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特許7633102蛍光寿命計測のバックグラウンド除去方法及び標的物質の定量方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】蛍光寿命計測のバックグラウンド除去方法及び標的物質の定量方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
G01N21/64 B
G01N21/64 F
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021102976
(22)【出願日】2021-06-22
(65)【公開番号】P2023002007
(43)【公開日】2023-01-10
【審査請求日】2024-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】小田 明典
(72)【発明者】
【氏名】里園 浩
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特許第6133053(JP,B2)
【文献】特表2016-538986(JP,A)
【文献】特表2013-534171(JP,A)
【文献】特表2019-502125(JP,A)
【文献】国際公開第2017/056905(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/090517(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0146827(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/83
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒中に存在する標的物質を、前記標的物質と結合する蛍光物質を用いて定量する方法であって、
第1の溶媒と、前記標的物質又は前記蛍光物質とを含み、かつ前記蛍光物質と結合した前記標的物質を含まない第1の試料に対して、前記蛍光物質を励起する励起光を照射して第1の蛍光減衰曲線を取得し、前記第1の蛍光減衰曲線及び第1の蛍光寿命値から、第1の重み因子を取得する第1ステップと、
第2の溶媒と、前記蛍光物質と結合した前記標的物質とを含む第2の試料に対して、前記蛍光物質を励起する励起光を照射して第2の蛍光減衰曲線を取得し、前記第2の蛍光減衰曲線、第2の蛍光寿命値、前記第1の蛍光寿命値及び前記第1の重み因子から、第2の重み因子を取得する第2ステップと、
前記第2の重み因子から、前記標的物質の定量を行う第3ステップと、を備える方法。
【請求項2】
前記第1の蛍光寿命値は、第1の蛍光減衰曲線から取得される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
第2の蛍光寿命値は、第2の蛍光減衰曲線から取得される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記第2ステップにおいて、複数の蛍光成分又は複数のバックグラウンド成分に関して前記第2の蛍光寿命値及び前記第2の重み因子を取得する、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記第1ステップにおいて、複数の蛍光成分又は複数のバックグラウンド成分に関して前記第1の蛍光寿命値及び前記第1の重み因子を取得する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の試料は、前記標的物質及び前記蛍光物質のうち、前記標的物質のみを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第1の試料は、前記標的物質及び前記蛍光物質のうち、前記蛍光物質のみを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記標的物質がタンパク質である、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記第3ステップにおいて、前記第2の重み因子を有するパラメータと、既知濃度の前記標的物質を含む標準試料に対して前記第1ステップ及び前記第2ステップを実施して得られる第2の重み因子を有するパラメータとを対比する、請求項1~8のいずれか一項に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光寿命計測のバックグラウンド除去方法及び標的物質の定量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被験試料中に存在する標的物質の定量は、蛍光物質を標的物質に結合させて蛍光強度を測定する方法によって行われている(例えば特許文献1,2。)蛍光強度の測定結果に影響する因子の一つに蛍光寿命があり、蛍光寿命を正確に測定することが、標的物質を正しく定量するのに重要である。
【0003】
蛍光寿命は、蛍光減衰曲線を測定し、得られた蛍光減衰曲線を、理論式(一般的には複数成分の指数関数)にカーブフィッティングして求める。蛍光減衰曲線の測定及び解析においては、バックグラウンド光の存在が結果に大きく影響し、間違った解析の原因となるため、バックグラウンド光を正しく解析することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-122846号公報
【文献】国際公開第2004/090517号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、溶媒中に存在する標的物質の定量の正確性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の[1]~[9]に関する。
【0007】
[1]溶媒中に存在する標的物質を、上記標的物質と結合する蛍光物質を用いて定量する方法であって、第1の溶媒と、上記標的物質又は上記蛍光物質とを含み、かつ上記蛍光物質と結合した上記標的物質を含まない第1の試料に対して、上記蛍光物質を励起する励起光を照射して第1の蛍光減衰曲線を取得し、上記第1の蛍光減衰曲線及び第1の蛍光寿命値から、第1の重み因子を取得する第1ステップと、第2の溶媒と、上記蛍光物質と結合した上記標的物質とを含む第2の試料に対して、上記蛍光物質を励起する励起光を照射して第2の蛍光減衰曲線を取得し、上記第2の蛍光減衰曲線、第2の蛍光寿命値、上記第1の蛍光寿命値及び上記第1の重み因子から、第2の重み因子を取得する第2ステップと、上記第2の重み因子から、上記標的物質の定量を行う第3ステップと、を備える方法。
[2]上記第1の蛍光寿命値は、第1の蛍光減衰曲線から取得される、[1]に記載の方法。
[3]上記第2の蛍光寿命値は、第2の蛍光減衰曲線から取得される、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]上記第2ステップにおいて、複数の蛍光成分又は複数のバックグラウンド成分に関して上記第2の蛍光寿命値及び前記第2の重み因子を取得する、[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5]上記第1ステップにおいて、複数の蛍光成分又は複数のバックグラウンド成分に関して上記第1の蛍光寿命値及び上記第1の重み因子を取得する、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]上記第1の試料は、上記標的物質及び上記蛍光物質のうち、上記標的物質のみを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]上記第1の試料は、上記標的物質及び上記蛍光物質のうち、上記蛍光物質のみを含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[8]上記標的物質がタンパク質である、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[9]上記第3ステップにおいて、上記第2の重み因子を有するパラメータと、既知濃度の上記標的物質を含む標準試料に対して上記第1ステップ及び上記第2ステップを実施して得られる第2の重み因子を有するパラメータとを対比する、[1]~[8]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、溶媒中に存在する標的物質の定量の正確性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、標的物質の定量に用いる蛍光寿命を解析するために用いるフローチャートである。
図2図2は、測定装置の装置応答関数E(t)のグラフである。
図3図3は、バックグラウンド成分の蛍光減衰曲線(検証用)である。
図4図4は、バックグラウンド成分と試料の蛍光成分とを含んだ蛍光減衰曲線(検証用)である。
図5図5は、Aβ(1-42)凝集体を含むバックグラウンド用試料の蛍光減衰曲線である。
図6図6は、Aβ(1-42)凝集体と結合したチオフラビンTの蛍光減衰曲線である。
図7図7は、チオフラビンTを含むバックグラウンド用試料の蛍光減衰曲線である。
図8図8は、Aβ(1-42)凝集体と結合したチオフラビンTの蛍光減衰曲線である。
図9図9(a)は、ビオチン修飾ATTO390を含むバックグラウンド用試料の蛍光減衰曲線であり、図9(b)は、ビオチン修飾ATTO425及びビオチン修飾ATTO390を含む試料の蛍光減衰曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態に係る方法は、溶媒中に存在する標的物質を、上記標的物質と結合する蛍光物質を用いて定量する方法であって、第1の溶媒と、上記標的物質又は上記蛍光物質とを含み、かつ上記蛍光物質と結合した上記標的物質を含まない第1の試料に対して、上記蛍光物質を励起する励起光を照射して第1の蛍光減衰曲線を取得し、上記第1の蛍光減衰曲線及び第1の蛍光寿命値から、第1の重み因子を取得する第1ステップと、第2の溶媒と、上記蛍光物質と結合した上記標的物質とを含む第2の試料に対して、上記蛍光物質を励起する励起光を照射して第2の蛍光減衰曲線を取得し、上記第2の蛍光減衰曲線、第2の蛍光寿命値、上記第1の蛍光寿命値及び上記第1の重み因子から、第2の重み因子を取得する第2ステップと、上記第2の重み因子から、上記標的物質の定量を行う第3ステップと、を備える。
【0012】
本実施形態に係る方法によれば、蛍光寿命の測定の正確性を上げることができ、それにより、標的物質の定量の正確性を向上させることができる。
【0013】
標的物質としては、タンパク質、核酸、ウイルス、細菌、汚染物質等が挙げられる。より具体的には、例えば、Aβ(1-42)凝集体等が挙げられる。
【0014】
蛍光物質としては、蛍光色素、蛍光染色剤、量子ドット、蛍光ビーズ等が挙げられる。より具体的には、例えば、チオフラビンS、6-(2-フルオロエトキシ)-2-(4-メチルアミノスチリル)ベンゾオキサゾール(BF-168)、8-アニリノ-1-ナフタレンスルホン酸(ANS)、チオフラビンT、2-(4´-アミノフェニル)-6-メチルベンゾオキサゾール(MBPA)、2-(4´-メチルアミノフェニル)-6-メチルベンゾオキサゾール((6-Me-)BTA-1)、2-(4´-ジメチルアミノフェニル)-6-ヨードベンゾチアゾール(TZDM)、2-(4´-メチルアミノフェニル)-6-ヒドロキシベンゾチアゾール(PIB)、2-(4´-ジメチルアミノフェニル)-6-ヨードベンゾオキサゾール(IBOX)ATTO425、ATTO390等が挙げられる。
【0015】
溶媒としては、水、緩衝液、培地等が挙げられる。より具体的には、例えば、精製水、イオン交換水、超純水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝生理食塩水(TBS)、グリシン緩衝溶液(グリシン-水酸化ナトリウム溶液)、DMSO含有培地等が挙げられる。溶媒は第1の溶媒及び第2の溶媒を含有していてよく、第1の溶媒及び第2の溶媒が同じものであっても異なるものであってもよい。
【0016】
(第1ステップ)
第1ステップにおいては、まず、第1の試料に対して、蛍光物質を励起する励起光を照射して第1の蛍光減衰曲線(バックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t))を取得する。この操作は、図1における、「(2)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の測定」に相当する。第1ステップにおいては、バックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t)を、多成分指数関数で解析することができる。この操作は、図1における、「(3)バックグラウンドの減衰曲線の解析」に相当する。数式3で示される関数G(t)を、数式4にしたがってコンボリューション積分してI(t)を計算し、このI(t)と、バッググラウンドの蛍光減衰曲線B(t)から、数式5に従ってχ値を計算することができる。I(t)とB(t)が最も良く一致するように、χを最小にする変数の組み合わせを探索し、数式3におけるτb1~τbn、Ab1~Abnの最良の組み合わせを得ることができる。この解析の結果得られたτb1~τbn(第1の蛍光寿命値)及びAb1~Abn(第1の重み因子)を、バックグラウンド成分のパラメータとすることができる。
【0017】
数式3において、bnはバックグランドの解析に使用される指数関数の成分数とすることができる。成分数bnの値は任意のものであってよいが、χ<1.2を目安として良好なフィッティングが得られるのに十分な数とするのが好ましい。実際には2~3成分程度とするのが一般的であるが、単一の成分に関して第1の蛍光寿命値及び第1の重み因子を取得することが妨げられるわけではない。数式4において、E(t)は事前に測定された測定装置の装置応答関数とすることができる。数式5において、cは解析の開始時間、cは解析の終了時間とすることができる。
【0018】
【数1】
【0019】
第1ステップにおいて、複数の蛍光成分又は複数のバックグラウンド成分に関して第1の蛍光寿命値及び第1の重み因子を取得することができる。第1の蛍光寿命値及び第1の重み因子を取得することによって、蛍光物質と結合した標的物質の蛍光寿命値をより正しく測定することができ、その結果、標的物質の定量の正確性が向上する。
【0020】
第1の蛍光寿命値は、既知の値であってもよく、第1の蛍光減衰曲線から取得される値であってもよい。
【0021】
第1の試料は、標的物質及び蛍光物質のうち、標的物質のみを含んでいてよく、また、蛍光物質のみを含んでいてもよい。
【0022】
(第2ステップ)
第2ステップにおいては、まず、第2の試料に対して、蛍光物質を励起する励起光を照射して第2の蛍光減衰曲線(バックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線F(t))を取得する。この操作は、図1における、「(1)蛍光減衰曲線の測定」に相当する。第2ステップにおいては、第1ステップで求められたバックグラウンド成分のパラメータを用いて、バックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線F(t)を、多成分指数関数で解析することができる。この操作は、図1における、「(4)バックグラウンドのパラメータを含めた蛍光減衰曲線の解析」に相当する。数式6に従って関数G(t)を計算し、数式7にしたがってコンボリューション積分してI(t)を計算し、I(t)と、蛍光減衰曲線F(t)とから、数式8に従ってχ値を計算することができる。I(t)とF(t)が最も良く一致するように、χを最小にする変数τ~τ、A~Aの組み合わせを探索することができる。この結果得られたτ~τ及びA~Aを、求める第2の蛍光寿命及び第2の重み因子の解析結果とすることができる。数式8において、cは解析の開始時問、cは解析の終了時間としてよい。数式6における成分数nの値は任意のものであってよいが、χ<1.2を目安として良好なフィッティングが得られるのに十分な数とするのが好ましい。実際には2~3成分程度とするのが一般的であるが、単一の成分に関して第2の蛍光寿命値及び第2の重み因子を取得することが妨げられるわけではない。数式6において、bn、A~Abn及びτ~τbnは、第1ステップで決定したバックグラウンドの成分数とパラメータである。数式7において、E(t)は事前に測定された測定装置の装置応答関数とすることができる。
【0023】
【数2】
【0024】
第2の蛍光寿命値は、既知の値であってもよく、第2の蛍光減衰曲線から取得される値であってもよい。
【0025】
(第3ステップ)
第2の蛍光寿命値と第2の重み因子との積を、濃度が未知である標的物質に結合した蛍光物質の蛍光量とすることができる。標的物質の濃度(又は重量)が様々である複数の標準試料について、第1ステップ及び第2ステップをそれぞれ実施し、第2の蛍光寿命値と第2の重み因子との積(すなわち蛍光量)をそれぞれ求め、蛍光量及び濃度(又は重量)をプロットして検量線を作成することができる。この検量線と、濃度(又は重量)が未知である標的物質について求めた蛍光量とから、標的物質の濃度(又は重量)を定量することができる。標的物質の濃度を正確に求めなくてもよい場合においては、必ずしも検量線の作成は必要ではなく、いくつかの標準試料の蛍光量と比較するだけでもよい。また、標的物質の第2の蛍光寿命値が同一であることが保証されている場合は、第2の蛍光寿命値と第2の重み因子の積から蛍光量を求める必要はなく、第2の重み因子の比較のみでもよい。
【実施例
【0026】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。ただし、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0027】
(実施例1)
本発明による蛍光減衰曲線の解析例を、図1のフローチャートに従って、以下に記す。なお、本実施例においては、従来法に比べてより正しい答えが得られることを示すために、実験で得られた減衰曲線ではなく、既知のパラメータから理論的に求められた、検証用の減衰曲線を用いて説明する。
【0028】
(1-1)検証用減衰曲線の計算
(1-1-1)バックグラウンドの蛍光減衰曲線
バックグラウンドの蛍光減衰曲線の作成方法を以下に記す。実際の実験において、この操作は図1における「(2)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の測定」に相当する。
表1に示すバックグラウンドの寿命パラメータを数式1に代入し、蛍光減衰曲線G(t)を求めた。なお数式1中の添字iは、バックグラウンド成分の順を表している。G(t)と、図2に示す事前に実測された測定装置の装置応答関数E(t)から、数式2を使ってコンボリューション積分して減衰曲線I(t)を求め、最後に強度に対応したポアソン雑音を付加してバックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t)を計算した。計算されたバックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t)を図3に示す。
【0029】
【数3】
【0030】
【表1】
【0031】
【数4】
【0032】
(1-1-2)バックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線
バックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線の作成方法を以下に記す。実際の実験において、この操作は図1における「(1)蛍光減衰曲線の測定」に相当する。表2に示す蛍光寿命パラメータとバックグラウンドの寿命パラメータとを数式1に代入し、蛍光減衰曲線G(t)を求めた。なお、数式1中の添字iは、バックグラウンド成分の順を表している。G(t)と、図2に示す事前に実測された測定装置の装置応答関数E(t)から、数式2を使ってコンボリューション積分して減衰曲線I(t)を求め、最後に強度に対応したポアソン雑音を付加してバックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線F(t)を計算した。本パラメータにおいて、蛍光成分とバックグラウンド成分の強度の比、すなわちSN比は5であった。計算されたバックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線F(t)を図4に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
(1-2)本発明による、バックグラウンド含んだ蛍光減衰曲線の解析
本発明に基づき、(1-1-2)で計算したバックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線F(t)の、バックグラウンドのパラメータを含めた蛍光減衰曲線の解析を行う手順と例を以下に示す。
【0035】
(1-2-1)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の解析
(1-1-1)で計算されたバックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t)を多成分指数関数で解析した。この操作は、図1における、「(3)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の解析」に相当する。この解析は次の手順で行った。まず数式3で示される関数G(t)を、数式4にしたがってコンボリューション積分してI(t)を計算し、このI(t)と、(1-1-1)で計算されたバッググラウンドの蛍光減衰曲線B(t)から、数式5に従ってχ値を計算した。I(t)とB(t)が最も良く一致するように、χを最小にする変数の組み合わせを探索し、数式3におけるτb1~τbn、Ab1~Abnの最良の組み合わせを得た。この解析の結果得られたτb1~τbn及びAb1~Abnがバックグラウンド成分のパラメータとなる。
【0036】
数式3において、bnはバックグランドの解析に使用される指数関数の成分数である。成分数bnの値は任意であるが、χ<1.2が目安となる良好なフィッティングが得られるのに十分な数とする。実際には2~3成分程度であるが、本実施例では、バックグラウンドの蛍光減衰曲線を計算する際に仮定されたバックグラウンド成分数である2成分(bn=2)とした。数式4において、E(t)は事前に測定された測定装置の装置応答関数である。数式5において、cは解析の開始時間、cは解析の終了時間を示し、本解析ではcとして減表曲線の立ち上がりがピーク値の90%となる101channel、cとしては計測終了時間である1024channelとした。
【0037】
解析の結果を表3に示す。解析で得られた各パラメータと、(1-1-2)で用いた各パラメータとの誤差は、2%以下であった。
【0038】
【数5】
【0039】
【表3】
【0040】
(1-2-2)バックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線の解析
(1-2-1)で求められたバックグラウンドのパラメータを用いて、バックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線F(t)を、多成分指数関数で解析した。この操作は、図1における、「(4)バックグラウンドのパラメータを含めた蛍光減衰曲線の解析」に相当する。数式6に従って関数G(t)を計算し、数式7にしたがってコンボリューション積分してI(t)を計算し、I(t)と(1-1-2)で計算した蛍光減衰曲線F(t)から、数式8に従ってχ値を計算した。I(t)とF(t)が最も良く一致するように、χを最小にする変数τ~τ、A~Aの組み合わせを探索した。この結果得られたτ~τ及びA~Aを、求める第2の蛍光寿命及び第2の重み因子の解析結果とすることができる。数式8において、cは解析の開始時問、cは解析の終了時間を示し、本解析では、cとして減衰曲線の立ち上がりがピーク値90%となる114channel、cとしては計測終了時間である1024channelとした。数式6における成分数nの値は任意であるが、良好なフィッティングが得られるのに十分な数が必要である。実際にはχ<1.2が目安となる。本例では、蛍光減衰曲線の作成時に使用された成分数n=3とした。また、数式6において、bn、τb1~τbn及びAb1~Abnは、(1-2-1)で決定したバックグラウンドの成分数とパラメータである。数式7において、E(t)は事前に測定された測定装置の装置応答関数である。
【0041】
【数6】
【0042】
以上の解析手順により、蛍光寿命値τ~τ、及び、相当する寿命値の重み因子A~Aを求めた。解析の結果を表4に示す。想定されたパラメータとの相対誤差を表5に示す。フィッティングの良否の目安であるχは1.11で、フィッティングは良好であった。以下の比較例1に示す従来法による解析結果と異なり、蛍光成分については、2%以下の精度で、減衰曲線の作成に使用した寿命値と重み因子を再現できた。この結果から、バックグラウンドを含む蛍光減衰曲線の解析において、本発明がバックグラウンドと蛍光成分を正しく分離し、精度の高い解析が可能であることが示された。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
(比較例1)従来法による、バックグラウンドを含んだ蛍光減衰曲線の解析
従来法、すなわちバックグラウンド成分を、蛍光成分の追加の成分として扱い、目的の蛍光成分と同時に解析した結果について、以下に記す。
まず、数式9に従って関数G(t)を計算し、数式10に従ってコンボリューション積分してI(t)を計算し、このI(t)と、(1-1-2)で計算した蛍光減衰曲線F(t)から、数式11に従ってフィッティングの目安となるχ値を計算した。I(t)とF(t)が最も良く一致するように、χを最小にする変数τ~τ、A~Aの組み合わせを探索した。この結果得られたτ~τ及びA~Aが、求める蛍光寿命値及び重み因子の解析結果となる。
【0046】
数式9において、nは解析に用いる指数関数の数である。ここでは、蛍光の指数関数3成分にバックグラウンドの成分数2を加え、n=5とした。数式11において、cは解析の開始時問、cは解析の終了時間で、本解析ではcとして減衰曲線の立ち上がりがピーク値の90%となる114channel、cとしては計測終了時間である1024channelとした。解析の結果を表6に示す。解析で得られた各パラメータと、(1-1-2)で用いた各パラメータとの誤差を表7に示す。
【0047】
フィッティングの良否の目安であるχは1.09で、フィッティングは良好であった。しかしながら、蛍光成分(i=2)とバックグラウンド成分(i=4)の蛍光寿命値が同じ値となっており、蛍光成分とバックグラウンド成分とを分離できていなかった。その影響で、蛍光成分(i=2)の重み因子、蛍光成分(i=3)及びバックグラウンド成分(i=4、i=5)の蛍光寿命値及び重み因子の誤差が大きかった。この結果から、バックグラウンド成分を考慮するために、単純に指数関数成分を増やしても、精度の高い解析は出来ないことが示された。
【0048】
【数7】
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
(実施例2)
実施例1で記載した解析法を、チオフラビンTと結合したAβ(1-42)凝集体の試料の蛍光減衰曲線に適応した例を説明する。本実施例において、蛍光試料は、チオフラビンTに結合したAβ(1-42)凝集体である。
【0052】
(2-1)Aβ(1-42)凝集体の調製
ヒト由来Aβ(1-42)タンパク質(ペプチド研究所)をジメチルスルホキシドで5mmol/Lとなるように溶解し、更にl0mmol/L塩酸を用いて100μmo1/Lに希釈した。得られた溶液を37℃のインキュベータ内に24時間静置し、Aβ(1-42)凝集体サンプルを調製した。
【0053】
(2-2)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の測定
Aβ(1-42)凝集体サンプル10μLに、グリシン緩衝溶液(50mmol/Lグリシン-水酸化ナトリウム溶液 pH9.0)410μLと、蒸留水80μLを混合してバックグラウンド用試料とした。バックグラウンド用試料について、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社Quantaurus-Tau)を用い、励起波長405nm、観測波長500nmで、バックグラウンドの蛍光減衰曲線の測定を行った。得られたバックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t)を図5に示す。
【0054】
(2-3)チオフラビンTで染色したAβ(1-42)凝集体の蛍光減衰曲線の測定
Aβ(1-42)凝集体サンプル10μLに、グリシン緩衝溶液410μLと、100μmol/LのチオフラビンT水溶液l0μLと蒸留水70μL又は100μmol/LのチオフラビンT水溶液20μLと蒸留水60μLを混合し、Aβ(1-42)に対するチオフラビンTのモル数の比が1である試料(以下、TA1と略記する。)と、Aβ(1-42)に対するチオフラビンTのモル数の比が2である試料(以下、TA2と略記する。)とをそれぞれ調製した。各試料について、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社 Quantaurus-Tau)を用い、励起波長405nm、観測波長500nmで蛍光減衰曲線の測定を行った。得られた2本の蛍光減衰曲線FTA1(t)及びFTA2(t)を図6に示す。
【0055】
(2-4)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の解析
図1における「(3)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の解析」について説明する。(2-2)で得られたバックグラウンドの蛍光減衰曲線から、実施例1の(1-2-1)の手順に従って、バックグラウンドのパラメータを決定した。χ値の計算では、I(t)とB(t)とが最もよく一致するように、χ値を最小にするτb1~τbn及びAb1~Abnの組み合わせが探索された。パラメータ決定において、減衰曲線は3成分で解析された。得られたバックグラウンドのパラメータを表8に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
(2-5)チオフラビンTで染色したAβ(1-42)凝集体の蛍光減衰曲線の解析
図1における「(4)バックグラウンドのパラメータを含めた蛍光減衰曲線の解析」について説明する。(2-3)で得られたチオフラビンTで染色したAβ(1-42)凝集体の蛍光減衰曲線と、表8のバックグラウンドのパラメータから、実施例1の(1-2-1)の手順に従って、蛍光減衰曲線をそれぞれ解析した。χ値の計算では、I(t)とFTA1(t)又はFTA2(t)とが最もよく一致するように、χ値を最小にするτ~τ及びA~Aの組み合わせが探索された。蛍光部分は4成分、すなわちn=4で解析された。TAl試料の蛍光寿命の解析結果を表9に、TA2試料の解析結果を表10に示す。なお表9、表10においてバックグラウンド成分のパラメータは省略した。
【0058】
【表9】
【0059】
【表10】
【0060】
χ値は両方ともl.2以下で、フィッティングは良好であった。TAlとTA2の蛍光寿命値は、第2成分がわずかに異なることを除き、一致した。
【0061】
(比較例2)
本発明に依らずに(比較例1と同じ方法で)TAlとTA2の蛍光減衰曲線を4指数関数成分で直接解析した結果を、表11と表12にそれぞれ示す。
【0062】
【表11】
【0063】
【表12】
【0064】
本発明に依らずに(比較例1と同じ方法で)解析した場合でも、χ値は両方ともl.2以下で、フィッティングは良好であった。一方で、蛍光寿命値は、濃度によって異なる値を示した。濃度変化による蛍光寿命値の変化は、特別な動的相互作用が蛍光分子に働く場合を除き無いことを考えると、本発明に依らない解析結果は間違っており、本発明による解析結果の方がより正しく解析できていることが分かる。以上の結果から、実サンプルにおいても、本発明により正しく蛍光寿命値を解析できることが示され、正しく標的物質の定量ができることが示唆された。
【0065】
(実施例3)
参考例で記載した解析法を、チオフラビンTと結合したAβ(1-42)凝集体試料の蛍光減衰曲線に適応した、もう一つの例を示す。本実施例においては、実施例2と異なり、バックグラウンドの蛍光減衰曲線を得るための試料に蛍光色素チオフラビンTが含まれており、チオフラビンT中の蛍光性不純物によるバックグラウンドの影響を除いて、正しく解析出来ることを示す。なお、簡略化のため実施例2と重複する部分は省き、異なる部分のみを記す。
【0066】
(3-1)Aβ(1-42)凝集体の調製
実施例2の(2-1)の手順にしたがってAβ(1-42)凝集体サンプルを調製した。調製時に使用した溶媒(Aβ(1-42)タンパク質及びAβ(1-42)凝集体のいずれも含まない、ジメチルスルホキシドと塩酸を含む液)を溶媒Aという。
【0067】
(3-2)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の測定
グリシン緩衝溶液(50mmol/L グリシン-水酸化ナトリウム溶液 pH9.0)800μLと、100μmol/LのチオフラビンT水溶液100μL、並びに溶媒A100μLを混合し、バックグラウンド用試料とした。試料について、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社Quantaurus-Tau)を用い、励起波長405nm、観測波長500nmで、バックグラウンドの蛍光減衰曲線の測定を行った。得られたバックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t)を図7に示す。
【0068】
(3-3)チオフラビンTで染色したAβ(1-42)凝集体の蛍光減衰曲線の測定
Aβ(1-42)凝集体サンプル12.5μL及び溶媒A87.5μL、並びに、Aβ(1-42)凝集体サンプル6.25μL及び溶媒A93.75μLに、100μmol/LのチオフラビンT水溶液100μLと、グリシン緩衝溶液800μLを混合し、Aβ(1-42)に対するチオフラビンTのモル数の比が8(以下、TA8と略記する。)とAβ(1-42)に対するチオフラビンTのモル数の比が16(以下、TA16と略記する。)の各試料を調製した。各々の試料について、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社Quantaurus-Tau)を用い、励起波長405nm、観測波長500nmで、蛍光減衰曲線の測定を行った。得られた2本の蛍光減衰曲線FTA8(t)及びFTA16(t)を図8に示す。
【0069】
(3-4)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の解析
(3-2)で得られたバックグラウンドの蛍光減衰曲線B(t)から、実施例2の(2-4)の手順に従って、バックグラウンドのパラメータを決定した。χ値の計算では、I(t)とB(t)とが最もよく一致するように、χ値を最小にするτb1~τbn及びAb1~Abnの組み合わせが探索された。パラメータ決定において、減衰曲線は3成分で解析された。得られたパラメータを表13に示す。ここで、パラメータの第1成分τb1とAb1は、チオフラビンT由来の蛍光であるのは明らかで、それ以外の成分がバックグラウンドとなる。したがって、バックグラウンドのパラメータとしてτb2~τb3、Ab2~Ab3を採用した。
【0070】
【表13】
【0071】
(3-5)チオフラビンTで染色したAβ(1-42)凝集体の蛍光減衰曲線の解析
(3-3)で得られたチオフラビンTで染色したAβ(1-42)凝集体の2つの蛍光減衰曲線と、表13のバックグラウンドのパラメータτb2~τb3、Ab2~Ab3から、実施例2の(2-4)の手順に従って、蛍光減衰曲線FTA8(t)及びFTA16(t)をそれぞれ解析した。χ値の計算では、I(t)とFTA8(t)又はFTA16(t)とが最もよく一致するように、χ値を最小にするτb1~τbn及びAb1~Abnの組み合わせが探索された。この解析において、蛍光成分は両方とも4成分で解析された。TA8における蛍光寿命の解析結果を表14に、TA16における蛍光寿命の解析結果を表15に示す。
【0072】
【表14】
【0073】
【表15】
【0074】
χ値は両方とも1.2以下で、フィッティングは良好であった。濃度による寿命値の変化がほとんど無く、正しく解析できていることが分かる。
【0075】
(比較例3)
本発明に依らずに(比較例1と同じ方法で)2つの蛍光減衰曲線FTA8(t)及びFTA16(t)を、4指数関数成分で直接解析した結果を、表16と表17に示す。
【0076】
【表16】
【0077】
【表17】
【0078】
χ値は両方ともl.2以下で、フィッティングは良好であった。濃度の変化で寿命値が異なっており、正しく解析できなかった。
【0079】
(実施例4)
本発明を、蛍光標識試薬ATTO425の定量に適応した例を説明する。本実施例において、蛍光試料はATTO425であり、バックグラウンド蛍光体としてATTO390を混合した。
【0080】
(4-1)試料の調製
目的の蛍光物質であるビオチン修飾ATTO425(AD425-71,ATTO-TECGmbH)と、バックグラウンド蛍光物質であるビオチン修飾ATTO390(AD390-71,ATTO-TECGmbH)をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水に溶解し、濃度をそれぞれ5nM、10nMとした。
本試料において、ATTO425の蛍光強度は、バックグラウンドのATTO390の約1.3倍である。
【0081】
(4-2)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の測定
ビオチン修飾ATTO390をpH7.4のリン酸緩衝生理食塩水に溶解し、濃度を10nMとした。この試料を蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社Quantaurus-Tau)に設置し、励起波長405nm、観測波長500nmで、蛍光減衰曲線を測定した。得られたバックグラウンドの蛍光減衰曲線を図9の曲線(a)に示す。
【0082】
(4-3)試料の蛍光減衰曲線の測定
(4-1)で調製した試料を、蛍光寿命測定装置(浜松ホトニクス社Quantaurus-Tau)に設置し、励起波長405nm、観測波長500nmで、蛍光減衰曲線を測定した。得られた試料の蛍光減衰曲線を図9の曲線(b)に示す。
【0083】
(4-4)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の解析
図1における「(3)バックグラウンドの蛍光減衰曲線の解析」について説明する。
(4-3)で得られたバックグラウンドの蛍光減衰曲線から、実施例1の(1-2-1)の手順に従って、バックグラウンドのパラメータを決定した。パラメータ決定において、減衰曲線は1成分で解析された。得られたバックグラウンドのパラメータを表18に示す。
【0084】
【表18】
【0085】
(4-5)試料の蛍光減衰曲線の解析
本発明に基づき、バックグラウンド蛍光の寿命値と重み因子を前もって求めておいて、試料の減衰曲線の解析に際して両方とも定数として解析した結果を、表19に示す。
【0086】
【表19】
【0087】
表19において、ATTO425の蛍光寿命値は3.51ns、蛍光強度比は1.36と、正しい値の3.6ns、1.3にほぼ相当する結果となった。したがって、本発明による解析方法で、バックグラウンド蛍光が存在する試料においても(バックグラウンド成分と標的蛍光成分との差が小さい試料においても)正しく蛍光寿命値と重み因子を求めることができることが示された。
【0088】
(比較例4)
本発明に依らずに、バックグラウンド蛍光を陽に解析成分に含めて、すなわち試料の蛍光成分とバックグラウンド成分との2成分で解析した結果を表20に示す。
【0089】
【表20】
【0090】
表20において、第1成分が目的とするATTO425の蛍光であると思われるが、ATTO425の正しい寿命値3.6nsと値が違うことや、蛍光強度がバックグラウンドのATTO390より1.3倍強いはずが、逆に弱くなっているなど、間違った解析結果が得られた。したがって本試料では、バックグラウンド蛍光を陽に解析成分に含める方法では正しく解析できなかった。
【0091】
(比較例5)
例えば特許第6133053号には、バックグラウンドの寿命値を先に求めておき、試料の減衰曲線の解析に際して、バックグラウンドの寿命値を定数に、重み因子を変数として解析する方法が示されている。この方法に基づき、前もって測定されたATTO390の寿命値5.14nsを用いて解析した結果を表21に示す。
【0092】
【表21】
【0093】
表21において、ATTO425の蛍光寿命値は3.67nsとほとんど正しく求められたが、蛍光強度比は1.83と正しい値の1.3とは異なっており、正しい解析結果が得られなかった。したがって、特許第6133053号の方法では、蛍光強度は正しく求めることができない。
【0094】
以上の結果から、本発明は従来法と比較して精度よく蛍光寿命値を解析できることが示された。蛍光寿命(及び重み因子)の正確な測定は標的物質の正確な定量につながるため、実施例1~4で得られた蛍光寿命値及び重み因子を用いれば、標的物質を正確に定量することができると考えられる。本実施例は、蛍光試薬に不純物がある場合においても、それを考慮した、より正しい蛍光減衰曲線の解析が可能であることを示すものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9