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特許7633180マルチプレックス化干渉RNAを有する細胞
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】マルチプレックス化干渉RNAを有する細胞
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20250212BHJP
   C12N 15/113 20100101ALI20250212BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20250212BHJP
   C12N 5/0789 20100101ALI20250212BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20250212BHJP
   A61K 35/17 20250101ALI20250212BHJP
   A61K 35/545 20150101ALI20250212BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20250212BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C12N5/10 ZNA
C12N15/113 Z
C12N5/0783
C12N5/0789
C12N15/113 140Z
C12N15/62 Z
C12N15/63 Z
A61K35/17
A61K35/545
A61P35/00
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021564762
(86)(22)【出願日】2020-05-04
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2020062346
(87)【国際公開番号】W WO2020221939
(87)【国際公開日】2020-11-05
【審査請求日】2023-05-01
(31)【優先権主張番号】19172389.9
(32)【優先日】2019-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】520197310
【氏名又は名称】セリアド オンコロジー エス.アー.
【氏名又は名称原語表記】CELYAD ONCOLOGY S.A.
【住所又は居所原語表記】Axis Business Park, Rue Edouard Belin 2, 1435 Mont-Saint-Guibert, Belgium
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】ボーンシャイン,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ソティロプル,ペギー
(72)【発明者】
【氏名】ブレマン,イータン
(72)【発明者】
【氏名】ステクロフ,ミハイル
【審査官】團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/049471(WO,A1)
【文献】特表2010-527616(JP,A)
【文献】特表2019-509063(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0036773(US,A1)
【文献】国際公開第2012/159120(WO,A1)
【文献】DAQIAN SUN; ET AL,MULTI-MIRNA HAIRPIN METHOD THAT IMPROVES GENE KNOCKDOWN EFFICIENCY AND PROVIDES LINKED MULTI-GENE KNOCKDOWN,BIOTECHNIQUES,米国,INFORMA HEALTHCARE,2006年07月,VOL:41, NR:1,PAGE(S):59 - 63,http://dx.doi.org/10.2144/000112203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC C12N 15/00-15/90
DB名 REGISTRY/CAPLUS/MEDLINE/
EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580
(JDreamIII)
GenBank/EMBL/Geneseq
Uniprot/Geneseq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的のタンパク質をコードする第1外因性核酸分子、および、
少なくとも2つのマルチプレックス化miRNA分子をコードする第2核酸分子、を含み、
前記miRNA分子の少なくとも1つがmiR-196a2スキャフォールド配列を有する、改変された細胞。
【請求項2】
改変された免疫細胞である、請求項1に記載の改変された細胞。
【請求項3】
前記細胞が、T細胞、NK細胞、NKT細胞、幹細胞、前駆細胞、およびiPSC細胞から選択される、請求項1または2に記載の改変された細胞。
【請求項4】
前記目的のタンパク質が、受容体である、請求項1から3のいずれか1項に記載の改変された細胞。
【請求項5】
前記受容体が、キメラ抗原受容体またはTCRである、請求項4に記載の改変された細胞。
【請求項6】
前記第1および第2核酸分子が、1つのベクター中に存在する、請求項1からのいずれか1項に記載の改変された細胞。
【請求項7】
前記ベクターが、真核生物発現プラスミド、ミニサークルDNA、または、ウイルスベクター(レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびセンダイウイルスに由来するウイルスベクターを含む)である、請求項6に記載の改変された細胞。
【請求項8】
前記少なくとも2つのマルチプレックス化miRNA分子が、1つのプロモーターの制御下にある、請求項1からのいずれか1項に記載の改変された細胞。
【請求項9】
前記プロモーターが、U6プロモーターではない、請求項に記載の改変された細胞。
【請求項10】
前記プロモーターが、CMVプロモーター、EFlαプロモーター(コアまたは全長)、PGKプロモーター、CAGプロモーター、UbCプロモーター、SFFVプロモーター、RSVプロモーター、IL2-プロモーター、MSCV LTR、SV40プロモーター、GALV LTRおよびtRNAプロモーターから選択されるPol IIプロモーターである、請求項に記載の改変された細胞。
【請求項11】
前記少なくとも2つのmiRNA分子のすべてが、miR-196a2スキャフォールド配列を含む、請求項に記載の改変された細胞。
【請求項12】
前記マルチプレックス化miRNA分子のうち少なくとも2つが、同じ標的を対象としている、請求項1から11のいずれか1項に記載の改変された細胞。
【請求項13】
前記マルチプレックス化miRNA分子のうちの少なくとも2つが同一である、請求項12に記載の改変された細胞。
【請求項14】
前記少なくとも2つのマルチプレックス化miRNA分子のすべてが、異なっている、請求項1から11のいずれか1項に記載の改変された細胞。
【請求項15】
前記少なくとも2つのマルチプレックス化miRNA分子のすべてが、異なる標的を対象としている、請求項14に記載の改変された細胞。
【請求項16】
前記少なくとも2つのマルチプレックス化miRNA分子によって標的とされる分子が、MHCクラスI遺伝子、MHCクラスII遺伝子、MHCコレセプター遺伝子(LA-F、HLA-Gを含む)、TCR鎖、NKBBiL、LTA、TNF、LTB、LST1、NCR3、AIF1、LY6、熱ショックタンパク質(SPA1L、HSPA1A、HSPA1Bを含む)、補体カスケード、調節受容体(OTCH4を含む)、TAP、HLA-DM、HLA-DO、RING1、CD52、CD247、HCP5、DGKA、DGKZ、B2M、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、2B4、A2AR、BAX、BLIMP1、C160(POLR3A)、CBL-B、CCR6、CD7、CD95、CD123、DGK[DGKA、DGKB、DGKD、DGKE、DKGG、DGKH、DGKI、DGKK、DGKQ、DGKZ]、DNMT3A、DR4、DR5、EGR2、FABP4、FABP5、FASN、GMCSF、HPK1、IL-10R[IL10RA、IL10RB]、IL2、LFA1、NEAT1、NFkB(RELA、RELB、NFkB2、NFkBl、RELを含む)、NKG2A、NR4A(NR4A1、NR4A2、NR4A3を含む)、PD1、PI3KCD、PPP2RD2、SHIP1、SOAT1、SOCS1、T-BET、TET2、TGFBR1、TGFBR2、TGFBR3、TIGIT、TIM3、TOX、およびZFP36L2から選択される、請求項1から15のいずれか1項に記載の改変された細胞。
【請求項17】
医薬品として使用するための、請求項1から16のいずれか1項に記載の改変された細胞。
【請求項18】
癌の治療に使用するための、請求項1から17のいずれか1項に記載の改変された細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、免疫療法の分野、より詳細には養子細胞療法(ACT)の分野に関するものである。ここでは、複数の標的をダウンレギュレートするように設計された、複数のshRNAが提案されている。また、ポリヌクレオチド、shRNAをコードするベクター、およびそのようなshRNAを単独またはキメラ抗原受容体(CAR)と組み合わせて発現する細胞も提案されている。これらの細胞は、特に免疫療法に用いるのに適している。本発明は、治療を必要とする患者におけるT細胞療法の有効性を高める方法を提供する。さらに、これらの細胞を用いて癌などの疾患を治療するストラテジーも提供される。このようなCARを発現するT細胞またはナチュラルキラー(NK)細胞などの改変された(engineered)免疫細胞は、リンパ腫、多発性骨髄腫、白血病の治療に適しているが、CARの特異性に応じて、他の腫瘍も治療することができる。
【背景技術】
【0002】
細胞治療においては、移植片対宿主病を誘発するTCR成分、宿主対移植片病を誘発するHLA成分、ストレスリガンド、免疫チェックポイントなど、治療の有益な効果を阻害する可能性のある標的をダウンレギュレートすることがしばしば有利である。しかし、実用上の制約(ベクターの大きさや同時に投与できる分子の数など)、および毒性の問題から、これらの標的を複数同時にダウンレギュレートすることは、しばしば問題となる。
【0003】
通常、例えばCRISPR/Cas、TALEN、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)などの遺伝子改変アプローチが提案されている。しかし、これらのアプローチは通常、永久的かつ非可逆的な変化および/または遺伝子の完全なノックアウトにつながり、標的の不在が生存率の問題または毒性につながる場合には問題となることがある。さらに、永続的な性質は、標的の一過性のダウンレギュレーションのみが望まれる場合には、柔軟性に欠ける。遺伝子改変技術は一般的に非常に煩雑であり、複数の標的を同時にノックダウンするのには理想的ではない。例えば、TALENの場合、ノックダウンを実現するためには、標的ごとに別々のヌクレアーゼタンパク質を改変する必要がある。その後、まだ、有効性を評価する必要がある。2つ以上の異なるTALENを組み合わせることは、理論的には可能であるが、明らかに実用上の欠点がある。つまり、2つのTALENの組み合わせが有効性に影響を与えるかどうかを確認する必要がある。また、これらは大きなタンパク質であるため、ベクターのサイズが通常制限されるACTなどで両方を発現させることは現実的ではない。2つを超える標的を検討する場合、これらの障害はすべて深刻になる。Crispr/Casは通常、より汎用性の高い解決策であるが、マルチプレックス化(つまり、複数の標的部位を同時に改変すること)は、特に真核生物においては、依然として困難である。その原因としては、DNA修復効率の低さ(真核生物の二本鎖切断のNHEJ修復メカニズムはエラーを起こしやすい)、CRISPRで時々見られるオフターゲット効果および染色体再配列、CRISPRのマルチプレックス化の一般的な効率の低さ(複数の遺伝子を標的にするとトランスフェクション効率が劇的に低下する)などが挙げられ、効率と特異性の両方に問題がある。さらに、DNAに直接作用して標的遺伝子を永続的にサイレンシングさせる遺伝子編集アプローチでは、ゲノムの完全性を保証するための堅牢なテストが必要となる一方で、精巧で多段階の製造方法が必要となり、持続性および/または機能性が限られた分化の遅れた細胞または疲弊した細胞ができる可能性がある(Gattinoniら、2011年)。このことは、ACTの文脈では特に重要である。治療効果を得るためには、初期に分化し、疲弊していない細胞が明らかに優れている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、当技術分野では、多段階の製造方法を必要とせず(したがって、製造が比較的容易で、コストが削減できる)、柔軟性(例えば、変更を可逆的にする、ノックダウンの減衰を可能にする(例えば、毒性を避けるため)、ある標的を別の標的に交換するなど)を備えた、標的のマルチプレックス化ノックダウンによる細胞治療を可能にするシステムを提供することが必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
(概要)
マルチプレックス化ゲノム改変の問題を解決するためには、遺伝子的なノックアウトではなく、ノックダウンの可能性を有するシステムが検討され、これにより、柔軟性が向上する(たとえば、時間的調節が可能になる)。理想的には、これらのシステムは煩雑さが少なく(標的ごとに別々のタンパク質を遺伝子改変する必要がない)、十分な効率と特異性を備えている必要がある。
【0006】
その解決策の一つとして考えられるのが、RNA干渉(RNAi)である。RNAiによる遺伝子調整のメカニズムは、植物および動物にいくつか存在する。1つ目は、マイクロRNA(miRNA)と呼ばれる低分子ノンコーディングRNAの発現によるものである。miRNAは、分解のために特定のメッセンジャーRNA(mRNA)を標的とすることができ、これにより遺伝子サイレンシングが促進される。
【0007】
遺伝子活性の調節にはマイクロRNA経路が重要であることから、研究者たちは現在、人工的に設計された分子である低分子抑制RNA(「siRNA」)がどの程度RNAiを媒介するかを研究している。siRNAは、mRNAなどの標的分子を切断することができ、miRNAと同様に標的分子を認識するために塩基の相補性に依存する。
【0008】
siRNAとして知られている分子のクラスには、ショートヘアピンRNA(shRNA)がある。shRNAは、センス領域と、センス領域とハイブリダイズできるアンチセンス領域を含む一本鎖の分子である。shRNAは、センス領域とアンチセンス領域がステムの一部または全部を形成するステムおよびループ構造を形成することができる。shRNAを使用する利点の1つは、siRNAが2つの別々の鎖を有する場合には不可能であるが、shRNAは1つの分子として送達または転写され得ることである。しかし、他のsiRNAと同様に、shRNAも塩基の相補性に基づいてmRNAを標的とする。
【0009】
多くの病態、疾患、障害は、複数のタンパク質間の相互作用によって引き起こされる。そのため、研究者たちは、複数のsiRNAを細胞または生物に同時に送達する効果的な方法を模索している。
【0010】
一つの方法として、ベクター技術を用いて、内因性miRNA経路でプロセシングされる細胞内でshRNAを発現させる方法がある。しかし、それぞれのshRNAに別々のベクターを使用するのは煩雑である。そのため、複数のshRNAを発現させることができるベクターの利用が検討されている。しかし残念ながら、単一のベクターから複数のshRNAを発現させる場合、いくつかの課題があることが報告されている。研究者が直面した問題の中には、(a)ベクターの組み換えのリスクおよびshRNAの発現欠失、(b)マルチプレックスカセットの位置の影響によるshRNAの機能低下、(c)shRNAクローニングの複雑さ、(d)RNAiプロセシングの飽和、(e)細胞毒性、および(f)望ましくないオフターゲット効果、が存在する。
【0011】
さらに、siRNAは、ある種の形質転換した哺乳類細胞株において短期的な遺伝子阻害に有効であることが示されているが、初代培養細胞での使用や安定した転写産物のノックダウンでの使用には、より困難が伴う。ノックダウンの有効性は、<10%から>90%の範囲で大きく変動することが知られており(Taxmanら、2006年)、さらなる最適化が必要である。複数の阻害物質を発現させた場合、一般的に有効性は低下するため、このような場合には最適化がさらに重要となる。
【0012】
したがって、マルチプレックス化RNA干渉分子を送達するための効率的なカセットおよびベクターを開発する必要性が残されている。一般的な細胞適用には当てはまるが、ACTの分野ではこの点があまり検討されておらず、これらの細胞における効率的なシステムが強く求められている。
【0013】
驚くべきことに、本明細書では、shRNAが細胞内、特に改変された免疫細胞内で上手くマルチプレックス化され得るだけでなく、標的が非常に効率的にダウンレギュレートされ、遺伝子ノックアウトに匹敵することさえあることが示されている(参照:実施例5~8およびCRISPRとの比較)。
【0014】
したがって、本発明の目的は、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子をコードする(encoding)核酸分子を含む、改変された細胞を提供することである。
【0015】
さらなる実施形態によれば、
・目的のタンパク質をコードする第1外因性核酸分子
・少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子をコードする第2核酸分子
を含む、改変された細胞が提供される。
【0016】
前記改変された細胞は、特に真核細胞であり、より特には改変された哺乳動物細胞であり、より特には改変されたヒト細胞である。特定の実施形態によれば、前記細胞は、改変された免疫細胞である。典型的な免疫細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、幹細胞、前駆細胞、およびiPSC細胞から選択される。
【0017】
特定の実施形態によれば、前記改変された細胞は、目的のタンパク質をコードする核酸をさらに含む。特に、この目的のタンパク質は、受容体、特にキメラ抗原受容体またはTCRである。キメラ抗原受容体は、任意の標的を対象とすることができ、典型的な例としては、CD19、CD20、CD22、CD30、BCMA、B7H3、B7H6、NKG2D、HER2、HER3、GPC3などが挙げられるが、さらに多くのものが存在し、適切でもある。
【0018】
特定の実施形態によれば、第1および第2の核酸分子は、例えば、真核生物発現プラスミド、ミニサークルDNA、またはウイルスベクター(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびセンダイウイルスに由来する)である1つのベクター中に存在する。
【0019】
少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子は、ダウンレギュレートされる標的分子の数やマルチプレックス化された分子を共発現させる際の制限に応じて、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、またはそれ以上の分子であり得る。「マルチプレックス」とは、同じ種類の複数の分子をコードするポリヌクレオチドのことで、例えば、複数のsiRNAまたはshRNAまたはmiRNAが挙げられる。マルチプレックス内では、同じ種類の分子(例えば、すべてshRNA)の場合、それらは同一であってもよいし、異なる配列を含んでいてもよい。同じ種類の分子の間には、本明細書に記載されているリンカーのような配列が介在していてもよい。本発明のマルチプレックス化の一例は、複数のタンデムmiRNAベースのshRNAをコードするポリヌクレオチドである。マルチプレックスは、一本鎖であっても、二本鎖であっても、あるいは一本鎖である領域と二本鎖である領域の両方であってもよい。
【0020】
特定の実施形態によれば、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子は、1つのプロモーターの制御下にある。通常、このプロモーターは、U6プロモーターではない。これは、このプロモーターが、特に高レベルの発現において、毒性と関連しているためである。同じ理由で、H1プロモーター(これはU6よりも弱いプロモーターである)、または一般的にPol IIIプロモーター(特定の条件では適していることもあるが)を除外することが、検討され得る。特定の実施形態によれば、前記プロモーターは、Pol IIプロモーター、およびPol IIIプロモーターから選択される。特定の実施形態によれば、前記プロモーターは、天然または合成のPol IIプロモーターである。特定の実施形態によると、前記プロモーターは、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、伸長因子1α(EFlα)プロモーター(コアまたは全長)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、上流にCMV IVエンハンサーを有する複合ベータ-アクチンプロモーター(CAGプロモーター)、ユビキチンC(UbC)プロモーター、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、インターロイキン-2-プロモーター、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)長い末端反復(LTR)、テナガザル白血病ウイルス(GALV)LTR、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、tRNAプロモーターから選択されるPol IIプロモーターである。これらのプロモーターは、mRNAの発現を促すポリメラーゼIIプロモーターとして最もよく使用されている。
【0021】
特定の実施形態によると、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子は、shRNA分子またはmiRNA分子であり得る。最も特に、それらはmiRNA分子である。shRNA分子とmiRNA分子の違いは、miRNA分子はDroshaによってプロセシングされるが、従来のshRNA分子はプロセシングされないことである(これは毒性と関連している。Grimmら、Nature 441:537-541(2006))。
【0022】
特定の実施形態によれば、前記miRNA分子は、1つのプロモーターの制御下にある1つのmiRNAスキャフォールドとして提供され得る。
【0023】
miRNAマルチプレックス化に特に適したスキャフォールド配列は、miR-30スキャフォールド配列、miR-155スキャフォールド配列、およびmiR-196a2スキャフォールド配列である。
【0024】
通常、miRNA分子の少なくとも1つは、miR-196スキャフォールド配列、好ましくはmiR-196a2スキャフォールド配列を含む。特定の実施形態によれば、少なくとも2つのmiRNA分子のすべてが、miR-スキャフォールド配列、好ましくはmiR-196a2スキャフォールド配列を含む。同じことが、miR-30およびmiR-155スキャフォールド配列についても言える。そのような適切なスキャフォールドの例は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8841267号(特にその中の請求項1)に記載されている。単一のスキャフォールドは、SMARTvectorTM micro-RNA adapted scaffold(Horizon Discovery、ラファイエット、コロラド州、米国)として市販されている。このスキャフォールドの複数のコピーは、縦列反復(tandem repeats)で配置され得る(図5参照)。
【0025】
さらに適切なスキャフォールド配列としては、miR-26b(hsa-mir-26b)、miR-204(hsa-mir-204)、およびmiR-126(hsa-mir-126)、hsa-let-7f、hsa-let-7g、hsa-let-7a、hsa-let-7b、hsa-let-7c、hsa-mir-29a、hsa-mir-140-3p、hsa-let-7i、hsa-let-7e、hsa-mir-7-1、hsa-mir-7-2、hsa-mir-7-3、hsa-mir-26a、hsa-mir-340、hsa-mir-101、hsa-mir-29c、hsa-mir-191、hsa-mir-222、hsa-mir-34c-5p、hsa-mir-21、hsa-mir-378、hsa-mir-100、hsa-mir-192、hsa-mir-30d、hsa-mir-16、hsa-mir-432、hsa-mir-744、hsa-mir-29b、hsa-mir-130a、またはhsa-mir-15aが挙げられる。
【0026】
代替的(排他的ではない)な実施形態によれば、反復される特定のmiRスキャフォールドを使用して人工的に反復されるスキャフォールドを得るのではなく、真正のポリシストロニックmiRNAクラスターまたはその一部が使用され得、ここでは内因性miRNAが目的のshRNAで置き換えられている。この目的に特に適したmiRスキャフォールドクラスターは、miR-106a~363、miR-17~92、miR-106b~25、およびmiR-23a~27a~24-2クラスターであり、最も特に想定されるのは、miR-106a~363クラスターおよびその断片である。なお、ベクターの負荷量を削減するために、そのような天然のクラスターの一部を使用し、すべての配列を使用しないことも具体的に想定される(これは、すべてのmiRNAが等間隔ではなく、すべてのリンカー配列が必要とされるわけではないので、特に有用である)。他にも、例えば、細胞内で最も効率的にプロセシングされるmiRNAを取るなどの考慮が可能である。例えば、miR-17~92クラスターは、(順に)miR-17、miR-18a、miR-19a、miR-20a、miR-19b-lおよびmiR-92-1(miR-92alでもある)から構成されており、特に有用なその断片は、miR-19aからmiR-92-1までのスキャフォールド配列(すなわち、6つのmiRNAのうちの4つ)、またはmiR-19aからmiR-19b-lまでのスキャフォールド配列(6つのmiRNAのうちの3つ)である。同様に、106a~363クラスターは、(順に)miR-106a、miR-18b、miR-20b、miR-19b-2、miR-92-2(miR-92a2でも可)、およびmiR-363から構成されている。特に有用なその断片は、miR-20bからmiR-363(すなわち、6つのmiRNAのうち4つ)までのスキャフォールド配列、またはmiR-19b-2からmiR-363(すなわち、6つのmiRNAのうち3つ)までのスキャフォールド配列である。また、天然のリンカー配列だけでなく、その断片または人工的なリンカーも使用され得る(ベクターの負荷量を削減するため)。
【0027】
例えば、miR-106a~363クラスターおよびmiR-196a2配列の両方を新規のスキャフォールドに組み合わせて使用することが想定される。
【0028】
特定の実施形態によれば、マルチプレックス化RNA干渉分子のうち少なくとも2つは、同じ標的を対象とする。さらなる特定の実施形態によれば、マルチプレックス化RNA干渉分子の少なくとも2つは同一である。
【0029】
代替的な実施形態によれば、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子のすべてが異なる。さらなる特定の実施形態によれば、前記少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子のすべてが、異なる標的を対象としている。
【0030】
前記改変された細胞に存在する任意の適切な分子は、即時のRNA干渉分子の標的となる可能性がある。想定される標的の代表例としては、MHCクラスI遺伝子、MHCクラスII遺伝子、MHCコレセプター遺伝子(例えば、HLA-F、HLA-G)、TCR鎖、CD3鎖、NKBBiL、LTA、TNF、LTB、LST1、NCR3、AIF1、LY6、熱ショックタンパク質(例えば、HSPA1L、HSPA1A、HSPA1B)、補体カスケード、調節受容体(例えば、NOTCH4)、TAP、HLA-DM、HLA-DO、RING1、CD52、CD247、HCP5、DGKA、DGKZ、B2M、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、2B4、A2AR、BAX、BLIMP1、C160(POLR3A)、CBL-B、CCR6、CD7、CD95、CD123、DGK[DGKA、DGKB、DGKD、DGKE、DKGG、DGKH、DGKI、DGKK、DGKQ、DGKZ]、DNMT3A、DR4、DR5、EGR2、FABP4、FABP5、FASN、GMCSF、HPK1、IL-10R[IL10RA、IL10RB]、IL2、LFA1、NEAT1、NFkB(RELA、RELB、NFkB2、NFkBl、RELを含む)、NKG2A、NR4A(NR4A1、NR4A2、NR4A3を含む)、PD1、PI3KCD、PPP2RD2、SHIP1、SOAT1、SOCS1、T-BET、TET2、TGFBR1、TGFBR2、TGFBR3、TIGIT、TIM3、TOX、およびZFP36L2が挙げられる。
【0031】
特に、miRNAをベースにした適切なコンストラクトが、確認されている。したがって、本発明は、マルチプレックス化マイクロRNAベースのshRNAコード化領域を有するポリヌクレオチドを含む改変された細胞が提供され、前記マルチプレックス化マイクロRNAベースのshRNAコード化領域は、以下をコードする配列を含む。
2つ以上の人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列であって、各人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列が、以下を含む、
・miRNAスキャフォールド配列、
・活性配列または成熟配列、および
・パッセンジャー配列またはスター(star)配列であって、各人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列内で、前記活性配列が前記パッセンジャー配列に少なくとも80%相補的である、配列。
【0032】
人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列のそれぞれの前記活性配列および前記パッセンジャー配列の両方は通常、18~40ヌクレオチド長、より特に18~30ヌクレオチド長、最も特に19~25ヌクレオチド長を有する。
【0033】
通常、これらのマイクロRNAスキャフォールド配列はリンカーによって分離されており、リンカー配列は例えば30~60ヌクレオチド長を有し得るが、これより短い長さ(stretches)でも機能する。実際、驚くべきことに、リンカーの長さは重要な役割を果たさず、非常に短くても(10ヌクレオチド未満)、あるいは存在しなくても、shRNAの機能を妨げることはないことがわかった。これを図6および図16に示す。
【0034】
人工配列は、例えば、内因性miR配列が、特定の標的に対して改変されたshRNA配列で置換された、天然由来のスキャフォールド(miR-106a~363クラスターなどのmiRクラスターまたはその断片)であり得、あるいは内因性miR配列が、特定の標的に対して改変されたshRNA配列で置換された単一のmiRスキャフォールド(miR-196a2スキャフォールドなど)の反復であり得、あるいは人工miR様配列であるかまたはそれらの組み合わせであり得る。
【0035】
この改変された細胞は通常、キメラ抗原受容体またはTCRなどの目的のタンパク質をコードする核酸分子をさらに含み、上記のような改変された免疫細胞であり得る。
【0036】
マルチプレックス化RNA干渉分子を共発現させることにより、改変された細胞内で少なくとも1つの遺伝子、典型的には複数の遺伝子が抑制される。これにより、より高い治療効果が期待できる。
【0037】
本明細書に記載の改変された細胞は、医薬品としての使用のためにも提供される。特定の実施形態によれば、前記改変された細胞は、癌の治療に使用するために提供される。
【0038】
これは、本明細書に記載されているような適切な量の改変された細胞を、治療を必要としている対象に投与し、それによって少なくとも1つの症状を改善することを含む、癌を治療する方法が提供されているということに等しい。
【0039】
前記改変された細胞は、自家(autologous)免疫細胞(患者から得られた細胞)または同種他家(allogeneic)免疫細胞(別の対象から得られた細胞)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】miRNAスキャフォールドの長さの最適化。パネルA)CD19発現で測定した、形質導入されたT細胞の割合。異なる長さのmiRNAスキャフォールドに組み込んだCD247標的shRNAを導入した細胞の、パネルB)TCRおよびパネルC)CD3E MFIを示す。
図2】異なるCD52標的shRNAのスクリーニング。パネルA)形質導入された(CD19+)CD4+またはCD8+T細胞のパーセンテージを示す。FSC/SSC、生存、CD3+細胞でゲートされている。パネルB)CD52 MFIを、形質導入された(CD19+でゲートされた)CD4+またはCD8+T細胞について示す。パネルC)形質導入されたT(CD19+CD3+)細胞のCD52発現を示す代表的なヒストグラムを示す。
図3】異なるドナーにおけるCD52ノックダウンを示し、3体の異なるドナーに由来するT細胞のCD52 MFIを示す。MockまたはCD52 shRNA-3発現ベクターで細胞を形質導入した。
図4】CRISPR/Cas9ベースのCD52ノックアウトT細胞を生成するためのgRNAのスクリーニングを示す。左側のパネルには、収集時(8日目)のCD4およびCD8T細胞のCD52MFIが示されている。Mock(tCD19)およびshRNA条件では、ゲーティングはCD19細胞で実行されたが、他の条件では、ゲーティングはCD3T細胞で実行された。右のパネルでは、代表的なヒストグラムが、Cas9のみの対照と比較した3つの異なるgRNAのCD52発現を示している。
図5】CARおよび複数のshRNA(例:2、4、6、8,...)を同じベクターから共発現させることができる、miRNAスキャフォールドをインテグレートしない(上)またはインテグレートした(下)CAR発現ベクター(例:CD19、BCMA、B7H3、B7H6、NKG2D、HER2、HER3、GPC3)のデザインを示す。LTR:長い末端反復;プロモーター(例:EFla、PGK、SFFV、CAG,...);マーカータンパク質(例:切断型のCD34、CD19);マルチプレックス化shRNA。
図6】2つのmiRNA shRNAを、初代T細胞でのBCMA-CARベクターにおいて、同じ発現コンストラクトから発現させた。2つのshRNA間の異なるスペーサー(マルチプレックス1~5)を用いて、CD247およびCD52タンパク質のノックダウンに対する効果を評価した。パネルA)レポータータンパク質tCD34の発現により測定した形質導入効率、パネルB)BCMA-Fc融合蛋白質で染色した後、抗Fc PE結合抗体で染色した際の細胞表面上のBCMA CARの発現。パネルC)CD247を標的としたshRNAによるTCRのCD3ζサブユニットのノックダウンに伴うTCR発現のダウンレギュレーションの効率を示す読み出し(readout)としてのTCRの平均蛍光強度(MFI)、パネルD)CD52 MFIを読み出しとして使用してCD52をダウンレギュレーションする個別のコンストラクトの効率。
図7】パネルA)CD247(CD3ζ)およびパネルB)CD52のRNAレベルを、示された単一またはマルチプレックス化shRNAコンストラクトおよびそれぞれの対照で形質導入されたT細胞において、ハウスキーピング遺伝子として使用されるCYPA RNAと比較してリアルタイムPCR分析によって評価した。
図8】スペーサー2またはスペーサー5とマルチプレックス化されたCD247、CD52、またはCD52とCD247shRNAの両方を共発現する、BCMACARで形質導入されたTCRおよびCD52染色T細胞の代表的なフローサイトメトリーデータ。対照として、RNP Cas9 gRNA CD52およびgRNA CD247複合体で細胞をヌクレオフェクトした。
図9】表示された単一またはマルチプレックスのshRNAコンストラクトおよびそれぞれの対照で形質導入されたT細胞のパネルA)TCR細胞表面発現およびパネルB)CD52細胞表面発現のフローサイトメトリー分析。
図10】パネルA)異なる発現コンストラクトで形質導入した細胞のBCMA CAR発現を、BCMA-Fc融合タンパク質で染色し、続いてPE結合抗Fc抗体およびAPC結合抗CD34抗体で評価した。形質導入した(CD34+)T細胞について、BCMA-Fc染色の蛍光強度の中央値を示す。パネルB)異なるBCMA発現癌細胞株(RPMI-8226、U266、OPM-2)を、CD247 shRNA、CD52 shRNA、またはCD247 CD52マルチプレックス化shRNAの有無にかかわらず、Mock(tCD34)、BCMA-CAR発現T細胞と24時間共培養した。ELISAにより上清中のIFN-γレベルを測定した。
図11】分裂刺激に対するT細胞受容体のin vitro機能評価法を示す。T細胞を、濃度を上昇させた抗CD3E抗体(クローンOKT3)の存在下で培養した。24時間後、上清中のIFN-γレベルをELISAで測定した。2人の異なるドナー(CC19-174およびCC19-184)からの結果が示されている。
図12】抗CD52媒介の細胞殺傷に対するT細胞の感受性を評価するインビトロ機能アッセイを示す。抗CD52抗体としてアレムツズマブを使用した。T細胞を、50μg/mLのアレムツズマブまたはIgG対照抗体の存在下で、30%の補体で処理した。4時間後に生存細胞の数を評価した。
図13】B2M、DGK、CD247、CD52を標的とした4種類のshRNAを、ベクターデザインに示されているように、単一またはマルチプレックスに発現させ、第二世代のCD19 CARと選択マーカーとともに、レンチウイルスバックボーンを用いて形質導入したJurkat細胞におけるRNA発現を示す。形質導入後7日目にマーカー特異的な磁気ビーズを用いてシングルステップエンリッチメントを行った。shRNAによる4つの標的の転写発現のダウンレギュレーションをqRT-PCRで解析した。
図14】第2世代のCD19指向性CARをコードするレトロウイルスベクター(106a-363miRNAクラスターに導入された、CD247、B2MまたはCD52を標的とする3×shRNAまたは6×shRNAとともに、切断型のCD34選択マーカー)を形質導入した健康なドナーからの初代T細胞におけるRNA発現を示している。対照としてshRNAなし(tCD34)を用いた。導入の2日後、CD34特異的磁気ビーズを用いて細胞を富化し、さらにIL-2(100lU/mL)で6日間増幅した。CD247、B2M、CD52のmRNA発現を、ハウスキーピング遺伝子としてシクロフィリンを用いてqRT-PCRで評価した。
図15】レンチウイルスバックボーンを用いる選択マーカーCD34(tCD34)とともに、長いリンカー(リンカー1-41bp)または最小のリンカー(リンカー2-6bp)で分離した2つのshRNAで形質導入した、ヒトiPSC細胞株SCiPS-RlにおけるRNA発現を示す。培地で1mlになるまで希釈したウイルス上清を50μIまたは500μI用いて形質導入を行った。形質導入後8日目にCD34に特異的なCliniMACS磁性ビーズを用いてシングルステップ富化を行った。続いて、ハウスキーピング遺伝子としてシクロフィリンを用いて、qRT-PCRによりshRNA標的の転写発現を解析した。棒グラフは、対照としてshRNAを発現していないSCiPS-Rl細胞(tCD34)を用いた場合の相対的な発現値を示す。リンカー1(41bp):caagttgggctttaaagcttgcagggcctgatgttgag(配列番号:1);リンカー2(6bp-クローニング由来):aagctt(配列番号2)。
図16】レンチウイルスバックボーンを用いる選択マーカーCD34(tCD34)とともに、長いリンカー(リンカー1-41bp)または最小のリンカー(リンカー2-6bp)のいずれかで分離した2つのshRNAを形質導入した、ヒトiPSC細胞株SCiPS-RlにおけるRNA発現を示す。形質導入は、500mIのウイルス上清を1mlの培地に希釈して行った。導入後8日目にCD34特異的なCliniMACS磁気ビーズを用いてシングルステップ富化を行った。細胞を、ハウスキーピング遺伝子としてシクロフィリンを用いたqRT-PCRによりshRNA標的の発現について解析した。棒グラフは、対照としてshRNAを発現していないSCiPS-Rl細胞(tCD34)との相対的な発現値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(定義)
本発明を特定の実施形態に関して、また特定の図面を参照して説明するが、本発明はこれに限定されず、特許請求の範囲のみによって限定される。特許請求の範囲に記載の参照符号は、本発明の範囲を限定するものと解釈すべきではない。記載されている図面は、単に概略を示すものであって限定するものではない。図面では、例示のために、構成要素の大きさが強調されている場合があり、厳密に図示したものではない。本明細書および特許請求の範囲で「含む(comprising)」という用語が使用されている場合、他の要素またはステップを除外するものではない。不定冠詞または定冠詞が単数形の名詞に言及する際に使用される場合、例えば「1つの(a)」または「1つの(an)」、「その(the)」のように、他の何かが特に明記されていない限り、その名詞の複数形を含む。
【0042】
さらに、本明細書および特許請求の範囲における「第1」、「第2」、「第3」などの用語は、類似の要素を区別するために使用され、必ずしも順序や時系列を表すものではない。このように使用される用語は、適切な状況下で交換可能であり、本明細書に記載されている本発明の実施形態は、本明細書に記載または図示されているものとは別の順序で実施可能であることを理解されたい。
【0043】
以下の用語または定義は、本発明の理解を助けることを目的として提示しているだけである。
【0044】
本明細書で特に定義されない限り、本明細書で用いられている用語はすべて、本発明の技術分野の当業者が理解するのと同じ意味を有する。当該技術の定義および用語について、実務者は、具体的に下記文献を参照されたい:GreenおよびSambrook著「Molecular Cloning:A Laboratory Manual第4版」,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York(2012)Ausubelら著「Current Protocols in Molecular Biology(Supplement 114まで)」,John Wiley&Sons,New York(2016)。本明細書で提示される定義は、当業者が理解する範囲よりも狭い範囲に解釈されるべきではない。
【0045】
本明細書で使用される「改変された細胞」は、(自然に発生する突然変異とは対照的に)ヒトの介入によって改変された細胞である。
【0046】
本明細書で使用される「ヌクレオチド」または「核酸」または「ポリヌクレオチド」と同義の「核酸分子」という用語は、任意のポリリボヌクレオチドまたはポリデオキシリボヌクレオチドを指し、これらは未修飾のRNAまたはDNAであっても、修飾されたRNAまたはDNAであってもよい。核酸分子には、限定されるものではないが、一本鎖および二本鎖のDNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるDNA、一本鎖および二本鎖のRNA、一本鎖および二本鎖領域の混合物であるRNA、一本鎖または、より典型的には二本鎖であるか、あるいは一本鎖領域と二本鎖領域の混合物であるDNAとRNAを含むハイブリッド分子である。また、「ポリヌクレオチド」とは、RNAもしくはDNA、またはRNAとDNAの両方を含む3本鎖領域を指す。また、「ポリヌクレオチド」という用語は、1つ以上の修飾塩基を含むDNAまたはRNA、および安定性のためにまたはその他の理由でバックボーンが修飾されたDNAまたはRNAを含む。「修飾された」塩基には、例えば、トリチル化された塩基や、イノシンのような異常な塩基が含まれる。「ポリヌクレオチド」は、自然界に存在する化学的、酵素的、または代謝的に修飾されたポリヌクレオチドのほか、ウイルスや細胞に特徴的なDNAおよびRNAの化学的形態を含む。また、「ポリヌクレオチド」には、オリゴヌクレオチドと呼ばれる比較的短い核酸鎖も含まれる。
【0047】
「ベクター」とは、プラスミド、ファージ、コスミド、ウイルスなどのレプリコンであり、セグメントの複製または発現をもたらすために、別の核酸セグメントトが操作可能に挿入され得る。「クローン」とは、有糸分裂によって単一の細胞または共通の祖先から得られた細胞の集団のことである。「細胞株」とは、インビトロで何世代にもわたって安定して成長することができる一次細胞のクローンである。本明細書で提供するいくつかの例では、細胞は、細胞をDNAでトランスフェクトすることによって形質転換される。
【0048】
本明細書では、「発現する」および「産生する」という用語は同義的に使用され、遺伝子産物の生合成を意味する。これらの用語は、遺伝子をRNAに転写することを包含する。また、これらの用語は、RNAを1つ以上のポリペプチドに翻訳することを包含し、さらに、自然に発生する転写後および翻訳後の修飾をすべて包含する。
【0049】
本明細書で使用される「外因性」という用語は、特に細胞または免疫細胞の文脈では、個々の生細胞内に存在して活性化しているが、(内因性因子とは対照的に)その細胞の外に由来する任意の材料を指す。したがって、「外因性核酸分子」とは、典型的には形質導入またはトランスフェクションによって(免疫)細胞に導入された核酸分子を指す。本明細書で使用される「内因性」という用語は、個々の生存細胞に存在し、活性があり、その細胞の内部に由来する(したがって、通常、非形質導入または非トランスフェクションの細胞でも製造される)任意の因子または物質を意味する。
【0050】
本明細書において「単離された」とは、生物学的成分(核酸、ペプチド、タンパク質など)が、その成分が自然に存在する生物の他の生物学的成分、すなわち、他の染色体および染色体外のDNAおよびRNA、ならびにタンパク質から実質的に分離され、離れて生産され、または精製されたことを意味する。このように「単離された」核酸、ペプチド、タンパク質には、標準的な精製方法で精製された核酸およびタンパク質が含まれる。「単離された」核酸、ペプチドおよびタンパク質は、組成物の一部であっても、そのような組成物が本来の環境の一部でない場合には、単離され得る。組成物が核酸、ペプチド、またはタンパク質の本来の環境の一部ではない場合、分離されたままとなる。また、この用語は、化学的に合成された核酸だけでなく、宿主細胞での組換え発現によって調製された核酸、ペプチドおよびタンパク質も包含する。
【0051】
本明細書で遺伝子編集の文脈で用いられる「マルチプレックス化」とは、2つ以上の(すなわち複数の)関連するまたは関連しない標的を同時に標的とすることを指す。本明細書で使用される「RNA干渉分子」とは、標的化されたmRNA分子を中和することによって遺伝子の発現または翻訳を阻害するRNA(またはRNA様)分子を指す。例としては、siRNA(shRNAを含む)またはmiRNA分子が挙げられる。本明細書で使用される「マルチプレックス化RNA干渉分子」とは、このように、1つ以上の標的のダウンレギュレーションを同時に行うために同時に存在する2つ以上の分子を指す。通常、マルチプレックス化された分子のそれぞれは、特定の標的を対象とするが、2つの分子は、同じ標的を対象とし得る(同一であり得る)。
【0052】
本明細書で使用される「プロモーター」とは、通常、遺伝子領域に隣接して位置する核酸の制御領域であり、制御された遺伝子の転写のための制御点を提供する。
【0053】
「マルチプレックス」とは、同じタイプの複数の分子、例えば、複数のsiRNAまたはshRNAまたはmiRNAをコードするポリヌクレオチドである。マルチプレックス内で、分子が同じタイプ(例えば、すべてのshRNA)である場合、それらは同一であってもよいし、異なる配列から構成されていてもよい。同じ種類の分子の間に、本明細書に記載されているリンカーなどの介在配列が介在していてもよい。本発明のマルチプレックスの例は、複数のタンデムmiRNAベースのshRNAをコードするポリヌクレオチドである。マルチプレックスは、一本鎖であっても、二本鎖であっても、あるいは一本鎖である領域と二本鎖である領域の両方を有していてもよい。
【0054】
本明細書で使用される「キメラ抗原受容体」または「CAR」は、少なくとも、抗原に対して特異性を有する結合部位(例えば、抗体、受容体またはその同族リガンド由来であり得る)と、免疫細胞内でシグナルを伝達し得るシグナル部位(例えば、CD3ゼータ鎖。他のシグナルまたはコシグナリング部位が使用され得、例えば、FcイプシロンRlガンマドメイン、CD3イプシロンドメイン、最近記載されたDAP10/DAP12シグナルドメイン、またはCD28、4-1BB、OX40、ICOS、DAP10、DAP12、CD27、および共刺激ドメインとしてのCD2からのドメインが使用され得る)を少なくとも有するキメラ受容体(すなわち、異なる供給源からの部位で構成されている)を指す。「キメラNK受容体」とは、結合部位がNK受容体から得られるまたは単離されるCARである。
【0055】
本明細書で使用される「TCR」は、T細胞受容体を指す。養子細胞移入の文脈では、これは通常、改変されたTCR、すなわち特定の抗原(最も典型的には腫瘍抗原)を認識するように改変されたTCRを意味する。本明細書で使用される「内在性TCR」は、非修飾細胞(典型的にはT細胞)に内在的に存在するTCRを指す。TCRは、通常、可変性の高いアルファ(α)鎖とベータ(β)鎖からなるジスルフィド結合の膜結合型ヘテロ二量体であり、不変のCD3鎖分子との複合体の一部として発現している。TCR受容体複合体は、可変TCR受容体aおよびb鎖と、CD3共受容体(CD3γ鎖、CD36δ鎖、2つのCD3ε鎖を含む)および2つのCD3ζ鎖(別名CD247分子)とのオクトメリック複合体である。本明細書で使用される「機能的TCR」とは、同族リガンドの結合によりシグナルを伝達できるTCRを意味する。通常、同種他家治療では、TCR鎖の少なくとも1つをノックアウトまたはノックダウンするなどして、TCRの機能を低下または損なわせるための改変が行われる。改変された細胞内の内因性TCRは、改変されていない内因性TCRを有する細胞と比較して、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも75%、少なくとも80%、あるいは少なくとも90%のシグナル伝達能力(またはT細胞活性化)を保持している場合に機能的であると考えられる。シグナル伝達能力またはT細胞活性化を評価するためのアッセイは、当業者に知られており、特にインターフェロンガンマを測定するELISAが含まれる。代替的な実施形態によれば、TCRの機能を阻害するような改変が行われていない場合、内在性TCRは機能的であると考えられる。
【0056】
本明細書で使用される「免疫細胞」という用語は、免疫系(適応免疫系または自然免疫系のいずれかであり得る)の一部である細胞を指す。本明細書で使用する免疫細胞は通常、養子細胞移入(自家移入または同種他家移入のいずれか)のために製造された免疫細胞である。多くの異なるタイプの免疫細胞が養子療法に使用され、したがって、本明細書に記載の方法での使用が想定される。免疫細胞の例としては、T細胞、NK細胞、NKT細胞、リンパ球、樹状細胞、骨髄系細胞、幹細胞、前駆細胞またはiPSCが挙げられるが、これらに限定されない。後者の3つは、それ自体は免疫細胞ではないが、免疫療法のための養子細胞移入に使用され得る(例えば、Jiangら、Cell Mol Immunol 2014、Themeliら、Cell Stem Cell 2015参照)。通常、製造は幹細胞またはiPSCから開始されるが(または、免疫細胞からiPSCへの脱分化ステップから始まってもよい)、製造は、投与前に免疫細胞への分化ステップを伴う。養子移入のための免疫細胞の製造に使用される幹細胞、前駆細胞およびiPSC(すなわち、本明細書に記載されているようなCARで形質導入された幹細胞、前駆細胞およびiPSCまたはそれらの分化した子孫)は、本明細書において免疫細胞とみなされる。特定の実施形態によれば、本方法で想定される幹細胞は、ヒト胚を破壊するステップを含まない。
【0057】
特に想定される免疫細胞としては、リンパ球、単球、マクロファージ、および樹状細胞などの白血球が挙げられる。特に想定されるリンパ球としては、T細胞、NK細胞、B細胞などが挙げられるが、特に想定されるのはT細胞である。養子移入の場合、免疫細胞は通常、初代細胞(ヒトまたは動物の組織から直接分離され、培養されていないか、短時間しか培養されていない細胞)であり、細胞株(すなわち、長期間にわたって継続的に継代され、均質な遺伝子型および表現型の特性を獲得した細胞)ではないことに留意されたい。特定の実施形態によれば、免疫細胞は、初代細胞(すなわち、ヒトまたは動物の組織から直接単離された細胞であり、培養されていないか、または短時間だけ培養された細胞)であり、細胞株(すなわち、長期間にわたって継続的に継代され、均質な遺伝子型および表現型の特性を獲得した細胞)ではない。代替的な特定の実施形態によれば、前記免疫細胞は、細胞株からの細胞ではない。
【0058】
本明細書で使用される「マイクロRNAスキャフォールド(scaffold)」または「miRNAスキャフォールド」とは、特定のマイクロRNAプロセシング要件を含む十分に特性化された一次マイクロRNA配列のことで、ここでRNA配列が挿入され得る(典型的には、既存のmiRNA配列を、特定の標的を対象とするshRNAと置き換えるため)。miRNAスキャフォールドの例としては、SMARTvectorTM micro-RNA adapted scaffold(Horizon Discovery、ラファイエット、コロラド州、米国)、またはmiR-106a~363クラスターなどの天然由来のmiRNAクラスターが挙げられる。
【0059】
「対象」という用語は、すべての脊椎動物、例えば、哺乳類および非哺乳類、例えば、非ヒト霊長類、マウス、ウサギ、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ、ニワトリ、両生類、および爬虫類を含む、ヒトおよび非ヒトの動物を指す。記載された方法の最も特定の実施形態では、前記対象は、ヒトである。
【0060】
「治療する」または「治療」という用語は、傷害、病態または状態の軽減または改善における任意の成功または成功の兆候を指し、症状の軽減、寛解、減退または患者にとって状態をより許容できるようにすること、退化または減弱の速度を遅くすること、退化の最終点をいっそう衰弱させないようにすること、対象の身体的または精神的な健康を改善すること、または生存期間を延長することなどの任意の客観的または主観的なパラメータを含む。前記治療は、身体検査、神経学的検査、精神医学的評価など、客観的または主観的なパラメータで評価され得る。
【0061】
本明細書中で使用されている「養子細胞療法」、「養子細胞移入」、または「ACT」という表現は、細胞、最も典型的には免疫細胞を対象(例えば患者)に移入することを意味する。これらの細胞は、対象に由来するもの(自家治療の場合)と、他の個体に由来するもの(同種他家治療の場合)があり得る。この治療法の目的は、免疫の機能と特性を改善することであり、癌免疫療法では、癌に対する免疫反応を高めることである。ACTにはT細胞が最もよく用いられるが、NK細胞、リンパ球(TIL(腫瘍浸潤リンパ球)など)、樹状細胞、および骨髄系細胞など、他の種類の免疫細胞を用いても適用される。
【0062】
「有効量」または「治療有効量」とは、所望の治療結果を得るために必要な投与量および期間で有効な量を指す。本明細書に記載されている形質転換免疫細胞などの治療有効量の治療薬は、個体の病状、年齢、性別、体重、および治療薬(細胞など)が個人に所望の反応を引き起こす能力などの要因に応じて変化する可能性がある。また、治療有効量とは、治療的に有益な効果が、治療薬の毒性または有害な影響を上回る量のことである。
【0063】
「移植片対宿主病」(GvHD)とは、同種他家移植後に発生する可能性のある症状のことである。GvHDでは、ドナー提供された骨髄、末梢血(幹)細胞、その他の免疫細胞がレシピエントの体を異物とみなし、ドナー提供された細胞が体を攻撃する。T細胞などのドナーの免疫応答性の免疫細胞がGvHDの主な要因であることから、GvHDを予防する一つのストラテジーとして、これらの免疫応答性の細胞における(TCRに基づく)シグナル伝達を、例えばTCR複合体の機能を直接的または間接的に阻害することで低減することが挙げられる。
【0064】
養子細胞移入(ACT)において、ゲノム編集(およびそれに伴うコストと複雑な製造プロセス)を必要とせずに、複数の遺伝子を標的とすることが可能かどうかを評価するために、マルチプレックス化RNA干渉分子をテストすることが決定された。
【0065】
このアプローチは、内因性RNA編集機構によってプロセシングされる特定のベクターからのRNAの転写に基づいており、活性型のshRNAを生成する。このshRNAは、塩基認識により任意のmRNAを標的とし、その結果、DICER複合体により特定のmRNAを破壊することができる。標的となったmRNAが特異的に破壊されることで、関連するタンパク質の発現が抑制される。RNAオリゴヌクレオチドを任意の標的細胞にトランスフェクションすることで、一過性の遺伝子発現のノックダウンを実現することができるが、所望のshRNAをインテグレートされたベクターで発現させることで、安定した遺伝子発現のノックダウンが可能になる。
【0066】
shRNAの発現を成功させるには、ポリメラーゼIII(Pol III)プロモーター(H1、U6など)と結合し、5’キャップと3’ポリアデニル化を欠いたRNA種を生成し、shRNA二重鎖のプロセシングを可能にすることが重要である。転写されたshRNAは、プロセシングを経て核から放出され、さらにプロセシングを経てRNA誘導サイレンシング複合(RISC)複合体に取り込まれ、選択したmRNAが標的として分解される(Mooreら、2010)。効果的ではあるものの、Pol IIIプロモーターによる転写の効率性は、Pol IIIプロモーターからのshRNAの過剰な発現により内因性マイクロRNA経路が飽和することで、細胞毒性を引き起こす可能性がある(Fowlerら、2015)。さらに、単一のベクターによる治療用遺伝子とshRNAの両方の発現は、通常、治療用遺伝子をドライブするポリメラーゼII(Polll)プロモーターと目的のshRNAをドライブするPollllプロモーターを採用することによって達成されてきた。これは機能的ではあるが、ベクターのスペースを犠牲にしているため、治療用遺伝子を含む選択肢が少なくなっている(Chumakovら、2010;Mooreら、2010)。
【0067】
マイクロRNA(mir)フレームワーク内にshRNAを埋め込むことで、Pol llプロモーターの制御下でshRNAをプロセシングすることができる(Gieringら、2008年)。重要なことに、埋め込まれたshRNAの発現レベルが低くなる傾向があり、それによって、U6プロモーターなどの他のシステムを使用した場合に発現が観察される毒性が回避される(Fowlerら、2015年)。実際、肝臓特異的なPol llプロモーターによってドライブされるshRNAを投与されたマウスは、1年超にわたって忍容性の問題を伴わない安定した遺伝子ノックダウンを示した(Gieringら、2008年)。しかし、これは肝細胞で行われた1つのshRNAについての結果であり、タンパク質レベルでの減少はわずか15%であった(Gieringら、2008年)。したがって、複数の標的、特に(操作が難しい)免疫細胞においても、より高い効率を達成できるかどうかは不明である。
【0068】
驚くべきことに、異なる標的に対する複数のマイクロRNAベースのshRNA(例えば、miR196a2スキャフォールドまたはmiR106a~363クラスターをスキャフォールドとして使用したものに基づく)の発現が、組換えを示すことなく、毒性を示すことなく、同時に標的の効率的なダウンレギュレーションを達成しながら、T細胞において実現可能であることが本明細書に示されている。
【0069】
このように、shRNAは細胞内、特に改変された免疫細胞内でうまくマルチプレックス化できるだけでなく、標的は非常に効率的にダウンレギュレーションされ、遺伝子ノックアウトに匹敵するほどである(CRISPRとの比較を示す実施例5~8および図8~12を参照)。
【0070】
したがって、本発明の目的は、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子をコードする核酸分子を含む、改変された細胞を提供することである。
【0071】
少なくとも2つのRNA干渉分子を含む細胞は、利点、特に治療上の利点を有し得る。RNA干渉分子は、実際、(過剰)発現が望ましくない標的を対象とし得る。しかし、通常、本明細書で提供される改変された細胞は、目的のタンパク質をさらに含む。
【0072】
さらなる実施形態によれば、
・目的のタンパク質をコードする第1外因性核酸分子、および
・少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子をコードする第2核酸分子
を含む改変された細胞が提供される。
【0073】
任意の追加の目的のタンパク質は、例えば、相加的、支持的、または相乗的な効果を提供することができ、または別の目的のために使用され得る。例えば、目的のタンパク質は、腫瘍を対象にしたCARであり得、RNA干渉分子は、例えば、免疫チェックポイントを標的にしたり、腫瘍標的を直接ダウンレギュレートしたり、腫瘍微小環境を標的にしたりして、腫瘍の機能を妨害し得る。代替的または追加的に、1つ以上のRNA干渉分子は、治療細胞の持続性を延長するか、またはその他の生理学的反応を変化させる可能性がある(例えば、GvHDまたは宿主対移植片反応への干渉)。
【0074】
対象となるタンパク質は、設定に応じて原則的にどのようなタンパク質でもよい。しかし、一般的には、治療機能を有するタンパク質である。これらには、例えばインターロイキン、サイトカイン、ホルモンなどの分泌される治療用タンパク質が含まれる。しかし、特定の実施形態によれば、目的のタンパク質は分泌されない。典型的には、対象となるタンパク質は受容体である。さらに特定の実施形態によれば、受容体はキメラ抗原受容体またはTCRである。キメラ抗原受容体は、標的細胞の表面に発現している任意の標的を対象とし得、典型的な例としては、CD5、CD19、CD20、CD22、CD23、CD30、CD33、CD38、CD44、CD56、CD70、CD123、CD133、CD138、CD171、CD174、CD248、CD274、CD276、CD279、CD319、CD326、CD340、BCMA、B7H3、B7H6、CEACAM5、EGFRvlll、EPHA2、メソテリン(mesothelin)、NKG2D、HER2、HER3、GPC3、Flt3、DLL3、IL1RAP、KDR、MET、ムチン1、IL13Ra2、FOLH1、FAP、CA9、FOLR1、ROR1、GD2、PSCA、GPNMB、CSPG4、ULBP1、ULBP2などがあるがこれらに限定されず、さらに多くのものが存在し、また適している。ほとんどのCARはscFvベース(すなわち、結合部分は特定の標的を対象とするscFvであり、CARは通常、標的にちなんで命名される)であるが、いくつかのCARは受容体ベース(すなわち、結合部分は受容体の一部であり、CARは通常、受容体にちなんで命名される)である。後者の例としては、NKG2D-CARが挙げられる。
【0075】
改変されたTCRは、細胞内の標的を含む、細胞のあらゆる標的を対象とし得る。細胞表面に存在する上記の標的に加えて、TCRの典型的な標的には、NY-ESO-1、PRAME、AFP、MAGE-A3、MAGE-A4、MAGE-A6、MAGE-A10、MAGE-A12、gp100、MART-1、チロシナーゼ、WT1、p53、HPV-E6、HPV-E7、HBV、TRAIL、サイログロブリン、KRAS、HERV-E、HA-1、CMV、およびCEAが含まれるが、これらに限定されない。
【0076】
目的のさらなるタンパク質が存在するこれらの特定の実施形態によれば、改変された細胞中の第1および第2核酸分子は、典型的には、真核生物発現プラスミド、ミニサークルDNA、またはウイルスベクター(例えば、レンチウイルス、レトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、およびセンダイウイルスに由来する)などの1つのベクター中に存在する。さらなる特定の実施形態によれば、前記ウイルスベクターは、レンチウイルスベクターおよびレトロウイルスベクターから選択される。特に後者の場合、ベクター負荷(すなわちコンストラクトの合計サイズ)が重要であり、コンパクトなマルチプレックス化カセットの使用が特に有利である。
【0077】
前記改変された細胞は、特に真核細胞、より具体的には改変された哺乳動物細胞、より具体的には改変されたヒト細胞である。特定の実施形態によれば、前記細胞は、改変された免疫細胞である。典型的な免疫細胞は、T細胞、NK細胞、NKT細胞、幹細胞、前駆細胞、およびiPSC細胞から選択される。
【0078】
前記少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子は、ダウンレギュレートされる標的分子の数およびマルチプレックス化された分子を共発現させることの制限に応じて、少なくとも3個、少なくとも4個、少なくとも5個、少なくとも6個、少なくとも7個、少なくとも8個、少なくとも9個、少なくとも10個、またはさらに多くの分子であってもよい。「マルチプレックス」とは、同じ種類の複数の分子をコードするポリヌクレオチドのことで、例えば、複数のsiRNA、またはshRNA、またはmiRNAなどが挙げられる。マルチプレックス内では、同じ種類の分子(例えば、すべてのshRNA)の場合、それらは同一であってもよいし、異なる配列から構成されていてもよい。同じ種類の分子の間には、本明細書に記載されているように、リンカーなどの介在配列があってもよい。本発明のマルチプレックス化の一例は、複数のタンデムmiRNAベースのshRNAをコードするポリヌクレオチドである。マルチプレックスは、一本鎖、二本鎖、または一本鎖である領域と二本鎖である領域の両方であってもよい。
【0079】
特定の実施形態によれば、前記少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子は、1つのプロモーターの制御下にある。通常、複数のRNA干渉分子を発現させる場合、これは、複数のコピーのshRNA発現カセットを組み込むことによって行われる。これらは通常、同一のプロモーター配列を有しており、その結果、反復される配列断片を除去する組換え事象が頻繁に発生する。解決策として、通常、1つの発現カセットに複数の異なるプロモーターが使用される(例えば、Chumakovら、2010年)。しかし、本実施形態によれば、1つのプロモーターのみを使用することで、組換えを回避することができる。通常、発現量は低くなるが、siRNAの量が多すぎると(例えば、内因性siRNA経路を妨害することで)細胞に毒性を及ぼす可能性があるため、毒性の面でも利点がある。また、プロモーターを1つだけ使用することで、すべてのshRNAがコレギュレーションされ、同程度のレベルで発現するという利点もある。驚くべきことに、実施例に示すように、複数のshRNAを1つのプロモーターから転写しても、有効性が大きく低下することはない。
【0080】
さらに特定の実施形態によれば、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子と目的のタンパク質の両方が、1つのプロモーターの制御下にある。これにより、ベクターの負荷が軽減され(目的のタンパク質を発現させるために別のプロモーターが使用されないため)、共調節された(coregulated)発現の利点が得られる。これは、例えば、目的のタンパク質が癌を標的とするCARであり、RNA干渉分子が腫瘍根絶において付加的または相乗的な効果をもたらすことを意図している場合に有利である。
【0081】
通常、RNA干渉分子の発現に使用されるプロモーターは、U6プロモーターではない。これは、このプロモーターが、特に高レベルの発現では毒性と関連しているからである。同じ理由で、H1プロモーター(これはU6よりも弱いプロモーターである)、あるいは一般的にPol IIIプロモーター(特定の条件では適していることもあるが)を除外することを検討することができる。このように、特定の実施形態によれば、抑制分子の発現に使用されるプロモーターは、RNA Pol IIIプロモーターではない。RNA Pol IIIプロモーターは、時間的および空間的制御を欠いており、miRNA阻害剤の制御された発現を可能にしていない。対照的に、多数のRNA Pol IIプロモーターは組織特異的な発現を可能にし、誘導性と抑制性の両方のRNA Pol IIプロモーターが存在する。組織特異的な発現は、本発明の文脈ではしばしば必要とされないが(細胞が、改変の前に選択されるため)、様々なプロモーターからのRNAi効力の違いが免疫細胞で特に顕著であることが示されている(Lebbinkら、2011年)ことから、例えば免疫細胞に特異的なプロモーターを有することは、やはり利点である。特定の実施形態によれば、プロモーターは、Pol IIプロモーター、およびPol IIIプロモーターから選択される。特定の実施形態によれば、プロモーターは、天然または合成のPol IIプロモーターである。適切なプロモーターとしては、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、伸長因子1α(EFla)プロモーター(コアまたは全長)、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、上流にCMV IVエンハンサーを有する複合βアクチンプロモーター(CAGプロモーター)、ユビキチンC(UbC)プロモーター、脾フォーカス形成ウイルス(SFFV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、インターロイキン2プロモーター、マウス幹細胞ウイルス(MSCV)長末端反復(LTR)、テナガザル白血病ウイルス(GALV)LTR、シミアンウイルス40(SV40)プロモーター、およびtRNAプロモーターが挙げられるが、これらに限定されない。これらのプロモーターは、mRNAの発現を促すポリメラーゼIIプロモーターとして最もよく使用されている。
【0082】
特定の実施形態によると、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子は、shRNA分子またはmiRNA分子であり得る。最も特に、それらはmiRNA分子である。shRNA分子とmiRNA分子の違いは、miRNA分子はDroshaによってプロセシングされるが、従来のshRNA分子はプロセシングされないことである(これは毒性と関連している、Grimmら、Nature 441:537-541(2006))。
【0083】
特定の実施形態によれば、miRNA分子は、1つのプロモーターの制御下にある1つのmiRNAスキャフォールドとして提供され得る。選択されたスキャフォールドが通常1つのmiRNAを保持している場合、そのスキャフォールドを反復したり、他のスキャフォールドと組み合わせたりして、複数のRNA干渉分子の発現を得ることができる。ただし、反復したり、更なるスキャフォールドと組み合わせたりする場合は、通常、マルチプレックス化RNA干渉分子のすべてが1つのプロモーターの制御下にあることが想定される(すなわち、単一のスキャフォールドが反復される場合、プロモーターは反復されない)。
【0084】
miRNAマルチプレックス化に特に適したスキャフォールド配列は、miR-30スキャフォールド配列、miR-155スキャフォールド配列、およびmiR-196a2スキャフォールド配列である。しかし、特定の実施形態によれば、miR-30またはmiR-155配列は、使用されない。
【0085】
通常、miRNA分子の少なくとも1つは、miR-196スキャフォールド配列、好ましくはmiR-196a2スキャフォールド配列を含む。特定の実施形態によれば、少なくとも2つのmiRNA分子のすべてが、miR-スキャフォールド配列、好ましくはmiR-196a2スキャフォールド配列を含む。同じことが、miR-30およびmiR-155スキャフォールド配列についても言える。そのような適切なスキャフォールドの例は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第8841267号(特にその中の請求項1)に記載されている。単一のスキャフォールドはSMARTvectorTM micro-RNA adapted scaffold(Horizon Discovery、ラファイエット、コロラド州、米国)として市販されている。
【0086】
さらに適切なスキャフォールド配列としては、miR-26b(hsa-mir-26b)、miR-204(hsa-mir-204)、およびmiR-126(hsa-mir-126)、hsa-let-7f、hsa-let-7g、hsa-let-7a、hsa-let-7b、hsa-let-7c、hsa-mir-29a、hsa-mir-140-3p、hsa-let-7i、hsa-let-7e、hsa-mir-7-1、hsa-mir-7-2、hsa-mir-7-3、hsa-mir-26a、hsa-mir-26a、hsa-mir-340、hsa-mir-101、hsa-mir-29c、hsa-mir-191、hsa-mir-222、hsa-mir-34c-5p、hsa-mir-21、hsa-mir-378、hsa-mir-100、hsa-mir-192、hsa-mir-30d、hsa-mir-16、hsa-mir-432、hsa-mir-744、hsa-mir-29b、hsa-mir-130a、またはhsa-mir-15aが挙げられる。
【0087】
代替的ではあるが排他的ではない実施形態によれば、繰り返される特定のmiRスキャフォールドを使用して人工的に反復されるスキャフォールドを得るのではなく、真のポリシストロニックmiRNAクラスターまたはその一部が使用され得、ここでは内因性miRNAが、目的のshRNAで置き換えられる。この目的に特に適したmiRスキャフォールドクラスターは、miR-106a~363、miR-17~92、miR-106b~25、およびmiR-23a~27a~24-2クラスターであり、最も特に想定されるのはmiR-106a~363クラスターおよびその断片である。注目すべきは、ベクターの負荷量を削減するために、そのような天然のクラスターの一部を使用し、すべての配列を使用しないことも具体的に想定されていることである(これは、すべてのmiRNAが等間隔ではなく、すべてのリンカー配列が必要とされるわけではないので、特に有用である)。他にも、細胞内で最も効率的にプロセシングされるmiRNAを取るなどの考慮が可能である。例えば、miR-17~92クラスターは、(順に)miR-17、miR-18a、miR-19a、miR-20a、miR-19b-1およびmiR-92-1(miR-92alでもある)から構成されており、特に有用なその断片は、miR-19aからmiR-92-1までのスキャフォールド配列(すなわち、6つのmiRNAのうちの4つ)、またはmiR-19aからmiR-19b-1までのスキャフォールド配列(6つのmiRNAのうちの3つ)である。同様に、106a~363クラスターは、(順に)miR-106a、miR-18b、miR-20b、miR-19b-2、miR-92-2(miR-92a2も)、およびmiR-363から構成されている。特に有用なその断片は、miR-20b~miR-363(すなわち、6つのmiRNAのうち4つ)までのスキャフォールド配列、またはmiR-19b-2からmiR-363(すなわち、6つのmiRNAのうち3つ)までのスキャフォールド配列である。また、天然のリンカー配列だけでなく、その断片または人工的なリンカーも使用できる(ベクターの負荷量を削減するため)。
【0088】
例えば、miR-106a~363クラスターとmiR-196a2配列の両方を新規のスキャフォールドに組み合わせることができるなど、これらのストラテジーを組み合わせて使用することが想定される。
【0089】
本明細書で開示する細胞は、マルチプレックス化RNA干渉分子を含む。これらは、ダウンレギュレートされる必要のある1つ以上の標的(細胞内の標的、またはshRNAが分泌される場合は細胞外の標的のいずれか)を対象とすることができる。各RNA干渉分子は、異なる分子を標的にすることも、同じ分子を標的にすることも、それらの組み合わせも可能である(すなわち、1つの標的に対しては2つ以上のRNA分子を対象とし、異なる標的に対しては1つのRNA干渉分子のみを対象とする)。RNA干渉分子が同じ標的を対象とする場合、それらは同じ領域を対象にすることができ、あるいは異なる領域を対象にすることができる。言い換えれば、同じ標的を対象としている場合、RNA干渉分子は同一であってもなくてもよい。このようなRNA干渉分子の組み合わせの例を実施例9に示す。
【0090】
このように、特定の実施形態によれば、マルチプレックス化RNA干渉分子の少なくとも2つは、同じ標的を対象とする。さらなる特定の実施形態によれば、マルチプレックス化RNA干渉分子のうちの少なくとも2つは同一である。
【0091】
代替的な実施形態によれば、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子のすべてが異なる。さらなる具体的な実施形態によれば、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子のすべてが、異なる標的を対象とする。
【0092】
改変された細胞内に存在する任意の適切な分子は、即時のRNA干渉分子によって標的とされ得る。想定される標的の代表例としては、MHCクラスI遺伝子、MHCクラスII遺伝子、MHCコレセプター遺伝子(HLA-F、HLA-Gなど)、TCR鎖、CD3鎖、NKBBiL、LTA、TNF、LTB、LST1、NCR3、AIF1、LY6、熱ショックタンパク質(HSPA1L、HSPA1A、HSPA1Bなど)、補体カスケード、調節受容体(NOTCH4など)、TAP、HLA-DM、HLA-DO、RING1、CD52、CD247、HCP5、DGKA、DGKZ、B2M、MICA、MICB、ULBP1、ULBP2、ULBP3、ULBP4、ULBP5、ULBP6、2B4、A2AR、BAX、BLIMP1、C160(POLR3A)、CBL-B、CCR6、CD7、CD95、CD123、DGK[DGKA、DGKB、DGKD、DGKE、DKGG、DGKH、DGKI、DGKK、DGKQ、DGKZ]、DNMT3A、DR4、DR5、EGR2、FABP4、FABP5、FASN、GMCSF、HPK1、IL-10R[IL10RA、IL10RB]、IL2、LFA1、NEAT1、NFkB(RELA、RELB、NFkB2、NFkB1、RELを含む)、NKG2A、NR4A(NR4A1、NR4A2、NR4A3を含む)、PD1、PI3KCD、PPP2RD2、SHIP1、SOAT1、SOCS1、T-BET、TET、TGFBR1、TGFBR2、TGFBR3、TIGIT、TIM3、TOX、およびZFP36L2が挙げられる。
【0093】
特に、miRNAをベースにした適切なコンストラクトが、確認されている。したがって、本発明は、マルチプレックス化マイクロRNAベースのshRNAコード領域を有するポリヌクレオチドを含む、改変された細胞が提供され、前記マルチプレックス化マイクロRNAベースのshRNAコード化領域は、以下をコードする配列を含む、
2つ以上の人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列であって、各人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列が、以下を含む、
・miRNAスキャフォールド配列、
・活性配列または成熟配列、および、
・パッセンジャーまたはスター配列であって、各人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列内で、前記活性配列が前記パッセンジャー配列に少なくとも80%相補的である、配列。
【0094】
人工miRNAベースのshRNAヌクレオチド配列のそれぞれの活性配列およびパッセンジャー配列の両方は通常、18~40のヌクレオチド長、より特に18~30のヌクレオチド長、最も特に19~25のヌクレオチド長を有する。
【0095】
通常、これらのマイクロRNAスキャフォールド配列はリンカーによって分離されており、リンカー配列は例えば30~60のヌクレオチド長を有するが、これより短い長さ(stretches)でも機能する。実際、驚くべきことに、リンカーの長さは重要な役割を果たさず、非常に短くても(10ヌクレオチド未満)、あるいは存在しなくても、shRNAの機能を妨げることはないことがわかった。これは、例えば、図6および16に示されている。
【0096】
人工配列は、例えば、内因性miR配列が、特定の標的に対して改変されたshRNA配列で置換された天然由来のスキャフォールド(miR-106a~363クラスターなどのmiRクラスターまたはその断片)であり得、内因性miR配列が、特定の標的に対して改変されたshRNA配列で置換された単一のmiRスキャフォールド(miR-196a2スキャフォールドなど)の反復であり得、人工miR様配列であるかまたはそれらの組み合わせであり得る。
【0097】
この改変された細胞は通常、キメラ抗原受容体またはTCRなどの目的のタンパク質をコードする核酸分子をさらに含み、上記のような改変された免疫細胞であり得る。
【0098】
マルチプレックス化RNA干渉分子を共発現させることにより、改変された細胞内で少なくとも1つの遺伝子、典型的には複数の遺伝子が抑制される。これにより、より高い治療効果が期待できる。
【0099】
本明細書に記載の改変された細胞は、医薬品としての使用にも提供される。特定の実施形態によれば、前記改変された細胞は、癌の治療に使用するために提供される。治療することができる癌の例示的な種類には、これらに限定されないが、腺癌、副腎皮質癌、肛門癌、星状細胞腫、膀胱癌、骨癌、脳癌、乳癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング肉腫、眼癌、卵管癌、胃癌(gastric cancer)、膠芽腫、頭頸部癌、カポジ肉腫、腎臓癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、神経芽腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、腹膜癌、咽頭癌、前立腺癌、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、皮膚癌、小腸癌、胃癌(stomach cancer)、精巣癌、甲状腺癌、尿道癌、子宮癌、膣癌、およびウィルムス腫瘍が挙げられる。
【0100】
特定の実施形態によれば、細胞は、液体または血液の癌の治療のために提供され得る。このような癌の例としては、例えば、白血病(急性骨髄性白血病(AML)、急性リンパ性白血病(ALL)、慢性骨髄性白血病(CML)、および慢性リンパ性白血病(CLL)を含む)、リンパ腫(ホジキンリンパ腫および非ホジキンリンパ腫(B細胞リンパ腫(例:DLBCL)、T細胞リンパ腫、バーキットリンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、小リンパ球性リンパ腫を含む)、多発性骨髄腫、または骨髄異形成症候群(MDS)が挙げられる。
【0101】
これは、本明細書に記載の改変された細胞(すなわち、少なくとも2つのマルチプレックス化RNA干渉分子をコードする外因性核酸分子を含み、任意に目的のタンパク質をコードするさらなる核酸分子を含む、改変された細胞)の適切な用量を、それを必要とする対象に投与することを含み、それによって、がんに関連する少なくとも1つの症状を改善する、がんを治療する方法が提供されることと同等である。治療が想定される癌としては、以下に限定されないが、腺癌、副腎皮質癌、肛門癌、星状細胞腫、膀胱癌、骨癌、脳癌、乳癌、子宮頸癌、結腸直腸癌、子宮内膜癌、食道癌、ユーイング肉腫、眼癌、卵管癌、胃癌(gastric cancer)、膠芽腫、頭頸部癌、カポジ肉腫、腎臓癌、白血病、肝臓癌、肺癌、リンパ腫、黒色腫、中皮腫、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、神経芽腫、骨肉腫、卵巣癌、膵臓癌、副甲状腺癌、陰茎癌、腹膜癌、咽頭癌、前立腺癌、腎細胞癌、網膜芽細胞腫、横紋筋肉腫、肉腫、皮膚癌、小腸癌、胃癌(stomach cancer)、精巣癌、甲状腺癌、尿道癌、子宮癌、膣癌、ウィルムス腫瘍が挙げられる。さらなる特定の実施形態によれば、血液癌を治療する方法が提供され、それを必要とする対象に、本明細書に記載の適切な用量の改変された細胞を投与することにより、癌の少なくとも1つの症状を改善することを含む。
【0102】
代替的な実施形態によれば、前記細胞は、自己免疫疾患の治療に使用するために提供され得る。治療することができる自己免疫疾患の例示的なタイプとしては、関節リウマチ(RA)、全身性エリテマトーデス(SLE)、炎症性腸疾患(IBD)、多発性硬化症(MS)、1型糖尿病、筋萎縮性側索硬化症(ALSまたはルー・ゲーリッグ病)、脊髄性筋萎縮症(SMA)、クローン病、ギラン・バレー症候群、慢性炎症性脱髄性多発神経炎、乾癬、乾癬性関節炎、アジソン病、強直性脊椎炎、ベーチェット病、セリアック病、コクサッキー心筋炎、子宮内膜症、線維筋痛症、バセドウ病、橋本甲状腺炎、川崎病、メニエール病、重症筋無力症、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、血小板減少性紫斑病(TTP)、潰瘍性大腸炎、血管炎、白斑が挙げられるが、これらに限定されない。
【0103】
これは、自己免疫疾患を治療する方法が提供され、治療を必要としている対象に、本明細書に記載の適切な用量の改変された細胞を投与し、それによって自己免疫疾患に関連する少なくとも1つの症状を改善すること含むということに等しい。治療することができる例示的な自己免疫疾患は、上記に記載されている。
【0104】
さらに別の実施形態によれば、前記細胞は、感染症の治療に使用するために提供され得る。「感染症」は、本明細書では、疾患を有する対象または生物の中または上に外部生物(病原体)が存在することによって引き起こされる任意のタイプの疾患を指すために使用される。感染症は、通常、ウイルス、プリオン、細菌、ウイロイドなどの微生物またはマイクロ寄生体によって引き起こされると考えられているが、マクロ大寄生体や真菌などのより大きな生物も感染することがある。感染を引き起こす生物は、本明細書では、「病原体」(病気を引き起こす場合)および「寄生体」(明白な病気が存在しなくても、宿主生物の犠牲の下で利益を得て、それによって宿主生物の生物学的適合性を低下させる場合)と呼ばれ、ウイルス、細菌、真菌、原生生物(protists)(例えば、Plasmodium、Phytophthora)および原生動物(protozoa)(例えば、Plasmodium、Entamoeba、Giardia、Toxoplasma、Cryptosporidium、Trichomonas、Leishmania、Trypanosoma)(マイクロ寄生体)およびワームなどのマクロ寄生体(例えば、回虫、糸状虫、鉤虫、蟯虫、鞭虫などの線虫類、または条虫や吸虫などの扁虫)だけでなく、マダニやダニなどの外部寄生体を含むがこれらに限定されない。寄生体という用語の中には、宿主生物を殺菌または殺傷する寄生生物、すなわち擬寄生体(parasitoid)が想定されている。特定の実施形態によれば、前記感染症は、微生物またはウイルスの生物によって引き起こされる。
【0105】
本明細書で使用される「微生物」としては、細菌、例えばグラム陽性細菌(例えば、Staphylococcus属、Enterococcus属、Bacillus属)、グラム陰性細菌(例えば、Escherichia属、Yersinia属)、スピロヘータ(例えば、Treponema pallidumなどのTreponema属、Leptospira属、Borrelia burgdorferiなどのBorrelia属)、モリキューテス(Mycoplasma属などの細胞壁を持たない細菌)、耐酸性細菌(Mycobacterium tuberculosumなどのMycobacterium属、Nocardia属など)が挙げられる。「微生物」には、真菌(酵母やカビなど、例えば、Candida属、Aspergillus属、Coccidioides属、Cryptococcus属、Histoplasma属、Pneumocystis属、またはTrichophyton属など)、原生動物(例えば、Plasmodium属、Entamoeba属、Giardia属、Toxoplasma属、Cryptosporidium属、Trichomonas属、Leishmania属、Trypanosoma属)および古細菌(archae)が挙げられる。即時の(instant)方法で治療することができる感染症を引き起こす微生物のさらなる例としては、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を含む)、腸球菌(Enterococcus)属(バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、院内病原体Enterococcus faecalisを含む)、Bacillus subtilis、B.cereus、Listeria monocytogenes、Salmonella属およびLegionella pneumophiliaなどの食物病原体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0106】
本明細書で同等の意味で用いている「ウイルス生物」または「ウイルス」は、生物の生細胞内でのみ複製可能な小さな感染因子である。それらには、dsDNAウイルス(アデノウイルス、ヘルペスウイルス、ポックスウイルスなど)、ssDNAウイルス(パルボウイルスなど)、dsRNAウイルス(レオウイルスなど)、(+)ssRNAウイルス(ピコルナウイルス、トガウイルス、コロナウイルスなど)、(-)ssRNAウイルス(オルトミクソウイルス、ラブドウイルスなど)、ssRNA-RT(逆転写)ウイルス、すなわち、(+)センスRNAとDNAをライフサイクルの中間に有するウイルス(例えば、レトロウイルス)、dsDNA-RTウイルス(例えば、ヘパドナウイルス)が挙げられる。ヒトに感染し得るウイルスの例としては、アデノウイルス、アストロウイルス、ヘパドナウイルス(B型肝炎ウイルスなど)、ヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス1型、単純ヘルペスウイルス2型、ヒトサイトメガロウイルス、エプスタインバーウイルス、水痘帯状疱疹ウイルス、ロゼオロウイルス)、パポバウイルス(例えば、ヒトヘルぺスウイルス、およびヒトポリオーマウイルス)、ポックスウイルス(例:バリオラウイルス、ワクシニアウイルス、天然痘ウイルス)、アレナウイルス、ブニアウイルス(buniavirus)、カルシウイルス(calcivirus)、コロナウイルス(例えば、SARSコロナウイルス、MERSコロナウイルス、SARS-CoV-2コロナウイルス(COVID-19の病因物質))、フィロウイルス(例えば、エボラウイルス、マールブルグウイルス)、フラビウイルス(例えば、黄熱病ウイルス、西ナイルウイルス、デング熱ウイルス、C型肝炎ウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、脳炎ウイルス)、オルトミクソウイルス(例えば、A型インフルエンザウイルス、B型インフルエンザウイルスおよびC型インフルエンザウイルス)、パラミクソウイルス(パラインフルエンザウイルス、ルブラウイルス(おたふく風邪)、モルビリウイルス(はしか)、肺炎ウイルス(ヒトRSウイルスなど)、ピコルナウイルス(ポリオウイルス、ライノウイルス、コクサッキーAウイルス、コクサッキーBウイルス、A型肝炎ウイルス、エコーウイルス、およびエンテロウイルスなど)、レオウイルス、レトロウイルス(ヒト免疫不全ウイルスおよびヒトTリンパ球向性(lymphotrophic)ウイルス(HTLV)などのレンチウイルスなど)、ラブドウイルス(狂犬病ウイルスなど)、またはトガウイルス(風疹ウイルスなど)などが挙げられるが、これらに限定されない。特定の実施形態によれば、治療すべき感染症は、HIVではない。代替実施形態によれば、治療すべき感染症は、レトロウイルスによって引き起こされる疾患ではない。代替的な実施形態によれば、治療すべき感染症は、ウイルス性疾患ではない。
【0107】
これは、本明細書に記載の適切な用量の改変された細胞(すなわち、2つ以上のマルチプレックス化RNA干渉分子をコードする外因性核酸分子を含み、任意に目的のタンパク質をコードするさらなる核酸分子を含む、改変された細胞)を、それを必要とする対象に投与し、それによって少なくとも1つの症状を改善することを含む、感染症の治療方法が提供されるということに等しい。特に想定される微生物性またはウイルス性の感染症は、上記の病原体によって引き起こされるものである。
【0108】
医薬品として使用するために提供されるこれらの細胞は、同種他家療法に使用するために提供され得る。すなわち、これらの細胞は、同種他家ACTが治療の選択肢と考えられる治療において使用するために提供される(別の対象からの細胞が、それを必要とする対象に提供される)。特定の実施形態によれば、同種他家療法において、RNA干渉分子の少なくとも1つは、TCRを(最も特に、TCR複合体のサブユニットを)対象とするであろう。別の実施形態によれば、これらの細胞は、自家療法、特に自家ACT療法(すなわち、患者から得られた細胞を用いた療法)に使用するために提供される。
【0109】
本発明による細胞および方法について、特定の実施形態、特定の構成、ならびに物質および/または分子を本明細書で説明したが、本発明の範囲および趣旨から逸脱することなく、形態および詳細において様々な変更や変形が可能であることを理解されたい。以下の実施例は、特定の実施形態をさらに説明するために提供されるものであり、本願を限定解釈するものではない。本願は、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例
【0110】
実施例1.TCRのダウンレギュレーションにおけるmiRNAスキャフォールドの長さの評価
同一のウイルス発現ベクター内で様々なshRNAのマルチプレックス化を成功させるには、miRNAベースのスキャフォールドをできるだけ小さくする必要がある。これにより、ベクター全体のサイズに大きな影響を与えることなく、複数のshRNAを組み合わせることができる。短縮されたmiRNAベースのshRNAスキャフォールドでも標的のノックダウンが効率的かどうかを評価するために、miRNA-196a2スキャフォールド(SMARTvectorTM micro-RNA adapted scaffold(Horizon Discovery、ラファイエット、コロラド州、米国)から以前に同定されたCD247(TCRサブユニット)標的shRNAを発現させたところ、新しいコンストラクトのmiRNAスキャフォールドの長さが異なった。元のコンストラクトは263の核酸を有し、短縮された2つのコンストラクトはそれぞれ150の核酸または111の核酸を使用した。切断型の(truncated)CD19マーカーによって示されるように、すべてのウイルスベクターは、程度の差はあるものの初代T細胞を形質導入することができ(図1)。しかし、TCRまたはCD3Eタンパク質のノックダウンの程度は、3つのコンストラクトすべてで同等であった。これは、最小のmiRNAベースのshRNAスキャフォールドでも、長いmiRNAスキャフォールドと同程度にTCR/CD3複合体の発現を抑えることができることを示している。
【0111】
実施例2.様々なC52標的shRNAのスクリーニング
様々なCD52標的shRNAの効率を比較するために、以前CD247で使用したものと同一のバックボーン構造を使用し、shRNAの標的配列のみを交換し、CD247標的配列の代わりにCD52標的配列を配置した。レトロウイルスベクターを用いて初代T細胞にshRNAを導入し、切断型のCD19(tCD19)マーカーで追跡することができた。レトロウイルスベクターのmiRNAスキャフォールドに、様々なCD52標的shRNAをクローニングした。CD52のノックダウンの程度は、細胞培養の8日目に評価した。すべてのコンストラクトは、CD19の発現によって測定されるように、初代T細胞を形質導入することができた(図2)。しかし、CD52のノックダウンの程度は、試験した4つのshRNAで異なっていた。CD52の発現をノックダウンすることを考えると、shRNA-3が最も効率的であり、次いでshRNA-1とshRNA-2であった。対照的に、shRNA-4はCD52発現の減少を示さなかった(図2)。
【0112】
このshRNAのノックダウン効率が、異なるドナー間で異なるかどうかを評価するために、3体の異なるドナーのT細胞をMockコンストラクトまたはCD52 shRNA-3を発現させたコンストラクトで形質導入した(図3)。3体のドナーすべてにおいて、shRNA-3はCD52の有意かつ一貫したノックダウンを示し(図3)、同定されたshRNAにより、CD52の一貫しドナーに依存しないノックダウンがもたらされることが示された。
【0113】
実施例3.CRISPR/Cas9を介したCD52ノックアウトのためのgRNAのスクリーニング
CD52および/またはTCR/CD3複合体の発現抑制のための陽性対照を生成するために、CRISPR/Cas9技術を用いてそれぞれのノックアウトT細胞を生成した。CD52欠損T細胞を効率的に生成するものを特定するために、様々なガイドRNA(gRNA)を設計し、評価した(図4)。3つのgRNAのうち2つはCD52ノックアウト細胞を生成することができ(図4でCD52.1.AAと示されているgRNA-1、および図4でCD52.2.AEと示されているgRNA-3)、CD52gRNA-1ではCD52欠損細胞の頻度がわずかに高かった。
【0114】
実施例4.標的ノックダウンに対するmiRNAスペーサーの効果
DROSHA複合体による、転写されたRNAからのmiRNAの効率的なプロセシングは、効率的な標的ノックダウンにとって重要である。以前のデータでは、miRNAをベースにしたshRNAは、CARをコードするベクターと効率的に共発現し、ベクターからmiRNA機構によってプロセシングされることが明らかになっている。さらに、複数のmiRNAベースのshRNA(例:2、4、6、8...)を同じベクターから共発現できるCAR発現ベクターを生成することが望ましい(図5)。しかし、これまでの研究で、複数のmiRNAベースのshRNAを共発現させると、shRNAの活性が失われることが示されている。このように、単一の発現ベクターから複数の標的をノックダウンするためには、効率的なmiRNAのプロセシングが重要である。
【0115】
共発現させた2つのshRNAの活性を最適化するために、サイズだけでなく、2つのmiRNAベースのshRNA間のリンカーの配列やmiRNAのスキャフォールドがshRNAの活性に影響するという仮説を立てた。shRNAのプロセシングを最適化するために、様々なshRNAリンカーが2つの標的遺伝子CD247(CD3ζ)とCD52のノックダウンに与える影響を評価した。天然のヒトmiR-17-92クラスターに由来するスペーサー配列をもとに、5つの異なるスペーサーを設計した。この5つの異なるスペーサーを、BCMA CARのコンテキストにおいてCD247とCD52のshRNAの間にクローニングした。対照としてtCD34(Mock)とBCMA-CD247shRNAベクターを用いて、異なるコンストラクトでT細胞を形質導入した結果を図6に示す。マルチプレックス1は、lllbp CD247 shRNAとlllbp CD52 shRNAの間にスペーサーを含まない。マルチプレックス2は、miR-17-92クラスターにおけるmiR-17とmiR-18aの間にある43bpの自然発生的なスペーサーを含んでいた。マルチプレックス3には、miR-17-92クラスターにおけるmiR-19aとmiR-20aの間のスペーサー領域に相当する92bpのスペーサーが含まれている。マルチプレックス4には、miR-17-92クラスターにおけるmiR-20aとmiR-19blの間のスペーサー領域に対応する56bpのスペーサーが含まれている。マルチプレックス5は、29bpのランダムなTAリッチスペーサー領域を含んでいる。shRNAを含むすべてのコンストラクトは、収集時に低いながらも同等の形質導入効率を示した。また、BCMA CARの発現は、複数のshRNAの発現によってわずかに影響を受けるだけであった(図6)。CD52およびTCRのノックダウンを評価したところ、すべてのコンストラクトが同等のレベルでTCRおよびCD52の発現を低下させることができることが示された。2つのヘアピンの間にスペーサーがない最初のマルチプレックスコンストラクトだけが、他のコンストラクトと比較してTCRに対するノックダウン活性(CD52に対するノックダウン活性はない)がわずかに低かったが、それでも発現を非常によく減少させることができた(図6)。
【0116】
実施例5.マルチプレックス化および単一のshRNAの比較
次に、2つのshRNAをマルチプレックス化した場合の効果と、CD247とCD52の単一shRNAを発現させた場合の効果を直接比較することを目的とした。RNA発現解析では、マルチプレックス化shRNAは、それぞれの単一のshRNAと同様にCD52またはCD247を効率的にダウンレギュレートすることがわかった(図7)。
【0117】
別の対照として、CRISPR/Cas9システムを用いて、2つの異なるgRNAを用いてCD52とCD247を同時に標的にした。収集時に、CD247 shRNAまたはgRNAを含む細胞は、さらなる分析の前にTCR陽性細胞を枯渇させた。TCRおよびCD52の発現をフローサイトメトリーで評価し、単一またはマルチプレックスのshRNAを形質導入した細胞のタンパク質発現を比較した(図8および9)。単一のCD247 shRNAは、TCRの発現を減少させることができた(図8および9)。TCR表面発現の減少は、CRISPR/Cas9を介したCD247のノックアウトと同等であった。同様に、単一のCD52 shRNAは、CD52の発現を減少させることができた(図8および9)。異なるリンカーを有する2つのマルチプレックス化shRNAコンストラクト(実施例4参照)は、いずれも単一のshRNAと同程度のTCRノックダウンを示した。同様に、CD52の発現は、単一またはマルチプレックス化shRNAコンストラクトによって、同じ程度に減少した(図8および9)。
【0118】
実施例6.CARの発現および細胞の分化能
CARの発現および機能性に対する1つまたは複数のshRNAの共発現の影響を評価するために、BCMA-CARの発現をフローサイトメトリーで評価した。細胞をBCMA-Fc融合タンパク質で染色し、続いて二次PE結合抗体で染色した。図10に示すように、CARの発現はすべてのグループで同様であったことから、これらのマルチプレックス化shRNAはCARの発現レベルに影響を与えていないことがわかった。さらに、BCMA陽性の癌細胞株であるRPMI-8226、OPM-2、U226に対するBCMA-CAR発現細胞の機能的活性を評価した(図10)。この目的のために、上清中のIFNγレベルを評価する前に、T細胞を癌細胞と24時間共培養した。T細胞単独ではIFNγを産生しなかったが、BCMAを発現した癌細胞と共培養すると、すべてのグループのT細胞で同等のIFNγ産生が見られた。このように、1つまたは複数のshRNAを共発現させても、CARの発現、または癌細胞株に対するCAR-T細胞の機能的活性には影響しない。
【0119】
実施例7.マイトジェン性刺激に対するCAR-T細胞の機能的反応
次に、マイトジェン性TCR刺激に対するCAR-T細胞の反応性を評価した。この目的のために、T細胞を抗CD3抗体(クローンOKT3)の濃度を増加させて刺激し、24時間後にIFNγ産生を測定した。Mockを形質導入した細胞は、OKT3の活性化後に高レベルのIFNγを産生した。同様に、BCMA-CARを単独で、またはCD52 shRNAと組み合わせて共発現させても、TCR活性化刺激に反応するT細胞の能力は低下しなかった。しかし、CD247 shRNAを単独で、またはマルチプレックスに共発現させると、TCRの機能的応答がCIRSPR/Cas9 CD247ゲノム編集対照細胞のレベルまで著しく低下した(図11)。このように、マルチプレックス化shRNAは、単一shRNA対照細胞やゲノム編集したT細胞と同様に、TCRの機能を阻害するのに有効である。
【0120】
実施例8.CD52の機能的阻害
次のステップとして、単一またはマルチプレックス化CD52 shRNAの発現が、抗CD52抗体の存在下でのT細胞の補体依存性死滅にどのように影響するかを評価することを目的とした。この目的のために、T細胞を抗CD52抗体(アレムツズマブ(alemtuzumab))または対照IgG抗体の存在下で補体と一緒に培養した。4時間後、細胞数を測定した。MockおよびBCMA-CARを形質導入したT細胞は、アレムツズマブの存在下で補体系によって効率的に標的とされた(図12)。しかし、単一およびマルチプレックス化CD52 shRNAはいずれも、CD52を介した死滅を防ぐことができた。
【0121】
実施例9.2つを超える標的のマルチプレックス化
次に、4つのshRNAをマルチプレックス化することの実現可能性を評価した。これを評価するために、Jurkat細胞に、β2m、DGK、CD247(CD3ζ)、CD52を標的とする単一またはマルチプレックス化したshRNAと、レンチウイルスバックボーンを使用し反復miR-196a2スキャフォールドを使用する第2世代CD19CARおよび選択マーカーを形質導入した。導入後7日目にマーカー特異的な磁気ビーズを用いてシングルステップ富化(enrichment)を行った。細胞を、qRT-PCRによるshRNA標的の発現について分析した。shRNAを介した4つの標的の転写発現のダウンレギュレーションは、マルチプレックスとそれぞれの単一shRNAの間で同等であった(図13)。
【0122】
Jurkat細胞の次に、初代T細胞を、miR-106a-363クラスターに導入されたCD247、β2mおよびCD52を標的とする3×shRNAまたは6×shRNAのいずれかを含む第2世代CD19 CARをコードするレトロウイルスベクターで形質導入した(図14)。簡潔に言うと、健康なドナーからの初代T細胞を、第2世代のCD19指向性CARをコードするレトロウイルスベクターと、106a-363miRNAクラスターの最後の3つのmiR(miR-19b2、miR-92a2、miR-363)に導入されたCD247、B2M、CD52を標的とする3shRNA、またはクラスターの6つのmiRスキャフォールドの中の同じ3つの遺伝子を標的とする6shRNA(この場合、CD247を標的とする2つのshRNAは異なる)とともに、切断型のCD34選択マーカーを形質導入した。簡潔に言うと、shRNAは6-プレックス、3-プレックス、または対照としてshRNAなし(tCD34)で発現させた。導入2日後、CD34特異的磁気ビーズを用いて細胞を富化し、さらにIL-2(100lU/mL)で6日間増幅した。CD247、B2M、CD52のmRNA発現を、ハウスキーピング遺伝子としてシクロフィリンを用いてqRT-PCRで評価した。
【0123】
マルチプレックス化したshRNAは、すべての標的遺伝子に対して効率的なRNAノックダウンレベルをもたらした。6つのマルチプレックス化shRNA(各タンパク質標的に対して2つのshRNA)を組み込んだ場合、3つのマルチプレックス化shRNA(各タンパク質標的に対して1つのshRNA)と比較して、より高いRNAノックダウンレベルが得られた(図14)。
【0124】
実施例10.iPSC細胞における標的のマルチプレックスノックダウン
他の免疫細胞におけるマルチプレックス化RNA干渉分子のノックダウンを調査するために、次にマルチプレックス化をiPS細胞で評価した。長い(41bp)または最小(6bp)リンカーのいずれかによって分離された2つのshRNA(β2mおよびDGKaに対して)が、ヒトiPSC細胞株SCiPS-R1で発現された。形質導入は、50μlまたは500μlのウイルス上清を用いて行った。マルチプレックス化したshRNAは、shRNAなしで形質導入された細胞と比較した場合、リンカーのサイズや使用したウイルス上清の量に関係なく、効率的なRNAノックダウンレベルをもたらした(図15図16)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
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図15
図16
【配列表】
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