(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】分散組成物及び分散剤
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20250212BHJP
C08K 7/06 20060101ALI20250212BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20250212BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08L79/08 A
C08K7/06
C08K3/04
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2022503118
(86)(22)【出願日】2020-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2020048228
(87)【国際公開番号】W WO2021171765
(87)【国際公開日】2021-09-02
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2020033547
(32)【優先日】2020-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004178
【氏名又は名称】JSR株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100122390
【氏名又は名称】廣田 美穂
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(72)【発明者】
【氏名】樫下 幸志
(72)【発明者】
【氏名】綾部 真嗣
(72)【発明者】
【氏名】大場 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】栗田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 至郎
【審査官】久保 道弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-060947(JP,A)
【文献】特開2003-163444(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 79/08
C08K 7/00
C08K 3/00
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被分散体と、
分散媒と、
ポリアミック酸の部分イミド化物であり、ステロイド構造及び下記式(1)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である特定構造を有する重合体[P]と、
を含有
し、
前記被分散体がカーボンナノチューブである、分散組成物。
*-L
1-R
1-R
2-R
3-R
4 …(1)
(式(1)中、L
1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*
1、-OCO-*
1、-NR
5-、-NR
5-CO-*
1、-CO-NR
5-*
1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R
6-*
1、又は-R
6-O-*
1(ただし、R
5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R
6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*
1」は、R
1との結合手であることを示す。)である。R
1及びR
3は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。R
2は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R
7-B
1-R
8-(ただし、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B
1は単結合、-O-、-COO-*
2、-OCO-*
2、-OCH
2-*
2、-CH
2O-*
2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*
2」は、R
8との結合手であることを示す。)である。R
4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、*
3-OCO-CH
3(「*
3」は、R
3との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R
1、R
2及びR
3の全部が単結合であるか、又はR
1、R
2及びR
3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、R
4は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基、又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。「*」は結合手であることを示す。)
【請求項2】
前記重合体[P]は、前記特定構造を有するジアミンに由来する構造単位UDを含み、
前記重合体[P]を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対する前記構造単位UDの含有割合が、1モル%以上95モル%以下である、請求項1に記載の分散組成物。
【請求項3】
前記重合体[P]のイミド化率が、2%以上95%以下である、請求項1又は2に記載の分散組成物。
【請求項4】
前記重合体[P]は、脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位UAを有する、請求項1~3のいずれか一項に記載の分散組成物。
【請求項5】
前記重合体[P]を構成するテトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位の全量に対する前記構造単位UAの含有割合が、5モル%以上である、請求項4に記載の分散組成物。
【請求項6】
前記分散媒は、非プロトン性極性溶媒を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の分散組成物。
【請求項7】
前記分散媒は、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドよりなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~6のいずれか一項に記載の分散組成物。
【請求項8】
前記重合体[P]の含有割合が、前記被分散体100質量部に対して、100質量部以上2000質量部以下である、請求項
1~7のいずれか一項に記載の分散組成物。
【請求項9】
カーボンナノチューブを分散媒に分散させるためのカーボンナノチューブ用分散剤であって、
ポリアミック酸の部分イミド化物であり、ステロイド構造及び下記式(1)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である特定構造を有する重合体[P]を含有する、
カーボンナノチューブ用分散剤。
*-L
1-R
1-R
2-R
3-R
4 …(1)
(式(1)中、L
1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*
1、-OCO-*
1、-NR
5-、-NR
5-CO-*
1、-CO-NR
5-*
1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R
6-*
1、又は-R
6-O-*
1(ただし、R
5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R
6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*
1」は、R
1との結合手であることを示す。)である。R
1及びR
3は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。R
2は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R
7-B
1-R
8-(ただし、R
7及びR
8は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B
1は単結合、-O-、-COO-*
2、-OCO-*
2、-OCH
2-*
2、-CH
2O-*
2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*
2」は、R
8との結合手であることを示す。)である。R
4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、*
3-OCO-CH
3(「*
3」は、R
3との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R
1、R
2及びR
3の全部が単結合であるか、又はR
1、R
2及びR
3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、R
4は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基、又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。「*」は結合手であることを示す。)
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2020年2月28日に出願された日本特許出願番号2020-33547号に基づくもので、ここにその記載内容を援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示は、分散組成物及び分散剤に関する。
【背景技術】
【0003】
ナノカーボンや金属ナノ粒子等といったナノオーダーの大きさの物質は、電気特性や機械的特性、熱安定性等において優れた性質をもち、ナノマテリアルとして種々の分野への応用や実用化が検討されている。これらのナノ粒子は、媒質中に分散されてその機能が利用されたり、液相中に分散されたナノ粒子を基材に塗布して機能性材料の作製に用いられたりすることがある。この場合、ナノ粒子がもつ特性を十分に発現させるためには、粒子を分散媒に均一に分散させることが望ましい。そこで、ナノ粒子の凝集を抑制して粒子の分散性を高める方法の1つとして、ポリイミドを高分子分散剤として用いることが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。非特許文献1には、スルホン酸基含有のジアミン単位を有するポリイミドをカーボンナノチューブ(CNT)の分散剤として用いることが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】「カーボンナノチューブ分散技術総論」、日本ゴム協会誌、2016年、第89巻、第1号、p.15-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1に記載のポリイミド分散剤のように、アニオン基を側鎖に有するポリイミドは、有機溶媒に対する溶解性が十分に高いとはいえない。このため、ナノカーボン等の被分散体を分散させる分散媒として有機溶媒を用いる場合に、分散剤が分散媒に十分に溶解せず、被分散体の分散性及び経時による分散安定性が低くなることが懸念される。
【0006】
本開示は上記課題に鑑みなされたものであり、被分散体の分散性及び分散安定性に優れた分散組成物及び分散剤を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討し、特定の構造を有するイミド化重合体を用いることにより、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本開示によれば以下の手段が提供される。
【0008】
<1> 被分散体と、分散媒と、ポリアミック酸の部分イミド化物であり、かつステロイド構造及び下記式(1)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種である特定構造を有する重合体[P]と、を含有する、分散組成物。
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(1)
(式(1)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。R2は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R7-B1-R8-(ただし、R7及びR8は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-O-、-COO-*2、-OCO-*2、-OCH2-*2、-CH2O-*2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R8との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、*3-OCO-CH3(「*3」は、R3との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合であるか、又はR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、R4は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基、又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。「*」は結合手であることを示す。)
<2> 上記重合体[P]を含有する、分散剤。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、上記重合体[P]を含有することにより、被分散体の分散性及び分散安定性に優れた分散組成物を得ることができる。また、被分散体の分散性及び分散安定性に優れた分散剤を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本開示の分散組成物は、(A)被分散体と、(B)分散媒と、(C)重合体[P]とを含有する。以下に、本開示の分散組成物に含まれる各成分、及び必要に応じて任意に配合されるその他の成分について説明する。
【0011】
なお、本明細書において「炭化水素基」とは、鎖状炭化水素基、脂環式炭化水素基及び芳香族炭化水素基を含む意味である。「鎖状炭化水素基」とは、主鎖に環状構造を含まず、鎖状構造のみで構成された直鎖状炭化水素基及び分岐状炭化水素基を意味する。ただし、飽和でも不飽和でもよい。「脂環式炭化水素基」とは、環構造としては脂環式炭化水素の構造のみを含み、芳香環構造を含まない炭化水素基を意味する。ただし、脂環式炭化水素の構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造を有するものも含む。「芳香族炭化水素基」とは、環構造として芳香環構造を含む炭化水素基を意味する。ただし、芳香環構造のみで構成されている必要はなく、その一部に鎖状構造や脂環式炭化水素の構造を含んでいてもよい。
【0012】
<(A)被分散体>
被分散体は、分散媒中に分散させられる物質である。被分散体としては、特に限定されないが、無機物粒子及び有機物粒子よりなる群から選択される少なくとも1種を用いることができる。被分散体の形状についても特に限定されず、例えば球状、棒状、繊維状、平板状、円板状等が挙げられる。被分散体の一次粒子径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは1μm以下、更に好ましくは200nm以下である。また、被分散体の一次粒子径は、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上、更に好ましくは5nm以上である。なお、ここでいう「被分散体の一次粒子径」は、レーザー回折・散乱法によりd50値を測定することにより求めた値である。
【0013】
本開示の分散組成物に含有される無機物粒子としては、例えばカーボン、金属粒子、半金属粒子、シリカ、無機塩、量子ドット等が挙げられる。これらの具体例としては、カーボンとして、例えばカーボンブラック、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、グラファイト、フラーレン、カーボンナノホーン等を;金属粒子として、例えば金属単体、金属酸化物、金属炭化物、金属窒化物等を;半金属粒子として、例えば半金属酸化物、半金属炭化物、半金属窒化物等を;シリカとして、例えば湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)、コロイダルシリカ、沈降シリカ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、表面修飾処理が施された変性シリカ等を;無機塩として、例えば硫酸塩(硫酸カルシウム、硫酸バリウム等)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等)、リン酸塩(リン酸カルシウム等)等を;量子ドットとして、例えばペロブスカイト量子ドット、炭素系量子ドット、硫化鉛量子ドット等を、それぞれ挙げることができる。
【0014】
なお、カーボンファイバーは、カーボンナノファイバーを含む。カーボンナノチューブは、シングルウォールカーボンナノチューブ、ダブルウォールカーボンナノチューブ、及びマルチウォールカーボンナノチューブを含む。また、カーボンナノチューブは、炭素のみからなるものであってもよく、構造の一部が他の元素で置換又は化学修飾されたものであってもよく、金属(例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ニッケル、コバルト、チタン、白金等)との複合体であってもよい。
【0015】
金属粒子について更に詳しくは、金、銀、銅、亜鉛、アルミニウム、スズ、ニッケル、パラジウム、白金、コバルト、鉄、マンガン、クロム、モリブデン、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、イットリウム、セリウム等の金属元素を含む粒子が挙げられる。これらの具体例としては、当該金属元素からなる金属単体;酸化銅、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ビスマス、酸化セリウム、酸化クロム、酸化コバルト、酸化インジウム、酸化インジウムスズ、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化スズ、酸化インジウム-酸化ガリウム-酸化亜鉛、酸化インジウム-酸化亜鉛、酸化インジウムスズ等の金属酸化物;炭化チタン等の金属炭化物;窒化チタン、酸窒化チタン(チタンブラック)、窒化アルミニウム等の金属窒化物、等が挙げられる。金属粒子としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0016】
半金属粒子としては、ホウ素、ケイ素等の半金属元素を含む粒子が挙げられる。これらの具体例としては、当該半金属元素からなる半金属単体;二酸化ケイ素等の金属酸化物;炭化ホウ素、炭化ケイ素等の金属炭化物;窒化ホウ素、窒化ケイ素等の金属窒化物、等が挙げられる。半金属粒子としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0017】
有機物粒子としては、例えば有機顔料、二色性色素、色素会合体、タンパク質、核酸、ウィルス等が挙げられる。これらの具体例としては、有機顔料として、例えばアントラキノン顔料、モノアゾ顔料、ジアゾ顔料、ベンズイミダゾロン顔料、キナクリドン顔料、キノフタロン顔料、ジオキサジン顔料、フタロシアニン顔料、フラバントロン顔料、インダントロン顔料、インドリノン顔料、チオインジゴ顔料、金属錯体顔料、ペリノン顔料、ペリレン顔料等を;二色性色素として、例えばジスアゾ化合物、トリスアゾ化合物、テトラキスアゾ化合物、アントラキノン化合物、ジオキサジン化合物等を;色素会合体として、ポルフィリン色素やシアニン色素、ピロロピロール色素、アセン色素、スクアリリウム色素等のJ会合体、オキサゾールイエロー色素、チアゾールオレンジ色素、シアニン色素、アゾ色素等のH会合体等を、それぞれ挙げることができる。
【0018】
本開示の分散組成物における1つの実施形態では、被分散体として、金属粒子及び半金属粒子よりなる群から選択される少なくとも1種(以下「金属粒子等」ともいう)を好ましく使用できる。また、別の実施態様では、被分散体として、棒状ナノ構造体及び棒状分子よりなる群から選択される少なくとも1種(以下「棒状ナノ構造体等」ともいう)を好ましく使用することができる。棒状分子としては、二色性色素等が挙げられ、棒状ナノ構造体としては、色素会合体、量子ロッド、金属ナノロッド、カーボンナノチューブ、タンパク質、核酸、ウィルス等が挙げられる。被分散体が、棒状ナノ構造体及び棒状分子よりなる群から選択される少なくとも1種である場合、当該被分散体としては、無機物粒子を好ましく使用でき、カーボンナノチューブ及び金属ナノロッドを特に好ましく使用することができる。なお、被分散体としては、上記のうちの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
被分散体としては、上記のうち無機物粒子を好ましく使用することができ、カーボンナノチューブ(CNT)及び金属粒子を特に好ましく使用することができる。
【0020】
分散組成物における被分散体の含有割合は、被分散体の種類に応じて適宜設定されるが、分散組成物の全量に対し、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、更に好ましくは0.003質量%以上である。また、被分散体の含有割合は、分散組成物の全量に対し、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0021】
より具体的には、例えば、被分散体が棒状ナノ構造体等である場合、特性を十分に発現させる観点から、分散組成物における棒状ナノ構造体等の含有割合は、分散組成物の全量に対して、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上、更に好ましくは0.003質量%以上である。また、棒状ナノ構造体等が過多であることに起因する棒状ナノ構造体等の凝集を抑制する観点から、棒状ナノ構造体等の含有割合は、分散組成物の全量に対して、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下である。
【0022】
被分散体が金属粒子等である場合、分散組成物における金属粒子等の含有割合は、分散組成物の全量に対し、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。また、金属粒子等の含有割合は、分散組成物の全量に対し、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。
【0023】
<(B)分散媒>
分散媒は、被分散体を分散させる相であり、好ましくは有機溶媒が使用される。当該有機溶媒は特に限定されず、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、アルコール系溶剤、ハロゲン化炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0024】
これらの具体例としては、非プロトン性極性溶媒として、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、1,3-ジメチル-1-イミダゾリジノン、γ-ブチロラクトン、γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、3-ブトキシ-N,N-ジメチルプロパンアミド、N,N,2-トリメチルプロパンアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド等を;
フェノール系溶剤として、m-クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール等を;
ケトン系溶剤として、シクロブタノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、アセトン、メチルエチルケトン、メチル-n-プロピルケトン、メチル-n-ブチルケトン、ジエチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、メチル-i-ブチルケトン、メチル-n-ペンチルケトン、エチル-n-ブチルケトン、メチル-n-ヘキシルケトン、ジイソブチルケトン、トリメチルノナノン等を;
エーテル系溶剤として、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、ジエチレングリコールジエチルエーテル(DEDG)、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、3-メトキシ-1-ブタノール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコール-n-プロピルエーテル、エチレングリコール-i-プロピルエーテル、エチレングリコール-n-ブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、1-ブトキシ-2-プロパノール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル等の多価アルコールの部分エーテル;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等の多価アルコールの部分エステル;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等を;
エステル系溶剤として、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸n-ブチル、酢酸i-ブチル、酢酸sec-ブチル、酢酸t-ブチル、酢酸3-メトキシブチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等を;
アルコール系溶剤として、メタノール、エタノール、n-プロパノール、i-プロパノール、n-ブタノール、i-ブタノール、t-ブタノール、1-ペンタノール、3-メチル-1-ブタノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、ヘプタノール、シクロヘキサノール、メチルシクロヘキサノール、ジアセトンアルコール、プロパン-1,2-ジオール、エチレングリコール等を;
ハロゲン化炭化水素系溶剤として、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,4-ジクロロブタン、トリクロロエタン等を;
炭化水素系溶剤として、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等を、それぞれ挙げることができる。なお、分散媒としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
分散媒は、重合体[P]の溶解性が高く、また被分散体の分散性及び分散安定性を優れたものとすることができる点で、上記のうち、非プロトン性極性溶媒が好ましく、特に、N-メチルピロリドン、N-エチルピロリドン、γ-ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドよりなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下「特定溶媒」ともいう)であることが好ましい。分散媒のうち、非プロトン性極性溶媒の割合は、分散組成物に含まれる分散媒の全量に対して、50質量%を超える量が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましく、95質量%以上が特に好ましい。
特定溶媒の含有割合(2種以上含有する場合には合計量)は、分散組成物に含まれる分散媒の全量に対して、50質量%以上が好ましく、65質量%以上がより好ましく、80質量%以上が更に好ましく、90質量%以上が特に好ましい。
【0026】
<(C)重合体[P]>
本開示の分散組成物は、ポリアミック酸の部分イミド化物である重合体[P]を含有する。重合体[P]は、ステロイド構造及び下記式(1)で表される部分構造よりなる群から選択される少なくとも1種(以下「特定構造」ともいう)を有する。
*-L1-R1-R2-R3-R4 …(1)
(式(1)中、L1は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*1、-OCO-*1、-NR5-、-NR5-CO-*1、-CO-NR5-*1、炭素数1~6のアルカンジイル基、-O-R6-*1、又は-R6-O-*1(ただし、R5は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基であり、R6は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*1」は、R1との結合手であることを示す。)である。R1及びR3は、それぞれ独立して、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、又は置換若しくは無置換のシクロアルキレン基である。R2は、単結合、置換若しくは無置換のフェニレン基、置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、又は-R7-B1-R8-(ただし、R7及びR8は、それぞれ独立に、置換又は無置換のフェニレン基又はシクロアルキレン基であり、B1は単結合、-O-、-COO-*2、-OCO-*2、-OCH2-*2、-CH2O-*2、又は炭素数1~3のアルカンジイル基である。「*2」は、R8との結合手であることを示す。)である。R4は、水素原子、フッ素原子、シアノ基、*3-OCO-CH3(「*3」は、R3との結合手であることを示す。)、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である。ただし、R1、R2及びR3の全部が単結合であるか、又はR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、R4は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基、又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。「*」は結合手であることを示す。)
【0027】
特定構造がステロイド構造である場合、その好ましい具体例としては、コレスタン骨格、コレステン骨格及びラノスタン骨格を有する構造が挙げられる。
【0028】
特定構造が上記式(1)で表される部分構造である場合、上記式(1)中の置換フェニレン基及び置換シクロアルキレン基において、環に結合する置換基は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、フッ素原子又はシアノ基が好ましい。置換フェニレン基及び置換シクロアルキレン基のそれぞれが有する置換基の数は、好ましくは1個又は2個であり、より好ましくは1個である。
【0029】
R4が、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基、炭素数1~18のフルオロアルコキシ基、又は、炭素数1~18のアルキル基が有する少なくとも1個の水素原子がシアノ基で置換された1価の基である場合、R4は直鎖状であることが好ましい。また、炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、更に好ましくは5以上である。
R1、R2及びR3の全部が単結合であるか、又はR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が1個である場合、被分散体の分散性及び分散安定性をより良好にできる点で、R4は炭素数4以上であることが好ましく、炭素数7以上であることがより好ましく、炭素数10以上であることが更に好ましい。
【0030】
上記式(1)で表される構造は、被分散体の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、環構造を有していることが好ましい。具体的には、R1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数は、1個以上であることが好ましく、1~4個であることがより好ましく、2~4個であることが更に好ましい。
被分散体の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、重合体[P]は、上記特定構造として、上記式(1)においてR1、R2及びR3が有するベンゼン環とシクロヘキシレン環との合計数が2個以上である構造及びステロイド構造よりなる群から選択される少なくとも1種を有することが好ましく、ステロイド構造を少なくとも有していることが特に好ましい。
【0031】
重合体[P]は、ポリアミック酸の部分イミド化物であり、1分子内にアミック酸構造とイミド化構造とを有する。重合体[P]の合成方法は特に限定されない。重合体[P]は、例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを反応させ、重合体[P]の前駆体であるポリアミック酸(以下「ポリアミック酸[P]」ともいう)を合成した後、次いで、ポリアミック酸[P]を脱水閉環して、ポリアミック酸[P]が有するアミック酸構造の一部をイミド化することにより得ることができる。
【0032】
(ポリアミック酸[P]の合成)
・テトラカルボン酸二無水物
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、特に限定されないが、例えば脂肪族テトラカルボン酸二無水物、脂環式テトラカルボン酸二無水物、芳香族テトラカルボン酸二無水物等が挙げられる。
【0033】
上記テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、脂肪族テトラカルボン酸二無水物として、ブタンテトラカルボン酸二無水物、エチレンジアミン四酢酸二無水物等を;
脂環式テトラカルボン酸二無水物として、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-8-メチル-3a,4,5,9b-テトラヒドロナフト[1,2-c]フラン-1,3-ジオン、3-オキサビシクロ[3.2.1]オクタン-2,4-ジオン-6-スピロ-3’-(テトラヒドロフラン-2’,5’-ジオン)、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロ-3-フラニル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、3,5,6-トリカルボキシ-2-カルボキシメチルノルボルナン-2:3,5:6-二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、ビシクロ[2.2.1]ヘプタン-2,3,5,6-テトラカルボン酸2:3,5:6-二無水物、4,9-ジオキサトリシクロ[5.3.1.02,6]ウンデカン-3,5,8,10-テトラオン、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等を;
芳香族テトラカルボン酸二無水物として、ピロメリット酸二無水物、4,4’-ビフタル酸二無水物、4,4’-カルボニルジフタル酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、ナフタレン-1,4,5,6-テトラカルボン酸二無水物、エチレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)、1,3-プロピレングリコールビス(アンヒドロトリメリテート)等を;
それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のテトラカルボン酸二無水物を用いることができる。
【0034】
ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物は、重合体[P]の分散媒に対する溶解性を良好にし、被分散体の分散性及び分散安定性をより高くできる点で、脂環式テトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。ポリアミック酸[P]の合成に際し、脂環式テトラカルボン酸二無水物の使用割合(すなわち、重合体[P]中の脂環式テトラカルボン酸二無水物に由来する構造単位(「構造単位UA」ともいう)の割合)は、ポリアミック酸[P]の合成に使用するテトラカルボン酸二無水物の全量に対し、5モル%以上であることが好ましく、15モル%以上であることがより好ましく、25モル%以上であることが更に好ましく、50モル%以上であることが特に好ましい。
【0035】
ポリアミック酸[P]の合成に使用する脂環式テトラカルボン酸二無水物は、上記の中でも、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,3-ジメチル-1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物、ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、テトラカルボン酸二無水物としては、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
・ジアミン化合物
ポリアミック酸[P]の合成に使用するジアミン化合物は、上記特定構造を有するジアミン(以下「特定ジアミン」ともいう)を含むことが好ましい。特定ジアミンを用いて重合する方法によれば、上記特定構造を有する重合体を合成しやすく、また重合体1分子内の上記特定構造の含有割合を調整しやすい点で好ましい。特定ジアミンを含む単量体を重合することにより、重合体[P]として、特定ジアミンに由来する構造単位(以下「構造単位UD」ともいう)を有する部分イミド化物が得られる。
【0037】
特定ジアミンは、上記特定構造を有していればよく、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン及び芳香族ジアミンのいずれであってもよい。被分散体の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、特定ジアミンは、芳香族ジアミンであることが好ましく、下記式(2)で表される化合物及び下記式(3)で表される化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【化1】
(式(2)中、L
2は、単結合、-O-、-CO-、-COO-*
4、-OCO-*
4、-NR
10-、-NR
10-CO-*
4、又は-CO-NR
10-*
4(ただし、R
10は水素原子又は炭素数1~10の1価の炭化水素基である。「*
4」は、R
9との結合手であることを示す。)である。R
9はステロイド骨格を有する1価の基である。)
【化2】
(式(3)中、L
1、R
1、R
2、R
3及びR
4は、上記式(1)と同義である。)
【0038】
特定ジアミンの具体例としては、上記式(2)で表される化合物として、コレスタニルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-3,5-ジアミノベンゼン、コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、コレステリルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル、3,5-ジアミノ安息香酸コレステリル、3,5-ジアミノ安息香酸ラノスタニル、3,6-ビス(4-アミノベンゾイルオキシ)コレスタン、3,6-ビス(4-アミノフェノキシ)コレスタン等を;
上記式(3)で表される化合物として、ブタノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ブタノキシ-3,5-ジアミノベンゼン、ペンタノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタノキシ-3,5-ジアミノベンゼン、ヘキサノキシ-3,5-ジアミノベンゼン、ヘプタノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ドデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ヘキサデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,4-ジアミノベンゼン、ペンタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、オクタデカノキシ-2,5-ジアミノベンゼン、4-(4’-トリフルオロメトキシベンゾイロキシ)シクロヘキシル-3,5-ジアミノベンゾエート、下記式(E-1)
【化3】
(式(E-1)中、X
I及びX
IIは、それぞれ独立に、単結合、-O-、*-COO-又は*-OCO-(ただし、「*」はX
Iとの結合手を示す。)であり、R
Iは炭素数1~3のアルカンジイル基であり、R
IIは単結合又は炭素数1~3のアルカンジイル基であり、R
11は水素原子、フッ素原子、シアノ基、炭素数1~18のアルキル基、炭素数1~18のフルオロアルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基又は炭素数1~18のフルオロアルコキシ基であり、aは0~2の整数であり、bは0~2の整数であり、dは0又は1である。ただし、a及びbが同時に0になることはない。)
で表される化合物等をそれぞれ挙げることができる。
【0039】
上記式(E-1)で表される化合物の具体例としては、例えば下記式(E-1-1)~式(E-1-13)のそれぞれで表される化合物等が挙げられる。
【化4】
【化5】
(式(E-1-1)~式(E-1-13)中、X
1は、-O-、-OCH
2-、-CH
2O-、-COO-CH
2-又は-CH
2-OCO-であり、R
11は上記式(E-1)と同義である。R
12は、炭素数3~18のアルキル基、炭素数3~18のフルオロアルキル基、炭素数3~18のアルコキシ基又は炭素数3~18のフルオロアルコキシ基である。)
【0040】
ポリアミック酸[P]及び重合体[P]において、特定ジアミンに由来する構造単位UDの含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、1モル%以上であることが好ましい。構造単位UDの含有割合が1モル%以上であると、特定構造の導入による被分散体の分散性及び分散安定性の改善効果を十分に得ることができる点で好適である。こうした観点から、構造単位UDの含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、2モル%以上であることがより好ましく、5モル%以上であることが更に好ましい。また、構造単位UDの含有割合は、重合体の分散媒に対する溶解性の低下を抑制する観点から、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、95モル%以下であることが好ましく、90モル%以下であることがより好ましく、80モル%以下であることが更に好ましい。なお、重合体の合成に際し、特定ジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0041】
ポリアミック酸[P]の合成に際し、ジアミン化合物としては特定ジアミンのみを用いてもよいが、特定ジアミンと共に、上記特定構造を有さないジアミン(以下「その他のジアミン」ともいう)を用いてもよい。その他のジアミンとしては、重合体[P]の有機溶媒に対する溶解性を損なわないようにする観点から、アニオン性官能基及びカチオン性官能基のいずれも有さないジアミンが好ましい。また、被分散体の分散性及び分散安定性をより高くする観点から、その他のジアミンは芳香族ジアミンが好ましい。
【0042】
その他のジアミンの具体例としては、脂肪族ジアミンとして、例えばメタキシリレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン等を;
脂環式ジアミンとして、例えば1,4-ジアミノシクロヘキサン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)等を;
芳香族ジアミンとして、例えばパラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート、4,4’-ジアミノベンズアニリド、4,4’-ジアミノジフェニルアミン、4,4’-ジアミノアゾベンゼン、1,5-ビス(4-アミノフェノキシ)ペンタン、1,7-ビス(4-アミノフェノキシ)ヘプタン、ビス[2-(4-アミノフェニル)エチル]ヘキサン二酸、N,N-ビス(4-アミノフェニル)メチルアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル、2,7-ジアミノフルオレン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス(4-アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’-[4,4’-プロパン-1,3-ジイルビス(ピペリジン-1,4-ジイル)]ジアニリン、1,4-ビス(4-アミノフェニル)ピペラジン、1,4-ビス(4-アミノ(3-ピリジニル))ピペラジン等の主鎖型ジアミンを;
ジアミノオルガノシロキサンとして、1,3-ビス(3-アミノプロピル)-テトラメチルジシロキサン等を;それぞれ挙げることができるほか、特開2010-97188号公報に記載のジアミンのうち上記式(1)で表される部分構造を有しないジアミンを用いることができる。
【0043】
ポリアミック酸[P]及び重合体[P]において、その他のジアミンに由来する構造単位(以下「構造単位UE」ともいう)の含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、好ましくは99モル%以下であり、より好ましくは98モル%以下であり、更に好ましくは95モル%以下である。また、構造単位UEの含有割合は、重合体を構成するジアミンに由来する構造単位の全量に対して、好ましくは5モル%以上であり、より好ましくは10モル%以上であり、更に好ましくは20モル%以上である。重合体の合成に際し、その他のジアミンとしては、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
ポリアミック酸[P]は、上記のようなテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物とを、必要に応じて分子量調整剤とともに反応させることによって得ることができる。ポリアミック酸[P]の合成反応に供されるテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物との使用割合は、ジアミン化合物のアミノ基1当量に対して、テトラカルボン酸二無水物の酸無水物基が、0.2~2当量となる割合が好ましく、0.3~1.2当量となる割合がより好ましい。
【0045】
分子量調整剤としては、例えば無水マレイン酸、無水フタル酸、無水イタコン酸などの酸一無水物、アニリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミンなどのモノアミン化合物、フェニルイソシアネート、ナフチルイソシアネートなどのモノイソシアネート化合物等を挙げることができる。分子量調整剤の使用割合は、使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の合計100質量部に対して、20質量部以下とすることが好ましく、10質量部以下とすることがより好ましい。
【0046】
ポリアミック酸[P]の合成反応は、好ましくは有機溶媒中において行われる。このときの反応温度は、-20℃~150℃が好ましく、0~100℃がより好ましい。また、反応時間は、0.1~24時間が好ましく、0.5~12時間がより好ましい。
【0047】
反応に使用する有機溶媒としては、例えば非プロトン性極性溶媒、フェノール系溶媒、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素、炭化水素などを挙げることができる。これらの有機溶媒のうち、非プロトン性極性溶媒及びフェノール系溶媒よりなる群(第1群の有機溶媒)から選択される1種以上、又は、第1群の有機溶媒から選択される1種以上と、アルコール、ケトン、エステル、エーテル、ハロゲン化炭化水素及び炭化水素よりなる群(第2群の有機溶媒)から選択される1種以上との混合物を使用することが好ましい。後者の場合、第2群の有機溶媒の使用割合は、第1群の有機溶媒及び第2群の有機溶媒の合計量に対して、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは40質量%以下であり、更に好ましくは30質量%以下である。
【0048】
特に好ましい有機溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、テトラメチル尿素、ヘキサメチルホスホルトリアミド、m-クレゾール、キシレノール及びハロゲン化フェノールよりなる群から選択される1種以上を溶媒として使用するか、あるいはこれらの1種以上と他の有機溶媒との混合物を、上記割合の範囲で使用することが好ましい。有機溶媒の使用量(a)は、テトラカルボン酸二無水物及びジアミンの合計量(b)が、反応溶液の全量(a+b)に対して、0.1~50質量%になる量とすることが好ましい。
【0049】
(ポリアミック酸[P]のイミド化)
重合体[P]を得るには、次いで、上記の如くして合成されたポリアミック酸[P]を脱水閉環してイミド化する。重合体[P]は、その前駆体であるポリアミック酸[P]が有していたアミック酸構造の一部が脱水閉環された部分イミド化物であり、アミック酸構造とイミド環構造とが併存する。
【0050】
重合体[P]は、被分散体の分散性及び分散安定性を高くできる点で、イミド化率が1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、5%以上であることが更に好ましく、10%以上であることがより更に好ましく、20%以上であることが特に好ましい。また、重合体[P]のイミド化率は、98%以下であることが好ましく、95%以下であることがより好ましく、90%以下であることが更に好ましく、85モル%以下であることがより更に好ましく、80モル%以下であることが特に好ましい。なお、重合体[P]のイミド化率は、重合体[P]のアミック酸構造の数とイミド環構造の数との合計に対するイミド環構造の数の占める割合を百分率で表したものである。イミド化率の測定方法の詳細は、以下の実施例の方法に従う。
【0051】
重合体[P]を得るための脱水閉環は、好ましくはポリアミック酸[P]を加熱する方法により、又はポリアミック酸[P]を有機溶媒に溶解し、この溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒の少なくともいずれかを添加し必要に応じて加熱する方法により行われる。
【0052】
ポリアミック酸[P]の溶液中に脱水剤及び脱水閉環触媒を添加する方法において、脱水剤としては、例えば無水酢酸、無水プロピオン酸、無水トリフルオロ酢酸等の酸無水物を用いることができる。脱水剤の使用量は、ポリアミック酸[P]のアミック酸構造の1モルに対して0.01~20モルとすることが好ましい。脱水閉環触媒としては、例えばピリジン、トリエチルアミン、1-メチルピペリジン等の塩基触媒、メタンスルホン酸、安息香酸等の酸触媒を用いることができる。脱水閉環触媒の使用量は、使用する脱水剤1モルに対して0.01~10モルとすることが好ましい。脱水閉環反応に用いられる有機溶媒としては、ポリアミック酸[P]の合成に用いられるものとして例示した有機溶媒を挙げることができる。脱水閉環反応の反応温度は、好ましくは0~200℃であり、より好ましくは10~150℃である。反応時間は、好ましくは1.0~120時間であり、より好ましくは2.0~30時間である。
【0053】
なお、重合体[P]を含有する反応溶液は、そのまま分散組成物の調製に供してもよく、反応溶液中に含まれる重合体[P]を単離したうえで分散組成物の調製に供してもよく、又は単離した重合体[P]を精製したうえで分散組成物の調製に供してもよい。重合体[P]の単離及び精製は公知の方法に従って行うことができる。重合体[P]の重合溶液として(B)分散媒を用いることにより、分散組成物を調製する際に工程を簡略できる点で好ましい。
【0054】
以上のようにして得られる重合体[P]は、これを濃度10質量%の溶液としたときに、10~2000mPa・sの溶液粘度を持つものであることが好ましく、20~1000mPa・sの溶液粘度を持つものであることがより好ましい。なお、上記重合体の溶液粘度(mPa・s)は、当該重合体の良溶媒(例えば、N-メチル-2-ピロリドンやγ-ブチロラクトン等)を用いて調製した濃度10質量%の重合体溶液につき、E型回転粘度計を用いて25℃において測定した値である。
【0055】
重合体[P]のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは1,000~500,000であり、より好ましくは2,000~300,000である。また、Mwと、GPCにより測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは15以下であり、より好ましくは10以下である。
【0056】
ここで、被分散体の1つであるカーボンナノチューブは、導電性や耐熱性、強靭性、軽量化等において優れた性質をもつ。しかしながら、カーボンナノチューブは凝集性が高く、分散媒に均一に分散されにくい。また、カーボンナノチューブの分散状態が良好でないと、その分散組成物を用いて得られた膜や配線等において、カーボンナノチューブのもつ各種特性(例えば導電性、外力耐性)が十分に発現されないことが懸念される。この点、本開示の分散組成物は重合体[P]を含むことにより、カーボンナノチューブの分散媒(特に有機溶媒)に対する分散性に優れている。また、カーボンナノチューブと重合体[P]とを含有する分散組成物を用いることにより、導電性に優れた膜等を形成することができる。
【0057】
分散組成物における重合体[P]の含有割合は、被分散体の種類を考慮して適宜に選択されるが、被分散体100質量部に対し、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましい。また、重合体[P]の含有割合は、被分散体100質量部に対し、2000質量部以下であることが好ましく、1500質量部以下であることがより好ましく、1000質量部以下であることが更に好ましい。
【0058】
より具体的には、例えば、被分散体が棒状ナノ構造体等である場合、棒状ナノ構造体等の分散性を十分に高くする観点から、重合体[P]の含有割合は、棒状ナノ構造体等100質量部に対して、100質量部以上であることが好ましく、150質量部以上であることがより好ましく、200質量部以上であることが更に好ましい。また、重合体[P]の含有割合は、棒状ナノ構造体等100質量部に対し、2000質量部以下であることが好ましく、1500質量部以下であることがより好ましく、1000質量部以下であることが更に好ましい。
【0059】
被分散体が金属粒子等である場合、重合体[P]の含有割合は、金属粒子等100質量部に対して、1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることが更に好ましい。また、重合体[P]の含有割合は、金属粒子等100質量部に対し、1000質量部以下であることが好ましく、500質量部以下であることがより好ましく、300質量部以下であることが更に好ましい。
【0060】
なお、重合体[P]を分散組成物に配合することにより、被分散体の分散性及び分散安定性を良好にすることができた理由は定かではないが、1つの仮説として、重合体[P]が有する上記特定構造による排除体積効果により被分散体の凝集が抑制されたこと、及びポリアミック酸の部分イミド化物による静電相互作用と共役構造とを併せ持つことにより被分散体の分散安定性が向上したことが考えられる。
【0061】
<その他の成分>
本開示の分散組成物は、本開示の目的及び効果を妨げない範囲内において、被分散体、分散媒、及び重合体[P]以外のその他の成分を含有していてもよい。その他の成分としては、例えば、重合体[P]とは異なる分散剤(以下「その他の分散剤」ともいう)、界面活性剤、充填剤、消泡剤、増感剤、酸化防止剤、密着助剤、帯電防止剤、レベリング剤、抗菌剤等が挙げられる。その他の成分の含有割合は、配合する各化合物に応じて、本開示の効果を妨げない範囲で適宜設定することができる。
【0062】
なお、本開示の分散組成物がその他の分散剤を含有する場合、その他の分散剤の含有割合は、分散組成物に含有される重合体[P]及びその他の分散剤の全量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましい。
【0063】
分散組成物の調製方法は特に限定されず、公知の方法に従って行うことができる。例えば、被分散体と分散媒と分散剤とを混合し、必要に応じて加熱、撹拌等を行うことにより調製することができる。分散組成物を調製する際の温度は、好ましくは5~90℃であり、より好ましくは10~65℃である。被分散体と分散媒と分散剤とを混合する処理は、ホモジナイザーやビーズミル等を用いて行ってもよい。
【0064】
分散組成物の固形分濃度(すなわち、分散組成物の分散媒以外の成分の合計質量が分散組成物の全質量に占める割合)は、粘性や分散媒の揮発性等を考慮して適宜に選択される。例えば、被分散体がカーボンである場合、固形分濃度は、好ましくは0.1~30質量%の範囲であり、より好ましくは0.5~20質量%の範囲であり、更に好ましくは1~15質量%の範囲である。また、被分散体が金属粒子である場合、固形分濃度は、好ましくは1~70質量%の範囲であり、より好ましくは2~65質量%の範囲であり、更に好ましくは5~60質量%の範囲である。
【0065】
本開示の分散組成物は、重合体[P]を高分子分散剤として用いる。これにより、分散媒中において被分散体の凝集が抑制され、被分散体が均一に分散された状態にすることができる。本開示の分散組成物を基材上に塗布し、好ましくは加熱して分散媒を除去することにより、基材上に被分散体を含む薄膜を形成することができる。また、本開示の分散組成物をそのまま又は他の分散液と混合して液体の状態で用いることも可能である。
【0066】
本開示の分散組成物及び分散剤は、被分散体の種類に応じて種々の用途に使用することができる。具体的には、透明導電膜、帯電防止膜、絶縁膜、保護膜、反射防止膜、着色膜、電界効果トランジスタ(FET)、タッチパネル、導電性インク、塗料、印刷用インキ、インクジェット塗布用インキ等に使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下、実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下の例において、重合体のイミド化率は以下の方法により測定した。以下の例で用いた原料化合物及び重合体の必要量は、下記の合成例に示す合成スケールでの合成を必要に応じて繰り返すことにより確保した。
【0068】
[重合体のイミド化率]
重合体を含有する溶液を純水に投入し、得られた沈殿を室温で十分に減圧乾燥した後、重水素化ジメチルスルホキシドに溶解し、テトラメチルシランを基準物質として室温(25℃)で1H-NMRを測定した。得られた1H-NMRスペクトルから、下記数式(EX-1)を用いてイミド化率を求めた。
イミド化率(%)=(((1-E1)/E2)×α)×100
…(EX-1)
(数式(EX-1)中、E1は化学シフト10ppm付近に現れるNH基のプロトン由来のピーク面積であり、E2はその他のプロトン由来のピーク面積であり、αは重合体の前駆体(ポリアミック酸)におけるNH基のプロトン1個に対するその他のプロトンの個数割合である。)
なお、以下では、式(X)で表される化合物を単に「化合物(X)」と略すことがある。
【0069】
1.重合体の合成
[合成例1:ポリアミック酸の合成]
2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物33.4g(95モル部)、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル16.4g(20モル部)、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル25.1g(80モル部)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)425gに溶解させ、室温で6時間反応を行った。反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。この沈殿物をメタノールで洗浄し、減圧下40℃で15時間乾燥することにより、ポリアミック酸(以下「重合体(paa-1)」とする)を67g得た。
【0070】
[合成例2:ポリイミドの合成]
上記と同様に2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物95モル部、3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル20モル部、及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテル80モル部をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解させ、重合体濃度が15質量%のポリアミック酸溶液を得た。得られたポリアミック酸溶液にNMPを加え、重合体濃度が10質量%となるように希釈した後、所定量のピリジン及び無水酢酸を加え、110℃で4時間反応させた。次いで、得られた反応混合物を大過剰のメタノール中に注ぎ、反応生成物を沈澱させた。回収した沈殿物をメタノールで洗浄した後、減圧下100℃で乾燥することにより、ポリイミド(以下「重合体(PI-1)」とする)を得た。得られた重合体(PI-1)のイミド化率は50%であった。
【0071】
[合成例3~13]
反応に使用するテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の種類及び量を下記表1の通り変更した以外は合成例2と同様にしてポリイミド(重合体(PI-2)~(PI-10)、(pi-1)、(pi-2))を得た。各ポリイミドのイミド化率を下記表1に併せて示した。
【0072】
【0073】
表1中の数値は、テトラカルボン酸二無水物については、反応に使用したテトラカルボン酸二無水物の合計量に対する使用割合(モル%)を示し、ジアミン化合物については、反応に使用したジアミン化合物の合計量に対する使用割合(モル%)を示す。表1中のテトラカルボン酸二無水物及びジアミン化合物の略称は以下の通りである。
(テトラカルボン酸二無水物)
AN-1; ビシクロ[3.3.0]オクタン-2,4,6,8-テトラカルボン酸2:4,6:8-二無水物
AN-2; 2,3,5-トリカルボキシシクロペンチル酢酸二無水物
AN-3; ピロメリット酸二無水物
(ジアミン化合物)
DA-1; 3,5-ジアミノ安息香酸コレスタニル
DA-2; コレスタニルオキシ-2,4-ジアミノベンゼン
DA-3; 下記式(DA-3)で表される化合物
DA-4; 下記式(DA-4)で表される化合物
DA-5; パラフェニレンジアミン
DA-6; 4,4’-ジアミノジフェニルエーテル
DA-7; 下記式(DA-7)で表される化合物
DA-8; 下記式(DA-8)で表される化合物
【化6】
【0074】
2.CNT含有分散組成物の作製及び評価
[実施例1]
(1)分散組成物の調製
シングルウォールカーボンナノチューブ(SWNT)50質量部、及び合成例2で得た重合体(PI-1)250質量部が入った容器に、溶媒としてNMP10000質量部を加えた。次いで、60分間、超音波分散を行い、分散組成物(S-1)を調製した。
【0075】
(2)CNT分散性の評価
上記(1)で得た分散組成物(S-1)を25℃の環境下において、平坦な場所に静置させた。評価は、静置してから1週間後にCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていれば「最優良(◎◎)」、3日後まではCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていたが、その後、CNTの沈降や凝集が見られた場合には「優良(◎)」、1日後まではCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていたが、その後、CNTの沈降や凝集が見られた場合には「良好(○)」、3時間後まではCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていたが、その後、CNTの沈降や凝集が見られた場合には「可(△)」、静置後3時間が経過する前にCNTの沈降や凝集が見られた場合には「不良(×)」とした。その結果、この分散組成物(S-1)のCNT分散性は「最優良(◎◎)」であった。
【0076】
(3)CNT分散安定性(耐久性)の評価
上記(1)と同様にして分散組成物を調製した。得られた分散組成物を40℃の環境下、平坦な場所に静置し、時間経過に伴う分散状態を観察した。評価は、静置してから1週間後にCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていれば「最優良(◎◎)」、3日後まではCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていたが、その後、CNTの沈降や凝集が見られた場合には「優良(◎)」、1日後まではCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていたが、その後、CNTの沈降や凝集が見られた場合には「良好(○)」、3時間後まではCNTが沈降することなく初期の分散状態を保っていたが、その後、CNTの沈降や凝集が見られた場合には「可(△)」、静置後3時間が経過する前に沈降や凝集が見られた場合は「不良(×)」とした。その結果、分散組成物のCNT分散安定性は「最優良(◎◎)」であった。
【0077】
(4)CNT塗布性の評価
上記(1)で得た分散組成物(S-1)をガラス基板上にブレードを用いて塗布し、80℃のホットプレートで10分間乾燥することにより、基板中央の膜厚が1μmの塗膜を形成した。この塗膜を倍率50倍の顕微鏡で観察し、塗膜の膜厚ムラ及びピンホールの有無を調べた。評価は、膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されなかった場合を塗布性「良好(○)」、膜厚ムラ及びピンホールの少なくとも一方が明確に観察された場合を塗布性「不良(×)」とした。その結果、膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されず、塗布性は「良好(○)」であった。
【0078】
(5)体積抵抗率の評価
ブレードのギャップを変えた以外は上記(4)と同様にして、ガラス基板上に分散組成物(S-1)を塗布及び乾燥し、フィルム状の試験片を得た。なお、必要に応じて、複数回塗布することで厚さ約20μmとなるように膜厚を調整した。次に、得られた試験片の体積抵抗率(μΩ・m)を4端子法により測定した。体積抵抗率は、表面抵抗率及び膜厚から下記数式(EX-2)を用いて算出した。また、測定にあたって、測定箇所を変えながら5回測定し、それらの平均値を体積抵抗率として評価した。
体積抵抗率(μΩ・m)=表面抵抗率(Ω)×膜厚(μm)
…(EX-2)
その結果、分散組成物(S-1)を用いて得られたフィルムの体積抵抗率は280μΩ・mであった。なお、膜の体積抵抗率が低いほど、導電性が高いといえる。
【0079】
(6)塗膜の外力耐性試験
上記(1)で得た分散組成物(S-1)をガラス基板上にブレードを用いて塗布し、80℃のホットプレートで10分間乾燥することにより、平均膜厚10μmの塗膜を形成した。得られた塗膜について、半径5mmのビー玉を高さ20cmから落球させることで、力学的な外力に対するひび割れの発生しにくさ(外力耐性)について調べた。評価は、顕微鏡観察(倍率:10倍)にてひび割れが観察されなければ「良好(○)」、目視ではひび割れが観察されないが、顕微鏡によりひび割れが観察されれば「可(△)」、目視でひび割れが観察されたものは「不良(×)」とした。その結果、分散組成物(S-1)を用いて形成した塗膜の外力耐性は「良好(○)」と判断された。
【0080】
(7)基板密着性の評価
分散組成物の塗布をスプレー塗布により行った以外は上記(4)と同様にして、ガラス基板上に分散組成物(S-1)を塗布及び乾燥し、厚さ5μmの塗膜をガラス基板上に形成することにより、カーボンナノチューブ付き基板を作製した。次いで、NMP/ブチルセロソルブ/プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート=5/25/70(質量比)となるように調製した溶剤に、カーボンナノチューブ付き基板を10秒間浸漬し、その後、基板を80℃のホットプレートで10分間乾燥させた。得られた基板(以下「密着性評価用試験片」という)を顕微鏡(倍率:10倍)により観察するとともに、体積抵抗率を評価することで、基板密着性の評価を行った。評価は、下記の基準1、基準2及び基準3の全てを満たす場合を「最優良(◎◎)」、基準1及び基準2を満たすが、基準3を満たさない場合を「優良(◎)」、基準1を満たすが、基準2を満たさない場合を「良好(○)」、基準2を満たすが、基準1を満たさない場合を「可(△)」、基準1及び基準2の両方を満たさない場合を「不良(×)」とした。
基準1:密着性評価用試験片を顕微鏡観察したときにひび割れが観察されない。
基準2:密着性評価用試験片の体積抵抗率を上記(EX-2)の方法に従い求めた値が0.05Ω・cm以下(500μΩ・m以下)である。
基準3:密着性評価用試験片の体積抵抗率を上記(EX-2)の方法に従い求めた値が、上記(EX-2)の体積抵抗率の値以下である。
その結果、分散組成物(S-1)の基板密着性は「最優良(◎◎)」であった。
【0081】
(8)表面凹凸性の評価
50mm角のガラス基板上に、上記(4)と同様にして分散組成物(S-1)を塗布及び乾燥し、基板中央の膜厚が10.0μmの塗膜をガラス基板上に形成することにより、カーボンナノチューブ付き基板を作製した。次いで、基板の4隅の角から5mmずつ内側の箇所の膜厚を計測し、最大膜厚と最小膜厚の差(μm)により表面凹凸性を評価した。評価は、最大膜厚と最小膜厚の差が2.0μm未満であった場合を「良好(○)」、2.0μm以上あった場合を「不良(×)」とした。その結果、分散組成物(S-1)の表面凹凸性は「良好(○)」であった。
【0082】
[実施例2~10、比較例1~3]
分散組成物の組成を下記表2に記載の通りに変更した以外は、実施例1の分散組成物(S-1)と同様にして、分散組成物(S-2)~(S-10)及び(sr-1)~(sr-3)を調製した。また、分散組成物(S-1)に代えて分散組成物(S-2)~(S-10)及び(sr-1)~(sr-3)をそれぞれ用いた点以外は、実施例1と同様にして各種評価を行った。実施例1~10及び比較例1~3の評価結果を下記表2にまとめた。
【0083】
【0084】
表2中、「配合量」の数値は質量部を示す。CNTの略称は以下の通りである。
<CNT>
MWNT; マルチウォールカーボンナノチューブ
DWNT; ダブルウォールカーボンナノチューブ
SWNT; シングルウォールカーボンナノチューブ
【0085】
表2の結果から、実施例1~10は、カーボンナノチューブの分散性、分散安定性、塗布性、基板との密着性、表面凹凸性及び外力耐性の各評価が、最優良、優良、良好又は可の評価であった。これらのうち、実施例1~7、9は、実施例8、10に比べて各種特性に優れていた。特に、実施例1、6、7は、CNT分散性及びCNT分散安定性が「最優良」の評価であり、また体積低効率も450μΩ・m以下と小さく、良好であった。また、分散性及び分散安定性が良好な分散組成物を用いることにより、基板に対する密着性が良好であり、表面凹凸性が少なく面内均一性の高い膜を形成することができた。
【0086】
3.金属粒子含有分散組成物の作製及び評価
[実施例11]
(1)分散組成物の調製
金属粒子として酸化チタン45質量部、及び合成例2で得た重合体(PI-1)2質量部が入った容器に、溶媒としてNMP53質量部を加えた。次いで、ペイントシェーカー(振とう器)にて10分間振とうし、分散組成物(S-11)を調製した。
【0087】
(2)粒子分散性の評価
上記(1)で得た分散組成物(S-11)を25℃の環境下、平坦な場所に1日静置し、実施例1の(2)と同様にして被分散体(本実施例では金属粒子)の分散性を評価した。その結果、分散組成物(S-11)の粒子分散性は「最優良(◎◎)」であった。
(3)粒子分散安定性(耐久性)の評価
上記(1)と同様にして分散組成物を調製した。得られた分散組成物を40℃の環境下平坦な場所に静置し、実施例1の(3)と同様にして被分散体の分散安定性を評価した。その結果、この実施例の分散組成物の分散安定性は「最優良(◎◎)」であった。
【0088】
(4)粒子塗布性の評価
上記(1)で得た分散組成物(S-11)を用いた点以外は実施例1の(4)と同様にして塗布性を評価した。その結果、膜厚ムラ及びピンホールの双方とも観察されず、塗布性は「良好(○)」であった。
(5)塗膜の外力耐性試験
上記(1)で得た分散組成物(S-11)を用いた点以外は、実施例1の(6)と同様にして塗膜の外力耐性試験を行い、ひび割れの発生にしくさ(外力耐性)を確認した。その結果、分散組成物(S-11)を用いて形成した塗膜は、顕微鏡観察(倍率:10倍)にてひび割れが観察されず、外力耐性は「良好(○)」と判断された。
【0089】
[実施例12~21、比較例4及び5]
分散組成物の組成を下記表3に記載の通りに変更した以外は、実施例11の分散組成物(S-11)と同様にして、分散組成物(S-12)~(S-21)並びに(sr-4)及び(sr-5)を調製した。また、分散組成物(S-11)に代えて分散組成物(S-12)~(S-21)並びに(sr-4)及び(sr-5)をそれぞれ用いた点以外は、実施例11と同様にして各種評価を行った。実施例12~21並びに比較例4及び比較例5の各種評価結果を下記表3にまとめた。
【0090】
【0091】
表3中、「配合量」の数値は質量部を示す。化合物の略号は以下の通りである。
<分散剤>
BYK180; BYK-Chemie社製 DISPERBYK-180(ポリアクリル分散剤)
【0092】
表3の結果から、実施例11~21は、金属粒子の分散性、分散安定性、塗布性及び外力耐性の評価が、最優良、優良、良好又は可であった。これらのうち、脂環式テトラカルボン酸二無水物単位を有するポリイミドを含む実施例11~17、19~21は、酸二無水物として芳香族テトラカルボン酸二無水物のみを用いたポリイミドを含む実施例18に比べて各種特性に優れていた。特に、実施例11、16、17、19~21は、金属粒子の分散性及び分散安定性が共に「最優良」の評価であり、各実施例で用いたポリイミドは分散剤特性に優れていた。