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特許7632907シリカ微粒子が分散されたメチルヒドロシロキサン組成膜、又は、メチルヒドロシロキサザン組成膜を備えることを特徴とする基板及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】シリカ微粒子が分散されたメチルヒドロシロキサン組成膜、又は、メチルヒドロシロキサザン組成膜を備えることを特徴とする基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20250212BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20250212BHJP
   C08L 83/16 20060101ALI20250212BHJP
   C01B 33/18 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H01L21/312 C
C08K3/36
C08L83/16
C01B33/18 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023169901
(22)【出願日】2023-09-29
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】521089823
【氏名又は名称】株式会社トラディショナルインテリジェンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 泰雄
【審査官】長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-105676(JP,A)
【文献】特開2013-214716(JP,A)
【文献】特開2021-080348(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312
C08K 3/36
C08L 83/16
C01B 33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N-H結合を含むメチルヒドロシロキサザンをマトリックス材としてシリカ微粒子が分散された膜を備えることを特徴とする基板。
【請求項2】
請求項1に記載の基板であって、
前記基板は、1μm以上の段差を有し、
前記膜が前記段差の底部から1μm以上埋設されていることを特徴とする基板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の基板であって、
前記膜の平均炭素含有が8wt%以上18wt%以下であることを特徴とする基板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の基板であって、
前記シリカ微粒子は、平均一次粒子サイズが5nm以上150nm以下であることを特徴とする基板。
【請求項5】
基板の製造方法であって、
重量平均分子量が400以上20,000以下であって、Si-H結合/Si-Me結合の比率が0.3以上0.9以下であり、かつ、N-H結合/Si-Me結合の比率が0.4以上1.1以下であるポリメチルヒドロシラザン、又は、ポリメチルヒドロシロキサザンをマトリックス材として、シリカ微粒子を分散させた材料を基板に塗布及び加熱することを特徴とする基板の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の基板の製造方法であって、
前記シリカ微粒子は、平均一次粒子サイズが5nm以上150nm以下であることを特徴とする基板の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の基板の製造方法であって、
前記マトリックス材に対する前記シリカ微粒子の混合比率(重量比)が3wt%以上200wt%以下であることを特徴とする基板の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の基板であって、
前記膜は、重量平均分子量が400以上20,000以下であって、Si-H結合/Si-Me結合の比率が0.3以上0.9以下であり、かつ、N-H結合/Si-Me結合の比率が0.4以上1.1以下であるポリメチルヒドロシロキサザンに前記シリカ微粒子を分散させた材料を基板に塗布及び加熱することによって形成された膜であることを特徴とする基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリカ微粒子が分散されたメチルヒドロシロキサン組成膜、又は、メチルヒドロシロキサザン組成膜を備えることを特徴とする基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基板に設けられた溝(段差)に対してクラックや剥離を発生させることなく、安定性及び生産性に優れるシリカ質膜で埋設して平坦化する技術が必要とされている。一般的に、半導体や液晶パネル等では一枚の半導体ウェハやガラス基材に素子や配線等を下層から上層方向へ積層して形成するため、上層の形成を容易にするためや、リソグラフィにおける面方向でのずれ等を低減するために、素子や配線等による突起や段差を平坦化することが必要である。特に、半導体チップや液晶パネル等の近年の高集積化及び高精細化への要求から、これらの突起や段差の高さ(深さ)が大きくなる傾向で、1μm以上となる場合があるため、その埋設や平坦化の重要性が増している。
【0003】
また、次世代半導体として注目されているCPUやメモリ等の異なる種類、又は同種の複数のチップを積層して形成する、いわゆるチップオンウェハ方式の半導体素子を製造する場合、土台となるウェハ上に切断したチップを載せた後、当該チップを固定して隣接するチップ間の溝を埋設する必要がある。このとき、溝の深さは通常10μm以上であり、当該溝を埋設及び平坦化することができる膜が必要とされている。
【0004】
なお、応力緩和、硬度向上、耐熱性向上、チクソ性付与等の目的に使用されるシリカ質コーティング組成物が開示されている(特許文献1)。当該シリカ質コーティング組成物は、シリカ質微粒子を分散状態で保持するマトリックス部材を備える。シリカ質微粒子及びシリカ質コーティング組成物における炭素含有率は5wt%以下とされている。
【0005】
また、基体に形成されたトレンチ内にシリコン酸化物を埋め込むために使用するのに好適な、トレンチへの埋め込み性が高く、硬化収縮率が小さく、かつ良好なクラック耐性を有するシリコン酸化物塗膜を与えるトレンチ埋め込み用組成物を提供する技術が開示されている(特許文献2)。当該技術では、水素化ポリシラザン化合物と、シリカ粒子に由来する構造を有する反応物とを含むトレンチ埋め込み用組成物が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-182893号公報
【文献】特開2010-177647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、このような膜を形成する技術として化学気相成長法(CVD法)も知られている。化学気相成長法(CVD法)では、膜が基板の形状に沿って形成されるため、溝部の埋込みや平坦化には不向きである。また、膜の形成速度が遅く、生産性も悪い。
【0008】
また、ゾルゲル液やエチル基など嵩高い有機基を含むシロキサン化合物をマトリックス材として用いる場合、シリカ転換時に脱水反応を伴いながら硬化するために体積収縮が大きく、0.5μm以上の厚い膜を形成するとクラックや剥離が発生し易く、安定性及び生産性を確保することが困難である。
【0009】
また、耐熱有機樹脂としてポリイミド等を用いる場合、シリカ質素材と比較して膨張収縮など熱変化が大きいため形状制御が困難である。また、エッチング工程やクリーニング工程において有機成分の分解や溶出が発生する等の製造上の困難がある。
【0010】
さらに、上記先行技術文献に記載された技術では、マトリックス材として水素化ポリシラザンなどの有機基を全く含まないポリマーを用いるため、加熱や硬化後に炭素成分量を本質的に含まない、又は、少ない無機シリカ質が形成される。したがって、高硬度、高強度の膜を形成できる利点を持つ反面、加熱や硬化時の応力が大きく、製造時及び製造後の曲げや熱変化によるクラックや剥離を起こし易い欠点がある。なお、当該欠点は、平坦な基材上よりも段差を有する基材において、さらに段差が高い基材を用いる場合により顕著となる。また、溶媒への溶解性が低く、水分との反応性が高いため、シリカ質微粒子と均一に混合することが難しく、混合液の保存の安定性に問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の1つの態様は、メチルヒドロシロキサン組成、又は、メチルヒドロシロキサザン組成をマトリックス材としてシリカ微粒子が分散された膜を備えることを特徴とする基板である。
【0012】
ここで、前記基板は、1μm以上の段差を有し、前記膜が前記段差の底部から1μm以上埋設されていることが好適である。
【0013】
また、前記膜の平均炭素含有が8wt%以上18wt%以下であることが好適である。
【0014】
また、前記シリカ微粒子は、平均一次粒子サイズが5nm以上150nm以下であることが好適である。
【0015】
本発明の別の態様は、基板の製造方法であって、重量平均分子量が400以上20,000以下のポリメチルヒドロシラザン、又は、ポリメチルヒドロシロキサザンをマトリックス材として、シリカ微粒子を分散させた材料を基板に塗布及び加熱することを特徴とする基板の製造方法である。
【0016】
また、前記シリカ微粒子は、平均一次粒子サイズが5nm以上150nm以下であることが好適である。
【0017】
また、前記マトリックス材に対する前記シリカ微粒子の混合比率(重量比)が3wt%以上200wt%以下であることが好適である。
【0018】
また、前記マトリックス材の構造におけるSi-H結合/Si-Me結合の比率が0.3以上0.9以下であり、かつ、N-H結合/Si-Me結合の比率が0.4以上1.1以下であることが好適である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、クラックや剥離が生じない膜が形成された膜付き基板を提供することが可能になる。特に、1μm以上の膜厚においてもクラックや剥離が生じない膜が形成された膜付き基板を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態における膜付き基板の構成を示す断面模式図である。
図2】本発明の実施の形態における膜付き基板の構成を示す断面模式図である。
図3】本発明の実施の形態における膜付き基板の構成を示す断面模式図である。
図4】本発明の実施の形態における膜付き基板の構成を示す断面模式図である。
図5】本発明の実施の形態におけるマトリックス材の組成変化を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[基板の構成]
本発明の実施の形態における膜付き基板100は、図1に示すように、基板10及び膜12を積層して構成される。
【0022】
基板10は、表面に膜12が形成される部材である。基板10は、特に限定されるものではないが、例えば、半導体基板とすることができる。基板10は、例えば、トランジスタ、キャパシタ等の電気回路を構成する素子が形成された半導体基板、液晶パネルのカラーフィルタ等が形成された基板等とすることができる。
【0023】
膜12は、基板10の表面上に形成される。膜12は、半導体や液晶パネル等の基板10において絶縁膜、埋込み層、平坦化膜、パッシベーション膜等として使用される。具体的には、例えば、トランジスタ、キャパシタ等の電気回路を構成する素子、配線等、又は回路を構成した構造の絶縁膜、平坦化膜、埋込膜として使用される。また、半導体チップ自体の積層時の上下層の固定、及び上層のチップを配置したときに出来るチップ間の溝の埋込み層又は平坦化膜として使用される。また、例えば、液晶パネルのカラーフィルタ等の凹凸部位の埋込み層又は平坦化膜として使用される。また、例えば、電気回路や電気素子を酸化して劣化させる水分又は酸素を遮断するパッシベーション膜(バリア膜)として使用される。
【0024】
膜12は、メチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成をマトリックス材として、シリカ微粒子を分散させた材料から構成される。メチルヒドロシロキサン組成はSi-O結合を骨格として、あるいはメチルヒドロシロキサザン組成は、Si-O結合および部分的にSi-N結合を骨格として、H-Si-Me(ただし、Meはメチル基CH)結合を含む化合物である。
【0025】
メチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成をマトリックス材として選定した理由として、(1)シリカ微粒子及びシリコンやガラスの基板10と同様のSi-O結合の骨格を有する、(2)Si-Me結合により膜12の強度と柔軟性を両立する機能を持たせることができる、(3)Si-H結合によりシリカ微粒子及び基板10の表面におけるSi-OH結合等と反応性が高くなり、シリカ微粒子及び基板10との密着性を高めることができる、等の点が挙げられる。
【0026】
マトリックス材であるメチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成を形成する素材として、重量平均分子量が400以上20,000以下のポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンを用いることが好適である。重量平均分子量が400未満の場合、シリカ微粒子と混合及び分散させた有機溶媒を基材に塗布したときに流動して基板10の表面に固定化できなかったり、加熱中に気化したりして均質な膜12の形成が困難となる場合がある。また、重量平均分子量が20,000を超える場合、シリカ微粒子と混合及び分散させるときに有機溶媒へ溶解し難いという問題がある。
【0027】
また、マトリックス材であるメチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成を形成する素材であるポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンのSi-H結合/Si-Me結合の比率は、0.3以上0.9以下の範囲内であることが好適である。また、同じくポリメチルヒドロシラザンまたはポリメチルヒドロシロキサザンにおけるN-H結合/Si-Me結合の比率は、0.4以上1.1以下の範囲内であることが好適である。Si-H結合/Si-Me結合の比率が0.3未満の場合、又は、N-H結合/Si-Me結合の比率が0.4未満の場合、シリカ微粒子と混合及び分散させた有機溶媒を基板10に塗布したときに、基板10やシリカ微粒子との密着性が低下して、加熱後に膜12にクラックや剥離が生ずるおそれがある。また、Si-H結合/Si-Me結合の比率が0.9を超える場合、又は、N-H結合/Si-Me結合の比率が1.1を超える場合、有機溶媒中でシリカ微粒子と混合及び分散させたときに粘度上昇が起きたり、混合及び分散後の溶液の保存における安定性が低下したりする問題が生ずる。
【0028】
膜12は、膜中にシリカ微粒子が分散されて存在することが好適である。シリカ微粒子は、コロイダルシリカ、溶融シリカ、ヒュームドシリカ、焼結粉砕法や気化燃焼法によって生成したシリカを用いることができる。有機溶媒への分散性を高めるため、シランカップリング材などで表面処理したシリカ微粒子を用いることもできる。シリカ微粒子は、1次粒子サイズ(平均直径)が5nm以上150nm以下であることが好適である。シリカ微粒子の1次粒子サイズ(平均直径)が5nm未満の場合、凝集により有機溶媒に分散できなかったり、ポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンと均質に混合できなかったりする問題が生ずる。また、シリカ微粒子の1次粒子サイズ(平均直径)が150nmを超える場合、沈降により有機溶媒に安定的に分散、保持できない問題が生ずる。また、液晶パネルなどのデバイスに適用する場合には、シリカ微粒子の1次粒子サイズ(平均直径)を5nm以上150nm以下とすることによって、可視光領域において膜12の透明性を高めることができる。
【0029】
マトリックス材であるメチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成を形成する素材であるポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンに対するシリカ微粒子の混合比率(重量比)は、3wt%以上200wt%以下の範囲内であることが好適である。混合比率(重量比)が3wt%未満の場合、基板10に塗布したときに流動して基板10に固定化できなかったり、加熱後に膜12にクラックが生成したりする等の問題が生ずるおそれがある。混合比率(重量比)が200wt%を超える場合、基板10に塗布したときに微粒子間の空間を完全に埋めることができずに微粒子のみが膜12から露出したり、膜12に粗さが生じたりする等の均質な膜12の形成が困難となるおそれがある。
【0030】
マトリックス材であるメチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成に対するシリカ微粒子の混合比率を示す平均炭素含有量は、8wt%以上18wt%以下とすることが好適である。平均炭素含有量を8wt%未満とした場合、形成した膜12にクラックや剥離が生ずるおそれが高くなる。また、平均炭素含有量が18wt%を超えた場合、形成した膜12の強度が低下したり、膜12の形成過程における収縮が増加して膜12の形状の制御が困難となったりするおそれがある。
【0031】
図2は、段差を有する表面に、メチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成をマトリックス材としてシリカ微粒子を分散させた膜12を埋設させた基板10の断面模式図を示す。
【0032】
図2(a)~図2(c)は、基板10の段差の高さ(深さ)H1と、段差に埋め込まれた膜12の膜厚H2との関係を示す3つの場合を示している。図2(a)は、基板10の段差の高さ(深さ)H1よりも、段差に埋め込まれた膜12の膜厚H2が小さい場合について示している。図2(b)は、基板10の段差の高さ(深さ)H1と、段差に埋め込まれた膜12の膜厚H2が等しい場合について示している。図2(c)は、基板10の段差の高さ(深さ)H1よりも、段差に埋め込まれた膜12の膜厚H2が大きい場合について示している。
【0033】
本実施の形態では、図2(a)~図2(c)のいずれの場合であっても、形成後の膜12にクラックや剥離は発生せず、安定した膜12を形成することができた。特に、基板10に設けられた段差の高さ(深さ)H1が1μm以上であり、当該段差に埋め込んだ膜12の膜厚H2が1μm以上であってもクラックや剥離は発生しなかった。すなわち、本実施の形態によれば、膜12の膜厚が1μm以上であってもクラックや剥離は発生せず、安定した膜12を形成することができた。
【0034】
また、図3に示すように、埋設後にCMPなどの方法を用いて段差外部の膜を研磨及び除去することによって、基板全体を平坦化することが可能となる。この場合は、段差に埋め込まれた膜12の膜厚H2が段差の高さと等しくなるように膜12を形成する(図2(b))、又は、段差に埋め込まれた膜12の膜厚H2が段差の高さより大きくなるように膜12を形成する(図2(c))とすることが好ましい。
【0035】
また、シリカ微粒子を分散させたポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンを含む有機溶媒を基板10へ塗布する方法として、スピンコート、スプレー塗布、スリットコート、グラビアコート、ロールコート等の溶媒を気化させながら定着させる方法を用いた場合、本質的に塗布液が段差の上部から段差の内部へ流れ落ちる現象がある。この結果、図4に示すように、基板10の段差外部における段差から十分に離れた外部における最大膜厚t1より段差内部の膜厚T2が大きくなる傾向がある。また、基板10の段差外部における周辺部の膜12の膜厚t1~t4は、段差に近づくにつれて小さくなる傾向がある。
【0036】
ここで、基板10の表面に設けられるパターンは、特に形状、配置及び位置は限定されない。例えば、パターンは、ライン状、円形状、矩形状等の穴等とすることができる。特に、パターンの段差の高さ(深さ)H1が1μm以上である場合に膜12による効果が顕著となる。また、パターンの幅は、特に限定されないが、膜12に分散させるシリカ微粒子のサイズを考慮すると最小幅が30nm以上とすることが好適である。一方、用途によっては、パターンの幅が1μm以上、あるいは1mm以上の場合にも適用可能である。さらに、段差の側壁は、垂直である必要はなく、テーパ形状や逆テーパ形状としてもよい。
【0037】
[製造方法]
本実施の形態における膜12は、まずポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンにシリカ微粒子を混合及び分散させた有機溶媒を基板10の表面に塗布した後、有機溶媒を飛散させて定着させ、これを加熱することによってポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンが酸化され、メチルヒドロシロキサン組成又はメチルヒドロシロキサザン組成に転換されて形成される。
【0038】
ここで、ポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンの重量平均分子量は400以上20,000以下とすることが好適である。また、分散させるシリカ微粒子の平均一次粒子サイズは、5nm以上150nm以下であることが好適である。また、ポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンに対するシリカ微粒子の混合比率(重量比)は、3wt%以上200wt%以下の範囲内であることが好適である。
【0039】
また、ポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンにおけるSi-H結合/Si-Me結合の比率は0.3以上0.9以下の範囲内であることが好適である。また、ポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンにおけるN-H結合/Si-Me結合の比率は、0.4以上1.1以下の範囲内であることが好適である。
【0040】
ポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンは水分と反応して重合する性質を持つため、これらの有機溶媒に水分が含まれると高分子量化又はゲル化によって膜12の膜厚の変化や塗布が困難になる等の問題を生ずるおそれがあるため、有機溶媒中の水分は1wt%以下とすることが好適である。
【0041】
有機溶媒は、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘキセン、オクタン等の飽和炭化水素類、ブチルエーテル、アミルエーテル、アニソール等のエーテル類、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等のエステル類、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類から選ばれる単一または複数種類の溶媒とすることが好適である。
【0042】
シリカ微粒子を分散させたポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンを含む有機溶媒を基板10へ塗布する方法は、スピンコート、スプレー塗布、スリットコート、グラビアコート、ロールコート等の溶媒を気化させながら定着させる方法を適用することができる。なお、塗布方法は、これらに限定されるものではない。
【0043】
また、数μm以上の深い溝や段差を埋設する場合などには、ポリメチルヒドロシロキサン又はポリメチルヒドロシロキサザンとシリカ微粒子の混合液を基板に塗布し、有機溶媒を飛散させて定着させた後、加熱する一連の操作を複数回繰り返して厚い膜を形成することができる。一度に数μm以上の膜を形成することも可能だが、塗布液の粘度を高める必要があり、塗布液や塗布装置の取扱いが困難になることを防ぐことができる。
【0044】
シリカ微粒子を分散させたポリメチルヒドロシラザン又はポリメチルヒドロシロキサザンを含む有機溶媒を基板10へ塗布し、有機溶媒を飛散させて定着させた後、加熱処理が行われる。加熱方法は、特に限定されるものではないが、例えばオーブン又はホットプレート等を用いることができる。加熱温度は、150℃以上600℃以下とすることが好適である。加熱時の雰囲気は、大気、酸素、水蒸気等の酸化性ガス中であることが好適である。また、乾燥窒素、アルゴン等をバランスガスとして適用してもよい。
【0045】
図5は、マトリックス部分の加熱前後における構造の変化を推定した図である。図5において、a,b,c,k、及びx,y,zは各々ランダムに存在する。加熱前は、ポリメチルヒドロシラザンの場合にはa,b,c、ポリメチルヒドロシロキサザンの場合にはa,b,c,kにより構成される。ここで、a,b,c,kの組成比率は、aが5%~70%、bが10%~60%、cが3%~20%、kが0%~15%である。加熱後はSi-N結合の一部もしくは全てが酸化され、メチルヒドロシロキサン組成の場合にはx,y、メチルヒドロシロキサザン組成の場合にはx,y,zにより構成される。ここで、x,y,zの組成比率は、xが1%~20%、yが70%~100%、zが0%~20%である。組成比率は、それぞれの組み合わせにおいて矛盾がないように組み合わされる。例えば、yが100%のときには、他のx,zは0%とする。
【0046】
[実施例]
[ポリメチルヒドロシラザンAの合成]
容量2Lのステンレス製オートクレーブに撹拌機、液相及び気相へ薬液又はガスを注入及び排出できるノズル、内容物を温度制御できる冷却、制御装置を取り付けた。乾燥窒素を用いて十分にオートクレーブ内を完全に乾燥させたのち、モレキュラーシーブで脱水処理したトルエン300g及びピリジン300gを注入し、攪拌しながら0℃に冷却した。これにメチルヒドロジクロロシラン50gを徐々に注入し、温度を0℃に保持しながら乾燥アンモニア50gを2時間かけて注入した。乾燥窒素を注入して余剰のアンモニアを除去したのち、反応液を濾過精度25μmのSUS316製フィルタで濾過した。得られた濾液にモレキュラーシーブで乾燥させたトルエン500gを混合し、これをバス温度50℃のロータリーエバポレータで内容物が約200gになるまで蒸留した。これに乾燥させたトルエン200gを混合して、同じくバス温度50℃のロータリーエバポレータで溶媒を十分に留去したところ約15gの粘性液体を得た。
【0047】
CDCl3をロック溶媒として、得られた粘性液体について1H-NMR(400MHz)測定を行ったところ、Si-Me結合に帰属される0.1~0.2ppmのピーク、N-H結合に帰属される0.4~1.8ppmのピーク、及びSi-H結合に帰属される4.1~5.1ppmのピークが観測された。各ピークの積分比(プロトン数基準)より、Si-H結合/Si-Me結合の比率は0.82、N-H結合/Si-Me結合の比率は0.75であった。
【0048】
また、当該粘性液体をKBr板に塗布し、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)にてFTIRスペクトルを測定したところ、N-H結合に帰属される1,180及び3,370cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。
【0049】
また、当該粘性液体をGPC測定したところ、ポリスチレン換算の重量平均分子量は850であった。
【0050】
以上の分析結果より、得られた粘性液体はポリメチルヒドロシラザンであると特定した。
【0051】
[ポリメチルヒドロシラザンBの合成]
容量2Lのステンレス製オートクレーブに撹拌機、液相及び気相へ薬液又はガスを注入及び排出できるノズル、内容物を温度制御できる冷却、制御装置を取り付けた。乾燥窒素で十分にオートクレーブ内を完全に乾燥させたのち、モレキュラーシーブで脱水処理したトルエン300g及びピリジン300gを注入し、攪拌しながら0℃に冷却した。これにメチルヒドロジクロロシラン20g及びメチルトリクロロシラン30gを徐々に注入し、温度を0℃に保持しながら乾燥アンモニア50gを2時間かけて注入した。乾燥窒素を注入して余剰のアンモニアを除去したのち、反応液を濾過精度25μmのSUS316製フィルタで濾過した。得られた濾液にモレキュラーシーブで乾燥させたトルエン500gを混合し、これをバス温度50℃のロータリーエバポレータで内容物が約200gになるまで蒸留した。これに乾燥させたトルエン200gを混合して、同じくバス温度50℃のロータリーエバポレータで溶媒を十分に留去したところ約18gの粘性液体を得た。
【0052】
CDCl3をロック溶媒として、得られた粘性液体について1H-NMR(400MHz)測定を行ったところ、Si-Me結合に帰属される0.1~0.2ppmのピーク、N-H結合に帰属される0.4~1.8ppmのピーク、及びSi-H結合に帰属される4.1~5.1ppmのピークが観測された。各ピークの積分比(プロトン数基準)より、Si-H結合/Si-Me結合の比率は0.39、N-H結合/Si-Me結合の比率は1.05であった。
【0053】
また、当該粘性液体をKBr板に塗布し、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)にてFTIRスペクトルを測定したところ、N-H結合に帰属される1,180及び3,370cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。
【0054】
また、当該粘性液体をGPC測定したところ、ポリスチレン換算の重量平均分子量は1,800であった。
【0055】
以上の分析結果より、得られた粘性液体はポリメチルヒドロシラザンであると特定した。
【0056】
[ポリメチルヒドロシロキサザンCの合成]
容量2Lのステンレス製オートクレーブに撹拌機、液相及び気相へ薬液又はガスを注入及び排出できるノズル、内容物を温度制御できる冷却、制御装置を取り付けた。乾燥窒素で十分にオートクレーブ内を完全に乾燥させたのち、モレキュラーシーブで脱水処理したピリジン50gを注入し、攪拌しながら0℃に冷却した。これに、モレキュラーシーブで脱水処理したトルエン90gに上記で得られたポリメチルヒドロシラザンA:12gを溶解させた溶液を徐々に注入した。次に、モレキュラーシーブで脱水処理したピリジン40gと純水0.5gを混合して、これにポリメチルヒドロシラザンAをピリジンとトルエンに溶解させたオートクレーブ内に1時間かけて注入した。乾燥窒素を注入してオートクレーブ内を置換したのち、内容物を5μmのテフロン(登録商標)製フィルタで濾過した。得られた濾液にモレキュラーシーブで乾燥させたトルエン100gを混合し、これをバス温度50℃のロータリーエバポレータで内容物が約80gになるまで蒸留した。これに乾燥させたトルエン100gを混合して、同じくバス温度50℃のロータリーエバポレータで溶媒を十分に留去したところ約12gの粘性液体を得た。
【0057】
CDCl3をロック溶媒として、得られた粘性液体について1H-NMR(400MHz)測定を行ったところ、Si-Me結合に帰属される0.1~0.2ppmのピーク、N-H結合に帰属される0.4~1.8ppmのピーク、及びSi-H結合に帰属される4.1~5.1ppmのピークが観測された。各ピークの積分比(プロトン数基準)より、Si-H結合/Si-Me結合の比率は0.63、N-H結合/Si-Me結合の比率は0.73であった。
【0058】
また、当該粘性液体をKBr板に塗布し、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)にてFTIRスペクトルを測定したところ、Si-O結合に帰属される1,120cm-1の吸収、N-H結合に帰属される1,180及び3,370cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,250cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。
【0059】
また、この粘性液体をGPC測定したところ、ポリスチレン換算の重量平均分子量は11,500であった。
【0060】
以上の分析結果より、得られた粘性液体はポリメチルヒドロシロキサザンであると特定した。
【0061】
[ポリメチルシラザンの合成]
容量2Lのステンレス製オートクレーブに撹拌機、液相及び気相へ薬液又はガスを注入及び排出できるノズル、内容物を温度制御できる冷却、制御装置を取り付けた。乾燥窒素で十分にオートクレーブ内を完全に乾燥させたのち、モレキュラーシーブで脱水処理したトルエン300gおよびピリジン300gを注入し、攪拌しながら0℃に冷却した。これに、ジメチルジクロロシラン25gおよびメチルトリクロロシラン30gを徐々に注入し、温度を0℃に保持しながら乾燥アンモニア50gを2時間かけて注入した。乾燥窒素を注入して余剰のアンモニアを除去したのち、反応液を濾過精度25μmのSUS316製フィルタで濾過した。得られた濾液にモレキュラーシーブで乾燥させたトルエン500gを混合し、これをバス温度50℃のロータリーエバポレータで内容物が約200gになるまで蒸留した。これに乾燥させたトルエン200gを混合して、同じくバス温度50℃のロータリーエバポレータで溶媒を十分に留去したところ約20gの粘性液体を得た。
【0062】
CDCl3をロック溶媒として、得られた粘性液体について1H-NMR(400MHz)測定を行ったところ、Si-Me結合に帰属される0.1~0.2ppmのピーク、及びN-H結合に帰属される0.4~1.8ppmのピークが観測された。各ピークの積分比(プロトン数基準)より、N-H結合/Si-Me結合の比率は1.22であった。なお、Si-H結合に帰属される4.1~5.1ppmのピークは観測されなかった。
【0063】
また、当該粘性液体をKBr板に塗布し、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)にてFTIRスペクトルを測定したところ、N-H結合に帰属される1,180及び3,370cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。なお、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収は観測されなかった。
【0064】
また、この粘性液体をGPC測定したところ、ポリスチレン換算の重量平均分子量は2,400であった。
【0065】
以上の分析結果より、得られた粘性液体はポリメチルシラザンであると特定した。
【0066】
[水素化ポリシラザンの合成]
容量2L、撹拌機、冷却装置を備えたステンレス製の反応器を乾燥窒素にて十分に乾燥させたのち、モレキュラーシーブで乾燥させたピリジン1,500gを入れて、撹拌しながら0℃に冷却した。これに、ジクロロシラン120gを1時間かけて加え、ピリジンとジクロロシラン錯体を形成した。続いて、温度を0℃に維持しながら攪拌しつつ、乾燥アンモニア120gを5時間かけて注入した。反応終了後、乾燥窒素雰囲気下でスラリー状生成物を濾過精度25μmのSUS316製フィルタで濾過して、濾液1,000gを得た。これをバス温度40℃のロータリーエバポレータで減圧留去すると粘性液体30gが得られた。
【0067】
また、当該粘性液体をKBr板に塗布し、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)にてFTIRスペクトルを測定したところN-H結合に帰属される1,180及び3,370cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、Si-H又はSi-N結合に帰属される850~1,050cm-1の吸収が観測された。なお、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、およびC-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収は観測されなかった。
【0068】
また、この粘性液体をGPC測定したところ、ポリスチレン換算の重量平均分子量は1,500であった。
【0069】
以上の分析結果より、得られた粘性液体は水素化ポリシラザンであると特定した。
【0070】
[実施例1]
容量300mlのガラス製容器にコロイダルシリカ(日産化学工業社製オルガノシリカゾルMEK-ST-L:平均粒径45nm、固形分濃度30%)20gと酢酸ブチル(東京化成社製:A0024、純度>99%)50gを混合及び攪拌し、十分に乾燥したモレキュラーシーブ4A:20gを加えて室温で1日放置して脱水処理した。そして、これをバス温度50℃のロータリーエバポレータで内容物が約30gになるまで蒸留した。
【0071】
続いて、乾燥させた酢酸ブチル100gを混合し、これを同じバス温度50℃のロータリーエバポレータで内容物が25gになるまで蒸留した。これを室温で放冷したのち、ポリメチルヒドロシラザンA:6gを混合してよく攪拌し、濾過精度1μmのテフロン(登録商標)製メンブレンフィルタで濾過して、コロイダルシリカとポリメチルヒドロシラザンAの混合分散液を得た。なお、この条件におけるポリメチルヒドロシラザンAに対するコロイダルシリカ(固形分)の混合比率は100wt%であった。
【0072】
当該混合分散液を直径4インチのシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。さらに、大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ、クラックや剥離のない均質な薄膜が形成された。
【0073】
当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)した。その結果、直径50~110nmのシリカ微粒子が偏りなく分布した膜厚2.1μmの膜の形成が確認された。また、日本電子株式会社製の光電子分光装置(ESCA)を用いてX線光電子分光測定(再表面をスパッタリング処理後)により膜内の元素組成を測定した結果、炭素含有量(シリカ質相当に対する炭素原子量として換算)は、13.1wt%であった。また、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)を用いて、シリコンウェハ吸収をバックグランドとして差引く方法にて、当該膜のFTIRスペクトルを測定した。その結果、Si-O結合に帰属される470及び980~1,270cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。これより、膜の組成はメチルヒドロシロキサンであると特定した。
【0074】
[実施例2]
ポリメチルヒドロシラザンAに替えてポリメチルヒドロシラザンBを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、コロイダルシリカとポリメチルヒドロシラザンBの混合分散液を得た。なお、この条件におけるポリメチルヒドロシラザンBに対するコロイダルシリカ(固形分)の混合比率は100wt%であった。
【0075】
当該混合分散液を直径4インチのシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。さらに、大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ、クラックや剥離のない均質な薄膜が形成された。
【0076】
当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)した。その結果、直径40~100nmのシリカ微粒子が偏りなく分布した膜厚2.3μmの膜の形成が確認された。また、日本電子株式会社製の光電子分光装置(ESCA)を用いてX線光電子分光測定(再表面をスパッタリング処理後)により膜内の元素組成を測定した結果、炭素含有量(シリカ質相当に対する炭素原子量として換算)は、16.8wt%であった。また、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)を用いて、シリコンウェハ吸収をバックグランドとして差引く方法にて、当該膜のFTIRスペクトルを測定した。その結果、Si-O結合に帰属される470及び980~1,270cm-1の吸収、N-H結合に帰属される3,370cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。これより、膜の組成はメチルヒドロシロキサザンであると特定した。
【0077】
[実施例3]
ポリメチルヒドロシラザンAに替えてポリメチルヒドロシロキサザンCを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、コロイダルシリカとポリメチルヒドロシロキサザンCの混合分散液を得た。なお、この条件におけるポリメチルヒドロシロキサザンCに対するコロイダルシリカ(固形分)の混合比率は100wt%であった。
【0078】
当該混合分散液を直径4インチのシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。さらに、大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ、クラックや剥離のない均質な薄膜が形成された。
【0079】
当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)した。その結果、直径40~110nmのシリカ微粒子が偏りなく分布した膜厚2.1μmの膜の形成が確認された。また、日本電子株式会社製の光電子分光装置(ESCA)を用いてX線光電子分光測定(再表面をスパッタリング処理後)により膜内の元素組成を測定した結果、炭素含有量(シリカ質相当に対する炭素原子量として換算)は、10.8wt%であった。また、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)を用いて、シリコンウェハ吸収をバックグランドとして差引く方法にて、当該膜のFTIRスペクトルを測定した。その結果、Si-O結合に帰属される470及び980~1,270cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。これより、膜の組成はメチルヒドロシロキサンであると特定した。
【0080】
[実施例4]
コロイダルシリカ(日産化学工業社製オルガノシリカゾルMEK-ST-L:平均粒径45nm、固形分濃度30%)20gに替えて、コロイダルシリカ(日産化学工業社製オルガノシリカゾルMEK-ST:平均粒径12nm、固形分濃度30%)20gを使用する以外は実施例1と同様の操作を行い、コロイダルシリカとポリメチルヒドロシラザンAの混合分散液を得た。なお、この条件におけるポリメチルヒドロシラザンAに対するコロイダルシリカ(固形分)の混合比率は100wt%であった。
【0081】
当該混合分散液を直径4インチのシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。これを大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ、クラックや剥離のない均質な薄膜が形成された。
【0082】
当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)した。その結果、直径7~20nmのシリカ微粒子が偏りなく分布した膜厚1.8μmの膜の形成が確認された。また、日本電子株式会社製の光電子分光装置(ESCA)を用いてX線光電子分光測定(再表面をスパッタリング処理後)により膜内の元素組成を測定した結果、炭素含有量(シリカ質相当に対する炭素原子量として換算)は、12.2wt%であった。また、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)を用いて、シリコンウェハ吸収をバックグランドとして差引く方法にて、当該膜のFTIRスペクトルを測定した。その結果、Si-O結合に帰属される470及び980~1,270cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。これより、膜の組成はメチルヒドロシロキサンであると特定した。
【0083】
[実施例5]
コロイダルシリカ(日産化学工業社製オルガノシリカゾルMEK-ST-L:平均粒径45nm、固形分濃度30%)を2gに変更し、ポリメチルヒドロシラザンAの混合量を12gに変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、コロイダルシリカとポリメチルヒドロシラザンAの混合分散液を得た。なお、この条件におけるポリメチルヒドロシラザンAに対するコロイダルシリカ(固形分)の混合比率は5.0wt%であった。
【0084】
当該混合分散液を直径4インチのシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。これを大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ、クラックや剥離のない均質な薄膜が形成された。
【0085】
当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)した。その結果、直径40~110nmのシリカ微粒子がまばらであるが偏りなく分布した膜厚1.5μmの膜の形成が確認された。また、日本電子株式会社製の光電子分光装置(ESCA)を用いてX線光電子分光測定(再表面をスパッタリング処理後)により膜内の元素組成を測定した結果、炭素含有量(シリカ質相当に対する炭素原子量として換算)は、17.8wt%であった。また、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)を用いて、シリコンウェハ吸収をバックグランドとして差引く方法にて、当該膜のFTIRスペクトルを測定した。その結果、Si-O結合に帰属される470及び980~1,270cm-1の吸収、N-H結合に帰属される3,370cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。これより、膜の組成はメチルヒドロシロキサザンであると特定した。
【0086】
[実施例6]
コロイダルシリカ(日産化学工業社製オルガノシリカゾルMEK-ST-L:平均粒径45nm、固形分濃度30%)を25gに変更し、ポリメチルヒドロシラザンAの混合量を4gに変更する以外は実施例1と同様の操作を行い、コロイダルシリカとポリメチルヒドロシラザンAの混合分散液を得た。なお、この条件におけるポリメチルヒドロシラザンAに対するコロイダルシリカ(固形分)の混合比率は187.5wt%であった。
【0087】
当該混合分散液を直径4インチのシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。これを大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ、クラックや剥離のない均質な薄膜が形成された。
【0088】
当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)した。その結果、直径50~110nmのシリカ微粒子が偏りなく分布した膜厚1.9μmの膜の形成が確認された。また、日本電子株式会社製の光電子分光装置(ESCA)を用いてX線光電子分光測定(再表面をスパッタリング処理後)により膜内の元素組成を測定した結果、炭素含有量(シリカ質相当に対する炭素原子量として換算)は、8.1wt%であった。また、FTIR装置(Jasco社製:モデルFT/IR-4100)を用いて、シリコンウェハ吸収をバックグランドとして差引く方法にて、当該膜のFTIRスペクトルを測定した。その結果、Si-O結合に帰属される470及び980~1,270cm-1の吸収、Si-Me結合に帰属される1,260cm-1の吸収、Si-H結合に帰属される2,160cm-1の吸収、C-H結合に帰属される2,970cm-1の吸収が観測された。これより、膜の組成はメチルヒドロシロキサンであると特定した。
【0089】
[実施例7]
実施例2に示すコロイダルシリカとポリメチルヒドロシラザンBの混合分散液を幅40μm、最深部の深さ30μmの直線状の溝を形成したシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。これを大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ、クラックや剥離のない薄膜が形成された。
【0090】
当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて直線状の溝部分の断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)したところ、溝幅の中央部分の膜厚(H2)が12.5μm、溝外部の膜厚(溝端部より2mm離れた部分)が2.2μmであり、溝内部及び外部ともに直径50~110nmのシリカ微粒子が偏りなく分布した薄膜が確認された。なお、SEM観察においてもクラックや剥離は全く見られなかった。
【0091】
[比較例1]
ポリメチルヒドロシラザンBに替えてポリメチルシラザンを使用する以外は実施例2と同様の操作を行い、コロイダルシリカとポリメチルシラザンの混合分散液を得た。得られた混合分散液を幅40μm、最深部の深さ30μmの直線状の溝を形成したシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。これを大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ薄膜が形成された。
【0092】
形成された薄膜を目視観察したところ、溝を起点にした部分に剥離やクラックが確認された。当該膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて直線状の溝部分の断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)したところ、溝の内部は基板から膜の剥がれが観察され、膜厚の測定は不可能であった。なお、溝外部の膜剥がれが起きていない部分の膜厚(溝端部より2mm離れた部分)は1.9μmであった。また、溝外部には、直径50~110nmの粒子が偏りなく分布した薄膜が確認された。
【0093】
[比較例2]
ポリメチルヒドロシラザンBに替えて水素化ポリシラザンを使用する以外は実施例2と同様の操作を行い、コロイダルシリカと水素化ポリシラザンの混合分散液を得た。得られた混合分散液を幅40μm、最深部の深さ30μmの直線状の溝を形成したシリコンウェハ上に滴下し、回転数500rpmで30秒間スピン塗布した。これを大気中300℃に加熱したホットプレート上で10分間保持したのち放冷したところ薄膜が形成された。
【0094】
形成された薄膜を目視観察したところ、基板全面に無数の剥離やクラックが確認された。この薄膜付きシリコンウェハを切断して、JEOL社製モデルJSM-IT800を用いて直線状の溝部分の断面をSEM観察(倍率10,000~80,000倍)したところ、溝の内外共に基板から膜の剥がれが観察され、膜厚の測定は不可能であった。
【0095】
[発明の構成]
[構成1]
メチルヒドロシロキサン組成、又は、メチルヒドロシロキサザン組成をマトリックス材としてシリカ微粒子が分散された膜を備えることを特徴とする基板。
[構成2]
構成1に記載の基板であって、
前記基板は、1μm以上の段差を有し、
前記膜が前記段差の底部から1μm以上埋設されていることを特徴とする基板。
[構成3]
構成1又は2に記載の基板であって、
前記膜の平均炭素含有が8wt%以上18wt%以下であることを特徴とする基板。
[構成4]
構成1~3のいずれか1項に基板であって、
前記シリカ微粒子は、平均一次粒子サイズが5nm以上150nm以下であることを特徴とする基板。
[構成5]
基板の製造方法であって、
重量平均分子量が400以上20,000以下のポリメチルヒドロシラザン、又は、ポリメチルヒドロシロキサザンをマトリックス材として、シリカ微粒子を分散させた材料を基板に塗布及び加熱することを特徴とする基板の製造方法。
[構成6]
構成5に記載の基板の製造方法であって、
前記シリカ微粒子は、平均一次粒子サイズが5nm以上150nm以下であることを特徴とする基板の製造方法。
[構成7]
構成5又は6に記載の基板の製造方法であって、
前記マトリックス材に対する前記シリカ微粒子の混合比率(重量比)が3wt%以上200wt%以下であることを特徴とする基板の製造方法。
[構成8]
構成5~7のいずれか1項に記載の基板の製造方法であって、
前記マトリックス材の構造におけるSi-H結合/Si-Me結合の比率が0.3以上0.9以下であり、かつ、N-H結合/Si-Me結合の比率が0.4以上1.1以下であることを特徴とする基板の製造方法。
【符号の説明】
【0096】
10 基板、12 膜、100 膜付き基板。
【要約】
【課題】クラックや剥離が生じ難い膜が形成された膜付き基板を提供する。
【解決手段】メチルヒドロシロキサン組成、又は、メチルヒドロシロキサザン組成をマトリックス材としてシリカ微粒子が分散された膜12を備える基板10とする。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5