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特許76332377種のコレステロールエステル分子を測定することによる網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の予測
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】7種のコレステロールエステル分子を測定することによる網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の予測
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/92 20060101AFI20250212BHJP
【FI】
G01N33/92 A
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022519344
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-11-28
(86)【国際出願番号】 FR2020051666
(87)【国際公開番号】W WO2021058914
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】1910515
(32)【優先日】2019-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514082686
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ ドゥ ボルドー
【住所又は居所原語表記】35 PLACE PEY BERLAND 33000 BORDEAUX FRANCE
(73)【特許権者】
【識別番号】514282002
【氏名又は名称】アンセルム(アンスティチュ ナシオナル ドゥ ラ サンテ エ ドゥ ラ ルシェルシュ メディカル)
(73)【特許権者】
【識別番号】522116993
【氏名又は名称】アンスティチュ ナシオナル ドゥ ルシェルシュ プー ラグリキュルチュール,ラリモンタシオン エ ロンヴィロンヌモン
(73)【特許権者】
【識別番号】522118137
【氏名又は名称】ウニベルシテ ドゥ ブルゴーニュ
(73)【特許権者】
【識別番号】519099254
【氏名又は名称】アンスティテュ ナシオナル スュペリユール デ シアンセ アグロノミクス,ドゥ ラリマンタシオン エ ドゥ ランヴィロヌマン
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT NATIONAL SUPERIEUR DES SCIENCES AGRONOMIQUES,DE L‘ALIMENTATION ET DE L’ENVIRONNEMENT
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】デルクール,セシル
(72)【発明者】
【氏名】アカー,ニヤジ
(72)【発明者】
【氏名】ブルティヨン,リオネル
(72)【発明者】
【氏名】アジャナ,スフィアヌ
(72)【発明者】
【氏名】ジャクマン-ガダ,エレヌ
(72)【発明者】
【氏名】ヘジュブルム,ボリス
(72)【発明者】
【氏名】メルル,ベネディクトゥ
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/175288(WO,A1)
【文献】Niyazi ACAR et al,Identification of a circulating biomarker highly associated to retinal omega-3 polyunsaturated fatty acid content: the BLISAR project,Investigative Ophthalmology & Visual Science,2019年07月,vol.60, No.9,p.1141
【文献】Ekatherine PROKOPIOU et al,Therapeutic potential of omega-3 fatty acids supplymentation in a mouse model of dry macular degeneration,BMJ Open Ophthalmology,2017年06月19日,Vol.1,e000056
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/50,33/92
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象の網膜中に存在する全てのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の、脂肪酸全体に対する重量割合としての合計の決定方法であって、前記対象からの血液サンプル中の少なくとも1種のコレステリルエステルの重量割合を決定することを含み、前記網膜中に存在する全てのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の、脂肪酸全体に対する重量割合としての合計は前記少なくとも1種のコレステリルエステルの重量割合と相関し、前記少なくとも1種のコレステリルエステルは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルである、決定方法。
【請求項2】
7種のコレステリルエステルの重量割合を決定することを特徴とする、請求項1に記載の決定方法。
【請求項3】
前記7種のコレステリルエステルが、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル、9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリル、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリル、9,12-オクタデカジエン酸コレステリル、6,9,12-オクタデカトリエン酸コレステリル、8,11,14-エイコサトリエン酸コレステリル、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリルであることを特徴とする、請求項2に記載の決定方法。
【請求項4】
前記血液サンプルが、全血、血清および血漿から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の決定方法。
【請求項5】
オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理予防するための、少なくとも5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルのバイオマーカーとしての使用方法であって、網膜中に存在する全てのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の、脂肪酸全体に対する重量割合としての合計を、請求項1~4のいずれか1項に記載の決定方法で決定することを含む、使用方法。
【請求項6】
前記病理が加齢黄斑変性、糖尿病網膜症および未熟児網膜症から選択される網膜症であることを特徴とする、請求項5に記載の使用方法。
【請求項7】
オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する病理の治療をモニターする方法であって、治療が施された患者の網膜中に存在する全てのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の、脂肪酸全体に対する重量割合としての合計を、請求項1~4のいずれか1項に記載の決定方法で決定することを含む、治療をモニターする方法。
【請求項8】
前記病理が加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症および未熟児網膜症から選択される網膜症であることを特徴とする、請求項7に記載の治療をモニターする方法。
【請求項9】
前記病理が加齢黄斑変性であり、前記治療が、任意でビタミンおよびミネラルの投与と組み合わされた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸に基づく栄養補給剤であることを特徴とする、請求項7または8に記載の治療をモニターする方法。
【請求項10】
網膜中に存在する全てのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の、脂肪酸全体に対する重量割合としての合計を、請求項1~4のいずれか1項に記載の決定方法で決定することを含む、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏診断するための、少なくとも5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルのバイオマーカーとしての使用方法。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
〔技術分野〕
本発明は眼科学の分野に関し、より具体的には、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の予測に関する。
【0002】
〔従来技術〕
加齢黄斑変性(AMD)は、黄斑として知られる網膜の中心部の変性疾患である。これは主に高齢者に影響を及ぼし、先進工業国における失明症例の50%を占める。フランスでは約600,000人がこの病気に罹患している。AMDの進行型(新生血管AMDおよび萎縮性AMDとして知られる)は視力喪失と関連しており、一般に初期および無症候性の異常が先行する。
【0003】
AMDの病因は多因子性であり、遺伝因子や食品などの環境因子も関与する。これに関連して、オメガ-3多価不飽和脂肪酸またはオメガ-3の役割は、3つの理由のために関心が高まっている:
- オメガ-3多価不飽和脂肪酸、特にドコサヘキサエン酸(DHA)は、炎症、血管新生および細胞死などの、AMDにおいて観察される特定の病理学的プロセスを妨げる網膜の主要成分である;
- AMDに罹患している対象の網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸量の枯渇が研究によって示されている;
- 20を超える疫学研究が、オメガ-3多価不飽和脂肪酸を多く含む食物を摂取している被験者でAMDのリスクが40%低下することを非常に一貫して示している。
したがってこのデータは、AMDに対するオメガ-3多価不飽和脂肪酸の保護効果を示唆する。
【0004】
オメガ-3多価不飽和脂肪酸のファミリーは特に、前駆体脂肪酸、α-リノール酸(またはC18:3n-3またはALA)および3つの長鎖誘導体、エイコサペンタエン酸(またはC20:5n-3またはEPA)、ドコサペンタエン酸(またはC22:5n-3またはDPAn-3)およびドコサヘキサエン酸(DHAまたはC22:6n-3)を包含する。ALAは、動物生物が新規に合成できないため、食物摂取のみに依存するので、ヒトにとって必須の栄養素である。ALAからのEPA、DPAn-3およびDHAの合成はヒトにおいて可能であるが、非常に限定されている。したがって、魚介類に富む食物を通してこれらの脂肪酸を提供することも推奨される。これらの勧告にもかかわらず、フランスのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の食物摂取量は、保健機関によって発行された勧告未満のままである。
【0005】
したがって、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定できることが不可欠である。
【0006】
網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度を知ることは、実際に、以下の重要な情報である:1.網膜が劣化しており、したがってAMDの危険性があり得る被験体を同定すること、および2.網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の生理学的含有量を回復させる際の、これらの脂肪酸に基づく栄養補給剤の有効性をモニターすること。
【0007】
しかしながら、明らかな倫理的理由のために、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の生化学的アッセイの目的で、ヒトにおいてインビボで網膜の生検を実施することは不可能である。その結果、間接的な測定が必要となる。
【0008】
オメガ-3多価不飽和脂肪酸の血液または血漿中での測定もまた、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を測定するのに十分ではない。
【0009】
したがって、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定するための強固で信頼性のある方法を得ることが必要である。
【0010】
3件の研究で、循環脂肪酸の含有量と網膜中の脂肪酸の含有量とを相関させることが試みられている。最初の研究は、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の予測を試みることなく、または血液中の脂肪酸を運ぶ脂質構造(リン脂質、コレステリルエステル、トリグリセリドなど)を研究することなく、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の網膜における含有量と種々の脂肪酸の血液における含有量との関連を調査することに、その研究を限定していた(Gorusupudi et al., J. Lipid Res., 2016; 57: 499-508)。第2の研究は、網膜のDHA含有量の循環マーカーとして、コレステリルエステル全体を同定した(Bretillon et al., Exp. Eye Res., 2008; 87: 521-528)。第3の研究は、赤血球のDHA含有量が網膜のDHA含有量の良好な循環マーカーではないことを示した(Acar et al., PLoS ONE 2012; 7: e35102)。
【0011】
これらの研究のいずれも、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の全体的含有量を考慮していなかった(それらは、DHA、またはオメガ-6脂肪酸/オメガ-3脂肪酸の濃度の比率を標的とした)。
【0012】
また、それらは、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の真の含有量を推定するためのモデルを構築することもできず、そのため直接分析によって測定できるようにならなかった。
【0013】
今日まで、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の網膜における含有量を間接的に評価するために、2つのアプローチが一般に使用されている。第1は食物摂取に基づくもので、食物の質問票を通して、対象における、オメガ-3多価不飽和脂肪酸に富む食品およびそのような食品の消費を評価し、それから組織の富化を推定することを可能にする。第2は循環オメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の評価からなり、ここでも血液の富化から組織の富化を推定することからなる。血液コンパートメントにおけるこの評価は多かれ少なかれ全体的なものであり、全血、赤血球、全血漿、または血漿のさまざまなコンパートメント(主にリン脂質およびコレステリルエステル)の両方に関係し得る。
【0014】
食物摂取量の使用は多くの困難に直面しており、それらは特に食物評価方法に関連するものである:食物質問票の長さおよび複雑さ、記憶バイアス、ヒトの食物の多大な複雑さおよび日々の変動性を考慮に入れることの困難さ、摂取された食品の量および食品の栄養含有量の推定における不正確さ、などである。
【0015】
血漿/血漿の種々のコンパートメントの脂質組成の使用に関して、これは、末梢組織(網膜を含む)の脂肪酸組成が血漿のものと同じパターンに従うという仮定に基づく。しかし、食物脂質、血漿脂質および組織脂質の間の関係は、代謝、遺伝学、年齢、性別またはライフスタイル(喫煙、アルコール消費、身体活動)などのいくつかの他の因子によって調節されるので、非線形であることが知られている。成人ヒト被験体における赤血球の使用が有効でないこと、反対にコレステリルエステルの全体の利点を示す先に述べた2つの予備的研究とは別に、今日まで、網膜における脂肪酸の含有量の推定におけるこのようなコンパートメントの絶対的な有効性またはその反対を示す研究はなかった。
【0016】
〔技術的課題〕
それゆえ、大きな医学的関心にもかかわらず、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を信頼できる方法で測定することは今日まで不可能である。したがって、実施が複雑で不正確な食物摂取方法以外に、また網膜中の脂肪酸の含有量に関する信頼できる結果を得ることができない、血漿/様々な血漿コンパートメントの脂質組成に基づく方法以外に、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸を評価するためのツールを提供することが必要である。
【0017】
有利には、本発明により、少なくとも1種のコレステリルエステルの血液アッセイによって網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を推定することを可能にする。
【0018】
本発明者らは、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量のマーカーとしてのコレステリルエステルの使用を精密にすることにより、血液中に存在する25種の代わりに、1つのコレステリルエステル、優先的には7種のコレステリルエステルのアッセイの値を使用した。
【0019】
コレステリルエステルの含有量の決定に基づくこの方法は、予測をより強固にすることを可能にし、これは赤血球および全血中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定した研究およびアプローチと比較される(r=0.62、対して血漿の全脂質のオメガ-3脂肪酸についてはr=0.40、および赤血球のオメガ-3脂肪酸についてはr=0.14)。
【0020】
具体的には、数学的モデルの構築および使用が、1種のコレステリルエステル、好ましくは血液中の7種のコレステリルエステルのアッセイの値から、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度を予測することを有利に可能にする。
【0021】
このアプローチは少数の血漿コレステリルエステルに有利に基づいており、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の網膜含有量を決定することに、より効果的かつ信頼性がある。
【0022】
それゆえ、本発明の1つの主題は、対象の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定方法であって、前記対象からの血液サンプル中の少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量の定量化を含み、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は、コレステリルエステルの含有量と相関している、方法である。
【0023】
本発明の別の主題は、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を、本発明の決定方法で決定することによって、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理を予防する方法である。
【0024】
本発明はまた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する病理の治療をモニターする方法であって、少なくとも1つの治療を投与するステップと、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を、本発明の決定方法で決定するステップとを含む方法、に関する。
【0025】
本発明はまた、前記治療が投与された患者の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を、本発明の決定方法で決定することを含む、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏の診断方法、に関する。
〔発明の概要〕
【0026】
(オメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定する方法)
【0027】
本発明は対象の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定する方法に関し、前記方法は前記対象からの血中サンプル中の少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量を決定することを含み、前記網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は前記少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量と相関し、前記少なくとも1種のコレステリルエステルは5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルである。
【0028】
具体的に、そして有利には、本発明の発明者らが、血漿中に優先的に含まれる、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル(C20:5 ω3 メチルエステル)の含有量の決定により、対象の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を予測することができることを実証した。
【0029】
表現「網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量」は、脂肪酸全体に対する重量割合としての、網膜中に存在する全てのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の合計、すなわち、脂肪酸全体に対する重量割合としての、α-リノール酸(またはC18:3n-3またはALA)、エイコサペンタエン酸(またはC20:5 ω-3またはEPA)、ドコサペンタエン酸(またはC22:5 ω-3またはDPA ω-3)およびドコサヘキサエン酸(DHAまたはC22:6 ω-3)の合計、を意味すると理解される。
【0030】
決定方法の一実施形態によれば、少なくとも6種の追加のコレステリルエステルの含有量が決定される。
【0031】
コレステリルエステルは、テトラデカン酸コレステリル、ペンタデカン酸コレステリル、ヘキサデカン酸コレステリル、7-ヘキサデセン酸コレステリル、9-ヘキサデセン酸コレステリル、ヘプタデカン酸コレステリル、オクタデカン酸コレステリル、trans-9-オクタデセン酸コレステリル、cis-9-オクタデセン酸コレステリル、11-オクタデセン酸コレステリル、9,12-オクタデカジエン酸コレステリル、エイコサン酸コレステリル、6,9,12-オクタデカトリエン酸コレステリル、11-エイコセン酸コレステリル、9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリル、11,14-エイコサジエン酸コレステリル、5,8,11-エイコサトリエン酸コレステリル、8,11,14-エイコサトリエン酸コレステリル、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリル、15-テトラコセン酸コレステリル、7,10,13,16-ドコサテトラエン酸コレステリル、4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸コレステリル、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸コレステリル、および4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルから選択される。
【0032】
コレステリルエステルの命名法を表1に詳細に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
一実施形態によれば、6つの追加のコレステリルエステルは、9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリル、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリル、9,12-オクタデカジエン酸コレステリル、6,9,12-オクタデカトリエン酸コレステリル、8,11,14-エイコサトリエン酸コレステリル、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリルである。
【0035】
それゆえ、一実施形態によれば、7種のコレステリルエステルの含有量が決定される。
【0036】
本発明者らは実際に、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルの他に、6つの追加のコレステリルエステル、すなわち9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリル、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリル、9,12-オクタデカジエン酸コレステリル、6,9,12-オクタデカトリエン酸コレステリル、8,11,14-エイコサトリエン酸コレステリル、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリルを、血液中に存在する25種の中から同定した。これにより、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の信頼できる正確な決定を得ることが可能となる。
【0037】
「少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量」という表現は、コレステリルエステルの少なくとも1種の脂肪酸の重量パーセンテージを意味すると理解される。
【0038】
当業者は、コレステリルエステルの含有量を決定するための任意の公知の方法を使用することができるであろう。
【0039】
一実施形態によれば、コレステリルエステルの含有量を決定するために、1つの方法は、エステル交換ステップからなる。
【0040】
エステル交換ステップは、コレステリルエステルのステロール部分がアルキル基と交換される酸触媒作用に相当する。アルキル基は、メチル、プロピルまたはブチルから選択される。
【0041】
一実施形態によれば、エステル交換ステップは、コレステリルエステルの脂肪酸のメチル基転移のステップである。
【0042】
コレステリルエステルの含有量は、実際にはコレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルの形成によって決定し得る。コレステリルエステルのメチルエステルは、対応するコレステリルエステルの脂肪酸のメチル基転移後に得られる。
【0043】
典型的には、コレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルは、Morrison & Smith(Morrison & Smith, J. Lipid Res., 1964; 53: 600-608)の方法に従った脂肪酸のメチル基転移後に形成される。
【0044】
本発明により同定されたコレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルは、9,12,15-オクタデカトリエン酸メチルエステル(C18:3 ω-3 メチルエステル)、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸メチルエステル(C22:6 ω-3 メチルエステル)、9,12-オクタデカジエン酸メチルエステル(C18:2 ω-6 メチルエステル)、6,9,12-オクタデカトリエン酸メチルエステル(C18:3 ω-6 メチルエステル)、8,11,14-エイコサトリエン酸メチルエステル(C20:3 ω-6 メチルエステル)、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸メチルエステル(C20:4 ω-6 メチルエステル)、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸メチルエステル(C20:5 ω-3 メチルエステル)である。
【0045】
一実施形態によれば、コレステリルエステルの脂肪酸の25種のメチルエステルの各々の相対重量含有量が決定される。
【0046】
脂肪酸のメチルエステルの相対重量含有量は、Acarら(Acar et al. PLoS One 2012; 7(4): e35102)に記載されているように、当業者に公知の任意の方法、典型的には水素炎イオン化検出に連結されたガスクロマトグラフィーによって分析および決定される。
【0047】
25種のメチルエステルの相対比率を計算し、コレステリルエステルの全脂肪酸の割合として表す。典型的には、前記比率は、当業者に公知の任意のデータインテグレーションソフトウェアから、例えばEZChrom Eliteソフトウェア(Agilent Technologies、Massy、France)を用いて計算され、コレステリルエステルの全脂肪酸の割合として表現される。
【0048】
このステップはコレステリルエステルの少なくとも1種の脂肪酸の重量パーセンテージを決定することを可能にし、したがって、各コレステリルエステルの含有量を決定することを可能にする。
【0049】
用語「相関」は少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量から、好ましくは少なくとも7種のコレステリルエステルの含有量から、より好ましくは7種のコレステリルエステルの含有量からの、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の推定値の計算を意味すると理解される。
【0050】
典型的には、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量が、少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量に基づくアルゴリズムを使用して、好ましくは少なくとも7種のコレステリルエステルの含有量に基づいて、より好ましくは7種のコレステリルエステルの含有量に基づくアルゴリズムを使用して推定される。
【0051】
典型的には、新しいサンプルについて、少なくとも1種のコレステリルエステルのアッセイから、好ましくは少なくとも7種のコレステリルエステルから、より好ましくは7種のコレステリルエステルから、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を予測することを可能にする任意のアルゴリズムによって、計算が行われる。
【0052】
例証として、そしてコレステリルエステルからの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定のために、アルゴリズムは、次式による線形回帰に基づく:
【0053】
【数1】

ここで、C20:5 ω3 ECは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルの含有量に対応し、トレーニングサンプル中の分布に従って、センタリングおよび縮小化されている(以下の表2を参照のこと)。
【0054】
また、例証として、そして少なくとも7種のコレステリルエステルからの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定のために、アルゴリズムはLiquetら(Liquet B et al., Bioinformatics, 2016 Jan 1; 32(1): 35-42)に記載されたスパースグループ(sparse group)部分最小二乗法(sgPLS)に基づく。
【0055】
アルゴリズムは以下4つのステップを含み、優先的には以下の4つのステップからなる:
【0056】
1.少なくとも7種のコレステリルエステルのアッセイから、いくつかの合計および比を計算する。血漿中に含まれるコレステリルエステルのアッセイは間接アッセイである。コレステリルエステルはエステル交換を受け、脂肪酸メチルエステルを生じる。このようにして得られた脂肪酸メチルエステルは、公知の方法、例えばガスクロマトグラフィー、によって定量化される。脂肪酸メチルエステルの相対量は全脂肪酸メチルエステルの割合に相当する。
【0057】
一実施形態では、以下に再現される数式(数2)に存在する合計および比が、25種のコレステリルエステル脂肪酸メチルエステルから得られる対象の7種の分子のアッセイから計算される。
【0058】
25種のコレステリルエステル脂肪酸メチルエステルから得られる対象の7種の分子は以下のとおりである:9,12,15-オクタデカトリエン酸メチルエステル(C18:3 ω-3 メチルエステル)、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸メチルエステル(C20:5 ω-3 メチルエステル)、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸メチルエステル(C22:6 ω-3 メチルエステル)、9,12-オクタデカトリエン酸メチルエステル(C18:2 ω-6 メチルエステル)、6,9,12-オクタデカトリエン酸メチルエステル(C18:3 ω-6 メチルエステル)、8,11,14-エイコサトリエン酸メチルエステル(C20:3 ω-6メチルエステル)、および5,8,11,14-エイコサトリエン酸メチルエステル(C20:4 ω-6 メチルエステル)。
【0059】
数式は以下に詳しく示す。
【0060】
【数2】

式中において:
- C20:5ω3_ECは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルの含有量に相当する;
- C22:6ω3_ECは、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルの含有量に相当する;
- Tot_ω3_ECは、9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリル、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸コレステリル、および4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルの含有量の合計に相当する;
- ratio_ω6_ω3_ECは、9,12-オクタデカジエン酸コレステリル、6,9,12-オクタデカトリエン酸コレステリル、11,14-エイコサジエン酸コレステリル、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリル、7,10,13,16-ドコサテトラエン酸コレステリル、および4,7,10,13,16-ドコサペンタエン酸コレステリルの含有量の合計の、9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリル、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸コレステリル、および4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルの含有量の合計に対する比率に相当する;
- ratio_diet ω3_ω6_ECは、9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリル、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル、および4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルの含有量の合計の、9,12-オクタデカジエン酸コレステリルの含有量に対する比率に相当する;
- ratio_EPADPAω3DHA_AA_ECは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸コレステリル、及び4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルの含有量の合計の、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリルの含有量に対する比率に相当する;
- ratio_AA_EPA_ECは、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリルの含有量の、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルの含有量に対する比率に相当する;
- tot_ω3_LC_ECは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル、7,10,13,16,19-ドコサペンタエン酸コレステリル、及び,4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルの含有量の合計に相当する。
【0061】
2.全てのパラメータは、トレーニングサンプルの平均および標準偏差を使用して、センタリングおよび縮小化される(試験サンプルがトレーニングサンプルと同じ分布から生じると仮定している)。トレーニングサンプルの平均および基準偏差を以下の表に示す:
【0062】
【表2】
【0063】
3.センタリング-縮小化試験サンプルからの数式の計算。
【0064】
4.網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の予測を得るために、ステップ3で得られた結果に、トレーニングサンプルの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の標準偏差を乗じる。このようにして得られた値を、トレーニングサンプルの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の平均に加算する。
【0065】
トレーニングサンプルの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の標準偏差および平均は、以下の通りである:
- 平均値:16.64348
- 標準偏差:2.915459
【0066】
表現「トレーニングサンプル」は、46人の死後ドナーのサンプルを意味すると理解され、予測アルゴリズムを得るためにsgPLS方法が適用された。
【0067】
「試験サンプル」という表現は、オメガ-3脂肪酸の網膜含有量を決定することが所望される対象からの血液サンプルを意味すると理解される。
【0068】
本発明の方法によれば、血液サンプルは、全血、血清および血漿から選択される。
【0069】
好ましくは、サンプルは血漿である。
【0070】
一実施形態では、本発明による方法が血液収集および血漿の単離のステップを含む。当業者は、血漿を単離するための任意の公知の方法を使用することができるであろう。典型的には、血漿は、全血のサンプルを遠心分離することによって赤血球から分離することができる。
【0071】
本発明による方法は、全脂質を抽出するステップをさらに含む。
【0072】
全脂質は、それ自体、当業者に公知の任意の方法によって、血液サンプルから抽出され得る。典型的には血漿、血液および血清の全脂質はMoilanen & Nikkari(Moilanen & Nikkari, Clin. Chim. Acta. 1981; 114(1): 111-116)の方法によって抽出される。
【0073】
本発明の方法はさらに、全脂質からコレステリルエステルを単離するステップを含む。
【0074】
典型的には、コレステリルエステルが当業者に公知の任意の方法によって全脂質から単離される。例証として、コレステリルエステルは、Bretillonら 2008(Bretillon et al., Exp. Eye Res., 2008; 87(6): 521-528)に記載されている手順に従って全脂質から単離される。
【0075】
(オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理を予防する方法)
【0076】
本発明は、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を、本発明のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定方法で決定することを含む、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理を予防する方法に関する。
【0077】
「オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理」という表現は、網膜中の多価不飽和脂肪酸の含有量の減少に少なくとも部分的に関連する任意の病理を意味すると理解される。
【0078】
具体的には、ヒト網膜の主要成分として、オメガ-3多価不飽和脂肪酸、特にDHAは網膜の構造および機能に必須である(SanGiovanni, J.P. & Chew, E.Y., The role of omega-3 long-chain polyunsaturated fatty acids in health and disease of the retina, Prog. Retin. Eye Res., 24, 87-138 (2005))。オメガ-3多価不飽和脂肪酸の最高含有量は網膜光受容体細胞の外膜に見出され(Fliesler, S.J. & Anderson, R.E., Chemistry and metabolism of lipids in the vertebrate retina, Prog. Lipid Res. 22, 79-131 (1983))、ここで、それらは抗炎症活性、抗アポトーシス活性および抗血管新生活性によって重要な生物学的機能を実行する。死後の研究において、網膜病理に罹患している眼におけるDHAの濃度は、同じ年齢のコントロールよりも有意に低かった(Liu, A., Chang, J., Lin, Y., Shen, Z. & Bernstein, P.S. Long-chain and very long-chain polyunsaturated fatty acids in ocular aging and age-related macular degeneration, J. Lipid Res., 51, 3217-3229 (2010))。
【0079】
一実施形態によれば、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理は、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症などの網膜症である。
【0080】
眼の血管新生は失明の最も一般的な原因であり、これは年齢に関係なく全ての患者集団にみられる。すなわち、乳児の未熟児網膜症、成体の糖尿病性網膜症および高齢者の加齢黄斑変性である。網膜症(網膜新生血管の出現と、マウス眼の病変後のこれらの血管の成長の評価)を研究するために、動物モデルを開発した。
【0081】
低酸素症誘発網膜症モデルマウスを用いて、オメガ-3,オメガ-6多価不飽和脂肪酸の、傷害及びそれゆえに誘発された病理的血管新生の後の血管増殖に及ぼす影響を研究した。オメガ-3多価不飽和脂肪酸の摂取量の増加が、病理的血管新生を減少させることが実証された。したがって、オメガ-3多価不飽和脂肪酸サプリメントを摂取することは網膜症の予防に有利であろう(Kip M Connor et al., (2007), Increased dietary intake of ω-3-polyunsaturated fatty acids reduces pathological retinal angiogenesis, Nature Medicine; doi:10.1038/nm1591)。
【0082】
(加齢黄斑変性症(AMD))
【0083】
1つの実施形態によると、病理は加齢黄斑変性(AMD)である。
【0084】
実際、AMDに罹患した対象の網膜中の多価不飽和脂肪酸の含有量が減少したことが実証されている(Liu, A., Chang, J., Lin, Y., Shen, Z. & Bernstein, P.S., Long-chain and very long chain polyunsaturated fatty acids in ocular aging and age-related macular degeneration, J. Lipid Res., 51, 3217-3229 (2010))。
【0085】
多くの刊行物はまた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の高食物摂取に関連するAMDのリスクの減少(Chong, E.W., Kreis, A.J., Wong, T.Y., Simpson, J.A. & Guymer, R.H., Dietary omega-3 fatty acid and fish intake in the primary prevention of age-related macular degeneration: a systematic review and meta-analysis, Arch. Ophthalmol., 126, 826-833 (2008))、およびオメガ-3多価不飽和脂肪酸の高血中濃度に関連するAMDのリスクの減少(Merle BM, DElyfer MN, Korobelnik JF, Rougier MB, Malet F, Feart C, Le Goff M, Peuchant E, Letenneur L, Dartigues JF, Colin J, Barberger-Gateau P, Delcourt C., High Concentrations of Plasma n3 Fatty Acids Are Associated with Decreased Risk for Late Age-Related Macular Degeneration, J. Nutr. 143: 505-11 (2013))を記載している。
【0086】
AMDの初期および中間段階は、色素上皮における色素減少型および/または色素過剰型およびドルーゼンの悪変を含み、視機能における重大な変化の原因ではない。
【0087】
後期(AMD)は滲出型(湿潤または新生血管型)と萎縮型(乾燥型)に対応し、中心視力の重度の悪変の原因となっている。研究によると、滲出型AMDの有病率は後期段階の35%~65%に相当する。
【0088】
早期および中間AMD:
【0089】
早期および中間のAMDは、以下の要素を1つ以上組み合わせる:
- 中間ドルーゼン:黄斑周囲領域(直径63μm~125μm)に観察される小さな無症候性の黄色みがかったスポット;
- 大きなドルーゼン(「漿液性」ドルーゼンとも呼ばれる):より大きな大きさのドルーゼン(125μmを超える)で、通常は無症候性であるが、夜間視力の低下を伴うことがある;
- 色素上皮の、色素減少型または色素過剰型の色素悪変。それらは色素上皮の細胞の死を反映している。
【0090】
滲出性AMD
【0091】
滲出型AMDは、ブルッフ膜を通過して色素上皮下または網膜下腔で増殖する脈絡膜新生血管の増殖を特徴とする。
【0092】
萎縮性AMD
【0093】
萎縮型AMD(または地図状委縮)は、少なくとも直径175μmであり、エッジが鮮明で、脈絡膜血管の視認性が高まっている、網膜の1つ以上の範囲の色素脱失によって特徴づけられる。
【0094】
表3のように、AMDの診断及びモニタリングのための、4つの段階に単純化された分類が使われることがある(Ferris FL 3rd, Wilkinson CP, Bird A, Chakravarthy U, Chew E, Csaky K, Sadda SR, Clinical classification of age-related macular degeneration, Ophthalmology, 2013; 120: 844-51)。
【0095】
【表3】
【0096】
AMDの後期形態はカテゴリー4に対応し、新生血管形態および地図状委縮を含む。これらは、一般にすでに視力が低下している患者である。
【0097】
(糖尿病性網膜症)
【0098】
糖尿病性網膜症(DR)は、米国およびヨーロッパにおける50歳未満の失明の主要原因を代表する糖尿病の微小血管合併症である。
【0099】
血液中の糖分が過剰になると、毛細血管の壁が弱くなる。これに続いて、網膜血管が破裂し、次いで決壊する。徐々に、網膜の広範囲に酸素が供給されなくなる。これに反応して、網膜は新しい、さらに弱い血管をつくる。この現象は漸増し、視覚中心が位置する黄斑まで広がる。黄斑が肥厚し、黄斑浮腫が生じ、それが視力低下の原因となり、これは非常に重大で、部分的にしか可逆的ではない可能性がある(Federation Francaise des Diabetiques la retinopathie diabetique et les maladies des yeux [French Federation of Diabetics, diabetic retinopathy and eye diseases])。
【0100】
ドコサヘキサエン酸(DHA、C:22 6n-3)およびアラキドン酸(AA、C20:4n-6)などの長鎖多価不飽和脂肪酸(LCPUFA)は、グルコースおよび脂質の代謝と同様に、糖尿病の病因において重要な役割を果たす。
【0101】
n-3ファミリーのLCPUFAは、糖尿病性網膜症経路の病理生態に関与する多くの細胞および生化学的過程を阻害し、糖尿病によって生じる網膜症血管損傷を防止することが実証されている(Koehrer P, Saab S, Berdeaux O, Isaico R, Gregoire S, et al., (2014) Erythrocyte Phospholipid and Polyunsaturated Fatty Acid Composition in Diabetic Retinopathy, PLoS ONE 9(9): e106912. doi:10.1371/journal.pone.0106912)。
【0102】
Sala-Vila,A.ら(Dietary Marine ω-3 Fatty Acids and Incident Sight-Threatening Retinopathy in Middle-Aged and Older Individuals With Type 2 Diabetes: Prospective Investigation From the PREDIMED Trial, JAMA Ophthalmol., 134 (10): 1142-1149 (2016))およびSasaki,M.ら(The Associations of Dietary Intake of Polyunsaturated Fatty Acids With Diabetic Retinopathy in Well-Controlled Diabetes, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci., 56 (12): 7473-7479 (2015))も、糖尿病性網膜症に罹患している対象内の、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の代謝における異常を実証している。
【0103】
多くの論文はまた、動物における糖尿病に起因する網膜障害の予防を示している(Shen, J.H. et al., Effect of α-linolenic acid on streptozotocin-induced diabetic retinopathy indices in vivo, Arch. Med. Res., 44 (7), 514-520 (2013), Tikhonenko, M. et al., N-3 Polyunsaturated Fatty Acids Prevent Diabetic Retinopathy by Inhibition of Retinal Vascular Damage and Enhanced Endothelial Progenitor Cell Reparative Function, PLoS One 8 (1): e55177 (2013), Sapieha, P. et al., Omega-3 polyunsaturated fatty acids preserve retinal function in type 2 diabetic mice, Nutr. Diabetes 23; 2: e36. doi: 10.1038/nutd.2012.10 (2012), Tikhonenko, M. et al., Remodeling of Retinal Fatty Acids in an Animal Model of Diabetes: A Decrease in Long-Chain Polyunsaturated Fatty Acids Is Associated With a Decrease in Fatty Acid Elongases Elovl2 and Elovl4, Diabetes, 59 (1): 219-227 (2010))。
【0104】
(未熟児網膜症)
【0105】
未熟児網膜症(ROP)は未熟児に影響を及ぼす神経血管疾患である。この病理は、網膜血管の成長の減少および微小血管変性の第一相、ならびに病的新生血管の第二相を誘発する種々の因子によって誘発され、網膜の剥離を生じる可能性がある。
【0106】
脳と網膜の発達は、妊娠第三期に起こる。長鎖多価不飽和脂肪酸は母親から胎児に選択的に移動する。これらの中で、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびアラキドン酸(AA)が最も豊富である。
【0107】
標準的な治療では、未熟児がこれらの脂肪酸の低い血清含有量によって証明されるように、不十分な量のDHAおよびAAを受ける。
【0108】
オメガ-3とオメガ-6の栄養摂取量を比較した動物を用いたインビボ試験の結果から、これらの必須食物性脂質が網膜の健康に影響を及ぼすことが示唆される。長鎖多価不飽和脂肪酸について行われた研究は主にオメガ-3の役割に焦点を当てており、長鎖多価不飽和脂肪酸、より詳細にはDHAが脳および眼の発達に必須であることを実証している。
【0109】
また、未熟児網膜症の病因には、アラキドン酸の血清中濃度が低いことが関与している可能性があることが観察されている(Chatarina A. Lofqvist, PhD; Svetlana Najm, MD; Gunnel Hellgren, PhD; Eva Engstrom, MD, PhD; Karin Savman, MD, PhD; Anders K. Nilsson, PhD; Mats X. Andersson, PhD; Anna-Lena Hard, MD, PhD; Lois E. H. Smith, MD, PhD; Ann Hellstrom, MD, PhD, 2018, Association of Retinopathy of Prematurity With Low Levels of Arachidonic Acid, A Secondary Analysis of a Randomized Clinical Trial, JAMA Ophthalmol. doi:10.1001/jamaophthalmol.2017.6658)。
【0110】
未熟児網膜症に罹患した乳児におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸の代謝異常のこの証明はPallot,C.ら(Alteration of erythrocyte membrane polyunsaturated fatty acids in preterm newborns with retinopathy of prematurity, Sci. Rep. 9, 7930 (2019))およびMartin,C.R.ら(Decreased postnatal docosahexaenoic and arachidonic acid blood levels in premature infants are associated with neonatal morbidities, J. Pediatr. 159, 743-749, e741-742 (2011))によっても記載されている。
【0111】
2つの論文はまた、未熟な網膜症の動物モデルにおける網膜表現型に対するオメガ-3多価不飽和脂肪酸およびその酸素化誘導体の効果を示す(Connor, K. M. et al., Increased dietary intake of omega-3-polyunsaturated fatty acids reduces pathological retinal angiogenesis, Nat. Med. 13, 868-873 (2007)およびStahl, A. et al., Lipid metabolites in the pathogenesis and treatment of neovascular eye disease, Br. J. Ophthalmol. 95, 1496-1501 (2011))。
【0112】
(予防方法)
【0113】
用語「予防」または「予防方法」は絶対的な用語ではなく、網膜症などのオメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理に適用される場合、成功の可能性が低い場合であっても、設計された処置または行動計画を示すが、病理の出現の遅延、または1つ以上の症状の重大さの減少、または病理の安定化など、全体的な有益な作用を誘導しなければならない。
【0114】
典型的には、AMDおよび糖尿病性網膜症の場合、予防には病理の予防だけでなく、病理の悪化の予防も含まれる。
【0115】
AMDあるいは糖尿病網膜症の予防には病理の出現の遅れが含まれる。
【0116】
AMDまたは糖尿病性網膜症の悪化の防止には、AMDまたは糖尿病性網膜症に罹患している患者における失明の遅延または視力の低下の遅延が含まれる。
【0117】
典型的には、未熟児網膜症の場合、その予防は、病理の出現の予防から病理の重症化の予防まで多岐にわたる。
【0118】
典型的には、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の増加が病理および/または重症度の出現および/または悪化のリスクの減少に関連する。
【0119】
本発明による予防方法は、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量のインビトロ決定に基づくインビトロ予防方法である。実際、この決定は、全血、血清および血漿、優先的には血漿から選択される血液サンプルに対して行われる。
【0120】
(オメガ-3の欠乏に関連する網膜病理を治療する方法)
【0121】
本発明はまた、以下を含む、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理を治療する方法にも関する:
- 対象の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定であって、前記対象からの血液サンプル中の少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量の定量を含み、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は前記少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量に相関し、前記少なくとも1種のコレステリルエステルは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルである、決定;
- 治療を必要とする対象への治療の投与。
【0122】
典型的には、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理が加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症および未熟児網膜症などの網膜症である。
【0123】
それゆえ、本発明はまた、以下を含む、加齢黄斑変性を治療する方法にも関する:
- 対象の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定であって、前記対象からの血液サンプル中の少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量の定量を含み、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は前記少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量に相関し、前記少なくとも1種のコレステリルエステルは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルである、決定;
- 治療を必要とする対象への治療の投与。
【0124】
典型的には、前記治療は、任意でビタミンおよびミネラルの投与と組み合わされた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸に基づく栄養補給剤から選択することができる。
【0125】
本発明はまた、以下を含む、糖尿病性網膜症を治療する方法にも関する:
- 対象の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定であって、前記対象からの血液サンプル中の少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量の定量を含み、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は前記少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量に相関し、前記少なくとも1種のコレステリルエステルは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルである決定;
- 治療を必要とする対象への治療の投与。
【0126】
典型的には、前記治療は、任意でビタミンおよびミネラルの投与と組み合わされた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸に基づく栄養補給剤から選択することができる。
【0127】
本発明はまた、以下を含む、未熟児網膜症を治療する方法にも関する:
- 対象の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の決定であって、前記対象からの血液サンプル中の少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量の定量を含み、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は前記少なくとも1種のコレステリルエステルの含有量に相関し、前記少なくとも1種のコレステリルエステルは、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルである、決定;
- 治療を必要とする対象への治療の投与。
【0128】
典型的には、前記治療は、任意でビタミンおよびミネラルの投与と組み合わされた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸に基づく栄養補給剤から選択することができる。
【0129】
(オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理の治療をモニターする方法)
【0130】
本発明は、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する病理の治療をモニターする方法に関し、以下のステップを含む:
- 少なくとも1種の治療を投与するステップ;
- 本発明の決定方法に従って、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定するステップ。
【0131】
本発明はまた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する病理の治療をモニターする方法であって、治療が投与された患者の網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を、本発明の決定方法で決定することを含む方法に関する。
【0132】
典型的には、前記治療は、任意でビタミンおよびミネラルの投与と組み合わされた、オメガ-3多価不飽和脂肪酸に基づく栄養補給剤である。
【0133】
一実施形態によれば、病理は、加齢黄斑変性、糖尿病性網膜症および未熟児網膜症から選択される網膜症である。
【0134】
新たな予防戦略の中で、オメガ-3多価不飽和脂肪酸は通常の網膜構造と機能とを促進することを可能にし、また、AMDの発生を抑制し、進行を遅らせることを可能にする(SanGiovanni, J.P. & Chew, E.Y., The role of omega-3 long-chain polyunsaturated fatty acids in health and disease of the retina, Prog. Retin. Eye Res., 24, 87-138 (2005))だけでなく、すべての網膜症を予防することを可能にする(Kip M Connor et al., (2007), Increased dietary intake of ω-3-polyunsaturated fatty acids reduces pathological retinal angiogenesis, Nature Medicine; doi:10.1038/nm1591))。
【0135】
典型的には、網膜の含有量のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の増加は、治療の効力と同義である。
【0136】
本発明のモニター方法は、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量のインビトロでの決定に基づくインビトロモニター方法である。実際、この決定は、全血、血清および血漿、優先的には血漿から選択される血液サンプルに対して行われる。
【0137】
(オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏の診断方法)
【0138】
本発明は、本発明の決定方法により網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定することを含む、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏の診断方法に関する。
【0139】
「オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏」という表現は健常な対象、すなわち多価不飽和脂肪酸の欠乏を有さない対象と比較して、多価不飽和脂肪酸の欠乏を意味すると理解される。
【0140】
典型的には、網膜の含有量のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の減少は、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏と同義である。
【0141】
一実施形態では、対照サンプルとの比較が行われる。「対照サンプル」という表現は健常な対象、すなわち多価不飽和脂肪酸に欠乏がない対象における値の分布を意味すると理解される。対照群の健常な対象における網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は、本発明の方法によって決定される。
【0142】
本発明による診断方法は、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量のインビトロでの決定に基づくインビトロ診断方法である。実際、この決定は、全血、血清および血漿、優先的には血漿から選択される血液サンプルに対して行われる。
【0143】
〔実施例〕
以下の実施例において、本発明者らは、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定するために、最高の予測性能を有する循環脂質を決定した。
【0144】
これらの実施例において、ドナーからの眼および血液の収集に由来するデータは、7種のコレステリルエステルの血漿中濃度に基づくアルゴリズムを確立することを可能にし、オメガ-3脂肪酸の網膜含有量を決定することを可能にした(実施例1)。
【0145】
本発明者らはさらに、AMDとオメガ-3多価不飽和脂肪酸の網膜の状態との間の関連性(実施例2)、およびオメガ-3多価不飽和脂肪酸の食物サプリメントの影響(実施例3)を実証し、それゆえ、これらの7種のコレステリルエステルの組合せが、網膜症、より特別にはAMDの危険性のある対象を同定するために個別化医薬を開発すること、および/またはオメガ-3多価不飽和脂肪酸のサプリメントをモニターすることを可能にするバイオマーカーを構成することを示した。5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル単独の予測能力も、実施例4で実証されている。
【0146】
(材料及び方法)
【0147】
以下の実施例では、以下に詳細に示す材料および方法を使用した。
【0148】
ヒトを対象とした研究はヘルシンキ宣言の指針に従って実施した。書面による同意を得て、プロトコルは地方倫理委員会(CPP Sud Est I、university hospital、Saint Etienne、France; CPP Est III、university hospital、Dijon、France; CPP Sud-Ouest et Outre Mer III、university hospital、Bordeaux、France)によって受理された。
【0149】
(ドナー研究)
ヒトの眼球、血漿および赤血球は46名のドナーから得られた(献体、女性30名および男性16名、年齢中央値86.5歳、四分位範囲76~92歳)。組織を収集し、既に記載され、当業者に公知の手順に従って調製した。サンプルは、他の分析まで-80℃で保存した。
【0150】
(症例献体-対照献体研究)
対象は、類似の方法を用いる、Bordeaux(Alienor研究)およびDijon(Montrachet研究)で進行中の2つの研究から選択された。2009年から2011年の間に、参加者は75歳以上で、眼の検査と空腹時採血を受けていた。眼科検査はBordeauxとDijonの大学病院の眼科で行われ、眼科履歴、視力および屈折測定、ならびに45°無散瞳網膜写真2枚から構成されていた。網膜写真は、国際分類に従って、およびドルーゼンの大きさ、位置および表面積についてのアテローム性動脈硬化症の多民族研究において使用される分類システムの改変に従って解釈された。参加者は、最も悪い眼によって、以下の3つの排他的なグループに分類された:
- AMDなし、
- 早期AMD(漿液性ドルーゼン(>125ミクロン)および/または網状ドルーゼンおよび/または色素異常の存在);
- 後期AMD(地図状委縮または新生血管疾患)。
AMDの症例献体は後期AMD(地図状委縮または新生血管疾患)に罹患しており、対照献体は早期または後期AMDのいずれの形態もなく、視力が20/40を超えていた。症例献体と対照献体の両方の除外基準は、緑内障の存在と糖尿病の存在であった。
2009~2011年に眼検査と空腹時採血を受けた参加者から31症例献体を同定し、対照献体を年齢(+/-2歳)、性別および脂質低下薬の使用について1:1の比率でマッチングした。
血漿サンプルは、脂質の分析まで-80℃で保存した。
【0151】
(補給研究)
血漿サンプルは、「AMD親に由来する人の黄斑へのルテイン効果(Lutein Influence on Macula of Persons Issued From AMD Parents(LIMPIA))」と題した二重盲検無作為化臨床試験(Korobelnik JF, Rougier MB, Delyfer MN, Bron A, Merle BMJ, Savel H, Chene G, Delcourt C, Creuzot-Garcher C., Effect of Dietary Supplementation With Lutein, Zeaxanthin, and Omega-3 on Macular Pigment: A Randomized Clinical Trial, JAMA Ophthalmol., 2017; 135: 1259-66)に参加した55人の対象から得た。40歳から70歳までの良好な健康状態の成人参加者を募集した。各参加者はルテイン、ゼアキサンチン、ビタミンC、ビタミンE、亜鉛、銅、レスベラトロール、並びにオメガ-3多価不飽和脂肪酸に富む魚油(Nutrof Total、Laboratoires Thea)を含有する栄養補助食品の1日当たり2つのカプセル、又はパラフィンを含有するプラセボのいずれかを受けるように、1:1の比率で無作為化された。血液サンプルを、補給の開始時ならびに3ヶ月および6ヶ月後に収集した。全血を4℃で10分間3000rpmで遠心分離して、赤血球から血漿を単離した。血漿サンプルは、より高度な分析まで-80℃で保存した。
【0152】
(統計解析)
ドナー研究:最低の予測誤差を有するモデルはLiquetら(Liquet B et al., Bioinformatics, 2016, Jan 1; 32(1): 35・42)によって記載された部分最小二乗回帰法の拡張(sgPLSすなわちスパースグループPLS)を用いて得られた。
症例献体-対照献体研究:網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量、血漿中および赤血球中の総オメガ-3多価不飽和脂肪酸の、症例献体と対照献体との間の差異を、症例献体-対照献体ペアのランダム因子を用いて、年齢、ボディマスインデックス、喫煙、オメガ-3サプリメントの使用、HDLコレステロールおよびLDLコレステロールの関数として調整した混合線形回帰により評価した。
補給研究:年齢、性別、ボディマスインデックス(BMA)、およびHDLとLDLコレステロールの関数として調整した線形回帰モデルを用いて、補給下の参加者とプラセボ下の参加者との間で、コレステリルエステルの血漿濃度と網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量を比較した。
【0153】
0.05を下回るp値はすべて、統計的に有意であるとみなした。症例献体-対照献体研究および補給研究のための分析は、SASソフトウェア(SAS、バージョン9.4; SAS Institute Inc、Cary、North Carolina、United States)を用いて行った。
【0154】
(実施例1:網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量のバイオマーカーの同定)
【0155】
(理論的根拠)
血液は、白血球および赤血球を含む細胞成分、血小板、ならびに血漿と呼ばれる液体部分によって構成される複雑な流体である。血液脂質は主に、赤血球の膜および血漿リポタンパク質粒子中に見出される。赤血球の膜は、ほとんどもっぱらリン脂質から構成される。約120日の寿命のために、赤血球のリン脂質の脂肪酸組成は、脂質の長期間の食物摂取を代表する。さらに、血漿リポタンパク質は、食物脂質および炭水化物からそれぞれ腸および肝臓で形成されるトリグリセリドを主に輸送する構造で、カイロミクロンおよび超低密度リポタンパク質(VLDL)などの生物学的に重要な脂質化合物を輸送する。その脂肪酸組成は、非常に短期間の食物摂取と関連している。対照的に、低密度リポ蛋白質(LDL)と高密度リポ蛋白質(HDL)は、肝臓と末梢組織との間の脂質の2方向輸送に関与する。それらは、リン脂質(特にホスファチジルコリンのサブクラス)およびコレステリルエステルに富む。LDLおよびHDLの脂肪酸組成は、食物脂肪の中期消費の指標であると考えられる。
【0156】
これらの血液コンパートメントのうちの1つ以上の脂質が、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量およびオメガ-3多価不飽和脂肪酸補給の信頼できるインジケータを構成し得るかどうかを決定するために、BLISAR(網膜エージングにおける脂質状態および代謝のバイオマーカー(Biomarkers of LIpid Status And metabolism in Retinal ageing))研究を2015年と2018年との間に実施した。
【0157】
(結果)
【0158】
Saint-Etienne大学からの46人のヒトドナーの血中および眼組織(献体)を分析し、リピドミクスによってその脂肪酸組成を決定した。網膜脂質および総血漿脂質に加えて、食物脂質の長期および中期マーカーを、血漿(全脂質、ホスファチジルコリンおよびコレステリルエステル)ならびに赤血球の脂肪酸組成を単離および分析することによって研究した。脂肪酸プロフィールにより、網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸の定量的重要性が確認された(16.8%に対して、赤血球における3.4%および血漿の全脂質における2.9%)。
【0159】
脂質分析により、332の異なる種に対応する4つの血液コンパートメント(赤血球、総血漿、血漿ホスファチジルコリンおよび血漿コレステリルエステル)中に存在する脂質に関する組のデータを生成した。
【0160】
最小予測誤差を有するモデルは、部分最小二乗回帰法の拡張(sgPLSすなわちスパースグループPLS)を使用して得られ、交差検定によって得られた、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の観察値と予測値との間の、0.62の相関係数によって特徴付けられた。網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸含有量のこの予測因子は、7種のコレステリルエステルの血漿濃度を組み合わせたアルゴリズムに基づく。
【0161】
同定されたコレステリルエステルの3つは、オメガ-3多価不飽和脂肪酸のファミリー、すなわち、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル、9,12,15-オクタデカトリエン酸コレステリルおよび4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸コレステリルに由来する。
【0162】
他の4つのコレステリルエステルは、オメガ-6多価不飽和脂肪酸のファミリー、すなわち9,12-オクタデカジエン酸コレステリル、6,9,12-オクタデカトリエン酸コレステリル、8,11,14-エイコサトリエン酸コレステリルおよび5,8,11,14-エイコサテトラエン酸コレステリルから得られる。
【0163】
前述のコレステリルエステルのメチルエステルは、コレステリルエステルの脂肪酸の相対量を決定および測定するために使用される。オメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定する方法を以下に詳細に示す:
【0164】
(網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定する方法)
【0165】
網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸を決定する方法は、いくつかのステップに分解される:
1.採血および血漿の単離;
2.血漿からの全脂質の抽出;
3.全脂質からのコレステリルエステルの単離;
4.コレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルの形成、換言すれば、メチルエステルは、コレステリルエステルの加水分解から生じる脂肪酸から形成される;
5.コレステリルエステルの脂肪酸の25種のメチルエステルの相対量の決定;
6.7種のコレステリルエステルの脂肪酸メチルエステルの相対量からの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸含有量の推定値の計算。
【0166】
採血および血漿の単離
EDTA、クエン酸塩またはヘパリンで処理したチューブに静脈穿刺することにより、ヒト対象から血液サンプルを採取する。赤血球から血漿を分離するために、全血を含むチューブを3000rpmで10分間、4℃で遠心分離する。血漿を含む上相を取り出し、乾燥チューブに貯蔵する。血漿の全脂質は直ちに抽出され得るか、または血漿サンプルは残りの手順を待つ間に凍結され得る。
【0167】
血漿の全脂質の抽出
血漿の全脂質を、Moilanen & Nikkari(Moilanen & Nikkari, Clin. Chim. Acta, 1981; 114(1): 111・116)の方法によって抽出する。ガラスチューブ中で、5ミリリットルのクロロホルム/メタノール(1:1、v:v)混合物を、約450マイクロリットルの体積の血漿に添加する。チューブを1分間ボルテックス混合し、次いで3000rpmで3分間遠心分離する。上相を、パスツールピペットを用いて別のガラスチューブ中に単離する。この第2のチューブに4ミリリットルのクロロホルムを加え、3ミリリットルの酸性塩化ナトリウム(17mmol/L)も加える。チューブを1分間ボルテックス混合し、次いで3000rpmで3分間遠心分離する。上相をパスツールピペットを用いて除去し、次いで血漿脂質の抽出物を含有する下相をガラスサンプルバイアルに単離する。全脂質の抽出物を最初に窒素気流下で乾燥し、次いでクロロホルム中で10mg/mlの濃度に希釈する。コレステリルエステルは、全脂質から直ちに単離され得るか、または残りの手順を待つ間に凍結され得る。
【0168】
全脂質からのコレステリルエステルの単離
Bretillonら、2008(Bretillon et al., Exp. Eye Res., 2008; 87(6): 521-528)に記載されている手順に従って、全脂質からコレステリルエステルを単離する。シリカゲルでカバーされたガラスプレートを、酢酸エチル100mLが入っている移動タンク中で予備洗浄する。次いで、これを120℃のオーブンに30分間入れて、活性化させる。抽出された全脂質を、ガラスシリンジを使用して約3cmのバンドの形態でプレート上に堆積させ、次いでプレートを、101ミリリットルのヘキサン/エチルエーテル/酢酸エチル(80:20:1、v:v:v)混合物を含有するクロマトグラフィー移動タンク中に25~30分間置く。次に、プレートをタンクから取り出し、換気フード下に数分間放置する。次いで、それを2’,7’-ジクロロフルオレセインの蒸発に暴露し、次いで366nmの紫外線下で観察する。沈着物から約8~9cmに位置するコレステリルエステルを含有するシリカのバンドを鉛筆を用いてマーキングし、次にかみそりの刃を用いて引っ掻いて、1ミリリットルのトルエンを添加したガラスチューブ中に回収する。単離されたコレステリルエステルは、クロマトグラフィー分析のための調製において直ちにメチル基転移されるか、または残りの手順を待つ間、4℃で保存されてもよい。
【0169】
コレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルの形成
コレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルは、Morrison & Smith(Morrison & Smith, J. Lipid Res., 1964; 53: 600・608)の方法に従って、メチル基転移によって形成される。1ミリリットルの三フッ化ホウ素/メタノール(1:1、v:v)混合物を、コレステリルエステルおよびトルエンと共に、シリカゲルの入っているチューブに添加する。チューブを95℃のオーブンに2時間入れる。次いで、それを周囲温度に冷却する。5ミリリットルの重炭酸ナトリウムおよび5ミリリットルのヘキサンを添加した後、チューブを1分間ボルテックス混合し、次いで3000rpmで3分間遠心分離する。上相をパスツールピペットを用いてガラスチューブ中に単離する。コレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルを窒素気流下で乾燥した後、それらを1ミリリットルのヘキサン中に希釈する。コレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルは、ガスクロマトグラフィーによって直ちに分析されるか、または残りの手順を待つ間、4℃で保存されてもよい。
【0170】
コレステリルエステルの脂肪酸のプロフィールの決定
コレステリルエステルの脂肪酸のプロフィールは、Acarら(Acar et al. PLoS One 2012; 7(4): e35102)に従って、水素炎イオン化検出に連結されたガスクロマトグラフィーによって決定される。コレステリルエステルの脂肪酸のメチルエステルを、CPSIL・88カラム(100m×内径0.25mm、フィルム厚0.20μm、Varian、Les Ulis、France)を備えたガスクロマトグラフに注入する。水素は、210kPaの圧力でキャリアガスとして使用される。クロマトグラフのオーブンの温度は5分間60℃であり、次いで、15℃/分で165℃に上昇する。165℃で1分間保持した後、2℃/分で225℃に上昇させる。それを225℃で17分間保持する。インジェクタおよび検出器の温度は250℃に設定されている。脂肪酸メチルエステルは、それらの保持時間を商業規格の保持時間と比較することによって同定される。25種のメチルエステルの相対比率はEZChrom Eliteソフトウェア(Agilent Technologies、Massy、France)を用いて計算し、コレステリルエステルの全脂肪酸の割合として表す。
【0171】
網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸含有量の推定値の計算
コレステリルエステルの脂肪酸の7種のメチルエステルの相対%の使用:9,12,15-オクタデカトリエン酸メチルエステル(C18:3n-3 メチルエステル)、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸メチルエステル(C20:5n-3 メチルエステル)、4,7,10,13,16,19-ドコサヘキサエン酸メチルエステル(C22:6n-3 メチルエステル)、9,12-オクタデカジエン酸メチルエステル(C18:2n-6 メチルエステル)、6,9,12-オクタデカトリエン酸メチルエステル(C18:3n-6 メチルエステル)、8,11,14-エイコサトリエン酸メチルエステル(C20:3n-6 メチルエステル)、5,8,11,14-エイコサテトラエン酸メチルエステル(C20:4n-6 メチルエステル)。
数学的アルゴリズムは、新たなサンプル(試験サンプル)について、上記で提示された血漿中のコレステリルエステルの7種の分子のアッセイから、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を予測することを可能にする。このアルゴリズムは46人のヒトドナー(トレーニングサンプル)から収集された網膜、血漿および赤血球のサンプルに適用された、Liquetら(Liquet B et al., Bioinformatics, 2016, Jan 1; 32(1): 35・42)によって記載されたスパースグループ部分最小二乗{sgPLS}法に基づく。
【0172】
数学的アルゴリズムは、4つのステップからなる:
1.いくつかの合計および比を、目的の7種の分子のアッセイから計算する。
2.全てのパラメータは、トレーニングサンプルの平均値及び標準偏差(これは試験サンプルがトレーニングサンプルと同じ分布から得られると仮定する)を用いて、センタリングおよび縮小化される。
3.sgPLSによって得られたモデルは、ステップ2で得られた値に適用される。
4.網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の予測を得るために、ステップ3で得られた結果に、トレーニングサンプルの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の標準偏差を乗じる。このようにして得られた値を、トレーニングサンプルの網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の平均に加算する。
【0173】
(結論)
【0174】
有利には、オメガ-3多価不飽和脂肪酸ファミリー由来のコレステリルエステル種は網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量の推定に明確に寄与したが、オメガ-6多価不飽和脂肪酸ファミリー由来のコレステリルエステル種はこの推定含有量を低下させた。これはオメガ-3およびオメガ-6の十分に確立された競合的代謝に相当する。
【0175】
赤血球または全血漿脂質の分析に基づく、以前の研究および試みは、循環脂質と網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量との間の密接な相関を確立することを可能にしなかったので、7種の特定の脂質種の血漿濃度に基づくバイオマーカーの同定は革新的であり、有利である。
【0176】
有利には再び、より強固な予測を確認することが可能であり、これは赤血球および全血中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定した研究およびアプローチと比較してである(r=0.62、対して血漿の全脂質のオメガ-3脂肪酸についてはr=0.40、および赤血球のオメガ-3脂肪酸についてはr=0.14)。これは、少数の血漿コレステリルエステルを中心とする、より微細なアプローチが、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の網膜含有量を推定するよりも有効であることを示す。
【0177】
さらに、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量のバイオマーカーとしてのコレステリルエステルの同定は、本発明者らによる以前の観察を強化し、これらの脂質が網膜に対する脂肪酸の優先的な供給源であることを示唆する。
【0178】
(実施例2:オメガ-3多価不飽和脂肪酸のAMDと網膜状態との関連)
【0179】
研究の第2相の間に、AMDとオメガ-3多価不飽和脂肪酸の状態との間の関連を研究した。
【0180】
第一に、死後症例献体-対照献体研究では、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量が、良好な健康状態のドナーの網膜(16.8%±3.1%)と比較して、AMDに罹患した網膜(14.4%±1.9%)で低かったことから、これまでの観察結果が確かめられた。年齢、性別、死後の時間について調整した後、AMDにより影響を受けた網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量と対照網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量との間の差は-2.41%であった(p=0.04)。
【0181】
次に、先に記載された方法(血漿の25種のコレステリルエステルの測定、これらの測定へのアルゴリズムの適用)を使用して、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量を、後期AMDに罹患している31人の対象と、年齢、性別、および低脂血症薬物の使用について適合させた31人の対照献体との間で比較した。
網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸のこの予測含有量は、症例献体が対照献体よりも低かった(17.8%対18.9%)。年齢、ボディマスインデックス、喫煙、オメガ-3サプリメントの使用、HDLコレステロールおよびLDLコレステロールの関数としての調整後、AMDの症例と対照との間の網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量の差は-1.39%であった(p=0.04)。
対照的に、赤血球において、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量は、症例献体および対照献体において同様であった(多変量調整後、6.0%対5.6%、p=0.42)。これらの観察結果は、オメガ-3多価不飽和脂肪酸に富む、光受容体細胞の代謝の消失を特徴とするAMDの病理生態と完全に一致する。
【0182】
AMDに罹患した患者の眼における網膜の構造および機能におけるDHAの果たす重要な役割、およびその枯渇を考えると、本疾患の発症および/または進行を予防するために、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の網膜レベルを高く維持することは論理的である。
【0183】
この仮説は、オメガ-3多価不飽和脂肪酸を多く摂取する対象においてAMD発症リスクが有意に低下することを示す20以上の疫学研究によって裏付けられた。しかしながら、2つの無作為化試験AREDS2(Lutein + zeaxanthin and omega-3 fatty acids for age-related macular degeneration: the Age-Related Eye Disease Study 2 (AREDS2) randomized clinical trial, JAMA 2013; 309: 2005-15 および NAT2 Souied EH, Delcourt C, Querques G, Bassols A, Merle B, Zourdani A, Smith T, Benlian P., Oral Docosahexaenoic Acid in the Prevention of Exudative Age-Related Macular Degeneration: The Nutritional AMD Treatment 2 Study, Ophthalmology, 2013; 120: 1619-31.)において、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の補給は疾患後期における疾患の進行を修飾しなかった。この矛盾するデータの1つの考えられる説明は、おそらく栄養補給に対する対象の感受性にある。具体的には、集団全体を考慮に入れた場合には、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の補給はAMDの進行に影響を及ぼさなかった。一方、NAT2の研究では、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の高く一定の血中レベルを維持した対象は、後期AMDを発症するリスクが有意に低いことが示された。この発見は、栄養介入に参加する対象の代謝状態を監視する必要性を強調する。
【0184】
(実施例3:網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量の、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の食物補給に対する感受性)
【0185】
したがって、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量の、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の食物補給に対する感受性を評価した。
【0186】
この目的のために、健康状態が良好な中年の参加者にオメガ-3多価不飽和脂肪酸676mgを6ヵ月間連日投与するLIMPIAランダム化臨床試験、またはプラセボとの関連で採取した血液サンプルを分析した。網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量の四分位範囲は開始時に全脂肪酸の17.2%から19.7%まで変化し、2群の中央値は約18.5%であり、これは中年健常対象における以前の観察と一致する。
【0187】
3カ月間の補給後、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量は補給対象で有意に増加した(プラセボ群および補給群の総脂肪酸の中央値はそれぞれ18.8%および21.6%;p<0.001)。
【0188】
6カ月間の補給後、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の予測含有量が3カ月目に計算した値と完全に対応していたため、この差は維持された(プラセボ群および補給群の総脂肪酸の中央値はそれぞれ18.9%および21.7%;p<0.001)。
【0189】
それゆえ、有利には、7種の血漿脂質種の測定に基づく、後期AMDのリスクと逆相関し、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の補充で増加する、網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の状態の血液バイオマーカーが同定された。
【0190】
この血液バイオマーカーはそれゆえ、臨床試験を準備および実施するための信頼性があり、かつ正確なツールであり、オメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏に関連する網膜病理の出現を予防すること、およびオメガ-3多価不飽和脂肪酸の欠乏を診断することも可能にする。
【0191】
(実施例4:5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル(C20:5 ω3 メチルエステル)の予測能力の計算)
【0192】
本発明者らは、sgPLS法によって同定された7種のコレステリルエステルからではなく、単一のコレステリルエステル、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリル(C20:5 ω3 メチルエステル)から網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量を決定することが可能であるかどうかを検証した。
【0193】
5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルに対する網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の濃度の線形回帰の結果を表4に詳細に示す:
【0194】
【表4】
【0195】
5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルの予測能力は、予測された網膜中のオメガ-3多価不飽和脂肪酸の含有量と、46名のドナーのトレーニングサンプルにおいて観察され、交差検証によって推定された含有量との間の相関係数を計算することによって評価された。0.59に等しい相関係数rが得られる。
【0196】
この結果は、予測能力が、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルのみを用いたsgPLS方法(r=0.62)から得られた数式によって得られたものと、実質的に類似していることを示している。
【0197】
ここでも有利には、5,8,11,14,17-エイコサペンタエン酸コレステリルが、同定された7種のコレステリルエステルと同様に、網膜におけるオメガ-3多価不飽和脂肪酸の状態の血液バイオマーカーであることが示される。