(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】クリアランス測定方法、クリアランス測定装置、ねじ継手の測定方法、ねじ継手の計測システム、計測端末、ねじ継手の製造方法、ねじ継手の品質管理方法
(51)【国際特許分類】
G01B 21/16 20060101AFI20250212BHJP
G01B 21/20 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
G01B21/16
G01B21/20 102S
(21)【出願番号】P 2024514414
(86)(22)【出願日】2023-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2023028725
(87)【国際公開番号】W WO2024070241
(87)【国際公開日】2024-04-04
【審査請求日】2024-06-12
(31)【優先権主張番号】P 2022157597
(32)【優先日】2022-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大場 雄登
【審査官】櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-238942(JP,A)
【文献】特開2004-144604(JP,A)
【文献】特開2011-203108(JP,A)
【文献】特開2020-035434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/16
G01B 21/20
F16L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して、前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定方法であって、
前記雄継手と前記雌継手とのそれぞれのねじ形状のデータに基づいて、前記雄継手と前記雌継手との接合が完了した接合完了状態を設定する接合完了状態設定ステップと、
前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定ステップと、
前記クリアランス測定ステップ後、前記雄継手と前記雌継手との接合が外れた状態でなかった場合には、前記接合を外す方向に予め定められた角度だけ回転させた状態を設定する回転状態設定ステップと、
を備え、
前記クリアランス測定ステップから前記回転状態設定ステップまでを、前記接合が外れた状態になるまで繰り返し実行する
クリアランス測定方法。
【請求項2】
前記クリアランス測定ステップにおいて測定されたクリアランスと所定の基準とに基づいて、前記ねじ継手の組に関して合否を判定するステップと、
前記クリアランス測定ステップにおいて測定されたクリアランスと所定の基準とに基づいて干渉個所と判定された箇所に対して、前記干渉個所の情報を付与する干渉情報付与ステップと、の少なくとも一方のステップを備える
請求項1に記載のクリアランス測定方法。
【請求項3】
雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対し、前記雄継手のねじ形状と前記雌継手のねじ形状とをそれぞれ計測する形状計測工程と、
前記形状計測工程において計測されたねじ形状のデータに基づいて、請求項1または2に記載のクリアランス測定方法によって、前記ねじ継手の組ごとにクリアランスを測定するクリアランス測定工程と、
を備える
ねじ継手の測定方法。
【請求項4】
雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組を製造するねじ継手の製造方法であって、
ねじ継手を製造する継手製造工程と、
前記継手製造工程によって作成された雄継手と雌継手とを有する前記ねじ継手の組に対し、請求項3に記載のねじ継手の測定方法を実行する継手計測工程と、
を備える
ねじ継手の製造方法。
【請求項5】
雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対する品質を管理するねじ継手の品質管理方法であって、
前記ねじ継手を製造する継手製造工程と、
前記継手製造工程によって作成された前記ねじ継手の組に対して、請求項3に記載のねじ継手の測定方法により前記ねじ継手のねじ形状を計測する継手計測工程と、
前記継手計測工程から得られた結果を用いて、前記作成されたねじ継手の品質を管理する、品質管理工程と、
を備える
ねじ継手の品質管理方法。
【請求項6】
雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定装置であって、
前記雄継手および前記雌継手のそれぞれのねじ形状のデータに基づいて、前記雄継手と前記雌継手との接合が完了した接合完了状態を設定する接合完了状態設定処理と、
前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスが測定された後、前記雄継手と前記雌継手との接合が外れた状態でなかった場合には、前記接合を外す方向に予め定められた角度だけ回転させた状態を設定する回転状態設定処理とを、
前記接合が外れた状態になるまで繰り返し実行する制御部を備える
クリアランス測定装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記回転状態設定処理の前に、前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定処理を実行する
請求項6に記載のクリアランス測定装置。
【請求項8】
さらに、通信部を備え、
前記通信部は、前記制御部によって、
前記雄継手および前記雌継手のそれぞれのねじ形状のデータの取得処理と、前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定処理によって得られたクリアランスに関する情報の出力処理との少なくとも一方を実行する
請求項6に記載のクリアランス測定装置。
【請求項9】
雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して、前記雄継手のねじ形状と前記雌継手のねじ形状とのそれぞれを計測可能に構成された計測部と、
前記計測部によって計測された前記ねじ形状のデータに基づいて、前記ねじ継手の組ごとにクリアランスを測定する、請求項6~8のいずれか1項に記載のクリアランス測定装置と、
を備える
ねじ継手の計測システム。
【請求項10】
雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して、前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定可能に構成され、制御部によって制御される計測端末であって、
前記制御部の制御によって、前記雄継手のねじ形状と前記雌継手のねじ形状とをそれぞれ計測する計測部と、
前記制御部の制御によって、計測された前記ねじ形状をデータとして請求項6~8のいずれか1項に記載のクリアランス測定装置に出力する出力処理、および前記クリアランス測定装置から、前記ねじ継手の組ごとに前記クリアランスに関する情報を取得する取得処理の少なくとも一方の処理を実行する、通信部と、
前記制御部の制御によって、取得した前記情報を予め定められた形式によって出力可能な出力部と、
を備える
計測端末。
【請求項11】
前記制御部は、
取得した前記クリアランスに関する前記情報と所定の基準とに基づいて、前記ねじ継手の組に関して合否を判定する処理と、
取得した前記クリアランスに関する前記情報と所定の基準とに基づいて干渉個所と判定された箇所に対して、前記干渉個所の情報を付与する干渉情報付与処理と、の少なくとも一方の処理を実行する
請求項10に記載の計測端末。
【請求項12】
雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して、前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定可能に構成され、制御部によって制御される計測端末であって、前記制御部の制御によって、前記雄継手のねじ形状と前記雌継手のねじ形状とをそれぞれ計測する計測部と、前記制御部の制御によって、計測された前記ねじ形状をデータとしてクリアランス測定装置に出力する出力処理、および前記クリアランス測定装置から、前記ねじ継手の組ごとに前記クリアランスに関する情報を取得する取得処理の少なくとも一方の処理を実行する、通信部と、前記制御部の制御によって、取得した前記情報を予め定められた形式によって出力可能な出力部と、を備える計測端末と、
雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定装置であって、前記雄継手および前記雌継手のそれぞれのねじ形状のデータに基づいて、前記雄継手と前記雌継手との接合が完了した接合完了状態を設定する接合完了状態設定処理と、前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスが測定された後、前記雄継手と前記雌継手との接合が外れた状態でなかった場合には、前記接合を外す方向に予め定められた角度だけ回転させた状態を設定する回転状態設定処理とを、前記接合が外れた状態になるまで繰り返し実行する制御手段を備え、前記制御手段によって、前記計測端末によって計測されたねじ形状のデータに基づいて、前記ねじ継手の組ごとにクリアランスを測定する
クリアランス測定装置と、
を備える
ねじ継手の計測システム。
【請求項13】
雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対するねじ継手の品質を管理する、ねじ継手の品質管理方法であって、
請求項6~8のいずれか1項に記載のクリアランス測定装置の制御部により実行されるクリアランス測定処理から得られたクリアランスに関する情報を用いて、前記ねじ継手の組に対する品質を管理する
ねじ継手の品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、管を接合する管の継手構造における、クリアランス測定方法、クリアランス測定装置、ねじ継手の測定方法、ねじ継手の計測システム、計測端末、ねじ継手の製造方法、ねじ継手の品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、構造物の基礎や地滑りの抑止などに利用される管による構造体は、施工の条件により必要な長さが数十mに及ぶ場合がある。特に、鋼材で作られた鋼管はその傾向が顕著である。これら管による構造体を施工現場まで搬送する際は、交通制限により長尺のものを搬送できない。そのため、搬送可能な長さである数mごとに運び、施工現場において施工(打設を含む)途中で接合される。
【0003】
管による構造体を施工現場で接合する方法として、ねじ継手が用いられ、例として特許文献1に開示されたようなねじ継手が利用される。ねじ継手は接合対象となる管のそれぞれの端部に取り付けられ、施工現場で回転させて接合させることによって管を接合して管による構造体を施工する。
【0004】
一般的にねじ継手はあらかじめ工場にて、雄継手を一方の管に、雌継手をもう一方の別の管に取り付けし、現場へと出荷する。製造手順としてはいくつかの方法があるが、雄継手と雌継手がセットとなるように製造されることが多い。製造後には、これら継手の組の使用用途により、長尺な管の先端に取り付けられる場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ねじ継手は、雄継手と組になる雌継手の互いに対応するねじ形状により接合可否が決定されるため、通常は使用前に接合確認が行われる。しかしながら、ねじ継手の条件、特に、ねじ継手が700mm以上の径の大径であったり、ねじ継手が接続されている管の長さが5m以上で長尺であったり、ねじ継手または接続されている管の材質が鋼などの金属材料からなる重量物であったりすると、接合確認は困難になる。この場合、接合確認に大幅な手間や、継手自体の破損や、安全の確保に関する懸念などが生じるという問題がある。
【0007】
特に、ねじ継手の場合、雄継手と雌継手とが外れた状態(雄継手を雌継手にねじ込む直前の状態を含む)の接合開始位置から、雄継手と雌継手との接合が完了している状態の接合完了位置までの間に、雄継手のねじと雌継手のねじとの間のクリアランス(遊びまたは隙間とも称する)が不十分な箇所が存在する可能性がある。雄継手のねじと雌継手のねじとの間のクラアランスが不十分になると、継手の接続工程が中断する可能性が生じる。そのため、ねじ継手において、接合可能なねじ形状であるか否かを現場での使用前に、ねじ継手または接続されている管の状態にかかわらずより簡便に把握可能な技術が求められていた。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、ねじ継手における接合確認を、ねじ継手または接続されている管の状態にかかわらずより簡便に行うことができる、クリアランス測定方法、クリアランス測定装置、ねじ継手の測定方法、ねじ継手の計測システム、計測端末、ねじ継手の製造方法、ねじ継手の品質管理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上述した課題を解決し、上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るクリアランス測定方法は、雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して、前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定方法であって、前記雄継手と前記雌継手とのそれぞれのねじ形状のデータに基づいて、前記雄継手と前記雌継手との接合が完了した接合完了状態を設定する接合完了状態設定ステップと、前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定ステップと、前記クリアランス測定ステップ後、前記雄継手と前記雌継手との接合が外れた状態でなかった場合には、前記接合を外す方向に予め定められた角度だけ回転させた状態を設定する回転状態設定ステップと、を備え、前記クリアランス測定ステップから前記回転状態設定ステップまでを、前記接合が外れた状態になるまで繰り返し実行する。
【0010】
(2)本発明の一態様に係るクリアランス測定方法は、上記の(1)に記載の発明において、前記クリアランス測定ステップにおいて測定されたクリアランスと所定の基準とに基づいて、前記ねじ継手の組に関して合否を判定するステップと、前記クリアランス測定ステップにおいて測定されたクリアランスと所定の基準とに基づいて干渉個所と判定された箇所に対して、前記干渉個所の情報を付与する干渉情報付与ステップと、の少なくとも一方のステップを備える。
【0011】
(3)本発明の一態様に係るねじ継手の測定方法は、雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対し、前記雄継手のねじ形状と前記雌継手のねじ形状とをそれぞれ計測する形状計測工程と、前記形状計測工程において計測されたねじ形状のデータに基づいて、上記の発明によるクリアランス測定方法によって、前記ねじ継手の組ごとにクリアランスを測定するクリアランス測定工程と、を備える。
【0012】
(4)本発明に係るねじ継手の製造方法は、雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組を製造するねじ継手の製造方法であって、ねじ継手を製造する継手製造工程と、前記継手製造工程によって作成された雄継手と雌継手とを有する前記ねじ継手の組に対し、(3)に記載の発明によるねじ継手の測定方法を実行する継手計測工程と、を備える。
【0013】
(5)本発明の一態様に係るねじ継手の品質管理方法は、雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対する品質を管理するねじ継手の品質管理方法であって、前記ねじ継手を製造する継手製造工程と、前記継手製造工程によって作成された前記ねじ継手の組に対して、(3)に記載の発明によるねじ継手の測定方法により前記ねじ継手のねじ形状を計測する継手計測工程と、前記継手計測工程から得られた結果を用いて、前記作成されたねじ継手の品質を管理する、品質管理工程と、を備える。
【0014】
(6)本発明の一態様に係るクリアランス測定装置は、雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定装置であって、前記雄継手および前記雌継手のそれぞれのねじ形状のデータに基づいて、前記雄継手と前記雌継手との接合が完了した接合完了状態を設定する接合完了状態設定処理と、前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定処理と、前記クリアランス測定ステップ後、前記雄継手と前記雌継手との接合が外れた状態でなかった場合には、前記接合を外す方向に予め定められた角度だけ回転させた状態を設定する回転状態設定処理とを、前記接合が外れた状態になるまで繰り返し実行する制御部を備える。
【0015】
(7)本発明の一態様に係るクリアランス測定装置は、(6)に記載の発明において、前記制御部は、前記回転状態設定処理の前に、前記接合完了状態において、前記雄継手のねじと前記雄継手のねじに対応する前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定するクリアランス測定処理を実行する。
【0016】
(8)本発明の一態様に係るクリアランス測定装置は、(6)に記載の発明において、さらに、通信部を備え、前記通信部は、前記制御部によって、前記雄継手および前記雌継手のそれぞれのねじ形状のデータの取得処理と、前記クリアランス測定処理によって得られたクリアランスに関する情報の出力処理との少なくとも一方を実行する。
【0017】
(9)本発明の一態様に係るねじ継手の計測システムは、雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して、前記雄継手のねじ形状と前記雌継手のねじ形状とのそれぞれを計測可能に構成された計測部と、前記計測部によって計測された前記ねじ形状のデータに基づいて、前記ねじ継手の組ごとにクリアランスを測定する、上記の発明によるクリアランス測定装置と、を備える。
【0018】
(10)本発明の一態様に係る計測端末は、雄継手と前記雄継手に対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対して、前記雄継手のねじと前記雌継手のねじとの間のクリアランスを測定可能に構成され、制御部によって制御される計測端末であって、前記制御部の制御によって、前記雄継手のねじ形状と前記雌継手のねじ形状とをそれぞれ計測する計測部と、前記制御部の制御によって、計測された前記ねじ形状をデータとして上記の発明によるクリアランス測定装置に出力する出力処理、および前記クリアランス測定装置から、前記継手の組ごとに前記クリアランスに関する情報を取得する取得処理の少なくとも一方の処理を実行する、通信部と、前記制御部の制御によって、取得した前記情報を予め定められた形式によって出力可能な出力部と、を備える。
【0019】
(11)本発明の一態様に係る計測端末は、(10)に記載の発明において、前記制御部は、取得した前記クリアランスに関する前記情報と所定の基準とに基づいて、前記ねじ継手の組に関して合否を判定する処理と、取得した前記クリアランスに関する前記情報と所定の基準とに基づいて干渉個所と判定された箇所に対して、前記干渉個所の情報を付与する干渉情報付与処理と、の少なくとも一方の処理を実行する。
【0020】
(12)本発明に係るねじ継手の計測システムは、上記の発明による計測端末と、前記計測端末によって計測されたねじ形状のデータに基づいて、前記ねじ継手の組ごとにクリアランスを測定する上記の発明によるクリアランス測定装置と、を備える。
【0021】
(13)本発明の一態様に係るねじ継手の品質管理方法は、雄継手と前記雄継手と対応した雌継手とを有するねじ継手の組に対するねじ継手の品質を管理する、ねじ継手の品質管理方法であって、上記の発明によるクリアランス測定装置の制御部により実行されるクリアランス測定処理から得られたクリアランスに関する情報を用いて、前記ねじ継手の組に対する品質を管理する。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係るクリアランス測定方法、クリアランス測定装置、ねじ継手の測定方法、ねじ継手の計測システム、計測端末、ねじ継手の製造方法、ねじ継手の品質管理方法によれば、ねじ継手における接合確認を、ねじ継手または接続されている管の状態にかかわらずより簡便に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態によるねじ継手計測システムにおいて測定対象となるねじ継手の接合開始状態を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態によるねじ継手計測システムにおいて測定対象となるねじ継手の接合完了状態を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施形態の第1例によるねじ継手計測システムを示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施形態の第2例によるねじ継手計測システムを示すブロック図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態によるねじ継手の測定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、本発明の第1の実施形態によるクリアランス測定工程を説明するためのフローチャートである。
【
図7A】
図7Aは、本発明の実施形態によるクリアランス測定方法におけるねじ継手の座標を説明するための図である。
【
図7B】
図7Bは、本発明の実施形態によるクリアランス測定方法におけるねじ継手の座標を説明するための図である。
【
図7C】
図7Cは、本発明の実施形態によるクリアランス測定方法におけるねじ継手の座標を説明するための図である。
【
図8】
図8は、本発明の実施形態におけるねじ継手の接合部分を示す拡大断面図である。
【
図9】
図9は、本発明の実施形態におけるねじ継手の接合部分における干渉部分を示す拡大断面図である。
【
図10】
図10は、本発明の第1の実施形態によるクリアランス測定方法におけるクリアランス測定工程の第1変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図11】
図11は、本発明の第1の実施形態によるクリアランス測定方法におけるクリアランス測定工程の第2変形例を説明するためのフローチャートである。
【
図12】
図12は、本発明の第2の実施形態によるねじ継手の測定方法を説明するためのフローチャートである。
【
図13】
図13は、本発明の第3の実施形態によるねじ継手の測定方法を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施形態の全図においては、同一または対応する部分には同一の符号を付す。また、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0025】
まず、本発明の実施形態のねじ継手計測システムによる計測対象となるねじ継手について説明する。
図1および
図2はそれぞれ、本実施形態のクリアランス測定システムにおいて測定対象(計測対象)となるねじ継手の接合開始状態および接合完了状態を示す図である。
【0026】
(計測対象となる雄継手と雌継手)
図1に示すように、本実施形態によるねじ継手10は、内側の継手となる雄継手11および外側の継手となる雌継手12とを有して構成される。雄継手11を挿入させて嵌入させる側である先端側には、雄ねじ13が形成されている。雌継手12において挿入されて嵌入される側である先端側には、雌ねじ14が形成されている。雌継手12に形成された雌ねじ14は、雄継手11に形成された雄ねじ13と対応するねじ形状に形成されている。これにより、雄継手11と雌継手12とは互いに対応して、雄継手11を雌継手12にねじ込みによって挿入可能に構成されている。なお、ねじ形状としては、既知のものであっても未知のものであっても利用可能である。ねじ形状としては単条であっても多条であっても良く、本実施形態においては、例えば多条とする。また、ねじ形状はテーパねじでも平行ねじでも利用可能であり、本実施形態においては、例えば平行ねじである。また、材質は、特に限定されない。鋼、鋼以外の金属材料、コンクリート、樹脂、または複数の材料を組み合わせなどが挙げられる。ねじ継手の材質は、使用目的や後述する管などの条件に応じて選択する。本発明は、大径または重量物(長尺)であるために、工場出荷前の接合確認が困難であるねじ継手の場合に、特に効果的である。
【0027】
管15,16はそれぞれ、構造体を構成する。管15は上部構造体を構成する。管16は下部構造体を構成する。構造体としては、地面などに埋設された状態で所定の機能を有するものであったり、地上の構造体の一部として使用されるものであったり、管15,16の内部空間を利用するなどして気体や液体を輸送するものであったり、種々の構造体を採用可能である。地面に埋設された状態で所定の機能を有するものとしては例えば、杭、土留杭、地すべり抑止杭、管矢板、矢板壁、トンネルなどを挙げることができる。地上の構造体の一部として使用されるものとしては例えば、柱や梁などを挙げることができる。管15,16の内部空間を利用して気体や液体を輸送するものとしては例えば、油井管、水道管、ガス管などを挙げることができる。また、管15,16としては、例えば鋼管、コンクリート管、樹脂管、または複数の材料を組み合わせた管などを挙げることができる。本発明において、管15,16が、大径、長尺、または重量物であることから、工場出荷前の接合確認が困難であるねじ継手付き鋼管の場合に、特に効果的である。
【0028】
本実施形態においては、上側の管15に雄ねじ13を有する雄継手11が固定されている。下側の管16に雌ねじ14を有する雌継手12が固定されている。また、上述とは反対に、雄継手11を下側の管16に固定し、雌継手12を上側の管15に固定するようにしても良い。また、管15,16を接続せずに、雄継手11および雌継手12のままで計測対象としても良い。
【0029】
(実施形態の第1例)
次に、本発明の実施形態の第1例によるねじ継手計測システムについて説明する。
図3は、第1の実施形態によるねじ継手計測システムを示すブロック図である。
【0030】
図3に示すように、ねじ継手計測システム1は、クリアランス測定装置20および計測部35を有して構成される。さらにクリアランス測定装置20は、ねじ加工装置40と接続されている。ねじ継手計測システム1は、クリアランス測定装置20および計測部35と、ねじ加工装置40とを有した構成を採用しても良い。また、第1の実施形態によるねじ継手計測システム1は、クリアランス測定装置20を固定して使う場合を想定しているが、計測部35とクリアランス測定装置20とは、近接した状態であっても、遠距離であっても可能である。
【0031】
(クリアランス測定装置)
クリアランス測定装置20は、クリアランス測定装置20は、制御部21、記憶部22、および入出力部23を備える。なお、入出力部23は設けないことも可能である。クリアランス測定装置20は、公知のコンピュータ、サーバ、ノートパソコン、携帯端末、タブレット、スマートフォン、またはクラウドなどのネットワーク上の仮想装置などを使用可能である。
【0032】
制御手段としての制御部21は、具体的に、ハードウェアを有するCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、FPGA(Field-Programmable Gate Array)などのプロセッサ、およびRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)などの主記憶部(いずれも図示せず)を備える。
【0033】
記憶部22は、物理的には、RAMなどの揮発性メモリ、ROMなどの不揮発性メモリ、EPROM(Erasable Programmable ROM)、ハードディスクドライブ(HDD、Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD、Solid State Drive)、およびリムーバブルメディアなどから選ばれた記憶媒体から構成される。なお、リムーバブルメディアは、例えば、USB(Universal Serial Bus)メモリ、または、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、またはBD(Blu-ray(登録商標) Disc)のようなディスク記録媒体である。また、外部から装着可能なメモリカードなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体を用いて記憶部22を構成しても良い。記憶部22には、クリアランス測定装置20の動作を実行するための、オペレーティングシステム(Operating System:OS)、各種プログラム、各種テーブル、各種データベースなどが記憶可能である。各種プログラムには、学習モデルやニューラルネットワークも含まれる。これらの各種プログラムは、ハードディスク、フラッシュメモリ、CD-ROM、DVD-ROM、フレキシブルディスクなどのコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して広く流通させることも可能である。
【0034】
記憶部22には、クリアランスデータベース221および管種データベース222が格納されている。管種データベース222には、基本情報として、ねじ継手10を構成する雄継手11および雌継手12に関する各種情報(管種情報)が検索可能に格納されている。なお、管種情報は、ねじ継手10の識別IDや、雄継手11および雌継手12の寸法(径、ねじ寸法、ねじピッチ、ねじ高さ、および長さなど)や、諸元などの情報を含む。クリアランスデータベース221は、管種情報に基づいた雄ねじ13と雌ねじ14とのクリアランスに関する情報や、後述する計測部35によって計測された、雄ねじ13と雌ねじ14とのクリアランスに関する計測結果の情報(以下、クリアランス情報)が検索可能に格納されている。なお、クリアランス情報としては、クリアランスの計測結果の情報以外にも、干渉箇所を規定する干渉個所の情報としてのフラグの情報や、ねじ継手10の組に対する合否(合格不合格)の情報などの、クリアランスに関連した種々の情報を含む。
【0035】
制御部21のクリアランス演算部211は、計測部35によって計測された雄ねじ13や雌ねじ14のねじ形状をデジタルデータとして、記憶部22のクリアランスデータベース221に格納可能に構成される。記憶部22は、制御部21とは異なる筐体に設けられたものであっても良く、外部記憶装置、ネットワーク上のクラウドなどの仮想記憶装置を利用できる。
【0036】
本実施形態において、制御部21は、記憶部22に記憶されたプログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部などを制御することで、所定の目的に合致した機能を実現できる。具体的に、制御部21は、プログラムの実行によって、クリアランス演算部211および判定部212の機能を実現できる。
【0037】
入出力部23は、例えば、タッチパネルディスプレイ、スピーカマイクロホン、ボタン、スイッチ、ジョグダイヤルなどから構成される。出力部としての入出力部23は、制御部21による制御に従って、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、またはプラズマディスプレイなどのディスプレイの画面上に、文字や図形などを表示したり、スピーカから音声を出力したりして、所定の情報を外部に通知するように構成される。入出力部23は、印刷用紙などに所定の情報を印刷することによって出力するプリンタを含む。記憶部22に格納された各種情報は、例えば所定の事務所などに設置された入出力部23のディスプレイなどで確認することができる。
【0038】
入力部としての入出力部23は、例えば、キーボードや入出力部23の内部に組み込まれて表示パネルのタッチ操作を検出するタッチパネル式キーボード、外部との間の通話を可能とする音声入力デバイス、スイッチ、またはジョグダイヤルなどから選択されて構成される。入力手段としての入出力部23は、雄ねじ13や雌ねじ14のねじ断面のクリアランスを、出力手段としての入出力部23を用いて目視により測定した場合において、入出力部23からクリアランスの測定値を入力可能である。また、詳細は後述するが、雄ねじ13と雌ねじ14との接合において、干渉のありなしに基づいてフラグを立てたり倒したりの入力を入出力部23から行うことも可能である。具体的に、雄ねじ13と雌ねじ14との間において干渉が存在した場合に「0」、干渉が存在しない場合に「1」を、入出力部23から入力したりするようにしても良い。
【0039】
(計測部)
計測部35は、少なくとも1台の例えば、ハンディ型3Dスキャナなどから構成される。3Dスキャナとしては、例えばレーザ照射装置や赤外線照射装置などを採用できる。ハンディ型3Dスキャナは、機種に応じた焦点距離(例えば20cm~40cm)を維持しつつ操作する必要があることから、スキャン対象周辺は50cm以上の空間が確保することが望ましい。
【0040】
計測部35は、雄継手11と雌継手12との接合の可否を判定する観点からは、計測精度は、所望とするクリアランスの半分以下程度、具体的に例えば、クリアランスが0.75mmの場合には、(0.75/2=)0.375mm以下程度にすることが好ましい。なお、計測精度としては、ねじ継手10の大きさ、雄ねじ13や雌ねじ14のねじ形状などに応じて種々設定され、これらの数値に限定されない。特に、ねじ継手10は3次元形状であることから、凹凸部によって死角が生じやすいため、操作性の観点からハンディ型の計測機器である、例えばハンディ型3Dスキャナが望ましい。なお、通常、ハンディ型3Dスキャナの中でも高精度のタイプでは形状計測用のマーカーを対象物に10cm程度ごとに貼り付ける必要があったりする。これに対し、ねじ継手10が大型になる場合には、効率性の観点から形状計測用のマーカーの貼り付けが不要な、マーカーレスタイプのハンディ型3Dスキャナが望ましい。
【0041】
計測部35を構成するセンサは具体的に、例えばレーザ光などの所定の光の照射および反射によって、設置位置から対象物、例えば雄ねじ13や雌ねじ14のねじ表面までの距離を計測可能である。計測部35は、計測位置から対象物の表面までの距離を2次元的な位置情報に関連付けて計測する、いわゆるセンシングを実行可能である。センシングとは、計測部35によって行われる各種計測を含む。2次元的な位置情報としては、xy平面による座標(x,y)や距離rおよび回転角θにおける座標(r,θ)などを用いることができる。2次元的な位置情報に対応した距離の情報にも基づいて、雄ねじ13や雌ねじ14の表面のねじ形状を3次元的に計測可能となる。
【0042】
また、計測部35の機材を選定する際には、解像度は高精度であるほど好ましい。この場合、解像度は、雄継手11と雌継手12との接合の可否を判定に用いるクリアランスに影響を与えるねじの形状を精度良く再現できる程度であれば良い。本実施形態においては、雄ねじ13や雌ねじ14のねじの形状に局所的な凹凸が生じにくい場合もあることから、解像度は1mm程度以下であれば良いが、この数値に限定されるものではない。また、スキャンしたデータ上で雄継手11と雌継手12とを組み合わせて接合の可否に関する判定を行うことから、方向が一方向に定まらない対象物の場合、スキャンによって認識可能なマーカーや形状による目印を設けることによって、方向性を確保することが望ましい。
【0043】
計測部35は、センシングによって計測したねじ形状の計測値をクリアランス測定装置20に出力する出力処理を実行する。クリアランス測定装置20の制御部21におけるクリアランス演算部211は、取得した計測値を記憶部22のクリアランスデータベース221に格納する。
【0044】
(ねじ加工装置)
ねじ加工装置40は、ねじ継手10の雄ねじ13や雌ねじ14に対する調整工程用の装置である。ねじ加工装置40は、制御部41、記憶部42、入出力部43、およびねじ加工部45を備える。制御部41、記憶部42、および入出力部43はそれぞれ、機能的および物理的には、制御部21、記憶部22、および入出力部23と同様に構成される。ねじ加工装置40は、クリアランス測定装置20に接続される。
【0045】
制御部41は、記憶部42に記憶されたプログラムを主記憶部の作業領域にロードして実行し、プログラムの実行を通じて各構成部などを制御することで、所定の目的に合致した機能を実現できる。具体的に、制御部41は、プログラムの実行によって加工制御部411の機能を実現できる。加工制御部411は、ねじ加工部45を制御可能に構成される。
【0046】
クリアランス測定装置20のクリアランス演算部211は、記憶部22に格納されたクリアランスデータベース221からクリアランス情報を読み出して、ねじ加工装置40に出力する。クリアランス情報を取得したねじ加工装置40は、取得したクリアランス情報を少なくとも一時的に記憶部42に格納する。制御部41の加工制御部411は、オペレータなどから入出力部43を通じて雄ねじ13や雌ねじ14の干渉個所を修正する指示が入力された場合に、ねじ加工部45を制御することによって、取得したクリアランス情報に基づいて干渉個所を修正する加工処理を実行する。なお、ねじ加工装置40は、クリアランス測定装置20と一体に構成しても良い。さらに、ねじ加工装置40によって、ねじ継手10の製造を行うことも可能である。以上により、実施形態の第1例によるねじ継手計測システム1が構成される。
【0047】
(実施形態の第2例)
次に、本発明の第2の実施形態によるねじ継手計測システムについて説明する。
図4は、第2の実施形態によるねじ継手計測システムを示すブロック図である。
図4に示すように、ねじ継手計測システム1Aは、ネットワーク2を介して互いに通信可能なクリアランス測定装置20および計測端末30Aを有して構成される。
【0048】
ネットワーク2は例えば、インターネットなどの公衆通信網であって、例えばLAN(Local Area Network)、WAN(Wide Area Network)、携帯電話などの電話通信網や公衆回線、VPN(Virtual Private Network)、および専用線などの一または複数の組み合わせからなる。ネットワーク2は、有線通信や無線通信が適宜組み合わされている。
【0049】
ねじ継手計測システム1Aはさらに、ネットワーク2を介して少なくともクリアランス測定装置20と通信可能な、ねじ加工装置40と接続されていても良い。なお、ねじ継手計測システム1Aは、クリアランス測定装置20および計測端末30Aと、ねじ加工装置40とを有した構成を採用しても良い。
【0050】
(クリアランス測定装置)
クリアランス測定装置20Aは、制御部21、記憶部22、入出力部23、および通信部24を備える。通信手段としての通信部24は、例えば、LAN(Local Area Network)インターフェースボードや、無線通信のための無線通信回路などである。LANインターフェースボードや無線通信回路は、ネットワーク2に接続される。通信部24は、ネットワーク2に接続して、計測端末30Aおよびねじ加工装置40Aとの間で通信を行う。その他の構成は第1の実施形態におけるクリアランス測定装置20と同様である。
【0051】
(計測端末)
計測端末30Aは、制御部31、記憶部32、入出力部33、通信部34、および計測部35を備える。制御部31、記憶部32、入出力部33、および通信部34はそれぞれ、物理的および機能的には、上述した制御部21、記憶部22、入出力部23、および通信部24と同様の構成を有する。
【0052】
さらに、第2の実施形態による計測端末30Aにおける計測部35は、第1の実施形態における計測部35と同様に構成される。制御部31は、記憶部32に記憶されたプログラムを主記憶部の作業領域にロードしてプログラムを実行することにより、所定の目的に合致した機能を実現できる。具体的に制御部31は、プログラムの実行によって計測制御部311の機能を実現できる。計測制御部311は、計測部35を制御可能に構成される。
【0053】
(ねじ加工装置)
ねじ加工装置40Aは、制御部41、記憶部42、入出力部43、通信部44、およびねじ加工部45を備える。通信手段としての通信部44は、物理的および機能的には、上述した通信部24と同様に構成され、ネットワーク2に接続される。通信部44は、ネットワーク2に接続して、少なくともクリアランス測定装置20Aとの間で通信を行う。その他の構成は第1の実施形態におけるねじ加工装置40と同様である。以上により、実施形態の第2例によるねじ継手計測システム1Aが構成される。
【0054】
(第1の実施形態)
(ねじ継手の測定方法)
次に、以上のように構成された実施形態の第1例によるねじ継手計測システム1、または第2例によるねじ継手計測システム1Aを用いた、ねじ継手10の計測方法について説明する。
図5は、第1の実施形態によるねじ継手10の計測方法を示すフローチャートである。
【0055】
(ねじ継手の製造工程)
図5に示すように、まず、ステップST1において、ねじ加工装置40によって継手製造工程を実行する。ステップST1においてはまず、熱処理によって鍛造リングを製造する。次に、回転切削によって鋳造リングを回転させつつ、切削刃を鋳造リングに当接させて切削することによって、継手に加工する。なお、切削刃の動きに関しては、所定のプログラムに従った加工制御部411の制御により自動で制御可能である。ここで、一例として継手のねじ形状が多条ねじの場合、1つの部位、すなわち1条が完成するまで同じ場所を少しずつ切削する。1条が完成したら切削刃を次の条に移動させる。継手におけるねじが完成した後、実際に試接合を行って、構造性能を満たす接合完了状態において到達線をアイマークによってマーキングする。その後、接合を解除して、それぞれの継手の外周面(ただし、ねじがない箇所を選ぶ)における開始線に矢印をマーキングして、解除時に雌継手12のアイマークに対応する雄継手11に矢印をマーキングする。なお、なお、必ずしも鍛造リングを用いる必要はなく、切削可能な板厚のある鋼管などを用いる場合もある。
【0056】
(管接続工程)
次に、ステップST2に移行して、管接続工程を実行する。ステップST2においては、まず、ステップST1において行ったねじ継手の接合を解除する。次に、雄継手11と雌継手12のいずれか一方の継手、ここでは例えば雌継手12を横置きの鋼管に取り付ける。次に、横置き状態の雌継手付き鋼管に雄継手11の単体を試接合する。この試接合によって到達線に達するか否かを確認した後、接合を解除する。続いて、雄継手11と雌継手12の他方の継手、ここでは例えば雄継手11を横置きの鋼管に取り付ける。
【0057】
ここで、鋼製のねじ継手と鋼管との組み合わせの場合は、この試接合によって、溶接による熱変形の影響を許容して、接合完了位置まで接合できるか確認する。なお、鋼製のねじ継手と管が鋼管矢板との組み合わせの場合は、一例として鋼管を横につなぐ鋼製の連結継手を溶接した後、ねじ継手を鋼管に溶接する。なお、このステップST2は実行しないことも可能である。
【0058】
(ねじ継手の測定方法)
ここで、本実施形態によるねじ継手の測定方法について説明する。本実施形態においては、加工後のねじ継手の形状を計測する形状計測工程、および計測されたねじ継手の形状に基づいて、ねじ継手の組に対するクリアランス測定工程を含む。これらの形状計測工程およびクリアランス測定工程は、ねじ継手10が実際に使用される前に実行される。
【0059】
(形状計測工程)
すなわち、ステップST1またはステップST2を実行後に、ステップST3に移行して形状計測工程を実行する。形状計測工程においては、まず、ステップST1において製造された1組のねじ継手10に対して、計測部35によって、雄継手11の雄ねじ13および雌継手12の雌ねじ14のそれぞれのねじ形状を計測する。計測部35は、計測したねじ形状の計測データをクリアランス測定装置20に出力したり送信したりする(以下、送信という)。ここで、ねじ継手10の形状計測工程において、計測部35を用いたねじ形状の計測は、例えば計測部35からねじ継手(雄継手11、雌継手12)の表面までの距離を計測することによって行われる。
【0060】
また、ねじ継手10の形状測定工程において、ねじ形状は、ねじ継手(雄継手11、雌継手12)を複数の視点から撮像して複数の画像データを取得し、取得した複数の画像を用いたフォトグラメトリによって測定することも可能である。具体的には、計測部35を構成するハンディ型3Dスキャナによって点群データを取得後、取得した点群データを、ポリゴン化(STL化、メッシュ化)して、対象物であるねじ継手10の3次元計測を行うCAD系のソフトによって形状計測や仮想配置を実行する。
【0061】
ここで、仮想配置を実現するために例えば、形状を詳細に把握する場合には、ねじの頂点をデータ点にすることなどを実行するのが好ましい。すなわち、ねじの形状を計測するために、ねじの頂点が点群データのデータ点に含まれることが好ましく、より具体的には、ねじの頂点の曲率半径以下、例えば解像度0.5mm程度以下にすることが好ましい。
【0062】
しかしながら、ねじの形状として局所的な凹凸が生じにくい場合もあり、接合性に影響を与える接触は、ねじ表面の面的な接触であることを考慮すると、解像度を1mm程度としても良い。また、一例として、データ点の精度の目安としてクリアランスの半分以下、具体的に例えば、クリアランスが0.75mmである場合にデータ点の精度の目安を0.375mm以下とすることにより、実用上十分な精度によって判定できる。なお、3次元計測を行うCAD系のソフトを用いることによって、雄継手11と雌継手12とを剛体とみなして接合判定を行うことから、クリアランスがある場合の合格判定については問題ないことになる。一方、ある程度干渉する場合があっても、継手の弾性体としての変形能力の範囲内にであれば、嵌合可能な場合もありえる。
【0063】
以上のように、計測精度、局所的な接触の無視、摩擦抵抗、弾性変形量、使用条件(鉛直、水平、斜等の接合時の方向性や外気温)を考慮した判定基準値を設定することによって、判定を高精度化できる。判定基準値は、必ずしも0を基準とする必要はなく、例えばデジタル上でのクリアランスが-0.2mm(仮想干渉量が0.2mm)を基準とし、嵌合の可否を判定する事も可能である。また、計測精度によっては、クリアランスが正の値であっても干渉する場合もあり、適切な判定基準を設定することが望ましい。なお、クリアランスの正負は整理する方法にもよることから、負をクリアランスが存在している状態としても良い。
【0064】
また、ねじ継手10においては、必ずしも全体を計測する必要はなく、計測部35によって、雄継手11に関しては外面側、雌継手12に関しては内面側が計測されていれば良い。この場合、計測時間の短縮や計測データの容量を低減することが可能である。また、取得した点群データを、ポリゴン化(STL化、メッシュ化)する際は、所定の表面誤差(例えば0.01mm)の範囲内の点を省略し、データ容量の削減を行うこともできる。
【0065】
(クリアランス測定工程)
次にステップST4に移行して、クリアランス測定方法としてのクリアランス測定工程について説明する。
図6は、第1の実施形態によるクリアランス測定方法を示すフローチャートである。なお、
図6に示すフローチャートは、クリアランス測定装置20により実行される。
【0066】
(取得ステップ)
図6に示すように、第1の実施形態によるクリアランス測定方法においては、まず、取得処理を行う取得ステップとしてのステップST411において、クリアランス測定装置20の制御部21は、計測部35から、計測データを取得する。計測データは、ステップST3において計測部35によって計測された雄継手11の雄ねじ13のねじ形状、および雌継手12の雌ねじ14のねじ形状に関する計測データである。
【0067】
(接合完了状態設定ステップ)
次に、接合完了状態設定処理を実行する接合完了状態設定ステップとしてのステップST412に移行して、制御部21のクリアランス演算部211は、取得した雄ねじ13および雌ねじ14のねじ形状の計測データに基づいて、雄継手11が雌継手12の内側に接合した接合完了状態を設定する。
【0068】
本発明において、「接合完了状態」とは、
図2に示すように、管軸方向に対する雄継手11のねじ部分の全長が雌継手12の内側にほぼ収納され、接合が完了した状態を示す。言い換えれば、雄継手11が雌継手12にねじ込まれた状態で、ねじが進む方向にほぼ回らなくなった状態である。
図2に示すように、理想的には、雄継手11のねじの無い部分と雌継手12の先端部とが接する(ショルダータッチという)。
【0069】
本発明においては、この接合完了状態を初期位置として設定し、クリアランスの測定を接合完了状態から開始することが、最大の特徴である。
【0070】
通常、実物で接合確認する場合は、雄ねじと雌ねじが組み合う位置(継手の周方向に対するねじの開始位置でもある)を動かしながら特定することになる。ここで1条ねじの場合は継手の周方向に対するねじの開始位置が1ヶ所しかなく、先に説明したようなねじ継手の条件によっては、当該位置の特定は非常に困難になる。また、多条ねじは継手の周方向に対するねじの開始位置は複数あるが、特定の開始位置での使用を想定している場合は、やはり当該位置の特定が難しくなる。特に、コンピュータ等を使用して仮想上で接合を模擬する場合は、雄ねじと雌ねじが組み合う位置の設定は、周方向や軸方向に複数条件が考えられ、そもそもねじ込みを開始させること自体がさらに難しくなる。
【0071】
しかしながら、雄ねじと雌ねじの接合が完了した接合完了位置は、仮想上の場合を含めてどのような環境においても容易に設定できる。そこで、本発明においては、接合完了位置を初期位置とし接合解除させながらクリアランスの測定を行うことで、クリアランス測定工程を単純化し、ねじ継手または接続されている管の状態にかかわらずより簡便にクリアランスの測定を行うことができる。
【0072】
(クリアランス測定ステップ)
次に、クリアランス測定ステップとしてのステップST413に移行して、制御部21のクリアランス演算部211は、接合完了状態における、雄ねじ13および雌ねじ14の計測データに基づいて、雄ねじ13と雌ねじ14との間のクリアランスを導出する。クリアランス演算部211によるクリアランスの導出は、あらかじめ設定された個所において実行される。なお、本明細書においてクリアランスとは、隙間または遊びなどとも称されるものである。
【0073】
ここで、
図7A、
図7B、および
図7Cに、計測位置の座標系の作成方法を示す。すなわち、
図7Aに示すように、雄継手11の雄ねじ13の断面や、雌継手12の雌ねじ14の径方向に沿った断面を作成するための平面を作成し、
図7Bに示す断面線Lを作成する。次に、断面線から直線lを2本作成して、交点Cを作成する。次に、
図7Cに示すように、曲線を指定した点(指定点)との誤差が最小になる円(以下、フィット円)を作成する。このフィット円の中心点と複数の交点Cとによって、座標系を作成する。なお、
図7A~
図7Cによって説明した座標系の作成方法はあくまで一例に過ぎず、座標系の作成や設定は任意の方法で行うことが可能である。
【0074】
図6に戻り、このように作成した座標系に基づいて、あらかじめ設定された個所として、雄継手11や雌継手12の横断面(
図1および
図2において上下方向に対して垂直な平面)における円の中心に対して、円周状で例えば90°ずつずらした4個所を選択することができる。なお、あらかじめ設定された個所として、円の中心に対して円周上で例えば45°ずつずらした8個所とすることも可能であり、必ずしも所定の位置や個数に限定されない。
【0075】
ステップST413においてクリアランス演算部211は、上述したように、あらかじめ設定された4個所や8個所の位置において、ねじ形状のデータからねじの断面図を生成して、雄ねじ13と雌ねじ14とのねじ間のクリアランスcを導出する。このように、
図7A~
図7Cに示すようにして測定点の求め方を設定することによって、クリアランス演算部211は、定められた箇所を所定の方法で自動的に算出可能となる。なお、クリアランス測定装置20の入出力部23に、クリアランス演算部211が生成したねじの断面図を出力させ、作業者が目視でクリアランスの有無を判断して、入出力部23からクリアランスの有無を入力するようにしても良い。
【0076】
また、第1の実施形態によるクリアランス測定装置20のクリアランス演算部211によって生成された、データ化されたねじ継手10の断面の一例を
図8および
図9に示す。
図8は、データ化したねじ継手10の雄ねじ13と雌ねじ14とが互いに干渉せず、接合している状態の一部を拡大して示す断面図である。
図9は、データ化したねじ継手10の雄ねじ13と雌ねじ14とが部分的に干渉しており、適切に接合していない状態の一部を拡大して示す断面図である。
【0077】
図8に示すように、ねじ山13a,14aとねじ底13b,14bとの間にそれぞれ干渉が生じていない場合には、雄継手11と雌継手12との接合ができている状態となる。ここで、例えば、適切に接合する雄ねじ13のねじ山13aの高さhは、例えば5.0mmである。なお、ねじ山13a,14aの中央は、雄ねじ13の角部と角部との距離の半分で一番近い点とする。また、白点pは、雄継手11の雄ねじ13および雌継手12の雌ねじ14に対して、十分な解像度を確保できる計測点である。これらの白点pが多い程、雄ねじ13および雌ねじ14の中央の位置の判定精度を向上できる。
【0078】
ねじ山13a,14aの高さhは、ねじ山13a,14aの中央とスタビング側の底との距離とする。また、雄ねじ13のねじ山13aと雌ねじ14のねじ底14bとの間の径方向のクリアランスcは例えば0.75mmとする。なお、クリアランスcは、ねじ山13aの中央とねじ底14bの中央とを結んだ線のうち、雄継手11の回転軸の半径方向成分とする。すなわち、雄継手11のねじ山13aの周方向に接する面の雄継手11の径の中心からの距離r1と、雌継手12のねじ底14bの雄継手11の径の中心からの距離r2とからは、クリアランスcは、c=r2-r1として導出できる。
【0079】
クリアランスcとしては、必ずしも上述した定義に限定されず、ねじ継手10の接合の可否に応じた種々の定義を設定できる。例えば、クリアランスcの他の定義の例としては、ねじ山13a,14aの頂点を考慮した位置の決め方を採用することも可能である。すなわち、計測する頂点どうしをあらかじめ決定して、斜めに結ばれる場合においては、結ばれた頂点どうしの半径方向や軸方向に対応する距離を計測して、クリアランスcとすることも可能である。また、雄継手11におけるそれぞれの点、または点と点とを結んだ線、すなわちメッシュごとに法線方向に距離を計測して、接合状態での雌継手12と接した際の距離、すなわち最短距離をクリアランスcに設定しても良い。反対に、雌継手12から雄継手11に向かう方向に距離を計測しても良い。
【0080】
一方、
図9に示すように、雄継手11と雌継手12との位置関係から、ねじ山13a,14aとねじ底13b,14bとの間の少なくとも一部に干渉(干渉部分E)が生じている場合には、雄継手11と雌継手12との接合ができていない状態となる。ここで、例えば、適切に接合していない状態の雄ねじ13のねじ山13aの高さhは、例えば5.0mmである。雌ねじ14のねじ底14bとの間の径方向のクリアランスcは、例えば-1mm、すなわち径方向に1mmだけ干渉することになる。
【0081】
なお、上述した
図8および
図9の例においては、ねじピッチPは例えば12.5mmであるが、限定されない。ねじピッチPとは、ある1条における雄ねじ13のねじ底13bの端から次の1条の雄ねじ13のねじ底13bの始まる位置までの軸方向の距離である。または、ねじピッチPは、ある1条の雌ねじ14のねじ山14aの端から次の1条のねじ山14aの始まる位置までの軸方向の距離である。1条ねじの場合、ねじピッチPは、1回転したときにねじが進む距離を意味する。一方、多条ねじの場合、ねじピッチPは、ねじの条数によって1回転したときの進む距離が異なることから、一定の距離としてのねじピッチPが定義することが困難であるため、本明細書においては上述のように定義しているが、必ずしも上述した定義に限定されない。
【0082】
クリアランス演算部211は、あらかじめ設定された例えば4個所や8個所の複数の個所において導出したクリアランスcの結果をクリアランス情報として、クリアランスデータベース221に格納する。なお、クリアランスcは、雄継手11および雌継手12において、あらかじめ設定された複数の個所における接合している部分の全てのねじ山13a,14aおよびねじ底13b,14bについて導出する。その上で、回転軸に対する半径方向に沿った最小のクリアランスcを導出する。クリアランス演算部211は具体的に、所定の計測ソフトウェアによって、それぞれの縦断面(
図7B参照)において雄継手11の雄ねじ13と雌継手12の雌ねじ14とのクリアランスcが回転半径方向で最小となる値を抽出する。また、導出したクリアランスcの情報については、管種データベース222に格納された管種情報のねじ継手識別IDと関連付けて、記憶部22に格納しても良い。
【0083】
(クリアランス判定ステップ)
次に、次に、クリアランス判定ステップとしてのステップST414に移行して制御部21の判定部212は、記憶部22のクリアランスデータベース221からクリアランス情報を読み出して、所定の基準に従って接合の可否の判定を行う。すなわち、判定部212は、所定の基準として例えば、雄継手11の雄ねじ13と雌継手12の雌ねじ14との間におけるクリアランスcが所定値以下であるか否かに基づいて判定する。なお、所定値としては、任意の値に設定可能であり、本実施形態において所定値は例えば0とする。
【0084】
ステップST414において判定部212が、雄継手11の雄ねじ13と雌継手12の雌ねじ14との間におけるクリアランスcは所定値以下、具体的に例えば0以下(c≦0)であると判定した場合(ステップST414:Yes)、ステップST418に移行する。ステップST418において判定部212は、測定対象であるねじ継手10が不合格である情報を出力して、この不合格情報をクリアランス情報としてクリアランスデータベース221に格納する。以上により、クリアランス測定工程が終了する。
【0085】
ステップST414において判定部212が、雄継手11の雄ねじ13と雌継手12の雌ねじ14との間におけるクリアランスcは所定値より大きい、具体的に例えば0より大きい(c>0)と判定した場合(ステップST414:No)、ステップST415に移行する。すなわち、あらかじめ設定された複数個所において接合している部分におけるクリアランスcが、所定値より大きい状態であれば、干渉は生じず、雄継手11と雌継手12とは接合可能であると判定される。ここで、所定値を0とした場合、判定部212は、クリアランスcが常に正(c=r2-r1>0)の状態であれば、干渉は生じず、雄継手11と雌継手12とは接合可能であると判定できる。なお、干渉部分Eはねじ部の半径方向のみならず、ねじ部の管軸方向やねじ部以外の箇所においても生じる可能性があることから同様に判定しても良いが、ねじ継手10においては、ねじ部の半径方向の変形が最も生じやすいことから、判定部212は、ねじ部の半径方向のクリアランスが上述した条件(c>所定値)を満たせば、接合可能と判定できる。なお、今回は静的検討として、計測ソフトやCADを用いた継手全体の形状が変形せずに剛であると仮定して検討する方法を採用したが、動的検討として、部分的な微小干渉により継手の形状が弾性変形することや摩擦抵抗なども考慮して検討する方法も採用できる。動的検討としては、FEMや機構解析などによる動的解析を行い、荷重、トルク、接触、摩擦などの変動に基づいて干渉を判定する。
【0086】
(接合判定ステップ)
接合判定ステップとしてのステップST415において判定部212は、ねじ継手10において、雄継手11と雌継手12とがねじ込まれておらず接合が外れているか否かを判定する。判定部212が、雄継手11と雌継手12とはねじ込まれておらず接合は外れていると判定した場合(ステップST415:Yes)、ステップST417に移行する。
【0087】
ステップST417において判定部212は、測定対象であるねじ継手10が合格である情報を出力して、この合格情報をクリアランス情報としてクリアランスデータベース221に格納する。クリアランス演算部211は、仮想的に雄継手11と雌継手12との接合が外れた状態まで、雄ねじ13および雌ねじ14の全周に対するクリアランスcを導出することができる。以上により、クリアランス測定工程が終了する。
【0088】
一方、ステップST415において判定部212が、雄継手11と雌継手12とは離間しておらず、接合は外れていないと判定した場合(ステップST415:No)、ステップST416に移行する。
【0089】
(回転状態設定ステップ)
回転状態設定処理を行う回転状態設定ステップとしてのステップST416おいてクリアランス演算部211は、接合した雄継手11と雌継手12とに対して、予め定められた回転角度、具体的には例えば90°や45°だけ、外す方向に回転させた状態を設定する。ここで、ステップST416において実行される回転状態設定ステップについて詳細に説明する。
【0090】
すなわち、データ化されている雄継手11と雌継手12とを、接合完了状態から接合時における回転方向とは逆方向に回転(以下、逆回転)させて完全に解除することを検討する。このデータにおいて仮想的に実行する解除の際に、雄ねじ13および雌ねじ14における全てのねじ部において、全ての断面で干渉が生じない場合、雄継手11と雌継手12とは接合可能であると判定できる。反対に、少なくとも一部において、干渉が生じる場合、すなわちクリアランスcが所定値以下であった場合には、接合不可能と判定できる。
【0091】
このように雄継手11と雌継手12との接合完了状態から開始して逆回転によって判定を行うことが好ましく、本実施形態において重要な特徴である。ねじ継手10において雄継手11と雌継手12とを離間させた接合開始状態から、接合させるような雄ねじ13および雌ねじ14の接合方向に回転させつつ干渉度合を導出する場合、雄継手11と雌継手12とを接触させた位置から直ちに回転接合を開始可能であるとは限らない。この場合、雄継手11と雌継手12との初期位置の変更を繰り返して、実際に回転接合を開始可能な初期位置を探索する必要が生じる。これに対し、本実施形態のように、接合完了状態から逆回転させる場合には、雄継手11と雌継手12との初期位置は1か所に決定されるため、回転開始位置の探索を省略可能となる。ここで、データ化されたものではなく、実物のねじ継手10において接合確認を行う場合、接合開始の初期位置を動かしながら特定することは可能である。データ化された仮想上で接合確認を行う場合には、接合開始の初期位置の設定を、周方向や軸方向などで複数検討して探索する必要があり、仮想のデータにおいて、雄継手11と雌継手12とを回転接合させるのは極めて困難である。これに対し、接合完了位置を特定することは比較的容易である。これにより、接合完了位置を初期位置とし、逆回転させることによって接合を解除させつつ干渉の有無の確認を行うことによって、ねじ継手10の測定処理を単純化して効率化することが可能となる。また、嵌合において雄ねじ13と雌ねじ14との噛み合いが多い位置、すなわち接合完了位置付近になるほど干渉が生じやすくなる。そのため、接合完了位置から逆回転させて干渉度合いを導出することにより、干渉位置をより早期に発見することができる。
【0092】
ステップST416におけるクリアランス演算部211が実行する具体的な手順として、まず、
図2に示すようにデータ化した雄継手11と雌継手12を接合完了位置に仮想配置する。雄継手11および雌継手12の回転軸をそれぞれ抽出する。具体的に例えば雄継手11においては先端部の外径、雌継手12においては先端部の内径を例えば4点や8点などの複数点選択する。次に、選択点とのずれが最小となるフィッティング円を作成して、フィッティング円の中心を回転軸に設定する。雄継手11と雌継手12とにおいて回転軸を一致させ、ショルダータッチする状態を導出する。ここで、アイマークの位置を接合完了位置とする。なお、回転軸の設定や接合完了位置の設定は任意の方法を採用することが可能であり、上述した方法以外に種々の方法を採用できる。
【0093】
次に、雄継手11と雌継手12との回転軸を一致させてショルダータッチした状態で、あらかじめ定められた例えば45°や90°などの角度間隔以下の縦断面(
図7A~
図7C参照)において、全てのねじ山13a,14aに対し回転軸の半径方向に沿った最小のクリアランスを導出する。ここでクリアランスがマイナスになる部分も測定する。なお、それぞれの縦断面において雄継手11および雌継手12のねじ部のクリアランスが回転半径方向に最小となる値を計測ソフトにより抽出する。より具体的には、全体の最小値を導出したり、ねじ山13a,14aの複数のねじ山ごとに最小値を導出したりする。さらに、条件に応じて目視や代表点を用いた検討なども可能である。また、雄継手11におけるそれぞれの点と点とを結んだ線、すなわちメッシュごとに法線方向に距離を計測して、接合状態での雌継手12と接した際の距離、すなわち最短距離をクリアランスcに設定しても良い。反対に、雌継手12から雄継手11に向かう方向に距離を計測しても良い。
【0094】
その後、あらかじめ設定された回転角度だけ接合方向とは反対方向に逆回転させる。ここで、回転する角度は、例えば45°間隔であったり90°間隔であったりするが限定されない。逆回転の角度に応じた軸方向の移動量については、雄ねじ13や雌ねじ14のねじピッチPによって決定される。なお、クリアランスを導出する断面の設定や逆回転の間隔を45°以下や90°以下としたのは、ねじ継手10が周方向に連続しており、局部的な変形が生じにくく、45°~90°程度の間隔で確認したとしても、干渉の有無を十分に検出可能であるためである。
【0095】
逆回転において干渉が生じた場合、雄継手11の回転軸を回転半径方向に沿ったクリアランスが大きい方に移動させた状態を設定し、その段階で干渉の有無を確認する。さらに干渉する場合は、雄継手11および雌継手12の回転軸の軸方向に沿って移動させた状態を設定し、干渉しない位置を探索する。干渉しない位置が特定された場合、その位置から改めて逆回転を開始する。なお、回転軸を移動させないで、干渉の有無を判定するようにしても良い。
【0096】
以上の手順を繰り返して、雄継手11と雌継手12とを逆回転させて接合解除まで実行する。これらの手順において、全ての雄ねじ13および雌ねじ14とのクリアランスが所定値、例えば0より大きければ接合可能と判定し、所定値以下であれば接合不可と判定する。
【0097】
ステップST416による回転状態設定ステップが終了した後、ステップST413に移行して、あらかじめ設定された個所において接合している部分のクリアランスcを導出する。制御部21は、ステップST413~ST416を、クリアランスcが所定値以下になる(ステップST414:Yes)か、雄継手11と雌継手12との接合が外れる(ステップST415:Yes)まで繰り返し実行する。その後、判定部212は、測定対象であるねじ継手10の合格または不合格の情報をクラアランス情報としてクリアランスデータベース221に格納する。以上により、クリアランス測定工程が終了する。第1の実施形態によるクリアランス測定工程によれば、クリアランスcが所定値以下になった段階で不合格と判定していることにより、ねじ継手10における不合格品が判明するまでに要する時間を短時間化することができる。
【0098】
その後、
図5に示すステップST5に移行して、制御部21は入出力部23に対して、測定対象であるねじ継手10の合格または不合格の情報を出力する。なお、不合格と判定されたねじ継手10は、ねじ継手10の実物に印をつけるなどしておいても良い。なお、不合格と判定されたねじ継手10は、後述する調整工程を実行するか廃棄するかなどを適宜選択できる。以上により、ねじ継手の測定処理が終了する。
【0099】
以上説明したねじ継手の測定方法に基づいて、ねじ継手10の品質を管理することが可能である。すなわち、ねじ継手10の品質管理方法においては、まず、ステップST1において継手製造工程によってねじ継手10を製造する。次に、ステップST3による継手計測工程によって、ねじ継手10の雄ねじ13および雌ねじ14のねじ形状を計測する。その後、ステップST4において、継手計測工程によって得られた測定結果を用いて、雄ねじ13および雌ねじ14の組ごとにクリアランスを測定することによって、品質管理工程として、ねじ継手10の品質を管理することが可能である。
【0100】
(第1変形例)
次に、上述した第1の実施形態によるクリアランス測定工程の第1変形例について説明する。
図10は、第1変形例によるクリアランス測定工程を説明するためのフローチャートである。第1の実施形態によるクリアランス測定方法においては、クリアランスが所定値以下の個所が見出された段階でクリアランス測定処理が完了している。これに対し、第1変形例によるクリアランス測定工程においては、第1の実施形態によるクリアランス測定工程と異なり、クリアランスの測定を合格不合格に関わらず、ねじ継手10の雄継手11および雌継手12の全周を測定する場合を想定している。
【0101】
すなわち、
図10に示すように、ステップST421~ST423についてはそれぞれ、上述した第1の実施形態によるステップST411~ST413と同様である。第1変形例においては、ステップST423の実行後において、ステップST424に移行する。ステップST424においてクリアランス演算部211は、あらかじめ設定された例えば4個所や8個所の複数の個所において導出したクリアランスcの結果をクリアランス情報として、クリアランスデータベース221に格納する。その後、ステップST425に移行する。ステップST425,ST426はそれぞれ、第1の実施形態によるステップST415,ST416と同様である。また、第1変形例においては、クリアランスが所定値以下であるか否かを判定する処理を実行しない。その他の処理は第1の実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0102】
(第2変形例)
次に、上述した第1の実施形態によるクリアランス測定工程の第2変形例について説明する。
図11は、第2変形例によるクリアランス測定工程を説明するためのフローチャートである。第1の実施形態によるクリアランス測定方法においては、クリアランスが所定値以下の個所が見出された段階でクリアランス測定処理が完了している。これに対し、第2変形例によるクリアランス測定工程においては、第1の実施形態によるクリアランス測定工程と異なり、クリアランスの測定を、所定値以下であるか否かに関わらず、ねじ継手10の雄継手11および雌継手12の全周を測定した後にまとめて所定値との比較に基づく判定を行う場合を想定している。
【0103】
すなわち、
図11に示すように、ステップST431~ST434についてはそれぞれ、上述した第1変形例によるステップST421~ST424と同様である。第2変形例においては、ステップST434の実行後にステップST435に移行する。ステップST435においてクリアランス演算部211は、第1の実施形態によるステップST416と同様の回転状態設定ステップであるステップST435を実行する。ステップST436に移行する。
【0104】
ステップST436において判定部212は、ステップST415と同様にして接合が外れたか否かを判定する。ステップST436において判定部212がねじ継手10の接合が外れていないと判定した場合(ステップST436:No)、ステップST433に移行して、ステップST433~ST436を繰り返し実行する。ステップST436において判定部212がねじ継手10の接合が外れたと判定した場合(ステップST436:Yes)、ステップST437に移行する。
【0105】
ステップST437において判定部212は、第1の実施形態によるステップST414と同様にして、雄継手11と雌継手12とのクリアランスcが所定値以下であるか否かを判定する。ステップST437において判定部212が、雄継手11と雌継手12とのクリアランスcは所定値以下である部分が存在しないと判定した場合(ステップST437:No)、クリアランス測定工程を終了する。ステップST437において判定部212が、雄継手11と雌継手12とのクリアランスcは所定値以下であると判定した場合(ステップST437:Yes)、干渉情報付与ステップとしてのステップST438に移行する。干渉情報付与処理を行う干渉情報付与ステップとなるステップST438において判定部212は、クリアランスcが所定値以下の箇所に、干渉箇所としてフラグを立てる。次に、判定部212は、干渉箇所に関するフラグをクリアランス情報として記憶部22のクリアランスデータベース221に格納する。以上により、クリアランス測定工程が終了する。
【0106】
第1変形例および第2変形例によるクリアランス測定工程によれば、製造現場においてクリアランスの設定を行いたい場合や、クリアランスの判定結果をリアルタイムや短時間で得る必要性が低い場合に利用できる。特に、第2変形例によるクリアランス測定工程は、クリアランスが所定値以下の位置やクリアランスが所定値以下の部分がないなどのクリアランス情報を第3者に提供することが可能になる。そのため、クリアランス測定工程を製造現場とは異なる場所で実行する場合に対応しやすくなる。
【0107】
以上説明した本発明の第1の実施形態によるねじ継手10の測定方法によれば、ねじ継手10の製造が完了した後や施行前に接合の可否の確認を実行できる。また、従来は、雄継手11や雌継手12が回るか否かで判断していたが、ねじ山13a,14aの干渉をねじ間のクリアランスとして測定結果に基づいた情報によって確認できるため、正確性を確保できる。また、ねじ継手10の接合完了位置から開始するため、接合の開始位置を探索する必要がなく、さらには干渉箇所の早期発見も可能になり、効率的にねじ継手10のクリアランスの測定を開始できる。さらに、長尺や大きさなどのねじの状態に関わらず、工場などの現場における事前の接合確認を安全で簡易化できる。本実施形態によるねじ継手10の測定方法の利用場所は工場などに限定されず、施工現場の置き場などでも利用できる。具体的に例えば、施工現場において、追加部材の溶接の取り付けや、運搬などによる損傷や、直射日光の過度に受光した場合などにおいて、ねじ継手10の変形が懸念される場合に、施工現場の置き場において計測部35によって雄継手11や雌継手12の形状を計測し、実際の接合前に接合判定を行うこともできるので、トラブルにより現場作業が停止するのを最小限に抑制できる。
【0108】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態によるねじ継手の測定方法について説明する。
図12は、第2の実施形態によるねじ継手10の測定方法を説明するためのフローチャートである。第2の実施形態によるねじ継手10の測定方法は、クリアランスcを雄継手11および雌継手12におけるねじ山13a,14aのねじ全周において判定した後、ねじ継手10ごとに合否判定を実行する。また、第1の実施形態と異なり、クリアランス測定工程(ステップST4)から、クリアランス判定ステップとしてのステップST414(
図6参照)を、合否判定工程として分離している。
【0109】
すなわち、
図12に示すように、第2の実施形態によるねじ継手10の測定方法においては、第1の実施形態と同様に、ステップST1~ステップST4を実行する。その後、第1の実施形態によるステップST5に代えて、ステップST6において合否判定工程を実行する。また、第2の実施形態においては、ステップST4におけるクリアランス測定工程としては、第1変形例または第2変形例によるクリアランス測定工程を採用することが好ましい。
【0110】
ステップST6における合否判定工程は具体的に、ステップST4によってクリアランス演算部211が、例えばステップST423,ST433の実行によって導出した、雄ねじ13および雌ねじ14の全周のクリアランス情報に基づいて、判定部212がねじ継手10の接合の合格不合格を判定する。すなわち、判定部212が記憶部22のクリアランスデータベース221からクリアランス情報を読み出して取得し、取得したクリアランス情報に基づいて、ねじ継手10の接合における合格不合格を判定する。判定部212による合格不合格の判定基準としては、種々の基準を採用可能である。上述したクリアランス判定ステップとしてのステップST414(
図6参照)と、同様の方法を利用できる。具体的に、例えばクリアランスcが所定値以下であるか否かを判定する。ここで、所定値は例えば0とする。この場合が所定値以下、すなわち0以下の箇所または0以下となる箇所を干渉個所とした場合、あらかじめ設定された箇所数以上である場合を不合格、それ以外の場合を合格とする判定が可能である。または、0以下の箇所や干渉個所とフラグが付けられた箇所が1個所でも存在した場合を不合格、1個所も存在しない場合を合格とする判定などを採用可能である。すなわち、第3変形例によるクリアランス測定工程において、クリアランスcが所定値以下の箇所の数や干渉個所のフラグの数に応じて合否を判定することが可能である。
【0111】
また、合否判定工程において、第2変形例によるステップST438と同様にして、ねじ継手10の合否のみならず、クリアランス情報に含まれる測定されたクリアランスcに基づいて、クリアランスcがあらかじめ設定された所定値以下の箇所を干渉個所として、フラグを立てるようにしても良い。この場合、フラグがあらかじめ設定された所定数以上の場合に不合格、所定数未満であれば合格などとすることが可能である。
【0112】
合否判定工程において合格と判定された場合(ステップST6:Yes)、ステップST61に移行して、ねじ継手10が合格であることを入出力部23などに出力したり、通信部24およびネットワーク2を介して、外部に送信したりすることができる。これに伴って、合格と判定されたねじ継手10が出荷可能となる。他方、合否判定工程において不合格と判定された場合(ステップST6:No)、ステップST62に移行して、ねじ継手10は廃棄したり再度調整したりすることが可能である(ステップST62)。この場合、必要に応じて、対象となるねじ継手10のクリアランス情報をねじ継手の識別IDを関連付けて、ねじ加工装置40,40Aに送信することができる。
【0113】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第2の実施形態によれば、クリアランス情報を利用して、ネットワーク2を介して外部の処理装置によって合否の判定を行ったり、ねじ継手10の検査結果の情報を共有したりすることが可能になる。
【0114】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態によるねじ継手の測定方法について説明する。
図13は、第3の実施形態によるねじ継手10の測定方法を説明するためのフローチャートである。第3の実施形態によるねじ継手10の測定方法は、第1の実施形態と異なり、ステップST4においてクリアランス測定工程を行った後に調整工程を実行する方法である。
【0115】
すなわち、
図13に示すように、第3の実施形態によるねじ継手10の測定方法においては、第1の実施形態と同様に、ステップST1~ステップST4を実行する。その後、第1の実施形態によるステップST5に代えて、ステップST7において調整工程を実行する。また、第3の実施形態においては、ステップST4におけるクリアランス測定工程としては、第1の実施形態、第1変形例、または第2変形例によるクリアランス測定工程を採用することが可能である。
【0116】
(調整工程)
次に、ステップST7における調整工程について説明する。
図13に示すように、測定されたクリアランスcを基づいて不合格、または干渉個所が存在すると判定されたねじ継手10に対して、クリアランス測定工程の後に調整工程を実行する。調整工程は、後述する調整ステップを備える。なお、前段に実行されるクリアランス測定工程において例えば合格または不合格の情報の出力がない場合、ステップST7において後述するそれぞれの調整ステップの前に第2の実施形態によるステップST6(合否判定工程)を実行しても良い。
【0117】
(調整ステップ)
ステップST7であるねじ継手10に対する調整工程は、調整が必要であるねじ継手10の組が合格と判定される(ステップST7:Yes)まで、形状計測工程、クリアランス測定工程、および調整工程を繰り返し実行可能である(ステップST7:No)。さらに、調整工程内において、調整ステップ前に合否判定工程を実行することも可能である。調整ステップとしては、例えば4通りの方法から、ねじ継手10の仕様や目的によって、適切な方法を適宜選択して採用することができる。
【0118】
すなわち、調整ステップにおける第1の方法は、例えば多条ねじなどから構成されるように、ねじ継手10の接合開始位置が複数存在する場合、仮想上で接合開始位置を変更して、判定部212によって合否判定工程を実行して合否判定を行う方法である。ここで、合否判定工程において合格した時点で、実物に対応する位置に完了および開始の位置をマークするようにする。
【0119】
次に、調整ステップにおける第2の方法は、仮想上でねじ継手10の一部を雄継手11や雌継手12に要求される耐力を満たす範囲内での切削を考慮して、ねじ形状を修正したねじ継手10を対象として、合否判定工程を改めて実行して、合否判定を行う方法である。干渉が小さい場合には、例えば1.2程度の安全率の範囲内における切削を考慮して、仮想上で合格した時点で実物に対してグラインダーなどで切削を行うことが可能である。以上の第1の方法および第2の方法は、計測部35による再度の3Dスキャン操作が不要の方法である。
【0120】
次に、調整ステップにおける第3の方法は、実物のねじ継手の一部を熱変形による矯正によって修正し、改めて計測部35によって計測を行い、合否判定工程を再度実施して、合否判定を行う方法である。なお、熱変形による矯正は、溶接熱やバーナ加熱、必要に応じてジャッキを用いた圧縮や引張などにより実行される。
【0121】
次に、調整工程における第4の方法は、新たにねじ継手10を製造して改めて計測部35によって計測した後、合否判定工程を再度実施して、合否判定を行う方法である。なお、新たにねじ継手10を製造するとは、新規製造のみならず、継手付き鋼管の場合においては、ねじ継手10を管15,16から取り外して、再度取り付けたものも含む。なお、同じねじ継手10が複数ある場合は、対応する雄継手と雌継手の組み合わせを変更することで、合否判定工程において合格となるねじ継手とすることもできる。
【0122】
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。さらに、第3の実施形態によれば、調整工程を有していることにより、ねじ継手10を新たに調整工程によって合格品に調整することが可能となる。
【0123】
(第4の実施形態)
次に、第4の実施形態について説明する。第4の実施形態においては、ねじ継手の計測システムとして、実施形態の第2例によるねじ継手計測システム1Aを採用するとともに、第1の実施形態によるクリアランス測定工程を採用する。第4の実施形態においては、クリアランス測定装置20Aを、固定した情報処理装置から構成したり、ネットワーク2を介して計測端末30Aと通信可能なサーバから構成したりすることが可能である。この場合、計測端末30Aは、通信部34およびネットワーク2を介してクリアランス測定装置20Aと通信可能な独立した計測部35を有する端末として構成される。
【0124】
ここで、計測端末30Aの制御部31は、クリアランス測定装置20Aから送信されたクリアランス情報を入出力部33に表示するなどして出力可能である。なお、入出力部33に表示するクリアランス情報としては、ねじ継手10の合否の結果や、雄継手11の雄ねじ13や雌継手12の雌ねじ14の干渉個所の断面図の拡大表示など、種々の情報を出力可能である。
【0125】
また、制御部31は、クリアランス測定装置20Aからネットワーク2を介して受信した各種情報を、選択して入出力部33から出力することが可能である。例えば、クリアランス測定装置20Aから計測端末30Aに合格および不合格の両方の情報を含むクリアランス情報が送信された場合であっても、制御部31は、不合格が送付された場合だけ不合格であることを入出力部33から出力するように制御可能である。さらに、計測端末30Aは、通信部34およびネットワーク2を介して、ねじ加工装置40Aと通信可能であることから、ねじ加工装置40Aは、計測端末30Aからクリアランス測定装置20Aを通じてねじ加工装置40Aにクリアランス情報を供給して、干渉個所を修正することができる。
【0126】
(第5の実施形態)
次に、第5の実施形態について説明する。第5の実施形態においては、ねじ継手の計測システムとして、実施形態の第2例によるねじ継手計測システム1Aを採用する。また、ねじ継手10の測定方法として、
図12に示す第2の実施形態によるねじ継手の測定方法を採用する。この場合、第1変形例または第2変形例によるクリアランス測定工程を採用する事が好ましい。第5の実施形態においては、クリアランス測定装置20を、固定した情報処理装置から構成しても、ネットワーク2を介して計測端末と通信可能なサーバから構成することが可能である。この場合、計測端末30Aは、通信部34およびネットワーク2を介してクリアランス測定装置20と通信可能な独立した端末から構成される。
【0127】
第5の実施形態において計測端末30Aの制御部31は、クリアランス測定装置20Aの制御部21における判定部212と同様の機能を有する。なお、クリアランス測定装置20Aとの通信によって、クリアランス測定装置20Aの判定部212と同様の処理を実行可能に構成しても良い。この場合、計測端末30Aの制御部31は、クリアランス測定装置20Aから受信したクリアランス情報に基づいて、
図12に示すステップST6における接合判定工程を実行可能である。
【0128】
第4および第5の実施形態においては、計測端末30Aを独立して使用することができるので、種々の現場においてねじ継手10の測定および合否判定を実行することが可能である。
【0129】
以上、この発明の実施形態について具体的に説明したが、この発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、この発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた数値、材料はあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる数値、材料を用いても良い。
【0130】
例えば上述したそれぞれの実施形態やそれぞれの変形例において、判定部212は、所定の基準として、雄継手11の雄ねじ13と雌継手12の雌ねじ14との間におけるクリアランスcが所定値以下であるか否かに基づいて判定したが限定されず、所定の基準として、所定値未満であるか否かに基づいて判定しても良い。同様に、所定の基準として、所定値以上または所定値超えであるか否かに基づいて、ステップST414やステップST437の「Yes」と「No」を入れ替えても良い。これらの場合であっても、所定値としては、0以上の値に設定可能である。
【0131】
例えば上述した実施形態によるねじ継手の測定方法において、ハンディ型3Dスキャナに適用する形状計測ソフトウェアやハイエンドCADなどを用いて、手動または自動で実行可能である。自動で実行する場合には、上述したステップST413~ST416、ステップST423~ST426などの繰り返し処理を、クリアランス測定装置20の制御部21によるソフトウェアプログラムを用いて実行可能である。これにより、ねじ継手の測定方法のより一層の効率化を実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明に係るクリアランス測定方法、クリアランス測定装置、ねじ継手の測定方法、ねじ継手の計測システム、計測端末、ねじ継手の製造方法、ねじ継手の品質管理方法は、鋼管を接合する鋼管の継手構造に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0133】
1,1A ねじ継手計測システム
2 ネットワーク
10 ねじ継手
11 雄継手
12 雌継手
13 雄ねじ
13a,14a ねじ山
13b,14b ねじ底
14 雌ねじ
15 管
20,20A クリアランス測定装置
21,31,41 制御部
22,32,42 記憶部
23,33,43 入出力部
24,34,44 通信部
30A 計測端末
35 計測部
40,40A ねじ加工装置
45 ねじ加工部
211 クリアランス演算部
212 判定部
221 クリアランスデータベース
222 管種データベース
311 計測制御部
411 加工制御部