(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】電力変換装置、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置
(51)【国際特許分類】
H02P 27/08 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2024567607
(86)(22)【出願日】2024-01-12
(86)【国際出願番号】 JP2024000616
(87)【国際公開番号】W WO2024176645
(87)【国際公開日】2024-08-29
【審査請求日】2024-11-13
(31)【優先権主張番号】P 2023026192
(32)【優先日】2023-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023099434
(32)【優先日】2023-06-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬幸
(72)【発明者】
【氏名】吉田 圭太
(72)【発明者】
【氏名】瓜生 恭正
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-220414(JP,A)
【文献】特開2009-017671(JP,A)
【文献】国際公開第2022/130480(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P21/00-25/03
25/04
25/10-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の相の上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子の直列接続を有する多相インバータと、
前記多相インバータを駆動するためのq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を生成する電圧指令値生成部と、
前記q軸電圧指令値及び前記d軸電圧指令値を制限する電圧指令値制限部と、
前記電圧指令値制限部により制限された前記q軸電圧指令値及び前記d軸電圧指令値を多相電圧指令値に変換する電圧指令値変換部と、
前記電圧指令値制限部により制限された前記q軸電圧指令値及び前記d軸電圧指令値に基づいて、前記上側アームスイッチング素子及び前記下側アームスイッチング素子のうちいずれか一方のスイッチング素子である第1スイッチング素子と、前記上側アームスイッチング素子及び前記下側アームスイッチング素子のうち前記第1スイッチング素子以外の他方のスイッチング素子である第2スイッチング素子と、をPWM制御により駆動するスイッチング制御部と、
前記第2スイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいて、前記第2スイッチング素子に流れる電流を測定する電流測定部と、
を備え、
前記スイッチング制御部は、
前記第1スイッチング素子をオンとする期間がPWM周期に占めるデューティ比の目標値である目標デューティ比を、前記多相インバータの負荷に印加すべき目標電圧に応じて設定し、
前記多相インバータの複数の相のうち前記目標デューティ比が最も高い相である第1相の前記目標デューティ比が、100%未満に設定された所定の第1閾値以下である場合に、前記第1相の前記第1スイッチング素子を前記目標デューティ比で駆動し、
前記第1相の前記目標デューティ比が前記第1閾値より大きい場合に、前記第1相の前記第1スイッチング素子を100%の前記デューティ比で駆動するとともに、前記複数の相のうち前記第1相以外の第2相の前記目標デューティ比を増加補正して得られた補正後デューティ比で前記第2相の前記第1スイッチング素子を駆動し、
前記電圧指令値制限部は、
100%未満に設定された所定の上限値からデッドタイム補償値を減算した差を、前記q軸電圧指令値と前記d軸電圧指令値の電圧ベクトルの大きさで除算して得られる比率に基づいて制限ゲインを設定し、
前記制限ゲインを前記q軸電圧指令値と前記d軸電圧指令値に乗算することにより、100%未満に設定された所定の第2閾値を前記補正後デューティ比が超えないように前記q軸電圧指令値及び前記d軸電圧指令値を制限する、
ことを特徴とする電力変換装置。
【請求項6】
前記多相電圧指令値に3次高調波成分を重畳する3次高調波補償部を備え、
前記電圧指令値制限部は、100%未満に設定された所定の上限値からデッドタイム補償値を減算した差を、前記q軸電圧指令値と前記d軸電圧指令値の電圧ベクトルの大きさで除算して得られる前記比率に、前記3次高調波成分の重畳による前記多相電圧指令値の振幅の減少率に応じた係数を乗算した積に基づいて制限ゲインを設定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
【請求項9】
請求項1~4及び6~8の何れか一項に記載の電力変換装置と、
前記電流測定部の測定結果に基づいて、電動モータを駆動する前記多相インバータを制御するコントローラと、
を備えることを特徴とするモータ制御装置。
【請求項10】
請求項9に記載のモータ制御装置と、
前記モータ制御装置により制御される多相モータと、を備え、
前記多相モータによって車両の操舵系に操舵補助力を付与することを特徴とする電動パワーステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力変換装置、モータ制御装置及び電動パワーステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のモータ制御装置は、三相インバータのスイッチング素子に直列接続されるシャント抵抗の電圧降下に基づいて相電流を測定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多相インバータのスイッチング素子に直列接続されるシャント抵抗の電圧降下に基づいて相電流を測定する場合、PWM制御のデューティ比が最も高い相であるデューティ最大相のデューティ比が高くなるにつれて、デューティ最大相のスイッチング素子のオンオフの切り替えタイミングと、シャント抵抗の両端電圧のサンプリングタイミングとが接近する。このため、シャント抵抗の両端電圧の測定値にスイッチングノイズが重畳して相電流を正しく検出できなくなる虞があった。
【0005】
このため、上記特許文献1に記載のモータ制御装置では、低電位側のスイッチング素子の何れかのオン時間が電流値の検出時間よりも短くなる場合には、該スイッチング素子に対応する電流検出不能相の高電位側の前記スイッチング素子をオン、低電位側の前記スイッチング素子をオフとしたままにするとともに、電流検出不能相以外の相のデューティ指示値を高電位側にシフトしている。
【0006】
しかしながら、電流検出不能相以外の相のデューティ指示値を高電位側にシフトすることで低電位側のスイッチング素子のオン期間の長さが短くなると、シャント抵抗に流れる相電流を正確に検出できなくなる虞がある。
本発明は上記事情を鑑みてなされたものであり、多相インバータのスイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいて相電流を測定する際に、PWM制御のデューティ比が最も高い相であるデューティ最大相のデューティ比が高い場合の測定精度を向上することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電力変換装置は、複数の相の上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子の直列接続を有する多相インバータと、多相インバータを駆動するためのq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を生成する電圧指令値生成部と、q軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限する電圧指令値制限部と、電圧指令値制限部により制限されたq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を多相電圧指令値に変換する電圧指令値変換部と、電圧指令値制限部により制限されたq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値に基づいて、上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子のうちいずれか一方のスイッチング素子である第1スイッチング素子と、上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子のうち第1スイッチング素子以外の他方のスイッチング素子である第2スイッチング素子と、をPWM制御により駆動するスイッチング制御部と、第2スイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいて、第2スイッチング素子に流れる電流を測定する電流測定部と、を備える。
【0008】
スイッチング制御部は、第1スイッチング素子をオンとする期間がPWM周期に占めるデューティ比の目標値である目標デューティ比を、多相インバータの負荷に印加すべき目標電圧に応じて設定し、多相インバータの複数の相のうち目標デューティ比が最も高い相である第1相の目標デューティ比が、100%未満に設定された所定の第1閾値以下である場合に、第1相の第1スイッチング素子を目標デューティ比で駆動し、第1相の目標デューティ比が第1閾値より大きい場合に、第1相の第1スイッチング素子を100%のデューティ比で駆動するとともに、複数の相のうち第1相以外の第2相の目標デューティ比を増加補正して得られた補正後デューティ比で第2相の第1スイッチング素子を駆動し、電圧指令値制限部は、100%未満に設定された所定の第2閾値を補正後デューティ比が超えないようにq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、多相インバータのスイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいて相電流を測定する際に、PWM制御のデューティ比が最も高い相であるデューティ最大相のデューティ比が高い場合の測定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態の電動パワーステアリング装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)の一例の概要を示す構成図である。
【
図3】制御演算部の機能構成の一例のブロック図である。
【
図4】(a)~(e)は、スイッチング素子のスイッチングタイミングと電流測定タイミングを説明するための模式的なタイムチャートである。
【
図5】(a)~(e)は、スイッチング素子のスイッチングタイミングと電流測定タイミングを説明するための模式的なタイムチャートである。
【
図6】デューティ比の設定方法を説明する模式図である。
【
図7】(a)~(d)は、各相のデューティ比と相間のデューティ比の差分の説明図である。
【
図8】(a)及び(b)は、実施形態の効果の説明図である。
【
図9】(a)及び(b)は、q軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限しない場合の各相のデューティ比の説明図である。
【
図10】(a)及び(b)は、q軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限した場合の各相のデューティ比の説明図である。
【
図11】実施形態の電流測定方法の一例のフローチャートである。
【
図12】電動パワーステアリング装置の第1変形例の概要を示す構成図である。
【
図13】電動パワーステアリング装置の第2変形例の概要を示す構成図である。
【
図14】電動パワーステアリング装置の第3変形例の概要を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0012】
(構成)
図1は、実施形態の電動パワーステアリング(EPS:Electric Power Steering)装置の一例の概要を示す構成図である。ステアリングホイール(操向ハンドル)1の操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸)2は、減速機構を構成する減速ギア(ウォームギア)3、ユニバーサルジョイント4a及び4b、ピニオンラック機構5、タイロッド6a、6bを経て、更にハブユニット7a、7bを介して操向車輪8L、8Rに連結されている。
【0013】
ピニオンラック機構5は、ユニバーサルジョイント4bから操舵力が伝達されるピニオンシャフトに連結されたピニオン5aと、このピニオン5aに噛合するラック5bとを有し、ピニオン5aに伝達された回転運動をラック5bで車幅方向の直進運動に変換する。
操舵軸2には操舵トルクThを検出するトルクセンサ10が設けられている。また、操舵軸2には、ステアリングホイール1の操舵角θhを検出する操舵角センサ14が設けられている。
【0014】
また、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20は、減速ギア3を介して操舵軸2に連結されている。本明細書では、モータ20が3相モータである場合の例について説明するが、モータ20の相数は3相でなくてもよい。
電動パワーステアリング装置を制御する電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)30には、バッテリ13から電力が供給されるとともに、イグニションスイッチ11を経てイグニションキー信号が入力される。
【0015】
ECU30は、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhに基づいてアシスト制御指令の電流指令値の演算を行い、電流指令値に補償等を施した電圧指令値によってモータ20に供給する電流(U相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iw)を制御する。
なお、操舵角センサ14は必須のものではなく、モータ20の回転軸の回転角度を検出する回転角センサ21から得られるモータ回転角θmに、トルクセンサ10のトーションバーの捩れ角を加えて操舵角θhを算出してもよい。
また、操舵角θhに代えて、操向車輪8L、8Rの転舵角を用いてもよい。例えばラック5bの変位量を検出することにより転舵角を検出してもよい。
【0016】
ECU30は、例えば、プロセッサと、記憶装置等の周辺部品とを含むコンピュータを含む。プロセッサは、例えばCPU(Central Processing Unit)、やMPU(Micro-Processing Unit)であってよい。
記憶装置は、半導体記憶装置、磁気記憶装置及び光学記憶装置のいずれかを備えてよい。記憶装置は、レジスタ、キャッシュメモリ、主記憶装置として使用されるROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等のメモリを含んでよい。
以下に説明するECU30の機能は、例えばECU30のプロセッサが、記憶装置に格納されたコンピュータプログラムを実行することにより実現される。
【0017】
なお、ECU30を、以下に説明する各情報処理を実行するための専用のハードウエアにより形成してもよい。
例えば、ECU30は、汎用の半導体集積回路中に設定される機能的な論理回路を含んでいてもよい。例えばECU30はフィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA:Field-Programmable Gate Array)等のプログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:Programmable Logic Device)等を有していてもよい。
【0018】
図2は、実施形態のECU30の一例の概要を示す構成図である。ECU30は、制御演算部31と、ゲート駆動回路32と、多相インバータ33と、電流遮断回路34と、遮断駆動回路35と、電圧降下測定部36と、モータ回転数演算部37を備える。制御演算部31とゲート駆動回路32は、特許請求の範囲に記載の「スイッチング制御部」の一例である。
ECU30には、バッテリ13からの電力を伝送する電力配線PWがコネクタCNTを介して接続される。また、制御演算部31には、トルクセンサ10で検出された操舵トルクThと、車速センサ12で検出された車速Vhと、操舵角センサ14で検出された操舵角θhの信号が、コネクタCNTを介して伝送される。
【0019】
制御演算部31は、少なくとも操舵トルクThに基づいて、モータ20の駆動電流の制御目標値である電流指令値を演算する。制御演算部31は、電流指令値に補償等を施して得られる電圧指令値を演算し、電圧指令値をPWM(Pulse Width Modulation)変調することによりゲート制御信号Sgu、Sgv、Sgwを生成する。ゲート制御信号Sgu、Sgv、Sgwは、多相インバータ33からモータ20のU相コイル20u、V相コイル20v、W相コイル20wに出力される駆動電圧を制御するPWM信号である。
【0020】
ゲート駆動回路32は、ゲート制御信号Sgu、Sgv、Sgwに基づいて、後述する多相インバータ33のスイッチング素子Qu1、Qv1、Qw1、Qu2、Qv2及びQw2のオンオフ制御を実行する。例えば、スイッチング素子Qu1、Qv1、Qw1、Qu2、Qv2及びQw2が電界効果トランジスタ(FET:Field Effect Transistor)である場合、ゲート制御信号Sgu、Sgv、Sgwに基づいて電界効果トランジスタのゲート信号を生成する。
【0021】
多相インバータ33は、直流電源Vdcに接続されて直流電力が供給される正極側ラインと接地線との間に接続される3相ブリッジを備える。
3相ブリッジは、U相、V相、W相の上側アームのスイッチング素子Qu1、Qv1、Qw1と、U相、V相、W相の下側アームのスイッチング素子Qu2、Qv2、Qw2と、がそれぞれ互いに直列接続されたスイッチング素子対を含む。
【0022】
モータ20のU相コイル20uに供給されるU相電流Iuはスイッチング素子Qu1及びQu2の接続点から供給され、V相コイル20vに供給されるV相電流Ivはスイッチング素子Qv1及びQv2の接続点から供給され、W相コイル20wに供給されるW相電流Iwはスイッチング素子Qw1及びQw2の接続点から供給される。
これらU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwは、電流遮断回路34を介してモータ20のU相コイル20u、V相コイル20v及びW相コイル20wに通電される。
【0023】
電流遮断回路34は、モータの相電流を遮断するための3つの相遮断FETQAu、QAv及びQAwを有する。制御演算部31は、電流遮断回路34の通電と遮断とを制御する制御信号Smを遮断駆動回路35に出力する。遮断駆動回路35は、制御信号Smに応じて相遮断FETQAu~QAwのゲート信号を出力して、多相インバータ33からモータ20へのU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを通電又は遮断する。
【0024】
多相インバータ33には、平滑用コンデンサCsが並列に接続される。平滑用コンデンサCsは、例えば電解コンデンサであってよい。ECU30は、平滑用コンデンサCsとして、並列に接続された複数の平滑用コンデンサを備えてもよい。
U相、V相、W相の下側アームのスイッチング素子Qu2、Qv2、Qw2と接地線との間にはシャント抵抗ru、rv、rwが直列接続される。
【0025】
電圧降下測定部36は、下側アームのスイッチング素子Qu2、Qv2、Qw2に流れる電流によりシャント抵抗ru、rv、rwに生じる電圧降下を測定する。電圧降下測定部36は、シャント抵抗ru、rv、rwの両端電圧の測定値Vud、Vvd及びVwdを制御演算部31へ出力する。
モータ回転数演算部37は、回転角センサ21の検出信号に基づいてモータ20のモータ回転角θm(例えばモータ電気角)を演算し制御演算部31に出力する。
【0026】
図3は、制御演算部31の機能構成の一例のブロック図である。制御演算部31は、電流指令値演算部40と、減算器41及び42と、電流制限部43と、比例積分(PI:Proportional-Integral)制御部44と、電圧制限部45と、2相/3相変換部46と、デッドタイム補償部47と、3次高調波補償部48と、加算器49~51と、デューティシフト部52と、PWM制御部53と、電流算出部54と、3相/2相変換部55と、角速度変換部56を備えており、モータ20をベクトル制御で駆動する。
【0027】
電流指令値演算部40は、操舵トルクThと、車速Vhと、モータ20のモータ回転角θmと、モータ20の回転角速度ωと、に基づいてモータ20に流すべきq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を演算する。
一方、電流算出部54は、
図2の電圧降下測定部36により測定されたシャント抵抗ru、rv、rwの両端電圧の測定値Vud、Vvd及びVwdに基づいて、モータ20のU相電流、V相電流及びW相電流の測定値Iud、Ivd、Iwdを算出する。電圧降下測定部36と電流算出部54は、特許請求の範囲に記載の「電流測定部」の一例である。
【0028】
なお、U相、V相及びW相のうちデューティ比が最も高い相では、下側アームのスイッチング素子がオンとなる期間が短いためにシャント抵抗の両端電圧を正確に検出できなくなる。このため電流算出部54は、デューティ比が最も高い相以外の他の2相のシャント抵抗の両端電圧と、キルヒホフの法則(U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwの総和が0)に基づいて、デューティ比が最も高い相の相電流を測定してよい。
【0029】
例えば、デューティ比が最も高い相のデューティ比が所定値以下の場合に、デューティ比が最も高い相のシャント抵抗の両端電圧で基づいてデューティ比が最も高い相の相電流を測定し、デューティ比が最も高い相のデューティ比が所定値より大きい場合に、他の2相のシャント抵抗の両端電圧とキルヒホフの法則に基づいて、デューティ比が最も高い相の相電流を測定してもよい。
【0030】
3相/2相変換部55は、U相電流、V相電流及びW相電流の測定値Iud、Ivd、Iwdを、q軸電流iq及びd軸電流idに変換する。
減算器41及び42は、フィードバックされたq軸電流iq及びd軸電流idをq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0からそれぞれ減じることにより、q軸偏差電流Δq0及びd軸偏差電流Δd0を算出する。
電流制限部43は、q軸偏差電流Δq0及びd軸偏差電流Δd0の上限値を制限する。制限後のq軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdは、PI制御部44に入力される。
【0031】
PI制御部44は、q軸偏差電流Δq及びd軸偏差電流Δdを各々0とするような基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を算出する。
例えば基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0は、電源電圧に対する電圧指令値の比率であるデューティ比であってよい。たとえば、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0は、0%を中心値として-50%から+50%までの範囲で変動するゼロ中点デューティ比であってよい。
【0032】
電圧制限部45は、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を制限することによりq軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdを設定する。電圧制限部45の機能の詳細については後述する。
2相/3相変換部46は、q軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdを、第1U相電圧指令値vu1、第1V相電圧指令値vv1、第1W相電圧指令値vw1にそれぞれ変換する。
【0033】
デッドタイム補償部47は、多相インバータ33のデッドタイムを補償するデッドタイム補償値を加算器49~51へ出力する。
3次高調波補償部48は、電圧利用率改善のための3次高調波成分を生成して、加算器49~51へ出力する。3次高調波成分は、基本U相電圧指令値vu0、基本V相電圧指令値vv0、基本W相電圧指令値vw0の周波数である基本周波数の3倍の周波数を有する高調波成分である。
【0034】
加算器49~51は、それぞれ第1U相電圧指令値vu1、第1V相電圧指令値vv1、第1W相電圧指令値vw1に、デッドタイム補償値と3次高調波成分とを加算して、第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2、第2W相電圧指令値vw2を算出する。
デューティシフト部52は、第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2、第2W相電圧指令値vw2のうち最大の電圧指令値が閾値以下の場合に、第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2、第2W相電圧指令値vw2に基づいてU相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwをそれぞれ設定して、PWM制御部53へ出力する。
一方で、電圧指令値vu2、vv2、vw2のうち最大の電圧指令値が閾値よりも大きい場合には、デューティシフト部52は、U相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwを増加補正してPWM制御部53へ出力する。
【0035】
なお、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0、第1U相電圧指令値vu1、第1V相電圧指令値vv1及び第1W相電圧指令値vw1、並びに第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2及び第2W相電圧指令値vw2が、0%を中心値として-50%から+50%までの範囲で変動するゼロ中点デューティ比として設定されている場合、デューティシフト部52は、デューティ比の中点を補正することにより、U相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwを、50%を中心値として0%から100%までの範囲で変動するデューティ比として出力する。デューティシフト部52の機能の詳細については後述する。
【0036】
PWM制御部53は、U相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwをPWM変調することによりゲート制御信号Sgu、Sgv、Sgwを生成し、
図2のゲート駆動回路32へ出力する。
角速度変換部56は、モータ回転角θmの時間的変化に基づいてモータ20の回転角速度ωを算出する。これらモータ回転角θm及び回転角速度ωは、電流指令値演算部40に入力されてベクトル制御に使用される。
【0037】
(デューティシフト部52の詳細)
デューティシフト部52の詳細について説明する。まず、多相インバータ33のスイッチング素子Qu1、Qv1、Qw1、Qu2、Qv2及びQw2のスイッチングタイミングと、電流測定タイミングとの関係について説明する。
以下の説明において、多相インバータ33のU相、V相及びW相の上側アームのスイッチング素子Qu1、Qv1及びQw1がオンである期間がPWM周期TPWMに占めるデューティ比を、それぞれ「Du」、「Dv」及び「Dw」と表記する。
【0038】
また、第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2及び第2W相電圧指令値vw2によって指定されたデューティ比Du、Dv及びDwの目標値を「目標デューティ比Dut、Dvt、Dwt」と表記する。
第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2及び第2W相電圧指令値vw2がゼロ中点デューティ比として設定される場合には、デューティ比の中点を50%に補正することにより、上側アームのスイッチング素子のオン期間がPWM周期TPWMに占めるデューティ比の値に変換される。
【0039】
U相、V相、W相のうち、目標デューティ比が最も高い相を「デューティ最大相」と表記し、目標デューティ比が最も小さい相を「デューティ最小相」と表記し、デューティ最大相及びデューティ最小相以外の相を「デューティ中間相」と表記することがある。デューティ最大相は特許請求の範囲に記載の「第1相」の一例であり、デューティ中間相及びデューティ最小相は特許請求の範囲に記載の「第2相」の一例である。
【0040】
図4(a)及び
図4(b)はそれぞれデューティ最大相の上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子を駆動するPWM信号の模式的なタイムチャートであり、
図4(c)及び
図4(d)は、それぞれデューティ中間相又はデューティ最小相の上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子を駆動するPWM信号の模式的なタイムチャートであり、
図4(e)は、デューティ中間相又はデューティ最小相のシャント抵抗の両端電圧をサンプリングするAD変換器の出力電圧の模式的なタイムチャートである。
【0041】
符号TPWMは、PWM周期(すなわちPWM制御の制御周期の1周期)を示し、符号THOFFは、上側アームスイッチング素子がオフ状態であるオフ期間を示し、符号TLONは下側アームスイッチング素子がオン状態であるオン期間を示す。下側アームスイッチング素子Qu2、Qv2、Qw2にシャント抵抗ru、rv、rwを直列接続する場合(いわゆる「下流シャント方式」の場合)には、電圧降下測定部36は、下側アームスイッチング素子のオン期間TLONの中央時点tc(又は上側アームスイッチング素子のオフ期間THOFFの中央時点tc)で、シャント抵抗の両端電圧をサンプリングする。シャント抵抗の両端電圧をサンプリングするサンプリング周期は、例えばPWM周期TPWMの倍数(n×TPWM)であってよい(nは自然数)。
【0042】
この結果、デューティ最大相のデューティ比が大きくなるにつれて、デューティ最大相のスイッチング素子のスイッチングタイミングthd、thr、tlr及びtldと、デューティ中間相とデューティ最小相のシャント抵抗の両端電圧のサンプリングタイミングtcとが接近するため、シャント抵抗の両端電圧の測定値にスイッチングノイズが重畳して相電流を正しく検出できなくなる虞がある。
【0043】
このため、デューティ最大相の目標デューティ比が、100%未満に設定された所定の第1閾値Dth1よりも大きい場合に、デューティシフト部52はデューティ最大相の目標デューティ比を100%に設定(シフト)する。すなわち、デューティ最大相の目標デューティ比を100%に増加補正する。
これにより、デューティ最大相のスイッチング素子は100%のデューティ比で駆動される。すなわち、デューティ最大相の上側アームスイッチング素子をオンとする期間がPWM周期TPWMに占める比を100%とし、デューティ最大相の下側アームスイッチング素子をオンとする期間がPWM周期TPWMに占める比を0%として、デューティ最大相の上側アームスイッチング素子と下側アームスイッチング素子を駆動する。
【0044】
図5(a)~
図5(e)は、デューティ最大相の目標デューティ比を100%にシフトした場合の、スイッチング素子のスイッチングタイミングと電流測定タイミングを説明するための模式的なタイムチャートである。
図5(a)及び
図5(b)はそれぞれデューティ最大相の上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子を駆動するPWM信号の模式的なタイムチャートであり、
図5(c)及び
図5(d)は、それぞれデューティ中間相又はデューティ最小相の上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子を駆動するPWM信号の模式的なタイムチャートであり、
図5(e)は、デューティ中間相又はデューティ最小相のシャント抵抗の両端電圧をサンプリングするAD変換器の出力電圧の模式的なタイムチャートである。
【0045】
図5(a)及び
図5(b)に示すように、デューティ最大相の目標デューティ比を100%にシフトすることにより、デューティ最大相のスイッチング素子のスイッチングが発生しなくなるため、デューティ中間相とデューティ最小相のシャント抵抗の両端電圧の測定値にスイッチングノイズが重畳しなくなる。この結果、デューティ中間相とデューティ最小相の相電流を正しく検出できるようになる。
【0046】
図6は、デューティシフト部52によるデューティ比の設定方法の説明図である。破線D1tは、デューティシフト部52に入力される第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2及び第2W相電圧指令値vw2によって指定された目標デューティ比のうち、デューティ最大相の目標デューティ比を示す。また、一点鎖線D2tは、デューティ中間相又はデューティ最小相の目標デューティ比を示す。
図6の例では、説明の便宜のためデューティ最大相の目標デューティ比D1tを時間の経過とともに100%まで徐々に増加させ、デューティ中間相又はデューティ最小相の目標デューティ比D2tを固定にした場合を示している。
【0047】
一方で、実線D1は、デューティシフト部52が出力するU相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwにより指定されるデューティ比のうち、デューティ最大相のデューティ比を示している。また、二点鎖線D2は、デューティ中間相又はデューティ最小相のデューティ比を示している。
【0048】
デューティシフト部52は、デューティ最大相の目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1以下であるか否かを判定する。デューティ最大相の目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1以下である場合に、デューティシフト部52は、目標デューティ比D1t及びD2tを増加補正しない。すなわち、目標デューティ比D1t及びD2tがそのままデューティ比D1及びD2として設定される。
この結果、デューティ最大相のスイッチング素子は、目標デューティ比D1tで駆動される。また、デューティ中間相及びデューティ最小相のスイッチング素子は、目標デューティ比D2tで駆動される。
【0049】
一方で、デューティ最大相の目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1よりも大きい場合には、デューティシフト部52は、目標デューティ比D1tを100%のデューティ比に増加補正する。言い換えれば、目標デューティ比D1tを100%のデューティ比に補正し、補正後のデューティ比D1=100%をデューティ最大相の電圧指令値として出力する。この結果、補正後のデューティ比D1=100%でデューティ最大相のスイッチング素子が駆動される。
【0050】
さらに、デューティシフト部52は、デューティ最大相の目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1よりも大きい場合には、デューティ中間相及びデューティ最小相の目標デューティ比D2tを増加補正して得られる補正後のデューティ比D2を、デューティ中間相及びデューティ最小相の電圧指令値として出力する。この結果、補正後のデューティ比D2でデューティ中間相及びデューティ最小相のスイッチング素子が駆動される。
【0051】
例えばデューティシフト部52は、デューティ最大相の目標デューティ比D1tを100%から減じたデューティ差ΔD=(100%-D1t)を算出し、デューティ中間相及びデューティ最小相の目標デューティ比D2tにデューティ差ΔDを加えた和を補正後のデューティ比D2=(D2t+ΔD)として設定し、補正後のデューティ比D2をデューティ中間相及びデューティ最小相の電圧指令値として出力する。
【0052】
これにより、目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1よりも大きい場合にデューティ中間相及びデューティ最小相のデューティ比を補正する補正量ΔDは、デューティ最大相の目標デューティ比D1tを100%から減じた差分が小さいほど(言い換えれば目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1を超える超過量が大きいほど)、より小さくなる補正量となる。
このように、デューティ最大相のデューティ比を100%にシフトするのに伴って、デューティ中間相及びデューティ最小相のデューティ比をデューティ差ΔDで増加補正することにより、デューティ比をシフトすることによるU相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwの変動を抑制又は防止できる。以下にその理由を説明する。
【0053】
図7(a)の実線、破線及び一点鎖線は、デューティ比をシフトさせない場合のU相、V相及びW相のデューティ比Du、Dv及びDwの波形をそれぞれ示す。
図7(b)の実線、破線及び一点鎖線は、デューティ比をシフトさせない場合のU相とV相との間の相関デューティ(すなわちU相とV相のデューティ比の差分Du-Dv)と、V相とW相との間の相関デューティ(Dv-Dw)と、W相とU相との間の相関デューティ(Dw-Du)をそれぞれ示す。
【0054】
一方で、
図7(c)の実線、破線及び一点鎖線は、デューティ比をシフトさせた場合のU相、V相及びW相のデューティ比Du、Dv及びDwの波形をそれぞれ示す。
図7(d)の実線、破線及び一点鎖線は、デューティ比をシフトさせた場合のU相とV相との間の相関デューティ(Du-Dv)と、V相とW相との間の相関デューティ(Dv-Dw)と、W相とU相との間の相関デューティ(Dw-Du)をそれぞれ示す。説明の便宜のために、
図7(a)及び
図7(b)ではデッドタイム補償値と3次高調波成分を省略した場合の波形を示しており、
図7(c)及び
図7(d)では3次高調波成分を省略した場合の波形を示している。
【0055】
図7(a)及び
図7(c)から分かるとおり、デューティ比をシフトさせることにより、U相、V相及びW相のデューティ比Du、Dv及びDwの波形自体は変化する。しかしながら、デューティ最大相のデューティ比を100%にシフトするのに伴ってデューティ中間相又はデューティ最小相のデューティ比をデューティ差ΔDで増加補正することにより、
図7(b)及び
図7(d)に示すようにデューティ比をシフトさせても各相間のデューティ比の差分は変化しない。
【0056】
このように、デューティ最大相のデューティ比を100%にシフトするのに伴って、デューティ中間相及びデューティ最小相のデューティ比を増加補正することにより、デューティ比をシフトさせてもモータ20の端子間の電位差の変化が抑制又は防止されるので、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwの変動を抑制又は防止できる。
【0057】
次に、実施形態の効果を説明する。
図8(a)及び(b)は、デューティ最大相であるU相のデューティ比Duが80%から100%へ徐々に増加したときの、U相電流の測定値Iud(実線)、V相電流の測定値Ivd(破線)及びW相電流の測定値Iwdの測定値(一点鎖線)を示す。
図8(a)はデューティ比をシフトさせない場合の測定値を示し、
図8(b)はデューティ比をシフトさせた場合の測定値を示している。説明の便宜のために、V相及びW相のデューティ比Dv及びDwは80%に固定されている。
【0058】
デューティ比をシフトさせない場合(
図8(a))には、デューティ最大相であるU相のデューティ比Duが100%に近づくにつれて、U相の上側アームスイッチング素子Qu1のスイッチングによるスイッチングノイズの影響により、楕円P1で表した部分に示すように、V相電流Ivd及びW相電流Iwdを正しく検出できなくなる。U相電流Iudは、キルヒホフの法則によりV相電流Ivd及びW相電流Iwdから算出するため、V相電流Ivd及びW相電流Iwdを正しく検出できなくなると、楕円P2で表した部分に示すようにU相電流Iudを正しく検出できなくなる。
一方で、デューティ比をシフトさせると(
図8(b))、U相のデューティ比Duが100%に近づいても、楕円P3で表した部分に示すようにV相電流Ivd及びW相電流Iwdを正しく検出できる。この結果、U相電流Iudも正しく検出できるようになる。
【0059】
(電圧制限部45の詳細)
図3の電圧制限部45の詳細について説明する。デューティ最大相の目標デューティ比が第1閾値Dth1よりも大きい場合にデューティシフト部52がデューティ中間相の目標デューティ比D2tを増加補正することにより、補正後のデューティ比D2が大きくなると、デューティ中間相における下側アームのスイッチング素子がオンとなる期間が過小になることがある。この結果、デューティ中間相におけるシャント抵抗の両端電圧を正確に検出できなくなることがある。なお、デューティ中間相は特許請求の範囲に記載の「目標デューティ比が2番目に高い相」の一例である。
【0060】
図9(a)は、デューティ最大相の目標デューティ比が第1閾値Dth1よりも大きい場合のU相、V相及びW相のデューティ比Du、Dv及びDw(すなわちU相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vw)を示す。
図9(b)は、
図9(a)の矢視A1の部分の拡大図を示す。
図9(b)の第2閾値Dth2は、シャント抵抗の両端電圧を正確に検出できるデューティ比の所定閾値(電流検出限界閾値)である。第2閾値Dth2は100%未満の値に設定される。デューティ比が第2閾値Dth2を超えると、下側アームのスイッチング素子がオンとなる期間が過小となって、シャント抵抗の両端電圧を正確に検出できなくなる虞がある。
【0061】
例えば第2閾値Dth2は、下側アームのスイッチング素子のスイッチング後に、電圧降下測定部36によるシャント抵抗の両端電圧の測定値が安定するまでの整定時間に応じて設定してよい。
例えば第2閾値Dth2は、デューティ中間相の下側アームのスイッチング素子のオン期間の長さが、上記の整定時間未満にならないように設定してよい。
例えば第2閾値Dth2は、第1閾値Dth1よりも小さな値に設定してよい。
【0062】
図9(b)を参照すると、矢視B1の部分において、デューティ中間相であるW相のデューティ比Dw(すなわちW相電圧指令値vw)が第2閾値Dth2を超えている。例えば、デッドタイム補償値が電圧指令値に加えられることにより、デューティ中間相のデューティ比が第2閾値Dth2を超え易くなる。
このため電圧制限部45は、デューティ最大相の目標デューティ比が第1閾値Dth1よりも大きい場合にデューティ中間相のデューティ比D2が第2閾値Dth2を超えないように、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を制限して、q軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdを設定する。
【0063】
例えば、電圧制限部45は、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0の電圧ベクトルの大きさ
【0064】
【0065】
に基づいて、次式(1)に示す制限ゲインGdutyを算出してよい。
【0066】
【0067】
上式(1)の定数DLtdは、100%未満の値に設定されるデューティ制限値である。デューティ制限値DLtdは、デューティ最大相の目標デューティ比が第1閾値Dth1よりも大きい場合にデューティ中間相のデューティ比D2が第2閾値Dth2を超えないように適宜設定される。
また、定数CDTはデッドタイム補償部47により電圧指令値に加えられるデッドタイム補償値である。デッドタイム補償値CDTとして、例えばPWM周期TPWMをデッドタイムで除算した除算結果(CDT=TPWM/デッドタイム)を用いてもよい。なお、デッドタイムは設計値と実際値との間に乖離があることが多いため、適宜設定した値をデッドタイム補償値CDTとして用いてもよい。
また、定数(2/√3)は、3次高調波成分の重畳による3相電圧指令値の振幅の減少率の逆数(補償前の振幅/補償後の振幅)に応じた係数である。3次高調波成分を3相電圧指令値に重畳しない場合には係数(2/√3)を省略してもよい。
【0068】
電圧制限部45は、制限ゲインGdutyが「1」以上であるか否か(すなわち100%以上であるか否か)を判定する。制限ゲインGdutyが「1」以上である場合に電圧制限部45は、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を制限せずにそのままq軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdとして出力する。
一方で制限ゲインGdutyが「1」未満である場合に電圧制限部45は、ゲイン(Gduty/2)を基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0に乗算した積を、q軸電圧指令値vq=(Gduty/2)×vq0及びd軸電圧指令値vd=(Gduty/2)×vd0として出力する。
【0069】
図10(a)は、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を制限した場合のU相、V相及びW相のデューティ比Du、Dv及びDw(すなわちU相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vw)を示す。
図10(b)は、
図10(a)の矢視A2の部分の拡大図を示す。
矢視B2の部分において、デューティ中間相であるW相のデューティ比Dw(すなわちW相電圧指令値vw)が第2閾値Dth2以下に制限されている。このため、デューティ中間相の下側アームのスイッチング素子がオンとなる期間が過小となってシャント抵抗rwの両端電圧を正確に検出できなくなるのを防止できる。
【0070】
さらに
図9(a)の矢視C1の部分に注目する。矢視C1の部分では、3次高調波成分が重畳されることによりデューティ最小相のW相のデューティ比Dw(すなわちW相電圧指令値vw)が「0」に接近している。デューティ比が「0」近傍の値になると上側アームのスイッチング素子のオンとなる期間が過小になり、デューティ比が「0」よりも僅かに大きくても上側アームのスイッチング素子に電流が流れなくなる問題が発生する虞がある。
【0071】
これに対して
図10(a)の矢視C2の部分を参照すると、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を制限することにより、デューティ最小相のデューティ比が「0」近傍の値に設定されるのを抑制できる。このため、デューティ比が「0」よりも僅かに大きくても上側アームのスイッチング素子に電流が流れなくなる問題が発生することを回避できる。
【0072】
(動作)
図11は、実施形態の電流測定方法の一例のフローチャートである。
ステップS1においてトルクセンサ10と車速センサ12は、操舵軸2の操舵トルクThと車速Vhを検出する。
ステップS2において電流指令値演算部40は、操舵トルクThと車速Vhに基づいてq軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0を演算する。PI制御部44は、q軸電流指令値Iq0及びd軸電流指令値Id0に対するq軸電流iq、d軸電流idの電流偏差に基づいて、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を算出する。PI制御部44は、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0として、0%を中心値として-50%から+50%までの範囲で変動するゼロ中点デューティ比を算出する。
【0073】
ステップS3において電圧制限部45は、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を制限することによりq軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdを設定する。具体的には、電圧制限部45は、上式(1)の制限ゲインGdutyを算出し、制限ゲインGdutyが「1」以上である場合に電圧制限部45は、基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0を制限せずにそのままq軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdとして出力する。
【0074】
一方で制限ゲインGdutyが「1」未満である場合に電圧制限部45は、ゲイン(Gduty/2)を基本q軸電圧指令値vq0及び基本d軸電圧指令値vd0に乗算した積を、q軸電圧指令値vq=(Gduty/2)×vq0及びd軸電圧指令値vd=(Gduty/2)×vd0として出力する。
【0075】
ステップS4において2相/3相変換部46は、q軸電圧指令値vq及びd軸電圧指令値vdを、第1U相電圧指令値vu1、第1V相電圧指令値vv1、第1W相電圧指令値vw1にそれぞれ変換する。
ステップS5において加算器49~51は、それぞれ第1U相電圧指令値vu1、第1V相電圧指令値vv1、第1W相電圧指令値vw1に、デッドタイム補償値と3次高調波成分を加算して、第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2、第2W相電圧指令値vw2を算出する。
【0076】
ステップS6においてデューティシフト部52は、第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2、第2W相電圧指令値vw2のデューティ比の中点を補正することにより、50%を中心値として0%から100%までの範囲で変動するデューティ比に変換する。
ステップS7においてデューティシフト部52は、デューティ最大相を選択する。
【0077】
ステップS8においてデューティシフト部52は、デューティ最大相の目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1以下であるか否かを判定する。目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1以下である場合(ステップS8:Y)に処理はステップS9へ進む。目標デューティ比D1tが第1閾値Dth1以下でない場合(ステップS8:N)に処理はステップS10へ進む。
【0078】
ステップS9においてデューティシフト部52は、ステップS6において中点が補正された第2U相電圧指令値vu2、第2V相電圧指令値vv2、第2W相電圧指令値vw2をU相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwとして出力する。これによりデューティ最大相のスイッチング素子は目標デューティ比D1tで駆動される。また、デューティ中間相及びデューティ最小相のスイッチング素子は目標デューティ比D2tで駆動される。その後に処理はステップS12へ進む。
【0079】
ステップS10においてデューティシフト部52は、目標デューティ比D1tを100%のデューティ比にシフトすることにより、デューティ最大相のデューティ比を100%に補正する。また、デューティ中間相及びデューティ最小相のデューティ比を、目標デューティ比D2tにデューティ差ΔD=(100%-D1t)を加えた和(D2t+ΔD)に補正する。
【0080】
ステップS11においてデューティシフト部52は、ステップS10で補正した補正後のデューティ比を、U相電圧指令値vu、V相電圧指令値vv、W相電圧指令値vwとして出力する。これにより、デューティ最大相、デューティ中間相及びデューティ最小相のスイッチング素子は、ステップS10で補正した補正後のデューティ比で駆動される。その後に処理はステップS12へ進む。
【0081】
ステップS12において電圧降下測定部36及び電流算出部54は、U相電流Iu、V相電流Iv及びW相電流Iwを測定する。例えば電流算出部54は、デューティ中間相及びデューティ最小相のシャント抵抗の両端電圧に基づいて、デューティ中間相及びデューティ最小相の相電流を測定し、これらデューティ中間相及びデューティ最小相の相電流とキルヒホフの法則に基づいて、デューティ最大相の相電流を測定してよい。その後に処理は終了する。
【0082】
(変形例)
(1)上記の実施例は、下側アームスイッチング素子Qu2、Qv2、Qw2にシャント抵抗ru、rv、rwを直列接続する場合(いわゆる「下流シャント方式」の場合)について説明した。この場合には、上側アームスイッチング素子Qu1、Qv1、Qw1が特許請求の範囲に記載の「第1スイッチング素子」の一例であり、下側アームスイッチング素子Qu2、Qv2、Qw2が特許請求の範囲に記載の「第2スイッチング素子」の一例である。
【0083】
しかしながら本発明は、下流シャント方式に限定されるものではなく、上側アームスイッチング素子Qu1、Qv1、Qw1にシャント抵抗を直列接続する構成(いわゆる「上流シャント方式」の構成)についても適用可能である。
この場合には、上側アームスイッチング素子Qu1、Qv1、Qw1が、特許請求の範囲に記載の「第2スイッチング素子」の一例であり、下側アームスイッチング素子Qu2、Qv2、Qw2が、特許請求の範囲に記載の「第1スイッチング素子」の一例である。
【0084】
この場合には、上述のデューティ最小相(すなわち目標デューティ比が最も小さい相)が、下側アームスイッチング素子(第1スイッチング素子)をオンとする期間がPWM周期TPWMに占める比が最大となる相となる。以下、下側アームスイッチング素子をオンとする期間がPWM周期TPWMに占める比を「下側デューティ比」と表記することがある。
【0085】
デューティシフト部52は、デューティ最小相の目標デューティ比が0%より大きな値に設定された所定閾値未満である場合に、デューティ最小相のデューティ比を0%にシフトする。これにより、デューティ最小相における下側デューティ比の目標値が、100%未満に設定された第1閾値より大きい場合に、下側デューティ比の目標値を100%にシフトする。またゲート駆動回路32は、デューティ最小相のデューティ比を0%にシフトするのに伴い、デューティ中間相及びデューティ最大相のデューティ比を減少補正する。
【0086】
(2)以上の説明では、本発明の電力変換装置を、いわゆる上流アシスト方式と呼ばれるコラムアシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用する例について記載したが、本発明の電力変換装置は、いわゆる下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置に適用してもよい。以下、下流アシスト方式の電動パワーステアリング装置の例として、シングルピニオンアシスト方式、ラックアシスト方式、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電力変換装置を適用する構成例を説明する。
なお、下流アシスト方式の場合には、防水対策のためモータ20、回転角センサ21、ECU30は別体ではなく、
図12~
図14の破線で示すように一体構造のMCU(Motor Control Unit)としてよい。
【0087】
図12は、シングルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電力変換装置を適用する構成例を示す。ステアリングホイール1は、操舵軸2を経て、インターミディエイトシャフトの一方のユニバーサルジョイント4aと連結されている。また、他方のユニバーサルジョイント4bには、トーションバー(図示せず)の入力側シャフト4cが連結されている。
ピニオンラック機構5は、ピニオンギア(ピニオン)5a、ラックバー(ラック)5b及びピニオン軸5cを備える。入力側シャフト4cとピニオンラック機構5とは、入力側シャフト4cとピニオンラック機構5との間の回転角のずれによってねじれるトーションバー(図示せず)によって連結されている。トルクセンサ10は、トーションバーの捩れ角を、ステアリングホイール1の操舵トルクThとして電磁気的に測定する。
ピニオン軸5cには、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ21は、モータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0088】
(3)
図13は、ラックアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電力変換装置を適用する構成例を示す。ラックバー5bの外周面には螺旋溝(図示せず)が形成され、これと同様のリードの螺旋溝(図示せず)がナット81の内周面にも形成されている。これら螺旋溝によって形成される転動路に複数の転動体が配置されることによりボールネジが形成されている。
ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20の回転軸20aに連結する駆動プーリ82と、ナット81に連結する従動プーリ83にはベルト84が巻きかけられており、回転軸20aの回転運動がラックバー5bの直進運動に変換される。回転角センサ21は、モータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0089】
(4)
図14は、デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置に、本発明の電力変換装置を適用する構成例を示す。デュアルピニオンアシスト方式の電動パワーステアリング装置は、ピニオン軸5c、ピニオンギア5aに加えて、第2ピニオン軸85、第2ピニオンギア86を有し、ラックバー5bは、ピニオンギア5aと噛合する第1ラック歯(図示せず)と、第2ピニオンギア86と噛合する第2ラック歯(図示せず)を有する。
第2ピニオン軸85には、ステアリングホイール1の操舵力を補助するモータ20が減速ギア3を介して連結されており、回転角センサ21は、同様にモータ20のモータ回転軸の回転角情報を算出する。
【0090】
(実施形態の効果)
(1)実施形態の電力変換装置は、複数の相の上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子の直列接続を有する多相インバータと、多相インバータを駆動するためのq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を生成する電圧指令値生成部と、q軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限する電圧指令値制限部と、電圧指令値制限部により制限されたq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を多相電圧指令値に変換する電圧指令値変換部と、電圧指令値制限部により制限されたq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値に基づいて、上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子のうちいずれか一方のスイッチング素子である第1スイッチング素子と、上側アームスイッチング素子及び下側アームスイッチング素子のうち第1スイッチング素子以外の他方のスイッチング素子である第2スイッチング素子と、をPWM制御により駆動するスイッチング制御部と、第2スイッチング素子に直列接続される抵抗素子の電圧降下に基づいて、第2スイッチング素子に流れる電流を測定する電流測定部と、備える。
【0091】
スイッチング制御部は、第1スイッチング素子をオンとする期間がPWM周期に占めるデューティ比の目標値である目標デューティ比を、多相インバータの負荷に印加すべき目標電圧に応じて設定し、多相インバータの複数の相のうち目標デューティ比が最も高い相である第1相の目標デューティ比が、100%未満に設定された第1閾値以下である場合に、第1相の第1スイッチング素子を目標デューティ比で駆動し、第1相の目標デューティ比が第1閾値より大きい場合に、第1相の第1スイッチング素子を100%のデューティ比で駆動するとともに、複数の相のうち第1相以外の第2相の目標デューティ比を増加補正して得られた補正後デューティ比で第2相の第1スイッチング素子を駆動する。
【0092】
電圧指令値制限部は、100%未満に設定された所定の第2閾値を補正後デューティ比が超えないようにq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限する。
これにより、目標デューティ比が最も高い第1相以外の第2相の相電流を測定する際に、第1相のスイッチング素子のスイッチングノイズが重畳するのを抑制できる。また、目標デューティ比が最も高い第1相のデューティ比を100%にシフトさせることにより生じる相電流の変化を抑制できる。さらに、第2相の第2スイッチング素子がオンとなる期間が過小になることによって第2相の相電流を正確に検出できなくなるのを防止できる。この結果、PWM制御のデューティ比が最も高い相である第1相のデューティ比が高い場合の相電流の測定精度を向上できる。
【0093】
(2)例えば第2閾値は、第1閾値よりも小さな値に設定してよい。また例えば第2閾値は、第2スイッチング素子のスイッチング後に、電流測定部に検出される抵抗素子の電圧降下の測定値が安定するまでの整定時間に応じて設定してよい。また例えば第2閾値は、第2相の第2スイッチング素子のオン期間の長さが、整定時間未満にならないように設定してよい。
これにより、第1相のデューティ比が高い場合に第2相の目標デューティ比を増加補正しても第2相の第2スイッチング素子のオン期間が過小にならないように第2閾値を設定できる。
【0094】
(3)電圧指令値制限部は、100%未満に設定された所定の上限値からデッドタイム補償値を減算した差を、q軸電圧指令値とd軸電圧指令値の電圧ベクトルの大きさで除算して得られる比率に基づいて制限ゲインを設定し、制限ゲインをq軸電圧指令値とd軸電圧指令値に乗算することにより、q軸電圧指令値とd軸電圧指令値を制限してよい。
これにより、第2相の補正後デューティ比が第2閾値を超えないようにq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限できる。
【0095】
(4)電力変換装置は、多相電圧指令値に3次高調波成分を重畳する3次高調波補償部を備えてもよい。電圧指令値制限部は、100%未満に設定された所定の上限値からデッドタイム補償値を減算した差を、q軸電圧指令値とd軸電圧指令値の電圧ベクトルの大きさで除算して得られる比率に、3次高調波成分の重畳による多相電圧指令値の振幅の減少率に応じた係数を乗算した積に基づいて制限ゲインを設定してもよい。
これにより、第2相の補正後デューティ比が第2閾値を超えないようにq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限できる。
(5)電圧指令値制限部は、多相インバータの複数の相のうち目標デューティ比が2番目に高い相における補正後デューティ比が、第2閾値を超えないようにq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限してよい。
これにより、目標デューティ比が2番目に高い相における第2スイッチング素子がオンとなる期間が過小にならないようにq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値を制限できる。
【0096】
(6)スイッチング制御部は、第1相の目標デューティ比を100%から減じた差分を第2相の目標デューティ比に加えて得られた和を、補正後デューティ比として設定してよい。
これにより、目標デューティ比が最も高い第1相のデューティ比を100%にシフトさせることにより生じる相電流の変化を防止できる。
【符号の説明】
【0097】
1…ステアリングホイール、2…操舵軸、3…減速ギア、4a、4b…ユニバーサルジョイント、4c…入力側シャフト、5…ピニオンラック機構、5a…ピニオンギア(ピニオン)、5b…ラックバー(ラック)、5c…ピニオン軸、6a、6b…タイロッド、7a、7b…ハブユニット、8L、8R…操向車輪、10…トルクセンサ、11…イグニションスイッチ、12…車速センサ、13…バッテリ、14…操舵角センサ、20…モータ、20a…回転軸、20u…U相コイル、20v…V相コイル、20w…W相コイル、21…回転角センサ、30…電子制御ユニット、31…制御演算部、32…ゲート駆動回路、33…多相インバータ、34…電流遮断回路、35…遮断駆動回路、36…電圧降下測定部、37…モータ回転数演算部、40…電流指令値演算部、41、42…減算器、43…電流制限部、44…比例積分制御部、45…電圧制限部、46…2相/3相変換部、47…デッドタイム補償部、48…3次高調波補償部、49、50、51…加算器、52…デューティシフト部、53…PWM制御部、54…電流算出部、55…3相/2相変換部、56…角速度変換部、81…ナット、82…駆動プーリ、83…従動プーリ、84…ベルト、85…第2ピニオン軸、86…第2ピニオンギア