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特許7633113ヒータ端子カバー、ヒータユニット、および、熱処理装置
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  • 特許-ヒータ端子カバー、ヒータユニット、および、熱処理装置 図1
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  • 特許-ヒータ端子カバー、ヒータユニット、および、熱処理装置 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】ヒータ端子カバー、ヒータユニット、および、熱処理装置
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/02 20060101AFI20250212BHJP
   F27D 11/02 20060101ALI20250212BHJP
   F27B 5/14 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
H05B3/02 Z
H05B3/02 A
F27D11/02 A
F27B5/14
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021120844
(22)【出願日】2021-07-21
(65)【公開番号】P2023016497
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000167200
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトサーモシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】笠次 克尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 恵夫
(72)【発明者】
【氏名】上森 進
(72)【発明者】
【氏名】西岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】福西 勇太
【審査官】河野 俊二
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-152866(JP,A)
【文献】特開2002-313539(JP,A)
【文献】特開2000-164602(JP,A)
【文献】特開2012-114327(JP,A)
【文献】特開平05-175139(JP,A)
【文献】米国特許第04885454(US,A)
【文献】特開2015-142042(JP,A)
【文献】特開2006-179897(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/02
F27D 11/02
F27B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデンを含む材料で形成された端子を含むヒータの前記端子の少なくとも一部を覆うヒータ端子カバーであって、
前記端子の外周部を全周に亘って取り囲むように構成された筒状部を有する本体と、
前記本体に形成され前記筒状部内に向けて不活性ガスを供給するためのノズルと、
を備え
前記本体は、前記ノズルが形成された前記筒状部と、前記筒状部の外周部を取り囲むように配置された外周壁部と、前記不活性ガスを前記外周壁部と前記筒状部との間に供給するためのポートと、を含んでいる、ヒータ端子カバー。
【請求項2】
請求項に記載のヒータ端子カバーであって、
前記ノズルは、前記筒状部の周方向に沿って互いに離隔して複数形成されている、ヒータ端子カバー。
【請求項3】
請求項または請求項に記載のヒータ端子カバーであって、
前記筒状部は、一対の前記端子をそれぞれ取り囲むために一対設けられており、
前記外周壁部が一対の前記筒状部を取り囲んでいる、ヒータ端子カバー。
【請求項4】
請求項1~請求項の何れか1項に記載のヒータ端子カバーであって、
前記本体と前記端子との間を塞ぐシール部材をさらに備えている、ヒータ端子カバー。
【請求項5】
請求項に記載のヒータ端子カバーであって、
前記本体における前記筒状部の軸方向一端側部分は、前記ヒータ端子カバーが取り付けられる部材と向かい合うように構成されており、
前記シール部材は、前記筒状部の軸方向他端側部分に配置されている、ヒータ端子カバー。
【請求項6】
請求項1~請求項の何れか1項に記載のヒータ端子カバーであって、
前記本体は導電性材料で形成されており、
前記筒状部の径方向内方に筒状の絶縁体が配置されている、ヒータ端子カバー。
【請求項7】
モリブデンを含む材料で形成された端子を含むヒータと、
前記端子の少なくとも一部を覆う、請求項1~請求項の何れか1項に記載のヒータ端子カバーと、
を備えている、ヒータユニット。
【請求項8】
被処理物を熱処理するための熱処理室と、
前記熱処理室内の雰囲気を加熱するための請求項に記載のヒータユニットと、
を備えている、熱処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータ端子カバー、ヒータユニット、および、熱処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体素材などの被処理物を加熱するためのヒータが知られている(たとえば、特許文献1~5参照)。
【0003】
上記のヒータの一種として、二珪化モリブデンヒータが用いられる場合がある。二珪化モリブデンヒータは、二珪化モリブデンを主成分としており、通常、一部に曲げ形状を有する棒状に形成されている。このヒータは、端子部と、発熱部とを有している。端子部の表面には、アルミニウムなどの金属が溶射されることで金属膜が形成されている。この金属膜は、電線等を介して電源に接続される。電源から出力された電力は、電線および金属膜を介して発熱部に伝わり、発熱部が発熱する。これにより、被処理物が収容されている炉内の雰囲気が加熱される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-114327号公報
【文献】特開2000-208236号公報
【文献】特開平7-248193号公報
【文献】特公平2-51234号公報
【文献】実開平5-61992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヒータ動作時の上記炉内の温度は、1400℃近い高温になる一方、炉の外部に配置された端子部の温度は、室温と大差ない値となる。このため、端子部と加熱部との間には、1000度以上の温度差が生じる。このため、ヒータには、約600℃になる領域が存在する。二珪化モリブデンは、約350℃~600℃の温度領域において、酸化現象を生じる。ヒータの使用期間が長くなることで上記の酸化が進行すると、二珪化モリブデンの酸化物が、粉化する。すなわち、二珪化モリブデンの粉化現象(ペスト)が生じる。二珪化モリブデンの粉化現象が進行すると、強度が低下して破損するおそれがある。
【0006】
二珪化モリブデンの粉化を抑制するためには、例えば特許文献1に記載されているように、二珪化モリブデンのうち酸化しやすい温度域部分に窒素ガス等の不活性ガスを供給することが考えられる。しかしながら、特許文献1に記載の構成では、大型のカバー内に不活性ガスを充填しているため、多量の不活性ガスが消費される。また、カバーの密閉性が低いと不活性ガスの消費量がさらに増えるおそれがある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みることにより、不活性ガスの消費量を少なくしつつ、二珪化モリブデンヒータの粉化をより確実に抑制できるヒータ端子カバー、ヒータユニット、および、熱処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わるヒータ端子カバーは、モリブデンを含む材料で形成された端子を含むヒータの前記端子の少なくとも一部を覆うヒータ端子カバーであって、前記端子の外周部を全周に亘って取り囲むように構成された筒状部を有する本体と、前記本体に形成され前記筒状部内に向けて不活性ガスを供給するためのノズルと、を有し、前記本体は、前記ノズルが形成された前記筒状部と、前記筒状部の外周部を取り囲むように配置された外周壁部と、前記不活性ガスを前記外周壁部と前記筒状部との間に供給するためのポートと、を含んでいる。
【0009】
この構成によると、ノズルからの不活性ガスが筒状部内に供給されることで、端子の外周部の周辺の雰囲気を端子の全周に亘って不活性ガス雰囲気にできる。これにより、二珪化モリブデンの酸化に起因するペストの発生を抑制できる。しかも、筒状部で囲まれた狭い領域に不活性ガスが供給されるので、端子の外周部のうち酸化し易い温度域部分へより確実に不活性ガスを供給でき、しかも不活性ガスの消費量を少なくできる。よって、二珪化モリブデンヒータの粉化をより確実に抑制できる。
【0011】
さらに、ポートからの不活性ガスは、外周壁部と筒状部との間に進み、さらに、筒状部のノズルを通して筒状部の内側空間に供給される。外周壁部と筒状部との間の空間は、不活性ガスのチャンバ空間として機能することができるので、ノズルから筒状部の内側空間へ不活性ガスをより安定した流量で供給できる。
【0012】
)前記ノズルは、前記筒状部の周方向に沿って互いに離隔して複数形成されている場合がある。
【0013】
この構成によると、ノズルから筒状部の内側空間に供給される不活性ガスを、ヒータ端子の周方向においてより均等に供給できる。
【0014】
)前記筒状部は、一対の前記端子をそれぞれ取り囲むために一対設けられており、前記外周壁部が一対の前記筒状部を取り囲んでいる場合がある。
【0015】
この構成によると、一対の端子のそれぞれの周囲を、1つのヒータ端子カバーで不活性ガス雰囲気にできる。
【0016】
)前記ヒータ端子カバーは、前記本体と前記端子との間を塞ぐシール部材をさらに有している場合がある。
【0017】
この構成によると、ヒータ端子カバーの外部から本体と端子との間に酸素が侵入することをより確実に抑制できる。
【0018】
)前記本体における前記筒状部の軸方向一端側部分は、前記ヒータ端子カバーが取り付けられる部材と向かい合うように構成されており、前記シール部材は、前記筒状部の軸方向他端側部分に配置されている場合がある。
【0019】
この構成によると、ヒータ端子カバーが取り付けられる高温部分から遠く温度が低い軸方向他端側部分にシール部材を配置することで、シール部材への熱の負荷を小さくできる。また、筒状部の軸方向一端側部分における筒状部と端子との間の領域は、ヒータ端子カバーが取り付けられる部材によって酸素の進入を抑制される。
【0020】
)前記本体は導電性材料で形成されており、前記筒状部の径方向内方に筒状の絶縁体が配置されている場合がある。
【0021】
この構成によると、本体を高い強度の材質で形成しつつ、本体とヒータ端子との短絡をより確実に抑制できる。
【0022】
)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わるヒータユニットは、モリブデンを含む材料で形成された端子を含むヒータと、前記端子の少なくとも一部を覆う、前記ヒータ端子カバーと、を有している。
【0023】
)上記課題を解決するために、この発明のある局面に係わる熱処理装置は、被処理物を熱処理するための熱処理室と、前記熱処理室内の雰囲気を加熱するための前記ヒータユニットと、を有している。
【0024】
上記()、()の構成によると、二珪化モリブデンヒータの粉化をより確実に抑制できる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、二珪化モリブデンヒータの粉化をより確実に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1図1は、本発明の一実施形態にかかる熱処理装置の主要部の模式的な断面図である。
図2図2は、熱処理装置のヒータユニットの主要部を模式的に示す斜視図である。
図3図3は、図1のヒータユニットの主要部を拡大して示す図である。
図4図4は、図3のIV-IV線に沿う断面図である。
図5図5は、図3のV-V線に沿う断面図である。
図6図6は、変形例の主要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態にかかる熱処理装置1の主要部の模式的な断面図である。図2は、熱処理装置1のヒータユニット3の主要部を模式的に示す斜視図である。図3は、図1のヒータユニット3の主要部を拡大して示す図である。図4は、図3のIV-IV線に沿う断面図である。図5は、図3のV-V線に沿う断面図である。
【0029】
図1図5を参照して、熱処理装置1は、被処理物100に熱処理を施すために設けられている。本実施形態では、熱処理装置1は、半導体製造用の熱処理装置であり、円板状の被処理物100に酸化処理・拡散処理などを施すことが可能に構成されている。熱処理装置1は、例えば、工場のクリーンルームに設置される。なお、熱処理装置1は、半導体以外の部品の製造に用いられてもよく、例えば、電子部品や金属部品の製造に用いられてもよい。
【0030】
熱処理装置1は、断熱体2と、断熱体2に保持されたヒータユニット3と、断熱体2内の空間2aに収容されたチューブ4と、を有している。
【0031】
断熱体2は、熱処理装置1の筐体である。断熱体2は、セラミック等の断熱素材を用いて形成されており、熱処理装置1の外殻部を構成している。断熱体2は、下端部が開口され且つ内部が中空の形状に形成されている。
【0032】
チューブ4は、例えば石英を主成分として形成されており、断熱体2によって周囲を取り囲まれている。チューブ4は、図示しない支持部材によって支持されている。チューブ4は、筒状に形成されているとともに閉じられた上端部を有している。チューブ4は、被処理物100を熱処理するための熱処理室5を形成している。チューブ4の下端部は、下方に開口されており、ボート6をチューブ4に出し入れ可能に構成されている。ボート6には、被処理物100が載せられる。
【0033】
ヒータユニット3は、熱処理室5内の雰囲気を加熱するために設けられている。ヒータユニット3は、断熱体2に複数設置されており、断熱体2に支持されている。ヒータユニット3は、断熱体2の周方向に複数(例えば、2つ)配置されているとともに、上下方向に1または複数配置されている。各ヒータユニット3の構成は同様であるので、以下では、1つのヒータユニット3の構成を説明する。
【0034】
ヒータユニット3は、モリブデンを含む材料で形成された一対の端子11A,11Bを含むヒータ10と、端子11A,11Bの少なくとも一部を覆うヒータ端子カバー50と、を有している。
【0035】
ヒータ10は、チューブ4の内の熱処理室5を加熱するために設けられている。ヒータ10は、二珪化モリブデンヒータである。本実施形態では、ヒータ10の最高温度は、約1400℃程度である。ヒータ10として二珪化モリブデンヒータを用いることにより、チューブ4内の雰囲気を迅速に加熱可能である。本実施形態では、ヒータ10は、左右対称(図4の左右方向に対称)に形成されている。ヒータ10は、本実施形態では、細長い形状に形成されており、ヒータ10の長手方向と直交する断面において、円形状に形成されている。なお、ヒータ10は、扁平な板状に形成されていてもよく、ヒータ10の具体的な断面形状は限定されない。
【0036】
ヒータ10は、二珪化モリブデンを主成分として形成された本体部12と、本体部12の一対の端部のそれぞれに形成された金属部13,13と、を有している。本体部12は、細長い軸状に形成されている。各金属部13,13は、例えばアルミニウム合金等の導電部材である。そして、これらの本体部12および金属部13,13によって、ヒータ10に、発熱部14と、一対の端子11A,11Bと、が形成されている。すなわち、ヒータ10は、発熱部14と、一対の端子11A,11Bと、を有している。
【0037】
発熱部14は、ヒータ10に電力が供給されたときに発熱する部分である。発熱部14は、本体部12の一部であり、断熱体2内の空間2aに配置されている。本実施形態では、発熱部14は、本実施形態では、U字状に形成されている。なお、発熱部14の形状は、波形状等の他の形状であってもよく、具体的な形状は限定されない。本実施形態では、発熱部14の直径は、一対の端子11A,11Bの直径よりも小さい。発熱部14の一対の端部に一対の端子11A,11Bが連続している。
【0038】
各端子11A,11Bは、断熱体2内の空間2aにおいて断熱体2の内壁面2dに沿って延び発熱部14に接続された接続部16と、断熱体2内の空間2aにおいて発熱部14から遠ざかるに従い断熱体2の外側に向かって曲がった湾曲部17と、この湾曲部17に連続し断熱体2の外側に向けて延びる延伸部18と、を有している。なお、図1図3において、端子11Bは、図示を省略されているが、端子11Aと左右対称(図1図3の紙面に直交する方向に対称)な形状である。接続部16は、上下方向に延びていてもよいし、水平方向に延びていてもよいし、上下方向および水平方向の双方に延びていてもよい。延伸部18は、本実施形態では、直線状に延びており、好ましくは水平に延びている。
【0039】
接続部16および湾曲部17は、二珪化モリブデンを主成分とする本体部12によって形成されている。また、延伸部18の大部分は本体部12によって形成されており、且つ、延伸部18の残りの一部である端子端部22が、本体部12および金属部13,13によって形成されている。換言すれば、延伸部18は、本体部12によって形成された延伸部本体21と、本体部12および金属部13,13によって形成された端子端部22と、を有している。
【0040】
延伸部本体21の大部分は、断熱体2に形成された貫通孔部2b内に配置されており、断熱体2によって支持されている。延伸部本体21の一部は、断熱体2の外側に配置されて断熱体2から露出する露出部23とされている。そして、延伸部本体21の露出部23の一部は、ヒータ端子カバー50によって覆われている。延伸部本体21の突出部23に、端子端部22が連続している。
【0041】
一対の端子11A,11Bの各端子端部22には、バスバー24が接続されている。本実施形態では、バスバー24には絶縁素材製のカバー25が被せられている。一対の端子11A,11Bは、バスバー24等を用いて電源(図示せず)と電気的に接続されている。
【0042】
上記の構成を有するヒータ10において、一対の端子11A,11Bの各露出部23のうち、断熱体2寄りの部分は、発熱部14が発熱しているときにおいて、約350℃~600℃の温度となる。この温度域では、本体部12の二珪化モリブデンの酸化が促進されて二珪化モリブデンの粉化が生じやすい。一方で、本体部12の温度が上記酸化し易い温度であっても、本体部12の周囲を低酸素雰囲気にすることで、本体部12の粉化を抑制できる。ヒータ端子カバー50は、本体部12の各露出部23の周囲に不活性ガスを供給することで、各露出部23の周囲を低酸素雰囲気にする。不活性ガスとして、窒素ガスを例示できる。なお、端子11A,11Bのうち粉化が生じる温度となる部分を低酸素雰囲気にすることが可能であれば、窒素ガス以外のガスであってもよく、具体的なガスの種類は限定されない。
【0043】
前述したように、ヒータ端子カバー50は、端子11A,11Bのうち断熱体2の外側に配置されている露出部23の一部を覆うように配置されている。ヒータ端子カバー50は、断熱体2の外壁面2cに沿わされており、本実施形態では、断熱体2に固定されている。ヒータ端子カバー50は、一対の端子11A,11Bそれぞれの露出部23,23の周囲を取り囲む中空のブロック形状に形成されている。
【0044】
ヒータ端子カバー50は、本体51と、本体51に保持された絶縁体52,52と、シール部材53と、シール部材53を本体51に取り付けるための押さえ部材54と、を有している。
【0045】
本体51は、本実施形態では、ステンレス鋼等の金属材を用いて形成されており、導電性材料で形成されているといえる。本体51は、断熱体2の外壁面2cに沿わされている。本体51は、各露出部23を収容する容器状に形成されている。本実施形態では、本体51は、金属板を板金加工等することで形成されている。
【0046】
本体51は、一対の側壁としての第1側壁55および第2側壁56と、第1側壁55と第2側壁56との間に配置された外周壁部57および筒状部58,58と、を有している。
【0047】
第1側壁55および第2側壁56は、本実施形態では、互いに平行に配置されている。第1側壁55は、断熱体2の外壁面2cの例えば平坦部分に沿わされており、第2側壁56は、断熱体2から離隔する方向に向けて第1側壁55から所定距離離隔している。本実施形態では、第1側壁55および第2側壁56は、矩形の板状に形成されている。一対の端子11A,11Bの互いに平行な露出部23,23の長手方向から見て、第2側壁56の形状は、第1側壁55の形状よりも大きい。第1側壁55には、一対の端子11A,11Bが貫通する一対の貫通孔部55a,55aが形成されている。同様に、第2側壁56には、一対の端子11A,11Bが貫通する一対の貫通孔部56a,56aが形成されている。
【0048】
外周壁部57は、第1側壁55と第2側壁56とに接続されている。外周壁部57は、環状に形成されており、本実施形態では、四角柱状に形成されている。なお、外周壁部57は、矩形以外の多角形の筒状に形成されていてもよいし、円筒状または楕円形状に形成されていてもよい。外周壁部57の一端は、第1側壁55の外周縁部に連続している。外周壁部57の他端は、第2側壁56のうち第2側壁56の外周縁部に対して内側部分に固定されている。これにより、第2側壁56においては、外周壁部57の外側に突出している部分が、フランジ56bとなっている。外周壁部57は、筒状部58,58の外周部を取り囲むように配置されている。
【0049】
筒状部58,58は、端子11A,11Bにおける露出部23,23の外周部を全周に亘って取り囲むように構成されており、本実施形態では、一対の露出部23,23をそれぞれ取り囲むために一対設けられている。各筒状部58は、第1側壁55と第2側壁56とに接続されている。各筒状部58は、本実施形態では、円筒状に形成されている。なお、各筒状部58は、端子11A,11Bの対応する露出部23,23の外周部を取り囲む形状に形成されていればよく、円筒以外の多角形の筒状に形成されていてもよいし、楕円形状に形成されていてもよい。各筒状部58の一端は、第1側壁55の対応する貫通孔部55a,55aに連続している。各筒状部58の他端は、第2側壁56の対応する貫通孔部56a,56aに連続している。各筒状部58は、外周壁部57に取り囲まれるように配置されているとともに、一対の端子11A,11Bの対応する露出部23,23の周囲を全周に亘って取り囲んでいる。
【0050】
上記の構成により、本体51の第1側壁55、第2側壁56、外周壁部57、および、一対の筒状部58,58が、チャンバ59を構成している。チャンバ59は、第1側壁55、第2側壁56、外周壁部57、および、一対の筒状部58,58で囲まれた空間を形成しており、このチャンバ59内に不活性ガスが供給される。より具体的には、本体51にポート60が形成されている。ポート60は外周壁部57と筒状部58,58との間の空間、すなわち、チャンバ59内に不活性ガスを供給するために設けられており、本実施形態では、外周壁部57に形成されている。なお、ポート60は、第2側壁56等、本体51の他の部材に形成されていてもよい。
【0051】
ポート60は、本体51に形成された貫通孔部を含んでおり、ポート60に不活性ガス供給管63が接続されている。不活性ガス供給管63は、不活性ガスが貯められたガスボンベ等の不活性ガス供給源(図示せず)に接続されている。不活性ガスは、不活性ガス供給源から不活性ガス供給管63を通してチャンバ59内に導入される。チャンバ59内の不活性ガスは、本体51の各筒状部58に形成されたノズル61、および、各絶縁体52,52に形成されたノズル62を通して、一対の端子11A,11Bの露出部23,23の周囲、すなわち、絶縁体52,52の内側空間64,64に供給される。不活性ガスの流れを、図において矢印Fで示している。
【0052】
ノズル61は、各筒状部58内(内側空間64)に向けて不活性ガスを供給するために設けられている。ノズル61は、対応する筒状部58,58の径方向に沿って形成されており、対応する筒状部58,58を貫通している。ノズル61は、各筒状部58に少なくとも1つ形成されている。本実施形態では、ノズル61は、各筒状部58において、筒状部58の周方向に沿って互いに離隔して複数形成されており、好ましくは、筒状部58の周方向に等ピッチに複数形成されている。各筒状部58におけるノズル61の数は、例えば2,3または4(本実施形態では、4)であり、例えば5以上である。
【0053】
各ノズル61は、対応する筒状部58,58の径方向に見て例えば円形に形成されている。各ノズル61の直径は、特に限定されない。本実施形態では、露出部23の軸方向におけるノズル61の位置は、各筒状部58の中央であるが、各筒状部58の中央でなくてもよい。各筒状部58の径方向内方に、筒状の絶縁体52が配置されている。
【0054】
絶縁体52,52は、本体51と端子11A,11Bとが短絡することを防止するために設けられている。各絶縁体52は、本実施形態では、石英で形成されている。絶縁体52,52は、対応する筒状部58,58の内周面の形状に沿った形状に形成されており、本実施形態では、円筒状に形成されている。
【0055】
本実施形態では、絶縁体52,52の内周面と対応する端子11A,11Bの露出部23,23との距離D1は、露出部23,23の直径D2以下である。この距離D1は、露出部23,23の直径D2の3倍以下程度であることが好ましい。距離D1の上限をこのように設定することで、絶縁体52,52と対応する露出部23,23との間の空間(不活性ガスが供給される内側空間64,64)を小さくしつつ、二珪化モリブデンの粉化が生じる温度域の露出部23,23の周囲の空間、すなわち、絶縁体52,52の内側空間64,64に十分な量の不活性ガスを供給できる。
【0056】
ノズル62は、ノズル61と協働して各露出部23,23に向けて不活性ガスを供給するために設けられている。ノズル62は、対応する絶縁体52,52の径方向に沿って形成されており、対応する絶縁体52,52を貫通している。各絶縁体52のノズル62の数は、対応する筒状部58,58のノズル61の数と同じである。各絶縁体52のノズル62は、対応する筒状部58,58のノズル61と対応する筒状部58,58の径方向に並んで配置されている。各ノズル62は、対応する絶縁体52,52の径方向に見て例えば円形に形成されている。なお、各ノズル62の直径は、特に限定されない。
【0057】
上記の構成により、チャンバ59内の不活性ガスは、ノズル61,62を通して一対の端子11A,11Bの露出部23,23の周囲、すなわち、絶縁体52,52の内側空間64,64に供給される。チャンバ59の一端部は、断熱体2の外壁面2cに沿わされている。一方、チャンバ59の他端部には、シール部材53が配置されている。すなわち、本体51における筒状部58,58の軸方向一端側部分としての第1側壁55は、ヒータ端子カバー50が取り付けられる断熱体2と向かい合うように構成されている。一方、シール部材53は、筒状部58,58の軸方向他端側部分に配置されている。
【0058】
シール部材53は、本体51と端子11A,11Bの露出部23,23との間を塞ぐ。シール部材53は、本体51と露出部23,23との間について、気密的に封止してもよいし、ヒータ端子カバー50内での不活性ガスの流動を促進するために隙間を設けてもよい。シール部材53は、600℃以上の耐熱温度を有する部材であり、本実施形態では、セラミッククロスであり、可撓性を有するシートである。
【0059】
シール部材53は、第2側壁56の外側面に沿わされている。シール部材53には、一対の貫通孔部53a,53aが形成されている。一対の貫通孔部53a,53aには、一対の端子11A,11Bの露出部23,23がそれぞれ貫通している。各貫通孔部53aは、対応する露出部23,23の外周面と露出部23,23の周方向全域に亘って接触していることが好ましい。シール部材53は、第2側壁56と押さえ部材54との間に配置されている。
【0060】
押さえ部材54は、シール部材53を本体51に取り付けるために設けられている。押さえ部材54は、シール部材53を本体51に押さえ付けている。押さえ部材54は、例えば本体51の素材と同じ素材で形成されている。なお、押さえ部材54の素材は、本体51の素材と異なっていてもよい。押さえ部材54は、実質的に剛体のプレートである。本実施形態では、押さえ部材54は、矩形の板状に形成されている。なお、押さえ部材54は、シール部材53を第2側壁56に押し付けることが可能な構成であればよく、具体的な形状は限定されない。
【0061】
押さえ部材54には、貫通孔部54a,54aが形成されている。貫通孔部54a,54aは、一対の端子11A,11Bの露出部23,23が貫通する部分として、且つ、シール部材53のうち貫通孔部53a,53aの周囲の部分の撓み変形を許容するために設けられている。貫通孔部54a,54aは、それぞれ、対応する貫通孔部53a,53aに隣接しており、対応する貫通孔部53a,53aの直径よりも大きい直径に形成されている。
【0062】
押さえ部材54の外周部には、複数のシール固定部材65が配置されている。シール固定部材65は、例えばねじ部材である。本実施形態では、シール固定部材65は、押さえ部材54の四隅のそれぞれに配置されている。各シール固定部材65は、押さえ部材54およびシール部材53を貫通するとともに、第2側壁56のフランジ56bに形成された雌ねじ部56cにねじ結合している。これにより、押さえ部材54は、シール部材53を本体51の第2側壁56に取り付けているとともに、第2側壁56に支持されている。
【0063】
また、押さえ部材54の外周部には、複数の本体固定部材66が配置されている。本体固定部材66は、例えばねじ部材である。本実施形態では、本体固定部材66は、押さえ部材54の左右方向中央に上下一対配置されている。各本体固定部材66は、押さえ部材54、シール部材53および第2側壁56のフランジ56bを貫通し、さらに、例えば断熱体2に形成された雌ねじ部にねじ結合している。これにより、本体51、シール部材53、および、押さえ部材54を含むヒータ端子カバー50は、断熱体2に支持されている。
【0064】
上記の構成により、チャンバ59内の不活性ガスは、ノズル61,62を通して絶縁体52,52の対応する内側空間64,64に供給され、主に、断熱体2側に向けて排出される。
【0065】
以上説明したように、本実施形態によると、ノズル61,62からの不活性ガスが筒状部58,58内に供給されることで、端子11A,11Bの露出部23,23の周辺の雰囲気を露出部23,23の全周に亘って不活性ガス雰囲気にできる。これにより、二珪化モリブデンの酸化に起因するペストの発生を抑制できる。しかも、筒状部58,58で囲まれた狭い内側空間64,64に不活性ガスが供給されるので、端子11A,11Bの外周部のうち酸化し易い温度域部分(露出部23,23)へより確実に不活性ガスを供給できる。よって、二珪化モリブデンヒータ10の粉化をより確実に抑制できる。さらに、筒状部58,58内の狭い内側空間64,64を不活性ガス雰囲気にすればよいので、不活性ガスの消費量を少なくできる。
【0066】
また、本実施形態によると、ポート60からの不活性ガスは、外周壁部57と筒状部58,58との間に進み、さらに、ノズル61,62を通して筒状部58,58の内側空間64,64に供給される。外周壁部57と筒状部58,58との間の空間は、不活性ガスのチャンバ空間として機能することができるので、ノズル61,62から筒状部58,58の内側空間64,64へ不活性ガスをより安定した流量で供給できる。
【0067】
また、本実施形態によると、ノズル61,62は、それぞれ、対応する筒状部58,58の周方向に沿って互いに離隔して複数形成されている。この構成によると、ノズル61,62から筒状部58,58の内側空間64,64に供給される不活性ガスを、ヒータ端子11A,11Bの周方向においてより均等に供給できる。
【0068】
また、本実施形態によると、筒状部58は、一対の端子11A,11Bをそれぞれ取り囲むために一対設けられており、外周壁部57が一対の筒状部58,58を取り囲んでいる。この構成によると、一対の端子11A,11Bのそれぞれの露出部23,23の周囲を、1つのヒータ端子カバー50で不活性ガス雰囲気にできる。
【0069】
また、本実施形態によると、シール部材53は、一対の端子11A,11Bの露出部23,23と本体51との間を塞いでいる。この構成によると、ヒータ端子カバー50の外部から内側空間64,64に酸素が侵入することをより確実に抑制できる。
【0070】
また、本実施形態によると、本体51における筒状部58,58の軸方向一端側部分である第1側壁55は、ヒータ端子カバー50が取り付けられる断熱体2と向かい合うように配置されており、且つ、シール部材53は、筒状部58,58の軸方向他端側部分(第2側壁56側部分)に配置されている。この構成によると、ヒータ端子カバー50が取り付けられる高温部分から遠く温度が低い部分にシール部材53を配置することで、シール部材53への熱の負荷を小さくできる。また、第1側壁55付近における筒状部58,58と一対の端子11A,11Bの対応する露出部23,23との間の領域は、ヒータ端子カバー50が取り付けられる断熱体2によって酸素の進入を抑制される。
【0071】
また、本実施形態によると、本体51は導電性材料で形成されており、筒状部58,58の径方向内方に筒状の絶縁体52,52が配置されている。この構成によると、本体51を高い強度の材質(本実施形態では、ステンレス材)で形成しつつ、本体51とヒータ端子11A,11Bとの短絡をより確実に抑制できる。
【0072】
以上、本発明の実施形態について説明したけれども、本発明は上述の実施の形態に限られない。本発明は、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々な変更が可能である。
【0073】
(1)上述の実施形態では、シール部材53は、本体51の第2側壁56側に1つ設けられる形態を例に説明した。しかしながら、この通りでなくてもよい。変形例の主要部の断面図である図6に示すように、シール部材53は、本体51の第2側壁56側に加えて第1側壁55側に設けられてもよい。第1側壁55側のシール部材53は、第1側壁55と断熱体2との間に挟まれており、一対の貫通孔部53a,53aに一対の端子11A,11Bの対応する露出部23,23が通されている。この変形例によると、絶縁体52,52の内側空間64,64の軸方向両端を一対のシール部材53,53で塞ぐことができる。これにより、絶縁体52,52の内側空間64,64内の不活性ガスが外部に漏出する量をより少なくできる。よって、不活性ガスの消費量をより少なくできる。
【0074】
(2)上述の実施形態では、ヒータ端子カバー50が断熱体2に固定される形態を例に説明した。しかしながら、ヒータ端子カバー50が設置される部材は限定されず、断熱体2以外の他の部材であってもよい。
【0075】
(3)上述の実施形態では、ヒータ10の一対の端子11A,11Bのうち露出部23,23の一部をヒータ端子カバー50で取り囲む形態を例に説明した。しかしながら、ヒータ端子カバー50は、ヒータ10の一対の端子11A,11Bの少なくとも一部の周囲を取り囲む構成であればよく、具体的な構成は限定されない。
【0076】
(4)上述の実施形態では、一対の端子11A,11Bのそれぞれの露出部23,23を1つのヒータ端子カバー50で取り囲む形態を例に説明した。しかしながら、端子11A,11B毎にヒータ端子カバーを設けてもよい。この場合、1つのヒータ端子カバーが1つの端子を取り囲むように構成される。
【0077】
(5)上述の実施形態では、本体51を導電性材料で形成するとともに、絶縁体52,52を設ける形態を例に説明した。しかしながら、絶縁体52,52を省略してもよい。絶縁体52,52が省略される場合、本体51は、絶縁素材製であることが好ましい。
【0078】
(6)上述の実施形態では、各筒状部58にノズル61が形成される形態を例に説明した。しかしながら、ノズル61は、各筒状部58の内側空間64に不活性ガスを供給できればよく、筒状部58以外に形成されていてもよい。ノズル61は、例えば、第2側壁56から延び内側空間64,64において開口する配管で形成されていてもよく、具体的な形状は限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、ヒータ端子カバー、ヒータユニット、および、熱処理装置として適用できる。
【符号の説明】
【0080】
1 熱処理装置
3 ヒータユニット
5 熱処理室
10 ヒータ
11A,11B 端子
50 ヒータ端子カバー
51 本体
52 絶縁体
53 シール部材
57 外周壁部
58 筒状部
60 ポート
61 ノズル
100 被処理物
図1
図2
図3
図4
図5
図6