IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本精工株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図1
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図2
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図3
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図4
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図5
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図6
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図7
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図8
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図9
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図10
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図11
  • 特許-懸架装置および懸架装置の制御方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】懸架装置および懸架装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B60G 17/02 20060101AFI20250212BHJP
   F16D 41/10 20060101ALI20250212BHJP
   F16D 43/02 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
B60G17/02
F16D41/10
F16D43/02
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2024567540
(86)(22)【出願日】2024-06-28
(86)【国際出願番号】 JP2024023535
【審査請求日】2024-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2023118648
(32)【優先日】2023-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】山本 慎
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-1369(JP,A)
【文献】特開2005-256927(JP,A)
【文献】国際公開第2021/172558(WO,A1)
【文献】特開2023-65233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00-99/00
F16D 41/00-47/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体と、車輪を支持する部材との間にかけ渡すように備えられるスプリングと、
モータ出力軸を有する電動モータと、前記モータ出力軸の回転に基づいて回転駆動されるクラッチ入力部材、および、クラッチ出力部材を有し、前記クラッチ入力部材に回転トルクが入力された場合には、該クラッチ入力部材に入力された回転トルクを前記クラッチ出力部材に伝達するのに対し、前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力された場合には、該クラッチ出力部材に逆入力された回転トルクを前記クラッチ入力部材に伝達しない逆入力遮断クラッチと、前記クラッチ出力部材の回転に伴い前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させるスプリング調整機構とを含み、前記モータ出力軸を回転駆動することに基づいて、前記スプリング調整機構により、前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させることで、前記車輪の接地面からの前記車体の高さである車高を調整する車高調整機構と、
前記電動モータを制御する制御器と、
を備え、
前記制御器は、
前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力されることにより前記逆入力遮断クラッチがロックしている状態から、前記車高を、前記クラッチ入力部材を前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と同じ方向に回転させる方向に調整する制御を開始する際に、前記モータ出力軸を第1回転加速度で起動し、前記クラッチ入力部材の回転数が所定の第1の閾値よりも大きくなった段階で、前記モータ出力軸の回転加速度を、前記第1回転加速度よりも小さい第2回転加速度に切り換える第1の機能と、
前記車高を調整する制御の終了段階であって、前記クラッチ入力部材の回転数が、所定の第2の閾値以下になった段階で、前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と、前記クラッチ入力部材の回転方向とが同じである場合に、前記クラッチ入力部材の回転数の目標値を0にする第2の機能と
のうちの少なくとも一方の機能を備える、
懸架装置。
【請求項2】
前記制御器は、前記第1の機能を有し、かつ、前記モータ出力軸を速度制御または位置制御により制御するように構成されている、請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
前記制御器は、前記第1の機能を有し、前記モータ出力軸の起動から前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値以下の範囲では、前記モータ出力軸をトルク制御により制御し、かつ、前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値よりも大きくなった後は、前記モータ出力軸を速度制御または位置制御により制御するように構成されている、請求項1に記載の懸架装置。
【請求項4】
前記逆入力遮断クラッチは、
内周面に被押圧面を有する、被押圧部材と、
前記被押圧面の径方向内側に配置された入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている、前記クラッチ入力部材と、
前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている、前記クラッチ出力部材と、
前記被押圧面に対向する押圧面と、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部と、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部とを有し、径方向の移動を可能に配置されている、係合子と、
を備え、
前記係合子は、前記クラッチ入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部が前記入力側被係合部に係合することに基づいて、径方向内側に向けて移動し、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることで、前記クラッチ入力部材に入力された回転トルクを前記クラッチ出力部材に伝達するのに対し、前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側被係合部に前記出力側係合部が係合することに基づいて、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させるように構成されている、
請求項1~3のいずれかに記載の懸架装置。
【請求項5】
前記押圧面は、2つの押圧面により構成されており、
前記逆入力遮断クラッチは、
前記クラッチ出力部材の所定方向への回転に伴い、前記2つの押圧面が前記被押圧面に押し付けられ、かつ、前記クラッチ入力部材の前記所定方向と反対方向への回転に伴い、前記入力側係合部と前記入力側被係合部とが係合した状態において、前記係合子の径方向である第1方向と前記クラッチ入力部材の回転中心との両方に直交する第2方向に関する、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との接触部と、前記クラッチ入力部材の回転中心との距離が、前記第2方向に関する、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部と、前記クラッチ出力部材の回転中心との距離よりも大きくなるように、かつ、
前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力され、前記2つの押圧面が前記被押圧面に接触した状態で、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部が、前記2つの押圧面のうちの一方の押圧面と前記被押圧面との当接部と、前記クラッチ出力部材の回転中心とを結ぶ仮想直線よりも前記第1方向に関して前記クラッチ出力部材の回転中心に近い側に位置するように構成されている、
請求項4に記載の懸架装置。
【請求項6】
前記逆入力遮断クラッチが、前記係合子を、前記押圧面を前記被押圧面に対して近づける方向に弾性的に付勢する付勢部材を備える、請求項4に記載の懸架装置。
【請求項7】
前記制御器が、前記第1の機能を備え、
前記クラッチ入力部材の回転数を測定するための速度センサ、前記車高を測定するためのストロークセンサ、および/または、前記クラッチ入力部材の回転角度を測定するための角度センサを備える、請求項1に記載の懸架装置。
【請求項8】
前記車輪に対して支持されたシリンダと、前記車体に対して支持され、かつ、前記シリンダに嵌装されたピストンとを有し、前記車体と前記車輪との間に、前記スプリングと並列に配置されたダンパを備える、請求項1に記載の懸架装置。
【請求項9】
前記シリンダに対して、上下方向の相対移動を可能に、かつ、相対回転を不能に支持されたスプリングシートを備え、
前記スプリングは、前記車体と前記スプリングシートとの間で弾性的に挟持されたコイルスプリングにより構成されており、
前記スプリング調整機構は、前記クラッチ出力部材の回転運動を、前記シリンダに対する前記スプリングシートの上下方向運動に変換するように構成される、請求項8に記載の懸架装置。
【請求項10】
前記スプリング調整機構は、内周面に外径側ボールねじ溝を有し、前記クラッチ出力部材の回転に基づいて回転駆動されるナット、および、前記シリンダの外周面または前記シリンダに支持固定された部材の外周面に備えられた内径側ボールねじ溝と前記外径側ボールねじ溝との間に転動可能に配置された複数個のボールを備え、
前記ナットは、前記シリンダに対する上下方向の移動および相対回転を可能に、かつ、前記スプリングシートと一体的な上下方向の移動を可能に支持されている、請求項9に記載の懸架装置。
【請求項11】
前記スプリングは、トーションバーにより構成されており、
前記スプリング調整機構は、前記クラッチ出力部材の回転に伴い前記トーションバーを回転させるように構成される、請求項1に記載の懸架装置。
【請求項12】
車体と車輪との間にかけ渡すように備えられるスプリングと、
モータ出力軸を有する電動モータと、前記モータ出力軸の回転に基づいて回転駆動されるクラッチ入力部材、および、クラッチ出力部材を有し、前記クラッチ入力部材に回転トルクが入力された場合には、該クラッチ入力部材に入力された回転トルクを前記クラッチ出力部材に伝達するのに対し、前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力された場合には、該クラッチ出力部材に逆入力された回転トルクを前記クラッチ入力部材に伝達しない逆入力遮断クラッチと、前記クラッチ出力部材の回転に伴い前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させるスプリング調整機構とを含み、前記モータ出力軸を回転駆動することに基づいて、前記スプリング調整機構により、前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させることで、車輪の接地面からの車体の高さである車高を調整する車高調整機構と、
を備える懸架装置の制御方法であって、
前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力されることにより前記逆入力遮断クラッチがロックしている状態から、前記車高を、前記クラッチ入力部材を前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と同じ方向に回転させる方向に調整する制御を開始する際に、前記モータ出力軸を第1回転加速度で起動し、前記クラッチ入力部材の回転数が所定の第1の閾値よりも大きくなった段階で、前記モータ出力軸の回転加速度を、前記第1回転加速度よりも小さい第2回転加速度に切り換える、懸架装置の制御方法。
【請求項13】
前記モータ出力軸を速度制御または位置制御により制御する、請求項12に記載の懸架装置の制御方法。
【請求項14】
前記モータ出力軸の起動から前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値以下の範囲では、前記モータ出力軸をトルク制御により制御し、かつ、前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値よりも大きくなった後は、前記モータ出力軸を速度制御または位置制御により制御する、請求項12に記載の懸架装置の制御方法。
【請求項15】
車体と、車輪を支持する部材との間にかけ渡すように備えられるスプリングと、
モータ出力軸を有する電動モータと、前記モータ出力軸の回転に基づいて回転駆動されるクラッチ入力部材、および、クラッチ出力部材を有し、前記クラッチ入力部材に回転トルクが入力された場合には、該クラッチ入力部材に入力された回転トルクを前記クラッチ出力部材に伝達するのに対し、前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力された場合には、該クラッチ出力部材に逆入力された回転トルクを前記クラッチ入力部材に伝達しない逆入力遮断クラッチと、前記クラッチ出力部材の回転に伴い前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させるスプリング調整機構とを含み、前記モータ出力軸を回転駆動することに基づいて、前記スプリング調整機構により、前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させることで、車輪の接地面からの車体の高さである車高を調整する車高調整機構と、
を備える懸架装置の制御方法であって、
前記車高を調整する制御の終了段階であって、前記クラッチ入力部材の回転数が、所定の第2の閾値以下になった段階で、前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と、前記クラッチ入力部材の回転方向とが同じである場合に、前記クラッチ入力部材の回転数の目標値を0にする、懸架装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車輪を車体に支持するための懸架装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バスなどの大型の車両においては、乗員の乗降を容易にするため、停車時に、車高を下げることが好ましい。また、スポーツカーなど、車高が低く、車体の底面と路面との間隔が狭い車両においては、極低速で歩道の段差を乗り越える際に、車体の底面の段差への接触を防止するため、および、乗員が乗降する際には、乗降を容易にするために、車高を上げることが好ましい。このため、これらの車両の懸架装置には、車高を上下させるための車高調整装置が備えられる場合がある。
【0003】
特開2021-037868号公報には、車両の懸架装置に設置される車高調整装置が開示されている。この従来構造の車高調整装置は、ショックアブソーバのシェルに外挿され、雄ねじ部を有するスリーブと、雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を有するコマ部材を回転自在に支持するハウジングと、コマ部材を回転させる駆動モータとを備える。従来構造の車高調整装置では、駆動モータによってコマ部材を回転させることでハウジングがスリーブに対して昇降し、該ハウジングの上面に設けられたばね受が昇降することで車高調整が行われる。
【0004】
この車高調整装置は、駆動モータとコマ部材との間に介挿され、駆動モータの正逆回転はコマ部材に伝達し、コマ部材からの回転逆入力が駆動モータに伝達されるのを防止する逆入力遮断クラッチをさらに備える。このため、この車高調整装置では、車高を調整した後、駆動モータへの通電を停止した場合でも、車体や乗員の重量に基づくコマ部材の回転が逆入力遮断クラッチにより防止され、車高が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2021-037868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特開2021-037868号公報に記載された従来構造の車高調整装置では、車高を調整する際に挙動が不安定になる可能性がある。
【0007】
すなわち、車高を調整する以前の状態では、車体や乗員の重量、スプリングの弾力などに基づいて、車輪側から逆入力遮断クラッチの出力部に、該出力部を回転させようとする力が加わる。
【0008】
車輪側からクラッチの出力部に加わる力の方向と、車高を所望の高さに調整すべく、駆動モータによりクラッチの入力部を回転させる方向とが一致する場合に、クラッチの出力部の回転数がクラッチの入力部の回転数よりも大きいと、ケースの回転がロックされ、コマ部材の回転もロックされてしまう。しかしながら、この状態においても、入力部にはトルクが入力されているため、次の瞬間には、クラッチのロックが解除され、コマ部材が回転する。
【0009】
すなわち、車体や乗員の重量、スプリングの弾力などに基づいて、車輪側からクラッチの出力部に加わる力の方向と、車高を所望の高さに調整すべく、駆動モータによりクラッチの入力部を回転させる方向とが一致する場合、クラッチが、入力部と出力部との間でトルクの伝達が可能なロック解除状態と、入力部と出力部との間でトルクの伝達が不能なロック状態とを短時間で交互に繰り返しながら、入力部と出力部とが断続的に所定方向に回転するジャーキング現象が発生してしまう可能性がある。ジャーキング現象が発生すると、コマ部材の挙動が円滑でなくなり、円滑な車高調整を行えなくなってしまう。
【0010】
本開示は、車高調整を円滑に行うことができる、懸架装置および懸架装置の制御方法を実現することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の発明者らは、懸架装置を構成する逆入力遮断クラッチにおいて、ジャーキング現象が発生する条件について、鋭意研究を重ねた結果、クラッチ出力部材に所定方向のトルクが逆入力されている状態で、前記所定方向に回転するクラッチ入力部材の回転数が所定の閾値よりも小さくなると、ジャーキング現象が発生するという知見を得た。本開示の一態様の懸架装置、および、本開示の一態様の懸架装置の制御方法は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
本開示の一態様の懸架装置は、スプリングと、車高調整機構と、制御器とを備える。
【0013】
前記スプリングは、車体と、車輪を支持する部材との間にかけ渡すように備えられる。
【0014】
前記車高調整機構は、電動モータと、逆入力遮断クラッチと、スプリング調整機構とを備える。
【0015】
前記電動モータは、モータ出力軸を有する。
【0016】
前記逆入力遮断クラッチは、前記モータ出力軸の回転に基づいて回転駆動されるクラッチ入力部材、および、クラッチ出力部材を有し、前記クラッチ入力部材に回転トルクが入力された場合に、該クラッチ入力部材に入力された回転トルクを前記クラッチ出力部材に伝達するのに対し、前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力された場合に、該クラッチ出力部材に逆入力された回転トルクを前記クラッチ入力部材に伝達しない。
【0017】
前記スプリング調整機構は、前記クラッチ出力部材の回転に伴い前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させる。
【0018】
前記車高調整機構は、前記モータ出力軸を回転駆動することに基づいて、前記スプリング調整機構により、前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させることで、車輪の接地面からの車体の高さである車高を調整する。
【0019】
前記制御器は、前記電動モータを制御する。
【0020】
特に、本開示の一態様の懸架装置では、前記制御器は、
前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力されることにより前記逆入力遮断クラッチがロックしている状態から、前記車高を、前記クラッチ入力部材を前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と同じ方向に回転される方向に調整する制御を開始する際に、前記モータ出力軸を第1回転加速度で起動し、前記クラッチ入力部材の回転数が所定の第1の閾値よりも大きくなった段階で、前記モータ出力軸の回転加速度を、前記第1回転加速度よりも小さい第2回転加速度に切り換える第1の機能と、
前記車高を調整する制御の終了段階であって、前記クラッチ入力部材の回転数が、所定の第2の閾値以下になった段階で、前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と、前記クラッチ入力部材の回転方向とが同じである場合に、前記クラッチ入力部材の回転数の目標値を0にする第2の機能と
のうちの少なくとも一方の機能を備える。
【0021】
本開示の一態様の懸架装置では、前記制御器は、前記第1の機能を有することができ、かつ、前記モータの出力軸を速度制御または位置制御により制御するように構成されることができる。
【0022】
あるいは、本開示の一態様の懸架装置では、前記制御器は、前記第1の機能を有することができ、前記モータ出力軸の起動から前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値以下の範囲では、前記モータ出力軸をトルク制御により制御し、かつ、前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値よりも大きくなった後は、前記モータ出力軸を速度制御または位置制御により制御するように構成されることができる。
【0023】
本開示の一態様の懸架装置では、
前記逆入力遮断クラッチは、
内周面に被押圧面を有する、被押圧部材と、
前記被押圧面の径方向内側に配置された入力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている、前記クラッチ入力部材と、
前記被押圧面の径方向内側において前記入力側係合部よりも径方向内側に配置された出力側係合部を有し、前記被押圧面と同軸に配置されている、前記クラッチ出力部材と、
前記被押圧面に対向する押圧面と、前記入力側係合部と係合可能な入力側被係合部と、前記出力側係合部と係合可能な出力側被係合部とを有し、径方向の移動を可能に配置されている、係合子と、
を備えることができる。
【0024】
前記係合子は、前記クラッチ入力部材に回転トルクが入力されると、前記入力側係合部が前記入力側被係合部に係合することに基づいて、径方向内側に向けて移動し、前記出力側被係合部を前記出力側係合部に係合させることで、前記クラッチ入力部材に入力された回転トルクを前記クラッチ出力部材に伝達するのに対し、前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力されると、前記出力側被係合部に前記出力側係合部が係合することに基づいて、前記押圧面を前記被押圧面に押し付けて、前記押圧面を前記被押圧面に摩擦係合させるように構成されることができる。
【0025】
本開示の一態様の懸架装置では、前記押圧面は、2つの押圧面により構成されることができる。
【0026】
この場合に、前記逆入力遮断クラッチは、
前記クラッチ出力部材の所定方向への回転に伴い、前記2つの押圧面が前記被押圧面に押し付けられ、かつ、前記クラッチ入力部材の前記所定方向と反対方向への回転に伴い、前記入力側係合部と前記入力側被係合部とが係合した状態において、前記係合子の径方向である第1方向と前記クラッチ入力部材の回転中心との両方に直交する第2方向に関する、前記入力側係合部と前記入力側被係合部との接触部と、前記クラッチ入力部材の回転中心との距離は、前記第2方向に関する、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部と、前記クラッチ出力部材の回転中心との距離よりも大きくなるように構成されることができ、かつ、
前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力され、前記2つの押圧面が前記被押圧面に接触した状態で、前記出力側係合部と前記出力側被係合部との接触部は、前記2つの押圧面のうちの一方の押圧面と前記被押圧面との当接部と、前記クラッチ出力部材の回転中心とを結ぶ仮想直線よりも前記第1方向に関して前記クラッチ出力部材の回転中心に近い側に位置するように構成されることができる。
【0027】
本開示の一態様の懸架装置では、前記逆入力遮断クラッチが、前記係合子を、前記押圧面を前記被押圧面に対して近づける方向に弾性的に付勢する付勢部材を備えることができる。
【0028】
本開示の一態様の懸架装置においては、前記係合子は、2つの係合子により構成されることができ、かつ、前記入力側係合部は、2つの入力側係合部により構成されることができる。
【0029】
本開示の一態様の懸架装置では、前記制御器は、前記第1の機能を備えることができ、かつ、前記懸架装置は、前記クラッチ入力部材の回転数を測定するための速度センサ、前記車高を測定するためのストロークセンサ、および/または、前記クラッチ入力部材の回転角度を測定するための角度センサを備えることができる。
【0030】
本開示の一態様の懸架装置は、前記車輪に対して支持されたシリンダと、前記車体に対して支持され、かつ、前記シリンダに嵌装されたピストンとを有し、前記車体と前記車輪との間に、前記スプリングと並列に配置されたダンパを備えることができる。
【0031】
本開示の一態様の懸架装置は、前記シリンダに対して、上下方向の相対移動を可能に、かつ、相対回転を不能に支持されたスプリングシートを備えることができる。この場合、前記スプリングは、前記車体と前記スプリングシートとの間で弾性的に挟持されたコイルスプリングにより構成されることができ、かつ、前記スプリング調整機構は、前記クラッチ出力部材の回転運動を、前記シリンダに対する前記スプリングシートの上下方向運動に変換するように構成されることができる。
【0032】
前記スプリング調整機構は、内周面に外径側ボールねじ溝を有し、前記クラッチ出力部材の回転に基づいて回転駆動されるナット、および、前記シリンダの外周面または前記シリンダに支持固定された部材の外周面に備えられた内径側ボールねじ溝と前記外径側ボールねじ溝との間に転動可能に配置された複数個のボールを備えることができる。この場合、前記ナットは、前記シリンダに対する上下方向の移動および相対回転を可能に、かつ、前記スプリングシートと一体的な上下方向の移動を可能に支持されることができる。
【0033】
本開示の一態様の懸架装置では、前記スプリングは、トーションバーにより構成されることができる。この場合、前記スプリング調整機構は、前記クラッチ出力部材の回転に伴い前記トーションバーを回転させるように構成されることができる。
【0034】
本開示の一態様の懸架装置の制御方法の対象となる懸架装置は、
車体と、車輪を支持する部材との間にかけ渡すように備えられるスプリングと、
モータ出力軸を有する電動モータと、前記モータ出力軸の回転に基づいて回転駆動されるクラッチ入力部材、および、クラッチ出力部材を有し、前記クラッチ入力部材に回転トルクが入力された場合には、該クラッチ入力部材に入力された回転トルクを前記クラッチ出力部材に伝達するのに対し、前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力された場合には、該クラッチ出力部材に逆入力された回転トルクを前記クラッチ入力部材に伝達しない逆入力遮断クラッチとと、前記クラッチ出力部材の回転に伴い前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させるスプリング調整機構とを含み、前記モータ出力軸を回転駆動することに基づいて、前記スプリング調整機構により、前記スプリングを上下方向に移動させるまたは回転させることにより、車輪の接地面からの車体の高さを調整する車高調整機構と、
を備える。
【0035】
本開示の一態様の懸架装置の制御方法では、
前記クラッチ出力部材に回転トルクが逆入力されることにより前記逆入力遮断クラッチがロックしている状態から、前記車高を、前記クラッチ入力部材を前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と同じ方向に回転させる方向に調整する制御を開始する際に、前記モータ出力軸を第1回転加速度で起動し、前記クラッチ入力部材の回転数が所定の第1の閾値よりも大きくなった段階で、前記モータ出力軸の回転加速度を、前記第1回転加速度よりも小さい第2回転加速度に切り換える。
【0036】
この場合、前記モータの出力軸を速度制御または位置制御により制御することができる。
【0037】
もしくは、前記モータ出力軸の起動から前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値以下の範囲では、前記モータ出力軸をトルク制御により制御し、かつ、前記クラッチ入力部材の回転数が前記所定の第1の閾値よりも大きくなった後は、前記モータ出力軸を速度制御または位置制御により制御することができる。
【0038】
あるいは、本開示の一態様の懸架装置の制御方法では、
前記車高を調整する制御の終了段階であって、前記クラッチ入力部材の回転数が、所定の第2の閾値以下になった段階で、前記クラッチ出力部材に逆入力されている回転トルクの方向と、前記クラッチ入力部材の回転方向とが同じである場合に、前記クラッチ入力部材の回転数の目標値を0にする。
【発明の効果】
【0039】
本開示の一態様の懸架装置、および、本開示の一態様の懸架装置の制御方法によれば、車高調整を円滑に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、本開示の実施の形態の第1例の懸架装置を示す略断面図である。
図2図2(A)および図2(B)は、第1例の懸架装置を模式的に示す図であり、図2(A)は、車高を上げた状態で示す図であり、図2(B)は、車高を下げた状態で示す図である。
図3図3は、第1例の懸架装置から逆入力遮断クラッチを取り出して示す断面図である。
図4図4は、図3のX-X断面図である。
図5図5は、クラッチ入力部材に入力されたトルクがクラッチ出力部材に伝達される状態を示す、図4と同様の図である。
図6図6は、クラッチ出力部材にトルクが逆入力された状態を示す、図4と同様の図である。
図7図7(A)~図7(C)は、入力側係合部および出力側係合部の形状を規制することによる効果を説明するための模式図である。
図8図8(A)~図8(C)は、ジャーキング現象が発生するメカニズムを説明するための模式図である。
図9図9は、第1例の懸架装置により車高を調整する制御動作を示すフローチャートである。
図10図10は、車高を調整する際のモータ出力軸の回転数と時間との関係を模式的に示す線図である。
図11図11は、本開示の実施の形態の第2例の懸架装置を模式的に示す図である。
図12図12は、第2例の懸架装置により車高を調整する制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
[第1例]
本開示の実施の形態の第1例について、図1図10を用いて説明する。
【0042】
以下の説明において、上下方向、前後方向、および幅方向(左右方向)は、懸架装置1を車両に取り付けた状態での車両の上下方向、前後方向、および幅方向(左右方向)である。
【0043】
(懸架装置の全体の説明)
懸架装置1は、スプリング2の弾力によって車輪Wを構成するタイヤの外周面(トレッド)を路面に押し付けつつ、車輪Wを介して路面から車体Bに伝わる振動および衝撃を緩和するように構成される。本開示の一態様の懸架装置1は、車輪Wを構成するタイヤの外周面のうちの接地面からの車体Bの高さ(最下部の高さ)、すなわち車高(最低地上高)を調整する機能を有する。
【0044】
懸架装置1は、スプリング2と、車高調整機構4と、制御器51とを備える。
【0045】
スプリング2は、車体Bと、車輪Wを支持する部材との間にかけ渡すように備えられ、車輪Wを構成するタイヤの外周面を路面に押し付けるための弾力を発生し、かつ、路面から車輪Wに振動または衝撃が加わった場合には、弾性変形することにより、振動または衝撃を吸収する機能を有する。
【0046】
スプリング2の種類は、その機能を有することができる限り、特に限定されるものではない。具体的には、スプリング2は、金属製の線材をらせん状に巻き回すことにより構成され、かつ、その軸方向の弾力を発生させるコイルスプリング、棒状に構成され、かつ、ねじり方向の弾力を発生させるトーションバーなどにより構成されることができる。
【0047】
本例では、スプリング2は、コイルスプリングにより構成されている。スプリング2は、その中心軸を略上下方向に向けるようにして、車体Bと、車軸などの車輪Wを支持する部材との間に備えられている。スプリング2は、車体Bに支持固定されるトップマウント20と、ダンパ12のシリンダ13の周囲に支持されたスプリングシート21との間で弾性的に挟持されている。すなわち、スプリング2の上側の端部である車体側端部6は、車体Bに支持固定されるトップマウント20の下面に弾性的に突き当てられている。また、スプリング2の下側の端部である車輪側端部7は、シリンダ13、ロアブラケット16、およびナックルなどを介して車輪Wに支持されるスプリングシート21の上面に弾性的に突き当てられている。
【0048】
本例の懸架装置1を搭載した車両では、スプリング2が弾性的に復元する力によって、スプリングシート21に下方に向いた弾力が付与され、この弾力により車輪Wを構成するタイヤの外周面が路面に押し付けられる。
【0049】
また、本例の懸架装置1を搭載した車両では、車輪Wからの振動などに基づくシリンダ13の上下振動は、スプリング2の弾性変形により吸収される。
【0050】
車高調整機構4は、電動モータ3と、逆入力遮断クラッチ5と、スプリング調整機構22とを備える。
【0051】
電動モータ3は、モータ出力軸8を有する。
【0052】
逆入力遮断クラッチ5は、モータ出力軸8の回転に基づいて回転駆動されるクラッチ入力部材10、および、クラッチ出力部材11を有する。逆入力遮断クラッチ5は、クラッチ入力部材10に回転トルクが入力された場合には、クラッチ入力部材10に入力された回転トルクをクラッチ出力部材11に伝達するのに対し、クラッチ出力部材11に回転トルクが逆入力された場合には、クラッチ出力部材11に逆入力された回転トルクをクラッチ入力部材10に伝達しない。
【0053】
スプリング調整機構22は、クラッチ出力部材11の回転に伴いスプリング2を上下方向に移動させるまたは回転させる。
【0054】
車高調整機構4は、モータ出力軸8を回転駆動することに基づいて、スプリング調整機構22により、スプリング2を上下方向に移動させるまたは回転させることで、車高を調整する。
【0055】
スプリング調整機構22は、スプリング2の種類、配置構造などに応じて、スプリング2を上下方向に移動させるまたは回転させるように構成される。具体的には、スプリング2がコイルスプリングにより構成される場合、スプリング調整機構22は、スプリング2を上下方向に移動させるように構成される。スプリング2がトーションバーにより構成される場合、スプリング調整機構22は、スプリング2を回転させるように構成される。
【0056】
本例では、スプリング2がコイルスプリングにより構成されている。また、スプリング2は、任意の構成要素として備えられたダンパ12の周囲に配置されている。より具体的には、スプリング2とダンパ12とは、略同軸に配置されている。
【0057】
ダンパ12は、車体Bと車輪Wとの間に、スプリング2と並列に配置されており、スプリング2の振動を吸収して緩和する。ダンパ12は、車輪Wに対して支持されたシリンダ13と、車体Bに対して支持され、かつ、シリンダ13に嵌装されたピストン14とを備える。
【0058】
シリンダ13は、円筒形状を有する。シリンダ13は、その内部にシリンダ空間15を有する。シリンダ空間15には、オイルが収容されている。シリンダ13の下側の端部は、ロアブラケット16を介して、車輪Wを支持するナックルに結合固定される。
【0059】
ピストン14は、ヘッド部17と、ロッド部18とを備える。
【0060】
ヘッド部17は、シリンダ空間15の内側に、上下方向の変位を可能に嵌装されている。
【0061】
ロッド部18は、ヘッド部17の上面から上側に向けて突出し、シリンダ13の上板部19を貫通する。ロッド部18の上側の端部は、車体Bに支持固定されるトップマウント20に結合固定されている。
【0062】
本開示の一態様の懸架装置を実施する場合、ダンパ12としては、単筒式と複筒式のいずれの構造も採用することができる。
【0063】
本例の懸架装置1は、シリンダ13に対して、上下方向の相対移動を可能に、かつ、相対回転を不能に支持されたスプリングシート21を備える。スプリングシート21は、シリンダ13の周囲に配置されている。
【0064】
本例では、スプリングシート21の内周面に備えられた凹溝60に、シリンダ13の外周面に備えられた凸部61を係合させることにより、スプリングシート21が、シリンダ13に対して、上下方向の相対移動を可能に、かつ、相対回転を不能に支持されている。なお、本開示の一態様の懸架装置を実施する場合、スプリングシートの内周面に備えられた凸部を、シリンダの外周面に備えられた凹溝に係合させることもできる。いずれの場合でも、凸部と凹溝との組み合わせは、円周方向1箇所にのみ設けることもできるし、円周方向複数箇所に設けることもできる。なお、凸部と凹溝とは省略することもできる。
【0065】
本例のスプリング調整機構22は、スプリングシート21を上下方向に移動させることにより、スプリング2を上下方向に移動させるように構成されている。具体的には、スプリング調整機構22は、クラッチ出力部材11の回転運動を、シリンダ13に対するスプリングシート21の上下方向運動に変換するように構成されている。
【0066】
スプリング調整機構22は、回転運動を直線運動に変換することができる限り、任意の構成とすることができる。たとえば、スプリング調整機構22は、滑りねじ機構やボールねじ機構などの送りねじ機構、駆動カムの回転に基づいて軸方向寸法を拡縮させるカム機構などにより構成されることができる。本例では、スプリング調整機構22は、ボールねじ機構により構成されている。
【0067】
スプリング調整機構22は、ナット23と、複数のボール24とを備える。
【0068】
ナット23は、内周面に、外径側ボールねじ溝26を有し、クラッチ出力部材11の回転に基づいて回転駆動される。外径側ボールねじ溝は、らせん状に形成されている。本例では、ナット23は、シリンダ13に対する上下方向の相対移動および相対回転を可能に、かつ、スプリングシート21と一体的な上下方向の移動を可能に支持されている。より具体的には、ナット23は、シリンダ13のうちでスプリングシート21よりも下側に位置する部分の周囲に、上下方向の相対移動および相対回転を可能に支持されている。スプリングシート21は、ナット23の上側の端面に、軸受27を介して載置されている。
【0069】
軸受27は、スプリングシート21とナット23との間のスラスト荷重を支承する機能を有する。当該機能を有する限り、その種類は特に限定されるものではなく、スラストニードル軸受などの転がり軸受、滑り軸受などにより構成されることができる。
【0070】
ナット23の周囲には、被駆動側ギヤ部28が備えられている。被駆動側ギヤ部28は、ナット23の外周面に直接あるいはナット23とは別の部材を介して形成される。
【0071】
被駆動側ギヤ部28は、中間軸29の周囲に備えられた駆動側ギヤ部30に噛合している。中間軸29は、電動モータ3のモータ出力軸8に、逆入力遮断クラッチ5を介してトルク伝達を可能に接続されている。
【0072】
具体的には、モータ出力軸8は、逆入力遮断クラッチ5のクラッチ入力部材10に結合固定されるか、あるいは、クラッチ入力部材10と一体に構成されている。中間軸29は、逆入力遮断クラッチ5のクラッチ出力部材11に結合固定されるか、あるいは、クラッチ出力部材11と一体に構成されている。
【0073】
複数のボール24は、シリンダ13の外周面またはシリンダ13に支持固定された部材の外周面に備えられた内径側ボールねじ溝25と、外径側ボールねじ溝26との間に転動可能に配置されている。本例では、内径側ボールねじ溝25は、シリンダ13の上下方向中間部外周面に備えられている。
【0074】
負荷路の始点と終点とは、ナット23の内周面に形成されるか、あるいは、ナット23に支持された循環部品に形成された循環路により接続されている。負荷路の終点まで達したボール24は、循環路を通って負荷路の始点まで戻される。負荷路の始点と終点とは、シリンダ13に対するナット23の移動方向に応じて入れ替わる。
【0075】
本例では、モータ出力軸8の回転が、スプリング調整機構22によってナット23の上下方向運動に変換され、ナット23とともにスプリングシート21を上下方向に移動させることにより、スプリングシート21の上下位置が調節可能となっている。
【0076】
制御器51は、電動モータ3を制御する。
【0077】
本例の懸架装置1を搭載した車両において、車高調整を行うには、制御器51からの指令に基づいて電動モータ3に通電し、モータ出力軸8を回転駆動する。モータ出力軸8の回転は、逆入力遮断クラッチ5を介して、中間軸29に伝達される。中間軸29の回転は、駆動側ギヤ部30と被駆動側ギヤ部28との噛合部を介して、ナット23に伝達される。ナット23の回転に伴い、複数のボール24が循環路を通じて循環しつつ負荷路を転動することで、シリンダ13に対してナット23が上下方向に移動する。
【0078】
ナット23が上下方向に移動すると、該ナット23の上側の端面に、軸受27を介して載置されたスプリングシート21が上下方向に移動する。スプリングシート21が上下方向に移動すると、スプリングシート21の上面に、スプリング2を介して載置されたトップマウント20が、ピストン14とともに上下方向に移動する。これにより、トップマウント20が結合固定された車体Bが上下方向に移動して、車高が調整される。
【0079】
車高が目標値に調整された後は、電動モータ3への通電を停止する。
【0080】
車輪Wを構成するタイヤの外周面が路面に接地した状態においては、車体Bや乗員の重量、スプリング2の弾力などに基づいて、スプリングシート21には、上下方向の力が加わる。この力により、ナット23が上下方向に移動しようすることに伴い、ナット23に回転トルクが加わる。ナット23に加わった回転トルクは、駆動側ギヤ部30と被駆動側ギヤ部28との噛合部を介して、中間軸29に伝達される。
【0081】
中間軸29は、クラッチ出力部材11に結合固定されるか、あるいは、クラッチ出力部材11と一体に構成されているため、中間軸29の回転トルクは、逆入力遮断クラッチ5により支承される。これにより、中間軸29およびナット23の回転が阻止され、スプリングシート21およびナット23の上下方向の移動も阻止される。この結果、電動モータ3への通電が停止されている状態においても、車高が一定に保持される。
【0082】
(逆入力遮断クラッチの構造の説明)
以下、本例の懸架装置1に適用可能な逆入力遮断クラッチ5の一例について、より詳細に説明する。ただし、本開示の一態様の懸架装置を実施する場合、逆入力遮断クラッチ5は、本例の構造に限定されるものではなく、上記の機能を有する限り、任意の構造を採用することができる。本例の逆入力遮断クラッチ5は、被押圧部材31と、クラッチ入力部材10と、クラッチ出力部材11と、係合子32とを備える。
【0083】
被押圧部材31は、内周面に被押圧面33を有する。本例では、被押圧面33は、軸方向に関して内径が変化しない円筒面により構成されている。
【0084】
被押圧部材31は、電動モータ3を収容するモータハウジングなどの固定部材に固定されるか、または、固定部材と一体に設けられて、その回転が拘束される。
【0085】
クラッチ入力部材10は、被押圧面33の径方向内側に配置された入力側係合部34を有し、被押圧面33と同軸に配置されている。
【0086】
入力側係合部34は、クラッチ入力部材10の回転中心Oから径方向外側に外れた部分に設けられ、係合子32の入力側被係合部45と係合可能な位置に配置される。入力側係合部34は、クラッチ入力部材10または係合子32の回転に伴って、入力側被係合部45と係合するように構成される。
【0087】
本例では、クラッチ入力部材10は、入力側係合部34のほかに、基板部35と、入力軸部36とを有する。
【0088】
基板部35は、軸方向から見て略円形の端面形状を有する。
【0089】
入力軸部36は、基板部35の軸方向一方側(図3の右側)の側面の中央部から軸方向一方側に向けて突出している。入力軸部36は、モータ出力軸8に結合固定されるか、あるいは、モータ出力軸8と一体に構成されている。
【0090】
入力側係合部34の個数は、係合子32の個数に応じて決定され、係合子32が複数の係合子32により構成される場合、入力側係合部34も複数の入力側係合部34により構成される。
【0091】
本例では、係合子32は、2つの係合子32により構成される。このため、入力側係合部34は、係合子32の個数に合わせて、2つの入力側係合部34により構成される。
【0092】
2つの入力側係合部34は、基板部35の軸方向他方側(図3の左側)の側面の径方向反対側2箇所位置に配置され、かつ、クラッチ入力部材10の径方向に関して互いに離隔している。
【0093】
それぞれの入力側係合部34は、周方向に関して対称な形状を有する。本例では、それぞれの入力側係合部34は、軸方向から見て、径方向外側に向かうほど周方向幅が大きくなる略扇形または略台形の端面形状を有する。
【0094】
具体的には、2つの入力側係合部34の径方向内側面37は、互いに平行な平坦面により構成される。
【0095】
2つの入力側係合部34の径方向外側面38は、部分円筒面により構成されている。本例では、それぞれの径方向外側面38は、基板部35の外径の半分の大きさの曲率半径を有する。すなわち、基板部35の外周面と、2つの入力側係合部34の径方向外側面38とは、同一の仮想円筒面上に存在している。
【0096】
それぞれの入力側係合部34の2つの周方向側面39は、径方向外側に向かうほど互いに離れる方向に傾斜した平坦面により構成されている。
【0097】
クラッチ出力部材11は、被押圧面33の径方向内側において入力側係合部34よりも径方向内側に配置された出力側係合部40を有し、被押圧面33と同軸に配置されている。すなわち、クラッチ出力部材11は、クラッチ入力部材10とも同軸に配置されている。
【0098】
出力側係合部40は、入力側係合部34よりも径方向内側で、かつ、クラッチ出力部材11の回転中心Oから径方向外側に外れた部分を有し、当該部分が、係合子32の出力側被係合部46と係合可能な位置に配置される。出力側係合部40は、クラッチ出力部材11または係合子32の回転に伴って、前記部分が出力側被係合部46と係合するように構成される。
【0099】
本例では、クラッチ出力部材11は、出力側係合部40のほか、出力軸部41を有する。出力軸部41は、中間軸29に結合固定されるか、あるいは、中間軸29と一体に構成されている。
【0100】
出力側係合部40のうちで係合子32の出力側被係合部と係合する部分の個数は、係合子32の個数に応じて決定され、係合子32が複数の係合子32により構成される場合、出力側係合部40は複数の前記係合する部分を有するように構成される。
【0101】
本例では、出力側係合部40は、係合子32の個数に合わせて、2つの出力側被係合部46と係合する部分を有するように構成されている。
【0102】
本例では、出力側係合部40は、軸方向から見て略矩形または略長円形の端面形状を有し、出力軸部41の軸方向一方側の端面の中央部から軸方向一方側に向けて突出している。すなわち、クラッチ出力部材11の回転中心Oから、出力側被係合部46と係合する部分である出力側係合部40の外周面までの距離は、周方向に関して一定でない。このため、出力側係合部40は、カム機能を有する。
【0103】
より具体的には、出力側係合部40の外周面は、互いに平行な2つの平坦面42と、それぞれが部分円筒面状の2つの凸曲面43とにより構成されている。2つの凸曲面43は、クラッチ出力部材11の回転中心Oを中心とする部分円筒面により構成されている。
【0104】
出力側係合部40は、クラッチ出力部材11の回転中心Oを含み、平坦面42に直交する第1の仮想平面に関して面対称であり、かつ、クラッチ出力部材11の回転中心Oを含み、平坦面42に平行な第2の仮想平面に関して面対称である。
【0105】
出力側係合部40は、2つの入力側係合部34の間部分に配置される。
【0106】
係合子32は、被押圧面33に対向する押圧面44と、入力側係合部34と係合可能な入力側被係合部45と、出力側係合部40と係合可能な出力側被係合部46とを有し、被押圧面33に対する遠近方向である第1方向の移動を可能に配置されている。
【0107】
係合子32は、クラッチ入力部材10に回転トルクが入力されると、入力側係合部34が入力側被係合部45に係合することに基づいて、第1方向に関して被押圧面33から離れる方向に移動し、出力側被係合部46を出力側係合部40に係合させることで、クラッチ入力部材10に入力された回転トルクをクラッチ出力部材11に伝達し、クラッチ出力部材11に回転トルクが逆入力されると、出力側被係合部46に出力側係合部40が係合することに基づいて、押圧面44を被押圧面33に押し付けて、押圧面44を被押圧面33に摩擦係合させるように構成されている。
【0108】
係合子32は、かかる構成を備えている限り、1つの係合子32により構成することもできるし、2つ以上の係合子32により構成することもできる。
【0109】
本例では、係合子32は、2つの係合子32により構成される。それぞれの係合子32が、係合子32としての機能を有する。それぞれの係合子32は、軸方向から見て略半円形の端面形状を有し、かつ、幅方向(図4に矢印Bで示す方向)に関して対称な形状を有する。以下、それぞれの係合子32の構成について説明する。
【0110】
本例では、係合子32に関して径方向とは、被押圧面33に対する押圧面44の遠近方向であり、図4において矢印Aで示す方向に相当する。係合子32に関して幅方向とは、被押圧面33に対する押圧面44の遠近方向とクラッチ入力部材10の軸方向との両方に直交する方向であり、図4において矢印Bで示す方向に相当する。本例では、係合子32に関する径方向が、第1方向に相当し、係合子32に関する幅方向が、第2方向に相当する。
【0111】
押圧面44は、被押圧面33に対向する係合子32の径方向外側面に備えられている。本例では、押圧面44は、係合子32の径方向外側面のうち、周方向に関して互いに離隔した2箇所位置に備えられた、2つの押圧面44により構成されている。それぞれの押圧面44は、被押圧面33の曲率半径よりも小さい曲率半径を有する部分円筒面状の凸曲面により構成されている。
【0112】
係合子32の径方向外側面のうち、2つの押圧面44から周方向に外れた部分は、軸方向から見た場合に、クラッチ入力部材10の中心軸Oを中心とし、かつ、2つの押圧面44に接する仮想円よりも、径方向内側に存在している。すなわち、2つの押圧面44が被押圧面33に当接した状態で、2つの押圧面44から周方向に外れた部分は、被押圧面33に当接しない。
【0113】
押圧面44は、係合子32のその他の部分よりも被押圧面33に対する摩擦係数が大きい表面性状を有することが好ましい。また、押圧面44は、係合子32のその他の部分と一体に構成することもできるし、係合子32のその他の部分に、貼着や接着などにより固定された摩擦材の表面により構成することもできる。
【0114】
本例では、入力側被係合部45は、係合子32の幅方向中央部の径方向中間部に備えられている。より具体的には、これに限定されないが、入力側被係合部45は、軸方向から見て略弓形の開口形状を有し、かつ、係合子32の幅方向中央位置の径方向中間部を軸方向に貫通する貫通孔により構成されている。
【0115】
入力側被係合部45は、入力側係合部34を緩く挿入できる大きさを有する。したがって、入力側被係合部45の内側に入力側係合部34を挿入した状態で、入力側係合部34と入力側被係合部45の内面との間には、係合子32の幅方向および径方向にそれぞれ隙間が存在する。このため、入力側係合部34は、入力側被係合部45に対し、クラッチ入力部材10の回転方向に関する変位が可能であり、入力側被係合部45は、入力側係合部34に対し、係合子32の径方向の変位が可能である。
【0116】
入力側被係合部45は、入力側係合部34と係合可能に構成されている限り、その形状については限定されない。これに限定されないが、本例では、入力側被係合部45は、径方向外側を向いた面に、係合子32の径方向内側面に設けられた平坦面部49と平行な平坦面47と、径方向内側を向いた面に、部分円筒面状の凹曲面48を有する。
【0117】
代替的に、入力側被係合部45を、係合子32の軸方向一方側の側面にのみ開口する有底孔、あるいは、入力側被係合部45を、係合子32の径方向外側面に開口する切り欠きにより構成することもできる。
【0118】
本例では、出力側被係合部46は、係合子32の径方向内側面の幅方向中央部に備えられている。出力側被係合部46は、出力側係合部40と係合可能に構成されている限り、その形状については限定されない。
【0119】
本例では、係合子32は、径方向内側面に、平坦面部49を有し、かつ、平坦面部49の幅方向2箇所位置に、径方向内側に向けて突出する2つの凸部50を有する。そして、出力側被係合部46は、平坦面部49のうち、幅方向に関して2つの凸部50の間に存在する部分により構成されている。これに限定されないが、出力側被係合部46の幅方向寸法、すなわち2つの凸部50の間隔は、出力側係合部40の平坦面42の幅方向寸法よりも大きくなっている。
【0120】
本例の逆入力遮断クラッチ5では、2つの係合子32の押圧面44を径方向に関して互いに反対側に向け、かつ、平坦面部49を互いに対向させた状態で、それぞれの係合子32を被押圧部材31の径方向内側に、それぞれの係合子32の径方向であり、被押圧面33に対する押圧面44の遠近方向に相当する第1方向の移動を可能に配置する。また、軸方向一方側に配置したクラッチ入力部材10の2つの入力側係合部34を、2つの係合子32のそれぞれの入力側被係合部45に軸方向に挿入し、かつ、軸方向他方側に配置したクラッチ出力部材11の出力側係合部40を、2つの係合子32の出力側被係合部46の間に軸方向に挿入する。すなわち、2つの係合子32は、それぞれの出力側被係合部46により、出力側係合部40を径方向外側から挟むように配置される。
【0121】
2つの係合子32を被押圧部材31の径方向内側に配置した状態で、被押圧面33と2つの押圧面44との間部分、および、2つの係合子の2つの凸部50が対向することにより構成される2対の凸部50のそれぞれの対を構成する凸部50の先端面同士の間部分の少なくとも一方に隙間が存在するように、被押圧部材31の内径寸法と係合子32の径方向寸法が規制されている。
【0122】
本例の逆入力遮断クラッチ5は、係合子32を、押圧面44を被押圧面33に対して近づける方向に弾性的に付勢する付勢部材52(図4にのみ図示)をさらに備えることができる。付勢部材52は、クラッチ入力部材10とクラッチ出力部材11とのいずれにもトルクが加わっていない中立状態において、係合子32の押圧面44が被押圧面33に接触するように、係合子32を、押圧面44を被押圧面33に対して近づける方向に弾性的に付勢する。
【0123】
付勢部材52は、これに限定されるものではないが、2つの係合子32の平坦面部49同士の間の幅方向2箇所位置に配置された、2つの付勢部材52により構成されることができる。より具体的には、2つの付勢部材52のそれぞれは、圧縮コイルばねにより構成され、2つの係合子32の平坦面部49同士の間で、弾性的に圧縮された状態で挟持されることができる。2つの付勢部材52のそれぞれは、前記2対のそれぞれの対を構成する凸部50の間に、長さ方向両側の端部の内側に凸部50を挿入することにより、その脱落が防止された状態で配置される。
【0124】
あるいは、付勢部材は、係合子32の平坦面部49と、クラッチ出力部材11との間に配置されることができる。この場合、付勢部材は、2つの係合子32の平坦面部49と、クラッチ出力部材11との間に配置された、2つの付勢部材により構成されることができる。具体的には、2つの付勢部材のそれぞれは、板ばねにより構成され、2つの係合子32に係止されることができる。
【0125】
(逆入力遮断クラッチの動作説明)
逆入力遮断クラッチ5の動作について、図5および図6を用いて説明する。なお、図5および図6は、クラッチ入力部材10およびクラッチ出力部材11と、2つの係合子32との間の径方向に関する隙間を誇張して示している。
【0126】
クラッチ入力部材10に回転トルクが入力されると、クラッチ入力部材10の回転方向に関係なく、2つの係合子32は被押圧面33から離れる方向に移動する。より具体的には、図5に示すように、入力側係合部34が入力側被係合部45の内側でクラッチ入力部材10の回転方向(図5の例では反時計方向)に回転する。これにより、入力側係合部34の径方向内側面37と入力側被係合部45の平坦面47との間の隙間を減少させ、入力側係合部34の径方向内側面37を入力側被係合部45の平坦面47に接触させる。
【0127】
この状態から、クラッチ入力部材10がさらに回転すると、径方向内側面37により平坦面47が径方向内側に向けて押圧され、係合子32が被押圧面33から離れる方向に移動する。すなわち、2つの係合子32が、クラッチ入力部材10との係合に基づき、互いに近づく方向である径方向内側に向けて移動して、2つの係合子32の径方向内側面37が互いに近づき、2つの係合子32の出力側被係合部46によりクラッチ出力部材11の出力側係合部40が径方向両側から挟持される。
【0128】
このように、出力側係合部40の平坦面42が係合子32の平坦面部49と平行になるようにクラッチ出力部材11を回転させつつ、出力側係合部40と係合子32の出力側被係合部46とをがたつきなく係合させる。この結果、クラッチ入力部材10に入力された回転トルクが、2つの係合子32を介して、クラッチ出力部材11に伝達され、該クラッチ出力部材11から出力される。
【0129】
クラッチ出力部材11に回転トルクが逆入力されると、クラッチ出力部材11の回転方向に関係なく、2つの係合子32は被押圧面33に近づく方向に移動する。より具体的には、図6に示すように、出力側係合部40が、2つの係合子32の出力側被係合部46同士の内側で、クラッチ出力部材11の回転方向(図6の例では時計方向)に回転する。出力側係合部40の外周面のうち、平坦面42と凸曲面43との接続部である角部により出力側被係合部46が径方向外側に向けて押圧され、2つの係合子32が被押圧面33に近づく方向に移動する。
【0130】
すなわち、2つの係合子32が、クラッチ出力部材11との係合に基づき、互いに離れる方向である径方向外側に向けて移動して、2つの係合子32の押圧面44が、被押圧面33に接触し、被押圧面33に対して摩擦係合する。この結果、クラッチ出力部材11に逆入力された回転トルクが完全に遮断されてクラッチ入力部材10に伝達されなくなる。
【0131】
本例の逆入力遮断クラッチ5では、以上の動作が可能となるように、各構成部材間の隙間の大きさが調整されている。特に、2つの係合子32の押圧面44が被押圧面33に接触した位置関係において、入力側係合部34の径方向内側面37と入力側被係合部45の平坦面47との間に、出力側係合部40の角部が出力側被係合部46を押圧することに基づいて押圧面44を被押圧面33に向けてさらに押し付けることを許容する隙間が存在するようにしている。
【0132】
これにより、クラッチ出力部材11に回転トルクが逆入力されたときに、係合子32の径方向外側への移動が入力側係合部34によって阻止されることが防止され、かつ、押圧面44が被押圧面33に接触した後も、押圧面44と被押圧面33との接触部に作用する面圧が、クラッチ出力部材11に逆入力された回転トルクの大きさに応じて変化するようにして、クラッチ出力部材11のロックが適正に行われるようにしている。
【0133】
本例の逆入力遮断クラッチ5では、クラッチ入力部材10およびクラッチ出力部材11の回転がいずれも、係合子32の径方向移動に変換される。逆入力遮断クラッチ5は、係合子32の径方向移動に伴い、係合子32が該係合子32の径方向内側に位置するクラッチ出力部材11に係合したり、係合子32が該係合子32の径方向外側に位置する被押圧部材31に押し付けられたりするように構成されている。すなわち、本例の逆入力遮断クラッチ5では、クラッチ入力部材10およびクラッチ出力部材11のそれぞれの回転によって制御される係合子32の径方向移動に基づき、クラッチ入力部材10からクラッチ出力部材11に回転トルクが伝達可能になるクラッチ出力部材11のロック解除状態と、クラッチ出力部材11の回転が防止されるクラッチ出力部材11のロック状態とが切り替えられる。このため、逆入力遮断クラッチ5の装置全体の軸方向寸法を短くできる。
【0134】
(逆入力遮断クラッチの各部の寸法関係の説明)
本例の逆入力遮断クラッチ5では、以下の関係を満たすように、クラッチ入力部材10、クラッチ出力部材11、および2つの係合子32を構成する各部の寸法および形状が規制されている。
【0135】
まず、クラッチ出力部材11の所定方向(たとえば図4の時計方向)への回転に伴い、係合子32の2つの押圧面44が被押圧面33に押し付けられ、かつ、クラッチ入力部材10の前記所定方向と反対方向(たとえば図4の反時計方向)への回転に伴い、入力側係合部34と入力側被係合部45とが係合した状態、すなわち入力側係合部34の一部が入力側被係合部45に接触した状態において、入力側係合部34と入力側被係合部45との接触部Pinと、クラッチ入力部材10の回転中心Oとの第2方向に関する距離である第1距離Dが、出力側係合部40と出力側被係合部46との接触部Poutと、クラッチ出力部材11の回転中心Oとの第2方向に関する第2距離Dよりも大きくなっている(D>D)。
【0136】
また、図6に示すように、クラッチ出力部材11に回転トルクが逆入力され、係合子32の2つの押圧面44が被押圧面33に接触したロック状態で、出力側係合部40と出力側被係合部46との接触部Cが、2つの押圧面44のうちの一方の押圧面44、具体的には、第2方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oよりも接触部Cに近い側の押圧面44と被押圧面33との当接部Cと、クラッチ出力部材11の回転中心Oとを結ぶ仮想直線Lよりも、第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oに近い側(図6の下側)に位置している。
【0137】
本例の逆入力遮断クラッチ5では、クラッチ出力部材11に所定方向(図7(A)および図7(B)の時計方向)のトルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10を前記所定方向と同じ方向に回転させることによるロック状態からロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。この理由について、図7(A)および図7(B)を参照しつつ説明する。
【0138】
逆入力遮断クラッチ5のロック状態において、クラッチ入力部材10にトルクが入力されると、2つの係合子32はそれぞれに、接触部Cを中心として回転する傾向となる。
【0139】
接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oから遠い側に位置する場合、図7(B)に示すように、クラッチ入力部材10に時計方向の回転トルクが入力されると、係合子32が接触部Cを中心に、時計方向に回転する傾向となる。接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oから遠い側に位置する場合、接触部Cと当接部Cとの間隔が比較的大きいため、図7(B)に一点鎖線で軌跡rを示すように、2つの押圧面44のうち、接触部Cに近い側(図7(B)の左側)に位置する一方の押圧面44が、被押圧面33に強く押し付けられて食い込む傾向となる。
【0140】
したがって、接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oから遠い側に位置する構造では、クラッチ出力部材11に所定方向のトルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10を前記所定方向と同じ方向に回転させることにより、逆入力遮断クラッチ5をロック状態からロック解除状態に切り換える際に、被押圧面33に対する一方の押圧面44の食い込みを解除する必要がある。この結果、クラッチ入力部材10を回転駆動するための電動モータ3の瞬時最大トルク(ピークトルク)が過大になってしまう。
【0141】
本例の逆入力遮断クラッチ5のように、接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oに近い側に位置する場合にも、図7(A)に示すように、クラッチ入力部材10に時計方向の回転トルクが入力されると、係合子32が接触部Cを中心に、時計方向に回転する傾向となる。接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oに近い側に位置する場合、接触部Cと当接部Cとの間隔が比較的小さいため、図7(A)に一点鎖線で軌跡r、rを示すように、2つの押圧面44はいずれも、被押圧面33に対して押し付けられることはない。
【0142】
したがって、接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oに近い側に位置する構造では、クラッチ出力部材11に所定方向のトルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10を前記所定方向と同じ方向に回転させることにより、逆入力遮断クラッチ5をロック状態からロック解除状態へ切り換える際にも、クラッチ入力部材10の回転トルクの瞬間的な増大を抑えることができる。このため、本例の逆入力遮断クラッチ5では、図7(B)に示した構造と比較して、クラッチ出力部材11に所定方向のトルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10を前記所定方向と同じ方向に回転させることによるロック状態からロック解除状態への切り換えを円滑に行うことができる。
【0143】
また、本例の逆入力遮断クラッチ5では、ロック解除状態からロック状態への切り換えを円滑に行うことができる。この理由について、図7(C)を参照して説明する。
【0144】
図7(C)は、クラッチ出力部材11に所定方向(図7(C)の時計方向)のトルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10に前記所定方向と逆方向(図7(C)の反時計方向)のトルクを付与している状態を示している。
【0145】
クラッチ入力部材10に反時計方向のトルクが入力されると、係合子32が接触部Cを中心に反時計方向に回転する傾向となる。そして、図7(C)に一点鎖線rで示すように、2つの押圧面44のうち、第2方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oを挟んで接触部Cと反対側(図7(C)の右側)に位置する他方の押圧面44が、被押圧面33に押し付けられる傾向となる。
【0146】
したがって、本例の逆入力遮断クラッチ5では、クラッチ出力部材11に所定方向のトルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10に前記所定方向と逆方向のトルクを付与することで、クラッチ入力部材10からクラッチ出力部材11にトルクを伝達するロック解除状態から、ロック状態に切り換える際に、押圧面44を被押圧面33に押し付けるために必要な係合子32の第2方向に関する移動量が比較的小さく抑えられる。このため、本例の逆入力遮断クラッチ5では、ロック解除状態からロック状態への切り換えを速やかに行うことができる。
【0147】
ただし、本開示の一態様の懸架装置を実施する場合、逆入力遮断クラッチ5として、第1距離Dが第2距離Dよりも大きく、かつ、接触部Cが、仮想直線Lよりも第1方向に関してクラッチ出力部材11の回転中心Oから遠い側に位置する逆入力遮断クラッチを使用することもできる。あるいは、逆入力遮断クラッチ5として、第1距離Dが第2距離Dよりも小さい逆入力遮断クラッチを使用することもできる。
【0148】
(逆入力遮断クラッチでのジャーキング現象の発生を防止するための機能の説明)
本例の懸架装置1では、車高調整を円滑に行うために、制御器51は、逆入力遮断クラッチ5でのジャーキング現象の発生を防止する機能を有する。換言すれば、制御器51は、車高を調整する際に、クラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルクの方向と、クラッチ入力部材10を回転させる方向とが同じ場合であって、クラッチ入力部材10の回転数が、ジャーキング現象が発生しやすい所定の閾値以下の回転数域にある場合に、当該回転数域を速やかに通過できるように、電動モータ3を制御する機能を有する。
【0149】
まず、ジャーキング現象が発生するメカニズムについて説明する。
【0150】
懸架装置1では、車体Bや乗員の重量およびスプリング2の弾力に基づいて、クラッチ出力部材11に、該クラッチ出力部材11を回転させようとする力(回転トルク)が加わる。
【0151】
本例の懸架装置1のように、コイルスプリングにより構成されたスプリング2を上下方向に移動させることにより車高を調整する懸架装置では、車両のジャッキアップ中などを除いた通常状態において、車体Bや乗員の重量、スプリングの弾力などに基づき、スプリングシート21に下向きの力が常に加わり、この力に基づいて、クラッチ出力部材11には、所定方向(たとえば図8(A)~図8(C)の時計方向)の回転トルクが常に加わる。したがって、本例の懸架装置では、車体Bや乗員の重量に基づいてクラッチ出力部材11に逆入力される回転トルクの方向は、車高を下げる際に、クラッチ入力部材10に付与するトルクの方向と一致する。
【0152】
本例の懸架装置1において、車高を下げる際には、図8(A)から図8(B)の順に示すように、モータ出力軸8を回転駆動することで、クラッチ入力部材10を前記所定方向に回転させる。このとき、クラッチ出力部材11の回転数がクラッチ入力部材10の回転数よりも大きいと、図8(B)から図8(C)の順に示すように、出力側係合部40により出力側被係合部46が径方向外側に向けて押され、押圧面44が被押圧面33に対して摩擦係合し、クラッチ入力部材10およびクラッチ出力部材11の回転がロックされる。
【0153】
この状態においても、クラッチ入力部材10には、モータ出力軸8からのトルクが入力されているため、次の瞬間には、図8(B)に示すように、逆入力遮断クラッチ5がロック状態からロック解除状態に切り換わる。
【0154】
このように、クラッチ出力部材11にトルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10に、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向と同じ方向のトルクが入力されると、クラッチ入力部材10とクラッチ出力部材11との間でのトルクの伝達が可能なロック解除状態と、クラッチ入力部材10とクラッチ出力部材11との間でのトルクの伝達が不能なロック状態とを短時間で交互に繰り返しながら、クラッチ入力部材10およびクラッチ出力部材11が断続的に回転するジャーキング現象が発生する場合がある。
【0155】
制御器51は、クラッチ出力部材11に前記所定方向の回転トルクが逆入力されることにより逆入力遮断クラッチ5がロックしている状態から、車高を、クラッチ入力部材10をクラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルク(逆入力トルク)の方向と同じ方向に回転させる方向に調整する制御を開始する際に、モータ出力軸8を第1回転加速度aで起動し、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の第1の閾値Tよりも大きくなった段階で、モータ出力軸8の回転加速度を、第1回転加速度aよりも小さい第2回転加速度aに切り換える第1の機能を実行することにより、前記制御の初期段階におけるジャーキング現象の発生を防止することが可能になっている。
【0156】
前記制御の初期段階とは、電動モータ3の起動直後からクラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の第1の閾値Tとなるまでの段階である。所定の第1の閾値Tは、逆入力遮断クラッチ5でのジャーキング現象の発生の防止に十分なクラッチ入力部材10の回転数Rinであり、予め実験や計算により求められる。
【0157】
第1回転加速度aおよび第2回転加速度aのそれぞれは、予め設定された所定値とすることもできるし、現在の車高や目標の車高などに応じて、その都度決定することもできる。
【0158】
第1回転加速度aは、ジャーキング現象が発生しやすい回転数域を速やかに通過する面から、モータ出力軸8の回転加速度を調整可能な範囲でできる限り大きくすることが好ましい。
【0159】
第2回転加速度aは、乗員に違和感を与えることを防止するなどの面から、駆動側ギヤ部30と被駆動側ギヤ部28との間の減速比などに応じて、適切な値に設定される。
【0160】
制御器51は、モータ出力軸8の起動から車高を目標値に調整する制御の終了までの間、モータ出力軸8を、モータ出力軸8の回転数が目標値となるように制御する速度制御、または、モータ出力軸8の回転位置が目標位置となるように制御する位置制御により制御するように構成されることができる。すなわち、制御器51は、モータ出力軸8の起動から、クラッチ入力部材10のRinが所定の第1の閾値T以下の範囲では、モータ出力軸8を、回転加速度を第1回転加速度aとして、速度制御または位置制御により制御し、かつ、クラッチ入力部材10のRinが所定の第1の閾値Tよりも大きくなった後は、回転加速度を第2回転加速度aとして、速度制御または位置制御により制御する。
【0161】
あるいは、制御器51は、モータ出力軸8の起動から、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の第1の閾値T以下の範囲では、モータ出力軸8を、モータ出力軸8の回転トルクが目標値となるように制御するトルク制御により制御し、かつ、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の第1の閾値Tよりも大きくなった後は、モータ出力軸8を速度制御または位置制御により制御するように構成されることができる。
【0162】
トルク、位置、速度などを制御可能なサーボモータにより構成される電動モータ3では、一般的に、モータ出力軸8をトルク制御により制御した場合、モータ出力軸8を速やかに目標値にするために、モータ出力軸8は、速度制御または位置制御により制御する場合に比べて大きな回転加速度で回転駆動される。したがって、モータ出力軸8がトルク制御により制御される、モータ出力軸8の起動から、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の第1の閾値T以下の範囲での回転加速度aは、モータ出力軸8が速度制御または位置制御により制御される、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の第1の閾値Tよりも大きくなった後の回転加速度aよりも大きくなる。
【0163】
追加的あるいは代替的に、制御器51は、車高を調整する制御の終了段階であって、クラッチ入力部材10の回転数Routが、所定の第2の閾値T以下になった段階で、クラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルク(逆入力トルク)の方向と、クラッチ入力部材10の回転方向とが同じである場合に、クラッチ入力部材10の回転数Rinの目標値を0にする第2の機能を有する。
【0164】
前記制御の終了段階とは、車高が目標値に近づいてから、クラッチ入力部材10の回転数を0まで低下させるまでの段階、すなわちクラッチ入力部材10が停止するまでの段階である。
【0165】
なお、車高が目標値に近づいた状態とは、たとえば、目標の車高までにスプリングシート21が移動すべき残りの移動量が所定量以下になった状態である。この所定量は、クラッチ入力部材10の減速中にスプリングシート21が移動する量である。
【0166】
また、所定の第2の閾値Tは、逆入力遮断クラッチ5でのジャーキング現象の発生の防止に十分なクラッチ入力部材10の回転数Rinであり、予め実験や計算により求められる。所定の第2の閾値Tは、所定の第1の閾値Tと同じとすることもできるし、所定の第1の閾値Tと異ならせることもできる。
【0167】
本例の懸架装置1では、制御器51は、第1の機能と第2の機能との両方を備える。また、本例では、所定の第1の閾値Tと所定の第2の閾値Tとは、互いに同じ閾値Tである。
【0168】
具体的には、コイルスプリングにより構成されたスプリング2を上下方向に移動させることにより車高を調整する本例の懸架装置1では、車高を下げる制御を行う際に、モータ出力軸8の起動から、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下の範囲では、モータ出力軸8をトルク制御により制御し、かつ、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値Tよりも大きくなった後は、モータ出力軸8を速度制御または位置制御により制御する。
【0169】
ただし、本例のように、コイルスプリングにより構成されたスプリング2を上下方向に移動させることにより車高を調整する懸架装置1において、車高を下げる制御を行う際に、モータ出力軸8の起動から、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下の範囲では、モータ出力軸8を、回転加速度を第1回転加速度aとして、速度制御または位置制御により制御し、かつ、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の第1の閾値Tよりも大きくなった後は、回転加速度を、第1回転加速度aよりも小さい第2回転加速度aに切り換え、速度制御または位置制御により制御することもできる。
【0170】
また、車高を下げる制御の終了段階であって、クラッチ入力部材10の回転数Rinが前記所定の閾値T以下になった段階で、クラッチ入力部材10の回転数Rinの目標値を0にする。
【0171】
本例の懸架装置1により、車高を下げる制御を実施する手順について、図9のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0172】
まず、S1において、車高を下げる制御であるか否かを判定する。この判定は、運転者によるスイッチの操作などに基づいて行うことができる。
【0173】
S1において、車高調整制御が、車高を下げる制御ではない、すなわち車高を上げる制御であると判定された場合には、S1-1に進み、速度制御または位置制御で車高を目標値に調整した後、終了する。
【0174】
S1において、車高調整制御が、車高を下げる制御であると判定された場合には、S2に進み、モータ出力軸8を、クラッチ入力部材10をトルク制御で起動する。
【0175】
トルク制御の目標値は、たとえば、懸架装置1がストロークセンサを有する場合には、ストロークセンサの出力値に基づいて、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの値を算出し、当該値に基づいて目標値を求めることができる。
【0176】
あるいは、電動モータ3が、ステッピングモータのように、モータ出力軸8の回転位置を検出可能なモータにより構成される場合、モータ出力軸8の回転位置に基づいて、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの値を算出し、当該値に基づいて目標値を求めることができる。
【0177】
あるいは、トルク制御の目標値は、懸架装置1が、クラッチ出力部材11の回転トルクを測定するためのトルクセンサを有する場合には、トルクセンサにより求めたクラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの値に基づいて目標値を求めることができる。
【0178】
いずれにしても、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの値と目標値との関係は、予め実験や計算により求められ、マップ、式などとして制御器51のメモリに保存される。あるいは、目標値は、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの値と所定値との積とすることができる。前記所定値は、これに限定されるものではないが、たとえば、0.3以上0.5以下とすることができる。
【0179】
懸架装置1が、ストロークセンサおよびトルクセンサのいずれも備えておらず、かつ、電動モータ3が、モータ出力軸8の回転位置を検出可能なモータにより構成されていない場合には、まず、トルク制御の目標値は、車両の諸元に応じた必要最小限のトルクに設定される。その後、逆入力遮断クラッチ5がロック解除状態に切り換わるまで、クラッチ入力部材10に付与するトルクを少しずつ上昇させる。逆入力遮断クラッチ5がロック解除状態に切り換わった段階で、クラッチ入力部材10に付与するトルクの値をホールドする。
【0180】
逆入力遮断クラッチ5がロック解除状態に切り換わったか否かは、電動モータ3の電流値により判定することができる。すなわち、逆入力遮断クラッチ5がロック状態からロック解除状態に切り換わると、電動モータ3の電流値は減少する。
【0181】
次に、S3では、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値Tよりも大きいか否かを判定する。クラッチ入力部材10の回転数Rinは、たとえば、クラッチ入力部材10もしくはクラッチ出力部材11、またはモータ出力軸8の周囲に設けられた速度センサにより求めることができる。あるいは、回転数Rinは、車高を測定するためのストロークセンサの出力値の微分値、または、クラッチ入力部材10、クラッチ出力部材11、若しくはモータ出力軸8の回転角度を測定するための角度センサの微分値に基づいて求めることもできる。
【0182】
S3において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下である(Rin≦T)と判定された場合には、トルク制御を継続して行い、クラッチ入力部材10の回転数Rinをさらに上昇させた後、S3に戻る。
【0183】
S3において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値Tよりも大きい(Rin>T)と判定された場合には、S4に進み、モータ出力軸8の制御モードを、トルク制御から速度制御または位置制御に切り換える。
【0184】
次に、S5において、車高が目標値であるか否かを判定する。この判定は、ストロークセンサの出力信号、モータ出力軸8の回転位置などに基づいて行うことができる。
【0185】
S5において、車高が目標値ではないと判定された場合には、車高を下げる制御を継続して行い、所定時間経過後、S5に戻る。
【0186】
S5において、車高が目標値であると判定された場合、S6に進み、モータ出力軸8の制御モードを速度制御または位置制御に維持したまま、モータ出力軸8の回転数を減少させ、クラッチ入力部材10の回転数Rinを減少させる。
【0187】
次に、S7では、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下であるかを判定する。
【0188】
S7において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値Tよりも大きいと判定された場合には、さらにクラッチ入力部材10の回転数Rinを減少させ、所定時間経過後、S7に戻る。
【0189】
S7において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下であると判定された場合には、S8に進み、クラッチ入力部材10の回転数Rinの目標値を0にする。具体的には、制御器51により、電動モータ3の停止を指示する。
【0190】
本例の懸架装置1では、第1の機能により、車高を下げる制御の初期段階において、モータ出力軸8をトルク制御で回転駆動するため、図10にIで範囲を示すように、クラッチ入力部材10の回転数Rinを、逆入力遮断クラッチ5においてジャーキング現象が発生しにくい所定の閾値Tよりも大きい回転数域まで速やかに上昇させることができる。したがって、車高を下げる制御の初期段階におけるジャーキング現象の発生を防止できて、円滑な車高調整を行うことができる。
【0191】
車高を下げる制御の初期段階において、モータ出力軸8を速度制御または位置制御で回転駆動すると、図10に二点鎖線αで記載するように、クラッチ入力部材10の回転数Rinの上昇が、モータ出力軸8をトルク制御で回転駆動する場合よりも緩やかとなる。このため、クラッチ入力部材10の回転数Rinが、ジャーキング現象が発生しやすい閾値T以下の回転数域に存在する時間が長くなって、ジャーキング現象が発生しやすくなる。
【0192】
また、本例の懸架装置1によれば、第2の機能により、図10にEで範囲を示すように、車高を下げる制御の終了段階におけるクラッチ入力部材10の回転数Rinの低下中に、クラッチ入力部材10の回転数Rinを、逆入力遮断クラッチ5でジャーキング現象が発生しやすい閾値T以下の回転数域を速やかに通過させて0にすることができる。このため、車高を下げる段階におけるジャーキング現象の発生を防止できて、円滑な車高調整を行うことができる。
【0193】
車高を下げる制御の終了段階において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが閾値T以下になった段階で、クラッチ入力部材10の回転数Rinの目標値を0にすることなく、そのままクラッチ入力部材10の回転数Rinを減少させると、図10に二点鎖線βで示すように、クラッチ入力部材10の回転数Rinの減少が緩やかとなる。このため、クラッチ入力部材10の回転数Rinが、ジャーキング現象が発生しやすい所定の閾値T以下の回転数域に存在する時間が長くなって、ジャーキング現象が発生しやすくなる。
【0194】
特に、本例の懸架装置1では、逆入力遮断クラッチ5として、ロック解除状態からロック状態への切り換えを速やかに行うことができる構成を有する逆入力遮断クラッチを使用しており、クラッチ入力部材10の回転数が所定の閾値T以下の回転数域でジャーキング現象が生じやすい。このため、第1の機能および/または第2の機能を備えることによる効果が顕著である。
【0195】
モータ出力軸8の回転数が0になり、クラッチ入力部材10へのトルク入力がなくなると、逆入力遮断クラッチ5はロック状態に切り換わり車高が維持される。
【0196】
なお、本例の懸架装置1を搭載した車両において車高を上げる車高調整制御を行う場合には、クラッチ入力部材10に付与するトルクの方向は、車体Bや乗員の重量、スプリング2の弾力などに基づいてクラッチ出力部材11に逆入力される回転トルクの方向とは逆方向になる。このため、車高を上げる車高調整制御を行う場合には、ジャーキング現象が発生することはない。
【0197】
(電動モータのピークトルクを抑えるための機能の説明)
制御器51は、電動モータ3のピークトルクを抑えるための機能を有する。
【0198】
具体的には、制御器51は、クラッチ出力部材11に回転トルク(逆入力トルク)が逆入力されることにより逆入力遮断クラッチ5がロックしている状態から、車高を所望の高さに調整するためにクラッチ入力部材10を回転させる際に、クラッチ入力部材10を回転させるべき方向が、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向(逆入力トルクの方向)と逆方向である場合に、クラッチ入力部材10を、逆入力トルクの方向に極短い所定時間だけ回転駆動した後、クラッチ入力部材10を、逆入力トルクの方向と逆方向に回転させる機能を有する。
【0199】
前記極短い所定時間は、クラッチ入力部材10を逆入力トルクの方向に回転駆動することに基づいて、逆入力遮断クラッチ5をロック状態からロック解除状態に切り換えることができるだけの時間である。具体的には、前記極短い所定時間は、クラッチ入力部材10を逆入力トルクの方向に回転駆動することに基づいて、逆入力遮断クラッチ5をロック状態からロック解除状態に切り換えることができる範囲で、できるだけ短い時間とすることが好ましい。より具体的には、前記極短い所定時間は、これに限定されるものではないが、0.001秒以上0.02秒以下とすることができ、好ましくは0.001秒以上0.01秒以下とすることができる。
【0200】
本例では、前記極短い所定時間は、クラッチ入力部材10を、逆入力トルクの方向に回転させることに基づいて、押圧面44を被押圧面33から離隔させられるだけの時間である。
【0201】
本例の逆入力遮断クラッチ5では、ロック状態において、押圧面44が被押圧面33に強く押し付けられて食い込む傾向となる。このため、ロック状態からロック解除状態への切り換え時には、被押圧面33に対する押圧面44の食い込みを解除する必要がある。
【0202】
特に、クラッチ出力部材11に回転トルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10を、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向と逆方向に回転駆動することでロック状態からロック解除状態に切り換える場合、クラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルクに基づいて係合子32に付与されている押圧面44を被押圧面33に近づける方向の力に抗しつつ、被押圧面33に対する押圧面44の食い込みを解除する必要がある。したがって、電動モータ3に要求される出力トルクの大きさは、クラッチ出力部材11に回転トルクが逆入力されている状態で、クラッチ入力部材10を、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向と逆方向に回転駆動することでロック状態からロック解除状態に切り換える場合に最も大きくなる。
【0203】
具体的には、これに限定されるものではないが、本例の逆入力遮断クラッチ5をロック解除状態に切り換えた後の状態において、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向と逆方向にクラッチ入力部材10を回転させるために必要なトルクτは、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向と逆方向にクラッチ入力部材10を回転させることで逆入力遮断クラッチ5をロック解除状態に切り換えるために必要なトルクτUNの20%以上80%以下である。
【0204】
コイルスプリングにより構成されたスプリング2を上下方向に移動させることにより車高を調整する本例の懸架装置1では、車高を上げる制御を行う場合に、クラッチ入力部材10を回転させるべき方向が、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向と逆方向となる。
【0205】
このため、本例の懸架装置1では、制御器51は、車高を上げる際に、クラッチ入力部材10を、車体や乗員の重量に基づいてクラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向と同じ方向に回転駆動して押圧面44を被押圧面33から離隔させた後、クラッチ入力部材10の回転方向を逆転させる。したがって、車高を上げるために、電動モータ3に通電して逆入力遮断クラッチ5をロック状態からロック解除状態に切り換える際にも、電動モータ3に要求される出力トルクが過大になることを防止でき、電動モータ3の小型化を図ることができる。
【0206】
なお、電動モータ3のピークトルクを抑えるための制御の実行中においては、モータ出力軸8は、速度制御もしくは位置制御により制御することもできるし、トルク制御により制御することもできる。
【0207】
[第2例]
本開示の実施の形態の第2例について、図11および図12を用いて説明する。
【0208】
本例の懸架装置1aでは、スプリング2aは、棒状に構成され、かつ、ねじり方向の弾力を発生させるトーションバーにより構成されている。また、車高調整機構4aは、クラッチ出力部材11の回転に伴いスプリング2aを回転させるスプリング調整機構22aを備える。
【0209】
スプリング2aは、その中心軸が、車体Bの底面と略平行になるように、かつ、その中心軸を中心とする回転を可能に、車体Bに対して支持されている。より具体的には、スプリング2aは、その中心軸を略幅方向に向けるように、かつ、その中心軸を中心とする回転を可能に、車体Bの下側部分に支持されている。
【0210】
スプリング調整機構22aは、クラッチ出力部材11を直接、または、減速機53を介してスプリング2aに結合固定することにより構成されている。
【0211】
本例では、スプリング調整機構22aは、クラッチ出力部材11を減速機53を介して、スプリング2aに結合固定することにより構成されている。具体的には、減速機53の出力軸56は、スプリング2aの幅方向内側(図11の右側)の端部である車体側端部6aに結合固定されており、かつ、減速機53の入力軸57は、逆入力遮断クラッチ5のクラッチ出力部材11に結合固定されるか、あるいは、クラッチ出力部材11と一体に構成されている。また、電動モータ3aのモータ出力軸8aは、逆入力遮断クラッチ5のクラッチ入力部材10に結合固定されるか、あるいは、クラッチ入力部材10と一体に構成されている。
【0212】
減速機53の種類は、特に限定されるものではない。たとえば、減速機53は、平行軸歯車減速機、ウォーム減速機、遊星歯車減速機、ベルト減速機などにより構成されることができる。
【0213】
車高調整機構4aは、スプリング2aに結合固定され、該スプリング2aの回転に伴い、車輪Wを支持するナックル55を上下方向に移動させるように構成されたレバー54をさらに備える。
【0214】
レバー54の基端部(図11の右側の端部)は、スプリング2aの幅方向外側(図11の左側)の端部である車輪側端部7aに結合固定されている。レバー54の先端部(図11の左側の端部)は、ナックル55に対し、略幅方向を向いた枢軸を中心とする揺動を可能に支持されている。
【0215】
レバー54の先端部は、基端部に対して前後方向に外れた位置に配置されている。このため、スプリング2aを回転させることにより、レバー54の先端部を、該レバー54の基端部を中心に揺動させると、ナックル55が上下方向に移動する。本例では、レバー54のうち、基端側部分が略前後方向に伸長し、かつ、先端側部分が前側に向かうほど幅方向外側に向かう方向に伸長している。
【0216】
ナックル55は、2つのアーム58a、58bにより、車体Bに対し、上下方向の移動を可能に支持されている。アッパ側のアーム58aは、その基端部を車体Bに、略前後方向を向いた枢軸を中心とする揺動を可能に支持し、かつ、その先端部をナックル55の上側部分に、略前後方向を向いた枢軸を中心とする揺動を可能に支持している。ロア側のアーム58bは、その基端部を、ダンパ12aを介して車体Bに、略前後方向を向いた枢軸を中心とする揺動を可能に支持し、かつ、その先端部をナックル55の下側部分に、略前後方向を向いた枢軸を中心とする揺動を可能に支持している。
【0217】
本開示の一態様の懸架装置および本開示の一態様の懸架装置の制御方法を実施する場合、トーションバーにより構成されるスプリングを、その中心軸を略前後方向に向けるように、かつ、その中心軸を中心とする回転を可能に、車体に支持することもできる。この場合、スプリングの回転に伴い、ナックルを支持するアームを基端部を中心に揺動させることで、車高を調整可能に構成することができる。
【0218】
懸架装置1aは、スプリング2aとは別に、ロア側のアーム58bの基端部と車体Bとの間に、ダンパ12aと並列に配置されたスプリング59を備えることもできる。本例の懸架装置1aは、コイルスプリングにより構成されたスプリング59を備える。
【0219】
本例の懸架装置1aを搭載した車両において、車高調整を行うには、電動モータ3に通電してモータ出力軸8を回転駆動し、減速機53を介してスプリング2aを回転させる。これにより、レバー54の先端部を、該レバー54の基端部を中心に揺動させ、ナックル55を上下方向に移動させることにより、該ナックル55に支持された車輪Wを車体Bに対して上下方向に移動させる。
【0220】
本例の懸架装置1aでは、車体Bや乗員の重量とスプリング2の弾力との不均衡により、クラッチ出力部材11に、該クラッチ出力部材11を回転させようとする力(回転トルク)が加わる。
【0221】
具体的には、クラッチ出力部材11に逆入力される回転トルクの方向は、車高が、車体Bや乗員の重量とスプリング2の弾力とが釣り合う高さである中立位置よりも高い場合には、車輪W側からクラッチ出力部材11に逆入力される回転トルクの方向は、車高を下げるべく、クラッチ入力部材10を回転させるべき方向と同じ方向になる。これに対し、車高が、前記中立位置よりも低い場合には、車輪W側からクラッチ出力部材11に加わる回転トルクの方向は、車高を上げるべく、クラッチ入力部材10を回転させるべき方向と同じ方向になる。
(逆入力遮断クラッチでのジャーキング現象の発生を防止するための機能の説明)
【0222】
本例の懸架装置1aにおいても、制御器51は、逆入力遮断クラッチ5でのジャーキングの発生を防止する第1の機能および第2の機能を有する。
【0223】
具体的には、本例の懸架装置1aでは、車高を、クラッチ入力部材10をクラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルクの方向と同じ方向に回転させる方向に調整する際に、モータ出力軸8の起動から、クラッチ入力部材10のRinが所定の第1の閾値T以下の範囲では、モータ出力軸8を、回転加速度を第1回転加速度aとして、速度制御または位置制御により制御し、かつ、クラッチ入力部材10のRinが所定の第1の閾値Tよりも大きくなった後は、回転加速度を、第1回転加速度aよりも小さい第2回転加速度aとして、速度制御または位置制御により制御する。
【0224】
ただし、本例のように、トーションバーにより構成されたスプリング2aを回転させることにより車高を調整する懸架装置1aにおいて、車高を、クラッチ入力部材10をクラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルクの方向と同じ方向に回転させる方向に調整する際に、モータ出力軸8の起動から、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T未満の範囲では、モータ出力軸8をトルク制御により制御し、かつ、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以上になった段階から、車高を目標値に調整する制御の終了までの間、モータ出力軸8を速度制御または位置制御により制御することもできる。
【0225】
また、車高を調整する制御の終了段階であって、クラッチ入力部材10の回転数Rinが前記所定の閾値T以下になった段階で、逆入力トルクの方向とクラッチ入力部材10の回転方向とが同じである場合に、クラッチ入力部材10の回転数Rinの目標値を0にする。
【0226】
本例の懸架装置1aにより、車高を調整する制御を実施する手順について、図12のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0227】
まず、S1において、車高を、所望の高さに調整するために、クラッチ入力部材10を回転させるべき方向が、車体Bや乗員の重量とスプリング2との不均衡により、クラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルク(逆入力トルク)の方向と同じであるか否かを判定する。
【0228】
この判定は、ストロークセンサの出力信号などに基づいて取得されるその時点での車高、重量センサにより取得した乗員や積載物などの重量、運転者によるスイッチの操作などに基づいて行うことができる。
【0229】
S1において、クラッチ入力部材10を回転させるべき方向が、逆入力トルクの方向と異なると判定された場合には、S1-1に進み、モータ出力軸8を第2回転加速度aで起動し、速度制御または位置制御で車高の調整を開始した後、S7に進む。
【0230】
S1において、クラッチ入力部材10を回転駆動すべき方向が、逆入力トルクの方向と同じであると判定された場合には、S2に進み、モータ出力軸8を第1回転加速度aで起動する。
【0231】
次に、S3では、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値Tよりも大きいか否かを判定する。
【0232】
S3において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下である(Rin≦T)と判定された場合には、モータ出力軸8の回転加速度をaとしたまま、クラッチ入力部材10の回転数Rinをさらに上昇させた後、S3に戻る。
【0233】
S3において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値Tよりも大きい(Rin>T)と判定された場合には、S4に進み、モータ出力軸8の回転加速度を、aよりも小さいaに切り換える。
【0234】
次に、S5において、車高が目標値であるか否かを判定する。この判定は、ストロークセンサの出力信号、モータ出力軸8の回転位置などに基づいて行うことができる。
【0235】
S5において、車高が目標値ではないと判定された場合には、車高を調整する制御を継続して行い、所定時間経過後、S5に戻る。
【0236】
S5において、車高が目標値であると判定された場合、S6に進み、モータ出力軸8の回転数を減少させ、クラッチ入力部材10の回転数Rinを減少させる。
【0237】
次に、S7では、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下であるかを判定する。
【0238】
S7において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値Tよりも大きいと判定された場合には、さらにクラッチ入力部材10の回転数Rinを減少させ、所定時間経過後、S7に戻る。
【0239】
S7において、クラッチ入力部材10の回転数Rinが所定の閾値T以下であると判定された場合には、S8に進み、クラッチ入力部材10の回転方向が、車体Bや乗員の重量とスプリング2の弾力との不均衡により、クラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルク(逆入力トルク)の方向と同じであるかを判定する。逆入力トルクの方向は、ストロークセンサの出力信号などに基づいて取得されるその時点での車高、重量センサにより取得した乗員や積載物などの重量などに基づいて求めることができる。
【0240】
S8において、クラッチ入力部材10の回転方向が逆入力トルクの方向と異なると判定された場合、クラッチ入力部材10の回転数Rinをそのままの減速度で減少させ、クラッチ入力部材10の回転数Rinを0とした後、終了する。
【0241】
S8において、クラッチ入力部材10の回転方向が逆入力トルクの方向であると判定された場合、S9に進み、クラッチ入力部材10の回転数Rinの目標値を0にする。具体的には、制御器51により、電動モータ3の停止を指示する。
【0242】
本例の懸架装置1aにおいても、第1の機能により、車高を、クラッチ入力部材10をクラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルクの方向と同じ方向に回転させる方向に調整する制御の初期段階において、モータ出力軸8を第1回転加速度aで起動している。このため、クラッチ入力部材10の回転数Rinを、逆入力遮断クラッチ5においてジャーキング現象が発生しにくい所定の閾値Tよりも大きい回転数域まで速やかに上昇させることができる。したがって、車高を調整する制御の初期段階におけるジャーキング現象の発生を防止できて、円滑な車高調整を行うことができる。
【0243】
また、本例の懸架装置1aによれば、第2の機能により、車高を調整する制御の終了段階であって、クラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルクの方向と、クラッチ入力部材10の回転方向とが同じ場合に、クラッチ入力部材10の回転数Rinを、逆入力遮断クラッチ5でジャーキング現象が発生しやすい閾値T以下の回転数域を速やかに通過させて0にすることができる。このため、車高を下げる段階におけるジャーキング現象の発生を防止できて、円滑な車高調整を行うことができる。
【0244】
(電動モータのピークトルクを抑えるための機能の説明)
また、本例の懸架装置1aにおいても、制御器51は、電動モータ3のピークトルクを抑えるための機能を有する。
【0245】
本例では、制御器51は、クラッチ出力部材11に回転トルク(逆入力トルク)が逆入力されることにより逆入力遮断クラッチ5がロックしている状態から、車高を所望の高さに調整するためにクラッチ入力部材10を回転させる際に、クラッチ入力部材10を回転させるべき方向が、クラッチ出力部材11に逆入力されているトルクの方向(逆入力トルクの方向)と逆方向である場合に、クラッチ入力部材10を、逆入力トルクの方向に極短い所定時間だけ、本例では押圧面44を被押圧面33から離隔させられるだけの時間回転駆動した後、クラッチ入力部材10を、逆入力トルクの方向と逆方向に回転させる機能を有する。
【0246】
より具体的には、制御器51は、車高が前記中立位置よりも高い場合であって、車高を上げる制御を行う場合に、クラッチ入力部材10を、車高を下げる際に回転させる方向に極短時間だけ回転駆動した後、クラッチ入力部材10を、車高を上げる際に回転させる方向に回転させることで、車高を所望の高さに調整する。また、制御器51は、車高が前記中立位置よりも低い場合であって、車高を下げる制御を行う場合に、クラッチ入力部材10を、車高を上げる際に回転させる方向に極短時間だけ回転駆動した後、クラッチ入力部材10を、車高を下げる際に回転させる方向に回転させることで、車高を所望の高さに調整する。
【0247】
本例の懸架装置1aにおいても、電動モータ3に通電して逆入力遮断クラッチ5をロック状態からロック解除状態に切り換える際に、電動モータ3に要求される出力トルクが過大になることを防止でき、電動モータ3の小型化を図ることができる。
【0248】
第2例についてのその他の部分の構成および作用効果については、第1例と同様である。
【符号の説明】
【0249】
1、1a 懸架装置
2、2a スプリング
3、3a 電動モータ
4、4a 車高調整機構
5 逆入力遮断クラッチ
6、6a 車体側端部
7、7a 車輪側端部
8、8a モータ出力軸
10 クラッチ入力部材
11 クラッチ出力部材
12、12a ダンパ
13 シリンダ
14 ピストン
15 シリンダ空間
16 ロアブラケット
17 ヘッド部
18 ロッド部
19 上板部
20 トップマウント
21 スプリングシート
22、22a スプリング調整機構
23 ナット
24 ボール
25 内径側ボールねじ溝
26 外径側ボールねじ溝
27 軸受
28 被駆動側ギヤ部
29 中間軸
30 駆動側ギヤ部
31 被押圧部材
32 係合子
33 被押圧面
34 入力側係合部
35 基板部
36 入力軸部
37 径方向内側面
38 径方向外側面
39 周方向側面
40 出力側係合部
41 出力軸部
42 平坦面
43 凸曲面
44 押圧面
45 入力側被係合部
46 出力側被係合部
47 平坦面
48 凹曲面
49 平坦面部
50 凸部
51 制御器
52 付勢部材
53 減速機
54 レバー
55 ナックル
56 出力軸
57 入力軸
58a、58b アーム
59 スプリング
60 凹溝
61 凸部
【要約】
【課題】車高調整を円滑に行うことができる構造を実現する。
【解決手段】制御器51は、車高を調整する際に、クラッチ出力部材11に逆入力されている回転トルクの方向と、クラッチ入力部材10を回転させる方向とが同じ場合であって、クラッチ入力部材10の回転数が、ジャーキング現象が発生しやすい所定の閾値以下の回転数域にある場合に、当該回転数域を速やかに通過できるように、電動モータ3を制御する機能を有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12