(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】エレベーターの異常診断システム
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
B66B5/00 G
(21)【出願番号】P 2024542491
(86)(22)【出願日】2022-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2022031839
(87)【国際公開番号】W WO2024042631
(87)【国際公開日】2024-02-29
【審査請求日】2024-12-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236056
【氏名又は名称】三菱電機ビルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤田 貴光
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 智史
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 平
【審査官】今野 聖一
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-035118(JP,A)
【文献】特開2009-070071(JP,A)
【文献】特開2019-119170(JP,A)
【文献】特開2013-060295(JP,A)
【文献】特開2010-189100(JP,A)
【文献】特開2009-126686(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061081(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00 - 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレベーターの異常音又は異常振動を検出する異常診断システムであって、
前記エレベーターのかご内の音を集音するマイクと、
特定の診断条件が成立すると、前記かごを診断パターンに従い移動させる動作制御部と、
前記診断パターンに従い前記かごを移動させている間に前記エレベーターの変調を検出する異常検出部と、を備え、
前記診断条件は、診断を実行する診断時間帯を含み、
前記異常診断システムは、
前記異常検出部が前記変調を検出した場合において、前記エレベーターが正常である場合、複数の診断時間帯のそれぞれにおいて、前記マイクを用いて暗騒音を測定し、測定された暗騒音に基づいて、前記診断条件の前記診断時間帯を変更する条件変更部を備えるエレベーターの異常診断システム。
【請求項2】
前記エレベーターの変調を判断するための音圧基準値を記憶する記憶部と、
前記診断パターンに従い前記かごを移動させている間に前記マイクが集音した音の音圧データを算出する音圧算出部と、を備え、
前記異常検出部は、
前記音圧データと、前記記憶部に記憶された前記音圧基準値とに基づいて、前記エレベーターの変調を検出する
ように構成される請求項1に記載のエレベーターの異常診断システム。
【請求項3】
前記エレベーターの外部機器と通信する通信部を備え、
前記通信部は、
前記異常検出部が連続して基準回数前記変調を検出した場合に、前記エレベーターの変調が検出されたことを含む変調情報を前記外部機器へ送信し、
保守員による前記エレベーターの診断結果を前記外部機器から受信する
ように構成され、
前記条件変更部は、
前記診断結果が正常である場合、前記診断条件に含まれる前記診断時間帯を変更するように構成される請求項1に記載のエレベーターの異常診断システム。
【請求項4】
前記条件変更部は、
前記診断条件に含まれる前記診断時間帯を、前記複数の診断時間帯のうちの前記暗騒音が最も低い診断時間帯に変更する
ように構成される請求項1から請求項3の何れか1項に記載のエレベーターの異常診断システム。
【請求項5】
前記エレベーターの変調を判定するための加速度基準値を記憶する記憶部と、
前記診断パターンに従い前記かごを移動させている間の前記かごの加速度データを算出する加速度算出部と、を備え、
前記異常検出部は、
前記加速度データと、前記記憶部に記憶された前記加速度基準値とに基づいて、前記エレベーターの変調を検出する
ように構成される請求項1に記載のエレベーターの異常診断システム。
【請求項6】
エレベーターの異常音又は異常振動を検出する異常診断システムであって、
前記エレベーターのかご内の音を集音するマイクと、
特定の診断条件が成立すると、前記かごを診断パターンに従い移動させる動作制御部と、
前記エレベーターの変調を判断するための音圧基準値を記憶する記憶部と、
前記診断パターンに従い前記かごを移動させている間に前記マイクが集音した音の音圧データを算出する音圧算出部と、
前記音圧データと、前記記憶部に記憶された前記音圧基準値とに基づいて、前記エレベーターの変調を検出する異常検出部と、
前記異常検出部が前記変調を検出した場合において、前記エレベーターが正常である場合、前記音圧基準値を上げる方向に変更する基準値変更部と、
前記エレベーターの外部機器と通信する通信部と、を備え、
前記通信部は、
前記異常検出部が連続して基準回数前記変調を検出した場合に、前記エレベーターの変調が検出されたことを含む変調情報を前記外部機器へ送信し、保守員による前記エレベーターの診断結果を前記外部機器から受信するように構成され、
前記基準値変更部は、
前記診断結果が正常である場合、前記音圧基準値を上げる方向に変更するように構成されるエレベーターの異常診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エレべーターの異常診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、エレベーターの点検装置に関する技術が開示されている。この技術では、乗りかごに設けられた集音マイクによって点検運転中のエレベーターの稼働音信号を収集し、かごの位置データと対応付けて記憶させる。そして、稼働音信号の振幅が限界設定振幅値と比較され、異常音データかどうかが判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
点検運転の時間帯によっては、外乱音の影響で異常診断の精度が低下する可能性がある。特許文献1の技術では、外乱音の影響を減らすことについての考察がなされておらず、改善の余地が残されている。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、外乱音の影響による診断精度の低下を抑制するのに有利な技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のエレベーターの異常診断システムは、エレベーターの異常音又は異常振動を検出する異常診断システムであって、エレベーターのかご内の音を集音するマイクと、特定の診断条件が成立すると、かごを診断パターンに従い移動させる動作制御部と、診断パターンに従いかごを移動させている間にエレベーターの変調を検出する異常検出部と、を備える。診断条件は、診断を実行する診断時間帯を含む。異常診断システムは、異常検出部が変調を検出した場合において、エレベーターが正常である場合、複数の診断時間帯のそれぞれにおいて、マイクを用いて暗騒音を測定し、測定された暗騒音に基づいて、診断条件の診断時間帯を変更する条件変更部を備える。
【0007】
また、本開示のエレベーターの異常診断システムは、エレベーターの異常音又は異常振動を検出する異常診断システムであって、エレベーターのかご内の音を集音するマイクと、特定の診断条件が成立すると、かごを診断パターンに従い移動させる動作制御部と、エレベーターの変調を判断するための音圧基準値を記憶する記憶部と、診断パターンに従いかごを移動させている間にマイクが集音した音の音圧データを算出する音圧算出部と、音圧データと、記憶部に記憶された音圧基準値とに基づいて、エレベーターの変調を検出する異常検出部と、異常検出部が変調を検出した場合において、エレベーターが正常である場合、音圧基準値を上げる方向に変更する基準値変更部と、エレベーターの外部機器と通信する通信部と、を備える。通信部は、異常検出部が連続して基準回数変調を検出した場合に、エレベーターの変調が検出されたことを含む変調情報を外部機器へ送信し、保守員によるエレベーターの診断結果を外部機器から受信するように構成され、基準値変更部は、診断結果が正常である場合、音圧基準値を上げる方向に変更するように構成される。
【発明の効果】
【0008】
本開示のエレベーターの異常診断システムによれば、エレベーターの変調が検出された場合において、エレベーターが正常である場合、複数の診断時間帯のそれぞれにおいて測定された暗騒音に基づいて、診断条件の診断時間帯が変更される。これにより、エレベーターの異常診断において、外乱音の影響による診断精度の低下を抑制することが可能となる。
【0009】
また、本開示のエレベーターの異常診断システムによれば、エレベーターの変調が検出された場合において、エレベーターが正常である場合、変調の判定に用いられる音圧基準値が変更される。これにより、エレベーターの異常診断において、外乱音の影響による診断精度の低下を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施の形態のエレベーターの異常診断システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】制御装置10が実行する異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
【
図3】制御装置10が実行する診断条件変更処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
【
図4】制御装置10が実行する音圧基準値変更処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
【
図5】制御装置10が実行する異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
【
図6】制御装置10が実行する加速度基準値変更処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
【
図7】異常診断システム100のハードウェア資源の例を示す図である。
【
図8】異常診断システム100のハードウェア資源の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略する。
【0012】
実施の形態.
1.エレベーターの異常診断システムの構成
図1は、本実施の形態のエレベーターの異常診断システムの構成の一例を示すブロック図である。エレベーターの異常診断システム100は、エレベーターの異常音又は異常振動を検出するシステムである。異常診断システム100は、制御装置10と、マイク12と、速度計14と、を備えている。マイク12は、エレベーターのかごに設置される。マイク12は、例えばかご内に設置されたインターホンのマイクである。マイク12で測定された音の信号は制御装置10に送られる。速度計14は、エレベーターのかごに設置される。速度計14は、かごの速度を測定する。速度計14によって測定された速度の信号は制御装置10に送られる。
【0013】
制御装置10は、エレベーターの動作を制御する。すなわち、エレベーターのかごの移動は制御装置10によって制御される。制御装置10の設置場所に限定はない。制御装置10は、例えば、昇降路の上方の機械室に設置される。或いは、制御装置10は、昇降路に設置されてもよい。制御装置10は、外部機器と通信する機能を備えている。例えば、制御装置10は、ネットワークを介して遠隔の情報センターに接続される。外部機器には、情報センターに備えられた管理サーバが含まれる。また、外部機器には、保守用の携帯端末が含まれる。携帯端末は、エレベーターの保守員によって所有される。例えば、保守員は、携帯端末を使用してエレベーターの保守作業を行う。或いは、保守員は、情報センターから遠隔で保守作業を行う。
【0014】
制御装置10は、エレベーターの異常診断を行う機能を備えている。具体的には、制御装置10は、音圧算出部20、加速度算出部22、記憶部24、条件判定部26、異常検出部28、通信部30、動作制御部32、及び条件変更部34を備えている。音圧算出部20は、マイク12が測定した音信号に基づいて、音圧データを算出するための機能ブロックである。加速度算出部22は、速度計14が測定した速度信号に基づいて、かごの加速度データを算出するための機能ブロックである。
【0015】
記憶部24は、エレベーターの異常診断にて処理される各種データを格納するための機能ブロックである。記憶部24は、音圧データ、加速度データ、音圧基準値、加速度基準値、及び診断条件を記憶する。音圧基準値は、マイク12によって検出された異常診断時の音圧データが正常な範囲かどうかを判定するための判定基準値である。音圧基準値は一定値でもよいし、診断時間又はかご位置毎に対応付けられた値でもよい。加速度基準値は、速度計14によって検出された加速度データが正常な範囲かどうかを判定するための判定基準値である。診断条件は、診断時間帯を含む。診断時間帯は、例えば、毎日午前0:00、毎週月曜の午前3:00等、診断を開始時間及びその頻度を含む。
【0016】
条件判定部26は、異常診断を行うための診断条件が成立したかどうかを判定するための機能ブロックである。異常検出部28は、エレベーターに変調が検出されたかどうかを判定するための機能ブロックである。通信部30は、制御装置10が外部機器との間でデータの送受信を行うための機能ブロックである。動作制御部32は、エレベーターのかごの動作を制御するための機能ブロックである。動作制御部32は、例えば、特定の診断パターンに従いかごを移動させる。ここでの診断パターンは、例えば、かごを最下階から最上階まで往復移動させるパターンである。
【0017】
条件変更部34は、診断条件を変更するための機能ブロックである。基準値変更部36は、判定基準値を変更するための機能ブロックである。条件変更部34及び基準値変更部は、本開示の異常診断システム100の要部であるため、詳細な説明を後述する。
【0018】
2.エレベーターの異常診断システム100の動作の第一実施例
次に、エレベーターの異常診断システム100において実行される動作の第一実施例について説明する。
【0019】
2-1.異常診断処理
制御装置10は、特定の診断条件が成立した場合に、異常診断処理を実行する。異常診断処理では、マイク12が集音したかご内の音の音圧が音圧基準値を超えた場合に、エレベーターの変調を検出する。以下、異常診断処理の具体的処理について説明する。
【0020】
図2は、制御装置10が実行する異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
図2に示すルーチンのステップS100では、条件判定部26は、特定の診断条件が成立したかどうかを判定する。ここでの診断条件は、現在の時間帯がエレベーターを利用中でないこと、及び現在の時間帯が診断時間帯であることを含む。その結果、判定が不成立の場合、本ルーチンの処理は終了され、判定が成立した場合、処理はステップS102に進む。
【0021】
ステップS102では、動作制御部32は、特定の診断パターンに従いかごを移動させる診断運転を実行する。ステップS104では、診断運転によってかごが移動している間、マイク12によってかご内の音を測定する。検出された音信号は、音圧算出部20に送られる。ステップS106では、受信した音信号から診断運転中の音圧データが算出される。
【0022】
ステップS108では、異常検出部28は、記憶部24に記憶されている音圧基準値を読み込む。そして、ステップS110では、異常検出部28は、音圧データと音圧基準値を比較することにより、エレベーターの変調を検出したかどうかを判定する。ここでは、異常検出部28は、音圧データが音圧基準値よりも大きい場合、エレベーターの変調を検出したと判定し、処理はステップS112に進む。一方、音圧データが音圧基準値以下の場合、エレベーターの変調を未検出と判定し、ステップS118に進む。
【0023】
ステップS112では、異常検出部28は、連続して変調が検出された回数を示す変調回数を+1回カウントする。ステップS114では、異常検出部28は、変調回数が基準回数に到達したかどうかを判定する。ここでの基準回数は、変調の確からしさを判定するための閾値であって、例えば3回である。その結果、判定が認められた場合はステップS116に進み、判定が認められない場合は、本ルーチンは終了される。
【0024】
ステップS116では、通信部30は、変調が検出されたことを含む変調情報を、情報センターに通報する。ステップS118では、異常検出部28は、変調回数をゼロにリセットする。
【0025】
以上の異常診断処理によれば、マイク12を用いて測定されたかご内の音に基づいて、エレベーターの異常を診断することができる。また、エレベーターの変調が連続して基準回数検出された場合に、情報センターに通報されるので、誤診断の可能性を減らすことができる。
【0026】
2-2.診断条件変更処理
上述した異常診断処理において、エレベーターの変調が情報センターに通報されると、保守員が情報センターから遠隔で異常診断を行う。具体的には、保守員は、診断運転中に集音された音を実際に聞きながら異常音があるかどうかを確認する。保守員による診断結果は、制御装置10に送られる。
【0027】
ここで、保守員による診断結果に異常音が認められない場合、異常診断処理において外乱音の影響によって変調が誤検出された可能性が考えられる。外乱音の中には、同時間帯に発生する環境音がある。このような時間帯に依存する環境音としては、例えば、近隣の工事現場の音、早朝に通行する配達車両の音、等が例示される。このような外乱音の影響は異常診断処理から極力排除されることが望ましい。そこで、制御装置10は、受信した保守員の診断結果がエレベーターの正常を示す診断結果である場合、異常診断処理の診断条件を変更する診断条件変更処理を実行する。診断条件変更処理では、制御装置10は、診断時間帯を外乱音の少ない時間帯に変更する。或いは、診断条件変更処理では、制御装置10は、音圧基準値を高い値に上げる方向に変更する基準値変更処理を実行する。以下、異常診断処理及び基準値変更処理の具体的処理について説明する。
【0028】
図3は、制御装置10が実行する診断条件変更処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
図3に示すフローチャートのステップS130では、条件変更部34は、保守員による診断結果が正常であるかどうかを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS132に進み、判定が未成立の場合、本フローチャートの処理は終了される。
【0029】
ステップS132では、条件変更部34は、エレベーターのかごを中間階に停止させてマイク12を用いて複数時間帯の暗騒音を測定する。ここでは、例えば、曜日毎に一日一回時間帯を15分程度ずらしながら診断運転に所要する時間分の暗騒音を測定する。測定された暗騒音は、その時間帯に対応付けられた上で記憶部24に記憶される。
【0030】
ステップS134では、ステップS132において測定された複数の時間帯の暗騒音のうち、音圧が最小である時間帯を特定する。そして、ステップS136では、条件変更部34は、診断条件の診断時間帯を、ステップS134の処理で特定した時間帯に変更する。
【0031】
以上のような診断時間変更処理によれば、暗騒音が最小の時間帯に診断時間が変更される。これにより、異常診断処理において外乱音の影響による誤診断を減らすことができる。
【0032】
2-3.音圧基準値変更処理
制御装置10は、受信した保守員の診断結果がエレベーターの正常を示す診断結果である場合、音圧基準値を高い値に変更する音圧基準値変更処理を実行してもよい。以下、音圧基準値変更処理の具体的処理について説明する。
【0033】
図4は、制御装置10が実行する音圧基準値変更処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
図4に示すフローチャートのステップS140では、条件変更部34は、保守員による診断結果が正常であるかどうかを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS142に進み、判定が未成立の場合、本フローチャートの処理は終了される。
【0034】
ステップS142では、基準値変更部36は、異常診断処理のステップS106において算出された音圧データよりも大きな値に音圧基準値が変更される。或いは、基準値変更部36は、音圧基準値に予め定められた加算値を加算する。
【0035】
以上のような音圧基準値変更処理によれば、異常診断処理において、より大きな値に変更された音圧基準値が用いられるので、外乱音の影響による誤診断を減らすことができる。
【0036】
3.エレベーターの異常診断システム100の動作の第二実施例
次に、エレベーターの異常診断システム100において実行される動作の第二実施例について説明する。
【0037】
3-1.異常診断処理
第二実施例の異常診断システム100では、かご内の音による異常診断に替えてかごの加速度に基づき異常診断が行われる。具体的には、加速度が急激に大きくなった場合等、正常時の加速度パターンと異なる加速度が検出された場合、エレベーターに何らかの異常が発生している可能性が高い。そこで、制御装置10は、特定の診断条件が成立した場合に、異常診断処理を実行する。異常診断処理では、速度計14によって測定されたかごの加速度が加速度基準値を超えた場合に、エレベーターの変調を検出する。以下、異常診断処理の具体的処理について説明する。
【0038】
図5は、制御装置10が実行する異常診断処理のルーチンを示すフローチャートである。
図5に示すルーチンのステップS150及びステップS152では、
図2に示すルーチンのステップS100及びステップS102と同様の処理が実行される。
【0039】
ステップS154では、診断運転によってかごが移動している間、速度計14によってかごの速度を検出する。検出された速度信号は、加速度算出部22に送られる。ステップS156では、受信した速度信号から診断運転中の加速度データが算出される。
【0040】
ステップS158では、異常検出部28は、記憶部24に記憶されている加速度基準値を読み込む。そして、ステップS160では、異常検出部28は、加速度データと加速度基準値を比較することにより、エレベーターの変調を検出したかどうかを判定する。ここでは、異常検出部28は、加速度データが加速度基準値よりも大きい場合、エレベーターの変調を検出したと判定し、処理はステップS162に進む。一方、加速度データが加速度基準値以下の場合、エレベーターの変調を未検出と判定し、ステップS168に進む。
【0041】
ステップS162では、異常検出部28は、連続して変調が検出された回数を示す変調回数を+1回カウントする。ステップS164では、異常検出部28は、変調回数が基準回数に到達したかどうかを判定する。ここでの基準回数は、変調の確からしさを判定するための閾値であって、例えば3回である。その結果、判定が認められた場合はステップS166に進み、判定が認められない場合は、本ルーチンは終了される。
【0042】
ステップS166では、通信部30は、変調が検出されたことを含む変調情報を、情報センターに通報する。ステップS168では、異常検出部28は、変調回数をゼロにリセットする。
【0043】
以上の異常診断処理によれば、速度計14を用いて検出されたかごの加速度に基づいて、エレベーターの異常を診断することができる。また、エレベーターの変調が連続して基準回数検出された場合に、情報センターに通報されるので、誤診断の可能性を減らすことができる。
【0044】
3-2.加速度基準値変更処理
上述した異常診断処理において、エレベーターの変調が情報センターに通報されると、保守員が情報センターから遠隔で異常診断を行う。保守員による診断結果に異常音或いは異常振動が認められない場合、異常診断処理において、正常な範囲の加速度変化において変調が誤検出された可能性が考えられる。そこで、制御装置10は、受信した保守員の診断結果がエレベーターの正常を示す診断結果である場合、加速度基準値をより高い値に変更する加速度基準値変更処理を実行する。以下、加速度基準値変更処理の具体的処理について説明する。
【0045】
図6は、制御装置10が実行する加速度基準値変更処理の具体的な手順を示すフローチャートである。
図6に示すフローチャートのステップS170では、基準値変更部36は、保守員による診断結果が正常であるかどうかを判定する。その結果、判定が成立した場合、処理はステップS172に進み、判定が未成立の場合、本フローチャートの処理は終了される。
【0046】
ステップS172では、基準値変更部36は、異常診断処理のステップS206において算出された加速度データよりも大きな値に加速度基準値が変更される。或いは、基準値変更部36は、加速度基準値に予め定められた加算値を加算する。
【0047】
以上のような加速度基準値変更処理によれば、異常診断処理において、より大きな値に変更された加速度基準値が用いられるので、誤診断を減らすことができる。
【0048】
4.変形例
本実施の形態の異常診断システム100は、以下のように変形した態様を適用してもよい。
【0049】
4-1.異常診断システム100のハードウェア資源
【0050】
図7は、異常診断システム100のハードウェア資源の例を示す図である。異常診断システム100の制御装置10は、ハードウェア資源として、プロセッサ42とメモリ43とを含む処理回路41を備える。処理回路41に複数のプロセッサ42が含まれても良い。処理回路41に複数のメモリ43が含まれても良い。
【0051】
本実施の形態において、符号20から符号36に示す各部は、制御装置10が有する機能を示す。記憶部24の機能は、メモリ43によって実現される。符号20から符号36に示す各部の機能は、プログラムとして記述されたソフトウェア、ファームウェア、又はソフトウェアとファームウェアとの組み合わせによって実現できる。当該プログラムは、メモリ43に記憶される。制御装置10は、メモリ43に記憶されたプログラムをプロセッサ42(コンピュータ)によって実行することにより、符号20から符号36に示す各部の機能を実現する。
【0052】
プロセッサ42は、CPU(Central Processing Unit)、中央処理装置、処理装置、演算装置、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、或いはDSPともいわれる。メモリ43として、半導体メモリ、磁気ディスク、フレキシブルディスク、光ディスク、コンパクトディスク、ミニディスク、或いはDVDを採用しても良い。採用可能な半導体メモリには、RAM、ROM、フラッシュメモリ、EPROM、及びEEPROM等が含まれる。
【0053】
図8は、異常診断システム100のハードウェア資源の他の例を示す図である。
図8に示す例では、制御装置10は、プロセッサ42、メモリ43、及び専用ハードウェア44を含む処理回路41を備える。
図8は、制御装置10が有する機能の一部を専用ハードウェア44によって実現する例を示す。制御装置10が有する機能の全部を専用ハードウェア44によって実現しても良い。専用ハードウェア44して、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC、FPGA、又はこれらの組み合わせを採用できる。
【0054】
4-2.異常診断処理
異常診断処理において、逆位相音を用いて、問題となる外乱音を打ち消すようにしてもよい。この場合、音圧データを算出するステップS106の処理において、外乱音を打ち消す処理を行えばよい。
【0055】
4-3.加速度算出部22
加速度算出部22は、速度計14が測定した速度信号を用いて加速度データを算出したが、かごに設けられた加速度センサの信号を用いてもよい。
【0056】
4-4.その他
第一実施例による処理では、速度計14、及び加速度算出部22の構成は自必須ではない。また、第二実施例による処理では、マイク12、音圧算出部20、及び条件変更部34の構成は必須ではない。
【符号の説明】
【0057】
10 制御装置、 12 マイク、 14 速度計、 20 音圧算出部、 22 加速度算出部、 24 記憶部、 26 条件判定部、 28 異常検出部、 30 通信部、 32 動作制御部、 34 条件変更部、 36 基準値変更部、 41 処理回路、 42 プロセッサ、 43 メモリ、 44 専用ハードウェア、 100 異常診断システム