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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】人工トランス活性化因子による選択
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20250212BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 15/31 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 15/33 20060101ALI20250212BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20250212BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250212BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20250212BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250212BHJP
   A61K 35/12 20150101ALI20250212BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C12N15/09 100
C12N5/10 ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/31
C12N15/33
A61P37/04
A61P43/00 111
A61P43/00 105
A61P7/00
A61K48/00
A61K35/12
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2021519861
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019077657
(87)【国際公開番号】W WO2020074729
(87)【国際公開日】2020-04-16
【審査請求日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】18199952.5
(32)【優先日】2018-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514194370
【氏名又は名称】オスペダーレ サン ラファエレ エス.アール.エル
(73)【特許権者】
【識別番号】511262290
【氏名又は名称】フォンダツィオーネ テレトン イーティーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジェノベーゼ,ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】フェラーリ,サミュエレ
(72)【発明者】
【氏名】ロンバールド,アンジェロ レオーネ
(72)【発明者】
【氏名】ナルディーニ,ルイージ
(72)【発明者】
【氏名】フィウマーラ,マルティーナ
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/053729(WO,A1)
【文献】WEN, Yahong et al.,The Journal of Biological Chemistry,2017年04月14日,Vol. 292, No. 15,pp. 6148-6162,DOI: 10.1074/jbc.M117.777722
【文献】BAK, Rasmus O. et al.,Nature Protocol,2018年01月25日,Vol. 13, No. 2,pp. 358-376,DOI: 10.1038/nprot.2017.143
【文献】SCHIROLI, Giulia et al.,Science Translational Medicine,2017年10月11日,Vol. 9, Issue 411,pp. 1-11,DOI: 10.1126/scitranslmed.aan0820
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12N 1/00- 7/08
A61P 1/00-43/00
A61K 35/00-51/12
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)を含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼを含むヌクレアーゼ系であり、
ETTポリペプチドは、細胞若しくは細胞の集団中に一過性に存在するか、又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、細胞若しくは細胞の集団において一過性に発現され、
(i)細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOIの標的遺伝子座への挿入を可能にし、且つ、ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にするように、ETTポリペプチドは、細胞のゲノム中の標的遺伝子座に作動可能に連結された少なくとも1つのETT結合部位に結合し、且つ(I)標的遺伝子座に作動可能に連結された内因性プロモーターを活性化するか、又は(II)ドナーレポーターカセットが、最小プロモーターをさらに含み、且つ、セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座に挿入されている場合には、最小プロモーターを活性化するか;又は
(ii)ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にするように、ドナーレポーターカセットは、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターをさらに含み、ETTポリペプチドは、調節エレメントに結合し、且つ、セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座に挿入されている場合には、最小プロモーターを活性化する;
前記方法。
【請求項2】
ヌクレアーゼ系が、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
請求項1の項目(i)において、
(a)内因性プロモーターが少なくとも1つのETT結合部位に作動可能に連結されているか;又は
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座に挿入されている場合には、最小プロモーターが少なくとも1つのETT結合部位に作動可能に連結されている、
請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
請求項1の項目(i)において、
ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、
(iii)プロモーターに作動可能に連結したNOI、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、細胞のゲノム中の標的遺伝子座に作動可能に連結された少なくとも1つのETT結合部位に結合し、且つ、最小プロモーターを活性化する、
請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
請求項1の項目(i)において、
ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)NOI、
(iii)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、細胞のゲノム中の標的遺伝子座に作動可能に連結された少なくとも1つのETT結合部位に結合し、且つ、最小プロモーターを活性化する、
請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
請求項1の項目(i)において、
ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)NOI、
(iii)セレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、細胞のゲノム中の標的遺伝子座に作動可能に連結された少なくとも1つのETT結合部位に結合し、且つ、標的遺伝子座において内因性プロモーターを活性化する、
請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ドナーレポーターカセットが、左HAとNOIとの間にスプライシングアクセプター部位(SA)をさらに含む、請求項5又は6記載の方法。
【請求項8】
ドナーレポーターカセットが、NOIとセレクターをコードするヌクレオチド配列との間に2A自己切断ペプチド(2A)又は配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントをコードするヌクレオチド配列をさらに含む、請求項6又は7記載の方法。
【請求項9】
セレクターをコードするヌクレオチド配列が、最小プロモーターに作動可能に連結されている、請求項6~8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1の項目(ii)において、
ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)NOI、
(iii)最小プロモーターに作動可能に連結された、セレクターをコードするヌクレオチド配列であって、最小プロモーターが調節エレメントに作動可能に連結されている、セレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が、標的遺伝子座中に挿入される場合に、及びモジュレーターが細胞又は細胞の集団に存在する場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、調節エレメントに結合し、且つ、最小プロモーターを活性化するか、又は
セレクターをコードするヌクレオチド配列が、標的遺伝子座中に挿入される場合に、及びモジュレーターが細胞又は細胞の集団に存在しない場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、調節エレメントに結合し、且つ、最小プロモーターを活性化する、
請求項1記載の方法。
【請求項11】
NOIが、プロモーターに作動可能に連結されている、請求項10記載の方法。
【請求項12】
DBDが、転写活性化因子様エフェクター(TALE)DBD、亜鉛フィンガー、触媒的に不活性のCpf1又は触媒的に不活性のCas(dCas)であり、且つ、TAドメインが、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、SAM及びSunTagから成る群から選択される、請求項1~9のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
DBDが、TetR又はリバースTetR(rTetR)であり、且つ、TAドメインが、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、SAM及びSunTagから成る群から選択される、請求項10又は11記載の方法。
【請求項14】
gRNAが、配列番号1~31及びそれと少なくとも95%の同一性を有する配列から成る群から選択されるヌクレオチド配列のうち1つ以上に結合可能である、請求項2~9及び12のいずれか1項記載の方法。
【請求項15】
標的遺伝子座が、セーフハーバーである、請求項1~14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
標的遺伝子座が、アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)、レンチウイルスベクターの共通組込み部位(CIS)、IL2RG、gp91phox、HBB、RAG1、CD40LG、TRAC、TRBC、STAT、PRF1、皮膚において発現されるタンパク質(例えば、コラーゲン、ケラチン、ラミニン、デスモコリン、デスモプラチン(desmoplachine)、デスモグレイン、プラコグロビン(placoglobin)、プラコフィリン(placophylline)、インテグリン又はデスモソーム及びヘミデスモソームに関与する他のタンパク質)をコードする遺伝子又は別のセーフハーバーゲノム遺伝子座である、請求項15記載の方法。
【請求項17】
請求項1~16のいずれか1項に定義される第1の成分、第2の成分及び第3の成分を含むキット。
【請求項18】
細胞集団をさらに含む、請求項17記載のキット。
【請求項19】
請求項1~16のいずれか1項記載の方法によって生成されたゲノム編集された細胞の集団であって、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOIが、細胞における標的遺伝子座に含まれる、前記ゲノム編集された細胞の集団
【請求項20】
請求項19記載のゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項21】
遺伝子療法のための、請求項19記載のゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項22】
X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)の処置又は予防のための、請求項19記載のゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項23】
造血幹細胞移植(HSCT)のための、請求項19記載のゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項24】
組織修復のための、請求項19記載のゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物。
【請求項25】
順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)目的のヌクレオチド配列(NOI)、
(iii)最小プロモーターに作動可能に連結された、セレクターをコードするヌクレオチド配列であって、最小プロモーターが調節エレメントに作動可能に連結されており、且つ、調節エレメントは、少なくとも1つの操作された転写トランス活性化因子(ETT)結合部位を含む、セレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含む、ドナーレポーターカセット。
【請求項26】
NOIが、プロモーターに作動可能に連結されている、請求項25記載のドナーレポーターカセット。
【請求項27】
ゲノム編集された細胞の選択のための、細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための、標的遺伝子座へのNOIの挿入のための、及び/又は標的遺伝子座におけるNOIの修正又は破壊のための、請求項25記載のドナーレポーターカセットの使用。
【請求項28】
セレクターをコードするヌクレオチド配列が、細胞のゲノム中の標的遺伝子座に挿入されている場合には、ETTポリペプチドの調節エレメントへの結合が、最小プロモーターを活性化する、請求項27記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法に関する。本発明はまた、方法によって生成されたゲノム編集された細胞の集団、ゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物、療法(例えば、遺伝子療法、造血幹細胞移植、がん処置及び組織修復)のためのゲノム編集された細胞の集団の使用並びにゲノム編集された細胞の集団を投与するステップを含む、障害、例えば、X連鎖SCID及び皮膚疾患又は網膜疾患の処置又は予防のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
造血幹細胞(HSC)遺伝子療法は、いくつかの血液疾患及び非血液疾患に冒された患者において実質的な治療利益を提供してきた。それでも、セミランダムに組み込むベクターの使用は、依然として、挿入型突然変異誘発及び非生理学的導入遺伝子発現の危険をもたらす。したがって、HSC遺伝子工学の範囲は、遺伝子置換から、内因性遺伝子の正確な改変のために人工ヌクレアーゼの使用に頼る標的化されたゲノム編集へと広がった。原始造血幹/前駆細胞(HSPC)における遺伝子編集は、何年もとらえどころのないものであった。実際、これらの細胞におけるDNA二本鎖切断(DSB)の誘導は、アポトーシス、分化又は老化を引き起こす場合があり、その修復は、関連タンパク質機構の上方制御及び細胞周期による標的化細胞の進行を必要とする相同組換えDNA修復(HDR)というよりも非相同末端結合(NHEJ)によって進められ得る。
【0003】
ex vivo HSC培養、ヌクレアーゼデザイン及び遺伝子導入技術における顕著な進歩によって、これらの障壁が部分的に克服されることが可能となり、免疫不全NSGマウスにおける長期多系統再構成可能なヒトHSPCにおける標的化ゲノム編集の明確な証拠が提供されている(Genoveseら、2014年)。より最近、遺伝子編集試薬及び手順のさらなる最適化によって、原始HSPCにおいて遺伝子標的化効率が著しく改善され、長期生着HSPCにおいて平均で10~20%の遺伝子マーキングを達成した(De Ravinら、2017年;Deverら、2016年;Wangら、2015年)。遺伝子修正のこれらのレベルは、いくつかの疾患の処置にとって、例えば、X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)の場合において安全であり、有効であると予測されており、編集された後代は、編集されていない対応物を上回って選択的利点の利益を有するであろう(Schiroliら、2017年)。
【0004】
しかし、より広い臨床適用にとって適したものになる前にHSC遺伝子編集が直面するいくつかの課題がある。特に、より原始のHSPCにおける遺伝子編集の効率並びに編集されたHSCの収率を改善することは重大である。遺伝子編集プロトコールのさらなる改善は、遺伝子標的化効率を増強し得るが、投与前の修正されたHSPCのin vitro選択は、編集された細胞の純粋な集団を得るための価値ある戦略であろう。編集された細胞の選択は、遺伝子修正のレベルが病理過程の復帰を達成するように十分でない場合には困難である。さらに、修正された遺伝子が成長の利点を提供しない場合がある(例えば、慢性肉芽腫性疾患、サラセミア、RAG1欠損症などにおいて生じる)ので、意図された編集を直接選択することは困難であり得る。さらに、遺伝子編集された細胞は、その関連タンパク質産物の細胞内局在又はタンパク質がHSPCにおいて発現されない場合さえあるために、選択に適していない場合がある。
【0005】
これらのハードルを克服するために、遺伝子編集を、選択マーカー、例えば、FACS選別に適している蛍光タンパク質又は薬物耐性タンパク質の構成的発現と、それに続く選択を媒介するための薬物処置と合わせてもよい。しかし、レポーター遺伝子の構成的発現は免疫原性である、又は長期細胞生存度にとって有害である場合があり、したがって、改変された細胞の喪失につながる可能性がある。最後に、これらのシステムは、インサイツ(in situ)及びオフサイト(off-site)両方の標的化された挿入の選択につながり、したがって、治療及び安全性の結果を危険にさらす。
【0006】
操作された転写トランス活性化因子(ETT)のブレークスルーによって、意図される遺伝子の発現を正確に調節する新しい可能性を開かれた。特に、TALE及びCRISPR/Cas系が、それぞれ、DNA結合性ドメイン(DBD)又は触媒的に不活性のCas9(dCas9)を、単一又は複数の転写活性化因子ドメイン(例えば、VP64及びVPR)と融合することによって設計された(Chavezら、2015年)。
【0007】
Guoら(2017年、Protein Cell 8巻(5号):379~393頁)では、ヒト多能性幹細胞(HPSC)において内因性遺伝子を上方制御する系が論じられている。Guoら(2017年)では、ドキシサイクリン(Dox)誘導型dCas9-VP64-p65-Rta及びTetトランス活性化因子発現カセットの、AAVS1遺伝子座の対立遺伝子中への挿入並びにdCas9-VPRのレベルが、Doxの付加及び撤回によって正確に、可逆的に制御され得ることが開示されている。
【0008】
Deverら(2016年、Nature 539巻(7629号):384~389頁)では、Cas9リボヌクレオタンパク質及び組換え体AAV6相同組換えドナー送達の組合せを使用することによる、ヒト幹細胞(HSC)におけるHBB遺伝子での相同組換えが論じられている。Deverら(2016年)では、tNGFRを含むAAVベクタープラスミドが開示されている。Deverら(2016年)では、HBB標的化HSPCを濃縮するためのマーカーとしてのtNGFR及び抗NGFR磁性ビーズ分離を使用することが論じられている。
【0009】
Bakら(2018年、Nat Protoc 13巻(2号):358~376頁)では、相同組換えによってヒト造血幹細胞を編集するためのCRISPR/Cas9技術及び組換えAAV6相同ドナー送達の使用が論じられている。Bakら(2018年)には、レポーター遺伝子、例えば、GFP又は切断型増殖因子受容体(tNGFR)が開示されている。Bakら(2018年)には、標的化された組込みを有する細胞を濃縮するためのフローサイトメトリーが論じられている。
【0010】
US2015/0191744には、ヌクレアーゼ欠損Cas9エフェクタードメイン融合タンパク質をコードするレンチウイルスベクター及びゲノム標的と相補的である少なくとも1つのsgRNA遺伝子を含むレンチウイルスベクターを使用して幹細胞又は前駆細胞の転写調節を改変する方法が論じられている。US2015/0191744には、Cas9-蛍光タンパク質融合タンパク質が開示されている。
【0011】
本発明者らは、遺伝子編集及びin vivo投与の前の編集された細胞の濃縮を達成して、遺伝子療法の有効性を増大し、修正された細胞に増殖的成長の利点が付与されないものを含む広範囲の遺伝病にその適用を広げる可能性があるプラットフォームを開発した。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、特定のドナーDNAベクターデザイン(第1の成分)を、編集された細胞の選択を駆動するヌクレアーゼ系(第3の成分)と組み合わされた、操作された転写トランス活性化因子(ETT)(第2の成分)の使用と合わせる編集された細胞を選択する方法を開発した。本発明者らは、オンサイト(on-site)組換えの際の、選択マーカーとしての中立遺伝子、例えば、細胞表面に発現された突然変異された低親和性神経増殖因子受容体(ΔLNGFR)の一過性発現及び編集された細胞の特異的選択を利用した。
【0013】
本発明は、ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞(すなわち、出発細胞)又は細胞の集団(すなわち、細胞の出発集団)中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)を含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
ETTポリペプチドは、細胞若しくは細胞の集団中に一過性に存在するか、又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、細胞若しくは細胞の集団において一過性に発現され、及び
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列(及び任意選択で最小プロモーター)及びNOIの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、方法を提供する。
【0014】
セレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御が、セレクターコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)が標的遺伝子座中に挿入されていない細胞からの、セレクターコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)が標的遺伝子座中に挿入されている細胞の特異的選択を可能にする。
【0015】
本発明は、ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターを含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
ETTポリペプチドは、細胞若しくは細胞の集団中に一過性に存在するか、又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、細胞若しくは細胞の集団において一過性に発現され、及び
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列、NOI及び調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、任意選択で、モジュレーターが細胞若しくは細胞の集団中に存在する場合、又は任意選択で、モジュレーターが細胞若しくは細胞の集団中に存在しない場合に、ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、方法を提供する。
【0016】
本発明は、ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターを含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
ETTポリペプチドは、細胞若しくは細胞の集団中に一過性に存在するか、又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、細胞若しくは細胞の集団において一過性に発現され、及び
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOI及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、モジュレーターが細胞若しくは細胞の集団中に存在する場合に、ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、方法を提供する。
【0017】
本発明は、ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターを含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
ETTポリペプチドは、細胞若しくは細胞の集団中に一過性に存在するか、又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、細胞若しくは細胞の集団において一過性に発現され、及び
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOI及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、モジュレーターが細胞若しくは細胞の集団中に存在しない場合に、ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、方法
を提供する。
【0018】
本発明は、ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターを含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOI及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、モジュレーターが細胞又は細胞の集団中に存在する場合に、細胞又は細胞の集団におけるモジュレーターの一過性存在が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、方法を提供する。
【0019】
本発明は、ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターを含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOI及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、モジュレーターが細胞又は細胞の集団中に存在しない場合に、細胞又は細胞の集団におけるモジュレーターの一過性存在が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、方法を提供する。
【0020】
理論に捉われようとは思わないが、細胞又は細胞の集団におけるモジュレーターの一過性存在は、培地へのモジュレーターの添加と、それに続く細胞又は細胞の集団のその後の洗浄によって起こり得る。
【0021】
一実施形態では、(本明細書において、人工トランス活性化因子の手段による選択(Selection by Means of Artificial Transactivators)[SMArT]と呼ばれる)、第1の成分は、セレクター(例えば、突然変異された低親和性神経増殖因子受容体(mutated Low-affinity Nerve Growth Factor Receptor)[ΔLNGFR])の発現が、セレクターの基礎発現を推定的に制限するはずである最小プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス(cytomegalovirus)[CMV]又は合成プロモーター[T6-SK](Loew、Heinz、Hampf、Bujard & Gossen、2010年))によって駆動されるドナーレポーターカセットを含む。第1の成分は、標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む相同性アーム(HA)を含み、これらのHAは、ドナーレポーターカセットが相同組換え修復(HDR)によって標的遺伝子座中に挿入されることを可能にする。ドナーレポーターカセットは、プロモーターに作動可能に連結したNOIをさらに含む。ETT結合部位は、相同性アームの外側及び最小プロモーターの上流である。最小プロモーターに対する十分に効率的なプロモーターのあり得るエンハンサー活性を制限するためにインスレーターエレメントもカセット中に存在し得る。この場合には、インスレーターエレメントは、CTCF依存性又は非依存性結合部位に由来し得る(Phillips-Cremins & Corces、2013年)(図1A)。この選択戦略は、導入遺伝子発現カセットの、ゲノムの中立領域(例えば、アデノ随伴ウイルス組込み部位1[AAVS1])への標的化組込みにとって有用であり、隣接遺伝子調節及びエピジェニックランドスケープを撹乱せずに持続的治療用導入遺伝子発現が達成され得る(Lombardoら、2011年)。ゲノムの他のあり得る中立領域として、レンチウイルスベクターの共通組込み部位(CIS)(例えば、Biffiら、2013年によって同定されるもの)又は将来ゲノムの「セーフハーバー」若しくは中立区域として定義される可能性がある他の領域があり得る。
【0022】
一実施形態では、(人工トランス活性化因子の手段による選択[SMArT]遺伝子修正と本明細書において呼ばれる)、第1の成分は、セレクター(例えば、突然変異された低親和性神経増殖因子受容体[ΔLNGFR])の発現が、セレクターの基礎発現を推定的に制限するはずである最小プロモーター(例えば、サイトメガロウイルス[CMV]又は合成プロモーター[T6-SK](Loew、Heinz、Hampf、Bujard & Gossen、2010年))によって駆動されるドナーレポーターカセットを含む。第1の成分は、標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む相同性アーム(HA)を含み、これらのHAは、ドナーレポーターカセットが相同組換え修復(HDR)によって標的遺伝子座中に挿入されることを可能にする。ドナーレポーターカセットは、NOIをさらに含む(任意選択で、カセットは、スプライシングアクセプター部位及び/又は自己切断2Aペプチド若しくは、或いは配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントをコードするヌクレオチド配列をさらに含む)。ドナーレポーターカセットの標的遺伝子座への挿入は、遺伝的欠陥を修正し、及び/又は内因性遺伝子に新規機能を導入する。ETT結合部位は、相同性アームの外側及び最小プロモーターの下流である。最小プロモーターに対する十分に効率的なプロモーターのあり得るエンハンサー活性を制限するためにインスレーターエレメントもまた、構築物中に存在し得る。この場合には、インスレーターエレメントは、CTCF依存性又は非依存性結合部位に由来し得る(Phillips-Cremins & Corces、2013年)(図1A)。この選択戦略は、導入遺伝子発現カセットの、ゲノムの中立領域(例えば、アデノ随伴ウイルス組込み部位1[AAVS1])への標的化組込みにとって有用であり、隣接遺伝子調節及びエピジェニックランドスケープを撹乱せずに持続的治療用導入遺伝子発現を達成できる(Lombardoら、2011年)。ゲノムの他のあり得る中立領域として、レンチウイルスベクターの共通組込み部位(CIS)(例えば、Biffiら、2013年によって同定されるもの)又は将来ゲノムの「セーフハーバー」若しくは中立区域として定義される可能性がある他の領域があり得る。遺伝子修正では、遺伝的欠陥を修正するか、又は内因性遺伝子中に新規機能を導入するために完全又は部分野生型配列が使用される(Schiroliら、2017年)。
【0023】
別の実施形態では、(内因性受容体の人工トランス活性化因子の手段による選択(Selection by Means of Artificial Transactivation of Endogenous Receptors)[SMArTER]と本明細書において呼ばれる)、ドナーレポーターカセットは、(i)目的のヌクレオチド配列、ii)任意選択で、スプライシングアクセプター部位及び/又は自己切断2Aペプチド若しくは、或いは配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントをコードするヌクレオチド配列、iii)任意選択で、セレクターをコードするヌクレオチド配列が、最小プロモーターに作動可能に連結される、セレクタータンパク質(例えば、ΔLNGFR)をコードするcDNA、iv)意図される標的部位(複数可)の相同性アーム(HA)を含む。ETT結合部位は、標的化組込みの際にセレクター(及び編集された遺伝子)の発現を一過性にブーストする(すなわち、一過性に上方制御)するために内因性遺伝子のプロモーターに近接して位置づけられる(図5A)。この戦略は、特定の遺伝子の修正を経た細胞を選択するために適用され得る。この場合には、セレクタータンパク質の基礎発現は、編集された遺伝子の転写調節に依存する。セレクターの構成的発現のリスクを低減するために、セレクターは、特定の安定化剤リガンドの不在下でセレクターのプロテアソーム分解を誘導できる不安定化剤ドメイン(DD)と(インフレーム)融合され得る(Rakhit、Navarro、& Wandless、2014年)。特に、不安定化剤ドメインは、FKBPドメイン(Banaszynskiら、2006年)、細菌DHFRタンパク質(Iwamoto、Bjorklund、Lundberg、Kirik、& Wandless、2010年)をベースとする場合もあり、ヒトエストロゲン受容体に由来する場合もある(Miyazakiら、2012年;PMID:22332638; JouRNAl of the American Chemical Society 134巻(9号):3942~3945頁)。この戦略によって、HDR編集された細胞の成長又は生着を特異的にブーストする生物学的セレクターの使用が可能となる。修正された細胞のホーミング及び生着能を増強するタンパク質の構成的及び長期的発現は、編集されたクローンの望ましくない、増悪する拡大増殖につながり得る。ETTによって媒介されるトランス活性化及びDDに基づく翻訳後調節を合わせることによって、生物学的セレクター(例えば、CXCR4、CD47)の一過性の、一時的な過剰発現が可能となるであろう。
【0024】
別の実施形態では、(ドキシサイクリン調節を用いる人工トランス活性化因子の手段による選択(Selection by Means of Artificial Transactivation with Doxycycline regulation)[SMArT-D]と本明細書において呼ばれる)、第1の成分は、セレクター(例えば、GFP)の発現が、セレクターの基礎発現を推定的に制限するはずである最小プロモーター(例えば、合成プロモーター[T6-SK](Loew、Heinz、Hampf、Bujard、& Gossen、2010年))によって駆動されるドナーレポーターカセットを含み、最小プロモーターは、調節エレメント(例えば、テトラサイクリンオペレーター(TetO)配列)に作動可能に連結されている。調節エレメントは通常、最小プロモーターの上流である。ETT結合部位は、調節エレメント内である。理論に捉われようとは思わないが、Tet-オフ系では、ETTは、セレクターが標的遺伝子座中に挿入される場合に、調節エレメントに結合し、最小プロモーターを活性化し、ドナーレポーターカセットが標的遺伝子座中に導入されていない場合には、モジュレーター(例えば、テトラサイクリン又はデオキシサイクリン)の結合が、ETTの調節エレメントへの結合を妨げる。理論に捉われようとは思わないが、Tet-オン系では、ETTは、セレクターが標的遺伝子座中に挿入される場合に、またモジュレーター(例えば、テトラサイクリン又はデオキシサイクリン)が存在する場合に、調節エレメントに結合し、最小プロモーターを活性化し、ドナーレポーターカセットが標的遺伝子座中に挿入されている場合に、モジュレーター(例えば、テトラサイクリン又はデオキシサイクリン)の結合は、ETTの調節エレメントへの結合を可能にする。第1の成分は、標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む相同性アーム(HA)をさらに含み、これらのHAは、ドナーレポーターカセットが相同組換え修復(HDR)により標的遺伝子座中に挿入されることを可能にする。最小プロモーターに対する十分に効率的なプロモーターのあり得るエンハンサー活性を制限するためにインスレーターエレメントもまた、カセット中に存在し得る。この場合には、インスレーターエレメントは、CTCF依存性又は非依存性結合部位に由来し
得る(Phillips-Cremins & Corces、2013年)(図1A)。この選択戦略は、導入遺伝子発現カセットの、ゲノムの中立領域(例えば、アデノ随伴ウイルス組込み部位1[AAVS1])への標的化組込みにとって有用であり、隣接遺伝子調節及びエピジェニックランドスケープを撹乱せずに持続的治療用導入遺伝子発現が達成され得る(Lombardoら、2011年)。ゲノムの他のあり得る中立領域として、レンチウイルスベクターの共通組込み部位(CIS)(例えば、Biffiら、2013年によって同定されるもの)又は将来ゲノムの「セーフハーバー」若しくは中立区域として定義される可能性がある他の領域があり得る。
【0025】
一態様では、本発明は、本発明の方法によって生成されたゲノム編集された細胞の集団を提供する。
【0026】
本発明の方法によって生成されたゲノム編集された細胞の集団は、セレクターをコードするヌクレオチド配列を含む。セレクターをコードするヌクレオチド配列は、一過性に発現され、その結果、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、細胞が選択された後にはもはや発現されない。
【0027】
本発明の方法によって生成されたゲノム編集された細胞の集団は、目的のヌクレオチド(NOI)を発現可能である細胞について濃縮される。
【0028】
さらなる態様では、本発明は、本発明のゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物を提供する。
【0029】
広い態様では、本発明は、療法において使用するための本発明のゲノム編集された細胞の集団を提供する。
【0030】
別の態様では、本発明は、遺伝子療法、造血幹細胞移植、がん処置及び/又は組織修復において使用するための本発明のゲノム編集された細胞の集団を提供する。
【0031】
本発明は、さらなる態様では、X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)、皮膚疾患及び/又は網膜疾患の処置又は予防において使用するための本発明のゲノム編集された細胞の集団を提供する。
【0032】
さらなる態様では、本発明は、単一遺伝子(monogeneic)障害、例えば、表皮水疱症及び/又は網膜色素変性症及び/又は高IgM(HIGM)症候群の処置又は予防において使用するための本発明のゲノム編集された細胞の集団を提供する。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、高IgM(HIGM)症候群の処置又は予防において使用するための本発明のゲノム編集された細胞の集団を提供する。
【0034】
広い態様では、本発明は、療法のための本発明のゲノム編集された細胞の集団の使用を提供する。
【0035】
本発明は、別の態様では、遺伝子療法、造血幹細胞移植、がん処置及び/又は組織修復のための本発明のゲノム編集された細胞の集団の使用を提供する。
【0036】
さらなる態様では、本発明は、X連鎖SCID、皮膚疾患及び/又は網膜疾患の処置又は予防のための医薬の製造のための本発明のゲノム編集された細胞の集団の使用を提供する。
【0037】
さらなる態様では、本発明は、単一遺伝子障害、例えば、表皮水疱症及び/又は網膜色素変性症及び/又は高IgM(HIGM)症候群の処置又は予防のための医薬の製造のための本発明のゲノム編集された細胞の集団の使用を提供する。
【0038】
さらなる態様では、本発明は、高IgM(HIGM)症候群の処置又は予防のための医薬の製造のための本発明のゲノム編集された細胞の集団の使用を提供する。
【0039】
広い態様では、本発明は、本発明のゲノム編集された細胞の集団を対象に投与するステップを含む療法の方法を提供する。
【0040】
別の態様では、本発明は、本発明のゲノム編集された細胞の集団を対象に投与するステップを含む遺伝子療法、造血幹細胞移植、がん処置及び/又は組織修復の方法を提供する。
【0041】
本発明は、別の態様では、X連鎖SCID、皮膚疾患及び/又は網膜疾患の処置又は予防のための方法であって、本発明のゲノム編集された細胞の集団を対象に投与するステップを含み、対象が、X連鎖SCID、皮膚疾患及び/又は網膜疾患を有する方法を提供する。
【0042】
本発明は、別の態様では、単一遺伝子障害、例えば、表皮水疱症及び/又は網膜色素変性症及び/又は高IgM(HIGM)症候群の処置又は予防のための方法であって、本発明のゲノム編集された細胞の集団を対象に投与するステップを含み、対象が単一遺伝子(mongeneic)障害を有する方法を提供する。
【0043】
本発明は、別の態様では、高IgM(HIGM)症候群の処置又は予防のための方法であって、本発明のゲノム編集された細胞の集団を対象に投与するステップを含み、対象が高IgM(HIGM)症候群を有する方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1-1】操作された転写トランス活性化因子によるAAVS1遺伝子座中に安定して組み込まれたレポーター遺伝子の一過性のトランス活性化を示す図である。A)図1Ai:AAVS1が編集された細胞を濃縮するためのSMArT戦略の説明;図1Aii:IL2RGが編集された細胞のためのSMArTER戦略の説明;図1Aiii:遺伝子修正のためのSMArT戦略の説明。B)最低限でもAAVS1遺伝子座中のΔLNGFRカセットを発現することを含む単一細胞由来のクローンの単離及び特徴付け。(左上)クローンの単離及び特徴付けのための実験ワークフロー。(左下)インタクトな5'ドナー-ゲノムジャンクション(5'-TI)を含むクローンをスクリーニングするための分子分析。5'-TI陽性のクローンを、連続的にインタクトな3'ドナー-ゲノムジャンクション、及び単一対立遺伝子組込み(野生型対立遺伝子の増幅)(中央)、及びΔLNGFRの基底の発現に関してスクリーニングした。さらなる実験のために、クローンH1を選択した。(右)選択されたクローン(クローンH1)のフローサイトメトリー。C)最小プロモーター転写開始部位(TSS)から100から600bpにわたるgRNAでのNHEJによって媒介される編集のパーセンテージ。D)(上)K562クローンHにおけるレポーター遺伝子トランス活性化に関して試験されたsgRNA(シングルガイドRNA)のパネルの概略図。(下)電気穿孔における24時間のトランス活性化されたクローンH細胞の代表的なFACSプロット。E)dCas9-VP160又はdCas9-VPRのいずれか及びAからの選択されたgRNAを発現するプラスミドの電気穿孔後の1、2及び14日における、未処置のクローンH細胞(UT)(下)のΔLNGFR+細胞におけるパーセンテージ(上)及び相対的な蛍光強度(RFI)。CからのsgRNA#4、5、9、10、12、13、26、28は、さらなるトランス活性化実験から選択された。sgRNAは、TSSの最も近くから最も遠くの順番である。sgRNAの各パネルの最後の処置は、それぞれ第1及び第5のsgRNAの組合せである。F)(上)K562クローンHにおけるレポーター遺伝子トランス活性化に関して試験されたTALE-TAのパネルの概略図。最小プロモーターTSSから324から940bpにわたる異なるTALE-VP160を発現するプラスミドの電気穿孔後の2、4及び12日におけるΔLNGFR+細胞のパーセンテージ(左)及び平均蛍光強度(MFI)(右)。G)TALE#7-VP160mRNAの増加する用量の電気穿孔後の16、24、48及び72時間におけるΔLNGFR+細胞のパーセンテージ(左上)及び平均蛍光強度(MFI)(左下)。(右)(左)からの代表的なFACSプロット。
図1-2】図1-1の続きである。
図1-3】図1-2の続きである。
図1-4】図1-3の続きである。
図1-5】図1-4の続きである。
図1-6】図1-5の続きである。
図1-7】図1-6の続きである。
図2-1】SMArT戦略は、オンターゲットのAAVS1が編集された細胞を濃縮することを可能にすることを示す図である。A)組み込まれなかったドナーのETTによって媒介されるトランス活性化を回避するための左の相同性アーム(L-HA)の長さの最適化。(上)フローサイトメトリーによって標的化された組込みの効率を測定するのに使用された構築物。(下)AAVS1ヌクレアーゼを用いた、又は用いないドナープラスミドの電気穿孔後の15日に測定されたGFP+細胞のパーセンテージ。図2AにおけるZFNは、ジンクフィンガーヌクレアーゼを指す。B)(下)電気穿孔後の15日における異なる最小プロモーター(最小CMV又はT6-SK)を有する、又はプロモーターを有さない構築物のAAVS1遺伝子座における標的化された組込み時の基底のΔLNGFR発現を表すFACSプロット。(上)デジタルドロップレットPCRによって測定されたAAVS1によって編集された対立遺伝子のコピー/ゲノム。C)BからのSK(図の第15頁)又は最小CMV(図の第16頁)バルク編集集団における、dCas9-VP160又はdCas9-VPRのいずれか及び選択されたgRNA(図1Cから)を発現するプラスミドの電気穿孔後の1、2及び14日における、高度に発現するΔLNGFR+細胞のパーセンテージ(図の第10頁)及びMFI(図の第11頁)。sgRNAは、TSSの最も近くから最も遠くの順番である。sgRNAの各パネルの最後の処置は、第1及び第5のsgRNAの組合せである。D)(上)SMArT概念実証実験研究のための概略図。(下)TALE#7-VP160プラスミド電気穿孔の48時間に高度に発現するSK-NGFR細胞からソートされた単一細胞クローンの分子特徴付け。
図2-2】図2-1の続きである。
図2-3】図2-2の続きである。
図2-4】図2-3の続きである。
図2-5】図2-4の続きである。
図2-6】図2-5の続きである。
図2-7】図2-6の続きである。
図2-8】図2-7の続きである。
図2-9】図2-8の続きである。
図3-1】ヒトCB由来CD34+細胞におけるSMArT戦略を示す図である。A)ヒトCD34+細胞におけるSMArT戦略の適用のための実験手順。B)(上)HSPC部分集団のなかでも遺伝子標的化及びトランス活性化手順後の24時間におけるGFP+細胞の編集のみの対照(D+R)に対するパーセンテージ(左)及び相対的な蛍光強度(RFI)(右)。(下)TALE#7-VPRをコードする(T7VPR)mRNAの存在下又は非存在下(それぞれ右及び左)におけるバルクのCD34+HSPC及び最も原始的な部分集団(CD90+細胞)中のGFP+細胞を示す代表的なFACSプロット。C)フローサイトメトリー(FACS)によって測定されたGFP+細胞のパーセンテージ(左のy軸、左側の柱(FACS))、及びバルクのCD34+培養物中の、異なるHSPC部分集団におけるddPCRによって測定された細胞1個当たりの編集された対立遺伝子のコピー数(右のy軸、右側の柱(HDR))。D)(上)ヒトCD34+細胞におけるSMArT戦略の適用のための実験手順。(下)HSPC部分集団における解凍後の1週間に実行された電気穿孔後の24時間のGFP+細胞の編集のみの対照(D+R)に対するパーセンテージ(左)及び相対的な蛍光強度(RFI)(右)。(D=AAV6ドナー形質導入;R=AAVS1 RNP;T7VPR=TALE#7VPRをコードするmRNA)。
図3-2】図3-1の続きである。
図3-3】図3-2の続きである。
図3-4】図3-3の続きである。
図4-1】初代ヒト細胞におけるSMArTER戦略検証を示す図である。A)IL2RGが編集された細胞を濃縮するためのSMArTER戦略の説明。B)遺伝子のプロモーターを標的化する異なるTALE-VP160を発現するプラスミドで電気穿孔されたK562細胞株におけるIL2RG発現の増加倍率。IL2RG発現を、HPRTハウスキーピング遺伝子を使用することによって正規化し、増加倍率をmock電気穿孔対照に対して計算した。HEK293T細胞株及び雄B-リンパ芽球様細胞株(JY)におけるIL2RG遺伝子の定常状態の発現はまた対照としても報告される。細胞株HEK293Tは、293Tと称される。C)HSPC部分集団における遺伝子標的化及びトランス活性化手順後の24時間のGFP+細胞の編集のみの対照(GT)に対するパーセンテージ(左)及び相対的な蛍光強度(RFI)(右)。D)TALE#3-VPRをコードするmRNAの存在下又は非存在下(それぞれ下及び上)におけるバルクのCD34+HSPC及び最も原始的な部分集団(CD90+細胞)中のGFP+細胞を示す代表的なFACSプロット。(GT=遺伝子標的化手順;VP160=TALE#3-VP160をコードするmRNA;VPR=TALE#3-VPRをコードするmRNA)。
図4-2】図4-1の続きである。
図4-3】図4-2の続きである。
図5-1】SMArTER戦略は、臨床的に適格なセレクターの発現をブーストすることによってIL2RGが修正されたHSPCを濃縮することを可能にすることを示す図である。A)(左上)IL2RGrec2A.NGFR AAV6ドナーでの、又は参照としてIL2RGrecPGK-GFPでのHDRによって編集された雄初代T細胞のパーセンテージ。IL2RGrec2A.NGFR AAV6で形質導入された、AAVS1が編集された細胞又は未処置の細胞も対照としてプロットされる。(右上)左からの総細胞の数。(右下)WT/NHEJによって編集されたカウンターパートと比較したHDRによって編集された細胞のIL2RG表面発現のパーセンテージ。B)TALE#3-VPRをコードするmRNA電気穿孔の存在下又は非存在下(それぞれ下及び上)における、バルクのCD34+HSPC及び最も原始的な部分集団(CD90+細胞)中のΔLNGFR+細胞を示す代表的なFACSプロット。C)HSPC部分集団における遺伝子標的化及びトランス活性化手順後のそれぞれ24及び36時間における、GFP+又はΔLNGFR+細胞の編集のみの対照(D+R)に対するパーセンテージ(上)及び相対的な蛍光強度(RFI)(下)。D)(左)標的化及びトランス活性化手順後の36時間における、ソートされていない、ソートされたΔLNGFR+及びΔLNGFR-HSPCの代表的なFACSプロット。(右上)ヒトCD34+細胞におけるSMArTER戦略の適用のための実験手順。(右中央)ソートされていない、ソートされたΔLNGFR+及びソートされたΔLNGFR濃縮集団における、HDRによって編集された対立遺伝子及びHSPC培養物の組成物のパーセンテージ。(右下)移植後6週にFACSによって測定されたNGFR+細胞のパーセンテージ。
図5-2】図5-1の続きである。
図5-3】図5-2の続きである。
図5-4】図5-3の続きである。
図2.1】ドキシサイクリン制御を用いた人工トランス活性化因子による選択(SMArT-D)。A)SMArT-D戦略の説明を示す図である。B)増加する量のtTA(0.25μg、1μg、3μg)の電気穿孔後の24時間における、SMArT-D構築物で標的化されたK562細胞中のGFP+細胞のパーセンテージ(左)及び平均蛍光強度(MFI)(右)。
図2.2-1】IL2RG HDRによって編集されたHSPCを一過性にトランス活性化するためのプロトコールの開発を示す図である。A)臍帯血由来CD34+細胞における実験ワークフロー:3日の予備刺激の後、IL2RG RNP+/-tTA有り/無しで、HDRのためのAAV鋳型の存在下又は非存在下で、ドキシサイクリン(Doxy)の付加有り又は無しで、細胞を電気穿孔した。B)処置後の24及び48時間に測定された、未処置(UT)、RNP+AAV(標準編集手順)、AAV+tTA、AAV+tTA+Doxy、RNP+AAV+tTA、RNP+AAV+tTA+ドキシサイクリンにおけるバルク集団中のGFP+細胞のパーセンテージ(左)及びMFI(右)。処置後の4日に測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージが示される。C)異なる用量のドキシサイクリン(2μM及び400nM)及びドキシサイクリン離脱のタイミングを試験するための実験設計(図2.2Aの場合と同様)。D)示された条件での編集後の24時間、36時間及び48時間に測定された「12時間のドキシサイクリン離脱」条件におけるGFP+細胞のパーセンテージ(左)及びMFI(右)。処置後の4日に測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージが示される。E)示された条件での編集後の36時間、48時間及び60時間に測定された「24時間のドキシサイクリン離脱」条件におけるGFP+細胞のパーセンテージ(左)及びMFI(右)。処置後の4日に測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージが示される。F)示された条件での編集後の48時間、60時間及び72時間に測定された「36時間のドキシサイクリン離脱」条件におけるGFP+細胞のパーセンテージ(左)及びMFI(右)。処置後の4日に測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージが示される。
図2.2-2】図2.2-1の続きである。
図2.2-3】図2.2-2の続きである。
図2.3-1】SMART-D戦略はIL2RGが編集されたHSPCを濃縮することを可能にすることを示す図である。A)IL2RG SMArT-Dに関して図2.2Cに記載されたように最適化された実験ワークフロー。B~C)編集後の24時間で実行されたドキシサイクリン離脱を含む示された条件におけるGFP+細胞のパーセンテージ(B)及びMFI(C)を示す、3つの独立した実験のプール。処置後の4日に測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージが示される。D)ドキシサイクリンの存在下における、又はドキシサイクリンウォッシュアウト後の(n=3)、標的化されていない(AAV)及び標的化された(RNP+AAV)細胞におけるバルク集団及び最も原始的なHSPC区画(CD34+CD133+CD90+)中のGFP+細胞のパーセンテージ。E)上:ドキシサイクリンの存在下における標的化されたバルクのCD34+CD133+CD90+集団を示す代表的なFACSプロット、及びそれぞれのドキシサイクリンウォッシュアウト後のプロット。下:ドキシサイクリンの存在下における標的化されていないバルク及びCD34+CD133+CD90+集団を示す代表的なFACSプロット、及びそれぞれのドキシサイクリンウォッシュアウト後のプロット。
図2.3-2】図2.3-1の続きである。
図2.4-1】SMART-D戦略は、AAVS1が編集されたHSPCを濃縮することを可能にする。A)左:AAVS1遺伝子座のためのSMArT-D戦略。右:図2.2Cに記載される実験ワークフロー。B~C)図2.3B~Cの場合と同様のGFP+細胞のパーセンテージ(B)及びMFI(C)。D)図2.3Dの場合と同様のバルク及びCD34+CD133+CD90+細胞中のGFP+細胞のパーセンテージ(n=2)。E)ドキシサイクリンの存在下における、又はウォッシュアウト後の、バルク及びCD34+CD133+CD90+集団中の標的化された細胞の代表的なFACSプロット。
図2.4-2】図2.4-1の続きである。
図2.5-1】SMART-D戦略は、CD40LGが編集されたHSPCを濃縮することを可能にすることを示す図である。A)左:セレクター遺伝子としてトランケートされたNGFRを用いたCD40LGにおけるSMArT-D戦略。右:図2.2Cの場合と同様の実験ワークフロー。B~C)それぞれドキシサイクリンの存在下で試験された、又はウォッシュアウト後の、未処置(UT)、編集のみ(RNP+AAV)、AAV+tTA及びRNP+AAV+tTA中のNGFR+細胞のパーセンテージ(B)及びMFI(C)。処置後の4日に測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージが示される。D)ドキシサイクリンの存在下又は非存在下での、標的化された、及び標的化されていない細胞におけるトランス活性化を示す代表的なFACSプロット。
図2.5-2】図2.5-1の続きである。
図2.6-1】編集されたHSPCをin vivoで選択するためのSMART-D戦略を示す図である。A)左:生物学的なセレクターとしてCXCR4を有するIL2RG遺伝子座を標的化するためのSMArT-D戦略。右:2つの異なるドキシサイクリン用量を用いた図2.2Cに記載される実験ワークフロー。B)遺伝子編集手順後の24時間、48時間及び8日に測定された、ドキシサイクリンの存在下における、又はウォッシュアウト後の、RNP+AAV+tTA及びAAV+tTA条件でのCXCR4high細胞のパーセンテージ。C)左:ドキシサイクリン400nM(左)及び80nM(右)の存在下における、及びドキシサイクリンウォッシュアウト後の、標的化された、及び標的化されていない細胞中の代表的なFACSプロット。D)示されたHSPC部分集団中のドキシサイクリン(400nM又は80nM)ウォッシュアウト後における高いCXCR+細胞のパーセンテージ。E)CXCR4high及びCXCR4low細胞のソーティングのためのゲーティング戦略を示すFACSプロットと、HDRによって編集された細胞のそれぞれのパーセンテージ。ソートされていないバルク集団におけるHDRのパーセンテージも示される。
図2.6-2】図2.6-1の続きである。
図2.6-3】図2.6-2の続きである。
図2.6-4】図2.6-3の続きである。
図2.7】Ad5-E4orf6/7及び/又はGSE56を用いたSMArT-D戦略の組合せは、それでもなお編集された画分をトランス活性化することを可能にすることを示す図である。A)ドキシサイクリンの存在下で、又はウォッシュアウト後に測定された、示された条件におけるCXCR4high細胞のパーセンテージ。処置後の4日に測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージが示される。
図2.8】SMArT-D戦略によるin vivoにおける選択を示す図である。A)実験設計:遺伝子編集は、予備刺激の3日後に、tTAの存在下又は非存在下で実行される。編集後の24時間にウォッシュアウトを実行した。NSGマウスにおけるHSPC移植を、12時間後(編集手順後の36時間に)実行した。移植後の6、12、18週に採血した(n=3、4、4、4、4、4)。B)示された条件における移植を受けたマウスの末梢血液からの6、12及び18週におけるヒトCD45+細胞のパーセンテージ。C)図2.8BからのマウスにおけるデジタルドロップレットPCRによって測定されたHDRによって編集された細胞のパーセンテージ。
図2.9】CD40LGマウスにおける選択戦略の実行可能性を示す図である。A)異なるグループ(n=5、5、4、5、5、5)の実験ワークフロー及び概略図。B)12週における移植を受けたマウスの末梢血液での野生型(WT)及びノックアウト(KO)細胞のキメラ現象。C)移植後の12週における末梢血液におけるB細胞、骨髄性細胞及びT細胞の絶対数。D)ELISAアッセイの事前のブースト(ワクチン接種後)及び事後のブーストによって測定されたTNP-KLH抗原に対する特異的なIgG応答。
【発明を実施するための形態】
【0045】
「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」及び「から構成される(comprised of)」という用語は、本明細書で使用される場合、「含んでいる(including)」又は「含む(includes)」又は「含有している(containing)」又は「含有する(contains)」と同義であり、包括的であるか、又は制約がなく、さらなる、列挙されないメンバー、要素又はステップを排除しない。「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises)」及び「から構成される(comprised of)」という用語はまた、「からなる(consisting of)」という用語を含む。
【0046】
ゲノム編集された細胞
「ゲノム編集された細胞」という用語は、細胞のゲノムにおいてヌクレオチド配列が挿入、欠失、破壊又は置換される遺伝子工学の種類を指す。「ゲノム編集された細胞」、「編集された細胞」、「遺伝子編集された細胞」、「標的化された遺伝子療法」及び「遺伝子編集」という用語は、本明細書において同義的に使用され得る。遺伝子編集は、ポリヌクレオチド中の所望の部位を標的にできる操作されたヌクレアーゼ(本明細書において第3の成分と呼ばれることもある)を使用して達成され得る。このようなヌクレアーゼは、所望の位置で部位特異的二本鎖切断を作出することができ、これは、次いで、非相同末端結合(NHEJ)又は相同組換え(HR)によって修復され、標的化された突然変異をもたらし得る。このようなヌクレアーゼは、ウイルスベクターを使用して標的細胞に送達され得る。遺伝子編集は、細胞自身の修復経路を得て、標的遺伝子座を修正、破壊又は付加する。例えば、配列を修正する遺伝子編集では、相同性修復のための鋳型配列が提供され、細胞自身の修復経路が、突然変異を消去し、それを正しい配列と置き換える。例えば、配列を付加する遺伝子編集では、相同性修復のための鋳型配列が提供され、細胞自身の修復経路にカセットが組み込まれ、部位特異的な方法でNOIの発現を可能にする。例えば、遺伝子を破壊する遺伝子編集では、相同性修復のための鋳型配列が提供され、細胞自身の修復経路が突然変異、挿入又は遺伝子欠失され、遺伝子の機能を無能にする。
【0047】
当技術分野で公知の適したヌクレアーゼの例として、亜鉛フィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、クラスター化された規則的に間隔を空けた短いパリンドロームリピート(the clustered regularly interspaced short palindromic repeats)(CRISPR)/Cas系及びCRISPR/Cpf系(Gaj, T.ら(2013年)Trends Biotechnol. 31巻:397~405頁;Sander, J.D.ら(2014年)Nat. Biotechnol. 32巻:347~55頁)が挙げられる。
【0048】
メガヌクレアーゼ(Silve, G.ら(2011年) Cur. Gene Ther. 11巻:11~27頁)も、遺伝子編集のための適したヌクレアーゼとして使用され得る。
【0049】
CRISPR/Cas系は、RNAによってガイドされるDNA結合系(van der Oostら(2014年) Nat. Rev. Microbiol. 12巻:479~92頁)であり、ガイドRNA(gRNA)は、Casドメイン(例えば、Cas9)又はCpfドメイン(例えば、Cpf1)が、特定の配列を標的とすることを可能にするように選択され得る。gRNAのデザインのための方法は、当技術分野で公知である。さらに、異なるエフェクタードメインに、細胞の所望のゲノム部位を同時に、方向性に標的とさせるために、完全に直交性のCas9タンパク質並びにCas9/gRNAリボヌクレオタンパク質複合体及び異なるタンパク質に結合するためのgRNA構造/組成物の改変が最近開発され(Esveltら(2013年) Nat. Methods 10巻:1116~21頁;Zetsche, B.ら(2015年) Cell pii:S0092-8674(15)01200-3;Dahlman, J.E.ら(2015年) Nat. Biotechnol. 2015年10月5日doi:10.1038/nbt.3390.[印刷前のEpub];Zalatan, J.G.ら(2015年) Cell 160巻:339~50頁;Paix, A.ら(2015年) Genetics 201巻:47~54頁)、本明細書において使用するのに適している。
【0050】
ゲノム編集された細胞について細胞の集団の「濃縮」とは、ゲノム編集された細胞の割合(又は濃度)が細胞の集団内で増大されることと理解されるべきである。その他の種類の細胞の濃度は、同時に低減され得る。
【0051】
一部の実施形態では、細胞の集団は、細胞の単離された集団である。細胞の「単離された集団」という用語は、本明細書で使用される場合、身体からこれまでに採取された細胞の集団を指し得る。細胞の単離された集団は、当技術分野で公知の標準技術を使用してex vivo又はin vitroで培養され、マニピュレートされ得る。細胞の単離された集団は、後に対象中に再導入される場合もある。前記対象は、細胞が元々単離された同一対象である場合も、異なる対象である場合もある。
【0052】
細胞の集団は、特定の表現型又は特徴を示す細胞について、その表現型又は特徴を示さない、又はより少ない程度にそれを示す他の細胞から、選択的に濃縮又は精製され得る。例えば、特定のセレクター(例えば、ΔLNGFR、NGFR、切断型NGFR、MGMT、CD19、EGFR、c-Kit、CXCR4、CXCR4 WHIM、CD47及びeGFP)を発現する細胞の集団は、細胞の出発集団から精製され得る。或いは、又はさらに、別のセレクターを発現しない細胞の集団が精製され得る。
【0053】
濃縮又は精製は、他の種類の細胞から実質的に純粋である細胞の集団をもたらし得る。
【0054】
特定のセレクター(例えば、ΔLNGFR、NGFR、切断型NGFR、MGMT、CD19、EGFR、c-Kit、CXCR4、CXCR4 WHIM、CD47及びeGFP)を発現する細胞又は細胞の集団の濃縮又は精製は、そのマーカーに結合する、好ましくは、そのマーカーに実質的に特異的に結合する物質を使用することによって達成され得る。例えば、ゲノム編集された細胞の集団は、マーカーに対して特異的であり、蛍光色素又は常磁気ビーズと直接的若しくは間接的にコンジュゲートされる抗体、タンパク質又はアプタマーによってマークされ得る。したがって、マークされた細胞の選択は、蛍光活性化細胞選別、磁性カラム、親和性タグ精製又は顕微鏡ベースの技術によって実施され得る。
【0055】
一部の実施形態では、ヌクレオチド配列は、ΔLNGFR、NGFR、MGMT、CD19、EGFR、c-Kit、CXCR4、CXCR4 WHIM、CD47及びeGFPからなる群から選択されるセレクターをコードする。
【0056】
一過性発現又は一過性上方制御
第2の成分がETTポリペプチドである場合には、ETTポリペプチドは、細胞又は細胞の集団中に一過性に存在する。理論に捉われようとは思わないが、ETTポリペプチドの一過性存在は、この第2の成分の細胞内分解のために生じる。
【0057】
第2の成分が、ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列である場合には、ヌクレオチド配列は、細胞又は細胞の集団において一過性に発現される。理論に捉われようとは思わないが、ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現は、この第2の成分の細胞内分解のために生じる。さらに、ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現は、ETTポリペプチドの短期生成をもたらす。次に、ETTポリペプチドは細胞内分解を受けるので、ETTポリペプチドは、細胞又は細胞の集団において一過性にだけ存在する。
【0058】
ETTポリペプチドの結合部位(ETT結合部位)は、細胞のゲノム中の標的遺伝子座に作動可能に連結されている。一部の実施形態では、少なくとも1つのETT結合部位は、標的遺伝子座の上流である。他の実施形態では、少なくとも1つのETT結合部位は、標的遺伝子座の下流である。ETT結合部位の存在によって、ETTポリペプチドが細胞中に存在する場合に、標的遺伝子座に挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の発現が可能となる。理論に捉われようとは思わないが、ゲノム編集された細胞において、ETT結合部位に結合されたETTは、標的遺伝子座又は標的遺伝子座中に挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列に作動可能に連結した外因性プロモーター(例えば、最小プロモーター)に作動可能に連結した内因性プロモーターに対して作用し得る。セレクターをコードするヌクレオチド配列の発現は、セレクター及びNOIをコードするヌクレオチド配列が同一配列でない限り、ゲノム編集された細胞においてNOIの発現から独立にモジュレートされ得る。
【0059】
細胞又は細胞の集団におけるETTポリペプチドの一過性存在によって、セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御が可能となる(これは、「オンサイト」挿入と呼ばれることもある)。セレクターをコードするヌクレオチド配列が、非標的遺伝子座中に挿入される場合には(これは、「オフサイト」挿入と呼ばれることもある)、セレクターをコードするヌクレオチド配列は発現されない。
【0060】
ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現によって、セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御が可能となる(これは、「オンサイト」挿入と呼ばれることもある)。セレクターをコードするヌクレオチド配列が、非標的遺伝子座中に挿入される場合は(これは、「オフサイト」挿入と呼ばれることもある)、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、発現されない。
【0061】
一部の実施形態では、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御は、細胞におけるモジュレーターの存在を必要とする。他の実施形態では、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御は、細胞におけるモジュレーターの存在を必要としない。
【0062】
「セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現する」という用語は、本明細書で使用される場合、セレクターをコードするヌクレオチド配列の一時的な発現を指す。セレクターの一過性発現によって、セレクター発現のこの期間の間のゲノム編集された細胞の選択が可能となる。
【0063】
「セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に上方制御する」という用語は、本明細書で使用される場合、セレクターをコードするヌクレオチド配列の発現の一時的な増大を指す。セレクターの一過性上方制御によって、セレクターの上方制御された発現のこの期間の間のゲノム編集された細胞の選択が可能となる。
【0064】
セレクターの上方制御とは、そうでなければ同一条件下での標的部位におけるNOIの組込みを含有しない細胞の集団と比較した、NOIの標的化された組込みを含有する細胞の集団内のセレクターの発現のレベルの増大を指す。
【0065】
本発明のゲノム編集法が、短期間の間のセレクターの発現又は上方制御をもたらすことが有利である。この期間の間に、ゲノム編集された細胞が選択され得る。
【0066】
遺伝子療法のためには、例えば、細胞が対象中に導入され、移植される場合に、ゲノム編集された細胞がセレクターを発現しない、又はセレクターの上方制御された発現を有さないことが有利である。
【0067】
一部の実施形態では、ETTポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、約6時間~約7日、約6時間~約5日、約6時間~約4日、約6時間~約3日、約6時間~約48時間、約6時間~約36時間、約6時間~約24時間又は約6時間~約12時間、細胞又は細胞の集団中に一過性に存在する。
【0068】
一部の実施形態では、ETTポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、約6時間~約7日、約6時間~約5日、約6時間~約4日、約6時間~約3日、約6時間~約48時間、約6時間~約36時間、約6時間~約24時間又は約6時間~約12時間、細胞又は細胞の集団において一過性に発現される。
【0069】
細胞の選択
本発明の方法は、セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現する、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択することを含む。
【0070】
セレクターを発現する細胞又は細胞の集団を選択するためのいくつかの技術が、当技術分野で公知である。これらとして、磁気ビーズベースの分離技術(例えば、閉回路磁気ビーズベースの分離)、フローサイトメトリー、蛍光活性化細胞選別(FACS)、親和性タグ精製(例えば、アビジン標識された物質を分離するためのビオチンカラムのような、親和性カラム又はビーズを使用する)及び顕微鏡ベースの技術が挙げられる。
【0071】
また、異なる技術の組合せ、例えば、磁気ビーズベースの分離ステップと、それに続く、フローサイトメトリーによる1つ以上のさらなる(陽性又は陰性)マーカーについての細胞の集団の選別とを使用して選択を実施することも可能であり得る。
【0072】
臨床グレード分離は、例えば、CliniMACS(登録商標)システム(Miltenyi)又はCliniMACS(登録商標)Prodigyシステム(Miltenyi)を使用して実施され得る。これらは閉回路磁気ビーズベースの分離技術の2つの例である。
【0073】
本発明では、セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現又は一過性に上方制御しない細胞又は細胞の集団は選択されない。
【0074】
ゲノム編集された細胞を選択するために使用される技術は、好ましくは、自動化及び/又はハイスループットスクリーニングに適しているものである。
【0075】
一部の実施形態では、ゲノム編集された細胞は、フローサイトメトリー(例えば、蛍光活性化細胞選別)又は磁気ビーズ分離によって選択される。
【0076】
一部の実施形態では、ゲノム編集された細胞は、磁気ビーズベースの分離技術によって選択される。
【0077】
一部の実施形態では、ゲノム編集された細胞は、閉回路磁気ビーズベースの分離によって選択される。
【0078】
表Bには、例えば、フローサイトメトリーによるゲノム編集された細胞の選択における使用に適した抗体の例が詳細に記載されている。
【0079】
細胞種
一部の実施形態では、細胞は、哺乳動物細胞である。好ましくは、細胞は、ヒト細胞である。
【0080】
一部の実施形態では、細胞の集団は、哺乳動物細胞である。好ましくは、細胞の集団は、ヒト細胞である。
【0081】
一部の実施形態では、細胞は、ゲノム編集された細胞である。
【0082】
一部の実施形態では、細胞の集団は、細胞の出発集団である。細胞の出発集団は、本発明の方法に従ってゲノム編集を受ける。他の実施形態では、細胞の集団は、ゲノム編集された細胞の集団である。
【0083】
一部の実施形態では、細胞又は細胞の集団は、造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)、骨髄/単球にコミットされた前駆細胞、マクロファージ又は単球、T又はB細胞リンパ球、胚性幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、上皮幹細胞、角膜縁幹細胞培養物、間葉系間質細胞(MSC)、神経幹細胞(NSC)又はメソアンギオブラストである。
【0084】
一部の実施形態では、細胞の集団は、造血幹細胞(HSC)、造血前駆細胞(HPC)、骨髄/単球にコミットされた前駆細胞、マクロファージ又は単球、T又はB細胞リンパ球、胚幹細胞(ESC)、人工多能性幹細胞(iPSC)、上皮幹細胞、角膜縁幹細胞培養物、間葉系間質細胞(MSC)、神経幹細胞(NSC)、メソアンギオブラスト又はそれらの混合物である。
【0085】
幹細胞は、多数の細胞種に分化できる。全ての細胞種に分化できる細胞は、全能性として知られている。哺乳動物では、接合体及び初期胚細胞のみが全能性である。幹細胞は、全部ではないがほとんどの多細胞生物において見られる。それらは、有糸分裂の細胞分裂によって自身を再生し、様々な専門化した細胞種に分化する能力を特徴とする。2つの広範な種類の哺乳動物幹細胞として、胚盤胞の内部細胞塊から単離される胚幹細胞及び成体組織において見られる成体幹細胞がある。胚の発達では、幹細胞は、専門化した胚組織の全てに分化できる。成体臓器では、幹細胞及び前駆細胞は、身体の修復系として作用し、専門化した細胞を補充するだけでなくまた、再生臓器、例えば、血液、皮膚又は腸組織の正常なターンオーバーも維持する。
【0086】
造血幹細胞(HSC)は、例えば、末梢血、骨髄及び臍帯血において見ることができる多能性幹細胞である。HSCは、自己再生可能であり、任意の血液細胞系統に分化可能である。それらは、免疫系全体並びに全ての造血組織(例えば、骨髄、脾臓及び胸腺)における赤血球及び骨髄系統を再コロニー形成可能である。それらは、全ての系統の造血細胞の長期生成を提供する。
【0087】
造血前駆細胞は、特定の種類の細胞に分化する能力を有する。しかし、幹細胞とは対照的に、それらはすでにはるかに特有であり、その「標的」細胞へ分化するように強いられる。幹細胞と前駆細胞の間の相違は、幹細胞は、不確定に増殖できるのに対し、前駆細胞は限られた回数分裂できるだけであるということである。造血前駆細胞は、機能的in vivoアッセイ(すなわち、移植及び長期間にわたって全ての血液系統を生じさせることができるか否かの実証)によってのみHSCから厳密に区別され得る。
【0088】
造血幹及び前駆細胞(HSPC)供給源
造血幹及び/又は前駆細胞の集団は、組織試料から得ることができる。
【0089】
例えば、造血幹及び/又は前駆細胞の集団は、末梢血(例えば、成人及び胎児末梢血)、臍帯血、骨髄、肝臓又は脾臓から得ることができる。好ましくは、これらの細胞は、末梢血又は骨髄から得られる。それらは、増殖因子処置によるin vivoでの細胞の動員後に得ることができる。
【0090】
動員は、例えば、G-CSF、プレリキサフォル(plerixaphor)又はそれらの組合せを使用して実施され得る。他の物質、例えば、NSAID及びジペプチジルペプチダーゼ阻害剤も、動員剤として有用であり得る。
【0091】
幹細胞増殖因子GM-CSF及びG-CSFを利用できるようになると、ほとんどの造血幹細胞移植手順は、現在、骨髄からではなく末梢血から採取された幹細胞を使用して実施されている。末梢血幹細胞を採取することは、より大きな移植片を提供し、移植片を採取するためにドナーが全身麻酔に付される必要がなく、その結果、生着まで、より短い時間となり、より低い長期再発率を提供する場合がある。
【0092】
骨髄は、標準吸引法(定常状態又は動員後のいずれか)によって、又は次世代収集ツール(例えば、マローマイナー(Marrow Miner))を使用することによって採取され得る。
【0093】
さらに、造血幹及び前駆細胞はまた、人工多能性幹細胞に由来する場合もある。
【0094】
HSC特徴
HSCは、通常、フローサイトメトリー手順による低い前方散乱及び側方散乱プロファイルのものである。ミトコンドリア活性を決定することを可能にするローダミン標識によって実証されるように、一部は代謝的に静止状態である。HSCは、ある特定の細胞表面マーカー、例えば、CD34、CD45、CD133、CD90、CD201及びCD49fを含み得る。それらはまた、CD38及びCD45RA細胞表面マーカーの発現を欠く細胞として定義され得る。しかし、これらのマーカーの一部の発現は、HSCの発生段階及び組織特異的状況に左右される。「副集団細胞」と呼ばれる一部のHSCは、フローサイトメトリーによって検出されるようにHoechst 33342色素を排除する。したがって、HSCは、その同定及び単離を可能にする記述的特徴を有する。
【0095】
陰性マーカー
CD38は、ヒトHSCの最も確立された、有用な単一陰性マーカーである。
【0096】
ヒトHSCはまた、系統マーカー、例えば、CD2、CD3、CD14、CD16、CD19、CD20、CD24、CD36、CD56、CD66b、CD271及びCD45RAについて陰性であり得る。しかし、これらのマーカーは、HSC濃縮のために組み合わせて使用される必要がある場合がある。
【0097】
「陰性マーカー」によって、ヒトHSCはこれらのマーカーの発現を欠くということが理解されるべきである。
【0098】
陽性マーカー
CD34及びCD133は、HSCの最も有用な陽性マーカーである。
【0099】
一部のHSCはまた、系統マーカー、例えば、CD90、CD49f及びCD93について陽性である。しかし、これらのマーカーは、HSC濃縮のために組み合わせて使用される必要がある場合がある。
【0100】
「陽性マーカー」によって、ヒトHSCはこれらのマーカーを発現するということは理解されるべきである。
【0101】
一部の実施形態では、造血幹及び前駆細胞は、CD34+CD38-細胞である。
【0102】
分化細胞
分化細胞は、幹細胞又は前駆細胞と比較してより専門化したものになった細胞である。分化は、生物が単一接合体から組織及び細胞種の複雑な系へと変化するにつれて、多細胞生物の発達の際に生じる。分化はまた、成体における共通プロセスであり、成体幹細胞は、組織修復及び正常細胞ターンオーバーの間に分裂し、完全に分化した娘細胞を作出する。分化は、細胞の大きさ、形状、膜電位、代謝活性及びシグナルに対する応答性を著しく変更する。これらの変更は、大きくは、遺伝子発現の高度に制御された改変による。言い換えれば、分化細胞は、特定の遺伝子の活性化及び非活性化に関与する発達プロセスのために、特定の構造を有し、ある特定の機能を発揮する細胞である。本明細書において、分化細胞は、造血系統の分化細胞、例えば、単球、マクロファージ、好中球、好塩基球、好酸球、赤血球、巨核球/血小板、樹状細胞、T細胞、B細胞及びNK細胞を含む。例えば、造血系統の分化細胞は、未分化細胞では発現されないか、又はより少ない程度にしか発現されない細胞表面分子の検出によって幹細胞及び前駆細胞から区別され得る。適したヒト系統マーカーの例として、CD33、CD13、CD14、CD15(骨髄)、CD19、CD20、CD22、CD79a(B)、CD36、CD71、CD235a(赤血球)、CD2、CD3、CD4、CD8(T)及びCD56(NK)が挙げられる。
【0103】
本明細書において使用するための細胞又は細胞の集団は、細胞の維持及び/又は成長に適した任意の培地において培養され得る。
【0104】
Provasiら(Nat Med 2012年18巻(5号)807~815頁;PMID:22466705)には、T細胞の維持及び/又は成長に適している培地が開示されている。
【0105】
一部の実施形態では、細胞又は細胞の集団は、K562細胞である。
【0106】
他の実施形態では、細胞又は細胞の集団は、CD34+細胞である。
【0107】
細胞における成分の導入
本発明の方法は、細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入することを含む。第1の成分、第2の成分及び第3の成分は、個別の、別個の成分である。したがって、本発明の方法によって、少なくとも3つの成分が細胞又は細胞の集団中に導入される。一部の実施形態では、本発明の方法において使用される成分は、これら3種の成分に限定されず、例えば、標的化されるべき特定の遺伝子(単数又は複数)に応じて、さらなる成分が方法において使用されてもよい。
【0108】
本明細書で使用される場合、用語「導入すること」とは、成分(例えば、外来DNA又はRNA又はポリペプチド)を細胞中に挿入する方法を指す。本明細書で使用される場合、「導入すること」という用語は、形質導入及びトランスフェクション法の両方を含む。トランスフェクションは、非ウイルス法によって成分(例えば、核酸)を細胞中に導入するプロセスである。形質導入は、ウイルスベクターによって外来DNA又はRNAを細胞中に導入するプロセスである。
【0109】
一部の実施形態では、第1の成分及び/又は第2の成分及び/又は第3の成分及び/又はさらなる成分は、細胞中に電気穿孔によって導入される。一部の実施形態では、第1の成分及び/又は第2の成分及び/又は第3の成分及び/又はさらなる成分は、化学物質ベースのトランスフェクション(例えば、リン酸カルシウム、カチオンポリマー(PEI)及びリポソーム)によって細胞に導入される。一部の実施形態では、第1の成分及び/又は第2の成分及び/又は第3の成分及び/又はさらなる成分は、形質導入によって細胞に導入される。第1の成分及び/又は第2の成分及び/又は第3の成分及び/又はさらなる成分は、ウイルスベクターの形質導入によって導入され得ることが適している。
【0110】
本発明の方法において使用される成分は、同時に、又は任意の順序で細胞又は細胞の集団に導入され得る。
【0111】
一部の実施形態では、第1の成分及び第2の成分は、同時に細胞又は細胞の集団中に導入される。
【0112】
一部の実施形態では、第1の成分及び第3の成分は、同時に細胞又は細胞の集団中に導入される。
【0113】
一部の実施形態では、第2の成分は、第1の成分が細胞又は細胞の集団中に導入された約1日~約14日後に細胞又は細胞の集団中に導入される。好ましくは、第2の成分は、第1の成分が細胞又は細胞の集団中に導入された約2日~約4日後に細胞又は細胞の集団中に導入される。
【0114】
第1の成分
「第1の成分」という用語は、本明細書で使用される場合、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)を含むドナーレポーターカセットを指す。
【0115】
ドナーレポーターカセット
「ドナーレポーターカセット」という用語は、「ドナーベクター」、「ドナーDNAベクター」、「ドナープラスミド」及び「ドナーカセット」という用語と同義的に使用され得る。
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、
(iii)プロモーターに作動可能に連結したNOI、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、セレクターをコードするヌクレオチド配列が、標的遺伝子座中に挿入される場合に最小プロモーターを活性化する。このドナーレポーターカセットは、SMArT法において使用するのに適している。このドナーレポーターカセットは、NOIを標的遺伝子座中に挿入するのに、及び/又は標的遺伝子座でNOIを修正若しくは破壊するのに適している。
【0116】
他の実施形態では、ドナーレポーターカセットは順次
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、スプライシングアクセプター部位(SA)、
(iii)NOI、
(iv)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(v)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、最小プロモーターを活性化する。このドナーレポーターカセットは、SMArT法において使用するのに適している。このドナーレポーターカセットは、NOIを標的遺伝子座中に挿入するのに、及び/又は標的遺伝子座でNOIを修正若しくは破壊するのに適している。
【0117】
他の実施形態では、ドナーレポーターカセットは順次
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、スプライシングアクセプター部位(SA)、
(iii)NOI、
(iv)任意選択で、2A自己切断ペプチド(2A)又は配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントをコードするヌクレオチド配列、
(v)セレクターをコードするヌクレオチド配列、任意選択で、最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(vi)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、標的遺伝子座において内因性プロモーターを活性化する。このドナーレポーターカセットは、SMArTER法において使用するのに適している。このドナーレポーターカセットは、NOIを標的遺伝子座中に挿入するのに、及び/又は標的遺伝子座でNOIを修正若しくは破壊するのに適している。
【0118】
セレクターの発現は、翻訳活性化因子及び/又はエンハンサーの結合部位の使用によって増大され得る。
【0119】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは、翻訳活性化因子、例えば、真核生物開始因子4G(eIF4G)のアプタマーを含有するモジュラーRNA活性化因子の少なくとも1つの結合部位をさらに含む。翻訳活性化因子の少なくとも1つの結合部位は、mRNA翻訳をブーストするために転写開始部位の下流に、それと近接して挿入され得る。
【0120】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは、エンハンサー(例えば、EF1アルファプロモーター)をさらに含む。エンハンサーは、プロモーターに近接して挿入され得る。
【0121】
一部の実施形態では、翻訳活性化因子及び/又はエンハンサーは、モジュレーターの存在下で誘導可能であり得る。他の実施形態では、翻訳活性化因子及び/又はエンハンサーは、モジュレーターの不在下で誘導可能であり得る。
【0122】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは、調節エレメントをさらに含む。
【0123】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは順次
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、プロモーターに作動可能に連結したNOI、
(iii)最小プロモーターに作動可能に連結された、セレクターをコードするヌクレオチド配列であって、最小プロモーターが調節エレメントに作動可能に連結されている、セレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、及びモジュレーターが細胞又は細胞の集団に存在する場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、調節エレメントに結合し、最小プロモーターを活性化する。このドナーレポーターカセットは、SMArT-D法において使用するのに適している。このドナーレポーターカセットは、NOIを標的遺伝子座中に挿入するのに、及び/又は標的遺伝子座でNOIを修正若しくは破壊するのに適している。
【0124】
他の実施形態では、ドナーレポーターカセットは順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、プロモーターに作動可能に連結したNOI、
(iii)最小プロモーターに作動可能に連結された、セレクターをコードするヌクレオチド配列であって、最小プロモーターが調節エレメントに作動可能に連結されている、セレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、及びモジュレーターが細胞又は細胞の集団に存在しない場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、調節エレメントに結合し、最小プロモーターを活性化する。このドナーレポーターカセットは、SMArT-D法において使用するのに適している。このドナーレポーターカセットは、NOIを標的遺伝子座中に挿入するのに、及び/又は標的遺伝子座でNOIを修正若しくは破壊するのに適している。
【0125】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは、スプライシングアクセプター部位(SA)をさらに含む。
【0126】
一部の実施形態では、2A自己切断ペプチド(2A)は、配列番号55として示される配列を有するか、又は配列番号55と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0127】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは、少なくとも1つのインスレーターエレメントをさらに含む。
【0128】
「インスレーターエレメント」という用語は、本明細書で使用される場合、プロモーターに対するエンハンサーの活性を制限可能であるヌクレオチド配列を指す。
【0129】
インスレーターエレメントは、CCCTC結合性因子(CTCF)依存性又は非依存性結合部位に由来し得るか、又はそれから導くことができる。
【0130】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットは、配列番号51として示される配列を有するか、又は配列番号51と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有するSV40polyA配列を含む。
【0131】
図1及び2.1には、本発明の方法において使用するためのドナーカセットの具体例が詳細に記載されている。
【0132】
一部の実施形態では、ドナーレポーターカセットはプラスミドである。
【0133】
一部の実施形態では、ベクターはドナーレポーターカセットを含む。
【0134】
一部の実施形態では、ベクターはプラスミドである。他の実施形態では、ベクターはウイルスベクターである。
【0135】
一部の実施形態では、ベクターは発現ベクターである。
【0136】
相同性アーム(HA)
ドナーカセットは相同性アーム(HA)を含む。通常、ドナーカセットは左相同性アーム(左HA)及び右相同性アーム(右HA)を含む。
【0137】
各相同性アーム(HA)は、標的遺伝子座の少なくとも一部と相同であるヌクレオチド配列を含む。通常、左相同性アームは標的遺伝子座の5'末端の配列と相同性を有し、右相同性アームは標的遺伝子座の3'末端の配列と相同性を有する。
【0138】
相同組換え修復(HDR)は、DNA二本鎖切断(DSB)(例えば、標的遺伝子座における)が、DNA鋳型を使用する相同組換えによって修復されるプロセスである。相同性駆動修復(HDR)は、相同性アームの長さによって影響を受ける場合がある。
【0139】
一部の実施形態では、左相同性アームは約500~約1000ヌクレオチドの長さである。
【0140】
一部の実施形態では、左相同性アームは、配列番号50として示される配列を有するか、又は配列番号50と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0141】
他の実施形態では、左相同性アームは約50~約500ヌクレオチドの間の長さである。
【0142】
他の実施形態では、左相同性アームは約50~約600ヌクレオチドの間の長さである。
【0143】
一部の実施形態では、左相同性アームは約80~約200ヌクレオチドの間の長さである。
好ましくは、左相同性アームは約130~約170ヌクレオチドの間の長さである。好ましくは、左相同性アームは約140~約160ヌクレオチドの間の長さである。より好ましくは、左相同性アームは約150ヌクレオチドの長さである。
【0144】
一部の実施形態では、左HAは、配列番号52として示される配列を有するか、又は配列番号52と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0145】
一部の実施形態では、左相同性アームは約200~約350ヌクレオチドの間の長さである。好ましくは、左相同性アームは約250~約330ヌクレオチドの間の長さである。好ましくは、左相同性アームは約280~約310ヌクレオチドの間の長さである。より好ましくは、左相同性アームは約290ヌクレオチドの長さである。
【0146】
一部の実施形態では、左HAは、配列番号53として示される配列を有するか、又は配列番号53と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0147】
一部の実施形態では、左HAは、配列番号61として示される配列を有するか、又は配列番号61と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0148】
一部の実施形態では、左HAは、配列番号63として示される配列を有するか、又は配列番号63と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0149】
一部の実施形態では、右相同性アームは約500~約1000ヌクレオチドの長さである。
【0150】
他の実施形態では、右相同性アームは約200~約300ヌクレオチドの間の長さである。好ましくは、右相同性アームは約250~約390ヌクレオチドの間の長さである。好ましくは、右相同性アームは約260~約280ヌクレオチドの間の長さである。より好ましくは、左相同性アームは約270ヌクレオチドの長さである。
【0151】
一部の実施形態では、右HAは、配列番号56として示される配列を有するか、又は配列番号56と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0152】
一部の実施形態では、右HAは、配列番号62として示される配列を有するか、又は配列番号62と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0153】
一部の実施形態では、右HAは、配列番号64として示される配列を有するか、又は配列番号64と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0154】
通常、左相同性アームと右相同性アームの間の挿入物は、約1000~約2000ヌクレオチドの長さであり得る。
【0155】
標的遺伝子座
「標的遺伝子座」という用語は、本明細書で使用される場合、「標的遺伝子」という用語と同義的に使用され得る。標的遺伝子座は、挿入(又は組込み)、修正、突然変異又は欠失のためのゲノム中の所望の部位である。
【0156】
標的遺伝子座は、細胞のゲノム中の任意の遺伝子座であり得る。
【0157】
一部の実施形態では、標的遺伝子座はセーフハーバーである。「セーフハーバー」という用語は、本明細書で使用される場合、ヌクレオチド配列の組込みが、調節配列若しくはコード配列を破壊せず、最も近い調節エレメント若しくは隣接遺伝子の転写プロファイリングを撹乱しないゲノム中の位置を指す。「セーフハーバー」という用語は、「中立区域」、「中立領域」及び「中立遺伝子」という用語と同義的に使用され得る。
【0158】
一部の実施形態では、標的遺伝子座は、アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)又はレンチウイルスベクターの共通組込み部位(CIS)である。
【0159】
他の実施形態では、標的遺伝子座は、IL2RG、gp91phox、HBB、RAG1、CD40LG、TRAC、TRBC、STAT又はPRF1である。
【0160】
他の実施形態では、標的遺伝子座は、皮膚において発現されるタンパク質、例えば、コラーゲン、ケラチン、ラミニン、デスモコリン、デスモプラチン(desmoplachine)、デスモグレイン、プラコグロビン(placoglobin)、プラコフィリン(placophylline)、インテグリン又はデスモソーム及びヘミデスモソームに関与する他のタンパク質をコードする遺伝子である。
【0161】
一部の実施形態では、標的遺伝子座はアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)である。
【0162】
他の実施形態では、標的遺伝子座はIL2RGである。
【0163】
他の実施形態では、標的遺伝子座はCD40LGである。
【0164】
一部の実施形態では、細胞のゲノムは、標的遺伝子座に作動可能に連結した少なくとも1つのETT結合部位を含む。
【0165】
一部の実施形態では、内因性プロモーターは、少なくとも1つのETT結合部位に作動可能に連結される。一部の実施形態では、ETT結合部位は、内因性プロモーターの下流に位置する。他の実施形態では、ETT結合部位は、内因性プロモーターの上流に位置する。理論に捉われようとは思わないが、ETT結合部位は、エンハンサーとして作用する。
【0166】
一部の実施形態では、ETT結合部位は、配列番号32~40のいずれか1つとして示される配列又はそれと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列を有するヌクレオチド配列を含む。好ましくは、ETT結合部位は、配列番号32、配列番号33、配列番号34及び配列番号38として示される配列を有するヌクレオチド配列を含む。より好ましくは、ETT結合部位は、配列番号34又は配列番号38として示されるヌクレオチド配列を含む。
【0167】
一部の実施形態では、ETT結合部位は、少なくとも1つのtetO配列をコードするヌクレオチド配列を含む。
【0168】
一部の実施形態では、ETT結合部位は、配列番号65として示される配列又はそれと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する配列を有するヌクレオチド配列を含む。
【0169】
セレクター
「セレクターをコードするヌクレオチド配列」、「レポーター」、「レポーター遺伝子」、「マーカー」及び「セレクター」は、同義的に使用され得る。本明細書で使用される場合、「セレクターをコードするヌクレオチド配列」という用語は、ヌクレオチド配列が挿入されていない、又は配列が間違った部位中に挿入されている細胞から、ヌクレオチド配列がゲノム中の標的遺伝子座(所望の組込み部位)中に挿入されている細胞を選択するために使用され得る任意のヌクレオチド配列を指す。
【0170】
一部の実施形態では、セレクターが間違った部位に挿入されている細胞は、セレクターを発現しない。他の実施形態では、(例えば、SMArT-D)、セレクターが非標的部位中に挿入される細胞は、セレクターを発現する。
【0171】
一部の実施形態では、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、突然変異された低親和性神経増殖因子受容体(ΔLNGFR)、切断型NGFR、薬物耐性タンパク質(例えば、ネオマイシン若しくはピューロマイシン耐性を有するタンパク質又は突然変異されたメチルグアニンDNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT))、切断型細胞表面タンパク質(例えば、CD19及びEGFR-PMID:21653320、Wangら Blood 118巻(5号):1255~63頁)、ゲノム編集された細胞のin vivo移植後に選択的成長及び/又は生着利点を付与するタンパク質(例えば、受容体チロシンキナーゼ(c-Kit)、C-X-Cケモカイン受容体4型(CXCR4又はCXCR4 WHIM)及びCD47)及びレポータータンパク質(例えば、蛍光タンパク質、例えば、eGFP)からなる群から選択されるセレクターをコードする。
【0172】
一部の実施形態では、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、神経増殖因子受容体、例えば、低親和性神経増殖因子受容体又は突然変異された低親和性神経増殖因子受容体(ΔLNGFR)をコードする。神経増殖因子受容体をコードするヌクレオチド配列の例として、配列番号44及びそれと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列がある。神経増殖因子受容体(NGFR)をコードするヌクレオチド配列の他の例として、配列番号67及びそれと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列がある。
【0173】
他の実施形態では、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、レポータータンパク質、例えば、eGFPをコードする。「eGFP」という用語は、本明細書において「GFP」という用語と同義的に使用され得る。GFPをコードするヌクレオチド配列の例として、配列番号43及びそれと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列がある。
【0174】
一部の実施形態では、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、配列番号43、配列番号44、配列番号67及びそれらと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される。
【0175】
一部の実施形態では、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、不安定化剤ドメインをコードする少なくとも1つのヌクレオチド配列に融合される。
【0176】
「不安定化剤ドメイン」という用語は、本明細書で使用される場合、ポリペプチドに不安定性を付与可能なポリペプチドを指す。例えば、不安定化剤ドメインは、特定の安定剤リガンドの不在下でセレクターのプロテアソーム分解を誘導できる。
【0177】
一部の実施形態では、不安定化剤ドメインは、リガンド調節可能不安定化ドメインである。リガンド調節可能不安定化ドメインの例として、FKBPドメイン、細菌DHFR及びエストロゲン受容体(例えば、ヒトエストロゲン受容体)が挙げられる。
【0178】
一部の実施形態では、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、プロモーターに作動可能に連結される。
【0179】
一部の実施形態では、セレクターをコードするヌクレオチド配列は、最小プロモーターに作動可能に連結される。
【0180】
「最小プロモーター」という用語は、本明細書で使用される場合、プロモーター活性を増強する調節エレメントが上流に配置されない限り不活性である、TATAボックス及び転写開始部位のようなプロモーターの最小エレメントを指す。
【0181】
一部の実施形態では、最小プロモーターは、合成プロモーターT6-SK及びサイトメガロウイルス(CMV)からなる群から選択される。
【0182】
一部の実施形態では、T6-SKプロモーターは、配列番号41として示される配列を有するか、又は配列番号41として示される配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0183】
一部の実施形態では、CMVプロモーターは、配列番号42として示される配列を有するか、又は配列番号41と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0184】
一部の実施形態では、最小プロモーターは、調節エレメントに作動可能に連結される。
【0185】
一部の実施形態では、最小プロモーターSKは、調節エレメントに作動可能に連結される。
【0186】
一部の実施形態では、最小プロモーターSKは、配列番号41として示される配列を有するか、又は配列番号65として示される配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する調節エレメントに作動可能に連結される。
【0187】
一部の実施形態では、最小プロモーターSKは、配列番号65として示される配列を有する調節エレメントに作動可能に連結される。
【0188】
「T6-SK」及び「SK」という用語は、本明細書において同義的に使用され得る。
【0189】
調節エレメント
「調節エレメント」という用語は、本明細書で使用される場合、プロモーターの活性を活性化又は増強可能であるヌクレオチド配列を指す。
【0190】
通常、少なくとも1つの調節エレメントは、プロモーターの上流に配置される。
【0191】
他の実施形態では、少なくとも1つの調節エレメントは、別の場所、例えば、プロモーターの下流に配置される。
【0192】
調節エレメントの例として、翻訳活性化因子及びエンハンサーが挙げられる。
【0193】
一部の実施形態では、調節エレメントは、プロモーターの活性を活性化又は増強する。
【0194】
一部の実施形態では、調節エレメントは誘導可能である。
【0195】
誘導可能系の中で、最も広範に研究され、試験されたものとして、下流遺伝子の一過性トランス活性化を誘導することを可能にするTetO系がある(Gossen & Bujard、1992年)。Tet-OFF系は、i)複数のコピーで存在し得る、最小プロモーターの上流に配置される大腸菌(Escherichia coli)に由来するTetオペロン(TetO)、ii)大腸菌(Escherichia coli)に由来するTetレプレッサー(TetR)及び単純ヘルペスウイルスに由来する活性化因子ドメインVP16の複数リピートから構成されるテトラサイクリントランス活性化因子(tTA)タンパク質からなる。テトラサイクリン(又はドキシサイクリンとしてのその誘導体)の不在下で、tTAは、TetO配列(複数可)に結合し、最小プロモーターの制御下の遺伝子のトランス活性化を誘導する。テトラサイクリン又はその誘導体がtTAに結合すると系はオフにされ、したがって、TetOでのtTA繋留が妨げられ得る。Tet-ON系では、rtTAは、テトラサイクリン又は誘導体の存在下でのみTetO配列(複数可)に結合可能である。
【0196】
理論に捉われようとは思わないが、ETTポリペプチドは、調節エレメントに結合し、この結合がプロモーターの活性を活性化又は増強する。
【0197】
一部の実施形態では、調節エレメントは、少なくとも1つのテトラサイクリンオペレーター(TetO)配列を含む。
【0198】
一部の実施形態では、調節エレメントは、少なくとも2、3、4、5、6、7又は8つのTetO配列を含む。一部の実施形態では、調節エレメントは、少なくとも2つのTetO配列を含む。他の実施形態では、調節エレメントは、少なくとも7つのTetO配列を含む。
【0199】
一実施形態では、調節エレメントは、2つのTetO配列を含む。これは、TetO2と呼ばれることもある。
【0200】
別の実施形態では、調節エレメントは、7つのTetO配列を含む。これは、TetO7と呼ばれることもある。
【0201】
理論に捉われようとは思わないが、いくつかのtTA又はrtTAのTetO配列リピートへの結合は、セレクターのトランス活性化を増強し、これは次に、ゲノム編集された細胞の選択を増強する。
【0202】
通常、スペーサー配列(例えば、ACGATGTCGAGTTTAC)によって区切られたTetO配列(TCCCTATCAGTGATAGAGA)。
【0203】
一部の実施形態では、TetO配列は、配列TCCCTATCAGTGATAGAGAを有する。
【0204】
一部の実施形態では、TetO配列は、配列TCCCTATCAGTGATAGAGAと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0205】
一部の実施形態では、TetO配列は、配列番号65として示される配列を有するか、又は配列番号65として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0206】
一部の実施形態では、TetO7配列は、配列番号65として示される配列を有するか、又は配列番号65として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0207】
一部の実施形態では、TetO配列は、配列CCCTATCAGTGATAGAGAを有する。
【0208】
一部の実施形態では、TetO配列は、配列CCCTATCAGTGATAGAGAと少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0209】
一部の実施形態では、TetO配列は、配列番号76として示される配列を有するか、又は配列番号76として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0210】
一部の実施形態では、TetO7配列は、配列番号76として示される配列を有するか、又は配列番号76として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0211】
一部の実施形態では、第2の成分によって発現されるETTポリペプチド又はレギュレーターエレメントに結合する第2の成分のETTポリペプチドは、テトラサイクリントランス活性化因子(tTA)である。
【0212】
テトラサイクリントランス活性化因子(tTA)は、TetO配列に結合可能である。
【0213】
テトラサイクリントランス活性化因子(tTA)は、本明細書で使用される場合、DNA結合性ドメイン(DBD)TetR及び転写活性化因子(TA)ドメインVP16を含む。
【0214】
テトラサイクリントランス活性化因子(tTA)の例は、配列番号58に示されている。
【0215】
一部の実施形態では、テトラサイクリントランス活性化因子(tTA)をコードするヌクレオチド配列は、配列番号58として示される配列を有するか、又は配列番号58として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0216】
一部の実施形態では、tetRをコードするヌクレオチド配列は、配列番号74として示される配列を有するか、又は配列番号74として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0217】
一部の実施形態では、VP16をコードするヌクレオチド配列は、配列番号75として示される配列を有するか、又は配列番号75として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%若しくは99%の同一性を有する。
【0218】
他の実施形態では、第2の成分によって発現されるETTポリペプチド又はレギュレーターエレメントに結合する第2の成分のETTポリペプチドは、リバース-tTA(rtTA)である。
【0219】
一部の実施形態では、リバース-tTA(rtTA)は、以下の配列を有する:
(配列番号70)
【0220】
一部の実施形態では、リバース-tTA(rtTA)は、配列番号70として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0221】
一部の実施形態では、リバース-tTA(rtTA)は、以下の配列を有する:
(配列番号76)
【0222】
一部の実施形態では、リバース-tTA(rtTA)は、配列番号76として示されるヌクレオチド配列と少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0223】
リバーステトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)は、モジュレーター(例えば、テトラサイクリン(Tc)又はテトラサイクリン誘導体(例えば、デオキシサイクリン))がrtTAに結合される場合にTetO配列に結合可能である。
【0224】
SMArT-D戦略では、トランス活性化因子は、排他的に組み込まれたドナーレポーターカセットからだけでなく、存在する場合には、組み込まれていないドナーレポータードナーからもセレクター発現を活性化しない場合がある。しかし、tTA活性は、モジュレーター(例えば、テトラサイクリン又はドキシサイクリン処置)によって(完全阻害まで)改変される場合があり、これによってドナーレポーターカセットが組み込まれている細胞からのセレクターの上方制御された、又は排他的発現が可能になり得る。
【0225】
遺伝子特異的トランス活性化因子をデザイン及びスクリーニングする必要なく、SMArT-D戦略を目的の任意の標的遺伝子座とともに使用できることは有利である。
【0226】
一部の実施形態では、tTA又はrtTAの結合は、転写開始部位(TSS)に近接して生じる。理論に捉われようとは思わないが、転写開始部位(TSS)に近接したtTA又はrtTAの結合 は、トランス活性化効率を改善する。
【0227】
モジュレーター
用語「モジュレーター」は、本明細書で使用される場合、ETTポリペプチドの活性、特定にはDNA結合活性をモジュレートする、ETTポリペプチド、特定にはDNA結合ドメイン(DBD)に結合することが可能なあらゆる組成物を指す。
【0228】
テトラサイクリントランス活性化因子(tTA)及びリバーステトラサイクリントランス活性化因子(rtTA)のモジュレーターの例は、テトラサイクリン(Tc)及びテトラサイクリン誘導体、例えばドキシサイクリン(deoxycycline)(dox)である。
【0229】
一実施形態において、モジュレーターは、テトラサイクリン(Tc)、テトラサイクリン誘導体(例えばドキシサイクリン(dox))及びそれらの組合せからなる群から選択される。
【0230】
一実施形態において、モジュレーターは、テトラサイクリン誘導体である。
【0231】
一実施形態において、モジュレーターは、ドキシサイクリンである。
【0232】
理論に制限されることは望まないが、モジュレーター(例えばテトラサイクリン(Tc)又はテトラサイクリン誘導体(例えばdox)の結合は、ドナーレポーターカセットがゲノムに挿入されていない場合、調節エレメントへの結合(例えばtetO配列への結合)を防止するDBD(例えばTetRドメイン)におけるコンフォメーション変化を誘導し;結果としてセレクターは、発現されない。逆に言えば、ドナーカセットが挿入された細胞は、それでもなおセレクターを発現することができる。したがってドナーカセットが挿入された細胞を選択することができる。
【0233】
理論に制限されることは望まないが、モジュレーター(例えばテトラサイクリン(Tc)又はテトラサイクリン誘導体(例えばdox)の結合は、ドナーレポーターカセットがゲノムに挿入されたときにDBDの調節エレメント(例えばtetO配列)への結合を可能にするDBD(例えばリバース-TetRドメイン)におけるコンフォメーション変化を誘導し;結果としてセレクターが発現される。逆に言えば、ドナーカセットが挿入された細胞は、セレクターを発現する。したがって、ドナーカセットが挿入された細胞を選択することができる。
【0234】
モジュレーターは、第1の成分及び/又は第2の成分及び/又は第3の成分が細胞又は細胞の集団に導入される前に、又はその後に、又はそれと同時に、細胞又は細胞の集団に添加されてもよい。
【0235】
一部の実施形態において、モジュレーターは、第1の成分及び/又は第2の成分及び/又は第3の成分が細胞又は細胞の集団に導入された後、約6時間から約36時間、約6時間から約24時間、又は約6時間から約12時間に、細胞又は細胞の集団に添加される。
【0236】
モジュレーターの最適な投薬量は、ドナーレポーターカセット、標的遺伝子座、及び細胞又は細胞の集団の性質などの複数の要因に依存する可能性がある。当業者は、細胞又は細胞の集団に投与するためのモジュレーター(例えばdox)の適切な用量を容易に決定することができる。
【0237】
一部の態様において、モジュレーター(例えばdox)は、約10nMから約2mM、又は約50nMから約1mM、又は約80nMから約800μM、又は約100nMから500μMのモジュレーターが培地中に存在するように、細胞又は細胞の集団に投与される。
【0238】
例えば、モジュレーター(例えばdox)は、少なくとも10nM、少なくとも25nM、少なくとも50nM、少なくとも80nM、少なくとも100nM、少なくとも200nM、少なくとも300nM、少なくとも400nM、少なくとも500nM、少なくとも1μM、又は少なくとも2μMのモジュレーターが培地中に存在するように、細胞又は細胞の集団に投与される。
【0239】
当業者は、モジュレーターで処置した細胞又は細胞の集団を洗浄する場合を容易に決定することができる。この洗浄は、モジュレーター(例えばdox)離脱又はウォッシュアウトと称することもできる。
【0240】
モジュレーターで処置した細胞又は細胞の集団は、緩衝液(例えばPBS)又は細胞又は細胞の集団を維持する及び/又は成長させるのに好適な培地で、少なくとも1回、少なくとも2回、少なくとも3回洗浄することができる。
【0241】
細胞又は細胞の集団は、モジュレーターでの処置並びに/又は細胞又は細胞の集団への第1の成分及び/若しくは第2の成分及び/若しくは第3の成分の導入の後、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも21時間、少なくとも24時間、少なくとも30時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも60時間、又は少なくとも72時間洗浄してもよい。
【0242】
編集された細胞又は編集された細胞の集団は、細胞又は細胞の集団への第1の成分及び/又は第2の成分及び/又は第3の成分の導入の処置の後に、少なくとも6時間、少なくとも12時間、少なくとも18時間、少なくとも21時間、少なくとも24時間、少なくとも30時間、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも60時間、又は少なくとも72時間、モジュレーターに曝露してもよい。
【0243】
NOI
用語「NOI」は、用語「GOI」、「目的の遺伝子」又は「修正cDNA(corrective cDNA)」と同義的に使用することができる。
【0244】
一部の実施形態において、NOIは、IL2RG、gp91phox、HBB、RAG1、CD40LG、TRAC、TRBC、STAT又はPRF1である。
【0245】
他の実施形態において、NOIは、皮膚で発現されるタンパク質、例えばコラーゲン、ケラチン、ラミニン、デスモコリン(desmocolin)、デスモプラキン(desmoplachine)、デスモグレイン、プラコグロビン(placoglobin)、プラコフィリン(placophylline)、インテグリン又はデスモソーム及びヘミデスモソームに関与する他のタンパク質をコードする遺伝子である。
【0246】
一部の実施形態において、NOIは、IR2RGである。IR2LGをコードするNOIの例は、配列番号54及びそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列である。
【0247】
一部の実施形態において、NOIは、配列番号54及びそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択される。
【0248】
一部の実施形態において、NOIは、プロモーターに作動可能に連結されている。
【0249】
一部の実施形態において、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOIは、同じであってもよい。
【0250】
用語「転写開始部位(TSS)」は、本明細書で使用される場合、RNAポリメラーゼがRNA転写を合成し始める最初のヌクレオチドを指す。
【0251】
一部の実施形態において、NOIは、転写開始部位(TSS)の約50から約400ヌクレオチド下流である。好ましくは、NOIは、TSSの約100から約250ヌクレオチド下流である。
【0252】
第2の成分
用語「第2の成分」は、本明細書で使用される場合、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を指す。
【0253】
用語「ETTポリペプチド」は、本明細書で使用される場合、DNA結合ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含むポリペプチドを指す。
【0254】
第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、細胞のゲノム中のETT結合部位に結合する。
【0255】
一実施形態において、ETT結合部位は、調節エレメントである。
【0256】
一実施形態において、ETT結合部位は、1つ以上のtetO配列である。
【0257】
一部の実施形態において、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座に挿入される場合、最小プロモーターを活性化する。典型的には、これは、セレクターの発現をもたらす。
【0258】
他の実施形態において、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されるETTポリペプチドは、標的遺伝子座中の内因性プロモーターを活性化する。典型的には、セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座に挿入される場合、セレクターは発現される。
【0259】
一部の実施形態において、ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、プラスミドである。
【0260】
一部の実施形態において、ベクターは、ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0261】
一部の実施形態において、ベクターは、プラスミドである。他の実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。
【0262】
一部の実施形態において、ベクターは、発現ベクターである。
【0263】
DNA結合ドメイン(DBD)
DNA結合ドメイン(DBD)は、二本又は一本鎖DNAを認識する少なくとも1つの構造的なモチーフを含有する。
【0264】
本発明で使用するためのDBDの例としては、これらに限定されないが、転写活性化因子様エフェクター(TALE)DBD(例えばTALE7 DBD及びTALE3 DBD)、ジンクフィンガー(ZNF)、触媒的に不活性Cpf1及び触媒的に不活性なCas(dCas)(例えばdCas9)が挙げられる。
【0265】
本発明で使用するためのDBDのさらなる例としては、TetR及びリバースTetRが挙げられる。
【0266】
触媒的に不活性なCasバリアント(例えばdCas9)は、様々な細菌(例えばS. aureus, S. thermophilus、及びN. Meningitidis)から単離されている。Ranら、 Nature 2015 (PMID: 25830891)、Leeら、 Mol Ther 2016 (PMID: 26782639))を参照されたい。Zetscheら(Cell 2015 pii: S0092-8674(15)01200-3 (PMID: 26422227))は、他のCasタンパク質(例えばCpf1)を開示している。
【0267】
一部の実施形態において、DBDは、TALEである。
【0268】
一部の実施形態において、DBDは、触媒的に不活性なCas(dCas)である。好ましくは、dCasは、dCas9である。
【0269】
一部の実施形態において、DBDは、tTAである。
【0270】
他の実施形態において、DBDは、rtTAである。
【0271】
一部の実施形態において、DBDは、配列番号45、配列番号48、配列番号49及びそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列によってコードされる。
【0272】
一部の実施形態において、DBDは、配列番号32から40からなる群から選択されるヌクレオチド配列、及びそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列の1つ以上に結合することが可能である。一部の実施形態において、DBDは、配列番号32、配列番号33、配列番号34及び配列番号38からなる群から選択される1つ以上のヌクレオチド配列に結合することが可能である。好ましくは、DBDは、配列番号34又は配列番号38に結合することが可能である。
【0273】
転写活性化因子(TA)ドメイン
転写活性化因子(TA)ドメインは、転写を活性化するポリペプチドのための結合部位を含有する。
【0274】
本発明で使用するためのTAドメインの例としては、これらに限定されないが、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、相乗的活性化メディエーター(synergistic activation mediator;SAM)、及びSunTagが挙げられる。
【0275】
一部の実施形態において、TAは、VPRである。他の実施形態において、TAは、VP160である。他の実施形態において、TAは、VP16である。
【0276】
一部の実施形態において、TAドメインは、配列番号46、配列番号47からなる群から選択されるヌクレオチド配列、及びそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列によってコードされる。
【0277】
一部の実施形態において、第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
DBDは、転写活性化因子様エフェクター(TALE)DBD、ジンクフィンガー、触媒的に不活性なCpf1又は触媒的に不活性なCas(dCas)からなる群から選択され、
TAドメインは、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、SAM、及びSunTagからなる群から選択される。
【0278】
他の実施形態において、第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
DBDは、TetR又はリバースTetR(rTetR)からなる群から選択され、
TAドメインは、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、SAM、及びSunTagからなる群から選択される。
【0279】
一部の実施形態において、第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、TetR及び少なくとも1つのVP16を含む。
【0280】
一部の実施形態において、第2の成分は、ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ヌクレオチド配列は、配列番号58として示される配列を有するか、又は配列番号58として示されるヌクレオチド配列に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する。
【0281】
一部の実施形態において、第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、リバース-TetR及び少なくとも1つのVP16を含む。
【0282】
第3の成分
用語「第3の成分」は、本明細書で使用される場合、ゲノム標的ヌクレアーゼを含むヌクレアーゼ系を指す。ヌクレアーゼ系は、ゲノムDNAを切断及び/又は修復する。細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在は、標的遺伝子座における、セレクターをコードするヌクレオチド配列(及び任意選択で最小プロモーター)の挿入及びNOIの修正又は挿入又は欠失又は突然変異を可能にする。
【0283】
ゲノム標的ヌクレアーゼは、ゲノム標的ヌクレアーゼをコードする核酸配列を含む、タンパク質、RNA、DNA、又は発現ベクターとして提供される。
【0284】
一部の実施形態において、発現ベクターは、プラスミドである。他の実施形態において、発現ベクターは、ウイルスベクターである。
【0285】
一部の実施形態において、ゲノム標的ヌクレアーゼは、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZNF)、CRISPR-Cas(例えばCRISPR-Cas9、又はSpCas9、又はCRISPR-Cpf(例えばCRISPR-Cpf1))又はメガヌクレアーゼである。
【0286】
一部の実施形態において、第3の成分は、加えて、少なくとも1つの標的化されたゲノム配列を含むガイドRNAを含む。少なくとも1つの標的化されたゲノム配列を含むガイドRNAは、細胞のゲノム中の少なくとも1つの配列に結合することが可能である。典型的には、第3の成分は、加えて、ゲノム標的ヌクレアーゼがCRISPR-Cas(例えばCRISPR-Cas9又はCRISPR-Cpf(例えばCRISPR-Cpf1))である場合、ガイドRNAを含む。典型的には、ガイドRNAは、ゲノム標的ヌクレアーゼと同時に送達される。一部の実施形態において、ガイドRNAは、ゲノム標的ヌクレアーゼの前又はその後に送達される。
【0287】
ガイドRNA(gRNA)は、gRNAをコードする核酸配列を含む、RNA分子、DNA分子、又は発現ベクターとして提供される。
【0288】
一部の実施形態において、発現ベクターは、プラスミドである。他の実施形態において、発現ベクターは、ウイルスベクターである。
【0289】
一部の実施形態において、gRNAは、標的遺伝子座AAVS1に結合することが可能である。
【0290】
一部の実施形態において、gRNAは、標的遺伝子座IL2RGに結合することが可能である。
【0291】
一部の実施形態において、gRNAは、標的遺伝子座CD40LGに結合することが可能である。
【0292】
典型的には、gRNAは、プロモーターの上流に結合する。
【0293】
一部の実施形態において、gRNAは、ヌクレオチド配列GTCACCAATCCTGTCCCTAGTGGに結合することが可能である。
【0294】
他の実施形態において、gRNAは、ヌクレオチド配列ACTGGCCATTACAATCATGTGGGに結合することが可能である。
【0295】
他の実施形態において、gRNAは、ヌクレオチド配列TGGATGATTGCACTTTATCAGGGに結合することが可能である。
【0296】
一部の実施形態において、gRNAは、配列番号1から31からなる群から選択されるヌクレオチド配列、及びそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列の1つ以上に結合することが可能である。好適には、gRNAは、配列番号1から18及び21から31からなる群から選択されるヌクレオチド配列、並びにそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列の1つ以上に結合することが可能である。好ましくは、gRNAは、配列番号4、配列番号9、配列番号10及び配列番号12からなる群から選択される1つ以上のヌクレオチド配列に結合することが可能である。
【0297】
一部の実施形態において、gRNAは、配列番号70から72からなる群から選択されるヌクレオチド配列、及びそれに少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の同一性を有する配列の1つ以上に結合することが可能である。
【0298】
一部の実施形態において、ガイドRNA(gRNA)は、1つのヌクレオチド配列に結合することが可能なシングルガイドRNAとして提供される。他の実施形態において、ガイドRNAは、それぞれ異なるヌクレオチド配列に結合することが可能なガイドRNAの2つのタイプの組合せとして提供される。例えば、ガイドRNAは、一方が配列番号4に結合することが可能であり、他方が配列番号12に結合することが可能である2つのタイプのガイドRNAの組合せとして提供される。他の実施形態において、ガイドRNAは、それぞれ異なるヌクレオチド配列に結合することが可能なガイドRNAの3つのタイプの組合せとして提供される。他の実施形態において、ガイドRNAは、それぞれ異なるヌクレオチド配列に結合することが可能なガイドRNAの4つのタイプの組合せとして提供される。他の実施形態において、ガイドRNAは、それぞれ異なるヌクレオチド配列に結合することが可能なガイドRNAの少なくとも5つのタイプの組合せとして提供される。
【0299】
一部の実施形態において、ヌクレアーゼ系は、リボ核タンパク質(RNP)の形態である。
【0300】
一部の実施形態において、ヌクレアーゼ系は、CRISPR-Casを含むRNPである。例えば、ヌクレアーゼ系は、CRISPR-Cas及びcr:tracrRNA(Integrated DNA technologies)を含むRNPである。
【0301】
好ましくは、第3の成分は、CRISPR-Cas及びガイドRNAを含むヌクレアーゼ系である。
【0302】
好ましくは、第3の成分は、CRISPR-Cpf及びガイドRNAを含むヌクレアーゼ系である。
【0303】
バリアント
本明細書で述べられた具体的なポリペプチド及びポリヌクレオチドに加えて、本発明はまた、バリアントの使用も包含する。
【0304】
本明細書で列挙された配列番号のバリアント配列は、参照配列の配列番号に対して、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%又は99%の配列同一性を有していてもよい。好ましくは、バリアント配列は、参照配列の1つ以上の機能を保持する(すなわち、機能的なバリアントである)。
【0305】
バリアント配列は、置換、付加、欠失及び/又は挿入を含んでいてもよい。
【0306】
バリアント配列は、1つ以上の保存的置換を含んでいてもよい。保存的アミノ酸置換は、残基の極性、電荷、溶解性、疎水性、親水性、及び/又は両親媒性の性質における類似性に基づきなされていてもよい。例えば、負電荷を有するアミノ酸としては、アスパラギン酸及びグルタミン酸が挙げられ、正電荷を有するアミノ酸としては、リシン及びアルギニンが挙げられ、類似の親水性値を有する非荷電性の極性頭部基を有するアミノ酸としては、ロイシン、イソロイシン、バリン、グリシン、アラニン、アスパラギン、グルタミン、セリン、スレオニン、フェニルアラニン、及びチロシンが挙げられる。
【0307】
保存的置換は、例えば以下の表に従ってなされていてもよい。第2の列における同じブロック中のアミノ酸、好ましくは、第3の列における同じ行中のアミノ酸が、互いに置換されていてもよい。
【0308】
【0309】
本発明はまた、相同な置換(本明細書では、置換及び置き換えはどちらも既存のアミノ酸残基の代替の残基での交換を意味するものとして使用される)のバリアント、すなわち同種の置換、例えば塩基性と塩基性、酸性と酸性、極性と極性の置換なども包含する。
【0310】
本明細書において具体的な個々のアミノ酸への言及による別段の明記がない限り、アミノ酸は、以下に列挙されるような保存的置換を使用して置換されていてもよい。
【0311】
脂肪族の非極性アミノ酸は、グリシン、アラニン、プロリン、イソロイシン、ロイシン又はバリン残基であり得る。
【0312】
脂肪族の極性の非荷電性のアミノは、システイン、セリン、スレオニン、メチオニン、アスパラギン又はグルタミン残基であり得る。
【0313】
脂肪族の極性の荷電性のアミノ酸は、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン又はアルギニン残基であり得る。
【0314】
芳香族のアミノ酸は、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン又はチロシン残基であり得る。
【0315】
好適には、保存的置換は、上記の表の同じ行中のアミノ酸間でなされていてもよい。
【0316】
一部の実施形態において、配列は、対象にとってコドン最適化されている。
【0317】
ベクター
一部の実施形態において、ベクターは、第1の成分を含む(すなわちベクターは、ドナーカセットを含む)。
【0318】
一部の実施形態において、ベクターは、ETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0319】
一部の実施形態において、ベクターは、ヌクレアーゼをコードするヌクレオチド配列を含む。
【0320】
ベクターは、1つの環境から別の環境への実体の移行を可能にするか又は容易にするツールである。
【0321】
ベクターは、一本鎖であってもよいし、又は二本鎖であってもよい。
【0322】
ベクターは、インテグラーゼ欠損ベクターであってもよく、例えばインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクター(IDLV)である。
【0323】
一部の実施形態において、本発明で使用されるベクターは、プラスミドである。他の実施形態において、本発明で使用されるベクターは、ウイルスベクターである。
【0324】
一部の実施形態において、ウイルスベクターは、ウイルスベクター粒子の形態である。
【0325】
一部の実施形態において、成分は、異なるタイプのベクターの混合物である。例えば、第1の成分は、ウイルスベクターの形態であり、第2の成分は、プラスミドの形態であり、第3の成分は、プラスミドベクターの形態である。
【0326】
ウイルスベクターは、例えば、アデノ随伴ウイルス(AAV)、アデノウイルス、レトロウイルス又はレンチウイルスベクターであり得る。好ましくは、ウイルスベクターは、AAVベクター又はレトロウイルス若しくはレンチウイルスベクターであり、より好ましくはAAVベクターである。
【0327】
ある特定のタイプのウイルス「由来のベクター」は、そのベクターが、そのタイプのウイルスから誘導可能な少なくとも1つの成分の部分を含むことと理解されるものとする。
【0328】
アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、高い頻度の組込みを有し、非分裂細胞に感染できるため、本発明における使用のために魅力的なベクター系である。そのためこれは、組織培養における哺乳類細胞への遺伝子の送達にとって有用である。
【0329】
AAVは、感染力に関して広範な宿主域を有する。AAVベクターの生成及び使用に関する詳細は、米国特許第5139941号及び米国特許第4797368号に記載されている。
【0330】
組換えAAVベクターは、マーカー遺伝子及びヒト疾患に関与する遺伝子のin vitro及びin vivoにおける形質導入にうまく使用されてきた。
【0331】
好ましいベクターは、ヒト初代細胞、例えばHSPC細胞における高い形質導入効率を達成することができるものである。
【0332】
一部の実施形態において、ベクターは、AAV6ベクター又はAAV6ベクター由来のベクターである。好ましくは、ベクターは、AAV6ベクターである。
【0333】
アデノウイルスベクター
アデノウイルスは、RNA中間体を経由しない二本鎖の直鎖状DNAウイルスである。アデノウイルスの50種を超える様々なヒト血清型があり、これは、遺伝子配列相同性に基づいて6つのサブグループに分類される。アデノウイルスの天然の標的は、呼吸器及び胃腸の上皮であり、一般的に、軽度の症状のみを引き起こす。アデノウイルスベクター系において血清型2及び5(95%の配列相同性を有する)が最も一般的に使用され、通常、若者においては上気道感染症に関連する。
【0334】
アデノウイルスは、遺伝子治療のための、及び異種遺伝子の発現ためのベクターとして使用されてきた。大きい(36kb)ゲノムは、8kbまでの外来挿入DNAを受容することができ、相補細胞株で効率的に複製して、最大1012の極めて高い力価をもたらすことができる。したがってアデノウイルスは、初代非複製細胞における遺伝子の発現を研究するための最良の系の1つである。
【0335】
アデノウイルスゲノムからのウイルス又は外来遺伝子の発現は、細胞を複製することを必要としない。アデノウイルスベクターは、受容体媒介エンドサイトーシスによって細胞に入る。一旦細胞の内部に入ると、アデノウイルスベクターは、宿主染色体に組み込まれることはめったにない。その代わりに、それらは、宿主核中の直鎖状ゲノムとして、エピソームとして(宿主ゲノムとは独立して)機能する。したがって組換えアデノウイルスの使用は、宿主ゲノムへの無作為な組込みに関連する問題を軽減する。
【0336】
レトロウイルスの及びレンチウイルスベクター
レトロウイルスベクターは、あらゆる好適なレトロウイルス由来であってもよいし、又はそれらから誘導することが可能である。多数の異なるレトロウイルスが同定されている。その例としては、マウス白血病ウイルス(MLV)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)、マウス乳がんウイルス(MMTV)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)、Fujinami肉腫ウイルス(FuSV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Mo-MLV)、FBRマウス骨肉腫ウイルス(FBR MSV)、モロニーマウス肉腫ウイルス(Mo-MSV)、エーベルソンマウス白血病ウイルス(A-MLV)、ニワトリ赤芽球症ウイルス-29(MC29)及びニワトリ赤芽球症ウイルス(AEV)が挙げられる。レトロウイルスの詳細な列挙は、Coffin, J.M. ら(1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に見出すことができる。
【0337】
レトロウイルスは、広義に、2つのカテゴリー、すなわち「単純」及び「複雑」に分けることができる。レトロウイルスはさらに、7つのグループにも分けることができる。これらのグループのうち5つは、腫瘍形成能を有するレトロウイルスを表す。残りの2つのグループは、レンチウイルス及びスプマウイルスである。これらのレトロウイルスの総論は、Coffin, J.M. ら(1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に提示される。
【0338】
レトロウイルス及びレンチウイルスゲノムの基礎構造は、多くの共通の機構、例えば5'LTR及び3'LTRを有する。これらの間又はこれらの中に、ゲノムのパッケージングを可能にするパッケージングシグナル、プライマー結合部位、宿主細胞ゲノムへの組込みを可能にする組込み部位、並びにパッケージング成分をコードするgag、pol及びenv遺伝子が配置され、これらは、ウイルス粒子のアセンブリに必要なポリペプチドである。レンチウイルスは、HIV中に追加の特徴、例えばrev及びRRE配列を有し、これらは、核から感染した標的細胞の細胞質への組み込まれたプロウイルスのRNA転写物の効率的な搬出を可能にする。
【0339】
プロウイルスにおいて、これらの遺伝子は、両方の末端に、ロングターミナルリピート(LTR)と呼ばれる領域が隣接する。LTRは、プロウイルスの組込み及び転写に関与する。LTRはまた、エンハンサー-プロモーター配列としても役立ち、ウイルス遺伝子の発現制御することができる。
【0340】
LTRそれ自体は、3つのエレメント:U3、R及びU5に分けることができる同一な配列である。U3は、RNAの3'末端に固有な配列由来である。Rは、RNAの両方の末端で反復される配列由来である。U5は、RNAの5'末端に固有な配列由来である。3つのエレメントのサイズは、様々なレトロウイルス間で著しく変化し得る。
【0341】
欠損レトロウイルスベクターゲノムにおいて、gag、pol及びenvは、存在していなくてもよいし、又は機能的でなくてもよい。
【0342】
典型的なレトロウイルスベクターにおいて、複製に必須な1つ以上のタンパク質コード領域の少なくとも一部が、ウイルスから除去されていてもよい。それによって、ウイルスベクターは複製欠損になる。またウイルスゲノムの一部が、標的宿主細胞を形質導入すること及び/又はそのゲノムを宿主ゲノムに組み込むことが可能な候補モジュレート部分を含むベクターを生成するために、調節対照領域に作動可能に連結した候補モジュレート部分、及びベクターゲノム中のレポーター部分をコードするライブラリーで置き換えられていてもよい。
【0343】
レンチウイルスベクターは、レトロウイルスベクターのより大きいグループの一部である。レンチウイルスの詳細な列挙は、Coffin, J.M.ら(1997) Retroviruses, Cold Spring Harbour Laboratory Press, 758-63に見出すことができる。簡単に言えば、レンチウイルスは、霊長類及び非霊長類のグループに分けることができる。霊長類レンチウイルスの例としては、これらに限定されないが、ヒト後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因因子であるヒト免疫不全ウイルス(HIV);及びサル免疫不全ウイルス(SIV)が挙げられる。非霊長類レンチウイルスの例としては、プロトタイプの「スローウイルス」であるビスナ/マエディウイルス(VMV)、加えて、関連するヤギ関節炎脳炎ウイルス(CAEV)、ウマ伝染性貧血ウイルス(EIAV)、並びにごく最近になって記載されたネコ免疫不全ウイルス(FIV)及びウシ免疫不全ウイルス(BIV)が挙げられる。
【0344】
レンチウイルスファミリーは、レンチウイルスが分裂細胞と非分裂細胞の両方に感染する能力を有するという点で、レトロウイルスと異なる((Lewis, Pら(1992) EMBO J. 11: 3053-8; Lewis, P.F.ら(1994) J. Virol. 68: 510-6)。対照的に、他のレトロウイルス、例えばMLVは、非分裂細胞又はゆっくり分裂する細胞、例えば筋肉、脳、肺及び肝臓組織を構成するものなどに感染することができない。
【0345】
レンチウイルスベクターは、本明細書で使用される場合、レンチウイルスから誘導可能な少なくとも1つの構成部分を含むベクターである。好ましくは、その構成部分は、ベクターが細胞に感染する、遺伝子を発現する、又は複製される生物学的なメカニズムに関与するものである。
【0346】
レンチウイルスベクターは、「霊長類」ベクターであり得る。レンチウイルスベクターは、「非霊長類」ベクター(すなわち、主として霊長類、特にヒトに感染しないウイルス由来の)であり得る。非霊長類レンチウイルスの例は、天然に霊長類に感染しないレンチウイルス科のあらゆるメンバーであり得る。
【0347】
レンチウイルスベースのベクターの例として、HIV-1及びHIV-2ベースのベクターを後述する。
【0348】
HIV-1ベクターは、単純なレトロウイルスにも見出されるシス作用性エレメントを含有する。gagオープンリーディングフレームに伸長する配列は、HIV-1のパッケージングにとって重要であることが示されている。それゆえに、HIV-1ベクターは、翻訳開始コドンが突然変異しているgagの関連部分を含有することが多い。加えて、ほとんどのHIV-1ベクターはまたまた、RREを含むenv遺伝子の部分も含有する。RevがRREに結合することにより、全長の、又は単独でプライシングされたmRNAの核から細胞質への輸送が可能になる。Rev及び/又はRREの非存在下で、全長HIV-1 RNAは、核中に蓄積する。代替として、マソン-ファイザーサルウイルスなどの特定の単純なレトロウイルスからの構成的輸送エレメントを使用して、Rev及びRREの要件を緩和することができる。HIV-1 LTRプロモーターからの効率的な転写は、ウイルスタンパク質Tatを必要とする。
【0349】
ほとんどのHIV-2ベースのベクターは、HIV-1ベクターに構造的に非常に類似している。HIV-1ベースのベクターに類似して、HIV-2ベクターも、全長の、又は単独でプライシングされたウイルスRNAの効率的な輸送のためにRREを必要とする。
【0350】
1つの系において、ベクター及びヘルパー構築物は、2つの異なるウイルス由来であり、低減したヌクレオチド相同性は、組換えの起こりやすさを減少させることができる。霊長類レンチウイルスベースのベクターに加えて、FIVベースのベクターは、病原性HIV-1ゲノム由来のベクターの代替物として開発されている。これらのベクターの構造も、HIV-1ベースのベクターに類似している。
【0351】
好ましくは、本発明で使用されるウイルスベクターは、最小のウイルスゲノムを有する。
【0352】
「最小のウイルスゲノム」は、必須ではないエレメントを除去し、標的宿主細胞に感染し、形質導入し、目的のヌクレオチド配列を送達するのに必要な機能性を提供するために必須のエレメントを保持するように、ウイルスベクターが操作されていることと理解されるものとする。この戦略のさらなる詳細は、WO1998/017815に見出すことができる。
【0353】
好ましくは、宿主細胞/パッケージング細胞中でウイルスゲノムを生産するのに使用されるプラスミドベクターは、標的細胞に感染できるが、最終的な標的細胞中で感染性のウイルス粒子を生産するために独立して複製できないウイルス粒子に、パッケージング成分の存在下でRNAゲノムをパッケージングさせるのに十分なレンチウイルスの遺伝情報を有すると予想される。好ましくは、ベクターは、機能的なgag-pol及び/若しくはenv遺伝子、並びに/又は複製に必須の他の遺伝子を欠如している。
【0354】
しかしながら、宿主細胞/パッケージング細胞中でウイルスゲノムを生産するのに使用されるプラスミドベクターはまた、宿主細胞/パッケージング細胞中でのゲノムの転写を指示するための、レンチウイルスのゲノムに作動可能に連結した転写調節制御配列も含むと予想される。これらの調節配列は、転写されたウイルス配列(すなわち5'U3領域)に関連する天然配列であってもよいし、又はそれらは、異種プロモーター、例えば別のウイルスプロモーター(例えばCMVプロモーター)であってもよい。
【0355】
ベクターは、ウイルスエンハンサー及びプロモーター配列が欠失している自己不活性化(SIN)ベクターであってもよい。SINベクターは、in vivoで生じ、野生型ベクターの有効性に類似した有効性で非分裂細胞に形質導入することができる。SINプロウイルスにおけるロングターミナルリピート(LTR)の転写不活性化は、複製能を有するウイルスによる起動を防ぐと予想される。これはまた、LTRのあらゆるシス作用性作用を排除することによって内部プロモーターからの遺伝子の制御された発現を可能にするとも予想される。
【0356】
ベクターは、組込み欠損であってもよい。組込み欠損レンチウイルスベクター(IDLV)は、例えば、触媒的に不活性なインテグラーゼでベクターをパッケージングすること(例えば触媒部位におけるD64V突然変異を有するHIVインテグラーゼ;Naldini, L.ら (1996) Science 272: 263-7; Naldini, L.ら (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93: 11382-8; Leavitt, A.D.ら(1996) J. Virol. 70: 721-8)、又はベクターLTRから必須のatt配列を改変するか又は欠失させること(Nightingale, S.J.ら(2006) Mol. Ther. 13: 1121-32)、又は上記の組合せのいずれかによって生産することができる。
【0357】
医薬組成物
一部の実施形態において、本発明の方法に従って生産又は調製されたゲノム編集された細胞の集団は、医薬的に許容される担体、希釈剤又は賦形剤と共に、対象への投与のために製剤化することができる。好適な担体及び希釈剤は、等張塩類溶液、例えばリン酸緩衝塩類溶液を含み、ヒト血清アルブミンを含有していてもよい。
【0358】
細胞療法製品の取り扱いは、好ましくは、細胞療法のためのFACT-JACIE国際規格に従って実行される。
【0359】
療法及び細胞移植
本発明は、療法で使用するための本発明の方法に従って生産又は調製されたゲノム編集された細胞の集団を提供する。一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、遺伝子治療において使用される。一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、造血幹細胞移植術のために使用することができる。一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、がん処置のために(例えば骨髄腫又は白血病の処置のために)使用することができる。一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、組織修復、例えば、皮膚疾患(例えば、真皮の疾患及び表皮水疱症)又は網膜疾患(例えば網膜色素変性症及びレーバー先天性黒内障)における組織の修復のために使用することができる。
【0360】
用語「遺伝子治療」は、本明細書で使用される場合、欠損のある必須の遺伝子の機能を回復させるか又は疾患遺伝子の機能を破壊する、細胞のゲノムへの改変を指す。遺伝子治療は、レンチウイルスベース又はAAVベースであり得る。
【0361】
この使用は、細胞移植術、例えば造血幹細胞移植術の一部としての使用であってもよい。
【0362】
造血幹細胞移植(HSCT)は、骨髄(このケースでは、骨髄移植として公知)又は血液由来の血液幹細胞の移植である。幹細胞移植は、ほとんどの場合血液若しくは骨髄の疾患又は特定のタイプのがんを有する人のために行われる、血液学及び腫瘍学の分野における医療手順である。
【0363】
HSCTの多くのレシピエントは、化学療法での長期の処置によって利益を得ないと予想されるか又は化学療法に対してすでに耐性である多発性骨髄腫又は白血病患者である。HSCTの候補としては、小児のケースであって、患者が欠陥のある幹細胞を有する、重症複合免疫不全(SCID)又は先天性好中球減少症などの生まれつきの欠陥を有するケースが挙げられ、さらに、誕生後に自身の幹細胞を失った再生不良性貧血を有する子供又は成人も挙げられる。幹細胞移植で処置される他の状態としては、鎌状赤血球症、骨髄異形成症候群、神経芽細胞腫、リンパ腫、ユーイング肉腫、線維形成性小細胞腫瘍及びホジキン病が挙げられる。ごく最近、より少ない用量の予備的な化学療法剤及び放射線を必要とする、骨髄非破壊的な、又はいわゆる「ミニ移植」手順が開発されている。これは、高齢の患者や、それ以外の理由で従来の処置レジメンに耐えるには弱すぎるとみなされると予想される他の患者でHSCTの実行を可能にした。
【0364】
一部の実施形態において、本発明の方法に従って調製されたゲノム編集された細胞の集団は、自己細胞移植術の一部として投与される。
【0365】
他の実施形態において、本発明の方法に従って調製されたゲノム編集された細胞の集団は、同種細胞移植術の一部として投与される。
【0366】
用語「自己幹細胞移植術」は、本明細書で使用される場合、初発の細胞の集団(これは次いで、本発明の方法に従ってゲノム編集される)が、ゲノム編集された細胞の集団が投与される対象と同じ対象から得られる場合の手順を指す。自己移植術は、免疫学的な不適合に関連する問題を回避することから有利であり、遺伝学的に適合したドナーがいるかどうかに関わりなく、対象に利用可能である。
【0367】
用語「同種幹細胞移植術」は、本明細書で使用される場合、初発の細胞の集団(これは次いで、本発明の方法に従ってゲノム編集される)がゲノム編集された細胞の集団が投与される対象と異なる対象から得られる場合の手順を指す。好ましくは、ドナーは、免疫学的な不適合リスクを最小化するために、細胞が投与される対象と遺伝学的に適合していると予想される。
【0368】
ゲノム編集された細胞の集団の好適な用量は、例えば治療的及び/又は予防的に有効であることを要する。投与される用量は、処置しようとする対象及び状態に依存する可能性があり、当業者によって容易に決定することができる。
【0369】
造血前駆細胞は、短期間の生着を提供する。したがって、形質導入された造血前駆細胞を投与することによる遺伝子治療は、対象における非永続的な作用を提供すると予想される。例えば、この作用は、形質導入された造血前駆細胞の投与後の1~6か月に限定され得る。
【0370】
このような造血前駆細胞遺伝子治療は、後天的な障害、例えばがんの処置に適している場合があり、その場合、時間制限のある目的の(場合によっては毒性の)抗がん性ヌクレオチドの発現でも、疾患を根絶するのに十分である可能性がある。
【0371】
ゲノム編集された細胞の集団は、WO1998/005635に列挙された障害の処置に有用であり得る。参照しやすいように、その列挙の一部をここに提供する:がん、炎症又は炎症性疾患、皮膚疾患、発熱、心臓血管系の影響、出血、凝血及び急性期応答、悪液質、食欲低下、急性感染、HIV感染、ショック状態、移植片対宿主反応、自己免疫疾患、再灌流傷害、髄膜炎、片頭痛及びアスピリン依存性抗血栓症;腫瘍の増殖、浸潤及び拡大、血管新生、転移、悪性腹水及び悪性胸水;脳虚血、虚血性心疾患、変形性関節症、リウマチ様関節炎、骨粗鬆症、喘息、多発性硬化症、神経変性、アルツハイマー病、アテローム性動脈硬化症、卒中、血管炎、クローン病及び潰瘍性大腸炎;歯周炎、歯肉炎;乾癬、アトピー性皮膚炎、慢性潰瘍、表皮水疱症;角膜潰瘍形成、網膜症及び外科創傷治癒;鼻炎、アレルギー性結膜炎、湿疹、アナフィラキシー;再狭窄、うっ血性心不全、子宮内膜症、アテローム性動脈硬化症、又は内部硬化症(endosclerosis)。
【0372】
加えて、又は代替として、ゲノム編集された細胞の集団は、WO1998/007859に列挙された障害の処置に有用であり得る。参照しやすいように、その列挙の一部をここに提供する:サイトカイン及び細胞の増殖/分化活性;免疫抑制又は免疫刺激活性(例えば、ヒト免疫不全ウイルスでの感染などの免疫不全;リンパ球増殖の制御を処置するため;がんや多くの自己免疫疾患を処置するため、及び移植による拒絶反応を予防する又は腫瘍免疫性を誘導するため);造血の制御、例えば骨髄又はリンパ球の疾患の処置;例えば治癒創傷、やけど、潰瘍及び歯周疾患及び神経変性の処置のために、骨、軟骨、腱、靱帯及び神経組織の成長を促進すること;卵胞刺激ホルモンの阻害又は活性化(妊娠の調節);走化性/化学運動性活性(例えば特定の細胞型を傷害又は感染の部位に動員するため);止血及び血栓溶解活性(例えば血友病及び卒中を処置するため);抗炎症活性(例えば敗血症性ショック又はクローン病を処置するため);抗微生物剤;例えば代謝又は行動の調節因子として;鎮痛薬として;特定の欠損障害の処置;ヒト又は動物における、例えば乾癬の処置。
【0373】
加えて、又は代替として、ゲノム編集された細胞の集団は、WO1998/009985に列挙された障害の処置に有用であり得る。参照しやすいように、その列挙の一部をここに提供する:マクロファージ阻害及び/又はT細胞阻害活性、したがって抗炎症活性;抗免疫活性、すなわち、炎症に関連しない応答を含む細胞性及び/又は体液性免疫応答に対する阻害作用;マクロファージ及びT細胞の細胞外マトリックス成分及びフィブロネクチンに接着する能力、加えて、T細胞における受容体発現の上方制御の阻害;望ましくない免疫反応及び炎症の阻害であって、例えば、リウマチ様関節炎などの関節炎、過敏症、アレルギー反応、喘息、全身性エリテマトーデス、膠原病及び他の自己免疫疾患に関連する炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈硬化症、アテローム硬化性心疾患、再灌流傷害、心停止、心筋梗塞、血管炎症性障害、呼吸窮迫症候群又は他の心肺疾患に関連する炎症、消化性潰瘍、潰瘍性大腸炎及び他の消化管の疾患、肝線維症、肝硬変又は他の肝疾患、甲状腺炎又は他の腺の疾患、糸球体腎炎又は他の腎臓及び泌尿器疾患、耳炎又は他の耳鼻咽喉疾患、皮膚炎又は他の皮膚疾患、歯周疾患又は他の歯科疾患、精巣炎又は睾丸副睾丸炎(epididimo-orchitis)、不妊症、精巣の外傷又は他の免疫関連の精巣疾患、胎盤機能不全症、胎盤機能不全、習慣性流産、子癇、子癇前症並びに他の免疫及び/又は炎症性の関連婦人科系疾患に関連する炎症、後部ブドウ膜炎、中間部ブドウ膜炎、前部ブドウ膜炎、結膜炎、網脈絡膜炎、ブドウ膜網膜炎、視神経炎、眼球内の炎症、例えば網膜炎又は嚢胞状黄斑浮腫、交感性眼炎、強膜炎、網膜色素変性症、変性性眼底疾患(degenerative fondus disease)の免疫及び炎症成分、眼の外傷、感染によって引き起こされる眼の炎症、増殖性硝子体網膜症、急性虚血性視神経症、過度の瘢痕化、例えば緑内障濾過術後の過度の瘢痕化の炎症成分、眼のインプラントに対する免疫及び/又は炎症反応、並びに他の免疫及び炎症性の関連する眼疾患、中枢神経系(CNS)又は他のいずれかの臓器の両方において免疫及び/又は炎症抑制が有益であると予想される自己免疫疾患若しくは状態若しくは障害に関連する炎症、パーキンソン病、パーキンソン病の処置による合併症及び/又は副作用、AIDS関連の認知症、複合的なHIV関連の脳症、デビック病、シドナム舞踏病、アルツハイマー病及び他の変性疾患、CNSの状態又は障害、卒中(stokes)の炎症成分、ポリオ後症候群、精神障害の免疫及び炎症成分、脊髄炎、脳炎、亜急性硬化性汎脳炎、脳脊髄炎、急性ニューロパチー、亜急性ニューロパチー、慢性ニューロパチー、ギラン-バレー(Guillaim-Barre)症候群、シドナム舞踏病(Sydenham chora)、重症筋無力症、偽脳腫瘍、ダウン症候群、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症、CNS圧迫若しくはCNS外傷若しくはCNSの感染の炎症成分、筋萎縮及びジストロフィーの炎症成分、並びに免疫及び炎症性の関連疾患、中枢及び末梢神経系の状態又は障害、外傷後炎症、敗血症性ショック、感染性疾患、外科手術の炎症性の合併症又は副作用、骨髄移植又は他の移植合併症及び/又は副作用、遺伝子治療の炎症性及び/又は免疫合併症及び副作用、例えばウイルス担体での感染に起因するもの、又はAIDSに関連する炎症などの阻害、体液性及び/又は細胞性免疫応答の抑制又は阻害すること、単球又はリンパ球の量を低減させることによって単球又は白血球増殖性疾患、例えば白血病を処置又は緩和すること、天然又は人工の細胞、組織及び臓器、例えば角膜、骨髄、臓器、レンズ、ペースメーカー、天然又は人工皮膚組織の移植のケースにおける移植片拒絶反応の防止及び/又は処置のためのもの。
【0374】
加えて、又は代替として、ゲノム編集された細胞の集団は、β-サラセミア、慢性肉芽腫性疾患、異染性白質ジストロフィー、ムコ多糖症障害及び他のリソソーム蓄積症の処置に有用であり得る。
【0375】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、重症複合免疫不全(SCID)、例えばX連鎖SCIDの処置において有用である。
【0376】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、表皮水疱症のような皮膚疾患の処置において有用である。
【0377】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、単一遺伝子障害(monogeneic disorder)、例えば表皮水疱症及び/又は網膜色素変性症及び/又はハイパーIgM(HIGM)症候群の処置において有用である。
【0378】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、網膜疾患、例えば網膜色素変性症及び/又はレーバー先天性黒内障の処置において有用である。
【0379】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、表皮水疱症の処置において有用である。
【0380】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、網膜色素変性症の処置において有用である。
【0381】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、レーバー先天性黒内障の処置において有用である。
【0382】
一部の実施形態において、ゲノム編集された細胞の集団は、ハイパーIgM(HIGM)症候群の処置において有用である。
【0383】
キット
一態様において、本明細書において定義される第1の成分、本明細書において定義される第2の成分及び本明細書において定義される第3の成分、及び任意選択で細胞集団を含むキットが提供される。
【0384】
成分、及び任意選択で細胞集団は、好適な容器中に提供することができる。
【0385】
キットはまた、使用説明書を含んでいてもよい。
【0386】
処置の方法
本明細書における処置への全ての言及は、治癒的、緩和的及び予防的処置を含むことが理解されるものと予想されるが、本発明の状況において、防止への言及は、より一般的には予防的処置に関連する。一部の実施形態において、哺乳動物、特定にはヒトの処置が好ましい。ヒト及び動物の処置はどちらも、本発明の範囲内である。
【0387】
当業者は、開示された通りの本発明の範囲から逸脱することなく、本明細書で開示された本発明の全ての特徴を組み合わせることができることを理解しているであろう。
【0388】
投与
本発明における使用のためのゲノム編集された細胞の集団は単独で投与できるが、それらは一般的に、特定にはヒト療法のための医薬用担体、賦形剤又は希釈剤と混和して投与されると予想される。
【0389】
投薬量
当業者は、余計な実験を行うことなく、対象に投与するためのゲノム編集された細胞の集団の適切な用量を容易に決定することができる。典型的には、医師は、個々の患者につき最も好適と予想される実際の投薬量を決定すると予想され、これは、採用される具体的な薬剤の活性、その薬剤の作用の代謝的安定性及び長さ、年齢、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与の様式及び時間、排泄の頻度、薬物の組合せ、特定の状態の重症度、並びに個体が受けている療法などの様々な要因に依存すると予想される。当然ながら、より高い又はより低い投薬量範囲がメリットがある個々の例もあり、このようなものは本発明の範囲内である。
【0390】
対象
「対象」は、ヒト又は非ヒト動物のいずれかを指す。
【0391】
非ヒト動物の例としては、脊椎動物、例えば哺乳動物、例えば非ヒト霊長類(特定には高等霊長類)、イヌ、げっ歯類(例えばマウス、ラット又はモルモット)、ブタ及びネコが挙げられる。非ヒト動物は、コンパニオンアニマルであり得る。
【0392】
好ましくは、対象は、ヒトである。
【0393】
本発明の好ましい特徴及び実施形態をここで非限定的な例により説明する。
【0394】
本発明の実施は、別段の指定がない限り、化学、生化学、分子生物学、微生物学及び免疫学の従来の技術を採用すると予想され、これらは当業者の能力の範囲内である。このような技術は、文献で説明されている。例えば、Sambrook, J., Fritsch, E.F. and Maniatis, T. (1989) Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press; Ausubel, F.M.ら(1995 and periodic supplements) Current Protocols in Molecular Biology, Ch. 9, 13 and 16, John Wiley & Sons; Roe, B., Crabtree, J. and Kahn, A. (1996) DNA Isolation and Sequencing: Essential Techniques, John Wiley & Sons; Polak, J.M. and McGee, J.O’D. (1990) In Situ Hybridization: Principles and Practice, Oxford University Press; Gait, M.J. (1984) Oligonucleotide Synthesis: A Practical Approach, IRL Press; and Lilley, D.M. and Dahlberg, J.E. (1992) Methods in Enzymology: DNA Structures Part A: Synthesis and Physical Analysis of DNA, Academic Pressを参照されたい。これらの一般的な教本のそれぞれは、参照により本明細書に組み入れられる。
【実施例
【0395】
[実施例1]
材料及び方法
ベクター及びヌクレアーゼ
HDRのためのAAV6ドナー鋳型を、これまでに記載されたようにして、トリプルトランスフェクション方法によって生産され、塩化セシウム勾配での超遠心分離法によって精製された、AAV2逆方向末端反復を含有する構築物から生成した(1)。AAVS1遺伝子座(最小CMV.GFP又はSK.GFPレポーターカセットをコードする)について相同性を有するか、又はIL2RGのイントロン1(IL2RG修正cDNA、それに続いてPGK.GFPレポーターカセット又は2A.NGFRセレクターカセットのいずれかをコードする)を標的化するAAV-6ドナー鋳型の設計がこれまでに報告されている(2)。
【0396】
遺伝子標的化のためのgRNAの配列を、オンラインのCRISPR設計ツール(4)を使用して設計し、予測された特異性スコア及びオンターゲット活性について選択した。以下にgRNAによって認識されたゲノム配列を示す。
【0397】
【0398】
リボ核タンパク質(RNP)を、1:1.5のモル比のs.p.Cas9タンパク質(Aldevron)と合成cr:tracrRNA(Integrated DNA technologies)と共に25℃で10分間インキュベートすることによってアセンブルした。電気穿孔の前に、電気穿孔エンハンサー(Integrated DNA technologies)を製造元の説明書に従って添加した。
【0399】
トランス活性化プラットフォームのためのgRNA配列は、表1に報告される。Sp-dCas9-VPRプラスミドは、Addgene(#63789)から購入し、Sp-dCas9-VP160は、プラスミド#47107(Addgene)からクローニングした。TALEは、C末端で融合したpUCプラスミド及びプラスミド#63789からのVPRドメインにおけるゴールデンゲート(Golden Gate)戦略によってクローニングした。TALE結合部位は、表2に列挙される。in vitroにおけるmRNAの転写のために、TALE#7-又はTALE#3-VPR又はVP160構築物を、T7プロモーター、β-グロビン3’UTR及び64bp-ポリAを含有するpVaxプラスミド中にクローニングした。
【0400】
【表1】
【0401】
【表2】
【0402】
K562細胞株における遺伝子編集及び標的遺伝子トランス活性化
K562細胞株は、ヒト不死化骨髄性白血病細胞株であり、K562細胞は、赤白血病タイプに属する。
【0403】
K562細胞株を、ペニシリン、ストレプトマイシン、グルタミン及び10%FBSが補充されたIMDM培地(GIBCO-BRL)中で培養した。遺伝子標的化実験のために、ドナーDNA鋳型をコードする50μg/mlのプラスミド及び2.5~1.25μMのRNPを用いて、3×105個の細胞を電気穿孔した(SF Cell Line 4D- Nucleofector X Kit、プログラムEW113;Lonza)。次いで細胞を増やして、フローサイトメトリー及び/又は分子分析を実行した。トランス活性化実験のために、標的化されたK562細胞を、異なって示されない場合、50μg/mlのTALE-TA又はdCas9-TAプラスミド及び12.5μg/mlのU6.sgRNAプラスミドを用いて電気穿孔した。
【0404】
ヒトCD34+細胞における遺伝子編集及び標的遺伝子トランス活性化
インフォームドコンセントを得た後、Ospedale San Raffaele Bioethical Committeeにより承認されたときに、ヒト臍帯血(CB)から新たに精製するか、又はLonzaから凍結したものを購入するかのいずれかによって、CD34+細胞を得た。CD34+細胞を、これまでに最適化されたプロトコールに従って編集した(2)。簡単に言えば、CD34+細胞5×105個/mlを、ペニシリン、ストレプトマイシン、グルタミン、1μMのSR-1(Biovision)、50μMのUM171(STEMCell Technologies)、培養開始時のみ添加された10μMのPGE2(Cayman)及びヒト早期作用性サイトカイン(SCF 100ng/ml、Flt3-L 100ng/ml、TPO 20ng/ml、及びIL-6 20ng/ml;全てPeprotechから購入)が補充された無血清StemSpan培地(STEMCell Technologies)中で刺激した。予備刺激の3日後、細胞をPBSで洗浄し、P3 Primary Cell 4D-Nucleofector X Kit及びプログラムEO-100(Lonza)を使用して電気穿孔した。細胞を、2.5~1.25μMのRNPを用いて電気穿孔した。AAV6での形質導入を、電気穿孔の15分後に、1~2×104vg/細胞の用量で実行した。350μg/mlの用量で示される場合、TALE-TA mRNAを利用した。GFPマーカーを発現する細胞のパーセンテージを測定するフローサイトメトリーによって、電気穿孔後の1、2及び7日に、in vitroで、トランス活性化効率を培養細胞から測定した。これまでに記載されたようにして(2)、ベクター配列と標的化された遺伝子座との間のジャンクション上の、及びノーマライザーとして利用される制御配列上のプライマー及びプローブを設計するデジタルドロップレットPCR分析によって、遺伝子編集効率を測定した。
【0405】
LNGFR+細胞のビーズベースの選択は、MACSelect LNGFRマイクロビーズを用いて、製造元の説明書に従って実行された。
【0406】
NSGマウスにおけるCD34+HSPC異種移植研究
NOD-SCID-IL2Rg-/-(NSG)マウスをJackson Laboratoryから購入し、特定病原体除去(SPF)条件で維持した。動物を含む手順を設計し、San Raffaele病院の動物管理使用委員会(IACUC #749)の承認を受けて実行し、イタリアの法律に従って厚生省(Ministry of Health)及び地方自治体と連絡を取った。
【0407】
培養の5日目に編集及びトランス活性化のために処置した6×105個のCD34+細胞をソートし、亜致死量の放射線照射の後(150~180cGy)、NSGマウスに静脈内注射した。試料サイズを、利用可能な処置された細胞の総数によって決定した。マウスをランダムに各実験グループに割り当てた。ヒトCD45+細胞の生着及び遺伝子が編集された細胞の存在を、マウス尾部からの連続的な血液採取によってモニターし、実験の最後に(移植から20週より後)、骨髄(BM)及び脾臓を回収し、分析した。
【0408】
分子分析
分子分析のために、利用可能な細胞の数に従ってDNeasy Blood & Tissue Kit又はQIAamp DNA Micro Kit (QIAGEN)を用いてゲノムDNAを単離した。ヌクレアーゼ活性(IL2RGイントロン1、AAVS1)を、製造元の説明書に従って、標的化された遺伝子座のPCRベースの増幅、それに続くT7エンドヌクレアーゼI(NEB)での消化によるミスマッチ感受性エンドヌクレアーゼアッセイによって測定した。消化したDNA断片を分解し、LabChip GX Touch HT(Perkin Elmer)でのキャピラリー電気泳動によって製造元の説明書に従って定量化した。
【0409】
デジタルドロップレットPCR分析のために、QX200ドロップレットデジタルPCRシステム(Biorad)を製造元の説明書に従って使用して5-50ngのゲノムDNAを2連で分析した。
【0410】
HDR ddPCRのために、ベクター配列と標的化された遺伝子座との間のジャンクション及び正規化に使用される制御配列(ヒトTTC5遺伝子)におけるプライマー及びプローブを設計した。アニーリング及び伸長のための加熱条件を、それぞれの具体的な適用ごとに以下のように調整した:AAVS1/イントロン1 IL2RG HDR3’組込みジャンクションddPCR:55℃で30秒、72℃で2分。以下の表Cに、PCR及びddPCR増幅のためのプライマー及びプローブを示す。
【0411】
【0412】
遺伝子発現分析のために、RNeasyプラスマイクロキット(QIAGEN)を使用して全RNAを抽出した。SuperScript VILO IV cDNA合成キット(Invitrogen)を用いてcDNAを合成し、ノーマライザーとしてのIL2RG及びHPRTに対するTaqMan遺伝子発現アッセイ(Applied Biosystems)マッピングを使用した、Viia7リアルタイムPCRサーマルサイクラーでのQ-PCRに使用した。まず各遺伝子の相対的な発現をHPRT発現に正規化し、次いでmock処置試料に対する変化倍率として表した。
【0413】
フローサイトメトリー
免疫表現型分析のために(FACSCanto II;BD Pharmingenで実行された)、以下の表Bに列挙した抗体を使用した。対照として、単一の染色された、及びFluorescence Minus Oneで染色された細胞を使用した。フローサイトメトリーのための試料調製物中に、製造元の説明書に従ってLIVE/DEAD Fixable死細胞染色キット(Thermo Fisher)、7-アミノアクチノマイシン(Sigma Aldrich)を含めて、分析物から死細胞を排除した。MoFlo XDPセルソーター(Beckman Coulter)又はFACSAria Fusion(BD Biosciences)を使用してセルソーティングを実行した。
【0414】
【0415】
結果
アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)遺伝子座は、目的の遺伝子(GOI)を発現するカセットの標的化された組込みのための最も検証されているゲノムハーバーの1つである(Lombardoら、 2011)。それゆえに、本発明者らは、AAVS1部位における本明細書で開示されたSMArT戦略(図1A)の適用を想定した。この目的に対して、本発明者らは、ΔLNGFR cDNAを含有するドナーDNAの標的化された組込みを、K562赤芽球様細胞株中で最低限に発現されるCMV由来(最小CMV)プロモーターの制御下で実行した。処置した細胞からの単一細胞クローニングを実行することによって、本発明者らは、ΔLNGFRを発現しない本発明者らの構築物の標的化された組込み(すなわちインタクトな5’及び3’ベクター-ゲノムジャンクション)を有するクローン(クローンH1)を同定した(図1B)。
【0416】
本発明者らのETTプラットフォームを構築するために、本発明者らは、最小CMVプロモーター上流の領域にわたる異なる配列を標的化する29種のsgRNA(表1)を設計し、本発明者らは、クローンH1におけるU6.sgRNAプラスミドの送達による非飽和条件における切断活性に関してそれらをスクリーニングした。本発明者らは、ほとんど全てのsgRNAが60%を超える効率で標的配列を切断したことを観察した(図1C)。
【0417】
標的遺伝子の活性化のために最も広く活用されているトランス活性化ドメインは、多量体VP16由来タンパク質(例えばVP64、VP128、VP160)及び三要素のトランス活性化因子VPR(VP64-p65-Rta)である(Chavezら、 2015)。本発明者らは、触媒的に不活性なS.p.Cas9タンパク質(dCas9)(D10A及びH840A突然変異を含む)(Jinekら、Science 2012; 377(6096): 816-821; PMID: 22745249)をVP160又はVPRドメインのいずれかと融合させ、本発明者らは、ETTを、これまでにスクリーニングしたsgRNAの一部と組み合わせて試験した。ETT単独はΔLNGFR発現を疑似的にトランス活性化しなかったが、sgRNAとETTを発現するプラスミドとの共送達は、試験された8つのガイドのうち3つで効率的で一過性のトランス活性化をもたらした。最良の性能を示すsgRNAを送達することによって、本発明者らは、電気穿孔後の48時間に最大85%のΔLNGFR+細胞、及びそれぞれdCas9-VP160又は-VPRで12及び20倍のΔLNGFR細胞表面発現(未処置対照に対する相対的な蛍光強度[RFI]として測定した場合)を達成した(図1D及び1E)。注目すべきことに、本発明者らが、最小CMVプロモーターから上流の異なる配列を標的化するそれほど有効ではないsgRNAのうち2つを等しい量で送達したところ、本発明者らは強い相乗効果を観察した。これらのデータは、VPRは、VP16由来トランス活性化因子と比較してより有効であること、同じETTを駆動させるための複数のガイドの組合せは標的遺伝子活性化を強く増強することという発見と一致する(Chavezら、 2016)。さらに、本発明者らのデータは、遺伝子トランス活性化は、DNA標的配列が転写開始部位(TSS)に近い場合、特定にはそれから100~250bpである場合、より有効であることを確認する(Gilbertら、2014;Konermannら、2015)。
【0418】
本発明者らのプラットフォームが他の技術にも移動可能かどうかを評価するために、本発明者らは、最小CMVプロモーターから上流の9つの異なる標的配列(表2)を認識する転写活性化因子様エフェクター(TALE)DBDをVP160トランス活性化ドメインと融合させ、本発明者らは、クローンH1にTALE-VP160を発現するプラスミドを送達した。本発明者らは、9つのETTのうち3つがΔLNGFR発現を効率的にトランス活性化したことを見出し、興味深いことに、最も有力なETT(TALE#7)は、最良の性能を示すsgRNAの同じ結合特異性を有していた(図1F)。さらに、クローンH1を、TALE7ETTをコードするmRNAを用いて電気穿孔したところ、より効率的なトランス活性化及び毒性の低減を達成し、NGFR発現のピークは処置後の12から48時間の間であった(図1G)。
【0419】
原則的に、遺伝子改変された細胞の濃縮は、ETTを編集機構と一緒に共送達することによって(「早期選択」)、又はETT送達を遺伝子標的化手順後に数日遅らせることによって(「後期選択」)達成することができる。第1の選択肢において、ETT結合部位は必然的に、エピソームのドナートランス活性化を回避するために、HAの外側のゲノム上にマッピングされなければならない。それゆえに、本発明者らは、本発明者らのベクターの設計(セレクターカセット及びGOIカセットを含有する)を左のHAを短くするように特注し、本発明者らは、AAVS1遺伝子座において300bpより小さい1つのHAを使用した場合、遺伝子標的化効率に対して最小の影響のみを観察した(図2A)。効率的な遺伝子標的化と一過性のトランス活性化との最良の妥協点を得るために、本発明者らは、約150bpの左のHAを有するHDRドナー構築物を利用し、したがって、ドナー鋳型におけるTALE#7及びsgRNA#10結合部位の存在を回避した。K562細胞株におけるAAVS1遺伝子座中に最小CMV-ΔLNGFR標的化組込みを内包する細胞の関連画分は、いずれのトランス活性化が非存在の場合でも細胞表面上にΔLNGFRを提示するため、本発明者らは、このプロモーター(最小CMV)をその改善された合成バージョン「T6-SK」(図2BではSKと称される)で置換することによってHDRドナー設計を改善した。これは、Tet-ON系の立体配置での誘導性発現能力に影響を与えることなくプロモーターの漏れを低減することが報告されている(Loewら、BMC Biotechnol. 2010)。標的化された組込みのとき、本発明者らは一貫して、最小CMVを発現するものと比較して、SK-ΔLNGFRカセットの定常状態発現の約2分の1(ただし壊滅されていない)を観察し、遺伝子標的化効率のddPCRベースの定量化によって確認したところ、細胞の大部分は基礎的にΔLNGFRを発現していた。それとは逆に、プロモーターなしのΔLNGFR構築物のみの遺伝子標的化を実行したところ、ごくわずかな細胞がそれらの表面にΔLNGFRを提示した(図2B)。「後期選択」設定における本発明者らのSMArT戦略を検証するために、本発明者らは、遺伝子標的化手順後の2週間にCRISPR/dCas9ベースのETTを電気穿孔し、効率的な一過性のΔLNGFR過剰発現を達成した(図2C)。同様に、「早期選択」設定におけるSMArT戦略を検証するために、本発明者らは、K562においてCRISPR/dCas9ベースのETTを、AAVS1標的化のための遺伝子編集試薬と一緒に共電気穿孔した。ETT送達後の24時間にΔLNGFRhigh細胞において単一のセルソーティングを実行することによって、本発明者らは、ほとんど全てのクローンが、AAVS1標的部位(少なくとも1つのインタクトなドナー-ゲノムジャンクション)に標的化された組込みの分子的な証拠を内包していたことを観察し、したがって、SMArT戦略による選択が、オンターゲットの編集された細胞を濃縮することを可能にする原理証明が提供される(図2D)。
【0420】
近年、造血幹細胞(HSC)遺伝子治療は、血液学的又は非血液学的な遺伝性障害のいずれかに罹患した患者に明確な利益を示してきた。HSCにおける標的化されたゲノム編集は、挿入変異誘発を回避すること、及び修正導入遺伝子の生理学的な制御を提供することによって遺伝子治療アプローチの安全性を改善することを可能にすると予想される。しかしながら、遺伝子標的化ベースのアプローチの適応性が広いほど、特に長期にわたり生着する前駆体において、HDRによって媒介される標的化された組込みの効率により制限される。SMArT戦略が、造血幹及び前駆細胞(HSPC)における遺伝子編集プロトコールと組み合わせることができるかどうかを調査するために、本発明者らは、臍帯血(CB)由来CD34+細胞で遺伝子標的化実験を実行し、本発明者らは、AAVS1特異的ヌクレアーゼ(RNPとして)及びTALE#7ETT(mRNAとして)の両方を単回の電気穿孔によって送達した(図3A)。予想通りに、本発明者らは、K562細胞株と比較して、HSPCにおける最小CMV及びT6-SKプロモーターの両方でより低い基底のレポーター遺伝子(GFP)発現を観察した。本発明者らは、ETTの存在下で、両方の構築物でGFP発現の低いが明らかなトランス活性化を検出し、これは、TALE#7-VPRでより顕著であったが、関与した前駆体においてより効率的であった(図3B)。本発明者らは、高い割合の編集されたHSPCが、トランス活性化されるとGFPを過剰発現したことを観察した(HDRによって媒介される組込みの分子定量化によって示唆された通り)(図3C)。本発明者らの「後期選択」戦略を検証するために、本発明者らは、遺伝子編集手順後の3~4日にTALE#7-VPR mRNAを電気穿孔した。ここで本発明者らは、早期選択プロトコールと比較して、より有効なトランス活性化能力(GFP+細胞のパーセンテージ及びGFP MFIの両方に関して)を観察したが、より高度に関与した前駆体ではそれでもなおより効率的であった(図3D)。これらの結果は、SMArT戦略が、セレクタータンパク質の一過性にトランス活性化されるとAAVS1によって編集されたHSPCを選択することを可能にするという原理証明を提供する。
【0421】
セレクター遺伝子の発現をさらに増加させるために、SMArT戦略は、翻訳活性化剤、例えば、5’-UTRとは独立した方式で標的mRNA翻訳を活性化した真核開始因子4G(eIF4G)のためのアプタマーを含有するモジュラーRNA活性化剤の存在下で適用することができる(Liuら、2018)。より詳細には、RNAアプタマーのための1つ又は複数の結合部位は、mRNA翻訳をブーストするために、TSSのちょうど下流で修正構築物に挿入されると予想される。セレクターの発現を増加させるための別の可能性のあるアプローチは、目的の治療遺伝子の発現を駆動させるのに使用されるプロモーター(例えばEF1アルファプロモーター)のエンハンサー活性を利用する。理論に制限されることは望まないが、最小プロモーターのすぐ近くの強いエンハンサー/プロモーター領域の存在は、その場でより多くの転写コア因子を補充することによって、セレクター遺伝子におけるトランス活性化効率を改善する可能性がある。
【0422】
平行して、本発明者らは、内因性受容体(SMArTER)の人工トランス活性化による選択と名付けられた類似の戦略を開発した。これは、内因性受容体の一過性のトランス活性化に基づいており、その生成物が選択的な成長の利点を提供しない、又は選択に適していない可能性がある遺伝子の部位特異的な修正を受けた細胞の濃縮に好適であり得る(例えば抗体媒介性認識に好適ではない細胞内タンパク質など)。これらの設定において、セレクタータンパク質の発現は、ETTによって一過性にトランス活性化されると予想される修正した遺伝子における転写活性に依存しており、したがって、修正した遺伝子が標的細胞において不十分にしか発現されない場合でも、編集された細胞の選択を可能にする(図4A)。概念の証明として、本発明者らは、X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)で突然変異している遺伝子であるインターロイキン2受容体共通γ鎖(IL2RG)遺伝子の遺伝子修正に関して、この戦略を適用した。ヒト男性HSPCにおけるこの遺伝子のイントロン1に修正cDNAを組み込むことによって、近年、本発明者らは、IL2RGによって編集されたHSCが、免疫不全NSGマウスにおいて長期にわたり持続することが可能であり、機能的な多系列の再構築をもたらすことを証明した(Schirolら、2017)。SCID-X1疾患において、極めて少数の修正された前駆体でも疾患表現型をレスキューすることができた。しかしながら、機能的な前駆体のインプットは、BM由来CLPからの胸腺再増殖に関する競合がないために、胸腺リンパ腫のリスクと反比例的に互いに関係がある(Ginnら、2017; Martinsら、2014; Schiroliら、2017)。ヒトHSPCにおけるIL2RG遺伝子座における遺伝子修正レベルが、SCID-X1疾患の安全且つ有効な処置のための閾値を越すにもかかわらず、in vivoでの投与前のIL2RGによって編集されたHSPCの濃縮は、悪性腫瘍のあらゆる理論上のリスクのさらなる低減と、オフターゲットの組込みを内包するHSPC投与の最小化を可能にする。さらに、IL2RGによって編集されたHSPCのex vivoの選択は、他の遺伝子、例えばgp91phox、HBB、RAG1、CD40LG、TRAC、TRBC、STAT、PRF1、又はコラーゲン、ケラチン、ラミニン、デスモコリン、デスモプラキン、デスモグレイン、プラコグロビン、プラコフィリン、インテグリン若しくはデスモソーム及びヘミデスモソームに関与する他のタンパク質などの皮膚で発現されるタンパク質をコードする遺伝子の部位特異的な修正に利用できるモデルとして機能することができる。
【0423】
本発明者らはまず、TATAボックスコンセンサスに近いIL2RGプロモーターの異なる領域と結合する3つのTALE-VP160を設計した。これらのTALEベースのETTがガンマ鎖発現をブーストすることが可能かどうかを試験するために、本発明者らは、基本的にIL2RG mRNAを検出可能なレベルに発現するK562細胞株(HEK293T細胞株とは異なり)におけるTALE-VP160を発現するプラスミドを別々に電気穿孔した。本発明者らは、TALE#3-VP160(図ではT3と称される)のみが11倍のIL2RG過剰発現を誘導することができ、したがって、基本的に雄B-リンパ芽球様細胞株(JY)で測定されたレベルに匹敵するIL2RG mRNAレベルが達成されたことを見出した(図4B)。それゆえに、本発明者らは、IL2RGトランス活性化のための候補としてTALE#3を選択した。
【0424】
ヒトHSPCにおける本発明者らの選択戦略の実行可能性を評価するために、本発明者らは、遺伝子のイントロン1中のスプライシングアクセプター(SA).T2A.GFPカセットを標的化することによってIL2RGプロモーター活性をチェックするためのレポーターを生成し、本発明者らは、TALE#3-VP160又はTALE#3-VPR mRNAを共に送達した。本発明者らは、トランス活性化の活性の遺伝子標的化効率に対する影響はないことを見出したが、本発明者らは、TALE#3-VP160の存在下、特にTALE#3-VPRの存在下において、全てのHSPC部分集団でGFP MFIにおける著しい改善を観察した(図4C及び4D)。IL2RG遺伝子発現を再構成し、この遺伝子のための可能性がある臨床的に適格な選択戦略を開発するために、本発明者らは、T2A.GFPカセットを、修正コドン最適化IL2RG cDNAと続くT2A.ΔLNGFRレポーター遺伝子を含有するより大きい構築物で置換した。増殖のためにガンマ鎖発現に厳密に依存するヒト細胞型に対するIL2RGrec.2A.NGFR構築物を機能的に検証するために、本発明者らは、初代雄Tリンパ球におけるIL2RG遺伝子修正(IL2RGrec PGK-GFP)に関して、これまでに公開された最適化されたドナーDNAとそれを比較した(Schiroliら、2017)。編集された細胞の膜表面において、編集されていないカウンターパートと比較して約20%低いIL2RG発現を示すにもかかわらず、2A.NGFR構築物で編集された細胞のサブセットは、培養において対照の編集された細胞と同様に成長した。さらに、長期にわたり培養中にHDR改変細胞が逆に選択されたことから、2A.NGFR修正構築物の機能性が示される(図5A)。次いで本発明者らは、一過性のIL2RGプロモータートランス活性化のために、HDR及びTALE#3-VPRのためのドナーDNAとしてIL2RGrec.2A.NGFRを使用することによって、CB由来CD34+細胞において選択実験を実行した。2A.GFP標的化組込みとは異なり、ΔLNGFRは、おそらく抗ΔLNGFR抗体の低い感度に起因して、いかなるトランス活性化の非存在で編集された細胞の表面上で(特定にはより原始的なHSPCにおいて)基本的に発現されなかった。それゆえに、潜在的に編集された細胞を選択するために、TALE#3VPRによって媒介されるトランス活性化が必要であった(図5B及びC)。ΔLNGFRレポーター遺伝子の一過性の過剰発現時に編集されたHSPCの濃縮が実現可能かどうかをさらに評価するために、本発明者らは、電気穿孔における36時間にレポーター発現細胞のFACS又は磁気ビーズ選択のいずれかを実行した。両方の選択方法は、陽性選択された細胞サブセットにおいて約75%のΔLNGFR+細胞をもたらし、最大90%のHDR編集がΔLNGFR+FACSソート画分における分子分析によって測定された。本発明者らはまた、ΔLNGFR-画分においてHDRの一貫したレベルも測定したことから、本発明者らの選択プロセスはほぼ50%の収率を有することが示唆される。さらに、本発明者らは、ΔLNGFR+ソートされたHSPCとソートされていないHSPCとの間の部分集団組成における極めてわずかな差を観察したことから、本発明者らの手順は、より関与した前駆体の濃縮に強く偏らないことが示される(図5C及びD)。
【0425】
SMArTER戦略は、編集された遺伝子を生理学的に発現するであろう分化細胞におけるセレクターの発現を回避する目的で、セレクター遺伝子にリガンド制御可能な不安定化ドメイン、例えばFKBPドメインに基づくもの(Banaszynskiら、2006)又はヒトエストロゲン受容体由来のもの(Miyazakiら、2012)を付加することによって、さらに精密にすることができる。SMArTER戦略が、影響を受けた遺伝子の発現の非存在をもたらす遺伝性突然変異を修正するために適用される場合、及び影響を受けた遺伝子が表面に露出したタンパク質である場合、例えばSCID-X1におけるIL2RGのケースのように、SMArTER戦略は、セレクターマーカーとして修正した遺伝子それ自体を利用することによってさらに最適化することができる。このケースにおいて、修正した遺伝子の内因性プロモーターへのETTの結合は、細胞表面タンパク質の過剰発現をもたらすであろう、これは、修正した細胞のFACS又は磁気ビーズによって媒介される濃縮のための表面マーカーとして使用することができる。
【0426】
[実施例2]
方法
ベクター及びヌクレアーゼ
HDRのためのAAV6ドナー鋳型を、これまでに記載されたようにして、トリプルトランスフェクション方法によって生産され、塩化セシウム勾配での超遠心分離法によって精製された、AAV2逆方向末端反復を含有する構築物から生成した(Wangら、2015)。AAV6ドナー鋳型の設計は、補足の材料のセクションで詳述される。
【0427】
gRNAの配列をオンラインのCRISPR設計ツール(Hsuら、2013)を使用して設計し、予測された特異性スコア及びオンターゲット活性について選択した。以下にgRNAによって認識されたゲノム配列を示す。
【0428】
【0429】
リボ核タンパク質(RNP)を、1:1.5のモル比のSpCas9タンパク質(Aldevron)と合成cr:tracrRNA(Integrated DNA technologies)と共に25℃で10分間インキュベートすることによってアセンブルした。電気穿孔の前に、電気穿孔エンハンサー(Integrated DNA technologies)を製造元の説明書に従って添加した。
【0430】
GSE56.WPRE、Ad5-E4orf6/7.WPRE及びGSE56/Ad5-E4orf6/7.WPRE(これらは、PCT/EP2019/066915に開示されている)を、ヒト(Homo sapiens)のためのコドン最適化を用いて合成した(GeneArt(商標))。各構築物を、T7プロモーター、WPRE及び64bp-ポリAを含有するmRNAのin vitro転写のためのpVaxプラスミドにクローニングした。tTA.3’UTRを、T7プロモーター、ベータ-グロビン3’UTR及び64bp-ポリAを含有するmRNAのin vitro転写のためのpVaxプラスミドにクローニングした。tTA mRNAの配列は、補足の材料のセクションで詳述される。
【0431】
mRNAのin vitro転写のために、pVaxプラスミドを制限酵素(SpeI)を用いて線形化し、フェノール-クロロホルムを使用して精製した。5’キャップmRNAを、市販の5xMEGAscript T7キット(Invitrogen)を使用してin vitroで転写した。合成RNAを、RNeasyプラスミニキット(Qiagen)とそれに続いてHPLCカラム精製を使用して精製して、汚染物質を除去した。次いでRNAをAmicon Ultra-15(30K)(Millipore)を使用して濃縮した。
【0432】
K562細胞株の遺伝子編集
ヒトK562細胞を、10%ウシ胎児血清(FBS;Euroclone)、ペニシリン(100IU/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及び2%グルタミンが補充されたイスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Corning)中で維持した。K562細胞を、2.5~1.25μMのRNPを用いて電気穿孔した。電気穿孔の後に、AAV6での形質導入を1×104vg/細胞の用量で15分間実行した。
【0433】
ヒトCD34+細胞の遺伝子編集
CD34+細胞を凍結した状態でLonzaから購入した。CD34+細胞を、事前に最適化されたプロトコールに従って編集した(Schiroli et alら、2017)。簡単に言えば、CD34+細胞5×105個/mlを、ペニシリン、ストレプトマイシン、グルタミン、1μMのSR-1(Biovision)、50μMのUM171(STEMCell Technologies)、培養の開始時のみ添加された10μMのPGE2(Cayman)、及びヒト早期作用性サイトカイン(SCF 100ng/ml、Flt3-L 100ng/ml、TPO 20ng/ml、及びIL-6 20ng/ml;全てPeprotechから購入)が補充された無血清StemSpan培地(STEMCell Technologies)中で刺激した。予備刺激の3日後に、細胞をPBSで洗浄し、P3 Primary Cell 4D-Nucleofector X Kit及びプログラムEO-100(Lonza)を使用して電気穿孔した。細胞を、2.5~1.25μMのRNPを用いて電気穿孔した。AAV6での形質導入を、電気穿孔の15分後に、1×104vg/細胞の用量で実行した。150μg/mlの用量で示される場合、GSE56 mRNAを利用し、75又は150μg/mlの用量で示される場合、Ad5-E4orf6/7 mRNAを利用し、215μg/mlの用量で示される場合、GSE56/Ad5-E4orf6/7 mRNAを利用し、150μg/mlの用量で示される場合、tTA mRNAを利用した。in vitroで、電気穿孔後の3日に、GFP/トランケートされたNGFR/CXCR4マーカーを発現する細胞のパーセンテージを測定するフローサイトメトリーによって、又はベクター配列と標的化された遺伝子座との間のジャンクション上の、及びノーマライザーとして利用される制御配列上のプライマー及びプローブを設計するデジタルドロップレットPCR分析によって、遺伝子編集効率を培養細胞から測定した。
【0434】
NSGマウスにおけるCD34+HSPC異種移植研究
NOD-SCID-IL2Rg-/-(NSG)マウスをJackson Laboratoryから購入し、特定病原体除去(SPF)条件で維持した。動物を含む手順を設計し、San Raffaele病院の動物管理使用委員会(IACUC #749)の承認を受けて実行し、イタリアの法律に従って厚生省及び地方自治体と連絡を取った。
【0435】
移植のために、培養の4.5日目に編集のために処置した2×105個のCD34+細胞を、亜致死量の放射線照射の後(150~180cGy)、NSGマウスに静脈内注射した。試料サイズを、利用可能な処置された細胞の総数によって決定した。マウスをランダムに各実験グループに割り当てた。ヒトCD45+細胞の生着及び遺伝子が編集された細胞の存在を、マウス尾部からの連続的な血液採取によってモニターした。
【0436】
分子分析
分子分析のために、利用可能な細胞の数に従ってDNeasy Blood & Tissue Kit又はQIAamp DNA Micro Kit(QIAGEN)を用いてゲノムDNAを単離した。デジタルドロップレットPCR分析のために、QX200ドロップレットデジタルPCRシステム(Biorad)を製造元の説明書に従って使用して5-50ngのゲノムDNAを分析した。HDR ddPCRのために、ベクター配列と標的化された遺伝子座との間のジャンクション及び正規化に使用される制御配列(ヒトTTC5遺伝子)におけるプライマー及びプローブを設計した。アニーリング及び伸長のための加熱条件を以下のように調整した:55℃で30秒、72℃で2分。PCR及びddPCR増幅のためのプライマー及びプローブを以下に示す。
【0437】
【0438】
フローサイトメトリー
免疫表現型分析のために(FACSCanto II;BD Pharmingenで実行された)、本発明者らは以下に列挙した抗体を使用した。対照として、単一の染色された、及びFluorescence Minus Oneで染色された細胞を使用した。フローサイトメトリーのための試料調製物中に、製造元の説明書に従って7-アミノアクチノマイシン(Sigma Aldrich)を含めて、分析物から死細胞を排除した。MoFlo XDPセルソーター(Beckman Coulter)又はFACSAria Fusion(BD Biosciences)を使用してセルソーティングを実行した。
【0439】
【0440】
マウスLin-HSPCの競合的な移植
6~10週齢のC57BL/6-Ly5.1及びCd40lg-/-(CD45.2)ドナーマウスをCO2によって安楽死させ、骨髄細胞を大腿骨、脛骨、及び上腕骨から回収した。HSPCを、マウス系統細胞枯渇キット(Miltenyi Biotec)を製造元の説明書に従って使用したLin-選択によって精製した。次いで細胞を、ペニシリン、ストレプトマイシン、グルタミン、200ng/mlのB18R組換えタンパク質(eBiovision)及びマウスサイトカインの組合せ(全てPeprotechからの、20ng/mlのIL-3、100ng/mlのSCF、100ng/mlのFlt-3L、50ng/mlのTPO)を含有する無血清StemSpan培地(STEMCell Technologies)中で、細胞106個/mlの濃度で16時間培養した。Lin-を示された比率で混合し、8週齢の致死的に放射線照射したCd40lg-/-マウスに示された用量で移植した。
【0441】
結果
tTAの一過性の送達がセレクター発現を活性化できるかどうかを評価するために、本発明者らは、K562細胞株におけるIL2RG遺伝子のイントロン1へのSMArT-Dドナー構築物の標的化された組込みを実行した。標的化後の14日に、本発明者らは、mock電気穿孔細胞において検出不能なレベルの基底の発現を観察した。それとは逆に、異なる用量(0.25μg、1μg又は3μg)のtTA mRNAで編集後の9日に電気穿孔した細胞は、効率的なトランス活性化を示した(図2.1B)。
【0442】
次いで本発明者らは、mRNAとして発現される編集機構であるtTAトランス活性化因子を共に送達することによって、臍帯血(CB)由来CD34+細胞における本発明者らのプラットフォームを試験した(図2.2A)。編集後の24及び48時間におけるFACS分析は、編集されたCD34+細胞において低いが検出可能なレベルのGFP発現を示した。IL2RG Cas9リボ核タンパク質(RNP)の存在下又は非存在下においてtTA mRNAで電気穿孔された、アデノ随伴ウイルスベクター(AAV)で形質導入されたHSPC(ここでガイドRNAは、IL2RGのためのものである)は、高く匹敵するGFP発現を示したことから、tTAは、組み込まれた及び組み込まれていない構築物の両方において類似した効率でトランス活性化することが示される。興味深いことに、電気穿孔におけるドキシサイクリン処置は、ドキシサイクリンで処置されていない細胞と比較して、セレクター発現を効率的に制御した。RNP処置試料は、RNPで処置されていないものと比較して、GFP+細胞のパーセンテージ及びMFIの大幅な増加を示したことから、組み込みされた構築物における優先的なtTA活性が示唆される。しかしながら、ごくわずかなHDRによって編集された細胞は、セレクターを発現した(図2.2B)。したがって、本発明者らは、ドキシサイクリン離脱は、処置後の数時間、tTA活性を再び引き起こすことができ、標的化された細胞において優先的に一過性のセレクター発現を可能にするが、組み込みされなかったAAVコピーは分解され希釈されることになるという仮説を立てた。この目的に対して、本発明者らは、ドキシサイクリン用量及びIL2RG編集におけるウォッシュアウトのタイミングを調整し、本発明者らは、電気穿孔されたAAV+tTAで処置した細胞又はIL2RG遺伝子座を標的化するRNPで処置されていない細胞におけるGFP発現を経時的に比較した(図2.2C)。編集後12時間におけるドキシサイクリン離脱は、ドキシサイクリン用量とは独立して、GFP+細胞のパーセンテージ又はMFIのどちらに関しても、標的化された(RNP+AAV)細胞においてセレクターの効率的な過剰発現を可能にしなかった。重要なことに、より低いドキシサイクリン用量と共にインキュベートし、次いで洗浄したAAV+tTAで処置した細胞は、それでもなお洗浄したRNP+AAV+tTA対照と比較して、セレクター+細胞のより低いパーセンテージ及びMFIを示したことから(図2.2D)、低減したドキシサイクリン用量であっても組み込みされた構築物での優先的なtTA活性が確認される。興味深いことに、低い用量のドキシサイクリン及び編集後の24時間における遅いウォッシュアウトは、HDRによって編集された細胞の大部分で有力なセレクター過剰発現をもたらしたが、組み込みされていない細胞では離脱のときに検出可能なトランス活性化はみられなかった(図2.2E)。より低いドキシサイクリン用量により、編集後の離脱の36時間で類似の結果が得られた(図2.2F)。総合すると、これらの結果は、CD34+細胞においてIL2RG遺伝子座内に組み込まれたセレクター遺伝子を一過性にトランス活性化するためにプロトコールを定義することを可能にする。tTAは、予備刺激の3日後に、電気穿孔によってRNPと共に送達され、ドキシサイクリンは、24時間後のAAV6形質導入のウォッシュアウトの後に400nM又は80nMで添加される(図2.3A)。複数の実験の異分析は、以下を示した:
i)編集された細胞は、最小プロモーターの存在により、最小の、ただし検出可能な基底レベルのセレクター発現を示した;
ii)ドキシサイクリンは、組み込みされていない構築物において、組み込まれたものの場合と比べてtTA活性をより効率的に制御した;
iii)ドキシサイクリンウォッシュアウトは、標的化された細胞中でのみ、高いトランス活性化をもたらした(陽性細胞のパーセンテージ及びMFIの両方に関して)。
【0443】
さらに、トランス活性化は、バルク集団だけでなく最も原始的な区画(CD34+CD133+CD90+)(図2.3D及び2.3E)も考慮に入れて、ほとんど全ての編集された細胞で存在する(図2.3B及び2.3C)。
【0444】
本発明者らの選択プラットフォームがCD34+細胞における他の関連する遺伝子座に移動可能であることを実証するために、本発明者らは、ヒトゲノム内の周知のセーフハーバーであるアデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)遺伝子座におけるSMArT-Dを試験し、本発明者らは、IL2RGで確立されたプロトコールを直接適用した(図2.4A)。本発明者らが前の遺伝子座で観察したものと類似して、本発明者らは、組み込まれたカセットからのセレクター遺伝子の低レベルの基底の発現を観察した。tTAは、提示されると、組み込みされていない、及び組み込まれた構築物の両方において高レベルのセレクター過剰発現を誘導することが可能であったが、ドキシサイクリン(400nM)は、特に、標的化された組込みのためのRNPを受けていない細胞においてトランス活性化を妨げた。さらに、編集手順後の24時間におけるドキシサイクリンウォッシュアウトは、カセットの組込みを示す細胞に限定された増加したレベルのGFP発現をもたらした(図2.4B及び2.4C)。最も原始的なHSPC区画内においてもセレクターの過剰発現が確認された(図2.4D及び2.4E)。
【0445】
本発明者らは次に、別の臨床的に関連する遺伝子座の、HIGM症候群の原因遺伝子であるCD40LGにおけるSMArT-D戦略を試験した。このケースにおいて、本発明者らの戦略の臨床的に適格なセレクターとの適合性を実証するために、GFPセレクターをトランケートされたNGFRで置き換えた。本発明者らは、本発明者らの確立されたプロトコールを活用し(図2.5A)、本発明者らは、それでもなお前の遺伝子座の同じ傾向:tTAなし組み込まれたカセットからの最小レベルの基底の発現、ドキシサイクリンの存在下における極めて限定的なトランス活性化(組み込みされていない構築物より組み込まれた構築物においてより顕著であった)、及びドキシサイクリン離脱後の編集された細胞のみにおける高いセレクター過剰発現を観察した。これらの結果は明らかであり、NGFR陽性細胞のパーセンテージ(図2.5B)、MFI(図2.5C)及び一部の代表的なFACSプロット(図2.5D)を観察した。
【0446】
臨床的な適応性を改善するために、本発明者らは、マーカー遺伝子(GFP又はトランケートされたNGFR)を生物学的なセレクターで置き換えた同じ戦略を試験することを決定した。この方法で、本発明者らは、in vitroでの選択(編集→一過性のトランス活性化→ソーティングを介した編集された細胞の選択)をin vivoでの選択で置き換えることができる。特定には、本発明者らは、SMArT-D戦略による、HDRによって編集されたHSPCのみにおけるC-X-Cケモカイン受容体4型(CXCR4)の一過性の過剰発現は、HDRによって編集されたHSPCの生着能力を強化し、NHEJによって編集された又は未編集のカウンターパートに対するin vivoにおける一過性の選択的な利点を付与すると仮説を立てた。実際に、CXCR4は、HSPCをSDF1(CXCL12)勾配に感作することによって、骨髄の隙間におけるHSPCの移動及びホーミングに関与する生物学的に活性なタンパク質である(Ara etら、2003)。さらに、CXCR4過剰発現は、HSPCの生着能力を改善することが示されている(Kahnら、2004)(特許出願PCT/EP2019/062666)。本発明者らは、CXCR4野生型(WT)及び突然変異(WHIM)型の両方を用いたIL2RG遺伝子座におけるSMArT-D戦略を試験した。後者は、膜上でのCXCR4安定性を増加させる点突然変異を特徴とし、細胞表面上でのCXCR4過剰発現をさらに延長する可能性がある(Hernandezら、2003)。これらの実験のために、本発明者らは、2つの異なる用量のドキシサイクリン(400nM及び80nM)を試験した(図2.6A)。本発明者らは、ほとんど全ての編集された細胞がトランス活性化された編集された画分のみにおけるドキシサイクリン洗浄後に試験されたより低い用量及び一過性のトランス活性化でも、ドキシサイクリン作用を観察した(図2.6B及び2.6C)。さらに、CD34+細胞の部分集団で調査したところ、本発明者らは、より低いドキシサイクリン用量で、最も原始的な区画における最大13%のCXCR4過剰発現細胞を達成した(図2.6D)。CXCR4過剰発現細胞がカセットのオンターゲット組込みを示したことを確認するために、本発明者らは、ソートされたCXCR4high細胞及びCXCR4low細胞におけるHDRによって標的化された組込みを測定し、本発明者らは、CXCR4high細胞において100%のHDR効率を見出した(図2.6E)。
【0447】
加えて、本発明者らは、SMArT-D戦略が、原則的に、遺伝子編集の結果を改善する他の戦略、例えばアデノウイルスタンパク質(Ad5)-E4orf6/7、p53阻害剤GSE56又はそれらの組合せの使用(PCT/EP2019/066915)に基づくものと組み合わせることができるかどうかを試験した。本発明者らの結果は、SMArT-Dが、トランス活性化効率に影響を及ぼすことなく全てのこれらのプラットフォームに適合することを示唆する(図2.7A)。
【0448】
SMArT-Dで操作されたHSPCがそれでもなおその生着能力を保存するかどうか、及びCXCR4を過剰発現するHDRによって編集された細胞がin vivoで濃縮されたかどうかを評価するために、本発明者らは、遺伝子編集後の24時間にドキシサイクリンをウォッシュアウトする必要性のために標準的手順と比較して12時間遅らせて、編集手順後の36時間に250,000個のSMArT-Dで処置したCB由来CD34+細胞をNSG免疫不全マウスに移植した。本発明者らは、マウスの6つの異なるグループを有していた:
(i)CXCR4WT構築物で編集され、tTAで一過性にトランス活性化された細胞;
(ii)CXCR4WHIM構築物で編集され、tTAで一過性にトランス活性化された細胞;
(iii)CXCR4WT構築物で編集され、トランス活性化されていない細胞。
【0449】
さらに、場合によりp53阻害及びCXCR4過剰発現の相乗効果を活用するために、本発明者らは、GSE56の存在下における全ての条件を試験することを決定した:
(i)CXCR4WT構築物で編集され、tTAで、GSE56の存在下で一過性にトランス活性化された細胞;
(ii)CXCR4WHIM構築物で編集され、tTAで、GSE56の存在下で一過性にトランス活性化された細胞;
(iii)CXCR4WT構築物で編集され、トランス活性化されていないが、GSE56の存在下の細胞。
【0450】
マウスを、移植後の6、9、12及び18週に収集された血液試料にHDR効率に関してFACS分析及び分子アッセイを実行することによってモニターした(図2.8A)。長期にわたる複雑なex vivo操作にもかかわらず、SMArT-Dによってトランス活性化されたHDRによって編集された細胞は、免疫不全マウスにおいて長期的に生着することができた。しかしながら、本発明者らは、トランス活性化されていないマウスと比較して、tTAトランス活性化細胞を受けたマウスにおいてより高い生着もHDR効率も観察することができず、グループ間の主な差は、GSE56処置細胞を受けたマウスにおける再生息しているヒト細胞の強化されたパーセンテージに主として関する差であった(図2.8B及び2.8C)。
【0451】
修正した細胞の純粋集団の濃縮は、バルクの処置細胞の移植と比較して少数の幹細胞の移植を伴うであろう。それゆえに、本発明者らは、どの疾患の設定が、機能的な細胞の限定的なインプットの再構築でも利益を得る可能性があるかを結論付けた。本発明者らは、CD40LG遺伝子の突然変異を不活性化することによる原発性免疫不全であるHIGM1疾患のマウスモデルにおける「選択様」手順をモデル化し、非自己抗原の応答における欠損のあるIgG生産によって特徴付けた。致死的に放射線照射したCd40lgノックアウト(KO)マウスに、i)25%のCd40lg野生型(WT)及び75%のKO又はii)50%のWT及び50%KOの総量1,000,000個の細胞を移植した。「選択様」の設定を模擬するために、本発明者らは、250,000又は500,000個のいずれかの同じ量のWT細胞を、ただしKO細胞の競合なしで移植した。対照として、本発明者らは、1,000,000個のKO細胞又は1,000,000個のWT細胞を移植した。本発明者らは、移植後の12週にTNP/KLHワクチン接種を実行し、本発明者らは、14週に血清試料収集した。マウスを15週にTNP/KLH抗原でブーストし、血清試料を収集した(図2.9A及び2.9B)。本発明者らは、末梢血液中の絶対数の細胞において条件間で有意差を観察しなかった(図2.9C)。本発明者らは、50%-50%の競合的移植の状況で100%のWT細胞が注射されたマウスに匹敵するTNP-KLHの体液性IgG応答のレスキューを観察したが、一方で25%-75%のグループは部分的なレスキューしか示さなかった。重要なことに、わずか250,00個のWT細胞の移植によってでさえも、全レスキューは非競合の設定で達成された(図2.9D)。これらのデータは、HIGM症候群に関するHSPC遺伝子修正の状況における選択戦略のための論理的説明を確立する。
【0452】
参考文献
【0453】
材料及び方法(実施例1)で引用された参考文献
【0454】
本明細書において引用された全ての参考文献は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。
【0455】
【0456】
条項の要約
本発明は、特許請求の範囲及び付随する説明において定義される。便宜上、本発明の他の態様は、番号付けられた条項によって本明細書において提示される。
【0457】
1.ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)を含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
ETTポリペプチドは、細胞若しくは細胞の集団中に一過性に存在するか、又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、細胞若しくは細胞の集団において一過性に発現され、及び
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOIの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、方法。
【0458】
2.ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、
(iii)プロモーターに作動可能に連結したNOI、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、最小プロモーターを活性化する、条項1に従う方法。
【0459】
3.ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、スプライシングアクセプター部位(SA)、
(iii)NOI、
(iv)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(v)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、最小プロモーターを活性化する、条項1に従う方法。
【0460】
4.ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、スプライシングアクセプター部位(SA)、
(iii)NOI、
(iv)任意選択で、2A自己切断ペプチド(2A)又は配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントをコードするヌクレオチド配列、
(v)任意選択で、最小プロモーターに作動可能に連結された、セレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(vi)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、標的遺伝子座において内因性プロモーターを活性化する、条項1に従う方法。
【0461】
5.DBDが、転写活性化因子様エフェクター(TALE)DBD、亜鉛フィンガー、触媒的に不活性のCpf1又は触媒的に不活性のCas(dCas)であり、TAドメインが、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、SAM及びSunTagからなる群から選択される、前記の条項のいずれか一項に従う方法。
【0462】
6.gRNAが、配列番号1~31及びそれと少なくとも75%の同一性を有する配列からなる群から選択されるヌクレオチド配列のうち1つ以上に結合可能である、前記の条項のいずれか一項に従う方法。
【0463】
7.標的遺伝子座が、セーフハーバーである、前記の条項のいずれか一項に従う方法。
【0464】
8.標的遺伝子座が、アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)、レンチウイルスベクターの共通組込み部位(CIS)、IL2RG、gp91phox、HBB、RAG1、CD40LG、TRAC、TRBC、STAT、PRF1、皮膚において発現されるタンパク質(例えば、コラーゲン、ケラチン、ラミニン、デスモコリン、デスモプラチン(desmoplachine)、デスモグレイン、プラコグロビン(placoglobin)、プラコフィリン(placophylline)、インテグリン又はデスモソーム及びヘミデスモソームに関与する他のタンパク質)をコードする遺伝子又は別のセーフハーバーゲノム遺伝子座である、条項7に従う方法。
【0465】
9.前記の条項のいずれか一項に定義されるような第1の成分、第2の成分及び第3の成分並びに任意選択で細胞集団を含むキット。
【0466】
10.前記の条項のいずれか一項に記載の方法によって生成されたゲノム編集された細胞の集団。
【0467】
11.条項10に従うゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物。
【0468】
12.遺伝子療法において使用するための、条項10に従うゲノム編集された細胞の集団。
【0469】
13.X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)の処置又は予防において使用するための、条項10に従うゲノム編集された細胞の集団。
【0470】
14.造血幹細胞移植(HSCT)において使用するための、条項10に従うゲノム編集された細胞の集団。
【0471】
15.組織修復において使用するための、条項10に従うゲノム編集された細胞の集団。
以下、本発明の実施形態を示す。
[1]ゲノム編集された細胞を選択する方法及び/又は細胞の集団におけるゲノム編集された細胞の濃縮のための方法であって、
(a)細胞又は細胞の集団中に、少なくとも1つの第1の成分、少なくとも1つの第2の成分及び少なくとも1つの第3の成分を導入すること、並びに
(b)セレクターをコードするヌクレオチド配列を一過性に発現するか、又は一過性に上方制御するゲノム編集された細胞を選択すること
を含み、
第1の成分は、セレクターをコードするヌクレオチド配列及び目的のヌクレオチド配列(NOI)及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターを含むドナーレポーターカセットであり、
第2の成分は、操作された転写トランス活性化因子(ETT)ポリペプチド又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列であり、ETTポリペプチドは、DNA結合性ドメイン(DBD)及び少なくとも1つの転写活性化因子(TA)ドメインを含み、
第3の成分は、ゲノム標的ヌクレアーゼ及び任意選択で、少なくとも1つの標的とされるゲノム配列を含むガイドRNA(gRNA)を含むヌクレアーゼ系であり、
ETTポリペプチドは、細胞若しくは細胞の集団中に一過性に存在するか、又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列は、細胞若しくは細胞の集団において一過性に発現され、及び
細胞又は細胞の集団におけるヌクレアーゼ系の存在が、セレクターをコードするヌクレオチド配列及びNOI及び任意選択で、調節エレメントに作動可能に連結した最小プロモーターの、標的遺伝子座への挿入を可能にし、且つ、任意選択で、モジュレーターが細胞若しくは細胞の集団中に存在する場合に、又は任意選択で、モジュレーターが細胞若しくは細胞の集団中に存在しない場合に、ETTポリペプチドの一過性存在又はETTポリペプチドをコードするヌクレオチド配列の一過性発現が、挿入されたセレクターをコードするヌクレオチド配列の一過性発現又は一過性上方制御を可能にする、
前記方法。
[2]ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、
(iii)プロモーターに作動可能に連結したNOI、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、最小プロモーターを活性化する、
[1]記載の方法。
[3]ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、スプライシングアクセプター部位(SA)、
(iii)NOI、
(iv)最小プロモーターに作動可能に連結したセレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(v)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が標的遺伝子座中に挿入される場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、最小プロモーターを活性化する、
[1]記載の方法。
[4]ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)任意選択で、スプライシングアクセプター部位(SA)、
(iii)NOI、
(iv)任意選択で、2A自己切断ペプチド(2A)又は配列内リボソーム進入部位(IRES)エレメントをコードするヌクレオチド配列、
(v)セレクターをコードするヌクレオチド配列、ここで、任意選択で、セレクターをコードするヌクレオチド配列は最小プロモーターに作動可能に連結されている、及び
(vi)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、標的遺伝子座において内因性プロモーターを活性化する、
[1]記載の方法。
[5]ドナーレポーターカセットが順次、
(i)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む左相同性アーム(HA)、
(ii)NOI、ここで、任意選択で、NOIはプロモーターに作動可能に連結されている、
(iii)最小プロモーターに作動可能に連結された、セレクターをコードするヌクレオチド配列であって、最小プロモーターが調節エレメントに作動可能に連結されている、セレクターをコードするヌクレオチド配列、及び
(iv)標的遺伝子座と相同なヌクレオチド配列を含む右相同性アーム(HA)
を含み、
セレクターをコードするヌクレオチド配列が、標的遺伝子座中に挿入される場合に、及びモジュレーターが細胞又は細胞の集団に存在する場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、調節エレメントに結合し、且つ、最小プロモーターを活性化するか、又は
セレクターをコードするヌクレオチド配列が、標的遺伝子座中に挿入される場合に、及びモジュレーターが細胞又は細胞の集団に存在しない場合に、第2の成分のETTポリペプチド又は第2の成分によって発現されたETTポリペプチドが、調節エレメントに結合し、且つ、最小プロモーターを活性化する、
[1]記載の方法。
[6]DBDが、転写活性化因子様エフェクター(TALE)DBD、亜鉛フィンガー、触媒的に不活性のCpf1又は触媒的に不活性のCas(dCas)であり、且つ、TAドメインが、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、SAM及びSunTagから成る群から選択される、[1]~[4]のいずれか1記載の方法。
[7]DBDが、TetR又はリバースTetR(rTetR)であり、且つ、TAドメインが、VP16、VP64、VP128、VP160、VPR、p65、Rta、HSF1、SAM及びSunTagから成る群から選択される、[5]記載の方法。
[8]gRNAが、配列番号1~31及びそれと少なくとも75%の同一性を有する配列から成る群から選択されるヌクレオチド配列のうち1つ以上に結合可能である、[1]~[7]のいずれか1記載の方法。
[9]標的遺伝子座が、セーフハーバーである、[1]~[8]のいずれか1記載の方法。
[10]標的遺伝子座が、アデノ随伴ウイルス組込み部位1(AAVS1)、レンチウイルスベクターの共通組込み部位(CIS)、IL2RG、gp91phox、HBB、RAG1、CD40LG、TRAC、TRBC、STAT、PRF1、皮膚において発現されるタンパク質(例えば、コラーゲン、ケラチン、ラミニン、デスモコリン、デスモプラチン(desmoplachine)、デスモグレイン、プラコグロビン(placoglobin)、プラコフィリン(placophylline)、インテグリン又はデスモソーム及びヘミデスモソームに関与する他のタンパク質)をコードする遺伝子又は別のセーフハーバーゲノム遺伝子座である、[9]記載の方法。
[11][1]~[10]のいずれか1に定義される第1の成分、第2の成分及び第3の成分並びに任意選択で細胞集団を含むキット。
[12][1]~[10]のいずれか1記載の方法によって生成されたゲノム編集された細胞の集団。
[13][12]記載のゲノム編集された細胞の集団を含む医薬組成物。
[14]遺伝子療法において使用するための、[12]記載のゲノム編集された細胞の集団。
[15]X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)の処置又は予防において使用するための、[12]記載のゲノム編集された細胞の集団。
[16]造血幹細胞移植(HSCT)において使用するための、[12]記載のゲノム編集された細胞の集団。
[17]組織修復において使用するための、[12]記載のゲノム編集された細胞の集団。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図1-5】
図1-6】
図1-7】
図2-1】
図2-2】
図2-3】
図2-4】
図2-5】
図2-6】
図2-7】
図2-8】
図2-9】
図2.1】
図2.2-1】
図2.2-2】
図2.2-3】
図2.3-1】
図2.3-2】
図2.4-1】
図2.4-2】
図2.5-1】
図2.5-2】
図2.6-1】
図2.6-2】
図2.6-3】
図2.6-4】
図2.7】
図2.8】
図2.9】
図3-1】
図3-2】
図3-3】
図3-4】
図4-1】
図4-2】
図4-3】
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図5-4】
【配列表】
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