(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】CVポート
(51)【国際特許分類】
A61M 39/02 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
A61M39/02 100
(21)【出願番号】P 2021035534
(22)【出願日】2021-03-05
【審査請求日】2023-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】519030936
【氏名又は名称】リカザイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180415
【氏名又は名称】荒井 滋人
(72)【発明者】
【氏名】有賀 成一
(72)【発明者】
【氏名】平松 義規
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表平09-508036(JP,A)
【文献】特表2006-522669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/02
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に2分割されていて下側容器部及び上側容器部とからなる樹脂製の容器と、
該容器内に形成されている空間と、
前記空間内に配設されていて上側が開口している金属製のカップと、
該カップと接続されて前記容器外に向けて延びる接続管と、
前記空間及び前記カップの上部を塞いで前記上側容器部に嵌め込まれているセプタムとを備え
、
前記カップは150μm以上200μm以下の金属箔にて形成されていて、
前記空間を形成している側面と前記カップの側面との間に隙間である側部隙間が形成されていて、
前記空間を形成している底面と前記カップの底面との間に隙間である底部隙間が形成されていて、
前記カップの底面は平面形状であり、
前記底部隙間であって前記カップの底面に接して取付けられていて、前記カップの底面のひずみを検知するセンサとをさらに備えたことを特徴とするCVポート。
【請求項2】
前記側部隙間に弾性材料からなる緩衝材が配設されていることを特徴とする請求項
1に記載のCVポート。
【請求項3】
前記接続管は前記カップに対して溶接により直接取付けられていて、
前記容器内に配設されている部分にて前記接続管と前記容器とは非螺合であることを特徴とする請求項1に記載のCVポート。
【請求項4】
前記カップ内の床面と前記接続管内の管路底部とは同一直線上に形成されていることを特徴とする請求項1に記載のCVポート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中心静脈カテーテルの一種である皮下埋め込み型のポート、すなわちCVポートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬剤の投与や必要栄養素の点滴等を行うため、人体内に埋め込まれるCVポートが知られている(例えば特許文献1参照)。CVポートは、直径2cm~3cm程度の平面視略円形状の容器と、この容器の蓋として機能するシリコンゴムからなるセプタムとを有している。このセプタムに専用の針であるヒューバー針を挿し、所定の薬剤が容器内に流し込まれる。容器はさらにカテーテルと接続されていて、このカテーテルを介して薬剤は体内に供給される。
【0003】
CVポートは一般的に心臓に向かう大きな血管に薬剤等を送る際に用いられることが多いため、胸の皮膚の下に埋め込まれる場合が多いが、場合によっては腕の皮膚の下に埋め込まれて使用されることもある。このCVポートを用いれば、皮下で薬剤の供給を行うことができるので、感染リスクが低減し、さらに患者は入浴もできるなど、種々の利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薬剤が容器内に供給される際、容器内の圧力は最大で2.1MPa(300psi)、場合によってはそれ以上となることがある。体内に埋め込まれるために小型に形成されている容器は、樹脂製であるため、このような圧力に耐えることができない場合がある。この場合、容器が破損し、薬剤等が体内に直接漏れてしまうことが懸念されるため、使用に際しては十分な注意が必要であった。
【0006】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、内部に高圧が付与されたとしてもそれによる破損を防止することができ、仮に破損が懸念される場合においても事前にそれを容易に検知することができるCVポートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明では、上下方向に2分割されていて下側容器部及び上側容器部とからなる樹脂製の容器と、該容器内に形成されている空間と、前記空間内に配設されていて上側が開口している金属製のカップと、該カップと接続されて前記容器外に向けて延びる接続管と、前記空間及び前記カップの上部を塞いで前記上側容器部に嵌め込まれているセプタムとを備えたことを特徴とするCVポートを提供する。
【0008】
好ましくは、前記カップは150μm以上200μm以下の金属箔にて形成されていて、前記空間を形成している側面と前記カップの側面との間に隙間である側部隙間が形成されていて、前記空間を形成している底面と前記カップの底面との間に隙間である底部隙間が形成されている。
【0009】
好ましくは、前記カップの底面は平面形状であり、前記底部隙間であって前記カップの底面に接して取付けられていて、前記カップの底面のひずみを検知するセンサとをさらに備えている。
【0010】
好ましくは、前記側部隙間に弾性材料からなる緩衝材が配設されている。
【0011】
好ましくは、前記接続管は前記カップに対して溶接により直接取付けられていて、前記容器内に配設されている部分にて前記接続管と前記容器とは非螺合である。
【0012】
好ましくは、前記カップ内の床面と前記接続管内の管路底部とは同一直線上に形成されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、容器内に形成されている空間内に金属製のカップが配設されているため、ヒューバー針から薬剤等が容器内に供給されて容器内が高圧になったとしても、この圧力が直接容器にかかることはなく、金属製のカップにてまずは受け止めることになる。すなわち、耐圧性の高い金属性のカップにて高圧付与による樹脂製の容器を保護することができ、したがって容器の破損を防止することができる。
【0014】
また、カップを150μm以上200μm以下の金属箔で形成することで、圧力が付与された際にカップは容易に膨らむ(ひずむ)。このとき、側部隙間と底部隙間を形成しておくことで、カップが膨らんだ際にカップが空間内面に接触することを防止でき、カップの破損を防止できる。
【0015】
また、カップの底面を平面形状としておくことで、カップ内に圧力が付与された際のひずみ(膨らみ)を容易に検知することができる。センサをこのカップの底面に接するように取付けることで、正確にカップのひずみを検知できる。
【0016】
また、側部隙間に緩衝材を配設することで、カップが膨らんだ際にカップの側面が直接空間内面に直接接して破損してしまうことを防止できる。
【0017】
また、接続管をカップに対して直接取付けることで、接続管を後からねじによる螺合等で容器外側から接続しなくてすむようになる。したがって容器にねじ山を形成したり、これに対応するように接続管にねじ加工をしたりする必要がなくなり生産性が向上する。また、容器にねじ加工を施さないので強度の低下が生じることはなく、容器が破損することを防止できる。
【0018】
また、カップ内の床面と接続管内の管路底部とが同一直線上であるため、カップ内の薬剤等は容易に接続管を通って体内に供給される。このため、カップ内に薬剤等の液だまりが生じることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係るCVポートの概略断面図である。
【
図2】本発明に係るCVポートの概略外観図である。
【
図3】カップを形成する金属材料の硬さを示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1及び
図2に示すように、本発明に係るCVポート1は、上下方向に2分割されている樹脂製の容器2を備えている。容器2は、上側容器部2aと下側容器部2bとが上下方向に合わさって形成されている。上側容器部2aは略円筒形状であり、上下方向が開口している。下側容器部2bは底部が閉塞された略円筒形状であり、上方向が開口している。これらの上側容器部2a及び下側容器部2bが合わさった際に容器2内に空間3が形成される。この空間3内には、金属製のカップ4が配設されている。金属材料としては、各種金属を適用できるが、チタン系の金属、より好ましくは純チタンを適用できる。このカップ4は一方の端部が閉塞された略円筒形状であり、したがって上側が開口している。カップ4からは、接続管5が容器2の外側に向けて延びている。具体的には、接続管5はカップ4に溶接されて接続されていて、カップ4の側壁にはこの接続管5と連通するための貫通孔4aが形成されている。そして、上側容器部2aにはシリコンゴムからなるセプタム6が嵌め込まれている。空間3及びカップ4の上部は、このセプタム6により塞がれている。
【0021】
このように、本発明に係るCVポート1は、容器2内に形成されている空間3内に金属製のカップ4が配設されている。このため、セプタム6に挿通されるヒューバー針(不図示)はカップ4内に導入され、薬剤等はカップ4内に供給される。このとき、薬剤等の供給により高圧が付与されたとしても、この圧力が直接容器2にかかることはなく、金属製のカップ4にてまずは受け止めることになる。すなわち、耐圧性の高い金属性のカップ4にて高圧付与による樹脂製の容器2を保護することができ、したがって容器2の破損を防止することができる。なお、ヒューバー針が確実にカップ4内に挿入されるようにするため、セプタム6の上面にカップ4の上部開口に収まる位置を挿入エリア6aとして目立たせてもよい。図では、挿入エリア6aの周囲に凸部6bを設けてその境界を目立つようにしている。
【0022】
ここで、カップ4は150μm以上200μm以下の例えば純チタンの金属箔にて形成されている。カップ4の側面と空間3を形成している側面との間には隙間である側部隙間3aが形成されている。カップ4の底面と空間3を形成している底面との間には隙間である底部隙間3bが形成されている。このように、カップ4を150μm以上200μm以下の金属箔で形成することで、圧力が付与された際にカップ4は容易に膨らむ(ひずむ)。このとき、側部隙間3aと底部隙間3bとを形成しておくことで、カップ4が膨らんだ際にカップ4が空間3の内面に接触することを防止でき、カップ4の破損を防止できる。したがって、側部隙間3a及び底部隙間3bはカップ4が圧力により膨らんだ際の変形量を許容できる程度の幅を有して設計される。
【0023】
また、カップ4の底部は、上述したヒューバー針が何度も突き当たる箇所であるため、その厚みを厚くしてもよい。この厚さについて、検証を行った。
図3に示すように、カップ4を形成する金属材料について、加工硬化処理を行った硬質材であるH材と、焼き鈍しを行ったアニール材であるO材の両方を用意した。これらの厚みを変化させ、(A)はH材にて50μmの厚み、(B)はO材にて50μmの厚み、(C)はH材にて100μmの厚み、(D)はO材にて100μmの厚み、(E)はH材にて150μmの厚み、(F)はH材にて200μmの厚み、(G)はO材にて300μmの厚みの金属シート材を用意した。
【0024】
これら(A)~(G)について、5点評価の平均値によりビッカーズ硬さ(Hv)の測定を行った。その結果、(A)が最も高く234Hv、次に高いのは(C)の225Hvであった。これは、H材の場合、薄い方は圧延処理が施されていたため、硬くなったからである。一方で、O材については厚み50μm及び100μmでは、いずれもH材よりもビッカーズ硬さは低い値であった。
【0025】
さらに、ヒューバー針はSUS材(SUS304)であることが多いため、このSUS材で形成された刃を用いて(A)及び(C)の金属シート材に対して押しつけた。すると、(A)については孔が空く場合があったが(C)は相当な力で刃を押しつけた場合に孔が空いた。これは、ビッカーズ硬さにかかわらず、金属箔が薄いと単純に孔が空いてしまうことを意味している。つまり、本願発明のようなヒューバー針が何度も突き刺さるような場面に適用するには、金属材料を圧延して硬さを向上させたとしても好ましくないことを意味している。
【0026】
一方で、アルミ材料によるホッチキスの芯をホッチキスを利用して刺してみたところ、(A)、(C)ともに孔が空いた。しかしながら、(E)、(F)、(G)については孔が空かなかった。
【0027】
以上より、カップ4の底部については少なくとも150μm以上の厚みがあれば、ヒューバー針による幾度の突き刺しに対しても強度を期待することができる。一方で、300μmの厚みになると、重量が大きくなってしまう。CVポート1としては軽量であることが好ましいため、この重量を考慮すると、200μm以下の厚みとすることが好ましいといえる。
【0028】
カップ4の底面は平面形状に形成されている。このカップ4の底面に接してセンサ7が取付けられている。すなわち、センサ7は底部隙間3b内に収められている。センサ7はひずみセンサであり、カップ4の底面のひずみを検知するためのものである。このように、カップ4の底面を平面形状としておくことで、カップ4内に圧力が付与された際のひずみ(膨らみ)を容易に検知することができる。センサ7をこのカップ4の底面に接するように取付けることで、正確にカップ4のひずみを検知できる。ここでも、上述したようにカップ4を150μm以上200μm以下の金属箔で形成した意味が重要となっている。センサ7によるカップ4のひずみ量を精度よく、容易に計測するためには、かなり薄い金属箔の方が適しているからである。なお、この数値は、ひずみ量を容易に計測することを考慮したことのみならず、ヒューバー針の接触による損傷を防止できることも考慮され、さらには薬剤等の供給による圧力にも耐えうることができるようなものとして設定されている。またカップ4をこのような薄さの金属箔で形成することは、体内に留置されるCVポート1の軽量化にも寄与できる。
【0029】
センサ7によるカップ4のひずみ検知は、種々の方法で行うことができる。例えば、許容範囲の圧力がカップ4内にかかっている場合と、カップ4が破損してしまうレベルまで圧力がかかった場合とが分かるような2種類のランプユニット(不図示)等を準備してもよい。施術者は、このランプユニットを見ながら薬剤等の供給速度や供給量を調節する。施術者が確認しやすいように、ヒューバー針が取付けられた注射器にこのランプユニットを取付けてもよい。ランプユニットとセンサ7との通信はセンサ7内に通信デバイスを設けてもよいし、別体として側部隙間3aあるいは底部隙間3b内に収容してもよい。センサ7の電源は、電池を側部隙間3aあるいは底部隙間3b内に配設してもよいし、電波により電力を外部から供給してもよい。
【0030】
なお、側部隙間3aには、弾性材料からなる緩衝材8が配設されていてもよい。この緩衝材8は例えばセプタムと同材料でもよい。これにより、CVポート1の製造に際して使用する材料の種類が増加されることはない。このように側部隙間3aに緩衝材8を配設することで、カップ4が膨らんだ際にカップ4の側面が直接空間3の内面に直接接して破損してしまうことを防止できる。
【0031】
上述したように、接続管5はカップ4に対して溶接により直接取付けられている。接続管5は容器2内を延びてその先端が外部に露出している。ここで、接続管5が容器2内に配設されている部分は、ねじ加工等がされていない。すなわち接続管5と容器2とは非螺合である。換言すれば、容器2内での接続管5の外表面は凹凸形状のない滑らかな表面であり、これに対する容器2の内表面も凹凸形状のない滑らかな表面である。具体的には、下側容器部2bに直線上の溝が形成されて、接続管5はこの溝内に配設される。そして、この状態で上側容器部2aが被せられて接続管5は容器2内に配設される。接続管5の軸方向への移動を規制するため、接続管5の先端には幅広の係止部5aが形成されている。係止部5aからさらに先端側には、カテーテル(不図示)と接続するための接続部5bが形成されている。接続管5は、上側容器部2aと下側容器部2bにて挟持されているのみであり、この作用により保持されているのみである。
【0032】
このように、接続管5をカップ4に対して直接取付けることで、接続管5を後からねじによる螺合等で容器2の外側から接続しなくてすむようになる。したがって容器2にねじ山を形成したり、これに対応するように接続管5にねじ加工をしたりする必要がなくなり生産性が向上する。また、容器2にねじ加工を施さないので強度の低下が生じることはなく、容器2が破損することを防止できる。この効果は、カップ4を配設することと相俟って、さらなる容器2の破損防止効果を高めることに寄与している。
【0033】
また、カップ4内の床面4bと接続管5内の管路底部5cとは同一直線上に形成されている。すなわち、床面4bと接続管5の底面とは同一平面上に形成されている。このように、カップ4内の床面4bと接続管5内の管路底部5cとが同一直線上であるため、カップ4内の薬剤等は容易に接続管5を通って体内に供給される。このため、カップ4内に薬剤等の液だまりが生じることを防止できる。さらにこのカップ4内への液だまり防止を図るため、カップ4の床面4bからカップの側面が立ち上がる部分は、その内面は丸みを帯びている。このため、カップ4の床面4bの周縁部での液流れをスムーズにでき、この部分に液だまりが生じることを極力防止できる。
【符号の説明】
【0034】
1:CVポート、2:容器、2a:上側容器部、2b:下側容器部、3:空間、3a:側部隙間、3b:底部隙間、4:カップ、4a:貫通孔、4b:床面、5:接続管、5a:係止部、5b:接続部、5c:管路底部、6:セプタム、6a:挿入エリア、6b:凸部、7:センサ、8:緩衝材、