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  • 特許-ダニ行動抑制剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ダニ行動抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/04 20060101AFI20250212BHJP
   A01P 17/00 20060101ALI20250212BHJP
   A01N 25/02 20060101ALI20250212BHJP
   A01N 31/02 20060101ALI20250212BHJP
   A01N 43/36 20060101ALI20250212BHJP
   A01M 29/34 20110101ALI20250212BHJP
【FI】
A01N37/04
A01P17/00
A01N25/02
A01N31/02
A01N43/36 C
A01M29/34
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020178325
(22)【出願日】2020-10-23
(65)【公開番号】P2021091659
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2019217053
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000100539
【氏名又は名称】アース製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100162396
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 泰之
(74)【代理人】
【識別番号】100202430
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 千香子
(72)【発明者】
【氏名】池田 菫
【審査官】石田 傑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122687(WO,A1)
【文献】特開2002-104911(JP,A)
【文献】特開平04-018175(JP,A)
【文献】特開2005-089443(JP,A)
【文献】特開2000-297004(JP,A)
【文献】特開2014-083269(JP,A)
【文献】再公表特許第2015/194544(JP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ダニ忌避成分として下記式(1)で表される脂肪族二塩基酸ジアルキルエステルと、(B)ポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールを有効成分とし、液剤であることを特徴とする、ダニ行動抑制剤。
(化1)
R-OOC(CH2)nCOO-R (1)
(式(1)において、Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、分子中2つのRは同一でも異なっていても良く、nは0~8の整数を表す。)
【請求項2】
前記(A)ダニ忌避成分がアジピン酸ジブチルであることを特徴とする、請求項1に記載のダニ行動抑制剤。
【請求項3】
請求項1に記載のダニ行動抑制剤によりダニが生息し得る区域を処理して、その区域に存在するダニの行動を抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダニ行動抑制剤および、これを使用したダニの行動を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ヤケヒョウヒダニなどの屋内塵性ダニの被害を軽減するため、様々なダニ防除剤が検討されている。なかでも、ダニ忌避剤は広く使用されており、セバシン酸ジブチルなど二塩基酸エステルを忌避成分とするダニ忌避剤が知られている(例えば、特許文献1、2等)。このようなダニ忌避剤は、忌避成分により処理した区域においてダニを忌避する効果(寄せ付けない効果)がある。しかしながら、忌避成分を処理した区域に生息しているダニや、当該区域を忌避したダニは、その区域の外へと移動するだけで、移動後は、摂食や生殖行動を行い、処理区域外で増殖してしまうことが問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-132196号公報
【文献】特開2007-230894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ダニ忌避成分にダニ行動抑制機能を付与することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、公知のダニ忌避成分とポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールを併用することにより、ダニの行動を抑制できることを見出し、上記課題を解決するに至ったものである。
【0006】
本発明は、具体的には次の事項を要旨とする。
1.(A)ダニ忌避成分と、(B)ポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールを有効成分とすることを特徴とする、ダニ行動抑制剤。
2.(A)ダニ忌避成分が二塩基酸ジアルキルエステルであることを特徴とする、1.に記載のダニ行動抑制剤。
3.1.に記載のダニ行動抑制剤によりダニが生息し得る区域を処理して、その区域に存在するダニの行動を抑制する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明のダニ行動抑制剤は、(A)ダニ忌避成分による、ダニに対する忌避効果により処理区域外からのダニの侵入を防ぎ、処理区域にダニを寄せ付けないだけでなく、(A)成分と(B)成分との併用により、ダニの行動を抑制するため、処理区域内に生息していたダニの移動のみならず、摂食行動や生殖行動をも抑制して、ダニの増殖を著しく低減することができ、最終的にはダニの生息数を激減させて、ダニを防除することができ有用である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の「ダニ移動距離確認試験」の試験方法を説明するための実験装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明のダニ行動抑制剤および、これを使用したダニの行動を抑制する方法について詳細に説明する。
なお、本発明における「行動抑制」とは、ダニが移動する行動のみならず、摂食行動や交尾や産卵などの生殖行動の抑制および、掃除機や粘着シートなどダニの除去を目的とした清掃用具からの逃避行動の抑制を意味する。
【0010】
本発明のダニ行動抑制剤は、(A)ダニ忌避成分を有効成分として含有するものである。
<(A)成分>
本発明の(A)ダニ忌避成分は、公知のダニ忌避成分であれば何れのものであっても良く、特に、制限はされない。具体的には、例えば、下記式(1)~(4)で表される二塩基酸ジアルキルエステルのほか、酢酸シンナミル、桂皮酸ベンジル、桂皮酸メチル等の桂皮酸誘導体、安息香酸アミル、安息香酸イソアミル等の安息香酸エステル、サリチル酸アミル、サリチル酸イソアミル、サリチル酸ヘキシル等のサリチル酸エステル、α、β-ピネン、α、β-テルピネオール、リモネン、メントール、p-メンタン-3,8-ジオール等のテルペン類やそれらを含有する精油などが挙げられる。
【化1】
(式(1)~(4)において、Rは炭素数1~8のアルキル基を表し、分子中2つのRは同一でも異なっていても良い。また、式(1)において、nは0~8の整数を表す。)
これら公知のダニ忌避成分の中でも、本発明の(A)成分としては、上記式(1)~(4)で表される二塩基酸ジアルキルエステルが好ましい。なお、本発明における、「二塩基酸ジアルキルエステル」とは、上記式(1)~(4)で表される化合物群を意味する。それらの中でも、本発明の(A)成分として上記式(1)で表される脂肪族二塩基酸ジアルキルエステルが好ましい。
さらに、本発明の(A)成分としては、式(1)で表される脂肪族二塩基酸ジアルキルエステルの具体例である、シュウ酸ジエチル、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、コハク酸ジメチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジプロピル、コハク酸ジブチル、グルタル酸ジメチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジエチル、セバシン酸ジプロピル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジアミル、マレイン酸ジブチルおよびフマル酸ジブチルがより好ましく、さらに、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジオクチル、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジオクチルが特に好ましい。
【0011】
本発明のダニ行動抑制剤における、(A)ダニ忌避成分の含有量は特に制限がなく適宜設定すればよいが、ダニ行動抑制剤全体に対して、0.01~5w/v%含有することが好ましく、0.1~2w/v%含有することがより好ましい。0.01w/v%以上とすることにより優れたダニ忌避効果が得られることに加え、本発明の(B)成分であるポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールと併用することにより優れたダニ行動抑制効果も得られる点において好ましい。また、5w/v%以下とすることにより、ダニ行動抑制剤の処理面における種々の部材への影響を低減できるため好ましい場合がある。
【0012】
<(B)成分>
本発明のダニ行動抑制剤は、(B)ポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールを有効成分として含有するものである。
本発明におけるポリビニルピロリドンとは、N-ビニル-2-ピロリドンが重合した水溶性の高分子化合物である。使用されるポリビニルピロリドンの重量平均分子量については、特に制限されないが、例えば、5000~300万程度、より好ましくは3万~40万程度のものが挙げられる。ここで、ポリビニルピロリドンの重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー/多角度光散乱光度計(GPC/MALLS)によって測定される値を指す。ポリビニルピロリドンのK値(粘性特性値)については、特に制限されないが、10~100程度のものを好ましく使用することができる。また、本発明において、ポリビニルピロリドンは、市販品を使用することができる。ポリビニルピロリドンの市販品としては、具体的には、第一工業製薬株式会社製の「アイフタクト K-30PH」、株式会社日本触媒製の「ポリビニルピロリドン K-30」、「ポリビニルピロリドン K-85」、「ポリビニルピロリドン K-90」、アイエスピー・ジャパン製の「PVP K-90」等が挙げられる。
本発明におけるポリビニルアルコールとは、ポリ酢酸ビニルを酸またはアルカリで加水分解することにより得られる、水酸基を有する水溶性の重合体である。使用されるポリビニルアルコールの重量平均分子量については、特に制限されないが、例えば、1万~30万程度、より好ましくは3万~20万程度のものが挙げられる。ここで、ポリビニルアルコールの重量平均分子量は、ゲルろ過クロマトグラフィー/多角度光散乱光度計(GPC/MALLS)によって測定される値を指す。また、本発明において、ポリビニルアルコールは、市販品を使用することができる。ポリビニルアルコールの市販品としては、具体的には、日本合成化学工業株式会社製の「ゴーセノールEG-05C」や「ゴーセノールEG-40C」等が挙げられる。
本発明における(B)成分は、ポリビニルピロリドン単独、ポリビニルアルコール単独、ポリビニルピロリドンとポリビニルアルコールの併用の何れであってもよい。
【0013】
本発明のダニ行動抑制剤における、(B)ポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールの含有量は特に制限がなく適宜決定すればよいが、ダニ行動抑制剤全体に対して、0.01~10w/v%含有することが好ましく、0.05~5w/v%含有することがより好ましい。0.01w/v%以上とすることにより、(A)ダニ忌避成分との相乗効果により優れたダニ行動抑制効果が得られる。また、10w/v%以下とすることにより、ダニ行動抑制剤の処理面における種々の部材への影響を低減できるために好ましい場合がある。
【0014】
<ダニ>
本発明のダニ行動抑制剤によりその行動を抑制し得るダニとしては、屋内に生息する屋内塵性ダニ、例えば、コナヒョウヒダニ、ヤケヒョウヒダニ等のヒョウヒダニ類、コウノホシカダニ、ケナガコナダニ、ムギコナダニ等のコナダニ類、チリニクダニ、イエニクダニ、サヤアシニクダニ等のニクダニ類、マルニクダニ類、ミナミツメダニ、クワガタツメダニ、フトツメダニ、ホソツメダニ、アシナガツメダニ、イヌツメダニ等のツメダニ類、イエダニ、トリサシダニ、ワクモ、スズメサシダニ等のイエダニ類、イエササラダニ類、シラミダニ類、ヒゼンダニ類等が挙げられる。中でも、本発明のダニ行動抑制剤は、ヒョウヒダニ類、コナダニ類、ツメダニ類、イエダニ類に対して有効である。
【0015】
<製剤>
本発明のダニ行動抑制剤は、上記(A)ダニ忌避成分と(B)ポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールを含有するものであり、混合物をそのまま用いてもよいが、通常は製剤として使用する。その製剤形態は使用態様に応じて適宜設定すればよい。例えば、油剤、乳剤、水和剤、粒剤、噴霧剤、エアゾール剤、スプレー剤、塗布剤、洗浄剤、シート剤、注入剤等の剤型とすることができる。好ましい製剤形態は、噴霧剤、エアゾール剤、スプレー剤、シート剤であり、これらは使用が簡単であり、繰り返して使用できるので使い勝手がよい。中でも、液剤として調製しスプレー剤やエアゾール剤等の噴霧用製剤として使用することで、本発明のダニ行動抑制剤を液体の状態で直接ダニに付着させることができるため、ダニ行動抑制剤の性能を最大限に活用することができ好適である。
本発明のダニ行動抑制剤は、ダニの体表面に直接付着することにより最大の行動抑制効果を発揮するため、製剤形態としては液剤が好ましい。
【0016】
本発明のダニ行動抑制剤の液剤を調製するにあたっては、必要に応じてノニオン系、アニオン系、カチオン系等の界面活性剤を配合することができる。具体的には、例えばアルキルアリールエーテル類、アルキルアリールエーテル類のポリオキシエチレン化物、ポリエチレングリコールエーテル類、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン共重合体類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、多価アルコールエステル類および糖アルコール誘導体等のノニオン系界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩等のアニオン系界面活性剤、アルキルアンモニウムハライド等のカチオン系界面活性剤が挙げられる。その中でも、本発明のダニ行動抑制剤の原液を水性溶液とする場合は、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油類、グリセリン脂肪酸エステル類、アルキルグリセリルエーテル類、ポリオキシエチレングリセリルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等のノニオン系界面活性剤を配合することが好ましい。
【0017】
本発明のダニ行動抑制剤は、その他公知の液体担体、ガス状担体、固体担体、その他製剤助剤を配合してもよい。
液体担体としては、例えば、芳香族または脂肪族炭化水素類(キシレン、トルエン、アルキルナフタレン、フェニルキシリルエタン、ケロシン、軽油、ヘキサン、シクロヘキサン、流動パラフィン等)、ハロゲン化炭化水素類(クロロベンゼン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等)、エーテル類(ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等)、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、乳酸エチル、安息香酸エチル等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等)、ニトリル類(アセトニトリル、イソブチロニトリル等)、スルホキシド類(ジメチルスルホキシド等)、ヘテロ環系溶剤(スルホラン、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、酸アミド類(N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-ピロリドン、3-メトキシ-N,N-ジメチルプロピオンアミド等)、炭酸アルキリデン類(炭酸プロピレン等)、植物油(大豆油、綿実油等)、植物精油(オレンジ油、ヒソップ油、レモン油等)、および水が挙げられる。
また、ガス状担体としては、例えば、ブタンガス、フロンガス、(HFO、HFC等の)代替フロン、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、窒素ガスおよび炭酸ガスが挙げられ、固体担体としては、例えば、粘土類(カオリン、珪藻土、ベントナイト、クレー、酸性白土等)、合成含水酸化珪素、タルク、セラミック、その他の無機鉱物(セリサイト、石英、硫黄、活性炭、炭酸カルシウム、水和シリカ等)、多孔質体等が挙げられる。
【0018】
本発明のダニ行動抑制剤は、公知の殺虫剤と組み合わせて使用することにより、処理区域外からのダニの侵入を防ぎ、処理区域に存在していたダニの行動を抑制した上で、ダニを確実に防除できる防除薬剤とすることができる。併用できる公知の殺虫剤としては、例えば、天然ピレトリン、アレスリン、レスメトリン、フラメトリン、プラレトリン、テラレスリン、フタルスリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、サイパーメスリン、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、イミプロトリン、エンペントリン、エトフェンプロックス、シラフルオフェン、メペルフルトリン、ジメフルトリン等のピレスロイド系化合物;プロポクスル、カルバリル等のカーバメイト系化合物;フェニトロチオン、DDVP等の有機リン系化合物;メトキサジアゾン等のオキサジアゾール系化合物;フィプロニル等のフェニルピラゾール系化合物;アミドフルメト等のスルホンアミド系化合物;イミダクロプリド、ジノテフラン等のネオニコチノイド系化合物;ピリプロキシフェン、メトプレン、ハイドロプレン等の昆虫幼若ホルモン様化合物;プレコセン等の抗幼若ホルモン様化合物;ノバルロン、ジフルベンズロン等のキチン合成阻害剤;フィトンチッド、ハッカ油、オレンジ油、桂皮油、丁子油等の殺虫精油類等の各種殺虫剤を挙げることができ、さらに、サイネピリン、ピペロニルブトキサイド等の共力剤も併用することができる。一方で、本発明のダニ行動抑制剤は、主に、屋内で使用することを想定するものであるから、屋内に居住する乳幼児などのヒトや、ペット等の動物の安全性を考慮すると、これら殺虫剤を併用しないことが好ましい。
【0019】
その他の製剤用補助剤としては、固着剤、分散剤、溶解助剤および安定剤等、具体的には例えばカゼイン、ゼラチン、多糖類(でんぷん、アラビアガム、セルロース誘導体、アルギン酸等)、リグニン誘導体、糖類、合成水溶性高分子(ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸等)、安息香酸エステルや塩類、BHT(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール)、およびBHA(2-tert-ブチル-4-メトキシフェノールと3-tert-ブチル-4-メトキシフェノールとの混合物)が挙げられる。
本発明では、さらに必要に応じて防錆剤、防腐剤、pH調整剤、香料等の成分を適宜添加し得る。これらの成分としては、この分野で慣用されているものを使用することができ、具体的には、防錆剤としてはカーレンNo.955、No.906、No.954、No.958、No.970(いずれも商標:三洋化成工業株式会社)等を、防腐剤としてはパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、イソチアゾリノン、サリチル酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、フェノキシエタノール、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム等を、pH調整剤としては酢酸、乳酸、コハク酸、マレイン酸、酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸、サリチル酸、安息香酸等の有機酸類やリン酸等の無機酸類、その塩類をそれぞれ例示できる。
【0020】
本発明のダニ行動抑制剤を、エアゾール式スプレー容器に充填する場合に使用する噴射剤としては、公知のものを広く使用することができ、例えばブタンガス、フロンガス、(HFO、HFC等の)代替フロン、液化石油ガス(LPG)、ジメチルエーテル、窒素ガスおよび炭酸ガス等を挙げることができる。このダニ行動抑制剤においては、噴射剤量をダニ行動抑制剤全体の10~95容量%、特に30~90容量%とすることができる。本発明のダニ行動抑制剤を製造するに際しては、この分野で慣用されている方法を広く使用し得る。そのうち代表的な方法としては、配合成分を必要に応じて加熱(30~50℃)混合して均一な溶液を作製した後、防錆剤、防腐剤等を加え、得られる原液をエアゾール式スプレー容器に入れ、噴射剤を充填して製品とする方法等を挙げることができる。このようにして得られる本発明のダニ行動抑制剤は、長期間過酷な条件下においても安定で、均一な状態を維持することができ、所望する時にワンタッチで微粒子として空気中に噴射し得る。
【0021】
本発明のダニ行動抑制剤は、上記のような屋内塵性ダニが生息ないし発生する屋内環境であれば適用場所、対象は特に限定されない。例えば、ダニを寄せ付けたくない、または、ダニが存在している可能性のある、ベッド、布団、枕、マットレス、毛布等の寝具類、カーテン、ソファー、カーペット、ぬいぐるみ等の布帛製品、畳、絨毯、椅子、タンス、押入れ、壁紙等が主要な適用対象であるほか、車内にあるシートなどや、ベビーカー等にも噴霧して使用することができる。
本発明のダニ行動抑制剤は、上記(A)ダニ忌避成分と(B)ポリビニルピロリドンおよび/またはポリビニルアルコールの合計量が、処理面1平方メートルあたり、0.8mg以上を適用対象に使用することにより、ダニの行動を抑制することができる。より十分な効果を得るためには、1.2~1200mg/m、より好ましくは6~560mg/mを適用すればよい。
【実施例
【0022】
以下、処方例および試験例等により、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
なお、実施例において、特に明記しない限り、部は重量部を意味する。
【0023】
<ダニ移動距離確認試験>
(1)試験検体の調製
(A)成分としてアジピン酸ジブチル1重量部、(B)成分であるポリビニルピロリドン(株式会社日本触媒製「ポリビニルピロリドン K-90」、重合平均分子量:約36万)0.01重量部、エタノール50重量部および精製水を使用して、全体量を100重量部として、実施例1の試験検体を得た。
(A)成分としてアジピン酸ジブチル1重量部、(B)成分であるポリビニルアルコール(日本合成化学工業株式会社製「ゴーセノールEG-40C」)0.01重量部、エタノール50重量部および精製水を使用して、全体量を100重量部として、実施例2の試験検体を得た。
比較例1~4は下記表1に示した配合で、実施例1と同様にしてそれぞれの試験検体を得た。
表1中の「DBA」はアジピン酸ジブチルを、「PVP」はポリビニルピロリドンを、「PVA」はポリビニルアルコールを意味する。
【0024】
【表1】
【0025】
(2)ダニ移動距離確認試験方法
図1は、ダニ移動距離確認試験方法を説明するための実験装置を示す模式図である。
半径が0.5cmずつ大きくなる同心円を描いた紙の上に、直径15cmのシャーレ1を中心が重なるように置き、シャーレ1の中央に青色で染色した供試虫(ヤケヒョウヒダニ)約0.05g(約3000頭)を載置した。塊状となっていたダニが分散するまで約20秒静置した後、シャーレ1の直上20cmの距離から、実施例1、2、比較例1~4の各試験検体を、トリガー付きスプレー容器により約1mL噴霧した。次いで、図1に示すように、シャーレ1の4カ所に、ダニのエサ(新鮮培地)を載せた3cm角の黒紙2を配置し、20分後に目視によりダニを観察した。3頭以上のダニが確認された中央から一番遠い位置を、その試験検体のダニ移動度とした。試験は2回行い、この移動度(20分間)の平均値を、24時間あたりの移動距離として換算し、その数値(「移動距離(cm/24時間)」)を、下記表2にまとめて示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2に示すとおり、本発明の具体例である実施例1および実施例2の試験検体を噴霧されたダニは、行動を抑制され、全く移動しないことが確認された。一方、比較例1~4の試験検体を噴霧されたダニは、実施例1、2の試験検体を噴霧されたダニに比べて盛んに動き、大きく移動することも明らかとなった。特に、比較例1は、ダニ忌避剤としても公知成分であるアジピン酸ジブチルを含有する試験検体であるが、ダニ忌避剤を噴霧されたダニは、処理区域から外へと大きく移動するだけで、ダニ行動抑制効果が得られないことが明らかとなった。また、ポリビニルピロリドンのみを含有する試験検体である比較例2やポリビニルアルコールのみを含有する試験検体である比較例3も、ダニ行動抑制効果が全く得られないことが確認された。
これらの結果により、本発明のダニ行動抑制剤は、(A)成分と(B)成分の併用により「相乗的」なダニ行動抑制効果を発揮することが明らかとなった。
【0028】
<ダニ活動性評価試験>
(1)試験検体の調製
上記「ダニ移動距離確認試験」の実施例1、2、比較例1~4の試験検体を使用した。
(2)ダニ活動性評価試験方法
直径9cmのシャーレの中央に供試虫(ヤケヒョウヒダニ)を、約100頭載置した。シャーレ1の直上20cmの距離から、実施例1、2、比較例1~4の各試験検体を、トリガー付きスプレー容器により約1mL噴霧した。噴霧直後と24時間後において、実体顕微鏡下で供試虫の活動の有無を観察した。試験は2回行い、全供試虫数に対する活動供試虫数の割合「噴霧直後の活動ダニの割合(%)」と「24時間後の活動ダニの割合(%)」を算出し、その平均値を下記表3にまとめて示した。
なお、活動している供試虫とは、自由に歩行可能である個体か、歩行していないとしても脚を動かしている個体を意味する。脚を動かしている個体は、交尾による繁殖が可能と判断した。また、活動していない供試虫は、致死した個体、歩行ができず脚をわずかに動かす程度の個体、個体同士が固着し動けない個体の何れかを意味する。
【0029】
【表3】
【0030】
表3に示すとおり、本発明の具体例である実施例1および実施例2の試験検体を噴霧されたダニは、噴霧直後も24時間後においても行動が抑制され、ほぼ活動しないことが確認された。一方、比較例1~4の試験検体を噴霧されたダニは、実施例1、2の試験検体を噴霧されたダニに比べて、噴霧直後はもとより24時間後においても盛んに活動することが明らかとなった。特に、比較例1は、ダニ忌避剤としても公知成分であるアジピン酸ジブチルを含有する試験検体であるが、ダニ忌避剤を噴霧されたダニは、活動が十分に抑制されることなく、24時間後は実施例1に比べて8倍のダニが盛んに活動していることが確認された。すなわち、本発明の(A)成分であるダニ忌避剤のみを含有する処理剤では、ダニ行動抑制効果が得られず、処理区域の外へと移動して、摂食や生殖行動を行い、処理区域外で増殖してしまう可能性があることが明らかとなった。また、ポリビニルピロリドンのみを含有する試験検体である比較例2やポリビニルアルコールのみを含有する試験検体である比較例3も、ダニが活発に活動していることが確認された。
これらの結果により、本発明のダニ行動抑制剤は、(A)成分と(B)成分の併用により「相乗的」なダニ行動抑制効果を発揮することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明のダニ行動抑制剤は、(A)ダニ忌避成分のダニに対する忌避効果により処理区域外からのダニの侵入を防ぎ、処理区域にダニを寄せ付けないだけでなく、(A)成分と(B)成分との併用により、ダニの行動を抑制して処理区域内に生息していたダニの移動のみならず、摂食行動や生殖行動をも抑制するため、ダニの増殖を著しく低減することができ、最終的にはダニの生息数を激減させて、ダニを防除することができ有用である。
図1