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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】抗老化成分のスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/50 20060101AFI20250212BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20250212BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20250212BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20250212BHJP
   C12Q 1/6851 20180101ALN20250212BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20250212BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
A61P17/00
A61K45/00
C12Q1/6851 Z
C12Q1/686 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020109961
(22)【出願日】2020-06-25
(65)【公開番号】P2021092534
(43)【公開日】2021-06-17
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】P 2019215965
(32)【優先日】2019-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】笠原 薫
(72)【発明者】
【氏名】大島 宏
(72)【発明者】
【氏名】諸隈 亜佑美
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】仏国特許出願公開第02901133(FR,A1)
【文献】特開2017-066051(JP,A)
【文献】特表2007-500172(JP,A)
【文献】特開2014-218481(JP,A)
【文献】特開2007-217326(JP,A)
【文献】特開2008-007412(JP,A)
【文献】特表2017-526380(JP,A)
【文献】国際公開第2018/096117(WO,A1)
【文献】“老け顔対策”は細胞のエネルギーチャージが鍵だった!,2021年02月03日,https://i-voce.jp/feed/257412/
【文献】細胞の栄養源となる糖の取り込み口の減少が肌の機能にも悪影響 肌の糖の取り込み口を増やす新たなエイジングケアの提案,ポーラ化成工業株式会社,2020年07月30日,https://www.pola-rm.co.jp/pdf/release_20200730_01.pdf
【文献】Naoki Nakashima,Effect of Dehydroepiandrosterone on Glucose Uptake in Cultured Human Fibroblasts,Metabolism,1995年04月,Vol.44 No.4,Page.543-548
【文献】Marzanna Cechowska-Pasko,Glucose-depleted medium reduces the collagen content of human skin fibroblast cultures,Mol Cell Biochem,2007年06月22日,Vol.305,Page.79-85
【文献】小倉有紀,SHG(第二高調波発生光)イメージの2次元自己相関解析に基づいたヒト真皮コラーゲン線維構造の定量化,生体医工学,2017年04月10日,Vol.55 No.2,Page.97-102
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50
G01N 33/15
A61P 17/00
A61K 45/00
C12Q 1/6851
C12Q 1/686
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真皮層におけるGLUT1の発現量を指標として、抗老化成分の候補をスクリーニングする、スクリーニング方法であり、
前記GLUT1の発現量を増加させる成分を、オクルーディン発現促進させる抗老化成分の候補として選出することを特徴とする、スクリーニング方法。
【請求項2】
細胞の培養系に被験物質を添加し、細胞におけるGLUT1の発現量を測定することを含む、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
被験物質を添加して培養した細胞におけるGLUT1の発現量が、被験物質を添加しないで培養した細胞におけるGLUT1の発現量と比較して統計的に有意に大きい場合に、前記被験物質をオクルーディン発現促進させる抗抗老化成分の候補として判定する、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
被験物質を添加しないで培養した細胞におけるGLUT1の発現量の1倍より大きい場合に、オクルーディン発現促進させる抗抗老化成分の候補として選択する、請求項1~の何れか一項に記載のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗老化成分のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
肌の老化に関連する物質として、アドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツ(Advanced Glycation End-products : 以下、AGEsと略すこともある)が知られている。
これは、皮膚組織内に存在するタンパク質や脂質が糖と結びつく糖化によって産生される物質であり、AGEsが皮膚組織中で増加すると、肌のくすみが発生したり、肌が硬化したりすることが知られている(例えば、非特許文献1、2)。
【0003】
一方、皮膚組織中に存在するコラーゲンは、真皮層細胞において産生されるが、その産生量は、加齢と共に減少することも、知られている(例えば、非特許文献3)。
【0004】
ところで、インボルクリンは、表皮のうち角層を形成する角質細胞に存在するタンパク質であり、コーニファイドエンベロープを形成するタンパク質の1つである。コーニファイドエンベロープは、角層の物理的あるいは化学的な強靭性に寄与していることから、体内(特に、皮膚組織)におけるインボルクリンの発現量を維持することが重要である(例えば、非特許文献4)。
【0005】
また、オクルーディンは、タイトジャンクションを形成するタンパク質の1つである。タイトジャンクションは、上皮細胞の結合に寄与し、分子の細胞間での移動を制御するものであるから、体内におけるオクルーディンの発現量を維持することが重要である(例えば、非特許文献5)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】H Ohshima et al., Skin Res. and Tech., (2009), 15: 496-502
【文献】Gomi et al., IFSCC2010, Poster
【文献】James Varani et al., American Journal of Pathology, (2006), 168(6): 1861-1868
【文献】北島康雄 皮膚バリア機能とその制御 Drug Delivery System 22-4,p424-432,2007
【文献】Relationship Between Expression of Tight Junction-Related Molecules and Perturbed Epidermal Barrier Function in UVB-irradiated Hairless Mice Takuya Yamamoto 1 , Masumi Kurasawa, Takao Hattori, Tetsuo Maeda, Hiroyuki Nakano, Hiroyuki Sasaki,Arch Dermatol Res . 2008 Feb;300(2):61-8. doi: 10.1007/s00403-007-0817-y. Epub 2007 Dec 7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明は、抗老化成分のスクリーニング方法を提供することを、課題とする。また、本発明は、抗老化剤、及び抗老化方法を提供することを、さらなる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、皮膚組織、特に表皮層及び真皮層に存在するグルコーストランスポーター1(Glucose transporter 1:以下、GLUT1と略すこともある)の発現量が、加齢によって減少することを見出した。
【0009】
したがって、上記課題を解決する、本発明のスクリーニング方法は、皮膚組織における、GLUT1の発現量を指標として、抗老化成分をスクリーニングする、スクリーニング方法である。
本発明により、抗老化成分を、スクリーニングすることができる。
【0010】
好ましくは、上記GLUT1の発現量を増加させる成分を、前記抗老化成分として選出する。
本発明により、抗老化成分を選出することができる。
【0011】
好ましくは、上記皮膚組織は、表皮層及び/又は真皮層である。
本発明により、表皮層及び/又は真皮層において有効な抗老化成分を、スクリーニングすることができる。
【0012】
好ましくは、上記抗老化成分は、上記皮膚組織中のアドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツの産生を抑制する成分である。
上記の通り、AGEsは、肌の老化の原因のひとつであることが知られている。
本発明によれば、皮膚組織において、アドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツの産生を抑制することができる成分を、スクリーニングすることができる。
【0013】
好ましくは、上記抗老化成分は、上記皮膚組織中のコラーゲン産生を促進する成分である。
上記の通り、加齢と共にコラーゲン産生量が減少することで、肌の老化が進行することが知られている。
本発明によれば、皮膚組織において、コラーゲン産生を促進することができる成分を、スクリーニングすることができる。
【0014】
また、上記課題を解決する、本発明の抗老化剤は、皮膚組織におけるGLUT1の発現量を指標とするスクリーニング方法によりスクリーニングされた抗老化成分を、有効成分として含む。
本発明によれば、抗老化剤を提供することができる。
【0015】
好ましくは、上記抗老化剤は、アドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツの産生を抑制するためのものである。
上記の通り、AGEsは老化と密接に関連している。したがって、本発明の抗老化剤は、AGEsの産生を抑制する目的で使用するのが好ましい。
【0016】
好ましくは、上記抗老化剤は、コラーゲンの産生を促進するためのものである。
上記の通り、コラーゲン産生が抑制されると、肌の老化が進むことが知られている。したがって、本発明の抗老化剤は、コラーゲンの産生を促進する目的で使用するのが好ましい。
【0017】
また、上記課題を解決する、本発明の抗老化方法は、皮膚組織におけるGLUT1の発現量を指標とするスクリーニングによりスクリーニングされた抗老化成分を、皮膚組織に適用する、抗老化方法である。
本発明によれば、加齢によって減少した皮膚組織中のGLUT1の発現量を増加させ、抗老化することができる。
【0018】
好ましくは、本発明の抗老化方法は、上記抗老化剤を皮膚に塗布する。
上記抗老化剤は、皮膚組織におけるGLUT1発現量を増加させる作用を有するので、皮膚に塗布することにより、高い抗老化効果を得ることができる。
【0019】
また本発明者らは、皮膚組織におけるGLUT1の発現を抑制すると、表皮角化細胞が産生するタンパク質のうち、インボルクリン及びオクルーディンの発現が減少することを見出した。すなわち、表皮角化細胞においてGLUT1は、インボルクリン及びオクルーディンの発現に関与していることを明らかにした。
ここで、インボルクリンは、上記の通り、皮膚のバリア機能、肌荒れや肌のきめの細かさに寄与している。
またオクルーディンは、上記の通り、他のタンパク質と共にタイトジャンクションを形成し、表皮では皮膚バリア機能に寄与し、身体の内部ではイオン透過等の制御に寄与している。
【0020】
そこで、本発明は、インボルクリン又はオクルーディンの発現を促進する成分のスクリーニング方法を提供することを、さらなる課題とする。また、本発明は、インボルクリン又はオクルーディンの発現を促進するための剤、及び、インボルクリン又はオクルーディンの発現を促進するための方法を提供することを、さらなる課題とする。
【0021】
上記課題を解決する本発明のスクリーニング方法は、皮膚組織におけるGLUT1の発現量を指標として、インボルクリン発現促進成分をスクリーニングする、スクリーニング方法である。
本発明によれば、インボルクリンの発現を促進する成分をスクリーニングすることができる。
【0022】
好ましくは、上記インボルクリン発現促進成分は、皮膚バリア機能向上成分である。
皮膚バリア機能は、乾燥や刺激によって低下することが知られている。また上記の通り、インボルクリンは、皮膚バリア機能に寄与することが知られている。
よって、本発明によれば、インボルクリンの発現を促進し、皮膚バリア機能を向上させる成分をスクリーニングすることができる。
【0023】
また、上記課題を解決する本発明のインボルクリン発現促進剤は、上記インボルクリン発現促進成分をスクリーニングする方法によりスクリーニングされた成分を、有効成分として配合する。
本発明によれば、インボルクリン発現促進成分を有効成分として配合する剤を提供することができる。
【0024】
また、上記課題を解決する本発明のインボルクリン発現促進方法は、上記インボルクリン発現促進成分をスクリーニングする方法によりスクリーニングされた成分を、肌に適用する。
好ましくは、本発明のインボルクリン発現促進方法は、上記インボルクリン発現促進剤を肌に塗布する。
本発明によれば、表皮層(特に、角層細胞)におけるインボルクリンの発現を促進することができる。
【0025】
また、上記課題を解決する本発明のスクリーニング方法は、皮膚組織におけるGLUT1の発現量を指標として、オクルーディン発現促進成分をスクリーニングする、スクリーニング方法である。
本発明によれば、オクルーディンの発現を促進する成分をスクリーニングすることができる。
【0026】
好ましくは、上記オクルーディン発現促進成分は、皮膚バリア機能向上成分である。
上記の通り、オクルーディンは、皮膚バリア機能に寄与することが知られている。
よって、本発明によれば、オクルーディンの発現を促進し、皮膚バリア機能を向上させる成分をスクリーニングすることができる。
【0027】
また、上記課題を解決する本発明のオクルーディン発現促進剤は、上記オクルーディン発現促進成分をスクリーニングする方法によりスクリーニングされた成分を、有効成分として配合する。
本発明によれば、オクルーディン発現促進成分を有効成分として含む剤を提供することができる。
【0028】
また、上記課題を解決する本発明のオクルーディン発現促進方法は、上記オクルーディン発現促進成分をスクリーニングする方法によりスクリーニングされた成分を、肌に適用する。
好ましくは、本発明のオクルーディン発現促進方法は、上記オクルーディン発現促進剤を肌に塗布する。
本発明によれば、オクルーディンの発現を促進することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、抗老化成分を、スクリーニングすることができる。
本発明によれば、抗老化剤を得ることができる。
本発明によれば、抗老化方法を提供することができる。
【0030】
本発明によれば、インボルクリン又はオクルーディンの発現を促進する成分をスクリーニングすることができる。
本発明によれば、インボルクリン又はオクルーディンの発現を促進する剤を得ることができる。
本発明によれば、インボルクリン又はオクルーディンの発現を促進する方法を提供することができる。
【0031】
本発明によれば、皮膚バリア機能を向上する成分をスクリーニングすることができる。
本発明によれば、皮膚バリア機能を向上する剤を得ることができる。
本発明によれば、皮膚バリア機能を向上する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】加齢と共に、皮膚組織においてGLUT1の発現量が減少することを示すグラフである。(A)は正常ヒト表皮角化細胞における結果を、(B)は正常ヒト真皮線維芽細胞における結果をそれぞれ示す。
図2】試験例2において、正常ヒト表皮角化細胞におけるGLUT1の発現量を測定した結果を表すグラフである。(A)はユキノシタエキス、(B)はタイムエキス、(C)はオトギリソウエキスを使用した実験結果をそれぞれ示す。
図3】試験例3において、正常ヒト真皮線維芽細胞におけるGLUT1の発現量を測定した結果を表すグラフである。
図4】正常ヒト表皮層角化細胞のsiRNA法により測定した、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない細胞におけるGLUT1のmRNA発現量と、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした細胞におけるGLUT1のmRNA発現量を比較したグラフである。
図5】siRNA法により測定した、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない細胞におけるインボルクリンのmRNA発現量と、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした細胞におけるインボルクリンのmRNA発現量を比較したグラフである。
図6】siRNA法により測定した、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンしていない細胞におけるオクルーディンのmRNA発現量と、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした細胞におけるオクルーディンのmRNA発現量を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態に限定されない。
【0034】
本発明において、「皮膚組織」とは、皮膚を構成する表皮層、真皮層、及び皮下組織を指す。
本発明において、「抗老化」とは、加齢により起こる、肌状態の好ましくない変化(例えばくすみの発生、たるみの発生、肌理の悪化、肌の硬化など)を、加齢する前の状態に近づける、又は、変化を抑制することを指す。
なお、「くすみ」とは、肌が本来持っている透明感や明るさ、つやが失われ、顔全体が本来の肌の色よりも暗く見えることを指す。
「たるみ」とは、皮膚組織の弾力性の低下によって生じる、肌の変形を指す。
「肌理」とは、皮膚の表面の細かい凹凸のことをいい、「肌理の悪化」とは、皮膚表面の凹凸が減少することを指す。
本発明において、「抗老化成分」とは、上記抗老化に効果のある成分のことを指す。
【0035】
1.スクリーニング方法
本発明のスクリーニング方法は、GLUT1の発現量を指標として、抗老化成分をスクリーニングする方法である。ここで、スクリーニングとは、抗老化成分又はその候補を探索することを含む。
【0036】
本発明の好ましい形態では、皮膚組織におけるGLUT1の発現量を増加させる成分を、上記抗老化成分として選出する。
本発明者らは、加齢と共に、皮膚組織においてGLUT1の発現量が減少することを見出している。
また、後述するように、GLUT1の発現量の減少は、AGEsの産生促進や、コラーゲン産生の減少など、肌にとって好ましくない変化を引き起こし、肌の老化を進行させると考えられる。
したがって、本発明により、加齢と共に減少する、皮膚組織におけるGLUT1の発現量を増加させることは、抗老化に有効である。
【0037】
本発明の好ましい形態では、上記皮膚組織は、表皮層及び/又は真皮層である。
表皮層は、皮膚組織のうち、最も外側に存在する層であり、くすみや肌の硬化が発生し、表皮層の状態が悪化すると、最も顕著に見た目の肌状態が悪化する。
また、真皮層では、線維芽細胞がコラーゲン産生を行っており、真皮層の状態が悪化すると、コラーゲン産生が抑制され、肌のたるみにつながる。
したがって、表皮層及び/又は真皮層において、GLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングすることで、各層の加齢現象を抑制し、抗老化することができる。
【0038】
本発明において、抗老化成分は、AGEsの産生を抑制する成分であってもよい。
皮膚組織においてGLUT1の発現量が減少すると、細胞内に糖が取り込まれにくくなる。その結果、細胞外の皮膚組織における糖の量が増加し、表皮層において糖化反応が促進され、AGEsの産生が促進されると予想される。
AGEsが表皮層において増加すると、肌理の悪化や、くすみの発生、肌の硬化につながるのは、上記の通りである。
したがって、皮膚組織において、GLUT1の発現量を増加させる成分は、AGEsの産生を抑制することができ、抗老化に有効である。
【0039】
本発明において、抗老化成分は、コラーゲン産生を促進する成分であってもよい。
真皮層においてGLUT1の発現量が減少すると、コラーゲンを産生する線維芽細胞内に、糖が取り込まれにくくなる(例えば、N Nakashima et al., Metabolism, (1995) 44(4) : 543-548)。そうすると、真皮層におけるコラーゲンの産生能が低下し、肌のたるみを引き起こすと予想される(例えば、M Cechowska-Pasko et al., Mol Cell Biochem, (2007) 305 : 79-85、Y Ogura et al., 生体医工学, (2017), 55(2): 97-102)。
したがって、真皮層においてGLUT1の発現量を増加させる成分は、コラーゲン産生を促進することができ、抗老化に有効である。
【0040】
本発明における抗老化成分は、AGEsの産生を抑制する効果と、コラーゲンの産生を促進する効果を併せ持つものでもよい。
【0041】
本発明のスクリーニング方法が被験対象とする物質は、純物質、生物由来の抽出物、又はそれらの混合物等のいずれであってもよい。
生物由来の抽出物が、動物又は植物由来の抽出物自体のみならず、抽出物の画分、精製した画分、抽出物乃至は画分、精製物の溶媒除去物の総称を意味するものとし、植物由来の抽出物は、自生若しくは生育された植物、漢方生薬原料等として販売されるものを用いた抽出物、市販されている抽出物等が挙げられる。
抽出操作は、植物部位の全草を用いるほか、植物体、地上部、根茎部、木幹部、葉部、茎部、花穂、花蕾等の部位を使用することできるが、予めこれらを粉砕あるいは細切して抽出効率を向上させることが好ましい。
抽出溶媒としては、水、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノールなどのアルコール類、1,3-ブタンジオール、ポリプロピレングリコールなどの多価アルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類等の極性溶媒から選択される1種乃至は2種以上が好適なものとして例示することができる。
具体的な抽出方法としては、例えば、植物体等の抽出に用いる部位乃至はその乾燥物1質量に対して、溶媒を1~30質量部加え、室温であれば数日間、沸点付近の温度であれば数時間浸漬し、室温まで冷却した後、所望により不溶物及び/又は溶媒除去し、カラムクロマトグラフィー等で分画精製する方法が挙げられる。
【0042】
本発明のスクリーニング方法は、細胞の培養系に被験物質を添加し、細胞におけるGLUT1の発現量を測定することを含む。ここで、表皮層における試験では、正常ヒト角化細胞を使用できる。また真皮層における試験では、正常ヒト線維芽細胞を使用できる。
具体的には、被験物質を添加して培養した細胞におけるGLUT1の発現量が、被験物質を添加しないで培養した細胞におけるGLUT1の発現量と比較して統計的に有意に大きい場合に、前記被験物質は抗老化成分の候補として判定することが可能である。
より具体的には、被験物質を添加しないで培養した細胞におけるGLUT1の発現量の1倍より大きい場合に、抗老化成分の候補として選択することが可能である。
【0043】
GLUT1の発現量は、mRNA測定、免疫組織化学的解析等の常法により測定することができる。
例えば、GLUT1をコードする遺伝子の発現量は、当該遺伝子の配列に特異的に結合する配列を有するDNA断片をプライマーとして用いてPCRを行い、定量的な検出を行う。
なお、GLUT1をコードする遺伝子配列は、公開されているので、当業者は適宜プライマーを設計することが可能である。
また、抗体についても、市販品が存在するので、これを用いて、細胞における発現量を測定することができる。
【0044】
本発明は、また、GLUT1の発現量を指標として、皮膚組織におけるインボルクリン発現促進成分をスクリーニングする方法にも関する。
上記皮膚組織は、好ましくは表皮層であり、より好ましくは角層である。
皮膚組織におけるGLUT1の発現量が減少すると、皮膚組織におけるインボルクリンの発現量も減少することが、本発明者らによって明らかになった。
よって、GLUT1の発現量を指標とすれば、インボルクリン発現促進成分をスクリーニングすることができる。
【0045】
上記の通り、インボルクリンは、角層の物理的あるいは化学的な強靭性に寄与するコーニファイドエンベロープを形成するタンパク質のひとつである。
したがって、インボルクリンの発現が促進されると、コーニファイドエンベロープの形成が促進され、角層の強靭性が向上し、肌の防御機能が改善する。肌の防御機能が改善すると、肌状態が改善する。肌の防御機能は、例えば皮膚バリア機能である。
すなわち、インボルクリンの発現が促進されると、肌状態が改善する。
よって、本発明に係るインボルクリン発現促進成分のスクリーニング方法は、好ましくは肌状態改善成分のスクリーニング方法である。具体的には、肌状態改善成分は、皮膚バリア機能向上成分とすることができる。
【0046】
本発明の好ましい形態では、上記肌状態改善成分が、皮膚バリア機能向上成分である。
本発明によれば、GLUT1の発現量を指標として、皮膚バリア機能を向上させる成分をスクリーニングすることができる。
【0047】
本発明は、また、GLUT1の発現量を指標として、皮膚組織におけるオクルーディン発現促進成分をスクリーニングする方法にも関する。
上記皮膚組織は、好ましくは表皮である。
皮膚組織におけるGLUT1の発現量が減少すると、皮膚組織におけるオクルーディンの発現量も減少することが、本発明者らによって明らかになった。
よって、GLUT1の発現量を指標とすれば、オクルーディン発現促進成分をスクリーニングすることができる。
【0048】
上記の通り、オクルーディンは、上皮細胞の結合に寄与するタイトジャンクションを形成するタンパク質のひとつである。
したがって、オクルーディンの発現が促進されると、タイトジャンクションの形成が促進され、上皮細胞の結合がより強固になり、肌の防御機能が改善する。肌の防御機能が改善すると、肌状態が改善する。肌の防御機能は、例えば皮膚バリア機能である。
すなわち、オクルーディンの発現が促進されると、肌状態が改善する。
したがって、本発明に係るオクルーディン発現促進成分のスクリーニング方法は、好ましくは肌状態改善成分のスクリーニング方法である。具体的には、肌状態改善成分は、皮膚バリア機能向上成分とすることができる。
【0049】
本発明の好ましい形態では、上記肌状態改善成分が、皮膚バリア機能向上成分である。
本発明によれば、GLUT1の発現量を指標として、皮膚バリア機能を向上させる成分をスクリーニングすることができる。
【0050】
インボルクリン発現促進成分をスクリーニングする方法及びオクルーディン発現促進成分をスクリーニングする方法において、被験対象とする物質及びその入手方法、具体的なスクリーニングの手法、並びにインボルクリン及びオクルーディンの発現量の測定方法については、上記の事項を適用することができる。
【0051】
2.抗老化剤
本発明の抗老化剤は、上記「1.スクリーニング方法」で述べた何れかのスクリーニング方法によってスクリーニングされた、抗老化成分を、有効成分として配合する。
上記の通り、本発明でスクリーニングされた抗老化成分は、GLUT1の発現量を増加させるので、抗老化効果を有する。
【0052】
好ましくは、上記抗老化剤は、アドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツの産生を抑制するためのものである。
上記の通り、皮膚組織中のAGEsの産生を抑制することは、抗老化に有効である。
【0053】
好ましくは、上記抗老化剤は、コラーゲンの産生を促進するためのものである。
上記の通り、皮膚組織中のコラーゲンの産生を促進することは、抗老化に有効である。
【0054】
また好ましくは、上記抗老化剤は、アドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツの産生を抑制し、コラーゲンの産生を促進するためのものである。
アドバンスド・グリケーション・エンドプロダクツの産生の抑制と、コラーゲン産生の促進の両方に有効な抗老化剤は、より抗老化に有効である。
【0055】
本発明の抗老化剤は、製剤化に用いられる任意の成分と適宜組み合わせて、経口剤や皮膚外用剤の形態をとることができる。
経口剤とする場合、上記抗老化成分を、有効成分として含む食品用組成物の形態とすることが好ましい。具体的には、一般食品、錠剤、顆粒剤、ドリンク剤等の剤形を有するサプリメントの形態とすることが好ましい。
【0056】
経口剤における、上記抗老化成分の含有量は、剤形に応じて、1回あたりの摂取量が抽出物の乾燥質量として、通常、0.1mg以上、好ましくは1mg以上、より好ましくは10mg以上である。
また、通常、2000mg以下、好ましくは1000mg以下、より好ましくは500mg以下である。
上記範囲とすることで、効果的にGLUT1の発現量を増加させることができる。
【0057】
皮膚外用剤とする場合、例えば化粧料、医薬部外品、皮膚外用医薬等の形態を例示することができる。また、それらの剤形は特に限定されない。
例えば、化粧料とする場合には、化粧水、美容液、乳液、クリーム、ジェル、サンケア品等の形態が好ましい。
【0058】
皮膚外用剤における、上記抗老化成分の含有量(抽出物の場合は乾燥重量)は、通常、0.00001質量%以上、好ましくは0.0001質量%以上、より好ましくは0.001質量%以上である。
また、通常80質量%以下、好ましくは30質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
上記範囲とすることで、効果的にGLUT1の発現量を増加させることができる。
【0059】
上記抗老化成分を、化粧料に配合する場合、抗老化効果を損ねない範囲で、美白成分、しわ改善成分、抗炎症成分、動植物由来の抽出物、有効成分以外に通常化粧料で使用される成分を、任意成分として配合してもよい。
これらの任意成分は、市販されているものを入手して配合してもよく、公知の方法で合成したものを配合してもよい。
【0060】
美白成分としては、一般的に化粧料で用いられている成分を、特に制限なく使用することができる。ただし、GLUT1の発現促進以外のメカニズムで美白効果を有する成分を用いることが、各成分の作用効果を存分に生かす観点から好ましい。
例えば、4-n-ブチルレゾルシノール、アスコルビン酸グルコシド、3-О-エチルアスコルビン酸、トラネキサム酸、アルブチン、1-トリフェニルメチルピペリジン、1-トリフェニルメチルピロリジン、2-(トリフェニルメチルオキシ)エタノール、2-(トリフェニルメチルアミノ)エタノール、2-(トリフェニルメチルオキシ)エチルアミン、トリフェニルメチルアミン、トリフェニルメタノール、トリフェニルメタン及びアミノジフェニルメタン、N-(o-トルオイル)システイン酸、N-(m-トルオイル)システイン酸、N-(p-トルイル)システイン酸、N-(p-メトキシベンゾイル)システイン酸、N-ベンゾイル-セリン、N-(p-メチルベンゾイル)セリン、N-(p-エチルベンゾイル)セリン、N-(p-メトキシベンゾイル)セリン、N-(p-フルオロベンゾイル)セリン、N-(p-トリフルオロメチルベンゾイル)セリン、N-(2-ナフトイル)セリン、N-(4-フェニルベンゾイル)セリン、N-(p-メチルベンゾイル)セリン メチルエステル、N-(p-メチルベンゾイル)セリン エチルエステル、N-(2-ナフトイル)セリン メチルエステル、N-ベンゾイル-O-メチルセリン、N-(p-メチルベンゾイル)-O-メチルセリン、N-(p-メチルベンゾイル)-O-アセチルセリン、N-(2-ナフトイル)-O-メチルセリン等が挙げられる。
【0061】
化粧料における美白成分の含有量は、通常0.0001~30質量%であり、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0062】
しわ改善成分としては、一般的に化粧料で用いられている成分を、特に制限なく使用することができる。ただし、GLUT1の発現促進以外のメカニズムでしわ改善効果を有する成分を用いることが、各成分の作用効果を存分に活かす観点から好ましい。
例えば、ビタミンA又はその誘導体としてレチノール、レチナール、レチノイン酸、トレチノイン、イソトレチノイン、レチノイン酸トコフェロール、パルミチン酸レチノール、酢酸レチノールが挙げられる。また、ウルソール酸ベンジルエステル、ウルソール酸リン酸エステル、ベツリン酸ベンジルエステル、ベンジル酸リン酸エステルが挙げられる。
【0063】
化粧料におけるしわ改善成分の含有量は、通常0.0001~30質量%であり、0.001~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0064】
抗炎症成分としては、例えば、クラリノン、グラブリジン、グリチルリチン酸、グリチルレチン酸、パントテニルアルコール等が挙げられ、グリチルリチン酸及びその塩、グリチルレチン酸アルキル及びその塩、並びに、グリチルレチン酸及びその塩が好ましく挙げられる。
化粧料中における抗炎症成分の含有量は、通常0.01~30質量%であり、0.1~10質量%が好ましく、1~5質量%がより好ましい(抽出物の場合は乾燥質量)。
【0065】
動植物由来の抽出物としては、例えば、アケビエキス、アスナロエキス、アスパラガスエキス、アボガドエキス、アマチャエキス、アーモンドエキス、アルニカエキス、アロニアエキス、アンズエキス、イチョウエキス、ウイキョウエキス、ウドエキス、エゾウコギエキス、エンメイソウエキス、オウバクエキス、オタネニンジンエキス、オドリコソウエキス、カキョクエキス、カッコンエキス、カモミラエキス、カロットエキス、カワラヨモギエキス、カンゾウエキス、キウイエキス、キューカンバーエキス、グアバエキス、クチナシエキス、クマザサエキス、クルミエキス、黒米エキス、クロレラエキス、クワエキス、ケイケットウエキス、ゲットウヨウエキス、ゲンチアナエキス、コメエキス、コメ発酵エキス、コメヌカ発酵エキス、コメ胚芽油、サルビアエキス、サボンソウエキス、ササエキス、サンシャエキス、サンショウエキス、シイタケエキス、ジオウエキス、シコンエキス、シソエキス、シナノキエキス、シモツケソウエキス、ショウキョウエキス、ショウブ根エキス、スギナエキス、ステビアエキス、ステビア発酵物、セイヨウノコギリソウエキス、セイヨウハッカエキス、セージエキス、ゼニアオイエキス、センキュウエキス、センブリエキス、ソウハクヒエキス、ダイオウエキス、ダイズエキス、タイソウエキス、タンポポエキス、チョウジエキス、トウガラシエキス、トウキエキス、トウキンセンカエキス、トウニンエキス、トマトエキス、納豆エキス、ニンジンエキス、ニンニクエキス、ハイビスカスエキス、バクモンドウエキス、ハスエキス、パセリエキス、バーチエキス、ハマメリスエキス、ヒキオコシエキス、ヒノキエキス、ビワエキス、フキタンポポエキス、フキノトウエキス、ブクリョウエキス、ヘチマエキス、ペパーミントエキス、ボダイジュエキス、マツエキス、ミズバショウエキス、メリッサエキス、モズクエキス、モモエキス、ヤグルマギクエキス、ユーカリエキス、ユリエキス、ヨクイニンエキス、ヨモギエキス、ラベンダーエキス、リンゴエキス、ルイボス茶エキス、レイシエキス、レタスエキス、レンギョウエキス、レンゲソウエキス、ローズマリーエキス、ローマカミツレエキス、ワレモコウエキス等のエキスが好ましいものとして挙げられる。
【0066】
化粧料中における前記任意の動植物由来抽出物の含有量(乾燥質量)は、通常0.01~30質量%であり、0.1~10質量%が好ましく、0.3~3質量%がより好ましい。
【0067】
有効成分以外に通常化粧料で使用される成分としては、ポリエチレングリコール、グリセリン、1,3-ブチレングリコール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、イソプレングリコール、1,2-ペンタンジオール、2,4-ヘキシレングリコール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオール等のポリオール、脂肪酸セッケン(ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム等)、ラウリル硫酸カリウム、アルキル硫酸トリエタノールアミンエーテル等のアニオン界面活性剤類、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベンザルコニウム、ラウリルアミンオキサイド等のカチオン界面活性剤類、イミダゾリン系両性界面活性剤(2-ココイル-2-イミダゾリニウムヒドロキサイド-1-カルボキシエチロキシ2ナトリウム塩等)、ベタイン系界面活性剤(アルキルベタイン、アミドベタイン、スルホベタイン等)、アシルメチルタウリン等の両性界面活性剤類、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノステアレート、セスキオレイン酸ソルビタン等)、グリセリン脂肪酸類(モノステアリン酸グリセリン等)、プロピレングリコール脂肪酸エステル類(モノステアリン酸プロピレングリコール等)、硬化ヒマシ油誘導体、グリセリンアルキルエーテル、POEソルビタン脂肪酸エステル類(POEソルビタンモノオレエート、モノステアリン酸ポリオキエチレンソルビタン等)、POEソルビット脂肪酸エステル類(POE-ソルビットモノラウレート等)、POEグリセリン脂肪酸エステル類(POE-グリセリンモノイソステアレート等)、POE脂肪酸エステル類(ポリエチレングリコールモノオレート、POEジステアレート等)、POEアルキルエーテル類(POE2-オクチルドデシルエーテル等)、POEアルキルフェニルエーテル類(POEノニルフェニルエーテル等)、プルロニック(登録商標)型類、POE・POPアルキルエーテル類(POE・POP2-デシルテトラデシルエーテル等)、テトロニック類、POEヒマシ油・硬化ヒマシ油誘導体(POEヒマシ油、POE硬化ヒマシ油等)、ショ糖脂肪酸エステル、アルキルグルコシド等の非イオン界面活性剤類、ピロリドンカルボン酸ナトリウム、乳酸、乳酸ナトリウム等の保湿成分類、表面処理されていても良い、マイカ、タルク、カオリン、合成雲母、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、無水ケイ酸(シリカ)、酸化アルミニウム、硫酸バリウム等の粉体類、表面処理されていても良い、酸化コバルト、群青、紺青、酸化亜鉛の無機顔料類、表面処理されていても良い、酸化鉄二酸化チタン焼結体等の複合顔料、表面処理されていても良い、雲母チタン、魚燐箔、オキシ塩化ビスマス等のパール剤類、レーキ化されていても良い赤色202号、赤色228号、赤色226号、黄色4号、青色404号、黄色5号、赤色505号、赤色230号、赤色223号、橙色201号、赤色213号、黄色204号、黄色203号、青色1号、緑色201号、紫色201号、赤色204号等の有機色素類、ポリエチレン末、ポリメタクリル酸メチル、ナイロン粉末、オルガノポリシロキサンエラストマー等の有機粉体類、エタノール、イソプロパノール等の低級アルコール類、ビタミンA又はその誘導体、ビタミンB6塩酸塩,ビタミンB6トリパルミテート,ビタミンB6ジオクタノエート,ビタミンB2又はその誘導体,ビタミンB12,ビタミンB15又はその誘導体等のビタミンB類、α-トコフェロール,β-トコフェロール,γ-トコフェロール,ビタミンEアセテート等のビタミンE類、ビタミンD類、ビタミンH、パントテン酸、パンテチン、ピロロキノリンキノン等のビタミン類が挙げられる。
【0068】
本発明はまた、インボルクリン発現促進剤及びオクルーディン発現促進剤にも関する。
【0069】
本発明のインボルクリン発現促進剤は、上記「1.スクリーニング方法」で述べたインボルクリン発現促進成分のスクリーニング方法によってスクリーニングされた、インボルクリン発現促進成分を、有効成分として配合する。
上記スクリーニング方法でスクリーニングされた成分は、インボルクリンの発現量を増加させる。
【0070】
好ましくは、上記インボルクリン発現促進剤は、皮膚バリア機能向上剤である。
本発明によれば、皮膚バリア機能向上剤を提供することができる。
【0071】
本発明のオクルーディン発現促進剤は、上記「1.スクリーニング方法」で述べたオクルーディン発現促進成分のスクリーニング方法によってスクリーニングされた、オクルーディン発現促進成分を、有効成分として配合する。
上記スクリーニング方法でスクリーニングされた成分は、オクルーディンの発現量を増加させる。
【0072】
好ましくは、上記オクルーディン発現促進剤は、皮膚バリア機能向上剤である。
本発明によれば、皮膚バリア機能向上剤を提供することができる。
【0073】
インボルクリン発現促進剤及びオクルーディン発現促進剤において、剤型、インボルクリン発現促進成分及びオクルーディン発現促進成分の含有量、並びに、任意成分及びその含有量については、上記の事項を適用することができる。
【0074】
3.抗老化方法
本発明の抗老化方法は、上記「1.スクリーニング方法」で述べた何れかのスクリーニング方法によりスクリーニングされた、抗老化成分を、皮膚組織に適用する。
ここで、「抗老化成分を、皮膚組織に適用する」とは、本発明の方法でスクリーニングされた抗老化成分が、使用者の皮膚組織においてGLUT1発現促進効果を発揮できるようにすることを指す。例えば、肌への塗布や、貼付剤の貼付などが挙げられる。
なお、本発明における抗老化方法は、非治療的方法であり、好ましくは美容方法、さらに好ましくは皮膚の美容方法である。
【0075】
好ましくは、上記「2.抗老化剤」で述べた何れかの抗老化剤を、皮膚に塗布する。
上記「2.抗老化剤」で述べた抗老化剤は、皮膚組織において、GLUT1の発現量を増加させる成分を含み、高い抗老化効果を有する。
また、皮膚に塗布することにより、抗老化効果を十分に発揮することができる。
【0076】
本発明は、また、インボルクリン発現促進方法及びオクルーディン発現促進方法にも関する。
【0077】
本発明のインボルクリン発現促進方法は、上記「1.スクリーニング方法」で述べた何れかのスクリーニング方法によりスクリーニングされた、インボルクリン発現促進成分を、皮膚組織に適用する。
【0078】
好ましくは、上記「2.抗老化剤」で述べたインボルクリン発現促進剤を、皮膚に塗布する。
上記「2.抗老化剤」で述べたインボルクリン発現促進剤は、皮膚組織において、GLUT1の発現量を増加させる成分を含み、高いインボルクリン発現促進効果を有する。
また、皮膚に塗布することにより、インボルクリン発現促進効果を十分に発揮することができる。
【0079】
また、本発明のオクルーディン発現促進方法は、上記「1.スクリーニング方法」で述べた何れかのスクリーニング方法によりスクリーニングされた、オクルーディン発現促進成分を、皮膚組織に適用する。
【0080】
好ましくは、上記「2.抗老化剤」で述べたオクルーディン発現促進剤を、皮膚に塗布する。
上記「2.抗老化剤」で述べたオクルーディン発現促進剤は、皮膚組織において、GLUT1の発現量を増加させる成分を含み、高いオクルーディン発現促進効果を有する。
また、皮膚に塗布することにより、オクルーディン発現促進効果を十分に発揮することができる。
【0081】
なお、上記インボルクリン発現促進方法及びオクルーディン発現促進方法は、非治療的方法であり、好ましくは美容方法、さらに好ましくは皮膚の美容方法である。
【実施例
【0082】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施形態に限定されない。
【0083】
<試験例1>皮膚組織におけるGLUT1発現量の測定
(I)表皮層におけるGLUT1発現量の測定
ドナー年齢の異なる正常ヒト表皮角化細胞における、GLUT1の発現量を測定した。
(1)HuMedia-KG2培地(倉敷紡績株式会社製)を用い、30代及び50代のドナーより採取した正常ヒト表皮角化細胞を、48ウェルプレートに3.0×10個/ウェルとなるように播種し、37℃、5%CO環境下で、24時間培養した。
(2)培養後、培地を除去し、HuMedia-KB2培地(倉敷紡績株式会社製)を添加し、37℃、5%CO環境下で、さらに24時間培養した。
(3)培養後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)のプロトコルに従って、培養した正常ヒト表皮角化細胞の回収、及び、mRNAの抽出を行った。
(4)GLUT1のmRNA発現量を、リアルタイムqPCR法で測定した。また、内在性コントロールであるβ-アクチンのmRNA発現量も、同時に測定した。
測定には、Fast SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher社製)を用いた。またプライマーは、Hs_SLC2A1_1_SG QuantiTect Primer Assay(QIAGEN社製)を用いた。
(5)各年代のドナー細胞における、GLUT1のmRNA発現量を、β-アクチンのmRNA発現量で補正した。30代ドナー細胞におけるGLUT1の補正後のmRNA発現量を1とした場合の、50代ドナー細胞におけるGLUT1の補正後のmRNA発現量を算出した。結果を図1に示す。
【0084】
(II)真皮層におけるGLUT1発現量の測定
ドナー年齢の異なる正常ヒト真皮線維芽細胞における、GLUT1の発現量を測定した。
ここで、ドナーは10代及び50代である。また、各ドナーより採取した正常ヒト真皮線維芽細胞は、10%FBSを含むDMEM培地(SIGMA社製)で、24ウェルプレートに1.5×10個/ウェルとなるように播種し、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。培養後、培地を除去し、1%FBSを含むDMEM培地を加え、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。培養後は、(I)(3)以降の手順に従って、GLUT1の発現量を算出した。結果を図1に示す。
【0085】
図1に示した通り、正常ヒト表皮角化細胞及び正常ヒト真皮線維芽細胞において、加齢と共にGLUT1の発現量が減少することが、明らかになった。
【0086】
<試験例2>表皮層においてGLUT1の発現量を増加させる成分のスクリーニング
正常ヒト表皮角化細胞において、GLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングした。
(1)HuMedia-KG2培地(倉敷紡績株式会社製)を用い、正常ヒト表皮角化細胞を、24ウェルプレートに5.0×10個/ウェルになるように播種し、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。
(2)培養後、培地を除去し、被験対象の植物エキス又は溶媒対照を0.5%含むHuMedia-KB2培地(倉敷紡績株式会社製)を加え、37℃、5%CO環境下で、24時間培養した。以下、被験対象の植物エキスを含む培地を加えた細胞を植物エキス添加群、溶媒対照を含む培地を加えた細胞を溶媒対照群とする。
(3)培養後、RNeasy Mini Kit(QIAGEN社製)のプロトコルに従って、培養した正常ヒト表皮角化細胞の回収、及び、mRNAの抽出を行った。
(4)GLUT1のmRNA発現量を、リアルタイムqPCR法で測定した。また、内在性コントロールであるβ-アクチンのmRNA発現量も、同時に測定した。
測定には、Fast SYBR Green Master Mix(Thermo Fisher社製)を用いた。またプライマーは、Hs_SLC2A1_1_SG QuantiTect Primer Assay(QIAGEN社製)を用いた。
(5)植物エキス添加群及び溶媒対照群におけるGLUT1のmRNA発現量を、β-アクチンのmRNA発現量で補正した。溶媒対照群におけるGLUT1の補正後のmRNA発現量を1とした場合の、植物エキス添加群におけるGLUT1の補正後のmRNA発現量を算出した。結果を図2に示す。
【0087】
図2に示すように、ユキノシタエキス、タイムエキス、及びオトギリソウエキスは、正常ヒト表皮角化細胞において、GLUT1の発現量を増加させることがわかった。
以上より、本発明のスクリーニング方法によれば、表皮層においてGLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングすることができることが示された。
【0088】
<試験例3>真皮層においてGLUT1の発現量を増加させる成分のスクリーニング
正常ヒト真皮線維芽細胞において、GLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングした。
(1)10%FBSを含むDMEM培地(SIGMA社製)を用い、正常ヒト真皮線維芽細胞を、24ウェルプレートに7.0×10個/ウェルになるように播種し、37℃、5%CO環境下で24時間培養した。
(2)培養後、培地を除去し、被験対象の植物エキス又は溶媒対照を0.5%と1%FBSを含むDMEM培地を加え、37℃、5%CO環境下で、24時間培養した。以下、被験対象の植物エキスを含む培地を加えた細胞を植物エキス添加群、溶媒対照を含む培地を加えた細胞を溶媒対照群とする。
以降は、上記<試験例2>の(3)以降と同様にして、正常ヒト真皮線維芽細胞におけるGLUT1の発現量を算出した。結果を図3に示す。
【0089】
図3に示すように、ローヤルゼリーエキスは、正常ヒト真皮線維芽細胞において、GLUT1の発現量を増加させることがわかった。
以上より、本発明のスクリーニング方法によれば、真皮層においてGLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングすることができることが示された。
【0090】
試験例2、及び3でスクリーニングされた成分を有効成分として配合することにより、本発明の抗老化剤を得ることができる。
また、本発明の抗老化方法は、例えば、試験例2、及び3でスクリーニングされた成分を有効成分として配合した抗老化剤を、肌に塗布する。
【0091】
<試験例4>GLUT1の発現量と、インボルクリンの発現量及びオクルーディンの発現量の関係
GLUT1の発現量と、インボルクリンの発現量及びオクルーディンの発現量の関係を試験した。
【0092】
(I)細胞の培養
細胞はヒト線維芽細胞(NHDF)とヒト角化細胞(NHEK)を用いた。それぞれの細胞種において若齢ドナー由来(18才及び28才)及び高齢ドナー由来(54才)を試験に用いた。
各細胞は、それぞれメーカー推奨方法にて培養を行った。
細胞培養用フラスコ250(住友ベークライト # MS-21250)に播種し、60-90%コンフルエントに達した細胞はトリプシン中和液(KURABO #HK-3220)を用い剥離し、継代した。
継代数は、ヒト線維芽細胞については、P+2-8、ヒト角化細胞については、P+2-5とした。
【0093】
(II)siRNAの導入によるGLUT1発現遺伝子のノックダウン
(1)プレートに細胞を播種し、37℃、5%CO条件下で、一晩下記表1に示す完全培地にて培養し、70-90%コンフルエントにした(N=3-4)。なお、24ウェルプレートにおいては、1ウェルあたり6.0-7.0×10個/500μLになるように細胞を播種し、48ウェルプレートにおいては、1ウェルあたり3.0-3.5×10個/250μLになるように細胞を播種した。表1に、使用細胞と、これを培養する際に使用した培地の組み合わせを示す。
【0094】
【表1】
【0095】
(2)Lipofectamin Reagent(Invitrogen社)を、各細胞に対応する専用培地(上記表1に記載)に混和し、1~2:50の割合で希釈した。
(3)導入するsiRNAは、ON-TARGET plus siRNA(Dharmacon)試薬を用い、専用培地及びPBSにて希釈(細胞最終添加濃度25nM)し、希釈済みLipofectamin Reagentと1:1の割合で混和した。その後、室温で15分間インキュベートし、siRNA複合導入試薬を作成した。
なお、siRNAは、下記表2に記載のものを使用した。
【0096】
【表2】
【0097】
(4)培養細胞の培地を除去し、培地と等量のPBSで1回洗浄した。
(5)1ウェルあたり200-400μLの専用培地を添加した後、上記(3)で調製したsiRNA複合導入試薬を50-100μL添加し、プレートを穏やかに揺すり、細胞毒性がないことを顕微鏡下で確認した後に、37℃、5%CO環境下で、8-48時間培養した。
【0098】
(III)細胞からのRNA抽出、cDNA合成及びqPCR
(1)上記(II)(5)で培養した培養細胞について、培地を除去した後、除去した培地と等量のPBSで1回洗浄した。氷上にて、1ウェルあたり350μLのBuffer RLTで懸濁し、細胞懸濁液を回収した。
(2)上記(1)で得た細胞懸濁液はQIAcube(QIAGEN #9001293)にてRNAを抽出した。溶出量は、1サンプル当たり30μLとした。
(3)SuperScript cDNA Synthesis kit(ライフテクノロジーズ #11754250)を用い、サーマルサイクラー(BIO RAD #T100)にて、メーカー推奨プロトコルにてcDNAを合成した。サンプルRNA(インボルクリン及びオクルーディンのRNA)の濃度は20-50ng/20μL、スタンダード用RNAの濃度は50-100ng/20μL使用した。
(4)リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems, QuantStudio5)にて、スタンダード法によりqPCRを行い、β-アクチン、インボルクリン及びオクルーディンのmRNA発現量を測定した。各サンプルは、イオン交換水:2.5μL、プライマー:0.5μL、SYBR Green:5μL,10-30倍希釈cDNAサンプル又は5-30倍希釈スタンダードcDNAサンプル:2μLで調製した。また、サイクル数は45-50とした。
プライマーは、下記表3に示すQuantiTect Primer Assay(QIAGEN #249900)を用いた。
【0099】
【表3】
【0100】
(5)インボルクリン又はオクルーディンのmRNAの発現量を、β-アクチンのmRNAの発現量で除算した。
上記測定は3回行い、3回の平均値を算出した。
結果を表4及び図4~6に示す。
【0101】
【表4】
【0102】
表4及び図4に示されるように、何れの遺伝子もノックダウンしてない群(siRNAとしてsi non-targetingを使用した群)と比較して、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした群(siRNAとしてsi GLUT1を使用した群)においては、GLUT1のmRNAの発現量が減少していた。
そして、GLUT1(SLC2A1)遺伝子をノックダウンした群においては、インボルクリンのmRNAの発現量及びオクルーディンのmRNAの発現量が、ノックダウンしていない群と比較して、減少していた(表4、図5及び図6)。
以上より、皮膚組織において、GLUT1の発現量が減少すると、インボルクリンの発現量及びオクルーディンの発現量が減少することが、明らかになった。
【0103】
上記結果から、GLUT1の発現量を指標として、インボルクリン又はオクルーディンの発現を促進する成分をスクリーニングすることができることが、明らかになった。
具体的には、上記試験例2、及び試験例3の方法で試験した場合に、GLUT1の発現を促進する成分を、インボルクリンの発現を促進する成分(インボルクリン発現促進成分)として、決定することができる。
また、本発明のインボルクリン発現促進方法は、例えば、試験例2、及び3でスクリーニングされた成分を有効成分として配合したインボルクリン発現促進剤を、肌に塗布する。
【0104】
また、上記試験例2、及び試験例3の方法で試験した場合に、GLUT1の発現を促進する成分を、オクルーディンの発現を促進する成分(オクルーディン発現促進成分)として、決定することができる。
また、本発明のオクルーディン発現促進方法は、例えば、試験例2、及び3でスクリーニングされた成分を有効成分として配合したオクルーディン発現促進剤を、肌に塗布する。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明は、皮膚組織においてGLUT1の発現量を増加させる成分をスクリーニングすることができる。
また、皮膚組織においてGLUT1の発現量を増加させる成分を有効成分として含む抗老化剤、及び、該抗老化剤を使用する抗老化方法を提供することができる。
【0106】
また本発明は、皮膚組織においてインボルクリン又はオクルーディンの発現量を増加させる成分をスクリーニングすることができる。
また、皮膚組織においてインボルクリンの発現量を増加させる成分を有効成分として含む、インボルクリン発現促進剤、及び、該インボルクリン発現促進剤を使用するインボルクリン発現促進方法を提供することができる。
また、皮膚組織においてオクルーディンの発現量を増加させる成分を有効成分として含む、オクルーディン発現促進剤、及び、該オクルーディン発現促進剤を使用するオクルーディン発現促進方法を提供することができる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6