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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-02-10
(45)【発行日】2025-02-19
(54)【発明の名称】電池パック用ケース及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/249 20210101AFI20250212BHJP
   H01M 50/229 20210101ALI20250212BHJP
   H01M 50/262 20210101ALI20250212BHJP
   H01M 50/264 20210101ALI20250212BHJP
   H01M 50/28 20210101ALI20250212BHJP
   H01M 50/293 20210101ALI20250212BHJP
   B60K 1/04 20190101ALI20250212BHJP
   B60L 50/60 20190101ALI20250212BHJP
【FI】
H01M50/249
H01M50/229
H01M50/262 M
H01M50/264
H01M50/28
H01M50/293
B60K1/04 Z
B60L50/60
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022576631
(86)(22)【出願日】2022-01-13
(86)【国際出願番号】 JP2022000920
(87)【国際公開番号】W WO2022158367
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-06-08
(31)【優先権主張番号】P 2021006442
(32)【優先日】2021-01-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉原 裕理
(72)【発明者】
【氏名】田中 秀明
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-129074(JP,A)
【文献】特開2014-022157(JP,A)
【文献】国際公開第2020/202670(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/20
B60L 50/60
B60K 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気自動車に搭載される電池パックの形成に用いられる電池パック用ケースであって、
電気自動車の車体に取り付けられるトレイと、
前記トレイ上の少なくとも一部分に取り付けられ、電池を保持する電池保持部材と、
前記トレイ上及び前記電池保持部材上を覆うカバーと、
を備え、
前記トレイ、前記電池保持部材、及び前記カバーのうちの少なくとも2つが、繊維強化プラスチックを含み、
更に、前記カバーの少なくとも一部分を補強する、金属板又は繊維強化テープであるカバー補強部材を備え、
前記トレイは、前記電気自動車のリアシート下に配置されるトレイ後部と、前記トレイ後部から車体前方向に延びる、前記トレイ後部よりも車体幅方向の長さが短いトレイ延出部と、を含み、
前記電池保持部材は、前記トレイ後部上の少なくとも一部分に取り付けられた電池保持部材Rを含み、
前記カバーは、前記トレイ後部上及び前記電池保持部材R上を覆うカバー後部と、少なくとも前記トレイ延出部上を覆うカバー延出部と、を含み、
前記カバー補強部材は、前記カバー後部の、少なくとも前記カバー延出部との接続部分を補強するカバー後部補強部材を含む、
電池パック用ケース。
【請求項2】
前記トレイは、更に、前記トレイ延出部における車体前方向の端部に接続され、前記電気自動車のフロントシート下に配置されるトレイ前部を含み、
更に、前記トレイ前部の縁部を補強する、金属部材又は繊維強化テープであるトレイ前部補強部材を備える、
請求項に記載の電池パック用ケース。
【請求項3】
前記電池保持部材は、前記トレイ延出部上の少なくとも一部分に取り付けられた電池保持部材Mを含み、
前記カバー延出部が、前記トレイ延出部上及び前記電池保持部材M上を覆い、
前記カバー補強部材は、前記カバー延出部の前記電池保持部材M上を覆う領域の少なくとも一部分を補強するカバー延出部補強部材を含む、
請求項又は請求項に記載の電池パック用ケース。
【請求項4】
更に、前記トレイ延出部の車体長さ方向の一部分であって車体幅方向の一端から他端までの領域を補強する、金属板であるトレイ延出部補強部材を備え、
前記トレイ延出部補強部材の少なくとも一部は、前記トレイ延出部中に埋め込まれている、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の電池パック用ケース。
【請求項5】
前記トレイ及び前記カバーの少なくとも一方が、ガラス繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、ザイロン繊維、ポリエチレン繊維、及びボロン繊維からなる群から選択される2種以上の繊維を含む繊維強化プラスチックを含む、請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電池パック用ケース。
【請求項6】
前記電池保持部材は、複数のリチウム二次電池が厚さ方向に積層されてなる電池モジュールを保持する電池モジュール保持部材であり、
前記電池モジュール保持部材が、
前記電池モジュールの前記厚さ方向の両端部の外側から前記電池モジュールを挟持するための一対のエンドプレートと、
前記電池モジュールの前記厚さ方向及び鉛直方向に対して直交する方向の両端部の外側から、前記電池モジュールを挟持するための一対のサイドプレートと、
を含み、
前記一対のエンドプレート及び前記一対のサイドプレートが、前記繊維強化プラスチックを含む、
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電池パック用ケース。
【請求項7】
電気自動車に搭載される電池パックの形成に用いられる電池パック用ケースであって、
電気自動車の車体に取り付けられるトレイと、
前記トレイ上の少なくとも一部分に取り付けられ、電池を保持する電池保持部材と、
前記トレイ上及び前記電池保持部材上を覆うカバーと、
を備え、
前記トレイ、前記電池保持部材、及び前記カバーのうちの少なくとも2つが、繊維強化プラスチックを含み、
前記電池保持部材は、複数のリチウム二次電池が厚さ方向に積層されてなる電池モジュールを保持する電池モジュール保持部材であり、
前記電池モジュール保持部材が、
前記電池モジュールの前記厚さ方向の両端部の外側から前記電池モジュールを挟持するための一対のエンドプレートと、
前記電池モジュールの前記厚さ方向及び鉛直方向に対して直交する方向の両端部の外側から、前記電池モジュールを挟持するための一対のサイドプレートと、
を含み、
前記一対のエンドプレート及び前記一対のサイドプレートが、前記繊維強化プラスチックを含む、
電池パック用ケース。
【請求項8】
前記一対のエンドプレートは、繊維強化プラスチック中に金属部材が埋め込まれた構造を有する板状部材である、請求項6又は請求項7に記載の電池パック用ケース。
【請求項9】
更に、前記一対のエンドプレートと前記電池モジュールとの間、及び、前記電池モジュールと前記トレイとの間の少なくとも1か所に配置された衝撃吸収層を含む、請求項6~請求項8のいずれか1項に記載の電池パック用ケース。
【請求項10】
電気自動車に搭載される電池パックであって、
請求項1~請求項のいずれか1項に記載の電池パック用ケースと、
前記電池パック用ケースにおける前記電池保持部材に保持された電池と、
を備える、電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電池パック用ケース及び電池パックに関し、詳細には、電気自動車に搭載される電池パックの形成に用いられる電池パック用ケース、及び、電気自動車に搭載される電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車に搭載される電池パックの形成に用いられる電池パック用ケース、及び、電気自動車に搭載される電池パックに関電気自動車に搭載される電池パックについて、種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、
バッテリパックが収納されるケース本体と、ケース本体に組み立てられるカバーとを含んで構成される電気自動車用バッテリパックケースアセンブリであって、
ケース本体が、プラスチック基材に補強繊維として長繊維、または長繊維と連続繊維が混合使用されたプラスチック複合材料からなり、
ケース本体における車体締結のための両サイドブラケット部には、プラスチック基材に補強繊維として長繊維、連続繊維、または長繊維と連続繊維が混合使用されたプラスチック複合材料からなる別途の補強部材が接合されたことを特徴とする電気自動車用バッテリパックケースアセンブリが開示されている。
特許文献1には、上記電気自動車用バッテリパックケースアセンブリによれば、ケースの素材として軽量のプラスチック複合素材を用いて重量を減少させると共に剛性、衝突特性、及び寸法安定性を同時に向上できる、と記載されている。
【0004】
特許文献1:特開2013-201112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、電気自動車の衝突時における電池パック内の電池の損傷をより抑制することが求められる場合がある。
一方、電池パックの軽量化が求められる場合もある。
【0006】
本開示の一態様の目的は、電気自動車の衝突時における電池の損傷を抑制でき、かつ、軽量化された電池パック、及び、上記電池パックを形成できる電池パック用ケースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 電気自動車に搭載される電池パックの形成に用いられる電池パック用ケースであって、
電気自動車の車体に取り付けられるトレイと、
前記トレイ上の少なくとも一部分に取り付けられ、電池を保持する電池保持部材と、
前記トレイ上及び前記電池保持部材上を覆うカバーと、
を備え、
前記トレイ、前記電池保持部材、及び前記カバーのうちの少なくとも2つが、繊維強化プラスチックを含む、
電池パック用ケース。
<2> 更に、前記カバーの少なくとも一部分を補強する、金属板又は繊維強化テープであるカバー補強部材を備える、<1>に記載の電池パック用ケース。
<3> 前記トレイは、前記電気自動車のリアシート下に配置されるトレイ後部と、前記トレイ後部から車体前方向に延びる、前記トレイ後部よりも車体幅方向の長さが短いトレイ延出部と、を含み、
前記電池保持部材は、前記トレイ後部上の少なくとも一部分に取り付けられた電池保持部材Rを含み、
前記カバーは、前記トレイ後部上及び前記電池保持部材R上を覆うカバー後部と、少なくとも前記トレイ延出部上を覆うカバー延出部と、を含み、
前記カバー補強部材は、前記カバー後部の、少なくとも前記カバー延出部との接続部分を補強するカバー後部補強部材を含む、
<2>に記載の電池パック用ケース。
<4> 前記トレイは、更に、前記トレイ延出部における車体前方向の端部に接続され、前記電気自動車のフロントシート下に配置されるトレイ前部を含み、
更に、前記トレイ前部の縁部を補強する、金属部材又は繊維強化テープであるトレイ前部補強部材を備える、
<3>に記載の電池パック用ケース。
<5> 前記電池保持部材は、前記トレイ延出部上の少なくとも一部分に取り付けられた電池保持部材Mを含み、
前記カバー延出部が、前記トレイ延出部上及び前記電池保持部材M上を覆い、
前記カバー補強部材は、前記カバー延出部の前記電池保持部材M上を覆う領域の少なくとも一部分を補強するカバー延出部補強部材を含む、
<3>又は<4>に記載の電池パック用ケース。
<6> 更に、前記トレイ延出部の車体長さ方向の一部分であって車体幅方向の一端から他端までの領域を補強する、金属板であるトレイ延出部補強部材を備え、
前記トレイ延出部補強部材の少なくとも一部は、前記トレイ延出部中に埋め込まれている、
<3>に記載の電池パック用ケース。
<7> 前記トレイ及び前記カバーの少なくとも一方が、ガラス繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、ザイロン繊維、ポリエチレン繊維、及びボロン繊維からなる群から選択される2種以上の繊維を含む繊維強化プラスチックを含む、<1>~<6>のいずれか1つに記載の電池パック用ケース。
<8> 前記電池保持部材は、複数のリチウム二次電池が厚さ方向に積層されてなる電池モジュールを保持する電池モジュール保持部材であり、
前記電池モジュール保持部材が、
前記電池モジュールの前記厚さ方向の両端部の外側から前記電池モジュールを挟持するための一対のエンドプレートと、
前記電池モジュールの前記厚さ方向及び鉛直方向に対して直交する方向の両端部の外側から、前記電池モジュールを挟持するための一対のサイドプレートと、
を含み、
前記一対のエンドプレート及び前記一対のサイドプレートが、前記繊維強化プラスチックを含む、
<1>~<7>のいずれか1つに記載の電池パック用ケース。
<9> 前記一対のエンドプレートは、繊維強化プラスチック中に金属部材が埋め込まれた構造を有する板状部材である、<8>に記載の電池パック用ケース。
<10> 更に、前記一対のエンドプレートと前記電池モジュールとの間、及び、前記電池モジュールと前記トレイとの間の少なくとも1か所に配置された衝撃吸収層を含む、<8>又は<9>に記載の電池パック用ケース。
<11> 電気自動車に搭載される電池パックであって、
<1>~<10>のいずれか1つに記載の電池パック用ケースと、
前記電池パック用ケースにおける前記電池保持部材に保持された電池と、
を備える、電池パック。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、電気自動車の衝突時における電池の損傷を抑制でき、かつ、軽量化された電池パック、及び、上記電池パックを形成できる電池パック用ケースが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本開示の一実施形態に係る電池パックが搭載された電気自動車の車体の概略斜視図である。
図2】本開示の一実施形態に係る電池パックの概略斜視図である。
図3】本開示の一実施形態に係る電池パックにおけるトレイからカバーを取り外した様子を概念的に示す分解斜視図である。
図4】本開示の一実施形態に係る電池パックの、カバーを点線で示した場合の概略斜視図である。
図5】本開示の一実施形態に係る電池パックの概略下面図である。
図6】本開示の一実施形態に係る電池パックにおいて、トレイ後部及びトレイ後部上に取り付けられた電池保持部材の概略斜視図である。
図7図6に示す電池保持部材が電池モジュールを保持した状態を示す概略斜視図である。
図8】本開示の一実施形態に係る電池パックにおいて、電池保持部の一部を構成するエンドプレートを示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本明細書において、組成物中の各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
【0011】
〔電池パック用ケース〕
本開示の電池パック用ケースは、電気自動車に搭載される電池パックの形成に用いられる電池パック用ケースであって、
電気自動車の車体に取り付けられるトレイと、
トレイ上の少なくとも一部分に取り付けられ、電池を保持する電池保持部材と、
トレイ上及び電池保持部材上を覆うカバーと、
を備え、
トレイ、電池保持部材、及びカバーのうちの少なくとも2つが、繊維強化プラスチックを含む、
電池パック用ケースである。
【0012】
本発明者等は、鋭意検討した結果、トレイ、電池保持部材、及びカバーを備える電池パック用ケースにおける、トレイ、電池保持部材、及びカバーのうちの少なくとも2つに、繊維強化プラスチックを含ませることにより、電池パックの軽量化と、電気自動車の衝突時における電池の損傷の抑制と、を効果的に実現できるとの知見を得、かかる知見に基づき、本開示の電池パック用ケースを見出した。
即ち、本開示の電池パック用ケースによれば、電気自動車の衝突時における電池の損傷をより抑制できる電池パックであって、軽量化された電池パックを形成できる。
【0013】
本開示の電池パック用ケースによって形成された電池パックは、電気自動車の側面衝突時においても、電池の損傷抑制に対し、優れた効果を示す。
特に、後述する実施例における側面衝突試験は、日本国国土交通省において、2018年6月に制定された新基準評価試験である(「電柱などの側面衝突時の乗員保護基準」)。本開示の電池パック用ケースによって形成された電池パックは、かかる新基準評価試験である側面衝突試験においても、電池の損傷抑制に対し、優れた効果を示す(後述の実施例参照)。
【0014】
本開示の電池パック用ケースは、更に、カバーの少なくとも一部分を補強するカバー補強部材を備えることが好ましい。これにより、電気自動車の衝突時における電池の損傷をより効果的に抑制できる。
カバー補強部材は、金属板又は繊維強化テープであることがより好ましい。
【0015】
電池パック用ケースにおけるトレイは、
電気自動車のリアシート下に配置されるトレイ後部と、
トレイ後部から車体前方向に延びる、トレイ後部よりも車体幅方向の長さが短いトレイ延出部と、
を含むことができる。
この態様(以下、「態様A」とする)では、電気自動車の床部分(フロアパネル)における、面積が広いリアシート下の領域に、面積が広いトレイ後部を配置することができ、かかるトレイ後部上に、面積が広い電池保持部材を配置することができる。従って、上記態様Aによれば、電池パックに収容できる電池の量(体積)が増大する。
トレイ後部上に取り付けられる電池保持部材を、電池保持部材Rと称することがある。
【0016】
ここで、トレイ後部とトレイ延出部とは、別個の部材として成形されたものである必要はなく、一体成形された一つの部材であってもよい。
後述する、トレイ後部とトレイ延出部とトレイ前部とを含むトレイも、一体成形された一つの部材であってもよい。
後述する、カバー後部とカバー延出部とを含むカバー、カバー後部とカバー延出部とカバー前部とを含むカバーについても同様である。
【0017】
上記態様Aにおいて、トレイ後部上だけでなく、トレイ延出部上にも、電池保持部材が取り付けられていてもよい。トレイ延出部上に取り付けられる電池保持部材を、以下、電池保持部材Mと称することがある。
【0018】
上記態様Aにおいて、トレイは、トレイ延出部における車体前方向の端部に接続されたトレイ前部を更に含んでいてもよい。トレイ前部は、好ましくは電気自動車のフロントシート下に配置される。
トレイがトレイ前部を含む場合、トレイ後部上だけでなく、トレイ前部上にも、電池保持部材が取り付けられていてもよい。トレイ前部上に取り付けられる電池保持部材を、以下、電池保持部材Fと称することがある。
【0019】
カバー補強部材を備える場合の電池パック用ケースにおいて、
トレイが、電気自動車のリアシート下に配置されるトレイ後部と、トレイ後部から車体前方向に延びる、トレイ後部よりも車体幅方向の長さが短いトレイ延出部と、を含み、
電池保持部材が、トレイ後部上の少なくとも一部分に取り付けられた電池保持部材Rを含み、
カバーが、トレイ後部上及び電池保持部材R上を覆うカバー後部と、少なくともトレイ延出部上を覆うカバー延出部と、を含み、
カバー補強部材が、カバー後部の、少なくともカバー延出部との接続部分を補強するカバー後部補強部材を含むことが好ましい。
【0020】
トレイが上記トレイ後部及び上記トレイ延出部を含み、電池保持部材が上記電池保持部材Rを含み、カバーが上記カバー後部及び上記カバー延出部を含む場合において、カバー補強部材がカバー後部補強部材を含む場合には、電気自動車の衝突時(特に側面衝突時)における電池の損傷がより効果的に抑制される。
【0021】
トレイがトレイ後部及びトレイ延出部を含む場合の電池パック用ケース(好ましくは、カバー後部補強部材を備える場合の電池パック用ケース)において、
トレイは、トレイ延出部の車体前方向の端部に接続され、電気自動車のフロントシート下に配置されるトレイ前部を更に含んでいてもよい。
この場合の電池パック用ケースは、更に、トレイ前部の縁部を補強する、金属部材又は繊維強化テープであるトレイ前部補強部材を備えることが好ましい。これにより、電気自動車の衝突時における電池の損傷をより効果的に抑制できる。
【0022】
カバー後部補強部材を備える場合の電池パック用ケースにおいて、
電池保持部材は、トレイ延出部上の少なくとも一部分に取り付けられた電池保持部材Mを含み、
カバー延出部が、トレイ延出部上及び電池保持部材M上を覆い、
カバー補強部材は、カバー延出部の電池保持部材M上を覆う領域の少なくとも一部分を補強するカバー延出部補強部材を含むことが好ましい。
カバー補強部材が、カバー延出部補強部材を含む場合には、電気自動車の衝突時における電池の損傷がより効果的に抑制される。
【0023】
電池パック用ケースは、更に、トレイ延出部の車体長さ方向の一部分であって車体幅方向の一端から他端までの領域を補強する、金属板であるトレイ延出部補強部材を備えることが好ましい。電池パック用ケースがトレイ延出部補強部材を備える場合には、電気自動車の衝突時(特に側面衝突時)における電池の損傷がより効果的に抑制される。
トレイ延出部補強部材の少なくとも一部は、トレイ延出部中に埋め込まれていることが好ましい。
【0024】
電池パック用ケースにおける電池保持部材は、複数のリチウム二次電池が厚さ方向に積層されてなる電池モジュールを保持する電池モジュール保持部材であることが好ましい。
電池モジュール保持部材は、好ましくは、
電池モジュールの上記厚さ方向(即ち、複数のリチウム二次電池の厚さ方向(即ち、積層方向))の両端部の外側から電池モジュールを挟持するための一対のエンドプレートと、
電池モジュールの上記厚さ方向及び鉛直方向に対して直交する方向の両端部の外側から、上記電池モジュールを挟持するための一対のサイドプレートと、
を含む。
上記一対のエンドプレート及び上記一対のサイドプレートは、繊維強化プラスチックを含むことが好ましい。
これにより、電池パックの軽量化の効果及び衝突時における電池の損傷の抑制効果がより効果的に奏される。
【0025】
一対のエンドプレートは、繊維強化プラスチック中に金属部材が埋め込まれた構造を有する板状部材であることが好ましい。
これにより、衝突時における電池の損傷の抑制の効果及び軽量化の効果がより効果的に奏される。
【0026】
電池パック用ケースは、更に、一対のエンドプレートと電池モジュールとの間、及び、電池モジュールとトレイとの間の少なくとも1か所に配置された衝撃吸収層を備えることが好ましい。
これにより、衝突時における電池の損傷の抑制効果がより効果的に奏される。
【0027】
電池パック用ケースでは、トレイとカバーとは、直接又は接合部材を介して接合されていることが好ましい。これにより、電池パック内への、水、埃等の侵入を抑制でき、電池の劣化を抑制できる。
上記効果がより効果的に得られる観点から、トレイとカバーとは、接合部材としての封止部材(例えばガスケット)を介して接合されていることがより好ましい。
【0028】
封止部材は、トレイ又はカバーと一体化していることが好ましい。これにより、部品点数を削減できるので、電池パック用ケースの構造を簡略化できる。
【0029】
〔電池パック〕
本開示の電池パックは、電気自動車に搭載される電池パックであって、
本開示の電池パック用ケースと、
電池パック用ケースにおける上記電池保持部材に保持された電池と、
を備える。
本開示の電池パックによれば、本開示の電池パック用ケースによって得られる効果と同様の効果が奏される。
【0030】
本開示の電池パックは、複数の電池を含む電池モジュールを備えることが好ましい。
この場合、電池保持部材は、上記電池モジュールを保持する電池モジュール保持部材であることが好ましい。
電池モジュールの好ましい形態については、「電池パック用ケース」の項で説明したとおりである。
【0031】
また、複数の電池を含む電池モジュールは、複数のリチウム二次電池が厚さ方向に積層されてなる電池モジュールであることが好ましい。
複数のリチウム二次電池の各々は、電極(正極及び負極)が積層されている積層型のリチウム二次電池であってもよいし、電極(正極及び負極)が巻回されている巻回型のリチウム二次電池であってもよい。
電池モジュールについては、例えば、特許第6751570号公報、特許第6645500号公報等の公知文献を適宜参照できる。
【0032】
本開示の電池パックは、本開示の電池パック用ケースに電池(好ましくは電池モジュール)を保持させることによって形成できる。
形成された電池パックにおける電池の充放電サイクルが繰り返され、電池が劣化した場合には、電池パックにおける電池を交換してもよい。即ち、電池パックにおける電池パック用ケースから劣化した電池を取り外し、新たな電池を保持させてもよい。
【0033】
〔実施形態〕
以下、本開示の電池パックの実施形態について、図面を参照しながら説明し、その説明の中で、本開示の電池パック用ケースの実施形態についても説明する。本開示の電池パック用ケースの実施形態は、下記実施形態に係る電池パックから電池を除いたものである。
本開示の電池パック及び電池パック用ケースは、以下の実施形態に限定されるものではない。
各図面に共通の要素については、同一の符号を付し、重複した説明を省略することがある。
【0034】
図1は、本実施形態に係る電池パックが搭載された電気自動車の車体の概略斜視図であり、図2は、本実施形態に係る電池パックの概略斜視図である。
図1及び図2に示されるように、本実施形態に係る電池パック10は、電気自動車の車体100中に搭載されるものである。電池パック10は、トレイ14及びカバー12を含む電池パック用ケースに、電池モジュールが収容されたものである。
図3は、電池パックにおけるトレイ14からカバー12を取り外した様子を概念的に示す分解斜視図である。
【0035】
図2及び図3に示されるように、電池パック10を形成する電池パック用ケースは、
電気自動車の車体100に取り付けられるトレイ14と、
トレイ14上の少なくとも一部分に取り付けられ、電池を保持する電池保持部材(18F、18M、18R)と、
トレイ14上及び電池保持部材上を覆うカバー12と、
を備える。
【0036】
電池パック10は、上記電池パック用ケースにおける電池保持部材に、電池(詳細には、後述する、電池モジュール16F、電池モジュール16M、及び電池モジュール16R)が保持されてなるものである。
【0037】
電池パック10において、トレイ14とカバー12との接合部には、不図示の封止部材(例えばガスケット)が介在している。これにより、電池パックが封止され、電池パック内への、水、埃等の侵入の抑制が図られている。封止部材は、トレイ又はカバーと一体化している。
【0038】
トレイ14は、トレイ後部14R、トレイ延出部14M、及びトレイ前部14Fを含む。
トレイ後部14Rは、電気自動車のリアシート下に配置される。
トレイ延出部14Mは、トレイ後部14Rから車体前方向(図1中の矢印FRの方向。以下同じ)に延びる部分である。このトレイ延出部14Mは、トレイ後部14Rよりも車体幅方向(図1中の矢印Wの方向)の長さが短い部材である。
トレイ前部14Fは、トレイ延出部14Mにおける車体前方向の端部に接続されている。トレイ前部14Fは、電気自動車のフロントシート下に配置される。
【0039】
トレイ後部14R上には、電池モジュール16Rを保持するための電池保持部材18Rが取り付けられており、
トレイ延出部14M上には、電池モジュール16Mを保持するための電池保持部材18Mが取り付けられており、
トレイ前部14F上には、電池モジュール16Fを保持するための電池保持部材18Fが取り付けられている。
電池保持部材18R、電池保持部材18M、及び電池保持部材18Fは、それぞれ、電池モジュール16R、電池モジュール16M、及び電池モジュール16Fを保持するための部材である。
電池モジュール16R、電池モジュール16M、及び電池モジュール16Fは、それぞれ、複数のリチウム二次電池が厚さ方向に積層されてなる電池モジュールである。
電池保持部材18R、電池保持部材18M、及び電池保持部材18Fの詳細な構造については後述する。
【0040】
カバー12は、カバー後部12R、カバー延出部12M、及びカバー前部12Fを含む。
カバー後部12Rは、カバー12のうち、トレイ後部14R、電池保持部材18R、及び電池モジュール16Rを覆っている部分である。
カバー延出部12Mは、カバー12のうち、トレイ延出部14M、電池保持部材18M、及び電池モジュール16Mを覆っている部分である。
カバー前部12Fは、カバー12のうち、トレイ前部14F、電池保持部材18F、及び電池モジュール16Fを覆っている部分である。
【0041】
電池パック10では、トレイ、電池保持部材、及びカバーのうちの少なくとも2つ(即ち、トレイと電池保持部材との組み合わせ、電池保持部材とカバーとの組み合わせ、トレイとカバーとの組み合わせ、又は、トレイと電池保持部材とカバーとの組み合わせ)が、繊維強化プラスチックを含む。
これにより、電池パックの軽量化と、電気自動車の衝突時における電池の損傷の抑制と、が効果的に実現される。
【0042】
図4は、カバー12を点線で示した場合の本実施形態に係る電池パックの概略斜視図であり、図2に対応する図である。
図4では、カバー補強部材(即ち、カバー後部補強部材20RF、カバー後部補強部材20RS、カバー後部補強部材20RR、カバー延出部補強部材20M、及びカバー前部補強部材20F)を見やすくするために、カバー12を点線で示している。
【0043】
図4に示すように、カバーがトレイに装着された状態では、カバーを補強するためのカバー補強部材の各々が、トレイ上の電池モジュールの少なくとも一部を覆っている状態となる。これらのカバー補強部材により、トレイ上の電池モジュールの少なくとも一部が保護されるので、衝突時における電池の損傷が効果的に抑制される。
【0044】
カバー補強部材の各々は、実際には、カバー12の内壁に貼り付けられるか又はカバー12に埋め込まれることにより、カバーの一部(詳細には電池を覆っている部分)を補強している。
カバー補強部材の各々として、好ましくは、金属板又は繊維強化テープである。
繊維強化テープである態様のカバー補強部材は、好ましくはカバー12の内壁に貼り付けられる。
金属板である態様のカバー補強部材は、カバー12の内壁に貼り付けられていてもよいし、カバー12に埋め込まれていてもよい。
【0045】
カバー補強部材は、カバー後部補強部材20RF、カバー後部補強部材20RS、カバー後部補強部材20RR、カバー延出部補強部材20M、及びカバー前部補強部材20Fを含む。
カバー後部補強部材20RFは、カバー後部12Rの、少なくともカバー延出部12Mとの接続部分(言い換えれば、カバー後部12Rにおける車体前方部分)を補強する部材であり、
カバー後部補強部材20RSは、カバー後部12Rの車体幅方向の両端部を補強する部材であり、
カバー後部補強部材20RRは、カバー後部12Rの車体後方部分を補強する部材であり、
カバー延出部補強部材20Mは、カバー延出部12Mを補強する部材であり、
カバー前部補強部材20Fは、カバー前部12Fを補強する部材である。
【0046】
前述のとおり、各カバー補強部材は、衝突時における電池の損傷抑制に寄与するが、中でも、カバー後部12Rの、少なくともカバー延出部12Mとの接続部分を補強するカバー後部補強部材20RFは、衝突時(特に側面衝突時)における電池の損傷抑制の効果が大きい。
【0047】
電池パック10は、更に、トレイ前部14Fの縁部を補強するトレイ前部補強部材22Fを備えている。これにより、トレイ前部上に配置された電池の、衝突時における損傷がより抑制される。
【0048】
トレイ前部補強部材22Fは、好ましくは、金属部材又は繊維強化テープである。
金属部材である態様のトレイ前部補強部材22Fの少なくとも一部分は、トレイ前部14Fに埋め込まれていてもよい。
【0049】
図5は、電池パック10の概略下面図(即ち、トレイの概略下面図)である。
電池パック10は、トレイ延出部14Mの下面側に埋め込まれたトレイ延出部補強部材30Mを備える。
トレイ延出部補強部材30Mは、トレイ延出部14Mの車体長さ方向の一部分であって車体幅方向の一端から他端までの領域を補強する。これにより、衝突時(特に側面衝突時)における電池の損傷抑制の効果が顕著に得られる。
トレイ延出部補強部材30Mとして、好ましくは金属板である。
【0050】
次に、電池保持部材18R及び電池モジュール16Rの各々の構造について説明する。
電池保持部材18M及び電池保持部材18Fの各々の構造も電池保持部材18Rの構造と同様であり、電池モジュール16M及び電池モジュール16Fの各々の構造も電池モジュール16Rの構造と同様である。
【0051】
図3及び図4に示されるように、電池保持部材18Rは、複数のリチウム二次電池が厚さ方向に積層されてなる電池モジュール16Rを保持する電池モジュール保持部材である。
図6は、トレイ後部及びトレイ後部上に取り付けられた電池保持部材の概略斜視図である。図6では、電池保持部材の構成を見やすくするために、図3及び図4におけるトレイ後部14上から電池モジュール16Rを除去した様子を示している。
図7は、図6に示す電池保持部材が電池モジュールを保持した状態を示す概略斜視図である。図7は、図3における電池パック10のトレイ後部側の拡大図に相当する。
【0052】
図6及び図7に示されるように、電池モジュール保持部材である電池保持部材18Rは、一対のエンドプレート18E及び一対のサイドプレート18Sを含む。
一対のエンドプレート18Eは、電池モジュール16Rにおける複数のリチウム二次電池の厚さ方向(即ち、複数のリチウム二次電池が積層されている積層方向)の両端部の外側から、電池モジュール16Rを挟持する。ここで、エンドプレート18Eと最外層のリチウム二次電池とが隣接していてもよいし、エンドプレート18Eと最外層のリチウム二次電池との間に他の層(例えば、衝撃吸収層)が介在していてもよい。
一対のエンドプレート18Eの機能は、上記両端部の外側から電池モジュール16Rを挟持する機能である。
一対のエンドプレート18Eのもう一つの機能は、充放電サイクルの繰り返しによる電池モジュールRの膨れを抑え込む機能である。電池モジュールRの膨れは、複数のリチウム二次電池の厚さ方向の膨れに起因する。
一対のエンドプレート18Eは、更に、衝撃吸収機能等のその他の機能を有していてもよい。
【0053】
一対のサイドプレート18Sは、電池モジュールの、複数のリチウム二次電池の厚さ方向及び鉛直方向に対して直交する方向(この例では車体幅方向)の両端部の外側から、電池モジュール16Rを挟持する。
一対のサイドプレート18Sの機能は、上記両端部の外側から電池モジュール16Rを挟持する機能である。一対のサイドプレート18Sのもう一つの機能は、電池モジュールにおける複数のリチウム二次電池の横ずれを抑制する機能である。
一対のサイドプレート18Sの機能は、放熱機能、冷却機能等のその他の機能を備えていてもよい。
サイドプレート18Sに放熱機能を持たせる方法としては、サイドプレートのプレート厚さ方向を貫通する貫通孔を設ける方法等が挙げられる。
サイドプレート18Sに冷却機能を持たせる方法としては、サイドプレートに冷却部材(例えば、冷却媒体を流通するためのパイプ)を埋め込む方法等が挙げられる。
【0054】
図6及び図7に示されるように、電池保持部材18Rでは、一対のエンドプレート18E及び一対のサイドプレート18Sにより1つの枠が形成されており、この枠の中に、電池モジュールが収容される。電池保持部材18Rでは、5つの上記枠が車体幅方向に並んでおり、隣り合う枠が、1つのサイドプレート18Sを共有している。即ち、電池保持部材18Rにおけるサイドプレート18Sの数は6枚であり、エンドプレート18Eの数は10枚である。
サイドプレート18S及びエンドプレート18Eの数(言い換えれば、上記「枠」の数)は、適宜変更できる。
【0055】
図6に示すように、トレイ後部14R上の電池モジュールが保持される領域(電池モジュールが保持された際の電池モジュールの下)には、衝撃吸収層28が配置されている。これにより、衝突時における電池の損傷の抑制効果がより効果的に奏される。
【0056】
図8は、電池保持部の一部を構成するエンドプレートを示す概略斜視図である。
エンドプレート18Eは、繊維強化プラスチック中に、円筒形状の金属部材32が埋め込まれた構造を有する板状部材であることが好ましい。
これにより、衝突時における電池の損傷の抑制の効果(金属部材による効果)及び軽量化の効果(ベースである繊維強化プラスチックによる効果)がより効果的に奏される。
この場合、円筒形状の金属部材32の内部を、金属製のボルト(不図示)が貫通していてもよい。
また、金属部材は、円柱形状であってもよい。
【0057】
〔実施形態〕
以上、本開示の電池パック及び電池パック用ケースの実施形態について説明したが、本開示の電池パック及び電池パック用ケースは、上記実施形態に限定されるものではない。
本開示の電池パック及び電池パック用ケースの各々の要件を満足する限り、上記実施形態に対して様々な変更を加えた変形例も、本開示の電池パック及び電池パック用ケースの範囲内である。
【0058】
例えば、上記実施形態の電池パックの変形例として、以下に列挙する例が挙げられる。
変形例として、上記実施形態の電池パックに対し、トレイ前部と、トレイ前部上の電池保持部及び電池と、カバー前部と、が省略されて小型化された例が挙げられる。
また、変形例として、上記実施形態の電池パックに対し、トレイ延出部上の電池保持部材及び電池、並びに/又は、トレイ前部上の電池保持部材及び電池が省略されている例も挙げられる。
また、変形例として、車体幅方向の長さが異なるトレイ後部及びトレイ延出部を含むトレイではなく、例えば、長方形状のトレイに対し、この形状のトレイに合わせたカバーが組み合わせられる例も挙げられる。
【0059】
要するに、本開示の電池パック用ケースは、トレイ、電池保持部材、及びカバーを備えていればよく、トレイ、カバー等の部材の形状には特に限定はない。
【0060】
〔電池パック用ケースの各部材の好ましい材質等〕
次に、本開示の電池パック用ケースの各部材の好ましい材質等について説明する。
【0061】
<繊維強化プラスチック>
本開示の電池パック用ケースにおいて、トレイ、電池保持部材、及びカバーのうちの少なくとも2つは、繊維強化プラスチックを含む。
これにより、衝突時における電池の損傷抑制の効果と、電池パック用ケースの軽量化の効果と、が実現される。
【0062】
繊維強化プラスチックに含まれる繊維としては、通常の繊維強化プラスチックに含まれる繊維であればよく、特に制限されない。
電池の損傷をより抑制する観点から、繊維強化プラスチックは、繊維として、ガラス繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、ザイロン繊維、ポリエチレン繊維、及びボロン繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0063】
本開示において、電池の損傷を更に抑制する観点から、
本開示の電池パック用ケースのうち、トレイ及びカバーの少なくとも一方が、
繊維強化プラスチックを含むことが好ましく、
2種以上の繊維を含む繊維強化プラスチックを含むことがより好ましく、
ガラス繊維、アラミド繊維、カーボン繊維、ザイロン繊維、ポリエチレン繊維、及びボロン繊維からなる群から選択される2種以上の繊維を含む繊維強化プラスチックを含むことが更に好ましい。
【0064】
繊維強化プラスチックの全量に対する繊維の含有量の比率は、繊維強化プラスチックの全量に対し、好ましくは20質量%~70質量%であり、より好ましくは30質量%~60質量%である。
繊維強化プラスチックを含む部材の全量に対する繊維の含有量の比率の好ましい範囲も、繊維強化プラスチックの全量に対する繊維の含有量の比率の好ましい範囲と同様である。
【0065】
繊維強化プラスチックにおける樹脂(即ちマトリックス樹脂)としては特に制限はなく、公知の樹脂を適用できる。
樹脂として、例えば、ポリプロピレン、ポリエステル(即ち、飽和ポリエステル又は不飽和ポリエステル)、ポリアミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニレンスルホン、ポリフェニレンエーテル、熱可塑性ポリウレタン等が挙げられる。
繊維強化プラスチックは、樹脂を1種のみ含有してもよいし2種以上含有してもよい。
【0066】
繊維強化プラスチックの全量に対する樹脂の含有量の比率は、繊維強化プラスチックの全量に対し、好ましくは30質量%~80質量%であり、より好ましくは40質量%~70質量%である。
繊維強化プラスチックを含む部材の全量に対する樹脂の含有量の比率の好ましい範囲も、繊維強化プラスチックの全量に対する樹脂の含有量の比率の好ましい範囲と同様である。
【0067】
繊維強化プラスチックは、繊維及び樹脂以外の成分(添加剤等)を含有していてもよい。
添加剤としては、難燃剤(好ましくは臭素系難燃剤)等が挙げられる。
【0068】
繊維強化プラスチックの全量に対する難燃剤の含有量の比率は、繊維強化プラスチックの全量に対し、好ましくは10質量%~30質量%であり、より好ましくは20質量%~30質量%である。
繊維強化プラスチックを含む部材の全量に対する難燃剤の含有量の比率の好ましい範囲も、繊維強化プラスチックの全量に対する難燃剤の含有量の比率の好ましい範囲と同様である。
【0069】
繊維強化プラスチックを含む部材(例えば、トレイ、電池保持部材、又はカバー)は、例えば、射出成形、SMC(Sheet Molding Compound)成形、プレス成形、押出プレス成形等の公知の成形方法によって製造できる。
【0070】
<補強部材>
本開示の電池パック用ケースは、前述したとおり、補強部材(例えば、カバー補強部材、トレイ補強部材等)を備える場合がある。
【0071】
補強部材の形状は、補強部材によって補強される部材の形状、補強の強さ、等を勘案して適宜選択できる。補強部材の形状としては、例えば、板状、棒状、筒状、シート状(例えば繊維強化テープの形状)、等が挙げられる。
【0072】
補強部材としては、金属部材(例えば、金属板、金属棒等)又は繊維強化テープが好ましい。
金属部材の材質としては特に制限はなく、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼等、公知の材質を適用できる。
繊維強化テープの材質としても特に制限はなく、公知の材質を適用できる。繊維強化テープの材質として、例えば、前述の繊維強化プラスチックの材質と同様の材質が挙げられる。
【0073】
<封止部材>
前述の通り、本開示の電池パック用ケースは、トレイとカバーとの間に介在する封止部材(例えばガスケット)を備えることが好ましい。
【0074】
封止部材は、熱可塑性エラストマーを少なくとも1種含むことが好ましい。
熱可塑性エラストマーとしては、例えば、
オレフィン系エラストマー(例えば、TPO、TPV等)、
スチレン系エラストマー(例えば、SEEPS、SEPS、SEBS等)、
ウレタン系エラストマー、
ポリ塩化ビニル系エラストマー(例えば、TPVC)、
ポリアミド系エラストマー(例えば、PAER、TPAE等)、
ポリエステル系エラストマー(例えば、TPEE)、
アクリルゴム、
エチレンプロピレンゴム、
等が挙げられる。
【0075】
<衝撃吸収層>
前述したとおり、電池パック用ケースは、更に、一対のエンドプレートと電池モジュールとの間、及び、電池モジュールとトレイとの間の少なくとも1か所に配置された衝撃吸収層(例えば衝撃吸収層28)を備えることが好ましい。
衝撃吸収層は、熱可塑性エラストマーを少なくとも1種含むことが好ましい。
衝撃吸収層の材質としては、前述した封止部材の材質と同様のものが挙げられる。
【実施例
【0076】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例によって制限されるものではない。以下、wt%及び重量は、実質的に質量%及び質量を意味する。
【0077】
〔実施例1~40、比較例1~5〕
上述した実施形態に係る電池パック10(図1図5参照)について、カバー、トレイ、及び電池保持部材の各々の材質として表1及び表2に示す材質を選択した場合の、Gショック試験Z軸、軽量化率、及び側面衝突試験の各々に関するシミュレーションを行った。
表1及び表2に示す材質の詳細は以下の通りである。
【0078】
・Al合金 … アルミニウム合金(アルミニウム-シリコン系、A4032)
・SMC … ジャパンコンポジット社製のSMC成形用樹脂(マトリックス樹脂として不飽和ポリエステル樹脂を含有)
・PP … ポリプロピレン
・GF … ガラス繊維(日東紡社製、繊維径φ17μm、繊維長さ1mm)
・LGF … ガラス長繊維(日東紡社製、繊維径φ17μm、繊維長さ8mm)
・CF … カーボン繊維(帝人社製、繊維径φ7μm、繊維長さ1mm)
・LCF … カーボン長繊維(帝人社製、繊維径φ7μm、繊維長さ9mm)
・アーレンM335 … 三井化学社製「アーレン」(登録商標)M335(変性ポリアミド6T)
【0079】
表1及び表2中、カバー、トレイ、及び電池保持部材の各々の材質の欄には、樹脂の種類と、繊維の種類及び含有量(樹脂及び繊維の総含有量に対するその繊維の含有量)を示している。
例えば、「SMC GF37wt%+CF2wt%」との表記は、樹脂及び繊維の合計量を100質量%とした場合に、ガラス繊維(GF)が37質量%含有され、カーボン繊維(CF)が2質量%含有され、残部が樹脂(SMC)であることを意味する。
また、カバー補強部材としては、全例を通じ、上記のAl合金製のカバー補強部材を用いた。
【0080】
シミュレーションは、非線形構造解析ソフトウェアLS-DYNA(株式会社JSOL製)を用い、MAT-24条件で行った。
【0081】
-シミュレーション条件-
・車体重量 … 1680kg
・電池の総重量 … 210kg
・電池パック用ケースの重量 … 1470kg(比較例1の場合)
【0082】
Gショック試験Z軸、軽量化率、及び側面衝突試験の各々の評価内容及び評価基準は以下の通りである。
【0083】
-Gショック試験Z軸の評価内容-
Gショック試験Z軸では、電池パックを搭載した電気自動車に、X軸方向成分18G、Y軸方向成分15G、及びZ軸方向成分25Gの加速度の衝撃を与えた際の、電池パック用ケースの破断及び電池パック内の電池への影響を確認し、下記評価基準にて評価した。
以下の評価基準において、電気自動車の衝突時における電池の損傷抑制効果に最も優れるランクは「A」である。
【0084】
-Gショック試験Z軸の評価基準-
A:電池パック用ケースの破断が無い。
B:電池パック用ケースが一部破断するが、電池パック内の電池への影響は無い。
C:電池パック用ケースの少なくとも一部が破断し、電池パック内の電池への影響がある。
【0085】
-軽量化率の評価内容-
比較例1における、カバー(Al合金製)、トレイ(Al合金製)、及び電池保持部材(Al合金製)の総質量に対する、各実施例のカバー、トレイ、及び電池保持部材の総質量の減少率(%)を求め、以下の評価基準により、電池パック用ケースの軽量化率を評価した。
以下の評価基準において、軽量化率に最も優れる(即ち、最も軽量化された)ランクは「A」である。
【0086】
-軽量化率の評価基準-
A:カバー、トレイ、及び電池保持部材の総質量の減少率(%)が、10%以上であった。
B:カバー、トレイ、及び電池保持部材の総質量の減少率(%)が、5%以上10%未満であった。
C:カバー、トレイ、及び電池保持部材の総質量の減少率(%)が、5%未満であった。
【0087】
-側面衝突試験の評価内容-
電池パックを搭載した電気自動車を、速度32km/h,衝突角度75°にて、直径254mmのポールに側面衝突させ、その際の電池パック用ケースの破断及び電池パック内の電池への影響を確認し、下記評価基準にて評価した。
【0088】
-側面衝突試験の評価基準-
A:電池パック用ケースの破断が無い。
B:電池パック用ケースが一部破断するが、電池パック内の電池への影響は無い。
C:電池パック用ケースの少なくとも一部が破断し、電池パック内の電池への影響がある。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】
【0091】
表1及び表2に示すように、トレイ、電池保持部材、及びカバーのうちの少なくとも2つが、繊維強化プラスチックを含むという条件を満足する実施例1~40では、この条件を満足しない比較例1~5と比較して、電池パック用ケースの軽量化率に優れていた(即ち、電池パック用ケースが軽量化されていた)。
また、実施例1~40では、ある程度優れたGショック試験Z軸及び側面衝突試験の結果が得られた。これにより、衝突時における電池の損傷を抑制できることが確認された。
【0092】
実施例1~40の結果から、トレイ及びカバーの少なくとも一方が、2種以上の繊維を含む繊維強化プラスチックを含む場合(実施例3~21、及び、25~40)、Gショック試験Z軸及び側面衝突試験の結果により優れること、即ち、衝突時(側面衝突時を含む)における電池の損傷をより効果的に抑制できることが確認された。
【0093】
2021年1月19日に出願された日本国特許出願2021-006442号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8