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特許7633064音響信号処理方法及び音響信号処理プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】音響信号処理方法及び音響信号処理プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20250212BHJP
   A63F 13/54 20140101ALI20250212BHJP
   G10K 15/12 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H04S7/00 320
A63F13/54
G10K15/12
H04S7/00 310
H04S7/00 350
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021058279
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154985
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2023-11-14
(73)【特許権者】
【識別番号】595000427
【氏名又は名称】株式会社コーエーテクモゲームス
(74)【代理人】
【識別番号】100159547
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴谷 裕二
(74)【代理人】
【識別番号】100223365
【弁理士】
【氏名又は名称】大町 真義
(72)【発明者】
【氏名】小池 雅人
【審査官】渡邊 正宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-095439(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63F 9/24
A63F 13/00-13/98
G10K 15/00-15/12
H04S 1/00- 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部分空間を含む仮想の三次元空間に音源とリスナーとが存在し、前記音源から発せられる音が前記三次元空間を伝搬して前記リスナーに到達することによって前記リスナーに知覚される音の信号を含む音響信号を得るときに用いられる音響処理情報を出力する音響信号処理方法であって、
前記三次元空間に含まれる複数の部分空間と前記複数の部分空間の各々に割り当てられた識別子との対応関係を定義した第1の関係データと、前記識別子と前記音響信号を得る信号処理のパラメータとの対応関係を定義した第2の関係データとがメモリに準備されており、
当該音響信号処理方法は、
前記音源の位置と前記リスナーの位置とを受け取ることと、
前記音源の位置と前記リスナーの位置とを用いて前記第1の関係データを参照して、前記音源に対応する第1の識別子と前記リスナーに対応する第2の識別子とを特定することと、
前記第1の識別子と前記第2の識別子とを用いて前記第2の関係データを参照して、前記第1の識別子に対応する第1のパラメータと前記第2の識別子に対応する第2のパラメータとを検索することと、
前記音響信号が得られるように、少なくとも前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとに基づいて音響処理情報を出力することと、
を含む音響信号処理方法。
【請求項2】
前記三次元空間に置かれた直座標軸であるXYZ軸の各々の軸に平行な複数のグリッド線からなる三次元グリッドの互いに隣り合う4つの交点を頂点とする複数の直方体で前記三次元空間が区分けされ、前記部分空間と重なりを持つ前記直方体の集合の各々に、前記部分空間に割り当てられた識別子が対応づけられ、前記複数の直方体の各々と識別子との対応関係が定義されることで前記第1の関係データが構成されており、
前記特定することは、
前記音源の位置に存在する第1の直方体と、前記リスナーの位置に存在する第2の直方体とを探索することと、
前記第1の直方体に対応付けられた前記第1の識別子と、前記第2の直方体に対応付けられた前記第2の識別子とを、前記第1の関係データを参照することによって抽出することと、
を含む、請求項1に記載の音響信号処理方法。
【請求項3】
前記出力することは、
前記第1の識別子と前記第2の識別子とが異なる場合、第1の規則に従って前記第1のパラメータ又は前記第2のパラメータを変更すること、
を含む、
請求項1又は2に記載の音響信号処理方法。
【請求項4】
前記出力することは、前記第1の識別子と前記第2の識別子とが異なる場合、前記第1の識別子及び前記第2の識別子のうち、第2の規則に従って選択された1つの識別子に割り当てられた第1の種類のパラメータを音響処理情報に含める、請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の音響信号処理方法。
【請求項5】
前記第2の規則は、音響に対してより遮蔽の効果が大きいパラメータを持つ識別子を選択する規則である、請求項4に記載の音響信号処理方法。
【請求項6】
前記出力することは、前記第2の識別子に割り当てられたパラメータのうち、環境音又は音の反響に係るパラメータを音響処理情報に含める、請求項1ないし5のうちいずれか1項に記載の音響信号処理方法。
【請求項7】
前記第1の規則は、前記音源と前記リスナーとの位置が所定の位置関係にあるか否かを判断する規則である、請求項3に記載の音響信号処理方法。
【請求項8】
前記第1の規則は、前記第1の識別子と前記第2の識別子とが所定の関係にあるか否かを判断する規則である、請求項3に記載の音響信号処理方法。
【請求項9】
請求項1ないしのうちいずれか1項に記載の音響信号処理方法をコンピュータに実行させる音響信号処理プログラム。
【請求項10】
請求項に記載の前記音響信号処理プログラムを格納した記憶媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、響信号処理方法及び音響信号処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ゲーム或いは仮想空間で現実の世界をシミュレートする場合においては、映像、音響、及び振動などを人間の五感に知覚させることで、人間に対して仮想現実を体感させることができる。
【0003】
仮想現実をよりリアルに体感させるには、コンピュータにより多くの計算を行わせることが求められることが多い。このため、仮想現実を扱うコンピュータでの処理をより簡便に行えるようにさせる技術が求められている。
【0004】
特に音響に関する従来技術の例として以下の技術が存在する。
仮想空間において音響表現を行うための音源やリスナーの仮想空間での位置を特定する。仮想空間内の仮想の音源として設定されている音源オブジェクトが発した音声を再生する再生手段を用意する。そして、仮想空間内の所定領域に含まれる小領域の位置情報を有する四分木を探索することによって、音源オブジェクトの位置を特定する。位置の特定結果に応じて、再生手段に音声データの加工を行わせることで仮想空間における音声の生成をプログラムに行わせる技術が存在する(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2020-18620号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
開示の技術は、仮想現実における音響処理に係るコンピュータの処理負担を軽減させつつ、より現実に近い音響を人間に体感させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示の技術によれば、複数の部分空間を含む仮想の三次元空間に音源とリスナーとが存在し、前記音源から発せられる音が前記三次元空間を伝搬して前記リスナーに到達することによって前記リスナーに知覚される音の信号を含む音響信号を得るときに用いられる音響処理情報を出力する音響信号処理方法であって、前記三次元空間に含まれる複数の部分空間と前記複数の部分空間の各々に割り当てられた識別子との対応関係を定義した第1の関係データと、前記識別子と前記音響信号を得る信号処理のパラメータとの対応関係を定義した第2の関係データとがメモリに準備されており、当該音響信号処理方法は、前記音源の位置と前記リスナーの位置とを受け取ることと、前記音源の位置と前記リスナーの位置とを用いて前記第1の関係データを参照して、前記音源に対応する第1の識別子と前記リスナーに対応する第2の識別子とを特定することと、前記第1の識別子と前記第2の識別子とを用いて前記第2の関係データを参照して、前記第1の識別子に対応する第1のパラメータと前記第2の識別子に対応する第2のパラメータとを検索することと、前記音響信号が得られるように、少なくとも前記第1のパラメータと前記第2のパラメータとに基づいて音響処理情報を出力することと、を含む音響信号処理方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、仮想現実における音響処理に係るコンピュータの処理負担を軽減させつつ、より現実に近い音響を人間に体感させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、仮想空間に存在する部分空間、リスナー、及び音源を示す。
図2図2は、音源の位置とリスナーの位置とからリスナーに知覚される音響信号を得るときに用いられる音響処理情報を出力する処理を示す。
図3図3は、三次元空間を三次元メッシュで分割した例を示す。
図4図4は、複数の部分空間と三次元メッシュとの位置関係を示す。
図5図5は、三次元メッシュの各々によって作られた複数の直方体で満たされる三次元空間を示す。
図6図6は、部分空間と重なりを持つ直方体を示す。
図7図7は、Z軸方向から三次元空間を見た場合における音源とリスナーと直方体との位置関係を示す。
図8図8は、第1の識別子と第2の識別子とを特定する処理をより具体的に示した処理フローである。
図9図9Aは、識別子の情報に基づく音の減衰などに関連するパラメータの選択の処理フローを示す。図9Bは、複数のレイヤーのグループを定義した表である。
図10図10は、音の減衰などに関連するパラメータを音響処理情報に含める処理に関する詳細な処理フローを示す。
図11図11は、音の減衰などに関するパラメータの処理フローを示す。
図12図12は、環境音の発生又は音の反響効果などに関するパラメータの処理フローを示す。
図13図13A及び図13Bは、屋外において橋が存在する場合に、仮想空間における複数の直方体を用いて、音源及びリスナーの各々に対してどのように識別子を抽出するかを示す。
図14図14は、第1の識別子と第2の識別子が異なる場合、第1の規則に従って第1のパラメータ又は第2のパラメータを変更する処理を示す。
図15図15は、第1の識別子と第2の識別子とが異なる場合における他の処理の例を示す。
図16図16A及び図16Bは、1つの部分空間内に衝立が存在する場合の例を示す。
図17図17A及び図17Bは、仮想空間に存在する各々の直方体に対して衝立の近傍において付与される識別子の様子を示す。
図18図18Aは、第1の識別子と第2の識別子とが所定の関係にあるかの判断における詳細な処理を示す。図18Bは、第1の識別子と第2の識別子との組み合わせが所定の関係にある場合の判断に用いる表を示す。
図19図19Aは、部分空間の識別子と部分空間の種類を定義した表を示す。図19Bは、空間の種類に対して割り当てられた音の減衰量とローパスフィルタのパラメータの例であるカットオフ周波数を定義した表を示す。
図20図20Aは、識別子の値と、部分空間のサイズとの関係を示した表を示す。図20Bは、部分空間のサイズに対応した環境音の定義及びリバーブのパラメータを代表する名称が定義された表を示す。
図21図21は、実施形態の各ハードウェア構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら、実施形態を説明する。なお、以下の各実施形態は、相互に排他的なものではない。矛盾の無い限り、ある実施形態の一部は、他の実施形態の一部と入れ替えたり、結合させたりすることができる。また、開示されたフローの各ステップは、矛盾の無い限り、入れ替えることができる。また、各フローは省略すること又は同時に実行することもできる。実施形態の一部は、プログラム又はハードウェアのいずれでも実現することができる。また、プログラムの一部は、オペレーティングシステムの機能を利用することができる。プログラムは、固定的(non-transitory)な記録媒体に記憶させることができる。
なお、以下に示す実施形態は、音の発生及び処理に関係している。音の発生及び処理は、純粋なコンピュータプログラムが用いられてもよいし、ハードウェアが用いられてもよい。また、音の処理は、ディジタルの処理が行われてもよいし、アナログ回路により処理が行われてもよい。
【0011】
<実施形態1>
図1は、仮想空間Vに存在する、部分空間、リスナーLi1、音源S1を示している。図1では、鳥が音源S1の例として描かれている。
【0012】
仮想空間Vには、複数の部分空間が存在する。仮想空間Vは、部屋A、部屋B、部屋C及び屋外Eの5つの部分空間が存在する。5つの部分空間の各々には、以下の識別子(ID)が付与されている。
部屋A ID=10
部屋B ID=20
部屋C ID=30
屋外E ID=1
【0013】
部屋Bに存在する音源S1から出た音(例えば、鳥の鳴き声)は、部屋Bの壁から部屋Cの壁を通過して、リスナーLi1に到達する。音は、壁を通過する以外に、部屋Bの壁を通過し屋外Eを通過し部屋Cの壁を通過しリスナーLi1に到達する音など、音は様々な経路を通じて音源S1からリスナーLi1に到達する。本実施形態では、部屋Bの壁と部屋Cの壁とを通過する音の成分をもって、リスナーLi1が聞く音としてもよい。このように隣接する壁を通過する音の減衰のみを考慮することで、音の伝搬に関する計算を簡略化することができる。
【0014】
更に、部屋Bの壁における音の減衰量と部屋Cの壁における音の減衰量のうち、減衰の効果が大きいものを採用して、音の減衰量とすることによって、音の減衰の計算をより簡略化することができる。更に、例えば、部屋Bと部屋Cとの間に他の部屋が存在している場合(不図示)においても、他の部屋及び他の部屋の壁を通過する音の減衰を省略して、音源S1が存在する部屋Bの壁における音の減衰量とリスナーLi1が存在する部屋Cの壁の音の減衰量のみを上記の様に考慮し選択することによって、音の減衰の計算を更に簡略化することができる。部屋Bの壁における音の減衰量とリスナーLi1が存在する部屋Cの壁の音の減衰量を加算して、音の減衰量としてもよい。
【0015】
音に関する人間の感覚は、視覚などの他の知覚よりも敏感ではないため、上記の様な手法によって音の減衰量などの音響信号を計算しても、音がリスナーLi1に到達してリスナーLi1に与える感覚を高い確度で得ることができる。このようにすることによって、音の伝搬に関する緻密なシミュレーションによる複雑な計算を行うことを避けることができる。
【0016】
例えば、音の伝搬に関して、部屋Bの壁の減衰量が-3dBであり、部屋Cの壁の減衰量が-6dBである場合には、部屋Cの音の減衰量がより大きいため、この-6dBを採用すればよい。この採用された-6dBを音源S1からリスナーLi1に伝達される音の減衰量に採用して、リスナーLi1の知覚する音の音量を得ることができる。
また、音量の減衰に加えて、音に対する伝搬に与える効果(フィルタ処理など)についても、音量の減衰に関する上記の考え方と同様の処理を行ってもよい。
【0017】
例えば、音が壁を通過する際には、高音域になるほど減衰が大きくなる傾向がある。したがって、音に対してローパスフィルタを適用することが望ましい。このローパスフィルタの処理についても、例えば壁が厚いほど、より高音域の減衰が大きいパラメータを採用することができる。
【0018】
例えば、部屋Bの壁に対応するローパスフィルタのカットオフ周波数が1200Hzであり、部屋Cの壁に対応するローパスフィルタのカットオフ周波数が800Hzである場合には、部屋Cの壁は、部屋Bの壁に比して、より低音域に限定した音を通過させることとなり、高音域の音を通過させにくい性質を有するから、部屋Cのローパスフィルタの処理パラメータを音に適用すればよい。以上は、音の減衰などに関するパラメータ処理に関する実施形態の一態様である。音の減衰などに関するパラメータ(すなわち音の減衰パラメータ及びローパスフィルタの処理のパラメータなど)は、第1の種類のパラメータの一例である。
【0019】
これに対して、音の反響などに関するパラメータについては、以下の一態様により処理することができる。
音の反響の効果に関しては、リスナーLi1が存在する部屋の反響の性質の影響が強くなる傾向にある。したがって、リバーブ又はエコーなどの音響効果については、リスナーLi1の部屋に関連するパラメータを採用するのが望ましい。
【0020】
また、環境音についても、リスナーLi1の部屋の環境音が、他の部屋の環境音よりもリスナーLi1により強く影響する傾向にある。したがって、環境音についてもリスナーLi1の存在する部屋における環境音に関するパラメータを採用することが望ましい。
環境音とは、例えば、屋外Eであれば、近くの道を通る自動車の音、部屋Bであれば、例えば、窓から吹き込む風の音などが挙げられる。これらの環境音については、予めその部屋の反響効果を加えた音を直接生成してもよいし、環境音に反響(例えば、エコー又はリバーブなど)の効果を加えてもよい。加えて、音源S1からリスナーLi1に到達する音に減衰処理及びローパスフィルタ処理などを加えた音に対して、反響効果を加えてもよい。
なお、屋外Eなどでは、「やまびこ」の効果を模したディレイの効果の処理が加えられてもよい。
【0021】
音源S1及びリスナーLi1が、仮想空間のどの部分空間に存在しているかを判断するには、音源S1及びリスナーLi1(又はリスナーLi1の耳)の仮想空間における三次元座標が、どの部分空間に存在しているかを判断すればよい。この判断にあたっては、例えば部屋などの立体をポリゴンで構成している三次元モデルが用いられている場合には、ポリゴンの情報を基にして、音源S1及びリスナーLi1がどの部分空間の境界を構成しているポリゴンの内外のいずれに存在するかを調べることで判断することができる。そして、三次元モデルの部分空間の各々に識別子を割り当てておく。三次元空間を定義したモデルに応じて、音源S1及びリスナーLi1の存在する部分空間の特定及び部分空間に割り当てられた識別子の特定が可能である。
部分空間の各々に識別子が割り当てられた三次元モデルは、第1の関係データの一例である。
また、各部屋及び屋外における音響処理の各種パラメータと、各部屋及び屋外に付与した識別子(ID)とを対応付けた表をメモリに保存しておくことができる。
音源S1及びリスナーLi1が存在する部分空間の識別子が特定できれば、この表を識別子で検索することで音響処理のパラメータを特定することができる。この表は、第2の関係データの一例である。
【0022】
なお、例えば、音の減衰などに関連するパラメータの効果が増加するのと対応した形で、部分空間の識別子が増加するように予め設定しておけば、識別子の大きさを判定することによって、採用する音の減衰などに関連するパラメータの決定に用いる識別子を決定することができる。ローパスフィルタのパラメータについても同様である。このようにすることによって、音源S1及びリスナーLi1の存在する部分空間の識別子の大小を判定することで、採用する音響処理のパラメータ(例えば、音の減衰及びローパスフィルタ)のパラメータを選択しかつ決定することができる。
【0023】
なお、音源S1及びリスナーLi1が同じ部分空間に存在する場合には、音の減衰の処理は行わないようにしてもよい。また、ローパスフィルタの処理は加えないようにしてもよい。或いは、音源S1とリスナーLi1との距離に応じて、減衰のパラメータ値を変更して、距離が大きい場合には、減衰量が大きくなるようにしてもよい。
【0024】
なお、屋外Eにおける識別子は1個あれば足りるが、識別子を複数設けておいてもよい。説明の詳細は後述するが、ここで簡単に一態様を説明する。例えば、屋外Eの橋の下の空間に識別子7を与え、それ以外の屋外Eの空間に識別子1を与えておく場合を想定する。そして、リスナーLi1が橋の下すなわち識別子7の領域に存在し、音源S1が、識別子1の領域に存在するとする。リスナーLi1と音源S1とが、ほぼ同じ高さに存在する場合(すなわち、リスナーLi1と音源S1とが共に橋の下に存在する場合)には、音源S1からリスナーLi1に届く音が橋で遮られることはないから、音の減衰がなされないようにしてもよい。リスナーLi1と音源S1との高さが異なって両者の間に橋が存在することとなるような高さの差がある場合には、音の減衰がなされるように、パラメータの選択を変更するようにしてもよい。このパラメータの変更は、それぞれの場合に応じて予め定めておいた音の減衰などに関連する複数のパラメータを持つ表をメモリに格納しておいてもよい。このような処理は、ローパスフィルタのパラメータについても同様である。
上記の橋の実施形態は、屋外ばかりでなく、部屋内においても同様に適用できる。
また、上記の橋の例は、衝立(ついたて)が存在する場合にも応用できる。例えば、同じ部分空間に複数の識別子を適用することによって実現できる。橋については、音源S1とリスナーLi1との高さの関係(レイヤーの関係)に基づいて、音響パラメータを変更すればよい。衝立の場合には、音源S1に対応する識別子とリスナーLi1に対応する識別子との関係があらかじめ定められた関係か否かに基づいて、音響パラメータを変更すればよい。これらの詳細は後述する。
【0025】
なお、リスナーLi1自身が発する音(例えばリスナーLi1の発する言葉)については、リスナーLi1が存在する部分空間に対応付けられた反響などに関するパラメータによる処理を施してもよい。
【0026】
図2は、音源S1の位置とリスナーLi1の位置とからリスナーLi1に知覚される音響信号を得るときに用いられる音響処理情報を出力するフローチャートである。音響処理情報は、DSP(Digital Signal Processor)などの制御情報に用いられることで人間が知覚できる音の信号が得られる。
【0027】
図2における各ステップについて以下に説明する。なお、三次元空間に含まれる複数の部分空間と複数の部分空間の各々に割り当てられた識別子との対応関係を定義した第1の表は予めメモリに格納されているものとする。同様に、識別子と音響信号を生成するときに用いられる信号処理のパラメータとの対応関係を定義した第2の表も予めメモリに格納されているものとする。第1の表及び第2の表は、それぞれ第1の関係データ及び第2の関係データの一例である。なお、第1の表と第2の表は、結合された状態で、一つの表としてメモリ上に存在していてもよいことは言うまでもない。或いは、これらの表の情報が、メモリ上で表の形を形成していることは必ずしも必要はない。
【0028】
図2における各ステップについて以下に説明する。
[ステップS110]仮想空間における音源S1の位置とリスナーLi1の位置とが受け取られる。三次元の位置は、互いに直行するX軸Y軸及びZ軸による三次元の座標で表現されてもよい。
【0029】
[ステップS112]上記第1の表を検索して、音源S1の位置とリスナーLi1との位置のそれぞれに対応する第1の識別子と第2の識別子とが特定される。
【0030】
[ステップS116]音源S1の位置及びリスナーLi1の位置の各々に対応する識別子から、第2の表を検索することで、第1のパラメータと第2のパラメータとが得られる。
【0031】
[ステップS118]少なくとも第1のパラメータと第2のパラメータとに基づいて、適切な音響処理情報が出力される。そして、例えば、出力された音響処理情報がDSP(Digital Signal Processor)などに入力されることで人間が知覚できる音の信号が得られる。
【0032】
なお、第1のパラメータと第2のパラメータとをどのように用いて音響処理情報を出力するかについては、以下に概略を説明すると共に、詳細については後述する。
【0033】
例えば、第1の識別子と第2の識別子とが等しい場合、遮蔽物が無いと判断される。すなわち、音源S1とリスナーLi1とは、同じ部分空間に存在することとなる。この場合には、音源からの音量を減衰させること又はローパスフィルタ―処理を加えることは行わないようにしてもよい。すなわち、第1の識別子と第2の識別子とが等しいため、第1のパラメータと第2のパラメータは等しいものとなるので、このパラメータを用いてもよい。或いは、パラメータの値の如何に関わらず音量を減衰させること又はローパスフィルタ―処理は行われなくてもよい。或いは、第1の識別子と第2の識別子が同じ場合における音の減衰などに関するパラメータ(不図示)が、メモリに格納されていてもよい。なお、環境音又は音の反響に関するパラメータは、第1の識別子と第2の識別子が同じ場合、第1のパラメータ(又は同じ値を持つ第2のパラメータ)を適用することが望ましい。
【0034】
これに対して、例えば、第1の識別子と第2の識別子が異なる場合には、原則として音源S1とリスナーLi1とは異なる部分空間に存在することとなる。この場合には、第1のパラメータ及び第2のパラメータのうち、いずれか一方が用いられることとしてもよい。なお、第1の識別子と第2の識別子とが異なる場合において、特定の場合に音の減衰などに関するパラメータを変更する処理は、橋の例及び衝立の例によってその概略を既に述べたところであり、後述の実施形態においても説明を加える。
<実施形態2>
【0035】
実施形態1では、音源S1とリスナーLi1とが存在する空間を特定するために、部分空間の計算において、三次元空間を構成している三次元モデルに応じて、音源S1及びリスナーLi1と部分空間同士を隔てている壁との位置関係の判断が行われた。実施形態1では、この位置関係の判断(すなわち部分空間の中に存在するのか外に存在するのかの内外判定)の計算が必要であった。この計算をより簡易なものとする実施形態2を以下に説明する。
【0036】
図3は、三次元空間を三次元メッシュで分割した例を示している。X軸、Y軸及びZ軸のそれぞれに直行し、所定の間隔で隔てられた平面で、三次元メッシュを作成する。仮想空間は、この三次元メッシュで区切られた複数の直方体300により小空間に分割される。なお、直方体300は、立方体であってもよい。
便宜上、XY平面を三次元空間の水平面とし、Z軸方向が水平面に直行する軸であるとして以下に説明する。
【0037】
図4は、複数の部分空間と三次元メッシュとの位置関係を示している。図1で示した部屋A、部屋B、部屋C及び屋外Eと三次元メッシュとの関係が示されている。
【0038】
図5は、三次元メッシュの各々によって作られた複数の直方体で満たされる三次元空間を示している。
水平面に平行に並んだ複数の直方体で構成される板状の空間を便宜上レイヤーと呼ぶことがある。図5では、Layer1及びLayer2が例示されている。各レイヤーには、順に番号が振られていることが望ましい。この番号によってレイヤー平面上での各々の直方体の位置が特定できる。そして、各々のレイヤーに番号を付与することによって、Z軸方向のレイヤーの位置が特定できる。レイヤー平面における直方体の位置と、レイヤーの番号で、三次元空間内における直方体の位置が特定できる。なお、三次元空間上での直方体の位置を特定する方法は、この手法に限定されるものではない。
【0039】
図6は、部分空間と重なりを持つ直方体を示している。図6においては、見やすくするために、屋外Eに対応する直方体の表示は省略している。
そして、各々の部分空間に対応する識別子と同じ識別子が対応する直方体に付与されている。なお、例えば、直方体600に示されるように、直方体600と部屋Cとは、相互が完全に空間を共有していない場合が存在する。このような場合には、例えば、直方体600の各々は、最も多く空間を共有している部分空間と関連付けられるようにしてもよい。そして、関連付けられた部分空間の識別子を直方体600に付与するようにしてもよい。
【0040】
このようにすることによって、音源及びリスナーの位置に存在する直方体を探索し、探索された直方体に付与された識別子を抽出することによって、音源及びリスナーの各々に対応する識別子をより容易に抽出することができる。
【0041】
図7は、Z軸方向から三次元空間を見た場合における、あるレイヤーにおける音源S2とリスナーLi2と直方体との位置関係を示している。そして、音源S2及びリスナーLi2の各々の位置に存在する直方体に付与された識別子は、直方体と識別子との関係を示す第1の表を参照することで、抽出することができる。第1の表は、予めメモリに格納しておくことができる。
【0042】
以上のようにすることによって、音源S2及びリスナーLi2の各々の位置に存在する直方体を探索し、その後、第1の表を参照して直方体と識別子との対応関係を調べることで、音源S2及びリスナーLi2の各々に関連する識別子をより容易に取得することができる。
【0043】
そして、音源S2及びリスナーLi2の各々に関連する識別子から、識別子と音響パラメータの関係を定義した第2の表を参照することで、音源S2及びリスナーLi2の各々に関連する種々の音響パラメータを取得することが容易に行える。取得された音響パラメータに基づいて、リスナーに知覚される音響信号を生成するための音響処理情報を出力することが容易に行える。
【0044】
図8は、第1の識別子と第2の識別子とを特定するステップS112をより具体的に示した処理フローである。各処理ステップについて以下に説明する。複数の直方体の各々に識別子が対応付けられた第1の表が予めメモリに格納されているものとする。第1の表は、第1の関係データの一例である。
[ステップS210]音源S2の位置とリスナーLi2の位置とから、それぞれの位置に対応する第1の直方体と第2の直方体とを探索する。
【0045】
[ステップS212]探索された第1の直方体と第2の直方体を用いて第1の表を参照することで、第1の直方体に対応付けられた第1の識別子と、第2の直方体に対応付けられた第2の識別子とを抽出する。第1の識別子は、音源S2が存在する部分空間の識別子であり、第2の識別子は、リスナーLi2が存在する部分空間の識別子である。
以上のようにして、音源S2及びリスナーLi2の各々に対応する識別子をより容易に特定することができる。
【0046】
図9Aは、識別子の情報に基づく音の減衰などに関連するパラメータの選択の処理フローを示す。図9Bは、複数のレイヤーのグループを定義した表である。
以下に、図9Aの処理フローを説明する。
[ステップS310]第1の識別子と第2の識別子とが異なる場合、第1の規則に従って第1のパラメータ又は記第2のパラメータを変更する。この場合の例としては、橋又は衝立などの遮蔽物が存在する場合が想定される。この事例の概要は既に述べたとおりであるが、以下に、橋が存在する場合の例を説明する。
【0047】
橋など上下を隔てる遮蔽物が存在する場合であって、音源とリスナーとが橋を隔てて存在する場合には、音源の音が橋によって減衰してリスナーに到達する。しかしながら、橋の下に音源とリスナーとの両者が存在する場合には、橋による音の遮蔽が無いため音の減衰が無いか軽減されることとなる。橋の上に音源とリスナーとの両者が存在する場合も同様である。
図13Bに示されるように、橋などの上下方向の音の伝搬に対して音を減衰させる遮蔽物が存在する場合を想定する。この場合、同じレイヤー又は同じレイヤーグループに音源とリスナーとが共に存在するか否かで、部分空間に割り当てられている識別子に対応した音の減衰に関連するパラメータを選べるようにするとよい。
図13Bで、橋の下にレイヤーL0ないしレイヤーL3が存在する場合のように、複数のレイヤーが橋の下にある場合には、レイヤーL0ないしレイヤーL3が、レイヤーグループを形成していると定義することができる。
図9Bは、上記のような例を想定して、レイヤーのグループを定義した表である。
また、図19Aは、部分空間の識別子と部分空間の種類を定義した表である。図19Bは、空間の種類に対して割り当てられた音の減衰量とローパスフィルタのパラメータの例であるカットオフ周波数を定義した表である。
図9Bは、レイヤーL0ないしレイヤーL3がレイヤーグループ1を形成しており、レイヤー11及びレイヤー12がレイヤーグループ2を形成していることを示した表である。図9Bを参照することによって、複数のレイヤーをグループとして扱い、同じグループのレイヤーに音源とリスナーとが共に存在していれば、図19A及び図19Bの表のうち、同じレイヤーグループに対応するパラメータが採用されるようにすればよい。
なお、図9Bに示される表を無くして、レイヤーグループを定義しなくてもよい。この場合、音源とリスナーの存在するレイヤーが一致していれば、同じレイヤーグループのパラメータを採用するようにしてもよい。
あるいは、図9Bに定義されたレイヤーグループに限定して、図19Bの同じレイヤーグループのパラメータが採用されるようにしてもよい。
なお、この場合に、音源とリスナーとの距離に応じて音の減衰などの効果を与えてもよい。
例えば、図13Bに対して、図9A及び図9B、並びに図19A及び図19Bを適用すると以下のようになる。
図13Bの音源S41とリスナーLi4とは、図9Bを参照すると、異なるレイヤーグループに存在している。そして、音源S41は識別子1が割り当てられており、リスナーLi4は、識別子7が割り当てられている。そして、後述するように例えば識別子の大きい方のパラメータを採用することとした場合、図19A及び図19Bにおいて、リスナーLi4の識別子7の異なるレイヤーグループのパラメータは、音量の減衰パラメータが-6dB、ローパスフィルタのカットオフ周波数パラメータが16000Hzである。したがって、音源S41からの音に対して、これらのパラメータが適用されることとすればよい。
図13Bの音源S42とリスナーLi4とは、図9Bを参照すると、同じレイヤーグループに存在している。そして、音源S42は識別子1が割り当てられており、リスナーLi4は、識別子7が割り当てられている。そして、例えば識別子の大きい方のパラメータを採用することとした場合、図19A及び図19Bにおいて、リスナーLi4の識別子7の同じレイヤーグループのパラメータは、音量の減衰パラメータが0dB、ローパスフィルタのカットオフ周波数パラメータは「無し」(すなわちローパスフィルタをかけないことと同じ)である。したがって、音源S42からの音に対して、音の減衰は無く(0dB)、ローパスフィルタも適用されないこととすればよい。
なお、図13A及び図13Bについての詳細は後述する。
【0048】
橋のような遮蔽物が存在する場合には、音源からの音に対して上述の処理を施すことで、遮蔽物の存在の有無を判断するのではなく、音源とリスナーの位置関係に応じて適用されるパラメータを変更することで、遮蔽物の存否に基づく音の伝搬に応じた処理を施すことができる。
なお、音源とリスナーとが屋外、部屋内、城、洞窟などに存在する場合も含めて、図19A及び図19Bを参照することによって、音源とリスナーとが同じレイヤーグループに存在する場合と、異なるレイヤーグループに存在する場合とで、音量の減衰パラメータ及びローパスフィルタのパラメータを変更することができる。
なお、図19A及び図19Bは、複数の識別子に対して同じ音量の減衰パラメータ及びローパスフィルタのパラメータを割り当てる例を示しているが、識別子の各々に対して音量の減衰パラメータ及びローパスフィルタのパラメータを割り当てるようにしてもよいことは言うまでもない。
【0049】
なお、既に述べたように、部分空間における音の反射及び環境音については、リスナーの存在する部分空間における音響パラメータを用いることとして、遮蔽物の影響を考慮しなくてもよい。
【0050】
図10は、音の減衰などに関連するパラメータを音響処理情報に含める処理に関する詳細な処理フローを示す。
[ステップS410]第1の識別子と第2の識別子とが異なるか否かがチェックされる。第1の識別子と第2の識別子とが異なれば(Yes)、音源とリスナーとが異なる部分空間に存在することがわかる。第1の識別子と第2の識別子とが一致すれば(No)、音源とリスナーとが同じ部分空間に存在することがわかる。このチェックがYesの場合には、処理はステップS412に進む。この処理がNoの場合には、処理はステップS414に移る。
【0051】
[ステップS412]第1の識別子及び第2の識別子のうち、第2の規則に従って選択された1つの識別子に割り当てられた第1の種類のパラメータを、音響処理情報に含める。ここで、例えば、音の減衰に関するパラメータ、ローパスフィルタのパラメータは、第1の種類のパラメータの一例である。その後処理は戻る。
上記第2の規則は、後述する。
【0052】
[ステップS414]音源とリスナーとが同じ部分空間に存在するときの第1の種類のパラメータを、音響処理情報に含める。この場合には、音源とリスナーとが同じ部分空間に存在するため、音の減衰及びローパスフィルタの処理は行われないようにしてもよい。あるいは、音源とリスナーとの距離を検出して、音の減衰及びローパスフィルタの処理をその距離に応じて変更してもよい。その後処理は戻る。
なお、環境音及び音の反響に関するパラメータの取り扱いについては、図12を用いて説明する。
【0053】
第2の規則について、図11を用いて以下に説明する。
図11は、例えばパラメータが音の減衰及びローパスフィルタの処理である場合の第2の規則が適用される処理フローを示している。
[ステップS510]音に対してより遮蔽の効果が大きいパラメータを持つ識別子に対応するパラメータを、音響処理情報に含める。
既に述べたように、音響処理が音の減衰又はローパスフィルタの処理である場合には、より減衰量の大きなパラメータを持つ識別子に関連するパラメータを採用して、そのパラメータを音に適用することが望ましい。より減衰量の大きなパラメータを持つ識別子に関連するパラメータを採用することは、第2の規則の一例である。
より減衰量の大きなパラメータを持つ識別子に関連するパラメータを採用することで、音の減衰量の計算量を軽減することができる。
識別子が大きくなるほど、減衰量の大きなパラメータを関連付けるようにすれば、第1の識別子と第2の識別子のうち大きな識別子に対応する音の減衰に関するパラメータを採用する規則を用いるようにしてもよい。この規則は、第2の規則の一例である。
なお、第1の識別子及び第2の識別子のそれぞれに関連する音の減衰等に関するパラメータを加算して(又はパラメータの効果が重畳するようにして)、音響処理情報に含めてもよい。
【0054】
図12は、音響処理情報を出力する処理のうち、音響処理が環境音の発生又は音の反響効果に関する処理などである場合の処理フローを示している。
既に述べたように、音響処理が環境音の発生又は音の反響効果に関する処理である場合には、リスナーの存在する部分空間に対応する識別子に関連するパラメータを音響処理情報に含めるようにして、環境音を発生させたり反響効果を加えたりすることが望ましい。また、環境音、音源からの音に減衰処理が施された音、リスナー自身が発する音に対しても、リスナーの存在する部分空間に対応する識別子に関連付けられた反響効果に関するパラメータを適用することが望ましい。
なお、音源が存在する部分空間(すなわち、音源に対応する識別子)に関連する音の反響効果に関るパラメータを音源からの音に適用してもよい。
【0055】
図13A及び図13Bは、屋外において橋が存在する場合に、仮想空間における複数の直方体を用いて、音源及びリスナーの各々に対してどのように識別子を抽出するかを示している。
【0056】
図13Aは、屋外に橋1720が掛かっている様子を示している。橋1720は、川岸1750に掛けられている。橋の直下の空間1730にリスナーLi4が存在している。橋の下には、川の水1740が存在している。音源S41は、橋1720の真上に存在している。音源S42は、橋1720よりもZ軸方向に低い位置に存在しているが、橋1720の真下には存在していない。
【0057】
図13Bは、図13AのE-E断面を示している。図13Bには、三次元空間を満たしている複数の直方体に付与された識別子が示されている。橋1720の下の直方体には、識別子7が付与されている。橋1720の真下以外の屋外の空間の直方体には、識別子1が付与されている。
リスナーLi4の存在する部分空間の識別子は7であり、音源S41及び音源S42の存在する部分空間の識別子はいずれも1である。なお、リスナーLi4又は音源S42などが複数の直方体にまたがっている。複数の直方体に付与された識別子が異なる場合には、例えば、リスナーLi4又は音源S42などとの重なりが大きい直方体に付与された識別子を、リスナーLi4又は音源S42に対応付けてもよい。
この場合には、第1のパラメータ又は第2のパラメータを変更するための第1の規則は以下のようになる。
【0058】
(第1の規則:橋の例)リスナーLi4及び音源S42の各々の識別子の組合せが1と7である場合であっても、リスナーLi4及び音源S42の所属するレイヤーが、いずれもレイヤーL0ないしL3のいずれかである場合には、両者は同じレイヤーグループに属すると判断される。この場合、同じレイヤーグループに属するリスナーLi4及び音源S42はいずれもほぼ水平の位置に存在し、両者の間に音の伝搬を遮蔽する橋が存在しない。
【0059】
そして、リスナーLi4及び音源S41の各々の識別子の組合せが1と7である場合であっても、リスナーLi4及び音源S41の一方の所属するレイヤーがレイヤーL0ないしL3のいずれかであり、他方の所属するレイヤーがレイヤーL0ないしL3以外である場合には、両者は異なるレイヤーグループに属すると判断する。
【0060】
以上の第1の規則を適用することによって、屋外1710(又は部屋内)に橋などが存在する空間においても、橋の存在を考慮して、図9B及び図19Bに示された表を参照することで、音の減衰又はローパスフィルタのパラメータを適切に変更することができる。
なお、既に述べたように、環境音及び音の反射に関する音響処理については、いずれの場合にも、リスナーLi4に関連付けられた識別子7に関連するパラメータを適用すればよい。環境音としては、川の流れの音などを適用することができる。音の反響に関するパラメータには、橋の下における音の反響をシミュレートするパラメータを適用することができる。
<実施形態3>
【0061】
図14は、第1の識別子と第2の識別子が異なる場合、第1の規則に従って第1のパラメータ又は第2のパラメータを変更する処理を示す。以下に、図14の各フローを説明する。
【0062】
[ステップS710]音源とリスナーとが同じレイヤーグループに存在するかが判断される。判断がYesの場合には、処理はステップS712に移る。判断がNoである場合には、処理はステップS714に移る。
【0063】
[ステップS712]第1の識別子と第2の識別子が異なる場合であって、音の減衰等に関連するパラメータに関し、音源とリスナーとが同じレイヤーグループに存在する場合に対応する第1のパラメータ及び第2のパラメータを検索する。
この処理によって、音源とリスナーとが同じレイヤーグループに存在する場合に対応する第1のパラメータ及び第2のパラメータを利用することができる。
[ステップS714]第1の識別子と第2の識別子が異なる場合であって、音の減衰等に関連するパラメータに関し、音源とリスナーとが異なるレイヤーグループに存在する場合に対応する第1のパラメータ及び第2のパラメータを検索する。
この処理によって、音源とリスナーとが異なるレイヤーグループに存在するか否かに応じて、第1のパラメータ及び第2のパラメータを変更することができる。
図14における処理は、第1の規則の一例である。
【0064】
<実施形態4>
(第1の規則:衝立の例)
図15は、第1の識別子と第2の識別子が異なる場合、第1の規則に従って第1のパラメータ又は第2のパラメータを変更する他の処理の例を示す。この処理フローは、図16A図16B図17A図17B図18A及び図18Bに例示する衝立が存在する場合の処理フローである。
【0065】
[ステップS812]第1の識別子と第2の識別子とが所定の関係にあるかが判断される。このチェックが肯定的である場合(Yes)、処理はステップS814に進む。そして、このチェックが否定的(No)である場合には、処理は戻る。
【0066】
[ステップS814]音の減衰等に関連するパラメータに関し、第1の識別子と第2の識別子とが一致している場合におけるパラメータを第1のパラメータ及び第2のパラメータとする。
この場合には、図19Bに示される表から第1のパラメータ及び第2のパラメータを取得するのではなく、第1の識別子と第2の識別子とが一致している場合(すなわち、音源とリスナーとが同じ部分空間に存在する場合)におけるパラメータを第1のパラメータ及び第2のパラメータとする。このようにすることによって、第1の識別子と第2の識別子が異なっていても、音源とリスナーとは同じ部分空間に属しており、両者の間に遮蔽物が存在しない場合と同様の処理が行えることとなる。
図15における処理は、第1の規則を衝立に適用した例である。
図15の処理に関する具体例を、衝立を例にして、以下に説明する。
【0067】
図16A及び図16Bは、1つの部分空間内に衝立180が存在する場合の例を示す。
図16Aに示されるように、衝立180の正面にリスナーLi5が存在する。そして、衝立180の反対側に音源S51が存在する。衝立180の横には、音源S52が存在する。
【0068】
図16Bは、図16Aの仮想空間においてリスナーLi5を横切るXY平面図である。図16Bに示されるメッシュは、三次元メッシュをZ軸方向から見たときの各々の直方体が形成する境界線を破線で示したものである。
【0069】
図16Bに示されるように、衝立180のリスナーLi5側に、識別子5が付与された直方体が存在する。また、衝立180の音源S51側に、識別子6が付与された直方体が存在する。これらの直方体以外の周辺の直方体には、識別子1が付与されている。この場合には、屋外の空間を共有する直方体に対して、識別子1、識別子5及び識別子6が付与されている。識別子5が付与された直方体が存在する空間と、識別子6が付与された直方体が存在する空間の間には、遮蔽物(衝立180)が存在する。識別子5が付与された直方体が存在する空間と識別子1が付与された直方体が存在する空間の間、及び識別子6が付与された直方体が存在する空間と識別子1が付与された直方体が存在する空間の間には、遮蔽物が存在しない(なお、識別子1が付与された直方体の間にも、遮蔽物(衝立180)が存在する直方体同士の組合せが存在するが、これらの直方体同士の間では衝立180の距離が遠いため、音の回り込みを考慮し、遮蔽物が存在しないこととみなすことで、音の伝搬に関して、より現実に近いシミュレーションが行える。
【0070】
図17A及び図17Bは、仮想空間に存在する各々の直方体に対して衝立180の近傍において付与される識別子の様子を示す。
図17Aに示されるように、衝立1900の近傍の一方の側に部分空間1902が存在しており、衝立1900の近傍の他方の側に部分空間1904が存在している。
【0071】
図17Bに示されるように、衝立1900の両側に位置する部分空間1902と重なる直方体の集合1952の各々には、識別子5が付与されている。そして、部分空間1904と重なる直方体の集合1954の各々には、識別子6が付与されている。
以上のようにすることによって、音源S51又は音源S52及びリスナーLi5に、識別子1、識別子5又は識別子6が関係づけられるようにすることができる。
【0072】
図16Bに戻る。リスナーLi5の位置に識別子5が関係付けられ、音源S51に識別子6が関係付けられている場合には、衝立180(すなわち遮蔽物)が存在する処理が行われればよい。
【0073】
これに対して、リスナーLi5の位置に識別子5が関係付けられ、音源S52に識別子1が関係付けられている場合には、衝立180(すなわち遮蔽物)が存在しないのと同様の処理が行われればよい。
【0074】
或いは、リスナーLi5の位置に識別子1が関係付けられ、音源S52にも識別子1が関係付けられている場合(不図示)にも、衝立180(すなわち遮蔽物)が存在しないのと同様の処理が行われればよい。
【0075】
以上のようにすることによって、同じ部分空間に音源S51又は音源S52とリスナーLi5とが存在する場合にも、衝立などの音の伝搬を減衰させる物体の存在を考慮した音響処理を行うことが可能となる。
【0076】
図18Aは、第1の識別子と第2の識別子とが所定の関係にあるかの判断(図15のステップS710)における詳細な処理を示す。図18Bは、第1の識別子と第2の識別子との組み合わせが所定の関係にある場合の判断に用いる表を示す。以下に、図18Aの処理フローの各ステップを説明する。
【0077】
[ステップS912]第1の識別子と第2の識別子との組み合わせがあらかじめ定められた表に存在するかが判断される。判断結果が肯定的、例えば、図18Bの表1800に示されるように、識別子の組合せが1と5、又は、1と6(Yes)であれば、処理はステップS914に移る。判断結果が否定的、例えば識別子の組合せが5と6(No)である場合には、処理は戻る。
[ステップS914]第1の識別子と第2の識別子とが所定の関係にあると判断する。
図15及び図18Aの処理フローにより、識別子の組合せが1と5、又は、1と6であれば、第1の識別子と第2の識別子とが所定の関係にあると判断され、図15のステップS814において、第1の識別子と第2の識別子とが一致している場合におけるパラメータが第1のパラメータ及び第2のパラメータとされる。
以上の処理により、音源S51が識別子6に関連付けられ、リスナーLi5が識別子5に関連付けられている場合には、識別子の値の大きい方である識別子6に関連付けられた音響の減衰などに関するパラメータが図19A及び図19Bと同様の表から検索される。なお、この場合、レイヤーグループが異なるか否かの判断を行わなくてもよい。
なお、変形例として、衝立と橋が組み合わされた構造を有する空間がある場合には、レイヤーグループの異同を考慮して、音の減衰等に関するパラメータを検索するようにしてもよい(不図示)。
図18Bにおける表1800を用いた図18Aにおける処理フローは、第1の規則の一例である。
以上のようにして、部分空間に衝立などが存在する場合にも、音の伝搬に関する処理が適切に行える。
なお、音源及びリスナーの各々に対応する識別子1及び識別子2が共に「1」である場合には、図10のステップS410でNoとなるため、ステップS414での処理が行われることになる。
【0078】
<実施形態5>
図19Aは、部分空間の識別子と部分空間の種類を定義した表1900を示す。屋外、部屋内、城、洞窟などに対して、それぞれ複数の識別子が割り当てられてもよい。
【0079】
図19Bは、空間の種類に対して割り当てられた音の減衰パラメータとローパスフィルタ(LPF)のパラメータの例であるカットオフ周波数を定義した表1901を示す。
【0080】
表1901においては、同じレイヤーグループである場合と異なるレイヤーグループである場合の二つのパラメータが示されている。このように音源とリスナーの存在するレイヤーグループが異なるか否かによって音の減衰及びローパスフィルタのパラメータを異ならせた表を用意することによって、既に述べたような橋などが存在する場合の音の伝搬に関する処理が行える。
なお、レイヤーグループを定義した表(例えば図9B)をメモリに予め記憶しておくことが望ましい。
【0081】
図20Aは、識別子の値と、部分空間のサイズとの関係を示した表2000を示す。部分空間のサイズは、部分空間と同じ体積を持つ直方体の一辺の長さで表現されてもよい。或いは、部分空間のサイズは、例えば、部分空間の体積によって表現されてもよい。
図20Bは、部分空間のサイズに対応した環境音の定義及びリバーブのパラメータを代表する名称が定義された表2001を示す。
【0082】
表2001に示した環境音は、例示である。また、リバーブは音の反響を示すエフェクトのパラメータの例である。音の反響は、リバーブだけに限られるものではなく、エコー又はディレイなどでもよい。
【0083】
なお、音響効果は、以上に挙げた例に限られるものではなく、ハイパスフィルタ、フェイズシフタ、ディストーション、コーラスなど、様々な音響効果を採用することができることは言うまでもない。
表1900、表1901、表2000及び表2001は、第2の関係データの一例である。
【0084】
また、以上の実施形態では、音を例にしたが、振動であってもよい。
【0085】
図21は、実施形態の各ハードウェア構成を示している。ハードウェア構成は、CPU1001、本実施形態のプログラム及びデータが格納され得るROM1002、RAM1003、ネットワークインターフェース1005、入力インタフェース1006、表示インタフェース1007、外部メモリインタフェース1008を有する。これらのハードウェアは、バス1004によって相互に接続されている。
【0086】
ネットワークインターフェース1005は、ネットワーク1015に接続されている。ネットワーク1015には、有線LAN、無線LAN、インターネット、電話網などがある。入力インタフェース1006には、入力部1016が接続されている。表示インタフェース1007には、表示部1017が接続される。外部メモリインタフェース1008には、記憶媒体1018が接続される。記憶媒体1018は、RAM、ROM、CD-ROM、DVD-ROM、ハードディスク、メモリーカード、USBメモリ等であってもよい。
上述の実施形態を実現するプログラム及び方法は、図22に示されるハードウェア構成を備えるコンピュータにより実行され得る。
なお、リスナー及び音源は、それぞれ複数存在していてもよい。
また、隣り合う部分空間を隔てているドアが開いた場合など、部分空間が連結した場合には、第1の関係データを変更してもよい。或いは、ドアが開いた場合を想定した第1の関係データを別途用意しておいて、ドアが開いた場合には、第1の関係データのメモリ上の位置を示すポインタを変更することで、異なる第1の関係データを適宜切り替えて用いてもよい。
以上の実施形態は、請求項に定義された発明を例示する者であって、制限するためのものと理解されてはならない。
【符号の説明】
【0087】
1004 バス
1005 ネットワークインターフェース
1006 入力インタフェース
1007 表示インタフェース
1008 外部メモリインタフェース
1015 ネットワーク
1016 入力部
1017 表示部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21