(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス、及びそれを使用した紙基材又はプラスチック基材
(51)【国際特許分類】
C09D 4/02 20060101AFI20250212BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20250212BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20250212BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20250212BHJP
C09D 167/00 20060101ALI20250212BHJP
D21H 19/38 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C09D4/02
B65D65/40 D
C09D7/61
C09D7/63
C09D167/00
D21H19/38
(21)【出願番号】P 2021048409
(22)【出願日】2021-03-23
【審査請求日】2023-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】山田 智和
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅和
(72)【発明者】
【氏名】清野 嘉
(72)【発明者】
【氏名】清水 英樹
(72)【発明者】
【氏名】吉原 正樹
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-071254(JP,A)
【文献】国際公開第2013/094573(WO,A1)
【文献】特開2006-241290(JP,A)
【文献】特開平11-057603(JP,A)
【文献】特開2001-247793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 4/02
B65D 65/40
C09D 7/61
C09D 7/63
C09D 167/00
D21H 19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
活性エネルギー線硬化性化合物を主成分とする活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスであって、
前記活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスが光触媒を含有し、前記光触媒が、結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと2価銅化合物とを含有し、前記結晶性ルチル型酸化チタンが、Cu-Kα線による回折角度2θに対する回折線強度をプロットしたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークの半値全幅が0.65度以下の酸化チタンであり、前記酸化チタン中における前記結晶性ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上、アナターゼ型酸化チタンの含有量が50モル%未満である光触媒であり、ニス固形分全量に対し、前記光触媒を0.05~15質量%含有
し、
前記活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスがガラス転移温度250℃以上のポリエステル(メタ)アクリレートとガラス転移温度140~160℃のジアリルフタレート樹脂とを含有し、前記ガラス転移温度250℃以上のポリエステルアクリレートと前記ガラス転移温度140~160℃のジアリルフタレート樹脂との総質量が、前記活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス全量に対し10~70質量%であることを特徴とする活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス。
【請求項2】
光重合開始剤として、アルキルフェノン系光重合開始剤を含有する請求項
1に記載の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス。
【請求項3】
基材と、前記基材上に配置された請求項1
又は2に記載の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスの塗膜とを有することを特徴とする印刷物。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスを紙基材及びフィルムにコーティングした紙基材又はプラスチック基材。
【請求項5】
前記紙基材又はプラスチック基材が、印刷インキ層を更に有する請求項4に記載の紙基材又はプラスチック基材。
【請求項6】
請求項
4又は5に記載の紙基材又はプラスチック基材を使用した容器、包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性エネルギー線硬化性化合物を主成分とする活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスに関する。
【背景技術】
【0002】
印刷物の光沢向上や印刷物の皮膜保護の目的から、印刷の後にオーバープリントニス(オーバーコートニスともいう。以後OPニスと称する場合がある)が使用されている。具体的には、印刷インキ各色を印刷後に無色透明なOPニスを印刷する。OPニスとしては、有機溶剤を含有し乾燥させてニス皮膜を形成する溶剤型のOPニスの他、活性エネルギー線硬化性OPニスも知られている。(例えば特許文献1、2参照)
【0003】
一方近年、様々な基材表面への機能性付与が求められており、印刷物はもとより、プラスチック材料、成形品、紙基材、フィルム基材、包装材等の表面特性の改良が必要とされている。
特に近年では、光沢向上や皮膜保護といった物理的機能性の他、衛生的機能、例えば抗菌性、抗ウイルス性といった機能も所望され、特に新型インフルエンザやSARS(重症急性呼吸器症候群)、ノロウイルスなど、ウイルス感染対策として抗ウイルス性(ウイルス不活化性)対策は急務となっている。
【0004】
抗ウイルス性能を有するOPニス組成物としては、例えばOPニスにポリテトラフルオロエチレン粒子と抗菌剤を含有してなることを特徴とするOPニス組成物が知られている(例えば特許文献3参照)。しかしながら、抗菌性能や抗ウイルス性能を有する活性エネルギー線硬化性OPニスは、これまで知られてこなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-163293号公報
【文献】特開平07-196948号公報
【文献】特開平11-80643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、抗菌や抗ウイルス性能を有する活性エネルギー線硬化性オーバーコートニスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、光触媒をニス固形分に対し特定量含有する活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスを提供することで、課題を解決した。
【0008】
即ち本発明は、活性エネルギー線硬化性化合物を主成分とする活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスであって、前記活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスが光触媒を含有し、前記光触媒が、結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと2価銅化合物とを含有し、前記結晶性ルチル型酸化チタンが、Cu-Kα線による回折角度2θに対する回折線強度をプロットしたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークの半値全幅が0.65度以下の酸化チタンであり、前記酸化チタン中における前記結晶性ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上、アナターゼ型酸化チタンの含有量が50モル%未満である光触媒であり、ニス固形分全量に対し、前記光触媒を0.01~15質量%含有する活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスを提供する。
【0009】
また本発明は、基材と、前記基材上に配置された請求項1~3のいずれかに記載の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスの塗膜とを有する印刷物を提供する。
【0010】
また本発明は、前記記載の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスを紙基材及びフィルムにコーティングした紙基材又はプラスチック基材を提供する。
【0011】
また本発明は、前記紙基材又はプラスチック基材を使用した容器、包装材を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の活性エネルギー線硬化性オーバーコートニスは抗菌及び抗ウイルス性能を有するので、紙基材やフィルムにコーティングするのみで、紙基材又はプラスチック基材に抗菌性や抗ウイルス性を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス)
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスは、活性エネルギー線硬化性モノマー及び又はオリゴマー等の活性エネルギー線硬化性化合物を主成分とする。
【0014】
(エチレン性不飽和二重結合を有するモノマー)
本発明で使用する活性エネルギー線硬化性モノマー及び又はオリゴマーは、活性エネルギー線硬化性技術分野で使用されるモノマー及び又はオリゴマーであれば特に限定なく使用することができる。特に反応基として(メタ)アクリロイル基、ビニルエーテル基等を有するものが好ましい。また反応基数や分子量にも特に限定はなく、反応基数の多いものほど反応性は高いが粘度や結晶性が高くなる傾向にあり、また分子量が高いものほど粘度が高くなる傾向にあることから、所望の物性に応じて適宜組み合わせて使用することができる。例えばUV-LEDのような低エネルギー照射で好適に硬化させるという点では、より反応性の高い3官能以上の活性エネルギー線硬化性モノマーを組み合わせ、用途に応じて印刷基材への接着性、皮膜の柔軟性等の必要物性を得る為に、適宜単官能、2官能のモノマーを単独もしくは併用することが好ましい。
【0015】
単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシー3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ノニルフェノキシエチルテトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0016】
2官能以上の(メタ)アクリレートとしては、例えば、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、2-メチル-1,8-オクタンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチルー2-エチルー1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート等の2価アルコールのジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートのジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに2モルのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのポリ(メタ)アクリレート等の3価以上の多価アルコールのポリ(メタ)アクリレート、グリセリン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン1モルに3モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たトリオールのジ又はトリ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA1モルに4モル以上のエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイドを付加して得たジオールのジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレンポリオールのポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0017】
重合性オリゴマーとしては、アミン変性ポリエーテル(メタ)アクリレート、アミン変性エポキシ(メタ)アクリレート、アミン変性脂肪族アクリレート、アミン変性ポリエステル(メタ)アクリレート、アミノ(メタ)アクリレートなどのアミン変性(メタ)アクリレート、チオール変性ポリエステル(メタ)アクリレート、チオール(メタ)アクリレートなどのチオール変性(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオレフィン(メタ)アクリレート、ポリスチレン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0018】
また前記活性エネルギー線硬化性モノマー及び又はオリゴマーとして、4官能以上の(メタ)アクリレートは、上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙への印刷用途において、硬化性や強度の向上に大きく寄与するため使用することが好ましく、ニス固形分全量に対し15~70質量%の範囲で使用することが好ましい。一方、プラスチックへの印刷用途においては、硬化塗膜の架橋密度が上昇するに従って、基材と硬化塗膜との密着性が減少するため、4官能以上の(メタ)アクリレートの含有量を適宜減少させる必要がある。この場合、4官能以上の(メタ)アクリレートはインキ固形分全量に対し0~50質量%の範囲で使用することが好ましい。
【0019】
本発明の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスは、その他、樹脂や顔料、各種添加剤を使用することができる。
【0020】
(樹脂)
樹脂としては、公知公用の各種バインダー樹脂を利用することができる。ここで述べるバインダー樹脂とは、適切な顔料親和性と分散性を有し、印刷インキに要求されるレオロジー特性を有する樹脂全般を示しており、例えば非反応性樹脂としては、ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、石油樹脂、ロジンエステル樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、セルロース誘導体、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリアマイド樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ブタジエン-アクリルニトリル共重合体等を挙げることができ、また分子中に少なくとも1つ以上の重合性基を有するエポキシ(メタ)アクリレート化合物、ウレタン(メタ)アクリレート化合物、ポリエステル(メタ)アクリレート化合物等を使用することもでき、これらバインダー樹脂は、単独で使用しても、いずれか1種以上を組合せて使用してもよい。
【0021】
本発明においては、ポリエステル(メタ)アクリレートとジアリルフタレート樹脂とを併用することが好ましい。
ポリエステル(メタ)アクリレートは、ガラス転移温度が200℃以上のポリエステル(メタ)アクリレートであることが好ましい。中でもガラス転移温度が250℃以上であることが好ましい。
またポリエステル(メタ)アクリレートは、活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス全量に対して5~40質量%含有することが好ましく、より好ましくは10~35質量%である。
【0022】
ジアリルフタレート樹脂は、ガラス転移温度140℃~160℃のジアリルフタレート樹脂であることが好ましく、150℃~160℃であることがなお好ましい。また活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス全量に対して5~30質量%含有することが好ましい。
【0023】
中でも、ポリエステル(メタ)アクリレートを活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス全量に対して10~35質量%含有し、且つジアリルフタレート樹脂を活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス全量に対して5~20質量%含有することが好ましい。
【0024】
また、ガラス転移温度250℃以上のポリエステル(メタ)アクリレートとガラス転移温度140~160℃のジアリルフタレート樹脂との両方を含有することが好ましい。その場合は、前記ガラス転移温度250℃以上のポリエステルアクリレートと前記ガラス転移温度140~160℃のジアリルフタレート樹脂との総質量が、前記活性エネルギー線硬化性オーバープリントニス全量に対し10~70質量%であることが好ましい。
【0025】
(光重合開始剤)
本発明で使用する光重合開始剤は、特に限定なく公知の光重合開始剤を使用できる。例えば、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(1173)、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(2959)、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン(127)、2-ヒドロキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロパノイル)フェノキシ]フェニル]-2-メチルプロパン-1-オン等のアルキルフェノン系光重合開始剤、
【0026】
フェニル グリオキシリック アシッド メチル エステル、オキシフェニル酢酸、2-[2-オキソ-2-フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2-(2-ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)-,2-(O-ベンゾイルオキシム)]、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(0-アセチルオキシム)、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタノン-1、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-ピペリジノフェニル)-ブタン-1-オン、1-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-2-メチル-2-モルフォリノプロパン-1-オン、1-(4-メトキシフェニル)-2-メチル― 2 ― (4-モルフォリニル―1-プロパノンなどの化合物が挙げられる。
【0027】
また、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、エチル-(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィネート等のアシルフォスフィンオキサイド化合物が挙げられる。
【0028】
また、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、2-クロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9Hチオキサントン-2-イロキシ-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミン塩酸塩等のチオキサントン化合物が挙げられる。
【0029】
また、4,4´-ビス-(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4´-ビス-(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等の4,4’-ジアルキルアミノベンゾフェノン類、4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド等のベンゾフェノン化合物が挙げられる。
【0030】
それ以外には、例えばベンゾフェノン、4-メチル-ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、2,3,4-トリメチルベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、3,3‘-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4-(1,3-アクリロイル-1,4,7,10,13-ペンタオキソトリデシル)ベンゾフェノン、メチル-o-ベンゾイルベンゾエート、〔4-(メチルフェニルチオ)フェニル〕フェニルメタノン、ジエトキシアセトフェノン、ジブトキシアセトフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインノルマルブチルエーテルなどが挙げられる。
【0031】
本発明においては、前記汎用の光重合開始剤は、1種でも数種併用して使用してもよい。
【0032】
〔増感剤・光開始助剤〕
本発明においては、前記の汎用光重合開始剤の他に、光増感剤や三級アミン等の光開始助剤を併用しても良く、好ましい。光増感剤としては、特に限定されないが、チオキサントン系、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン等のベンゾフェノン系、アントラキノン系、クマリン系などが挙げられる。
【0033】
増感剤や光開始助剤を併用する場合は、インキ固形分全量に対し0.05~10質量%が好ましく、0.1~7.0質量%の範囲がより好ましい。0.05質量%未満の場合は、十分な硬化性の向上効果が得られず、10質量%を超える場合は、硬化塗膜の色相が許容できないくらい黄味に変色したり、増感剤が析出したり、インキの流動性が著しく低下したりする。
【0034】
一方、三級アミンとしては、特に限定されないが、p-ジメチルアミノ安息香酸エチル、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、トリエチルアミンおよびN,N-ジメチルヘキシルアミン、2-エチルヘキシル-4-(ジメチルアミノ)ベンゾエイト、2-ブトキシエチル-4-(ジメチルアミノ)ベンゾエイト等が挙げられ、酸素による重合阻害を低減させたり、紫外線により活性化されたチオキサントン類、4,4’-ジアルキルアミノベンゾフェノン類と反応し、活性ラジカル供与体となり、インキの硬化性能を向上させたり、光重合開始剤の溶解性を向上させたりする。三級アミンは本発明の活性エネルギー線硬化型インキの印刷性能を損なわない範囲で併用することが好ましく、インキ固形分全量に対し0.1~10質量%が好ましく、0.1~5.0質量%の範囲で使用することがより好ましい。
【0035】
また高い衛生性を求められる用途においては、1分子内に複数の光増感剤や三級アミンを多価アルコール等で分岐させた高分子量化合物も適宜使用することができる。
【0036】
(光触媒)
本発明で使用する光触媒は、結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと2価銅化合物とを含有する光触媒であって、前記結晶性ルチル型酸化チタンが、Cu-Kα線による回折角度2θに対する回折線強度をプロットしたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークの半値全幅が0.65度以下の酸化チタンであり、前記酸化チタン中における前記結晶性ルチル型酸化チタンの含有量が50モル%以上、アナターゼ型酸化チタンの含有量が50モル%未満である光触媒である。
【0037】
ルチル型でありかつ結晶性の高い結晶性ルチル型酸化チタンと2価銅化合物とを組み合せて用いることにより、明所及び暗所における抗ウイルス性、明所における有機化合物分解性に優れる光触媒(可視光領域で抗ウイルス性等の光触媒活性を有する可視光応答型光触媒)を得ることができる。また、2価銅化合物は1価銅化合物のように酸化による変色のおそれが少ないため、経時的な変色も抑制することができる。
【0038】
なお、本発明において、「明所」とは、可視光の存在する箇所のことをいい、「暗所」とは、光の存在しない箇所のことをいう。
【0039】
ここで、光触媒活性とは、光誘起分解性及び光誘起親水化性から選ばれる少なくとも1種を意味する。光誘起分解性とは、酸化チタンで処理された表面に吸着している有機物を酸化分解する作用であり、光誘起親水化性とは、酸化チタンで処理された表面が水となじみ易い親水性になる作用である。この光誘起親水化性は、光励起によって生成し、拡散してきた正孔により、酸化チタン表面の水酸基が増加することによって起こると考えられる。
【0040】
また、ウイルスとは、DNAウイルス及びRNAウイルスを意昧するが、細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージ(以下、「ファージ」と略記することもある)も包含する。
【0041】
次に、光触媒の各成分について説明する。
(酸化チタン)
光触媒に用いる酸化チタンは、結晶性ルチル型酸化チタンを含むものである。
【0042】
本発明において、結晶性ルチル型酸化チタンとは、Cu-Kα線による回折角度2θに対する回折線強度をプロットしたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークの半値全幅が0.65度以下の酸化チタンのことを意味する。
【0043】
半値全幅が0.65度よりも大きいと、結晶性が悪くなり、暗所における抗ウイルス性が十分に発現しなくなる。この観点から、半値全幅は、好ましくは0.6度以下であり、より好ましくは0.5度以下であり、更に好ましくは0.4度以下であり、より更に好ましくは0.35度である。
【0044】
酸化チタン中における、結晶性ルチル型酸化チタンの含有量(以下、「ルチル化率」ということがある)は、50モル%以上である。含有量が50モル%以上であると、得られる光触媒の、明所及び暗所における抗ウイルス性が十分なものとなり、また、明所における有機化合物分解性や、特に可視光応答性も十分なものとなる。この観点から、ルチル化率は、好ましくは90モル%以上であり、さらに好ましくは94モル%以上である。このルチル化率は、後述するとおり、XRDによって測定した値である。
【0045】
上記観点から、酸化チタン中におけるアナターゼ型酸化チタンの含有量(以下、「アナターゼ化率」ということがある)は少ないことが好ましく、アナターゼ化率は、50モル%未満であり、好ましくは10モル%未満であり、より好ましくは7モル%未満であり、更に好ましくは0モル%(すなわち、アナターゼ型酸化チタンを含まない)である。このアナターゼ化率もルチル化率と同様に、XRDによって測定した値である。
【0046】
酸化チタンの比表面積は、好ましくは1~200m2/gである。1m2/g以上であると、比表面積が大きいためウイルス、菌及び有機化合物との接触頻度が大きくなり、得られる光触媒の、明所及び暗所における抗ウイルス性や、有機化合物分解性及び抗菌性が優れる。一方、200m2/g以下であると、取扱性に優れている。これらの観点から、酸化チタンの比表面積は、より好ましくは3~100m2/gであり、更に好ましくは4~70m2/gであり、特に好ましくは8~50m2/gである。ここで比表面積とは、窒素吸着によるBET法にて測定した値である。
【0047】
酸化チタンには、気相法で製造されたものと液相法で製造されたものがあり、そのいずれを用いることもできるが、気相法で製造された酸化チタンがより好適である。
【0048】
気相法は、四塩化チタンを原料として、酸素との気相反応により酸化チタンを得る方法である。気相法で得られた酸化チタンは、粒子径が均一であると同時に、製造時に高温プロセスを経由しているため、結晶性が高いものとなる。その結果、得られる光触媒の、明所及び暗所における抗ウイルス性や、有機化合物分解性及び抗菌性が良好なものとなる。
【0049】
一方、液相法は、塩化チタン、硫酸チタニルなどの酸化チタン原料を溶解した液を、加水分解または中和して酸化チタンを得る方法である。液相法で製造された酸化チタンは、ルチルの結晶性が低く比表面積が大きくなる傾向にあり、この場合、焼成等を行って最適な結晶性及び比表面積を有する酸化チタンにすればよいが、手間がかかるため、気相法の方がより好適である。
【0050】
酸化チタンとしては、市販されている酸化チタンをそのまま使用するほうが、触媒調製の工程を考えると有利である。
【0051】
(2価銅化合物)
光触媒は、2価銅化合物を含む。この2価銅化合物単独では、明所及び暗所における抗ウイルス性、明所における有機化合物分解性、可視光応答性を有しないが、前述した結晶性ルチル型酸化チタンと組み合わせることにより、明所及び暗所における抗ウイルス性、明所における有機化合物分解性、及び可視光応答性が十分に発現する。また、この2価銅化合物は、1価銅化合物と比べて酸化等による変色が少ないため、この2価銅化合物を用いた光触媒は、変色が抑制される。
【0052】
2価銅化合物には、特に限定はなく、2価銅無機化合物及び2価銅有機化合物の1種又は2種が挙げられる。
【0053】
2価銅無機化合物としては、硫酸銅、硝酸銅、沃素酸銅、過塩素酸銅、シュウ酸銅、四ホウ酸銅、硫酸アンモニウム銅、アミド硫酸銅及び塩化アンモニウム銅、ピロリン酸銅、炭酸銅からなる2価銅の無機酸塩、塩化銅、フッ化銅及び臭化銅からなる2価銅のハロゲン化物、並びに酸化銅、硫化銅、アズライト、マラカイト及びアジ化銅からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0054】
2価銅有機化合物としては、2価銅のカルボン酸塩が挙げられる。この2価銅のカルボン酸塩としては、蟻酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ミスチン酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、乳酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、イソフタル酸銅、テレフタル酸銅、サリチル酸銅、メリト酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、グルタル酸銅、アジピン酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、グリセリン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、イソ吉草酸銅、βーレゾルシル酸銅、ジアセト酢酸銅、ホルミルコハク酸銅、サリチルアミン酸銅、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅、セバシン酸銅及びナフテン酸銅からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。その他の2価銅有機化合物としては、オキシン銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、フタロシアニン銅、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅メトキシド、及びジメチルジチオカルバミン酸銅からなる群から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0055】
上記2価銅化合物のうち、好ましくは酸化銅、2価銅のハロゲン化物、2価銅の無機酸塩及び2価銅のカルボン酸塩の1種又は2種以上であり、例えば2価銅のハロゲン化物、2価銅の無機酸塩及び2価銅のカルボン酸塩の1種又は2種以上である。
【0056】
また、2価銅化合物としては、下記一般式(1)で表される2価銅化合物が挙げられる。
Cu2(OH)3X (1)
一般式(1)において、Xは陰イオンであり、好ましくはCl、Br、I等のハロゲン、CH3COO等のカルボン酸の共役塩基、NO3、(SO4)1/2等の無機酸の共役塩基、又はOHである。
【0057】
これらの2価銅化合物のうち、より不純物が少なく、経済的な観点から、2価銅無機化合物がより好ましく、酸化銅が更に好ましい。また、上記一般式(1)で表される2価銅化合物も好ましい。2価銅化合物は、無水物であっても水和物であってもよい。
【0058】
2価銅化合物の銅換算含有量は、前記酸化チタン100質量部に対して、好ましくは0.01~20質量部である。0.01質量部以上であると、明所及び暗所における抗ウイルス性、有機化合物分解性及び抗菌性が良好なものとなる。また、20質量部以下であると、酸化チタン表面が被覆されてしまうことが防止されて光触媒としての機能(有機化合物分解性、抗菌性等)が良好に発現すると共に、少量で抗ウイルス性能を向上することができて経済的である。この観点から、2価銅化合物の銅換算含有量は、酸化チタン100質量部に対して、より好ましくは0.1~20質量部であり、更に好ましくは0.1~15質量部であり、より更に好ましくは0.3~10質量部である。
【0059】
ここで、この酸化チタン100質量部に対する2価銅化合物の銅換算含有量は、2価銅化合物の原料と酸化チタンの原料との仕込み量から算出することができる。また、この銅換算含有量は、後述するICP(誘導結合プラズマ)発光分光分析により光触媒を測定することで特定することもできる。
【0060】
光触媒は、前述のとおり、必須成分として、結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと2価銅化合物とを含有するが、本発明の目的を阻害しない範囲内において、他の任意成分を含有していてもよい。ただし、光触媒としての機能及び抗ウイルス性能の向上の観点から、光触媒中における当該必須成分の含有量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上であり、更に好ましくは100質量%である。
【0061】
光触媒は、結晶性ルチル型酸化チタンを含む酸化チタンと、2価銅化合物原料とを混合する混合工程を実施することにより、製造することができる。また、この混合工程によって得られた混合物を熱処理する熱処理工程を更に実施して、光触媒を得てもよい。また、銅化合物の水溶液中に酸化チタンを懸濁させて、吸着させることによって、光触媒を得ることもできる。具体的には、光触媒は、特許第5343176号公報に記載の方法により製造できる。
【0062】
光触媒の一次粒子径は概ね200~400nmの範囲、2次粒子径は概ね3~10μ程度であると、コーティング剤に分散でき且つ抗ウイルス性等の光触媒活性に優れることから好ましい。
なお1次粒子径の測定方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で測定した値である。
【0063】
光触媒は、オーバープリントニス本来の透明性,硬化性、印刷適性、光沢といった各種性能を損なわない範囲で、抗ウイルス性等の光触媒活性を発現するために、本発明の紙基材用又はプラスチック基材用コーティング剤固形分全量に対し、0.05質量%以上、15質量%以下の範囲で含有することが好ましい。更に、オーバープリントニスに高い透明性が求められる場合は、0.05質量%以上5質量%以下の範囲で含有することが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下含有することが更に好ましい。0.05質量%を下回る範囲では、所望する抗ウイルス性、抗菌性が得られず、一方、15質量%を超える範囲では、ニスの下部の画像が不鮮明となり、著しく美粧性を損なう。また、酸化チタンが紫外線照射装置より照射された紫外線を著しく反射するため、硬化性能の低下が顕著となる。更に、オーバープリントニス中に高比重の酸化チタン粒子が増加した影響から、本来持っているオーバープリントニスのレオロジー性が著しく崩れ、オフセット印刷適性を悪化させる。
【0064】
活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスに、前記本発明で使用する光触媒を混合する方法は、前記オーバープリントニスに使用される前記モノマー、オリゴマー、樹脂溶解液、各種添加剤などで構成させる液中に、粉体である光重合開始剤、体質顔料及び前記光触媒を混合し公知公用の分散攪拌機で予備分散した後、三本ロール、ビーズミル等の練肉分散機を使用してオフセット印刷に適した粒子径になるまで、練肉分散して製造することもできるし、モノマー、オリゴマー、樹脂溶液で構成されるバインダー成分に前記光触媒を高濃度で配合し、オフセット印刷に適した粒子径になるまで練肉した高濃度光触媒ベースをあらかじめ製造しておき、別工程で製造された光触媒の含まれていないオーバープリントニス中に前記の高濃度光触媒ベースを所望する濃度になるように配合し、公知公用の分散攪拌機で、混合して、光触媒を含む活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスを製造することもできる。
【0065】
(その他添加剤)
その他の添加剤としては、例えば耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性、スリキズ防止性を付与する添加剤としては、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス、フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、およびシリコーン化合物などの合成ワックス等を例示することができる。
【0066】
また例えば、インキの保存安定性を付与する添加剤としては、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p -メトキシフェノール、t -ブチルカテコール、t -ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p -ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-tert-ブチル-p -ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p -ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等の重合禁止剤が例示される。
【0067】
その他、要求性能に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗菌剤等の添加剤を添加することができる。
【0068】
本発明の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスは、無溶剤で使用することもできるし、必要に応じて適当な溶媒を使用する事も可能である。溶媒としては、上記各成分と反応しないものであれば特に限定されるものではなく、単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0069】
本発明の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスの製造は、従来と同様の方法によって行えばよく、例えば、常温から100℃の間で、前記樹脂、アクリル系モノマーもしくはオリゴマー、重合禁止剤、開始剤およびアミン化合物等の増感剤、本発明で使用する光触媒その他添加剤などの原料を、ニーダー、三本ロール、アトライター、サンドミル、ゲートミキサーなどの練肉、混合、調整機を用いて製造される。
【0070】
(印刷物)
本発明の印刷物は、基材上に直接、あるいは印刷インキ組成物を用いて平版オフセット印刷機により印刷した印刷物上に、上述したオーバープリントワニス組成物を塗工して得られる。オーバープリントワニス組成物は、印刷物の全面に塗工されていてもよいし、一部のみに塗工されていてもよい。塗工量はオーバープリントワニス組成物を塗工する目的により適宜調整すればよいが、一例として乾燥後のオーバープリントワニス組成物の塗膜の膜厚が0.5μm~1.5μm程度となるよう調整する。
【0071】
塗工方法としては、平版オフセット印刷機にコーティング装置を組み込むなどし、印刷インキ組成物を用いた印刷に引き続いてオーバープリントワニス組成物を塗工する、いわゆるインライン方式であってもよいし、平版オフセット印刷機による印刷後に、グラビア方式やフレキソ方式のコーティング装置を備えたコーター機によって塗工する、いわゆるオフライン方式であってもよい。
【0072】
(紙基材)
基材としては特に制限はなく、従来公知のものを用いることができるが、特にコート紙、マットコート紙、上質紙等の紙基材への印刷に適している。また裏打ち紙、含浸紙、ボール紙や板紙などを用いることもできる。
【0073】
(プラスチック基材)
また、プラスチック基材に塗工してもよい。プラスチック基材は、プラスチック材料、成形品、フィルム基材、包装材等の基材に使用される基材であればよい。具体的には例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(以下PETと称する場合がある)、ポリエチレンナフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリトリメチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、ポリ乳酸等のポリヒドロキシカルボン酸、ポリ(エチレンサクシネート)、ポリ(ブチレンサクシネート)等の脂肪族ポリエステル系樹脂などの生分解性樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアリレート樹脂又はそれらの混合物等の熱可塑性樹脂よりなるフィルムやこれらの積層体が挙げられるが、中でも、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレンからなるフィルムが好適に使用できる。これらの基材フィルムは、未延伸フィルムでも延伸フィルムでもよく、その製法も限定されるものではない。また、基材フィルムの厚さも特に限定されるものではないが、通常は1~500μmの範囲であればよい。また基材フィルムにはコロナ放電処理がされていることが好ましく、アルミ、シリカ、アルミナ等が蒸着されていてもよい。 また基材は、前記紙基材やフィルム基材をドライラミネート法や無溶剤ラミネート法、あるいは押出ラミネート法により積層させた積層構造を有する積層体(積層フィルムと称される場合もある)であっても構わない。
【0074】
前記紙基材又はプラスチック基材は、印刷インキ層を更に有していてもよい。印刷インキ層に使用される印刷インキには特に限定はなく、オフセット平版インキ、グラビア印刷インキ、フレキソ印刷インキ、インクジェット印刷インキ等の印刷層上に塗工が可能である。特に前述の通り、オフセット印刷インキ組成物を用いて平版オフセット印刷機により印刷した印刷物上に塗工する方法が、工業的に好ましい。
【0075】
(容器、包装材)
前記単層の紙基材あるいはフィルム基材、積層構造を有する積層体は、業界や使用方法等により、機能性フィルム、軟包装フィルム、シュリンクフィルム、生活用品包装用フィルム、医薬品包装用フィルム、食品包装用フィルム、カートン、ポスター、チラシ、CDジャケット、ダイレクトメール、パンフレット、化粧品や飲料、医薬品、おもちゃ、機器等のパッケージ等に用いられる上質紙、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙等の紙、各種合成紙等様々な表現がなされているが、本発明のオーバープリントニスは特に限定なく使用することができる。また本発明のオーバープリントニスを塗工後のこれら基材は、成形し容器や包装材となるが、この際本発明のオーバープリントニスは、これらを使用した容器や包装材とした際に最表層となる面に塗工されることが好ましい。
【0076】
以下に、本発明の内容及び効果を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0077】
<光触媒の調製>
まず、使用する酸化チタン原料(昭和電工セラミックス株式会社製)について、次のとおり性状を測定した。
【0078】
(BET比表面積)
酸化チタン原料のBET比表面積は、株式会社マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置「Macsorb,HM model-1208」を用いて測定した。
(酸化チタン原料中のルチル含有量(ルチル化率)及び結晶性(半値全幅))
酸化チタン原料中におけるルチル型酸化チタンの含有量(ルチル化率)及び結晶性(半値全幅)は、粉末X線回折法により測定した。
【0079】
すなわち、乾燥させた酸化チタン原料について、測定装置としてPANalytical社製「X’pertPRO」を用い、銅ターゲットを用い、Cu-Kα1線を用いて、管電圧45kV、管電流40mA、測定範囲2θ=20~100deg、サンプリング幅0.0167deg、走査速度3.3deg/minの条件でX線回折測定を行った。
【0080】
ルチル型結晶に対応するピーク高さ(Hr)、ブルッカイト型結晶に対応するピーク高さ(Hb)、及びアナターゼ型結晶に対応するピーク高さ(Ha)を求め、以下の計算式により、酸化チタン中におけるルチル型酸化チタンの含有量(ルチル化率)を求めた。
【0081】
ルチル化率(モル%)={Hr/(Ha+Hb+Hr)}×100
また、酸化チタン中における、アナターゼ型酸化チタンの含有量(アナターゼ化率)及びブルッカイト型酸化チタンの含有量(ブルッカイト化率)を、それぞれ以下の計算式により求めた。
【0082】
アナターゼ化率(モル%)={Ha/(Ha+Hb+Hr)}×100
ブルッカイト化率(モル%)={Hb/(Ha+Hb+Hr)}×100
上記X線回折測定によって得られたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークを選択し、半値全幅を測定した。
【0083】
(一次粒子径)
平均1次粒子径(DBET)(nm)は、BET1点法により、酸化チタンの比表面積S(m2/g)を測定し、下式
DBET=6000/(S×ρ)
より算出した。ここでρは酸化チタンの密度(g/cm3)を示す。
【0084】
使用した酸化チタン原料の測定結果を表1に示す。
【0085】
【0086】
(製造例1)
蒸留水100mLに6g(100質量部)の酸化チタン原料(昭和電工セラミックス株式会社製)を懸濁させ、0.0805g(銅換算で0.5質量部)のCuCl2・2H2O(関東化学株式会社製)を添加して、10分攪拌した。pHが10になるように、1mol/Lの水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)水溶液を添加し、30分間攪拌混合を行ってスラリーを得た。このスラリーをろ過し、得られた粉体を純水で洗浄し、80℃で乾燥し、ミキサーで解砕し、試料(光触媒)を得た。
【0087】
得られた試料(光触媒)をフッ酸溶液中で加熱して全溶解し、抽出液をICP発光分光分析により定量した。その結果、酸化チタン100質量部に対して、銅イオンが0.5質量部であった。すなわち、仕込みの銅イオン(CuCl2・2H2O由来)の全量が酸化チタン表面に担持されていた。
【0088】
製造例1により得られた試料(光触媒)を以下の方法により分析した。
【0089】
(ルチル型酸化チタンの含有量(ルチル化率)及び結晶性(半値全幅))
製造例1により得られた試料(光触媒)について、酸化チタン中におけるルチル型酸化チタンの含有量(ルチル化率)及び結晶性(半値全幅)を、粉末X線回折法により測定した。
【0090】
すなわち、乾燥させた光触媒を、乳鉢で擦り潰した粉末を試料とした。この試料について、測定装置としてPANalytical社製「X’pertPRO」を用い、銅ターゲットを用い、Cu-Kα1線を用いて、管電圧45kV、管電流40mA、測定範囲2θ=20~100deg、サンプリング幅0.0167deg、走査速度3.3deg/minの条件でX線回折測定を行った。
【0091】
ルチル型結晶に対応するピーク高さ(Hr)、ブルッカイト型結晶に対応するピーク高さ(Hb)、及びアナターゼ型結晶に対応するピーク高さ(Ha)を求め、以下の計算式により、酸化チタン中におけるルチル型酸化チタンの含有量(ルチル化率)を求めた。
【0092】
ルチル化率(モル%)={Hr/(Ha+Hb+Hr)}×100
上記X線回折測定によって得られたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークを選択し、半値全幅を測定した。
【0093】
(2価銅化合物の同定)
製造例1により得られた試料(光触媒)中に存在する2価銅化合物を、上記の測定装置及び測定条件にて、X線回折測定で同定した。結果を表2に示した。
【0094】
【0095】
[ジアリルフタレート樹脂溶解液の製造]
金属製の容器中に、MIWON製Miramer M-600 67.6質量%を入れ、攪拌しながら80℃になるまで加温した。80℃に到達した後、あらかじめ粉砕しておいたダイソーDAP-A32.4質量%を徐々に攪拌しながら加えた。前記樹脂を加え終わったのち、空気を吹き込みながら110℃になるまで昇温し、その状態で1時間攪拌を続けて前記樹脂を完全に溶解させた。
表1中では、ジアリルフタレート樹脂の配合量を明確にするため、分解した組成を記載した。
【0096】
[活性エネルギー線オーバープリントニスの製造]
表3の組成に従って、実施例1~8及び比較例1、2のインキを3本ロールミルにて練肉することによって、各種のインキ組成物を得た。尚、表中の空欄は、未配合を意味している。
【0097】
[抗菌性の評価方法]
簡易展色機(RIテスター、豊栄精工社製)を用い、前記で製造した実施例1~8、比較例1、2のインキ0.10mlをRIテスターのゴムロール及び金属ロール上に均一に引き伸ばし、PET原反(東レ製 ルミラーフィルムT60 #250)上、約220cm2の面積範囲にわたって均一に塗布されるように塗工した。この塗工物を水冷式UV-LED(中心発光波長385nm±5nmUV-LEDの出力100%)およびベルトコンベアを搭載したUV照射装置(アイグラフィックス社製)を使用し、展色物をコンベア上に載せ、コンベアスピード100m/minの速度で、LED直下(照射距離9cm)を通過させた。前記の方法で得られた光硬化性インキ塗布後の展色物に紫外線(UV)照射を行い、インキ皮膜を硬化乾燥させた。前記で得られた硬化したオーバープリントニスの塗工面に菌液を滴下して35℃湿度90%で24時間後の生菌数を測定した。
接種菌数に対して1000分の1以下の場合は○、100分の1以下の場合は△、それ以外は×とした。菌種は黄色ぶどう球菌と大腸菌の2種類について評価を行った。
【0098】
[抗ウイルス性の評価方法]
前記の抗菌性の評価方法で記載した方法で、実施例1~8及び比較例1、2に記載の活性エネルギー線オーバープリントニスの硬化物を作成した。その後、硬化したオーバープリントニスの塗工面にウイルス液を滴下して25℃で24時間後のウイルス数を測定する。
接種ウイルス数に対して1000分の1以下の場合は○、100分の1以下の場合は△、それ以外は×とした。
ウイルス種はA型インフルエンザウイルスとネコカリシウイルスの2種類について評価を行った。
【0099】
[オフセット印刷適性の確認方法]
印刷膜厚を色濃度で管理するため、あらかじめ、実施例1~8、比較例1、2に記載の組成のインキ95質量%に、DICグラフィックス製のDC HRL SP-LK2 藍 S 5質量%を3本ロールミルで混合し、藍色でトーニングをした。
紫外線照射装置としてアイグラフィックス社製水冷メタルハライドランプ(出力160W/cm、3灯使用)を搭載した小森コーポレーション社製リスロンG40を用いて、
毎時10,000枚の印刷速度にてオフセット印刷を実施した。印刷用紙には王子製紙社製OKトップコートプラス(57.5kg、A判)を使用した。
版面に供給される湿し水は、水道水97.5重量%とエッチ液(プレサート SU、DICグラフィックス製)2.5重量%を混合した水溶液を用いた。
次いで、ベタ部の藍濃度を0.25(X-Rite社製SpectroEye濃度計で計測)となるようインキ供給キーを操作し、濃度が安定した時点でインキ供給キーを固定した。
上記藍濃度の時の各インキ組成の塗布量を計測したところ1 g/m2であった。
上記の条件で、3000枚印刷した後、オフセット印刷機中の圧銅における非給紙部の乳化インキの堆積程度を下記の基準で確認し、オフセット印刷適性を評価した。
○圧胴の非給紙部全体に乳化インキの付着が全く見られなかった。
△圧胴の非給紙部の50%未満の面積に乳化インキの付着が見られた。
×圧胴の非給紙部の50%以上の面積に乳化インキの付着が見られた。
【0100】
[硬化性の評価方法]
硬化性は、上記方法でオフセット印刷を行った3000枚目の印刷物を用いて、印刷物中のベタ部表面を、爪スクラッチ法にて傷付きの程度を以下の様に評価した。
○:爪スクラッチで傷がまったく発生せず、硬化性は最良である。
△:爪スクラッチで傷が見られるが、使用できるレベルである。
×:爪スクラッチで簡単に傷が発生し、硬化性が最も悪い。
【0101】
[60°光沢]の測定方法
光沢は、上記方法でオフセット印刷を行った3000枚目の印刷物を用いて、コニカミノルタ製GM-268plusを使用し、以下の基準で評価した。
○:30以上
△:25以上30未満
×:25未満
【0102】
本発明の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスの組成と評価結果を表3、表4に示す。なお空欄は未配合を表す。また表3、表4に記載の原材料の詳細は、表5に記載した。
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
以上の結果、実施例の活性エネルギー線硬化性オーバープリントニスは、抗菌性及び抗ウイルス活性に優れていることが明らかである。