(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ムライト材料の表面にコーティングを塗布する方法、コーティングを有するムライト材料およびガスタービンモジュール
(51)【国際特許分類】
C23C 14/08 20060101AFI20250212BHJP
C23C 14/02 20060101ALI20250212BHJP
C04B 41/87 20060101ALI20250212BHJP
C04B 41/89 20060101ALI20250212BHJP
C04B 41/91 20060101ALI20250212BHJP
C04B 35/185 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C23C14/08 A
C23C14/02 Z
C04B41/87 F
C04B41/89 Z
C04B41/91 E
C04B35/185
(21)【出願番号】P 2021568977
(86)(22)【出願日】2020-05-19
(86)【国際出願番号】 EP2020000096
(87)【国際公開番号】W WO2020233832
(87)【国際公開日】2020-11-26
【審査請求日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】102019207367.0
(32)【優先日】2019-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】516082866
【氏名又は名称】エリコン サーフェス ソリューションズ アーゲー、 プフェフィコン
【住所又は居所原語表記】Churerstrasse 120 8808 Pfeffikon SZ CH
(74)【代理人】
【識別番号】100180781
【氏名又は名称】安達 友和
(74)【代理人】
【識別番号】100182903
【氏名又は名称】福田 武慶
(72)【発明者】
【氏名】スタム,ワーナー
(72)【発明者】
【氏名】フリ―ドル,シモネ
(72)【発明者】
【氏名】ラム,ジャーゲン
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/053257(WO,A1)
【文献】特表2008-533311(JP,A)
【文献】化学大辞典編集委員会編,化学大辞典9,縮刷版第2刷,共立出版株式会社,1966年06月05日,p.80-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
H01L 21/203
C04B 41/87
C04B 41/89
C04B 41/91
C04B 35/185
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料の表面(2)上にコーティング(1)を塗布する方法であって、
プラズマ活性化水素が生じるように、水素分子が励起されるプラズマ化学プロセスを用いて、前記材料の前記表面(2)を前処理する工程(Sl)と、
前記材料の前記前処理された表面(2)上に、PVD方法を用いて酸化アルミニウム含有層(4)を塗布する工程(S2)と
を含み、
前記材料は、3(Al
2O
3)×2(SiO
2)および/もしくはAl
2O
3-SiO
2化合
物であり、
前記プラズマ化学プロセスを用いた前記前処理は、前記材料の前記表面(2)のシリコン含有相から、シリコンが除去されるように実施され、
前記プラズマを用いた前記前処理は、前記材料の前記前処理された表面(2)が実質的にα-Al
2O
3を有するように行われ、
前記材料と前記酸化アルミニウム含有層(4)との間の境界領域(7)に、前記酸化アルミニウム含有層(4)中に向けられた先端部(8)を有するスパイク状構造体(6)が形成され、
前記スパイク状構造体(6)が、50nmと200nmとの間の幅bと、l00nmと500nmとの間の高さhを有し、
前記幅bは、前記材料と前記酸化アルミニウム含有層(4)との間の界面に対して平行に測定された幅であり、
前記高さhは、前記酸化アルミニウム含有層(4)の層厚に対して平行に測定された高さである、方法。
【請求項2】
前記プラズマ化学プロセスが、5×10
-3mbarと5×10
-2mbarとの間の全圧力で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記PVD方法が、反応性陰極スパーク蒸着またはスパッタリングである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記酸化アルミニウム含有層(4)が、実質的に単相の層として塗布される、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記酸化アルミニウム含有層(4)が、金属マクロ粒子を有する層として析出される、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化アルミニウム含有層(4)が、クロム、チタン、ハフニウム、イットリウム、エルビウム、シリコンおよび/またはジルコニウムを有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
塗布された前記酸化アルミニウム含有層(4)を、900℃と1400℃との間の範囲の温度で、15分と60分との間の期間で熱処理する工程(S3)
を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
塗布された前記酸化アルミニウム含有層(4)を、酸素プラズマを用いて、酸化させる工程(S4)
を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
プラズマ化学プロセスを用いて、前記材料の前記表面(2)を前記前処理する前に、前記材料の前記表面(2)に、アルミニウム含有材料を浸透させる工程
を有する、請求項1~8のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムライト材料の表面上にコーティングを塗布する方法、コーティングを有するムライト材料、およびガスタービンモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
最近のガスタービンでは、シリコン含有材料およびアルミニウム含有材料が、燃焼室の分野で燃焼室ブリックとして使用され、また、その他のガスタービンモジュールにも使用されている。これらの材料は、通常、全体としてムライトと称されるが、これらは化学組成が3(Al2O3)×2(SiO2)の実際のムライトの相に加えて、他のAl2O3-SiO2化合物の相や、コランダム構造の純粋なAl2O3の相(α-Al2O3)も含みうる。
【0003】
さらに、多くのセラミック繊維複合材料は、ムライト含有繊維を含む。したがって、以下では、「ムライト材料」という用語は、Al
2O
3-SiO
2を含有するすべての材料から、ほぼAl
2O
3のみからなる材料までについて使用される。また、ムライト材料という概念には、いわゆるOx-Ox材料も含まれ、これは酸化アルミニウムベースのセラミックマトリックス複合材料(CMC、Ceramic Matrix Composite Materials)のことである。
図1は、ムライト材料のカット面の光学顕微鏡写真であるが、この写真では、様々な粒径で発生しうる様々な相が記されている。
【0004】
材料の相の違いに加えて、ムライト材料のもう一つの特徴は、様々な粒径であり、これは、出発材料の混合と高温焼結とによる合成製造の際に導入されるまたは生じ得る。
【0005】
このムライト材料は、タービンの燃焼室中で発生しうるような非常に高い温度でも、優れた機械的強度と化学的安定性とを有する。
【0006】
しかし、ムライト材料は、熱蒸気が、ムライト材料中に含有されるシリコンとともに揮発性化合物を形成しうるため、ムライト材料が熱蒸気により攻撃されるという欠点がある。その結果、例えば燃焼室ブリックまたはそれ以外の部品でムライト材料の表面からシリコンが失われることで、粒子が付着力を失って剥離されるので、ムライト材料から放出されうる。これらの剥離された粒子により、浸食が増大し、その結果タービンブレードおよびこれに続くタービン領域のガイドリングセグメントなどの部品の摩耗につながる。
【0007】
タービン部品において、粒子による浸食を防ぐために、厚い保護層を溶射することができる(特許文献1)。しかし、この保護層は、ムライト材料との結合が良好で、ムライト材料上への接着が良好である場合でも、高い熱機械的負荷によって剥離し、比較的短期間の稼働期間後にだめになりうる。これは特に、ムライト材料と化学的に反応せず、またはそのムライト材料の熱膨張係数と大きく異なる熱膨張係数を有する保護層の場合に該当する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】欧州特許出願公開1 780 294 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、上述の欠点を少なくとも軽減することができるコーティング方法およびコーティングを示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題は、独立請求項の対象物によって解決される。従属請求項には、本発明によるこれらの解決策の実施形態の変形例を含む。
【0011】
ムライト材料上への接着が悪く、またはムライト材料との結合が悪い原因として重要であるのは、ムライト材料が、様々な粒径および/または繊維、ならびに様々な相を有する点であり、特に相の多様性が大きな影響を与える。現在利用可能な材料および方法では、1つの相に対してのみ、例えば、α-Al2O3(コランダム構造)または3(Al2O3)×2(SiO2)(ムライト構造)のみに関して、接着を最適化しうるが、これらの相の特性が異なるため、複数の相に対して同時に接着を最適化することはできない。
【0012】
化学結合が可能となるように、層材料をムライト材料に適合させることがさらなる問題となる。また、ムライト素材の相が様々であることにより、それぞれ異なる化学反応が起こらねばならないので、この点でも悪影響がある。
【0013】
最後に、溶射を用いた保護層の一般的な塗布方法では、良好な接着性を達成するために加熱工程があるが、これはムライト材料と溶射された保護層との間の境界領域で元素の拡散を起こすことを目的としている。しかし、ムライト材料の少なくとも1つの構成成分すなわちコランダムが、良好な拡散バリアであることが知られており、したがって拡散プロセスを介して接着力を改良するとの一般的な方法が妨げられている。
【0014】
したがって、本発明の基本的な考え方は、コーティングを塗布する前に、ムライト材料の表面を、実質的に1つの材料相のみが表面に存在するように前処理することである。この材料相の特性を参照して、塗布されうるコーティングは、可能な限り最高の結合または接着が得られるように適合させることができる。
【0015】
ムライト材料の表面上にコーティングを塗布する本発明の方法は、プラズマ活性化水素、例えば水素原子および/またはイオン化水素分子が生じるように、水素分子が励起されるプラズマ化学プロセスを用いて、ムライト材料の表面を前処理する工程と、ムライト材料の前処理された表面上に、PVD方法を用いて酸化アルミニウム含有層を塗布する工程とを含む。
【0016】
「ムライト材料」という概念については、冒頭で紹介した定義を参照されたい。ムライト材料は、その表面上に、前処理後にコーティングが塗布された基板である。同様に、ムライト材料は、他の材料上のコーティングを表すこともありうる。
【0017】
コーティングは、酸化アルミニウム含有層に加えて、例えば、接着層、カバー層、熱絶縁層などのさらなる層を持つことができる。好ましくは、酸化アルミニウム含有層は、ムライト材料の前処理された表面に直接、すなわち中間層なしに塗布される。
【0018】
ムライト材料の表面を前処理するために、この表面を、真空中(0.001mbar~1mbarの圧力範囲、好ましくは0.05mbar~0.1mbarの圧力範囲)でプラズマ化学プロセスにかける。このプラズマ化学プロセスでは、水素分子が励起され、水素原子とイオン化した水素分子とが生じる。
【0019】
このプラズマは、揮発性のSi-H化合物を形成することで、ムライト材料のシリコン含有相から、シリコンを非常に丁寧にかつ最上膜の原子層中でのみ除去する。この揮発性のSi-H化合物は、続いてポンプシステムを使って真空から送り出される。同時に、純粋なAl-O相上およびムライト材料の表面の他のすべての領域中で、不純物、例えば、炭素、炭化水素またはこれ以外の元素が除去され、ポンプで送り出される。
【0020】
前処理の結果、実質的にα-Al2O3、すなわちコランダム構造の酸化アルミニウムのみを有するムライト材料の前処理された表面が得られる。
【0021】
オプションとして、プラズマ化学プロセスを用いてムライト材料の表面を前処理する前に、アルミニウム含有材料、例えばYAG(イットリウム・アルミニウム・ガーネット)などを表面に浸透させることができる。これにより、存在する孔をアルミニウム含有材料で少なくとも部分的に埋めることで、表面の多孔性を低減することができるので有利である。この浸透の結果、より均質な表面が得られ、その結果、これに続いて塗布される酸化アルミニウム含有層が孔に「侵入」することができず、表面が全体的により良好に覆われる。言い換えれば、本発明による方法は、あらかじめアルミニウム含有材料を浸透させておいた材料の表面上にコーティングを塗布するのにも適している。
【0022】
さらなる方法工程では、PVD方法(PVD=英語ではPhysical Vapour Deposition、ドイツ語では物理的気相成長法)、例えば、蒸着方法(例えば反応性陰極スパーク蒸着またはスパッタリングなど)を用いて、酸化アルミニウム含有層を、ムライト材料の前処理された表面上に塗布する。
【0023】
これらの双方のPVD方法で、ターゲットを利用して、ターゲットから材料を剥離し、それをムライト材料の表面上に析出させる。ターゲットは、アルミニウムのほか、オプションとしてこれ以外の元素、例えばクロム、チタン、ハフニウム、イットリウム、エルビウム、シリコンおよび/またはジルコニウムなどを有し、これらは、塗布されるべき層中に含まれるべき元素である。反応性のある酸素を含む環境でPVD方法を行うことで、アルミニウムと、および場合によってはさらなる元素の酸化が起こり、結果として酸化アルミニウム含有層が析出される。あるいは、酸化アルミニウム含有層は、酸化アルミニウム含有ターゲットを高周波スパッタリングすることにより塗布することもできる。
【0024】
好ましくは、酸化アルミニウム含有層は、反応性陰極スパーク蒸着によって、ムライト材料の前処理された表面上に塗布され、それによって、スパーク蒸着において陰極として接続されているターゲット材料が蒸着される。この蒸着は、適切な酸素気体流によって設定されうる制御された酸素分圧の下、真空中で行われる。
【0025】
ムライト材料の前処理された表面上への酸化アルミニウム含有層の塗布は、好ましくは550℃と650℃との間の範囲の基板温度で、特に好ましくは600℃の基板温度で行われる。しかし、この温度を300℃未満に下げ、またはこの層の塗布をより高い温度で行うこともできる。
【0026】
上述のPVD方法では、1つの方法工程中のみで均一な酸化アルミニウム含有層を塗布することができるので有利である。また、0.5μmと50μmとの間の範囲の好ましい層厚を、高い精度で実現することができる。さらに、反応性陰極スパーク蒸着は、高い堅牢性を特徴とする。そのため、通常はターゲットの被毒を避けるための特別な調整は必要ではない。さらに、反応性陰極スパーク蒸着時に発生する金属蒸気は大きくイオン化されており、これは、層の良好な接着に貢献している。
【0027】
この方法によって作られた、ムライト材料と酸化アルミニウム含有層との間の境界領域は、酸化アルミニウム含有材料、好ましくは酸化アルミニウムのスパイク状構造体を有しており、これによって酸化アルミニウム含有層のムライト材料上への接着または結合が改良される。
【0028】
好ましくは、ターゲットは金属のクロムも有する。例えば、元素分布が70/30(Al/Cr)のターゲットを利用することができる。ターゲット中のクロムの割合は、形成されるAl-Cr-O固溶体中のコランダム構造の形成を促進し、それも500℃以下という比較的低い温度でも、これを促進する。ターゲット中のクロムの割合を変えることで、塗布されうる酸化アルミニウム含有層中のAl-Cr-O固溶体構造の格子定数を、コランダムとエスコライトとの間の範囲に合わせることができる。コランダム構造は、高い熱安定性を特徴とする。
【0029】
この際、結晶の格子定数は、成分の割合に応じて一次関数的に変化するというベガードの法則を適用できる。
【0030】
このAl-Cr-O固溶体構造は、異なる結晶粒径で存在することができ、これはPVD方法のプロセス条件(例えば、ターゲット中のクロムの割合、酸素分圧、基板温度など)に影響され、それに応じて制御することができる。その結果、塗布された酸化アルミニウム含有層は、プロセス条件によっては、例えば、x線非晶質でありえ、またはx線分析でコランダム構造を明確に示すことができ、クロム割合に対応するブラッグピークの位置は、純粋なコランダムのものとエスコライトのものとの間にある。
【0031】
好ましくは、酸化アルミニウム含有層は、実質的に単相の層として、例えばコランダム構造の固溶体として塗布される。これの利点は、層の特性が均質であるため、層の保護効果がより長い期間持続しうるという点である。何よりも、この固溶体構造は熱的に安定している。
【0032】
さらに好ましくは、この酸化アルミニウム含有単相層の結晶構造は、コランダム構造に相当するか、または、より高い温度でコランダム構造に移行する。この酸化アルミニウム含有層がさらにクロムも含有する場合は、この層は、コランダム固溶体構造を持つ単相層として塗布するのが好ましい。
【0033】
さらに、この酸化アルミニウム含有層は、金属のマクロ粒子、いわゆるドロップレットを有することができ、これは、例えば、反応性陰極スパーク蒸着の際に生じることができる。クロム含有ターゲットを使用する場合、マクロ粒子はターゲットよりも高いクロムの割合を持つ可能性があり、すなわち、クロムはマクロ粒子中に蓄積されうる。ドロップレットは、酸化された場合、直接固溶体に移行することができる。この酸化プロセスにより、場合によってはありうる結晶粒の境界を推量することができるので有利である。
【0034】
様々な実施形態の変形例によれば、酸化アルミニウム含有層は、クロム、チタン、ハフニウム、イットリウム、エルビウム、シリコンおよび/またはジルコニウムを有することができる。好ましくは、酸化アルミニウム含有層はクロムを有しうる。このためには、層の塗布に利用されるターゲット中に、上述の元素が存在しうる。また、特定の特性を促進するために、これ以外の元素が含有されていることもできる。
【0035】
オプションの構成要素であるクロムについては、上記の説明を参照されたい。これらの元素は、例えば、層の特性を、コーティングされるべきムライト材料に適合させたり、または、さらなる層の特性に影響を与えたりするために機能しうる。
【0036】
ムライト材料の表面上に実質的に単相の層を塗布すべきである場合、アルミニウム中で上述の追加元素は、明らかに溶解度限界を上回るべきではない。言い換えれば、元素の割合は、アルミニウム中での溶解度の限界にほぼ達しているが、しかし上回っていないか、またはせいぜいわずかに上回っている程度でありうる。
【0037】
あるいは、材料の特性を特定の要件に適合させるために、例えば、塗布されるべき層の熱膨張係数と基板の熱膨張係数とを一致させるために、追加の元素の割合をより高くすることもできる。
【0038】
酸化アルミニウム含有層は、0.5μmと50μmとの間の層厚で塗布することができる。この厚さは、例えば、ムライト材料の表面の質、例えば粗さに応じて選択することができ、その結果、コーティングされたムライト材料の特性を改良することができる。
【0039】
さらなる実施形態によれば、本方法は、塗布された酸化アルミニウム含有層を、900℃と1400℃との間の範囲の温度で、15分と60分との間の期間、例えば約1200℃の温度で約30分間、熱処理することを含みうる。
【0040】
温度がより低いと倉庫からの取り出し期間(Auslagerungszeit)がより長くなる。熱処理を行うことで、塗布された層と基板との結合性を改良することができる。また、塗布された層にクロムが含有されていると、さらに、クロムの層表面への拡散、および形成されたクロム酸化物の蒸着が起こりうる。
【0041】
この過程により、微細な孔が残り、この微細な孔により、層の延性許容誤差が大幅に向上する。
【0042】
熱処理の代わりに、酸素プラズマを用いて塗布された酸化アルミニウムを含有する層の後処理を行うことができる。言い換えれば、塗布された層のプラズマ酸化は、酸素雰囲気中で行うことができ、それによって酸素がプラズマによって活性化される。このような後処理は、酸化アルミニウム含有層をムライト材料の表面上に塗布した直後、真空を中断する必要なく行うことができるので有利である。その結果、このような後処理を迅速かつ低コストで行うことができる。
【0043】
本発明の別の態様は、ムライト材料に関し、これは、このムライト材料の表面上に配置された酸化アルミニウム含有層を備えていて、このムライト材料と酸化アルミニウム含有層との間の境界領域に、酸化アルミニウム含有層中に向けられた先端部を有するスパイク状構造体が形成されている。
【0044】
本発明によるムライト材料は、例えば、上で説明した方法によって得ることができる。スパイク状構造体は、(層厚に平行な)断面が実質的に三角形の形状をしており、例えば、二等辺三角形の形状をしている。スパイク状構造体は、三次元的に見ると、例えば、実質的に円形の底面を持つほぼ円錐の幾何学形状を有しうる。実質的に三角形であることは、例えば、当該分野で通常の試料調製後の走査型電子顕微鏡写真または透過型電子顕微鏡写真で検証ことができる。
【0045】
このスパイク状構造体は、実質的にはムライト材料と酸化アルミニウム含有層との間の界面、つまりコーティング前のムライト材料の表面で始まり、酸化アルミニウム含有層の層厚が増すにつれて先細りになり、つまり酸化アルミニウム含有層中に向けられた先端が形成される。スパイク状構造体の典型的な寸法は、幅b(ムライト材料と酸化アルミニウム含有層との間の界面に対して平行に測定)が50nmと200nmとの間であり、かつ高さh(酸化アルミニウム含有層の層厚に対して平行に測定)がl00nmと500nmとの間である。この寸法は、例えば、走査型電子顕微鏡写真または透過型電子顕微鏡写真を評価することによって導き出すことができる。
【0046】
このスパイク状構造体により、酸化アルミニウム含有層がムライト材料に非常に良好に結合する。その結果、コーティングされたムライト材料は、非常に高い熱安定性と長い耐用年数とを特徴とする。したがって、例えばガスタービンなどの高温用途にも利用することができるので有利である。
【0047】
酸化アルミニウム含有層は、保護層として作用し、その結果ムライト材料が熱蒸気により攻撃されえない。これにより、表面からの粒子の放出と、その結果引き起こされる放出された粒子による浸食とを防ぐことができる。
【0048】
好ましくは、スパイク状構造体は、アルミニウム含有材料を有するか、または酸化アルミニウムからなる。これにより、ムライト材料と酸化アルミニウム含有層との間で、特に良好な接着または結合が得られる。
【0049】
酸化アルミニウム含有層の層厚は、0.5μmと50μmとの間、好ましくは5μmと20μmとの間でありうる。この範囲の層厚であれば、高温下でのムライト材料の特に良好な保護を達成することができる。
【0050】
様々な実施形態の変形例によると、酸化アルミニウム含有層は実質的に単相である。さらに、この酸化アルミニウム含有層は、金属マクロ粒子を有しうる。さらに、酸化アルミニウム含有層は、クロム、チタン、ハフニウム、イットリウム、エルビウム、シリコンおよび/またはジルコニウムを有しうる。これらの実施形態の変形例に関しては、方法に関して言及した上述の説明および上述の利点を参照する。
【0051】
本発明の別の態様は、本発明によるムライト材料を有するガスタービンモジュール、例えば燃焼室ブリックに関する。ガスタービンモジュールは、ガスタービンの一部でありうる。ガスタービンモジュールの分野では、本発明によるムライト材料を使用すると特に有利であるが、その理由は、これ以外の場合、粒子による浸食によって引き起こされる損傷が、長い休止期間と高い修理費用とを引き起こしうるからである。本発明によるガスタービンモジュールは、本発明によるムライト材料を有していないガスタービンモジュールよりも耐用年数がより長いので、保守間隔を短くすることができる。
【0052】
以下に、図および図に関する説明に基づいて、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】ムライト材料のカット面の光学顕微鏡写真である。
【
図2】コーティングされたムライト材料の概略図である。
【
図3】コーティング方法のフローチャートの一例である。
【
図4】コーティングを有するムライト材料のカット面の走査型電子顕微鏡写真(低倍率)である。
【
図5】ムライト材料とコーティングとの間の境界領域の概略断面図である。
【
図6】スパイク状構造体の寸法比率を示す概略断面図である。
【
図7】コーティングを備えたムライト材料のカット面の走査型電子顕微鏡写真(高倍率)である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
図1は、ムライト材料3のカット面の光学顕微鏡写真であって、異なる粒径で発生しうる様々な相が記されている。
図1中「α-酸化アルミニウム」と記されたコランダム構造の相が三角形に形成されているのと、
図1中「ムライト(3Al
2O
3×2SiO
2)」と記されたムライト構造が長く形成されているのがわかる。すでに述べたように、このような材料は、本明細書では全体としてムライト材料3と称される。このムライト材料3は、例えば、ガスタービン用の燃焼室ブリックの製造に利用することができる。
【0055】
図2は、本発明による方法で得られうるコーティングされたムライト材料3を概略図示している。プラズマ化学プロセスを用いて前処理されたムライト材料3の表面2上には直接、酸化アルミニウム含有層4が配置されており、これがコーティング1を形成する。オプションとして、コーティング1はさらなる層を有することができるが、
図2では不図示である。
【0056】
酸化アルミニウム含有層4は、例えば、酸化アルミニウムからなりうる。しかし、クロムなどの他の元素が含有する場合もある。酸化アルミニウム含有層4は、PVD方法、好ましくは反応性陰極スパーク蒸着を用いて塗布した。
【0057】
以下、
図3を参照して、ムライト材料3の表面2上にコーティング1を塗布する方法を説明する。
【0058】
第1の処理工程S1では、ムライト材料3の表面2を前処理する。このために、プラズマ化学プロセスを用いるが、このプロセスは、水素分子を励起してプラズマ活性化水素を発生させ、それを表面2に作用させる。これにより、シリコンを含有する相の最上方の原子膜から、シリコンが除去され、その結果、実質的に様々な粒径のα-Al2O3のみを有する表面2が得られる。
【0059】
具体的には、例えば、以下のような前処理を実施することができる。まず、コーティング装置を備えたコーティングチャンバ中に基板を入れる。プラズマ活性化水素(反応性水素プラズマ)を発生させるために、コーティングチャンバには、コーティング装置のほかに、陰極と陽極とからなりアーク放電を発生させうるさらなる装置が設置されている。
【0060】
用途に応じて、陽極はコーティングチャンバから絶縁されていて、すなわち、接地(またはアース)からも絶縁されていることができるか、またはコーティングチャンバと同じ電位になっていることができるか、または陽極は導電性基板ホルダーによって実現されていることができる。このアーク放電は、希ガス(典型的には、アルゴン)を用いて作動させられる。この陰極と陽極との間の空間、好ましくは陰極の近くに入れ、1×10-4mbarと1×10-2mbarとの間の圧力をコーティングチャンバ内に発生するように、アルゴンの流れを選択する。その後、アーク放電は、適切な点火装置によって点火される。このようなアーク放電は、高い放電電流(10A~400A)と低い放電電圧(20V~40V)とを特徴とする。
【0061】
アーク放電の点火後、このアーク放電に活性化すべき反応性ガスである水素を添加し、それにより、5×10-3mbarと5×10-2mbarとの間の全圧力がコーティングチャンバ内に生じるように、水素ガス流を選択する。アーク放電では、添加された水素ガスが解離し、原子化し、励起されてかつイオン化する。これにより、非常に反応性の高い水素が発生し、これが、コーティングされるべき基板表面の元素と反応することができ、かつSiまたはCなどの元素により、揮発性の気体状化合物を形成し、この化合物がポンプで送り出されることができる。
【0062】
この水素プラズマ中の表面前処理の結果、ムライト材料の表面に存在するシリコンと望ましくない炭素ベースの不純物との両方が除去された表面が得られる。このような方法の洗浄深さは、活性水素の攻撃の深さに、すなわち、10nm~100nmの範囲の典型的な浸透深さに限定される。このような基板に近い表面の改質は、もちろん、例えば高温(1000℃以上)での水蒸気下でのシリコンの揮発に対する継続的な保護を達成するには十分ではない。
【0063】
水素プラズマ処理後も、反応性水素に対して不活性である追加的な層でムライト材料が保護されていることが必須である。
【0064】
そのため、これに続く方法工程S2では、前処理された表面2上に酸化アルミニウム含有層4が塗布される。このコーティングは、前処理の直後に、同じコーティングチャンバ内で真空を中断することなく行うことが好ましい。このコーティングには、例えば反応性陰極スパーク蒸着またはスパッタリングなどのPVD方法が使用される。
【0065】
方法工程S2の後、塗布された酸化アルミニウム含有層4を後処理することができる。これには2つの可能性がある。方法工程S3において、この酸化アルミニウム含有層4に、例えば1200℃で30分間の熱処理を施すか、または方法工程S4において、この酸化アルミニウム含有層4を、酸素プラズマによって酸化させるかである。
【0066】
図4は、反応性陰極スパーク蒸着法を用いてムライト材料3の表面2上に塗布された、酸化アルミニウム含有層4を有するムライト材料3の一例のカット面の走査型電子顕微鏡写真である。層厚5は約2μmである。酸化アルミニウム含有層4の上方の白い領域は、走査型電子顕微鏡写真の作成時に、(基板調製に起因する)境界領域の過照射により生じたものであり、物理的な意味はない。
【0067】
図5は、ムライト材料3と酸化アルミニウム含有層4との境界領域7中の、
図4では黒い輪郭で描いている領域の概略拡大図である。明らかにわかるのは、スパイク状構造体6で、これらは実質的には酸化アルミニウムからなり、その先端8は酸化アルミニウム含有層4中に向けられている。このスパイク状構造体6により、ムライト材料3と酸化アルミニウム含有層4との間の結合または接着が大幅に改良される。
【0068】
図6は、スパイク状構造体6の寸法比率を示した図である。スパイク状構造体6は、ムライト材料3と酸化アルミニウム含有層4との間の境界領域7中で、ムライト材料3と酸化アルミニウム含有層4との間の界面7(これは、コーティング前の表面2に相当する)で始まり、その先端8が酸化アルミニウム含有層4中に向けられていることがわかる。スパイク状構造体6は、図示した断面では、実質的に二等辺三角形の形状を有する。スパイク状構造体6の幅bは50nmと200nmとの間で、高さhは100nmと500nmとの間である。酸化アルミニウム含有層4の層厚5は、例えば、約1.5μmであることができる。
【0069】
図7は、表面2上に配置された酸化アルミニウム含有層4を有するムライト材料3の走査型電子顕微鏡写真である。酸化アルミニウム含有層4は実質的に単相であり、アルミニウムと酸素とに加えてクロムを有する。
【0070】
ムライト材料3と酸化アルミニウム含有層4との間の境界領域7中には、スパイク状構造体6が見られ、これは、ムライト材料3と、酸化アルミニウム含有層4との間の界面または表面2において始まる。スパイク状構造体6の先端部8は、酸化アルミニウム含有層4中に向けられている。スパイク状構造体6の幅bは50nmと200nmとの間である一方、高さhは100nmと500nmとの間である。