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  • 特許-ゴム組成物及びその利用物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ゴム組成物及びその利用物
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/40 20060101AFI20250212BHJP
   H01B 3/28 20060101ALI20250212BHJP
   H02N 11/00 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08G18/40 009
H01B3/28
H02N11/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021050819
(22)【出願日】2021-03-24
(65)【公開番号】P2022148938
(43)【公開日】2022-10-06
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】505136963
【氏名又は名称】株式会社ASM
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】中井 孝憲
(72)【発明者】
【氏名】玉井 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】竹内 宏充
(72)【発明者】
【氏名】石田 真
(72)【発明者】
【氏名】今井 英幸
(72)【発明者】
【氏名】井上 勝成
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/108411(WO,A1)
【文献】特開2017-152519(JP,A)
【文献】特開平08-335726(JP,A)
【文献】特開2001-294642(JP,A)
【文献】特開2010-233429(JP,A)
【文献】特開2014-034621(JP,A)
【文献】特開2020-162284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0083404(US,A1)
【文献】特開2019-001990(JP,A)
【文献】国際公開第2010/024431(WO,A1)
【文献】特開2015-203037(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031686(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G18/00-18/87
H01B 3/28
H02N11/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基を有するジエン系ゴムと、環状分子が炭化水素修飾されたシクロデキストリンであるポリロタキサンとが、架橋剤としてのイソシアネートによりウレタン架橋してなるゴム組成物。
【請求項2】
請求項1記載のゴム組成物からなる誘電体シート。
【請求項3】
温度60℃、相対湿度90%の環境下に1時間おいた後の誘電体シートの絶縁破壊電圧(常温常湿)が72V/μm以上である請求項2記載の誘電体シート。
【請求項4】
請求項2又は3記載の誘電体シートが用いられたアクチュエータ。
【請求項5】
請求項2又は3記載の誘電体シートが用いられたセンサー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリロタキサンを含むゴム組成物及びそれを用いた誘電体シート、センサー、アクチュエータ等の利用物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリロタキサンは、環状分子に直鎖状分子が相対スライド可能に貫通し、直鎖状分子の両末端に配された封鎖基により環状分子が脱離しない構造の分子集合体であり、スライドリングマテリアルと称されている。環状分子と直鎖状分子はそれぞれ種々のものが知られているが、環状分子としてシクロデキストリン、直鎖状分子としてポリエチレングリコールが用いられることが多い(特許文献1,2)。
【0003】
そして、ポリロタキサンを架橋させた架橋ポリロタキサンは、誘電率が高いことと、粘弾性等のユニークな力学的特性から、アクチュエータ等の材料として期待されている(特許文献3)。
【0004】
しかし、アクチュエータは高電圧条件下で使用するため、誘電層の材料中に誘電率の異なる気泡や水分子が混入していると、絶縁性能が低下しやすい。特に、シクロデキストリンとポリエチレングリコールは吸水性が高いため、それらを含む架橋ポリロタキサンを用いて誘電層を形成すると耐湿性が低くなり、加水分解反応等により絶縁性能が低下する問題があった。
【0005】
本出願人は、ポリシロキサンを含有するブロック重合体などを配合して、水分子を混入しにくくし、耐湿性の向上を図った架橋ポリロタキサンを提案しているが(特許文献4)、まだ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2005/080469号
【文献】国際公開第2008/108411号
【文献】特開2011-241401号公報
【文献】特開2017-066318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、ポリロタキサンを含むゴム組成物及びその利用物において、水分子を混入しにくくし、加水分解反応等の発生及び絶縁性能の低下を抑制し、耐湿性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]ゴム組成物
水酸基を有するジエン系ゴムと、環状分子が炭化水素修飾されたシクロデキストリンであるポリロタキサンとが、架橋剤としてのイソシアネートによりウレタン架橋してなるゴム組成物。
【0009】
[作用]
ポリロタキサンは、その環状分子であるシクロデキストリンが炭化水素修飾されることによって、はじめてジエン系ゴムと混和可能になった。その結果、ポリロタキサンを含むゴム組成物において、ジエン系ゴムの疎水性により水分子が混入しにくくなり、加水分解反応等の発生及び絶縁性能の低下を抑制できるため、耐湿性が向上する。
【0010】
[2]誘電体シート
上記[1]のゴム組成物からなる誘電体シート。
【0011】
[3]アクチュエータ
上記[2]の誘電体シートが用いられたアクチュエータ。
【0012】
[4]センサー
上記[2]の誘電体シートが用いられたセンサー。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ポリロタキサンを含むゴム組成物及びその利用物において、水分子が混入しにくくなり、加水分解反応等の発生及び絶縁性能の低下が抑制され、耐湿性が向上するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1(a)は実施例1の架橋体(ゴム組成物)の構造を模式的に示す図、(b)は比較例1の架橋体の構造を模式的に示す図である。
図2図2は絶縁破壊電圧の測定方法の説明図である。
図3図3は実施例の架橋体(ゴム組成物)を用いて作製したアクチュエータ(又はセンサー)の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(1)水酸基を有するジエン系ゴム
ジエン系ゴムとしては、特に限定されないが、ブタジエンゴム(BR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、イソプレンゴム(IR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)等を例示できる。
水酸基は、ジエン系ゴムの分子末端に有していてもよいし、グラフト化にて有していてもよい。
【0016】
(2)環状分子が炭化水素修飾されたシクロデキストリンであるポリロタキサン
シクロデキストリンとしては、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリンを例示できる。
シクロデキストリンの炭化水素修飾としては、アルキル基修飾、アリール基修飾等を例示できる。
【0017】
ポリロタキサンの直鎖状分子としては、特に限定されないが、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリプロピレングリコール(PPG)、ポリ乳酸、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ポリブタジエン、ポリテトラヒドロフラン、ポリジメチルシロキサン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール及びポリビニルメチルエーテル等を例示できる。
【0018】
ポリロタキサンの封鎖基としては、特に限定されないが、ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、ピレン類、置換ベンゼン類(置換基として、アルキル、アルキルオキシ、ヒドロキシ、ハロゲン、シアノ、スルホニル、カルボキシル、アミノ、フェニルなどを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、置換されていてもよい多核芳香族類(置換基として、上記と同じものを例示できる。置換基は1つ又は複数存在してもよい。)、及びステロイド類等を例示できる。ジニトロフェニル基類、シクロデキストリン類、アダマンタン基類、トリチル基類、フルオレセイン類、及びピレン類からなる群から選ばれるのが好ましく、より好ましくはアダマンタン基類又はトリチル基類である。
【0019】
(3)イソシアネート
イソシアネートとしては、特に限定されないが、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、イソシアン酸メチル(MIC)、多官能イソシアネート、芳香族多官能イソシアネート等を例示できる。
【0020】
(4)誘電体シート
誘電体シートを温度60℃、相対湿度90%の環境下に1時間おいた後の誘電体シートの絶縁破壊電圧(常温常湿)が72V/μm以上であることが好ましい。高湿下での耐湿性を満足できるからである。
【実施例
【0021】
次の表1に示す実施例1,2のゴム組成物と比較例1,2の組成物を作製して特性を測定した。表1の配合数値単位は、<4>で後述するとおり(g)である。
【0022】
【表1】
【0023】
実施例と比較例の詳細を次の順に説明する。なお、本発明は本実施例に限定されるものではない。
<1>ポリロタキサン
<2>架橋剤
<3>ポリマー
<4>架橋体(ゴム組成物)の作製
<5>特性の測定
<6>アクチュエータ(又はセンサー)の作製
【0024】
<1>ポリロタキサン
<1-1>実施例用:炭化水素修飾ポリロタキサンの合成
まず、直鎖分子:PEG(平均分子量:3.5万)、環状分子:α-シクロデキストリン、封鎖基:アダマンタン基からなるアダマンタンポリロタキサン(APR)を、国際公開第2008/108411号(特許文献2)に記載された方法で作製した。
次に、作製したAPRをヒドロキシプロピル基で修飾したヒドロキシプロピル化ポリロタキサン(HAPR)を、同特許文献2に記載された方法で作製した。
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により、作製したHAPRの重量平均分子量Mwを測定したところ、12.0万であった。また、核磁気共鳴(NMR)分析から、シクロデキストリンの水酸基の48%がヒドロキシプロピルに置換されたことが分かった。
次に、反応器に、作製したHAPR 10g及びジメチルアセトアミド40mlを加えて溶解させ、さらに撹拌しながらトリエチルアミン6mlを加えた。反応容器を水冷しながらミリスチン酸クロリド9.6mlをゆっくり滴下した後、15時間反応を続けた。得られた溶液を脱イオン水に再沈殿し、固体を脱イオン水で数回洗浄した後、80℃の乾燥機で減圧乾燥した。得られた粘張固体13.5gにトルエン54.0gを加えて溶解させ、環状分子であるα-シクロデキストリンにミリスチン酸エステル基を有する炭化水素修飾ポリロタキサン溶液(固形分20wt%溶液)67.5gを得た。
得られた炭化水素修飾ポリロタキサンをGPCで分析した結果、重量平均分子量Mw25.1万であった。また、水酸基価を測定した結果、19.1mgKOH/gであった。
【0025】
<1-2>比較例1用:HAPR-g-PCLの合成
まず、環状分子にシクロデキストリンを含有し、直鎖状分子にPEGを含有し、直鎖状分子の両末端に封鎖基を配置してなるポリロタキサンとして、国際公開第2005/080469号(特許文献1)に開示された、ヒドロキシプロピル基で修飾されたポリロタキサン(HAPR)を調製した。
次に、溶化性や相溶性を得るため、以下の方法で、カプロラクトン基を有するポリロタキサンを作製した。上記HAPR 10gを三口フラスコに入れ、窒素をゆっくり流しながら、ε-カプロラクトン45gを導入した。100℃、30分間メカニカル撹拌機によって均一に撹拌した後、反応温度を130℃まで上げ、予めトルエンで薄めた2-エチルヘキサン酸スズ(50wt%溶液)0.32gを添加し、5時間反応させ、溶媒を除去し、カプロラクトン基を有するポリロタキサン(HAPR-g-PCL) 55gを得た。
得られたHAPR-g-PCLをGPCで分析した結果、重量平均分子量Mw:58万、分子量分布Mw/Mn:1.5であった。
【0026】
<2>架橋剤
<2-1>ポリメリックMDI
東ソー株式会社製のポリメリックMDI:商品名「ミリオネートMR200」を用いた。
【0027】
<2-2>HDI系ポリイソシアネート
旭化成株式会社製のHDI系ポリイソシアネート:商品名「デュラネートSBL-100」を用いた。
【0028】
<2-3>末端ブロックイソシアネート基を有するPPGの作製
三口ナスフラスコにPPG700、ジオール型(500g、富士フィルム和光純薬社製)、ε-カプロラクトンのモノマーであるプラクセルM(430g、ダイセル社製)を加えた後、110℃のオイルバス中で窒素気流下、2時間撹拌した。オイルバスを130℃に昇温した後、2-エチルヘキサン酸スズ(0.5g、アルドリッチ社製)を加えて10時間撹拌し、両末端にポリカプロラクトンがグラフトされたPPG(オリゴマー1)を得た。
三口ナスフラスコに上記オリゴマー1(100g)を加えた後、90℃のオイルバス中で窒素気流下撹拌した。この溶液にタケネート600(7.45g、三井化学社製)を1時間かけてゆっくりと滴下した後、更に2時間撹拌して、オリゴマー2を得た。
三口ナスフラスコにタケネート600(16.66g)を加えた後、90℃のオイルバス中で窒素気流下撹拌した。この溶液に上記オリゴマー2(80g)をトルエン(80g)に溶解させた溶液を2時間かけてゆっくりと滴下した後、更に2時間撹拌した。反応後、40℃まで液温を低下させた後、2-ブタノンオキシム(10.95g、東京化成製)を液温が60℃以上にならないようにゆっくりと滴下した。滴下後、40℃で5時間撹拌して末端ブロックイソシアネート基を有するPPG(PPG3200)が含有された架橋剤の溶液を得た(Mn:5422)。
【0029】
<3>ポリマー
<3-1>水酸基末端液状ポリブタジエン
出光興産株式会社製の次の化学式1で表される水酸基末端液状ポリブタジエン:商品名「Poly bd R-15HT」を用いた。
【化1】
<3-2>PPG700ジオール
上記PPG700、ジオール型(富士フィルム和光純薬社製)を用いた。
<3-3>PPGモノオール
ポリ(プロピレングリコール)モノブチルエーテル(Mn:1000)(シグマアルドリッチ社製)を用いた。
【0030】
<4>架橋体(ゴム組成物)の作製
<4-1>実施例1の作製
上記<1-1>で得た炭化水素修飾ポリロタキサン3.95gと、上記<2-1>の架橋剤(ミリオネートMR200)1.94gと、上記<3-1>のポリマー(Poly bd R-15HT)8.74gが含有された架橋剤溶液を溶媒に溶解させ、攪拌して均一溶液とした。
この溶液に酸化防止剤0.24g、シリコーン添加剤(DBL-C31(Gelest製)をトルエンに溶解して固形分30wt%に調整した溶液)0.2g、カルボジライトV-09GB溶液0.41gを加え、攪拌し、均一溶液とした。得られた溶液を脱泡した後、シート状に成形した。成形したサンプルを減圧下高温条件下で架橋体(エラストマー)に加工した。
得られた架橋体(ゴム組成物)の構造を、図1(a)に模式的に示す。
【0031】
<4-2>実施例2の作製
上記<1-1>で得た炭化水素修飾ポリロタキサン6.21gと、上記<2-2>の架橋剤(デュラネートSBL-100)8.01gと、上記<3-1>のポリマー(Poly bd R-15HT)13.77gが含有された架橋剤溶液を溶媒に溶解させ、攪拌して均一溶液とした。
この溶液に酸化防止剤0.49g、前記シリコーン添加剤0.41g、カルボジライトV-09GB溶液0.81gを加え、攪拌し、均一溶液とした。得られた溶液を脱泡した後、シート状に成形した。成形したサンプルを減圧下高温条件下で架橋体(エラストマー)に加工した。
【0032】
<4-3>比較例1の作製
上記<1-2>で得たHAPR-g-PCL 10.9gと、上記<2-3>で得た架橋剤(PPG3200)が含有された架橋剤溶液27.3gを溶媒に溶解させ、攪拌して均一溶液とした。
この溶液にジラウリン酸ジブチルスズ溶液(3wt%)0.8g、シリコン添加剤0.8g、加水分解抑制剤1.6g、酸化防止剤1.0を加え、攪拌し、均一溶液とした。 得られた溶液を脱泡した後、シート状に成形した。成形したサンプルを減圧下高温条件下で架橋体(エラストマー)に加工した。
得られた架橋体の構造を、図1(b)に模式的に示す。
【0033】
<4-4>比較例2
WACKER社製のシリコーンエラストマーフィルム:商品名「ELASTOSIL Film 2030」(厚さ50μm)を用いて評価を行った。
【0034】
<5>特性の測定
実施例1,2及び比較例1,2について、以下の特性を測定した。測定結果を表1に示す。
<5-1>初期弾性率
架橋体をJIS K-6251に準拠してダンベル状7号型に切り出して、測定試料とした。各試料について、島津製作所社製のオートグラフAGS-5kNXを用いて、引張の有効長さが20mm、100mm/分の引張速度で応力-変位(伸長)曲線を測定した。初期弾性率は、1~5%伸長時までの応力-歪曲線を線形近似した傾きから算出した。
【0035】
初期弾性率の目標値1~3MPaを、実施例1,2及び比較例1,2のいずれもが満たした。
【0036】
<5-2>ヒステリシスロス
上記特許文献3と同様に、ヒステリシスロスとは、JIS K6400に準拠した、変形及び回復の1サイクルにおける機械的エネルギー損失率(ヒステリシスロス)において、材料の変形の代わりに材料の引張試験による歪を用いたものをいう。
具体的には、ダンベル7号形(ダンベル7号形は、JIS K-6251に準拠する)のサンプルを引張試験にかけ、応力-歪曲線を測定する。伸長が有効長さの100%まで伸長した後、伸長と同じ速度で0%まで収縮する。このサイクルを10回行い、特許文献3に記載された面積を測定し計算する方法で2から10回までの平均値をヒステリシスロスとして算出した。
【0037】
ヒステリシスロスの目標値10%以下を、実施例1,2及び比較例1,2のいずれもが満たした。
【0038】
<5-3>比誘電率
各試料にJEOL製のオートファインコータ「JEC-3000FC」を用いて白金をφ内径5mmに蒸着し、誘電率測定用プローブを用いてAgilent製の「4294Aプレシジョン・インピーダンス・アナライザ」で静電容量を測定し、比誘電率を算出した。
【0039】
比誘電率の目標値4以上を、実施例1,2及び比較例1は満たしたが、比較例2は満たさなかった。
【0040】
<5-4>絶縁破壊電圧(絶縁破壊電界強度)
まず、作製後48時間以内である初期の架橋体の膜厚を測定した。続いて、図2に示すように、初期の架橋体1を設置側の円板電極21に貼り付け、架橋体1に円柱電極22を載せ、この際に架橋体1と各電極21,22との間に空気泡が極力残らないように留意し、さらに真空装置により脱気処理した。これを常温常湿下で絶縁破壊測定器にセットし、電源装置23により電極21,22間に昇圧速度10V/0.1秒で上昇するよう電圧を印加した。そして、電流が実質的に流れない絶縁状態を経て、電流が1.2μA以上となった時点の電圧から絶縁破壊電圧(V/μm)を求めた。常温とは20±15℃であり、常湿とは65±20%である(JIS-8703)。
次に、架橋体を温度60℃、相対湿度(RH)90%の高湿環境下に1時間おいた後のものについても、上記の同様の方法で絶縁破壊電圧を常温常湿下で求めた。
【0041】
初期の絶縁破壊電圧の目標値72V/μm以上を、実施例1,2及び比較例2は満たしたが、比較例1は満たさなかった。
高湿保持後の絶縁破壊電圧の目標値72V/μm以上を、実施例1,2及び比較例2は満たしたが、比較例1は満たさなかった。
【0042】
<5-5>体積抵抗
架橋体にAu電極をスパッタリングにより付けた。遮蔽箱の金属面にフッ素系不活性液体を垂らし、樹脂枠に貼り付けた架橋体をセットした。架橋体の表面にガード電極をセットし、ガード電極に位置決め冶具をセットし、微小電流計を用いて体積抵抗(Ω/mm)を測定した。
【0043】
体積抵抗の目標値4E+12以上を、実施例1,2及び比較例2は満たしたが、比較例1は満たさなかった。
【0044】
<6>アクチュエータ(又はセンサー)の作製
実施例のシート状の架橋体1を誘電体シートとして用い、例えば図3に示すように、実施例の架橋体1と、電極層2とを、交互にそれぞれ複数積層してから、圧着して接合してなるアクチュエータ10を作製することができる。電極層2は、1つおきに左右方向の一方にずらして配したグループと、1つおきに左右方向の他方にずらした配したグループとからなる。一方のグループを正極、他方のグループを負極として、直流電圧を印加すると、架橋体1は膜厚方向に収縮し、該収縮によるアクチュエータ10の全高の変化を駆動用変位として利用することができる。
同様に、架橋体1と電極層2とを、交互に積層することにより、センサを作製することもできる。
【0045】
なお、本発明は前記実施例に限定されるものではなく、発明の趣旨から逸脱しない範囲で適宜変更して具体化することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 架橋体
2 電極層
10 アクチュエータ
21 円板電極
22 円柱電極
23 電源装置
図1
図2
図3