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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】硬化性フルオロエラストマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/12 20060101AFI20250212BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250212BHJP
   C08K 5/25 20060101ALI20250212BHJP
   C08L 29/10 20060101ALI20250212BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20250212BHJP
【FI】
C08L27/12
C08K3/013
C08K5/25
C08L29/10
C09K3/10 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021566317
(86)(22)【出願日】2020-05-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-14
(86)【国際出願番号】 US2020031801
(87)【国際公開番号】W WO2020227485
(87)【国際公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-17
(31)【優先権主張番号】62/844,334
(32)【優先日】2019-05-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】519393129
【氏名又は名称】デュポン ポリマーズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クレイストファー ジェイ.ビッシュ
(72)【発明者】
【氏名】クリスチャン ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル ロバート マッサ
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-536260(JP,A)
【文献】特表2014-509690(JP,A)
【文献】国際公開第2018/038917(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/132706(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L,C08K,C09K
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
A)ニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合単位を含む少なくとも1つのフルオロエラストマーであって
前記少なくとも1つのフルオロエラストマーが、
i)テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、並びにテトラフルオロエチレン及びヘキサフルオロプロピレンの組合せからなる群から選択される、少なくとも1つのフッ素化オレフィン、
ii)ペルフルオロ(メチルビニル)エーテル;ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル;ペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル;CF 3 O-(CF2O) n -CF 2 CF 2 -OCF=CF 2 (式中、nは、0、1、2、3、4又は5である);並びにペルフルオロ(メチルビニル)エーテル;ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル;ペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル;及びCF 3 O-(CF2O) n -CF 2 CF 2 -OCF=CF 2 (式中、nは、0、1、2、3、4又は5である)の2つ以上の組合せからなる群から選択される、少なくとも1つのフルオロビニルエーテル、並びに、
iii)ニトリル基含有ペルフッ素化オレフィン及び、ペルフルオロ(8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテン)からなる群から選択される少なくとも1つのニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合単位を含む、フルオロエラストマー、
B)イソフタル酸ジヒドラジド及びオキサリルジヒドラジドからなる群から選択される、少なくとも2つの異なるジヒドラジドを含む硬化系であって、イソフタル酸ジヒドラジド対オキサリルジヒドラジドの重量比が、1:1~2:1の範囲である、ジヒドラジドを含む硬化系、及び任意選択的に
C)少なくとも1つの添加剤、
を含む、硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項2】
前記少なくとも1つの添加剤が存在し、且つカーボンブラック、潤滑剤、充填剤、フルオロポリマーマイクロパウダー、安定剤、可塑剤及び加工助剤からなる群から選択される1つ以上の添加剤を含む、請求項1に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項3】
前記少なくとも1つの添加剤が、シリカ、アルミナ、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、並びにシリカ、アルミナ、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム及び二酸化チタンの2つ以上の組合せからなる群から選択される少なくとも1つの充填剤を含み、請求項1又は2に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の硬化性フルオロエラストマー組成物の硬化生成物である、硬化フルオロエラストマー組成物。
【請求項5】
225℃の水に70時間暴露した後でASTM D1414:2015に従って測定される、10%未満の体積膨潤度を有する、請求項4に記載の硬化フルオロエラストマー組成物。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の硬化フルオロエラストマー組成物を含む物品。
【請求項7】
ガスケット、チューブ、シール又はOリングの形態の請求項6に記載の物品。
【請求項8】
225℃の水に70時間暴露した後でASTM D1414:2015に従って測定される、10%未満の体積膨潤度を有する、請求項6又は7に記載の硬化物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その全内容が参照により本明細書に組み込まれる、2019年5月7日出願の米国仮特許出願第62/844,334号に対する米国特許法第365条の下での優先権を主張するものである。
【0002】
本明細書中、硬化性フルオロエラストマー組成物、より詳しくは、2つ以上のジヒドラジド硬化剤の混合物を含む硬化性フルオロエラストマー組成物が記載される。
【背景技術】
【0003】
本発明が関係する技術分野をより詳細に説明するために、いくつかの特許及び刊行物が本明細書で引用される。これらの特許及び刊行物のそれぞれの開示全体は、参照により本明細書に組み込まれる。
【0004】
フルオロエラストマーは、顕著な商業的成功を収めており、過酷な環境に遭遇する幅広い用途、特には高温及び反応性の高い薬品への曝露が生じる最終用途で使用されている。例えば、これらのポリマーは、石油及びガス工業において、ドリル加工アセンブリが高温及び高圧で水性環境に暴露され、続いて大気圧に急速に戻されるダウンウェルビットシールとして、しばしば使用される。しかしながら、急速ガス減圧耐性及び熱水耐性と組み合わせられる低温シーリング性能の望ましい組合せを示す、これらの極端な環境で使用するためのシールが絶えず必要とされている。
【0005】
フルオロエラストマーの極めて優れた特性は、主にこれらの組成物中のポリマー主鎖の大部分を占める共重合したフッ素化モノマー単位の安定性及び不活性により生じる。そのようなモノマーとしては、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、テトラフルオロエチレン、及びパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルが挙げられる。エラストマー特性を完全に発現させるためには、フルオロエラストマーは典型的には架橋される。すなわち加硫又は硬化される。この目的のために、わずかな割合の硬化部位モノマーがフッ化モノマー単位と共重合される。例えばパーフルオロ-8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテンなどの少なくとも1つのニトリル基を含む硬化部位モノマーが特に好ましい。硬化部位は、1つ以上の硬化剤、例えばジアミン化合物、ビスフェノール化合物及びペルオキシド化合物と反応することによって、フルオロポリマーを架橋する。そのようなポリマー及び組成物は、米国特許第4,281,092号明細書;米国特許第4,394,489号明細書;米国特許第5,789,489号明細書;及び米国特許第5,789,509号明細書、並びに国際特許出願公開第2011/084404号パンフレットに記載されている。
【0006】
ニトリル基硬化部位を有するフルオロエラストマーを架橋するために、他の窒素含有求核性化合物が用いられてきた。例えば、米国特許第6,638,999B2号明細書を参照されたい。これらの硬化剤の中にはスコーチを生じやすいものがある(すなわち、組成物の最終成形前に架橋が開始し得る)一方で、ゴム練り温度で揮発するものもある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
フルオロエラストマー組成物のための硬化系として2つ以上の異なるジヒドラジド硬化剤の混合物が使用される場合、硬化した組成物は、特にダウンホール用途における石油及びガス工業の使用のために、改善された物理特性を示すことができることが発見された。
【課題を解決するための手段】
【0008】
したがって、本明細書中、ニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合単位を含む少なくとも1つのフルオロエラストマーと、少なくとも2つの異なるジヒドラジドを含む硬化系と、任意選択的に少なくとも1つの添加剤とを含む硬化性フルオロエラストマー組成物が提供される。さらに、フルオロエラストマー組成物を硬化する方法、硬化性フルオロエラストマー組成物を含むプレフォーム、硬化性フルオロエラストマー組成物の架橋結合の生成物である硬化したフルオロエラストマー組成物、及び硬化したフルオロエラストマー組成物を含む物品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
略語
「phr」はフルオロエラストマー(ゴム)100部当たりの部を意味する;当業者はこの測定の用語を使用及び認識している。例えば、フルオロエラストマー100部当たり3部の成分は3phrと記述される。本明細書に記載の化合物(コンパウンド)、手順、及び物品において、phrは100部のフルオロエラストマーAを基準とする。
【0010】
「t90」は、硬化性フルオロエラストマー組成物に力が加えられた時に、トルクが所与の温度でその最大の90%に達するために必要な分での時間を意味し、稼働ダイレオメーター又は類似の機器で測定される。
【0011】
「g」は、グラムを意味する。
【0012】
「MPa」は、メガパスカルを意味する。
【0013】
「%」は、用語パーセントを意味する。
【0014】
「モル%」は、モルパーセントを意味する。
【0015】
定義
本開示をさらに定義し、説明するために、本明細書において以下の定義が使用される。これらの定義は、特有の例で制限されない限り、本明細書を通して使用される用語に適用される。
【0016】
特に定義されない限り、本明細書で用いられる全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者によって一般的に理解されるものと同じ意味を有する。矛盾の場合には、本明細書で明白にされた定義を含む、本明細書が優先されるであろう。
【0017】
明白に定義された状況で別に述べられない限り、本明細書で使用される全ての百分率、部、比率及び同様な量は、重量によって定義される。
【0018】
材料、方法又は機械装置が、用語「当業者に公知の」、「慣用の」、又は同義の語若しくは語句とともに本明細書に記載される場合、この用語は、本出願の出願時に慣用である材料、方法、及び機械装置がこの記載によって包含されることを表す。現時点では慣用でないが、同様の目的に好適であると当該技術分野で認められるようになっているであろう材料、方法、及び機械装置も包含される。
【0019】
本明細書で使用される場合、用語「含む(comprises)」、「含んでいる(comprising)」、「含む(includes)」、「含んでいる(including)」、「含有する(containing)」、「特徴とする(characterized by)」、「有する(has)」、「有している(having)」又はそれらの任意の他の変形は、非排他的包含に及ぶことが意図される。例えば、要素の一覧を含むプロセス、方法、物品、又は装置は、必ずしもそれらの要素のみに限定されず、明示的に一覧にされていないか、又はこのようなプロセス、方法、物品、若しくは装置に固有の他の要素を含むことができる。
【0020】
移行句「からなっている(consisting of)」は、通常、それに伴う不純物を除いて列挙されたもの以外の材料の包含に対して特許請求の範囲を閉ざして、特許請求の範囲に具体化されない、いかなる要素、ステップ、又は成分も排除する。語句「からなる(consists of)」又は「からなっている(consisting of)」が、前文の直後よりもむしろ請求項の本体の条項に現れる場合、それは、その条項に記述される要素のみを限定し;他の要素は、全体として請求項から排除されない。
【0021】
移行句「から本質的になる(consisting essentially of)」は、具体化された材料又は工程、及び特許請求される本発明の基本的且つ新規な特徴に実質的に影響を与えないものに特許請求の範囲を限定する。‘から本質的になる’クレームは、‘からなる’フォーマットで書かれる閉鎖クレームと、‘含む’フォーマットで起草される完全開放クレームとの妥協点を占める。
【0022】
加えて、用語「から本質的になる」は、本明細書で使用される場合、組成物の全重量に基づき、95重量%より多い又は99重量%より多い、記載された成分を含む組成物を意味する。さらに、このような添加剤に適切であるレベルでの、本明細書で定義される任意選択的な添加剤及び微量不純物は、用語「から本質的になる」によって組成物から排除されない。したがって、この用語が適用される組成物は、他の成分又は添加剤と一緒に導入され得る任意のキャリアも含む、下記に記載されるものなどの1つ以上の他の成分又は添加剤を含み得る。これらの量において、他の成分、添加剤及びそれらのキャリアは、本明細書で記載される相又は組成物の基本的且つ新規特徴を変化させることはない。
【0023】
組成物、プロセス、構造、又は組成物、プロセス、若しくは構造の一部が、「含む」などの制約のない用語を用いて本明細書に記載される場合、特に明記しない限り、その記載はまた、組成物、プロセス、構造、又は組成物、プロセス、若しくは構造の一部の要素「から本質的になる」又は「からなる」実施形態を包含する。
【0024】
さらにこれに関連して、別々の実施形態に関連して本明細書に記載の本発明の特定の特徴は、単一の実施形態において組み合わせて提供されてもよい。逆に、一実施形態に関連して、簡潔にするために記載される本発明の様々な特徴が、別々に又は任意の部分的な組合せで提供されてもよい。
【0025】
冠詞「1つの(a)」及び「1つの(an)」は、本明細書に記載される組成物、方法又は構造の様々な要素及び成分に関連して利用され得る。これは、便宜上であり、組成物、方法又は構造の一般的な意味を与えるためのものにすぎない。そのような記載は、要素又は成分の「1つ又は少なくとも1つ」を含む。さらに、本明細書で使用される場合、単数冠詞は、複数が排除されることが具体的な文脈から明らかでない限り、複数の要素又は成分の記載も含む。
【0026】
さらに、明確にそれとは反対のことが述べられない限り、接続詞「又は」は、包括的な又はを意味し、排他的な又はを意味しない。例えば、条件「A又はB」は、以下のいずれか1つによって満たされる:Aが真であり(又は存在し)、且つBが偽である(又は存在しない)、Aが偽であり(又は存在せず)、且つBが真である(又は存在する)並びにA及びBが両方とも真である(又は存在する)。排他的な「又は」は、本明細書中、例えば「A又はBのいずれか」及び「A又はBの1つ」などの用語によって明示される。
【0027】
用語「約」は、量、サイズ、処方、パラメータ、並びに他の量及び特性が、正確ではなく、且つ正確である必要がないが、許容値、換算係数、四捨五入、測定誤差など、並びに当業者に公知の他の因子を反映して、必要に応じて近似であり、且つ/又はより大きい、若しくはより小さいことがあり得ることを意味する。一般に、量、サイズ、処方、パラメータ又は他の量若しくは特性は、そのようなものであると明示的に述べられているかどうかにかかわらず、「約」又は「近似的」である。
【0028】
さらに本明細書に示される範囲は、限定された状況で特に明記されない限り、それらの終点を含む。さらに、量、濃度又は他の値若しくはパラメータが範囲、1つ以上の好ましい範囲、又は上方の好ましい値及び下方の好ましい値のリストとして与えられる場合、これは、任意の範囲上限又は好ましい値と、任意の範囲下限又は好ましい値との任意の対から、そのような対が別個に開示されるかどうかにかかわらず、形成された全ての範囲を具体的に開示すると理解されるべきである。本発明の範囲は、範囲を定義する時に記載される特有の値に限定されることはなく、むしろ、その終点を含む範囲内の全ての実数を含む。
【0029】
加えて、本明細書に記載のプロセス、化合物(コンパウンド)及び物品の材料、化学物質、方法、工程、値、範囲などの変形のいずれの記載も、好ましい又は好ましくないとして特定されるかどうかに関わらず、本明細書に記載のプロセス、化合物(コンパウンド)、及び物品を構成又は形成する他の材料、方法、工程、値、範囲などとの変形の組合せを特に含む。
【0030】
「ペルフルオロ」という用語は、単独で、又は例えば「ペルフルオロエラストマー」及び「ペルフルオロビニルエーテル」などの組合せで本明細書で使用される場合、全ての水素原子がフッ素原子で置換されている分子又は部分を意味する。例えば、「ペルフルオロアセトン」という用語は、化合物(CF32C=Oを意味し、そして「ペルフッ素化オレフィン」という用語は、少なくとも1つの不飽和の二重結合を含み、且つフッ素原子及び炭素原子を含むが、水素原子を含まない、直鎖、分岐、又は環状構造を意味する。
【0031】
本明細書で使用される場合、「フルオロ」という用語は、単独で、又は例えば「フルオロエラストマー」及び「フルオロビニルエーテル」などの組合せで本明細書で使用される場合、水素原子に対して少なくとも1つのフッ素原子が置換された分子又は部分を意味する。接頭辞「フルオロ」は、化学物質名の前に接頭辞として配置される場合、「ペルフルオロ」の化学物質を明確に含む。そのため、接頭辞「フルオロ」は、化学物質名の前にある場合、「フルオロ」体と「ペルフルオロ」体の両方を指す。
【0032】
本明細書で使用される場合、「アルキル」という用語は、直鎖、分岐、又は環状の炭化水素構造及び2つ以上のこれらの構造の組合せを意味する。「アルキル」という用語には、不飽和又は芳香族構造は含まれない。直鎖アルキル基の例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、及びヘキシル基が挙げられる。分岐アルキル基としては、例えばsec-ブチル、tert-ブチル、及びイソプロピル基が挙げられる。環状炭化水素基の例としては、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロブチル、及びシクロオクチル基が挙げられる。
【0033】
本明細書で使用される場合、「アルコキシ」又は「アルコキシル」という用語は、単結合によって酸素原子と連結しているアルキル基を意味する。酸素原子の他方の結合は炭素原子と結合している。例としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、シクロプロピルオキシ、シクロペンチルオキシ、及びシクロヘキシルオキシが挙げられる。
【0034】
「硬化」という用語は、本明細書で使用される場合、単独であっても、或いは「硬化した」、「硬化する」又は「硬化性」などの組み合わせられた形態であっても、「架橋」及び「加硫」という用語と同義であり、そして交換可能に使用されて、反応すると共有結合を形成し、その共有結合の少なくとも一部が2つのポリマー分子の間を結合する反応性部位を含む、ポリマーを意味する。本明細書に記載される硬化性フルオロエラストマー組成物は、得られた硬化フルオロエラストマー組成物が、熱加工、例えば成形又は押出成形されることができないように十分な架橋を形成するように硬化され得る。すなわち、硬化性フルオロエラストマー組成物が、例えば圧縮成形プロセスで硬化条件に暴露される時、それによって、硬化されて、物品が形成され、その物品は、実質的に異なる形態又は形状、構成又は構造となるように再成形されることが不可能である。言い換えると、硬化したフルオロエラストマー組成物は、熱硬化性材料である。
【0035】
硬化プロセスによって得られる物質は、「硬化した」物質、すなわち、バルクフルオロエラストマー、又は本明細書中の上記で定義された物品である。硬化によって物品の形態又は形状又は構成又は構造をとるコンパウンドが得られる。本明細書に記載のコンパウンドの硬化した物品としては、限定するものではないが、ブロック、スラブ、O-リング、チューブ、シール、及びガスケットが挙げられる。
【0036】
「硬化」という用語は、例えば、硬化部位若しくは架橋剤の化学量論を制御することによる、又は時間、温度若しくは圧力などの硬化条件を制御することによる硬化性組成物の異なる架橋度も明白に含む。硬化の範囲を変更することによる硬化組成物の特定の物理特性を変更することも望ましくなり得る。言い換えると、本明細書に記載される硬化性フルオロエラストマー組成物は、硬化したフルオロエラストマー組成物又は物品の所望の特性次第で、部分的に架橋されていてもよく、完全に架橋されていてもよく、又は実質的に完全に架橋されていてもよい。
【0037】
硬化したフルオロエラストマー組成物を含む硬化したフルオロエラストマー組成物又は物品は、「後硬化」されてもよい。すなわち、さらにその後の硬化を提供する追加的な硬化条件を受けさせてもよい。2回以上の硬化サイクルを受けた硬化性組成物、すなわち、「後硬化」組成物も、「硬化した」と記載されてよい。
【0038】
概要
本明細書に記載される硬化性フルオロエラストマー組成物は、ニトリル基硬化部位と、少なくとも2つの異なるジヒドラジド硬化剤を含む硬化系とを有する少なくとも1つのフルオロエラストマーを含む。好ましくは、硬化性フルオロエラストマー組成物は、以下:
A)ニトリル基含有硬化部位モノマーの共重合単位を含む少なくとも1つのフルオロエラストマー;
B)2つ以上の異なるジヒドラジドの混合物を含む硬化系;及び
C)任意選択的に少なくとも1つの添加剤
を含む。
【0039】
さらに、硬化性フルオロエラストマー組成物を含むプレフォーム、硬化性フルオロエラストマー組成物を硬化する方法、得られる硬化フルオロエラストマー組成物、及び硬化フルオロエラストマー組成物を含む物品が提供される。
【0040】
A)フルオロエラストマー
硬化性フルオロエラストマーは、好ましくは、硬化性フルオロエラストマーの全重量に基づき、25~70重量部の、フッ素化アルケンである少なくとも1つの第1のモノマーの共重合単位を含む。適切な第1のモノマーとしては、限定されないが、1,1-ジフルオロエチレン(C222)、ヘキサフルオロ-プロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)、1,2,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(1-HPFP)、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペン(2-HPFP)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、1,1,2-トリフルオロエチレン、1-フルオロエチレン、及びこれらの第1のモノマーの2つ以上の組合せが挙げられる。硬化性フルオロエラストマーは、フルオロビニルエーテルである第2のモノマーの共重合残基、及び硬化部位モノマーの共重合単位をさらに含む。任意選択的に、硬化性フルオロエラストマー(A)は、前記第1のモノマー、前記第2のモノマー及び前記硬化部位モノマーとは異なる、1つ以上の追加的な共重合モノマーの共重合単位をさらに含んでもよい。
【0041】
フルオロエラストマーを製造するためのモノマー(ii)としての使用に適切なフッ素含有ビニルエーテルとしては、限定されないが、フルオロ(アルキルビニル)エーテルが挙げられる。ペルフルオロ(アルキルビニル)エーテル(PAVE)が好ましい。モノマーとしての使用に適切なペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、次式のものが挙げられる。
CF2=CFO(Rf’O)n(Rf”O)mf (I)
(式中、Rf’及びRf”は、2~6個の炭素原子の異なる直鎖又は分岐のペルフルオロアルキレン基であり、m及びnは、0~10の範囲から独立して選択される整数であり、Rfは、1~6個の炭素原子のパーフルオロアルキル基である)
【0042】
好ましい分類のペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、次式の組成が挙げられる。
CF2=CFO(CF2CFXO)nf (II)
(式中、Xは、F又はCF3であり、nは0~5の範囲の整数であり、Rfは、1~6個の炭素原子のペルフルオロアルキル基である)
【0043】
より好ましい分類のペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、次式の組成が挙げられる。
CF3O-(CF2O)n-CF2CF2-OCF=CF2 (III)
(式中、nは、0~5の範囲の整数である)。より好ましいペルフッ素化エーテルの例は、1-[2-[ジフルオロ(トリフルオロメトキシ)メトキシ]-1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ]-1,2,2-トリフルオロエテンである。
【0044】
さらにより好ましい分類のペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、nが0又は1であり、且つRfが1、2又は3個の炭素原子を含むエーテルが挙げられる。そのようなペルフルオロ化エーテルの例としては、限定されないが、ペルフルオロ(メチルビニル)エーテル(PMVE)、ペルフルオロ(エチルビニル)エーテル(PEVE)、及びペルフルオロ(プロピルビニル)エーテル(PPVE)が挙げられる。
【0045】
他の適切なペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルとしては、次式のものが挙げられる。
CF2=CFO[(CF2)mCF2CFZO]nRf (IV)
(式中、Rfは、1~6個の炭素原子を有するペルフルオロアルキル基であり、m=0又は1であり、n=0、1、2、3、4又は5であり、且つZ=F又はCF3である)。この分類のうちの好ましい構成要素は、RfがC37であり、m=0であり、n=1であるものである。
【0046】
追加的なペルフルオロ(アルキルビニル)エーテルモノマーとしては、次式の化合物が挙げられる。
CF2=CFO[(CF2CF{CF3}O)n(CF2CF2CF2O)m(CF2)p]Cx2x+1 (V)
(式中、m及びnは、0~10の範囲から独立して選択される整数であり、p=0、1、2又は3であり、且つx=1、2、3、4又は5である)。この分類のうちの好ましい構成要素としては、n=0又は1であり、m=0又は1であり、x=1である化合物が挙げられる。
【0047】
有用なパーフルオロ(アルキルビニル)エーテルの他の例としては、次式のものが挙げられる。
CF2=CFOCF2CF(CF3)O(CF2O)mn2n+1 (VI)
(式中、n=1、2、3、4又は5であり、m=1、2又は3であり、好ましくはn=1である)
【0048】
硬化性フルオロエラストマー中にPAVEの共重合単位が存在する場合、共重合PAVE単位の含有量は、一般に、硬化性フルオロエラストマーの全重量に基づき、25~75重量%、好ましくは35~65重量%の範囲である。ペルフルオロ(メチルビニル)エーテルが使用される場合、硬化性フルオロエラストマーは、好ましくは40~60重量%の共重合PMVE単位を含む。
【0049】
硬化性フルオロエラストマーは、一般に、0.1~5重量%の量でニトリル基含有硬化部位モノマーをさらに含む。この範囲は、硬化性フルオロエラストマーの全重量に基づき、好ましくは0.5~3.5重量%、より好ましくは1~3重量%である。適切な硬化部位モノマーとしては、ニトリル含有ペルフッ素化オレフィン及びニトリル含有ペルフッ素化ビニルエーテルが挙げられる。有用なニトリル含有硬化部位モノマーとしては、下に示す式のものが挙げられる。
CF2=CF-O(CF2)n-CN (VII)
(式中、nは、2~12の範囲、好ましくは2~6の範囲から選択される);
CF2=CF-O[CF2-CFCF3-O]n-CF2-CFCF3-CN (VIII)
(式中、nは0、1、2、3又は4、好ましくは0、1又は2である);
CF2=CF-[OCF2CFCF3]x-O-(CF2)n-CN (IX)
(式中、x=1又は2であり、n=1、2、3又は4である);及び
CF2=CF-O-(CF2n-O-CF(CF3)CN (X)
(式中、n=2、3又は4である)。
【0050】
式(VIII)のニトリル含有ペルフッ素化ビニルエーテルが好ましい。より好ましい硬化部位モノマーは、ニトリル基とトリフルオロビニルエーテル基とを有するペルフルオロポリエーテルである。さらにより好ましい硬化部位モノマーは、
CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2CN (XI)
すなわち、ペルフルオロ(8-シアノ-5-メチル-3,6-ジオキサ-1-オクテン)又は8-CNVEである。
【0051】
適切な任意選択的な追加モノマーとしては、限定されないが、炭化水素オレフィンが含まれる。適切な炭化水素オレフィンとしては、限定されないが、エチレン及びプロピレンが挙げられる。例えば、トリフルオロプロピレン(TFP)の異性体及びブロモテトラフルオロブテン(BTFB)の異性体などのニトリル基を含まない硬化部位モノマーも、適切な追加的なモノマーである。炭化水素オレフィンの共重合単位が硬化性フルオロエラストマー中に存在する場合、それらは、硬化性フルオロエラストマーの全重量に基づき、0.1~30重量%又は4~30重量%、又は0.1~25重量%、0.1~20重量%、0.1~15重量%、0.1~10重量%又は0.1~5重量%の濃度で存在する。任意選択的な追加モノマーを含む1つの適切な硬化性フルオロエラストマーは、TFE/Propylene/BTFB/TFP/CNVEである。
【0052】
好ましくは、硬化性フルオロエラストマー(A)は、以下:
i)ペルフッ素化オレフィンである少なくとも1つの第1のモノマー;
ii)ペルフルオロビニルエーテルである少なくとも1つの第2のモノマー;並びに
iii)ニトリル含有ペルフッ素化オレフィン及びニトリル含有ペルフッ素化ビニルエーテルからなる群から選択される1つ以上のニトリル基含有硬化部位モノマー
の共重合単位を含む。
【0053】
硬化性フルオロエラストマー中の全てのコモノマーの共重合残基の量は、補完的である。言い換えると、硬化性フルオロエラストマー中の全てのコモノマーの共重合残基の重量百分率の合計は、100重量%である。
【0054】
適切なフルオロエラストマーは、当該技術分野において既知である方法、例えば米国特許第5,789,489号明細書に記載される方法によって調製され得る。
【0055】
B)硬化系
硬化性フルオロエラストマー組成物で使用される硬化系は、少なくとも2つの異なるジヒドラジドの硬化剤混合物を含む。適切なジヒドラジドは、両方ともBishらに発行された米国特許第8,765,875号明細書及び同第8,765,876号明細書に記載されている。好ましいジヒドラジドとしては、限定されないが、マロン酸ジヒドラジド;コハク酸ジヒドラジド;アジピン酸ジヒドラジド;オキサリルジヒドラジド;1,3-イミダゾリジンジプロパン酸、4-(1-メチルエチル)-2,5-ジオキソ-,1,3-ジヒドラジド;テトラデカンニ酸,1,14-ジヒドラジド;ヘキサン二酸,2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロ-,1,6-ジヒドラジド;イソフタル酸ジヒドラジド;炭酸ジヒドラジド;炭酸ジヒドラジドジヒドロクロリド;1,2-ヒドラジンジカルボン酸,ジヒドラジド;ジアミノビウレット;及びp-フェニレン-ビス-セミカルバジドが挙げられる。より好ましいジヒドラジドとしては、イソフタル酸ジヒドラジド及びオキサリルジヒドラジドが挙げられる。
【0056】
ジヒドラジドの組合せは、硬化フルオロエラストマーの特性のバランスをとるか、又はそれを最適化するように選択される。例えば、所与の硬度及び所与の破断時の伸び率を有する硬化フルオロエラストマーを製造するようにフルオロエラストマー組成物に作用するジヒドラジド硬化剤は、同様の硬度及び異なる破断時の伸び率を有する硬化フルオロエラストマーを製造するように同フルオロエラストマーに作用する第2の異なるジヒドラジド硬化剤と組み合わせてよい。例えば、同一フルオロエラストマー組成物に作用するジヒドラジドの組合せから生じる硬化フルオロエラストマーは、個々のジヒドラジドから製造された硬化フルオロエラストマーのものの中間の破断時の伸び率を有し得る。
【0057】
2つの異なるジヒドラジドの硬化剤混合物が好ましい。2つのジヒドラジドは、約99:1~約1:99;約49:1~約1:49;約19:1~約1:19;約9:1~約1:9;約5:1~約1:5;約4:1~約1:4;約3:1~約1:3の重量比で組み合わせられてよい。約3:1~約1:2の重量比が好ましい。より好ましくは、2つの異なるジヒドラジドは、約3:1~約1:2又は約1:1~約2:1の範囲のイソフタル酸ジヒドラジド:オキサリルジヒドラジドの重量比のイソフタル酸ジヒドラジド及びオキサリルジヒドラジドである。
【0058】
任意選択的には、ジヒドラジド硬化剤と組み合わせて、例えば硬化温度でアンモニアを放出する化合物などの硬化促進剤を使用してもよい。硬化温度で分解してアンモニアを放出するコンパウンドの例及び適切な量は、米国特許第6,281,296B1号明細書及び米国特許出願公開第2011/00095969号明細書に記載されている。
【0059】
任意選択的には、ジヒドラジドに加えて、ニトリル基硬化部位を有するフルオロエラストマーを架橋するために一般的に用いられる別の硬化剤を使用してもよい。そのような他の硬化剤の例としては、限定されないが、ジアミノビスフェノールAF、2,2-ビス(3-アミノ-4-アニリノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、モノ-若しくはビス-アミジン、モノ-若しくはビス-アミドラゾン、モノ-若しくはビス-アミドキシム、又は有機過酸化物プラス助剤が挙げられる。
【0060】
フルオロエラストマー組成物中の硬化系の全濃度は、約0.1~約4phr、好ましくは0.5~2phrの範囲であり得る。例えば、100重量部のフルオロエラストマーを含む組成物は、100phrあたり合計1.3phrの硬化系に関して、0.5phrのオキサリルジヒドラジド及び0.8phrのイソフタル酸ジヒドラジドをさらに含み、そしてイソフタル酸ジヒドラジドの重量対オキサリルジヒドラジドの重量の比率は1.6:1である。
【0061】
C)任意選択的な添加剤
種々の物理特性を改善するか、又は最適化するためにフルオロエラストマー組成物中で使用され得る任意選択的な添加剤としては、限定されないが、カーボンブラック、フルオロポリマーマイクロパウダー、安定剤、可塑剤、潤滑剤、充填剤(例えば、鉱物充填剤、例えばシリカ、アルミナ、ケイ酸アルミニウム、硫酸バリウム、二酸化チタン)、共同剤及び加工助剤が挙げられる。適切な任意選択的な添加剤は、硬化条件を含むそれらの加工条件下で硬化性フルオロエラストマー組成物中に組み込まれるために、又は硬化したフルオロエラストマー組成物の意図された使用条件下で満足に機能するために十分な熱、化学、若しくは機械安定性を有する。
【0062】
適切なカーボンブラックの例としては、約10nm(小)~500nm(大)の範囲の粒径を有するカーボンブラックが挙げられる。小粒径カーボンブラックの例としては、SAFカーボンブラック、Spheron 6400(登録商標)及びFEFカーボンが挙げられる。約14nmの平均粒径を有し、ASTM D1765によってグループNo.1のN110と称される高強化ブラックである。大カーボンブラック粒子は、米国特許第5,554,680号明細書に議論されるように、ASTM D3849によって決定される少なくとも約100nm~約500nmの平均粒径を有するカーボンブラックの特定の分類を説明する。例としては、N-991、N-990、N-908、及びN-907と称されるMTブラック(中粒熱分解ブラック)、並びに大粒径ファーネスブラックが挙げられる。MTブラックが好ましい。
【0063】
小粒径及び大粒径のカーボンブラックのブレンドも使用されてよい。例えば、異なる粒径のカーボンブラック粒子のブレンド中のより大きいカーボンブラック粒子は、約40~60phrの範囲の量で存在し得、そしてより小さいカーボンブラック粒子は、2~8phrの範囲であり得る。
【0064】
存在する場合、任意選択的な添加剤の全濃度は、約0.1~200phr、好ましくは約1~100phrの範囲であり得る。
【0065】
硬化性フルオロエラストマー組成物の調製
硬化性フルオロエラストマー組成物は、標準ゴム混錬手順を使用して、フルオロエラストマー、硬化系及び任意選択的な添加剤を混合することによって調製され得る。例えば、成分を、ゴム用二本ロールミル上で、インターナルミキサー(例えばBanbury(商標)インターナルミキサー)中で、又は押出機の中で混合してよい。
【0066】
プレフォーム及び物品
硬化性フルオロエラストマー組成物は、いずれの化学反応を受けることなく、物理的手段によって種々の形状の物体に形成され得る。これらの未硬化の物体は、「プレフォーム」として知られる。例えば、硬化性組成物は、ローリング、成形、ダイカット又は押出成形などのいずれかの適切な方法によって、プレフォームに成形されてよい。硬化物品を形成するために、プレフォームに熱又は圧力などの硬化条件を受けさせてもよい。
【0067】
代わりに、硬化性フルオロエラストマー組成物は、例えば、ディスク、スラブ又はブロックの形状を有するブランクに形成されてもよい。加えて、硬化性組成物が製造されるか、又は混錬される時と同じ形態で硬化される場合、ブランクは特定の形態を有さなくてもよい。ブランクは硬化されて、次いで機械加工され、硬化フルオロエラストマー組成物を含む物品が形成される。硬化前の硬化性組成物の形状及びサイズは、機械加工された物品の寸法によって決定される。
【0068】
硬化された物品又はブランクは、プレフォーム、又はそれが製造される未硬化のブランクと同様の形状及びサイズであり得るが、それら2つの間で寸法は異なり得る。
【0069】
硬化フルオロエラストマー組成物を含む物品を製造するため別のプロセスでは、硬化性フルオロエラストマー組成物は、硬化物品を製造するための熱、圧力、又は熱及び圧力の両方の適用によって成形され得るか、又は架橋(すなわち、硬化)され得る。成形の後に、一般に、後硬化サイクルが続き、その間、プレス硬化組成物は、数時間、例えば300℃を超える高温で加熱される。圧縮成形が利用される場合、好ましくはプレス硬化サイクルも使用される。
【0070】
硬化フルオロエラストマー組成物は、優れた熱安定性、シーリング特性及び熱水耐性、並びに破断時の伸び率、弾性率、硬度、圧縮永久歪み及び体積膨潤度を含む他の特性の好ましいバランスを有する。好ましくは、硬化フルオロエラストマー組成物及びブランク及び硬化フルオロエラストマー組成物を含む物品は、225℃の水に70時間暴露した後でASTM D1414:2015に従って測定される、5%、8%、10%若しくは20%未満の体積膨潤度、又はASTM D412-06a:2013に従って測定される、少なくとも40%、43%、46%、50%、60%、70%、80%、90%若しくは100%の破断時の伸び率を有する。
【0071】
硬化性フルオロエラストマー組成物は、例えば、ガスケット、チュービング及びシールの製造において有用である。硬化性フルオロエラストマー組成物から製造される硬化物品は、石油及びガス工業において、ドリル加工アセンブリが高温で水性環境に暴露され、圧力が急速に変動し得るダウンウェル用途に関して特に有用である。
【0072】
下記の実施例は、本発明をさらに詳細に説明するために提供される。本発明を実施するために現在考えられる好ましいモードを示す、これらの実施例は、本発明を例示することを意図し、それを限定することを意図するものではない。
【実施例
【0073】
以下の実施例及び比較例は、硬化性フルオロエラストマー組成物中での本明細書に記載のジヒドラジド硬化系の使用を示す。この章では、限定された状況で特に明記されない限り、各部は100phrに基づき、フルオロエラストマーはゴムである。
【0074】
材料
FFKM:61.9モルパーセントのTFEの共重合単位、37.4モルパーセントのPMVEの共重合単位、及び0.7モルパーセントの8-CNVEの共重合単位を含有するペルフルオロエラストマーは、米国特許第5,789,489号明細書、同第7,977,426号明細書及び同第7,999,049号明細書に記載される一般プロセスによって調製した。
オキサリルジヒドラジド(CAS # 996-98-5)は、Sigma-Aldrich,St. Louis,Missouri,USAから得た。
イソフタル酸ジヒドラジド(CAS # 2760-98-7)は、TCI America,Portland,Oregon,USAから得た。
カーボンブラック:Cancarb of Medicine Hat,Alberta,CanadaからThermax(登録商標)N990として入手可能な、280nmの平均粒径を有する熱カーボンブラック。
可塑剤:The Chemours Company FC,LLC,of Wilmington,DelawareからKrytox(登録商標)XHT-1000として入手可能なペルフルオロポリエーテル。
【0075】
試験方法
弾性率/破断時の伸び率/破断時の引張強さ
弾性率、破断時の伸び率及び破断時の引張強さは、ASTM D412-06a:2013に従って決定した。フルオロエラストマー組成物の厚さ2mm(0.8インチ)の成形及び硬化スラブからダンベル形試料(図2 ASTM D 412-06aVol.09-01、ダイ「C」)を切断した。試験の前に試料を23℃及び50%相対湿度で3時間条件づけた。
【0076】
23℃において500mm/分のクロスヘッド速度で試験するために、Instron Bluehillバージョン2.6ソフトウエアによってプログラムされた機械式グリップ型接触伸縮計を備えたInstron Single Station Tensile Machineモデル#5564を使用した。各組成物に対して最小3つの試料を試験し、そしてそれぞれの特性の中央値が報告される。
【0077】
ショアA硬度
ASTM D2240-05:2010に従って、ショアA硬度を決定した。フルオロエラストマー組成物の成形及び硬化スラブからダンベル形試料(図2 ASTM D 412-06aVol.09-01、ダイ「C」)を切断した。試験の前に試料を23℃及び50%相対湿度で3時間条件づけた。
【0078】
23℃の温度において3.2mm/秒の試験片へのインデンターの下り速度でShore A Headが取り付けられたNew Age Hardness Tester上で試験を実施した。厚さ2mm(0.08インチ)の成形スラブからダイカットされたダンベル試験片の4プライの積層上で3回の測定を行った。第1回目の測定は、試料の中心で行った。次いで試料を180度回転させ、そして第2回目の測定はダンベルの中心で行った。試料をひっくり返し、そして最終測定をダンベルの中心で行った。3回の結果の中央値を表に報告する。
【0079】
圧縮永久歪み
ASTM D395-14:2014に従って、一定撓み(25%)での圧縮永久歪みを決定した。試料の種類はAS-214O-リングであった。これから各O-リングの小部分を切断して除去し、内部表面が外部表面と同一環境に暴露するようにさせた。各組成物に関して、3つのAS-214O-リング試料を空気中又は水中で、高温で圧縮及び老化させた。老化後、試料をそれらの圧縮装置から取り出し、室温まで冷却させ、そして高さを測定して、それらの圧縮及び老化前の最初の高さ(h0)と、それらの圧縮及び老化後の高さ(h)との関係を決定し、これを百分率(h/h0*100で表した。各組成物の3つの結果の中央値を表に報告した。
【0080】
体積膨潤百分率
体積膨潤百分率をAS-214O-リング上、ASTM D471-12a:2012に従って測定した。試験前に、O-リングの重量を23℃で空気中、及び0.820+/-0.001の比重を有するエタノール/水溶液中で測定した。次いで、ASTM D1414:2015の老化手順を使用して、225℃において70時間、蒸留水中でO-リングを老化させた。蒸留水中での老化後、O-リングの重量を空気及びエタノール/水溶液中で再測定し、体積膨潤百分率を決定した。アルキメデスの原理を使用して体積変化を算出し、それによって、空気中の物品の重量及び既知の密度の流体中のその物品の重量を得ることによって、物品の密度を決定することができる。老化後の体積膨潤度パーセントは、D471-12a:2012 セクション17.2(3)の方程式に従って算出した。
【0081】
実施例及び比較例の調製
表1及び2に示される組成及び割合で、ゴム用二本ロールミル上で硬化性フルオロエラストマー組成物を混錬した。t90に達する時間+5分の時間、200℃の温度でプレス硬化し、続いて、窒素雰囲気中305℃の温度で26時間、後硬化することによって、これらの硬化性フルオロエラストマー組成物から圧縮永久歪み及び体積膨潤度試験用のO-リングを製造した。硬化フルオロエラストマー組成物の物理特性を表1及び2に示す。
【0082】
【表1】
【0083】
表1は、硬化剤として単一ジヒドラジドのみを含むフルオロエラストマー組成物C1及びC2の特性と比較して、ジヒドラジドの混合物を含む硬化フルオロエラストマー組成物E1の特性を示す。C1及びC2のそれぞれと比較して、E1は約半分の質量の各ジヒドラジドを含む。この関係に基づき、E1に関して、体積膨潤度などの硬化部位構造に依存する特性は、C1及びC2配合物の体積膨潤度の間のほぼ平均であることが予測された。しかしながら、E1の測定された体積膨潤度は、C1及びC2に基づいて期待された平均体積膨潤度よりかなり少ない。したがって、E1の測定された体積膨潤度は、C1及びC2の体積膨潤度と比較して、予想外に小さいが、伸び率などの他の好ましい特性のバランスは維持される。
【0084】
【表2】
【0085】
表2は、硬化剤として単一ジヒドラジドのみを含むフルオロエラストマー組成物C3及びC4の特性と比較して、イソフタル酸ジヒドラジド対オキサリルジヒドラジドの異なる比率でジヒドラジドの混合物を含む硬化フルオロエラストマー組成物E2の特性を示す。E2の体積膨潤度は、C3及びC4に基づいて期待された体積膨潤度よりかなり少ない。したがって、E2の測定された体積膨潤度は、C3及びC4の体積膨潤度と比較して、予想外に小さいが、伸び率などの他の好ましい特性のバランスは維持される。
【0086】
本発明のある種の好ましい実施形態を上で説明し、具体的に例示してきたが、本発明をそのような実施形態に限定することは意図されない。以下の特許請求の範囲に示されるような本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく、様々な修正形態がなされ得る。