止するものに限らず、発電を制限しながらも少量の発電は継続する運転モードであってもよい。
【0039】
ここで、本発明者らは、燃料電池システム1を搭載した燃料電池車両の市場での使われ方を調査した。この調査の結果、以下のことが明らかとなった。
【0040】
(1)負荷装置LDからの要求出力が低い場合の間欠運転の実施回数は、走行距離に対し比例して増加する傾向がある
【0041】
(2)燃料電池システム1の出力頻度は、最大出力に対して20%未満の低出力域での使用が最も多い傾向がある
上記の(1)、(2)により、燃料電池車両は、市場では、間欠運転と低出力の負荷運転とが交互に繰り返して実施されていると推測される。そして、負荷運転から間欠運転への切り替え時や間欠運転から負荷運転への切り替え時に燃料電池スタック10の電圧変動が生じ易いと推測される。例えば、負荷運転から間欠運転に切り替わる際には、各セル10aから掃引するFC電流が低下することで、
図3に示すようにFC電圧が上昇して電圧変動が生ずる。このため、負荷運転から間欠運転に切り替わる際には、各セル10aの電極触媒の劣化が進行しやすい状態であることが推測される。
【0042】
これらの知見に基づいて、本発明者らは、各セル10aの電極触媒の劣化を抑制するためには、負荷運転と間欠運転との切り替え時に生ずるFC電圧の変動を抑制する必要があることを見出した。
【0043】
ここで、本開示の背景技術として挙げた「特開2013-101774号公報」では、間欠運転時のFC電圧の下限値が0.7ボルト程度に設定されている。
【0044】
本発明者らは、間欠運転時のFC電圧の平均電圧と当該間欠運転後の負荷運転時のスタック電圧との関係を調べるための試験を実施した。この結果によると、
図4に示すように、間欠運転時のFC電圧の平均電圧が低いほど、間欠運転後の負荷運転時のスタック電圧が高まり易いことが判った。特に、間欠運転時のFC電圧の平均値が0.7ボルト以下の場合は、0.7ボルトを超える場合に比べて、その後の負荷運転時のスタック電圧が高くなることが分った。換言すれば、「特開2013-101774号公報」においてFC電圧の下限電圧として示された0.7ボルトよりも間欠運転時のFC電圧の下限値を低くすると、間欠運転後の負荷運転での性能が高くなることが分った。
【0045】
このような性能向上は、いわゆる電極触媒のリフレッシュ効果の作用と考えられる。この電極触媒のリフレッシュ効果は、例えば、電極触媒の有効面積の回復効果であり、空気極側の電位を還元電圧に引き下げて電極触媒の表面の酸化被膜を除去することで得られる。
【0046】
これらを鑑みて、本実施形態の燃料電池システム1は、負荷運転から間欠運転に切り替える際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するための制御処理を制御装置50が実行するようになっている。この制御処理については、
図5を参照しつつ説明する。
図5に示す制御ルーチンは、スタートスイッチSWがオフされた状態で周期的または不定期に制御装置50によって実行される。
【0047】
図5に示すように、制御装置50は、ステップS100にて、スタートスイッチSWがオンされたか否かを判定する。制御装置50は、スタートスイッチSWがオンされるまで待機し、スタートスイッチSWがオンされると、ステップS105に移行する。
【0048】
燃料電池システム1は、スタートスイッチSWがオンされてから暫くの間、負荷装置LDからの要求出力が低いことが多い。このため、スタートスイッチSWがオンされると、制御装置50は、ステップS105にて、燃料電池システム1の始動運転を兼ねた間欠運転を開始する。間欠運転では、燃料電池スタック10へ水素および空気を供給するとともに、燃料電池スタック10の上下限電圧値を電圧制限範囲Vaとし、当該電圧制限範囲Vaにスタック電圧が維持されるように、制御装置50の出力側に接続された各種機器の動作を制御する。
【0049】
具体的には、間欠運転では、燃料電池スタック10への空気供給を間欠的に行う。例えば、
図6に示すように、制御装置50は、電圧制限範囲Vaの上限電圧値Vaaに達すると燃料電池スタック10への空気供給を停止し、スタック電圧が電圧制限範囲Vaの下限電圧値Vadに達すると燃料電池スタック10への空気供給を再開する。なお、電圧制限範囲Vaは、間欠運転時の電圧変動による電極触媒の劣化が生じ難いように、上限電圧値Vaaと下限電圧値Vadとの差分である電圧幅が設定されている。この電圧幅は、例えば、0.1程度に設定される。
【0050】
続いて、制御装置50は、ステップS110にて、アクセル開度センサ55から供給される信号に基づいて負荷装置LDの要求出力を算出し、算出した要求出力が予め定めた第1出力以下であるか否かを判定する。なお、第1出力は、例えば、アイドリング時、一定速での巡航走行時、回生制動時等において燃料電池スタック10に要求される要求出力に設定される。
【0051】
制御装置50は、負荷装置LDの要求出力が第1出力以下である場合に間欠運転を継続し、負荷装置LDの要求出力が第1出力を超えると、ステップS115に移行して、負荷運転を開始する。この負荷運転では、燃料電池スタック10の出力が負荷装置LDの要求出力となるように、制御装置50の出力側に接続された各種機器の動作を制御する。
【0052】
続いて、制御装置50は、ステップS120にて、負荷運転時の燃料電池スタック10のスタック電圧を検出し、当該スタック電圧を負荷運転電圧として記憶部51に逐次記憶する。制御装置50は、負荷運転電圧のうち、負荷運転から間欠運転に切り替わる直前のスタック電圧を直前電圧として記憶部51に記憶する。なお、制御装置50は、負荷運転時のFC電圧を負荷運転電圧として記憶部51に逐次記憶するようになっていてもよい。
【0053】
続いて、制御装置50は、ステップS125にて、負荷装置LDの要求出力が予め定めた第2出力以下であるか否かを判定する。この第2出力は、第1出力と同じでもよいが、制御ハンチングが抑制されるように、第1出力よりも低い値に設定されている方が望ましい。
【0054】
負荷装置LDの要求出力が第2出力を超えている場合、制御装置50は、負荷運転を継続する。一方、負荷装置LDの要求出力が第2出力以下になると、制御装置50は、ステップS130に移行する。
【0055】
制御装置50は、ステップS130にて、少なくとも間欠運転に切り替わる直前のスタック電圧(すなわち、直前電圧)が含まれるように間欠運転中における燃料電池スタック10の上下限電圧である電圧制限範囲Vbを設定する。本実施形態では、制御装置50のうち間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する機能が“電圧設定部50b”を構成している。なお、電圧制限範囲Vbの電圧幅は、電圧制限範囲Vaと同様に設定されている。
【0056】
本実施形態の制御装置50は、記憶部51に記憶された負荷運転電圧に基づいて間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。例えば、制御装置50は、
図6の上段に示すように、記憶部51に記憶された負荷運転電圧の平均値が間欠運転中における平均電圧になるように、記憶部51に記憶された負荷運転電圧の平均値を間欠運転中における電圧制限範囲Vbの中央値Vbcに設定する。
【0057】
ここで、前述したように、間欠運転時のFC電圧の下限値を“0.7”よりも低くすると、間欠運転後の負荷運転での性能が高くなる。このことを加味して、制御装置50は、負荷運転から間欠運転に切り替わる直前のFC電圧が0.7ボルト以下である場合に、電圧制限範囲Vbの下限電圧値Vbdがセル数に“0.7”を乗じた値以下となるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。また、制御装置50は、負荷運転から間欠運転に切り替わる直前のFC電圧が0.7ボルトを超える場合、電圧変動幅が所定の電圧幅(例えば、0.1程度)に収まるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。なお、上記のセル数は、燃料電池スタック10を構成するセル10aの数である。
【0058】
続いて、制御装置50は、ステップS135にて、間欠運転を開始する。この間欠運転では、燃料電池スタック10のスタック電圧が、ステップ130で設定した電圧制限範囲Vb内に維持されるように、制御装置50の出力側に接続された各種機器の動作を制御する。これにより、負荷運転から間欠運転に切り替わる際に、スタック電圧の上昇が抑制される。なお、ステップS135において、ステップS105の間欠運転を実施する場合、
図6の上段の一点鎖線で示すように、負荷運転から間欠運転に切り替わる際に、スタック電圧が上昇してしまう。
【0059】
ここで、
図3は、FC出力とFC電圧との関係を示している。例えば、
図3に示す動作点Aで、各セル10aから掃引するFC電流を急激に低下させた場合、燃料電池スタック10は、水素および空気それぞれがリッチな状態であるために、FC電圧が急上昇する。
【0060】
このことを加味して、制御装置50は、例えば、
図6に示すように、FC電流を徐々に低下させると同時に、燃料電池スタック10への空気流量を徐々に低下させる。これによると、空気不足によって各セル10aの性能を敢えて悪化させて、FC電圧が過大になることが抑えられる。なお、空気流量の調整は、空気ポンプ33の回転数や分流弁35の開度調整によって行うことができる。
【0061】
そして、制御装置50は、スタック電圧の調整が完了したら、そのときのスタック電圧が維持されるように、空気流量を間欠運転の開始当初よりも低くする。なお、必要に応じて燃料電池スタック10への空気供給のタイミングを調整してもよい。
【0062】
続いて、制御装置50は、ステップS140にて、負荷装置LDの要求出力が予め定めた第3出力以下であるか否かを判定する。この第3出力は、第2出力と同じでもよいが、制御ハンチングが抑制されるように、第2出力よりも高い値に設定されている方が望ましい。なお、第3出力は、第1出力と同じでよいし、第1出力とは異なっていてもよい。
【0063】
制御装置50は、負荷装置LDの要求出力が第3出力を超えている場合、ステップS115に戻り、負荷運転を開始する。一方、制御装置50は、負荷装置LDの要求出力が第3出力以下の場合、ステップS145に移行する。
【0064】
制御装置50は、ステップS145にて、スタートスイッチSWがオフである否かを判定する。制御装置50は、スタートスイッチSWがオンである場合にステップS135に戻って間欠運転を行い、スタートスイッチSWがオフである場合には本処理を抜け、図示しない発電停止処理を実行する。
【0065】
以上説明した燃料電池システム1は、負荷運転時の電圧の履歴を記憶しておき、負荷運転から間欠運転に切り替える際に、負荷運転時の電圧の履歴を参照して間欠運転時の電圧制限範囲Vbを調整する構成になっている。具体的には、制御装置50は、負荷運転から間欠運転に切り替わる直前のスタック電圧を直前電圧として記憶部51に記憶し、少なくとも直前電圧が含まれるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。このように、間欠運転中における電圧制限範囲Vbを、間欠運転に切り替わる直前の直前電圧を含むように設定すれば、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。したがって、間欠運転および負荷運転の切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。この結果、各セル10a内の電極触媒の劣化を抑制することができる。
【0066】
また、本実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
【0067】
(1)制御装置50は、間欠運転に切り替わる前に実施されていた負荷運転時のスタック電圧を負荷運転電圧として記憶部51に逐次記憶する。そして、制御装置50は、記憶部51に記憶された負荷運転電圧に基づいて間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。このように、直前電圧だけでなく、負荷運転中に逐次記憶される負荷運転電圧に基づいて、間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定すれば、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。
【0068】
(2)制御装置50は、記憶部51に記憶された負荷運転電圧の平均値が含まれるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。このように、負荷運転電圧の平均値を含むように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定すれば、負荷変動に伴う一時的に電圧低下や電圧上昇が間欠運転中における電圧制限範囲Vbの設定に影響することを抑制することができる。このため、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。
【0069】
加えて、記憶部51に記憶された負荷運転電圧の平均値が間欠運転中における平均電圧になるように電圧制限範囲Vbを設定すれば、空気流量の調整手段である空気ポンプ33や分流弁35の要求精度を低くすることができる。これにより、空気ポンプ33および分流弁35の少なくとも一方を汎用的な部品を構成することが可能になる。
【0070】
(3)制御装置50は、負荷運転から間欠運転に切り替わる直前のFC電圧が0.7ボルト以下である場合に、電圧制限範囲Vbの下限電圧値Vbdがセル数に“0.7”を乗じた値以下となるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。これによれば、負荷運転の電圧が低い場合には、セル10aに内蔵される電極触媒のリフレッシュ効果が得られやすくなるので、間欠運転後の負荷運転の性能向上を図ることができる。
【0071】
このように、本実施形態の燃料電池システム1は、間欠運転中に触媒リフレッシュ効果を作用させながら、負荷運転から間欠運転に切り替える際の燃料電池スタック10の電圧変動が抑制されるため、各セル10aの電極触媒の劣化を充分に抑制することができる。
【0072】
(第1実施形態の変形例)
第1実施形態では、記憶部51に記憶された負荷運転電圧の平均値が間欠運転中における平均電圧になるように、電圧制限範囲Vbを設定したものを例示したが、これに限定されない。例えば、制御装置50は、負荷運転電圧を当該負荷運転電圧の検出時の負荷装置LDからの要求出力と関連付けて記憶部51に記憶する。そして、制御装置50は、記憶部51に記憶された負荷運転電圧のうち、負荷装置LDからの要求頻度が所定値以上となる要求出力に対応する負荷運転電圧に基づいて間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定するようになっていることが望ましい。これによっても、負荷運転時における一時的な電圧低下や電圧上昇が間欠運転中における電圧制限範囲Vbの設定に影響することを抑制することができるので、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。
【0073】
第1実施形態の制御装置50は、記憶部51に記憶された直前電圧が、間欠運転中における平均電圧になるように、電圧制限範囲Vbを設定するようになっていてもよい。また、制御装置50は、記憶部51に記憶されたスタック電圧の加重移動平均値が間欠運転中における平均電圧になるように、電圧制限範囲Vbを設定するようになっていてもよい。
【0074】
第1実施形態の如く、制御装置50は、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際、FC出力を徐々に低下させるとともに、燃料電池スタック10への空気流量を徐々に低下させてスタック電圧を調整することが望ましいが、これに限定されない。制御装置50は、例えば、燃料電池スタック10への空気流量を低下させた後にFC出力を低下させることで、スタック電圧を調整するようになっていてもよい。
【0075】
第1実施形態の如く、制御装置50は、間欠運転に切り替わる直前のFC電圧が0.7ボルト以下の場合に電圧制限範囲Vbの下限電圧値Vbdがセル数に“0.7”を乗じた値以下となるように電圧制限範囲Vbを設定することが望ましいが、これに限定されない。制御装置50は、間欠運転に切り替わる直前のFC電圧が0.7ボルトよりも若干高い場合にも電圧制限範囲Vbの下限電圧値Vbdがセル数に“0.7”を乗じた値を超えるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定するようになっていてもよい。また、制御装置50は、負荷運転電圧の平均値が0.7ボルト以下の場合に電圧制限範囲Vbの下限電圧値Vbdがセル数に“0.7”を乗じた値を超えるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定するようになっていてもよい。
【0076】
第1実施形態の制御装置50は、スタートスイッチSWがオンされると、始動運転を兼ねた間欠運転を実行するようになっているが、これに限定されない。制御装置50は、例えば、スタートスイッチSWがオンされると、間欠運転とは異なる始動運転を実行するようになっていてもよい。
【0077】
第1実施形態の制御装置50は、間欠運転時にスタック電圧を制御指標として燃料電池スタック10の電圧調整を行っているが、これに限らず、FC電圧を制御指標として燃料電池スタック10の電圧調整を行うようになっていてもよい。
【0078】
これらの変形例は、第1実施形態だけではなく、以降の実施形態においても同様に適用される。
【0079】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、
図7を参照して説明する。本実施形態では、制御装置50が実行する制御処理の一部が第1実施形態と相違している。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0080】
制御装置50は、負荷運転から間欠運転に切り替える際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するために
図7に示す制御処理を実行する。
図7に示す制御処理は、第1実施形態で説明した
図5の制御処理に対応している。
【0081】
図7に示す制御処理のうち、ステップS200、S205、S210、S215の各処理は、
図5に示すステップS100、S105、S110、S115の各処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0082】
図7に示すように、制御装置50は、ステップS215で負荷運転が開始された後、ステップS220にて、負荷装置LDの要求出力が予め定めた第2出力以下であるか否かを判定する。負荷装置LDの要求出力が第2出力を超えている場合、制御装置50は、負荷運転を継続する。一方、負荷装置LDの要求出力が第2出力以下になると、制御装置50は、ステップS225に移行する。
【0083】
ここで、第1実施形態で説明した
図5のステップS115の間欠運転では、FC出力を徐々に低下させているので、余剰電力が発生する。この余剰電力量は、FC出力とFC出力がゼロになるまでの時間を乗ずることで推定可能である。なお、FC出力がゼロになるまでの時間は、電圧の調整手段や燃料電池スタック10の空気流路の容積によって決まり易いため、所定の時間を一義的に設定してもよい。
【0084】
この余剰電力量がバッテリBTの空容量以下の場合は、問題なく余剰電力をバッテリBTに充電することができる。一方、余剰電力量がバッテリBTの空容量を超えるの場合は、余剰電力によってバッテリBTが過充電状態となってしまう。
【0085】
これらを考慮し、制御装置50は、ステップS225にて、間欠運転時に生ずる余剰電力をバッテリBTに充電可能であるか否かを判定する。換言すれば、制御装置50は、間欠運転時に生ずる余剰電力量がバッテリBTの空容量を超えるか否かを判定する。
【0086】
例えば、制御装置50は、満充電時のバッテリBTのSOCから現在のバッテリBTのSOCを減算した値からバッテリBTの空容量を算出する。その後、制御装置50は、バッテリBTの空容量と前述の手法によって求めた余剰電力量との大小関係に基づいて、余剰電力をバッテリBTに充電可能であるか否かを判定する。
【0087】
余剰電力をバッテリBTに充電可能である場合、制御装置50は、ステップS230にて、負荷運転時の燃料電池スタック10のスタック電圧を検出し、当該スタック電圧を負荷運転電圧として記憶部51に記憶する。なお、ステップS230の処理は、
図5に示すステップS120と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0088】
続いて、制御装置50は、ステップS235にて、間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定した後、ステップS240の処理に移行する。なお、ステップS235の処理は、
図5に示すステップS130と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0089】
一方、余剰電力をバッテリBTに充電できない場合、制御装置50は、ステップS230、S235の各処理をスキップして、ステップS240の処理に移行する。これにより、バッテリBTの過充電が抑制される。
【0090】
制御装置50は、ステップS240にて、間欠運転を開始する。制御装置50は、ステップS235にて電圧制限範囲Vbが調整されている場合、
図5に示すステップS135と同様の間欠運転を実施する。一方、制御装置50は、ステップS235で説明した電圧制限範囲Vbが設定されていない場合、
図5に示すステップS105と同様の間欠運転を実施する。
【0091】
続いて、制御装置50は、ステップS245にて、負荷装置LDの要求出力が予め定めた第3出力以下であるか否かを判定する。制御装置50は、負荷装置LDの要求出力が第3出力を超えている場合、ステップS215に戻り、負荷運転を開始する。一方、制御装置50は、負荷装置LDの要求出力が第3出力以下の場合、ステップS250に移行する。
【0092】
制御装置50は、ステップS250にて、スタートスイッチSWがオフである否かを判定する。制御装置50は、スタートスイッチSWがオンである場合にステップS240に戻って間欠運転を継続し、スタートスイッチSWがオフである場合には本処理を抜け、図示しない発電停止処理を実行する。
【0093】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0094】
(1)制御装置50は、間欠運転時に生ずる余剰電力量がバッテリBTの空容量以下であるか否かを判定する。余剰電力量がバッテリBTの空容量以下となる場合に、制御装置50は、所定時間をかけてFC出力を低下させて間欠運転を実行する。一方、余剰電力量がバッテリBTの空容量を超える場合に、制御装置50は、所定時間よりも短時間でFC出力を低下させて間欠運転を実行する。なお、所定時間よりも短時間とは、例えば、実質的に余剰電力を生じさせない時間である。
【0095】
これによれば、バッテリBTの過充電を避けつつ、負荷運転から間欠運転への切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。この結果、バッテリBTを保護しつつ、各セル10a内の電極触媒の劣化を抑制することができる。
【0096】
(第2実施形態の変形例)
第2実施形態の制御装置50は、負荷運転から間欠運転に切り替える際、間欠運転時に生ずる余剰電力量がバッテリBTの空容量を超える場合に、所定時間よりも短時間でFC出力を低下させて間欠運転を実行しているが、これに限定されない。制御装置50は、例えば、間欠運転時に生ずる余剰電力量がバッテリBTの空容量を超える場合、負荷運転時に、バッテリBTの空容量が余剰電力量よりも大きくなるようにバッテリBTの空容量を増加させる処理を実行するようになっていてもよい。
【0097】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、
図8~
図12を参照して説明する。本実施形態の燃料電池システム1は、間欠運転から負荷運転への切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制する。本実施形態では、第1実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0098】
図8に示すように、本実施形態の燃料電池システム1は、バスBSの位置情報を取得する情報取得部56が接続されている。情報取得部56は、例えば、車載されたナビゲーションシステムのGPS等を介してバスBSの位置情報を取得する。なお、情報取得部56は、車外に配置されたシステムから位置情報を取得するようになっていてもよい。
【0099】
制御装置50は、間欠運転から負荷運転への切り替え後の負荷装置LDからの要求出力を予測出力として予測するとともに、当該予測出力に対応するスタック電圧を予測電圧として算出する。具体的には、制御装置50は、バスBSの位置と予測出力との対応関係を規定した制御マップを参照し、バスBSの現在位置から予測出力を求めるように構成されている。本実施形態では、制御装置50における予測出力および予測電圧を予測する機能が“出力予測部50c”を構成している。なお、制御マップは、記憶部51に予め記憶されている。
【0100】
また、制御装置50は、間欠運転中に所定条件が成立すると、燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するために、間欠運転から負荷運転に切り替える前の電圧制限範囲Vbを少なくとも予測電圧が含まれる範囲に設定する。
【0101】
以下、間欠運転から負荷運転に切り替える際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するために制御装置50が実行する制御処理について
図9を参照しつつ説明する。
図9に示す制御処理は、第1実施形態で説明した
図5の制御処理に対応している。なお、
図9に示す制御処理のうち、ステップS300、S305、S310の各処理は、
図5に示すステップS100、S105、S110の各処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0102】
図9に示すように、ステップS310の判定処理で負荷装置LDの要求出力が第1出力を超える場合、制御装置50は、ステップS315にて、負荷運転を開始する。なお、ステップS315の処理は、
図5に示すステップS115と同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0103】
続いて、制御装置50は、ステップS320にて、負荷装置LDの要求出力が第2出力以下であるか否かを判定する。負荷装置LDの要求出力が第2出力を超えている場合、制御装置50は、負荷運転を継続する。一方、負荷装置LDの要求出力が第2出力以下になると、制御装置50は、ステップS335に移行する。
【0104】
一方、ステップS310の判定処理で負荷装置LDの要求出力が第1出力以下である場合、制御装置50は、ステップS325にて、間欠運転から負荷運転への切り替え後の負荷装置LDからの要求出力を予測する出力予測処理を実行する。この出力予測処理については、
図10に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0105】
図10に示すように、制御装置50は、ステップS400にて、情報取得部56から移動体であるバスBSの位置情報を取得する。そして、制御装置50は、ステップS405にて、バスBSの現在位置が出力予測部50cで予測出力を求めることが可能な予測可能区間にあるか否かを判定する。予測可能区間は、移動体の走行経路において移動体の位置と予測出力とが制御マップにて対応付けられた区間である。
【0106】
ここで、
図11は、予測可能区間の一例を説明するための説明図である。
図11に示すように、バスBSが一時的に停留所STに停車した後、停留所STから発進する場合、停留所STに近づくまでは、車速を維持するため、負荷装置LDの要求出力が高くなり、負荷運転が実施される。バスBSが停留所STに到達すると、一時的にアクセルペダルが踏まれなくなるため、負荷装置LDの要求出力が略ゼロとなり、間欠運転が実施される。その後、バスBSが停留所STから発進する際には、アクセルペダルが踏み込まれて加速するため、負荷装置LDの要求出力が高くなり、負荷運転が実施される。
【0107】
停留所ST付近は、上記の一連の動作が実施される可能性が非常に高く、負荷装置LDの要求出力が予測し易い。このため、本実施形態では、停留所STおよび停留所STの前後を予測可能区間に設定している。なお、負荷装置LDの要求出力は、停留所ST付近を過去に実際に走行した際の負荷装置LDの要求出力等に基づいて容易に予測することができる。
【0108】
因みに、予測可能区間は、停留所ST付近だけに限らず、ETCゲート付近、踏切付近、信号付近に設定されていてもよい。ETCゲート、踏切待ち、信号待ち等においても停留所STと同様の一連の動作が実施される可能性が高いからである。例えば、ETCゲートの通過時には、バスBSがETCゲートに近づくまでは、車速を維持するため、負荷装置LDの要求出力が高くなり、負荷運転が実施される。バスBSがETCゲートを通過中は、一時的にアクセルペダルが踏まれなくなるため、負荷装置LDの要求出力が略ゼロとなり、間欠運転が実施される。その後、バスBSがETCゲートを通過後は、アクセルペダルが踏み込まれて加速するため、負荷装置LDの要求出力が高くなり、負荷運転が実施される。
【0109】
図10に戻り、バスBSの現在位置が予測可能区間にある場合、制御装置50は、ステップS410にて、バスBSの現在位置に基づいて予測出力を取得する。制御装置50は、例えば、バスBSの位置と予測出力との対応関係を規定した制御マップを参照し、バスBSの現在位置に基づいて予測出力を得る。
【0110】
ここで、予測出力は予め設定された予測出力値とその位置で要求された要求出力値の実績値とに基づき、予測出力値と実績値の差分をフィードバックし、予測出力値を更新するようになっていることが望ましい。
【0111】
また、制御マップは、複数の停留所STに対して単一の要求出力が設定されていてもよいが、複数の停留所STの設置箇所それぞれに対応して固有の要求出力が設定されている方が望ましい。複数の停留所STの設置箇所それぞれに対応して固有の要求出力が設定されている場合、予測出力の精度を高くすることができるといった利点がある。なお、複数の停留所STに対して単一の要求出力が設定されている場合、制御マップを容易に生成することができる。また、制御マップには、停留所STに限らず、ETCゲート、踏切り、信号等の設置箇所と当該箇所で予測される要求出力とが設定されていてもよい。
【0112】
制御装置50は、ステップS415にて、予測出力に基づいて当該予測出力に対応する燃料電池スタック10の電圧を予測電圧として算出する。このステップS415の演算処理は、予測出力と予測電圧との対応関係を規定した関係式等を用いてステップS410の予測出力から予測電圧を算出する。予測出力と予測電圧の関係は、走行距離や累計の発電時間等の経年劣化による発電性能の低下を見込んで補正することが望ましい。なお、制御装置50は、ステップS410、S415の演算処理で得られた予測出力および予測電圧を記憶部51に記憶する。
【0113】
続いて、制御装置50は、ステップS420にて、予測電圧に基づいて間欠運転中における電圧制限範囲Vbを更新して、出力予測処理を抜ける。制御装置50は、少なくとも予測電圧が含まれるように、間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。例えば、制御装置50は、
図12の上段に示すように、記憶部51に記憶された予測電圧が間欠運転中における平均電圧になるように、記憶部51に記憶された予測電圧を間欠運転中における電圧制限範囲Vbの中央値Vbcに設定する。また、制御装置50は、予測電圧が0.7ボルト以下である場合には、電圧制限範囲Vbの下限電圧値Vbdがセル数に“0.7”を乗じた値以下となるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。理由は、第1実施形態で説明した通りである。なお、制御装置50は、予測電圧が0.7ボルトを超える場合、電圧変動幅が所定の電圧幅(例えば、0.1程度)に収まるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。
【0114】
一方、バスBSの現在位置が予測可能区間にない場合、制御装置50は、ステップS410、S415、S420をスキップして、出力予測処理を抜ける。すなわち、制御装置50は、負荷運転時の要求出力を予測せずに、出力予測処理を抜ける。
【0115】
出力予測処理を抜けると、制御装置50は、
図9のステップS330にて、負荷装置LDの要求出力が第3出力以下であるか否かを判定する。負荷装置LDの要求出力が第3出力を超えている場合、制御装置50は、ステップS315に移行して負荷運転を開始する。
【0116】
この間欠運転では、
図10のステップS420にて間欠運転中の電圧制限範囲Vbが予測電圧を含む範囲に更新された場合、当該電圧制限範囲Vb内に維持されるように、制御装置50の出力側に接続された各種機器の動作が制御される。これにより、間欠運転から負荷運転に切り替わる際のスタック電圧の上昇が抑制される。
【0117】
一方、負荷装置LDの要求出力が第3出力以下の場合、制御装置50は、ステップS335に移行する。制御装置50は、ステップS335にて、スタートスイッチSWがオフである否かを判定する。制御装置50は、スタートスイッチSWがオンである場合にステップS305に戻って間欠運転を行い、スタートスイッチSWがオフである場合には本処理を抜け、図示しない発電停止処理を実行する。
【0118】
その他については、第1実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態と同様に得ることができる。
【0119】
(1)制御装置50は、間欠運転中に所定条件が成立すると、間欠運転から負荷運転に切り替える前の電圧制限範囲Vbを少なくとも予測電圧が含まれる範囲に変更する。これによれば、間欠運転から負荷運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。
【0120】
(2)例えば、バスBSの位置が登り坂にある状況では、負荷装置LDからの要求出力が高くなる傾向がある。また、バスBSの位置が下り坂にある状況やバスBSが高速道路等において略一定の速度で走行する状況では、負荷装置LDからの要求出力が低くなる傾向がある。このように、バスBSの位置と負荷装置LDからの要求出力との間には相関性が認められる。このような相関性は、バスBS以外の移動体においても同様である。
【0121】
これらを加味して、本実施形態の制御装置50は、バスBSの位置と予測出力との対応関係を規定した制御マップを参照し、バスBSの現在位置から予測出力を求めるように構成されている。これによると、間欠運転から負荷運転へ切り替わる際の負荷装置LDからの要求出力を適切に予測することができる。
【0122】
(3)上記の所定条件は、例えば、バスBSの現在位置が予測可能区間にある場合に成立する条件とすればよい。なお、所定条件は、これに限らず、例えば、バスBSの現在位置が予測出力とともに制御マップに登録された位置である場合に成立する条件であってもよい。
【0123】
(第3実施形態の変形例)
第3実施形態の燃料電池システム1は、間欠運転から負荷運転への切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するように構成されているが、これに限定されない。第3実施形態の燃料電池システム1は、負荷運転から間欠運転への切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するように構成されていてもよい。例えば、燃料電池システム1は、負荷運転から間欠運転に切り替わる直前のスタック電圧を直前電圧として記憶部51に記憶し、少なくとも直前電圧が含まれるように間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定するようになっていてもよい。これによると、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動の抑制効果に加えて、間欠運転から負荷運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動の抑制効果を得ることができる。
【0124】
また、第3実施形態の制御装置50は、バスBSの位置と予測出力との対応関係を規定した制御マップを参照し、バスBSの現在位置から予測出力を求めるように構成されているが、これに限定されない。例えば、バスBS等の移動体は、時刻に応じて現在位置が推定可能である。このため、制御装置50は、現在時刻に基づいて、負荷装置LDからの要求出力を予測するようになっていてもよい。また、制御装置50は、車速の増減時のアクセルペダルの操作量およびブレーキペダルの操作量等を学習し、この学習結果に基づいて、現在のアクセルペダルの操作量やブレーキペダルの操作量から負荷装置LDからの要求出力を予測するようになっていてもよい。これらのことは、以降の実施形態においても同様である。
【0125】
(第4実施形態)
次に、第4実施形態について、
図13~
図15を参照して説明する。本実施形態の燃料電池システム1は、負荷運転から間欠運転への切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制する。本実施形態では、第1実施形態および第3実施形態と異なる部分について主に説明する。
【0126】
制御装置50は、負荷運転から間欠運転への切り替え後の負荷装置LDからの要求出力を予測出力として予測するとともに、当該予測出力に対応するスタック電圧を予測電圧として算出する。本実施形態では、制御装置50における予測出力および予測電圧を予測する機能が“出力予測部50c”を構成している。なお、制御マップは、記憶部51に予め記憶されている。
【0127】
また、制御装置50は、負荷運転中に所定条件が成立すると、燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するために、負荷運転から間欠運転に切り替えた後の電圧制限範囲Vbを少なくとも予測電圧が含まれる範囲に設定する。
【0128】
以下、負荷運転から間欠運転に切り替える際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するために制御装置50が実行する制御処理について
図13を参照しつつ説明する。
図13に示す制御処理は、第1実施形態で説明した
図5の制御処理に対応している。なお、
図13に示す制御処理のうち、ステップS500、S505、S510、S515の各処理は、
図5に示すステップS100、S105、S110、S115の各処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0129】
図13に示すように、制御装置50は、ステップS515で負荷運転が開始された後、ステップS520にて、バスBSの現在位置に基づいて予測出力を取得する出力予測処理を実行する。この出力予測処理については、
図14に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0130】
図14に示すように、制御装置50は、ステップS600にて、情報取得部56から移動体であるバスBSの位置情報を取得する。そして、制御装置50は、ステップS605にて、バスBSの現在位置が出力予測部50cで予測出力を求めることが可能な予測可能区間にあるか否かを判定する。
【0131】
バスBSの現在位置が予測可能区間にある場合、制御装置50は、ステップS610にて、バスBSの現在位置に基づいて予測出力を取得する。そして、制御装置50は、ステップS615にて、予測出力に基づいて当該予測出力に対応する燃料電池スタック10の電圧を予測電圧として算出する。これら処理は、
図10のステップS410、S415の処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0132】
続いて、制御装置50は、ステップS620にて、負荷装置LDの要求出力が第2出力以下であるか否かを判定する。負荷装置LDの要求出力が第2出力を超えている場合、制御装置50は、ステップS515に戻り、負荷運転を継続する。一方、負荷装置LDの要求出力が第3出力以下の場合、制御装置50は、ステップS625にて、予測電圧に基づいて間欠運転中における電圧制限範囲Vbを更新して、出力予測処理を抜ける。すなわち、制御装置50は、少なくとも予測電圧が含まれるように、間欠運転中における電圧制限範囲Vbを設定する。例えば、制御装置50は、
図15の上段に示すように、記憶部51に記憶された予測電圧が間欠運転中における平均電圧になるように、記憶部51に記憶された予測電圧を間欠運転中における電圧制限範囲Vbの中央値Vbcに設定する。
【0133】
一方、バスBSの現在位置が予測可能区間にない場合、制御装置50は、ステップS630にて、負荷装置LDの要求出力が第3出力以下であるか否かを判定する。この第3出力は、第2出力と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0134】
負荷装置LDの要求出力が第3出力を超えている場合、制御装置50は、ステップS515に戻り、負荷運転を継続する。一方、負荷装置LDの要求出力が第3出力以下の場合、制御装置50は、出力予測処理を抜ける。
【0135】
出力予測処理を抜けると、制御装置50は、
図13のステップS525にて、間欠運転を開始する。この間欠運転では、
図14のステップS625にて間欠運転中の電圧制限範囲Vbが予測電圧を含む範囲に更新された場合、当該電圧制限範囲Vb内に維持されるように、制御装置50の出力側に接続された各種機器の動作が制御される。これにより、負荷運転から間欠運転に切り替わる際のスタック電圧の上昇が抑制される。
【0136】
例えば、制御装置50は、例えば、
図15の下段に示すように、空気流量を徐々に低下させる。加えて、制御装置50は、燃料電池スタック10への空気流量を徐々に低下させる。これによると、空気不足によって各セル10aの性能を敢えて悪化させて、FC電圧が過大になることが抑えられる。なお、空気流量の調整は、空気ポンプ33の回転数や分流弁35の開度調整によって行うことができる。
【0137】
続いて、制御装置50は、ステップS530にて、負荷装置LDの要求出力が予め定めた第4出力以下であるか否かを判定する。制御装置50は、負荷装置LDの要求出力が第4出力を超えている場合、ステップS515に戻り、負荷運転を開始する。一方、制御装置50は、負荷装置LDの要求出力が第4出力以下の場合、ステップS535に移行する。
【0138】
制御装置50は、ステップS535にて、スタートスイッチSWがオフである否かを判定する。制御装置50は、スタートスイッチSWがオンである場合にステップS505に戻って間欠運転を行い、スタートスイッチSWがオフである場合には本処理を抜け、図示しない発電停止処理を実行する。
【0139】
その他については、第1実施形態および第3実施形態と同様である。本実施形態の燃料電池システム1は、第1実施形態および第3実施形態と共通の構成または均等な構成から奏される効果を第1実施形態および第3実施形態と同様に得ることができる。
【0140】
(1)本実施形態の制御装置50は、負荷運転中に所定条件が成立した場合に、間欠運転に切り替わった後の電圧制限範囲Vbを、予測電圧を含む範囲に設定する。これによれば、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。したがって、間欠運転および負荷運転の切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制することができる。
【0141】
(第4実施形態の変形例)
第4実施形態の燃料電池システム1は、負荷運転から間欠運転への切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するように構成されているが、これに限定されない。第4実施形態の燃料電池システム1は、間欠運転から負荷運転への切り替えに起因する燃料電池スタック10の電圧変動を抑制するように構成されていてもよい。
すなわち、燃料電池システム1は、第3実施形態と同様に、間欠運転から負荷運転への切り替え後の要求出力を負荷予測出力として予測するとともに、負荷予測出力に対応するスタック電圧を負荷予測電圧として算出する構成とする。この構成において、燃料電池システム1は、間欠運転中に所定条件が成立すると、間欠運転から負荷運転に切り替える前の電圧制限範囲Vbを少なくとも負荷予測電圧が含まれる範囲に変更するようになっていることが望ましい。これによると、負荷運転から間欠運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動の抑制効果に加えて、間欠運転から負荷運転へ切り替わる際の燃料電池スタック10の電圧変動の抑制効果を得ることができる。
【0142】
(他の実施形態)
以上、本開示の代表的な実施形態について説明したが、本開示は、上述の実施形態に限定されることなく、例えば、以下のように種々変形可能である。
【0143】
上述の実施形態では、燃料電池システム1の詳細な構成、詳細の動作を説明したが、これらに限定されず、上述のものとは異なる構成になっていたり、上述のものとは異なる動作になっていたりしてもよい。
【0144】
また、上述の実施形態では、燃料電池システム1を移動体に適用した例について説明したが、燃料電池システム1の適用対象は、移動体に制限されず、定置型の機器やシステムにも適用可能である。
【0145】
上述の実施形態において、実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。
【0146】
上述の実施形態において、実施形態の構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に限定されない。
【0147】
上述の実施形態において、構成要素等の形状、位置関係等に言及するときは、特に明示した場合および原理的に特定の形状、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、位置関係等に限定されない。
【0148】
上述の実施形態において、センサから車両の外部環境情報を取得することが記載されている場合、そのセンサを廃し、車両の外部のサーバまたはクラウドからその外部環境情報を受信することも可能である。あるいは、そのセンサを廃し、車両の外部のサーバまたはクラウドからその外部環境情報に関連する関連情報を取得し、取得した関連情報からその外部環境情報を推定することも可能である。
【符号の説明】
【0149】
10 燃料電池スタック
10a セル
50a 運転制御部
50b 電圧設定部
51 記憶部
LD 負荷装置