(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】加熱炉、及びその操業方法
(51)【国際特許分類】
F27B 9/06 20060101AFI20250212BHJP
F27B 9/36 20060101ALI20250212BHJP
F27D 19/00 20060101ALI20250212BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20250212BHJP
F23D 14/12 20060101ALI20250212BHJP
F23L 15/04 20060101ALI20250212BHJP
F23L 15/02 20060101ALI20250212BHJP
F23C 99/00 20060101ALI20250212BHJP
C21D 9/56 20060101ALI20250212BHJP
C21D 1/34 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
F27B9/06 Z
F27B9/36
F27D19/00 Z
F27D21/00 A
F23D14/12 A
F23L15/04
F23L15/02
F23C99/00
C21D9/56 101B
C21D1/34 P
(21)【出願番号】P 2022135901
(22)【出願日】2022-08-29
【審査請求日】2024-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】川島 知之
(72)【発明者】
【氏名】小林 祥大
(72)【発明者】
【氏名】布川 亨
(72)【発明者】
【氏名】小澤 典子
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-293734(JP,A)
【文献】特開2020-101339(JP,A)
【文献】特開2002-317904(JP,A)
【文献】米国特許第04878480(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 9/06
F27B 9/36
F27D 19/00
F27D 21/00
F23D 14/12
F23L 15/04
F23L 15/02
F23C 99/00
C21D 9/56
C21D 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジアントチューブとチューブ内で燃焼してチューブ内を加熱するバーナー部とを備えるラジアントチューブバーナーを複数組有し、炉内で所定の配列方向に沿って並んだ複数のラジアントチューブからの間接加熱で炉内を加熱する加熱炉の操業方法であって、
上記ラジアントチューブの変形の有無を検査し、
上記検査で変形のあると検知されたラジアントチューブである検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部、及び、上記検出ラジアントチューブと上記配列方向で隣り合うラジアントチューブのうちの
、上記検出ラジアントチューブの排気部側に位置するラジアントチューブである隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部をそれぞれ、燃焼を停止した消火状態若しくはチューブ内の温度が炉温以下とする低出力燃焼状態とする、
ことを特徴とする加熱炉の操業方法。
【請求項2】
上記検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部及び上記隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部のうちの少なくとも一方のバーナー部を、消火状態とすると共に、消火状態としたラジアントチューブバーナーのうちの少なくとも一つのラジアントチューブバーナーのラジアントチューブ内に炉温未満の温度の空気を流通させる、
ことを特徴とする請求項1に記載した加熱炉の操業方法。
【請求項3】
上記複数のラジアントチューブの配列方向は、上下方向であり、
上記隣接ラジアントチューブは、上記検出ラジアントチューブの下側に位置するラジアントチューブである、
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した加熱炉の操業方法。
【請求項4】
上記ラジアントチューブは、W型ラジアントチューブである、
ことを特徴とする請求項1に記載した加熱炉の操業方法。
【請求項5】
ラジアントチューブとチューブ内で燃焼してチューブ内を加熱するバーナー部とを備えるラジアントチューブバーナーを複数組有し、炉内で所定の配列方向に沿って並んだ複数のラジアントチューブからの間接加熱で炉内を加熱する加熱炉であって、
各ラジアントチューブの変形の有無を検出するチューブ変形検出部と、
上記チューブ変形検出部の判定に基づき、チューブの変形があるラジアントチューブである検出ラジアントチューブが存在すると判定すると、その検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部、及び、上記検出ラジアントチューブと上記配列方向で隣り合うラジアントチューブのうちの
、上記検出ラジアントチューブの排気部側に位置するラジアントチューブである隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部をそれぞれ、燃焼を停止した消火状態、若しくはチューブ内の温度が炉温以下とする低出力燃焼状態とするバーナー制御変更部と、
を備えることを特徴とする加熱炉。
【請求項6】
上記バーナー制御変更部は、上記検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部及び上記隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部のうちの少なくとも一方のバーナー部を消火状態とし、
更に、上記バーナー制御変更部の処理によって消火状態となったラジアントチューブバーナーのうちの少なくとも一つのラジアントチューブバーナーのラジアントチューブ内に炉温未満の温度の空気を流す空気送風部を備える、
ことを特徴とする請求項5に記載した加熱炉。
【請求項7】
上記複数のラジアントチューブの配列方向は、上下方向であり、
上記隣接ラジアントチューブは、上記検出ラジアントチューブの下側に位置するラジアントチューブとする、
ことを特徴とする請求項5又は請求項6に記載した加熱炉。
【請求項8】
上記ラジアントチューブは、W型ラジアントチューブである、
ことを特徴とする請求項5に記載した加熱炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のラジアントチューブバーナーで炉内の加熱を行う加熱炉、及びその加熱炉の操業に関する技術である。本発明は、例えば、連続焼鈍炉や、亜鉛メッキ鋼板を連続して加熱する加熱炉など、被加熱材が炉内を移動しながら加熱される構成の工業用加熱炉に好適な技術である。
【背景技術】
【0002】
連続焼鈍炉などの加熱炉で用いられる加熱装置として、ラジアントチューブとバーナー部とを備えたラジアントチューブバーナーが採用されることが多い(特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1には、ラジアントチューブバーナーのラジアントチューブの一例としてW型ラジアントチューブが記載されている。特許文献1に記載のラジアントチューブは、上下に並ぶ4本の円形断面の直管部と、隣り合う直管部同士をそれぞれ連結する3本の円形断面の曲管部を備えたチューブ構造となっている。このようなチューブ構造の複数のラジアントチューブが、加熱炉内を走行する鋼板等の被加熱材の搬送方向に沿って並ぶ。これによって、被加熱材の表面に各直管部の側面が対向するように配置されている。そして、バーナー部から噴射された燃焼ガスが、ラジアントチューブの内部を通過し、下流の直管部から排ガスとして系外に排出される。このラジアントチューブで炉内を間接加熱する際に、燃焼ガスの温度が1000℃以上となる極めて高温で操業する場合がある。そのため、ラジアントチューブの各管は、それぞれ管軸方向に熱伸びが発生する。
【0004】
これに対し、特許文献1では、炉壁に設置された受け金具とラジアントチューブ側に設けられた曲管部サポート部材によってラジアントチューブを支持している。そして、受け金具と曲管部サポート部材の間の摺動部にて、上記の熱伸び分だけ摺動することで、ラジアントチューブに熱拘束力が生じない構造にしている。更に、軸力及び曲げモーメントの作用を特に大きく受ける第1直管部及び第1曲管部の熱応力と変形を緩和するために、第1曲管部の先端中央部に支持受け部を設けている。これによって、第1直管部の長さを第4直管部の長さより短くすることにより支持受け部を第3曲管部上部に位置させる。そして、該支持受け部を第3曲管部上部に突設した支持部により支持する構造を提案している。
【0005】
また特許文献2では、第2直管部と第3直管部を接続することで、全体の座屈を防止することが記載されている。
【0006】
また、特許文献1に記載のように、各直管部が曲げ荷重によってラジアントチューブが垂れ下がるという問題がある。すなわち、ラジアントチューブ内のガス温度は、ガスの流れ方向の下流ほど温度が低くなるので、各直管部が等しくは熱伸びしない。そのため、上述した摺動部での熱伸び吸収作用が適切に機能しなくなり、ラジアントチューブ全体が歪んで曲げ荷重が作用し、各直管部が垂れ下がりに至るおそれがある。
【0007】
この問題に対し、断面形状が楕円形であるようなラジアントチューブが提案されている(特許文献2参照)。この文献では、断面の楕円形は、上下方向(被加熱材の走行方向)を長軸としている。楕円形断面の直管部を用いることによって、円形断面の直管部に比べて断面性能が向上するため、曲げ荷重による直管部の垂れ下がりを低減させることができる。
【0008】
更に、最近、工業製品に対する高性能・高品質の要求が強くなり、工業用加熱炉における加熱条件も厳しくなったため、ラジアントチューブの熱負荷もますます大きくなってきている。
なお、ラジアントチューブの形状には、W型以外に、U型(特許文献3参照)、P型などのチューブがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2020-101339号公報
【文献】特開平9-303711号公報
【文献】特開平5-285533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記の各特許文献には、種々のラジアントチューブに対する変形抑止策が提案されている。しかし、このような変形抑止対策を施しても、ラジアントチューブの経年的な変形を完全に止めることはできない。
【0011】
ここで、各ラジアントチューブにおける変形の有無の確認は、例えば、定期的な加熱炉の補修時に炉の操業を1度停止した上で実施される。このとき、ラジアントチューブに対し、今回取り替えるほどの変形ではないが、所定以上の変形(例えば直管部径と同程度の初期位置からの変形)が確認される場合がある。この場合、そのラジアントチューブは、次回の補修時の交換対象となる。このため、前回の補修時に変形が少なく前回の補修での交換対象とならなかったラジアントチューブについて、今回の補修で変形が確認された場合、次のように処理される場合が多い。すなわち、次回の補修時に加熱炉が停止するまで、今回変形が確認されたラジアントチューブは、交換されずに加熱炉内に設置されたままになる場合が多い。
【0012】
ここで、今回の点検で所定以上の変形が確認され次回の交換対象となったラジアントチューブのバーナー部は、運転されず消火されて燃焼が停止される。
【0013】
発明者は、この消火状態となった交換対象のラジアントチューブの変形の挙動について種々の調査を行って、次の知見を得た。
【0014】
ラジアントチューブは、チューブ全長が例えば3~5mになる。このため、バーナー部に接続している直管部(W型の場合は第1直管部)と排気部に接続している直管部(W型では第4直管部)で大きく温度が異なることがある。ここで、炉内に複数のラジアントチューブが並んで配置されている場合とする。この場合、交換対象のラジアントチューブの排気部に接続された直管部(最下流の直管部)は、隣接するラジアントチューブのバーナー部に接続した直管部からの輻射熱の影響を大きく受ける。そのため、次回交換対象のラジアントチューブは、バーナーを消火しているにも関わらず、予想以上に変形が進行してしまうおそれがある、との知見を得た。なお、
図7に示すように、実際の加熱炉内でのラジアントチューブでも、排気部に接続された最下流の直管部11Dに大きな変形が確認されている。
【0015】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、加熱炉に用いられるラジアントチューブの長寿命化が可能な加熱炉の操業方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明者らは、ラジアントチューブの更なる長寿命化を達成するために、炉内にラジアントチューブが複数本縦並んで配列した構成からなる工業用加熱炉の高精度シミュレーターを開発した。そして、その高精度シミュレーターで工業用加熱炉内のラジアントチューブ表面温度分布を推定した。発明者らは、その結果から、変形が進行しているラジアントチューブについて、そのラジアントチューブのバーナー部の燃焼停止(消火)だけでは、変形の進行を抑止できないことが分かった。これは、例えば、変形が進行しているラジアントチューブの排気部側の直管部に対し、隣のラジアントチューブのバーナー部側の直管部が隣接する場合に発生する。具体的には、隣接するラジアントチューブからの輻射熱により、変形が進行しているラジアントチューブの排気部につながる直管部が加熱され、温度が低下しないからである。このことは、チューブの高温クリープ変形が抑止できないことを意味する。そこで、発明者らは、変形が進行しているラジアントチューブの隣に位置するラジアントチューブも同時に消火することで、変形が進行しているラジアントチューブの変形を抑止できることを見出した。
【0017】
そして、課題解決のために、本発明の一態様は、ラジアントチューブとチューブ内で燃焼してチューブ内を加熱するバーナー部とを備えるラジアントチューブバーナーを複数組有し、炉内で所定の配列方向に沿って並んだ複数のラジアントチューブからの間接加熱で炉内を加熱する加熱炉の操業方法であって、上記ラジアントチューブの変形の有無を検査し、上記検査で変形のあると検知されたラジアントチューブである検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部、及び、上記検出ラジアントチューブと上記配列方向で隣り合うラジアントチューブのうちの少なくとも一方のラジアントチューブである隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部をそれぞれ、燃焼を停止した消火状態若しくはチューブ内の温度が炉温以下とする低出力燃焼状態とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の態様によれば、変形が進行しているラジアントチューブに対し、そのラジアントチューブに隣接する他のラジアントチューブからの輻射熱が抑制される。この結果、本発明の態様によれば、当該変形が進行しているラジアントチューブの変形促進が防止される。これによって、本発明の態様によれば、加熱炉に用いられるラジアントチューブの更なる長寿命化が可能な加熱炉及びその操業方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る加熱炉の例を示す模式図である。
【
図2】本発明に基づく実施形態に係るラジアントチューブの並びなどを説明するための図である。
【
図3】本発明に基づく実施形態に係るラジアントチューブバーナーを説明する図である。
【
図5】P型のラジアントチューブを示す斜視図である。
【
図6】ラジアントチューブの配列状態の、他の例を示す模式図である。
【
図7】ラジアントチューブの変形の一例を示す図である。
【
図8】正規化距離と表面温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではない。
本実施形態では、ラジアントチューブバーナーのラジアントチューブの形状がW型(
図2参照)の場合を例にして説明する。ただし、本開示のラジアントチューブの形状は、W型に限定されず、2つの直管部を有するU型(特許文献3参照)やP型(
図5参照)、1つの直管部を有するシングル型等であってもよい。
【0021】
また本実施形態では、帯状の鋼板を加熱する加熱連続焼鈍炉を例にして説明する。しかし、本開示は、他の工業用加熱炉であっても良い。
【0022】
(構成)
本実施形態の加熱炉1は、
図1に示すように、ペイオフリールから巻き戻された被加熱材である鋼板2が、炉1内に進入し、炉1内をパスラインに沿って移動されながら加熱されてから抽出される。符号3は、鋼板2の搬送方向の向きを変更するハースロールである。このように、本実施形態の連続加熱炉1は、ルーパー機構などによって、
図1のように、加熱する鋼板2を上下に搬送する。当該鋼板2が上方及び下方に移動するときに、ラジアントチューブ11からの輻射熱で加熱する。すなわち、加熱炉1は、
図2に示すように、鋼板2の搬送方向(パスライン)に沿って、複数組のラジアントチューブバーナー10を有する。なお、鋼板2の搬送方向は、
図6のように、横方向などでもよい。複数組のラジアントチューブバーナー10は、鋼板2の搬送方向に配列するように配置されていれば良い。なお、加熱炉は、
図6のように、鋼板2の板厚方向の両面側から加熱する構成となっている場合が多い。この
図6のような場合、ラジアントチューブバーナー11Aが検出ラジアントチューブの場合、隣接ラジアントチューブは、符号11Bのラジアントチューブとなる。同様に、ラジアントチューブバーナー11Cが検出ラジアントチューブの場合、隣接ラジアントチューブは、符号11Dのラジアントチューブとなる。
【0023】
各ラジアントチューブバーナー10は、
図3に示すように、ラジアントチューブ11とバーナー部12とを備える。バーナー部12は、チューブ内で燃焼してチューブ内を加熱する加熱装置である。
【0024】
本実施形態の各ラジアントチューブ11は、
図3に示すように、4本の直管部11A、11B、11C、11Dを有する。更に、ラジアントチューブ11は、隣り合う直管部同士を連結する3本の曲管部11E、11F、11Gを有することで、1つの燃焼ガス流路を形成する。また、ラジアントチューブ11の一方の開口端部にバーナー部12が連結する。本実施形態では、最上流の直管部11Aにバーナー部12が連結する。
ここで、4本の直管部11A、11B、11C、11Dを区別する場合には、次のように記載する。すなわち、
図3に示すように、バーナー部12に近い側から第1直管部11A、第2直管部11B、第3直管部11C、第4直管部11Dと呼ぶこととする。
【0025】
また、ラジアントチューブ11は、
図3に示すように、左右方向端部である、チューブの開口端部及び曲管部11F、11Gの位置で、炉壁1Aに支持されている。
このため、ラジアントチューブ11は、複数の直管部11A、11B、11C、11Dが、それぞれ横方向に延在すると共に、上下に配列した状態で配置されている。そして、操業中は、その直管部11A、11B、11C、11Dの配列方向に沿って、加熱する鋼板2が移動する。
【0026】
(変形抑止構造)
4本の直管部11A、11B、11C、11Dのうち、自身の熱によって、第1直管部11Aが一番熱負荷を受け、自重及び熱影響によるクリープ現象によって変形しやすい。第2及び第3直管部11B、11Cにも変形が発生するが、第1直管部11Aの変形に伴う変形が大きい。
【0027】
本実施形態では、
図3に示すように、第2直管部11Bと第3直管部11Cとを第1補強リブで上下に連結する。これにより、第1直管部11Aの変形を、第2、第3直管部11B、11Cで受ける。また、第2直管部11Bと第3直管部11Cとを連結する曲管部11F、及び第3直管部11Cと第4直管部11Dとを連結する曲管部11Gにサポート部材20を設け、そのサポート部材20を、炉壁1Aに取り付けた受け金具21で下側から支持させる。これによって、直管部11A、11B、11C、11Dの変形に伴う曲げモーメントを受けることで、直管部11A、11B、11C、11Dの変形を抑制する。
【0028】
ここで、直管部11A、11B、11C、11Dの自重及び熱影響等によるラジアントチューブ11の変形を防止する変形抑止構造は、これに限定されず、他の公知の構造を採用しても良い。
これによって、ラジアントチューブ11の下方への変形を抑えて、ラジアントチューブ11の寿命向上や炉1の歩留まり向上を図ることが可能となる。
【0029】
(チューブの配列)
上述の通り、複数のラジアントチューブバーナー10の各ラジアントチューブ11は、搬送される被加熱材である鋼板2の移動方向に沿って並ぶように配置される。具体的には、
図2及び
図3のように、複数のラジアントチューブ11が、加熱炉1内を走行する鋼板2の搬送方向に沿って並び、且つ鋼板2の表面に各直管部11A、11B、11C、11Dの側面が対向するように配置されている。
そして、各ラジアントチューブ11は、バーナー部12から噴射された燃焼ガスが、ラジアントチューブ11の内部を通過し、下流の直管部11Dから排ガスとして系外に排出されることで、加熱される。
【0030】
なお、
図2及ぶ
図3では、直管部11A、11B、11C、11Dの並び方向である、上下方向が鋼板2の搬送方向となる。
【0031】
(バーナー部12)
各バーナー部12は、炉温制御部30からの指令に基づき、燃料ガスと燃焼用空気との流量が調整されることで、ラジアントチューブ11の第1直管部11A内で燃焼して、チューブ内を加熱する燃焼ガスを発生する。
図2中、符号13は、燃料ガスの流量を調整する調整弁であり、符号14は、燃焼用空気量を調整する調整弁である。
【0032】
(制御部)
炉温を制御する炉温制御部30を備える。なお、
図2中、符号15は、炉1内温度を検出する温度センサを示す。
【0033】
炉温制御部30は、炉温と炉温目標値(目標抽出温度)とに基づき、各ラジアントチューブバーナー10のバーナー部12の燃焼制御を行う。各ラジアントチューブバーナー10毎にバーナー制御部を設け、炉温制御部30から各バーナー制御部に燃焼の指令値を供給する構成でもよい。制御方法は、公知のバーナー制御方法を適用すれば良い。
炉温制御部30は、
図4に示すように、制御部本体30A、チューブ変形検出部30C、バーナー制御変更部30B、及び空気送風部30D及びを備える。
【0034】
<制御部本体30A>
制御部本体30Aは、加熱操業に使用可能なラジアントチューブバーナー10を認識し、炉温と、被加熱材である鋼板2の目標抽出温度とに基づき、加熱に使用する各ラジアントチューブバーナー10の燃焼状態を演算する。そして、演算した燃焼状態になるように、各バーナー制御部を制御する。この制御は、公知の制御方法を適用すれば良く、特に制御方法は限定されない。
【0035】
<チューブ変形検出部30C>
チューブ変形検出部30Cは、各ラジアントチューブ11の変形の有無を検出する検出部である。
チューブ変形検出部30Cは、各ラジアントチューブ11の変形に関する情報を取得する変形検出センサ31からの信号に基づき、各ラジアントチューブ11の変形を検出する。
【0036】
例えば、定期検査のために炉1の操業を一時停止した際に、炉1内を3Dスキャンするデジタルスキャナ装置が取得した炉1内の3D画像情報を、チューブ変形検出部30Cが取得する。ここでは、デジタルスキャナ装置が変形検出センサ31を構成する。そして、チューブ変形検出部30Cは、取得した3D画像情報に基づき、各ラジアントチューブ11の直管部11A、11B、11C、11Dの位置情報(例えば各直管部の中心軸情報)を求めて、各ラジアントチューブ11に所定以上の変形が発生していないか否かを判定する。なお、変形の判定は、ラジアントチューブ11を構成する複数の直管部11A、11B、11C、11Dのうちの一つ、例えば最下部に位置する直管部11Dの変形状態の判定だけでよい。
【0037】
また、所定以上の変形は、例えばラジアントチューブ11の外径の直径以上とする。
又は、例えば、ラジアントチューブ11から張り出したサポート部材20を受ける受け金具21の変位を検出する変位計を変形検出センサ31として設けておく。そして、チューブ変形検出部30Cは、各ラジアントチューブ11を保持する受け金具21の変位量から、各ラジアントチューブ11の変形の有無を判定する。
【0038】
又は、炉1内の温度分布を検出する炉温分布検出センサを設ける。そして、チューブ変形検出部30Cは、ラジアントチューブ11の配置周りの温度分布から、各ラジアントチューブ11の変位の有無を推定(検出)するようにしてもよい。
【0039】
<バーナー制御変更部30B>
ここで、チューブ変形検出部30Cの判定に基づき、チューブに変形があると判定されたラジアントチューブ11を、検出ラジアントチューブと記載する。また、その検出ラジアントチューブとラジアントチューブ11の配列方向(本実施形態では上下方向)で隣り合うラジアントチューブ11のうちの少なくとも一方のラジアントチューブ11を、隣接ラジアントチューブと記載する。本実施形態では、検出ラジアントチューブの下側に位置するラジアントチューブ11を隣接ラジアントチューブとする。検出ラジアントチューブの配列方向両側に位置する2つのラジアントチューブ11を、共に隣接ラジアントチューブとしても良い。
【0040】
バーナー制御変更部30Bは、まず、チューブ変形検出部30Cの判定に基づき、検出ラジアントチューブの有無を判定する。
【0041】
バーナー制御変更部30Bは、検出ラジアントチューブがあると判定すると、その検出ラジアントチューブに対する隣接ラジアントチューブを特定する。2以上の検出ラジアントチューブがある場合には、各検出ラジアントチューブ毎に隣接ラジアントチューブの特定を行う。なお、検出ラジアントチューブが連続して存在する場合、一部の検出ラジアントチューブは、隣接ラジアントチューブでもあるが、検出ラジアントチューブとして処理を実行する。ラジアントチューブ11の識別は、例えば、ラジアントチューブ11の並びに沿って識別番号を付与しておくことで実行できる。
【0042】
そして、バーナー制御変更部30Bは、各検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部12、及び各隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部12の各ステータスを、非加熱制御状態に変更する。
非加熱制御状態は、バーナー部12の燃焼を停止した消火状態、若しくはバーナー部12の制御を、チューブ内の温度が炉温以下とする低出力燃焼状態とする。そして、また、検出ラジアントチューブ及び隣接ラジアントチューブを加熱操業に利用できない使用不可状態にステータスを設定する。
【0043】
<空気送風部30D>
空気送風部30Dは、バーナー制御変更部30Bが消火状態に変更したラジアントチューブバーナー10のラジアントチューブ11の少なくとも一つのラジアントチューブ11内に、炉温未満の温度の空気を流す処理を実行する。
【0044】
空気送風部30Dは、例えば、対象とするバーナー部12に対し、燃焼ガスの圧送を停止すると共に、燃焼用空気の圧送で実現する。圧送する燃焼用空気は、温度が大気温度程度であり、一般に炉温よりも低い温度となっている。
なお、一般に燃焼用空気は、ラジアントチューブ入口前で予熱(300~500℃)されるが、予熱するための熱源は、燃焼排ガス顕熱であるため、燃焼ガスの圧送を停止した場合、燃焼用空気は予熱されていない。
【0045】
バーナー部12とは別に、ラジアントチューブ11内に大気を送風する送風装置を設け、その送風装置でラジアントチューブ11内への送風を実現しても良い。
【0046】
ここで、空気送風部30Dは、無くても良い。また、空気送風部30Dの処理は、隣接ラジアントチューブだけに適用しても良いし、検出ラジアントチューブだけに適用してもよい。
また、検出ラジアントチューブ及び隣接ラジアントチューブのバーナー部12の状態は、同じ非加熱制御状態でなくても良い。例えば、検出ラジアントチューブのバーナー部12は消火状態だけとし、隣接ラジアントチューブのバーナー部12は、温度が炉温以下とする低出力燃焼状態に設定してもよい。
【0047】
また、検出ラジアントチューブバーナー及び隣接ラジアントチューブバーナーを消火状態とした後に、検出ラジアントチューブバーナー及び隣接ラジアントチューブバーナーのチューブ内の温度が所定以上(例えば炉温よりも高くなった)となったときに、空気送風部30Dを作動させるように構成してもよい。
【0048】
また、各ラジアントチューブ11の変形の有無の検出を、定期検査時に作業員の目視確認によって実行するようにしてもよい。この場合には、手動でステータスを、非加熱制御状態に変更する。
【0049】
(動作その他)
本実施形態によれば、変形が進行しているラジアントチューブ11に対し、そのラジアントチューブ11に隣接する他のラジアントチューブ11からの輻射熱が抑制される。この結果、当該変形が進行しているラジアントチューブ11の変形促進が防止される。これによって、加熱炉1に用いられるラジアントチューブ11の更なる長寿命化が可能な加熱炉1及びその操業方法を提供することが可能となる。
【0050】
また、消火状態のラジアントチューブ11であっても、炉1内の熱によって加熱されて輻射熱を発生する。これに対し、消火状態のラジアントチューブ11内に炉温未満の空気を流通(圧送)することで、そのラジアントチューブ11からの輻射熱を低減することが可能となる。
【0051】
(その他)
本開示は、次の構成も取り得る。
(1)ラジアントチューブとチューブ内で燃焼してチューブ内を加熱するバーナー部とを備えるラジアントチューブバーナーを複数組有し、炉内で所定の配列方向に沿って並んだ複数のラジアントチューブからの間接加熱で炉内を加熱する加熱炉の操業方法であって、
上記ラジアントチューブの変形の有無を検査し、
上記検査で変形のあると検知されたラジアントチューブである検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部、及び、上記検出ラジアントチューブと上記配列方向で隣り合うラジアントチューブのうちの少なくとも一方のラジアントチューブである隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部をそれぞれ、燃焼を停止した消火状態若しくはチューブ内の温度が炉温以下とする低出力燃焼状態とする、
ことを特徴とする加熱炉の操業方法。
(2)上記検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部及び上記隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部のうちの少なくとも一方のバーナー部を、消火状態とすると共に、消火状態としたラジアントチューブバーナーのうちの少なくとも一つのラジアントチューブバーナーのラジアントチューブ内に炉温未満の温度の空気を流通させる。
(3)上記複数のラジアントチューブの配列方向は、上下方向であり、
上記隣接ラジアントチューブは、上記検出ラジアントチューブの下側に位置するラジアントチューブである。
(4)上記ラジアントチューブは、W型ラジアントチューブである。
(5)ラジアントチューブとチューブ内で燃焼してチューブ内を加熱するバーナー部とを備えるラジアントチューブバーナーを複数組有し、炉内で所定の配列方向に沿って並んだ複数のラジアントチューブからの間接加熱で炉内を加熱する加熱炉であって、
各ラジアントチューブの変形の有無を検出するチューブ変形検出部と、
上記チューブ変形検出部の判定に基づき、チューブの変形があるラジアントチューブである検出ラジアントチューブが存在すると判定すると、その検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部、及び、上記検出ラジアントチューブと上記配列方向で隣り合うラジアントチューブのうちの少なくとも一方のラジアントチューブである隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部をそれぞれ、燃焼を停止した消火状態、若しくはチューブ内の温度が炉温以下とする低出力燃焼状態とするバーナー制御変更部と、
を備える。
(6)上記バーナー制御変更部は、上記検出ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部及び上記隣接ラジアントチューブ内を加熱するバーナー部のうちの少なくとも一方のバーナー部を消火状態とし、
更に、上記バーナー制御変更部の処理によって消火状態となったラジアントチューブバーナーのラジアントチューブ内に炉温未満の温度の空気を流す空気送風部を備える。
(7)上記複数のラジアントチューブの配列方向は、上下方向であり、
上記隣接ラジアントチューブは、上記検出ラジアントチューブの下側に位置するラジアントチューブとする。
(8)上記ラジアントチューブは、W型ラジアントチューブである。
【実施例】
【0052】
本実施例では、
図3に示す構成のように、上下に設置された、W型ラジアントチューブ11を有する2本のラジアントチューブバーナー10に対し、上下に鋼板2を通過させる数値シミュレーションを作成し、そのシミュレーションを実行した。鋼板2の温度は600℃一定と仮定している。
【0053】
(サンプル条件)
<ケース1>
ケース1では、2つのラジアントチューブバーナー10をともにバーナー運転状態とした場合である。
【0054】
<ケース2>
ケース2には、上側のラジアントチューブバーナーを消火状態とし、下側のラジアントチューブバーナー10をバーナー運転状態とした場合である。
<ケース3>
ケース3は、2つのラジアントチューブバーナー10とも消火状態とした場合である。
【0055】
なお、消火状態では、燃料ガス及び燃焼用空気を供給しないで、バーナーを停止した状態とする。バーナー状態は、燃料ガス及び燃焼用空気を供給して、ラジアントチューブ11内で燃焼してチューブを加熱する状態とする。
【0056】
(評価)
図8に評価結果を示す。
縦軸表面温度は、上側のラジアントチューブ11のうち、第4直管部11Dの下部温度(
図3中の符号Tの位置)を示していて、横軸は、炉壁1Aからの距離を正規化した値である。
【0057】
ケース2では上側のラジアントチューブ11を消火状態としている。しかし、
図8から分かるように、ケース1とケース2における第4直管部11Dにおける上記測温位置Tの温度の違いは30℃以下と小さかった。これは、上記測温位置Tは、下側のラジアントチューブ11の第1直管部11Aからの輻射熱を受けるためである。
この結果から分かるように、上側のラジアントチューブ11における第4直管部11Dの変形が進行している場合、上側のラジアントチューブバーナー10を消火状態としても変形が進行する。すなわち、ケース2では、上側のラジアントチューブ11での変形、特に最下部の直管部1Dでの変形は継続するものと考えられる。
【0058】
一方、ケース3のように、下側のラジアントチューブバーナー10も消火状態とすることで、上側のラジアントチューブ11の上記測温位置Tは、ほぼ鋼板2と同じ温度となった。つまり、本発明に基づけば、上側のラジアントチューブ11にうち、第4直管部11Dの変形の進行を抑制できることが分かった。
【符号の説明】
【0059】
1 加熱炉
1A 炉壁
2 鋼板(被加熱材)
10 ラジアントチューブバーナー
11 ラジアントチューブ
12 バーナー部
15 炉温検出センサ
20 サポート部材
21 受け金具
30 炉温制御部
30A 制御部本体
30B バーナー制御変更部
30C チューブ変形検出部
30D 空気送風部