(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】光硬化性組成物、その硬化物、及び硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 83/07 20060101AFI20250212BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20250212BHJP
C08K 3/105 20180101ALI20250212BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C08K3/105
C08K5/098
(21)【出願番号】P 2022532412
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 JP2021019266
(87)【国際公開番号】W WO2021261133
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2023-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2020106880
(32)【優先日】2020-06-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 賢明
(72)【発明者】
【氏名】古田 尚正
(72)【発明者】
【氏名】北村 昭憲
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-070432(JP,A)
【文献】特開2009-155442(JP,A)
【文献】特開2009-079163(JP,A)
【文献】国際公開第2005/010077(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/066608(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 83/00-83/16
C08K 3/08-3/105
C08K 5/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体と、遷移金属を含むヒドロシリル化触媒とを含む光硬化性組成物。
【化1】
〔式(1)中、
R
1はヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基であり、
R
2は炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、
複数存在するR
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~10のアラルキル基及びヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、
複数存在するR
3は互いに同一でも異なっていてもよく、
複数存在するR
4は互いに同一でも異なっていてもよく、
u、v、w及びxはそれぞれ独立に0又は正の数であって、少なくともいずれか1つは正の数であり、
y及びzはそれぞれ独立に0又は正の数であり、
0≦y/(u+v+w+x)≦2.0であり、
0≦z/(u+v+w+x)≦2.0であり、
但し、v=0
であってwが正の数のとき、複数存在するR
3及びR
4の少なくともいずれか1つは水素原子であり、w=0
であってvが正の数のとき、複数存在するR
3及びR
4の少なくともいずれか1つはヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基であ
り、v=w=0のとき、複数存在するR
3
及びR
4
の少なくともいずれか1つは水素原子であり、かつ、複数存在するR
3
及びR
4
の少なくともいずれか1つはヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基である。〕
【請求項2】
前記シルセスキオキサン誘導体に存在するヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する有機基1個に対する、ケイ素原子に結合した水素原子の数の比が0.5~5.0である、請求項1に記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
前記遷移金属の含有割合が、前記シルセスキオキサン誘導体100重量部に対して0.1~30,000重量ppmである、請求項1又は2に記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記遷移金属が白金族金属である、請求項1~3のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項5】
前記遷移金属を含むヒドロシリル化触媒が、β-ジケトナト白金錯体類、(η-シクロペンタジエニル)トリアルキル白金錯体類、(η
4-1,5-シクロオクタジエン)ジアリール白金錯体類及びジアルキルアゾジカルボキシラート白金錯体類からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~4のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
更に、耐熱性向上剤を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光硬化性組成物を、硬化させて得られる硬化物。
【請求項8】
1MHzにおける比誘電率が4.0以下である、請求項7に記載の硬化物。
【請求項9】
熱重量測定における大気中の5%重量減少温度が300℃以上である、請求項7又は8に記載の硬化物。
【請求項10】
絶縁膜である、請求項7~9のいずれか1項に記載の硬化物。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載の光硬化性組成物に紫外線を照射して硬化させる工程を含む、硬化物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光硬化性組成物、その硬化物、及び硬化物の製造方法に関し、耐熱材料の技術分野、絶縁材料の技術分野、電子材料の技術分野及び自動車の技術分野等に属する。更に詳しくは、本開示は、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和基及びヒドロシリル基を有する有機ケイ素化合物とヒドロシリル化触媒とを含む光硬化性組成物に関するものである。上記の光硬化性組成物の硬化物は耐熱絶縁材料として有用である。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスや自動車部材の小型化、高集積化及び高性能化等により、それに用いられる各種の保護膜及び絶縁膜等の高耐熱化が益々求められている。
施工性、光学特性、耐薬品性、耐熱性及び耐候性等の観点から、有機-無機複合材料であるシリコーン等のシロキサン系化合物の利用が行われており、特に高耐熱性と施工性の観点から、付加硬化型のシルセスキオキサン誘導体が注目されている。
【0003】
国際公開第2005/010077号では、同一分子内に炭素-炭素不飽和結合基及びヒドロシリル基が共にT構造のケイ素原子に結合した、熱硬化性の高耐熱性シルセスキオキサン誘導体について開示されている。
【0004】
国際公開第2009/066608号では、同一分子内に炭素-炭素不飽和結合基及びヒドロシリル基を有し、T構造、D構造及びM構造を有する、熱硬化性の高耐熱性シルセスキオキサン誘導体について開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、国際公開第2005/010077号及び国際公開第2009/066608号に開示されたシルセスキオキサン誘導体のヒドロシリル化架橋による硬化のためには、加熱処理が必須であるため、それを塗布する基材が加熱温度に耐えられるものに制限されるうえ、硬化するためには長時間の加熱を要し、生産性に問題があった。
本発明の一実施形態によれば、硬化性に優れ種々の基材に適用可能なシルセスキオキサン誘導体を含む光硬化性組成物、その硬化物、及び硬化物の製造方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記[1]~[11]の態様を含む。
[1]
下記式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体と、遷移金属を含むヒドロシリル化触媒とを含む光硬化性組成物。
【化1】
〔式(1)中、
R
1はヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基であり、
R
2は炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であり、
複数存在するR
3及びR
4はそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~10のアラルキル基及びヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、
複数存在するR
3は互いに同一でも異なっていてもよく、
複数存在するR
4は互いに同一でも異なっていてもよく、
u、v、w及びxはそれぞれ独立に0又は正の数であって、少なくともいずれか1つは正の数であり、
y及びzはそれぞれ独立に0又は正の数であり、
0≦y/(u+v+w+x)≦2.0であり、
0≦z/(u+v+w+x)≦2.0であり、
但し、v=0のとき、複数存在するR
3及びR
4の少なくともいずれか1つは水素原子であり、w=0のとき、複数存在するR
3及びR
4の少なくともいずれか1つはヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基である。〕
[2]
前記シルセスキオキサン誘導体に存在するヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する有機基1個に対する、ケイ素原子に結合した水素原子の数の比が0.5~5.0である、[1]に記載の光硬化性組成物。
[3]
前記遷移金属の含有割合が、前記シルセスキオキサン誘導体100重量部に対して0.1~30,000重量ppmである、[1]又は[2]に記載の光硬化性組成物。
[4]
前記遷移金属が白金族金属である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[5]
前記遷移金属を含むヒドロシリル化触媒が、β-ジケトナト白金錯体類、(η-シクロペンタジエニル)トリアルキル白金錯体類、(η
4-1,5-シクロオクタジエン)ジアリール白金錯体類及びジアルキルアゾジカルボキシラート白金錯体類からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[6]
更に、耐熱性向上剤を含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物。
[7]
[1]~[6]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物を、硬化させて得られる硬化物。
[8]
1MHzにおける比誘電率が4.0以下である、[7]に記載の硬化物。
[9]
熱重量測定における大気中の5%重量減少温度が300℃以上である、[7]又は[8]に記載の硬化物。
[10]
絶縁膜である、[7]~[9]のいずれか1つに記載の硬化物。
[11]
[1]~[6]のいずれか1つに記載の光硬化性組成物に紫外線を照射して硬化させる工程を含む、硬化物の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、硬化性に優れ種々の基材に適用可能なシルセスキオキサン誘導体を含む光硬化性組成物、その硬化物、及び硬化物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本開示は、光硬化性組成物、その硬化物及び硬化物の製造方法に関する。
以下、本開示について詳細に説明する。
尚、「%」は特に明記しない限り「重量%」を意味し、「部」は「重量部」、「ppm」は「重量ppm」を意味する。又、本開示において、数値範囲を表す「下限~上限」の記載は、「下限以上、上限以下」を表し、「上限~下限」の記載は、「上限以下、下限以上」を表す。即ち、上限及び下限を含む数値範囲を表す。更に、本開示においては、後述する好ましい態様の2以上の組み合わせも又、好ましい態様である。
本開示において、「工程」の語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
【0009】
以下、シルセスキオキサン誘導体、シルセスキオキサン誘導体の製造方法、ヒドロシリル化触媒、光硬化性組成物、その硬化物、硬化物の製造方法、及び用途について説明する。
【0010】
1.シルセスキオキサン誘導体
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体は、下記式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体である。下記式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、同一分子内にヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する有機基とヒドロシリル基とを有する。
【0011】
【0012】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の有することができる各構成単位をそれぞれ以下のとおり構成単位(a)~(f)と称するものとし、以下に説明する。
【0013】
構成単位(a):(SiO4/2)u
【0014】
【0015】
構成単位(b):(HSiO3/2)v
【0016】
【0017】
構成単位(c):(R1SiO3/2)w
【0018】
【0019】
構成単位(d):(R2SiO3/2)x
【0020】
【0021】
構成単位(e):(R3
2SiO2/2)y
【0022】
【0023】
構成単位(f):(R4
3SiO1/2)z
【0024】
【0025】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体は、上記した構成単位(a)~(f)を含むことができる。
式(1)におけるu、v、w及びxはそれぞれ独立に0又は正の数であって、少なくともいずれか1つは正の数であり、y及びzはそれぞれ独立に0又は正の数であり、0≦y/(u+v+w+x)≦2.0であり、0≦z/(u+v+w+x)≦2.0である。
即ち、式(1)におけるu、v、w、x、y及びzは、それぞれの構成単位のモル比を表す。尚、式(1)において、u、v、w、x、y及びzは、式(1)で表される本開示に係るシルセスキオキサン誘導体が含有する各構成単位の相対的なモル比を表す。即ち、モル比は、式(1)で表される各構成単位の総数の相対比である。モル比は、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体のNMR(核磁気共鳴)分析値から求めることができる。又、本シルセスキオキサン誘導体の各原料の反応率が明らかなとき、又は、収率が100%のときには、その原料の仕込み量から求めることができる。
【0026】
式(1)における構成単位(c)、(d)、(e)及び(f)のそれぞれについては、1種のみであってよいし、2種以上であってもよい。又、式(1)における配列順序は、構成単位の組成を示すものであって、その配列順序を意味するものではない。したがって、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体における構成単位の縮合形態は、必ずしも式(1)の配列順通りでなくてよい。
【0027】
1-1.構成単位(a):(SiO
4/2
)
u
構成単位(a)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を4個(酸素原子として2個)備える、いわゆるQ単位である。尚、Q単位とは、ケイ素原子1個に対してO1/2を4個有する単位を意味する。
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体における構成単位(a)の割合は特に限定するものではないが、本開示の光硬化性組成物の粘度及びその硬化物の柔軟性を考慮すると、全構成単位に占めるモル比率(u/(u+v+w+x+y+z))は、好ましくは0.5以下であり、より好ましくは0.4以下であり、更により好ましくは0.3以下であり、更に好ましくは0である。ここで、モル比が0であることは、その構成単位を含んでいないことを意味しており、以下、同様のことを意味する。
【0028】
1-2.構成単位(b):(HSiO
3/2
)
v
構成単位(b)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個(酸素原子として1.5個)備える、いわゆるT単位であり、ケイ素原子に結合する水素原子を備えている。尚、T単位とは、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個有する単位を意味する。
即ち、構成単位(b)は、ヒドロシリル化反応を行うことができるヒドロシリル基を備えている。
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体における構成単位(b)の割合は特に限定するものではないが、本開示の光硬化性組成物及びその硬化物の耐熱性、耐酸化性、耐候性及び絶縁性を考慮すると、全構成単位に占めるモル比(v/(u+v+w+x+y+z))は、好ましくは0~0.7であり、絶縁膜としての耐熱性、耐酸化性及び耐候性を考慮すると、より好ましくは0~0.1である。
【0029】
1-3.構成単位(c):(R
1
SiO
3/2
)
w
構成単位(c)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個(酸素原子として1.5個)備えるT単位であり、ケイ素原子に結合するR1を備えている。
R1は、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基を表す。即ち、この有機基R1は、ヒドロシリル化反応可能な、炭素-炭素二重結合又は炭素-炭素三重結合を持つ官能基が好ましい。
かかる有機基R1の具体例としては、特に限定するものではないが、例えば、ビニル基、オルトスチリル基、メタスチリル基、パラスチリル基、アクリロイルオキシメチル基、メタクリロイルオキシメチル基、2-アクリロイルオキシエチル基、2-メタクリロイルオキエメチル基、3-アクリロイルオキシプロピル基、3-メタクリロイルオキシプロピル基、8-アクリロイルオキシオクチル基、8-メタクリロイルオキシオクチル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルエテニル基、1-ブテニル基、3-ブテニル基、1-ペンテニル基、4-ペンテニル基、3-メチル-1-ブテニル基、1-フェニルエテニル基、2-フェニルエテニル基、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、1-ブチニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、4-ペンチニル基、3-メチル-1-ブチニル基及びフェニルブチニル基等が例示される。
ヒドロシリル化反応性、及び、硬化物の耐熱性、耐酸化性及び/又は耐候性等の観点から、R1としては、好ましくは炭素-炭素二重結合を持つ炭化水素基であり、より好ましくは炭素原子数が少ないビニル基及び2-プロペニル基(アリル基)、又は、芳香族であるオルトスチリル基、メタスチリル基及びパラスチリル基であり、更に好ましくはビニル基である。
式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、全体として有機基R1を2個以上含むことができるが、その場合、全ての有機基R1は、互いに同一であってよいし、異なってもよい。例えば、異なっている場合、ビニル基及びパラスチリル基が存在していてもよい。
【0030】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体における構成単位(c)の割合は特に限定するものではないが、本開示の光硬化性組成物及びその硬化物の耐熱性、耐酸化性、耐候性及び絶縁性を考慮すると、全構成単位に占めるモル比(w/(u+v+w+x+y+z))は、好ましくは0~0.5であり、より好ましくは0.1~0.3である。
【0031】
1-4.構成単位(d):(R
2
SiO
3/2
)
x
構成単位(d)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を3個(酸素原子として1.5個)備えるT単位であり、ケイ素原子に結合するR2を備えている。
R2は、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種である。構成単位(d)は、前述の構成単位(b)及び構成単位(c)と比較して、水素原子を含まない点、及び、ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する有機基を含まない点において相違する。
構成単位(d)は、光硬化性組成物及びその硬化物において、基本的にケイ素原子1個当たり3個のシロキサン結合を形成している一方、ヒドロシリル化反応による架橋は形成しないこと、及び、ケイ素原子1個当たり1個の適度な炭素原子数の有機基を有することから、本開示の光硬化性組成物及びその硬化物の、耐熱性、耐酸化性、絶縁性、基材への密着性及び/又は柔軟性の向上に貢献する。又、本開示の光硬化性組成物の硬化物において残存する水素原子量を低減することができる。
【0032】
炭素原子数1~10のアルキル基は、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、又、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基等が挙げられる。耐熱性の観点からは、好ましくはメチル基及びエチル基等が挙げられ、より好ましくはメチル基である。
【0033】
炭素原子数6~10のアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、フェニル基の水素原子の1つ以上が炭素原子数1~4のアルキル基で置換された基、及びナフチル基等が挙げられる。耐熱性の観点からは、好ましくはフェニル基である。
【0034】
炭素原子数7~10のアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、炭素原子数1~4のアルキル基の水素原子の1つがフェニル基などのアリール基で置換された基等が挙げられる。例えば、ベンジル基及びフェネチル基等が挙げられ、耐熱性の観点からは、好ましくはベンジル基である。
【0035】
式(1)で表されるシルセスキオキサン誘導体は、全体として有機基R2を2個以上含むことができるが、その場合、全ての有機基R2は、互いに同一であってよいし、異なってもよい。
【0036】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体における構成単位(d)の割合は特に限定するものではないが、全構成単位に占めるモル比(x/(u+v+w+x+y+z))は、本開示の光硬化性組成物及びその硬化物の耐熱性、耐酸化性、耐候性及び絶縁性を考慮すると、好ましくは、0~0.7であり、絶縁膜としての耐熱性、耐酸化性及び耐候性を考慮すると、より好ましくは0.3~0.6である。
【0037】
1-5.構成単位(e):(R
3
2
SiO
2/2
)
y
構成単位(e)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を2個(酸素原子として1個)備える、いわゆるD単位である。尚、D単位とは、ケイ素原子1個に対してO1/2を2個有する単位を意味する。
複数存在するR3はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~10のアラルキル基及びヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、複数存在するR3は互いに同一でも異なっていてもよい。これらの各置換基は、前述の構成単位(c)のR1及び構成単位(d)のR2について例示したものと同様の置換基が挙げられる。
構成単位(e)は、D単位であることから、本開示の光硬化性組成物の低粘度化及びその硬化物の柔軟性、耐熱性、耐酸化性及び/又は絶縁性の向上に貢献する。
耐熱性、原料の入手し易さ、及び硬化物への柔軟性付与の観点からは、複数存在するR3はそれぞれ独立にメチル基及びフェニル基であることが好ましい。
【0038】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体における構成単位(e)の割合は特に限定するものではないが、本開示の光硬化性組成物の低粘度化及びその硬化物の耐候性及び柔軟性を考慮すると、全Q単位及びT単位に対するモル比(y/(u+v+w+x))は、好ましくは、0≦y/(u+v+w+x)≦2.0であり、より好ましくは0.1~1.0であり、更に好ましくは0.1~0.5ある。但し、v=0のとき、複数存在するR3及び後述の構成単位(f)における複数存在するR4の少なくともいずれか1つは水素原子であり、w=0のとき、複数存在するR3及びR4の少なくともいずれか1つはヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基である。
【0039】
1-6.構成単位(f):(R
4
3
SiO
1/2
)
z
構成単位(f)は、ケイ素原子1個に対してO1/2を1個(酸素原子として0.5個)備える、いわゆるM単位である。尚、M単位とは、ケイ素原子1個に対してO1/2を1個有する単位を意味する。
複数存在するR4はそれぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基、炭素原子数7~10のアラルキル基及びヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基からなる群から選択される少なくとも1種であり、複数存在するR4は互いに同一でも異なっていてもよい。これらの各置換基は、前述の構成単位(c)のR1及び構成単位(d)のR2について例示したものと同様の置換基が挙げられる。
構成単位(f)は、M単位であることから、本開示の光硬化性組成物の低粘度化及びその硬化物の柔軟性及び/又は絶縁性の向上に貢献する。
【0040】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体におけるM単位は、ケイ素原子に結合したシロキサン結合が1個であることから、そのフレキシビリティが高いため、複数存在するR4がそれぞれ独立に水素原子又はヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する有機基である場合には、それらの基がT単位及びD単位に結合した場合よりも、一般にヒドロシリル化反応性が高く、硬化反応が良好に進行する。又、複数存在するR4がそれぞれ独立に水素原子又はヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基である場合には、硬化物中のM単位はシロキサン結合とヒドロシリル化架橋の2個の結合を介して硬化物の骨格中に取り込まれることとなるため、R4がそのような基を有さない場合よりも、硬化物の耐熱性及び耐候性等が向上する。
このため構成単位(f)における3個のR4のうち、少なくとも1個は水素原子又はヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基であることが好ましい。ヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基としては、耐熱性及び原料の入手し易さの観点から、ビニル基が好ましい。
【0041】
又、硬化物の柔軟性、耐熱性及び耐候性の向上の観点から、構成単位(f)における3個のR4のうち、少なくとも1個は炭素原子数1~10のアルキル基、炭素原子数6~10のアリール基及び炭素原子数7~10のアラルキル基からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。耐熱性、原料の入手し易さ、及び、硬化物への柔軟性付与の観点から、好ましくはメチル基及びフェニル基である。
【0042】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体における構成単位(f)の割合は特に限定するものではないが、本開示の光硬化性組成物の低粘度化及びその硬化物の耐候性及び柔軟性を考慮すると、全Q単位及びT単位に対するモル比(z/(u+v+w+x))は、好ましくは0≦z/(u+v+w+x)≦2.0であり、より好ましくは0.1~1.0であり、更に好ましくは0.1~0.5ある。
但し、v=0のとき前述の構成単位(e)におけるR3及びR4の少なくともいずれか1つは水素原子であり、w=0のとき、R3及びR4の少なくともいずれか1つはヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する炭素原子数2~12の有機基である。
【0043】
1-7.その他の構成単位(g)
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体は、更に、Siを含まない構成単位として(R5O1/2)を備えることができる(以下、構成単位(g)と称する)。
ここで、R5は水素原子及び/又は炭素原子数1~6のアルキル基であり、脂肪族基及び脂環族基のいずれでもよく、又、直鎖状及び分岐状のいずれでもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、及びヘキシル基等が挙げられる。
【0044】
この構成単位は、後述する原料モノマーに含まれる加水分解性基であるアルコキシ基、又は、反応溶媒に含まれたアルコールが、原料モノマーの加水分解性基と置換して生成したアルコキシ基であって、加水分解・重縮合せずに分子内に残存したものであるか、あるいは、加水分解後、重縮合せずに分子内に残存した水酸基である。
【0045】
1-8.ヒドロシリル化反応の官能基
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体に存在するヒドロシリル化反応可能な炭素-炭素不飽和結合を有する有機基1個に対する、ケイ素原子に結合した水素原子の数の比は、特に制限はないが、硬化物の耐熱性、耐酸化性及び耐候性の観点から、好ましくは0.5~5.0であり、より好ましくは0.8~3.0であり、更に好ましくは0.9~1.5である。
【0046】
1-9.分子量等
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の重量平均分子量(以下、「Mw」という。)に特に制限はないが、300~30,000の範囲にあることが好ましい。かかるシルセスキオキサン誘導体は、それ自体が液体で、取り扱いに適した低粘性であり、有機溶剤に溶け易く、その溶液の粘度も扱い易く、保存安定性に優れる。Mwは、より好ましくは500~15,000であり、更に好ましくは700~10,000であり、特に好ましくは1,000~5,000である。
尚、本開示におけるMwは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定した分子量を、標準物質としてポリスチレンを使用して換算した値を意味する。Mwの測定条件としては、例えば、後述の〔実施例〕における測定条件を用いることができる。
【0047】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の状態に特に制限はなく、例えば、液体、固体及び半固体等が挙げられる。好ましくは液体であり、その粘度に特に制限はなく、25℃における粘度が、好ましくは、1,000,000mPa・s以下であり、より好ましくは100,000mPa・s以下であり、更に好ましくは80,000mPa・s以下であり、特に好ましくは50,000mPa・s以下である。上記粘度の下限値は特に制限はないが、例えば1mPa・sである。
尚、本開示において粘度とは、E型粘度計(コーンプレート型粘度計。例えば、東機産業(株)TVE22H形粘度計)を使用し、25℃で測定した値を意味する。
【0048】
2.シルセスキオキサン誘導体の製造方法
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体は、公知の方法で製造することができる。シルセスキオキサン誘導体の製造方法は、国際公開第2005/01007号パンフレット、国際公開第2009/066608号パンフレット、国際公開第2013/099909号パンフレット、特開2011-052170号公報及び特開2013-147659号公報等においてポリシロキサンの製造方法として詳細に開示されている。
【0049】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体は、例えば、以下の方法で製造することができる。
即ち、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の製造方法は、適当な反応溶媒中で、縮合により、上記式(1)中の構成単位を与える原料モノマーの加水分解・重縮合反応を行う縮合工程を備えることができる。この縮合工程においては、例えば、構成単位(a)(Q単位)を形成する、シロキサン結合生成基を4個有するケイ素化合物(以下、「Qモノマー」という。)と、構成単位(b)~(d)(T単位)を形成する、シロキサン結合生成基を3個有するケイ素化合物(以下、「Tモノマー」という。)と、構成単位(e)(D単位)を形成する、シロキサン結合生成基を2個有するケイ素化合物(以下、「Dモノマー」という。)と、シロキサン結合生成基を1個有する構成単位(f)(M単位)を形成する、ケイ素化合物(以下、「Mモノマー」という。)とを用いることができる。
【0050】
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の製造方法は、原料モノマーを、反応溶媒の存在下に、加水分解・重縮合反応させた後に、反応液中の反応溶媒、副生物、残留モノマー及び水等を留去させる留去工程を備えることが好ましい。
【0051】
2-1.原料モノマー
原料モノマーであるQモノマー、Tモノマー、Dモノマー及びMモノマーに含まれるシロキサン結合生成基は、水酸基及び/又は加水分解性基である。このうち、加水分解性基としては、ハロゲノ基、アルコキシ基及びシロキシ基等が挙げられる。縮合工程において、加水分解性が良好であり、酸を副生しないことから、加水分解性基としては、アルコキシ基が好ましく、炭素原子数1~3のアルコキシ基がより好ましい。又、Mモノマーでは、原料の入手のし易さから、加水分解性基としてシロキシ基が好ましく、構成単位(f)2個からなるジシロキサンを用いることができる。
【0052】
縮合工程において、各々の構成単位に対応するQモノマー、Tモノマー及びDモノマーのシロキサン結合生成基はアルコキシ基であることが好ましく、Mモノマーに含まれるシロキサン結合生成基はアルコキシ基又はシロキシ基であることが好ましい。又、各々の構成単位に対応するモノマーは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0053】
構成単位(a)を与えるQモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン及びテトラブトキシシラン等が挙げられる。
構成単位(b)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン及びトリクロロシラン等が挙げられる。
構成単位(c)を与えるTモノマーとしては、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、トリクロロビニルシラン、アリルトリメトキシシラン、(p-スチリル)トリメトキシシラン、(p-スチリル)トリエトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(8-メタクリロイルオキシオクチル)トリメトキシシラン及び(8-アクリロイルオキシオクチル)トリメトキシシラン等が挙げられる。
構成単位(d)を与えるTモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、メチルトリクロロシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、ブチルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン及びフェニルトリエトキシシラン等が挙げられる。
構成単位(e)を与えるDモノマーとしては、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジプロポキシジメチルシラン、ジプロポキシジエチルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシジフェニルシラン、ジエトキシジフェニルシラン、ジメトキシベンジルメチルシラン、ジエトキシベンジルメチルシラン、ジクロロジメチルシラン、ジメトキシメチルシラン、ジメトキシフェニルシラン、ジメトキシメチルビニルシラン、ジエトキシメチルシラン、ジエトキシフェニルシラン及びジエトキシメチルビニルシラン等が挙げられる。
構成単位(f)を与えるMモノマーとしては、加水分解により2つの構成単位(f)を与えるヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサンの他、メトキシジメチルシラン、エトキシジメチルシラン、メトキシジメチルビニルシラン、エトキシジメチルビニルシラン、メトキシトリメチルシラン、エトキシトリメチルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、クロロジメチルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロトリメチルシラン、ジメチルシラノール、ジメチルビニルシラノール、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、トリプロピルシラノール及びトリブチルシラノール等が挙げられる。
原料モノマーと反応して構成単位(g)を与える化合物としては、水及びメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール並びに2-ブタノール等のアルコールが挙げられる。
【0054】
原料モノマーであるQモノマー、Tモノマー、Dモノマー及びMモノマーの仕込み割合は、本シルセスキオキサン誘導体における目的とする式(1)のu~zの値に応じて適宜設定すれば良い。
【0055】
2-2.反応溶媒
縮合工程においては、反応溶媒としてアルコールを用いることができる。本開示に係るアルコールは、一般式R-OHで表される、狭義のアルコールであり、アルコール性水酸基の他には官能基を有さない化合物である。
アルコールとしては特に限定するものではないが、かかる具体例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-3-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2-エチル-2-ブタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール及びシクロヘキサノール等が例示できる。これらの中でも、2-プロパノール、2-ブタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、3-メチル-2-ブタノール、シクロペンタノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、3-メチル-2-ペンタノール及びシクロヘキサノール等の第2級アルコールが好ましく用いられる。
縮合工程においては、これらのアルコールを1種又は2種以上組み合わせて用いることができる。より好ましいアルコールは、縮合工程で必要な濃度の水を溶解できる化合物である。このような性質のアルコールは、20℃におけるアルコールの100gに対する水の溶解度が10g以上の化合物である。
【0056】
縮合工程で用いるアルコールは、加水分解・重縮合反応の途中における追加投入分も含めて、全ての反応溶媒の合計量に対して0.5質量%以上用いることで、生成する本シルセスキオキサン誘導体のゲル化を抑制することができる。好ましい使用量は1質量%以上60質量%以下であり、更に好ましくは3質量%以上40質量%以下である。
【0057】
縮合工程で用いる反応溶媒は、アルコールのみであってよいし、更に、少なくとも1種類の副溶媒との混合溶媒としても良い。副溶媒は、極性溶剤及び非極性溶剤のいずれでもよいし、両者の組み合わせでもよい。極性溶剤として好ましいものは炭素原子数3もしくは7~10の第2級又は第3級アルコール及び炭素原子数2~20のジオール等である。
【0058】
非極性溶剤としては、特に限定するものではないが、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、塩素化炭化水素、エーテル、アミド、ケトン、エステル及びセロソルブ等が挙げられる。これらの中では、脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素及び芳香族炭化水素が好ましい。こうした非極性溶媒としては、特に限定するものではないが、例えば、n-ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン及び塩化メチレン等が、水と共沸するので好ましく、これらの化合物を併用すると、縮合工程後、シルセスキオキサン誘導体を含む反応混合物から、蒸留によって反応溶媒を除く際に、水分を効率よく留去することができる。非極性溶剤としては、比較的沸点が高いことから、芳香族炭化水素であるキシレンが特に好ましい。
【0059】
2-3.加水分解反応に供する水及び触媒
縮合工程における加水分解・重縮合反応は、水の存在下に進められる。
原料モノマーに含まれる加水分解性基を加水分解させるために用いられる水の量は、加水分解性基の物質量(モル)に対して好ましくは0.5~5倍モル、より好ましくは1~2倍モルである。
又、原料モノマーの加水分解・重縮合反応は、無触媒で行ってもよいし、触媒を使用して行ってもよい。触媒を用いる場合は、硫酸、硝酸、塩酸及びリン酸等の無機酸;ギ酸、酢酸、シュウ酸及びパラトルエンスルホン酸等の有機酸に例示される酸触媒が好ましく用いられる。
酸触媒の使用量は、原料モノマーに含まれるケイ素原子の合計量(モル)に対して、0.01~20モル%に相当する量であることが好ましく、0.1~10モル%に相当する量であることがより好ましい。
【0060】
2-4.その他の添加剤
縮合工程における加水分解・重縮合反応の終了は、各種公報等に記載される方法で適宜検出することができる。尚、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の製造の縮合工程においては、反応系に助剤を添加することができる。
例えば、反応液の泡立ちを抑える消泡剤、反応罐や撹拌軸へのスケール付着を防ぐスケールコントロール剤、重合防止剤及びヒドロシリル化反応抑制剤等が挙げられる。これらの助剤の使用量は、任意であるが、好ましくは反応混合物中の本開示に係るシルセスキオキサン誘導体濃度に対して1~100重量%程度である。
【0061】
2-5.反応溶媒等の留去
本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の製造における縮合工程後、縮合工程より得られた反応液に含まれる反応溶媒及び副生物、残留モノマー、水及び触媒等を留去させる留去工程を備えることにより、生成した本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の安定性を向上させることができる。留去は、常圧又は減圧下で行うことができ、常温下又は加熱下で行うことができ、冷却下で行うこともできる。
【0062】
3.ヒドロシリル化触媒
本開示の光硬化性組成物は、遷移金属を含むヒドロシリル化触媒含む。これにより、シルセスキオキサン誘導体を光硬化させることができる。
ヒドロシリル化触媒に含まれる遷移金属は、特に制限はないが、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金等の第8族から第10族金属の単体、金属錯体、金属塩及び金属酸化物等が挙げられる。
ヒドロシリル化触媒としては、これらの中でもルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、イリジウム及び白金からなる白金族金属の1種以上を含むものが好ましく、反応性及び入手し易さの観点から、白金を含む触媒がより好ましく、更に好ましくは白金錯体である。
白金錯体としては、β-ジケトナト白金錯体類、(η-シクロペンタジエニル)トリアルキル白金錯体類、(η4-1,5-シクロオクタジエン)ジアリール白金錯体類及びジアルキルアゾジカルボキシラート白金錯体類からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。白金錯体としては、特に好ましくは、下記式(2)で表されるβ-ジケトナト白金錯体類、下記式(3)で表される(η-シクロペンタジエニル)トリアルキル白金錯体類、下記式(4)で表される(η4-1,5-シクロオクタジエン)ジアリール白金錯体類、及び下記式(5)で表されるジアルキルアゾジカルボキシラートを配位子として含む、ジアルキルアゾジカルボキシラート白金錯体類である。
【0063】
【0064】
〔式(2)中、R6及びR7はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基及びアリール基からなる群から選択される少なくとも1種であり、互いに同一でも異なっても良く、R8、R9、R10及びR11はそれぞれ独立に、アルキル基、アリール基及びアルコキシ基からなる群から選択される少なくとも1種であり、互いに同一でも異なっても良い。〕
【0065】
【0066】
(式(3)中、Cpは白金原子にη-結合したシクロペンタジエニル基であり、置換基で置換されていてもいなくてもよく、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に、白金原子にσ-結合した炭素原子数1~18の脂肪族基を表し、互いに同一でも異なっても良い。〕
【0067】
【0068】
〔式(4)中、R15は白金原子にπ-結合した直鎖、分岐又は環状のアルカジエン基であり、それぞれ置換基があってもなくても良く、R17及びR18はそれぞれ独立に白金原子にσ-結合したアリール基であり、置換基があってもなくてもよく、互いに同一でも異なっても良く、R16及びR19はそれぞれ独立に、水素原子、アルキル基、アルコキシ基及びハロゲン原子からなる群から選択される少なくとも1種であり、互いに同一でも異なっても良く、アリール基のいずれの位置で置換していても良く、それぞれ複数の置換基で置換されていても良い。〕
【0069】
【0070】
〔式(5)中、複数存在するR20はそれぞれ独立に炭素原子数1~6の炭化水素基を表し、互いに同一でも異なっても良い。〕
尚、式(5)においては、配位子のみを記載し、白金原子の記載を省略している。
【0071】
前記式(2)で表されるβ-ジケトナト白金錯体類の具体例としては、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)等が挙げられる。
前記式(3)で表される、(η-シクロペンタジエニル)トリアルキル白金錯体類の具体例としては、トリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金(IV)及び(シクロペンタジエニル)トリメチル白金(IV)等が挙げられる。
前記式(4)で表される(η4-1,5-シクロオクタジエン)ジアリール白金錯体類の具体例としては、(η4-1,5-シクロオクタジエン)ビス(4-メトキシフェニル)白金(II)等が挙げられる。
前記式(5)で表されるジアルキルアゾジカルボキシラートを配位子として含む白金錯体類の具体例としては、ジエチルアゾジカルボキシラート白金(II)等が挙げられる。
これら化合物の中でも、より好ましくは、ビス(アセチルアセトナト)白金(II)及びトリメチル(メチルシクロペンタジエニル)白金(IV)である。
【0072】
遷移金属の含有割合は、特に制限はないが、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の合計量100重量部に対して、0.1~30,000重量ppmであることが好ましく、1.0~10,000重量ppmであることがより好ましく、10~2,000重量ppmであることが更に好ましい。
【0073】
4.光硬化性組成物
本開示の光硬化性組成物(以下、「本開示の組成物」ともいう。)は、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体及びヒドロシリル化触媒を含んでいる。
本開示の組成物は、流動性に優れるとともに、後述するように硬化物の耐熱性及び絶縁性に優れるため、耐熱性が求められる絶縁要素のための良好な絶縁材料となる。又、本開示の組成物は、それ自体は、良好な硬化性及び接着性を発揮できるため、接着剤組成物やバインダー組成物として用いることができる。
本開示の組成物は、前記シルセスキオキサン誘導体及びヒドロシリル化触媒を含むものであるが、必要に応じて種々の成分(以下、「その他の成分」という。)を含むことができる。
その他の成分としては、耐熱性向上剤、ヒドロシリル化反応抑制剤、及び溶剤等が好ましい。
以下、その他の成分について説明する。
【0074】
4-1.耐熱性向上剤
本開示の組成物は、耐熱性向上剤を含むことができる。
耐熱性向上剤としては、特に制限はなく、公知のものが使用できるが、例えば、トリス(2-エチルヘキサン酸)鉄(III)等の2-エチルヘキサン酸鉄、トリス(2-エチルヘキサン酸)セリウム(III)等の2-エチルヘキサン酸セリウム、並びにテトラ(2-エチルヘキサン酸)ジルコニウム(IV)及びビス(2-エチルヘキサン酸)酸化ジルコニウム(IV)等の2-エチルヘキサン酸ジルコニウム、等の有機カルボン酸金属塩、及び、酸化鉄、酸化セリウム並びに酸化ジルコニウム等の金属酸化物等が挙げられる。
耐熱性向上剤の使用割合に特に制限はないが、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の合計量100重量部に対して、例えば0~10,000重量ppmであり、好ましくは1~1,000重量ppmであり、より好ましくは5~500重量ppmであり、更により好ましくは10~300重量ppmである。
耐熱性向上剤を添加することにより、熱重量減少温度の向上又は低下抑制、加熱下及び常温での使用並びに保管下での、比誘電率の低下抑制、絶縁性の低下抑制、クラックの発生抑制、及び着色抑制等を行うことができる。
【0075】
4-2.ヒドロシリル化反応抑制剤
本開示の組成物は、ヒドロシリル化反応抑制剤を含むことができる。
そうすることで、本開示の組成物の保存安定性を向上させることができる。ヒドロシリル化反応抑制剤に特に制限はなく、ヒドロシリル化触媒金属に配位することができる化合物が挙げられ、例えば、メチルビニルテトラシロキサン等のビニルシロキサン類、2-メチル-3-ブチン-2-オール等のアセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール類、ハイパーオキサイド類、及び窒素原子、イオウ原子又はリン原子を含有する公知のヒドロシリル化反応抑制剤が挙げられる。これらの中でも、反応抑制効果が適切で、且つ、揮発性が低く、臭気や着色等が抑制される点で、特開2010-143973号公報に開示された、炭素-炭素三重結合を有する基がケイ素原子に結合した構造を持つシロキサン化合物が好ましい。
ヒドロシリル化反応抑制剤の使用割合に特に制限はないが、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体の合計量100重量部に対して、例えば0~5.0重量%であり、好ましくは0~2.0重量%であり、より好ましくは0~1.0重量%である。
【0076】
4-3.溶媒
本開示の組成物は、液状物質であれば、基材表面にそのまま塗布することができるが、必要に応じて溶剤で希釈して使用することもできる。溶剤を使用する場合、本開示に係るシルセスキオキサン誘導体を溶解する溶剤が好ましく、例えば、脂肪族系炭化水素溶剤、芳香族系炭化水素溶剤、塩素化炭化水素溶剤、アルコール溶剤、エーテル溶剤、アミド溶剤、ケトン溶剤、エステル溶剤及びセロソルブ溶剤等の各種有機溶剤を挙げることができる。
溶剤が使用された場合は、本開示の組成物の硬化に先立って、塗布された膜に含まれる溶剤を揮発させることが好ましい。溶剤の揮発は大気中でなされてもよく、窒素等の不活性ガス雰囲気中でなされてもよい。溶剤の揮発のため加熱してもよいが、その場合の加熱温度は、100℃未満が好ましい。
【0077】
4-4.前記以外のその他の成分
本開示の組成物は、その他の成分として、前記した成分以外の成分も必要に応じて含むことができる。
具体的には、界面活性剤類、帯電防止剤類(例えば導電性ポリマー類)、レベリング剤類、光増感剤類、紫外線吸収剤類、酸化防止剤類、安定剤類、潤滑剤類、顔料類、染料類、可塑剤類、懸濁剤類、ナノ粒子、ナノファイバー、ナノシート及びフィラー等の任意の他の補助剤を含有することができる。又、テトラアルコキシシラン類、トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類、モノアルコキシシラン類及びジシロキサン類等のシラン系反応性希釈剤等を含有することもできる。
更に、ラジカル硬化性化合物及びカチオン硬化性化合物等の、他の光硬化性化合物を含有することもでき、そのための光重合開始剤を含有することもできる。
【0078】
5.硬化物
本開示の硬化物は、上述の本開示の組成物を、硬化させて得られる硬化物である。
【0079】
5-1,硬化物物性
本開示の硬化物は、耐熱性に優れる。耐熱性の指標に特に制限はないが、例えば、熱重量減少温度、比誘電率、絶縁性、着色、接着性、粘着性、光透過性及びクラック発生等が挙げられる。
【0080】
5-1-1.熱重量減少温度
本開示の硬化物は耐熱性に優れ、熱重量減少温度が高い。熱重量減少温度は、熱重量示差熱分析(以下、TG/DTAと称する。)により求めることができる。測定雰囲気に特に制限はなく、大気中又は窒素等の不活性ガス雰囲気下等で測定することができる。本開示の硬化物が使用される環境を考慮して測定雰囲気は適宜選択されるが、大気中で測定することが好ましい。測定時の昇温速度に特に制限はなく、例えば、5、10又は20℃/min等とすることができる。短時間で測定できることを考慮すると、20℃/minが好ましい。重量減少温度の指標に特に制限はなく、例えば、重量減少開始温度及び1、5又は10%重量減少温度等の、元の重量の一定割合が減少した時点の温度等とすることができる。又、例えば、400℃における重量減少率のように、ある温度での重量減少率として表すこともできる。
【0081】
本開示の硬化物の大気中、20℃/minで測定した5%重量減少温度は、例えば300℃以上であり、好ましくは370℃以上であり、更に好ましくは400℃以上であり、特に好ましくは500℃以上である。
【0082】
5-1-2.比誘電率
本開示の硬化物は、比誘電率が低く、広い周波数帯域で絶縁性に優れる。本開示の硬化物の比誘電率に特に制限はないが、例えば、4.0以下であり、好ましくは3.6以下であり、更に好ましくは3.5以下である。比誘電率を使用する周波数帯域に特に制限はなく、例えば、1kHz~100GHzであり、好ましくは、1kHz~1GHzであり、更に好ましくは1kHz~10MHzである。例えば、本開示の硬化物は、1MHzにおける比誘電率が4.0以下である。
比誘電率の値を硬化物間で比較する場合に、その測定周波数に特に制限はないが、例えば、1kHz,10kHz,100kHz,1MHz、10MHz及び1GHz等における比誘電率を測定して、硬化物の絶縁性を比較することができる。又、ある範囲の周波数帯に亘って比誘電率がある一定の値以下となることを示すことにより、その絶縁性を評価することもできる。周波数帯に特に制限はないが、例えば、1kHz~10MHzにおける比誘電率を示すことができる。
尚、本開示における比誘電率とは、室温(23℃±2℃)で測定した値を意味する。
【0083】
本開示の硬化物は、上述の通り、比誘電率が低く、広い周波数帯域で絶縁性に優れる。従って、本開示の硬化物は、絶縁膜であり得る。
本開示の硬化物(絶縁膜)は本開示の組成物を硬化させて得られるものであり、硬化手段に特に制限はないが、例えば、紫外線を照射して硬化させてもよい。硬化手段の詳細については、後述の「硬化物の製造方法」にて説明する。
【0084】
6.硬化物の製造方法
本開示の硬化物(絶縁膜)の製造方法は、本開示の組成物に紫外線を照射して硬化させる工程を含む。得られる硬化物(絶縁膜)は、上述の本開示の硬化物(絶縁膜)であってもよい。
本開示の組成物を硬化する場合には、例えば本開示の組成物を適切な基材に塗布するなどした後、紫外線等の光等を照射してヒドロシリル化反応を進行させて硬化する。
本開示の組成物は溶剤を含んでも、含まなくても良く、溶剤を含む場合には、前述のとおり、溶剤を除去してから光硬化等に供することが好ましい。
【0085】
6-1.塗布方法
本開示の組成物を基材に塗布して用いる場合には、塗布方法に特に制限はなく、例えば、キャスト法、スピンコート法、バーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、フローコート法及びグラビアコート法等の通常の塗工方法を用いることができる。
本開示の組成物を塗布する厚さに特に制限はなく、目的に応じて適切に設定される。
本開示の組成物が適用できる基材としては、特に制限はなく、種々の材料に適用でき、木材、金属、無機材料、プラスチック、紙、繊維及び布帛等が挙げられる。
金属としては、銅、銀、鉄、アルミニウム、シリコン、ケイ素鋼及びステンレス等が挙げられる。無機材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化インジウムスズ、酸化ガリウム等の金属酸化物、窒化アルミニウム、窒化ガリウム、窒化ケイ素等の金属窒化物、炭化ケイ素及び窒化ホウ素等のセラミックス、モルタル、コンクリート及びガラス等が挙げられる。プラスチックの具体例としては、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリカーボネート樹脂、エポキシ樹脂、ナイロンやアラミド等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、4フッ化エチレン樹脂等のフッ素樹脂、架橋ポリエチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂、ポリクロロプレン、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリウレタン樹脂及びガラスエポキシ樹脂等の複合樹脂等が挙げられる。繊維としては、天然繊維、再生繊維、半合成繊維、金属繊維、ガラス繊維、カーボン繊維、セラミック繊維及び公知の化学繊維等が挙げられる。布帛は織布であっても不織布であってもよく、例えば前述の繊維を用いて作製することができる。
これらの材料は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせたり、混合したり、複合化して用いても良い。
基材の形状に特に制限はなく、例えば、板、シート、フィルム、棒、球、繊維、粉末及び複雑な形状の構造物等が挙げられる。
【0086】
6-2.硬化方法
本開示の組成物を硬化させるために活性エネルギー線を照射することができ、活性エネルギー線としては、電子線、及び、紫外線、可視光線並びにX線等の光等が挙げられるが、好ましくは光であり、安価な装置を使用することができるため、紫外線がより好ましい。
紫外線照射装置としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、UV無電極ランプ及びLED等が挙げられる。
照射エネルギーは、活性エネルギー線の種類や配合組成に応じて適宜設定すべきものであるが、一例として高圧水銀ランプを使用する場合を挙げると、UV-A領域(315nm~400nm)の照射エネルギーで0.1~30J/cm2が好ましく、0.5~20J/cm2がより好ましく、1.0~15J/cm2が更に好ましい。
【0087】
又、光硬化の前及び/又は後に、適宜、加熱硬化を組み合わせることもできる。
例えば、光を照射した際に、陰となる部位を持つ基材に、本開示の組成物を染み込ませる等した後に、光を照射して、光が当たる部位の本開示の組成物をまず硬化し、その後、熱を加えて光の当たらない部位の本開示の組成物を硬化させる、二段階硬化を行うこともできる。このような基材に特に制限はなく、例えば、布帛状、繊維状、粉末状、多孔質状及び凹凸状等の複雑な形状である基材が挙げられ、これらの形状のうちの2つ以上が組み合わせられた形状であってもよい。
【0088】
7.用途
本開示の組成物の硬化物は、耐熱性、耐酸化性、耐候性、硬度、透明性、及び柔軟性に優れるものであり、本開示の組成物の硬化膜を有する材料は、この特性を生かして種々の用途に使用することができる。
例えば、電気・電子分野等の様々な工業用製品分野において使用することができる。特に、好ましい用途の具体例としては、LED照明及び有機EL照明等の照明装置、半導体モジュール、プリント配線基板及びフレキシルブル配線基板等の電子回路基板、小型モーター及び車載用モーター等の電動回転機器、変圧器等の電源機器、リチウム電池等の蓄電機器、並びに、太陽光パネル等の発電装置等が挙げられる。
例えば、本開示の組成物の硬化物と前記の基材とを有する複合材料は、耐熱性絶縁部材として有用である。基材としては、上述の「6.硬化物の製造方法」の項目に記載の基材を用いることができる。
【実施例】
【0089】
次に、本開示を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本開示は、以下の実施例に限定されるものではない。
尚、Mw(重量平均分子量)は、ゲル浸透クロマトグラフィー法(以下、「GPC」と称す。)により、トルエン溶媒中、40℃において、連結したGPCカラム「TSK gel G4000HX」及び「TSK gel G2000HX」(型式名、東ソー社製)を用いて分離し、リテンションタイムから標準ポリスチレンを用いて分子量を算出した。
又、得られたシルセスキオキサン誘導体の各構成単位のモル比は、試料を重クロロホルムに溶解し、1H-NMR分析を行い、必要に応じて更に29Si-NMR分析も行うことにより算出した。アルコキシシランモノマーは定量的に反応し、シルセスキオキサン誘導体に導入されたが、ジシロキサンモノマーに由来するM単位は、シルセスキオキサン誘導体の組成によっては定量的には導入されなかった。
【0090】
〔シルセスキオキサン誘導体の合成〕
<合成例1>
温度計、滴下漏斗及び攪拌翼を取り付けた200mLの4つ口丸底フラスコに、トリメトキシビニルシラン(7.4g、50mmol)、メチルトリエトキシシラン(26.7g、150mmol)、ジメトキシジメチルシラン(3.0g、25mmol)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(3.4g、25mmol)、キシレン(15g)及び2-プロパノール(15g)を量り取り、水浴中20℃程度でよく攪拌した。ここに、別途1mol/L塩酸水溶液(0.45g、4.4mmol)、純水(11.4g)及び2-プロパノール(4.5g)を混合して調製しておいた溶液を、滴下漏斗から1時間程度で滴下し、更に一晩室温で攪拌を続けた。得られた溶液から減圧下60℃で溶媒等を除去し、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体1 19gを得た。
【0091】
<合成例2>
原料シランモノマーとして、アリルトリメトキシシラン(50mmol)、フェニルトリメトキシシラン(150mmol)、ジメトキシジフェニルシラン(25mmol)及び1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(25mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体2を得た。
【0092】
<合成例3>
原料シランモノマーとして、トリエトキシシラン(150mmol)、トリメトキシビニルシラン(50mmol)、ジメトキシジメチルシラン(25mmol)及び1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(50mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体3を得た。
【0093】
<合成例4>
原料シランモノマーとして、トリエトキシシラン(150mmol)、トリメトキシビニルシラン(50mmol)及び1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(50mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体4を得た。
【0094】
<合成例5>
原料シランモノマーとして、トリエトキシシラン(150mmol)、トリメトキシビニルシラン(25mmol)、(p-スチリル)トリメトキシシラン(25mmol)及び1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(50mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体5を得た。
【0095】
<合成例6>
原料シランモノマーとして、トリエトキシシラン(200mmol)、ジメトキシメチルシラン(75mmol)及び1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(50mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体6を得た。
【0096】
<合成例7>
原料シランモノマーとして、トリエトキシシラン(100mmol)、トリメトキシビニルシラン(100mmol)及びジメトキシメチルシラン(100mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体7を得た。
【0097】
<合成例8>
原料シランモノマーとして、トリエトキシシラン(150mmol)及びトリメトキシビニルシラン(120mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体8を得た。
【0098】
<合成例9>
原料シランモノマーとして、トリエトキシシラン(150mmol)、トリメトキシビニルシラン(50mmol)、フェニルジメトキシシラン(25mmol)及び1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(50mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体9を得た。
【0099】
<合成例10>
原料シランモノマーとして、テトラメトキシシラン(100mmol)、ジメトキシジメチルシラン(100mmol)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(12.5mmol)及び1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(12.5mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体としてシルセスキオキサン誘導体10を得た。
【0100】
<合成例11>
原料シランモノマーとして、テトラメトキシシラン(90mmol)、トリエトキシシラン(36mmol)、トリメトキシビニルシラン(30mmol)、ジメトキシジメチルシラン(36mmol)、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(7.5mmol)及び1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン(22.5mmol)を使用した以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色の半固体としてシルセスキオキサン誘導体11を得た。
【0101】
合成例1~11の組成、Mw及び導入された各構成単位のモル比を表1及び2にまとめた。
【0102】
【0103】
【0104】
<参考例1>
[3-アクリロイルオキシプロピルシルセスキオキサンの合成]
原料シランモノマーとして、(3-アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシランを用い、反応溶媒として2-プロパノールのみを用いた以外は、シルセスキオキサン誘導体1と同様な操作を行うことで、無色透明の液体として3-アクリロルオキシプロピルシルセスキオキサンを得た。Mwは2370であった。
<参考例2>
東亞合成社製AC-SQ SI-20(3-アクリロイルオキシプロピルシルセスキオキサンとシリコーンの複合誘導体)をそのまま使用した
【0105】
<実施例1>
(1)光硬化性組成物の調製
合成例1で得られたシルセスキオキサン誘導体10g及びビス(アセチルアセトナト)白金(II)(以後、Pt(acac)2と称す。)10mgを秤取し、自転・公転ミキサーでかき混ぜて溶解した。
(2)光ヒドロシリル化硬化性の確認
銅板にバーコーターで上述(1)の光硬化性組成物を塗布し、約100μmの厚さの被膜を形成させた。そして、下記の条件により紫外線照射を行い、表面のタックがなくなったことを確認した。更に、銅板より形成された皮膜を剥離し、FT-IR(フーリエ変換赤外分光)分析(Perkin Elmer社製Spectrum100)により、ヒドロシリル基とビニル基が減少し、ヒドロシリル化反応が進行したことを確認した。
[紫外線照射条件]
ランプ:80W/cm高圧水銀ランプ
ランプ高さ:10cm
コンベアスピード:4.5m/min
1パスあたりの積算光量:990 mJ/cm2
雰囲気:大気中
パス回数:10回
【0106】
<実施例2>
〔光硬化性組成物の調製と光硬化性の確認〕
合成例2で得られたシルセスキオキサン誘導体2を用いて、実施例1(1)と同様にして、光硬化性組成物を調製した。それを、実施例1(2)と同様の光硬化に供し、光ヒドロシリル化反応が進行して、硬化物を与えることを確認した。
【0107】
<実施例3~11>
〔光硬化性組成物の調製と光硬化性の確認〕
合成例3~11で得られたシルセスキオキサン誘導体3~11を用いて、実施例1(1)と同様にして、各光硬化性組成物を調製した。それらを、以下の紫外線照射条件とした以外は実施例1(2)と同様の光硬化に供し、いずれも光ヒドロシリル化反応が進行して、硬化物を与えることを確認した。
[紫外線照射条件]
ランプ:80W/cm高圧水銀ランプ
ランプ高さ:10cm
コンベアスピード:10m/min
1パスあたりの積算光量:210 mJ/cm2
雰囲気:大気中
パス回数:30回
【0108】
<実施例12>
硬化物の耐熱性評価
合成例1で得たシルセスキオキサン誘導体1を使用して、実施例1(1)で調製した光硬化性組成物を用いて、実施例1(2)の基材をPETフィルムに代えた以外は、実施例1(2)と同様にして光ヒドロシリル化硬化物を作製した。得られた硬化物をPETフィルムから剥がして、熱重量示差熱分析(以後、TG/DTAと称す。)に供し(セイコーインスツルメンツ社製TG/DTA6300、大気中、昇温速度20℃/min)、5%重量減少温度(以後、Td5と称す。)を求めた結果、396℃であった。
【0109】
<実施例13~16>
〔硬化物の耐熱性評価〕
合成例3、4、7及び10で得たシルセスキオキサン誘導体3、4、7及び10を使用して、実施例3、4、7及び10で調製した光硬化性組成物を用いて、実施例12と同様にしてその硬化物のTG/DTAを測定し、各Td5を求めた。
【0110】
実施例12~16で求めたTd5を表3にまとめた。
【0111】
【0112】
<実施例17>
硬化物の比誘電率測定
合成例1で得たシルセスキオキサン誘導体1を使用して、実施例1(1)で調製した光硬化性組成物を、厚さ1mmのシリコーンゴムシートを用いて40mm×40mmの大きさの穴を切り抜いて作成した型枠に流し込み、PETフィルムと白板ガラスで挟んで、実施例1(2)と同様の紫外線照射条件で光ヒドロシリル化硬化物を作製した。
得られた硬化物を比誘電率測定に供し(アジレント・テクノロジー社製インピーダンス・アナライザ4294A)、室温(23℃)において比誘電率を測定した結果、1MHzでの比誘電率は3.38であった。1MHzでの比誘電率及びその他の周波数帯での比誘電率を表4に示す。
【0113】
<実施例18>
硬化物の比誘電率測定
合成例4で得たシルセスキオキサン4を使用して、実施例4で調製した光硬化性組成物を用いて、実施例17と同様にして比誘電率を測定した結果、1MHzでの比誘電率は3.28であった。1MHzでの比誘電率及びその他の周波数帯での比誘電率を表4に示す。
【0114】
<比較例1>
参考例1で得られた3-アクリロイルオキシプロピルシルセスキオキサン10gに2-Hydroxy-2-methylpropiophenone(東京化成工業社製)0.3gを加えてかき混ぜて溶解し、光硬化性組成物を調製した。これをPETフィルム上にバーコーターで塗布し、約10μmの厚さの被膜を形成させた。そして、下記の条件により紫外線照射を行い、硬化物を作製した。
[紫外線照射条件]
ランプ:80W/cm高圧水銀ランプ
ランプ高さ:10cm
コンベアスピード:10m/min照射
1パスあたりの積算光量:210 mJ/cm2
雰囲気:大気中
パス回数:30回
実施例12と同様にして求めたTd5(大気中)は、360℃であった。
又、実施例17と同様にして求めた1MHzでの比誘電率は4.24であった。1MHzでの比誘電率及びその他の周波数帯での比誘電率を表4に示す。
【0115】
<比較例2>
参考例2のAC-SQ SI-20を用いた以外は、比較例1と同様にして硬化物を作製し、硬化物のTd5(大気中)と比誘電率を測定した。Td5(大気中)は340℃あり、1MHzでの比誘電率は4.31であった。1MHzでの比誘電率及びその他の周波数帯での比誘電率を表4に示す。
【0116】
本開示の光ヒドロシリル化硬化性組成物は、良好な光硬化性を有し、公知の熱ヒドロシリル化硬化性組成物よりも、適用できる基材の範囲が広く、様々な用途への応用が可能となる。
又、本開示の光ヒドロシリル化硬化物のTd5は、従来の光硬化性シルセスキオキサン誘導体の代表例である、光ラジカル硬化性組成物の硬化物(比較例1及び2)に比べ、非常に高く、耐熱性に優れている。
更に、本開示の光ヒドロシリル化硬化物の比誘電率は、光ラジカル硬化性組成物の硬化物(比較例1及び2)に比べ、非常に低く、測定したいずれの周波数においても絶縁性に優れている。又、測定した1kHz~10MHzの広い周波数帯において、本開示の光ヒドロシリル化硬化物の比誘電率は、3.5以下であり、本開示の光ヒドロシリル化硬化物は高い耐熱性と優れた絶縁性を備えている。
【0117】
【産業上の利用可能性】
【0118】
本開示の光硬化性組成物は耐熱性皮膜の形成に有用であり、自由な形状に塗布、充填のし易い液状の組成物であり、常温で硬化ができて、耐水性、耐薬品性、安定性、電気絶縁性及び耐擦傷性等の機械的強度等においても良好な諸特性を有する皮膜等を形成することができることから、エレクトロニクス分野、光機能材料分野、モビリティ分野、航空宇宙分野、建材分野をはじめとする広範な分野における物品あるいは部品等の皮膜や層として用いることができる。半導体等におけるパッシベーション膜、レジスト膜、層間絶縁膜及び各種の保護膜等の形成に使用できるものである。本開示の光硬化性組成物及びその硬化物は、今後ますます高耐熱化と絶縁性の両立が求められる様々な分野で有用である。
【0119】
2020年6月22日に出願された日本国特許出願2020-106880号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、および技術規格は、個々の文献、特許出願、および技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。