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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20250212BHJP
   C08F 212/10 20060101ALI20250212BHJP
   C08F 255/04 20060101ALI20250212BHJP
   C08L 25/12 20060101ALI20250212BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20250212BHJP
   C08L 101/08 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08L77/00
C08F212/10
C08F255/04
C08L25/12
C08L51/04
C08L101/08
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2024516975
(86)(22)【出願日】2023-09-13
(86)【国際出願番号】 JP2023033324
(87)【国際公開番号】W WO2024080062
(87)【国際公開日】2024-04-18
【審査請求日】2024-03-21
(31)【優先権主張番号】P 2022165619
(32)【優先日】2022-10-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】岩永 崇
(72)【発明者】
【氏名】安藤 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 成季
【審査官】中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-214585(JP,A)
【文献】特開2008-297334(JP,A)
【文献】特開2019-172759(JP,A)
【文献】国際公開第2021/070633(WO,A1)
【文献】特開2018-168350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 77/00
C08F 212/10
C08F 291/02
C08L 25/12
C08L 51/04
C08L 101/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料の少なくとも一部がバイオマス由来であるヒマシ油から得られる単量体を用いて得られたポリアミド(A)と、ビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂が化学的に結合したグラフト共重合体(B-1)であるゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)と、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)(ゴム質重合体にグラフトしていない樹脂(B-2)を含む)と、酸変性ビニル系樹脂(D)(ゴム質重合体にグラフトしていない樹脂(B-2)を含む)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
ポリアミド(A)、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)及び酸変性ビニル系樹脂(D)の合計100質量部中に、ポリアミド(A)を20~67質量部、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を5~32質量部、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)と酸変性ビニル系樹脂(D)とを合計で10~75質量部、酸変性ビニル系樹脂(D)を0.1~40質量部含有し、
前記ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)は、ゴム質重合体(b)部と、ゴム質重合体(b)にグラフトしたビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂(m)部とを備え、
該ゴム質重合体(b)の重量平均粒子径が0.20~0.70μmであり、
前記ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が、前記ゴム質重合体(b)として、JIS K7121-1987に従って測定した融点が0~100℃であるエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)部を含むことを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が、JIS K7121-1987に従って測定した融点が0~100℃であるエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られたものである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス(植物などの生物由来の有機資源)由来の原料を用いたポリアミドを含み、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性に優れるともに、同一又は他の材料からなる部品と動的に接触した際に、軋み音(擦れ音)の発生が抑制される熱可塑性樹脂組成物に関する。本発明はまた、この熱可塑性樹脂組成物の成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂組成物は、車両、OA(オフィスオートメーション)機器、家庭電化機器、電気・電子機器、建材等の部品の成形材料等として広く利用されている。
その中でもポリアミド樹脂は優れた機械的強度、耐薬品性、耐摩耗性などの特徴を有することから、自動車、電気・電子・機械部品等の工業用品、スポーツ・レジャー用品等多くの用途に使用されている。しかし、ポリアミド樹脂は、塗装性や耐衝撃性が劣るという欠点がある。また、ポリアミド樹脂は、その化学構造に起因して吸水し易く、寸法変化が大きいという問題がある。そのため、これらの欠点を改良するため、従来、多くの研究がなされてきた。
【0003】
例えば、不飽和カルボン酸とスチレンやアクリロニトリルとを共重合してなるカルボン酸基含有共重合体を相溶化剤として用い、ポリアミド樹脂にABS樹脂を配合したゴム変性ナイロン組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
ポリアミド樹脂はガラス繊維や炭素繊維などの無機充填材を添加することで、成形品の耐熱性、寸法安定性、剛性が飛躍的に向上することが知られている。例えばポリアミド樹脂とABS樹脂を含む組成物にガラス繊維や炭素繊維などを配合した熱可塑性樹脂組成物が提案されている(特許文献2参照)。この熱可塑性樹脂組成物は、耐衝撃性、寸法安定性、剛性、耐熱性に優れ、性能バランスの良好な成形材料となる。
【0005】
これらの分野で用いられる熱可塑性樹脂製部品(「熱可塑性樹脂組成物Xからなる部品」とする)の中には、熱可塑性樹脂組成物Xと同一の若しくは異なる材料からなる熱可塑性樹脂製部品、硬化樹脂製部品、又は、金属若しくは無機化合物からなる無機材料製部品等の他の部品と組み合わせて用いられるものがある。例えば、熱可塑性樹脂製部品と他の部品とを接触配置させたり、これらの部品を、所定の間隔をもって配置させたりするというものである(特許文献3及び4参照)。特に、熱可塑性樹脂製部品同士が隣接(単に両者が接触している若しくは一部に接着部を有しつつ両者が接触している、あるいは、両者が所定の間隔をもって配置される)している場合、振動、回転、ねじれ、摺動、衝撃等により一方若しくは両方が移動又は変形して動的に接触して、軋み音(擦れ音)が発生することが知られている。この軋み音は、二つの物体が擦れ合った際に発生するスティックスリップ現象に起因する音であるといわれている。
スティックスリップ現象は、従来知られているような物体同士の摺動現象とは異なる現象であるといわれている。
【0006】
スティックスリップ現象は、図1に示されるように、摩擦力が周期的に大きく変動する現象として理解されている。具体的には、スティックスリップ現象は、図2に示されるようにして発生する。即ち、図2(a)のモデルで示されるように駆動速度Vで動く駆動台の上にバネでつながれた物体Mが置かれた場合、物体Mは、先ず、静摩擦力の作用により駆動速度Vで移動する台とともに図2(b)のように右方向に移動する。そして、バネによって元に戻されようとする力が、この静摩擦力と等しくなったとき、物体Mは駆動速度Vと逆の方向に滑り出す。このときに、物体Mは動摩擦力を受けることになるので、バネの力とこの動摩擦力が等しくなった図2(c)の時点で滑りが止まる。即ち、駆動台に付着することになり、再び駆動速度Vと同じ方向に移動することになる(図2(d))。
これをスティックスリップ現象という。
図1に示されるように、静摩擦係数μsと、ノコギリ波形下端の摩擦係数μlとの差Δμが大きいと、軋み音が発生しやすくなるといわれている。
動摩擦係数は、μs及びμlの中間の値になる。よって、静摩擦係数の絶対値が小さくても、Δμが大きければ、軋み音が発生しやすくなる。軋み音は、自動車室内やオフィス内、住宅室内の快適性や静粛性を損ねる大きな原因となっている。このため、軋み音の発生の抑制や低減が強く要求されている。
【0007】
この軋み音(擦れ音)の発生を抑制する技術について、近年、種々提案がなされている。
例えば、特許文献3には、ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(A,B)、結晶性熱可塑性樹脂(C)および繊維状または層状の充填材(D)を含み、JIS K7121-1987に従って測定した融点が0~100℃および170~280℃に存在し、曲げ弾性率が3,000MPa以上である熱可塑性樹脂組成物が開示されている。
【0008】
特許文献4には、(A)共役ジエン系ゴム質重合体(a-1)および/またはアクリル系ゴム質重合体(a-2)からなるゴム質重合体(a)存在下に芳香族ビニル化合物、または芳香族ビニル化合物および該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体からなるビニル系単量体(b)を重合してなるゴム強化スチレン系樹脂(A1)、および/または、該ビニル系単量体(b)のスチレン系(共)重合体(A2)からなるスチレン系樹脂8~93質量%、(B)オレフィン系樹脂5~90質量%、および(C)芳香族ビニル化合物から主としてなる重合体ブロックと共役ジエン化合物から主としてなる重合体ブロックとを含有するブロック共重合体およびその水素添加物から選ばれた少なくとも1種のブロック共重合体2~50質量%、からなり、上記(A)成分、(B)成分および(C)成分の合計が100質量%である熱可塑性樹脂組成物からなる自動車内装部品が開示されている。
【0009】
熱可塑性樹脂製部品と他の部品とが接触を繰り返した際には、熱可塑性樹脂製部品の表面が摩耗して、他の部品との間に隙間が形成されることがある。これを抑制するために、例えば、ポリアミド樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂組成物において、更に、無機系の充填剤を含有させてなる熱可塑性樹脂組成物が知られている(特許文献5参照)。しかし、ポリアミド6に代表されるポリアミド樹脂は、吸湿しやすく寸法変化を起こしやすいため、軋み音発生の抑制や低減を長期的に維持することは困難であった。
【0010】
一方で、近年、循環型社会の構築のために、材料分野において化石燃料の原料に代わりバイオマスの利用が注目されている。バイオマスは、二酸化炭素と水から光合成された有機化合物である。バイオマスは、これを利用することにより、再度二酸化炭素と水になる、いわゆるカーボンニュートラル(環境中での二酸化炭素の排出量と吸収量が同じであるので温室効果ガスである二酸化炭素の増加を抑制できる)な原料である。昨今、これらバイオマスを原料としたバイオマスプラスチックの実用化が急速に進んでいる。汎用高分子材料であるポリアミドをこれらバイオマス原料から製造する試みも行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特公平7-84549号公報
【文献】特開2002-212383号公報
【文献】国際公開第2014/175332号
【文献】特開2011-168186号公報
【文献】特開2019-172759号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性に優れるともに、同一又は他の材料からなる部品と動的に接触した際に、軋み音(擦れ音)の発生が抑制される、バイオマス由来のポリアミドを含む熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、バイオマス由来のポリアミド(A)に、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)と芳香族ビニル系共重合樹脂(C)と酸変性ビニル系樹脂(D)を所定の割合で配合することで、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性に優れるとともに、上記軋み音の発生が顕著に低減されることができることを見出した。
本発明は以下を要旨とする。
【0014】
[1] 原料の少なくとも一部がバイオマス由来であるポリアミド(A)と、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)と、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)と、酸変性ビニル系樹脂(D)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、
ポリアミド(A)、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)及び酸変性ビニル系樹脂(D)の合計100質量部中に、ポリアミド(A)を20~70質量部、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を5~45質量部、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)と酸変性ビニル系樹脂(D)とを合計で10~75質量部、酸変性ビニル系樹脂(D)を0.1~40質量部含有することを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【0015】
[2] 前記ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)は、ゴム質重合体(b)部と、ゴム質重合体(b)にグラフトしたビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂(m)部とを備え、
該ゴム質重合体(b)の重量平均粒子径が0.20~0.70μmである、請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0016】
[3] 前記ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が、前記ゴム質重合体(b)として、JIS K7121-1987に従って測定した融点が0~100℃であるエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)部を含む、[2]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0017】
[4] 前記ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が、JIS K7121-1987に従って測定した融点が0~100℃であるエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の存在下に、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を重合して得られたものである、[3]に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【0018】
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物よりなる成形品。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、バイオマス由来のポリアミドを含み、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性に優れるともに、同一又は他の材料からなる部品と動的に接触した際に、軋み音(擦れ音)の発生が抑制される成形品を提供することができる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物が、更に、特定のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体を用いた強化ビニル系グラフト樹脂を含有する場合には、軋み音(擦れ音)の発生が長期的に抑制される成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1はスティックスリップ現象の説明図である。
図2図2(a)、(b)、(c)、(d)はスティックスリップ現象のモデル図である。
図3図3は部品同士の接触態様の一例を示す概略断面図である。
図4図4は他の接触態様例を示す概略断面図である。
図5図5は他の接触態様例を示す概略断面図である。
図6図6は他の接触態様例を示す概略断面図である。
図7図7は他の接触態様例を示す概略断面図である。
図8図8は他の接触態様例を示す概略断面図である。
図9図9(A)、(B)、(C)は他の接触態様を示す概略図である。図9(A)は平面図、図9(B)は側面図、図9(C)は図9(A)のC-C線に沿う断面図である。
図10図10図9の部品20を示す概略斜視図である。
図11図11(A)、(B)、(C)は他の接触態様を示す概略図である。図11(A)は平面図、図11(B)は側面図、図11(C)は図11(A)のC-C線に沿う断面図である。
図12図12(A)、(B)、(C)は他の接触態様を示す概略図である。図12(A)は平面図、図12(B)は側面図、図12(C)は図12(A)のC-C線に沿う断面図である。
図13図13図4における他の接触態様で用いた部品の概略斜視図である。
図14図14(A)、(B)、(C)は他の接触態様を示す概略図である。図14(A)は底面図、図14(B)は図14(A)のB-B線断面図、図14(C)は図14(A)のC-C線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に本発明の熱可塑性樹脂組成物および成形品の実施の形態を詳細に説明する。
【0022】
本明細書において、「(メタ)アクリル」とはアクリルおよび/又はメタクリルを意味する。「(メタ)アクリレート」とはアクリレートおよび/又はメタクリレートを意味する。「(メタ)アクリロイル」は、アクリロイルおよび/又はメタクリロイルを意味する。
「(共)重合体」は、単独重合体および/又は共重合体を意味する。
【0023】
[熱可塑性樹脂組成物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、原料の少なくとも一部がバイオマス由来であるポリアミド(A)と、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)と、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)と、酸変性ビニル系樹脂(D)とを含む熱可塑性樹脂組成物であって、ポリアミド(A)、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)及び酸変性ビニル系樹脂(D)の合計100質量部中に、ポリアミド(A)を20~70質量部、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を5~45質量部、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)と酸変性ビニル系樹脂(D)とを合計で10~75質量部、酸変性ビニル系樹脂(D)を0.1~40質量部含有することを特徴とする。
【0024】
以下において、バイオマス由来のポリアミド(A)を単に「ポリアミド(A)」又は「(A)成分」と称す場合がある。ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)、酸変性ビニル系樹脂(D)をそれぞれ「(B)成分」、「(C)成分」、「(D)成分」と称す場合がある。
【0025】
本発明に係る成分(B)と成分(C)及び成分(D)とは、成分(B)がゴム質重合体部を含み、成分(C)及び成分(D)はゴム質重合体部を含まない点において異なる。
成分(C)と成分(D)とは、成分(D)はカルボキシ基及び/又は酸無水物基よりなる酸変性基を含むものであるのに対して、成分(C)はこれらの酸変性基を含まない点において異なる。
【0026】
後述の通り、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)の製造に際しては、ゴム質重合体(b)にビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂が化学的に結合したグラフト共重合体(B-1)と、ゴム質重合体(b)に結合せずに遊離した状態で存在するビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂(B-2)とが生成する。
本発明においては、ここで生成するグラフト共重合体(B-1)を成分(B)のゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)とし、同時に生成するゴム質重合体にグラフトしていない樹脂(B-2)は、成分(C)又は成分(D)と定義する。
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)の製造に際しては、ごく少量ではあるが、ビニル系単量体がグラフトしていないゴム質重合体のみのものが残留する。しかし、この割合は、ごく少量であるため、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)に含まれるものとする。
【0027】
成分(B)と、成分(C)及び/又は成分(D)との判別は、アセトンを用いた溶媒分離によって行うことができる。ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)製造時の反応生成物をアセトンに投入して振とうした後遠心分離等により固液分離して得られたアセトン不溶分が成分(B)に該当する。アセトン可溶分が成分(C)及び/又は成分(D)に該当する。
本発明に係る成分(C)と成分(D)は、成分(B)の製造時に生成したアセトン可溶分として熱可塑性樹脂組成物の製造に用いられてもよく、成分(B)の製造とは別に製造された成分(C),(D)を用いてもよく、これらの両方を用いてもよい。
【0028】
<ポリアミド(A)>
ポリアミド(A)は、主鎖に酸アミド結合(-CO-NH-)を有する樹脂である。ポリアミド(A)は、従来、公知の方法、即ち、環構造のラクタム又はアミノ酸の重合、あるいは、ジカルボン酸及びジアミンの縮重合により製造することができる。従って、ポリアミド(A)としては、ホモポリアミド、コポリアミド等を用いることができる。
【0029】
本発明に使用する、原料の少なくとも一部がバイオマス由来であるポリアミド(A)は、例えばポリアミド11、ポリアミド610、ポリアミド1010、ポリアミド410、ポリアミドMXD10樹脂、ポリアミド11・6T共重合樹脂などであって、原料の少なくとも一部にバイオマス由来の単量体を使用したポリアミドである。カーボンニュートラルの効果を上げやすく、成形品の耐衝撃性、長期耐久性の観点から、特に好ましいポリアミド(A)は、ポリアミド11である。
【0030】
ポリアミド11は、炭素原子数11である単量体がアミド結合を介して結合された構造を有するポリアミドである。通常ポリアミド11は、アミノウンデカン酸またはウンデカンラクタムを単量体として用いて得られる。とりわけアミノウンデカン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、カーボンニュートラルの観点から望ましい。これらの炭素原子数が11である単量体に由来する構成単位の含有量は、ポリアミド11の全構成単位のうちの50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。
ポリアミド11は、通常、前述したウンデカンラクタムの開環重合によって製造される。開環重合で得られたポリアミド11は、通常、熱水でラクタムモノマーを除去した後、乾燥してから押出機で溶融押出しされる。
【0031】
ポリアミド610は、炭素原子数6であるジアミンと炭素原子数10であるジカルボン酸とが重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸が利用される。このうちセバシン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、カーボンニュートラルの観点から望ましい。炭素原子数6である単量体に由来する構成単位と、炭素原子数10である単量体に由来する構成単位の合計の含有量は、ポリアミド610の全構成単位のうち50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0032】
ポリアミド1010は、炭素原子数10であるジアミンと炭素原子数10であるジカルボン酸とが重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、1,10-デカンジアミン(デカメチレンジアミン)とセバシン酸が利用される。デカメチレンジアミン、セバシン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、カーボンニュートラルの観点から望ましい。これらの炭素原子数10である単量体に由来する構成単位と、炭素原子数10である単量体に由来する構成単位との合計の含有量は、ポリアミド1010の全構成単位のうち50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0033】
ポリアミド410は、炭素原子数4であるジアミンと炭素原子数10であるジカルボン酸とが重合された構造を有するポリアミド樹脂である。通常、テトラメチレンジアミンとセバシン酸が利用される。セバシン酸は、ヒマシ油から得られる単量体であるため、カーボンニュートラルの観点から望ましい。これらの炭素原子数4である単量体に由来する構成単位と、炭素原子数10である単量体に由来する構成単位の合計の含有量は、ポリアミド410の全構成単位のうち50モル%以上が好ましく、80モル%以上がさらに好ましく、100モル%であってもよい。
【0034】
ポリアミド(A)の末端は、カルボン酸、アミン等で封止されていてもよい。カルボン酸としては、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等の脂肪族モノカルボン酸が挙げられる。アミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ラウリルアミン、ミリスチルアミン、パルミチルアミン、ステアリルアミン、ベヘニルアミン等の脂肪族第1級アミン等が挙げられる。
【0035】
ASTM6866(放射性炭素14Cの含有率測定)により求められるポリアミド(A)の植物度は50%以上であることが好ましく、特に80~100%であることが好ましい。
【0036】
ポリアミド(A)のJIS K7121-1987に準ずる融点は、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)、酸変性ビニル系樹脂(D)との混合しやすさの観点から、好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上である。ポリアミド(A)の融点の上限には特に制限はないが、通常280℃である。
【0037】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ポリアミド(A)の1種のみ含んでいてもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0038】
<ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)>
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)は、ゴム質重合体(b)部と、ゴム質重合体(b)にグラフトしたビニル系単量体に由来する構造単位を含む樹脂(m)部とを備え、ゴム質重合体(b)と樹脂(m)部とが化学的に結合している。
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)のゴム質重合体(b)としては、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)、ジエン系ゴム質重合体(b2)、アクリル系ゴム質重合体(b3)、シリコーン系ゴム質重合体(b4)等がある。軋み音低減、耐衝撃性等の機械的特性、めっき、塗装性の2次加工性の観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)及び/又はジエン系ゴム質重合体(b2)を含むことが好ましく、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むことがより好ましい。
従って、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)は、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体及び/又はジエン系ゴム質重合体(b2)、特にエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の存在下に、ビニル系単量体を重合して得られたグラフト樹脂であることが好ましい。
【0039】
(ゴム質重合体(b)の重量平均粒子径)
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を構成するゴム質重合体(b)の重量平均粒子径は、0.20~0.70μmであることが好ましく、0.23~0.60μmであることがより好ましく、0.25~0.50μmであることが更に好ましい。
ゴム質重合体(b)の重量平均粒子径が上記下限以上であれば、耐衝撃性、軋み音(擦れ音)の発生抑制効果に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。ゴム質重合体(b)の重量平均粒子径が上記上限以下であれば、耐薬品性に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。
【0040】
本発明において、ゴム質重合体(b)の平均粒子径は、以下の測定方法1又は測定方法2で測定される値である。
【0041】
<平均粒子径の測定方法1>
測定装置としてマイクロトラック(日機装社製、「Nanotrac UPA-EX150」動的光散乱法)、測定溶媒として純水を用いて重量平均粒子径、数平均粒子径を求める。
この測定方法は、主として乳化重合によるゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)中のゴム質重合体(b)の平均粒子径の測定に用いられる。
なお、ラテックスに分散しているゴム質重合体(b)の平均粒子径が、熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体(b)の平均粒子径と同等になることは、電子顕微鏡の画像解析によって確認されている。
【0042】
<平均粒子径の測定方法2>
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を製造する際、ゴム質重合体(b)を溶媒に溶解させる溶液重合の場合には、熱可塑性樹脂組成物の透過型電子顕微鏡写真画像解析により、熱可塑性樹脂組成物中のゴム質重合体(b)の粒子径を測定し、重量平均粒子径(体積平均粒子径)、数平均粒子径を求める。
この方法は、主として溶液重合によるゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)中のゴム質重合体(b)の平均粒子径の測定に用いられる。
【0043】
(エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1))
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)は、エチレンに由来する構造単位と、α-オレフィンに由来する構造単位とを含む共重合体である。
該α-オレフィンとしては、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。α-オレフィンの炭素原子数は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形品の外観性及び耐衝撃性の観点から、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、更に好ましくは3~8である。
【0044】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を構成する、エチレンに由来する構造単位及びα-オレフィンに由来する構造単位の含有割合は、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性に優れるともに、同一又は他の材料からなる部品と動的に接触した際に軋み音(擦れ音)の発生が抑制される成形品が得られることから、両者の合計を100質量%とした場合に、好ましくはエチレンに由来する構造単位が5~95質量%及びα-オレフィンに由来する構造単位が5~95質量%、より好ましくはエチレンに由来する構造単位が50~95質量%及びα-オレフィンに由来する構造単位が5~50質量%、更に好ましくはエチレンに由来する構造単位が60~95質量%及びα-オレフィンに由来する構造単位が5~40質量%である。
【0045】
本発明において、好ましいエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)は、JIS K7121-1987に従って測定した融点が0~100℃の範囲にあるエチレン・α-オレフィン系共重合体であり、その限りにおいて、他の単量体に由来する構造単位を有してもよい。他の単量体としては、アルケニルノルボルネン類、環状ジエン類、脂肪族ジエン類等の非共役ジエン化合物が挙げられる。他の単量体に由来する構造単位は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。非共役ジエン化合物に由来する構造単位の含有割合の上限は、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を構成する構造単位の全量を100質量%とした場合に、好ましくは10質量%、より好ましくは5質量%、更に好ましくは3質量%である。
【0046】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の融点は、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、同一又は他の材料からなる部品と動的に接触した際に軋み音(擦れ音)の発生が抑制される成形品が得られることから、より好ましくは10~90℃、更に好ましくは20~80℃である。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)の融点が0~100℃の範囲に存在することは、このゴム質重合体が結晶性を有することを意味している。エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)が結晶性部分を有すると、スティックスリップ現象の発生が抑制されて、同一又は他の材料からなる部品との接触による軋み音の発生が低減されるものと考えられる。
【0047】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)は、本発明の効果が十分に得られることから、エチレンに由来する構造単位と、α-オレフィンに由来する構造単位とからなるエチレン・α-オレフィン共重合体であることが好ましい。エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)としては、特に、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体がとりわけ好ましい。
これらのエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0048】
(ジエン系ゴム質重合体(b2))
ジエン系ゴム質重合体(b2)としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらは、ランダム共重合体であっても、ブロック共重合体であってもよい。
該ジエン系ゴム質重合体(b2)は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
これらのジエン系ゴム質重合体(b2)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0049】
(アクリル系ゴム質重合体(b3))
アクリル系ゴム質重合体(b3)は特に限定されないが、アルキル基の炭素数が1~8個の(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物の(共)重合体、あるいはこの(メタ)アクリル酸アルキルエステル化合物と、これと共重合可能なビニル系単量体との共重合体が好ましい。
【0050】
ここで使用されるアルキル基の炭素数が1~8個のアクリル酸アルキルエステル化合物の具体例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、i-ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート等が挙げられる。
メタクリル酸アルキルエステル化合物の具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、i-ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、n-オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
これらの化合物のうち、n-ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレートが好ましく、特にn-ブチルアクリレートが好ましい。
これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
これらのアクリル系ゴム質重合体(b3)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0052】
(シリコーン系ゴム質重合体(b4))
シリコーン系ゴム質重合体(b4)としては特に制限はないが、ビニル重合性官能基を有するポリオルガノシロキサンが好ましく、発色性の観点から、シリコーン/アクリル系複合ゴムが好ましい。
シリコーン/アクリル系複合ゴムとしては、ポリオルガノシロキサンと、アルキル(メタ)アクリレート系重合体とが複合したシリコーン/アクリル系複合ゴムが好ましい。シリコーン/アクリル系複合ゴムは、例えば特開2016-125006号公報に記載される方法に従って、製造することができる。
【0053】
これらのシリコーン系ゴム質重合体(b4)は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0054】
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)の樹脂(m)部を形成するビニル系単量体は、特に限定されないが、主として、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、マレイミド系化合物、更に後述のカルボキシ基を有する構造単位を与えるビニル系単量体、酸無水物基を与えるビニル系単量体、その他の官能基を有するビニル系単量体等を用いることができる。これらのうち、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含むことが好ましい。
【0055】
上記芳香族ビニル化合物は、少なくとも一つのビニル結合と、少なくとも一つの芳香族環とを有する化合物であれば、特に限定されない。芳香族ビニル化合物の例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらのうち、スチレン、α-メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0056】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0057】
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0058】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-イソプロピルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-ドデシルマレイミド、N-フェニルマレイミド、N-(2-メチルフェニル)マレイミド、N-(4-メチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジメチルフェニル)マレイミド、N-(2,6-ジエチルフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
重合体鎖に、マレイミド系化合物に由来する構造単位を導入するために、例えば、無水マレイン酸の不飽和ジカルボン酸無水物を共重合した後、イミド化する方法を適用することもできる。
【0059】
カルボキシ基を有する構造単位を与えるビニル系単量体(カルボキシ基含有不飽和化合物)としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらのうち、メタクリル酸が好ましい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
酸無水物基を有する構造単位を与えるビニル系単量体(不飽和酸無水物)としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0061】
上記ビニル系単量体以外にも、ヒドロキシ基、アミノ基、エポキシ基及びオキサゾリン基から選ばれる少なくとも1種の官能基を有するビニル系単量体を用いることもできる。
【0062】
例えば、ヒドロキシ基を有するビニル系単量体(ヒドロキシ基含有不飽和化合物)としては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル;o-ヒドロキシスチレン、m-ヒドロキシスチレン、p-ヒドロキシスチレン、o-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、m-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、p-ヒドロキシ-α-メチルスチレン、2-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、3-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、4-ヒドロキシメチル-α-メチルスチレン、4-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、7-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、8-ヒドロキシメチル-1-ビニルナフタレン、4-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、7-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、8-ヒドロキシメチル-1-イソプロペニルナフタレン、p-ビニルベンジルアルコール、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0063】
アミノ基を有するビニル系単量体(アミノ基含有不飽和化合物)としては、アクリル酸アミノエチル、アクリル酸プロピルアミノエチル、アクリル酸ジメチルアミノメチル、アクリル酸ジエチルアミノメチル、アクリル酸2-ジメチルアミノエチル、メタクリル酸アミノエチル、メタクリル酸プロピルアミノエチル、メタクリル酸ジメチルアミノメチル、メタクリル酸ジエチルアミノメチル、メタクリル酸2-ジメチルアミノエチル、メタクリル酸フェニルアミノエチル、p-アミノスチレン、N-ビニルジエチルアミン、N-アセチルビニルアミン、アクリルアミン、メタクリルアミン、N-メチルアクリルアミン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0064】
エポキシ基を有する構造単位を与えるビニル系単量体(エポキシ基含有不飽和化合物)としては、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸3,4-オキシシクロヘキシル、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
オキサゾリン基を有するビニル系単量体(オキサゾリン基含有不飽和化合物)としては、ビニルオキサゾリン、4-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4,4-ジメチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、4-メチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、5-メチル-2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4,4-ジメチル-2-オキサゾリン等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
上記樹脂(m)部としては、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂(m1)部、並びに、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位、シアン化ビニル化合物に由来する構造単位及びカルボキシ基を有する構造単位を与えるビニル系単量体に由来する構造単位、即ち、カルボキシ基含有不飽和化合物及び/又は不飽和酸無水物に由来する構造単位を含む樹脂(m2)部が好ましく、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂(m1)部がより好ましい。
【0067】
樹脂(m)部が、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む樹脂(m1)部である場合、樹脂(m)部を形成するビニル系単量体に由来する構造単位の合計100質量%中の芳香族ビニル化合物に由来する構造単位及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の合計量の割合の下限は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形品の外観性及び耐衝撃性の観点から、好ましくは50質量%、より好ましくは70質量%、更に好ましくは90質量%である。
【0068】
樹脂(m1)部に含まれる、芳香族ビニル化合物に由来する構造単位の含有量及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有量の割合は、本発明の熱可塑性樹脂組成物を用いて得られる成形品の外観性、耐衝撃性及び色調の観点から、好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が50~95質量%及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位が5~50質量%、より好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が60~85質量%及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位が15~40質量%、更に好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構造単位が65~80質量%及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位が20~35質量%である。
【0069】
樹脂(m)部が更にカルボキシ基含有不飽和化合物及び/又は不飽和酸無水物に由来する構造単位を含有する樹脂(m2)部である場合、カルボキシ基含有不飽和化合物及び/又は不飽和酸無水物に由来する構造単位の含有量は、樹脂(m2)部を形成するビニル系単量体に由来する構造単位の合計100質量%中、0.1~20質量%であることが好ましく、1~20質量%であることがより好ましく、2~8質量%であることが更に好ましい。上記範囲内であれば、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性、成形外観が良好な成形品を得ることができる。
樹脂(m2)部における芳香族ビニル化合物に由来する構造単位とシアン化ビニル化合物に由来する構造単位の含有割合は、上記樹脂(m1)部におけると同様の割合が好ましい。
【0070】
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)に含まれるゴム質重合体(b)部及び樹脂(m)部の含有割合は、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性に優れるともに、同一又は他の材料からなる部品と動的に接触した際に、軋み音(擦れ音)の発生が抑制される成形品が得られることから、両者の合計を100質量%とした場合に、好ましくはゴム質重合体(b)部が20~90質量%及び樹脂(m)部が10~80質量%、より好ましくはゴム質重合体(b)部が25~84質量%及び樹脂(m)部が16~75質量%、更に好ましくはゴム質重合体(b)部が30~77質量%及び樹脂(m)部が23~70質量%である。
【0071】
成分(B)のゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)のグラフト率は、通常10~150%、好ましくは15~120%、より好ましくは20~100%、特に好ましくは30~80%である。成分(B)のグラフト率が前記範囲にあると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がさらに良好となる。
【0072】
成分(B)のグラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)=((S-T)/T)×100 …(1)
上記式(1)中、Sは成分(B)または上記グラフト重合による製造方法で得られた成分(B)と成分(C)及び/又は成分(D)との混合物1gをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)である。
Tは成分(B)1gに含まれるゴム質重合体(b)の質量(g)である。
ゴム質重合体(b)の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等により求める方法等により得ることができる。
【0073】
成分(B)のグラフト率は、例えば成分(B)を製造する際のグラフト重合で用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0074】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)の1種のみを含むものであってもよく、構造単位の種類や組成、物性等の異なるものの2種以上を含むものであってもよい。
【0075】
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)のゴム質重合体(b)としては、前述のように、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)、ジエン系ゴム質重合体(b2)、アクリル系ゴム質重合体(b3)、シリコーン系ゴム質重合体(b4)等を用いることができるる。このため、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)としては、ゴム質重合体(b)としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むグラフト樹脂、ゴム質重合体(b)としてジエン系ゴム質重合体(b2)を含むグラフト樹脂、ゴム質重合体(b)としてアクリル系ゴム質重合体(b3)を含むグラフト樹脂、ゴム質重合体(b)としてシリコーン系ゴム質重合体(b4)を含むグラフト樹脂などがあり、これらの中から2種以上を組み合わせて用いてもよい。
軋み音低減の観点から、ゴム質重合体(b)としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を単独で用いることが好ましい。耐衝撃性、めっき性、塗装性等を付与するためには、ゴム質重合体(b)としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)と、ゴム質重合体(b)としてジエン系ゴム質重合体(b2)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)との併用が好ましい。
【0076】
ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)は、例えば、融点(Tm)が0~100℃であるエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)等のゴム質重合体(b)の存在下に、芳香族ビニル化合物及び所望により該芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル系化合物からなるビニル系単量体をグラフト重合することにより製造することができる。この製造方法における重合方法は、グラフト共重合体である成分(B)が得られる限り特に限定されず、公知の方法を適用することができる。重合方法としては、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合、又は、これらを組み合わせた重合方法を採用できる。これらの重合方法では、公知の重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を適宜使用することができる。
【0077】
上記製造方法では、通常、ビニル系単量体同士の(共)重合体がゴム質重合体(b)にグラフト重合したグラフト共重合体(B-1)である上記成分(B)と、ゴム質重合体(b)にグラフト重合していないビニル系単量体同士の(共)重合体樹脂(B-2)である上記成分(C)及び/又は成分(D)との混合生成物が得られる。場合により、上記混合生成物は、該(共)重合体がグラフト重合していないゴム質重合体(b)を含むこともある。本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(B)、成分(C)、及び成分(D)を必須成分として含有するものである。換言すれば、上記成分(B)と成分(C)及び成分(D)の両者を必須成分として含有するものである。従って、上記のようにして製造された上記成分(B)と成分(C)及び/又は成分(D)との混合生成物を、成分(B)、成分(C)及び/又は成分(D)としてそのまま本発明の熱可塑性樹脂組成物の原料として使用することができる。
【0078】
上記成分(B)であるグラフト共重合体(B-1)は、アセトンを用いた溶媒分離によって、上記成分(B)と成分(C)及び/又は成分(D)である樹脂(B-2)との混合生成物から分離することができる。具体的には、上記成分(B)と上記成分(C)及び/又は成分(D)との混合生成物をアセトンに投入して振とうした後、遠心分離することにより、上記成分(B)はアセトン不溶分として得られ、上記成分(C)及び/又は成分(D)はアセトン可溶分として得られる。
したがって、本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(B)の原料は、上記成分(B)と成分(C)及び/又は成分(D)との混合生成物から上記アセトン分離によって分離されたアセトン不溶分を用いることもできる。同様に、本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(C)及び/又は成分(D)の原料は、上記成分(B)と上記成分(C)及び/又は成分(D)との混合生成物から上記アセトン分離によって分離されたアセトン可溶分を用いることもできる。上記成分(B)、成分(C)及び成分(D)は、上記分離した成分(B)及び成分(C)及び/又は成分(D)を混合して製造した混合物であってもよい。
【0079】
<芳香族ビニル系共重合樹脂(C)>
芳香族ビニル系共重合樹脂(C)は、少なくとも芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体に由来する構造単位を有する共重合体である。芳香族ビニル系共重合樹脂(C)は、好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構造単位及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位を含む前述の樹脂(m1)部と同様の構造単位組成を有する。
【0080】
芳香族ビニル系共重合樹脂(C)は、成分(B)の製造時に樹脂(B-2)として生成したものであってもよく、この樹脂(B-2)とは別に、ゴム質重合体を用いることなく、芳香族ビニル化合物を含むビニル系単量体を共重合して得られたものであってもよく、両者を含むものであってもよい。
成分(B)の製造時に樹脂(B-2)として生成した成分(C)と、ゴム質重合体を用いることなく別途製造した成分(C)とを用いる場合、これらはビニル系単量体組成や物性等が異なるものであってもよく、同じものであってもよい。
【0081】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(C)の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.1~1.5dL/g、好ましくは0.15~1.2dL/g、より好ましくは0.15~1.0dL/gである。極限粘度が前記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより良好となる。
【0082】
成分(C)及び後述の成分(D)の極限粘度[η]の測定は下記方法で行った。
まず、成分(C)又は成分(D)、或いは成分(B)と成分(C)及び/又は成分(D)の混合生成物のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なるものを5点調製する。ウベローデ粘度管を用い、30℃で各濃度の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η](dL/g)を求める。
【0083】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(C)の1種のみを含むものであってもよく、構造単位の種類や組成、物性等の異なるものの2種以上を含むものであってもよい。
【0084】
<酸変性ビニル系樹脂(D)>
酸変性ビニル系樹脂(D)は、少なくとも酸変性基、即ち、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するビニル系単量体に由来する構造単位を有する共重合体である。酸変性ビニル系樹脂(D)は、好ましくは芳香族ビニル化合物に由来する構造単位及びシアン化ビニル化合物に由来する構造単位とカルボキシ基含有不飽和化合物及び/又は不飽和酸無水物に由来する構造単位とを含む前述の樹脂(m2)部と同様の構造単位組成を有する。
【0085】
酸変性ビニル系樹脂(D)は、成分(B)の製造時に樹脂(B-2)として生成したものであってもよく、この樹脂(B-2)とは別に、ゴム質重合体を用いることなく、芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物と、カルボキシ基含有不飽和化合物及び/又は不飽和酸無水物とを含むビニル系単量体を共重合して得られたものであってもよく、両者を含むものであつてもよい。
成分(B)の製造時に樹脂(B-2)として生成した成分(D)と、ゴム質重合体を用いることなく別途製造した成分(D)とを用いる場合、これらはビニル系単量体組成や物性等が異なるものであってもよく、同じものであってもよい。
【0086】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における成分(D)の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃)は、通常0.1~1.5dL/g、好ましくは0.15~1.2dL/g、より好ましくは0.15~1.0dL/gである。極限粘度が前記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより良好となる。
【0087】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(D)の1種のみを含むものであってもよく、構造単位の種類や組成、物性等の異なるものの2種以上を含むものであってもよい。
【0088】
<各成分の含有量>
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分(A)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して20~70質量部であり、好ましくは25~65質量部、より好ましくは30~60質量部である。
成分(A)の含有量が上記下限以上であれば、成分(A)を含有することによる耐衝撃性、耐薬品性、軋み音の低減効果に優れる。また、バイオマス由来のポリアミド(A)を含むことによるカーボンニュートラルの効果を上げることができる。成分(A)の含有量が上記上限以下であれば、他の成分(B)~(D)の含有量を確保して、長期耐久性に優れたものとすることができる。
【0089】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分(B)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して5~45質量部であり、好ましくは7~40質量部、より好ましくは10~35質量部である。
成分(B)の含有量が上記下限以上であれば、成分(B)を含有することによる耐衝撃性、軋み音の低減効果の効果に優れる。成分(B)の含有量が上記上限以下であれば、他の成分(A),(C),(D)の含有量を確保して、耐薬品性に優れたものとすることができる。
【0090】
2種以上の成分(B)を併用する場合、例えば、ゴム質重合体(b)としてエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)とゴム質重合体(b)としてジエン系ゴム質重合体(b2)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)とを併用する場合、本発明の熱可塑性樹脂組成物中のそれぞれの含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して、軋み音低減の観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が5~30質量部、ジエン系ゴム質重合体(b2)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が30~1質量部が好ましく、より好ましくは、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が10~30質量部、ジエン系ゴム質重合体(b2)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が20~1質量部であり、更に好ましくは、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体(b1)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が10~30質量部、ジエン系ゴム質重合体(b2)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)が10~1質量部である。
【0091】
前述の通り、本発明で用いる成分(B)のゴム質重合体(b)の重量平均粒子径は0.20~0.70μm、特に0.23~0.60μm、とりわけ0.25~0.50μmであることが好ましい。
成分(B)は、上記重量平均粒子径の範囲外のゴム質重合体(b)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を含有していてもよい。ただし、重量平均粒子径が0.15μm未満のゴム質重合体(b)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を含有すると、得られる熱可塑性樹脂組成物の耐衝撃性や軋み音(擦れ音)の発生の抑制効果が劣る傾向がある。
このため、本発明の熱可塑性樹脂組成物が、重量平均粒子径が0.15μm未満であるゴム質重合体(b)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を含む場合、その含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して45質量部以下、特に30質量部以下、とりわけ0~20質量部であることが好ましい。
本発明において、成分(B)の全質量100質量%のうち、30質量%以上、特に50質量%以上、とりわけ70~100質量%は、重量平均粒子径0.20~0.70μmのゴム質重合体(b)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)であることが好ましい。
【0092】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分(C)と成分(D)の合計の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して20~65質量部であり、好ましくは25~60質量部、より好ましくは30~55質量部である。
成分(C)と成分(D)の合計の含有量が上記下限以上であれば、成分(C)と成分(D)を含有することによる耐衝撃性、長期耐久性に優れる。成分(C)と成分(D)の合計の含有量が上記上限以下であれば、他の成分(A),(B)の含有量を確保して、耐衝撃性、耐薬品性に優れたものとすることができる。
【0093】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる成分(D)の含有量は、成分(A)と成分(B)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して0.1~40質量部であり、好ましくは2~38質量部、より好ましくは5~36質量部である。
成分(D)は、成分(A)の加水分解の抑制、成分(A)と成分(B)及び成分(C)との相溶性の向上に有効である。成分(D)の含有量が上記下限以上であれば、成分(D)による上記効果に優れ、耐衝撃性、長期耐久性、軋み音の抑制に優れた熱可塑性樹脂組成物を得ることができる。成分(D)はその含有量が多過ぎると成分(D)同士で反応して熱可塑性樹脂組成物の成形性や成形外観を低下させる。このため、成分(D)の含有量は上記上限以下とする。
【0094】
成分(C)のみの含有量は、成分(A)と成分(B)を成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して45質量部未満、特に40質量部未満、とりわけ35質量部未満であることが、耐衝撃性、長期耐久性の観点から好ましい。
【0095】
成分(B)の製造において前述のグラフト共重合体(B-1)と共に生成する樹脂(B-2)は、成分(B)の製造に用いたビニル系単量体の種類によっては成分(C)に該当するか成分(D)に該当するか判別できない場合もある。通常、成分(B)の製造に用いたビニル系単量体が前述のカルボキシ基含有不飽和化合物及び/又は不飽和酸無水物を含む場合は、樹脂(B-2)は成分(D)とみなすことができる。カルボキシ基含有不飽和化合物及び/又は不飽和酸無水物を含まない場合は樹脂(B-2)は成分(C)とみなされる。
【0096】
成分(B)に由来して本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれる前述のゴム質重合体(b)の含有量は、成分(B)と成分(C)と成分(D)の合計100質量部に対して好ましくは5~80質量部、より好ましくは10~70質量部、さらに好ましくは15~65質量部、特に好ましくは20~60質量部である。ゴム質重合体(b)部の含有量が上記範囲にあると、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品の機械的強度、軋み音の低減効果がより改善されたものとなる。
【0097】
前述のゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)における重量平均粒子径0.20~0.07μmのゴム質重合体(b)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)の含有量と同様の理由から、本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体(b)の全量100質量%のうちの30質量%以上、特に50質量%以上、とりわけ70~100質量%は、重量平均粒子径0.20~0.70μmのゴム質重合体(b)であることが好ましい。
また、前述の重量平均粒子径が0.15μm未満であるゴム質重合体(b)を含むゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)を含む場合と同様な理由から、本発明の熱可塑性樹脂組成物に含まれるゴム質重合体(b)の全量100質量%のうち、重量平均粒子径が0.15μm未満のゴム質重合体(b)は、70質量%以下、特に50質量%以下、とりわけ0~30質量%であることが好ましい。
【0098】
<メルトボリュームレート(MVR)>
本発明の熱可塑性樹脂組成物のメルトボリュームレート(MVR)は、240℃、98Nの条件下において、10~70cm/10min、特に15~60cm/10min、とりわけ20~50cm/10minであることが好ましい。MVRが上記下限以上であれば成形性に優れる。MVRが上記上限以下であれば耐衝撃性等の機械的強度に優れる。
本発明の熱可塑性樹脂組成物のMVRは、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0099】
<植物度>
本発明の熱可塑性樹脂組成物の植物度は、カーボンニュートラルの観点から、20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましい。本発明の熱可塑性樹脂組成物の植物度の上限には特に制限はないが、バイオマス由来のポリアミド(A)に対して、(B)成分、(C)成分及び(D)成分の必要量を配合する観点から、通常70%以下である。
ここで、本発明の熱可塑性樹脂組成物の植物度は、熱可塑性樹脂組成物中のバイオマス由来のポリアミド(A)の質量割合に対して、当該バイオマス由来のポリアミド(A)の植物度を乗じた百分率として求められる。
【0100】
<異音リスク指数>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、ジグラー(ZIEGLER)社製のスティックスリップ試験機「SSP-02」を用いて後述する実施例に記載の方法で測定される試験において、温度23℃、湿度50%RH、荷重5N、速度1mm/秒の条件で測定される異音リスク指数が5以下であることが好ましく、3以下であることがさらに好ましい。ドイツ自動車工業会の基準(VDA203-260)によれば、異音リスク指数が3以下なら合格である。かかる好ましい異音リスク指数は、成分(A)~(D)等の配合量を適宜調整することにより充足することができる。
【0101】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)および成分(D)並びに所望により他の成分を所望の配合比率で混合し、溶融混練することにより得ることができる。前述の通り、成分(B)をグラフト重合により製造する場合には、成分(C)及び/又は成分(D)も生成するので、成分(B)と成分(C)及び/又は成分(D)の混合物が得られる。成分(B)及び成分(C)及び/又は成分(D)の混合物は、原料としてそのまま用いることができる。また、成分(B)と別個に製造した成分(C)及び/又は成分(D)を、当該混合物に追加的に混合することもできる。成分(B)の製造時に生成した成分(C)及び/又は成分(D)は、成分(B)の製造と別個に製造した成分(C)及び/又は成分(D)と、互いの共重合組成、極限粘度等の物性が同じであっても、異なっていてもよい。
【0102】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に配合可能な成分(A)~(D)以外の他の成分としては、造核剤、滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、可塑剤、抗菌剤、着色剤、充填材等が挙げられる。これらの成分は、本発明の目的を損なわない範囲で配合することができる。
【0103】
充填材としては、好ましくは繊維状または層状のものが用いられる。
繊維状の充填材としては、ガラス繊維、セラミックウィスカーなどの無機繊維、炭素繊維、アラミド繊維などの有機繊維が挙げられる。
層状の充填材としては、例えば鱗片状や平板状の充填材が挙げられる。具体的にはモンモリロナイト、ヘクトライト、バーミキュライト、サポナイト、ガラスフレーク等が挙げられる。
【0104】
本発明の熱可塑性樹脂組成物が充填材を含有する場合、充填材の含有量は、成分(A)、成分(B)、成分(C)及び成分(D)の合計100質量部に対して、5~50質量部であることが好ましく、8~35質量部であることがより好ましく、10~25質量部であることが特に好ましい。充填材の含有量が上記範囲にあると、得られる成形品の剛性がより優れたものとなり好ましい。
【0105】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、成分(A)~(D)以外の他の熱可塑性樹脂を、本発明の目的を損なわない範囲で含有することができる。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ乳酸樹脂、ポリスチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、ASA樹脂等が挙げられる。バイオマス由来ではないポリアミド樹脂を配合してもよい。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0106】
本発明の熱可塑性樹脂組成物に成分(A)~(D)以外の他の熱可塑性樹脂を配合する場合、成分(A)~(D)を所定の割合で用いることによる本発明の効果を有効に得る観点から、成分(A)~(D)以外の他の熱可塑性樹脂の含有量は、成分(A)~(D)と他の熱可塑性樹脂の合計100質量部中に50質量部以下とすることが好ましい。
【0107】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、各成分を所定の配合比で、タンブラーミキサーやヘンシェルミキサーなどで混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。好ましい混練機は、二軸押出機である。
それぞれの成分を混練するに際しては、それぞれの成分を一括して混練してもよいし、多段に分割配合して混練してもよい。バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。
充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給することが好ましい。
溶融混練温度は、通常200~300℃、好ましくは220~280℃である。
【0108】
[成形品]
本発明の熱可塑性樹脂組成物を成形して得られる成形品は、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品の少なくとの1つの部品として使用することにより、当該物品に軋み音が発生するのを抑制することができる。
【0109】
本発明によれば、少なくとも2個の互いに接触する部品を含む物品であって、前記部品の少なくとも1つが本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品である物品(以下、「本発明の物品」と称す場合がある。)が提供される。この場合、2個以上の部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であることが好ましく、全ての部品が本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品であることが特に好ましい。
【0110】
本発明の熱可塑性樹脂組成物から上記成形品または部品を製造する方法には何等制限はない。例えば、射出成形、射出圧縮成形、ガスアシスト成形、プレス成形、ブロー成形、異形押出成形が挙げられる。その他、カレンダー成形やTダイ押出成形に代表されるフィルム及びシート成形等の公知の方法が挙げられる。
【0111】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記物品の部品のうち少なくとも2個の部品が常に又は間欠的に接触し、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に両部品の接触部が互いに僅かに移動又は衝突するような物品の成形材料として好適である。かかる接触部の接触態様は、面接触、線接触、点接触等の何れであっても良く、部分的に接着されていてもよい。
【0112】
具体的には、図3に示されるように部品10の一面と部品20の一面が互いに突き合わせされた状態で接着している物品;図4~8に示されるように、部品10の一部が部品20に形成された凹部に嵌合した状態で接触している物品;などが挙げられる。
【0113】
部品同士が嵌合した状態で接触している物品の具体例としては以下の(1)~(4)などが挙げられる。
(1) 図4に示されるように、部品10の一端が部品20に形成された相補的な凹部にぴったり嵌合した状態で接触している物品
(2) 図5に示されるように、部品20のコーナー部に形成された部品20の相補的な凹部のそれぞれに部品10の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品
(3) 図6に示されるように、略平行に配置された2つの部品10のそれぞれに形成された相補的な凹部に部品20の各端部がぴったり嵌合した状態で接触している物品
(4) 図7に示されるように、部品10の内側面寸法と同寸法の外側面寸法を備える部品20を、部品10の中に入れ子状に挿入し、両者の内側面と外側面がぴったり嵌合した状態で接触している物品
【0114】
本発明の物品における2つの部品は、互いにぴったり嵌合している必要はない。図8に示されるように、ある程度の空隙や遊びをもって互いに嵌合しており、振動、ねじれ、衝撃等の外力が物品に加わった時に、互いに接触および非接触を繰り返すような物品であってもよい。
【0115】
上述のような接触部を複合的に備えた物品として、図9(A)~(C)に示されるような物品が挙げられる。図9(A)~(C)の物品において、部品10は底面が全て開口した直方体からなる升状の部品である。部品20は部品10と同様の形状を備えるとともに上面の中央部に矩形の開口が形成された成形品である。図9(A)~(C)に示すように、部品20は部品10の中に嵌合させることができる。部品20の外周面と部品10の内周面は互いに接触し、両者は振動等の外力を受けると僅かに変形して接触および非接触を繰り返す。
図10に示されるように、部品20は対向する外側面に突起30を備える。図9(A)~(C)に示されるように、部品10は対向する2つの側面に部品20の突起30を収容する穴を備えている。部品10を部品20に嵌合させた時、該穴に突起30がスナップフィットすることにより両部品の嵌合が容易に外れないようにしている。
【0116】
部品10および部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形することにより、例えば、外力が図9(C)の矢印の方向にかけられた場合でも、軋み音の発生を防止することができる。外力の方向は、図9(C)の方向に限定されるものではなく、他の方向から外力が加えられた場合でも、部品10および部品20の少なくとも1つを本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形した場合には、軋み音の発生は防止される。図9(A)~(C)の突起30の断面形状および部品10の穴の形状を変更して、両部品をプレスフィットする構成に変更することもできる。
【0117】
図11(A)~(C)は、部品10および部品20がそれぞれ突起30およびそれにスナップフィットする穴の代わりに、部品10および部品20の内側面と外側面の一部を接着剤31を用いて接着した以外は図9(A)~(C)の物品と同様の態様を示すものである。接着剤31の代わりに、部品10および部品20を互いにレーザー溶着等により溶着することもできる。この方法は、両部品が熱可塑性樹脂成形品である場合に好都合である。特に、レーザー溶着ではレーザー光を透過する透明の熱可塑性樹脂と、レーザー光を吸収する熱可塑性樹脂からなる部品を組み合わせることが好ましい。具体的な製品としては、車載速度計などの計器類、照明灯等が挙げられる。
【0118】
図12(A)~(C)の例は、部品10と部品20の対向する側面の対向する位置に穴が開けられており、この2つの穴を通じてボルトとナット33で締結して両部品を固定するように構成されている以外は図9(A)~(C)の物品と同様の態様を示すものである。ボルトナットの代わりに、ネジ、ピン、リベット、ブッシュ、ブラケット、ヒンジ、釘等を用いて、部品10および部品20を固定してもよい。
【0119】
図13に示すように、長方形の板状の本体と両端から長手方向外方に円柱状の軸19が突出した形状の部品18と、この部品18の軸19を挿入させて部品18を軸19の回りに回転可能に支持するフレーム状の部品28とを備える、図14(A)~(C)に示されるような物品も、本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形するのに好適である。部品18および部品28の少なくとも一方を本発明の熱可塑性樹脂組成物で成形することにより、部品18を軸19の回りに回転させた場合や、物品に振動等の外力が加わった場合に、軋み音が発生するのを抑制することができる。
【0120】
図14(A)~(C)に示されるように、フレーム状の部品28が複数の開口部29を備える場合には、該物品は、部品18の角度によって空気の流れる量や向きを調節する装置として好適に使用できる。かかる装置としては、家庭用および車載用のエアコン、空気清浄機、送風機等の吹き出し口が挙げられる。
【0121】
上記の物品において、部品10、18および部品20、28の少なくとも何れか一方を本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品にすることで、軋み音の発生を著しく低減させることができる。他方の物品も、本発明の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品としてもよい。
【0122】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する材料としては、各種の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム、有機質材料、無機質材料、金属材料が挙げられる。
【0123】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、AS樹脂、ABS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、耐衝撃性ポリスチレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル(EVA)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリ乳酸樹脂、PC/ABS樹脂、PC/AES樹脂、PA/ABS樹脂、PA/AES樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上の組み合わせで使用できる。
【0124】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0125】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成するゴムとしては、クロロプレンゴム、ポリブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム、SEBS、SBS、SIS等の各種合成ゴム、天然ゴム等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0126】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する有機質材料としては、例えば、インシュレーションボード、MDF(中質繊維板)、ハードポード、パーティクルボード、ランバーコア、LVL(単板積層材)、OSB(配向性ボード)、PSL(パララム)、WB(ウェハーボード)、硬質繊維板、軟質繊維板、ランバーコア合板、ボードコア合板、特殊コアー合板、ベニアコアーベニヤ板、タップ樹脂を含浸させた紙の積層シート・板、(古)紙等を砕いた細かい小片・線状体に接着剤を混合して加熱圧縮したボード、各種の木材等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0127】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する無機質材料としては、例えば、ケイ酸カルシウムボード、フレキシブルボード、ホモセメントボード、石膏ボード、シージング石膏ボード、強化石膏ボード、石膏ラスボード、化粧石膏ボード、複合石膏ボード、各種セラミック、ガラス等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0128】
本発明の熱可塑性樹脂組成物以外の材料からなる部品を構成する金属材料としては、鉄、アルミニウム、銅、各種の合金等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用できる。
【0129】
これらの中で、熱可性樹脂、熱硬化性樹脂、及びゴムが好ましく、ABS樹脂、AES樹脂、PC樹脂、ABS樹脂、PC/AES樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂が特に好ましい。
【0130】
本発明の物品は、その部品の少なくとも一つが本発明の熱可塑性樹脂組成物から成形されたものである場合、振動、摺動等により、部品同士が当接及び非当接を繰り返しても軋み音の発生が抑制される。このため、本発明の物品は、自動車用部品、事務用機器部品、住宅用部品、家電用部品等に好適に使用できる。
【0131】
自動車用部品を本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば車両走行時の振動により、該部品が他の部品と当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物がジエン系ゴムを含有すると、低温での破壊特性に優れるため自動車内装用部品に特に好適である。
このような自動車用部品としては、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコンの板状羽根、バルブシャッター、ルーバー、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/Tインジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイツチ、マスクラジオなど)、グロープボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等が挙げられる。その中でも、ベンチレータ、エアコンの板状羽根、バルブシャッター、ルーバー、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等として特に好適に用いることができる。
【0132】
事務用機器部品を本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば機器作動時の振動、デスク引き出しの開閉により、該部品が他の部品と当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である
【0133】
住宅用部品を本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば扉、引き戸の開閉により、該部品と他の部品が当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。
【0134】
家電用部品を本発明の熱可塑性樹脂組成物の成形品とした場合、例えば機器作動時の振動により、該部品と他の部品が当接及び非当接を繰り返した場合でも、軋み音の発生を大幅に低減させることが可能である。このような家電用部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品等が挙げられる。
【0135】
本発明の成形品は、軋み音の発生が低減されているだけでなく、手触り感が良く、剛性が高いので、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務用機器、または家電製品の部品、自動車内装用部品、住宅内装用部品等として特に好適である。中でも、自動車等の車両の手で触ることのある部品、例えば、アシストグリップ等のグリップの他、ハンドル、ドアノブのような部品、及び、携帯用物品として特に好適である。
【0136】
電気若しくは電子機器及び光学機器の部品としては、手で触れることの多い、デジタルビデオカメラ、スチルカメラ等のカメラのハウジングやカバー;ハンドヘルドコンピュータ、携帯電話、携帯情報端末等のハウジングやカバー等が挙げられる。
【0137】
照明機器の部品としては、シーリングライトのパネル、カバー、コネクタ、スイッチまわりの部品等が挙げられる
【0138】
事務機器用の部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品、デスクロック部品、デスク引き出し、複写機の用紙トレイ等が挙げられる。
【0139】
家電製品の部品としては、ケース、ハウジング等の外装部品、内装部品、スイッチまわりの部品、可動部の部品等が挙げられる。
【0140】
自動車内装用部品としては、例えば、ドアノブ、ハンドル、アシストグリップ等のグリップの他、ドアトリム、ドアライニング、ピラーガーニッシュ、コンソール、コンソールボックス、センターパネル、ドアポケット、ベンチレータ、ダクト、エアコン、メーターバイザー、インパネアッパーガーニッシュ、インパネロアガーニッシュ、A/Tインジケーター、オンオフスイッチ類(スライド部、スライドプレート)、スイッチベゼル、グリルフロントデフロスター、グリルサイドデフロスター、リッドクラスター、カバーインストロアー、マスク類(マスクスイッチ、マスクラジオなど)、グローブボックス、ポケット類(ポケットデッキ、ポケットカードなど)、ステアリングホイールホーンパッド、スイッチ部品、カーナビゲーション用外装部品等を挙げられる。
【0141】
住宅内装用部品としては、ドアノブ、シェルフ扉、チェアダンパー、テーブル折りたたみ脚可動部品、扉開閉ダンパー、引き戸レール、カーテンレール等が挙げられる。
【実施例
【0142】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は以下の実施例のみに限定されるものではない。
以下において、部および%は特に断らない限り質量基準である。
【0143】
[測定・評価方法]
以下の実施例及び比較例における各種物性及び特性の測定・評価方法は以下の通りである。
【0144】
(1)メルトボリュームレート(MVR)の測定
熱可塑性樹脂組成物について、ISO 1133規格に従い測定した。MVRは熱可塑性樹脂組成物の流動性、即ち成形性の目安となる。
【0145】
(2)メルトボリュームレート(MVR)による耐湿熱老化性の評価
熱可塑性樹脂組成物のペレットを、エスペック社製の恒温恒湿槽「PL-2SPH」にて60℃、80%RHの条件にて500時間静置した後、ペレットを恒温恒湿槽から取り出し、上述のメルトボリュームレート(MVR)の測定を行い、下記式によりMVRの変化率を算出した。変化率が小さいほど、湿熱老化性は良好である。
湿熱老化によるMVRの変化率(%)=(湿熱老化後のMVR/湿熱老化前のMVR)×100
【0146】
(3)Vノッチ付きシャルピー衝撃強さによる耐衝撃性の評価
熱可塑性樹脂組成物を東芝機械製射出成形機「IS-170FA」(商品名)によりシリンダ温度250℃、射出圧力80MPa、金型温度60℃にて射出成形し、長さ80mm、幅10mm、厚さ4mmの成形片を採取した。この試験片について、ISO試験法179に準拠し、測定温度23℃、-30℃、試験片厚さ4mmの条件で、Vノッチ付きシャルピー衝撃強さ(kJ/m)を測定した。
【0147】
(4)Vノッチ付きシャルピー衝撃強さによる耐吸湿衝撃性の評価
上記Vノッチ付きのシャルピー試験用の成形片を、エスペック社製の恒温恒湿槽「PL-2SPH」にて23℃、50%RHの条件にて168時間静置した後、試験片を恒温恒湿槽から取り出し、上述のシャルピー衝撃強さの測定を行い、下記式によりシャルピー衝撃強さの変化率を算出した。変化率は100%に近いほど、吸湿しにくいことを示す目安となる。
吸湿によるシャルピー衝撃強さの変化率(%)=(吸湿後のシャルピー衝撃強さ/吸湿前のシャルピー衝撃強さ)×100
【0148】
(5)日焼け止めクリームによる耐薬品性の評価
上記(3)におけると同様の条件で熱可塑性樹脂組成物の射出成形により作製した短冊状試験片(150mm×10mm×2mm)を、曲率が漸次変化する表面を有するベンディングフォーム法試験冶具に沿わして固定した。次いで、試験片に薬液を塗布し、23℃の環境下で48時間放置した。放置後の試験片におけるクレーズおよびクラックの発生の有無を確認し、試験冶具の曲率から限界歪み[%]を求めた。薬液としては、日焼け止めクリーム(資生堂製「アネッサ」)を使用した。
臨界歪みは数値が大きいほど、耐薬品性は良好である。
【0149】
(6)熱劣化後の軋み音評価(異音リスク指数)の測定
熱可塑性樹脂組成物を、東芝機械製の射出成形機「IS-170FA」(商品名)を用いて、シリンダー温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃の条件で射出成形することにより得た、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの成形品から、縦60mm、横100mm、厚さ4mm、及び、縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片をディスクソーで切り出した。次に、番手#100のサンドペーパーで試験片の端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚の軋み音評価用試験片を得た。
上記評価用試験片を80℃±5℃に調整したオーブン槽内に300時間放置した後、25℃で24時間冷却して熱老化させた評価用試験片を得た。熱老化させた大小2枚の試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機「SSP-02」にセットし、温度23℃、湿度50%RH、荷重5N、速度1mm/秒の条件で、振幅20mmで3回擦り合わせた時の異音リスク指数を測定した。
異音リスク指数が大きい程、軋み音が発生しやすくなる。この試験法は、熱老化させて評価を行うため、軋み音低減効果の持続性も評価することができる。
【0150】
(7)吸湿後の軋み音(異音リスク指数)評価
上記軋み音評価用試験片を80℃±5℃に調整したオーブン槽内に300時間放置した後、25℃で24時間冷却して熱老化させた評価用試験片を、さらにエスペック社製の恒温恒湿槽「PL-2SPH」にて25℃、50%RHの条件にて168時間静置した。得られた評価用試験片について、上記と同様に異音リスク指数を測定した。
【0151】
(8)耐熱性(HDT)
ISO 75-2:2013年度版に準じ、1.8MPa荷重フラットワイズ法での撓み温度を測定した。
【0152】
[使用原料]
以下の実施例及び比較例において、熱可塑性樹脂組成物の製造に用いた原料は、以下の市販品又は以下の製造例に従って製造したものである。
【0153】
<ポリアミド(A)>
ポリアミド(A)としては以下の市販品を用いた。
PA11:アルケマ社製「Rilsan BMNO」(ポリアミド11、植物度:100%、融点:190℃)
PA1010:ダイセル・エボニック社製「ベスタミドTerra DS22」(ポリアミド1010、植物度:100%、融点:200℃)
PA610:アルケマ社製「Rilsan SMVO」(ポリアミド610、植物度:62%、融点:225℃)
【0154】
<製造例1:成分(B1)と成分(C1)の混合生成物の製造>
リボン型撹拌機翼、助剤連続添加装置、温度計などを装備した容積20リットルのステンレス製オートクレーブに、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体として、エチレン・プロピレン共重合体(エチレン/プロピレン=78/22(%)、ムーニー粘度(ML1+4,100℃)20、融点(Tm):40℃、ガラス転移温度(Tg):-50℃)30部、スチレン50部、アクリロニトリル20部、t-ドデシルメルカプタン0.5部、トルエン110部を仕込み、内温を75℃に昇温して、オートクレーブ内容物を1時間撹拌して均一溶液とした。その後、t-ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート0.45部を添加し、内温を更に昇温した。100℃に達した後は、この温度を保持しながら、撹拌回転数100rpmとして重合反応を行った。重合反応開始後4時間目から、内温を120℃に昇温し、この温度を保持しながら更に2時間反応を行って重合反応を終了した。重合転化率は98%であった。
【0155】
その後、内温を100℃まで冷却し、オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェノール)-プロピオネート0.2部、ジメチルシリコーンオイル;KF-96-100cSt(商品名:信越シリコーン株式会社製)0.02部を添加した後、反応混合物をオートクレーブより抜き出し、水蒸気蒸留により未反応物と溶媒を留去し、さらに40mmφベント付き押出機(シリンダー温度220℃、真空度760mmHg)を用いて揮発分を実質的に脱気させ、ペレット化した。
【0156】
得られたエチレン・α-オレフィン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B1)(ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)である成分(B1)と芳香族ビニル系共重合樹脂(C)である成分(C1)の混合物)において、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の含有率は30%(重合転化率から計算)、アセトン不溶分は47%で、アセトン可溶分は53%、グラフト率は55%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.33dL/g、JIS K7121-1987に従って測定した融点は40℃であった。また、前述の測定方法2(透過型電子顕微鏡写真解像処理)にて求めた溶液重合系内のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の重量平均粒子径(体積平均粒子径)、数平均粒子径はそれぞれ0.45μm、0.35μmであった。
【0157】
<製造例2:成分(B2)と成分(C2)の混合生成物の製造>
製造例1で用いたものと同様のエチレン・プロピレン共重合体100部と、酸変性オレフィン重合体として無水マレイン酸変性ポリエチレン(三井化学社製、「三井ハイワックス 2203A」、質量平均分子量:2,700、酸価:30mg/g)20部と、アニオン系乳化剤として牛脂脂肪酸カリウム(オレイン酸カリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸カリウムの混合物)5部とを混合した。この混合物を2軸スクリュー押出機(池貝社製「PCM30」、L/D=40)のホッパーから4kg/Hrで供給し、該2軸スクリュー押出機のベント部に設けた供給口より、水酸化カリウム0.5部とイオン交換水2.4部を混合した水溶液を連続的に供給しながら、220℃に加熱して溶融混練して押出した。溶融混練物を2軸スクリュー押出機の先端に取り付けた冷却装置に連続的に供給し、90℃まで冷却した。そして、2軸スクリュー押出機先端より吐出させた固体を、80℃の温水中に投入し、連続的に分散させて、固形分濃度40%付近まで希釈して、オレフィン樹脂水性分散体を得た。得られたオレフィン樹脂中のエチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の粒子径を、前述の測定方法1(動的光散乱法)で求めたところ、重量平均粒子径は0.40μm(数平均粒子径;0.26μm)であった。
【0158】
撹拌機付きステンレス重合槽に、オレフィン樹脂水性分散体(エチレン・プロピレン共重合体の固形分として60部)を入れ、オレフィン樹脂水性分散体に固形分濃度が30%になるようにイオン交換水を加え、硫酸第一鉄0.006部、ピロリン酸ナトリウム0.3部、フラクトース0.35部及び牛脂脂肪酸カリウム(オレイン酸カリウム,ステアリン酸カリウム、パルミチン酸カリウムの混合物)1.0部を仕込み、温度を80℃とした。ここへ、スチレン30部、アクリロニトリル10部及びクメンヒドロペルオキシド1.0部を150分間連続的に添加し、重合温度を80℃に保ち乳化重合を行い、エチレン・α-オレフィン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂を含む水性分散体を得た。ゴム変性グラフト重合体を含む水性分散体に酸化防止剤を添加し、硫酸にて固形分の析出を行い、脱水、洗浄、乾燥の工程を経て、粉状のエチレン・α-オレフィン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂を得た。
【0159】
得られたエチレン・α-オレフィン系ゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B2)(ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)である成分(B2)と芳香族ビニル系共重合樹脂(C)である成分(C2)の混合物)において、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の含有率は60%(重合転化率から計算)、アセトン不溶分は84%、アセトン可溶分は16%、グラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度[η]は0.37dL/g、JIS K7121-1987に従って測定した融点は42℃であった。
【0160】
なお、以下の成分(B3),(B5)における平均粒子径の測定値は、前述の測定方法1(動的光散乱法)によるものである。
【0161】
<製造例3:成分(B3)と成分(C3)の混合生成物の製造>
撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、窒素気流中、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンゴムラテックス(重量平均粒子径;0.40μm、数平均粒子径;0.26μm、ゲル含率;85%)40部(固形分)、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を投入し、撹拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加え、更に撹拌した。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。
1時間重合させた後、更にイオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン45部、アクリロニトリル15部、t-ドデシルメルカプタン0.05部及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加した。1時間重合を継続し、2、2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し反応を完結させた。重合転化率は98%であった。反応生成物であるラテックスから、樹脂成分を硫酸水溶液により凝固、水洗した後、乾燥してゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B3)(ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)である成分(B3)と芳香族ビニル系共重合樹脂(C)である成分(C3)の混合物)を得た。
【0162】
得られたブタジエンゴム強化芳香族ビニル系樹脂において、ポリブタジエンゴムの含有率は40%(熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて測定)、アセトン不溶分67%、アセトン可溶分33%、グラフト率は68%、アセトン可溶分の固有粘度[η]は0.45dL/gで、JIS K7121-1987に従って測定した融点は観測されなかった。
【0163】
<製造例4:成分(B4)と成分(D4)の混合生成物の製造>
製造例3のスチレン、アクリロトリルを、スチレン43部、アクリロトリル14部、メタクリル酸3部に変更した以外は同様にして合成した。得られたブタジエンゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B4)(ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)である成分(B4)と酸変性ビニル系樹脂(D)である成分(D4)の混合物。この混合物は、芳香族ビニル系共重合樹脂(C)も含み得るが、ごく少量である。成分(B4)と成分(D4)との混合物とする。)において、ポリブタジエンゴムの含有率は40%(熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて測定)、アセトン不溶分は52%で、アセトン可溶分は48%、グラフト率は30%、アセトン可溶分の固有粘度[η]は0.56dL/gで、JIS K7121-1987に従って測定した融点は観測されなかった。
【0164】
<製造例5:成分(B5)と成分(C5)の混合生成物の製造>
撹拌機を備えた内容積7リットルのガラス製フラスコに、窒素気流中、イオン交換水75部、ロジン酸カリウム0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンゴムラテックス(重量平均粒子径;0.10μm、数平均粒子径;0.08μm、ゲル含率;85%)40部(固形分)、スチレン15部及びアクリロニトリル5部を投入し、撹拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、ピロリン酸ナトリウム0.2部、硫酸第一鉄7水和物0.01部及びブドウ糖0.2部をイオン交換水20部に溶解した溶液を加え、更に撹拌した。その後、クメンハイドロパーオキサイド0.07部を加えて重合を開始した。
1時間重合させた後、更にイオン交換水50部、ロジン酸カリウム0.7部、スチレン45部、アクリロニトリル15部、t-ドデシルメルカプタン0.05部及びクメンハイドロパーオキサイド0.01部を3時間かけて連続的に添加した。1時間重合を継続し、2、2’-メチレン-ビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)0.2部を添加し反応を完結させた。重合転化率は98%であった。反応生成物であるラテックスから、樹脂成分を硫酸水溶液により凝固、水洗した後、乾燥してゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B5)(ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)である成分(B5)と芳香族ビニル系共重合樹脂(C)である成分(C5)の混合物)を得た。
【0165】
得られたブタジエンゴム強化芳香族ビニル系樹脂において、ポリブタジエンゴムの含有率は40%(熱分解ガスクロマトグラフィーを用いて測定)、アセトン不溶分67%、アセトン可溶分33%、グラフト率は68%、アセトン可溶分の固有粘度[η]は0.45dL/gで、JIS K7121-1987に従って測定した融点は観測されなかった。
【0166】
<芳香族ビニル系樹脂(C)>
テクノUMG社製のAS樹脂「SAN-H」(商品名)(極限粘度[η]:0.80dL/g)を用いた。
【0167】
<製造例6:酸変性ビニル系樹脂(D)の製造>
撹拌機付き反応器に、水250部、ラウリル酸ナトリウム3部、t-ドデシルメルカプタン0.2部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部、エチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム0.01部及びクメンハイドロパーオキサイド0.5部を仕込み、反応器内の脱酸素を行った。その後、窒素気流中、60℃で撹拌しながら、α-メチルスチレン73部を仕込んだ。十分に乳化させた後に、α-メチルスチレン以外の成分である、アクリロニトリル17部を5時間かけて連続的に滴下し、共重合を行い、重合転化率が85.0%になったところで重合を終了した。
次いで、重合溶液に、更に、クメンハイドロパーオキサイド0.5部、t-ドデシルメルカプタン0.05部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.4部、硫酸第一鉄0.0025部及びエチレンジアミンテトラ酢酸二ナトリウム0.01部を仕込んだ。その後、窒素気流中、60℃で撹拌しながら、スチレン2部、アクリロニトリル3部、メタクリル酸5部を0.5時間かけて連続的に滴下し、共重合を行った。滴下終了後、60℃で1.5時間撹拌し、重合を終了した。最終の重合転化率は96.0%であった。反応器内の残留モノマー量は、重合に供した単量体の全量に対して、α-メチルスチレンが1.4%、スチレンが0.2%、アクリロニトリルが1.2%、及びメタクリル酸1.2%であった。その後、塩化カルシウムにより凝固し、これを、日本プラコン社製ベント付き押出機「DMG40mm」(型式名)により、極限粘度[η]0.31dL/gの酸変性ビニル系樹脂(D)を回収した。
【0168】
<充填材>
ガラス繊維:オーウェンスコーニング社製のガラス繊維「MA FT698」(商品名)(繊維状、繊維長3mm、繊維径13μm)を用いた。
【0169】
<その他の熱可塑性樹脂>
PA6:三菱エンジニアリングプラスチックス社製のポリアミド樹脂「ノバミッド1015」(商品名)(ポリアミド6、植物度:0%、融点:225℃)を用いた。
【0170】
[実施例1~30、比較例1~9]
表1~5に記載の成分を表1~5に記載の配合割合でヘンシェルミキサーにより混合した後、二軸押出機(日本製鋼所製、TEX44α、バレル設定温度250℃)で溶融混練し、ペレット化することにより熱可塑性樹脂組成物を得た。
得られた熱可塑性樹脂組成物について、前述の測定・評価を行って、結果を表1~5に示した。
なお、表1~5には、製造された熱可塑性樹脂組成物の植物度を併記した。
【0171】
【表1】
【0172】
【表2】
【0173】
【表3】
【0174】
【表4】
【0175】
【表5】
【0176】
表1~5より次のことが分かる。
実施例1~30は、本発明の要件の範囲内のため、成形性が良好で、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性、軋み音抑制に優れていた。
一方で、比較例1,2はポリアミド(A)を配合しないため、長期耐久性、軋み音抑制に劣っていた。
比較例3、4はポリアミド(A)の配合量が本発明の範囲外のため、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性のいずれかに劣っていた。
比較例5,6はゴム強化ビニル系樹脂(B)の配合量が本発明の範囲外のため、耐衝撃性、耐薬品性、軋み音抑制のいずれかに劣っていた。
比較例7,8は、酸変性ビニル系樹脂(D)の配合量が本発明の範囲外のため、成形性、耐衝撃性、軋み音抑制のいずれかに劣っていた。
実施例26と比較例9との対比より、ガラス繊維のような充填材を加えた場合でも、ポリアミド(A)を配合することで、耐衝撃性、長期耐久性に優れたものとすることができることが分かる。
実施例27~30は、ゴム強化ビニル系グラフト樹脂(B)として重量平均粒子径0.10μmの小粒子径のゴム質重合体(b)を含むゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B5)を用いた例であるが、このような小粒子径のゴム質重合体(b)を含むゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B5)を用いていない他の実施例に比べてシャルピー衝撃強さや異音リスク指数が劣る。この傾向は、ごく少量のゴム強化芳香族ビニル系樹脂(B5)を用いた実施例27においても顕著に現れる。
【0177】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、発明の効果が奏される範囲内で様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2022年10月14日付で出願された日本特許出願2022-165619に基づいており、その全体が引用により援用される。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は成形性に優れ、耐衝撃性、耐薬品性、長期耐久性、軋み音の抑制が要求される成形品の成形材料として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0179】
10、18、20、28 部品
19 軸
29 開口部
30 突起
31 接着剤
33 ボルトナット

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14